JP2017043625A - Vegf結合性ペプチド - Google Patents

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Abstract

【課題】血管内皮増殖因子(VEGF)と膜貫通型チロシンキナーゼ受容体(VEFGR)の結合ないし相互作用を阻害可能なイムノグロブリン構造を持たない抗体様物質の提供。
【解決手段】α−ヘリックス構造を形成するペプチドからなりN末端側に位置するAブロックと、α−ヘリックス構造を形成するペプチドからなりC末端側に位置するCブロックと、AブロックとCブロックを共有結合で結ぶペプチドからなるBブロックとからなるヘリックス−ループ−ヘリックス構造を有するVEGF結合性ペプチドに、前記AブロックのN末端側にチオレドキシンが融合した細胞増殖阻害性を示す特定のアミノ酸配列を有するVEGF結合性融合ペプチド。
【選択図】図7

Description

本発明は、VEGF結合性ペプチドに関する。
血管内皮増殖因子(VEGF: Vascular Endothelial Growth Factor)は、血管新生を調節するタンパク質である。血管新生は、脊椎動物の胎生期における循環器系の形成や多くの組織の構築に重要な役割を果たすとともに、成熟個体においても性周期における黄体形成、子宮内膜の一過性の増殖、胎盤形成などに関与する。また、がんの増殖、転移形性、慢性関節リューマチの病態形成や促進、糖尿病性網膜症などにも関与し、血管新生はこれら生理的条件、病理的条件において重要視されている。VEGFがVEGF受容体の細胞外ドメインと結合すると、受容体が2量体化し、細胞内ドメインのチロシンキナーゼが活性化されシグナルが下流に伝達される。
VEGFファミリーは、VEGF-A,VEGF-B,VEGF-C,VEGF-D,VEGF-E,placental growth factor(PIGF),そしてVEGF-Fの7つに分類される。なかでもVEGF-Aは最も強力に血管新生を亢進する。VEGF-Aの遺伝子は8つのエクソンからなり、異なるスプライシングを経て4つのアイソファーム(VEGF121,VEGF165,VEGF189,VEGF206)を産生する。VEGF145とVEGF183は特に発現量が少なく、主に発現しているのはVEGF165で、固形がんでは過剰発現している。
VEGF-Aは膜貫通型チロシンキナーゼ受容体VEGFR(VEGFR-1,VEGFR-2)と結合ないし相互作用することで、その生物学的作用を発揮する。従って、VEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害することで血管新生が抑制され、がんの増殖や転移抑制、慢性関節リューマチや糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性の病態促進の抑止等に繋がることが期待される。事実、VEGF-Aに結合して、VEGF-AとVEGFR-1、VEGFR-2との結合ないし相互作用を阻害するモノクローナル抗体であるベバシズマブ(商品名、アバスチン)が上市され、転移性大腸がんや転移性乳がんの抗がん剤として使用されている。
また、ベバシズマブの他にも、例えば、特許文献1(特開2001−46066号公報)には、ヒトVEGF受容体KDR(VEGFR-2)に反応し、ヒトVEGF受容体Flt-1(VEGFR-1)には反応しない抗体が開示されている。この抗体は、ヒトVEGF受容体KDRの細胞外領域にあるエピトープを認識して、VEGF-VEGFR間の結合ないし相互作用を阻害する。特許文献2には、VEGFと結合する標的結合部分(TBM)と、VEGFとTBMとの結合を阻害するマスキング部分(MM)と、切断可能部分(CM)とを有し、CMがプロテアーゼなどの酵素により切断されるとVEGFとTBMが結合し、CMが未切断の状態ではMMによってVEFGとTBMの結合ないし相互作用を阻害するように構成されたポリペプチドが開示されている。特許文献3には、ヒトVEGFの残基F17やI83、Q89を含む機能的エピトープを有するヒトVEGFへの結合を阻害する抗体が開示されている。また、特許文献4には、ヒトVEFG受容体Flt-1(VEGFR-1)に特異的に反応するモノクローナル抗体が開示されている。
抗体にはさまざまな利点があるが、その一方で生体内での利用においては次の問題点が指摘されている。1)ヒト由来の抗体でなければ抗原性を下げるためにヒト化を行うという手間が必要になる。2)抗体は多数のジスルフィド結合を含む、分子量150kDの大きなタンパク質であるため、細胞内に導入したり、細胞内で機能させたりすることができず、細胞内のタンパク質を標的にできない。3)モノクローナル抗体は、生産に膨大なコストがかかる、といった点である。これらの問題点は抗体の巨大で複雑な立体構造に起因するものである。そこで、抗体のイムノグロブリン構造を利用せず、目的の標的タンパク質に対して特異的に結合する抗体様物質の研究開発が望まれている。
ところで、アンタゴニストがペプチドである場合、一般的に立体構造が規制されたペプチドが選択される。多くの立体構造が規制されたペプチドはペプチド内ジスルフィド結合によりその立体構造が安定化されている。しかしながら、細胞内の還元条件下ではジスルフィド結合が開裂して立体構造が壊れやすいという欠点があった。また、生体内プロテアーゼにより分解され、血清中での半減期が短いという欠点もある。従って、生体内でより安定なペプチドが求められている。
このような欠点を持たない安定化されたペプチドとして、ヘリックス−ループ−ヘリックス構造(Helix-Loop-Helix構造)を有するペプチドが特許文献5などに開示されている。ヘリックス−ループ−ヘリックス構造を有するペプチドは、N末側のアミノ酸配列(N末端側ヘリックス:Aブロック)と、C末側のアミノ酸配列(C末端側ヘリックス:Cブロック)と、AブロックとCブロックを結合するリンカー(Bブロック)を有する。AブロックとCブロックは、リンカーの存在によりそれぞれα−ヘリカルコイルドコイル構造を形成する。このペプチドは低分子構造でありながら溶液中で安定した二次構造を取り、分子中の溶媒側に露出する部分に化学的に異なる性質の官能基を導入しやすい。このような性質を利用して、生理活性を有するヘリックス−ループ−ヘリックス構造を有する種々のペプチドが提案されている。例えば、特許文献6にはヒトインターロイキン4及びヒトインターロイキン13のアンタゴニストが、特許文献7にはヒトインターロイキン5受容体に結合活性を有するペプチドが、特許文献8には顆粒球コロニー刺激因子受容体に結合活性を有するペプチドがそれぞれ開示されている。
また、チオレドキシン(Trx)は、目的タンパク質の可溶性を高める高溶解性のタンパク質であり,Trxを融合させることにより目的タンパク質の封入体への蓄積を防ぐ作用を有する。このような作用を有するチオレドキシンを目的タンパク質に融合し、形質転換した宿主細胞における大量生産を可能にする手法が、例えば特許文献9、10や非特許文献1に開示されている。
特開2001−46066号公報 特表2010−536370号公報 特開2011−46732号公報 国際公開WO98/22616 特開平10−245397号公報 特開2005―154382号公報 特開2008−214254号公報 特開2011−231085号公報 特開2005−143310号公報 特開2006−006312号公報
Lavallie, E.R. et al., Bio/Technology 11, 187-193(1993)
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、VEGFとVEFGRの結合ないし相互作用を阻害可能なイムノグロブリン構造を持たない抗体様物質を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決すべくペプチド・ファージライブラリー法により立体構造を保持したペプチドライブラリーを構築してスクリーニングを行い、VEGFに結合するVEGF結合性ペプチドを取得したところ、これらのVEFG結合性ペプチドにチオレドキシンが融合した融合ペプチドがVEGFとVEFGRの結合ないし相互作用の阻害作用及び/又はヒトの血管内皮細胞増殖障害性を発揮することを見いだし、本願発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係るVEGF結合性融合ペプチドは、α−ヘリックス構造を形成するペプチドからなりN末端側に位置するAブロックと、α−ヘリックス構造を形成するペプチドからなりC末端側に位置するCブロックと、AブロックとCブロックを共有結合で結ぶペプチドからなるBブロックとからなるヘリックス−ループ−ヘリックス構造を有するVEGF結合性ペプチドのN末端側に、チオレドキシンが融合したVEGF結合性融合ペプチドであって、前記Bブロックが特定のアミノ酸配列を有するペプチドである。
本発明によると、抗がん剤などとして利用が期待される新規なVEFG結合性融合ペプチドが提供される。
図1は作製するペプチドライブラリーの概念を示す説明図である。 図2はファージミドベクターの構築方法を示す説明図である。 図3はファージミドベクターのベクターマップである。 図4はライブラリー断片の作製方法を示す説明図である。 図5はバイオパンニングにおけるファージの濃縮結果を示す図である。 図6はファージELISAの結果を示すグラフである。 図7はベクターpET-32a-pepの制限酵素地図と塩基配列である。
本発明に係るVEFG結合性融合ペプチドは、ヘリックス−ループ−ヘリックス構造を有する形成するVEGF結合性ペプチドのN末端側にチオレドキシンが融合したペプチドである。
VEGF結合性ペプチドは、α−ヘリックス構造を形成するペプチドからなりN末端側に位置するAブロック(N末端側ヘリックス)と、α−ヘリックス構造を形成するペプチドからなりC末端側に位置するCブロック(C末端側ヘリックス)と、AブロックとCブロックを共有結合で結ぶペプチドからなるBブロックとからなるヘリックス−ループ−ヘリックス構造を有するペプチドである。
ヘリックス−ループ−ヘリックス構造を形成するペプチドは、前記のようにα−ヘリックス構造を形成するペプチドからなる2つのブロック、つまり、N末端側に位置するAブロック及びC末端側に位置するCブロックを有し、この2つのブロックを共有結合で結ぶBブロックを有する。ヘリックス−ループ−ヘリックス構造は、α−ヘリカルコイルドコイル構造とも呼ばれ、この構造を有するペプチドは単一分子として溶液中で安定に存在する。このペプチドは2つのヘリックス(AブロックとCブロック)間に配置されたロイシンの疎水性相互作用によって安定化されている。さらにN末端側α‐ヘリックス(Aブロック)のグルタミン酸側鎖と、C末端側α‐ヘリックス(Cブロック)のリジン側鎖との間に塩橋(Bブロック)が形成されるようにデザインされている。このペプチドは、これら立体構造の形成に重要なアミノ酸残基さえ残せば、他の残基をランダム化しても安定な立体構造を保持する。このようなヘリックス−ループ−ヘリックス構造は例えば特開平10−245397号に開示されており、本明細書においては当該公報に開示された内容が適宜参照される。
本発明に係るVEGF結合性ペプチドは前記基本構造を有するペプチドであって、VEGFに対して結合性を有する。ここにおいて、VEGFに対する結合性の有無は、実施例に記載の方法によって求められるVEGFに対する解離定数(KD)によって判断され、本発明においては、10,000nM以下の解離定数(KD)であればVEGFに対して結合性を有すると判断される。また、本発明では、AブロックのN末端にあるシステインとCブロックのC末端にあるシステインとを共有結合させて閉環させた環状ペプチドとした場合に、当該環状ペプチドとVEGFとの解離定数(KD)が10,000nM以下、好ましくは1,000nM以下、さらに好ましくは500nM以下、より望ましくは10nM以下の解離定数(KD)を示すVEGF結合性ペプチドが好ましい。
本発明ではこの程度の解離定数を示すVEGF結合性ペプチドであればよいが、Bブロックのアミノ酸配列が配列番号1〜4に示すアミノ酸配列からなるVEGF結合性ペプチドが望ましい。配列番号1〜4に示すアミノ酸配列からなるペプチドをBブロックに有するヘリックス−ループ−ヘリックス構造のペプチドが良好なVEGF結合性を示し、チオレドキシンと融合したペプチドはヒト静脈内皮細胞の細胞増殖阻害作用を示す。
AブロックやCブロックのアミノ酸配列も前記基本構造を有する限り特に制約されず、例えば、Aブロックのペプチドは配列番号5に示すアミノ酸配列からなるペプチドであり得る。また、Cブロックのペプチドは配列番号6に示すアミノ酸配列からなるペプチドであり、好ましくは配列番号6に示すアミノ酸配列のうち、立体構造の維持に必須でないアミノ酸(表1に示すZ)が、スレオニン、アラニン及びプロリン以外の任意のアミノ酸に置換されたペプチド(配列番号7に示すアミノ酸配列からなるペプチド)であり、さらに好ましくは配列番号8〜11に示すアミノ酸配列からなるペプチドである。なお、本発明において、ペプチドを構成するアミノ酸は天然に存在するL−アミノ酸を意味するが、立体構造を維持する限りD−アミノ酸であってもよい。
本発明においてはBブロックのアミノ酸配列が重要であり、Aブロックのアミノ酸配列やCブロックのアミノ酸配列は任意のものであっても差し支えないと考えられる。従って、本発明においては、配列番号1〜4に示されたアミノ酸配列からなるBブロックに、配列番号8〜11に示されたアミノ酸配列からなるCブロックを組み合わせてもよい。これらの組み合わせの中でも、配列番号12〜15に示すアミノ酸配列からなるVEGF結合性ペプチドがチオレドキシンと好ましく融合される。
本発明に係るVEGF結合性融合ペプチドは、前記VEGF結合性ペプチドのN末端側、すなわちAブロックのN末端側にチオレドキシンが融合したペプチド(Trx融合VEGF結合性ペプチド)である。VEGF結合性ペプチドとチオレドキシンは直接ペプチド結合していてもよく、また、ペプチドからなるリンカーを介して結合していてもよい。リンカーは、生体に対して特有の機能を発揮しないアミノ酸配列からなるペプチドであり、その全部及びその一部が、特定のリガンドや抗体に対するアフィニティを有するアミノ酸配列を有するペプチドでもあり得る。このようなアミノ酸配列として、例えば、システインタグ(Sタグ)やヒスチジンタグ(Hisタグ)となるアミノ酸配列が例示される。本発明に係るVEGF結合性融合ペプチドは、例えば、配列番号16〜19に示すアミノ酸配列からなるペプチド又は当該アミノ酸配列(ただし、VEGF結合性ペプチドに対応する165〜207番目のアミノ酸配列を除く)において1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加を含むアミノ酸配列からなるペプチドである。リンカーの長さも任意である。リンカーは数個〜100個程度のアミノ酸配列が好ましい。
融合ペプチドの合成方法も公知であり、融合ペプチドを生産可能なようにチオレドキシンをコードするDNA、リンカーをコードするDNA及びVEGF結合ペプチドをコードするDNAを組み込んだベクターを用いて宿主微生物を形質転換する。そして、当該微生物を培養して、融合タンパク質を発現させる。融合タンパクの発現に用いられるベクターや宿主微生物も公知であり、ベクターや宿主微生物も適宜当業者により選択され得る。
本発明に係るVEGF結合性融合ペプチドは、VEGFに対する結合ないし相互作用を示すだけでなく、ほ乳類を含む動物、特にヒトの静脈内皮細胞の増殖阻害作用を示す。従って、本発明に係るVEGF結合性融合ペプチドは血管新生抑制剤として働き、抗がん剤や慢性関節リューマチや糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性の病態促進の抑止など、VEGFによる異常な血管形成が関与する各種疾病のための治療薬としての利用が期待される。特に、VEGFに対する結合ないし相互作用の阻害活性IC50が1500nM以下、好ましくは1000nM以下、さらに好ましくは600nM以下のVEGF結合性融合ペプチドが好ましく用いられ、1500nM以下のIC50のVEGF結合性融合ペプチドであれば抗がん作用等が期待される。また、血管内皮細胞の増殖阻害作用を示すVEGF結合性融合ペプチドが望ましく用いられる。
本発明に係る医薬組成物は上記のVEGF結合性融合ペプチドを有効成分とする。本発明の医薬組成物は、有効量のVEFG結合性融合ペプチドの他に薬理学的に許容し得る製剤用の助剤を含み得る。助剤は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、被覆剤、矯味剤、可溶化剤であり得る。当該組成物はヒトを含む動物に経口又は非経口で適用し得る形態(剤型)として提供される。当該剤型は、例えば、錠剤であり、顆粒剤であり、散剤であり、液剤であり、注射剤であり、座剤であり得る。
本発明に係るVEFG結合性融合ペプチドの投与量は、性別や体重、年齢、人種、症状等に応じて当業者により適宜決定される。その投与量の下限は、例えば、0.001μg/kg体重であり、0.01μg/kg体重であり、0.1μg/kg体重であり、0.001mg/kg体重であり、0.01mg/kg体重であり、0.05mg/kg体重であり、0.1mg/kg体重であり得る。また、その上限は、例えば、1000mg/kg体重であり、100mg/kg体重であり、10mg/kg体重であり、5mg/kg体重であり、1mg/kg体重であり得る。
次に本発明について下記の実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に限られないのは言うまでもない。
1.ペプチドライブラリーの作製
図1に示したようにYT1のアミノ酸配列を有するペプチドからペプチドライブラリー(ΔPTA-6R-loop11-C ライブラリー)を作製した。ペプチドライブラリーの作製には、VEGF結合性ペプチドの高効率なスクリーニングが可能であるペプチド・ファージライブラリー法を用いた。
ペプチドライブラリーは、図1に示すようにBブロックであるループ部位を11残基に伸長し、中央の9残基をランダム化して20種類すべての天然アミノ酸がコードされるように設計した。また、C末端側のα‐ヘリックス部位(Cブロック)は6残基をランダム化し、スレオニン、アラニンおよび ?‐ヘリックスの立体構造を不安定化させるプロリンが含まないように設計した。さらにN末端とC末端にシステイン残基を導入し、ジスルフィド結合を形成させることにより、ライブラリーの立体構造を安定化した。
ペプチドライブラリーを提示させるファージの表層タンパク質としてpIIIを用いた。pIIIはファージが大腸菌に感染する際に機能する表層タンパク質でファージの先端に5個程度存在する。pIIIをコードしたファージミドベクターpComb3dに対し、NcoIXhoIで制限酵素処理を行い、同様に制限酵素処理したライブラリー断片とライゲーションを行った(図2、図3参照)。ライブラリー断片はランダム化したオリゴヌクレオチドを利用し、下記に示す2度のPCRによって作製した(図4参照)。pComb3d-libを用いて大腸菌を形質転換した後、ヘルパーファージを感染させ、産生されたファージ粒子を精製することでファージ表層ペプチドライブラリーを作製した。本ペプチドライブラリーのサイズは1.2×109であった。
(1stPCRによるライブラリー断片の作製)
表1に示すプライマーセットを用いて表2に示す条件でPCRを行った。反応終了後、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて付属のマニュアルに従い、 PCR産物を精製した。
(2ndPCRによるライブラリー断片の作製)
前記オーバーラップエクステンションPCRによって得られたDNA断片を鋳型とし、表3に示すプライマーを用いて表4に示す条件でPCRを行った。反応終了後、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて付属のマニュアルに従い、PCR産物を精製した。
(ファージミドベクターpComb3d-libの構築と形質転換)
表5の条件にて精製したPCR産物の制限酵素処理(37℃、4時間インキュベーション)を行い、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて精製した。また、表6に示す条件でベクターの制限酵素処理(37℃、3時間インキュベーション)を行った。その後、0.9%アガロース電気泳動で分離後、目的のバンドを切り出し、QIAquick GEL Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。次に、予備実験により目的の遺伝子が大腸菌に形質転換されたことを確認した後、表7に示す条件にてライゲーション(16℃、一晩インキュベーション)を行い、DNAライブラリーが導入されたファージミドを作製した。作製したファージミドベクター(以下「pComb3d-lib」と称す。)をQIAquick PCR Purification Kitで精製した後、エレクトロポレーション法により形質転換を行った。エレクトロポレーションは、1.5μLのpComb3d-libと50μLのXL1-Blueエレクトロポレーションコンピテントセル(STRATAGENE)を混和し、氷冷していたキュベットに移し、エレクトロポレーション用パルサー(MicroPulser(BIO-RAD):キュベット幅0.1cm、電圧1.8kv)を用いて通電することにより行った。形質転換体の一部をLB/Amp、Tetプレートで培養した後、形質転換体に導入されたDNAの塩基配列を調べたところ、pComb3d-libに目的とするDNAが導入されていることが確認された。なお、塩基配列のシーケンシングには、Terminator v3.0 Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Applied Biosystems)を用いた。
(ファージライブラリーの調整)
得られた形質転換体をSB培地で培養した後、15%グリセロールを含むLB培地に懸濁してライブラリーの大腸菌ストックとした。1.5mLの大腸菌ストックを100mLのSB/Amp、Tet培地に懸濁して37℃で4時間振とう培養した。100μlのヘルパーファージ(VCSM13 Interference-Resistant Helper Phage)を加え、37℃で30分間振とう培養した。その後、4℃、9,000gで20分間遠心し、菌体を回収した。回収した菌体を、SB/Amp、Tet、Kan培地で懸濁し、30℃で一晩振とう培養した。培養終了後、4℃、9,000gで20分間遠心し、上清を回収し、20μlのPEG/NaClを加えて氷上で1時間静置した。4℃、9,000gで遠心し沈殿を回収し、8 mLのPBSを加えて懸濁し、氷上で30分間静置した。その後、同様に遠心して上清を回収し、それに1.6mLのPEG/NaClを加えて氷上で20分間静置した。さらに、4℃、10,000gで30分間遠心して沈殿を回収し、沈殿を2mLのPBSに懸濁した。得られた溶液をファージライブラリー溶液とした。
2.バイオパンニングによるVEGF結合性ペプチドのスクリーニング
バイオパンニングにより、ΔPTA-6R-loop11-Cライブラリーを用いて、ビオチン化したヒトVEGF165(Bio-VEGF)に結合するペプチドのスクリーニングを行った。
100μLの6%BSAに、100μlの前記ファージライブラリー溶液と130μg/mLのBio-VEGFの7μLを加えて緩やかに混和した。4℃で一晩かけてファージをBio-VEGFに結合させた。この混合溶液を下記の方法で予め作製しておいたマグネットビーズに加えて緩やかに懸濁し、氷上で15分間静置した。マグネットスタンドを用いてBio-VEGFに結合したファージを回収した。上清を捨てた後、500μLのPBSTを加えて懸濁してビーズを沈殿させる操作を繰り返して、ビーズを洗浄した。洗浄したビーズに、200μLの0.2NGly-HClを加えてビーズを懸濁し、10分間静置した。その後、マグネットスタンドを用いて上清を回収し、回収した上清に、20μLの2MTrisを加えて中和した。
中和したファージ溶液に、あらかじめLB/Tet培地で培養しておいたXL1-Blue(OD600=0.3〜0.6)の1mLを加え、37℃で30分間振とうしてファージを大腸菌に感染させた。感染終了後、その培養液をSB培地で10mLにして、37℃で4時間振とう培養した。その後、培養液の半分を前述の方法でグリセロールストックとし、残りの半分に50μLのヘルパーファージを加えて37℃で30分間振とうし、感染させた。感染後、室温、3000gで5分間遠心して菌体を回収した後、菌体を50mLのSB/Amp、Tet、Kanに懸濁して30℃で一晩、振とう培養した。培養終了後、前記方法でファージを精製し、次回ラウンドのファージ溶液とし、上記操作を繰り返した。
また、バイオパンニングを行う前に加えたファージ数(input)を、ファージを感染させたXL1-BlueをLB/Ampプレートに塗布して培養することにより計測し、感染後のファージ回収量(output)を上記中和したファージを感染させたXL1-BlueをLB/Amp、Tetプレートに塗布して培養することにより計測した。計測したファージ数(input)及びファージ回収量(output)の比(input/output)から、1回のバイオパンニングにおける標的タンパク質へ結合するペプチドを提示したファージの濃縮度を求めた。ネガティブコントロール(N.C.)として、Bio-VEGFが含まれていない条件で同様に操作してファージ回収量を求めた。この結果を表8及び図5に示す。この結果から、第3ラウンドでは、ネガティブコントロール(N.C.)を基準にして約20倍に濃縮され、第4ラウンドでは約100倍に濃縮された。よって、VEGFに結合するファージが有意に取得されたと判断し、バイオパンニングを終了した。
(マグネットビーズの作製)
100μLのDynabeads(商標名) Streptavidinを1.5mLチューブに移し、マグネットスタンドを用いてビーズを沈殿させた。上清を捨てた後、200μLのPBSTを加え激しく懸濁し、同様にビーズを沈殿させ洗浄を行った。この操作を再び繰り返した後、ビーズに対する非特異的な結合を抑えるために、500μLのブロッキング緩衝液(SuperBlock Blocking Buffer、 Thermo Scientific)を加えて氷上で30分間静置した。ブロッキング緩衝液を除いたビーズに500μLのPBSを加えて4℃で保存した。使用時には、マグネットスタンドを用いてPBSTを除いた。
3.VEGF結合性ペプチドのアミノ酸配列の推定
バイオパンニングによって選択されたファージのDNA配列を解析し、ファージが提示しているペプチドのアミノ酸配列を推定した。第3ラウンドから28クローン、第4ラウンドから12クローンを任意に選択した。
バイオパンニングのoutputを測定したプレートから任意に単一なコロニーを3mLのB/Amp、Tet培地に植菌し、37℃で一晩振とう培養した。培養後、QIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN)を用いてファージミドを精製した。その後、下記方法に従い、ファージミドDNAの塩基配列を決定し、ペプチドのアミノ酸配列の推定を行った。その結果、表9に示すようにペプチドのループ領域(Bブロック)にPWXGYP、DLXVMといったアミノ酸配列の収束が観測された。
(塩基配列の決定方法)
精製したファージミドについて、Terminator v3.0 Cycle Sequencing Ready Reaction Kit (Applied Biosystems)を用いて、表10に示すプライマーを用いて表11に示す条件でシーケンシングを行った。
反応終了後、20μLのシーケンシング反応液に2μLの3M酢酸ナトリウム溶液と50μLの95%エタノールを加え撹拌した。15分間室温で静置して、4℃、15,000rpmで20分間遠心した。その後、上清を捨て70%エタノールを加えて、同様に遠心を行った。上清を捨て15分間遮光して乾燥させた後、20μLのHi Di Formamide(Applied Biosystems)に懸濁し、DNAシーケンサー(3100-Avant Genetic Analyzer:Applied Biosystems)を用いて塩基配列を解析した。
4.ファージELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)
バイオパンニングより得られたすべてのクローンについて、ファージELISAを行った。ストレプトアビジンを利用してBio-VEGFを固定化したプレート(SA-VEGFプレート)と抗E-tag抗体を固定化したプレート(anti-E-tagプレート)を用いた。各プレートに、バイオパンニングで得られたコロニーから調整したファージ溶液の50μLを加え、室温で2時間振とうした後、200μLのPBSTで10回洗浄した。5,000倍希釈したHRP/Anti-M13 monoclonal conjugate(Applied Biosystems)の50μLを加え、室温で40分間振とうした後、200μLのPBSTで5回洗浄した。ペルオキシダーゼ基質溶液50μLを加え、室温、遮光下で5分間静置し、発色させた。50μLの2N硫酸を加えて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーを用いて490nmにおける吸光度を測定し、標的タンパク質への結合能を調べた。その結果を図6に示す。
バイオパンニングにより得られた10種類すべてのクローンについて、ファージELISAを行ったところ、クローン36と49は、VEGFと結合を示す吸光度が抗E tag抗体に対する吸光度よりも高い値を示した。クローン42は、ほぼ同等の吸光度であった。これらのことから、クローン36、49、42はVEGFに強く結合していることが示唆された。さらにクローン41についてもコンセンサスな配列が確認され、ラウンド4でも出現頻度が最も高かった。そこで、VEGFに強く結合していることが示唆されたクローン36、41、49及びVEGFに結合し、出現頻度が高かったクローン42について、VEFGへの結合性をさらに詳細に検討した。クローン36,41,42,49のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号12〜15に、各クローンのBブロックのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1〜4に、各クローンのCブロックのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号8〜11に示した。また、各クローンのAブロックのアミノ酸配列を配列番号5に示した。
(SA-VEGFプレートの作製)
ストレプトアビジンを炭酸緩衝液(pH 9.2)で20μg/mLに希釈し、固定化プレート(F8 POLYSORP UNFRA)に100μL/wellで分注した。4℃で一晩静置し、200μLのPBSTで5回洗浄し、400μL/wellのSuperBlock Blocking Buffer(Thermo Scientific)を加え、4℃で2時間静置した。その後、PBSTで同様に洗浄し、5μg/mLのBio-VEGFを50μL/well加え4℃で1時間静置した。
(anti-E-tag プレートの作製)
抗E-tag抗体を炭酸緩衝液(pH 9.2)で2μg/mLに希釈し、固定化プレートに100μL/wellで分注した。4℃で一晩静置し、200μLのPBSTで5回洗浄し、400μL/wellのSuperBlock Blocking Bufferを加え、4℃で2時間静置した。
(ファージ溶液の調製)
Outputの単一なコロニーを3mLのLB/Amp、Tet培地に植菌し、37℃で数時間(OD600=0.3〜0.6)振とう培養した。5μmのヘルパーファージを加え、37℃で30分間静置して感染させた。その後、カナマイシンを終濃度70μg/mLとなるように加え、30℃で一晩振とう培養した。培養後、室温、3000 rpmで5分間遠心して菌体を沈殿させた。上清を15mLチューブに移して600μLのPEG/NaClを加え、氷上で1時間静置した。4℃、9000gで20分間遠心し、沈殿を1mLのPBSTに溶解してファージ溶液とした。
5.VEGF結合性融合タンパクの合成
上記4種類のVEGF結合性ペプチドをもとにしてTrx融合ペプチド(Trx-36、41、42、49)を、pETシステムを利用して合成した。ホスト大腸菌にはBL21(DE3)Competent Cells(Novagen)を、ベクターにはpET32a(Novagen)を使用した。
(ベクターpET-32a-pepの構築)
各クローンのファージミドからペプチドをコードする遺伝子を表12に示すプライマーを用いて表13に示す条件でPCR法により増幅した。反応終了後、3%アガロース電気泳動で分離し、目的のバンドを切り出し、Gel Extraction Kit (QIAGEN)を用いて精製した。次いで、表14に示す条件にて制限酵素処理(37℃で3時間)した後、PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて精製してインサートを作製した。また、Trx融合タンパク質作製用ベクター(pET-32a(+))も表15に示す条件にて制限酵素処理(37℃で3時間)した後、PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて精製した。その後、表16に示す条件にてインサートとともにライゲーション反応を行い、Trx融合ペプチドの遺伝子が組み込まれたベクターpET-32a-pepを作製した。その制限酵素地図を図7に示す。
作製したpET-32a-pepによりXL1-Blueを形質転換することによって目的とするDNAが導入されていることを確認した。100μLにXL1-Blueのケミカルコンピテントセルに2μLにライゲーション反応液を加えて氷上で1時間静置した。その後、42℃で50秒間、加温し氷上で2分ほど静置した。あらかじめ37℃に温めておいた1mlのSOC培地を加えて37℃で30分間振とう培養した。形質転換体の一部をLB/Amp、Tetプレートで培養した後、形質転換体に導入されたDNAの塩基配列をシーケンシングによって確認した。シーケンシングには、Terminator v3.0 Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Applied Biosystems)を用いた。
(Trx融合VEGF結合性ペプチドの取得と精製)
pET-32a-pepを使用してBL21 CodonPlus(DE)-RPを上記ヒートショック法と同様にして形質転換した。形質転換体の培養液を、200mLのTerrific broth/Ampに添加し、37℃でOD600=1.0 になるまで振とう培養した。その後、培地を18℃に冷却し、50μLのIPTGを加え、18℃で一晩振とう培養した。培養終了後、培養液を遠心(4℃、6000g、10分)して、1gの沈殿に対して10mLのPBSを加えて懸濁した。懸濁液を超音波破砕して、遠心分離(4℃、6000g、10分)した後、その上清を0.45?mフィルターを用いてろ過して、精製用サンプルを得た。
pET32a ベクターにはHis6をコードする遺伝子が含まれているので、目的のタンパク質をNiカラムにより精製することが可能である。まず、Ni Sepharose High performance(GE Healthcare)を充填したカラムを25mMイミダゾール/PBSで平衡化した。そしてサンプルを加えてピペッティングで懸濁し、10分間静置した。その後、オープンカラムでカラムから溶液を流し、次に25mMのイミダゾールで洗浄した。カラムに吸着している目的タンパク質を10mLの500mMイミダゾールで溶出した。
次に、溶出液をセルロース膜(Spectra/Par MWCO:6-8000、 SpectrumLaboratories Inc)で透析を行った。透析は、PBS中で4℃で一晩ゆるやかに撹拌しながら行った。次に、遠心フィルター機器(Amicon Ultra-15 10K device、MILLIPORE)を用いて透析したTrx融合ペプチド溶液を濃縮した。まず、Amiconに20mLの純水を入れ、遠心(4℃、4000g、10分)して膜のグリセロールを除去した。次に透析したサンプルを0.2μmのフィルターでろ過し、そのろ液をAmiconに入れた。そして、ペプチド溶液が約1mLになるまで遠心(4℃、4000g)し、12mLのPBSを加えさらに遠心した。この操作を3回繰り返した。最後にサンプルが約0.5mLになったところで回収した。得られたTrx融合VEGF結合性ペプチドTrx-36、41、42、49のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号16〜19に示した。
6.VEGF結合性ペプチドの合成
上記クローン36,41,42,49のVEGF結合性ペプチドに基づき、VEGF結合性の環状ペプチド(Pep-36,41,42,49)をFmoc固相合成法により化学合成した。これらの環状ペプチドはそれぞれ塩基配列20〜23に示されたアミノ酸配列を有し、N末端のシステインとC末端のシステインがS−S結合している。固相合成には自動ペプチド合成機(PSSM-8, SHIMADZU)を使用した。固相合成後,ペプチドの脱樹脂と脱保護を行い,ジエチルエーテルを加えて洗浄し,凍結乾燥した。粗ペプチドを0.1% TFA 水溶液に溶かし,逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)で精製し,凍結乾燥した。次にジスルフィド結合形成のため,乾燥したペプチドを20%のジメチルスルホキシドに溶解させ,24時間室温で撹拌した。反応終了後,ペプチドをRP-HPLCで精製した。精製したペプチドをRP-HPLCで分析し, MALDI-TOF-MSにより分子量を確認したところ,純度95%で、ほぼ計算値どおりの分子量が確認された。また、円二色分散計(J-820, JASCO)を用いてCDスペクトルを測定したところ、208nmと222nmに負に極大を示す特徴的なスペクトルを観察し、ヘリックス−ループ−ヘリックス構造を保持していることが確認された。
7.表面プラズモン共鳴(SPR)法による解離定数(K D)の測定
Trx融合VEGF結合性ペプチドとVEGF結合性ペプチド(Trx非融合VEGF結合性ペプチド)について、VEGFに対する親和性をSPR(Biacore T200(Biacore))を用いて測定した。Amine Coupling Kit(BIACORE)を用いて,センサーチップ(CM5センサーチップ,BIACORE)にVEGFを固定化した。EDCとNHSの等量混合液を流速10μL/minで7分間添加し,センサーチップ上のカルボキシル基を活性化し,10mMの酢酸緩衝液(pH5.0)で10μg/mLに調製したVEGF溶液を流速10μL/minで7分間添加した。その後,エタノールアミンを流速10μL/minで7分間添加し,未反応のカルボキシル基と反応させた。同様に操作してエタノールアミンを固定化して、対照とした。反応はすべて25℃で行い,ランニングバッファーには,HBS-EP+ buffer(10 mM HEPES pH7.4, 150 mM NaCl, 3 mM EDTA, 0.005 % Surfactant P20)を用いた。
各ペプチド(Trx-36,41,42,49及びPep-36,41,42,49)をそれぞれHBS-EP+ bufferで適当な濃度に希釈し,VEGFを固定化したセンサーチップに25℃,流速30μL/minで添加した。表17に、結合時間、解離時間、再生条件を示す。
解離定数(K D)はBiacore T200 Evaluation Software(BIACORE)を用いたカイネティクス解析から求めた。得られたセンサーグラムに直接反応式をカーブフィッティングさせ,非線形最小二乗法により速度定数を算出した。解析には1 : 1 binding モデルを使用した。カイネティクス解析ができないものは,平衡値解析を用いた。その結果は表17にまとめた。この結果から、4種類のTrx融合ペプチドは、VEGFに特異的に結合していることが明らかとなった。特にTrx-49は最も高い結合活性を示し、抗VEGF抗体であるAvastin(KD :1.1nM)と同等の結合活性を示した。また、VEGF結合性ペプチドは、Trx融合VEGF結合性ペプチドに比べると、Pep-36は65倍、Pep-49は4倍、KDが低くなった。また、表には示さないが、上記カイネティクス解析から結合速度定数(Ka)及び解離速度定数(Kd)を測定したところ、解離速度定数(kd)は同等の値を示したが,結合速度定数(ka)はTrx非融合ペプチドの方が高い値を示した。
8.VEGF-VEGFR2の結合ないし相互作用の阻害活性
競合ELISAにより、Trx融合VEGF結合性ペプチドとTrx非融合VEGF結合性ペプチドの阻害活性を測定した。炭酸緩衝液(pH9.2)で0.5μg/mLになるように希釈したVEGFR-2を、各ウェルに50μLずつ分注し,4℃で一晩静置することによりVEGFR-2をPolysorpプレートに固定化した。固定化プレートを200μLのPBSTで3回洗浄して、1well当たり400μLのSuperBlock Blocking Bufferを加えて、4℃で2時間静置した。その後、PBSTで5回洗浄した。そして4nMのビオチン化したVEGFと各濃度のTrx融合ペプチド又はTrx非融合ペプチドを50μLずつ混合した溶液を加えて室温で1時間静置した。PBSTで5回洗浄した後、4000倍希釈したHRP標識ストレプトアビジンを100μL/wellで添加し、室温で30分静置した。PBSTで5回洗浄し、基質を100μL/wellで添加し,室温で遮光しながら10分間静置した。そして、2NH2SO4を50μL/wellで添加してプレートリーダーで吸光度(490nm)を測定した。得られた吸光度から、KaleidaGraph 4.0J(Synergy software)を用いて以下の数式1にフィッティングさせて、IC50算出した。その結果を表18にまとめた。
その結果、すべてのクローンが、VEGF-VEGFR2の相互作用を阻害することが明らかとなった。Trx-36、41のIC50値はKDとほぼ同等の値を示した。しかしながら、Trx-42、49のIC50値はそれぞれKDの約4倍、または約200倍高い値を示した。このことから、Trx-42、49の阻害様式は競合阻害でないことが示唆された。一方、Trx非融合ペプチドには阻害活性が認められず、VEGFの受容体結合部位には結合しないと考えられる。
9.細胞増殖抑制試験
上記で得られたTrx非融合ペプチドとTrx融合ペプチドの細胞増殖抑制作用を調べた。正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(Lonza,CC-2517)をプールし、これを内皮細胞添加因子セット-2(Lonza,CC-4176)(VEGFを含まない)と10%非働化正常ヒト血清を含む血管内皮基礎増殖培地EBM-2(Lonza,CC-3156)を用い、3,000細胞/ウェルとなるように0.1%ゼラチンコーティングした細胞培養用96穴マイクロプレートに播種し、37℃、5%CO2条件下で一晩静置した。VEGF結合性ペプチド及びTrx融合VEGF結合性ペプチドは、50nM〜4μMの濃度範囲で段階希釈し、rhVEGF165(200pM)と室温で1時間プレインキュベートした。プレインキュベートした各ペプチドを、HUVECを加えた96穴マイクロプレートに添加し、37℃、5%CO2条件下の湿潤インキュベータ内で3日間培養した。各ペプチド濃度に対するHUVEC細胞の増殖反応を細胞増殖試薬WST-1(Roche,11644807001)によって検討した。培養したプレートにWST-1を10μl/wellで添加し、3時間後にModel 680 microplate reader(BIO-RAD)で波長450nmの吸光度を測定した。データは、four-parameter algorithmを用いて解析し、VEGF結合性ペプチド又はTrx融合VEGF結合性ペプチドの阻害曲線から、HUVECに対する50%阻害濃度(IC50)を算出した。その結果を表18にまとめた。
この結果、Trx非融合VEGF結合性ペプチドは細胞増殖抑制作用を示さなかったのに対し、Trx融合VEGF結合性ペプチドは細胞増殖抑制作用を示した。
表18に示すように、VEFGに結合性を示すペプチドにTrxを融合させたTrx融合VEGF結合性ペプチドは、VEGF-VEGFR2の結合ないし相互作用の阻害活性を示し、正常なヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖抑制作用を示す。これにより、VEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害することで血管新生が抑制され、がんの増殖や転移抑制、慢性関節リューマチの病態促進の抑止等に繋がることが期待される。
本発明のTrx融合VEGF結合性ペプチドは、VEGFとVEGFRとの結合ないし相互作用を阻害し、抗がん剤としての利用が期待される。

Claims (1)

  1. 配列番号12〜15に記載のアミノ酸配列を有するVEGF結合性ペプチド。
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