本願で開示する磁気テープは、非磁性の支持体と、前記支持体の一方の面に積層形成された磁性層とを備えた磁気テープ本体と、前記磁気テープ本体の前記磁性層が形成された側の表面に形成された磁性層側潤滑剤層を備えた磁気テープであって、前記磁性層側潤滑剤層が、紫外線硬化型シリコーン樹脂とシリコーンオイルとを含んでいることを特徴とする。
このようにすることで、本願で開示する磁気テープは、磁気ヘッドと摺接する磁気テープの最表面に紫外線硬化シリコーン樹脂を含んだ撥水性の高い樹脂薄膜が形成される。このため、磁気ヘッドとの摺動時に磁気テープの耐久性が高く、磁気データの記録再生のために多数回のテープ駆動を繰り返しても、シリコーン樹脂の潤滑効果により摩擦係数が低減するため、磁気ヘッドへの貼り付きが生じにくい磁気テープを得ることができる。
本願で開示する磁気テープにおいて、前記磁性層側潤滑剤層に、ポリオールエチレンをさらに含むことが好ましい。このようにすると、紫外線硬化シリコーン樹脂とシリコーンオイルとの展性が向上すると共に、磁性層との密着性も向上する。
また、前記磁性層側潤滑剤層に含まれる、前記紫外線硬化シリコーン樹脂の量が、前記シリコーンオイルの量よりも少ないことが好ましい。このようにすることで、磁気テープ表面の摩擦係数を効果的に低減することができる。
さらに、前記磁性層が積層されている側とは異なる側の前記非磁性の支持体の表面にバックコートが形成され、前記バックコート上に前記磁性層側潤滑剤層と同じ構成のバックコート側潤滑剤層が形成されていることが好ましい。このようにすることで、磁気テープ本体の両方の面に、比較的硬度の高い潤滑剤層が形成されるため、変形が生じにくい磁気テープを得ることができる。
また、本願で開示する磁気テープの製造方法は、非磁性の支持体の一方の面に磁性層が積層形成された磁気テープ本体と、前記磁気テープ本体の前記磁性層が形成された側の表面に形成された紫外線硬化型シリコーン樹脂とシリコーンオイルとを含む磁性層側潤滑剤層とを備えた磁気テープの製造方法であって、前記磁気テープ本体の前記磁性層が形成された側の表面に、潤滑剤層塗布液が含浸された帯状の塗布布を走行させながら摺接させて前記潤滑剤層塗布液を磁気テープ本体上に塗布し、その後紫外線を照射して紫外線硬化型シリコーン樹脂を硬化させることを特徴とする。
本願で開示する磁気テープの製造方法は、磁気テープ本体の磁性層が形成された側の表面に、潤滑剤層塗布液を含浸した塗布布を走行させながら摺接させて潤滑剤層塗布液を塗布する。このため、粘度が高い紫外線硬化シリコーン樹脂やシリコーンオイル含んだ潤滑剤層塗布液を、磁気テープの全長にわたって同じ条件で塗布することができる。さらに、その後に紫外線を照射して紫外線硬化型シリコーン樹脂を硬化させることで、磁気テープの表面に均一な状態の磁性層側潤滑剤層を、低コストで形成することができる。
本願で開示する磁気テープの製造方法において、前記磁気テープ本体の前記磁性層が形成された側とは反対側の表面に、紫外線硬化型シリコーン樹脂とシリコーンオイルとを含む潤滑剤塗布液が含浸された帯状の塗布布を走行させながら摺接させて、前記潤滑剤層塗布液を磁気テープ本体のバックコート上に塗布し、その後紫外線を照射して紫外線硬化型シリコーン樹脂を硬化させてバックコート側潤滑剤層を形成することが好ましい。このようにすることで、磁性層側潤滑剤層と同様に均一な状態のバックコート側潤滑剤層を、磁気テープ本体の磁性層が形成された側とは反対側のバックコートの表面に形成することができる。
以下、本願で開示する磁気テープ、および、磁気テープの製造方法の実施形態について、製造される磁気テープが、ハードディスクデータのバックアップを行うデータバックアップ用磁気テープである場合を例に、図面を参照して説明する。
なお、以下で参照する各図は、説明の便宜上、本願で開示する磁気テープ、および、磁気テープの製造方法を説明するために必要な部分のみを簡略化して示したものである。従って、本願で開示する磁気テープ、および磁気テープの製造方法は、参照する各図に示されていない任意の構成を備えることができる。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法および各部材の寸法比率を必ずしも忠実に表したものではない。
(実施の形態)
図1は、本実施形態にかかる磁気テープの構成を示す断面図である。
本実施形態で例示する磁気テープ1は、ハードディスクデータのバックアップ用磁気テープであり、図1に示すように、非磁性の支持体3上に、下層非磁性層4と磁性層である上層磁性層5とが積層されている。また、支持体3の上層磁性層5が形成されている側とは反対の側には、テープ走行性の向上のためのバックコート6が形成されていて、磁気テープ本体2が構成されている。
磁気テープ本体2において、支持体3と上層磁性層5との間に下層非磁性層4を配することで、上層磁性層5の下地層として磁気ヘッドとのヘッド当たりを改善することができるとともに、上層磁性層5の層厚を薄くすることができ、短波長記録に適した磁気テープ1とすることができる。
また、本実施形態で例示する磁気テープ1は、磁気テープ本体2の上層磁性層5側の表面2aに磁性層側潤滑剤層7が、さらに磁気テープ本体2の上層磁性層5が形成されている側とは反対側の表面2bにバックコート側潤滑剤層8が形成されている。なお、本願で開示する磁気テープが備える、紫外線硬化シリコーンを含む磁性層側潤滑剤層は、従来の潤滑剤層と比較すると硬度が高いため、磁気テープ全体のバランスを取る上ではバックコート側潤滑剤層を備えることがより好ましいが、バックコート側潤滑剤層は本願で開示する磁気テープにおける必須の構成要素ではない。
上層磁性層5は、例えば、結合剤中に所定材料の磁性粉末を含んで構成されるものであり、一例として厚さが0.01μm〜0.3μmの層が好ましい。なお、上層磁性層5の厚さは、0.01μm〜0.1μmであるとより好ましく、0.01μm〜0.05μmであるとさらに好ましい。
上層磁性層5に含まれる結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合樹脂、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、具体的には、例えば、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、アルキド系樹脂等が挙げられる。
また、上記の結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基等と結合し架橋構造を形成する熱硬化性の架橋剤を併用することが好ましい。架橋剤としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート化合物;イソシアネート化合物とトリメチロールプロパン等の水酸基を複数個有する化合物との反応生成物;イソシアネート化合物の縮合生成物等の各種のポリイソシアネートが挙げられる。架橋剤の含有量は、結合剤100質量部に対して、好ましくは10〜50質量部である。
上層磁性層5中の結合剤の含有量は、磁性粉末100質量部に対して、好ましくは7〜50質量部であり、より好ましく10〜35質量部である。
上層磁性層5に含まれる磁性粉末としては、40nm以下、好ましくは5〜30nmの粒径を有する微粒子の磁性粉末が用いられる。磁性粉末としては、具体的には、例えば、針状の金属鉄系磁性粉末、板状の六方晶フェライト磁性粉末、粒状の窒化鉄系磁性粉末、イプシロン酸化鉄(ε−Fe2O3)磁性粉末等が挙げられる。これらの中でも、磁性粉末の高充填が得られやすい、板状の六方晶フェライト磁性粉末やイプシロン酸化鉄磁性粉末が好ましい。
なお、粒径とは、針状の磁性粉末の場合は長軸径を、板状の磁性粉末の場合は板径を、粒状の磁性粉末の場合は半径または長軸径を意味する。粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により倍率20万倍で撮影した磁性粉末100個の粒径の平均値から求めることができる。
金属鉄系磁性粉末としては、針状のα−Fe磁性粉末、Fe−Co系磁性粉末が好ましく、これらの中でもFe−Co系磁性粉末がより好ましい。Fe−Co系磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/mが好ましく、200〜300kA/mがより好ましい。また、飽和磁化量は、60〜200Am2/kgが好ましく、80〜180Am2/kgがより好ましい。
窒化鉄系磁性粉末は、例えば、特開2000−277311号公報に記載されているものを好適に用いることができる。窒化鉄系磁性粉末としては、鉄に対して窒素を1〜20原子%含有する窒化鉄系磁性粉末が好ましい。窒化鉄系磁性粉末は、鉄の一部が他の遷移金属元素で置換されていてもよい。このような他の遷移金属元素としては、具体的には、例えば、Mn、Zn、Ni、Cu、Co等が挙げられる。これらの中でも、CoおよびNiが好ましく、特にCoは飽和磁化を最も向上することができるので好ましい。窒化鉄系磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/mが好ましく、200〜300kA/mがより好ましい。飽和磁化量は、60〜200Am2/kgが好ましく、80〜180Am2/kgがより好ましい。
六方晶フェライト磁性粉末としては、六方晶バリウムフェライト磁性粉末が好ましい。六方晶フェライト磁性粉末は、所定の元素以外にAl、Si、S,Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、B、Ge、Nb等の原子を含んでいてもよい。六方晶フェライト磁性粉末の保磁力は、120〜320kA/mが好ましく、飽和磁化量は、40〜60Am2/kgが好ましい。
イプシロン酸化鉄磁性粉末としては、一般組成式ε−Fe2O3で表される単相で形成されていることが好ましい。α−酸化鉄やγ−酸化鉄が混入すると、磁性層の保磁力が低下するからである。但し、磁性層の保磁力が低下しない水準であれば、不純物としてα−酸化鉄やγ−酸化鉄を含んでいてもよい。また、イプシロン酸化鉄磁性粉末の保磁力は、2500エルステッド〔Oe〕以上が好ましい。なお、一般組成式ε−Fe2O3で表されるε−酸化鉄磁性粉末に置換元素が含まれると、ε−酸化鉄磁性粉末の保磁力が低下するため、置換元素は含まれないことが好ましい。但し、保磁力として2500エルステッド〔Oe〕以上を維持できる水準までであれば、不純物として鉄以外の金属元素を含んでいてもよい。
また、磁性層には研磨剤を含んでもよい。研磨剤としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素など、主としてモース硬度6以上のものが、単独または組み合わせて使用できる。これらの研磨剤の粒子サイズは、好ましくは、平均粒子径で10〜200nmである。
本願の磁気テープに用いる磁性粉にε酸化鉄磁性粉を用いた場合、塗布型磁性層に含まれる磁性粉の微粒子化に伴い磁性粉が密に充填しやすく、その結果下層に含有している潤滑剤が磁性層を通過して磁性層表面に出にくくなる。このため、ε酸化鉄磁性粉を用いた場合には、磁気ヘッドとの間の摩擦を低減するより大きな効果が得られやすい。
更に磁性層は、必要により、導電性と表面潤滑性の向上を目的に、従来公知のカーボンブラックを含んでもよい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラックなどを使用できる。平均粒子径が10〜100nmのカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの平均粒子径が、10nm未満になると、カーボンブラックの分散が難しく、一方、100nmを超えると、多量のカーボンブラックを添加する必要があり、いずれの場合も、形成される磁性膜の表面が粗くなり、出力低下の原因になる。また、必要により、平均粒子径の異なるカーボンブラックを2種以上用いてもよい。
上層磁性層5に含まれる潤滑剤としては、従来公知の10〜30の炭素数を有する脂肪酸が挙げられる。具体的には、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。これらは単独で、または複数使用してもよい。
さらに、上記脂肪酸とともに、従来公知の脂肪酸エステルや脂肪酸アミドを含有してもよい。脂肪酸エステルとしては、具体的には、例えば、オレイン酸n−ブチル、オレイン酸ヘキシル、オレイン酸n−オクチル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸オレイル、ラウリン酸n−ブチル、ラウリン酸ヘプチル、ミリスチン酸n−ブチル、オレイン酸n−ブトキシエチル、トリメチロールプロパントリオレエート、ステアリン酸n−ブチル、ステアリン酸s−ブチル、ステアリン酸イソアミル、ステアリン酸ブチルセロソルブ等が挙げられる。
脂肪酸アミドとしては、具体的には、例えば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。これらは単独で、または複数使用してもよい。
磁性層13に潤滑剤を含有させる場合、磁性層13中の磁性粉末、研磨剤等の全粉末の総量100質量部に対して、脂肪酸を0.5〜4質量部、脂肪酸エステルを0.2〜3質量部、脂肪酸アミドを0.5〜5質量部使用することが好ましい。
上記上層磁性層5に含有される磁性粉体の種類、形状、大きさ(粒径)、混入割合等を調整することにより、上層磁性層5の磁気特性を、例えば、面内方向の保磁力が80〜280kA/m(1,000〜3,500Oe)とすることができる。
上層磁性層5は、少なくとも一層から構成されておればよく、必要により二層以上の多層構成となっていてもよい。
下層非磁性層4は、上層磁性層5の下地層として、磁気テープと磁気ヘッドとのヘッド当たりを緩衝するものであり、非磁性の酸化鉄やアルミナなどの非磁性粉末と結合剤を含んでいる。下層非磁性層4に用いられる結合剤や潤滑剤は、上述の上層磁性層5と同様のものを用いることができる。
また、非磁性粉体としてカーボンブラックを含むことができ、この場合電気抵抗が低減され、静電ノイズの発生やテープ走行むらが小さくなる。さらに、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等を含んでも良い。通常は、カーボンブラックが単独で用いられるか、カーボンブラックと、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等の他の非磁性粉末とが混合して用いられる。下層非磁性層4は、少なくとも一層から構成されておればよく、必要により、二層以上の多層構成となっていてもよい。下層非磁性層2の厚さとしては、テープ全厚を考慮して、一例として0.3〜2.0μmとすることができる。また、下層非磁性層4のヤング率を上層磁性層3のヤング率の80〜99%とすることで、下層非磁性層4にクッションとしての作用を十分に発揮させることができる。
非磁性の支持体3は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフオン、アラミド等からなるプラスチックフィルム等が用いられる。非磁性支持体3の長手方向のヤング率は、好ましくは5.8GPa以上であり、より好ましくは7.1GPa以上である。非磁性支持体3の長手方向のヤング率が5.8GPa以上であれば、走行性を向上させることができる。また、ヘリキャルスキャン方式に用いられる磁気記録媒体では、長手方向のヤング率(MD)と幅方向のヤング率(TD)との比(MD/TD)は、好ましくは0.6〜0.8であり、より好ましく0.65〜0.75であり、更に好ましくは0.7である。上記比の範囲内であれば、磁気ヘッドのトラックの入側から出側間の出力のばらつき(フラットネス)を抑えることができる。リニアレコーディング方式に用いられる磁気記録媒体では、長手方向のヤング率(MD)と幅方向のヤング率(TD)との比(MD/TD)は、好ましくは0.7〜1.3である。支持体3の厚さは磁気テープの用途によって異なるが、一例として2〜6μmとすることができる。
支持体3の、下層非磁性層4と上層磁性層5とが形成された面とは反対側の面には、走行性向上のためバックコート6が設けられている。バックコート6の厚さは、一例として0.2〜0.8μmとすることができる。バックコート6は、例えば、非磁性粉末と結合剤を含むコート層として形成することができる。また、バックコート6に、強度の向上を目的として酸化鉄やアルミナ粒子を添加することができる。
なお、上記した、支持体3、下層非磁性層4、上層磁性層5、バックコート6で構成される磁気テープ本体2は、上記例示した構成以外にも、従来周知の材料で形成することができる。さらに、上記磁気テープ本体2の構成例において、少なくとも支持体3と上層磁性層5とのみを備えていれば、その他の構成は必要に応じて適宜省略することができ、また、上記例示に記載していない既知の各種構成を備えることもできる。
磁気テープ本体2の製造方法としては、一例として、非磁性の支持体3の表面に、下層非磁性層4、上層磁性層5、および、バックコート6を形成する塗料を調整し、グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布等の従来から知られている塗布方法により、これらを順次塗布、乾燥する従来周知の製造方法を用いることができる。このように、下層非磁性層4を乾燥させた後に上層磁性層5を積層塗布する逐次重層塗布方式の他に、支持体3上に下層非磁性層4を塗布した後、下層非磁性層4を乾燥させることなく湿潤な状態で上層磁性層5を積層塗布する同時重層塗布方式を用いることができる。
このようにして製造された磁気テープ本体2を所定のテープ幅に裁断する。本実施形態で製造する磁気テープ1は、一例としてデータバックアップ用途のLTO(Linear Tape Open)5規格の磁気テープであり、テープ幅は約12.6mmである。
その後、裁断されたテープ本体2の表面に潤滑剤を塗布して、磁性層側潤滑剤層7とバックコート側潤滑剤層8とを形成する。
図2は、本実施形態にかかる磁気テープの磁性層側潤滑剤層の構成を説明する要部拡大断面図である。
図2に示すように、本実施形態にかかる磁気テープ1の磁性層側潤滑剤層7は、上層磁性層5の表面2a上に積層形成されていて、その厚みは一例としての1.5nmとなっている。なお、磁性層側潤滑剤層7の厚さとしては、1nm〜5nmの範囲が好ましい。磁性層側潤滑剤層7が1nmより薄いと十分な潤滑効果が得られない。一方、磁性層側潤滑剤層7の厚みが5nmよりも大きくなると、磁気テープドライブによって走行させたときに、磁気テープ1と磁気ヘッドとの間の摩擦係数が低くなりすぎて、磁気テープ1が走行する際に蛇行しテープエッジを損傷してしまうことがある。また、磁性層側潤滑剤層7の厚さが厚すぎる場合には、磁気テープ1を重ねてリールに巻き付けた際に精度良く巻き取ることができなくなる。さらに、磁性層側潤滑剤層7の厚さが厚すぎる場合には、磁気テープ1の上層磁性層5と磁気ヘッドの間隔が広がって磁気信号の記録時や再生時にスペーシングロスが大きくなり、磁気信号を正しく磁気テープ1の上層磁性層5に記録できなくなったり、上層磁性層5に記録された磁気信号を正確に再生できなくなったりする畏れが大きくなる。
磁性層側潤滑剤層7は、紫外線硬化型シリコーン樹脂7aと、シリコーンオイル7bと、ポリオールエステル(POE)7cとを、溶媒であるイソプロピルアルコール(IPA)に混合して上層磁性層5上に塗布されている。なお、紫外線硬化型シリコーン樹脂7aおよびシリコーンオイル7bと、ポリオールエステル7cとの粒子の大きさから、図2に示すように、磁性層側潤滑剤層7において、ポリオールエステル7cの層内に、粒子状の紫外線硬化型シリコーン樹脂7aとシリコーンオイル7bとが分散した状態で存在しているものと考えられる。本実施形態の磁性層側潤滑剤層7は、紫外線硬化型シリコーン樹脂7aを5.0wt%、シリコーンオイル7bを15.0wt、ポリオールエステル7cを17.5wt%をイソプロピルアルコール62.5wtに混入して塗布形成されているため、紫外線硬化型シリコーン樹脂7aとシリコーンオイル7bとの割合は1:3であり、図2に示すように、粒子状の紫外線硬化型シリコーン樹脂7aとシリコーンオイル7bとの個数の割合も、1:3となっていると考えられる。
紫外線硬化シリコーン樹脂7aは、一般的にアクリル主鎖にメタアクリル側鎖とシリコーン側鎖を有し、メタアクリル側鎖の末端に紫外線で反応する二重結合を有する構造となっている。紫外線硬化型シリコーン樹脂7aは、水に対する接触角が大きく疎水性が高い。したがつて、高温でのメニスカス形成が抑制されるために水の介在による磁気テープと磁気ヘッドの間の摩擦係数の上昇を抑制することができる。
このような特徴を有する紫外線硬化型シリコーン樹脂7aに紫外線を照射することで、メタアクリル側鎖の末端の二重結合が開裂し硬化反応が進行する。このため、紫外線硬化型シリコーン樹脂7aを含んだ磁性層側潤滑剤層7が形成された磁気テープ1は、紫外線の照射により磁性層側潤滑剤層7が硬化して上層磁性層5の表面2a側表層が硬くなる。この結果、硬い磁性層側潤滑剤層7の表面で磁気ヘッドが滑りやすくなるとともに、水分子の影響を小さくし、特に高湿下での磁気ヘッド表面での磁気テープ1の滑りがよくなって磁気テープ1と磁気ヘッドの間の摩擦係数が低下する。この結果、磁気テープ1を繰り返し磁気ヘッドに摺動させた場合でも、磁気テープ1が受けるダメージを減らすことができて、繰り返しの記録再生動作に強い高耐久性の磁気テープを実現することができる。
本実施形態の磁気テープ1の磁性層側潤滑剤層7に用いられる紫外線硬化型シリコーン樹脂7aとしては、大成ファインケミカル株式会社製のアクリット8SS−723(商品名)等を用いることができる。
シリコーンオイル7bは、1種類のみを用いてもよいし、2種以上のシリコーンオイルを混合して用いてもよい。シリコーンオイルとして2種以上のものを混合して使用する場合には、紫外線硬化シリコーン樹脂7aを希釈するという観点から、紫外線硬化硬度を考慮して混合するシリコーンオイルの種類を選択することが好ましい。シリコーンオイル7bとしては、長期間にわたって潤滑効果を持続することができる点で、例えば、下記一般式(I)で表されるシリコーンオイルを用いることが好ましい。
上記の一般式(I)中、R1は、同一または異なっていてよく、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フルオロアルキル基、ポリエーテル基、または水酸基を表している。R2は、同一または異なっていてよく、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、ポリエーテル基、フルオロアルキル基を表している。nは、0〜150の整数を表す。
上記一般式(I)中のR1としては、好ましくは、メチル基、フェニル基、水酸基である。また、一般式(I)中のR2としては、好ましくは、メチル基、フェニル基、4−トリフルオロブチル基である。また、上記一般式(I)で表されるシリコーンオイルは、数平均分子量が、好ましくは180〜20000であり、より好ましくは、1000〜10000である。
上記一般式(I)で表されるシリコーンオイルとしては、具体的には、例えば、両末端、または、片末端のR1が水酸基である末端水酸基含有ジメチルシリコーンオイル、R1、および、R2の全てがメチル基であるジメチルシリコーンオイル、さらには、これらのジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部がフェニル基に置換されたフェニルメチルシリコーンオイルなどが挙げられる。
一般にジメチルシリコーンオイルは、粘度の温度依存性が小さく、また、油膜強度が小さい。しかし本実施形態の磁性層側潤滑剤層7においては、シリコーンオイル7bをポリオールエステル7cと併用することで、油膜強度を大きくすることができる。この結果、本実施形態の磁気テープ1では、磁気テープ1と磁気ヘッドとの接触界面で磁気テープ1の走行に対する潤滑効果を向上させることが可能となる。
本実施形態の磁気テープ1の磁性層側潤滑剤層7に使用可能なシリコーンオイルとしては、例えば、信越化学工業株式会社製の、KF−96L、KF−96A、KF−96、KF−96H、KF−99、KF−50、KF−54、KF−965、KF−968、HIVAC F−4、HIVAC F−5、KF−56A、KF995、KF−69、KF−410、KF−412、KF−414、FL(以上全て商品名)、東レダウコーニング株式会社製の、BY16−846、SF8416、SH200、SH203、SH230、SF8419、FS1265、SH510、SH550、SH710、FZ−2110、FZ−2203(以上全て商品名)などが挙げられる。
磁性層側潤滑剤層7に含まれるポリオールエステル7cは、ネオペンチルグリコール(NPG)、トリメチロールプロパン(TMP)、ペンタエリスリトール(PE)等の多価アルコールと、C5−C18の直鎖、または、分岐脂肪酸を原料としているため、低流動点,高粘度指数で使用温度範囲が広く、高潤滑性を有する。特に,有機酸、および、アルコール類の一部の水素をアルキル基で置換したものをエステル化したヒンダードエステルは、熱・酸化安定性が優れている。
ポリオールエステル7cは、分子構造にマイナスの極性を持つ酸素分子を有するため、金属摺動面に付着する性質がある。したがって、磁気テープ1の表面に形成されたポリオールエステル7cを含んだ磁性層側潤滑剤層7と、上層磁性層5の表面2aの磁性粉や無機粒子との間で親和性が増すため、磁性層側潤滑剤層7の曲膜強度が大きくなり、破断しにくくなる。また、ポリオールエステル7cを含んだ磁性層側潤滑剤層7を備えることで、通常金属材料で形成されている磁気ヘッドに対しても親和性がよくなり、トータルとして優れた潤滑性を奏することができる。
また、ポリオールエステル7cは粘度指数が高く、低い摩擦特性を持つ。このような理由から、高速で走行する磁気テープ1と磁気ヘッドとの界面において、磁気テープ1の摩擦係数を低減する効果を長期にわたって維持することができる。さらに、磁気ヘッドの摩耗を低減することが可能となる。
本実施形態の磁気テープ1の磁性層側潤滑剤層7に用いることができるポリオールエステル7cとしては、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンオレート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等が挙げられる。
以上説明したように、本実施形態にかかる磁気テープ1の上層磁性層5上に形成される磁性層側潤滑剤層7は紫外線硬化型シリコーン樹脂7aを含み、潤滑剤組成物を作製して上層磁性層5上塗布した後に紫外線を照射することで、分子間架橋反応を起こして高分子量化して上層磁性層5の表面2a上に硬度の高い磁性体層側潤滑剤層7が形成される。この結果、本実施形態の磁気テープ1では、上層磁性層5の耐久性が向上する。また、磁性層側潤滑剤層7の表面は磁気ヘッドが滑り易くなっているため、磁気ヘッドと磁気テープ1が摺動した場合の摩擦係数を低下させることができる。
本実施形態の磁気テープ1では、バックコート層6の表面2a上にも、バックコート側潤滑剤層8が形成されている。バックコート側潤滑剤層8は、材料、厚さ、その形成方法の全てにおいて、磁性層側潤滑剤層7と同様のものを用いることができる。本実施形態の磁気テープ1において、テープ本体2の両側の表面である上層磁性層5の表面2aと、バックコート6の表面2bの両面に紫外線硬化シリコーン樹脂を含んだ潤滑剤層を形成することで、高い硬度の潤滑剤層がバランス良く磁気テープ1の耐久性を向上させることができる。
次に、本実施形態の磁気テープに形成された潤滑剤層の効果について説明する。
発明者らは、まず、本実施形態にかかる磁気テープの走行耐久試験を行った。
具体的には、LTO6規格の磁気テープについて、磁気テープ本体の両面に紫外線効果型シリコーン樹脂を含む潤滑剤層としての磁性層側潤滑剤層とバックコート側潤滑剤層とを形成した実施例1としての磁気テープと、磁気テープ本体の表面に、上記した潤滑剤層を形成していない比較例としての磁気テープについて、実際にLTO6規格に対応するドライブ装置において、磁気テープの磁気ヘッドへの貼り付きが生じるまでのロードの繰り返し回数を比較した。
(実施例1)
[非磁性塗料の調製]
表1に示す非磁性塗料成分(1)を回分式ニーダで混練することにより混練物を調製した。得られた混練物と、表2に示す非磁性塗料成分(2)とをディスパを用いて撹拌して、混合液を調製した。得られた混合液をジルコニアビーズ(比重:6、粒子径:0.1mm)を充填したサンドミル(滞留時間:60分)で分散して分散液を調製した後、得られた分散液と、表3に示す非磁性塗料成分(3)とをディスパを用いて撹拌し、これをフィルタでろ過して非磁性塗料を調製した。その後、この非磁性塗料を、衝突型分散機を用いて、オリフィス径0.2mm、加圧条件を150MPaとして、衝突チャンバーを2回通過させて、再分散処理を行い、非磁性塗料を調製した。
[磁性塗料の調製]
表4に示す磁性塗料成分(1)と表5に示す磁性塗料成分(2)とを加圧型の回分式ニーダで混練することにより混練物を調製した。得られた混練物に、表6に示す磁性塗料成分(3)を2段階に分けて加えて混練物を希釈して、スラリーを調製した。このスラリーをジルコニアビーズ(比重:6、粒子径:0.1mm)を充填したサンドミル(滞留時間:45分)で分散して分散液を調製した後、得られた分散液と、表7に示す磁性塗料成分(4)とをディスパを用いて撹拌し、これをフィルタでろ過して、磁性塗料を調製した。
[バックコート層用塗料の調製]
表8に示すバックコート層用塗料成分を混合した混合液を、ジルコニアビーズ(比重:6、粒子径:0.1mm)を充填したサンドミルで分散処理(滞留時間:45分)した。得られた分散液にポリイソシアネート15部を加えて撹拌し、これをフィルタでろ過して、バックコート層用塗料を調製した。
[評価用磁気テープの作製]
非磁性支持体(ポリエチレンナフタレートフィルム、厚さ:5.0μmの一方の主面(上面)上に、上記の非磁性塗料および磁性塗料を、乾燥およびカレンダ処理後の厚さがそれぞれ1.0μmおよび50nmとなるように、エクストルージョン型コータにて同時重層塗布し、非磁性層および磁性層をこの順に形成した。なお、このとき、ソレノイド磁石を用いて配向磁界(400kA/m)を印加しながら、面内配向処理を行った。
次に、上記のバックコート層用塗料を、非磁性支持体の上記非磁性層および上記磁性層が形成された主面(上面)とは反対側の主面(下面)上に、乾燥及びカレンダ処理後の厚さが0.5μmとなるように塗布し、乾燥して、バックコート層を形成した。この非磁性支持体の上面側に非磁性層および磁性層が形成され、下面側にバックコート層が形成された原反ロールを、7段の金属ロールを有するカレンダ装置を用いて温度:100℃、線圧力:296kN/mでカレンダ処理した。
得られた原反ロールを70℃で72時間硬化処理し、磁気シートを作製した。この磁気シートを1/2インチ幅に裁断し、LTO規格に準拠したサーボ信号を書き込んだ。
次に、実施例1の磁気テープは、紫外線効果型シリコーン樹脂の潤滑剤層として、イソプロピルアルコール62.5wt%、ポリオールエステル17.5wt%(内訳はブチルステアレート(SB)4.0wt%、日油株式会社製のユニスターH−208BRS(商品名)7.5wt%と、ユニスターH−445R(商品名)を6.0wt%)、シリコーンオイルとして信越化学工業株式会社製のKF−69(商品名:ジメチルシリコーンオイル)を15.0wt%、紫外線硬化シリコーン樹脂として信越化学工業株式会社製のX−12−2441F(商品名:メチルイソブチルケトン)を混合したもの(以下、適宜「潤滑剤塗布液1」と称する)として生成し、後述する帯状の塗布布を用いて磁気テープ本体の両側表面に転写する製造方法を用いて塗布、その後UV光で硬化させて形成した。
潤滑剤層の走行耐久試験は、テープの走行速度を6.0m/s、テープに加わるテンションを0.61Nとして、全長846mの磁気テープにおいてテープ先端から20mの位置から820mの位置までを順方向、逆方向の両方向に走行させた。なお、測定時の室温は29℃、湿度は80%であった。
この走行耐久試験の結果、磁気テープ本体上の両面に紫外線硬化シリコーン樹脂を含む潤滑剤層を形成した実施例1の磁気テープでは、14560回の往復走行が可能でその後に磁気テープの磁気ヘッドへの貼り付きが生じた。一方、潤滑剤層を形成していない比較例の磁気テープでは、8840回の往復走行後に磁気テープの磁気ヘッドへの貼り付きが生じた。
このように、本実施形態の磁気テープでは、テープドライブでの実際のテープ走行における磁気ヘッドへの貼り付きを防止できる高い耐久性を備えていることが確認できた。
次に、本実施形態にかかる磁気テープにおける、紫外線効果型シリコーン樹脂を含んだ潤滑剤層を備えたことによる表面摩擦の低減効果について確認した。
図3は、紫外線効果型シリコーン樹脂を含んだ潤滑剤層を磁気テープ本体の両側表面に形成した磁気テープにおける、テープ表面の摩擦係数の変化を示す図である。
図3において、指標11が上記した潤滑剤塗布液1を用いて形成された潤滑剤層を備えた実施例1の磁気テープの測定データを、また、指標12が潤滑剤塗布液1からポリオールエステルを除外したイソプロピルアルコールとシリコーンオイル、紫外線効果型シリコーン樹脂を含んだ塗布液で形成された潤滑剤層を備えた実施例2の磁気テープの測定データを示している。なお、指標13として示すものは、潤滑剤塗布液1からポリオールエステルとシリコーンオイルとを除外して、イソプロピルアルコールと紫外線効果型シリコーン樹脂のみを含んだ塗布液で形成された潤滑剤層を備えた磁気テープの測定データである。
また、図3における指標14は、磁気テープ本体上に紫外線硬化型シリコーン樹脂を含んだ潤滑剤層を形成していない、比較例1としての磁気テープにおける摩擦係数の変化を示している。
摩擦係数の測定は、図4に示すように、測定対象の磁気テープ1の先端に、重さ62.35gの分銅21を錘として固着し、直径が6mmのSUSピン22上を、図4中矢印23と示すように上下方向に摺動させた。このとき、磁気テープ1の磁性層SUSピン22における巻付け角度は90度となるようにし、摺動速度は1200mm/s、摺動距離は70mmとして、上下方向に一往復した場合をさせた場合を1回のパスとしてカウントし、500パスまでの摺動を繰り返す間の、磁気テープ表面の摩擦係数の変化を測定した。なお、摩擦係数の値は、ロードセルにて摩擦で生じた重さを測定し、オイラーのベルト理論によって測定した。
図3に示すように、実施例1の磁気テープ11と、実施例2の磁気テープ12とは、パス回数が増えた場合でも、比較例1の磁気テープよりも摩擦係数を小さく維持できている。これは、紫外線硬化型シリコーン樹脂を含む潤滑剤層が備える高い潤滑性と耐久性が発揮されて、500回の往復摺動を経た後でも磁気テープ1の表面に潤滑剤層が十分残っていて、SUSピン22との摺動によって、磁気テープ1の表面が大きく損傷していないからであると考えられる。
なお、潤滑剤層として紫外線硬化型シリコーン樹脂のみのものを形成した場合には、紫外線硬化型シリコーン樹脂を含む潤滑剤層を形成していない比較例1の磁気テープとほほ同等の摩擦係数の変化に留まった。これは、紫外線硬化型シリコーン樹脂のみでは固形潤滑剤のみとなり、ポリオールエステルやシリコーンオイルを含んだ潤滑剤層の場合に得られる液体潤滑剤効果が得られないためと考えられる。
(実施例3)
次に、実施例3として、上層磁性層に含まれる磁性粉末としてイプシロン酸化鉄(ε−Fe2O3)磁性粉末を用いた場合について、潤滑剤層を形成した場合の効果について確認した。
実施例3の磁気テープとして、上記実施例1で使用した磁性塗料成分(1)に含まれる強磁性鉄系金属磁性粉末(Fe)を、ε−Fe2O3磁性粉末(平均粒子経18nm)に変えた以外は実施例1と同様な磁性層塗料と、実施例1と同様な非磁性層塗料およびバックコート層用塗料を調整した。これらの塗料を用いて、実施例1と同様の方法で磁気シートを作製し、1/2インチ幅に裁断して実施例3としての磁気テープを製作し、LTO規格に準拠したサーボ信号を書き込んだ。
次に実施例3の磁気テープに、実施例1の磁気テープと同様に潤滑剤塗布液を、後述する帯状の塗布布を用いて磁気テープ本体の両側表面に転写する製造方法を用いて塗布し、その後UV光で硬化させて潤滑剤層を形成した。
このようにして潤滑剤層を形成したイプシロン酸化鉄磁性粉末を用いた磁気テープに対し、実施例1と同様に走行耐久性試験を行った。
この走行耐久試験の結果、実施例3の磁気テープでは、15600回の往復走行が可能であったが、その後に磁気テープの磁気ヘッドへの貼り付きが生じた。
次に、実施例3の磁気テープにおける、紫外線効果型シリコーン樹脂を含んだ潤滑剤層を備えたことによる表面摩擦の低減効果について確認した。
図5は、紫外線効果型シリコーン樹脂を含んだ潤滑剤層を磁気テープ本体の両側表面に形成した実施例3の磁気テープにおける、テープ表面の摩擦係数の変化を示す図である。
図5において、指標15が上記した潤滑剤塗布液1を用いて形成された潤滑剤層を備えた実施例3の磁気テープの測定データである。一方、指標16は、同じ組成で磁気テープを作製した後、磁気テープ本体上に紫外線硬化型シリコーン樹脂を含んだ潤滑剤層を形成していない、比較例2としての磁気テープにおける摩擦係数の変化を示している。
図5に示すように、実施例3の磁気テープ15は、パス回数が増えた場合でも、比較例2の磁気テープ16よりも摩擦係数を小さく維持できている。
このように、本実施形態にかかる磁気テープにおける紫外線硬化型シリコーン樹脂を含む潤滑剤層が備える高い潤滑性と耐久性とは、上層磁性層に含まれる磁性粉末としてイプシロン酸化鉄磁性粉末を用いた場合でも十分に発揮されることが確認できた。
以上説明したように、本願で開示する磁気テープは、磁気テープ本体の表面に、紫外線硬化シリコーン樹脂を含む潤滑剤層が形成されている。このため、磁気テープの耐久性が向上し、磁気ヘッドとの摺接回数を繰り返した場合でも、磁気テープの磁気ヘッドへの貼り付きを低減できる磁気テープを実現することができる。
なお、上記説明した磁性層側潤滑剤層、および、バックコート側潤滑剤層は、いずれも磁気テープ本体の磁性層の全面を被覆する必要はなく、磁性層表面およびバックコート表面の一部に存在すればよい。磁性層表面の一部の領域で、ポリオールエステルとシリコーンオイルとともに、潤滑剤層に含有された紫外線硬化型シリコーン樹脂を硬化させることで、磁気テープを走行させて磁気テープの表面と磁気ヘッドとが摺動する際に滑りやすくなり、摩擦係数が低下して安定した磁気テープの走行を実現できると共に、磁気ヘッド側の磁気テープによる摩耗を低減することができる。
また、紫外線硬化型シリコーン樹脂と同様に、潤滑剤層に含まれるシリコーンオイル、ポリオールエステルも磁性層表面の全面を被覆する必要はない。シリコーンオイルやポリオールエステルが磁性層表面の一部の領域に存在することで、磁性層と磁気ヘッドの境界潤滑効果が生じて、磁気テープが走行する際に磁気テープの表面と磁気ヘッドが摺動する際に滑りやすくなって摩擦係数が低下する。
なお、潤滑剤層を形成する各部材の混合割合として、紫外線硬化型シリコーン樹脂、ポリオールエステル、シリコーンオイルの量を、全体を100としたときに、紫外線硬化型シリコーン樹脂:ポリオールエステル:シリコーンオイル=5−20:30−50:50−60の重量比とすることが好ましい。
次に、本実施形態にかかる磁気テープの製造方法について説明する。
本実施形態の磁気テープの製造方法は、紫外線硬化型シリコーン樹脂を含んだ潤滑剤層を良好に形成する手段として、潤滑剤層の形成液を帯状の塗布布にしみこませ、この塗布布と磁気テープ本体とを摺接させることで、潤滑剤形成液を磁気テープの表面に転写する方法である。また、潤滑剤層形成液が転写された磁気テープにUV光を照射して、潤滑剤層に含まれる紫外線硬化型シリコーン樹脂を硬化させるものである。
図6は、本実施形態の磁気テープの製造方法を示す図であり、磁気テープ巻換え機上の各構成部材の概略の配置位置を示している。
図6に示すように、磁気テープ巻換え機30は、第1のリール31に巻回されていた、原反テープから切断された状態の磁気テープ本体2を第2のリール32へと巻き直す課程で、磁気テープ本体2の両面に磁性層側潤滑剤層と、バックコート側潤滑剤層とを形成する。より具体的には、第1のリール31から繰り出された磁気テープ本体2は、潤滑剤層塗布部33において、その両面に帯状の塗布布41を介して潤滑層形成塗布液を転写することにより塗布される。その後、潤滑剤層が塗布された状態の磁気テープ1はUV光照射部34において、磁気テープ1の両面に同時にUVランプ34からUV光35が照射され、潤滑剤層に含まれる紫外線硬化型シリコーン樹脂が硬化されて完成品としての磁気テープ1となって、第2のリール32に巻き取られる。
なお、UV光照射部34に配置されるUVランプ34としては、一例として5000mW/cm2以上の照射能力をもつ250Wのメタルハライドランプを用いることができる。UVランプ34は連続点灯状態のものを互いの間隔を30mmとして対向するように配置して、その中間部分を一方向に両面に潤滑剤層形成用塗布液が塗布された磁気テープ1が走行する。なお、磁気テープの走行速度は、磁気テープ巻換え機30におけるテープ走行速度である12m/Sである。
図7は、本実施形態の磁気テープの製造方法において、磁気テープ本体2の表面に潤滑剤を塗布するために使用する塗布布に、潤滑剤を含浸させて含浸塗布布を作製する工程を説明する図である。
図7に示すように、本実施形態では、繰り出し側の第1リール42に巻回された塗布布を巻き取り側の第2リール43に巻き取る途中で、所定の含浸ガイドピン44を用いて含浸容器45内に溜められた潤滑剤形成用塗布液、一例として、上記した実施例1の磁気テープを製造するための「潤滑剤塗布液1」46中を潜らせることで、帯状の塗布布に潤滑剤を含浸させて含浸塗布布41を作製する。なお、図7中の矢印は、第1リール42、第2リール43の回転方向と、塗布布または含浸塗布布41の進行方向を示している。
含浸塗布布41を作製するための塗布布は、帯状、別の言い方をすればいわゆるリボン状であり、所定の幅とこの幅に対して十分に大きな長さとを有した布部材である。塗布布は、布を構成する繊維が後述する潤滑剤46を含浸できる吸収性を有するものであり、かつ、繊維が毛羽立ったり切断されて発塵したりしないものが好ましい。なお、繊維を布として構成する方法としては、編み物、織物、不織布などがあるが、後述するように、本実施形態で説明する塗布布に用いる上ではその種類は問わない。
本実施形態では、帯状の塗布布として、テクノス株式会社製の「TECHNO WIPER(テクノワイパー)CRN500(製品名)」を用いた。この「TECHNO WIPER(登録商標)」のような工業用途のワイパーは、吸水性が高くまた毛羽立ちなどが抑えられているため、本実施形態の磁気テープの製造方法において、潤滑剤を磁気テープ本体2の表面に塗布する含浸塗布布11を作製するために用いる塗布布として適している。なお、上記したように、本実施形態で例示する製造される磁気テープ1は、データバックアップ用のLTO6規格の磁気テープで、テープ幅は約12.6mm(1/2インチ)であるため、潤滑剤を塗布するための含浸塗布布11の幅として20mmのものを用いた。
磁気テープ本体2の表面全体に潤滑剤を一度に塗布することができることから、含浸塗布布41の幅は塗布対象である磁気テープ本体2の幅よりも広いことが好ましい。より具体的には、含浸塗布布41の幅が、塗布対象である磁気テープ本体2のテープ幅に対して110〜200%であることが好ましい。含浸塗布布41の幅が、塗布対象である磁気テープ本体2のテープ幅に対して110%より小さいと、後述のように含浸塗布布41を磁気テープの上層磁性層5側の表面や、上層磁性層5側と反対側の表面に接触させる際に、含浸塗布布41や磁気テープの幅方向の振動によって位置がずれてしまい、上層磁性層5側の表面や、上層磁性層5側と反対側の表面の前面に潤滑剤層が形成されない可能性がある。また、含浸塗布布41の幅が、塗布対象である磁気テープ本体2のテープ幅に対して200%より大きいと、含浸塗布布41に含浸された潤滑剤の中で実際に上層磁性層5側の表面や、上層磁性層5側と反対側の表面の潤滑剤形成に使われない潤滑剤が多くなり、無駄が多くなる。
なお、本実施形態の磁気テープ製造方法で使用した市販品の「TECHNO WIPER CRN500」の全長は16mである。
本実施形態の磁気テープの製造方法では、図7に示すように、帯状の塗布布を第1リール42から第2リール43に巻き取りながら、全長にわたって順次潤滑剤塗布液46内に浸していく。このようにすることで、塗布布の繊維間に潤滑剤が含浸(吸収)されて含浸塗布布41が作製される。特に、図7に示すように、潤滑剤塗布液46の内部を潜った後の含浸塗布布41を潤滑剤塗布液46が収容された含浸容器45に対して垂直上方に引き上げていくことにより、塗布布の繊維内に含浸されなかった余剰の潤滑剤塗布液46は含浸塗布布41を伝って下方の含浸容器45内に戻り、塗布布の全長にわたって所定量の潤滑剤塗布液46が含浸された含浸塗布布41を作製できる。従来の塗膜形成方式において用いられていた原反状の磁気テープ本体の表面に潤滑剤を平面状にコーティングする塗布方法では、磁気テープ本体の両側部から潤滑剤がこぼれてしまうことを回避できなかったが、本実施形態の製造方法によれば、余剰となってこぼれてしまう潤滑剤を実質的になくすことができ、効率よく潤滑剤を利用することができる。
なお、図7に示す本実施形態では、塗布布または含浸塗布布41の走行速度は一例として200mm/minであり、潤滑剤塗布液46に浸かっている含浸塗布布41の長さを規定する含浸容器45内に位置する2つの含浸ガイドピン44の間隔は4cmとしている。これら、潤滑剤を含浸させる工程での塗布布または含浸塗布布41の走行速度と潤滑剤塗布液46内の含浸ガイドピン44の間隔によって定まる、塗布布が潤滑剤塗布液46中に浸かっている時間は、用いる潤滑剤塗布液の粘度と使用される塗布布の吸液力等を考慮して適宜定めるべき数値であることは言うまでもない。また、含浸ガイドピン44を2本用いることも必須ではなく、含浸容器内に1本または3本以上の含浸ガイドピンを配置して塗布布に潤滑剤塗布液を含浸させることができる。
また、上記のように、本実施形態では潤滑剤塗布液46に浸かった後の塗布布41が、ほぼ垂直上方に巻き取られていく構成としている。このような構成とすれば塗布布41に含浸されなかった余剰の潤滑剤塗布液46が含浸容器45内に戻りやすいからであるが、含浸塗布布41が斜め上方に巻き取られる構成でも何ら問題はない。また、塗布布の全長にわたって潤滑剤が含浸されればよいことから、本実施形態で示したような第1リール42から第2リール43に巻き取られる途中で塗布布を潤滑剤塗布液46に浸す方法に限られず、例えば、塗布布全体を一度に潤滑剤塗布液の中に浸してこれを引き上げる、いわゆる「じゃぶ漬け(ザブ漬け)」によって潤滑剤塗布液を塗布布に含浸させることもできる。
次に、本実施形態の磁気テープの製造方法における、磁気テープ本体の表面に潤滑剤層を形成する工程について、図8を用いて説明する。
図8は、所定幅に裁断された磁気テープ本体に対して、磁気テープ表面をクリーニングする磁気テープ巻換え機における潤滑剤層塗布部33の要部を拡大して示す斜視図である。
図8に示すように、本実施形態の磁気テープの製造方法として用いられる磁気テープ巻換え機30の潤滑剤層塗布部33では、磁気テープ本体2の上層磁性層5が形成された側の表面2aに磁性層側潤滑剤層7を、磁気テープ本体2の上層磁性層5が形成された側とは反対側の表面2bにバックコート側潤滑剤層8を、それぞれ形成している。なお、磁気テープ本体2と潤滑剤塗布液が含浸されている帯状の含浸塗布布41との位置関係を明確に示すために、図8において、磁気テープ巻換え機30の構成要素である各種のリールやガイドピン、さらに、これに付随するローラー等は二点鎖線で示している。
磁気テープ巻換え機30において、磁気テープ本体2は、図示しない領域で磁気テープ表面に対するクリーニング処理が施された状態で図6に示す潤滑剤層塗布部33に到達する。磁気テープ本体2は、矢印Aとして示すように、図8における下側から潤滑剤層塗布部33に到達し、第1のテープローラー51で進行方向が反転された後、第2のテープローラー52を経て、その後テープ巻取り部分に向かう。
含浸塗布布11は、リール53から第1塗布布ガイドピン54を経て、第1の摺接ガイドピン55によって磁気テープ本体2の上層磁性層5側の表面2aに一方の面41aが接触する。その後、第1反転ガイドピン56、第2反転ガイドピン57、第1反転ローラー58、第2反転ローラー59、第3反転ガイドピン60、第4反転ガイドピン61を経ることで、磁気テープ本体2の反対側に回り込むと同時に含浸塗布布41自体も反転する。
この結果、第2の摺接接触ガイドピン62によって、第1の摺接ガイドピン55によって磁気テープ本体2に接触した一方の面41aの裏面に相当する他方の面41bが、磁気テープ本体2の上層磁性層5側とは反対側のバックコート層6が形成されている表面2bに接触する。その後、含浸塗布布41は、第2塗布布ガイドピン63、第3塗布布ガイドピン64を経て、巻き取りリール65に巻き取られる。
なお、図8において、含浸塗布布41の進行方向を適宜矢印Bとして表している。また、それぞれの詳細の説明は割愛するが、塗布布ガイドピン、摺接ガイドピン、反転ガイドピンそれぞれには、適宜ローラーを設けることができ、磁気テープ本体2と含浸塗布布41とのガイドピンにおける軸方向の位置を規制するとともに、磁気テープ本体2と含浸塗布布41とガイドピンとの間に不所望な摩擦力が生じることを回避することができる。
本実施形態の磁気テープの製造方法では、潤滑剤が含浸された帯状の含浸塗布布41が、磁気テープ巻換え機30の潤滑剤層塗布部33において、リール53から巻き取りリール65で巻き取られるまでの間に、一方の面41aと他方の面41bとが裏返って両方の面が磁気テープ本体2の両方の面2a、2bに順次摺接する。このようにすることで、磁気テープ本体2の上層磁性層5側の表面2aに磁性層側潤滑剤層7を、磁気テープ本体2の上層磁性層5とは反対側の表面2bにバックコート側潤滑剤層8を、一連の流れの中でそれぞれ形成することができる。
なお、図8に示す磁気テープ巻換え機30において、潤滑剤コーティング領域で最初に含浸塗布布41が巻回されているリール53として、図7に示した潤滑剤を塗布布に含浸させる装置の巻き取り側の第2リール43をそのまま用いることで、潤滑剤が含浸された状態の含浸塗布布41を巻き取り直す手間無く磁気テープ巻換え機30に装着して、磁気テープ本体2に潤滑剤層を形成することができる。
含浸塗布布41と磁気テープ本体2とが摺接する潤滑剤層塗布部33には、第1摺接角度規制ピン66と第2摺接角度規制ピン67とが配置されていて、図8において矢印Aとして示すように下方から上方へ向かって走行する磁気テープ本体2は、第2の摺接ガイドピン62、および、第1の摺接ガイドピン55に対するテープ巻付け角度が調整されている。
以下、磁気テープ本体の表面に潤滑剤を塗布するための、磁気テープ本体と含浸塗布布との摺接条件について説明する。
図9は、本実施形態の磁気テープの製造方法において、潤滑剤を含浸させた帯状の含浸塗布布と磁気テープ本体とが摺接する部分での摺接状態を説明するための模式図である。なお、図9は、磁気テープ本体と含浸塗布布との主面の延長方向、すなわち、磁気テープ本体と含浸塗布布との接触状態を規制する摺接ガイドピンの軸の延長方向から見た状態を示している。
図9においても、図8と同様に、磁気テープ本体2は図中矢印Aとして示すように下方から上方へ走行している。また、含浸塗布布41は図中矢印Bとして示すように上方から下方に向かって走行している。このように、本実施形態の磁気テープの製造方法では、磁気テープ本体2と含浸塗布布41とが互いに逆方向に走行してすれ違うようにして摺接する。このとき、磁気テープ本体2は、磁気テープ本体2と含浸塗布布41とが摺接する摺接ガイドピン71部分で、含浸塗布布41が接触する面の側に摺接ガイドピン71の接線72に対して巻付け角度αが形成されるように規制されて走行する。また、含浸塗布布41は、磁気テープ本体2と摺接ガイドピン71との間に位置し、摺接ガイドピン71の接線72に対して、磁気テープ本体2の巻付け角度αよりもさらに大きな巻付け角度βを形成するように規制されて走行する。
なお、巻付け角度α、巻付け角度βは、いずれも、摺接ガイドピン71の両側(入側、および、出側)で異なっていても良い。
本実施形態の磁気テープの製造方法では、一例として、潤滑剤層塗布部30における磁気テープ本体2のテープ速度を3〜15m/s、より好ましくは5〜12m/sとすることができる。磁気テープ本体2のテープ速度が3m/sよりも小さい場合には、磁気テープ本体2の表面に塗布される潤滑剤の量が多すぎて、潤滑剤層を備えた完成後の磁気テープをリールに巻回した際の磁気テープ同士の張り付きや、磁気テープドライブ装置において磁気ヘッドに摺接した際に、磁気テープと磁気ヘッドとの張り付きが生じ易くなる。一方、潤滑剤コーティング領域における磁気テープの走行速度が15m/sより速いと、磁気テープの表面に十分な厚さの磁性層側潤滑剤層が形成できず、磁気テープと磁気ヘッドとの摩擦力を低減するという磁性層側潤滑剤層による効果が十分に得られない。
また、本実施形態の磁気テープの製造方法では、含浸塗布布41の走行速度を、一例として50〜150mm/minとすることができる。含浸塗布布41の走行速度が50mm/minよりも遅いと磁気テープ本体2の表面に形成される磁性層側潤滑剤層の厚さが薄くなって、磁気テープと磁気ヘッドとの摩擦力を低減するという磁性層側潤滑剤層による効果が十分に得られない。また、含浸塗布布41の走行速度が150mm/minよりも速い場合には、磁気テープの表面に塗布される潤滑剤の量が多すぎて、かえって磁気テープ同士または磁気テープと磁気ヘッドとの張り付きが生じ易くなる。
図9に示す、磁気テープ本体2の摺接ガイドピン71に対する巻付け角度αは、一例として10〜60°とすることができる。本実施形態の磁気テープの製造方法では、含浸塗布布41が、磁気テープ本体2と摺接ガイドピン71との間に配置された状態で磁気テープ本体2と摺接させるため、磁気テープ本体2の接触ガイド71に対する巻き付け角αが大きいほど、含浸塗布布41が磁気テープ本体2に対してより強く押しつけられることを意味する。したがって、巻付け角度αが10°よりも小さい場合には、含浸塗布布41が磁気テープ本体2に押しつけられる力が小さく、磁気テープ本体2の表面に所望の厚さの磁性層側潤滑剤層を形成することか困難となる。また、磁性層側潤滑剤層の厚さに、場所によるバラツキが生じやすくなる。一方、巻付け角度αが60°よりも大きな場合には、磁気テープ本体2の表面に塗布される潤滑剤の塗布量が多くなり過ぎてしまう。
摺接ガイドピン71部分における、含浸塗布布41と磁気テープ本体2との接触面積は、一例として、6.7〜670mm2とすることができる。含浸塗布布41と磁気テープ本体2との接触面積が6.7mm2よりも小さい場合には、磁気テープ本体2の表面に形成される磁性層側潤滑剤層の厚さが十分ではなくなる。また、含浸塗布布41と磁気テープ本体2との接触面積が670mm2よりも大きい場合には、磁気テープ本体2の表面に塗布される潤滑剤の塗布量が多くなり過ぎてしまう。なお、上記したように、本実施形態では、含浸塗布布41の幅が磁気テープ本体2の幅よりも広いため、磁気テープ本体2の表面全面が含浸塗布布41に接触する。このため、磁気テープ本体2と含浸塗布布41との接触面積は、磁気テープ本体2における含浸塗布布41との接触部分の長さによって定まる。また、図9に示すように、含浸塗布布41は、摺接ガイドピン71と磁気テープ本体2との間に配置されて磁気テープ本体2と摺接するものであり、かつ、上述したように摺接ガイドピン71に対する磁気テープ本体の巻付け角度αには一定の好ましい範囲が存在するため、磁気テープ本体2と含浸塗布布41との接触面積は、摺接ガイドピン71の外周の大きさ、すなわち、これを決定づけることになる摺接ガイドピン71の直径Lによって実質的に定まることになる。これらのことを考慮して、摺接ガイドピン71の直径Lは所定の大きさに定めることが必要となり、具体例として5〜50mmとすることができる。
また、含浸塗布布41と摺接する部分での、含浸塗布布41から磁気テープ本体2に加わる張力(テンション:tension)、すなわち、潤滑剤コーティング領域部分の前後において磁気テープに加わるテンションの差として求められるテンション差は、一例として0.6〜1.5Nとすることができる。テンション差の大きさが0.6Nよりも低い場合には、磁気テープ本体2の表面に塗布される潤滑剤の塗布量が少なくなり、潤滑剤の塗布量の場所によるバラツキが大きくなる。テンション差が1.5Nよりも大きい場合には、磁気テープ本体2自体が長手方向に伸びてダメージを受けてしまうおそれがある。
図8に示す磁気テープ巻換え機30では、潤滑剤層塗布部30に第1摺接角度規制ピン66と第2摺接角度規制ピン67とが配置されている。図8における下方から、潤滑剤層塗布部33に進入した磁気テープ本体2は、第1摺接角度規制ピン66によって一旦図8中の右側に進行方向が変えられた後、進行方向の右側に配置される第2の摺接ガイドピン62に向かうことで所定の巻き付け角が形成される。次に、第2の摺接ガイドピン62によって規制されている状態から、今度は進行方向左側に配置されている第1の摺接ガイドピン55に向かって走行することで、第1の摺接ガイドピン55に対して所定の巻付け角度が形成され、その後進行方向右側に位置する第2摺接角度規制ピン67を経て、図8における上方に抜けていく。
このように、本実施形態の磁気テープ巻換え機30では、磁気テープの進行方向に対して左右に配置された、摺接ガイドピンと摺接角度規制ピンを走行する磁気テープ本体2に対して所定の位置関係となるように配置することによって、摺接ガイドピンの周囲部分で磁気テープ本体2に含浸塗布布41が摺接している状態で、図9に示した所定の巻付け角度αが確保される。
なお、図9に示したような、磁気テープ本体2の図中左側の表面に潤滑剤を塗布する構成は、図8において第1の摺接ガイドピン55における摺接部分に相当する。また、図9に示す磁気テープ巻換え機30における、磁気テープ本体2と含浸塗布布41との具体的な摺接条件は、磁気テープの走行速度が12m/s、磁気テープ本体2と反対の方向に走行する含浸塗布布41の走行速度が100mm/min、第1の摺接ガイドピン55と第2の摺接ガイドピン62とにおける摺接部分でのテープ巻付け角度αが約30°、含浸塗布布41の巻付け角度βが約60°、第1の摺接ガイドピン55と第2の摺接ガイドピン62の直径Lがいずれも10mm、磁気テープ本体2と含浸塗布布41との接触面積が約133mm2、磁気テープ2のテンション差が1.2Nとなっている。これらの含浸塗布布41と磁気テープ本体2との摺接条件は、磁気テープ本体2の厚さ、非磁性支持体3の材質、上層磁性層5の材料や形成方法、潤滑剤が含浸された含浸塗布布41の材料、潤滑剤の含浸量、潤滑剤の材質、粘度、所望の磁性層側潤滑剤層の厚さなどの条件によって、適宜選択されるべきものである。
上記実施形態では、磁気テープ本体の表面に潤滑剤層を形成するための潤滑剤を含浸させる帯状の塗布布として、繊維が織物として布を構成している部材を用いた。しかし、本実施形態の製造方法において、帯状の塗布布として用いることができる布は、繊維が織物として布を形成するものには限られず、繊維が編み物として帯状の布を形成しているものや、不織布として帯状の布が形成されているものなど、布を構成する繊維の間に所望量の潤滑剤を含浸でき、かつ、帯状の布として構成されて磁気テープ本体に対して摺接させることができるものであれば、その構成方法に限定はない。
図10は、織物、編み物、不織布として布を構成した帯状の布である塗布布の繊維状態を示す顕微鏡による拡大写真である。図10(a)が織物を、図10(b)が編み物を、図10(c)が不織布のそれぞれの繊維の状態を示していて、図中に示したスケールが、200μmを示している。
図10に示した、織物、編み物、不織布それぞれにより形成された塗布布を用い、他の条件は同じとして磁気テープ本体上に形成された潤滑剤層の動摩擦の大きさを比較してみると、織物を塗布布として用いて潤滑剤層を形成した磁気テープにおいて、テープ走行速度に関わらず最も磁気テープと磁気ヘッドとの動摩擦の値を小さくすることができ、他の材料による塗布布を用いた場合との差は、特にテープ走行速度が速くなるほど顕著に表れることが分かった。ただし、いずれの材料の塗布布を用いて潤滑剤層を形成した磁気テープも、ポリオールエステルとシリコーンオイル、紫外線硬化型シリコーン樹脂を含む潤滑剤層が形成されていない磁気テープと比較した場合には、所定の動摩擦低減効果が得られることも確認できた。
なお、織物である塗布布としては、上記したテクノス株式会社製の「TECHNO WIPER CRN500(製品名)」を用いることができる。また、編み物である帯状の布としては、同じくテクノス株式会社製の「CRYSTAL WIPER(クリスタルワイパー)CRW200(製品名)」を用いることができる。さらに、不織布としては、アズワン株式会社製の「不織布ワイパー」などを用いることができる。また、本実施形態で説明した磁気テープの製造方法において、潤滑剤をコーティングする際に用いられる帯状の塗布布は、上記例示したものに限定されない。しかし、吸水性が高く、また毛羽立ちなどが抑えられている製品であることから、布の構成にかかわらず工業用途のワイパーを用いることが好適である。
また、本実施形態で説明した磁気テープの製造方法において、潤滑剤を含有させた後に磁気テープと摺接させて潤滑剤を磁気テープの上層磁性層表面にコーティングした含浸塗布布は、磁気テープ本体のエッジと接触した部分に黒い帯が形成されていた。この黒い帯は、磁気テープよりも幅の広い含浸塗布布が磁気テープと摺接した際に、磁気テープの幅よりも広い部分が磁気テープの側面を包むように変形して接触したため、磁気テープの側面から脱落した上層磁性層内の磁性粉体成分などが付着したものと考えられる。このため、磁気テープの両方の表面に1枚の含浸塗布布を用いて潤滑剤層を形成する場合には、図8に示したように、含浸塗布布の両方の表面を利用すると、含浸塗布布の上層磁性層と接触する面に付着した磁性粉体成分などが、上層磁性層側と反対側の表面に再付着することを防止でき、好ましい。
また、磁気テープ本体が、所定幅に裁断された後に含浸塗布布を磁気テープ本体に摺接させて潤滑剤層を形成する本実施形態で示した製造方法によれば、磁気テープ本体の両側のエッジ部分のクリーニング効果を期待することができる。なお、磁気テープ本体と摺接させることで、含浸塗布布に含浸させた潤滑剤は磁気テープ本体の表面に転写されてコーティング層を形成したと考えられるため、一度潤滑剤層のコーティングに使用した含浸塗布布は、再度潤滑剤を含浸させた後に再利用することができる。この際、上記のような磁気テープのエッジ部分のクリーニング効果の代償として含浸塗布布に汚れが付着してしまうため、含浸塗布布の使用回数は、その汚れの程度を勘案しながら1回以上の所定回数に制限することが好ましい。
以上説明したように、本実施形態で示す磁気テープの製造方法によれば、簡易な方法でありながら、磁気テープ本体の表面に所望の潤滑剤層を形成することができる。特に、磁気テープの表面に形成される潤滑剤層の厚さを、磁気テープの走行速度、帯状の含浸塗布布の材料、含浸塗布布の走行速度、磁気テープと含浸塗布布との摺接条件の調整によって定めることができ、一度条件を定めると同じ条件での潤滑剤層を磁気テープの全長にわたって、無駄なく形成することができる。
また、上記実施形態では、磁気テープを所定幅に裁断した後に磁気テープ表面にクリーニング処理を施す磁気テープ巻換え機において潤滑剤層を形成する例を示したが、含浸塗布布の幅などを調整することによって、磁気テープ本体が完成した後の原反の状態から、裁断した後、例えば磁性層にサーボデータが記録された磁気テープの製造工程としての最終段階まで、いずれのタイミングでも潤滑剤層を形成することができる。このため、完成後の実用状態で十分な厚さの潤滑剤層を確保することや、コスト面などを考慮して、組み合わせることが最も有利な所望の他工程において潤滑剤層を形成することもでき、磁気テープの製造工程の簡素化や低コスト化を実現することができる。特に、磁気テープはテープドライブ装置やローディング装置などに掛けられて走行させられるたびに、その表面がガイドピンやローラー、磁気ヘッドなどと接触して表面の潤滑剤層が剥がれていく。このため、磁気テープの製造工程において、なるべく最終段階に近い工程で潤滑剤層を形成することが、実使用開始時により厚く均一な状態の潤滑剤層を維持することができ、この点において本願で開示する磁気テープの製造方法は極めて有用である。
なお、図8では、磁気テープ本体の両方の表面に連続して潤滑剤層を形成する構成を示したが、本願で開示する磁気テープの製造方法はこれに限られず、磁気テープ本体の一方の表面にのみ潤滑剤層を形成することや、磁気テープ本体のそれぞれの表面に、別々に潤滑剤層を形成することができる。
また、図8では、含浸塗布布の両面を磁気テープ本体の両方の表面にそれぞれ摺接させて潤滑剤層を塗布する構成を示したが、含浸塗布布の一つの表面のみで磁気テープ本体の両方の表面に潤滑剤層を形成することもでき、また、1枚の含浸塗布布を用いて、連続して複数の磁気テープの表面に潤滑剤層を形成することができる。なお、図8に例示した、含浸塗布布の表面と裏面とを反転させる構成はあくまでも一例であり、反転のためのガイドピンやローラーの別の構成を利用できることは言うまでもない。
また、本実施形態では、磁気テープ本体と含浸塗布布とが、互いに逆方向に走行しながら摺接する例を示したが、磁気テープ本体と含浸塗布布とが同じ方向に走行している状態で摺接する構成としても、磁気テープ本体の表面に潤滑剤層を形成することができる。この場合、磁気テープ本体と含浸塗布布との間に速度差を設けることが好ましい。さらに、本実施形態では、磁気テープ本体と含浸塗布布との摺接条件を、摺接ガイドピンを用い、含浸塗布布が摺接ガイドピンと磁気テープ本体との間を走行させることにより規定する例を示したが、摺接ガイドピンの周部分以外で磁気テープと含浸塗布布とが摺接するようにして、互いの摺接条件を制御することも可能である。
また、上記実施形態では、本願で開示される磁気テープとして、データバックアップ用途のLTO6規格の磁気テープを例示したが、本願で開示する磁気テープの製造方法は磁気テープの種類に関係なく、他の用途、他の規格の磁気テープの製造にも適用することができる。