JP2017036241A - 咬合床形成用組成物およびそれを用いた有床義歯の製造方法 - Google Patents

咬合床形成用組成物およびそれを用いた有床義歯の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】咬合床の作製に基礎床を利用しながら無開りん法による有床義歯の製造を可能とし得る新規な咬合床形成用組成物、ならびに、それを用いた無開りん法を利用した有床義歯の製造方法を提供する。
【解決手段】有床義歯の製造に用いられる咬合床の少なくとも一部を形成するための組成物であって、50〜130℃の範囲内の温度で溶融し、かつ、固体状態における曲げ弾性率が100〜400MPaの範囲内である、咬合床形成用組成物、ならびに、印象採得により作製された模型に本発明の組成物を固体状態で圧接して咬合床の少なくとも一部を作製し、作製した咬合床に人工歯を設置するステップと、人工歯が設置された咬合床の試適を行なうステップと、試適後の人工歯が設置された咬合床を模型と共に歯科用フラスコ内に収容し、歯科用フラスコ内に埋没材を流し込んで埋没させるステップと、歯科用フラスコを開かずに、咬合床を溶融させ、歯科用フラスコから流し出すステップとを含む、有床義歯の製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、有床義歯の製造における咬合床を形成するための組成物、ならびに、それを用いた有床義歯の製造方法に関する。
有床義歯とは、人工の歯茎(床)と人工の歯とを備える義歯であり、一般に、全部床義歯と部分床義歯とに分類される。
全部床義歯を製造する場合、まず、歯科医院にて患者の歯型をとり(印象採得)、印象に石膏を流して患者の口腔内の模型を作製し、模型上に蝋(ワックス)を盛り上げて咬合床を形成し、樹脂などで形成された人工歯を植え付け、蝋義歯を作製する。その後、歯科医院にて、蝋義歯(人工歯が設置された咬合床)を実際に患者の口腔内に適用し、蝋義歯の歯並び、噛み合わせなどのチェック(試適)を行なう。試適を行なった後の蝋義歯を模型と共に歯科用フラスコ内に収容し、石膏などの埋没材を流し込んで固定し(埋没)、埋没材が硬化したら歯科用フラスコ内の咬合床を熱で溶かし(脱蝋)、歯科用フラスコから流し出す。その後、咬合床を流し出した後の歯科用フラスコに、加熱重合レジン、熱可塑性レジンなどの有床義歯形成用樹脂などを充填/重合した後、歯科用フラスコから取り出す。その後、研磨などの仕上げ作業を経て、全部床義歯が製造される。また部分床義歯を製造する場合、全部床義歯の製造手順に準じて行われるが、クラスプ(部分床義歯を固定するための金属の留め具)、バー(部分床義歯を固定するための金属の連結装置)などの作製工程が加わる。
咬合床を歯科分野で一般的に用いられている蝋のみで形成した場合、試適の際に蝋義歯が変形してしまうことがある。したがって精度の高い有床義歯を製造するためには、模型上に、蝋よりも変形しにくい材料で基礎床(ベースプレート)を作製し、この基礎床上に、蝋を盛り上げて咬合堤を形成することで咬合床を作製することが好ましいことが知られている。たとえば特開2006−28076号公報(特許文献1)には、a)少なくとも1個の不飽和二重結合を有しウレタン結合を持たない(メタ)アクリレート5〜50重量%、b)40℃以下で結晶質あるいは非晶質の固体であり、少なくとも1個の不飽和二重結合を有しウレタン結合を持つ(メタ)アクリレート10〜60重量%、c)無機質充填材10〜50重量%、d)有機質充填材5〜30重量%、およびe)光重合開始剤0.03〜3重量%を有する、光重合型の基礎床用レジン組成物が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載されたような基礎床を用いた場合、脱蝋のために咬合床を熱で溶かそうとしても、基礎床は歯科用フラスコから流れ出ずに残ることになる。このため、歯科用フラスコを開け、咬合堤を形成する蝋を溶かし(脱蝋)、基礎床を取り出した後に、再び歯科用フラスコを閉じ、樹脂などを充填する必要がある。この方法は「開りん法」と呼称される方法であるが、歯科用フラスコを開ける作業の他、歯科用フラスコを開けるためのアンダーカット処理、分離剤(離型剤)の塗布、2回に分けて埋没などの作業に加え、開いた歯科用フラスコに有床義歯形成用樹脂などを填入後、プレスおよびバリ取りの作業をバリが発生しなくなるまで行わなければならないなど、操作が煩雑であり、有床義歯の製造に長時間を要する。また、バリなどの除去に伴い、蝋義歯を用いて試適を行なったにも関わらず、人工歯、バー、クラスプの位置関係が変わってしまったり、咬合高径が変わってしまうなど、製造された有床義歯の精度が下がってしまう。
このため、歯科用フラスコを開かずに脱蝋して有床義歯を製造する「無開りん法」と呼称される方法が提案されている。たとえば特開昭60−194944号公報(特許文献2)には、ワックスパターンを配設したフラスコ内に埋没材を注入して固結させ、フラスコを加熱することによりワックスパターンを軟化流出させて埋没材内にパターン空洞を形成する有床義歯用成形型の製造方法において、フラスコの外面に開口する補綴材料注入口内にスプールワックスの一端部を位置させるとともに、スプールワックスの他端部をワックスパターンのワックス床の一側端部に接続し、フラスコの補綴材料注入口形成面とは異なる外面に開口する脱ロウ口内にベントワックスの一端部を位置させるとともに、ベントワックスの他端部をワックスパターンのワックス床の他端部側に接続し、フラスコを加熱してフラスコ内に位置するワックスを軟化させるとともに、補綴材料注入口から蒸気と高温水とを交互に噴出させることによりフラスコ内に蒸気と高温水を通過させて埋没材内のワックスをフラスコ外に排出するようにした有床義歯成形型の製造方法が開示されている。
しかしながら、特許文献2に記載されたような無開りん法を行なう場合、上述のように脱蝋により歯科用フラスコより溶かし出せない基礎床を用いることができない。したがって、無開りん法を行なう場合には、基礎床なしで咬合床を作製せざるを得ず、上述のように試適の際に蝋義歯が変形してしまう虞があった。
特開2006−28076号公報 特開昭60−194944号公報
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、咬合床の作製に基礎床を利用しながら無開りん法による有床義歯の製造を可能とし得る新規な咬合床形成用組成物、ならびに、それを用いた無開りん法を利用した有床義歯の製造方法を提供することである。
本発明は、有床義歯の製造に用いられる咬合床の少なくとも一部を形成するための組成物(咬合床形成用組成物)であって、50〜130℃の範囲内の温度で溶融し、かつ、固体状態における曲げ弾性率が100〜400MPaの範囲内であることを特徴とする。
本発明の咬合床形成用組成物は、30〜80重量%のパラフィンワックスと、5〜40重量%のマイクロクリスタリンワックスと、10〜50重量%のカルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれかと、5〜40重量%のビーズワックスを含むことが好ましい。
本発明の咬合床形成用組成物は、咬合床の基礎床を形成するために用いられることが好ましい。
本発明は、印象採得により作製された模型に本発明の組成物を固体状態で圧接して咬合床の少なくとも一部を作製し、作製した咬合床に人工歯を設置するステップと、人工歯が設置された咬合床の試適を行なうステップと、試適後の人工歯が設置された咬合床を模型と共に歯科用フラスコ内に収容し、歯科用フラスコ内に埋没材を流し込んで埋没させるステップと、歯科用フラスコを開かずに、咬合床を溶融させ、歯科用フラスコから流し出すステップとを含む有床義歯の製造方法についても提供する。
本発明の有床義歯の製造方法において、前記咬合床を作製するステップにおいて、本発明の組成物を用いて咬合床の基礎床を作製することが好ましい。
本発明によれば、基礎床を用いた咬合床を利用しながら、無開りん法を利用して有床義歯を製造することができるため、試適の際に蝋義歯の変形が起こることなく、製造された有床義歯において、開りん法の際に生じていた人工歯、バー、クラスプの位置関係、咬合高径の変化がないため、精度が向上された有床義歯を短時間で製造することができる。
本発明の咬合床形成用組成物を用いた基礎床の作製を模式的に示す図である。 本発明の咬合床形成用組成物を用いた有床義歯の製造方法の好ましい一例を示すフローチャートである。
〔1〕咬合床形成用組成物
本発明の咬合床形成用組成物は、有床義歯の製造に用いられる咬合床の少なくとも一部を形成するための組成物であって、50〜130℃の範囲内の温度で溶融し、かつ、固体状態における曲げ弾性率が100〜400MPaの範囲内であることを特徴とする。このような組成物を用いることで、基礎床を用いた咬合床を利用しながら、無開りん法を利用して有床義歯を製造することができ、これにより、試適の際に咬合床の変形が起こることなく、製造された有床義歯において、開りん法の際に生じていた人工歯、バー、クラスプの位置関係、咬合高径の変化がないため、精度が向上された有床義歯を短時間で製造することができる。
本発明の組成物が溶融し得る温度が50℃未満である場合には、脱蝋までのステップの中で不所望な溶融が起きてしまう可能性があり、また、試適のときに口腔内で容易に軟化する虞がある。また本発明の組成物が溶融し得る温度が130℃を超える場合には、無開りん法における脱蝋の際に基礎床を溶融させることが困難となり、また、石膏表面が面荒れを起こし、得られた有床義歯の表面が粗雑になるという不具合がある。本発明の組成物が溶融し得る温度は50〜120℃の範囲内であることが好ましく、60〜90℃の範囲内であることがより好ましい。なお、本発明の組成物の融点は、JIS K 2235:1991に基づいて測定された数値を指す。
また、本発明の組成物の固体状態における曲げ弾性率が100MPa未満である場合には、試適の際に蝋義歯の変形が起こるという不具合があり、400MPaを超える場合には、模型上にベースプレートを圧延することが困難となり、無理に力を加えると割れてしまうという不具合がある。試適の際の基礎床の形状の安定性と模型への圧延の操作性の観点からは、本発明の組成物の固体状態における曲げ弾性率は、200〜400MPaの範囲内であることが好ましく、250〜350MPaの範囲内であることがより好ましい。なお、本発明の組成物の固体状態の曲げ弾性率は、以下の手順で算出された値を指す。まず、加熱溶融させた状態で幅15mm、厚さ10mm、長さ80mmの溝をもつゴム枠に流し込み、室温まで自然放冷した後、これをゴム枠から取り出して試験片とする。3点曲げ試験により、23±2℃の温度で、支点間距離50mmでクロスヘッドスピード3.0mm/minにて試験片が破壊するまで行ない、応力−ひずみ曲線の初期勾配から曲げ弾性率を算出する。
本発明の組成物は、咬合床の少なくとも一部を形成するために用いられればよく、基礎床を形成するために用いられても、基礎床および咬合堤を含む咬合床全体を形成するために用いられていてもよいが、費用、操作性などの観点からは、咬合床の基礎床を形成するために用いられ、咬合堤については従来より広く用いられてきた適宜の蝋(ワックス)で形成するようにすることが好ましい。なお、本発明でいう「咬合床」は、部分床義歯を作製する際の、全部床義歯に用いられる咬合床の一部分に相当するものも包含する。
ここで、図1は、本発明の咬合床形成用組成物を用いた基礎床の作製を模式的に示す図である。本発明の組成物を用いた有床義歯の製造方法については後述するが、印象採得により形成された模型をもとに蝋義歯を作製する際に用いられる。図1(a)には、この印象採得により形成された模型1が模式的に示され、図1(b)には、この模型に本発明の組成物を用いた固体状態のベースプレート2(二重鎖線で示されている)を圧接して、基礎床2を形成する。この基礎床2上に、従来より広く用いられてきた適宜の蝋(ワックス)を用いて、従来と同様の手順で咬合堤を形成して咬合床を形成する。
本発明の咬合床形成用組成物は、30〜80重量%のパラフィンワックスと、5〜40重量%のマイクロクリスタリンワックスと、10〜50重量%のカルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれかと、5〜40重量%のビーズワックスを含むことが好ましい。以下、各成分について説明する。
(1)パラフィンワックス
パラフィンワックスは、本発明の組成物において溶融時の粘性を低下させて脱蝋を容易にする、圧接時に手のべたつきを抑えるという役割を果たすものである。本発明の組成物においてパラフィンワックスの配合比が30重量%未満である場合には、溶融時の粘性が高くなり十分に脱漏できない、また、圧接時にべたついて操作性が著しく悪くなるなど虞があり、また、本発明の組成物においてパラフィンワックスの配合比が90重量%を超える場合には、脆くなり割れるなどしてベースプレートとして使用することが困難となる虞がある。圧接の際の操作性、脱蝋時の流動性の観点からは、本発明の組成物におけるパラフィンワックスの配合比は、40〜70重量%の範囲内であることが好ましく、45〜65重量%の範囲内であることが好ましい。
パラフィンワックスは、市販品を特に制限なく用いることができ、ParafinWax−115(日本精鑞株式会社製)、ParafinWax−120(日本精鑞株式会社製)、ParafinWax−125(日本精鑞株式会社製)、ParafinWax−130(日本精鑞株式会社製)、ParafinWax−135(日本精鑞株式会社製)、ParafinWax−140(日本精鑞株式会社製)、ParafinWax−145(日本精鑞株式会社製)、ParafinWax−150(日本精鑞株式会社製)、ParafinWax−155(日本精鑞株式会社製)、125°パラフィン(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)、130°パラフィン(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)、135°パラフィン(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)、140°パラフィン(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)、145°パラフィン(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)などが好適な例として挙げられる。
(2)マイクロクリスタリンワックス
マイクロクリスタリンワックスは、本発明の組成物において圧接時の柔軟性を与える役割を果たすものである。本発明の組成物においてマイクロクリスタリンワックスの配合比が5重量%未満である場合には、圧接時に十分な柔軟性が得られず、割れたり破れたりする虞があり、また、本発明の組成物においてマイクロクリスタリンワックスの配合比が40重量%を超える場合には、軟らかくなるため、圧接時にべたついて操作性が悪くなる、試適時に蝋義歯が変形しやすくなる虞がある。圧接の操作性、試適の容易性の観点からは、本発明の組成物におけるマイクロクリスタリンワックスの配合比は、5〜30重量%の範囲内であることが好ましく、5〜20重量%の範囲内であることが好ましい。
マイクロクリスタリンワックスは、市販品を特に制限なく用いることができ、155°マイクロワックス(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)、180°マイクロワックス(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)、Hi−Mic−2095(日本精鑞株式会社製)、Hi−Mic−3090(日本精鑞株式会社製)、Hi−Mic−1080(日本精鑞株式会社製)、Hi−Mic−1070(日本精鑞株式会社製)、WAX MW160(東燃ゼネラル石油株式会社製)、WAX MW170(東燃ゼネラル石油株式会社製)、WAX MW180(東燃ゼネラル石油株式会社製)などが好適な例として挙げられる。
(3)カルナバワックス、ダンマルワックス
カルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれかは、本発明の組成物において硬さと強靭性をもたらす役割を果たすものである。本発明の組成物においてカルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれかの配合比が10重量%未満である場合には、試適時に蝋義歯が変形してしまう虞があり、また、本発明の組成物においてカルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれかの配合比が50重量%を超える場合には、硬くて圧接できない虞がある。カルナバワックスおよびダンマルワックスは、いずれか一方のみが本発明の組成物に含まれていてもよいし、カルナバワックスおよびダンマルワックスの両方が本発明の組成物に含まれていてもよい。試適の容易性、圧接時の操作性の観点から、本発明の組成物におけるカルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれかの配合比は、10〜40重量%の範囲内であることが好ましく、15〜30重量%の範囲内であることが好ましい。
カルナバワックス、ダンマルワックスは、市販品を特に制限なく用いることができ、カルナバワックスとしては、カルナバ1号(ヨシオカ製)、カルナバ2号(ヨシオカ製)、カルナバ3号(ヨシオカ製)、カルナバワックス(東亜化成株式会社製)などが好適な例として挙げられ、また、ダンマルワックスとしては、ダンマルゴムA(ヨシオカ製)などが好適な例として挙げられる。
(4)ビーズワックス
ビーズワックスは、本発明の組成物において柔軟性を与え、融点を下げる役割を果たすものである。本発明の組成物においてビーズワックスの配合比が5重量%未満である場合には、融点が高くなり十分に脱蝋できず、また、柔軟性が得られず、割れたり破れたりするなどの虞があり、また、本発明の組成物においてビーズワックスの配合比が40重量%を超える場合には、圧接時にべたついて操作性が悪くなる、また、試適時に蝋義歯が変改してしまう虞がある。圧接時の操作性、試適の容易性の観点からは、本発明の組成物におけるビーズワックスの配合比は、5〜30重量%の範囲内であることが好ましく、10〜20重量%の範囲内であることが好ましい。
ビーズワックスは、市販品を特に制限なく用いることができ、精製未ミツロウガードナーNo.5(三木化学工業株式会社製)、精製未ミツロウガードナーNo.6(三木化学工業株式会社製)、精製未ミツロウガードナーNo.7(三木化学工業株式会社製)、精製未ミツロウガードナーNo.10(三木化学工業株式会社製)などが好適な例として挙げられる。
上述のように本発明の組成物は、それぞれ特定範囲の配合比で(1)パラフィンワックス、(2)マイクロクリスタリンワックス、(3)カルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれか、ならびに、(4)ビーズワックスを含有していることが好ましい。ここで、本発明の組成物が溶融する温度は、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスに対してカルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれかを増やすことにより高くすることができる。また、ビーズワックスを増やすことで、組成物が溶融する温度を低くすることができる。このようにして、上述した範囲内となるように調整することができる。また、本発明の組成物の固体状態の曲げ弾性率は、カルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれかを増やすことにより高くすることができる。また、マイクロクリスタリンワックスやビーズワックスを増やすことで、組成物の固体状態の曲げ弾性率を低くすることができる。このようにして、上述した範囲内となるように調整することができる。
本発明の組成物は、上述した成分に加え、低分子量(分子量:800〜10000程度)のポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(メルトマスフローレート:500〜400g/min)、低分子量(分子量:2000〜30000)のポリプロピレンなどから選ばれる少なくともいずれかをさらに含有していてもよい。このような成分が本発明の組成物に含まれる場合には、本発明の組成物において強靭性に寄与する役割を果たす。中でも、蝋義歯の試適の際の強靭性、ワックス成分との相溶性などの観点から、低分子量ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましく、その場合の配合比は、2〜25重量%の範囲内であることが好ましく、2〜10重量%の範囲内であることがより好ましい。これらは市販品を特に制限なく用いることができ、たとえば低分子量ポリエチレンとしてはハイワックス100P(三井化学株式会社製)、ハイワックス200P(三井化学株式会社製)、ハイワックス400P(三井化学株式会社製)、ハイワックス110P(三井化学株式会社製)、ハイワックス220P(三井化学株式会社製)、ハイワックス210P(三井化学株式会社製)、ハイワックス320P(三井化学株式会社製)、ハイワックス420P(三井化学株式会社製)、ハイワックス410P(三井化学株式会社製)などが好適な例として挙げられ、エチレン・酢酸ビニル共重合体としては、ウルトラセン684(東ソー株式会社製)、ウルトラセン685(東ソー株式会社製)、ウルトラセン725(東ソー株式会社製)、ウルトラセン735(東ソー株式会社製)などが好適な例として挙げられる。
本発明の組成物は、各成分を、ステンレス製溶融釜中で、90〜150℃の温度で加熱溶融させながら均一となるように混合する。各成分の混合の順序に特に制限はないが、パラフィンワックスとマイクロクリスタリンワックスをほぼ溶融させたところに、カルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれかとビーズワックスを加えて溶融させる、という手順で混合することが好ましい。その後、所定の大きさの型枠内で凝固させ、圧延し、室温で固体状態とする。本発明の組成物を基礎床の形成のみに用いる場合には、上述のようにベースプレートとして用い得るように、固体状態でプレート状物とする。この場合、プレート状物の厚みは1.0〜3.5mmの範囲内であることが好ましく、1.0〜2.5mmの範囲内であることがより好ましい。
〔2〕有床義歯の製造方法
図2は、本発明の咬合床形成用組成物を用いた有床義歯の製造方法の好ましい一例を示すフローチャートである。本発明の有床義歯の製造方法は、印象採得により作製された模型に本発明の組成物を固体状態で圧接して咬合床の少なくとも一部を作製し、作製した咬合床に人工歯を設置するステップと、人工歯が設置された咬合床(蝋義歯)の試適を行なうステップと、試適後の蝋義歯を模型と共に歯科用フラスコ内に収容し、歯科用フラスコ内に埋没材を流し込んで埋没させるステップと、歯科用フラスコを開かずに、咬合床を溶融させ、歯科用フラスコから流し出すステップとを少なくとも含む。
まず、義歯を受入れる土台となる患者の顎の状態である床基底面と床周辺部を機能的に形成する手縦で、印象材をトレーに盛り、上顎又は下顎に押圧して形状を取得することにより、上顎用並びに下顎用の概略の印象を得る(印象採得)。この印象採得は従来公知の適宜の手法で、通常歯科医院で行われる。
次に、採取した印象の概略模型に泥状石膏を流し込み、これを硬化させて石膏による上顎用並びに下顎用の模型を作成する。この模型の作製も従来公知の適宜の手法で、通常歯科技工士の手作業により行われる。
次に、図1に示したように、本発明の組成物を用いた固体状態のベースプレートを加温して軟化させて、模型に圧接し、石膏模型を母型に塑性変形させ、上顎用並びに下顎用の基礎床を形成する。この基礎床上に、従来より広く用いられてきた適宜の蝋(ワックス)を用いて、従来と同様の手順で咬合堤を形成して咬合床を形成する。なお、上述のように本発明の組成物を用いて基礎床を含めた咬合床全体を形成するようにしてもよいが、基礎床のみを本発明の組成物で形成することが好ましい。ここで、基礎床のみを本発明の組成物を用いて形成する場合、咬合堤を形成するための蝋(ワックス)としては、たとえばCNパラフィンワックス(株式会社カム・ネッツ製)、パラフィンワックス(山ハ歯科工業株式会社製)、パラフィンワックス(株式会社クエスト製)などが好適な例として挙げられる。作製された咬合床に、人工歯を設置し、蝋義歯を作製する。人工歯としては、従来より広く用いられている樹脂製のレジン歯、陶材からなる陶歯などを用いることができ、特に制限されるものではない。この蝋義歯の作製は、本発明の組成物を用いること以外は、従来公知の適宜の手法で、通常歯科技工士の手作業により行われる。
次に、歯科医院にて、患者の口腔内に蝋義歯を装着し、蝋義歯の歯並び、噛み合わせなどのチェック(試適)を行なう。上述のように、本発明の有床義歯の製造方法では、咬合床の少なくとも一部を本発明の組成物を用いて形成しているため、この試適の際に蝋義歯の変形が起こらない。
次に、試適後の蝋義歯(人工歯が設置された咬合床)を模型と共に歯科用フラスコ内に収容し、埋没材を流し込んで固定する(埋没)。埋没材としては歯科用普通石膏、歯科用硬石膏など、従来より用いられている埋没材を特に制限なく用いることができる。歯科用フラスコも、従来より市販されている適宜の製品を特に制限なく用いることができ、具体的には床射出成形用耐圧フラスコ「ドリームフラスコ」(デンケン・ハイデンタル株式会社製)が好適な例として挙げられる。本発明の有床義歯の製造方法では、無開りん法で行なうため、開りん法のために必要であったアンダーカット処理、分離剤(離型剤)の塗布、2回に分けて埋没などの作業の必要がなく、作業効率が格段に改善され、作業時間も大幅に短縮される。なお、無開りん法で行なうため、歯科用フラスコを開かずに脱蝋を行なうための、溶融した蝋および本発明の組成物の通り道となるスプールワックスを歯科用フラスコの開口部分と蝋義歯を連通するように形成しておく必要がある(上述の特許文献2などを参照)。この埋没の作業も、通常歯科技工士の手作業によって行われる。
石膏などの埋没材を硬化させた後、歯科用フラスコを開かずに咬合床を溶融させ、歯科用フラスコから流し出す(脱蝋)。本発明の有床義歯の製造方法では、上述した本発明の組成物を用いて咬合床の少なくとも一部(好ましくは基礎床)を形成しているため、基礎床ごと、咬合床全体を溶融させ、歯科用フラスコを開かずに流し出すことができる。この脱蝋の作業は、従来公知の適宜の手法で、通常歯科技工士の手作業によって行われる。脱蝋を効率的に行なう観点からは、市販の製品、たとえば加圧脱蝋機「だつろう君」(デンケン・ハイデンタル株式会社製)が好適な例として挙げられる。
その後、咬合床を流し出した後の歯科用フラスコに、加熱重合レジン、熱可塑性レジンなどの有床義歯形成用樹脂などを填入/重合した後、歯科用フラスコから取り出す。その後、歯科用フラスコの割り出し、研磨などの仕上げ作業を経て、有床義歯が製造される。これらの手順、材料は、従来公知と同様であり、特に制限されるものではない。溶融した状態のレジンを歯科用フラスコに流し込んで歯科用フラスコ内で固化させてもよい(射出成形)し、加熱重合レジンのように、原料を歯科用フラスコ内に流し込んだ後、歯科用フラスコ内で重合・硬化させるようにしてもよい。本発明の有床義歯の製造方法では、無開りん法によって行われるため、開りん法の場合に必要なプレスおよびバリ取りの作業など煩雑な操作が不要でありながら、位置精度の高い有床義歯を効率よく製造することができる。
本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
<実施例1>
以下の各成分を、ステンレス製溶融釜中で、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスを溶融させ、これにカルナバワックスまたはダンマルワックス、ビーズワックスを加える、という順で、100〜120℃の温度で加熱溶融させながら均一となるように混合した。
(実施例1の組成物)
・135°パラフィンワックス(ParafinWax−135、日本精鑞株式会社製):48重量%、
・マイクロクリスタリンワックス(WAX MW170、東燃ゼネラル石油株式会社製):15重量%、
・カルナバワックス(カルナバ1号、ヨシオカ製):25重量%、
・ビーズワックス(精製未ミツロウガードナーNo.5、三木化学株式会社製):12重量%。
<実施例2>
以下の各成分を用い、実施例1と同様にして加熱溶融させながら均一となるように混合した。
(実施例2の組成物)
・135°パラフィンワックス(ParafinWax−135、日本精鑞株式会社製):60重量%、
・マイクロクリスタリンワックス(WAX MW170、東燃ゼネラル石油株式会社製):8重量%、
・カルナバワックス(カルナバ1号、ヨシオカ製):12重量%、
・ビーズワックス(精製未ミツロウガードナーNo.5、三木化学株式会社製):15重量%、
・低分子量ポリエチレン(ハイワックス100P、三井化学株式会社製):5重量%。
<実施例3>
以下の各成分を用い、実施例1と同様にして加熱溶融させながら均一となるように混合した。
(実施例3の組成物)
・145°パラフィンワックス(ParafinWax−145、日本精鑞株式会社製):58重量%、
・マイクロクリスタリンワックス(WAX MW170、東燃ゼネラル石油株式会社製):10重量%、
・ダンマルワックス(ダンマルゴムA、ヨシオカ製):14重量%
・ビーズワックス(精製未ミツロウガードナーNo.5、三木化学株式会社製):15重量%、
・エチレン・酢酸ビニル共重合体(ウルトラセン684、東ソー株式会社製):4重量%。
<比較例1>
市販の歯科用パラフィンワックス(CNパラフィンワックス、株式会社カム・ネッツ製)のみを用い(100重量%)、実施例1と同様にして加熱溶融した。
<比較例2>
以下の各成分を用い、実施例1と同様にして加熱溶融させながら均一となるように混合した。
(比較例2の組成物)
・135°パラフィンワックス(ParafinWax−135、日本精鑞株式会社製):42重量%、
・マイクロクリスタリンワックス(WAX MW170、東燃ゼネラル石油株式会社製):7重量%、
・カルナバワックス(カルナバ1号、ヨシオカ製):10重量%、
・ビーズワックス(精製未ミツロウガードナーNo.5、三木化学株式会社製):11重量%、
・低分子量ポリエチレン(ハイワックス100P、三井化学株式会社製):30重量%。
<比較例3>
以下の各成分を用い、実施例1と同様にして加熱溶融させながら均一となるように混合した。
(比較例3の組成物)
・145°パラフィンワックス(ParafinWax−145、日本精鑞株式会社製):55重量%、
・マイクロクリスタリンワックス(WAX MW170、東燃ゼネラル石油株式会社製):15重量%、
・カルナバワックス(カルナバ1号、ヨシオカ製):10重量%、
・ビーズワックス(精製未ミツロウガードナーNo.5、三木化学株式会社製):10重量%、
・シリカ微粉末(アエロジルR972、日本アエロジル株式会社製):10重量%
(性能評価)
実施例1〜3、比較例1〜3の組成物について、以下の性能評価を行なった。
(1)曲げ弾性率
以下の手順で曲げ弾性率を算出した。まず、各組成物を加熱溶融させた状態で幅15mm、厚さ10mm、長さ80mmの溝をもつゴム枠に流し込み、室温まで自然放冷した後、これをゴム枠から取り出して試験片とした。3点曲げ試験により、23±2℃の温度で、支点間距離50mmでクロスヘッドスピード3.0mm/minにて試験片が破壊するまで行ない、応力−ひずみ曲線の初期勾配から曲げ弾性率を算出した。
(2)融点
JIS K 2235:1991に基づき測定した。
(3)模型への圧接性、脱蝋性
各組成物を、室温で固形状態の厚み2.0mmのプレート状物とし、図2に示した手順で、基礎床形成用のベースプレートとして用いた。加温したベースプレートを模型へ圧接した際の塑性変形を官能的に評価した。実施例1〜3、比較例1、3は良好であったものの、比較例2ではひび割れが生じた。また、脱蝋性能を、図2に示した手順で、約95℃で歯科用フラスコを無開りん法により脱蝋した後に歯科用フラスコを開き、蝋の残存量から脱蝋性を評価した(全て歯科用フラスコより流れ出ていた場合を100%とした)。
結果を表1に示す。
Figure 2017036241
1 模型、2 ベースプレート。

Claims (5)

  1. 有床義歯の製造に用いられる咬合床の少なくとも一部を形成するための組成物であって、50〜130℃の範囲内の温度で溶融し、かつ、固体状態における曲げ弾性率が100〜400MPaの範囲内である、咬合床形成用組成物。
  2. 30〜80重量%のパラフィンワックスと、5〜40重量%のマイクロクリスタリンワックスと、10〜50重量%のカルナバワックスおよびダンマルワックスの少なくともいずれかと、5〜40重量%のビーズワックスを含む、請求項1に記載の咬合床形成用組成物。
  3. 咬合床の基礎床を形成するために用いられる、請求項1または2に記載の咬合床形成用組成物。
  4. 印象採得により作製された模型に請求項1または2に記載の組成物を固体状態で圧接して咬合床の少なくとも一部を作製し、作製した咬合床に人工歯を設置するステップと、
    人工歯が設置された咬合床の試適を行なうステップと、
    試適後の人工歯が設置された咬合床を模型と共に歯科用フラスコ内に収容し、歯科用フラスコ内に埋没材を流し込んで埋没させるステップと、
    歯科用フラスコを開かずに、咬合床を溶融させ、歯科用フラスコから流し出すステップとを含む、有床義歯の製造方法。
  5. 前記咬合床を作製するステップにおいて、前記組成物を用いて咬合床の基礎床を作製する、請求項4に記載の義歯の製造方法。
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