従来から、金属粉末を製造する方法として、アトマイズ法がある。このアトマイズ法には、溶融金属の流れに高圧の水ジェットを噴射して金属粉末を得る水アトマイズ法、水ジェットに代えて不活性ガスを噴射するガスアトマイズ法がある。
水アトマイズ法では、ノズルより噴射した水ジェットで溶融金属の流れを分断するとともに、水ジェットで分断された溶融金属(粉末状の金属(金属粉末))の冷却も行ってアトマイズ金属粉末を得ている。一方、ガスアトマイズ法では、ノズルより噴射した不活性ガスにより溶融金属の流れを分断したのち、通常、分断された溶融金属(粉末状の金属)を、アトマイズ装置の下に備えられた水槽、あるいは流水のドラム中に落下させて、粉末状の金属(金属粉末)の冷却を行ってアトマイズ金属粉末を得ている。
近年、省エネルギーの観点から、例えば電気自動車やハイブリッド車に使用されるモーターコアの低鉄損化、小型化が要望されている。従来、モーターコアは、電磁鋼板を積層させて製作されてきたが、最近では、形状設計の自由度が高い金属粉末(電磁鉄粉)を用いて圧縮成形して作製したモーターコア(圧粉磁芯)が注目されている。このようなモーターコアの低鉄損化ためには、使用する素材である金属粉末の低鉄損化が必要となる。低鉄損の金属粉末とするには、金属粉末を非晶質化(アモルファス化)することが有効である。しかし、アトマイズ法で、非晶質化した金属粉末を得るためには、溶融状態を含む高温状態にある金属粉末を超急冷して、結晶化を防ぐ必要がある。
なお、金属粉末を製造するうえでは、水アトマイズ法は、ガスアトマイズ法に比べて、生産性が高く、かつ安価な製造方法であるといわれている。さらに、水アトマイズ法で製造された金属粉末は不定形であり、ガスアトマイズ法で製造された球形な金属粉末に比べて圧縮成形時に粉末同士が絡みやすく、圧縮成形後の強度が高くなるという利点がある。しかし、水アトマイズ法では、高温の溶融金属に水ジェットを噴射させる際に、高温の溶融金属に水が接すると、一瞬のうちに蒸発して溶融状態を含む金属粉末(液滴)の表面に蒸気膜を形成する。この表面に形成された蒸気膜により、液滴と冷却水との直接接触が妨げられ、いわゆる膜沸騰状態となりやすい。そのため、水アトマイズ法では、溶融状態を含む金属粉末の冷却速度を高めることが難しくなるという問題があった。
最近では、例えば、非特許文献1に記載されているように、優れた磁気特性を有するナノ結晶軟磁性合金が開発されている。このナノ結晶軟磁性合金は、急冷して作製された非晶質合金に熱処理を施して、結晶粒を10nm程度までに微細化し、優れた磁気特性を実現できるといわれている。代表的なFe基ナノ結晶軟磁性合金としては、例えば、Fe−Si−B非晶質合金組成にNbとCuを複合添加した、Fe−Cu―Nb−Si−B合金が、また、Fe−M非晶質合金にBを添加した、Fe−M−B合金が知られている。とくに、Fe−M−B合金は、高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を同時に示すといわれている。
また、非特許文献2には、軟磁性ヘテロアモルファス合金が記載されている。これらの合金は、Fe−Si−B系組成にPとCuを添加した合金で、焼入れままで、微細なα−Fe結晶をアモルファス母相中に分散させたナノヘテロ構造を有し、高い飽和磁束密度と優れた軟磁性とを示すとしている。しかし、高い飽和磁束密度を得るためには、Fe比率(FeおよびFeの一部を置換するNi、Coを含む)を高くすることが望ましいが、Fe、Ni、Co量の増加とともに、非晶質化のために必要な冷却速度も大きくなるといわれている。
このようなことから、金属粉末を急冷する方法がいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には、溶融金属を飛散させつつ冷却・固化させ金属粉末を得る際に、固化するまでの冷却速度が105K/s以上とする金属粉末の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、飛散させた溶融金属を、筒状体の内壁面に沿って冷却液を旋回させることにより生じた冷却液流に接触させることにより、上記した冷却速度が得られるとしている。そして、冷却液を旋回させることにより生じた冷却液流の流速は5〜100m/sとすることが好ましいとしている。
また、特許文献2には、急冷凝固金属粉末の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術では、内周面が円筒面である冷却容器の円筒部上端部外周側より、冷却液を周方向より供給し円筒部内周面に沿って旋回させながら流下させ、その旋回による遠心力で、中心部に空洞を有する層状の旋回冷却液層を形成し、その旋回冷却液層の内周面に金属溶湯を供給して急冷凝固させる。これにより、冷却効率がよく、高品質の急冷凝固粉末が得られるとしている。
また、特許文献3には、流下する溶融金属にガスジェットを噴射して溶滴に分断するためのガスジェットノズルと、内周面に旋回しながら流下する冷却液層を有する冷却用筒体とを備える、ガスアトマイズ法による金属粉末の製造装置が記載されている。特許文献3に記載された技術では、溶融金属が、ガスジェットノズルと旋回する冷却液層とにより、二段階に分断され、微細化された急冷凝固金属粉末が得られるとしている。
また、特許文献4には、溶融金属を液状の冷媒中に供給し、冷媒中で溶融金属を覆う蒸気膜を形成し、できた蒸気膜を崩壊させて溶融金属と冷媒とを直接接触させて自然核生成による沸騰を起こさせその圧力波を利用し溶融金属を引きちぎりながら急速に冷却しアモルファス化して、アモルファス金属微粒子とする、アモルファス金属微粒子の製造方法が記載されている。溶融金属を覆う蒸気膜の崩壊は、冷媒へ供給する溶融金属の温度を冷媒に直接接触した場合に界面温度が膜沸騰下限温度以下で自発核生成温度以上の温度とするか、超音波照射するか、により可能であるとしている。
また、特許文献5には、溶融した材料を、液体冷媒の中に液滴又はジェット流として供給する際に、溶融した材料の温度を、液体冷媒と直接接触する際に、液体冷媒の自発核生成温度以上で溶融状態であるように設定し、さらに、液体冷媒の流れに入ったときの溶融した材料の速度と液体冷媒の流れの速度との相対速度差を10m/s以上となるようにして、溶融した材料の周囲に形成された蒸気膜を強制的に崩壊させて自発核生成による沸騰を生じさせ、微粒化すると共に冷却固化する微粒子の製造方法が記載されている。これにより、従来は困難であった材料でも、微粒子化、非晶質化することができるとしている。
また、特許文献6には、母材となる材料に機能性添加材を添加した原料を溶融し、液体冷媒の中に供給することにより、蒸気爆発により微細化するとともに冷却固化する際に冷却速度を制御することにより偏析のない多結晶又は非晶質である均質な機能性微粒子を得る工程と、この機能性微粒子と前記母材の微粒子とを原料として用いて固化して機能部材を得る工程とを具備する機能部材の製造方法が記載されている。
また、特許文献7には、合金の溶湯を細孔から流下して高速液体で吹きつけ、溶湯を粉化するとともに急冷凝固して非晶質合金粉末とするにあたり、溶湯を粉化する箇所の周囲に吸引管を配置し20mmH2O〜200mmH2Oの圧力差で吸引する非晶質合金粉末の製造方法が記載されている。これにより、完全に非晶質化し、しかも不規則形状化した合金粉末を得ることができるとしている。
また、特許文献8には、合金の溶湯を細孔から流下させる工程と、流下した溶湯に高速液体を吹きつけて、溶湯を粉化するとともに急冷凝固する工程と、溶湯を粉化する箇所の周囲に吸引管を配置し20mmH2O〜200mmH2Oの圧力差で吸引する工程と、該吸引管の下方に粉末受け体を配置して、凝固した非晶質粉体を、一旦この粉体受け体に当てる工程と、該粉体受け体に当てた後、非晶質粉体を液体を入れたタンクに落下させる工程とを、具備する非晶質合金粉末の製造方法が記載されている。これにより、この吸引管の減圧作用で高速液体が合金粉末に、より強く作用して、粉末を不規則化するとともに、粉末周囲に形成される蒸気膜を破壊して、粉末の冷却速度が著しく上昇し、粉体の全てが不規則形状で非晶質単相からなり、圧粉成形可能な非晶質合金粉体が得られるとしている。
また、特許文献9には、非晶質合金粉末の製造方法が記載されている。特許文献9に記載された技術では、合金の溶湯を細孔から流下して高速液体を吹きつけ、溶湯を粉化するとともに急冷凝固して非晶質合金粉末とするにあたり、溶湯を粉化する個所の直下に上部を円錐状とした冷却ブロックを配置して粉化後の粒子をこの冷却ブロックに当てるとしている。これにより、粉化した合金粉末の冷却速度を高めるとともに、粉末周囲に発生する蒸気膜を破壊して粉末の冷却速度を著しく上昇できるとしている。
また、特許文献10には、金属粉末製造装置が記載されている。特許文献10に記載された金属粉末製造装置では、溶融金属を供給する供給部と、溶融金属が通過可能な流路と該流路に液体を噴射するオリフィスとを備えた液体噴射部とを備え、液体噴射部の下方に、分散液の進行方向を強制的に変化させる進行方向変更手段を設け、オリフィスから噴射された液体に溶融金属を接触させて、溶融金属を微細な多数の液滴に分裂させ、該液滴を液体が分散した状態の分散液として移送するとともに、分散液中の液滴を冷却固化させてアモルファス金属粉末を製造するとしている。使用する進行方向変更手段としては、第2の液体を噴射するノズルを有し、ノズルから分散液に向けて、第2の液体を噴射して衝突させる手段、あるいは、長手方向の途中が円弧状に湾曲した曲部を有する筒状体とし、分散液の進行方向を曲部の内壁面に沿って強制的に変化させる手段、等が例示され、これにより、粉末の周囲に形成される蒸気層を確実に分離することができ、多数の粉末をむらなく冷却できるとしている。また、特許文献10には、粒径:3μm程度の微細な非晶質金属粉末が製造できることが示されている。しかし、それより粗大な粒径の金属粉末では、非晶質化率が低下している。
しかし、特許文献1〜3に記載された技術では、分断された溶融金属を、冷却液を旋回させて形成した冷却液層中に供給し、金属粒子のまわりに形成された蒸気膜を剥がすとしているが、分断された金属粒子(溶融金属)の温度が高い場合には、冷却液層中では膜沸騰状態になりやすく、しかも冷却液層中に供給された金属粒子(溶融金属)は冷却液層とともに移動するため、金属粒子(溶融金属)と冷却液層との相対速度差が少なく、蒸気膜を剥がして膜沸騰状態を回避することは難しくなり、したがって、非晶質化のために必要な急速な冷却速度を確保できないという問題があった。
また、特許文献4〜6に記載された技術では、連鎖的に膜沸騰状態から核沸騰状態になる蒸気爆発を利用して、溶融金属を覆う蒸気膜を崩壊させて、金属粒子の微細化、さらには非晶質化を図るとしている。蒸気爆発を利用して膜沸騰状態における蒸気膜を取り去ることは、有効な方法であるといえるが、しかし、膜沸騰状態から連鎖的に核沸騰状態にして蒸気爆発を生じさせるためには、少なくともまず最初に金属粒子の表面温度を極小熱流速点以下まで冷却する必要があり、しかも、金属粒子の表面温度が高い場合には、極小熱流速点以下までの冷却が膜沸騰領域での冷却となり、弱冷却となるため、非晶質化のための冷却速度が不足するという問題がある。
特許文献1〜6に記載された技術では、ガスアトマイズ法を利用して金属粉末を製造しているが、ガスアトマイズ後に冷却水による急冷を行うことが非晶質化しやすいといえる。しかし、ガスアトマイズ法では、アトマイズのために大量の不活性ガスを必要とするため、製造コストの高騰を招くという問題がある。したがって、生産性の観点からは水アトマイズ法を利用することが有利である。
一方、水アトマイズ法では、溶融金属流に噴射水(水ジェット)を噴射し、溶融金属流を分断して金属粉末とするが、分断された金属粒子の周囲には、アトマイズに使用した水が存在し、金属粒子表面に蒸気膜を形成しやすくしている。このようなことから、冷却速度が低下し徐冷となり、金属粉末を非晶質状態とするために必要な冷却速度を達成することができなくなる。そのため、水アトマイズ法では蒸気膜の除去が重要な課題となる。
このような問題に対し、特許文献7、8に記載された技術では、溶湯を粉化する箇所の周囲に吸引管を配置して、20mmH2O〜200mmH2Oの圧力差で吸引することにより、金属粒子の不規則化と、金属粒子周囲に形成された蒸気膜を除去できるとしている。しかし、高温の金属粒子のまわりに水分が存在すれば、水分も高温の金属粒子とともに吸引され、保有している熱により水分が気化して再び金属粒子表面に蒸気膜を形成されるため、蒸気膜の除去が難しくなるという問題がある。
また、特許文献9に記載された技術では、粉化後の粒子の温度が高いと、周囲にある冷却水が気化して再び粒子表面に蒸気膜を形成するため、蒸気膜の除去が十分であるとはいえないという問題がある。一方、粉化後の粒子の温度が低すぎると、冷却ブロックに衝突した際に、凝固し結晶化が進行しやすいという問題がある。
また、特許文献10に記載された技術では、進行方向変更手段で強制的に進行方向を変化させられた分散液は、蒸気膜を除去されるが、分散液の温度が高いと、周囲に存在する水分により、再び蒸気膜が形成される可能性がある。一方、分散液の温度が低い場合には、進行方向変更手段からの第2の液体(水)により、凝固が進行して結晶化が進むという問題がある。
このように、上記した従来技術では、水アトマイズ法において、金属粉末表面に形成される蒸気膜の除去が十分であるとは言い難く、したがって、上記した従来技術によっては、高い非晶質化率を有する水アトマイズ金属粉末の製造に必要な冷却速度を安定して確保することが難しいという問題が残されたままであった。
そこで、本発明は、水アトマイズ金属粉末の製造において、表面に形成された蒸気膜を除去して、高い冷却速度を確保し、金属粉末の非晶質化を達成できる、水アトマイズ金属粉末の製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、従来では非晶質化が困難であった、高い飽和磁束密度の軟磁性体粉末として期待できる、Fe原子(Fe原子の一部をNi、Coで置換したものを含む)の比率を高めたFe基非晶質合金において、例えば平均粒径:5μm以上の比較的大きな粒径の金属粉末であっても、高い非晶質化率を有し、熱処理後に高い飽和磁束密度を有する水アトマイズ金属粉末とすることができる、水アトマイズ金属粉末の製造方法を提供することをも目的とする。
なお、ここでいう「高い非晶質化率を有する」「金属粉末」とは、非晶質化率が90%以上である金属粉末をいうものとする。なお、「非晶質化率」は、X線回折法によりアモルファスからのハローピークおよび結晶からの回折ピークを測定し、WPPD法により算出した。ここでいう「WPPD法」とは、Whole-powder-pattern decomposition methodの略である。なお、「WPPD法」については、虎谷秀穂:日本結晶学会誌、vol.30(1988)No.4、P253〜258に詳しい。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、水アトマイズ法における分断された溶融金属の液滴表面に形成される蒸気膜の除去方法について鋭意検討した。その結果、本発明者らは、まず、溶融金属流に水ジェット(噴射水)を吹き付け、溶融金属流を分断する一次冷却に加えてさらに、水冷却(二次冷却)を利用することに思い至った。しかし、強力な二次冷却を施しても、蒸気膜が除去できず、かえって粒子表面が蒸気膜に覆われ、水アトマイズ金属粉末の非晶質化のために必要な冷却速度を確保できない場合や、金属粉末の結晶化が進行する場合などがあることを突き止めた。
そこで、更なる検討の結果、まず、二次冷却を開始する時期が重要であることを見出した。二次冷却の開始時期を、分断された溶融金属の液滴の温度と溶融金属の凝固開始点との関係で図1に示す。
溶融金属流を分断する一次冷却後の二次冷却を、図1(a)に示すように、分断された溶融金属の液滴の温度が、凝固開始点以上でかつその近傍であるときに開始することにより、粒子表面への蒸気膜の付着もなく、金属粉末の非晶質化のために必要な、所望の冷却速度を安定して確保できることを見出した。
この原因については現在までのところ詳細にはわかっていないが、本発明者らは、この温度域で二次冷却が開始されれば、分断された溶融金属液滴はすぐに凝固し、凝固後にも二次冷却が継続されるために、表面に形成された蒸気膜に冷却水からの衝撃力が伝達されやすく、表面に形成された蒸気膜は簡単に破壊、除去されやすくなると推察している。
なお、溶融金属流を分断する一次冷却は、上記した二次冷却の開始温度である溶融金属の凝固開始点より高い温度(液相温度域)で行うことはいうまでもない。
一方、分断された溶融金属の液滴の温度が上記した温度範囲を低く外れた図1(b)に示す温度範囲域にある場合に、二次冷却を開始すると、蒸気膜が除去されないまま凝固が開始され、冷却速度が遅く結晶化が進行して、所望の非晶質化率を達成できにくくなると考えられる。
このようなことから、本発明では、分断された溶融金属の液滴温度が、凝固開始点超えの液相温度域で、好ましくは凝固開始点の極く近傍の温度にある場合に、二次冷却を開始することとした。そしてさらに本発明では、分断された液滴表面に付着した蒸気膜の除去を確実にするため、二次冷却噴射水の噴射方向に対向して二次冷却手段(水冷ノズル)から適当な距離に二次冷却衝突板を配設して、二次冷却を行うことに思い至った。
二次冷却噴射水の噴射方向に対向して二次冷却衝突板を配設することにより、二次冷却噴射水を噴射された溶融金属の液滴は、二次冷却噴射水により冷却され凝固するとともに、噴射方向に飛ばされて二次冷却衝突板に衝突し、液滴表面に付着した蒸気膜を確実に破壊、除去することができることを見出した。
更に、本発明者らは、このような二次冷却衝突板への衝突を含む二次冷却を、分断された溶融金属の液滴に施すことにより、従来、非晶質合金粉末の製造が困難とされていたFe(Feの一部をNi、Coで置換したものも含む)の含有比率の高いFe基非晶質合金においても、高い非晶質率を有する水アトマイズ金属粉末を容易に製造できることを新規に見出した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)流下する溶融金属流に水を噴射し、該溶融金属流を分断して溶融金属の液滴としさらに冷却して水アトマイズ金属粉末とする水アトマイズ金属粉末の製造方法において、分断された前記溶融金属の液滴に、その落下途中の、該溶融金属の液滴の温度が凝固開始点以上の温度となる位置で、水温:4〜20℃、噴射圧:5MPa以上の二次冷却噴射水を噴射する水冷却を開始し、前記溶融金属の液滴を冷却するとともに、前記二次冷却噴射水の噴射方向に対向して配設された二次冷却衝突板に、前記二次冷却噴射水を噴射された前記溶融金属の液滴を衝突させる二次冷却を施すことを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(2)(1)において、前記二次冷却衝突板を、熱伝導率:40W/m2K以上の熱伝導特性を有する金属板とすることを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記二次冷却衝突板は、前期溶融金属の液滴が落下する方向に垂直な面における断面形状が、前記二次冷却噴射水を噴射する二次冷却手段に付設された水冷却ノズルの本数nに応じて、該各水冷却ノズルごとに対応した噴射領域が形成できるように、n個の二次冷却噴射水の噴射領域が区画可能な断面形状を有する衝突板、または前記付設された水冷ノズルの本数nが3本以上である場合には、衝突面が対応する各水冷却ノズルに対向するように配設したn角形の断面形状を有する衝突板であることを特徴とする請求項1または2に記載の水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(4)(3)において、前記二次冷却衝突板は、前記断面形状を、前記水冷却ノズルの本数nが、2本である場合には平板、3本である場合には三ツ矢形状または三角形状、4本である場合には十字形状または四角形状、とする二次冷却衝突板であることを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記二次冷却噴射水を噴射する水冷却は、水冷却ノズルからなる二次冷却手段を複数段、前記溶融金属の液滴の落下方向に切替可能に配設し、該配設された前記複数段の二次冷却手段のうちから、前記溶融金属の液滴の温度が凝固開始点以上の温度となる位置に適合する段の二次冷却手段を選定して行うことを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、落下途中の、前記溶融金属の液滴の温度は、分断前の前記溶融金属流の温度を測定し、得られた分断前の溶融金属流の温度に基づき、伝熱計算により推定した値を用いることを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(7)(1)ないし(6)のいずれかにおいて、前記二次冷却を開始する位置は、分断された前記溶融金属の液滴の温度が凝固開始点以上かつ(凝固開始点+30℃)以下の温度となる位置であることを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(8)(1)ないし(7)のいずれかにおいて、前記溶融金属が、Fe基軟磁性合金組成またはFeの一部をNiおよび/またはCoで置換されたFe基軟磁性合金組成で、前記FeあるいはFe、Ni、Coの合計比率が82.5at%超え86at%未満である合金組成を有することを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(9)(8)に記載された水アトマイズ金属粉末の製造方法で製造された水アトマイズ金属粉末に、さらに400〜500℃の範囲内の温度に加熱する熱処理を施すことを特徴とする水アトマイズ金属粉末の製造方法。
(10)(8)に記載の水アトマイズ金属粉末の製造方法で製造されてなり、平均粒径:5μm以上でかつ非晶質化率が90%以上である水アトマイズFe基軟磁性合金粉末。
(11)(9)に記載の水アトマイズ金属粉末の製造方法で製造されてなり、ナノ結晶構造を有する水アトマイズFe基軟磁性合金粉末。
本発明によれば、簡便な方法で、アモルファス金属粉末の製造に有利な、急速冷却が可能となり、圧粉磁芯の製造に有利な、高い非晶質化率を有する水アトマイズ金属粉末を容易に、しかも安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。
また、本発明によれば、従来では困難であったFe(Feの一部を置換するNi、Coを含む)比率を82.5at%を超えて高めたFe基軟磁性合金粉末においても、高い非晶質化率を達成できるという効果もある。また、本発明で得られた水アトマイズ軟磁性合金粉末にさらに適正な熱処理を施すだけで、高飽和磁束密度のナノ結晶軟磁性材料(粉末)を、得ることもできるという効果もある。
本発明では、まず、原料である金属材料を溶解して、溶融金属とする。原材料として使用する金属材料としては、従来から鉄粉として使用されている純金属、合金、鋳鉄等がいずれも適用できる。例えば、純鉄、低合金鋼、ステンレス鋼などの鉄基合金、Ni、Cr等の非鉄金属、非鉄合金、あるいはアモルファス合金(非晶質合金)が例示できる。
なお、アモルファス合金(非晶質合金)としては、Fe、B、C、P、Si、Cu、Nb、Crを主構成元素とし、さらに、at%で1%以下程度であれば、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Al、Mn、Ag、Zn、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、S、H等の混入が許容される組成の合金が知られている。なお、Feの一部はNi、Coで置換が可能である。本発明では、これらアモルファス合金がいずれも適用できる。
また、Fe基非晶質合金としては、Feを主体とした、例えば、Fe−B合金、Fe−Si−B合金、Fe−Cu−Nb−Si−B合金、Fe−Nb−B合金、Fe−Ni−B合金、Fe−B−P−Cu合金、Fe−B−P−Cu−Cr合金等が例示できる。なお、上記した合金は、上記した元素以外の元素を不純物として含む場合があることは言うまでもない。
また、最近注目され、高い飽和磁束密度が期待できる鉄基軟磁性合金もまた、本発明を適用できる。とくに、Fe比率、あるいはFeの一部をNiおよび/またはCoで置換した場合のFe、Niおよび/またはCoの比率が、82.5at%超え86at%未満である鉄基軟磁性合金も適用できる。
さらに具体的には、Fe−B合金としては、Fe83B17、Fe85B15が、Fe−Si−B合金としては、Fe79Si10B11、Fe77Si11B12が例示できる。また、Fe−B−P−Cu−Cr合金としては、Fe83.1B10P6Cu0.7Cr0.2が例示できる。
また、Fe−B−P−Cu合金としては、組成式Fe(100−X−Y−Z)BXPYCuZの合金組成で、X、Y、Zが、(100−X−Y−Z):82.5at%超え86at%未満、X:4〜13at%、Y:1〜10at%、Z:0.5〜1.5at%を満たし、あるいはさらに前記Feの一部をNi、Coのうちの1種以上の元素で置換してなる合金組成が例示できる。また、組成式FeaBbSicPxCyCuzの合金組成で、a:82.5at%超え86at%未満、b:5〜13at%、c:0〜8at%、x:1〜8at%、y:0超え〜5at%、z:0.4〜1.4%を満たし、あるいはさらに前記Feの一部をNi、Coのうちの1種以上の元素で置換してなる組成も例示できる。なお、本発明では、上記したFe基非晶質合金で、Feの含有量(Feの一部を置換したNi、Coをも含め)の含有量が82.5at%を超えるような組成においても、十分に非晶質化することができる。
なお、使用する金属材料の溶解方法はとくに限定する必要はなく、電気炉、真空溶解炉等の、常用の溶解手段がいずれも適用できる。
溶解された溶融金属は、溶解手段からタンディッシュ等の溶融金属保持容器に移され、水アトマイズ金属粉製造装置内で、水アトマイズ金属粉とされる。本発明で使用する好ましい水アトマイズ金属粉製造装置の一例を図2に示す。
以下、本発明を、図2を利用して説明する。図2(a)は装置全体の構成を示し、図2(b)は水アトマイズ金属粉製造装置14の詳細を示す。
溶融金属1は、タンディッシュ等の溶融金属保持容器3から、溶湯ガイドノズル4を介して、チャンバー9内に、溶融金属流8として流下される。なお、チャンバー9内は、不活性ガスバルブ11を開けて不活性ガス雰囲気としておくこともできる。なお、不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスが例示できる。
流下された溶融金属流8に、ノズルヘッダー5に配設された水冷ノズル6を介し、噴射水(水ジェット)7を噴射して、該溶融金属流8を分断し、多数の微細な溶融金属の液滴8aとする。なお、溶融金属流8と噴射水(水ジェット)7とが接触する位置Aは、溶湯ガイドノズル4から適正な距離離れた位置とすることが、溶融金属流8を熱放射と不活性ガスの冷却作用により凝固開始点近傍まで冷却させるという観点、および噴射水7の飛び水が溶湯ガイドノズル4に接触するのを防ぐという観点から好ましい。
本発明で、一次冷却として、溶融金属流8を分断するために、使用する噴射水(水ジェット)7は、溶融金属流8を分断できる程度の噴射圧を有する噴射水であれば、その噴射圧、水温はとくに限定されないが、分断された溶融金属の液滴を微細な液滴とするためには、噴射圧:10MPa以上とすることが好ましい。噴射圧が高くなるほど、分断される溶融金属の液滴(金属粉末の平均粒径)は微細になる。なお、二次冷却の際に、落下する一次冷却の水が二次冷却の冷却効果に影響を与えないという観点から、一次冷却に使用する水の水温は低めにしておくことが好ましい。
なお、噴射水7に用いられる冷却水は、水アトマイズ金属粉製造装置14の外部に設けられた、冷却水タンク15(断熱構造)に、あらかじめ冷却水を冷却するチラー16などの熱交換器、あるいは加熱装置で適正な水温の冷却水として貯蔵しておくことが好ましい。なお、一般的な冷却水製造機では熱交換器内が凍結するために3〜4℃未満の冷却水を生成することが難しいため、氷製造機によって氷をタンク内に補給する機構を設けてもよい。さらに、冷却水タンク15には、噴射水7に用いられる冷却水を昇圧・送水する高圧ポンプ17、高圧ポンプからノズルヘッダー5に冷却水を供給する配管18が配設されることはいうまでもない。
また、水冷ノズル6は、溶融金属流8を分断することができる水冷ノズルであればよく、その形状はとくに限定されない。なお、水冷ノズル6は、溶融金属8の全周で均一に噴射できるように、同一円周上に複数本、好ましくは4〜16本のノズルを組み合わせて、下向きで好ましくは略円錐状に、所定の分断位置Aに噴射水を集中できるように配設したノズルとして配設することが好ましく、あるいはスリットから水が噴出する円環状ノズルとしてもよい。
本発明では、まず、上記したような位置Aで、流下する溶融金属流8に噴射水7を噴射し、溶融金属流8を分断する。分断された溶融金属の液滴8aは、一次冷却として、噴射された噴射水7により冷却されるとともに、落下水と一緒に落下しながら、冷却される。
本発明では、分断された溶融金属の液滴8aに、落下途中の所定の位置(位置B)で、二次冷却を開始する。二次冷却の開始位置Bは、落下途中の、溶融金属の液滴8aの温度が凝固開始点以上、好ましくは凝固開始点近傍の(凝固開始点+30℃)以下の範囲内の温度とする。
なお、本発明における二次冷却では、二次冷却噴射水を噴射して落下途中の分断された溶融金属の液滴を冷却するとともに、二次冷却噴射水の噴射方向に対向し、水冷却ノズルから適正な位置に二次冷却衝突板50を配設して、この二次冷却衝突板50に、二次冷却噴射水により飛ばされた溶融金属の液滴を衝突させて冷却する。これにより、液滴がさらに冷却されるとともに、液滴表面の蒸気膜を確実に除去できる。
このため、本発明で使用する二次冷却衝突板50は、さらに冷却能を高める目的で、鉄以上の熱伝達率を有する材料、例えば熱伝導率:40W/m2K以上の材料で構成することが好ましい。そのような材料として炭素鋼、銅、アルミニウム等が例示できる。
また、チャンバー9内における二次冷却衝突板50の配設位置は、各水冷ノズルから等間隔となるチャンバー9内の中心位置付近で、液滴にある程度の衝突による衝撃力を付与できる、水冷ノズルから適正距離だけ離れた位置とすることが好ましい。
なお、二次冷却衝突板50の形状は、二次冷却で使用する水冷ノズルの本数に対応して選択することが好ましい。
例えば、水冷ノズルが2本である場合には、図4(a)に示すように、液滴が落下する方向に垂直な面(水平断面)でみて、各水冷ノズル2iに対向する平板タイプとすることが好ましい。また、水冷ノズルが3本である場合には、図4(b)に示すように、各水冷ノズル2iに対向する三ツ矢タイプが、水冷ノズルが4本である場合には、図4(c)に示すように、各水冷ノズル2iに対向する十字タイプが例示できる。図示していないが、三ツ矢タイプに代えて水平断面で三角形となる三角形タイプ、あるいは十字タイプに代えて水平断面で四角形となる四角形タイプとしてもよい。さらに、二次冷却噴射水を噴射する二次冷却手段iの水冷ノズルの本数がn本である場合には、各水冷ノズルによる二次冷却噴射水噴射による液滴の衝突が干渉しないように、水冷却ノズルの本数nに対応して、各水冷ノズルによる二次冷却噴射水の噴射方向に対向して液滴の衝突が可能なように、n個の噴射領域が区画可能な断面形状を有する衝突板としてもよい。なお、本数nが3本以上である場合には、n個の噴射領域が区画可能な断面形状に代えて、n角形の断面形状を有する衝突板としてもよい。この場合、n角形の各面(各辺)が、水冷ノズルに対向した位置となるように衝突板を配設する必要があることはいうまでもない。
また、溶融金属の液滴8aの落下方向で、二次冷却衝突板50の上部5Aには溶融金属の液滴が付着して堆積しないように、頂部は、頂角20°以下の先鋭な形状に加工しておくことが好ましいことは言うまでもない。
本発明では、二次冷却を分断された溶融金属の液滴8aの温度が凝固開始点以上、好ましくはその近傍(好ましくは(凝固開始点+30℃)以下)の範囲にあるときに開始し、さらに二次冷却衝突板に二次冷却噴射水の噴射により液滴8aを衝突させることにより、液滴表面への蒸気膜の付着もなく、金属粉末の非晶質化のために必要な、所望の冷却速度を確保できる。分断された溶融金属の液滴8aの温度が凝固開始点以上好ましくはその近傍(好ましくは(凝固開始点+30℃)以下)の範囲より高い温度である場合に二次冷却を行うと、二次冷却衝突板への液滴の衝突を加えても、蒸気膜が形成されて所望の冷却速度を確保できなくなる。また、分断された溶融金属の液滴8aの温度が凝固開始点以上好ましくはその近傍(好ましくは(凝固開始点+30℃)以下)の範囲より低い場合に二次冷却を行っても、結晶化の進行が速く所望の非晶質化を達成できない。
このようなことから、本発明では、落下途中の、溶融金属の液滴8aの温度を推定し、落下途中の溶融金属の液滴8aの温度が凝固開始点以上好ましくはその近傍(好ましくは(凝固点+30℃)以下)の範囲内の温度となる位置Bを算出し、その位置Bで、落下途中の溶融金属の液滴8aに初めて、水冷却と二次冷却衝突板への衝突からなる二次冷却を開始できるように、落下方向に配設された複数段の二次冷却手段21〜2iのうちから適切な位置の二次冷却手段2jを選定し、その選定した二次冷却手段2j(図2(b)では2段目の二次冷却手段22)で、二次冷却噴射水20を噴射し、二次冷却を開始する。なお、溶融金属の種類に応じては、選定された段より下流側の段の二次冷却手段においても同時に水冷却する場合があることは言うまでもない。
そのため、本発明の実施にあたっては、使用する水アトマイズ金属粉製造装置14には、溶融金属の液滴8aの落下方向に、複数段、好ましくは3〜10段、の二次冷却手段21〜2iを配設しておく。なお、各段の二次冷却手段21〜2iは、水冷却ノズルを1本あるいは、落下する溶融金属の液滴8aを全周から均一に冷却できるように、溶融金属流中心の延長線を中心とした同一円周上に複数本配設された二次冷却手段とすることが好ましい。なお、落下途中の液滴8aに、同じ温度で二次冷却を開始できるように、二次冷却手段21〜2iに付設した水冷ノズルは、噴射される二次冷却噴射水20の上面が水平面とほぼ平行となるように、水冷ノズルの形式に応じて噴射方向を調整して配設することが好ましい。図2では、二次冷却手段21〜2iである水冷ノズルを水平より下向きの噴射方向(好ましくは5〜30°)となるように配設している。
なお、各段の二次冷却手段は、各段ごと、あるいは複数段同時に作動できるように、切替可能に配設されることはいうまでもない。また、使用する水冷却ノズルの形式は、とくに限定する必要はなく、常用の水冷却ノズルがいずれも適用できる。なお、二次冷却手段21〜2iには、冷却のONOFF制御、冷却水量を調節可能とする二次冷却制御バルブ21a〜2iaがそれぞれ付設されていることはいうまでもない。
落下途中の、溶融金属の液滴8aの温度は、実測するのは困難であるが、近接ファイバー温度計のセンサー前を通過したときのピーク値を測定するか、あるいは輝度の変化を測定することで推定することも可能であるが、精度が低いため、つぎのようなステップ(図3参照)を経て推定することが好ましい。
まず、流下する溶融金属流の温度を、分断前の所定位置の位置に配設した温度計40で測温する。温度計40としては熱電対、近接ファイバー温度計、赤外線放射温度計等が例示できる。なお、流下する溶融金属流8の温度は、実測することが好ましいが、ステップ00〜01を経て算出した、温度計配設位置(測温位置)での温度(推定)を用いてもよい。
ステップ1(STEP1)では、流下する溶融金属流の温度変化を計算する。測定された溶融金属温度を初期条件として、円筒座標系を用いた非定常熱伝導計算を実施し、一次冷却噴射水噴射位置における流下する溶融金属流の温度を求める。なお、境界条件は、熱放射を考慮した自然対流熱伝達(熱伝達率30W/m2K)とする。放射率は0.9程度を使用することが好ましい。計算時間は、温度計40による測温位置から一次冷却噴射水噴射位置までの距離を溶融金属流の流下速度で除した値を用いた。
なお、流下する溶融金属流の温度が測温できない場合には、図3には図示しないが、ステップ00(STEP00)およびステップ01(STEP01)を行って、算出された温度計配設位置での溶融金属流8の温度(計算値)を、測温した溶融金属流の温度に代えて、ステップ1(STEP1)を実行してもよい。
ステップ00(STEP00)は、タンディッシュ(溶融金属保持容器)3内の溶融金属の温度を初期条件として、円筒座標系を用いた非定常熱伝導計算を実施し、溶湯ガイドノズル4の出口における溶融金属流温度を求める。境界条件は、溶湯ガイドノズル4との接触熱伝導とし、熱放射は考慮しないものとする。計算時間は、溶湯ガイドノズル4内の通過時間である。ついで、ステップ01(STEP01)は、算出された溶湯ガイドノズル4の出口における溶融金属流の温度(平均)を初期条件とし、円筒座標系を用いた非定常熱伝導計算を実施し、温度計配設位置における流下する溶融金属流8の温度を求める。なお、境界条件等は、ステップ1と同じとする。
ついで、ステップ2(STEP2)を実施する。ステップ2では、一次冷却により分断された溶融金属の液滴の温度変化を計算する。ステップ1で算出した一次冷却噴射水噴射位置における流下する溶融金属流の温度(平均)を液滴の平均温度として初期条件とし、一次冷却噴射水の噴射により分断された溶融金属の液滴について、球座標系を用いた非定常熱伝導計算を実施する。境界条件は、水アトマイズ(一次冷却噴射水の噴射による溶融金属流の分断)よる強制熱伝達とし、膜沸騰状態での熱伝達(熱伝達率100〜500W/m2K)とする。なお、熱放射は考慮する。計算時間は、一次冷却の開始(一次冷却噴射水噴射)から終了までの距離を、液滴落下速度で除して求める。なお、液滴落下速度は、冷却水の落下速度と同一とする。
ついで、ステップ3(STEP3)を実施する。ステップ3では、分断された液滴の、二次冷却開始位置までの落下による温度変化を計算する。ステップ2で算出した一次冷却終了時の液滴の温度を初期条件として、球座標系を用いた非定常熱伝導計算を実施する。境界条件は、溶滴が一次冷却水と一緒に落下している状態であるため、落下水による熱伝達とし、膜沸騰条件での熱伝達とする。なお、熱放射も考慮する。計算時間は一次冷却終了位置から二次冷却開始位置までの距離を溶滴落下速度で除して求める。
なお、ステップ4(STEP4)では、二次冷却による液滴の温度変化を計算する。ステップ4(STEP4)では、ステップ3で算出された二次冷却開始位置での温度(平均)を初期条件として、球座標系を用いた非定常熱伝導計算を実施する。境界条件は、二次冷却水噴射による強制対流熱伝達とし、凝固した後は液滴(金属粒子)の温度はMHF点(極小熱流束点)以下とし、膜沸騰状態から核沸騰状態へと沸騰状態の変化に対応して計算する。膜沸騰状態での熱伝達率は約500W/m2K程度、核沸騰状態では約10000W/m2K程度とすることが好ましい。なお、熱放射も考慮する。計算時間は、二次冷却開始位置から終了位置での距離を溶滴落下速度で除した値を用いる。
本発明では、上記したステップ3で、一次冷却終了位置から二次冷却開始位置までの距離を変更して、二次冷却開始位置での液滴の温度を計算し、算出された液滴の温度が、凝固開始点以上、好ましくはその近傍(好ましくは(凝固開始点+30℃)以下)の範囲の温度となる位置を求めて、二次冷却開始位置とする。
本発明では、液滴の落下方向に配設された、複数段の二次冷却手段のうちから、ステップ1からステップ3を経て、算出された二次冷却開始位置に適合する位置に配設された段の二次冷却手段を選定し、その二次冷却手段を用いて、二次冷却を開始する。
なお、本発明における円筒座標系を用いた非定常熱伝導計算では、次(1)式
(ここで、T:温度、t:時間、r:半径、α:熱拡散率)
で示される偏微分方程式から、時刻t:P〜P+1に変化する間に、半径i=n番目の層の熱収支バランスから、つぎの前進差分式を導出して、温度Tを計算する。
{π(nΔr+Δr/2)2−π(nΔr−Δr/2)2}×ρCp×(Tn P+1 −Tn P)/Δt
=2π(nΔr−Δr/2)・λ・(Ti−1 P −Ti P)/Δr−2π(nΔr+Δr/2)・λ・{Ti P −Ti+1 P}/Δr
(ここで、λ/ρCpは熱拡散率(m2/s)、下付き添え字nは空間アドレス、上付き添え字Pは時間ステップを表す。)
また、球座標系を用いた非定常熱伝導計算では、次(2)式
(ここで、T:温度、t:時間、r:半径、α:熱拡散率)
で示される偏微分方程式から、以下の前進差分式を導出して、温度Tを計算する。
(Tn P+1 −Tn P)/Δr
=α{1/n×(Tn+1 P+1 −Tn-1 P)/(Δr)2+(Tn+1 P+1 +Tn-1 P−2Tn P)/(Δr)2}
(ここで、α(=λ/ρCp):熱拡散率(m2/s)、下付き添え字nは空間アドレス、上付き添え字Pは時間ステップを表す。)
本発明における二次冷却では、二次冷却噴射水は、水温:4〜20℃、噴射圧:5MPa以上の水を使用して水冷却ノズル(二次冷却手段)を介して二次冷却噴射水を噴射する水冷却する。
二次冷却では、二次冷却噴射水20を噴射し、さらに液滴8aを二次冷却衝突板に衝突させ、溶融金属の液滴を冷却するとともに、液滴を覆う蒸気膜を除去する。そのため、二次冷却の噴射圧は高いほど好ましく、5MPa以上とする。なお、好ましくは、15MPa以上である。二次冷却の噴射圧が、5MPa未満では、蒸気膜を十分に除去することができない。二次冷却の噴射圧は高ければ高いほど有利となるが、実用上は100MPa以下とすることが好ましい。また、二次冷却に使用する冷却水の水温は、冷却促進、蒸気膜除去の観点から20℃以下とする。水温が20℃を超えて高温になると、蒸気膜が発生しやすく、冷却能が低下する原因となる。なお、二次冷却噴射水の水温は4℃以上とする。水温が4℃未満では安定して必要量の水を供給することが難しくなるためである。
二次冷却噴射水20に用いられる冷却水は、噴射水7に用いられる冷却水と同様に、水アトマイズ金属粉製造装置14の外部に設けられた、冷却水タンク15(断熱構造)に、あらかじめ貯蔵された水とすることが好ましい。冷却水タンク15には、噴射水7に用いられる冷却水とは別系統で、二次冷却噴射水20に用いられる水を昇圧・送水する二次冷却用高圧ポンプ37、二次冷却用高圧ポンプ37から水冷ノズルである二次冷却手段21〜2iに冷却水を供給する冷却水配管38が配設されることはいうまでもない。なお、配管の途中に、サージタンク等を設けて、突発的に高圧水の噴射を行いやすくしてもよい。
なお、二次冷却に使用する冷却水は、図2には図示していないが、液滴の温度調整の関係から、一次冷却水とは別系統の冷却水タンク、温度調節器等を備えて調整された冷却水を使用することが好ましい。
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
図2に示す水アトマイズ金属粉製造装置14を用いて金属粉末を製造した。なお、図2(b)に示す水アトマイズ金属粉製造装置14では、チャンバー9内に、液滴の落下方向に複数段の二次冷却手段21〜2iを配設し、さらに、二次冷却手段が配設された領域に液滴の落下方向に沿って、二次冷却手段21〜2i(水冷ノズル)の噴射方向に対向した二次冷却衝突板50を配設した。なお、二次冷却にあたっては、図4(a)〜(c)に示す、平板タイプ、三ツ矢タイプ、十字タイプの3種の断面形状の二次冷却衝突板50を、表1に示すように、二次冷却手段2iの水冷ノズル本数(2〜4本)に応じて選択して使用した。使用した二次冷却衝突板50の上部5Aは、いずれも20°の頂角に形成した。また、使用した二次冷却衝突板50は、表1に示すように、炭素鋼板(常温熱伝送率:53W/m2K)、ステンレス鋼板(常温熱伝送率:16W/m2K)、銅板(常温熱伝送率:419W/m2K)、アルミニウム板(常温熱伝送率:204W/m2K)の4種から選択して、所定断面形状に加工した。
まず、at%で、82.8%Fe−11%B−5%P−1.2%CuのFe−B−P−Cu合金(Fe82.8B11P5Cu1.2)組成、at%で、84.8%Fe−10%B−4%P−1.2%CuのFe−B−P−Cu合金(Fe84.8B10P4Cu1.2)組成、およびat%で、69.8%Fe−15%Co−10%B−4%P−1.2%CuのFe−B−P−Cu合金(Fe69.8 Co15B10P4Cu1.2)組成となるように、それぞれ原料を配合(一部、不純物を含むことは避けられない)し、溶解炉2で約1650℃で溶解し、溶融金属1を各約50kgfを得た。得られた溶融金属1を溶解炉2中で1600℃まで徐冷したのち、タンディッシュ3に注入した。なお、チャンバー9内は、あらかじめ不活性ガスバルブ11を開けて窒素ガス雰囲気としておいた。
また、溶融金属をタンディッシュ3に注入する前に、高圧ポンプ17を稼動して、冷却水タンク15(容量:10m3)から冷却水をノズルヘッダー5に供給し、水冷却ノズル6から噴射水7が噴射された状態としておいた。なお、溶融金属流分断(一次冷却)用の噴射水7が溶融金属流8と接触する位置Aは、溶湯ガイドノズル4から25mmの位置に設定した。
また、予め設定した分断前の所定位置での溶融金属流の温度から、図3で示すように、熱放射、熱伝達を考慮した各ステップを経る計算により、分断され落下途中の溶融金属の液滴8aの温度(推定)が、凝固開始点以上(好ましくは(凝固開始点+30℃)以下)の範囲となる位置Bを算出した。そして算出された位置Bで、複数段配設された二次冷却手段のうちから、二次冷却噴射水20を噴射できる二次冷却手段2jを選定し、その二次冷却制御バルブ2jaを開放し、二次冷却手段2jの水冷ノズルから、二次冷却噴射水20を噴射状態にしておいた。
なお、一次冷却の噴射水の噴射圧は約20MPa、温度(水温)は約20℃、水量は1200L/minとした。一方、二次冷却噴射水の噴射の条件は、表1に示す噴射圧、水温で、水量を300L/min(一定)とした。
そして、タンディッシュ3に注入された溶融金属1を、溶湯ガイドノズル4からチャンバー9内に、溶融金属流8として流下し、噴射水7で分断し、多数の微細な溶融金属の液滴8aを生成した。さらに二次冷却として、分断された液滴8aに、その落下途中の上記した位置B(二次冷却開始温度範囲で示す)で、二次冷却噴射水20を噴射し、液滴8aを冷却するとともに、二次冷却衝撃板に衝突させる冷却を開始して水アトマイズ金属粉末とし、回収口13から回収した。
なお、溶融金属流8を分断する位置の直前で、予め設定した位置に配設された温度計40で溶融金属流8の温度を計測した。上記した温度計40で溶融金属流8の温度を監視し、設定した溶融金属流温度との差が生じたときは、適宜、二次冷却の開始位置Bを複数段の二次冷却手段のうちから適合する位置の二次冷却手段に切り替えて、二次冷却を行った。
なお、一部では、二次冷却を開始する位置Bを、溶融金属の液滴8aの温度が(凝固開始点)未満である位置とする二次冷却を行った。また、一部では、二次冷却衝突板を使用しない以外は同じ条件で本発明範囲の二次冷却を行った例も比較例として実施し、二次冷却衝突板の効果を確認した。また、一部では、溶融金属流の分断(一次冷却)のみで二次冷却を実施しなかった。
得られた金属粉末について、金属粉末以外のゴミを除去したのち、レーザー式粒度分布計を用いて平均粒径(D50)を測定した。
また、得られた金属粉末について、金属粉末以外のゴミを除去したのち、X線回折法により、アモルファスからのハローピーク、および結晶からの回折ピークを測定し、WPPD法により、非晶質化率を算出した。非晶質化率が90%以上である場合を「○」、それ以外を「×」として評価した。
また、得られた金属粉末に、さらに、表2に示す条件で熱処理を施し、熱処理後、振動試料型磁力計VSMを用いて、飽和磁束密度Bsを測定した。なお、Bsが1.7T以上である場合を高い飽和磁束密度を有するとして「○」、それ以外は「×」と判定した。そして、非晶質化率が90%以上でかつBsが1.7T以上ある場合を「○」、非晶質化率が90%以上で、Bsが1.7Tを超えなかった場合を「△」、非晶質化率が90%未満の場合を「×」と、評価した。
得られた結果を表2に示す。
本発明例はいずれも、非晶質化率が93%以上を示し、また、熱処理後の飽和磁束密度Bsが1.7T以上であり、平均粒径が20μm以上と粗粒であっても、優れた磁気特性を有している。なお、二次冷却噴射水の条件が本発明の範囲を外れるか、二次冷却衝突板が本発明の好適範囲を外れる場合(比較例)には、非晶質化率は90%以上であるが、熱処理後の飽和磁束密度Bsが1.7Tを少し下回っている。一方、二次冷却を行わないか、二次冷却を行っても二次冷却開始温度が本発明を低く外れる比較例は、非晶質化率が90%未満であり、所望の非晶質化を達成できていないため、熱処理後の飽和磁束密度Bsも低い値しか示していない。なお、二次冷却衝突板を使用することにより、非晶質化率が90%以上の高い非晶質化率を有する金属粉末を安定して製造できることがわかる。