しかしながら、これらの処理では、原料肉に物理的ダメージが加わりやすい。原料肉に物理的ダメージが加わると、塩溶性蛋白が溶出しやすくなるため、肉本来の食感が失われるおそれがある。
そこで、本発明は、原料肉に物理的ダメージが加わりにくい調味肉の製造方法、並びに、該製造方法により製造された調味肉を使用した食肉製品の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、以下の発明を提供する。
(1)冷凍状態の原料肉断片を調味液中で解凍する工程を含む、調味肉の製造方法。
(2)冷凍状態の原料肉を切断して前記原料肉断片を調製する工程を含む、(1)に記載の製造方法。
(3)前記原料肉断片を前記調味液中に浸漬し、前記原料肉断片を解凍する、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)前記浸漬の開始直前における前記調味液の液温が0℃以上である、(3)に記載の製造方法。
(5)前記浸漬の開始直前における前記原料肉断片の肉温が−10℃〜−3℃であって、前記浸漬の開始直前における前記調味液の液温が2℃〜15℃である、(3)に記載の製造方法。
(6)前記浸漬の開始直前における前記調味液のブリックス値が8以上である、(3)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法により調味肉を製造する工程、及び、前記調味肉を食肉製品に加工する工程を含む、食肉製品の製造方法。
本発明によれば、原料肉に物理的ダメージが加わりにくい調味肉の製造方法、並びに、該製造方法により製造された調味肉を使用した食肉製品の製造方法が提供される。
発明の具体的説明
調味肉の製造方法
本発明に係る調味肉の製造方法は、冷凍状態の原料肉断片を調味液中で解凍する工程(以下「解凍工程」という場合がある。)を含む。
「冷凍状態」は、原料肉断片の肉温が0℃未満であることを意味し、「解凍する」とは、冷凍状態の原料肉断片の肉温(0℃未満の肉温)を0℃以上に上昇させることを意味する。「原料肉断片の肉温が所定温度(例えば、0℃未満、0℃以上)である」とは、原料肉断片の中心温度及び表面温度がともに所定温度であることを意味する。原料肉の肉温についても同様である。原料肉断片又は原料肉の中心温度及び表面温度は、市販の中心温度計(例えば、SATO製 SK−250WPII−R)及び表面温度計(例えば、CHINO製 Water−proof IP−67)を使用して測定することができる。
「原料肉断片」は、原料肉を所望の形状及び大きさに切断して得られる切断片である。原料肉断片の形態としては、例えば、原料肉をスライスして得られるスライス片、原料肉を細砕して得られる挽肉等が挙げられる。
原料肉断片がスライス片である場合、スライス片の厚さ(スライス厚)は特に限定されない。本発明に係る調味肉の製造方法は、冷凍状態の原料肉断片が調味液中で解凍される際、調味液が原料肉断片に浸透する現象を利用するので、冷凍状態の原料肉断片を解凍するのに要する時間が短いほど、原料肉断片へ調味液を浸透させるのに要する時間が短い。この点、スライス片の厚さが小さいほど、冷凍状態の原料肉断片を解凍するのに要する時間が短く、原料肉断片へ調味液を浸透させるのに要する時間が短い。したがって、原料肉断片へ調味液を浸透させるのに要する時間を短くする点から、スライス片の厚さは、15mm以下であることが好ましく、7.5mm以下であることがさらに好ましい。スライス片の厚さの下限値は特に限定されない。スライス片の厚さの下限値は、通常、スライサーの限界値である。スライス片の断面の面積は特に限定されない。
原料肉は、特に限定されず、食肉製品の原料肉として一般的に使用されるものの中から適宜選択することができる。原料肉としては、例えば、牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉、合鴨肉、馬肉等の畜肉が挙げられる。原料肉の形態としては、例えば、肉塊等が挙げられる。なお、「肉塊」とは、食品衛生法で定義される通り、食肉(内臓を除く。)の単一の塊を意味する。原料肉としては、例えば、と畜後24時間以内に0℃以下に冷却され、かつ、冷却後0℃以下で保存された肉等が挙げられる。原料肉の水分量は、原料肉の種類に応じて異なるが、牛肉(例えば、かた、かたロース、リブロース、サーロイン、もも、そともも、ランプ、ヒレ等)の水分量は通常54〜74%、豚肉(例えば、かた、かたロース、ロース、もも、そともも、ヒレ等)の水分量は通常70〜75%、鶏肉(例えば、むね、もも、ささみ等)の水分量は通常72〜77%である。
原料肉から原料肉断片を製造する前に、原料肉に対して、例えば、テンダライズ(食肉の原型を保ったまま、針状の刃を用いて筋及び繊維を短く切断する処理)、結着処理(肉塊又は挽肉を金属製容器にきつく詰め、凍結して形を整える処理)等の処理を実施してもよい。
冷凍状態の原料肉断片は、冷凍状態の原料肉を切断することにより調製することが好ましい。すなわち、本発明に係る調味肉の製造方法は、冷凍状態の原料肉を切断して、冷凍状態の原料肉断片を調製する工程を含むことが好ましい。
肉温が0℃以上である原料肉を切断して、肉温が0℃以上の原料肉断片を製造した後、これを冷凍することにより、冷凍状態の原料肉断片を調製することもできるが、冷凍状態の原料肉を切断して冷凍状態の原料肉断片を製造する場合の方が、冷凍状態の原料肉断片が調味液中で解凍される際、原料肉断片に調味液が浸透しやすいと考えられる。すなわち、冷凍状態の原料肉を切断する際に生じた、原料肉断片の裂け目(隙間)に起因して、原料肉断片に調味液が浸透しやすくなると考えられる。なお、原料肉断片の裂け目(隙間)は、切断の際の力によって生じるだけでなく、原料肉断片が原料肉の残部から切り離されるときに、原料肉断片が湾曲することによっても生じる。原料肉断片のサイズ(例えば、原料肉断片がスライス片である場合、スライス片の厚さ、スライス片の断面の面積、スライス片の断面における幅と高さの比率等)は、このような湾曲が生じるように調整することが好ましい。
調味液に含有される成分は、特に限定されず、食肉製品の調味成分として一般的に使用されるものの中から適宜選択することができる。調味液に含有される成分としては、水、塩類(例えば、塩化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等)、糖類(例えば、砂糖、ブドウ糖、デキストリン、トレハロース)、たん白類(例えば、大豆たん白、乳たん白、卵たん白)、加工澱粉、野菜エキス、動物エキス、香辛料、酒類、アミノ酸、ビタミン類、増粘多糖類等が挙げられる。
調味液のブリックス値は、特に限定されない。調味液のブリックス値が8以上であると、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)が、調味液のブリックス値が8未満である場合と比較して顕著に増加する。したがって、調味液のブリックス値は、好ましくは8以上である。調味液のブリックス値の上限値は特に限定されないが、好ましくは30、さらに好ましくは20である。
ブリックス(Brix)値は、調味液中に含まれる可溶性固形分の総濃度を表す指標であり、20℃で測定された当該溶液の屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表を使用して、純ショ糖溶液の質量/質量%に換算した値である。ブリックス値の測定は、市販のブリックス計(例えば、AS ONE製IN−1α)を使用して行うことができる。
解凍工程は、例えば、冷凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬することにより行うことができる。浸漬の開始直前における原料肉断片の温度は0℃未満である。浸漬の開始直前における調味液の温度は、冷凍状態の原料肉断片を解凍可能である限り特に限定されないが、0℃以上であることが好ましい。「調味液の液温が所定温度(例えば、0℃以上)である」とは、調味液を撹拌しながら調味液の液温を測定した場合、調味液の温度が所定温度であることを意味する。調味液の液温は、市販の温度計(例えば、SATO製 SK−250WPII−R)を使用して測定することができる。例えば、浸漬の開始直前における原料肉断片の温度が−10℃〜−3℃である場合、浸漬の開始直前における調味液の液温を2℃〜15℃とすることができる。これにより、調味液が原料肉断片の表面で凍結して原料肉断片の表面に付着することを防止することができる。調味液が凍結した状態で原料肉断片の表面に付着すると、原料肉断片の内部への調味液の浸透が妨げられるので、調味液が凍結した状態で原料肉断片の表面に付着しないことは、原料肉断片の内部へ調味液を浸透させる上で重要である。
浸漬を行う際、浸漬の間を通じて、調味液を0℃未満に強制的に冷却しないことが好ましい。これにより、冷凍状態の原料肉断片が解凍されるまでの時間、ひいては、原料肉断片へ調味液を浸透させるのに要する時間を短くすることができる。調味液を0℃未満に強制的に冷却しない場合としては、例えば、浸漬を、常温及び常圧の雰囲気下で行う(原料肉断片を浸漬させた調味液を常温及び常圧の雰囲気下で放置する)場合、調味液の温度が0℃以上に維持されるように調味液を強制的に加熱又は冷却する場合等が挙げられる。
浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値と、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値との和(原料肉断片の肉温の絶対値+調味液の液温の絶対値)が大きくなるほど、原料肉断片への調味液の浸透速度が増加する。したがって、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値が大きいほど(すなわち、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温が低いほど)、原料肉断片への調味液の浸透速度が増加する。かかる点から、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温は、例えば、−3℃以下、−5℃以下、−10℃以下、−15℃以下又は−20℃以下であることが好ましい。同様に、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値が大きいほど(すなわち、浸漬の開始直前における調味液の液温が高いほど)、原料肉断片への調味液の浸透速度が増加する。かかる点から、浸漬の開始直前における調味液の液温は、例えば、2℃以上、5℃以上、10℃以上又は15℃以上であることが好ましい。
浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値と、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値との差(原料肉断片の肉温の絶対値−調味液の液温の絶対値)が大きくなるほど、調味液が原料肉断片の表面で凍結して原料肉断片の表面に付着しやすくなる。例えば、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温が−15℃以下である場合、浸漬の開始直前における調味液の液温が5℃未満であると、調味液が原料肉断片の表面で凍結して原料肉断片の表面に付着しやすくなる。調味液が凍結した状態で原料肉断片の表面に付着すると、原料肉断片の内部への調味液の浸透が妨げられるので、調味液が凍結した状態で原料肉断片の表面に付着することを防止することが好ましい。かかる点から、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値と、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値との差(原料肉断片の肉温の絶対値−調味液の液温の絶対値)は小さいこと(例えば、10以下、8以下、5以下又は3以下であること)が好ましい。例えば、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温が−15℃以下である場合、浸漬の開始直前における調味液の液温は5℃以上であることが好ましい。なお、浸漬の開始直前における原料肉断片の肉温の絶対値と、浸漬の開始直前における調味液の液温の絶対値との差(原料肉断片の肉温の絶対値−調味液の液温の絶対値)は、マイナスの値であってもよい。
原料肉断片を調味液に浸漬する際、調味液の量は、原料肉断片の全体が調味液中に浸漬する量に調整することが好ましい。浸漬時間は、冷凍状態の原料肉断片が調味液中で解凍される限り特に限定されない。浸漬時間は、浸漬後の原料肉断片の重量/浸漬前の原料肉断片の重量×100で定義される原料肉断片の重量増加率が110%以上となるように調整することが好ましい。原料肉断片を調味液に浸透させる際、調味液にエアレーション、振動等を付与して、原料肉断片への調味液の浸透を助長してもよい。
冷凍状態の原料肉断片を調味液中で解凍することにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加する。したがって、解凍状態の原料肉断片を調味液中に浸漬する場合と比較して、短時間で多量の調味料を原料肉断片に浸透させることができる。冷凍状態の原料肉断片を調味液中で解凍することにより、原料肉断片に調味液が浸透してなる調味肉が製造される。
本発明に係る調味肉の製造方法は、解凍工程の後に、調味肉を冷凍する冷凍工程を含むことができる。冷凍工程は、例えば、調味肉を急速フリーザーで−15℃以下に冷凍することにより実施することができる。
本発明に係る調味肉の製造方法は、解凍工程の後に、調味肉を包装する包装工程を含むことができる。包装形態としては、例えば、真空包装、含気包装、窒素ガス封入包装等が挙げられる。本発明に係る食肉製品の製造方法が冷凍工程及び包装工程を含む場合、包装工程は、冷凍工程の後に実施してもよいし、冷凍工程の前に実施してもよい。
食肉製品の製造方法
本発明に係る食肉製品の製造方法は、本発明に係る調味肉の製造方法により調味肉を製造する工程、及び、製造された調味液を食肉製品に加工する工程を含む。
食肉製品としては、例えば、食品衛生法で規定される「乾燥食肉製品」、「非加熱食肉製品」、「特定加熱食肉製品」、「加熱食肉製品」等が挙げられる。「乾燥食肉製品」は、乾燥させた食肉製品であって、乾燥食肉製品として販売するものをいう。「非加熱食肉製品」は、食肉を塩漬けした後、くん煙し、又は乾燥させ、かつ、その中心部の温度を63℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法による加熱殺菌を行っていない食肉製品であって、非加熱食肉製品として販売するもの(但し、乾燥食肉製品を除く。)をいう。「特定加熱食肉製品」は、その中心部の温度を63℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法以外の方法による加熱殺菌を行った食肉製品(但し、乾燥食肉製品及び非加熱食肉製品を除く。)をいう。「加熱食肉製品」は、乾燥食肉製品、非加熱食肉製品及び特定加熱食肉製品以外の食肉製品、すなわち、食品衛生法で規定された方法(その中心部の温度を63℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法)による加熱殺菌を行った食肉製品をいう。
食肉製品としては、例えば、サラミソーセージ、ビーフジャーキー、ラックスハム(生ハム)、ボンレスハム、プレスハム、ロースハム、ベーコン、ソーセージ、ロースト工程を経た食肉製品等が挙げられる。なお、サラミソーセージ及びビーフジャーキーは乾燥食肉製品に該当し、ラックスハム(生ハム)は非加熱食肉製品に該当し、ボンレスハム、プレスハム、ベーコン、ロースハム及びソーセージは加熱食肉製品に該当する。ロースト工程を経た食肉製品は、使用される加熱殺菌方法に応じて、特定加熱食肉製品又は加熱食肉製品に該当する。ロースト工程を経た食肉製品としては、例えば、ローストビーフ、ローストポーク、ローストラム、ロースト合鴨、ステーキ等が挙げられる。
調味肉を食肉製品に加工する工程は、食肉製品の種類に応じて、適宜実施することができる。本発明に係る食肉製品の製造方法は、本発明に係る調味肉の製造方法を使用して調味肉を製造する点を除き、公知の食肉製品の製造方法と同様に実施することができる。
例えば、食肉製品がロースト工程を経た食肉製品である場合、調味肉を食肉製品に加工する工程は、調味肉をローストする工程を含むことができる。ローストは、例えば、あぶり焼き、蒸し焼き等によって実施することができる。
例えば、食肉製品が特定加熱食肉製品又は加熱食肉製品である場合、調味肉を食肉製品に加工する工程は、調味肉を加熱殺菌する工程を含むことができる。加熱殺菌条件(例えば、加熱温度、加熱時間等)は、食肉製品の種類に応じて適宜調整することができる。例えば、食肉製品が特定加熱食肉製品である場合、55℃で97分、56℃で64分、57℃で43分、58℃で28分、59℃で19分、60℃で12分、61℃で9分、62℃で6分又は63℃で瞬時加熱する方法、あるいは、これと同等以上の効力を有する方法を使用することができる。また、食肉製品が加熱食肉製品である場合、63℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法を使用することができる。なお、ここでの温度は、いずれも、加熱殺菌工程に供される中間製品の中心部の温度である。
本発明に係る食肉製品の製造方法は、包装工程を含むことができる。包装形態としては、例えば、真空包装、含気包装、窒素ガス封入包装等が挙げられる。包装工程は、加熱殺菌工程の後に実施してもよいし、加熱殺菌工程の前に実施してもよい。
以下の実施例及び比較例において、調味液A〜Fを使用した。
調味液A〜Fの組成は、表1に示す通りである。なお、調味液Fの組成は、リン酸塩及び炭酸ナトリウムを水に置き換えた点を除き、調味液Aと同様である。
調味液の調製には、以下の成分を使用した。
・砂糖:大日本明治製糖株式会社製 精製上白糖ST20
・塩:ダイヤソルト株式会社製 特級塩B25kg
・リン酸塩:株式会社第一化成製 リンサンエンNo.35
・グルタミン酸ナトリウム:味の素株式会社製 味の素RC
・大豆たん白:ウィルマージャパン株式会社製 ウィルプロP20
・乳たん白:株式会社第一化成製 ウイニングα
・炭酸ナトリウム:ソーダアッシュジャパン株式会社製 ソーダ灰炭酸ナトリウム99.0%
・澱粉:松谷化学工業株式会社製 SAKURA1000
・液糖:三重化糧株式会社製 ハイフラクトFM70
・色素(コチニール色素):ヤエガキ発酵技研株式会社製 スターレッドWS−K
調味液A〜Fのブリックス値を、市販のブリックス計(AS ONE製IN−1α)を使用して測定した。調味液A〜Fのブリックス値(Brix)は、表2に示す通りである。
〔実施例1及び比較例1〕
7cm×5cmの断面になるように、まな板及び包丁を使用して整形した豚ロース(常温)を原料肉として使用した。
原料肉の肉温を所定温度(実施例1では−3℃、比較例1では5℃)に調整した。
原料肉の肉温の調整は、−25℃に設定された冷凍庫と、2℃に設定された冷蔵庫とを交互に使用しながら行った。原料肉の中心温度及び表面温度を測定し、原料肉の中心温度及び表面温度がともに所定温度に調整されたことを確認した。この際、中心温度計として、SATO製 SK−250WPII−Rを使用し、表面温度計として、CHINO製 Water−proof IP−67を使用した。中心温度及び表面温度がともに所定温度に調整された原料肉を、肉温が所定温度に調整された原料肉として使用した。
所定温度に調整された原料肉を5mm厚にてスライスして原料肉のスライス片を調製し、スライス直後のスライス片の重量を測定した。
スライス片が十分に浸漬される量(2kg)の調味液A(常温)を直径33cmのボウルに加え、ボウル中の調味液Aの液温を2℃に調整した。
調味液Aの液温の調整は、−25℃に設定された冷凍庫と、2℃に設定された冷蔵庫とを交互に使用しながら行った。調味液Aを撹拌しながら、中心温度計(SATO製 SK−250WPII−R)を使用して調味液Aの液温を測定し、調味液の液温が所定温度に調整されたことを確認した。
スライス直後のスライス片、すなわち、肉温が−5℃(実施例1)又は5℃(比較例1)であるスライス片を、液温が2℃である調味液Aに加え、浸漬を開始した。
なお、浸漬は、実験室の雰囲気下(すなわち、常温及び常圧の雰囲気下)で行い、浸漬の間を通じて、調味液Aに対する強制的な冷却及び加熱を行わなかった。したがって、調味液Aの液温は、実験室の雰囲気の影響を受けて徐々に上昇する。
スライス片を調味液Aに所定時間浸漬させた後、スライス片を調味液Aから取り出し、浸漬後のスライス片の重量を測定した。また、浸漬後のスライス片において、調味液Aがスライス片の表面で凍結してスライス片の表面に付着しているか否かを目視により確認した。なお、目視による確認が可能となるように、表1に示すように、調味液Aには色素が添加されている。調味液B〜Fも同様である。
浸漬前及び浸漬後のスライス片の重量に基づいて、スライス片の重量増加率(浸漬後のスライス片の重量/浸漬前のスライス片の重量×100)を求めた。
結果を表3に示す。なお、表3におけるスライス片の重量増加率は、10個のスライス片の平均値(すなわち、浸漬後の10個のスライス片の合計重量/浸漬前の10個のスライス片の合計重量×100)である。他の表におけるスライス片の重量増加率も同様である。
実施例1と比較例1とを比較すると、同じ浸漬時間において達成されるスライス片の重量増加率は、比較例1よりも実施例1の方が顕著に大きい。すなわち、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)は、比較例1よりも実施例1の方が顕著に大きい。
実施例1と比較例1とを比較すると、スライス片の重量増加率の最大値は、比較例1よりも実施例1の方が顕著に大きい。すなわち、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量は、比較例1よりも実施例1の方が顕著に大きい。特に、実施例1で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を上回るが、比較例1で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を大きく下回る。
このような実施例1と比較例1との顕著な差は、浸漬開始直前のスライス片の肉温の差に起因すると考えられる。すなわち、実施例1では、浸漬開始直前のスライス片が冷凍状態であるので、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに対して、比較例1では、浸漬開始直前のスライス片が既に解凍された状態にあるので、実施例1で生じる解凍は生じない。このことが、実施例1と比較例1との顕著な差を生じさせると考えられる。
実施例1と比較例1との比較から、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することが判明した。
なお、実施例1及び比較例1では、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着しなかった。調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着すると、スライス片の内部への調味液の浸透が妨げられるので、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着しないことは、スライス片の内部へ調味液を浸透させる上で重要である。
〔実施例2及び比較例2〕
調味液Aに代えて調味液Cを使用した点を除き、実施例1及び比較例1と同様の試験を行った。
結果を表4に示す。
実施例2と比較例2とを比較すると、同じ浸漬時間において達成されるスライス片の重量増加率は、比較例2よりも実施例2の方が顕著に大きい。すなわち、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)は、比較例2よりも実施例2の方が顕著に大きい。
実施例2と比較例2とを比較すると、スライス片の重量増加率の最大値は、比較例2よりも実施例2の方が顕著に大きい。すなわち、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量は、比較例2よりも実施例2の方が顕著に大きい。特に、実施例2で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を上回るが、比較例2で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を大きく下回る。
実施例2と比較例2との比較から、調味液のブリックス値が15である場合と同様、調味液のブリックス値が8である場合も、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することが判明した。
なお、実施例2及び比較例2では、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着しなかった。
〔実施例3及び比較例3〕
スライス片のスライス厚を7.5mmに変更した点を除き、実施例1及び比較例1と同様の試験を行った。
結果を表5に示す。
実施例3と比較例3とを比較すると、同じ浸漬時間において達成されるスライス片の重量増加率は、比較例3よりも実施例3の方が顕著に大きい。すなわち、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)は、比較例3よりも実施例3の方が顕著に大きい。
実施例3と比較例3とを比較すると、スライス片の重量増加率の最大値は、比較例3よりも実施例3の方が顕著に大きい。すなわち、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量は、比較例3よりも実施例3の方が顕著に大きい。特に、実施例3で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を上回るが、比較例3で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を大きく下回る。
実施例3と比較例3との比較から、スライス片の厚さが5mmである場合と同様、スライス片の厚さが7.5mmである場合も、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することが判明した。
スライス片の厚さは、実施例1(5mm)よりも実施例3(7.5mm)の方が大きいため、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間は、実施例1よりも実施例3の方が長い。一方、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間は、実施例1(30秒)よりも実施例3(180秒)の方が長い。このように、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間と、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間とが相関することは、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることに起因して、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することを裏付ける。
なお、実施例3及び比較例3では、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着しなかった。
〔実施例4及び比較例4〕
スライス片のスライス厚を7.5mmに変更した点を除き、実施例2及び比較例2と同様の試験を行った。
結果を表6に示す。
実施例4と比較例4とを比較すると、同じ浸漬時間において達成されるスライス片の重量増加率は、比較例4よりも実施例4の方が顕著に大きい。すなわち、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)は、比較例4よりも実施例4の方が顕著に大きい。
実施例4と比較例4とを比較すると、スライス片の重量増加率の最大値は、比較例4よりも実施例4の方が顕著に大きい。すなわち、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量は、比較例4よりも実施例4の方が顕著に大きい。特に、実施例4で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を上回るが、比較例4で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を大きく下回る。
実施例4と比較例4との比較から、スライス片の厚さが5mmである場合と同様、スライス片の厚さが7.5mmである場合も、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することが判明した。
スライス片の厚さは、実施例2(5mm)よりも実施例4(7.5mm)の方が大きいため、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間は、実施例2よりも実施例4の方が長い。一方、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間は、実施例2(60秒)よりも実施例4(180秒)の方が長い。このように、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間と、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間とが相関することは、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることに起因して、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することを裏付ける。
なお、実施例4及び比較例4では、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着しなかった。
〔実施例5及び比較例5〕
スライス片のスライス厚を10mmに変更した点を除き、実施例1及び比較例1と同様の試験を行った。
結果を表7に示す。
実施例5と比較例5とを比較すると、同じ浸漬時間において達成されるスライス片の重量増加率は、比較例5よりも実施例5の方が顕著に大きい。すなわち、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)は、比較例5よりも実施例5の方が顕著に大きい。
実施例5と比較例5とを比較すると、スライス片の重量増加率の最大値は、比較例5よりも実施例5の方が顕著に大きい。すなわち、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量は、比較例5よりも実施例5の方が顕著に大きい。特に、実施例5で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を上回るが、比較例5で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を大きく下回る。
実施例5と比較例5との比較から、スライス片の厚さが5mmである場合と同様、スライス片の厚さが10mmである場合も、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することが判明した。
スライス片の厚さは、実施例1(5mm)及び実施例3(7.5mm)よりも実施例5(10mm)の方が大きいため、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間は、実施例1及び実施例3よりも実施例5の方が長い。一方、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間は、実施例1(30秒)及び実施例3(180秒)よりも実施例5(300秒)の方が長い。このように、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間と、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間とが相関することは、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることに起因して、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することを裏付ける。
なお、実施例5及び比較例5では、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着しなかった。
〔実施例6及び比較例6〕
スライス片のスライス厚を10mmに変更した点を除き、実施例2及び比較例2と同様の試験を行った。
結果を表8に示す。
実施例6と比較例6とを比較すると、同じ浸漬時間において達成されるスライス片の重量増加率は、比較例6よりも実施例6の方が顕著に大きい。すなわち、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)は、比較例6よりも実施例6の方が顕著に大きい。
実施例6と比較例6とを比較すると、スライス片の重量増加率の最大値は、比較例6よりも実施例6の方が顕著に大きい。すなわち、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量は、比較例6よりも実施例6の方が顕著に大きい。特に、実施例6で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を上回るが、比較例6で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を大きく下回る。
実施例6と比較例6との比較から、スライス片の厚さが5mmである場合と同様、スライス片の厚さが10mmである場合も、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することが判明した。
スライス片の厚さは、実施例2(5mm)及び実施例4(7.5mm)よりも実施例6(10mm)の方が大きいため、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間は、実施例2及び実施例4よりも実施例6の方が長い。一方、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間は、実施例2(60秒)及び実施例4(180秒)よりも実施例6(300秒)の方が長い。このように、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間と、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間とが相関することは、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることに起因して、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することを裏付ける。
なお、実施例6及び比較例6では、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着しなかった。
〔実施例7及び比較例7〕
スライス片のスライス厚を15mmに変更した点を除き、実施例1及び比較例1と同様の試験を行った。
結果を表9に示す。
実施例7と比較例7とを比較すると、同じ浸漬時間において達成されるスライス片の重量増加率は、比較例7よりも実施例7の方が顕著に大きい。すなわち、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)は、比較例7よりも実施例7の方が顕著に大きい。
実施例7と比較例7とを比較すると、スライス片の重量増加率の最大値は、比較例7よりも実施例7の方が顕著に大きい。すなわち、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量は、比較例7よりも実施例7の方が顕著に大きい。特に、実施例7で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を上回るが、比較例7で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を大きく下回る。
実施例7と比較例7との比較から、スライス片の厚さが5mmである場合と同様、スライス片の厚さが15mmである場合も、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することが判明した。
スライス片の厚さは、実施例1(5mm)、実施例3(7.5mm)及び実施例5(10mm)よりも実施例7(15mm)の方が大きいため、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間は、実施例1、実施例3及び実施例5よりも実施例7の方が長い。一方、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間は、実施例1(30秒)、実施例3(180秒)及び実施例5(300秒)よりも実施例7(600秒)の方が長い。このように、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間と、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間とが相関することは、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることに起因して、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することを裏付ける。
なお、実施例7及び比較例7では、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着しなかった。
〔実施例8及び比較例8〕
スライス片のスライス厚を15mmに変更した点を除き、実施例2及び比較例2と同様の試験を行った。
結果を表10に示す。
実施例8と比較例8とを比較すると、同じ浸漬時間において達成されるスライス片の重量増加率は、比較例8よりも実施例8の方が顕著に大きい。すなわち、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)は、比較例8よりも実施例8の方が顕著に大きい。
実施例8と比較例8とを比較すると、スライス片の重量増加率の最大値は、比較例8よりも実施例8の方が顕著に大きい。すなわち、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量は、比較例8よりも実施例8の方が顕著に大きい。特に、実施例8で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を上回るが、比較例8で達成されるスライス片の重量増加率の最大値は110%を大きく下回る。
実施例8と比較例8との比較から、スライス片の厚さが5mmである場合と同様、スライス片の厚さが15mmである場合も、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することが判明した。
スライス片の厚さは、実施例2(5mm)、実施例4(7.5mm)及び実施例6(10mm)よりも実施例8(15mm)の方が大きいため、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間は、実施例2、実施例4及び実施例6よりも実施例8の方が長い。一方、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間は、実施例2(60秒)、実施例4(180秒)及び実施例6(300秒)よりも実施例8(600秒)の方が長い。このように、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されるのに要する浸漬時間と、110%以上のスライス片の重量増加率が達成される浸漬時間とが相関することは、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることに起因して、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することを裏付ける。
なお、実施例8及び比較例8では、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着しなかった。
〔実施例9〜14及び比較例9〜12〕
肉温が−10℃、−5℃、−3℃、5℃又は0℃であるスライス片(スライス厚5mm)を、液温が2℃である調味液A又はCに加え、60秒間浸漬した点を除き、実施例1と同様の試験を行った。
結果を表11に示す。
表11に示すように、スライス片の肉温が−3℃である場合と同様、スライス片の肉温が−3℃を下回る場合も、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加する。
表11に示すように、スライス片の重量増加率は、スライス片の肉温が5℃である場合と0℃である場合とでほとんど差がない。このことは、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることに起因して、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加することを裏付ける。
〔実施例15〜24〕
肉温が−10℃、−15℃又は−20℃であるスライス片(スライス厚5mm)を、液温が2℃、5℃、10℃又は15℃である調味液A又はCに加えて、60秒間浸漬した点を除き、実施例1と同様の試験を行った。
結果を表12に示す。
表12に示すように、スライス片の肉温が−3℃、調味液の液温が2℃である場合と同様、スライス片の肉温が−3℃を下回り、調味液の液温が2℃を上回る場合も、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加する。
表12に示すように、浸漬開始直前のスライス片の肉温の絶対値と、浸漬開始直前の調味液の液温の絶対値との和が大きくなるほど、スライス片の重量増加率が増加する。
表12に示されるように、肉温が−15℃以下であるスライス片を、液温が2℃である調味液Aに加えて、60秒間浸漬した場合、調味液Aが凍結した状態で浸漬後のスライス片の表面に付着した。したがって、スライス片の肉温が−15℃以下である場合、スライス片を浸漬する直前の調味液Aの液温を、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着することを防止できる温度(例えば、5℃以上)に調整することが好ましい。
〔実施例25〜29〕
調味液Aに代えて、調味液B(ブリックス値7)、調味液C(ブリックス値8)、調味液D(ブリックス値9)、調味液E(ブリックス値10)又は調味液F(ブリックス値12)を使用した点を除き、実施例1と同様の試験を行った。
結果を表13に示す。
表13に示すように、調味液のブリックス値の増加に伴って、スライス片の重量増加率が増加する。特に、調味液のブリックス値が7から8に増加すると、スライス片の重量増加率が顕著に増加する。このことは、調味液のブリックス値が8以上になると、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)が顕著に増加することを意味する。したがって、調味液のブリックス値は8以上が好ましい。
表13に示すように、調味液Aを使用した場合(実施例1)と、調味液Fを使用した場合(実施例29)との間で、スライス片の重量増加率に顕著な差はない。調味液Fの組成は、リン酸塩及び炭酸ナトリウム、すなわち、アルカリ性成分を水に置き換えた点を除き、調味液Aと同様であるので、スライス片の重量増加率は、調味液中のアルカリ性成分の有無による影響を受けにくいと考えられる。
〔実施30〜39〕
肉温が−3℃であるスライス片(スライス厚5mm)を、液温が−3℃、0℃、3℃、6℃又は10℃である調味液A又はCに加えて、60秒間浸漬した点を除き、実施例1と同様の試験を行った。
結果を表14に示す。
表14に示すように、スライス片を浸漬する直前の調味液の液温が0℃以上である場合、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着することなく、110%以上というスライス片の重量増加率が達成される。
表14に示すように、スライス片を浸漬する直前の調味液の液温が−3℃である場合、調味液が凍結した状態でスライス片の表面に付着した。したがって、スライス片を浸漬する直前の調味液の液温は0℃以上であることが好ましい。
〔実施例40〜41〕
7cm×5cmの断面になるように、まな板及び包丁を使用して整形した牛モモ肉(実施例40及び実施例42)又は鶏ムネ肉(実施例41及び実施例43)を原料肉として使用した点を除き、実施例1又は実施例2と同様の試験を行った。
結果を表15に示す。
表15に示すように、原料肉の種類を代えても同様に、冷凍状態のスライス片が調味液中で解凍されることにより、単位時間あたりにスライス片へ浸透する調味液の浸透量(すなわち、調味液の浸透速度)と、スライス片へ浸透する調味液の最大浸透量の両方が顕著に増加する。