JP2017026916A - 静電荷像現像用トナー - Google Patents

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Abstract

【課題】低温定着性が良好であり、定着分離性、ドキュメント保存性、高速定着性に優れ、かつ帯電量の環境依存性が小さい静電荷像現像用トナーを提供する。【解決手段】本発明によれば、主成分としてのビニル樹脂および結晶性樹脂を含む結着樹脂と、離型剤と、を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、前記トナー母体粒子の断面に、前記結晶性樹脂と前記離型剤とが接触してなる構造体と、前記離型剤とは接触していないラメラ状結晶構造を有する前記結晶性樹脂と、を含む、静電荷像現像用トナーが提供される。【選択図】図3

Description

本発明は、静電荷像現像用トナーに関する。
近年、複写機のカラー化・高速化が進む中で、電子写真業界では、低コスト、高画質で環境に優しい静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)が要求されている。この要求を満たすために、従来の粉砕型トナーからケミカルトナーへの転換が進んでいる。ケミカルトナーの製造方法としては種々のものが検討され、そのいくつかの方法で製品が上市されている。しかしながら、トナーを搭載する複写機、プリンターの更なる低コスト化が求められると共に、高画質を得るためのトナー特性への要求がより高くなってきている。
また、プリンターや複写機は近年アナログからデジタルへの移行が進み、高解像度であると同時に、プリント速度の向上および使用する消費電力の低減が強く求められている。その対策として、トナーの定着温度の低温化への要望は大きい。従来、トナーの低温定着化については多くの検討がなされており、その代表的な検討として、結晶性樹脂を用いたものが挙げられる。
例えば、結晶性樹脂を含有したトナーにおいて、結晶性樹脂が離型剤に接触した構造を有する構造体と、結晶性樹脂に接触していない状態の単独の離型剤と、離型剤に接触していない状態の単独の結晶性樹脂とをトナー中に存在させる技術が提案されている(特許文献1)。また、ラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂を、トナー表層(トナー母体粒子表面)に存在させる技術が提案されている(特許文献2)。さらに、糸状の結晶構造を有する結晶性樹脂を含むトナーにおいて、その糸状の結晶構造のドメイン径を制御する技術が提案されている(特許文献3)。
特開2008−33057号公報 特開2006−106727号公報 特開2013−257415号公報
上記特許文献1〜3に記載の技術のように、トナーに含有させる結晶性樹脂の結晶構造やドメイン径を制御することで、低温定着性を改善することができる。しかし、特許文献1に記載のトナーでは、上記構造体に起因して離型剤が画像表面へ浸み出しにくくなるため、定着分離性が十分ではない。また、特許文献2に記載のトナーでは、ラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂がトナー表面に存在するために、上記と同様に離型剤の浸み出しが抑制され、良好な定着分離性が得られない。さらにまた、特許文献3に記載のトナーでは、糸状の結晶構造を有する結晶性樹脂が小さなドメイン径を有するために、結着樹脂を構成する非晶性樹脂と過剰に相溶してしまい、結着樹脂の可塑化を生じる。よって、ドキュメント保存性の低下が問題となる。
このように、上記特許文献1〜3によって提案されているトナーでは、低温定着性を維持しつつも、定着分離性およびドキュメント保存性等が両立できないという問題があった。さらに、近年では、高機能のトナーが求められている背景から、定着可能な速度(プロセススピード)を速くすることができ(高速定着性)、かつ、高画質化の要求に対応するため、帯電量の環境依存性を向上させることができる技術もまた求められている。
そこで本発明は、低温定着性が良好であり、定着分離性、ドキュメント保存性、高速定着性に優れ、かつ帯電量の環境依存性が小さい静電荷像現像用トナーを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、主成分としてビニル樹脂を含むトナー母体粒子の断面に、結晶性樹脂と離型剤とが接触している構造体と、離型剤とは接触していないラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂とを含む、静電荷像現像用トナーにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明によれば、低温定着性が良好であり、定着分離性、ドキュメント保存性、高速定着性に優れ、かつ帯電量の環境依存性が小さい静電荷像現像用トナーが提供される。
図1は、本発明の一実施形態によるトナー母体粒子の断面をルテニウム染色した後、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて二次電子像にて観察した写真である。 図2は、ラメラ状結晶構造を形成している結晶性ポリエステル樹脂の一例である、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の分子構造を示す模式図である。 図3は、本発明の一実施形態によるトナー母体粒子の断面をルテニウム染色した後、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて二次電子像にて観察した際の模式図である。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
本発明の一形態は、主成分としてのビニル樹脂および結晶性樹脂を含む結着樹脂と、離型剤と、を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、前記トナー母体粒子の断面に、前記結晶性樹脂と前記離型剤とが接触してなる構造体(以下、単に「構造体」とも称する)と、前記離型剤とは接触していないラメラ状結晶構造(以下、単に「ラメラ状結晶構造」とも称する)を有する前記結晶性樹脂と、を含む、静電荷像現像用トナーである。
ここで、「ラメラ状結晶構造」とは、図1に示されるような、結晶性樹脂の分子鎖の折り畳みによる結晶化で生じた層状構造を意味するものである。なお、当該構造に係る詳細な説明は後述する。なお、本明細書中、「静電荷像現像用トナー」を単に「トナー」とも称する場合がある。
上記構成を有するトナーは、定着分離性、ドキュメント保存性、高速定着性に優れ、かつ帯電量の環境依存性が小さい(帯電性に優れる)という優れた効果を発揮する。
上記の従来技術のように、トナー母体粒子を構成する結晶性樹脂について、その結晶構造やドメイン径を制御することにより、低温定着性の向上が可能となる。しかし、本発明者らは、上記従来技術を以ってしても、定着分離性、ドキュメント保存性、高速定着性および帯電性といった特性を、すべてバランスよく向上させることができないという問題点を見出した。かような問題点に対し、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明に係る構成を有するトナーが、低温定着性のみならず、定着分離性等の上記特性を向上させることができることを見出した。本発明のトナーにより上記の効果が得られる理由について、その発現機構や作用機構は明確にはなっていないが、以下のように推察している。
本発明に係るトナーは、離型剤と結晶性樹脂とが接触してなる構造体を含んでいる。つまり、当該構造体では、結晶性樹脂と離型剤とが結晶構造を有し、これらが接触した形で存在している。よって、結晶性樹脂と離型剤とが、互いにトナー母体粒子を構成する他の樹脂(具体的には、ビニル樹脂)との過剰な相溶を抑制していると考えられる。また、ラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂は、加熱定着のためにごく短い時間で加熱された際、完全に溶融するのではなく、層状構造を保って溶融する。したがって、ラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂は、例えば、微小な糸状で分散されている(微分散されている)結晶性樹脂と比較して、加熱定着時にビニル樹脂と相溶する速度を遅くすることが可能となる。したがって、加熱定着時に結晶性樹脂とビニル樹脂との過剰な相溶を抑制することができる結果、トナーの可塑化に起因するドキュメント保存性の低下を効果的に抑制することができると推測される。
また、本発明に係るトナーは、上記の通り、離型剤と結晶性樹脂とが接触してなる構造体を含んでいるため、離型剤と結晶性樹脂との相互作用により、離型剤の画像表面への浸み出しが抑制される傾向にある。そして、かような離型剤の浸み出しの抑制は、定着分離性を低下させる傾向にある。これに対し、本発明に係るトナーは、離型剤に接触しておらず、かつラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂をさらに含んでいる。そうすると、加熱定着時、当該ラメラ状結晶構造が変形しやすい(潰されやすい)という特性を利用して、トナー母体粒子の変形が促進される。その結果、加熱定着時、トナー母体粒子が瞬時に潰れ、その変形に伴って離型剤が強制的に画像表面へ浸み出すため、定着分離性もまた優れたトナーを得ることができる。
さらに本発明に係るトナーは、上記のようなラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂を含んでいるため、加熱定着が行われる際、トナーに熱が加えられた瞬間に、ラメラ状結晶構造が溶融前の形状(層状構造)を保ったまま溶融し、その後、定着ニップで瞬時に潰れることが可能となる。よって、プロセススピードの向上効果が発揮され、高速定着性もまた向上させることができる。
さらにまた、本発明に係るトナーは、トナー母体粒子を構成する非晶性樹脂として、ビニル樹脂を主成分として含む。よって、トナー母体粒子中、結晶性樹脂とビニル樹脂との相分離が進みやすくなる。構造体は結晶性樹脂の結晶構造の形成を抑制してしまう作用を有するものの、トナー母体粒子中にビニル樹脂を含むことにより、結晶性樹脂は、結晶構造を形成しやすくなる。その結果、結晶性樹脂は、上記のような低温定着性等の特性に寄与することができる。加えて、トナー母体粒子がビニル樹脂を主成分として含むことで、帯電量の環境依存性を低減することができる。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。帯電性の環境依存性は、結着樹脂中に含まれる酸素原子の割合に依存し、酸素原子が多いと親水性が高まり、トナーの帯電性が低下すると考えられる。よって、酸素原子の割合が多いポリエステル樹脂等が非晶性樹脂として含まれる場合と比較して、ビニル樹脂は水分の影響を受けにくいため、環境が変化した際にも帯電量の変化が小さくなると推測される。帯電量の環境依存性が小さいと、異なる環境で画像を出力した場合にも、画質が変化しにくいという効果が得られるため、近年要求が高まっている高画質化への対応が可能となる。
なお、上記メカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら制限されるものではない。
以下、本発明の静電荷像現像用トナーを詳細に説明する。なお、本発明に係る「トナー」は、上述したように「トナー母体粒子」を含有する。「トナー母体粒子」は、外添剤の添加によって「トナー粒子」と称される。そして、「トナー」とは、「トナー粒子」の集合体のことをいう。
[トナー母体粒子]
本発明に係るトナー母体粒子は、主成分としてのビニル樹脂および結晶性樹脂を含む結着樹脂を含有するものである。また、トナー母体粒子は、離型剤を含み、その他必要に応じて、着色剤、磁性粉、荷電制御剤などの他のトナー構成成分を含有してもよい。
<結着樹脂(ビニル樹脂および結晶性樹脂)>
本発明に係るトナー母体粒子は、主成分としてのビニル樹脂および結晶性樹脂を含む結着樹脂を含む。
≪ビニル樹脂≫
ビニル樹脂とは、少なくともビニル単量体を用いた重合により得られる樹脂である。ビニル樹脂として、具体的には、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合体樹脂などが挙げられる。
なかでも、ビニル樹脂としては、スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いて形成されるスチレンアクリル共重合体樹脂が好ましい。なお、ビニル樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
本発明のトナーにおいては、ビニル樹脂がトナーに含まれる結着樹脂の主成分であることを特徴の一つとする。ここで、主成分とは、トナーが含有する結着樹脂の中で最も含有割合が高い樹脂であることを意味する。ビニル樹脂が主成分であることで、特に結晶性樹脂が結晶性ポリエステル樹脂の場合、ビニル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが互いに相溶しにくくなり、結晶性ポリエステル樹脂が結晶構造を保ったまま存在しやすくなる。特にビニル樹脂が主成分であると、ラメラ状結晶構造が存在しやすくなる。これにより、低温定着性が良好で、定着分離性や高速定着性に優れたトナーの提供が可能となる。また、ビニル樹脂が主成分であると帯電量の環境依存性が小さい、すなわち、帯電性の良好なトナーを提供することが可能となる。
ビニル樹脂は、上記のように、トナーが含有する結着樹脂の中で最も含有割合が高い樹脂であるが、その含有量はトナー中の結着樹脂全体に対して、50〜99質量%であることが好ましく、50〜97質量%であることがより好ましく、60〜95質量%であることがさらに好ましく、70〜95質量%であることがさらに好ましく、75〜95質量%であることが特に好ましい。ビニル樹脂の含有量が50質量%以上であると、結晶性樹脂との相溶抑制、および帯電性向上の効果が大きくなり、60質量%以上、70質量%以上、さらには75質量%以上であると、さらにその効果が大きくなる傾向がある。また、ビニル樹脂が多くなるにつれ、トナー母体粒子中、ビニル樹脂が連続相(マトリクス)、結晶性樹脂が分散相(ドメイン)を形成しやすくなる。その結果、結晶性樹脂がトナー母体粒子中に露出することが抑制され、定着性の向上効果に寄与する。一方、低温定着性向上の観点から、含有量は99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが特に好ましい。
ビニル樹脂を形成するビニル単量体としては、下記のものから選択される1種または2種以上が用いられうる。
(1)スチレン単量体
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンおよびこれらの誘導体など。
(2)(メタ)アクリル酸エステル単量体
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル(n−ブチル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの誘導体など。
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど。
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど。
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど。
(6)N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなど。
(7)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
また、ビニル単量体としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などのイオン性解離基を有する単量体を用いることが好ましい。具体的には、以下のものがある。
カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。また、スルホン酸基を有する単量体としては、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。さらに、リン酸基を有する単量体としてはアシドホスホオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
さらに、ビニル単量体として、多官能性ビニル類を使用し、ビニル樹脂を、架橋構造を有するものとすることもできる。多官能性ビニル類としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
ビニル樹脂の製造方法は、特に制限されず、上記単量体の重合に通常用いられる過酸化物、過硫化物、アゾ化合物などの任意の重合開始剤を用い、塊状重合、溶液重合、乳化重合法、ミニエマルション法、分散重合法など公知の重合手法により重合を行う方法が挙げられる。また、分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばアルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
ビニル樹脂は、ガラス転移点(Tg)が25〜60℃である非晶性樹脂であることが好ましく、ガラス転移点(Tg)が35〜55℃である非晶性樹脂であることがより好ましい。なお、樹脂のガラス転移点(Tg)は、例えば、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定される。本明細書中、ガラス転移点(Tg)の測定手順としては、以下の方法を採用した。まず、測定試料(樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットした。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。そして、昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程、冷却速度10℃/分で200℃から0℃まで冷却する冷却過程、および昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によってDSC曲線を得た。この測定によって得られたDSC曲線に基づいて、その第2昇温過程における第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移点(Tg)とした。
また、ビニル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、重量平均分子量(Mw)で10,000〜100,000であることが好ましい。
なお、本明細書において、樹脂のGPCによる分子量(重量平均分子量および数平均分子量)は、以下のようにして測定される値である。すなわち、装置「HLC−8120GPC」(東ソー株式会社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ−M3連」(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/minで流し、測定試料(樹脂)を室温において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出される。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いる。
≪結晶性樹脂≫
結晶性樹脂としては、結晶性を有する樹脂であれば特に制限はなく、本技術分野における従来公知の結晶性樹脂を用いることができる。その具体例としては、結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリウレタン樹脂、結晶性ポリウレア樹脂、結晶性ポリアミド樹脂、結晶性ポリエーテル樹脂等が挙げられる。結晶性樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
なかでも結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。ここで、「結晶性ポリエステル樹脂」とは、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)およびその誘導体と、2価以上のアルコール(多価アルコール)およびその誘導体との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/分で測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。多価カルボン酸誘導体としては、多価カルボン酸のアルキルエステル、酸無水物および酸塩化物が例示でき、多価アルコール誘導体としては、多価アルコールのエステル化合物およびヒドロキシカルボン酸が例示できる。
多価カルボン酸とは、1分子中にカルボキシル基を2個以上含有する化合物である。このうち、2価のカルボン酸は1分子中にカルボキシル基を2個含有する化合物であり、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n−ドデシルコハク酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸(テトラデカン二酸)、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。また、2価のカルボン酸以外の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸を挙げることができる。また、多価カルボン酸の誘導体として、これらカルボン酸化合物の無水物、あるいは炭素数1〜3のアルキルエステルなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多価アルコールとは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物である。このうち、2価のポリオール(ジオール)は1分子中にヒドロキシ基を2個含有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオールなどの脂肪族ジオールを挙げることができる。また、2価のポリオール以外のポリオールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコールなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記多価カルボン酸の価数、上記多価アルコールの価数の選択などによって一部枝分かれや架橋などを有していてもよい。
上記単量体を用いた結晶性ポリエステル樹脂の形成方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸および多価アルコールを重縮合する(エステル化する)ことにより当該樹脂を形成することができる。
(ハイブリッド結晶性樹脂)
本発明に係る結晶性樹脂は、ラメラ状結晶構造をトナー母体粒子中に有するため、ハイブリッド構造を有する結晶性樹脂を含んでいると好ましい。ハイブリッド構造を有する結晶性樹脂(以下、「ハイブリッド結晶性樹脂」または「ハイブリッド樹脂」とも称し、複数のセグメントを有さない結晶性樹脂を単に「ノンハイブリッド結晶性樹脂」とも称する。)とは、結晶性樹脂セグメントと結晶性樹脂以外の樹脂セグメントとが化学的に結合した樹脂である。結晶性樹脂セグメントとは、結晶性樹脂に由来する部分を示し、結晶性樹脂以外の樹脂セグメントとは、結晶性樹脂以外の樹脂に由来する部分を示す。結晶性樹脂以外の樹脂としては、例えば、スチレンアクリル樹脂などのビニル樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、結晶性を持たないポリエステル樹脂などが挙げられる。結晶性樹脂以外の樹脂セグメントは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
上記の中でも、結晶性樹脂は、結晶性樹脂セグメントとしての結晶性ポリエステル樹脂セグメントと、結晶性樹脂以外の樹脂セグメントとしてポリエステル樹脂以外の非晶性樹脂セグメントとが化学結合して形成されたハイブリッド結晶性樹脂であると好ましい。かような態様であると、結晶性樹脂による低温定着性の向上効果が得られやすくなる。
この際、上記非晶性樹脂セグメントは、ビニル樹脂セグメントであると好ましい。すなわち、結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂セグメントと、ビニル樹脂セグメントとが化学結合して形成された結晶性樹脂であると好ましい。さらに、これらのセグメントは、両反応性単量体を介して結合されていることが好ましい。さらにまた、ラメラ状結晶構造を形成しやすいという観点から、結晶性樹脂は、ビニル樹脂セグメントを幹、結晶性ポリエステル樹脂を枝としたグラフト共重合体であると好ましい。
このように、結晶性樹脂中にビニル樹脂セグメントを含むハイブリッド樹脂を含むことで、ラメラ状結晶構造の分子鎖折り畳みによる厚さをある程度厚くすることができ(すなわち結晶性を高くすることができ)、後述するラメラ状結晶構造のドメイン径等を好ましい範囲内に制御しやすくなる。これは、ハイブリッド結晶性樹脂に導入されるビニル樹脂セグメントは結着樹脂に含まれるビニル樹脂との親和性が高いことに起因して、ハイブリッド結晶性樹脂がビニル樹脂となじみやすく(固定化されやすく)なり、その結果、結晶性樹脂の分子鎖が配列しやすくなることによるものと考えられる。
・ビニル樹脂セグメント
ハイブリッド結晶性樹脂を構成するビニル樹脂セグメントは、ビニル単量体を重合して得られた樹脂から構成される。ここで、ビニル単量体としては、ビニル樹脂を構成する単量体として上述したものが同様に用いられうるため、ここでは詳細な説明を省略する。なお、ハイブリッド結晶性樹脂中におけるポリエステル樹脂以外の非晶性樹脂セグメント(ビニル樹脂セグメント)の含有量(ハイブリッド化率(後述する実施例に記載の「HB率」;質量比))について特に制限はないが、当該ハイブリッド結晶性樹脂のハイブリッド化率は5〜30質量%の範囲内であることがより好ましく、5〜20質量%の範囲内であることがさらに好ましく、5〜10質量%の範囲内であることが特に好ましい。ハイブリッド結晶性樹脂におけるハイブリッド化率の値がこの範囲内であると、本発明に係るトナーの特徴的な構成であるラメラ状結晶構造を形成しやすくなるという利点がある。ハイブリッド結晶性樹脂はノンハイブリッド結晶性樹脂に比べて、もともと結晶性樹脂セグメント部分が集まっているため、結晶化時にこの結晶性樹脂セグメント部分が均一に配列しやすく、ラメラ状に結晶構造が出現しやすい。ハイブリッド結晶性樹脂の中でも、後述の図2に示すような櫛形状のハイブリッド構造を有するものは、特に整った結晶配列になりやすく、ラメラ状結晶構造を取りやすい。
・結晶性ポリエステル樹脂セグメント
ハイブリッド樹脂を構成する結晶性ポリエステル樹脂セグメントは、多価カルボン酸と多価アルコールとを触媒の存在下で、重縮合反応を行うことにより製造された結晶性ポリエステル樹脂から構成される。ここで、多価カルボン酸および多価アルコールの具体的な種類については、上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
・両反応性単量体
「両反応性単量体」とは、結晶性ポリエステル樹脂セグメントとビニル樹脂セグメントとを結合する単量体で、分子内に、結晶性ポリエステル樹脂セグメントを形成するヒドロキシ基、カルボキシル基、エポキシ基、第1級アミノ基および第2級アミノ基から選択される基と、ビニル樹脂セグメントを形成するエチレン性不飽和基との双方を有する単量体である。両反応性単量体は、好ましくはヒドロキシ基またはカルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する単量体であることが好ましい。さらに好ましくは、カルボキシル基とエチレン性不飽和基とを有する単量体であることが好ましい。すなわち、ビニル系カルボン酸であることが好ましい。
両反応性単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられ、さらにこれらのヒドロキシアルキル(炭素原子数1〜3個)のエステルであってもよいが、反応性の観点からアクリル酸、メタクリル酸またはフマル酸が好ましい。この両反応性単量体を介して結晶性ポリエステル樹脂セグメントとビニル樹脂セグメントとが結合される。
両反応性単量体の使用量は、トナーの低温定着性、耐高温オフセット性および耐久性を向上させる観点から、ビニル樹脂セグメントを構成するビニル単量体の総量100質量部に対して1〜15質量部が好ましく、4〜13質量部がより好ましい。
・ハイブリッド結晶性樹脂の製造方法
ハイブリッド結晶性樹脂を製造する方法としては、既存の一般的なスキームを使用することができる。代表的な方法としては、次の三つが挙げられる。
(1)結晶性ポリエステル樹脂セグメントを予め重合しておき、当該結晶性ポリエステル樹脂セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、ビニル樹脂セグメントを形成するための芳香族ビニル単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体を反応させることにより、ハイブリッド結晶性樹脂を形成する方法;
(2)ビニル樹脂セグメントを予め重合しておき、当該ビニル樹脂セグメントに両反応性単量体を反応させ、さらに、結晶性ポリエステル樹脂セグメントを形成するための多価カルボン酸および多価アルコールを反応させることにより、結晶性ポリエステル樹脂セグメントを形成する方法;
(3)結晶性ポリエステル樹脂セグメントおよびビニル樹脂セグメントをそれぞれ予め重合しておき、これらに両反応性単量体を反応させることにより、両者を結合させる方法。
本発明においては、上記製造方法のうち、いずれも用いることができるが、好ましくは、上記(2)項の方法が好ましい。具体的には、結晶性ポリエステル樹脂セグメントを形成する多価カルボン酸および多価アルコール、並びにビニル樹脂セグメントを形成するビニル単量体および両反応性単量体を混合し、重合開始剤を加えてビニル単量体と両反応性単量体を付加重合させてビニル樹脂セグメントを形成した後、エステル化触媒を加えて、重縮合反応を行うことが好ましい。
ここで、結晶性ポリエステル樹脂セグメントを合成するための触媒としては、従来公知の種々の触媒を使用することができる。また、エステル化触媒としては、酸化ジブチルスズ、2−エチルヘキサン酸スズ(II)等のスズ化合物、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド等が挙げられ、エステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。
結晶性樹脂(以下、ハイブリッド結晶性樹脂を含む)の融点(Tm)は、55〜90℃であることが好ましく、より好ましくは70〜88℃である。結晶性樹脂の融点が55〜90℃の範囲内であれば、十分な低温定着性および優れた耐ホットオフセット性が得られる。なお、結晶性樹脂の融点は、樹脂組成によって制御することができる。結晶性樹脂の融点は、示差熱量分析装置(DSC)により測定することができる。また、上記融点は、当業者であれば、樹脂の組成によって制御することが可能である。
樹脂の融点(Tm)の測定は、例えば、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定される。本明細書中、融点(Tm)の測定手順としては、以下の方法を採用した。まず、測定試料(樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、これを「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットした。リファレンスには空のアルミニウム製パンを使用した。そして、昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程、冷却速度10℃/分で200℃から0℃まで冷却する冷却過程、および昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によってDSC曲線を得た。この測定によって得られたDSC曲線に基づいて、その第2昇温過程における結晶性樹脂に由来する吸熱ピーク(半値幅が15℃以内である吸熱ピーク)のピークトップの温度を融点(Tm)とした。
結晶性樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される重量平均分子量(Mw)は、5,000〜50,000の範囲内であることが好ましく、数平均分子量(Mn)は、1,500〜25,000の範囲内であることが好ましい。
結晶性樹脂の含有量は、トナー中の結着樹脂全体に対して、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましく、3〜50質量%であることがさらにより好ましく、5〜40質量%であることがさらにより好ましく、5〜30質量%であることがさらにより好ましく、5〜25質量%であることが特に好ましい。結晶性樹脂の含有量が0.1質量%以上であると、ビニル樹脂との相溶により適度に可塑化し、低温定着性の効果をより発揮することができる。さらに、1質量%以上、さらには3質量%以上、さらには5質量%以上であるとよりその効果が大きくなる傾向がある。一方、可塑化を適度に抑制することにより、トナーの耐熱保管性向上や高温度定着領域におけるオフセットを抑制するという観点から、結晶性樹脂の含有量は50質量%以下であると好ましく、40質量%以下であるとより好ましく、30質量%以下であるとさらにより好ましく、25質量%以下であると特に好ましい。なお、上記の好ましい結晶性樹脂の含有量は、結晶性樹脂が上記ハイブリッド樹脂の形態である場合も同様である。
なお、本発明のトナーに含まれる結着樹脂として、ビニル樹脂および結晶性樹脂以外に非晶性ポリエステル樹脂等の他の非晶性樹脂を含んでいてもよい。他の非晶性樹脂の含有量は、トナー中の樹脂成分全体に対して、30質量%以下であることが好ましく、含有量が0質量%であること、すなわち他の非晶性樹脂が含まれないことがより好ましい。
<離型剤>
本発明のトナー母体粒子は離型剤を含む。離型剤の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類、酸化型のポリエチレン、ポリプロピレン等の酸化型ポリオレフィン類、加熱により軟化点を示すシリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミド等の脂肪酸アミド類;ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス;カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;パラフィンワックス、サゾールワックス等の長鎖炭化水素系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の分岐鎖状炭化水素ワックス類、モンタンワックス、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸プロピル、モノステアリン酸グリセリド、ジステアリン酸グリセリド、ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル、トリメチロールプロパントリベヘン酸エステル、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、ジエチレングリコールモノステアレート、ジプロピレングリコールジステアレート、ジステアリン酸ジグリセリド、ソルビタンモノステアレート、1,18−オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエート、コレステリルステアレート等のエステルワックス類などを挙げることができる。これら離型剤は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
離型剤としてモノエステルワックス類を用いると、本発明に係る離型剤と接触していないラメラ状結晶構造を形成しやすくなる傾向がある。一方、離型剤として、炭素鎖の分岐が少なく、分子量分布の小さな炭化水素ワックスを用いると、本発明に係る構造体を形成しやすくなる傾向がある。この理由は定かではないが、結晶性樹脂や周囲の樹脂との親和性のバランスにより、本発明に係る離型剤と接触していないラメラ状結晶構造を形成したり、本発明に係る構造体を形成したりするものと推測している。このため、構造体とラメラ状結晶構造とを共存させるためには、種類の異なる離型剤を二種類併用することが好ましい。例えば、炭素鎖の分岐が少なく、分子量分布の小さな炭化水素ワックスとエステル結合を一つ有するモノエステルワックス類とを組み合わせて使用することで、構造体とラメラ状結晶構造とを共存させやすくなる傾向が見られる。また、離型剤を単独で用いた場合にも、結晶性樹脂や周囲の樹脂との親和性のバランスをとることで、構造体とラメラ状結晶構造とを共存させることができると考えられる。具体的には、例えば、炭素鎖の分岐が多く、比較的分子量分布の大きな炭化水素ワックスやエステル結合を複数有する多価エステルワックス類、変性により二種類以上の官能基を有するなど機能分離された構造を有する離型剤を用いることによっても、構造体とラメラ状結晶構造とを共存させやすくなる。すなわち、上述したような本発明に特徴的な「トナー母体粒子の断面に、結晶性樹脂と離型剤とが接触している構造体と、離型剤とは接触していないラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂とが存在する」という構成を実現するための方法の一つとして、離型剤を適宜選択するという方法が挙げられる。
一例として、離型剤として、分子量分布の小さな炭化水素ワックスとエステル結合を一つ有するモノエステルワックス類とを組み合わせて使用する場合の使用量の比は、炭化水素ワックス:モノエステルワックス=10/90〜90/10(質量比)であることが好ましい。
炭化水素ワックスの炭素鎖の分岐や分子量分布については、例えば、ガスクロマトグラフ分析により、n−パラフィン率や炭素数の分布の幅を解析することで得ることができる。
離型剤としては、トナーの低温定着性および離型性を確実に得る観点から、その融点が40〜90℃であるものを用いることが好ましい。トナー中の離型剤の含有割合は、トナー中の結着樹脂全体に対して1〜20質量%であると好ましく、5〜20質量%であるとより好ましい。上記含有量とすることにより、トナー母体粒子中、上記構造体およびラメラ状結晶構造を形成しやすくなる。
<結晶性樹脂の存在形態>
本発明においては、トナー母体粒子の断面に、結晶性樹脂と離型剤とが接触している構造体と、離型剤と接触していないラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂とを含む点に特徴の1つがある。ここで、結晶性樹脂と離型剤とが一点でも接触して存在しているものであれば、本発明に係る「構造体」に包含され、結晶性樹脂と離型剤との複合体を意味する。このとき、結晶性樹脂の結晶構造はラメラ状結晶構造であってもよいし、その他の構造(例えば、糸状結晶構造)であってもよい。なお、「糸状結晶構造」とは、結晶性樹脂が分子鎖の折り畳みを構成する構造の一つであって、ラメラ状構造を形成する単体(一本分)の構造を意味する。
また、「ラメラ状結晶構造」とは、上述のように、結晶性樹脂の分子鎖の折り畳みによる結晶化で生じた層状構造を意味する。図1は、ラメラ状結晶構造を有するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を用いて作製されたトナー母体粒子をルテニウム染色した後、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観察した写真である(倍率:50,000倍)。図1に示すように、結晶性樹脂からなるドメインにおいて、櫛形状に結合した結晶性ポリエステル樹脂セグメントは、ラメラ状結晶構造を形成している。
図2は、ラメラ状結晶構造を形成している結晶性ポリエステル樹脂の一例である、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂10の模式図を示したものである。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂10は、主鎖となるビニル樹脂セグメント11に、結晶性ポリエステル樹脂セグメント12が、側鎖として、化学的に結合した構造をしている。図2に示すように、結晶性ポリエステル樹脂セグメント12は、ビニル樹脂セグメント11に、櫛形状に結合している。このような櫛型の構造は、結晶性ポリエステル樹脂セグメント12が、ビニル樹脂中で、重なりあって結晶化することにより形成される。その結果、ラメラ状結晶構造が形成される。
なお、上記では、好ましい形態として結晶性ポリエステル樹脂がハイブリッド化された形態を説明したが、ラメラ状結晶構造は上記形態に限定されない。結晶性ポリエステル樹脂のみであっても、重なり合った構造をとることができ、その結果、ラメラ状結晶構造を形成することができる。
上記構造体およびラメラ状結晶構造の有無を確認する方法としては、例えば、トナー粒子から外添剤を取り除いて得られたトナー母体粒子をルテニウム染色により染色した後、トナー母体粒子の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察する方法が挙げられる。
図3は、本発明の一実施形態によるトナー母体粒子の断面をルテニウム染色した後、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて二次電子像にて観察した際の模式図である。図3では、本発明に係る構造体の一例を示している。図3に示すように、本発明の一実施形態によるトナー母体粒子の断面には、マトリクスとしてのビニル樹脂5の中に、結晶性樹脂1と離型剤2(図3の白色で示された部分)とが接触している構造体3のドメイン(図3の点線で囲った部分)、および離型剤とは接触していないラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂4のドメイン(図3の実線で囲った部分)が存在している。
なお、TEMによる観察において、コントラストについて、より白いコントラストの部分を離型剤と判断した。非晶性樹脂は四酸化ルテニウムによって染色されるため、結晶性材料と非晶性樹脂とを識別できる。すなわち、図3に示すように、ルテニウム染色により、離型剤が一番薄く染色され、次いでラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂および構造体を形成する結晶性樹脂が濃く染色され、ビニル樹脂が一番濃く染色される。
具体的には、トナー母体粒子の断面は、例えば、下記実施例に記載の観察方法(条件)で観察できる。
実施例に記載の方法で任意のトナー母体粒子100個の断面を観察した際、その断面において構造体とラメラ状結晶構造とが存在するトナー母体粒子が全体の60%(60個)以上存在していればよく、80%(80個)以上存在していることが好ましい。このような範囲であれば、本発明の効果を十分に得ることができる。
また、本発明においては、構造体および離型剤と接触していないラメラ状結晶構造以外の構造、例えば離型剤と接触していない糸状結晶構造等を含んでもよい。ここで、「糸状結晶構造」とは、上記定義の通りである。しかしながら、本発明の効果を効率よく得るためには、構造体および離型剤と接触していないラメラ状結晶構造以外の結晶性樹脂の構造は、トナー母体粒子の断面積に対して、断面積の比率で1%未満であることが好ましく、存在していないこと、すなわち、断面積の比率で0%であることがより好ましい。
≪構造体≫
構造体の形状は特に制限はない。しかしながら、構造体の平均ドメイン径は、200〜2500nmであることが好ましく、300〜2000nmであることがより好ましく、800〜1500nmであることが特に好ましい。上記平均ドメイン径を200nm以上とすることにより、結晶性樹脂とビニル樹脂との過剰な相溶を抑制し、結着樹脂の可塑化を抑制することができ、耐熱保管性や高温度定着領域のオフセット性を向上させることができる。かような観点からは、上記平均ドメイン径は、300nm以上であるとより好ましく、800nm以上であると特に好ましい。一方、上記平均ドメイン径を2500nm以下とすることにより、構造体と単独の離型剤(すなわち、結晶性樹脂と接触していない離型剤)との混合や相溶解の発生が抑制されるため、離型剤粘度の上昇を抑制することができる。したがって、定着分離性の低下を抑制することができる。かような観点からは、上記平均ドメイン径は、2000nm以下であることがより好ましく、1500nm以下であることが特に好ましい。
構造体の平均ドメイン径は、例えば、離型剤の添加量や結晶性樹脂の組成等で制御することができる。例えば、離型剤の添加量を増やすと構造体の平均ドメイン径は大きくなる傾向がある。また、結晶性樹脂の酸価と離型剤の酸価との差が小さい場合、結晶性樹脂と離型剤とが接触した構造体が形成されやすい。一方で、これらの酸価の差が大きい場合、それぞれが単独の結晶構造として存在する傾向にある。
なお、本明細書中、「ドメイン」とは、連続相であるマトリクス中に、閉じた界面(相と相との境界)を有する島状の相として存在する構造のものを称し、その長さをドメイン径と定義する。より具体的には、構造体の平均ドメイン径は、実施例に記載の方法により測定した値を採用するものとする。
≪ラメラ状結晶構造≫
ラメラ状結晶構造の平均ドメイン径は、100〜2000nmであることが好ましく、300〜1800nmであることがより好ましく、500〜1500nmであることがさらにより好ましく、600〜1300nmであることが特に好ましい。上記平均ドメイン径を100nm以上とすることにより、加熱定着時にラメラ状結晶構造が溶融した際、トナー母体粒子の変形を促進する効果を得やすくすることができる。その結果、定着分離性の低下を抑制することができる。また、ビニル樹脂との相分離効果を十分に得ることができ、結着樹脂の可塑化を抑制することができる結果、耐熱保管性や高温度定着領域のオフセット性を良好に維持することができる。かような観点からは、上記平均ドメイン径は、300nm以上であるとより好ましく、500nm以上であるとさらにより好ましく、600nm以上であると特に好ましい。一方、上記平均ドメイン径を2000nm以下とすることにより、着色剤や離型剤など、その他の添加剤の分散性を良好に維持することができ、結果として、本発明に係る構造体およびラメラ状結晶構造を形成しやすくなると共に、現像性に関する問題を抑制することができる。かような観点からは、上記平均ドメイン径は、1800nm以下であるとより好ましく、1500nm以下であるとさらにより好ましく、1300nm以下であると特に好ましい。
ラメラ状結晶構造の平均ドメイン径は、例えば、結晶性樹脂の添加量や組成で制御することができ、また、結晶性樹脂の分散液を用いてトナーを作製した場合には、結晶性樹脂分散液中の結晶性樹脂の分散径で制御することができる。例えば、結晶性樹脂の添加量を増やしたり、結晶性樹脂分散液中の結晶性樹脂の分散径を大きくしたりすると、ラメラ状結晶構造が大きくなる傾向がある。また、結晶性樹脂として、ハイブリッド構造を有する構造のものを用いると、よりラメラ状結晶構造を形成しやすくなる傾向が見られる。なお、ラメラ状結晶構造の平均ドメイン径は、実施例に記載の方法により測定した値を採用するものとする。
≪構造体およびラメラ状結晶構造の断面積比率≫
トナー母体粒子の断面積に対する構造体の断面積の比率(Aとする)は、1〜25%であると好ましく、3〜20%であるとより好ましく、5〜15%であると特に好ましい。上記断面積比率Aが1%以上であると、ビニル樹脂との過剰な相溶を抑制することができるため、結着樹脂の可塑化を抑制することができる。その結果、耐熱保管性や高温度定着領域のオフセット性の低下を抑制することができる。かような観点からは、上記断面積比率Aは、3%以上であるとより好ましく、5%以上であると特に好ましい。一方、上記断面積比率Aが25%以下であると、構造体と単独の離型剤(すなわち、結晶性樹脂と接触していない離型剤)との混合や相溶解の発生が抑制されるため、離型剤粘度の上昇を抑制することができる。その結果、良好な定着分離性を得ることができる。かような観点からは、上記断面積比率Aは、20%以下であるとより好ましく、15%以下であると特に好ましい。
トナー母体粒子の断面積に対するラメラ状結晶構造の断面積の比率(Bとする)は、1〜25%であると好ましく、3〜20%であるとより好ましく、5〜10%であると特に好ましい。上記断面積比率Bが1%以上であると、トナー母体粒子の変形を促進する効果が得られやすくなる結果、定着分離性の低下を抑制することができる。また、ビニル樹脂との相分離効果を十分に得ることができ、結着樹脂の可塑化を抑制することができる結果、耐熱保管性や高温度定着領域のオフセット性を良好に維持することができる。かような観点からは、上記断面積比率Bは、3%以上であるとより好ましく、5%以上であると特に好ましい。一方、上記断面積比率Bが25%以下であると、着色剤や離型剤など、その他の添加剤の分散性を良好に維持することができ、結果として、本発明に係る構造体およびラメラ状結晶構造を形成しやすくなると共に、現像性に関する問題を抑制することができる。かような観点からは、上記断面積比率Bは、20%以下であるとより好ましく、10%以下であると特に好ましい。
さらに、トナー母体粒子の断面積に対する、構造体およびラメラ状結晶構造の総断面積比率(すなわち、A+B)は、1〜50%であると好ましく、1〜30%であるとより好ましく、5〜25%であると特に好ましい。総断面積比率(A+B)が上記範囲内にあると、充分なドキュメント保存性、定着分離性および高速定着性が確保できるという利点がある。
また、上記構造体の断面積比率Aと、上記ラメラ状結晶構造の断面積比率Bとの関係は、以下の数式(1)の関係を満たすと好ましい。
すなわち、上記A/Bの値は、0.1〜5であることが好ましく、0.3〜3.5であることがより好ましく、0.5〜2.5であることが特に好ましい。
上記A/Bの値が0.1以上であると、構造体の割合が比較的多くなることから、ビニル樹脂との相溶による可塑化を抑制することができる。加えて、ラメラ状結晶構造の割合が比較的少なくなることから、着色剤や離型剤など、その他の添加剤の分散性を良好に維持することができ、結果として、本発明に係る構造体およびラメラ状結晶構造を形成しやすくなると共に、現像性に関する問題を抑制することができる。かような観点からは、上記A/Bの値は、0.3以上であるとより好ましく、0.5以上であると特に好ましい。一方、A/Bの値が5以下であると、ラメラ状結晶構造の割合が比較的多くなることから、加熱定着時にラメラ状結晶構造が溶融した際、トナー母体粒子の変形を促進する効果を得やすくすることができる。その結果、定着分離性の低下を抑制することができる。加えて、構造体の割合が比較的少なくなることから、構造体と単独の離型剤(すなわち、結晶性樹脂と接触していない離型剤)との混合や相溶解の発生が抑制されるため、離型剤粘度の上昇を抑制することができる。その結果、良好な定着分離性を得ることができる。かような観点からは、上記A/Bの値は、3.5以下であることがより好ましく、2.5以下であることが特に好ましい。
上記AおよびBは、例えば、上述した構造体およびラメラ状結晶構造の大きさの測定方法と同様の装置および条件により測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。なお、各断面積は、外側の輪郭で囲まれた領域(例えば、構造体は図3の点線で囲った領域、ラメラ状結晶構造は図3の実線で囲った領域)を測定する。この断面積比率についても、トナー母体粒子100個のうち、構造体とラメラ状結晶構造とが共に観察されたものについての算術平均値として算出する。
≪構造体およびラメラ状結晶構造の存在位置≫
上記構造体およびラメラ状結晶構造は、トナー母体粒子の断面に存在していればよく、その存在箇所は特定の部分に限定されない。例えば、これらの各構造は、トナー母体粒子の表層(表面)および内部の両方に存在していてもよいが、トナー母体粒子の内部に存在していると好ましい。より好ましくは、トナー母体粒子の表面から、トナー母体粒子の粒径の0.1倍以上の深さの領域に存在することが好ましい。このような形態であると、結晶性樹脂がトナー母体粒子の表面に露出することが抑制されるため、帯電性を向上させることができ、また、離型剤の浸み出しを容易にし、定着分離性、耐熱保存性や流動性を向上させることができる。
このように、構造体およびラメラ状結晶構造、特にラメラ状結晶構造をトナー母体粒子の内部にのみ存在させるためには、例えば、以下の方法(1)〜(3)を用いると好ましい;
(1)後述するトナーの製造方法において、結晶性ポリエステル樹脂微粒子分散液を、トナー母体粒子の構成成分の分散液の昇温前に投入する;
(2)結晶性ポリエステル樹脂として、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を使用する;
(3)結晶性ポリエステル樹脂以外の結着樹脂のモノマー種として長鎖アクリル酸エステルを使用する;
なお、上記の方法(1)〜(3)を、適宜組み合わせて用いてもよい。
<着色剤>
本発明に係るトナーにおいて、トナー母体粒子は着色剤を含んでもよい。使用できる着色剤としては、公知の無機または有機着色剤が挙げられる。以下、具体的な着色剤を示す。
黒色の着色剤としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどのカーボンブラックや、マグネタイト、フェライトなどの磁性粉が挙げられる。
マゼンタもしくはレッド用の着色剤としては、C.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同6、同7、同15、同16、同48:1、同53:1、同57:1、同60、同63、同64、同68、同81、同83、同87、同88、同89、同90、同112、同114、同122、同123、同139、同144、同149、同150、同163、同166、同170、同177、同178、同184、同202、同206、同207、同209、同222、同238、同269等が挙げられる。
また、オレンジまたはイエロー用の着色剤としては、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー12、同14、同15、同17、同74、同83、同93、同94、同138、同155、同162、同180、同185等が挙げられる。
さらに、グリーンまたはシアン用の着色剤としては、C.I.ピグメントブルー2、同3、同15、同15:2、同15:3、同15:4、同16、同17、同60、同62、同66、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
また、染料としては、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122、C.I.ソルベントイエロー2、同6、同14、同15、同16、同19、同21、同33、同44、同56、同61、同77、同79、同80、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95等が挙げられる。
これらの着色剤は、必要に応じて単独でもまたは2種以上を併用することも可能である。トナー母体粒子中の着色剤の含有割合は、1〜30質量%であることが好ましく、2〜20質量%であるとより好ましい。
<荷電制御剤>
本発明に係るトナー母体粒子は荷電制御剤を含んでもよい。荷電制御剤の例としては、例えば、サリチル酸誘導体の亜鉛やアルミニウムによる金属錯体(サリチル酸金属錯体)、カリックスアレーン化合物、有機ホウ素化合物、および含フッ素4級アンモニウム塩化合物などを挙げることができる。
荷電制御剤の含有割合は、トナー中の結着樹脂100質量部に対して通常0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましい。
<外添剤>
本発明に係るトナー母体粒子は、そのままトナー粒子として使用することが可能であるが、トナーとしての帯電性能や流動性、またはクリーニング性を向上させる観点から、その表面に公知の無機微粒子や有機微粒子などの粒子、滑剤等を外添剤として添加することが好ましい。外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。粒子としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子およびチタニア微粒子などの無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子、またはチタン酸ストロンチウム微粒子、チタン酸亜鉛微粒子などの無機チタン酸化合物微粒子などが挙げられる。また、滑剤としては、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウム等の塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウム等の塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウム等の塩、リノール酸の亜鉛、カルシウム等の塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウム等の塩等の高級脂肪酸の金属塩が挙げられる。これら外添剤は、耐熱保管性および環境安定性の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸またはシリコーンオイルなどによって表面処理が行われたものであってもよい。
これらの外添剤の添加量は、トナー母体粒子100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部である。
<トナー母体粒子の形態>
本発明に係るトナーにおいて、トナー母体粒子は、いわゆる単層構造を有するものであってもよいし、コア−シェル構造(コア粒子の表面にシェル部を形成する樹脂を凝集、融着させた形態)を有するものであってもよい。コア−シェル構造の樹脂粒子は、着色剤や離型剤等を含有したガラス転移点が比較的低めの樹脂粒子(コア粒子)表面に、比較的高めのガラス転移点を有する樹脂領域(シェル部)を有する。
なお、コア−シェル構造は、シェル部がコア粒子を完全に被覆した構造のものに限定されるものではなく、例えば、シェル部がコア粒子を完全に被覆せず、所々コア粒子が露出しているものも含む。
コア−シェル構造の断面構造は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型プローブ顕微鏡(SPM)等の公知の手段を用いて確認することが可能である。
トナーの保存安定性を良好にするという目的からは、トナー母体粒子は、コア粒子と当該コア粒子表面を被覆してなるシェル部とを有していると好ましい。シェル部を構成する樹脂としては、上記特性を満たすものであれば特に制限されないが、上述したビニル樹脂が含有されているとより好ましい。シェル部としてビニル樹脂が含有されていると、構造体やラメラ状結晶構造と共にトナー母体粒子を構成するビニル樹脂の構造と大きな違いがないことから、離型剤の浸み出しが抑制されにくく、結果として、定着分離性の低下を抑制することができる。
コア部の含有量は、コア部とシェル部との合計の樹脂量を100質量%として、30〜95質量%が好ましい。また、シェル部の含有量は、コア部とシェル部との合計の樹脂量を100質量%として、5〜70質量%が好ましい。
<トナーの平均円形度>
本発明に係るトナーにおいては、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、帯電特性の安定性、低温定着性の観点から、平均円形度が0.920〜1.000であることが好ましく、0.940〜0.995であることがより好ましい。平均円形度が上記の範囲であることにより、個々のトナー粒子が破砕しにくくなって摩擦帯電付与部材の汚染が抑制されてトナーの帯電性が安定し、また、形成される画像において画質が高いものとなる。トナーの平均円形度は、「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定した値である。具体的には、測定試料(トナー)を界面活性剤入り水溶液にてなじませ、超音波分散処理を1分間行って分散させた後、「FPIA−2100」(Sysmex社製)によって、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000〜10,000個の適正濃度で撮影を行い、個々のトナー粒子について下記式に従って円形度を算出し、各トナー粒子の円形度を加算し、全トナー粒子数で除することにより算出した値である。HPF検出数が上記の範囲であれば、再現性が得られる。
円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)。
<トナーの粒径>
本発明のトナーの体積基準のメジアン径(体積平均粒径)は、好ましくは3〜10μm、より好ましくは4〜8μmである。この範囲であることにより、細線の再現性や、写真画像の高画質化が達成できると共に、トナーの消費量を、大粒径トナーを用いた場合に比して削減することができる。また、トナー流動性も確保できる。トナーの体積平均粒径は、後述のトナーの製造時の凝集・融着工程における凝集剤の濃度や溶剤の添加量、または融着時間、さらには樹脂成分の組成等によって制御することができる。トナーの体積基準のメジアン径は、例えば、「Multisizer3」(ベックマン・コールター株式会社製)により測定できる。
[トナーの製造方法]
本発明のトナーを製造する方法としては、例えば、粉砕法、重合法、その他公知の方法を挙げることができる。重合法としては、乳化凝集(重合)法、会合凝集法、分散重合法、ミニエマルション法、その他の公知の方法などを挙げることができる。なかでも、粒径の揃った形状制御が可能であり、かつ結晶性樹脂を含むトナーの製造方法としては、乳化凝集(重合)法による製造方法が好ましい。当該方法は、水系媒体中に特定の無機塩を添加し、形状制御性を獲得することができる点、さらに、熱力学的な安定性の観点から結晶成長の進行を制御しやすい点で好ましい。また、乳化凝集法によれば、製造コストおよび製造安定性の観点から、トナー母体粒子の小粒径化を容易に図ることができるのでより好ましい。
本発明に特徴的な「トナー母体粒子の断面に、結晶性樹脂と離型剤とが接触している構造体と、離型剤とは接触していないラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂とが存在する」という構成を実現するための製造方法としては、トナー母体粒子の粒径や形状制御を行った後に冷却する工程を有する製造方法であることが好ましい。
この冷却する工程を行うことにより、結晶化物質(例えば結晶性樹脂や離型剤)の凝集を防ぐことができるため、構造体とラメラ状結晶構造との共存状態を作りやすくなると推測している。なお、冷却する工程においては、急冷を行うことが好ましい。急冷とは、冷却前の温度および冷却後の目標温度にもよるが、目安としては降温速度が8℃/分以上である。この冷却工程(好ましくは急冷)を、トナー母体粒子の粒径や形状制御を行った後に行うことで、結晶性樹脂が離型剤と接触している構造体と、離型剤とは接触しておらず独立して存在しているラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂との共存状態をより保ちやすくなる。ここで、乳化凝集法を用いた場合、所望の粒子径となるまで凝集させ、さらに樹脂粒子間の融着を行うことにより形状制御を行った後に冷却(好ましくは急冷)を行うことがより好ましい。
乳化凝集法とは、乳化によって製造された樹脂の粒子(以下、「樹脂粒子」ともいう)の分散液を、必要に応じて着色剤の粒子(以下、「着色剤粒子」ともいう)の分散液と混合し、所望の粒子径となるまで凝集させ、さらに樹脂粒子間の融着を行うことにより形状制御を行って、トナー母体粒子を製造する方法である。ここで、樹脂粒子は、離型剤や必要に応じて荷電制御剤などを含有していてもよい。
以下、好ましい製造方法である乳化凝集法について説明する。
<乳化凝集法>
上述したように、乳化凝集法は、界面活性剤や分散安定剤によって分散された樹脂粒子の分散液を、必要に応じて着色剤粒子などのトナー母体粒子の構成成分の分散液と混合し、凝集剤を添加することによって所望の粒径となるまで凝集させ、その後または凝集と同時に、樹脂微粒子間の融着を行い、形状制御を行うことにより、トナー母体粒子を形成する方法である。
例えば、結晶性樹脂粒子の水系分散液と、離型剤含有ビニル樹脂粒子の水系分散液と、着色剤粒子の水系分散液とを混合し、それぞれの粒子を凝集し、次いで、融着させることによって、本発明に係るトナー母体粒子とすることができる。また、離型剤含有ビニル樹脂粒子の水系分散液ではなく、離型剤粒子の水系分散液とビニル樹脂粒子の水系分散液とを別々に作製し混合してもよい。また、結晶性樹脂含有ビニル樹脂粒子の水系分散液や、結晶性樹脂および離型剤含有ビニル樹脂粒子の水系分散液を用いることもできる。
トナー母体粒子を乳化凝集法によって製造する場合、例えば、以下の各工程を含む製造方法が採用される。ここで、以下の例は、ビニル樹脂粒子が離型剤を含有するものであり、結晶性樹脂粒子が結晶性ポリエステル樹脂粒子であり、さらにトナー母体粒子が着色剤を含有するものである場合について記載したものであり、本発明の技術的範囲がこれらの形態に限定されるわけではない。
(a)水系媒体中で、結晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液を調製する工程
(b)水系媒体中で、離型剤を含有するビニル樹脂粒子を含む分散液を調製する工程
(c)水系媒体中で、着色剤粒子の分散液を調製する工程
(d)前記結晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液と、前記離型剤含有ビニル樹脂粒子の分散液と、前記着色剤粒子の分散液とを混合する工程
(e)前記結晶性ポリエステル樹脂粒子と、前記離型剤含有ビニル樹脂粒子と、前記着色剤粒子とを凝集、融着する工程
(f)熱エネルギーにより熟成させて、トナー母体粒子の形状を調整する熟成工程
(g)トナー母体粒子の分散液を冷却する冷却工程
上記(g)の工程の後、さらに、(h−1)トナー母体粒子の水系分散液からトナー母体粒子を濾別し、当該トナー母体粒子から界面活性剤などを除去する洗浄し、洗浄処理されたトナー母体粒子を乾燥する洗浄、乾燥工程、(h−2)乾燥処理されたトナー母体粒子に外添剤を添加する外添剤処理工程、等を必要に応じて行うことで、トナー粒子を製造することができる。
≪(a)結晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液を調製する工程≫
本工程は、下記工程を含んで構成されることが好ましい:
(A−1)結晶性ポリエステル樹脂合成工程
(A−2)結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液調製工程。
(A−1)結晶性ポリエステル樹脂合成工程
結晶性ポリエステル樹脂の製造方法としては、特に制限はなく、多価カルボン酸および多価アルコールを反応させる一般的なポリエステル重合法で製造することができ、例えば、直接重縮合、エステル交換法等を、モノマーの種類によって使い分けて製造する。結晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、上述の結晶性ポリエステル樹脂セグメントを合成するための触媒と同様のものが用いられるため、ここでは詳細な説明は省略する。
多価アルコールと多価カルボン酸との使用比率は、多価アルコールのヒドロキシ基[OH]と多価カルボン酸のカルボキシル基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、1.5/1〜1/1.5であることが好ましく、1.2/1〜1/1.2であることがより好ましい。また、重合温度や重合時間は特に限定されるものではなく、重合中には必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
(A−2)結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液調製工程
結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液調製工程は、上記で合成した結晶性ポリエステル樹脂を水系媒体中に微粒子状に分散させて結晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液を調製する工程である。
結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製方法としては、例えば(i)溶媒を用いることなく、水系媒体中において結晶性ポリエステル樹脂の分散処理を行う方法、あるいは(ii)結晶性ポリエステル樹脂を酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエンなどの溶剤に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水系媒体中に乳化分散させた後、脱溶剤処理を行う(脱溶剤工程)方法などが挙げられる。
上記(i)および(ii)で用いられる「水系媒体」とは、少なくとも水が50質量%以上含有されたものをいい、水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤を挙げることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶剤であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶剤を使用することが好ましい。より好ましくは、水系媒体として水のみを使用する。
さらに、水系媒体中には、水相に安定に乳化させて乳化を円滑に進めるために、アミンやアンモニアが溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。
界面活性剤としては、公知のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。界面活性剤としては、結晶性ポリエステル樹脂による油滴の分散安定性に優れ、また、温度変化に対する安定性が得られることから、アニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。アニオン性界面活性剤としては、公知のものを用いることができ、所望に応じて、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、分散安定性の向上のための樹脂微粒子としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリスチレン−アクリロニトリル樹脂微粒子などが挙げられる。
上記(ii)では、合成した結晶性ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解し、結晶性ポリエステル樹脂溶液を調製する。その後、当該結晶性ポリエステル樹脂溶液を、水系媒体中に乳化分散させることにより、結晶性ポリエステル溶液よりなる油滴を形成する。この工程においては、転相乳化法により調製されたものを用いると、ポリエステルのカルボキシル基の安定性を変化させることによって油滴を均一分散させることができ、機械乳化法のように無理矢理せん断力で分散させない点で優れている。「転相乳化法」では、有機溶媒に樹脂を溶解し、樹脂溶解液を得る溶解工程と、樹脂溶解液に中和剤を投入する中和工程と、中和後の樹脂溶解液を水系分散媒中に乳化分散させ、樹脂乳化液を得る乳化工程と、樹脂乳化液から有機溶媒を除去する脱溶媒工程と、を経ることで、樹脂微粒子の分散液が得られる。
上記(i)および(ii)における分散処理(乳化分散)は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、分散機としては、特に限定されるものではなく、湿式乳化分散機、ホモジナイザー、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波分散機、高圧衝撃式分散機アルティマイザーなどが挙げられる。
なお、分散液中の結晶性ポリエステル樹脂粒子の粒径は、中和剤添加量を調整する、すなわち中和度を調整することによって制御可能である。中和剤添加量が少ない、すなわち、中和度が低いほど、分散液中の樹脂粒子の粒径は大きくなる傾向が見られる。
上記(ii)の方法においては、形成された油滴から、有機溶剤を留去することにより、結晶性ポリエステル樹脂の粒子が生成され、結晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液が調製される。有機溶剤の留去は、具体的には、真空度が400〜50000Paの範囲内とされた状態において、30〜50℃の範囲内の温度において行うことが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂の粒子の粒径は、例えば体積基準のメジアン径で30〜500nmの範囲内にあることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の粒子の粒径は、例えば、「マイクロトラックUPA−150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定することができる。
このように準備された結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液における結晶性ポリエステル樹脂粒子(油滴)の分散径は、体積基準のメジアン径(体積平均粒径)で、30〜500nmが好ましい。なお、この油滴の分散径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさなどによってもコントロールすることができる。結晶性ポリエステル樹脂粒子(油滴)の分散径は、例えば、「マイクロトラックUPA−150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定することができる。
また、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液における結晶性ポリエステル樹脂粒子の含有量は、分散液100質量%に対して10〜50質量%の範囲とすることが好ましく、15〜40質量%の範囲がより好ましい。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
≪(b)離型剤を含有するビニル樹脂粒子を含む分散液(離型剤含有ビニル樹脂粒子分散液)を調製する工程≫
本工程は、トナー母体粒子を構成するビニル樹脂を合成し、このビニル樹脂を水系媒体中に粒子状に分散させ、さらに離型剤を添加してビニル樹脂粒子の分散液を調製する工程である。
ビニル樹脂の製造方法は、上記に記載したとおりであるため、詳細を割愛する。
ビニル樹脂を水系媒体中に分散させる方法としては、ビニル樹脂を得るための単量体からビニル樹脂粒子を形成し、当該ビニル樹脂粒子の水系分散液を調製する方法(I)や、ビニル樹脂を有機溶媒(溶剤)中に溶解または分散させて油相液を調製し、油相液を、転相乳化などによって水系媒体中に分散させて、所望の粒径に制御された状態の油滴を形成させた後、有機溶媒(溶剤)を除去する方法(II)などが挙げられる。これらの方法(I)および(II)において、ビニル樹脂単量体(またはビニル樹脂)と共に、離型剤を添加すると好ましい。
方法(I)では、まず、ビニル樹脂を得るための単量体を重合開始剤と共に水系媒体中に添加して重合し、基礎粒子を得る。次に、当該基礎粒子が分散している分散液中に、ビニル樹脂を得るためのラジカル重合性単量体および重合開始剤を添加し、上記基礎粒子にラジカル重合性単量体をシード重合する手法を用いることが好ましい。このラジカル重合性単量体および重合開始剤を添加する際に、離型剤も同時に添加することが好ましい。
このとき、重合開始剤としては、水溶性重合開始剤を用いることができる。水溶性重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性ラジカル重合開始剤を好適に用いることができる。
また、ビニル樹脂粒子を得るためのシード重合反応系には、ビニル樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート、ステアリル−3−メルカプトプロピオネート、スチレンダイマーなどを用いることができる。
方法(II)において、油相液の調製に使用される有機溶媒(溶剤)としては、上記と同様に、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ、水への溶解性が低いものが好ましく、具体的には、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらは一種単独であるいは二種以上組み合わせて用いることができる。
有機溶媒(溶剤)の使用量(2種類以上使用する場合はその合計使用量)は、ビニル樹脂100質量部に対して、通常10〜500質量部である。
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50〜2,000質量部であることが好ましい。水系媒体の使用量を上記の範囲とすることで、水系媒体中において油相液を所望の粒径に乳化分散させることができる。
また、上記と同様に、水系媒体中には、分散安定剤、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。このような油相液の乳化分散は、上記と同様に、機械的エネルギーを利用して行うことができ、乳化分散を行うための分散機としては、特に限定されるものではなく、上記(A−2)において説明したものを用いることができる。
油滴の形成後における有機溶媒の除去は、ビニル樹脂粒子が水系媒体中に分散された状態の分散液全体を、徐々に撹拌状態で昇温し、一定の温度域において強い撹拌を与えた後、脱溶媒を行うなどの操作により行うことができる。あるいは、エバポレータ等の装置を用いて減圧しながら除去することができる。
方法(II)においては、得られたビニル樹脂粒子を含む分散液中に、別途作製した離型剤の水系分散液(離型剤粒子分散液)を添加し、離型剤含有ビニル樹脂粒子分散液を調製する。
離型剤の水系分散液において用いられる水系媒体、界面活性剤、樹脂微粒子等は、上記(A−2)で説明したものと同様のものが用いられうる。また、離型剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、このような分散機としては、特に限定されるものではなく、上記(A−2)で説明したものと同様のものを用いることができる。
離型剤粒子分散液における離型剤粒子の含有量は、10〜50質量%の範囲とすることが好ましく、15〜40質量%の範囲とすることがより好ましい。このような範囲であると、ホットオフセット防止および分離性確保の効果が得られる。
上記方法(I)または(II)によって準備されたビニル樹脂粒子分散液におけるビニル樹脂粒子(油滴)の分散径は、体積基準のメジアン径(体積平均粒径)で、60〜1000nmが好ましい。なお、この油滴の分散径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさなどによりコントロールすることができる。
また、ビニル樹脂粒子分散液におけるビニル樹脂粒子の含有量は、5〜50質量%の範囲とすることが好ましく、10〜30質量%の範囲がより好ましい。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
ここで、ビニル樹脂粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とする複数層で形成された複合粒子とすることもできる。
≪(c)着色剤粒子分散液調製工程≫
着色剤粒子分散液調製工程は、着色剤を水系媒体中に粒子状に分散させて着色剤粒子の分散液を調製する工程である。着色剤の分散処理は、着色剤が均一に分散されることから、水系媒体中において界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度(CMC)以上にした状態で行われることが好ましい。
当該水系媒体は上記(A−2)で説明した通りであり、この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂微粒子などが添加されていてもよい。また、着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、このような分散機としては、特に限定されるものではなく、上記(A−2)において説明したものを用いることができる。
着色剤粒子分散液中の着色剤粒子の分散径は、体積基準のメジアン径で10〜300nmの範囲内であることが好ましい。この着色剤粒子分散液中の着色剤粒子の分散径は、例えば、「マイクロトラックUPA−150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定することができる。
着色剤粒子分散液における着色剤の含有量は、10〜50質量%の範囲とすることが好ましく、15〜40質量%の範囲とすることがより好ましい。このような範囲であると、色再現性確保の効果がある。
≪(d)混合液調製工程および(e)凝集・融着工程≫
混合液調製工程は、上記(a)および(b)の工程にて調製した各粒子分散液を混合する。この時、必要に応じて上記(c)の工程にて調製した着色剤分散液をさらに混合してもよい。各分散液の添加順序等は特に制限されず、また、撹拌速度等の条件も特に制限されない。また、この工程では、上述の各分散液に加え、必要に応じて着色剤粒子、離型剤、荷電制御剤、その他トナー母体粒子の構成成分を混合してもよい。
上記混合液調製工程の後、または同時に行われる凝集・融着工程は、水系媒体中で前述の結晶性ポリエステル樹脂粒子、離型剤含有ビニル樹脂粒子、および必要に応じて添加される着色剤粒子、離型剤、荷電制御剤、その他トナー母体粒子の構成成分を凝集させ、凝集させると同時にこれら粒子を融着させてトナー母体粒子を得る工程である。
結晶性ポリエステル樹脂粒子、離型剤含有ビニル樹脂粒子および必要に応じて用いられる着色剤粒子を凝集、融着する具体的な方法としては、水系媒体中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加し、次いで、樹脂粒子のガラス転移点以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱することによって、結晶性ポリエステル樹脂粒子、離型剤含有ビニル樹脂粒子および着色剤粒子などの粒子の塩析を進行させると同時に融着を並行して進める。そして、所望の粒子径まで成長したところで、凝集停止剤を添加して粒子成長を停止させ、さらに、必要に応じて粒子形状を制御するために加熱を継続して行う方法が挙げられる。この方法においては、凝集剤を添加した後に放置する時間をできるだけ短くして速やかに、これらの樹脂粒子のガラス転移点以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱することが好ましい。この昇温までの時間としては通常30分以内であることが好ましく、10分以内であることがより好ましい。また、昇温速度としては1℃/分以上であることが好ましい。昇温速度の上限は特に規定されるものではないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から、15℃/分以下とすることが好ましい。さらに、反応系がガラス転移点以上の温度に到達した後、当該反応系の温度を一定時間保持することにより、融着を継続させることが肝要である。これにより、トナー母体粒子の成長と、融着とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナー粒子の耐久性を向上することができる。本発明においては、凝集・融着工程で、結晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液および離型剤含有ビニル樹脂粒子の分散液は、一段目と二段目とに分割して投入してもよい。
この凝集・融着工程において使用する凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えばナトリウム、カリウムおよびリチウムなどのアルカリ金属の塩などの1価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガンおよび銅などの2価の金属塩;鉄およびアルミニウムなどの3価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウムおよび硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、2価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。この凝集・融着工程において得られるトナー母体粒子の粒径は、例えば、体積基準のメジアン径(体積平均粒径)が2〜9μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは4〜7μmの範囲内である。トナー母体粒子の体積基準のメジアン径は、例えば、「粒度分布測定装置 Multisizer 3」(ベックマン・コールター株式会社製)によって測定することができる。
なお、コア−シェル構造のトナー母体粒子を得る場合には、本工程において、シェル部を形成する樹脂の水系分散液をさらに添加し、上記で得られた単層構造の樹脂粒子(コア粒子)の表面にシェル部を形成する樹脂を凝集、融着させる。これにより、コア−シェル構造を有するトナー母体粒子が得られる(シェル化工程)。この際、シェル化工程に引き続き、コア粒子表面へのシェルの凝集、融着をより強固にし、かつ粒子の形状が所望の形状になるまで、さらに反応系の加熱処理、すなわち後述の(f)熟成工程を行うとよい。この反応系の加熱処理は、コア−シェル構造を有するトナー母体粒子の平均円形度が、上記平均円形度の範囲になるまで行えばよい。
≪(f)熟成工程≫
上記の凝集・融着工程における加熱温度の制御により、ある程度トナーにおけるトナー母体粒子の形状の均一化を図ることができるが、さらなる形状の均一化を図るために、熟成工程を経ることが好ましい。この熟成工程は、加熱温度および加熱時間の制御を行うことにより、粒径が一定で分布が狭く形成したトナー母体粒子の表面が、平滑で均一な形状を有するものとなるよう制御する。具体的には、凝集・融着工程において加熱温度を低めにして樹脂粒子同士の融着の進行を抑制させて均一化を促進させ、この熟成工程においても加熱温度を低めに、かつ、時間を長くしてトナー母体粒子を所望の平均円形度となる、すなわち表面が均一な形状のものとなるよう制御する。上記したように、該平均円形度は、好ましくは0.920〜1.000である。
≪(g)冷却工程≫
トナー母体粒子が所望の平均円形度となった後、分散液の冷却を行う。この際、冷却条件を制御することで、それぞれのトナー母体粒子を構成する材料のトナー母体粒子中での存在状態(例えば、各材料のドメイン径や形状、存在位置等)が変化する。冷却速度を遅くすると、例えば、結晶化物質の凝集が促進され、結晶成長が起こり得る。一方、冷却速度を速くすると、例えば、結晶化物質の凝集が抑制され、結晶化が促進せずに熟成工程での構造を保ったままになる傾向がある。上述したように、本発明の特徴である構造体とラメラ状結晶構造との共存状態を作りやすくなる降温速度の目安としては8℃/分以上が好ましい。
冷却方法としては特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法を例示することができる。
≪(h−1)洗浄、乾燥工程≫
洗浄・乾燥工程は、公知の種々の方法を採用して行うことができる。すなわち、上記熟成工程にて所望の平均円形度まで熟成し、冷却した後、例えば遠心分離機などの公知の装置を用いて、固液分離し洗浄を行う。洗浄処理は、濾液の電気伝導度が、例えば5〜10μS/cmレベルになるまで水洗処理を行うものである。
乾燥工程では、洗浄処理されたトナー母体粒子に乾燥処理が施される。乾燥は、必要に応じて減圧乾燥により有機溶媒が除去された後、さらに、フラッシュジェットドライヤーおよび流動層乾燥装置など公知の乾燥装置にて水分および微量の有機溶媒を除去する。乾燥温度は、トナー母体粒子が融着しない範囲であればよい。乾燥処理されたトナー母体粒子に含有される水分量は、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下である。
また、乾燥処理されたトナー母体粒子同士が弱い粒子間引力で凝集している場合には、解砕処理を行ってもよい。
≪(h−2)外添剤処理工程≫
この外添剤処理工程は、乾燥処理したトナー母体粒子に必要に応じて外添剤を添加、混合することにより、トナー粒子を調製する工程である。外添剤の種類や好ましい添加量は上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。外添剤の添加方法としては、乾燥されたトナー母体粒子に外添剤を粉体で添加する乾式法が挙げられ、混合装置としては、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル等の機械式の混合装置が挙げられる。
[静電荷像現像用現像剤]
本発明のトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる分散型キャリアなど用いてもよい。
キャリアの体積基準のメジアン径としては20〜100μmであることが好ましく、25〜80μmであることがより好ましい。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック社製)により測定することができる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。以下の実施例においては、特記しない限り、「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を意味し、各操作は、室温(25℃)で行われる。なお、本発明は以下実施例に限定されるものではない。
<トナーの作製>
[結晶性樹脂の作製]
(合成例1:ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)の合成)
両反応性モノマーを含む、下記に示す組成の付加重合系樹脂(スチレンアクリル樹脂:StAc1)セグメントの原料モノマーおよびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 34質量部
n−ブチルアクリレート 12質量部
アクリル酸 2質量部
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 7質量部。
また、下記の重縮合系樹脂(結晶性ポリエステル樹脂:CPEs1)セグメントの原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
テトラデカン二酸 271質量部
1,6−ヘキサンジオール 118質量部。
次いで、フラスコの内容物を撹拌しながら、付加重合系樹脂(StAc1)の原料モノマーを90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の付加重合系樹脂の原料モノマーを除去した。なお、このとき除去されたモノマー量は、上記の樹脂の原料モノマー比に対してごく微量であった。
その後、エステル化触媒としてTi(OBu)を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次に200℃まで冷却した後、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることによりハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)を得た。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)の全量100質量%に対するCPEs以外の樹脂(StAc1)セグメントの含有量(ハイブリッド率:HB率)は10質量%であった。また、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)は、StAcセグメントにCPEsセグメントがグラフト化した形態の樹脂であった。また、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)の数平均分子量(Mn)は5,900、融点(Tm)は75.2℃であった。
(合成例2〜4:ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(2)〜(4)の合成)
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の全量100質量%に対するCPEs以外の樹脂(StAc1)セグメントの含有量(HB率)を下記の表1に示すように変更したこと以外は、上記合成例1と同様にしてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(2)〜(4)をそれぞれ得た。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(2)〜(4)の数平均分子量(Mn)および融点(Tm)を下記の表1にそれぞれ示す。
(合成例5:ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(5)の合成)
付加重合系樹脂(StAc)セグメントを形成するために、下記に示す組成の付加重合系樹脂(スチレンアクリル樹脂:StAc2)セグメントの原料モノマーおよびラジカル重合開始剤を用いたこと以外は、上記合成例1と同様にしてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(5)を得た。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(5)の数平均分子量(Mn)および融点(Tm)を下記の表1に示す。
スチレン 32質量部
n−ブチルアクリレート 11質量部
アクリル酸 5質量部
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 7質量部。
(合成例6:ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(6)の合成)
重縮合系樹脂(CPEs)セグメントを形成するために、下記に示す組成の重縮合系樹脂(結晶性ポリエステル樹脂:CPEs2)セグメントの原料モノマーを用いたこと以外は、上記合成例1と同様にしてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(6)を得た。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(6)の数平均分子量(Mn)および融点(Tm)を下記の表1に示す。
テトラデカン二酸 294.6質量部
1,4−ブタンジオール 97.7質量部。
(合成例7:ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(7)の合成)
重縮合系樹脂(CPEs)セグメントを形成するために、下記に示す組成の重縮合系樹脂(結晶性ポリエステル樹脂:CPEs3)セグメントの原料モノマーを用いたこと以外は、上記合成例1と同様にしてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(7)を得た。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(7)の数平均分子量(Mn)を下記の表1に示す。
ドデカン二酸 311.7質量部
エチレングリコール 80質量部。
(合成例8:ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(8)の合成)
重縮合系樹脂(CPEs)セグメントを形成するために、下記に示す組成の重縮合系樹脂(結晶性ポリエステル樹脂:CPEs4)セグメントの原料モノマーを用いたこと以外は、上記合成例1と同様にしてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(8)を得た。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(8)の数平均分子量(Mn)および融点(Tm)を下記の表1に示す。
ドデカン二酸 263.2質量部
1,6−ヘキサンジオール 128.6質量部。
(合成例9:ノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)の合成)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、テトラデカン二酸281質量部および1,6−ヘキサンジオール206質量部を仕込み、この系を撹拌しながら1時間かけて内温を190℃まで昇温させた。均一に撹拌された状態であることを確認した後、触媒としてのTi(OBu)を、テトラデカン二酸の仕込み量100質量%に対して0.003質量%の量で投入した。その後、生成する水を留去しながら、6時間かけて内温を190℃から240℃まで昇温させ、さらに温度240℃の条件で6時間かけて脱水縮合反応を継続することによって重合を行うことにより、ノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)を得た。ノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)の数平均分子量(Mn)およびガラス転移点(Tg)を下記の表1に示す。
[樹脂粒子および着色剤粒子の分散液の作製]
(製造例1:ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H1)の調製)
上記合成例1で得られたハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)30質量部を溶融させて溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)に対して毎分100質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)の移送と同時に、当該乳化分散機に対して、水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水70質量部をイオン交換水で希釈した希アンモニア水を中和度65%になるように調整し、これを熱交換器で100℃に加熱しながら毎分0.1リットルの移送速度で移送した。そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cmの条件で運転することにより、固形分量30質量%のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H1)を調製した。
(製造例2〜8:ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H2)〜(H8)の調製)
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)に代えて、上記合成例2〜8で得られたハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(2)〜(8)をそれぞれ用いたこと以外は、上記製造例1と同様にして、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H2)〜(H8)をそれぞれ調製した。
(製造例9:ノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(N1)の調製)
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)に代えて、上記合成例9で得られたノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(1)を用いたこと以外は、上記製造例1と同様にして、ノンハイブリッド結晶性ポエステル樹脂微粒子の水系分散液(N1)を調製した。
(製造例10:ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)の調製)
≪第1段重合≫
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8質量部およびイオン交換水3000質量部を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。昇温後、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させたものを添加し、再度液温80℃とし、
スチレン 480質量部
n−ブチルアクリレート 250質量部
メタクリル酸 68質量部
からなる単量体を1時間かけて滴下後、80℃にて2時間加熱、撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液(x1)を調製した。
≪第2段重合≫
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム7質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた溶液を仕込み、98℃に加熱後、樹脂微粒子の分散液(x1)260質量部と、
スチレン 240質量部
n−ブチルアクリレート 111質量部
メタクリル酸 31質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 5.0質量部
離型剤:ベヘン酸ベヘニル(融点73℃) 83質量部
フィッシャートロプシュワックス(融点76℃) 83質量部
からなる単量体混合液(離型剤を含む)を75℃にて溶解させた溶液を添加し、循環経路を有する機械式分散機「CLEARMIX」(エム・テクニック社製)により、1時間混合分散させ、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。
次いで、この分散液に、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を84℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂微粒子の分散液(x2)を調製した。
≪第3段重合≫
さらに、樹脂微粒子の分散液(x2)にイオン交換水400質量部を添加し、よく混合した後、過硫酸カリウム11質量部をイオン交換水400質量部に溶解させた溶液を添加し、82℃の温度条件下で、
スチレン 420質量部
n−ブチルアクリレート 145質量部
アクリル酸 49質量部
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 10質量部
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、ビニル樹脂(StAc樹脂)からなる樹脂微粒子の水系分散液(X1)を調製した。
得られたビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)に含まれるビニル樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は250nmであり、ガラス転移点(Tg)は52℃であり、重量平均分子量(Mw)は32,000であった。
(製造例11〜14:ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X2)〜(X5)の調製)
製造例10に従い、離型剤の種類を、ベヘン酸ベヘニル/フィッシャートロプシュワックスから下記表2に示す種類にそれぞれ変更したこと以外は、製造例1と同様にしてビニル樹脂微粒子の水系分散液(X2)〜(X5)をそれぞれ調製した。なお、このとき、離型剤の総質量部数は変更せずに各水系分散液を調製した。また、ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X2)〜(X5)にそれぞれ含まれるビニル樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は180〜300nmの範囲内であり、ガラス転移点(Tg)は45〜55℃の範囲内であり、重量平均分子量(Mw)は25,000〜40,000の範囲内であった。
(製造例15:非晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(AD−1)の調製)
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物530質量部、テレフタル酸145質量部、フマル酸85質量部、および重縮合触媒としてチタンテトライソプロポキシド3質量部を15回に分割して入れ、200℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら12時間反応させた。次いで、13.3kPa(100mmHg)の減圧下で反応させ、軟化点が105℃になった時点で取り出し、非晶性ポリエステル樹脂(a−1)を得た。
この非晶性ポリエステル樹脂(a−1)600質量部を、「ランデルミル 形式:RM」(徳寿工作所社製)で粉砕し、あらかじめ作製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液1800質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(日本精機製作所製)を用いてV−LEVEL、300μAで150分間超音波分散し、非晶性ポリエステル樹脂(a−1)が分散された非晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(AD−1)を作製した。
(製造例16:離型剤分散液(WD−1)の調製)
離型剤としてベヘン酸ベヘニル60質量部と、イオン性界面活性剤「ネオゲン RK」(第一工業製薬社製)5質量部と、イオン交換水240質量部とを混合した溶液を95℃に加熱し、ホモジナイザー「ウルトラタックスT50」(IKA社製)を用いて十分に分散した後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーを用いて分散処理することにより、離型剤分散液(WD−1)を作製した。
(製造例17:離型剤分散液(WD−2)の調製)
離型剤をフィッシャートロプシュワックスに変更したこと以外は、上記製造例16と同様にして離型剤分散液(WD−2)を作製した。
(製造例18:シェル用非晶性樹脂微粒子の水系分散液(S1)の調製)
両反応性モノマーを含む、下記に示す組成の付加重合系樹脂(スチレンアクリル樹脂)セグメントの原料モノマーおよびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 80質量部
n−ブチルアクリレート 20質量部
アクリル酸 10質量部
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 16質量部。
また、下記の重縮合系樹脂(非晶性ポリエステル樹脂)セグメントの原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、撹拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 285.7質量部
テレフタル酸 66.9質量部
フマル酸 47.4質量部。
次いで、フラスコの内容物を撹拌しながら、付加重合系樹脂の原料モノマーを90分かけて滴下し、60分間熟成を行ったのち、減圧下(8kPa)にて未反応の付加重合系樹脂の原料モノマーを除去した。なお、このとき除去されたモノマー量は、上記の樹脂の原料モノマー比に対してごく微量であった。
その後、エステル化触媒としてTi(OBu)を0.4質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。
次に200℃まで冷却した後、減圧下(20kPa)にて所望の軟化点に達するまで反応を行った。次いで脱溶剤を行い、非晶性樹脂としてのシェル用樹脂(s1)を得た。得られたシェル用樹脂(s1)のガラス転移点(Tg)は60℃であり、重量平均分子量(Mw)は66,700であった。
得られたシェル用樹脂(s1)100質量部を、400質量部の酢酸エチル(関東化学社製)に溶解し、予め調製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム水溶液638質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(日本精機製作所製)でV−LEVEL 300μAで30分間超音波分散した。その後、40℃に加温した状態でダイヤフラム真空ポンプ「V−700」(BUCHI社製)を使用し、減圧下で3時間撹拌しながら酢酸エチルを完全に除去して、固形分量13.5質量%のシェル用非晶性樹脂微粒子の水系分散液(S1)を調製した。上記分散液(S1)に含まれる樹脂微粒子の体積基準のメジアン径は160nmであった。
(製造例19:着色剤微粒子の水系分散液(Cy1)の調製)
ラウリル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に添加した。この溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.Pigment Blue 15:3)420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤微粒子の水系分散液(Cy1)を調製した。上記分散液(Cy1)に含まれる着色剤微粒子の体積基準のメジアン径は110nmであった。
〔実施例1:トナー(1)の作製〕
(混合液調製工程および凝集・融着工程)
撹拌装置、温度センサーおよび冷却管を取り付けた反応容器に、ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)195質量部(固形分換算)、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H1)30質量部(固形分換算)を投入し、さらに全量が2000質量部となるようにイオン交換水を投入した後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加し、溶液のpHを10に調整した。
その後、着色剤微粒子の水系分散液(Cy1)40質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム水溶液(塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液)を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。次いで、この系を60分間かけて82℃まで昇温し、82℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径が6.0μmになった時点で、79℃まで冷却し、シェル用非晶性樹脂微粒子の水系分散液(S1)75質量部(固形分換算)を30分間かけて投入し、反応液の上澄みが透明になった時点で、74℃まで冷却し、塩化ナトリウム水溶液(塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液)を添加して粒子成長を停止させた。74℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、トナーの平均円形度の測定装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個)平均円形度が0.945になった時点で10℃/分の冷却速度で30℃に冷却し、トナー母体粒子(1X)の分散液を得た。
(洗浄・乾燥工程)
凝集・融着工程にて生成したトナー母体粒子(1X)の分散液について固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した後、40℃で24時間乾燥させることにより、トナー母体粒子(1X)を得た。
(外添剤処理工程)
得られたトナー母体粒子(1X)100質量部に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)0.6質量部および疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)1.0質量部を添加し、「ヘンシェルミキサー」(三井三池化工機社製)により回転翼周速35mm/secで、32℃にて20分間混合した後、45μmの目開きの篩を用いて粗大粒子を除去する外添剤処理を施すことにより、トナー(1)を作製した。
〔実施例2〜8:トナー(2)〜(8)の作製〕
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H1)に代えて、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H2)〜(H8)をそれぞれ用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、トナー(2)〜(8)をそれぞれ作製した。
〔実施例9〜10:トナー(9)〜(10)の作製〕
実施例1の製造方法に従い、ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)に代えて、(ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X2)、(X3)をそれぞれ用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、トナー(9)〜(10)をそれぞれ作製した。
〔実施例11:トナー(11)の作製〕
(混合液調製工程および凝集・融着工程)
撹拌装置、温度センサーおよび冷却管を取り付けた反応容器に、ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)195質量部(固形分換算)、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H1)30質量部(固形分換算)並びにイオン交換水2000質量部を投入した後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加して溶液のpHを10に調整した。
その後、着色剤微粒子の水系分散液(Cy1)40質量部(固形分換算)を投入し、次いで、塩化マグネシウム水溶液(塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液)を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。次いで、この系を60分間かけて82℃まで昇温し、82℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径が6.0μmになった時点で、74℃まで冷却し、塩化ナトリウム水溶液(塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液)を添加して粒子成長を停止させた。74℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、トナーの平均円形度の測定装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個)平均円形度が0.945になった時点で10℃/分の冷却速度で30℃に冷却し、トナー母体粒子(11X)を得た。
(洗浄・乾燥工程)
凝集・融着工程にて生成したトナー母体粒子(11X)の分散液について固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄した後、40℃で24時間乾燥させることにより、トナー粒子(11X)を得た。
(外添剤処理工程)
得られたトナー母体粒子(11X)100質量部に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)0.6質量部および疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)1.0質量部を添加し、「ヘンシェルミキサー」(三井三池化工機社製)により回転翼周速35mm/secで、32℃にて20分間混合した後、45μmの目開きの篩を用いて粗大粒子を除去する外添剤処理を施すことにより、トナー(11)を作製した。
〔実施例12〜13:トナー(12)〜(13)の作製〕
ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)に代えて、ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X2)〜(X3)をそれぞれ用いたこと以外は、上記実施例11と同様にして、トナー(12)〜(13)をそれぞれ作製した。
〔実施例14〜15:トナー(14)〜(15)の作製〕
ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)およびハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H1)に代えて、ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X2)〜(X3)、およびハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H8)をそれぞれ用いたこと以外は、上記実施例11と同様にして、トナー(14)〜(15)をそれぞれ作製した。
〔比較例1:トナー(16)の作製〕
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H1)を用いなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして、トナー(16)を作製した。
〔比較例2〜3:トナー(17)〜(18)の作製〕
ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)に代えて、ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X4)〜(X5)をそれぞれ用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、トナー(17)〜(18)をそれぞれ作製した。
〔比較例4:トナー(19)の作製〕
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H1)に代えて、ノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(N1)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、トナー(19)を作製した。
〔比較例5:トナー(20)の作製〕
ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)およびハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H1)に代えて、ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X2)およびノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(N1)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、トナー(20)を作製した。
〔比較例6:トナー(21)の作製〕
ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)およびハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(H1)に代えて、ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X3)およびノンハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(N1)を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、トナー(21)を作製した。
〔比較例7:トナー(22)の作製〕
ビニル樹脂微粒子の水系分散液(X1)を非晶性ポリエステル樹脂微粒子の水系分散液(AD−1)200質量部に変更し、さらに離型剤分散液(WD−1)27質量部および離型剤分散液(WD−2)27質量部を非晶性ポリエステル樹脂分散液(AD−1)と同時に添加した以外は、上記実施例1と同様にしてトナー(22)を作製した。
以下の表3に、各トナーの調製条件を示す。
[現像剤の作製]
実施例および比較例で作製したトナー(1)〜(22)のそれぞれに対して、シリコーン樹脂を被覆した体積基準のメジアン径60μmのフェライトキャリアをトナー濃度が6質量%となるように添加して混合することにより、現像剤(1)〜(22)をそれぞれ作製した。
[トナーおよび現像剤の評価]
(トナー母体粒子の断面観察)
下記の装置および条件で、トナー母体粒子の断面を観察した。
・観察条件
装置:透過型電子顕微鏡「JEM−2000FX」(日本電子社製)
試料:四酸化ルテニウム(RuO)によって染色したトナー母体粒子の切片(切片の厚さ:60〜100nm)
加速電圧:80kV
倍率:50,000倍、明視野像
観察:二次電子像。
・トナー母体粒子の切片の作製方法
得られたトナー(1)3質量部をポリオキシエチルフェニルエーテルの0.2%水溶液35質量部に添加して分散させた後、超音波(日本精機製作所製、US−1200T)により25℃で5分間処理を行い、外添剤をトナー表面から取り除き、TEM観察用のトナー母体粒子を得た。他のトナーについても上記と同様にして外添剤を除去し、TEM観察用のトナー母体粒子を得た。本発明においては、上記操作後の粒子の断面積が評価対象となる。
上記で得られたトナー母体粒子10mgを下記に示す四酸化ルテニウム(RuO)蒸気染色条件下で1〜2回染色後、光硬化性樹脂「D−800」(日本電子株式会社製)中に分散させ、光硬化させてブロックを形成した。次いで、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて、上記のブロックから厚さ60〜100nm超薄片状のサンプルを切り出した。
・四酸化ルテニウム染色条件
染色は、真空電子染色装置VSC1R1(フィルジェン株式会社製)を用いて行った。装置手順に従い、染色装置本体に四酸化ルテニウムが入った昇華室を設置し、作製した上記超薄切片を染色チャンバー内に導入後、四酸化ルテニウムによる染色条件として、室温(24〜25℃)、濃度3(染色ガスの圧力:300Pa)、時間10分の条件下で染色した。
・結晶構造の観察
染色後、24時間以内に透過型電子顕微鏡「JEM−2000FX」(日本電子株式会社製)を用いて、二次電子像にて観察した。
その結果、実施例に係るトナー(1)〜(15)には、構造体、および離型剤と接触していないラメラ状結晶構造の両方が観察された。一方、比較例に係るトナー(16)には、構造体もラメラ状結晶構造も観測されなかった。また、比較例に係るトナー(17)には、構造体が観察されず、トナー(18)には、離型剤と接触していないラメラ状結晶構造が観察されず、トナー(19)〜(21)には、構造体は観察されるものの、離型剤と接触していない結晶性樹脂は糸状結晶構造をとっていた。なお、「糸状結晶構造」とは、上記定義の通りである。さらに、トナー(22)は、構造体は観察されるものの、離型剤と接触していないラメラ状結晶構造はほとんど形成していなかった。トナー(22)中、結晶性ポリエステル樹脂は、主として構造体および糸状結晶構造として観察された。
また、トナー(1)〜(15)においては、トナー母体粒子100個のうち60%(60個)以上の粒子の断面に、構造体およびラメラ状結晶構造の両方が確認された。さらに、トナー(1)〜(15)の断面においては、構造体およびラメラ状結晶構造以外の構造を有する結晶性樹脂は観察されなかった。
一方、トナー(17)については、トナー母体粒子100個のうち60%(60個)以上の粒子の断面に、ラメラ状結晶構造が確認された。また、トナー(18)については、トナー母体粒子100個のうち60%(60個)以上の粒子の断面に構造体が観測された。さらに、トナー(19)〜(21)については、トナー母体粒子100個のうち60%(60個)以上の粒子の断面に、構造体および糸状結晶構造が観測された。また、トナー(22)については、トナー母体粒子100個のうち60%(60個)以上の粒子の断面に、構造体、糸状結晶構造およびラメラ状結晶構造(ただし、ラメラ状結晶構造は非常に少ない)が観測された。
・構造体、ラメラ状結晶構造および糸状結晶構造の大きさ(平均ドメイン径、平均長径)の測定方法
トナー母体粒子の断面における構造体およびラメラ状結晶構造の大きさ(ドメイン径)は、構造体およびラメラ状結晶構造の水平方向フェレ径(FERE H)として算出した。具体的には、上記と同様にして作製したトナー母体粒子の断面を、透過型電子顕微鏡JEM−2000FX(日本電子株式会社製)により、加速電圧80kVにて50,000倍で撮影し、写真画像をスキャナーにより取り込み、画像処理解析装置LUZEX AP(株式会社ニレコ製)を用いて、構造体および各結晶構造の水平方向フェレ径(FERE H)を測定した。また、同様にして、糸状構造の長径(長軸)および短径(短軸)を測定した。構造体およびラメラ状結晶構造の平均ドメイン径の測定は、トナー母体粒子100個のうち、構造体とラメラ状結晶構造とが共に観察されたものについての算術平均値として算出した。また、比較例に係るトナー(17)については、ラメラ状結晶構造が観測されたものについて、トナー(18)については、構造体が観測されたものについて、トナー(19)〜(22)については、構造体および糸状結晶構造(トナー(22)については、ラメラ状結晶構造が存在しているものも含む)が観測されたものについて、それぞれ算術平均値を算出した。
・構造体およびラメラ状結晶構造の断面積比率
上述した構造体およびラメラ状結晶構造の大きさの測定方法と同様の方法により、これらの断面積比率(A/B)を測定した。トナー母体粒子の断面積に対する構造体の断面積比率Aおよびトナー母体粒子の断面積に対するラメラ状結晶構造の断面積比率Bを、画像処理解析装置 LUZEX AP(株式会社ニレコ製)の「面積AREA」を用いて測定した。なお、面積は外側の輪郭で囲まれた領域(例えば、構造体は図3の点線で囲った領域、ラメラ状結晶構造は図3の符号4で示されるラメラ状結晶構造を実線で囲った領域)を測定した。この断面積比率についても、トナー(1)〜(15)においては、トナー母体粒子100個のうち、構造体とラメラ状結晶構造とが共に観察されたものについての算術平均値として算出した。なお、比較例に係るトナー(17)については、ラメラ状結晶構造が観測されたものについて、トナー(18)については、構造体が観測されたものについて、トナー(19)〜(22)については、構造体および糸状結晶構造(トナー(22)については、ラメラ状結晶構造が存在しているものも含む)が観測されたものについて、それぞれ算術平均値を算出した。
以下の表4に、各トナーの結晶構造の観察結果を示す。
(物性評価)
(1)低温定着性
画像形成装置として、市販のフルカラー複合機「bizhub(登録商標) C754」(コニカミノルタ社製)の、定着上ベルトおよび定着下ローラーの表面温度を変更可能に改造したものを用い、現像剤として現像剤(1)〜(22)をそれぞれ搭載し、常温常湿(温度20℃、相対湿度50%RH)の環境下で、記録材「mondi Color Copy A4 90g/m」(mondi株式会社製)上に、トナー付着量11.3g/mのベタ画像を以下の条件で出力した。すなわち、ニップ幅11.2mm、定着時間34msec、定着圧力133kPa、定着温度100〜200℃にて出力する試験を行った。当該試験は、定着温度を5℃刻みで変更しながら、コールドオフセットが発生するまで繰り返し行った。そして、コールドオフセットが発生しなかった最低の定着上ベルトの表面温度を調査し、これを定着下限温度として低温定着性を評価した。結果を下記の表5に示す。なお、各試験において、「定着温度」とは定着上ベルトの表面温度をいう。また、定着下限温度が低いほど低温定着性に優れることを示す。
(2)高速定着性
画像形成装置として、市販のフルカラー複合機「bizhub(登録商標) C754」(コニカミノルタ社製)の、定着上ベルトおよび定着下ローラーの表面温度を変更可能に改造したものを用い、現像剤として現像剤(1)〜(22)をそれぞれ搭載し、常温常湿(温度20℃、相対湿度50%RH)の環境下で、記録材「mondi Color Copy A4 90g/m」(mondi株式会社製)上に、トナー付着量11.3g/mのベタ画像を以下の条件で定着させた。すなわち、ニップ幅11.2mm、定着時間34msec、定着圧力133kPa、初期プロセススピードを200mm/secに設定し、設定スピードを25mm/secずつ順次上昇させながら、各プロセススピードにおける未定着画像の定着を行った(定着可能線速の上限を300mm/secとした)。なお、設定温度は低温定着性の評価における各トナーの定着下限温度とした。低温オフセットが確認されず、かつ、折り機を用いて得られた定着画像を折り、これに0.35MPaの空気を吹きつけ、限度見本を参照して折り目の状態を下記の5段階に評価したときにランク2以上となるプロセススピードの上限値を、定着可能なプロセススピード(定着可能線速)とした。また、定着可能線速時の条件のときの折りランクを下記の5段階で評価した。結果を下記の表5に示す。
なお、ここでは、定着可能線速が300mm/sec以上、折りランク3〜5を合格レベルとした。
−折りランク−
ランク5:全く折れ目に剥離なし;
ランク4:一部折り目に従い剥離あり;
ランク3:折り目に従い細い線状の剥離あり;
ランク2:折り目に従い太い剥離あり;
ランク1:画像に大きな剥離あり。
(3)ドキュメント保存性
「bizhub(登録商標) C754」(コニカミノルタ株式会社製)の改造機を使用し、常温常湿(20℃、50%RH)の環境下で、記録材「PODグロスコート紙 A4 128g/m」(王子製紙社製)上にて、3cm×2cm面積のパッチ上にトナー付着量10g/mの未定着画像を形成し、ニップ幅11.2mm、定着時間34msec、定着圧力133kPa、75°光沢度計にて光沢度が60%になるように定着後、画像部と、非画像部及び画像部とが重なるように向かい合わせて重ね、重ねた部分に対して80g/cm相当になるように重りを載せ、50℃、相対湿度50%RHの恒温恒湿槽で7日間放置した。放置後、重ねた2枚の定着像の画像欠損度合いを以下に示す「G1」〜「G5」の5段階でグレード付けした。なお、ここではG3〜G5を合格レベルとした。結果を下記の表5に示す。
−評価基準−
G1:互いの画像部が接着した為、画像が定着されている紙ごと剥がれて、画像欠損が激しく、また非画像部へ明らかな画像の移行が見られる;
G2:画像同士が接着していた為、画像部のところどころに画像欠損の白抜けが発生している;
G3:重ねた2枚の画像を離す際、互いの定着表面に画像のあれやグロス低下は発生するが、画像としては画像欠損が殆どなく許容できるレベル。非画像部に若干の移行が見られる;
G4:重ねた2枚の画像を離す時に、パリッと音がし、非画像部にもわずかに画像移行が見られるが、画像欠損はなく、全く問題無いレベル;
G5:画像部、非画像ともに全く画像欠損や画像移行が見られない。
(4)定着分離性
「bizhub(登録商標) C754」(コニカミノルタ株式会社製)の改造機を使用し、常温常湿環境(温度25℃、相対湿度50%RH)において一晩放置して調湿した記録材「金藤85g/m T目」(王子製紙株式会社製)上に、常温常湿環境(温度25℃、相対湿度50%RH)において、ニップ幅11.2mm、定着時間34msec、定着圧力133kPa、上ベルトが160℃となる定着温度で、トナー付着量4.0g/mの全面ベタ画像を、先端余白を8mmとして出力する試験を、先端余白を7mm、6mm・・・と1mm単位で減少させるよう変化させながら、紙詰まり(ジャム)が発生するまで繰り返し行い、紙詰まり(ジャム)が発生しなかった最小の先端余白を調査し、これによって定着分離性を評価した。最小の先端余白が小さい方が定着分離性に優れることを示す。結果を下記の表5に示す。本発明においては、評価基準○以上を合格とした。
−評価基準−
◎:先端余白が2mm以下;
〇:先端余白が2mmを超え、3mm以下;
△:先端余白が3mmを超え、4mm以下;
×:先端余白が4mmを超える。
(5)帯電量の環境依存性
キャリア19gとトナー1gとを20mlガラス製容器に入れ、毎分200回、振り角度45度、アーム50cmで20分間、下記の二つの環境(低温低湿環境、高温高湿環境)で振った後、ブローオフ法で帯電量を測定した。
低温低湿環境:10℃、10%RH雰囲気に設定
高温高湿環境:30℃、85%RH雰囲気に設定
低温低湿環境での帯電量と高温高湿環境での帯電量の差により、下記のようにランク評価した。結果を下記の表5に示す。本明細書においては、「良好」以上を合格とする。
−評価基準−
優良:5μC/g未満;
良好:5μC/g以上8μC/g未満;
実用可:8μC/g以上12μC/g未満;
実用不可:12μC/g以上。
以上のように、トナー(1)〜(15)は、低温定着性を有しながらも、高速定着性、ドキュメント保存性および定着分離性に優れ、さらに帯電性の環境依存性が小さいという特性を示した。
他方、本発明に係る構造体、および離型剤とは接触していないラメラ状結晶構造のいずれか(あるいは両方)を含んでいないトナー(16)〜(21)は、上記のいずれかの評価項目において実用性に欠け、低温定着性、高速定着性、ドキュメント保存性、および定着分離性について、すべてをバランスよく満足するトナーではないことが示された。また、比較例に係るトナー(22)は、非晶性樹脂としてビニル樹脂を含んでおらず、かようなトナーは、帯電性の環境依存性が特に悪化することが示された。
1 結晶性樹脂、
2 離型剤、
3 構造体、
4 離型剤とは接触していないラメラ状結晶構造を有する結晶性樹脂、
5 ビニル樹脂
10 ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂、
11 ビニル樹脂セグメント、
12 結晶性ポリエステル樹脂セグメント。

Claims (12)

  1. 主成分としてのビニル樹脂および結晶性樹脂を含む結着樹脂と、離型剤と、を含有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
    前記トナー母体粒子の断面に、
    前記結晶性樹脂と前記離型剤とが接触してなる構造体と、
    前記離型剤とは接触していないラメラ状結晶構造を有する前記結晶性樹脂と、を含む、静電荷像現像用トナー。
  2. 前記結晶性樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂である、請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
  3. 前記構造体の平均ドメイン径が200〜2500nmである、請求項1または2に記載の静電荷像現像用トナー。
  4. 前記ラメラ状結晶構造の平均ドメイン径が、100〜2000nmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
  5. 前記トナー母体粒子の断面積に対する、前記構造体および前記ラメラ状結晶構造の総断面積比率が、1〜50%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
  6. 前記トナー母体粒子の断面積に対する前記構造体の断面積比率Aと、
    前記トナー母体粒子の断面積に対する前記ラメラ状結晶構造の断面積比率Bとが、下記数式(1)の関係を満たす、請求項1〜5のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
  7. 前記トナー母体粒子の断面積に対する前記構造体の断面積比率Aが、1〜25%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
  8. 前記トナー母体粒子の断面積に対する前記ラメラ状結晶構造の断面積比率Bが、1〜25%である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
  9. 前記結晶性樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂セグメントとポリエステル樹脂以外の非晶性樹脂セグメントとが化学的に結合した、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の静電荷現像用トナー。
  10. 前記ポリエステル樹脂以外の非晶性樹脂セグメントが、ビニル樹脂セグメントである、請求項9に記載の静電荷現像用トナー。
  11. 前記ポリエステル樹脂以外の非晶性樹脂セグメントの含有量が、前記ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の全量に対して5〜30質量%である、請求項9または10に記載の静電荷像現像用トナー。
  12. 前記トナー母体粒子は、コア粒子と前記コア粒子表面を被覆してなるシェル部とを有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
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