鋼の連続鋳造では、鋳型内に注入された溶鋼は水冷式鋳型によって冷却され、鋳型との接触面で溶鋼が凝固して凝固層(「凝固シェル」という)が生成される。この凝固シェルを外殻とし、内部を未凝固層とする鋳片は、鋳型下流側に設置された水スプレーや気水スプレーによって冷却されながら鋳型下方に連続的に引き抜かれる。鋳片は、水スプレーや気水スプレーによる冷却によって中心部まで凝固し、その後、ガス切断機などによって切断されて、所定長さの鋳片が製造されている。
鋳型内における冷却が不均一になると、凝固シェルの厚みが鋳片の鋳造方向及び鋳型幅方向で不均一になり、その結果、凝固シェルの表面は平滑にならない。凝固シェルには、凝固シェル自体の収縮や変形に起因する応力が作用し、特に、凝固の初期段階で凝固シェル厚みが不均一になると、当該応力が凝固シェルの薄肉部に集中し、この応力によって凝固シェルの表面に微細な縦割れが発生する。この微細な縦割れは、鋳片が完全に凝固した後も残存し、鋳片表面の縦割れとなる。微細な縦割れの一部は、その後の熱応力や連続鋳造機のロールによる曲げ応力及び矯正応力などの外力によって拡大し、大きな縦割れとなる。鋳片に存在する縦割れは、次工程の圧延工程で表面欠陥になることから、鋳造後の鋳片の段階において、鋳片の表面を手入れして表面割れを除去することが必要となる。
また、鋳型は鋳造方向に振動(「オシレーション」ともいう)しており、この鋳型振動によって凝固シェルの上端部は溶鋼側に曲げられ、曲げられた凝固シェルと鋳型内壁面との空隙に溶鋼が溢流することで、凝固シェルに、溶鋼側に張り出した形状の「爪状突起」が形成される。凝固シェルの表面が平滑でない場合は、曲げられた凝固シェルと鋳型内壁面とで形成する空隙が拡大して、凝固シェルの爪状突起が拡大する。溶鋼側に張り出した爪状突起が拡大することによって、メニスカス(鋳型内溶鋼湯面)において、溶鋼中を浮上する非金属介在物や気泡が爪状突起に捕捉され、捕捉された非金属介在物や気泡は、熱間圧延後の鋼板または冷間圧延後の鋼板で表面疵や膨れなどの表面欠陥の原因となる。
鋳片の縦割れに起因する鋼板の表面欠陥、及び、爪状突起に捕捉された非金属介在物、気泡に起因する鋼板の表面欠陥の発生傾向は、連続鋳造機における鋳造速度(「鋳片引き抜き速度」ともいう)の増加に伴って高まる。今日では、一般的なスラブ連続鋳造機の鋳造速度は10年前と比較して約1.5〜2倍に向上しており、それに伴って手入れ作業も増加している。近年、技術的に確立されつつある直送加熱圧延(いわゆるホットチャージ)や直送圧延(いわゆるダイレクトチャージ)においても、鋳片の手入れ作業は操業の安定化を阻害する要因になっている。したがって、凝固の初期段階における不均一冷却に起因する凝固シェル厚みの不均一な成長及び爪状突起の発生を抑制することは、経済的に極めて有利である。
凝固の初期段階における不均一冷却を防止するためには、凝固の初期段階で均一且つ緩やかな冷却を行ない、凝固シェルの厚みを均一に成長させる必要がある。また、凝固の初期段階で均一且つ緩やかな冷却を行なうことで、凝固シェルは平滑になり、凝固シェルの爪状突起の生成を抑制することも可能になる。
この点に関して、非特許文献1は、厚み280mm、幅280mmのビレット鋳片の連続鋳造において、鋳片の表面性状を改善するためには、鋳型内壁面に凹凸を付与することが有効であると記載している。また、特許文献1は、不均一冷却に伴う縦割れや、爪状突起の発生を抑制して鋳片の表面性状を図る手段として、直径または幅が3〜80mm、深さが0.1〜1.0mmの凹部を鋳型内壁面に設けることを提案している。更に、特許文献2は、スラブ鋳片の縦割れを防止する手段として、鋳型長辺幅方向の少なくとも中央部の内壁面に、モールドパウダーの粘性率に応じた溝幅及び溝深さを設定した溝をメニスカスに交叉して形成することを提案している。
これらの技術は、いずれもメニスカスにモールドパウダーを投入し、鋳型と凝固シェルとの隙間に溶融したモールドパウダーを流入させ、且つ、鋳型内癖面に設けた凹凸部で空気層やモールドパウダー層を形成し、形成した空気層やモールドパウダー層の断熱性を利用して緩やかな冷却を実現しようとする技術である。
しかしながら、これらの技術を実機の連続鋳造操業に適用すると種々の問題が生じる。例えば、幅変更が可能なスラブ連続鋳造機の鋳型は鋳型長辺と鋳型短辺との組み合わせ鋳型であるので、鋳型長辺の内癖面に設けた凹部が鋳型コーナー部に一致する場合には、鋳型長辺の凹部は鋳型短辺で覆われず、鋳型内に溶鋼を注入して連続鋳造を開始する際に、溶鋼または溶鋼のスプラッシュが鋳型コーナー部の凹部に差し込むという問題が発生する。また、連続鋳造の途中で浸漬ノズルやタンディッシュを交換するときは、鋳型内の溶鋼湯面位置を定常鋳込み状態の溶鋼湯面位置よりも低下させることから、浸漬ノズル交換またはタンディッシュ交換後、溶鋼の鋳型内への再注入時に、溶鋼や溶鋼のスプラッシュが鋳型コーナー部の凹部に差し込むという問題も発生する。
溶鋼が凹部に差し込と、鋳型の幅変更が阻害されるのみならず、凝固シェルと鋳型とが固着して、凝固シェルの引き抜きができなくなり、拘束性ブレークアウトが発生する原因になる。
ところで、連続鋳造鋳片の厚み中心部は、鋼材の品質を劣化させる中心偏析が発生しやすい。このため、連続鋳造鋳片では、鋳片表層部の縦割れ、非金属介在物、気泡を軽減することのみならず、鋳片中心部の中心偏析を軽減することも要求されている。
この中心偏析の生成機構は、以下のように考えられている。即ち、鋼の凝固過程における最終凝固部では、炭素、燐、硫黄などの溶質元素が、未凝固部であるデンドライト樹間に濃縮される。また、鋼が凝固すると体積収縮が起こり、この凝固収縮に伴って生成する負圧を解消するべく、連続鋳造鋳片の場合には、鋳片の引き抜き方向へ溶鋼が吸引されて流動する。しかし、連続鋳造鋳片の凝固末期の未凝固層には十分な量の溶鋼が存在しないので、炭素、燐、硫黄などの溶質元素が濃化されたデンドライト樹間の溶鋼(濃化溶鋼という)が流動をおこし、それが鋳片厚み方向中心部に集積して凝固する。溶質成分の濃縮された溶鋼が集積して凝固することで、鋳片厚み中心部に溶質成分の濃化帯が形成される。この濃化帯が中心偏析である。凝固末期に濃化溶鋼が流動する要因としては、上記の凝固収縮の他に、溶鋼静圧による鋳片凝固シェルのロール間でのバルジング(膨らみ)や、鋳片支持ロールのロールアライメントの不整合なども挙げられる。
鋳片の中心偏析の防止対策として、デンドライト樹間に存在する濃化溶鋼の移動を防止すること、及び、この濃化溶鋼の局所的な集積を防ぐことが効果的であり、これらの原理を利用したいくつかの方法が提案されている。
その1つとして、連続鋳造機内において、未凝固層を有する凝固末期の鋳片を、凝固収縮量と熱収縮量との和に相当する程度の総圧下量及び圧下速度で、圧下ロール群(「軽圧下帯」という)によって徐々に圧下しながら鋳造する方法(「軽圧下」と呼ばれる)が広く行われている。ここで、総圧下量とは、圧下開始から圧下終了までの圧下量である。
この軽圧下方法は、デンドライト樹間に存在する濃化溶鋼の移動を防止することによって、中心偏析を防止する技術である。但し、凝固収縮量を若干上回る程度の総圧下量で十分であることから、圧下力は弱い。つまり、軽圧下方法においては、圧下力が弱いことから、鋳片の凝固完了位置が鋳片幅方向で同一位置でないときには、すでに凝固完了した部位が圧下抵抗になり、圧下すべき未凝固の部位に圧下力が付与されないことが発生する。このような場合、圧下力が付与されない部分では中心偏析の改善効果は少ない。
そこで、軽圧下方法において、凝固完了した鋳片短辺側を圧下することなく、総圧下量を増大させ且つ圧下による連続鋳造機への負荷を緩和することを目的として、幾つかの提案がなされている。
例えば、特許文献3には、バルジング開始時の鋳片の厚みの3%以上25%以下の範囲で鋳片を強制的にバルジングさせ、その後、鋳片厚み中心部固相率が0.2以上0.7以下の鋳片の位置を、総バルジング量の30%以上70%以下に相当する厚みだけ圧下する連続鋳造方法が提案されている。また、特許文献4には、鋳片を強制的に3〜20mmの範囲でバルジングさせ、その後、鋳片厚み中心部の固層率が0.2〜0.9の鋳片を、圧下速度と鋳造速度との積が0.3〜1.0mm・m/min2となる条件で、強制的にバルジングさせた鋳片の膨らみ量と同等かそれよりも小さい量を軽圧下する連続鋳造方法が提案されている。
しかしながら、特許文献3では、急激にバルジングさせた場合やバルジング量が大きすぎる場合には、バルジング歪によって鋳片に内部割れが発生する可能性があり、また、バルジング開始時期が早すぎる場合には、ブレークアウトが発生する可能性がある。また、バルジングさせた後の鋳片の形状によっては、鋳片厚み中心部に適正な圧下力が伝わらず、中心偏析が改善しない場合が発生するという問題もある。
特許文献4では、鋳片に対して適切な圧下力が付与されるが、鋳片の初期凝固を制御しておらず、初期凝固が不均一な場合は、最終凝固部の凝固界面が平滑でなく、軽圧下の効果が十分に得られない場合が発生する。つまり、鋳片の凝固完了位置が鋳片幅方向で同一位置でないときには、特許文献4であっても軽圧下の効果は十分に得られない。
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を具体的に説明する。図1は、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法に用いられるスラブ連続鋳造機の一例の側面概略図である。
図1に示すように、スラブ連続鋳造機1には、溶鋼9を注入して凝固させ、鋳片10の長方形の外殻を形成するための銅製水冷式の鋳型5が設置され、この鋳型5の上方所定位置には、取鍋(図示せず)から供給される溶鋼9を鋳型5に中継供給するためのタンディッシュ2が設置されている。タンディッシュ2の底部には、溶鋼9の流量を調整するためのスライディングノズル3が設置され、このスライディングノズル3の下面には浸漬ノズル4が設置されている。一方、鋳型5の下方には、サポートロール、ガイドロール及びピンチロールからなる複数対の鋳片支持ロール6が配置されている。鋳造方向に隣り合う鋳片支持ロール6の間隙には、水スプレーノズル或いはエアーミストスプレーノズルなどのスプレーノズル(図示せず)が配置された二次冷却帯が構成され、二次冷却帯の各スプレーノズルから噴射される冷却水(以後、「二次冷却水」ともいう)によって鋳片10は引き抜かれながら冷却されるようになっている。また、鋳造方向最終の鋳片支持ロール6の下流側には、鋳造された鋳片10を搬送するための複数の搬送ロール7が設置されており、この搬送ロール7の上方には、鋳造される鋳片10から所定の長さの鋳片10aを切断するための鋳片切断機8が配置されている。
鋳片10の凝固完了位置13の鋳造方向上流側には、鋳片10を挟んで対向する鋳片支持ロール間の間隔(以後、この間隔を「ロール開度」という)を鋳造方向下流側に向かって順次狭くなるように設定された、つまり圧下勾配(鋳造方向下流に向かって順次狭くなるように設定されたロール開度の状態)が設定された、複数対の鋳片支持ロール群から構成される軽圧下帯14が設置されている。ここでは、その全域または選択した一部の領域で、鋳片10に軽圧下を行うことが可能である。
図1では、凝固完了位置13の鋳造方向上流側に軽圧下帯14が設置されているが、これは、鋳片厚み中心部の固相率が0.9となる部位の鋳片が軽圧下帯14の下端に位置し、鋳片厚み中心部の固相率が0.9を超えた鋳片は軽圧下帯14から直ちに遠ざかるようにするためである。このようにすることで、鋳片10の中心偏析が抑制され、且つ、剛性が高く、圧下抵抗の大きい鋳片厚み中心部の固相率が0.9を超えた部位に圧下力が付与されず、軽圧下帯14の圧下負荷が軽減される。
但し、これは、鋳造速度が目標とする所定値となった定常鋳造域での理想的な状態を示すものであり、取鍋交換時や鋳造終了時の鋳造速度が目標とする値よりも遅い場合には、凝固完了位置13が鋳造方向上流側に移動し、軽圧下帯14の範囲内に入ることが起こり得る。本実施形態では、鋳片厚み中心部の固相率が少なくとも0.2から0.9までの鋳片が、軽圧下帯14の設置範囲内に入るようにすればよく、この条件を満足すれば、どのような形態であってもよい。
軽圧下帯14は、複数対の鋳片支持ロール6が一体的に配置されるロールセグメントで形成されてもよく、また、それぞれの鋳片支持ロール6が油圧によってそれぞれ独立して移動する複数対の鋳片支持ロール6で形成されていてもよい。但し、いずれの場合も、定常鋳造域の鋳造速度のときには、鋳片厚み中心部の固相率が0.2から0.9までの鋳片が軽圧下帯14の範囲内に入るように、軽圧下帯14の鋳造方向長さを確保することが必要である。
通常、軽圧下帯14における圧下勾配は、鋳造方向1mあたりのロール開度絞り込み量、つまり「mm/m」で表示されており、したがって、軽圧下帯14における鋳片10の圧下速度(mm/min)は、この圧下勾配(mm/m)と鋳造速度(m/min)との積で求められる。尚、軽圧下帯14を構成する各鋳片支持ロール間にも鋳片10を冷却するためのスプレーノズルが配置されている。また、軽圧下帯14に配置される鋳片支持ロール6を圧下ロールともいう。
また、図1において、鋳型5の下端から鋳片10の液相線クレータエンド位置との間に配置される鋳片支持ロール6は、鋳造方向下流側に向かって、ロール開度の拡大量が所定値となるまで、1ロール毎または数ロール毎に順次ロール開度が広くなった、内部に未凝固層12を有する鋳片10の長辺面を強制的にバルジングさせるための強制バルジング帯15を構成している。強制バルジング帯15の下流側の鋳片支持ロール6は、ロール開度が一定値または鋳片10の温度降下に伴う収縮量に見合う程度に狭められ、その後、軽圧下帯14につながっている。
図2に、スラブ連続鋳造機における鋳片支持ロール6のロール開度のプロフィルの例を示す。図2に示すように、強制バルジング帯15で鋳片長辺面を溶鋼静圧によって強制的にバルジングさせて鋳片長辺面の中央部の厚みを増大させ(領域b)、強制バルジング帯15を通りすぎた下流側では、ロール開度が一定値または鋳片10の温度降下に伴う収縮量に見合う程度に狭められ(領域c)、その後、軽圧下帯14で鋳片長辺面を圧下する(領域d)というプロフィルにしている。図中のa及びeは、ロール開度が鋳片10の温度降下に伴う収縮量に見合う程度に狭められる領域である。図中のa′は、鋳片10の温度降下に伴う収縮量に見合う程度にロール開度を狭くした、軽圧下を実施しない鋳造方法(従来方法)におけるロール開度の例である。
強制バルジング帯15では、鋳片支持ロール6のロール開度を鋳造方向下流側に向かって順次広くすることにより、鋳片10の短辺近傍を除く長辺面は、未凝固層12による溶鋼静圧によって鋳片支持ロール6のロール開度に倣って強制的にバルジングさせられる。鋳片長辺面の短辺近傍は、凝固の完了した鋳片短辺面に固持されることから、強制的なバルジングを開始した時点の厚みを維持しており、したがって、鋳片10は、強制的なバルジングによって鋳片長辺面のバルジングした部分のみが鋳片支持ロール6に接触することになる。
図3は、スラブ連続鋳造機1に設置される鋳型5の一部を構成する鋳型長辺銅板の概略側面図である。尚、図3は、内壁面側に異熱伝導金属充填部が形成された鋳型長辺銅板を内壁面側から見た概略側面図である。図4は、図3に示す鋳型長辺銅板のX−X’断面図である。
スラブ鋳片用の鋳型5は、一対の銅合金製の鋳型長辺銅板5aと一対の銅合金製の鋳型短辺銅板(図示せず)とを組み合わせて構成され、図3は、そのうちの鋳型長辺銅板5aを示している。鋳型短辺銅板も鋳型長辺銅板5aと同様に、その内壁面側に異熱伝導金属充填部17が形成されるとして、ここでは、鋳型短辺銅板についての説明は省略する。但し、スラブ鋳片においては、スラブ厚みに対してスラブ幅が極めて大きいという形状に起因して、鋳片長辺面側の凝固シェルで応力集中が起こりやすく、鋳片長辺面側で表面割れが発生しやすい。したがって、スラブ鋳片用の鋳型5の鋳型短辺銅板には、異熱伝導金属充填部17を設置しなくてもよい。
図3に示すように、鋳型長辺銅板5aにおける定常鋳造時のメニスカスの位置よりも長さL1(長さL1は、ゼロ以上の任意の値)離れた上方の位置から、メニスカスよりも長さL2だけ下方の位置までの鋳型長辺銅板5aの内壁面の範囲には、直径をdとする鋳型長辺銅板5aの熱伝導率とは異なる熱伝導率の金属が充填された、複数個の異熱伝導金属充填部17が、異熱伝導金属充填部同士の間隔をPとして、鋳型幅方向長さWの範囲に設置されている。ここで、「メニスカス」とは「鋳型内溶鋼湯面」であり、非鋳造中にはその位置は明確でないが、通常の鋼の連続鋳造操業では、メニスカス位置を鋳型銅板の上端から50mmないし200mm程度下方の位置としている。したがって、メニスカス位置が鋳型長辺銅板5aの上端から50mm下方の位置であっても、また、上端から200mm下方の位置であっても、長さL1及び長さL2が、以下に説明する条件を満足するように異熱伝導金属充填部17を配置すればよい。
即ち、凝固シェルの初期凝固への影響を勘案すれば、異熱伝導金属充填部17の設置位置は、定常鋳造時の鋳造速度Vcに応じて、下記の(1)式で算出される長さL0以上メニスカスよりも下方の位置までとすることが必要である。つまり、図3に示す、メニスカス位置からの長さL2は、長さL0以上とする必要がある。
L0=2×Vc×1000/60・・・(1)
但し、(1)式において、L0は長さ(mm)、Vcは定常鋳造時の鋳造速度(m/min)である。
長さL0は、凝固開始した後の鋳片が異熱伝導金属充填部17の設置された範囲を通過する時間に関係しており、鋳片の表面割れを抑制するためには、凝固開始後から少なくとも2秒間は、鋳片の凝固シェルが異熱伝導金属充填部17の設置された範囲内に滞在することが好ましいことを、本発明者らは確認している。鋳片が凝固開始後から少なくとも2秒間は異熱伝導金属充填部17の設置された範囲に存在するためには、長さL0は(1)式を満たすことが必要となる。
凝固開始した後の鋳片が異熱伝導金属充填部17の設置された範囲内に滞在する時間を2秒以上確保することで、異熱伝導金属充填部17による熱流束の周期的な変動の効果が十分に得られ、表面割れの発生しやすい高速鋳造時や中炭素鋼の鋳造時でも、鋳片表面割れの防止効果が得られる。異熱伝導金属充填部17による熱流束の周期的な変動の効果を安定して得るには、鋳片が異熱伝導金属充填部17の設置された範囲を通過する時間を4秒以上確保することが好ましい。
長さL2の具体的な長さは、厚みが200mm以上のスラブ連続鋳造機における鋳造速度Vcは、3.0m/min程度が上限であるので、長さL2は、100mm以上、望ましくは200mm以上となるように、メニスカス位置に応じて異熱伝導金属充填部17を設置すればよい。但し、鋳造速度の上限が2.0m/min程度の場合には、長さL2は67mmであればよい。長さL2の上限は定めなくてよく、鋳型下端まで異熱伝導金属充填部17を設置してもよい。
一方、異熱伝導金属充填部17の上端部の位置は、メニスカスと同一位置またはメニスカス位置よりも上方であれば、どこの位置であってもよく、したがって、図3に示す長さL1は、ゼロ以上の任意の値であればよい。但し、メニスカスは、鋳造中に異熱伝導金属充填部17の設置領域に存在する必要があり、しかも、メニスカスは鋳造中に上下方向に変動するので、異熱伝導金属充填部17の上端部が常にメニスカスよりも上方位置となるように、異熱伝導金属充填部17の上端部を想定されるメニスカス位置よりも10mm程度上方位置にすることが好ましく、異熱伝導金属充填部17の上端部を想定されるメニスカス位置よりも20mm〜50mm程度上方位置にすることがより好ましい。
この異熱伝導金属充填部17は、図4に示すように、鋳型長辺銅板5aの内壁面側にそれぞれ独立して加工された円形凹溝16の内部に、鋳型長辺銅板5aを構成する銅合金の熱伝導率とは異なる熱伝導率の金属が充填されて形成されたものである。
円形凹溝16の内部に充填される金属の熱伝導率は、一般的には、鋳型長辺銅板5aを構成する銅合金の熱伝導率よりも低いが、例えば、鋳型長辺銅板5aを構成する銅合金として熱伝導率の低い銅合金を使用した場合には、充填される金属の熱伝導率の方が高くなることもある。
円形凹溝16の内部に、鋳型長辺銅板5aを構成する銅合金の熱伝導率とは異なる熱伝導率の金属(以後、「充填金属」ともいう)を充填する手段としては、鍍金処理または溶射処理を適用することが好ましい。円形凹溝16の形状に合わせて加工した金属を円形凹溝16に嵌め込むなどして充填することも可能であるが、その場合には、充填金属と鋳型銅板との間に隙間や割れが生じることがある。充填金属と鋳型銅板との間に隙間や割れが生じた場合には、充填金属の亀裂や剥離が生じ、鋳型寿命の低下、鋳片の割れ、更には拘束性ブレークアウトの原因となり、好ましくない。充填金属を鍍金処理または溶射処理で充填することで、このような問題を未然に防止することができる。ここで、図4における符号18は、鋳型冷却水の流路を構成する、鋳型長辺銅板5aの背面側に設置されたスリット、符号19は、鋳型長辺銅板5aの背面と密着するバックプレートであり、スリット18を通る鋳型冷却水によって、鋳型長辺銅板5aは冷却される。
本実施形態において、鋳型銅板として使用する銅合金としては、一般的に連続鋳造用鋳型銅板として使用される、クロム(Cr)やジルコニウム(Zr)などを微量添加した銅合金を用いればよい。近年では、鋳型内の凝固の均一化または溶鋼中介在物の凝固シェルへの捕捉を防止するために、鋳型内の溶鋼を攪拌する電磁攪拌装置が設置されていることが一般的であり、電磁コイルから溶鋼への磁場強度の減衰を抑制するために、導電率を低減した銅合金が用いられている。この場合、導電率の低下に応じて熱伝導率も低減し、純銅(熱伝導率;約400W/(m×K))の1/2前後の熱伝導率の銅合金製鋳型銅板も使用されることがある。尚、鋳型銅板として使用される銅合金は、一般的に、純銅よりも熱伝導率が低い。
図5に、鋳型銅板よりも熱伝導率の低い金属が充填されて形成された異熱伝導金属充填部17を有する鋳型長辺銅板5aの三箇所の位置における熱抵抗を、異熱伝導金属充填部17の位置に対応して概念的に示す。この場合、異熱伝導金属充填部17の設置位置では熱抵抗が相対的に高くなる。
複数の異熱伝導金属充填部17を、メニスカス位置を含んでメニスカス近傍の連続鋳造用鋳型の幅方向及び鋳造方向に設置することにより、図5に示すように、メニスカス近傍の鋳型幅方向及び鋳造方向における連続鋳造用鋳型の熱抵抗が周期的に増減する分布が形成される。これによって、メニスカス近傍、つまり、凝固初期での凝固シェルから連続鋳造用鋳型への熱流束が周期的に増減する分布が形成される。
尚、鋳型銅板よりも熱伝導率の高い金属を充填して異熱伝導金属充填部17を形成した場合には、図5とは異なり、異熱伝導金属充填部17の設置位置で熱抵抗が相対的に低くなるが、この場合も、上記と同様に、メニスカス近傍の鋳型幅方向及び鋳造方向における連続鋳造用鋳型の熱抵抗が周期的に増減する分布が形成される。
上述のように連続鋳造用鋳型に熱抵抗の周期的な分布を形成するには、異熱伝導金属充填部17どうしがそれぞれ独立していることが好ましい。
この熱流束の周期的な増減により、凝固シェルの相変態(例えば、δ鉄からγ鉄への変態)による応力や熱応力が低減し、これらの応力によって生じる凝固シェルの変形が小さくなる。凝固シェルの変形が小さくなることで、凝固シェルの変形に起因する不均一な熱流束分布が均一化され、且つ、発生する応力が分散されて個々の歪量が小さくなる。その結果、凝固シェル表面における表面割れの発生が抑制される。
また、凝固初期の熱流束の周期的な増減により、鋳型内における凝固シェルの厚みが、鋳片の幅方向のみならず鋳造方向でも均一化される。鋳型内における凝固シェル厚みが均一化することで、鋳型5から引き抜かれた後の鋳片10の凝固シェルの凝固界面は、鋳片の最終凝固部においても鋳片の幅方向及び鋳造方向で平滑になる。
但し、これらの効果を安定して得るためには、異熱伝導金属充填部17を設置したことによる熱流束の周期的な増減が適正でなければならない。つまり、熱流束の周期的な増減の差が小さすぎれば、異熱伝導金属充填部17を設置した効果が得られず、逆に、熱流束の周期的な増減の差が大きすぎれば、これに起因して発生する応力が大きくなり、この応力で表面割れが発生する。
異熱伝導金属充填部17を設置したことによる熱流束の増減の差は、充填金属の熱伝導率、及び、異熱伝導金属充填部17が配置された領域の鋳型銅板の内壁面の面積に対する全ての異熱伝導金属充填部17の面積の総和の比である面積率に依存する。
そこで、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法で使用する鋳型銅板では、円形凹溝16に充填する金属として、円形凹溝16に充填する金属の熱伝導率をλmとしたとき、鋳型銅板の熱伝導率(λc)に対する充填金属の熱伝導率(λm)の差の比率((|λc−λm|/λc)×100)が15%以上である金属を使用する。鋳型銅板を構成する銅合金の熱伝導率(λc)に対する差の比率が15%以上である金属を使用することで、異熱伝導金属充填部17による熱流束の周期的な変動の効果が十分となり、鋳片表面割れの発生しやすい高速鋳造時や中炭素鋼の鋳造時においても、鋳片の表面割れ抑制効果が十分に得られる。
また、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法で使用する鋳型銅板では、異熱伝導金属充填部17が形成された範囲内の鋳型銅板内壁面の面積A(A=(L1+L2)×W、単位;mm2)に対する、全ての異熱伝導金属充填部17の面積の総和B(mm2)の比である面積率ε(ε=(B/A)×100)が10%以上80%以下になるように、異熱伝導金属充填部17を設置する必要がある。面積率εを10%以上とすることで、熱流束の異なる異熱伝導金属充填部17の占める面積が確保され、異熱伝導金属充填部17と銅合金部とで熱流束差が得られ、鋳片の表面割れ抑制効果を得ることができる。一方、面積率εが80%を超えると、異熱伝導金属充填部17の部位が多くなりすぎて、熱流束の変動の周期が長くなるので、鋳片の表面割れ抑制効果が得られにくくなる。
以上説明したように、本発明で使用する鋳型5においては、充填金属として、鋳型銅板の熱伝導率(λc)に対する充填金属の熱伝導率(λm)の差の比率が15%以上である金属を使用し、且つ、面積率εが10%以上80%以下になるように、異熱伝導金属充填部17を設置する。
充填金属は、鋳型銅板の熱伝導率(λc)に対する充填金属の熱伝導率(λm)の差の比率が15%以上であれば、特にその種類を特定しなくてよい。但し、参考までに充填金属として使用可能な金属を挙げれば、純ニッケル(Ni、熱伝導率;90W/(m×K))、純クロム(Cr、熱伝導率;67W/(m×K))、純コバルト(Co、熱伝導率;70W/(m×K))、及び、これらの金属を含有する合金などが好適である。これらの純金属や合金は、銅合金よりも熱伝導率が低く、また、鍍金処理や溶射処理によって容易に円形凹溝に充填することができる。また、銅合金よりも熱伝導率が高い純銅を、円形凹溝に充填使用する金属として使用することもできる。例えば、純銅を充填金属として使用した場合には、異熱伝導金属充填部17を設置した部位の方が鋳型銅板の部位よりも熱抵抗が小さくなる。
また、充填金属としては、鋳型銅板の線膨張係数(τc)に対する充填金属の線膨張係数(τm)の差の比率((|τc−τm|/τc)×100)が30%以下である金属を使用することが好ましい。鋳型銅板の線膨張係数(τc)と類似した線膨張係数(τm)の金属を充填金属として使用することで、充填金属と鋳型銅板との間に隙間や割れが発生することを抑制できる。
尚、図3及び図4では、異熱伝導金属充填部17の鋳型長辺銅板5aの内壁面における凹溝の形状が円形である例を示したが、凹溝は円形でなくてもよい。凹溝は、例えば楕円形のような、いわゆる「角」を有していない、円形に近い形状であればどのような形状であってもよい。本実施形態においては、円形に近いものを「擬似円形」という。異熱伝導金属充填部17の形状が擬似円形の場合には、異熱伝導金属充填部17を形成するために鋳型長辺銅板5aの内壁面に加工される凹溝を、「擬似円形凹溝」という。
擬似円形とは、例えば楕円形や、角部を円や楕円とする長方形など、角部を有していない形状であり、更には、花びら模様のような形状であってもよい。擬似円形の大きさは、擬似円形の面積から求められる円相当径で評価する。この擬似円形の円相当径dは下記の(2)式で算出される。
円相当径d=(4×Sma/π)1/2・・・(2)
但し、(2)式において、Smaは異熱伝導金属充填部17の面積(mm2)である。
異熱伝導金属充填部17の形状を円形または擬似円形とすることで、充填金属と銅との境界面は曲面状となることから、境界面で応力が集中しにくく、鋳型銅板表面に割れが発生しにくいという利点が発現する。
異熱伝導金属充填部17の直径d及び円相当径dは、2〜20mmであることが好ましい。2mm以上とすることで、異熱伝導金属充填部17における熱流束の低下が十分となり、鋳片の表面割れ抑制効果を得ることができる。また、2mm以上とすることで、充填金属を鍍金処理や溶射処理によって円形凹溝16や擬似円形凹溝(図示せず)の内部に充填することが容易となる。一方、異熱伝導金属充填部17の直径及び円相当径を20mm以下とすることで、異熱伝導金属充填部17における熱流束の低下が抑制され、つまり、異熱伝導金属充填部17での凝固遅れが抑制されて、その位置での凝固シェルへの応力集中が防止され、凝固シェルでの表面割れ発生を防止することができる。つまり、直径及び円相当径が20mmを超えると表面割れが発生する可能性があることから、異熱伝導金属充填部17の直径及び円相当径は20mm以下にすることが好ましい。
異熱伝導金属充填部17の充填厚みHは0.5mm以上とすることが好ましい。充填厚みHを0.5mm以上とすることで、異熱伝導金属充填部17における熱流束の低下が十分となり、鋳片の表面割れ抑制効果を得ることができる。
また、異熱伝導金属充填部17の充填厚みHは、異熱伝導金属充填部17の直径d以下及び円相当径d以下にすることが好ましい。充填厚みHを異熱伝導金属充填部17の直径d及び円相当径dと同等、またはそれらよりも小さくするので、鍍金処理や溶射処理による円形凹溝及び擬似円形凹溝への充填金属の充填が容易となり、且つ、充填金属と鋳型銅板との間に隙間や割れが生じることがない。
異熱伝導金属充填部同士の間隔Pは、異熱伝導金属充填部17の直径d及び円相当径dの0.25倍以上であることが好ましい。ここで、異熱伝導金属充填部同士の間隔Pとは、図1に示すように、隣り合う異熱伝導金属充填部17の端部間の最短距離である。異熱伝導金属充填部同士の間隔Pを「0.25×d」以上とすることで、間隔が十分に大きく、異熱伝導金属充填部17における熱流束と銅合金部(異熱伝導金属充填部17が形成されていない部位)の熱流束との差が大きくなり、鋳片の表面割れ抑制効果を得ることができる。異熱伝導金属充填部同士の間隔Pの上限値は特に定めなくてよいが、間隔Pが大きくなると、異熱伝導金属充填部17の面積率εが低下するので「2.0×d」以下にすることが好ましい。
異熱伝導金属充填部17の配列は、図3に示すような千鳥配列が好ましいが、千鳥配列に限らず、異熱伝導金属充填部17が上記の面積率εを満たす配列であれば、どのような配列でもよい。
本実施形態において、異熱伝導金属充填部17を形成させた鋳型銅板の内壁面に、凝固シェルによる磨耗や熱履歴による鋳型表面の割れを防止することを目的として、鍍金層(図示せず)を設けてもよい。鍍金層は、一般的に用いられるニッケルまたはニッケルを含有する合金、例えば、ニッケル−コバルト合金(Ni−Co合金)やニッケル−クロム合金(Ni−Cr合金)などを鍍金処理することで得られる。
このように構成されるスラブ連続鋳造機1において、タンディッシュ2から浸漬ノズル4を介して鋳型5に注入された溶鋼9は、鋳型5で冷却されて凝固シェル11を形成する。この凝固シェル11を外殻とし、内部に未凝固層12を有する、横断面が長方形の鋳片10は、鋳型5の下方に設けられた鋳片支持ロール6に支持されつつ、鋳型5の下方に連続的に引き抜かれる。鋳片10は、鋳片支持ロール6を通過する間、二次冷却帯の二次冷却水で冷却され、凝固シェル11の厚みを増大し、且つ、強制バルジング帯15では鋳片長辺面の短辺側端部を除いた部分の厚みを増大させ、更に、軽圧下帯14では鋳片長辺面が圧下されながら引き抜かれ、凝固完了位置13で内部までの凝固を完了する。凝固完了後の鋳片10は、鋳片切断機8によって切断されて鋳片10aとなる。
本実施形態において、強制バルジング帯15を鋳型5の下端から鋳片10の液相線クレータエンド位置との間に配置する理由は、以下のとおりである。即ち、鋳片10の液相線クレータエンド位置よりも鋳造方向上流側は、鋳片厚み中心部は全て未凝固層12(液相)であり、且つ、鋳片10の凝固シェル11は温度が高くて変形抵抗が小さいからである。鋳片10を強制的にバルジングさせる場合、鋳片10の内部に存在する未凝固層12が少ない時点でバルジングさせると、濃化溶鋼が流動して中心偏析は却って悪化する。しかし、鋳片10の液相線クレータエンド位置よりも鋳造方向上流側でバルジングさせた場合には、この時点では、溶質元素が濃化されていない初期濃度の溶鋼が鋳片内部に潤沢に存在し、且つ、この溶鋼が容易に流動する。この溶鋼が流動しても偏析は起こらず、したがって、この時点におけるバルジングは中心偏析の原因とはならない。また、凝固シェル11の変形抵抗が小さいことから、容易にバルジングさせることができる。
尚、鋳片10の液相線とは、鋳片10の化学成分によって決まる凝固開始温度であり、例えば、下記の(3)式から求めることができる。
TL=1536−(78×[%C]+7.6×[%Si]+4.9×[%Mn]+34.4×[%P]+38×[%S]+4.7×[%Cu]+3.1×[%Ni]+1.3×[%Cr]+3.6×[%Al])・・・(3)
但し、(3)式において、TLは液相線温度(℃)、[%C]は溶鋼の炭素濃度(質量%)、[%Si]は溶鋼の珪素濃度(質量%)、[%Mn]は溶鋼のマンガン濃度(質量%)、[%P]は溶鋼の燐濃度(質量%)、[%S]は溶鋼の硫黄濃度(質量%)、[%Cu]は溶鋼の銅濃度(質量%)、[%Ni]は溶鋼のニッケル濃度(質量%)、[%Cr]は溶鋼のクロム濃度(質量%)、[%Al]は溶鋼のアルミニウム濃度(質量%)である。
鋳片10の液相線クレータエンド位置は、二次元伝熱凝固計算により求められる鋳片内部の温度勾配と、(3)式で定まる液相線温度とを照らし合わせることで求めることができる。強制バルジング帯15は、特別な機構は不要であり、ロール開度を調整するだけで形成されるので、鋳型5の下端から鋳片10の液相線クレータエンド位置との範囲であれば、任意の位置に設置してよい。
本実施形態においては、強制バルジング帯15では、強制的なバルジングの総量(以後、「総バルジング量」という)を、鋳型出口での鋳片厚み(鋳片長辺面間の厚み)に対して0mm超え20mm以下の範囲としている。本実施形態では、鋳型内における初期凝固を制御するので、鋳片10の最終凝固部においても凝固界面が鋳片の幅方向及び鋳造方向で平滑になり、軽圧下による圧下力が凝固界面に均等に作用し、これにより、総バルジング量が0mm超え20mm以下であっても、中心偏析が軽減される。尚、強制バルジング帯15において、1ロールあたりのロール開度の拡大量は、鋳片長辺面のバルジングする部位とバルジングしない部位との境界位置での亀裂発生を防止するために、1.5mm以下とすることが好ましい。
また、本実施形態では、軽圧下帯14において、少なくとも鋳片厚み中心部の固相率が0.2の時点から0.9になる時点まで、鋳片10を圧下している。鋳片厚み中心部の固相率が0.9を超える範囲では濃化溶鋼の流動は起こらず、圧下しなくても中心偏析は悪化しない。一方、軽圧下帯14において鋳片厚み中心部の固相率が0.2を超えてから圧下を開始しても、それ以前に濃化溶鋼の流動が発生する可能性があり、これにより中心偏析が発生するので、中心偏析軽減効果を十分に得ることができない。当然ではあるが、鋳片厚み中心部の固相率が0.2になる以前、及び、鋳片厚み中心部の固相率が0.9を超えた以降も、軽圧下帯14で鋳片10を圧下してもよい。
鋳片厚み中心部の固相率は、液相線クレータエンド位置を求める場合と同様に、二次元伝熱凝固計算によって求めることができる。ここで、固相率とは、凝固開始前を固相率=0、凝固完了時を固相率=1.0と定義されるものであり、鋳片厚み中心部の固相率が1.0となる位置が凝固完了位置13(固相線クレータエンド位置)であり、液相線クレータエンド位置は、鋳片厚み中心部の固相率がゼロとなる最も下流側の位置に該当する。
軽圧下帯14における鋳片10の圧下量の総量(以後、「総圧下量」という)は、総バルジング量と同等または総バルジング量よりも小さくする。総圧下量を総バルジング量と同等または総バルジング量よりも小さくすることで、鋳片10の短辺側の厚み中心部までの凝固が完了した部分は圧下されず、軽圧下帯14を構成する鋳片支持ロール6(圧下ロール)の負荷荷重が軽減され、圧下ロールのベアリング破損や折損などの設備トラブルを抑制できる。
また、本実施形態では、軽圧下帯14における鋳片の圧下速度(mm/min)と鋳造速度(m/min)との積が0.10〜1.0mm・m/min2となる範囲に設定している。
前述したように、本実施形態では、鋳型銅板の内壁面に異熱伝導金属充填部17を形成させた鋳型5を使用しており、この鋳型5を使用することで、凝固シェル11の厚みが鋳片幅方向及び鋳造方向で均一化され、これにより、中心偏析が形成される最終凝固部での鋳片上面側凝固シェルと鋳片下面側凝固シェルとの凝固界面の凹凸が平滑化される。上下の凝固シェルの凝固界面が平滑化されることで、凝固末期、上下凝固シェルの凝固界面が衝突して形成される偏析スポットの体積が縮小し、中心偏析自体が軽減される。また、上下凝固シェルの凝固界面が平滑化されることで、鋳片幅方向における凝固完了位置13がほぼ同じ位置になり、軽圧下による圧下力が鋳片幅方向で均等に作用する。
一般的に、軽圧下帯14における鋳片の圧下速度と鋳造速度との積が0.3よりも小さい場合は、軽圧下後の圧下位置における鋳片10の未凝固部の厚みが厚く、また、偏析成分の濃化した溶鋼がデンドライト樹間から十分排出されないので、圧下後に再び中心偏析が発生するが、本実施形態では、内壁面に異熱伝導金属充填部17を形成させた鋳型5を使用しているので、圧下速度と鋳造速度との積として、最低限の凝固収縮に相当する0.10を確保することで、中心偏析の改善が可能になる。
一方、圧下速度と鋳造速度との積が1.0よりも大きい場合には、デンドライト樹間に存在する偏析成分の濃化した溶鋼のほとんど全てが絞り出されて鋳造方向の上流側に排出されて、圧下位置よりも鋳造方向にやや上流側の鋳片の厚み方向の両側の凝固シェル11に捕捉される。つまり、排出された濃化溶鋼によって鋳片厚み中心部近傍に正偏析が発生する。
このように、本実施形態では、鋳型銅板の内壁面に異熱伝導金属充填部17を形成させた鋳型5を使用することにより、軽圧下の実施条件を従来と比較して軽減することが可能となる。つまり、強制的な総バルジング量は0mm超え20mm以下で十分であり、また、圧下速度と鋳造速度の積が0.10〜1.0mm・m/min2の小さい条件で、総バルジング量と同等またはそれ以下の総圧下量を付与することで、鋳片10の中心偏析を軽減することが実現される。
鋳片10の厚み中心部の中心偏析及び厚み中心部近傍の正偏析の発生防止に対する軽圧下の効果は、鋳片10の凝固組織にも影響される。つまり、鋳片厚み中心部の凝固組織が等軸晶の場合には、等軸晶間にセミマクロ偏析の原因となる濃化溶鋼が存在し、且つ、圧下量が分散されて軽圧下による抑制効果が少なくなる。したがって、鋳片厚み中心部の凝固組織を柱状晶とすることが望ましい。
本実施形態では、連続鋳造操業の種々の鋳造条件において、予め二次元伝熱凝固計算などを用いて凝固シェル11の厚み及び鋳片厚み中心部の固相率を求め、少なくとも、鋳片厚み中心部の固相率が0.2の時点から0.9になる時点まで、軽圧下帯14で鋳片10を圧下できるように、二次冷却水量、二次冷却の幅切り、鋳造速度のうちのいずれか1種または2種以上を調整する。ここで、「二次冷却の幅切り」とは、鋳片長辺面の両端部への冷却水の噴射を中止することである。二次冷却の幅切りを実施することで、二次冷却は弱冷化され、一般的に、凝固完了位置13は鋳造方向下流側に延長される。
以上説明したように、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法を実施することで、凝固初期の凝固シェルの不均一冷却による鋳片の表面割れを防止することができると同時に、鋳片の厚み中心部に発生する中心偏析を抑制することができ、高品質の鋳片を安定して製造することが実現される。
尚、上記説明はスラブ鋳片の連続鋳造に関して行ったが、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法はスラブ鋳片の連続鋳造に限定されるものではなく、ブルーム鋳片やビレット鋳片の連続鋳造においても上記に沿って適用することができる。
中炭素鋼(化学成分、C:0.08〜0.17質量%、Si:0.10〜0.30質量%、Mn:0.50〜1.20質量%、P:0.010〜0.030質量%、S:0.005〜0.015質量%、Al:0.020〜0.040質量%)を、内壁面に種々の条件で異熱伝導金属充填部を設置した水冷式銅鋳型を用い、且つ、強制バルジング帯における総バルジング量及び軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積を種々変更して鋳造し、鋳造後の鋳片の表面割れ及び内部品質(中心偏析)を調査する試験を行った。全ての試験で、鋳片サイズは、厚みが250mm、幅が2100mmである。
軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積は0.01〜0.92mm・m/min2とし、いずれの試験も、軽圧下帯では、鋳片の厚み中心部の固相率が少なくとも0.2の時点から0.9になる時点まで、鋳片を圧下した。尚、鋳片を強制バルジング帯で強制的にバルジングさせた場合の総圧下量は、総バルジング量と同等または総バルジング量よりも小さくした。また、鋳片を強制バルジング帯でバルジングさせない試験では、軽圧下帯では鋳片短辺側の凝固完了位置も圧下した。使用した水冷銅鋳型の上端から下端までの長さ(=鋳型長さ)は950mmであり、定常鋳造時のメニスカス(鋳型内溶鋼湯面)の位置を、鋳型上端から100mm下方位置に設定した。
本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法の効果を把握するために、以下に示す条件で鋳型を作成し、比較試験した。いずれの鋳型も充填金属として、鋳型銅板の熱伝導率よりも熱伝導率の低い金属を使用した。
鋳型A;鋳型上端より80mm下方の位置から鋳型上端より300mm下方の位置までの範囲(範囲長さ=220mm)に、銅の熱伝導率に対してその熱伝導率差の比率を15%とする金属を充填金属とし、異熱伝導金属充填部を設置した。異熱伝導金属充填部の面積率εは50%とした。
鋳型B;鋳型上端より80mm下方の位置から鋳型上端より190mm下方の位置までの範囲(範囲長さ=110mm)に、銅の熱伝導率に対してその熱伝導率差の比率を15%とする金属を充填金属とし、異熱伝導金属充填部を設置した。異熱伝導金属充填部の面積率εは50%とした。
鋳型C;鋳型上端より190mm下方の位置から鋳型上端より300mm下方の位置までの範囲(範囲長さ=110mm)に、つまり、メニスカス位置よりも下方に、銅の熱伝導率に対してその熱伝導率差の比率を15%とする金属を充填金属とし、異熱伝導金属充填部を設置した。異熱伝導金属充填部の面積率εは50%とした。
鋳型D;鋳型上端より80mm下方の位置から鋳型上端より750mm下方の位置までの範囲(範囲長さ=670mm)に、銅の熱伝導率に対してその熱伝導率差の比率を15%とする金属を充填金属とし、異熱伝導金属充填部を設置した。異熱伝導金属充填部の面積率εは50%とした。
鋳型E;鋳型上端より80mm下方の位置から鋳型上端より300mm下方の位置までの範囲(範囲長さ=220mm)に、銅の熱伝導率に対してその熱伝導率差の比率を10%とする金属を充填金属とし、異熱伝導金属充填部を設置した。異熱伝導金属充填部の面積率εは50%とした。
鋳型F;鋳型上端より80mm下方の位置から鋳型上端より300mm下方の位置までの範囲(範囲長さ=220mm)に、銅の熱伝導率に対してその熱伝導率差の比率を15%とする金属を充填金属とし、異熱伝導金属充填部を設置した。異熱伝導金属充填部の面積率εは5%とした。
鋳型G;鋳型上端より80mm下方の位置から鋳型上端より300mm下方の位置までの範囲(範囲長さ=220mm)に、銅の熱伝導率に対してその熱伝導率差の比率を15%とする金属を充填金属とし、異熱伝導金属充填部を設置した。異熱伝導金属充填部の面積率εは85%とした。
連続鋳造操業においては、モールドパウダーとして、塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が1.1、凝固温度が1090℃、1300℃における粘性率が0.15Pa・sのモールドパウダーを使用した。凝固温度とは、粘性率が急激な増加を示す温度である。定常鋳造時での鋳型内のメニスカス位置は、鋳型上端から100mm下方位置とし、鋳造中、メニスカスが設置範囲内に存在するようにメニスカス位置を制御した。また、定常鋳造時の鋳造速度は1.7〜2.2m/minとし、鋳片の表面割れ及び内質を調査する鋳片は、全ての試験で、定常鋳造時の鋳造速度が2.0m/minの鋳片を対象とした。タンディッシュ内の溶鋼過熱度は25〜35℃とした。また、鋳型の温度管理として、熱電対を鋳型のメニスカス下50mmの位置に表面(溶鋼側の面)から5mmの深さ位置に背面から埋め込み、熱電対による銅板温度の測定値から鋳型の表面温度を推定した。
連続鋳造が終了した後、鋳片長辺の表面を酸洗してスケールを除去し、表面割れの発生数を測定した。鋳片表面割れの発生状況は、検査対象の鋳片の鋳造方向長さを分母とし、表面割れが発生した部位の鋳片の鋳造方向長さを分子として算出した値を用いて評価した。また、鋳片内質(中心偏析)の評価については、鋳片の横断面サンプルを採取し、横断面サンプルの鏡面研磨面の鋳片中心部分±10mmの範囲で、EPMAによりMn濃度を197μm毎に測定し、偏析度を評価した。具体的には、偏析が生じていない部位のMn濃度(C0)と中心部分±10mmにおけるMn濃度の平均値(C)との比(C/C0)をMn偏析度と定義して評価した。
表1に、試験水準1〜13の各試験の操業条件及び鋳片の表面、内質の調査結果を示す。尚、表1の備考欄には、本発明の条件を満足する試験を「本発明例」、それ以外の試験を「比較例」と表示している。
試験水準1、2、4は、鋳型内壁面の異熱伝導金属充填部の設置条件を満足するが、鋳片を強制バルジング帯でバルジングさせていない。また、試験水準1、2は、軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の条件を満足するが、試験水準4は、軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の条件を満足しない。したがって、いずれも、鋳片の表面割れ比率は大幅に改善されたが、鋳片の中心偏析の改善程度は少なく、中心偏析については最適とはいえない結果であった。また、試験水準2は、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率が32%であり、本発明の好ましい範囲を外れたために、鋳型表面の異熱伝導金属充填部との境界にクラック(亀裂)の発生が確認された。
試験水準3は、鋳型内壁面の異熱伝導金属充填部の設置条件を満足しておらず、また、鋳片を強制バルジング帯でバルジングさせておらず、且つ、軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の条件を満足しておらず、鋳片に表面割れが発生し、表面割れの低減効果は確認することができなかった。また、鋳片の中心偏析についても改善効果を確認できなかった。
試験水準5は、鋳型銅板と充填金属との熱伝導率差の比率の条件を満足しておらず、また、鋳片を強制バルジング帯でバルジングさせておらず、且つ、軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の条件を満足しておらず、鋳片に表面割れが発生し、表面割れの低減効果は確認することができなかった。また、鋳片の中心偏析についても改善効果を確認できなかった。
試験水準6及び試験水準7は、異熱伝導金属充填部の面積率εの条件を満足しておらず、また、鋳片を強制バルジング帯でバルジングさせておらず、且つ、軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の条件を満足しておらず、鋳片に表面割れが発生し、表面割れの低減効果は確認することができなかった。また、鋳片の中心偏析についても改善効果を確認できなかった。また、試験水準6は、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率が40%であり、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率の好ましい範囲を外れたために、鋳型表面の異熱伝導金属充填部との境界にクラックの発生が確認された。
試験水準8〜13は、鋳型内壁面の異熱伝導金属充填部の設置条件、強制バルジング帯での総バルジング量及び軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の全ての条件を満足しており、鋳片の表面割れ比率が大幅に改善されると同時に、鋳片の中心偏析も良好な結果が得られた。但し、試験水準12は、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率が32%であり、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率の好ましい範囲を外れたために、鋳型表面の異熱伝導金属充填部との境界にクラックの発生が確認された。
このように、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法を実施することで、鋳片の表面品質と中心偏析とが同時に改善されることが確認できた。
低炭素鋼(化学成分、C:0.03〜0.07質量%、Si:0.10〜0.30質量%、Mn:0.50〜1.20質量%、P:0.010〜0.030質量%、S:0.005〜0.015質量%、Al:0.020〜0.040質量%)の耐HIC鋼を、内壁面に種々の条件で異熱伝導金属充填部を設置した水冷式銅鋳型を用い、且つ、強制バルジング帯における総バルジング量及び軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積を種々変更して鋳造し、鋳造後の鋳片の表面割れ、内部品質(中心偏析)及びHIC発生状況を調査する試験を行った。全ての試験で、鋳片サイズは、厚みが250mm、幅が2100mmである。用いた鋳型は、実施例1の鋳型A〜Gと同一である。
軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積は0.01〜0.92mm・m/min2とし、いずれの試験も、軽圧下帯では、鋳片の厚み中心部の固相率が少なくとも0.2の時点から0.9になる時点まで、鋳片を圧下した。尚、鋳片を強制バルジング帯で強制的にバルジングさせた場合の総圧下量は、総バルジング量と同等または総バルジング量よりも小さくした。また、鋳片を強制バルジング帯でバルジングさせない試験では、軽圧下帯では鋳片短辺側の凝固完了位置も圧下した。
連続鋳造操業においては、モールドパウダーとして、塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO2))が1.0、凝固温度が1090℃、1300℃における粘性率が0.30Pa・sのモールドパウダーを使用した。凝固温度とは、粘性率が急激な増加を示す温度である。定常鋳造時での鋳型内のメニスカス位置は、鋳型上端から100mm下方位置とし、鋳造中、メニスカスが設置範囲内に存在するようにメニスカス位置を制御した。また、定常鋳造時の鋳造速度は1.0〜1.6m/minとし、鋳片の表面割れ及び内質を調査する鋳片は、全ての試験で、定常鋳造時の鋳造速度が1.1m/minの鋳片を対象とした。タンディッシュ内の溶鋼過熱度は25〜35℃とした。
連続鋳造が終了した後、鋳片長辺の表面を酸洗してスケールを除去し、表面割れの発生数を測定した。鋳片表面割れの発生状況は、検査対象の鋳片の鋳造方向長さを分母とし、表面割れが発生した部位の鋳片の鋳造方向長さを分子として算出した値を用いて評価した。また。鋳片内質(中心偏析)の評価については、鋳片の横断面サンプルを採取し、横断面サンプルの鏡面研磨面の鋳片中心部分±10mmの範囲で、EPMAによりMn濃度を10μm毎に測定し、偏析度を評価した。具体的には、偏析が生じていない部位のMn濃度(C0)と中心部分±10mmにおけるMn濃度の平均値(C)との比(C/C0)をMn偏析度と定義して評価した。
更に、耐HIC性能を確認するために、0.5質量%CH3COOHを添加した5質量%NaCl水溶液にH2Sを飽和させた、pH=2.7〜4.0の溶液中に試験片を72時間浸漬したのち、試験片の板厚方向に超音波探傷して水素誘起割れ(HIC)の有無を調査し、全試験片数に占めるHIC発生試験片数の百分率をHIC発生指数として評価した。
表2に、試験水準21〜33の各試験の操業条件及び鋳片の表面、内質、HIC発生指数の調査結果を示す。尚、表2の備考欄には、本発明の条件を満足する試験を「本発明例」、それ以外の試験を「比較例」と表示している。
実施例2では、低炭素鋼を対象としており、実施例1の中炭素鋼に比較して鋳片の表面割れ発生程度は軽微であったが、使用した鋳型に応じて、鋳片の表面割れの発生状況に差が認められた。
試験水準21、22、24は、鋳型内壁面の異熱伝導金属充填部の設置条件を満足するが、鋳片を強制バルジング帯でバルジングさせていない。また、試験水準21、22は、軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の条件を満足するが、試験水準24は満足していない。したがって、いずれも、鋳片の表面割れ比率は大幅に改善されたが、鋳片の中心偏析及びHIC発生指数の改善程度は少なく、中心偏析及びHIC発生指数については最適とはいえない結果であった。また、試験水準22は、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率が32%であり、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率の好ましい範囲を外れたために、鋳型表面の異熱伝導金属充填部との境界にクラック(亀裂)の発生が確認された。
試験水準23は、鋳型内壁面の異熱伝導金属充填部の設置条件を満足しておらず、また、鋳片を強制バルジング帯でバルジングさせておらず、且つ、軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の条件を満足しておらず、鋳片に表面割れが発生し、表面割れの低減効果は確認することができなかった。また、鋳片の中心偏析及びHIC発生指数についても改善効果を確認できなかった。
試験水準25は、鋳型銅板と充填金属との熱伝導率差の比率の条件を満足しておらず、また、鋳片を強制バルジング帯でバルジングさせておらず、且つ、軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の条件を満足しておらず、鋳片に表面割れが発生し、表面割れの低減効果は確認することができなかった。また、鋳片の中心偏析及びHIC発生指数についても改善効果を確認できなかった。
試験水準26及び試験水準27は、異熱伝導金属充填部の面積率εの条件を満足しておらず、また、鋳片を強制バルジング帯でバルジングさせておらず、且つ、軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の条件を満足しておらず、鋳片に表面割れが発生し、表面割れの低減効果は確認することができなかった。また、鋳片の中心偏析及びHIC発生指数についても改善効果を確認できなかった。また、試験水準26は、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率が40%であり、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率の好ましい範囲を外れたために、鋳型表面の異熱伝導金属充填部との境界にクラックの発生が確認された。
試験水準28〜33は、鋳型内壁面の異熱伝導金属充填部の設置条件、強制バルジング帯での総バルジング量及び軽圧下帯における圧下速度と鋳造速度との積の全ての条件を満足しており、鋳片の表面割れ比率が大幅に改善されると同時に、鋳片の中心偏析及びHIC発生指数も良好な結果が得られた。但し、試験水準32は、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率が32%であり、鋳型銅板と充填金属との線膨張係数差の比率の好ましい範囲を外れたために、鋳型表面の異熱伝導金属充填部との境界にクラックの発生が確認された。
このように、本実施形態に係る鋼の連続鋳造方法を実施することで、鋳片の表面品質、中心偏析及びHIC発生指数が同時に改善されることが確認できた。