JP2017023011A - 乳牛用飼料及び飼育方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】牛の嗜好性及び飼料摂取量を低下させることなく、分娩前後の低カルシウム血症及び乳熱ならびにそれらと併発する周産期疾病(第四胃変位、ケトーシス等)を予防する乳牛用飼料及び方法を提供すること。【解決手段】硫酸カルシウム及び/又はその水和物を乾乳牛に73〜131g/日給与し、硫酸カルシウム及びその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの給与量の総計を400mEq/頭・日以下とすること。【選択図】なし

Description

本発明は、牛の嗜好性及び飼料摂取量を低下させることなく、分娩前後の低カルシウム血症及び乳熱ならびにそれらと併発する周産期疾病(第四胃変位、ケトーシス等)を予防する乳牛用飼料及び方法に関する。
牛の低カルシウム血症は、主に乳牛の分娩と泌乳の開始に伴って発生する疾患である。分娩前後には、主に消化管運動の低下から消化管におけるカルシウム吸収量は減少することに加え、骨からのカルシウム動員が抑制されるため、乳汁中への急激なカルシウム流出に対応できず、血中カルシウム濃度が低下すると考えられている(非特許文献1)。乳熱とは分娩性低カルシウム血症のことであり、血中カルシウム濃度の低下が重篤で、体温や皮温の低下、筋肉の弛緩麻痺、起立不能などの臨床症状を示す症例を指す。発症時期は主に分娩日前日〜分娩2日後、特に分娩日及び分娩翌日が多く、産次が進むほど乳熱は発生しやすい(非特許文献2)。乳熱は、初産での発生は極めて稀で、3産目以上で発生が急増するが、その原因としては、産次が進むことで泌乳量が増えカルシウムの流出量が増えること、腸管の1,25−(OH)ビタミンD受容体が加齢により減少し、かつ24位水酸化酵素が増加することで、カルシウム吸収能が低下すること、骨からのカルシウム動員能が低下することなどが考えられている(非特許文献3)。乳熱は、第四胃変位、異常分娩(難産)、胎盤停滞、ケトーシス、乳房炎、子宮炎など、他の周産期疾病の発症リスクを高めることも知られており、結果として繁殖成績を悪化させたり淘汰率を高めることが報告されている(非特許文献4及び5)。
通常、牛の血清総カルシウム濃度は10mg/dL前後であるが、一般的に軽度の低カルシウム血症(5.5〜7.5mg/dL)では、歯ぎしり、食欲不振、興奮、四肢筋肉の振戦、後肢のふらつきなどの症状を示し、中等度の低カルシウム血症(3.5〜6.5mg/dL)では、体温の低下、消化管運動の停止、呼吸数低下、四肢筋肉の弛緩麻痺などの症状が発現し、起立不能となることが多い。重度の低カルシウム血症(3.5mg/dL以下)では、乳牛は脱力し昏睡状態となる。乳熱発症牛では血中無機リン濃度も同時に低下していることが多く、無機リン濃度の低下が著しい場合には症状は重篤化する。乳熱の発症牛の多くは、カルシウム剤の投与により臨床症状の改善を認めるが、回復までに時間を要し、長時間起立不能状態が続いた牛では、ダウナー症候群を継発する(非特許文献1及び6)。また、分娩前後の血清総カルシウム濃度が8.4または8.6mg/dL以下の個体は、それ以上の個体よりも乳量が少なく、初回人工授精受胎率が低いとの報告もあり(非特許文献7)、臨床症状を示さない軽度の血中カルシウム濃度の低下であっても、乳牛の生産性に悪影響が生じると考えられている。
乳熱の治療方法としては、ボログルコン酸カルシウムなどのカルシウム剤の静脈及び/又は皮下注射が広く実践されており、また分娩時の予防対策としてリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウムなどのカルシウム剤の経口投与も有効とされている(非特許文献1及び6)。
一方、乾乳期に実施する予防策としては、飼料中カルシウム及びリン含量の低減、給与飼料のイオンバランス(Dietary Cation−Anion Difference、以下、DCADとする)の低減、分娩8〜2日前の高単位(1,000万単位程度)のビタミンDの筋肉注射などの方法が知られている(非特許文献1及び6)。また、ビタミンD代謝物である1α−OH−ビタミンD、25−OH−ビタミンD及び1,25−(OH)ビタミンDは、ビタミンDよりも生体内における活性が高く、乳熱の予防により有効と考えられている(非特許文献8〜11)。この他、1,25−(OH)ビタミンD配糖体を含むリュウキュウヤナギ(和名:ルリヤナギ、学名:Solanum malacoxylon(=Solanum glaucophyllum))やシロバナコウボク(学名:Cestrum Diurnum)の葉、その搾汁物及び抽出物についても、低カルシウム血症の緩和に有効とされている(特許文献1)。
カルシウム剤の静脈注射及び/又は皮下注射や、カルシウム剤の経口投与は、分娩時及び/又は乳熱の臨床症状を呈した際に速やかに実施する必要があるが、分娩日の正確な予測は困難であり、また夜間に分娩した場合等においては対応が難しく、処置が遅れると症状が重篤化するために、これらの対策と並行して乾乳期に乳熱の予防策を講じることが重要である。
より具体的には、Greenらは、分娩約2週間前の乳牛を供試し、カルシウムを80g/日または8g/日給与する試験を行ったところ、8g/日給与した乳牛の方が、分娩前の血漿1,25−(OH)ビタミンD及びヒドロキシプロリン濃度が有意に高く、分娩日及び分娩翌日の血漿カルシウム濃度が有意に高かったことを報告しており(非特許文献12)、分娩前のカルシウムの給与制限は、ビタミンDの代謝や骨からのカルシウム動員を促進し、乳熱の緩和に有効であると考えられている。
一方、カルシウムの給与制限による乳熱予防は、カルシウムの給与量を非常に低い水準にまで低減させないと効果が薄く、鈴木は、飼料中カルシウム含量が乾物換算で0.36重量%、カルシウム給与量が40.4g/日とした場合には、低カルシウム血症(血漿総カルシウム濃度7.5mg/dL未満)が多発し、飼料中カルシウム含量を乾物換算で0.26重量%、カルシウム給与量を28.7g/日まで減少させると低カルシウム血症が減少したことを報告している(非特許文献13)。粗飼料のカルシウム含量は変動が大きいことから、乳熱の予防効果が期待できる水準にまでカルシウム給与量を制限することは困難な場合が多いのが難点である。
HoveとKristiansenは、分娩前に油脂でカプセル化した1,25−(OH)ビタミンDペレットを1,25−(OH)ビタミンDとして500μg経口投与したところ、分娩4〜5日前及び分娩当日の投与では低カルシウム血症を抑制できなかったこと、ならびに分娩1〜3日前の投与は分娩日及び分娩翌日の血漿カルシウム濃度の低下を抑えることができたものの、分娩日を正確に予測し投与することが難しいと述べている(非特許文献14)。また、Hoveは、分娩予定5日前から分娩翌日まで、脂肪酸ペレットの形態で200μg/日の1,25−(OH)ビタミンDを4頭の初産牛と8頭の経産牛に連続給与したところ、分娩5日後以降、全頭が低カルシウム血症(血漿総カルシウム濃度が2.18mmol/L未満)に陥ったことを報告している(非特許文献15)。このように、リュウキュウヤナギやシロバナコウボクの葉、その搾汁物又は抽出物を含む、ビタミンD代謝物を用いて乳熱を予防するには、用量及び用法を厳密に守る必要があり、また、リュウキュウヤナギやシロバナコウボクの葉、その搾汁物又は抽出物を含むビタミンD代謝物は活性が強いが故に用量を誤ると、肺動脈・大動脈へのカルシウム沈着等の過剰症を引き起こす恐れもあることから、生産現場での使い易さの点で難があると考えられる。
この他、飼料中リン及びマグネシウム含量も乳熱の発生と関連がある。血漿中無機リン濃度は、1,25−(OH)ビタミンDによって直接的に、上皮小体ホルモン(PTH)とカルシウムのネガティブフィードバック機構によって間接的に制御されており相互に関連しているため、カルシウム代謝はリンの影響を受ける(非特許文献16)。そのため、飼料中リン含量が多いと乳熱の発症リスクは高まることが知られており、Julienらは、分娩前の飼料中カルシウム含量が乾物換算で0.47〜0.53重量%であり、かつ飼料中リン含量が0.22〜0.28重量%であったグループは、飼料中カルシウム含量が0.53重量%超かつリン含量が0.28重量%超及び飼料中カルシウム含量が0.47重量%未満かつリン含量が0.28重量%超のグループよりも乳熱の発生が少なかったことを報告している(非特許文献17)。一方で、リンの摂取量が1日1頭当たり25g(分娩前(乾乳後期)のホルスタイン種乳牛の乾物摂取量は10kg/日前後であるため、飼料中約0.25重量%に相当する)以下の場合、低リン血症及びダウナー症候群の発症リスクが高まるとの報告がある(非特許文献18及び19)。このように、乳熱対策に有効な飼料中リン含量の水準は、低リン血症及びダウナー症候群のリスクを高める飼料中リン含量の水準とほとんど差がないため、リンの給与制限を生産現場で実施するのは一定の危険性が伴う。なお、リンの要求量は1日1頭当たり40〜50g(飼料中約0.4〜0.5重量%に相当)と言われているため(非特許文献20)、飼料中リン含量は多くとも0.5重量%超とするべきではない。
マグネシウムは、PTHの分泌とPTHに対する反応性に関与するため、腎臓におけるカルシウムの排出を抑制したり、骨からのカルシウム動員を促進する働きを有する(非特許文献21〜24)。分娩前にマグネシウム含量が乾物換算で1.58重量%の飼料を給与した牛群は、0.22重量%の飼料を給与した牛群に比べ、分娩前及び分娩時の血漿中マグネシウム濃度が高く、0.22重量%の牛群では9頭中2頭が分娩後に低カルシウム血症の臨床症状を示したのに対し、1.58重量%の牛群では、低カルシウム血症は10頭中1頭も発生しなかったこと、またカルシウム動員能力は1.58重量%の牛群の方が高かったことが報告されている(非特許文献25)。分娩前の飼料中マグネシウム含量は、一般に乾物換算で0.35〜0.40重量%が推奨されている(非特許文献20)。しかしながら、飼料中マグネシウム含量が乾物換算で0.20重量%の群と0.37重量%の群では、カルシウム代謝に差がなかったとする報告もあり(非特許文献24)、マグネシウムは乳熱と関連があるものの直接の原因ではないと考えられている(非特許文献26)。また、マグネシウム塩は一般に嗜好性が悪く、添加量によっては飼料摂取量が低下するという欠点がある(非特許文献20)。
飼料面での乳熱予防対策として、近年盛んに研究されてきたのが、DCADのコントロールである。DCADとは、飼料中に含まれる陽イオンと陰イオンの差のことであり、代表的な陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられ、陰イオンとしては、塩素、イオウ(硫酸イオン)、リン(リン酸イオン)などが挙げられる。DCADには様々な計算式が提唱されているが、消化管における吸収効率の高さから、一般にナトリウム、カリウム、塩素、イオウの4種のミネラルから計算されることが多い(非特許文献21)。DCADをマイナスに傾けることが乳熱対策として有効であると考えられているが、そのメカニズムとして、陰イオンが消化管から血中へ相対的に多く取り込まれると、電気的中性を保とうとする働きにより水素イオンが増加し(非特許文献27)、代謝性アシドーシスが誘発され、カルシウム代謝が活性化されるためと考えられている(非特許文献28)。血液pHの低下は、蛋白質に結合して存在しているカルシウムを解離させ、カルシウムイオンを増加させること(非特許文献29)、過剰な水素イオンを緩衝するため骨からの重炭酸イオン放出が促進され、それに伴いカルシウムイオンが血中へ溶出することが報告されている(非特許文献30〜32)。血中カルシウムイオン濃度の上昇は、腎臓を経由した尿へのカルシウム排出を増加させるが(非特許文献30及び33)、これがPTHを活性化させ、尿中カルシウムの再吸収や腎臓におけるビタミンDの代謝(1,25−(OH)ビタミンDの合成)を促し、腸管からのカルシウム吸収も促進される(非特許文献34及び35)。Goffらは、3産目以上の分娩前ジャージー種乾乳牛を供試し、[Na]+[K]−[Cl]−0.6[S]により計算されるDCADが乾物換算で−79(低DCAD群)または287mEq/kg(高DCAD群)の飼料を給与した2群を比較した試験を行い、尿pHは低DCAD群で5.5〜6.0、高DCAD群で8.0前後であり、PTH投与後の血漿カルシウム濃度及び1,25−(OH)ビタミンD濃度は低DCAD群の方が有意に高かったことを確認し、DCADコントロールはPTHに対する応答性を改善することを示した(非特許文献36)。
なお、DCADのコントロールを行う場合、尿へのカルシウム排出が増加するため、飼料中カルシウム含量は低くするべきでないと考えられており、Oetzelらは、[Na]+[K]−[Cl]−0.6[S]により計算されるDCADが乾物換算で9.4〜9.6(低DCAD)または225.8〜229.2mEq/kg(高DCAD)とカルシウム給与量が53g(乾物換算で飼料中0.6重量%:低Ca)または105g/日(乾物換算で飼料中1.2重量%:高Ca)の計4群で試験したところ、分娩時の低カルシウム血症(血清イオン化カルシウム濃度が4.0mg/dL未満)の発生は、低DCAD・高Ca、低DCAD・低Ca、高DCAD・低Ca、高DCAD・高Caの順に少なかったことを報告しており(非特許文献37)、GelfertとStaufenbielは、分娩前の飼料に陰イオン塩を添加する際には飼料中カルシウム含量は乾物換算で0.9〜1.2重量%にするべきであると述べている(非特許文献38)。
DCADコントロールは有効な乳熱対策であるが、一般に陰イオン塩は嗜好性が悪く、飼料摂取量の低下が問題となる。DCADコントロールによる分娩前の飼料摂取量の低下は、負のエネルギーバランスを招き、脂肪肝、ケトーシス、乳房炎、第四胃変位、胎盤停滞等の周産期疾病の誘因となり得る(非特許文献26および39〜41)。過度のDCADコントロールはむしろ乳牛の健康に悪影響を及ぼしかねないため、DCADの水準は随時チェックすることが望ましいとされている。DCADの調整により誘導される代謝性アシドーシスは尿pHを低下させるため、DCADの水準を確認する場合には、尿pHのモニタリングが有効とされている。
Charbonneauらの総説では、5種類の代表的なDCADの計算式のうち、[Na]+[K]−[Cl]−0.6[S](以下、式1とする)が最も乳熱の発症率及び尿pHとの相関が高いとし、式1により計算されるDCADを乾物換算で300から0mEq/kgまで低下させると、尿pHは8.1から7.0へ低下し、乳熱の発生率は16.4から3.2%へと低減されるが、乾物摂取量が11.3%減少するとされている(非特許文献42)。従って、乳熱の予防効果と乾物摂取量の低下の双方を考慮してDCADコントロールを行うことが重要であるが、両者はいわゆるトレード・オフの関係にあるため、適切なDCADコントロールの水準については一定の見解が得られておらず、Jardonは、尿pHが6.0〜7.0(非特許文献42の式に基づくと、DCADは乾物換算で−180〜0mEq/kg)の範囲にコントロールするのが望ましいとし(非特許文献43)、Horstらは、pH5.5〜6.2(非特許文献42の式に基づくと、DCADは乾物換算で−260〜−150mEq/kg)の範囲を推奨したが、近年は乾物摂取量の低下を懸念して大幅なDCADの低下は避けられる傾向にあり、CharbonneauらはpH7.0程度(乾物換算で0mEq/kg)を推奨している(非特許文献42)。
DCADコントロールによる飼料摂取量低下は、陰イオン塩の嗜好性が悪いことや(非特許文献44)、代謝性アシドーシスによる軽度の体調不良(非特許文献45)に起因するのではないかとの説が主張されているが、その機序は未だ明らかにされていない(非特許文献42)。
DCADコントロールに用いられる陰イオン供給源としては、硫酸マグネシウム(MgSO)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化アンモニウム(NHCl)、硫酸アンモニウム((NHSO)、塩化カルシウム(CaCl)、硫酸カルシウム(CaSO)、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、グルタミン酸発酵粕、グルタミン酸発酵副産液などが挙げられる。例えば、Kurosakiらは、平均4.2産、平均ボディコンディションスコア3.1〜3.4の分娩前ホルスタイン種乾乳牛に、陰イオン塩として塩化カルシウム二水和物(CaCl・2HO)80g/日と硫酸マグネシウム7水和物(MgSO・7HO)65g/日を投与したところ、尿pHは6.8〜7.0に低下し、有意差はないものの陰イオン塩を給与しないグループよりも血清カルシウム濃度は高値を示したことを報告した(非特許文献46)。またGoffらは、平均55ヶ月齢で3産目以上の分娩前のジャージー種乾乳牛を供試し、陰イオン塩として塩化カルシウム二水和物(CaCl・2HO)を乾物換算で飼料中1.2重量%、塩化マグネシウム6水和物(MgCl・6HO)を3.0重量%、塩化アンモニウム(NHCl)を1.4重量%混合し、式1により計算されるDCADを乾物換算で−158mEq/kgに調整したところ、DCADを1,046mEq/kgとしたグループよりも有意に分娩日〜分娩2日後の血漿総カルシウム濃度が高かったことを報告している(非特許文献47)。
硫酸カルシウムについても乳熱対策としての活用が検討されており、Ramos−Nievesらは、2産目以上の分娩前ホルスタイン種乾乳牛を供試し、陰イオン塩として含塩酸混合飼料「SoyChlor 16−7」(West,Central,Ralston,IA)と硫酸カルシウム二水和物(CaSO・2HO)を用い、塩素含量を乾物換算で飼料中1.17重量%、イオウ含量を0.40重量%、式1により計算されるDCADを乾物換算で−49mEq/kgに調整した飼料を給与した牛群(低DCAD群)と、陰イオン塩を使用せずDCADが乾物換算で183mEq/kgとした牛群(高DCAD群)の2群に分けて試験を行った。その結果、分娩2日前の尿pHは高DCAD群で約8.1、低DCAD群で約6.1であったが、分娩前の乾物摂取量は低DCAD群で有意に少なく、分娩24時間以内の血漿総カルシウム濃度は高DCAD群で7.12mg/dL、低DCAD群で7.99mg/dLであったが、分娩後5日以内の低カルシウム血症の発生率(血漿総カルシウム濃度が8mg/dL以下)には両群間で差がなかった(非特許文献48)。
このように、硫酸カルシウムは乳熱対策としての使用が検証されているものの、通常は塩素イオンを含む陰イオン塩と併用される。その理由は、消化管における硫酸塩の吸収率は約60%と見積もられており(非特許文献49)、硫酸塩の血液酸性化活性は塩化物の0.6倍であり(非特許文献50)、乳熱予防効果も0.6倍程度と考えられていること(非特許文献42)、並びにイオウは銅の吸収を阻害し、乳牛では報告は無いが肉牛においては灰白質脳軟化症のリスクを高めることから、乾物換算で飼料中0.4重量%以下が推奨されているためであると考えられる(非特許文献20)。
また国内では、肉牛の尿石症対策としての用途が検証されており、硫酸カルシウム二水和物を主成分とする鉱物である二水石膏は、炭酸カルシウムと嗜好性が同等であり、塩化カルシウム二水和物、硫酸マグネシウム三水和物及びグルタミン酸発酵粕よりも選択嗜好性に優れ、尿石症の予防効果を奏することが報告されている(特許文献2)。
本発明者の知る限りでは、陰イオン塩として硫酸カルシウムを単独で使用し乳熱の予防効果を比較・検証した例は、天野の報告のみであり、国内9戸の酪農家で飼養されている3産目以上(平均4.3産目)のホルスタイン種乾乳牛12頭に対し、硫酸カルシウム二水和物を主成分とする二水石膏を200g/日以上給与し、無給与群(10頭)と分娩前後の血液性状及び乳熱発症率を比較している。二水石膏給与群の飼料中カルシウム含量(設定値)は0.8重量%、無給与群については0.5重量%であり、飼料中リン含量は両群ともに0.3重量%であった。その結果、分娩日の血清カルシウム濃度は、無給与群で6.6mg/dLであったのに対し、給与群は8.0mg/dLと有意に高く、血清骨型アルカリホスファターゼ(以下、BAPとする)濃度は無給与群で14.6μg/Lであったのに対し、給与群で19.1μg/Lと有意差はないがやや高い傾向であり、乳熱発症率(起立不能の有無で診断)は無給与群20%(2/10)、給与群0%(0/12)であった(非特許文献51)。なお、この報告では、二水石膏の正確な給与量、飼料の内容、成分値(DCAD等)、給与量及び摂取量等の情報は示されていない。
特許第5243875号 特許第5439618号
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本発明は、以上の技術的背景において、良好な嗜好性と飼料摂取量を維持しながら、分娩前後の低カルシウム血症及び乳熱ならびにそれらと併発する周産期疾病(第四胃変位、ケトーシス等)を予防する乳牛用飼料及び方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、従来困難であった、低カルシウム血症及び乳熱の十分な予防効果と、嗜好性及び飼料摂取量の維持の双方を満たす飼料及び飼育方法を求めて鋭意検討を重ねた結果、意外にも、硫酸カルシウム及び/又はその水和物を73〜131g/日(硫酸カルシウム換算値)の範囲で給与すると、硫酸カルシウム等以外の陰イオン供給源を低減してDCADを比較的高くしても、1,25−(OH)ビタミンDの合成を促進し、従来の知見から予想される以上に血中カルシウム濃度の低下を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
即ち、本発明は、その一の実施形態において、硫酸カルシウム及び/又はその水和物を73〜131g/日乳牛に給与する飼育方法を提供する。
また、他の実施の形態では、硫酸カルシウム及び/又はその水和物を含み、単独で又は他の飼料と組合せて給与される乳牛用飼料であって、硫酸カルシウム及び/又はその水和物を、該飼料及び任意に組み合わされる他の飼料の合計で73〜131g/日が乳牛に給与される量となり、具体的には、該飼料及び任意に組み合わされる他の飼料の全体で、乾物換算で飼料中0.81〜1.45重量%の硫酸カルシウム及び/又はその水和物を含む乳牛用飼料を提供する。
後述の実施例で実証する通り、硫酸カルシウム及びその水和物は、飼料に対する乳牛の嗜好性に悪影響を及ぼさず、上述の範囲の給与量においては飼料摂取量を低下させずにDCADを低下させ、代謝性アシドーシスを誘導できる。この結果、本発明によれば、良好な嗜好性・採食性を維持しながら、低カルシウム血症及び乳熱に対する予防効果に優れる飼料を提供できる。特に、硫酸カルシウム等以外の陰イオン供給源を低減して、従来推奨されていた水準より、飼料中カルシウム含量を低くし、DCADを高く(相対的に陽イオンを多く)設定しても、低カルシウム血症及び乳熱に対して十分な予防効果が得られることが見出されており、好ましい実施形態においては、塩素や硫黄、並びに代謝性アシドーシスの影響がより低い乳牛用飼料を提供することができる。
試験7において、比較例7の飼料又は実施例11の飼料を給与した乳牛の、血清総カルシウム濃度のEDTA溶液静脈点滴開始時に対する変動を示すグラフある。 試験7において、比較例7の飼料又は実施例11の飼料を給与した乳牛の、血清1,25−(OH)ビタミンD濃度のEDTA溶液静脈点滴開始時に対する変動を示すグラフである。 試験7において、比較例7の飼料又は実施例11の飼料をそれぞれ6歳齢及び10歳齢の乳牛に給与した際の、血清1,25−(OH)ビタミンD濃度のEDTA溶液静脈点滴開始時に対する変動を示す、グラフである。 試験7において、比較例7の飼料又は実施例11の飼料を給与した乳牛の、血清骨型アルカリフォスファターゼ(BAP)濃度のEDTA溶液静脈点滴開始時に対する変動を示すグラフである。 試験8における、実施例12、13及び14の各飼料給与期間における尿pHを示すグラフである。 試験8における、実施例12、13及び14の各飼料給与期間における残飼の発生率を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明の範囲は、以下の説明によって限定されるものではない。
本発明の飼料は、分娩前の乳牛(乾乳牛)に給与するための飼料であり、硫酸カルシウム及び/又はその水和物を有効成分として含有する。
硫酸カルシウムの水和物としては、例えば、硫酸カルシウム0.5水和物、硫酸カルシウム二水和物等を挙げることができ、本発明の飼料では、いずれか1種又は2種以上の硫酸カルシウム及び/又はその水和物を配合することができるが、牛消化管での吸収性がより高く、迅速に血液・尿pHを低下させることから、2種以上のうち1種には硫酸カルシウムを用いることが望ましく、硫酸カルシウムのみを用いることがより望ましい。
硫酸カルシウム及び/又はその水和物は、例えば、石膏を利用して配合することができる。石膏は、硫酸カルシウムを主成分とする鉱物であり、無水石膏(CaSO)、半水石膏(CaSO・1/2HO)、及び二水石膏(CaSO・2HO)がある。二水石膏は加熱(120〜150℃)すると水和水を失って半水石膏へ変化し、半水石膏は水を加えると水和して二水石膏となり、凝固する性質を持つ。無水石膏には可溶性と不溶性の2種類が存在し、半水石膏を加熱(180〜190℃)して得られる可溶性無水石膏は、空気中の水分を吸収し再び半水石膏へ戻る性質を有するが、二水石膏を300〜700℃で焼成して得られ、天然にも存在する不溶性無水石膏は、容易に水和反応しない。本発明の飼料では、無水石膏、半水石膏及び二水石膏のいずれか1種又は2種以上に由来する硫酸カルシウム及び/又はその水和物を配合することができる。牛消化管での吸収性がより高く、迅速に血液・尿pHを低下させることから、2種以上の石膏のうち1種は無水石膏とすることが好ましく、無水石膏のみを用いることがより好ましい。
本発明においては、硫酸カルシウム及び/又はその水和物の給与量を、良好な嗜好性・採食性を維持しながらも低カルシウム血症及び乳熱予防効果を発揮し得る量とする。1日当たりの牛1頭に供給される量で見ると、硫酸カルシウム及び/又はその水和物を73〜131g/日・頭供給することが好ましく、90〜120g/日・頭供給することがより好ましく、100〜109g/日・頭供給することが最も好ましい。
これを飼料中の含有量で見ると、乾乳後期の乳牛の1日当たりの飼料摂取量が乾物換算で9〜12kg程度であるため、飼料の形態に応じて変動するものの、一種単独で又は他の飼料と組み合わせて乳牛に給与される飼料の何れにおいても、乳牛に給与される飼料全体では、硫酸カルシウム及び/又はその水和物を、乾物換算で0.81〜1.45重量%含むことが好ましく、より確実な飼料摂取量の維持と十分な低カルシウム血症及び乳熱予防効果の発揮といった観点から0.90〜1.35重量%含むことがより好ましく、1.00〜1.20重量%含むことが最も好ましい。
例えば、他の飼料(粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて乳牛に給与される配合飼料であって、当該配合飼料を通じて硫酸カルシウム及び/又はその水和物を給与する場合には、他の飼料を含む飼料全体の1日当りの総給与量に対して、上記含有量となるように、当該配合飼料に硫酸カルシウム及び/又はその水和物を配合することが好ましい。乾乳後期の乳牛には、配合飼料は通常、乾物換算で約5〜8kgの粗飼料、混合飼料及び単体飼料等の他の飼料と組合せて給与され、4kg/日・頭程度給与するため(総飼料給与量:乾物換算で約9〜12kg/頭・日)、配合飼料を通じて上記硫酸カルシウム等の含有量を達成するには、硫酸カルシウム及び/又はその水和物を配合飼料中に乾物換算で1.8〜3.8重量%含むことが好ましく、より確実な飼料摂取量の維持と十分な低カルシウム血症及び乳熱予防効果の発揮といった観点から2.2〜3.4重量%含むことがより好ましく、2.6〜3.2重量%含むことが最も好ましい。
同様に、混合飼料又は単体飼料のように他の飼料(例えば、配合飼料、粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与されることを前提にする飼料であって、当該飼料を通じて硫酸カルシウム及び/又はその水和物を給与する場合にも、組合せて給与される飼料全体での1日当りの総給与量に対して上記含有量となるように、当該飼料に硫酸カルシウム及び/又はその水和物を配合することが好ましい。通常、混合飼料又は単体飼料等は、一日1〜2回、一回当たり50〜150g程度給与されるので、このような硫酸カルシウム等の供給を単独で達成可能な混合飼料は、通常、硫酸カルシウム及び/又はその水和物を飼料中に乾物換算で25〜50重量%含み、より好ましくは30〜45重量%含む。また、硫酸カルシウム等を上記の量、単独で供給可能な単体飼料は、通常、硫酸カルシウム及び/又はその水和物を飼料中に乾物換算で15〜99重量%含み、好ましくは40〜99重量%含み、より好ましくは70〜99重量%含み、最も好ましくは95〜99重量%含む。
ここで、配合飼料とは牛のエネルギー及びタンパク質要求量を満たす目的で主として給与される、濃厚飼料を主体とした飼料のことを指し、必要に応じてビタミン、ミネラル、その他の添加剤が添加される。濃厚飼料とは、トウモロコシなどの穀類、大豆粕などの植物性油粕類、ふすまなどのそうこう類、その他食品残渣など、牛のエネルギー及びタンパク質供給源となる飼料を指す。混合飼料とは、配合飼料及び/又は濃厚飼料とは別途、補助的にエネルギー、タンパク質、ビタミン・ミネラル及び/又はその他の添加剤を補給する目的で、一般的に配合飼料及び/又は濃厚飼料よりも少量給与される飼料のことを指す。
また、本願明細書において、硫酸カルシウム又はその水和物の重量及び重量パーセント濃度は、水和水を除いた硫酸カルシウム、すなわちCaSO換算の重量及び重量パーセント濃度を指す。
本発明の飼料では、硫酸カルシウム又はその水和物を主たる陰イオン供給源とすることから、乳牛に給与される総飼料中のDCADを比較的高くしても、従来の知見から予想される以上に血中カルシウム濃度の低下を抑制し得、飼料摂取量の減退を招くことなく、低カルシウム血症及び乳熱を効果的に防止することがでる。具体的には、総飼料中のDCADは乾物換算で55〜110mEq/kgとするのが好ましく、70〜95mEq/kgとするのがより好ましく、75〜90mEq/kgとするのが最も好ましい。なお、特に言及しない限り、本明細書においてDCADは式1によって計算された値を示す。
例えば、配合飼料の場合では、単独で給与される場合又は他の飼料(粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与される場合の何れでも給与される飼料全体の1日当りの総量において、上記のDCADとなるようにすることが好ましい。上述の通り、乾乳後期の乳牛には、配合飼料は通常、4kg/日・頭程度給与するため、配合飼料を通じて上記のDCADを達成するには、配合飼料のDCADを乾物換算で−160〜0mEq/kgとするのが好ましく、−130〜−30mEq/kgとするのがより好ましく、−100〜−60mEq/kgとするのが最も好ましい。
同様に、混合飼料又は単体飼料のように他の飼料(配合飼料、粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与されることを前提にする飼料でも、当該飼料と他の飼料との1日当りの総量において、上記のDCADとすることが好ましい。通常、混合飼料又は単体飼料等は、一日1〜2回、一回当たり50〜150g程度給与されるので、これらの飼料を通じてこのようなDCADを達成するには、混合飼料等のDCADを、乾物換算で−4,500〜−2,000mEq/kgとすることが好ましく、−4,000〜−2,500mEq/kgとすることがより好ましい。
本発明の飼料では、硫酸カルシウム等と共に、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の嗜好性に悪影響の少ない他のカルシウム供給原料を含んでもよい。但し、本発明の飼料では、従来推奨されていた水準よりもカルシウム含量を低減することができるため、これらのカルシウム塩の含有量は少なくてよい。前述の通り、低カルシウム血症及び乳熱の予防の観点から、分娩前の飼料中リン含量は必要最低限とするべきであるため、リン酸カルシウムの含有量は少なくするのが好ましい。
上述の点から、配合飼料とする場合では、炭酸カルシウムの含有量を飼料中乾物換算で0〜3.0重量%とすることが好ましく、0.4〜2.0重量%とすることがより好ましく、0.8〜1.6重量%とすることが最も好ましい。同様に、リン酸カルシウムは、配合飼料中に乾物換算で1.0%以下とするのが好ましい。
また、混合飼料等のように他の飼料と組合せて用いられる飼料では、単独で又は他の飼料と共に炭酸カルシウムを1日当たり0〜100g/頭供給する形態の飼料が好ましく、0〜70g/頭供給する形態の飼料が特に好ましい。このような炭酸カルシウムを単独で供給するための混合飼料等は、通常、炭酸カルシウムを飼料中に乾物換算で0〜50重量%含み、好ましくは0〜25重量%含む。
同様に、混合飼料等のように他の飼料と組合せて用いられる飼料では、単独で又は他の飼料と共に、リン酸カルシウムを1日当たり0〜50g/頭供給する形態の飼料が好ましい。リン酸カルシウムを単独で供給するための混合飼料等は、通常、リン酸カルシウムを飼料中に乾物換算で0〜20重量%含み、好ましくは0〜10重量%含む。
本発明の飼料では、総飼料中のカルシウム含量は乾物換算で0.6〜0.9重量%とすることができ、より好ましくは0.5〜0.8重量%とする。
例えば、配合飼料の場合には、単独で給与する場合、及び他の飼料(粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与する場合の何れにおいても給与される飼料全体の1日当りの総量において、上記のカルシウム含有量となるように調製することが好ましい。上述の通り、乾乳後期の乳牛には、配合飼料は通常、4kg/日・頭程度給与するため、配合飼料を通じて上記のカルシウム含有量を達成するためには、配合飼料のカルシウム含量を乾物換算で1.2〜1.8重量%とすることができ、より好ましくは0.9〜1.5重量%とする。
また、混合飼料又は単体飼料のように他の飼料(配合飼料、粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与される飼料でも、組合せて給与される飼料全体の1日当りの総量において、上記のカルシウム含量となるように調製することが好ましい。通常、混合飼料又は単体飼料等は、一日1〜2回、一回当たり50〜150g程度給与されるので、これらの飼料を通じてこのようなカルシウム含量を達成するには、混合飼料等のカルシウム含量を乾物換算で7〜34重量%とすることが好ましく、9〜20重量%とすることがより好ましい。
本発明の飼料では、硫酸カルシウム及び/又はその水和物が1,25−(OH)ビタミンDの産生能力を向上させるため、飼料中マグネシウム含量を従来推奨されていた水準より少なくしても十分な低カルシウム血症及び乳熱の予防効果が得られる。前述の通り、マグネシウム塩の添加は飼料の嗜好性を悪化させるため、本発明の飼料の利点である良好な嗜好性及び採食性を最大限に発揮するためには、飼料中マグネシウム含量を低減させることが好ましい。この点で、総飼料中のマグネシウム含量は乾物換算で0.20〜0.40重量%とすることが好ましく、0.20〜0.30重量%とすることがより好ましく、0.20〜0.25重量%とすることが更に好ましい。
例えば、配合飼料の場合には、単独で給与する場合、及び他の飼料(粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与する場合の何れにおいても、給与される飼料全体の1日当りの総量において、上記のマグネシウム含有量となるように調製することが好ましい。上述の通り、乾乳後期の乳牛には、配合飼料は通常、4kg/日・頭程度給与するため、配合飼料を通じて上記のマグネシウム含有量を達成するためには、配合飼料のマグネシウム含量を乾物換算で0.20〜0.50重量%とすることが好ましく、0.20〜0.35重量%とすることがより好ましく、0.20〜0.25重量%とすることが更に好ましい。
また、混合飼料又は単体飼料のように他の飼料(配合飼料、粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与される飼料でも、組合せて給与される飼料全体の1日当りの総量において、上記のマグネシウム含量となるように調製することが好ましい。上述の通り、混合飼料又は単体飼料等は、通常一日1〜2回、一回当たり50〜150g程度給与されるので、これらの飼料を通じてこのようなマグネシウム含量を達成するには、混合飼料等のマグネシウム含量を乾物換算で0.05〜25重量%とすることが好ましく、0.1〜5.0重量%とすることがより好ましく、0.2〜1.0重量%とすることが更に好ましい。
本発明の飼料は、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩酸、硫酸、グルタミン酸発酵粕、グルタミン酸発酵副産液等の硫酸カルシウム及びその水和物以外の陰イオン供給源を、全く含まないか、あるいは少量含む。これらの陰イオン供給源は飼料の嗜好性を低減するため、その供給量は少なくすべきであり、具体的には、これらの陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの総計を、給与される飼料全体の一日当たり総量で、400mEq/頭・日以下とするのが好ましく、250mEq/頭・日以下とするのがより好ましく、180mEq/頭・日以下とするのがより好ましく、100mEq/頭・日以下とするのが更に好ましく、0mEq/頭・日とするのが最も好ましい。
これを飼料中の含有量で見ると、乾乳後期の乳牛の一日当たりの乾物摂取量は10kg/頭・日前後であるため、硫酸カルシウム及びその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの総計は総飼料中に乾物換算で0〜40mEq/kg含むことが好ましく、0〜25mEq/kg含むことがより好ましく、0〜18mEq/kg含むことがより好ましく、0〜10mEq/kg含むことが更に好ましく、0mEq/kgとするのが最も好ましい。
配合飼料の場合、上述の通り、乾乳後期の乳牛には、配合飼料(通常、乾物は87重量%程度)を通常、4kg/日・頭程度給与するため、硫酸カルシウム及びその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの含有量は、乾物換算で0〜120mEq/kgであることが好ましく、0〜80mEq/kgであることがより好ましく、0〜60mEq/kgであることがより好ましく、0〜30mEq/kgであることが更に好ましく、0mEq/kgであるのが最も好ましい。
また、混合飼料又は単体飼料のように他の飼料(配合飼料、粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与される飼料の場合でも、組合せて給与される飼料全体の1日当りの総量において、硫酸カルシウム及び/又はその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの総計が上記の量となるように調製することが好ましい。通常、混合飼料又は単体飼料等は、上述の通り、一日1〜2回、一回当たり50〜150g程度給与されるので、硫酸カルシウム及び/又はその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの総計は、飼料中に乾物換算で0〜1,600mEq/kg含み、好ましくは0〜1,000mEq/kg含み、より好ましくは0〜500mEq/kg含み、より好ましくは0〜200mEq/kg含み、より好ましくは0〜100mEq/kg含み、更に好ましくは0〜50mEq/kg含み、最も好ましくは0mEq/kgとする。
本発明の飼料では、低カルシウム血症及び乳熱の予防効果をより高めるため、ビタミンD代謝物を併用することも有効な実施形態の一つである。1,25−(OH)ビタミンDを分娩前1週間以内に合計200〜800μg投与することが好ましく、250〜500μg投与することがより好ましい。ビタミンD代謝物としてリュウキュウヤナギやシロバナコウボクの葉及びその搾汁物、抽出物等を用いる場合、1,25−(OH)ビタミンD換算で上記の量を給与すればよい。
前述の通り、イオウは銅の吸収を阻害し、肉牛では過剰摂取により灰白質脳軟化症の発症が報告されている。イオウの過剰摂取による灰白質脳軟化症は、ルーメン内で発生する硫化水素が原因となって発症するが、硫化水素はルーメンpHが低いと発生量が増えるため、ルーメンpHの安定化が灰白質脳軟化症の予防に有効と考えられている(非特許文献52)。そのため、本発明の飼料では、硫酸カルシウム及び/又はその水和物の添加による銅の吸収阻害による害を低減するため、銅を添加することが好ましく、また灰白質脳軟化症のリスクを軽減するため、ルーメンpHを安定化させるイーストカルチャー及び/または活性酵母を添加することも好ましい。銅の供給源としては、硫酸銅、炭酸銅、塩化銅、酸化銅等の無機態の銅及び/又は有機態の銅(例えば、アミノ酸及び/又はペプチドと複合体を形成した銅など)を用いることができる。
銅の供給量は80〜1,000mg/頭・日が好ましく、100〜800mg/頭・日がより好ましく、150〜500mg/頭・日が最も好ましい。これを乳牛の一日当たりの飼料摂取量を考慮の上、給与される飼料全体の含有量で見ると、銅は総飼料中に乾物換算で8〜100mg/kg含むことが好ましく、10〜80mg/kg含むことがより好ましく、15〜50mg/kg含むことが最も好ましい。
例えば、配合飼料の場合には、単独で給与する場合、及び他の飼料(粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与する場合何れにおいても、給与される飼料全体の1日当りの総量において、銅が上記の給与量となるように調製することが好ましい。上述の通り、乾乳後期の乳牛には、配合飼料は通常、4kg/日・頭程度給与するため、配合飼料を通じて上記の銅給与量を達成するには、銅が配合飼料中に乾物換算で8〜200mg/kg含むことが好ましく、10〜160mg/kg含むことがより好ましく、15〜100mg/kg含むことが最も好ましい。
また、混合飼料又は単体飼料のように他の飼料(配合飼料、粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与される飼料でも、組合せて給与される飼料全体の1日当りの総量において、銅が上記の給与量となるように調製することが好ましい。上述の通り、混合飼料又は単体飼料等は、通常、一日1〜2回、一回当たり50〜150g程度給与されるので、銅は飼料中に乾物換算で3〜3,000mg/kg含むことが好ましく、50〜2,000mg/kg含むことがより好ましく、100〜1,000mg/kg含むことが最も好ましい。
イーストカルチャー及び/または活性酵母の供給量は酵母生菌数として1×10〜5×1010CFU/頭・日が好ましく、5×10〜2×1010CFU/頭・日がより好ましい。これを乳牛の一日当たりの飼料摂取量を考慮の上、飼料中の含有量で見ると、イーストカルチャー及び/または活性酵母は総飼料中に乾物換算で酵母生菌数として1×10〜5×10CFU/kg含むことが好ましく、5×10〜2×10CFU/kg含むことがより好ましい。
例えば、配合飼料の場合、単独で給与する場合、及び他の飼料(粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与する場合の何れにおいても、給与される飼料全体において、イーストカルチャー及び/または活性酵母が上記の含有量となるように調製することが好ましい。上述の通り、乾乳後期の乳牛には、配合飼料は通常、4kg/日・頭程度給与するため、配合飼料を通じてこのようなイーストカルチャー等の含有量を達成するには、イーストカルチャー及び/または活性酵母が配合飼料中に乾物換算で酵母生菌数として3×10〜2×1010CFU/kg含有することが好ましく、2×10〜7×10CFU/kg含有することがより好ましい。
また、混合飼料又は単体飼料のように他の飼料(配合飼料、粗飼料、混合飼料及び単体飼料等を含む)と組合せて給与される飼料の場合でも、組合せて給与される飼料全体において、イーストカルチャー及び/または活性酵母が上記の含有量となるように調製することが好ましい。前述の通り、混合飼料又は単体飼料等は、通常一日1〜2回、一回当たり50〜150g程度給与されるので、イーストカルチャー及び/または活性酵母を飼料中に乾物換算で3×1010〜1×1012CFU/kg含むことが好ましく、1×1010〜4×1011CFU/kg含むことがより好ましい。
本発明の飼料は、嗜好性・採食性を向上させるため、飼料形態はペレット、フレーク・ペレット、ペレットクランブル、エクスパンダーなど、飼料を粉状ではなく牛が採食しやすいように一定の粒径に成型することが好ましい。また同様の理由により、本発明の飼料には甘味料及び/又は着香料を添加することが好ましく、甘味料としては、例えばサッカリンナトリウム、アスパルテーム、スクラロースなどを用いることができる。サッカリンナトリウムの場合、配合飼料又は混合飼料中に乾物換算で0.003〜0.1重量%含むことが好ましく、0.01〜0.07重量%含むことがより好ましく、0.02〜0.05重量%含むことが最も好ましい。着香料は、配合飼料又は混合飼料中に乾物換算で0.0001〜0.1重量%含むことが好ましく、0.005〜0.05重量%含むことがより好ましい。
ここで、本発明の好ましい実施形態の飼料の組成(配合飼料、粗飼料、混合飼料及び単体飼料等、乳牛に給与される全ての飼料の全体としての組成)を以下に示す。
硫酸カルシウム及び/又はその水和物:乾物換算で0.90〜1.35重量%
カルシウム:乾物換算で0.6〜0.9重量%
マグネシウム:乾物換算で0.20〜0.30重量%
銅:乾物換算で10〜80mg/kg
DCAD:乾物換算で70〜95mEq/kg
硫酸カルシウム及び/又はその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの総計:乾物換算で0〜18mEq/kg
任意に、イーストカルチャー及び/または活性酵母:乾物換算で5×10〜2×10CFU/kg
任意に、甘味料:乾物換算で0.01〜0.07重量%
任意に、着香料:乾物換算で0.005〜0.05重量%
配合飼料、混合飼料及び/又は単体飼料によって硫酸カルシウム等を供給する場合には、それと組み合わせて給与する配合飼料、粗飼料、混合飼料及び/又は単体飼料との合算において、上記の組成とすれば良い。
本発明において、飼料の給与対象は、乳牛であり、好ましくは乾乳牛であり、より好ましくは乾乳後期(分娩3週間前〜分娩)の全期間又は一部の期間(好ましくは分娩2週間前〜分娩)の乾乳牛である。なお、乾乳牛とは、分娩前(通常、分娩2ヶ月前〜分娩)で搾乳を中止している乳牛のことを指し、乾乳期は、乾乳前期(通常、分娩2ヶ月前〜3週間前)と乾乳後期(分娩3週間前〜分娩)に大別される。但し、本願の一部の記載(実施例)では、便宜上、搾乳を行っていない非妊娠の乳牛も含む意味で用いている。
本発明の飼料は、通常、2産目(概ね3歳)以上の乳牛を対象とするが、ビタミンD3の代謝能が低下した老齢牛において特に有効である。前述の通り、牛は加齢に伴い腸管の1,25−(OH)ビタミンD受容体が減少し、かつ24位水酸化酵素が増加することで、1,25−(OH)ビタミンDの産生及び反応性の双方が低下し、カルシウム吸収能が低下する。しかしながら、本発明の飼料は、特に老齢牛において、血中カルシウム濃度の低下に呼応した1,25−(OH)ビタミンDの産生能力を高めるため、老齢牛における低カルシウム血症及び乳熱対策として特に有効である。具体的には、乳熱の発症が増加する3産目(通常、24ヶ月齢前後で初産分娩し、以後は平均して15ヶ月間隔で分娩を重ねるため、概ね4歳)以上、その中でも特に5産目(概ね7歳)以上、さらには7産目(概ね9〜10歳)以上の乳牛の低カルシウム血症及び乳熱対策として有効である。
給与方法については、特に制限はなく、配合飼料、粗飼料、混合飼料及び/又は単体飼料と併用することができ、不断給餌又は制限給餌とすることができる。配合飼料の場合には、通常1日1〜10回に分割して給与することができ、一日当たり2〜6kgの飼料を給与して、73〜131g/頭・日の硫酸カルシウム及び/又はその水和物を供給することが好ましい。このような量の硫酸カルシウム及び/又はその水和物の供給は、牛群の平均尿pHを7.1〜7.6に調整し、飼料摂取量に悪影響を及ぼすことなく、1,25−(OH)ビタミンDの合成を促進し、血中カルシウム濃度の低下を抑制し得る。
硫酸カルシウム等の供給は混合飼料又は単体飼料によって行ってもよく、この場合には、1日当たりの硫酸カルシウムの供給量が73〜131g/頭・日となるように混合飼料又は単体飼料を給与する。混合飼料又は単体飼料で硫酸カルシウム等を給与する場合には、カルシウム含量が低く、及び/又はDCADが高い飼料と組み合わせることができ、具体的には、総飼料中カルシウム含量が乾物換算で0.6〜0.9重量%、DCADが乾物換算で70〜95mEq/kgとなるような飼料と組み合わせることができる。組み合わされる飼料は混合給与若しくは分離給与され、牛が同時に摂取できるようにすることが望ましい。
本発明の方法では、上記の量の硫酸カルシウム及び/又はその水和物と共に、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム及び/又はその水和物以外の陰イオン供給源(塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩酸、硫酸、グルタミン酸発酵粕、グルタミン酸発酵副産液等)に由来する塩素及びイオウ、カルシウム、リン、マグネシウム、1,25−(OH)ビタミンD(リュウキュウヤナギやシロバナコウボクの葉及びその搾汁物、抽出物等に由来する1,25−(OH)ビタミンDを含む)等を以下の表1に示す量供給することができる(各成分の供給量の技術的意義は、飼料に関して述べたところと同様である)。
本発明の方法では、上記飼料の給与により、牛群の平均尿pHが7.1〜7.6となっていることを確認することが好ましい。上述の通り、この尿pHの範囲内では、良好な嗜好性・採食性の維持と低カルシウム血症及び乳熱の予防の双方が達成可能である。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
試験1.無水石膏と二水石膏の嗜好性評価
無水石膏又は二水石膏の添加が飼料の嗜好性に及ぼす影響について検討した。乾物86.9重量%、乾物換算で粗蛋白質14.0重量%、可消化養分総量(TDN)84.1重量%、炭酸カルシウム含有量0.92重量%のフレーク・マッシュの市販肥育牛用配合飼料を基礎飼料とし、これを基に下記の表2に示す配合割合及び成分値(設計値)の飼料を調製した。

注)成分値(設計値:乾物中の値)は、粗タンパク質、CaおよびPについては原料ごとの分析に基づく設計値であり、その他は「日本標準飼料成分表(2009年版)」(非特許文献53)の値を引用し、「日本標準飼料成分表(2009年版)」に値が記載されていないものは「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。配合割合は小数点第二位以下を四捨五入して示した。
表2に示す通り、比較例1の飼料は市販肥育牛用配合飼料である。実施例1の飼料は、市販肥育牛用配合飼料に対し無水石膏を2.0重量%(硫酸カルシウム換算値:1.9重量%)添加した飼料であり、実施例2の飼料は、二水石膏を2.0重量%(硫酸カルシウム換算値:1.53重量%)添加した飼料である。
約6ヶ月齢のホルスタイン種去勢育成牛4頭を供試し、カフェテリア方式にてこれら3種の飼料の嗜好性を比較した。供試牛は同一牛房に群飼いし、飼槽を3分割し各飼料を朝の給餌時に設置し、7時間後に各飼料を回収し残量を計量した。試験は3日間行い、毎日各飼料の設置場所を入れ替えた。結果を表3に示す。
実施例1及び実施例2の飼料は、平均摂取量・平均摂取比率ともに比較例1の飼料と大差なく、嗜好性は比較例1の飼料と同等であると考えられた。
以上の結果から、配合飼料への無水石膏または二水石膏2.0重量%の添加は、嗜好性に悪影響を及ぼさないことが示された。
試験2.無水石膏と二水石膏の尿pH低下効果の比較
無水石膏又は二水石膏の添加が尿pHに及ぼす影響について検討した。乾物86.9重量%、乾物換算で粗蛋白質14.0重量%、可消化養分総量(TDN)84.1重量%、炭酸カルシウム含有量0.92重量%のフレーク・マッシュの市販肥育牛用配合飼料を基礎飼料とし、これを基に下記の表4に示す配合割合及び成分値(設計値)の飼料を調製した。

注)成分値(設計値:乾物中の値)は、粗タンパク質、CaおよびPについては原料ごとの分析に基づく設計値であり、その他は「日本標準飼料成分表(2009年版)」(非特許文献53)の値を引用し、「日本標準飼料成分表(2009年版)」に値が記載されていないものは「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。配合割合は小数点第三位以下を四捨五入して示した。
表4に示す通り、実施例3の飼料は市販肥育牛用配合飼料に対し、無水石膏を0.99重量%添加した飼料である。実施例4の飼料は、市販肥育牛用配合飼料に対し二水石膏を1.20重量%添加した飼料である。
繋ぎ飼いで飼養する3〜8歳齢の非妊娠ホルスタイン種雌乾乳牛6頭を供試し、実施例3の飼料を8.08kg/日給与と実施例4の飼料を8.10kg/日給与の2群に分け試験を実施した。すなわち、実施例3の飼料を給与した群には、肥育牛用配合飼料を約8.0kg/日と無水石膏を約80g/日(硫酸カルシウム換算値:78g/日)給与した計算となり、実施例4の飼料を給与した群には、肥育牛用配合飼料約8.0kg/日と二水石膏を約97g/日(硫酸カルシウム換算値:76g/日)給与したこととなるため、両群に給与した肥育牛用配合飼料と硫酸カルシウムの量(水和物を除く)はほぼ同一である。粗飼料については両群ともに稲ワラ1.0kg/日給与とし、飼料は1日2回、朝9:30と夕17:30に等量ずつ分けて給与した。試験は各飼料給与期間を5〜6日間とする反転試験法にて行い、試験期間最終日の11:00、14:00及び17:00に尿を採取しpHメーター(PH82 横河電機株式会社)にてpHを測定した。結果を表5に示す。
14:00と17:00においては尿pHに明確な差は認められなかったが、11:00においては実施例3の飼料の方が尿pHは統計的に有意に低く(p<0.05)、個体ごとに計3回の平均値で集計すると、有意差はないものの実施例3の方がやや尿pHは低い値を示した。
以上の結果から、無水石膏と二水石膏のいずれも尿pHを低下させる効果を有し、陰イオン塩として用いることができるが、無水石膏の方が牛における利用性・吸収性が高い可能性が示唆された。
試験3.無水石膏による他の陰イオン塩の代替が嗜好性に及ぼす影響の検討
無水石膏による硫酸マグネシウム及びグルタミン酸発酵粕の代替が、配合飼料の嗜好性に及ぼす影響について検討した。乾物88.0重量%の表6に示す配合割合及び成分値(設計値)のフレーク・ペレット飼料を調製した。

注)成分値(設計値:乾物中の値)は、粗タンパク質、CaおよびPについては原料ごとの分析に基づく設計値であり、その他は「日本標準飼料成分表(2009年版)」(非特許文献53)の値を引用し、「日本標準飼料成分表(2009年版)」に値が記載されていないものは「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。
表6に示す通り、比較例2の飼料は、陰イオン塩として硫酸マグネシウム三水和物を0.80重量%、グルタミン酸発酵粕を4.50重量%配合した飼料である。比較例3の飼料は陰イオン塩としてグルタミン酸発酵粕を4.50重量%、無水石膏を0.65重量%(硫酸カルシウム換算値:0.63重量%)配合した飼料であり、実施例5の飼料は陰イオン塩としてグルタミン酸発酵粕を2.50重量%、無水石膏を1.50重量%(硫酸カルシウム換算値:1.46重量%)配合した飼料である。硫酸マグネシウム三水和物はイオウを現物中18.4重量%含み、グルタミン酸発酵粕は塩素を11.1重量%、イオウを3.49重量%含み、無水石膏はイオウを22.7重量%含む。そのため、比較例2の飼料は硫酸マグネシウム三水和物及びグルタミン酸発酵粕由来の塩素及びイオウの総計を乾物換算で−290mEq/kg含み、比較例3の飼料はグルタミン酸発酵粕由来の塩素及びイオウの総計を乾物換算で−227mEq/kg含み、実施例5の飼料はグルタミン酸発酵粕由来の塩素及びイオウの総計を乾物換算で−126mEq/kg含む。
約7ヶ月齢のホルスタイン種去勢育成牛4頭を供試し、カフェテリア方式にてこれら3種の飼料の嗜好性を比較した。供試牛は同一牛房に群飼いし、飼槽を3分割し各飼料を朝の給餌時に設置し、7時間後に各飼料を回収し残量を計量した。試験は3日間行い、毎日各飼料の設置場所を入れ替えた。結果を表7に示す。
平均摂取量、平均摂取比率及び平均順位のいずれにおいても、実施例5、比較例3、比較例2の順に優れた。
以上の結果から、硫酸マグネシウム及びグルタミン酸発酵粕を無水石膏により代替することで、配合飼料の嗜好性が向上することが示された。また、実施例5の飼料は比較例2及び3の飼料よりも大幅に嗜好性に優れる結果であったことから、配合飼料中の硫酸カルシウム及び/またはその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの総計は、−126mEq/kgを超えるべきではないと考えられた。
試験4.無水石膏使用混合飼料と他の陰イオン塩との嗜好性比較
無水石膏を含む混合飼料と他の陰イオン塩を含む混合飼料の嗜好性を比較した。乾物87.6重量%、乾物換算で粗蛋白質17.2重量%、可消化養分総量(TDN)82.7重量%のフレーク・マッシュの市販肥育牛用配合飼料を基礎飼料とした。この基礎飼料に、塩化アンモニウム含量40重量%、重質炭酸カルシウム含量40重量%のマッシュ形態の市販塩化アンモニウム製剤又は下記の表8に示す配合割合及び成分値のペレット形態の無水石膏混合飼料(実施例6)を混合し、それぞれ下記の表9に示す配合割合及び成分値(設計値)の比較例4及び実施例7の飼料を調製した。

注)成分値はTDNとCuのみ設計値(乾物中の値)であり、「日本標準飼料成分表(2009年版)」(非特許文献53)の値を引用し、「日本標準飼料成分表(2009年版)」に値が記載されていないものは「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。その他は分析値(乾物中の値)である。

注)成分値(設計値:乾物中の値)は、粗タンパク質、CaおよびPについては原料ごとの分析に基づく設計値であり、その他は「日本標準飼料成分表(2009年版)」(非特許文献53)の値を引用し、「日本標準飼料成分表(2009年版)」に値が記載されていないものは「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。
表8に示す通り、実施例6の飼料は、無水石膏を37.50重量%(硫酸カルシウム換算値:36.38重量%)含む混合飼料である。表9に示す通り、比較例4の飼料は、市販肥育牛用配合飼料に対し塩化アンモニウム製剤を2.25重量%添加した飼料であり、実施例7の飼料は、実施例6の飼料を5.13重量%添加した飼料(飼料中の硫酸カルシウム含有量:1.87重量%)であり、両飼料のDCAD値は略同等である。
約10ヶ月齢の交雑種去勢肥育牛5頭を供試し、カフェテリア方式にてこれら2種の飼料の嗜好性を比較した。供試牛は同一牛房に群飼いし、飼槽を2分割し各飼料を朝の給餌時に設置し、4時間後に各飼料を回収し残量を計量した。試験は4日間行い、毎日各飼料の設置場所を入れ替えた。結果を表10に示す。
平均摂取量、平均摂取比率は、比較例4の飼料に対し実施例7の飼料で顕著に優れ、4日間の試験期間全てにおいて実施例7の飼料が好まれる結果であった。
以上の結果から、陰イオン塩として無水石膏を用い、サッカリンナトリウムや着香料を使用しペレット化した実施例6の飼料は、市販の塩化アンモニウム製剤より明確に嗜好性に優れることが示された。
試験5.配合飼料への無水石膏の添加が育成牛の飼料摂取量及び発育成績に及ぼす影響の検討
配合飼料への無水石膏の添加が飼料摂取量及び発育成績に及ぼす影響を検討するため、4ヶ月齢ホルスタイン種去勢育成牛12頭を供試し試験を行った。供試牛を6頭ずつ対照群と試験群に分け、対照群には比較例5の配合飼料を、試験群には実施例8の配合飼料を給与し(配合割合及び成分値:表11参照)、粗飼料については両群ともチモシー乾草(成分値:表12)を給与した。配合飼料、粗飼料とも自由採食(不断給与)とし、1ヶ月間の飼育試験を行った。試験終了時に血液を採取し、血清中総コレステロール濃度は酵素法にて、尿素窒素濃度は酵素法にて、総カルシウム濃度はOCPC(オルトクレゾールフタレインコンプレキソン)法にて、無機リン濃度はモリブデンブルー法にて、マグネシウム濃度はキシリジルブルー法にて、骨型アルカリフォスファターゼ(BAP)濃度はCLEIA(化学発光酵素免疫測定法)法にて測定した。試験終了時に尿を採取し、pHメーター(PH82 横河電機株式会社)にてpHを測定した。

注)成分値(設計値:乾物中の値)は、粗タンパク質、CaおよびPについては原料ごとの分析に基づく設計値、Mg、Na、K、ClおよびSについては比較例5では分析値、実施例8では設計値である。Cuについては「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。

注)成分値(設計値:乾物中の値)は、「日本標準飼料成分表(2009年版)」(非特許文献53)の値を引用し、「日本標準飼料成分表(2009年版)」に値が記載されていないものは「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。
表11に示す通り、比較例5の飼料は、カルシウム供給源として炭酸カルシウムを配合し、無水石膏は不使用である。実施例8の飼料は、無水石膏を1.20重量%(硫酸カルシウム換算値:1.16重量%)含み、DCADは乾物換算で94.7mEq/kgである。試験期間中の配合飼料及び粗飼料の摂取量(1日当たりの総乾物摂取量:対照群5.03kg、試験群5.22kg)から、対照群、試験群それぞれの総飼料中の成分値を計算した結果が表13である。対照群と試験群ではDCADは約100mEq/kgの差となり、試験群の総飼料中DCADは105.8mEq/kgであった。
結果を表14及び15に示す。

日増体量は対照群と試験群で同等であり、乾物摂取量は試験群でやや多い傾向であった。血液性状については両群で差が無く、尿pHは試験群の方が統計的に有意に低く(p<0.05)、平均値で7.12であった。
以上の結果から、配合飼料へ無水石膏を添加し、総飼料中DCADを乾物換算で約100mEq/kg低下させ、105.8mEq/kgとしても、発育成績及び乾物摂取量に悪影響は無いことが示された。
Charbonneauら(非特許文献42)は、分娩前の乾乳牛において、飼料中DCADが100mEq/kg低下するごとに乾物摂取量が0.43kg/日減少することを報告している。本試験では育成牛を供試しているという点で違いはあるものの、乾物摂取量はむしろ試験群の方が多い傾向であり、無水石膏の飼料への添加は、DCADが105.8mEq/kg、尿pHが平均7.12までの水準においては、他の陰イオン塩と異なり、自由採食時においても飼料摂取量に悪影響を及ぼさないことが示唆された。
試験6.無水石膏使用混合飼料の給与が尿pHに及ぼす影響の確認
無水石膏を使用した混合飼料の給与によるDCADコントロールについて確認した。繋ぎ飼いで飼養する5〜10歳齢の非妊娠ホルスタイン種雌乾乳牛5頭を供試し、一般的な乾乳後期の給与メニューにおける無水石膏使用混合飼料が尿pHに及ぼす影響を検討した。すなわち、供試牛を2群に分け、乾物86.8重量%、乾物換算で粗蛋白質20.9重量%、可消化養分総量(TDN)86.4重量%のフレーク・ペレットの市販乳牛用配合飼料を4.0kg/頭/日、スーダングラス乾草を5.0kg/日を給与し、一方の群には追加で実施例6の無水石膏使用混合飼料をトップドレスで200g/日(無水石膏として75g/日、硫酸カルシウム換算値:73g/日)給与した(表16参照)。飼料は1日2回、朝・夕に等量ずつ分けて給与した。試験は各飼料給与期間を7日間以上とする反転試験法にて行い、試験期間の最終日に尿を採取しpHメーター(PH82 横河電機株式会社)にてpHを測定した。さらに、実施例6の無水石膏使用混合飼料の給与量を300g/日(無水石膏として112.5g/日、硫酸カルシウム換算値:109g/日)として追試験を行った(表17参照)。

注)成分値はTDNとCuのみ設計値(乾物中の値)であり、「日本標準飼料成分表(2009年版)」(非特許文献53)の値を引用し、「日本標準飼料成分表(2009年版)」に値が記載されていないものは「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。その他は分析値(乾物中の値)である。

注)成分値はTDNとCuのみ設計値(乾物中の値)であり、「日本標準飼料成分表(2009年版)」(非特許文献53)の値を引用し、「日本標準飼料成分表(2009年版)」に値が記載されていないものは「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。その他は分析値(乾物中の値)である。
結果を表18および19に示す。

比較例6の飼料と実施例9の飼料の比較では、実施例9の飼料の方が平均尿pHは0.80低かったが、個体B及び個体Eにおいては実施例9の飼料の給与期間においても尿pHは8.0以上であり、個体によっては高めの値であった。比較例6の飼料と実施例10の飼料の比較では、平均尿pHは実施例10の飼料の方が統計的に有意に低く(p<0.05)、明確に尿pHの低下が確認できた。
以上の結果より、乾乳後期の乳牛への実施例6の無水石膏使用混合飼料の給与量は、少なくとも200g/日(無水石膏として75g/日、硫酸カルシウム換算値:73g/日)以上とすることが望ましく、300g/日(無水石膏として112.5g/日、硫酸カルシウム換算値:109g/日)の方がより望ましいと考えられた。
試験7.無水石膏使用混合飼料の低カルシウム血症の予防効果の検証
無水石膏を使用した混合飼料の低カルシウム血症予防効果について検証した。繋ぎ飼いで飼養する6〜10歳齢の非妊娠ホルスタイン種雌乾乳牛4頭を供試し、供試牛を2群に分け、乾物86.8重量%、乾物換算で粗蛋白質20.9重量%、可消化養分総量(TDN)86.4重量%のフレーク・ペレットの市販乳牛用配合飼料を4.0kg/頭/日、スーダングラス乾草を6.0kg/日を給与し、一方の群には追加で実施例6の無水石膏使用混合飼料をトップドレスで300g/日(無水石膏として112.5g/日、硫酸カルシウム換算値:109g/日)給与した(表20参照)。飼料は1日2回、朝・夕に等量ずつ分けて給与した。試験は各飼料給与期間を14日間とする反転試験法にて行った。尿は12〜13日目に採取しpHメーター(PH82 横河電機株式会社)にてpHを測定した。Jorgensenら(非特許文献54)の報告を参考とし、14日目の朝の給餌1時間後に、滅菌した5.0%NaEDTA・2HO溶液を右頸静脈より500mL/hの流量で3時間注入することで低カルシウム血症を誘導し、経時的に左頸静脈より血液を採取した。血清中総カルシウム濃度はOCPC(オルトクレゾールフタレインコンプレキソン)法で、1,25−(OH)ビタミンD濃度はRIA(ラジオイムノアッセイ)法で、骨型アルカリフォスファターゼ(BAP)濃度はCLEIA(化学発光酵素免疫測定法)法にて測定した。

注)成分値はTDNとCuのみ設計値(乾物中の値)であり、「日本標準飼料成分表(2009年版)」(非特許文献53)の値を引用し、「日本標準飼料成分表(2009年版)」に値が記載されていないものは「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。その他は分析値(乾物中の値)である。
結果を表21及び図1〜4に示す。
尿pHは、実施例11の飼料において平均7.40であり、比較例7の飼料に対し統計的に有意に低い値を示した(p<0.05)。個体ごとにNaEDTA・2HO溶液の静脈点滴開始時の数値に対する増減で見ると、血清総カルシウム濃度は1.5および4時間後において実施例11の飼料の方が統計的に有意に高い値であり(p<0.10,p<0.05)、特に静脈点滴を実施している3時間後までは、1mg/dL前後の差が確認された。Charbonneauら(非特許文献42)が報告した、飼料中DCADから分娩時の血中総カルシウム濃度を求める予測式(総カルシウム濃度(mg/dL)=8.071−0.00260×DCAD(mEq/kg))に基づくと、実施例11の飼料では比較例7の飼料よりも血中総カルシウム濃度は0.27mg/dL高くなる計算となるため、実施例11の飼料は従来技術から予想される以上に、血中総カルシウム濃度の低下を緩和した可能性があると考えられる。また血清1,25−(OH)ビタミンD濃度は、静脈点滴開始時においては比較例7の飼料で平均27.3pg/mL、実施例11の飼料で25.0pg/mLと差はなく、いずれの飼料においてもNaEDTA・2HO溶液の静脈点滴によって上昇する傾向であったが、6時間後において実施例11の飼料の方が統計的に有意に大きく上昇した(p<0.01)。これを6歳齢と10歳齢の個体で分けて集計すると、10歳齢の個体において、比較例7の飼料では血清1,25−(OH)ビタミンD濃度はほとんど上昇しなかったのに対し、実施例11の飼料では6歳齢の個体と遜色ない水準にまで上昇する傾向であり、実施例11の飼料は老齢牛において特に1,25−(OH)ビタミンDの合成を促進したものと考えられた。血清BAP濃度は6μg/L前後と低い水準で推移し、比較例7の飼料と実施例11の飼料に差はなかった。なお、試験期間中、比較例7の飼料と実施例11の飼料のいずれにおいても残飼の発生は認められなかった。
以上の結果から、実施例6の無水石膏使用混合飼料300g/日(無水石膏として112.5g/日、硫酸カルシウム換算値:109g/日)の給与は、飼料摂取量に悪影響がなく、1,25−(OH)ビタミンDの合成を促し、血中総カルシウム濃度の低下を緩和することが示され、低カルシウム血症及び乳熱の予防策として有効であることが示唆された。
実施例11の飼料において1,25−(OH)ビタミンDの合成が促進されたのは、DCADコントロールにより誘導される代謝性アシドーシスがPTHに対する応答性を向上させたためと思われるが、老齢牛において特に1,25−(OH)ビタミンDの合成能が改善されることは、本発明者が知る限りにおいて新規の知見である。また、実施例11の飼料において無水石膏の給与量は112.5g/日(硫酸カルシウム換算値:109g/日)、DCADは乾物換算で75.4mEq/kg、尿pHは平均7.40であり、従来推奨されるよりも硫酸カルシウムの給与量は少なく、DCADと尿pHは高い水準であったにも関わらず、十分な血中カルシウム濃度の低下抑制効果が確認された。硫酸カルシウムは炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどの他の一般的なカルシウム供給源と比べ、牛の十二指腸内における溶解性に大差はないが第一胃内で高い溶解性を示すことが報告されており(非特許文献55)、そのような消化管内における溶解性の違いによって高い低カルシウム血症予防効果が発揮されている可能性も考えられた。
試験8.無水石膏使用混合飼料の給与量の違いが飼料摂取量及び尿pHに及ぼす影響
無水石膏を使用した混合飼料の上限給与量について検討するため、乾物86.8重量%、乾物換算で粗蛋白質20.9重量%、可消化養分総量(TDN)86.4重量%のフレーク・ペレットの市販乳牛用配合飼料を4.0kg/頭/日、スーダングラス乾草を6.0kg/日を給与する、繋ぎ飼いの6〜10歳齢の非妊娠ホルスタイン種雌乾乳牛4頭を試験に供した。3〜4日ごとに実施例6の無水石膏使用混合飼料の給与量を500g/日(無水石膏として187.5g/日、硫酸カルシウム換算値:182g/日)、424g/日(無水石膏として159g/日、硫酸カルシウム換算値:154g/日)、360g/日(無水石膏として135g/日、硫酸カルシウム換算値:131g/日)へと変更した(表22参照)。飼料は1日2回、朝・夕に等量ずつ分けて給与し、実施例6の飼料の給与方法はトップドレスとし、朝・夕の給餌前に残飼の有無を記録した。尿は各々の給与量の給与期間最終日に採取しpHメーター(PH82 横河電機株式会社)にてpHを測定した。

注)成分値はTDNとCuのみ設計値(乾物中の値)であり、「日本標準飼料成分表(2009年版)」(非特許文献53)の値を引用し、「日本標準飼料成分表(2009年版)」に値が記載されていないものは「NRC乳牛飼養標準(2001年・第7版)」(非特許文献20)の値を引用した。その他は分析値(乾物中の値)である。
結果を図5及び6に示した。
尿pHは、実施例12、13または14の飼料の給与期間最終日でそれぞれ平均6.38、6.18または6.68であった。個体によって差はあるが、無水石膏使用混合飼料の給与量が多いほど残飼の発生率は高まる傾向であり、実施例12の飼料の給与期間は4頭中4頭で、実施例13の飼料では4頭中3頭で、実施例14の飼料では4頭中2頭で残餌の発生が確認された。実施例14の飼料の給与期間においては、残餌の発生は2頭で認められたものの残飼量は僅かであり、実施例14が無水石膏使用混合飼料の給与上限に相当すると考えられた。
以上の結果から、実施例6の無水石膏使用混合飼料の給与上限は360g/日(無水石膏として135g/日、硫酸カルシウム換算値:131g/日)であり、給与量をそれ以上に増やし尿pHが6.5を下回るような水準にまでDCADを低下させると、飼料摂取量が低下することが示された。
石膏は嗜好性に悪影響を及ぼさないため、他の陰イオン塩と異なり硫酸カルシウムとして131g/日以下の給与量においては飼料摂取量を低下させないが、131g/日を超える給与量においては、軽度の代謝性アシドーシスに起因する体調不良により、飼料摂取量を低下させる可能性が考えられた。
以上の各試験の結果によれば、乾乳牛用飼料への硫酸カルシウム等の添加は、飼料の嗜好性に悪影響を及ぼさず、他の陰イオン塩よりも嗜好性に優れ、給与量は73〜131g/日、飼料のDCADとして乾物換算で55〜110mEq/kgとすることで、牛群の平均尿pHを7.1〜7.6に調整でき、優れた低カルシウム血症及び乳熱予防効果を奏することが分かった。一方で、131g/日を超える給与量では、嗜好性の問題ではなくDCADコントロールにより誘導される代謝性アシドーシスによって飼料摂取量が低下するため、硫酸カルシウム等の優れた嗜好性を最大限発揮するためには、他の陰イオン塩の使用量は極力少なくし、硫酸カルシウムの給与上限を131g/日とすべきであることが明らかとなった。従って、本発明の飼料は、従来技術より有効な低カルシウム血症及び乳熱予防策ならびにそれらと併発する周産期疾病(第四胃変位、ケトーシス等)の予防策を提供し得るものである。

Claims (19)

  1. 硫酸カルシウム及び/又はその水和物を含み、単独で又は他の飼料と組合せて給与される乾乳牛用飼料であって、
    硫酸カルシウム及び/又はその水和物は、給与される飼料全体で73〜131g/日乾乳牛に給与される量を含み、
    硫酸カルシウム及びその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの総計は、給与される飼料全体で400mEq/頭・日以下の給与量となる量である、飼料。
  2. 硫酸カルシウム及び/又はその水和物は、該飼料及び任意に組み合わされる他の飼料の合計で90〜120g/日乾乳牛に給与される量を含む、請求項1に記載の飼料。
  3. 硫酸カルシウム及び/又はその水和物は、該飼料及び任意に組み合わされる他の飼料の合計で100〜109g/日乾乳牛に給与される量を含む、請求項1又は2に記載の飼料。
  4. 硫酸カルシウム及び/又はその水和物を含み、単独で又は他の飼料と組合せて給与される乾乳牛用飼料であって、
    硫酸カルシウム及び/又はその水和物は、給与される飼料全体で、乾物換算で0.81〜1.45重量%となる量で含み、
    硫酸カルシウム及びその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの総計は、給与される飼料全体で、乾物換算で40mEq/kg以下となる量である飼料。
  5. 式[Na]+[K]−[Cl]−0.6[S](式中[]は当量値を示す)で求められる給与飼料のイオンバランス(DCAD)が、給与される飼料全体で、乾物換算で55〜110mEq/kgである、請求項1〜4の何れか一項に記載の飼料。
  6. 前期乾乳牛用飼料が混合飼料である、請求項1〜5の何れか一項に記載の飼料。
  7. 硫酸カルシウム及び/又はその水和物を乾物換算で25〜50重量%含む、請求項6に記載の飼料。
  8. 前記他の飼料と前記混合飼料との飼料全体で換算したときに、DCADが乾物換算で70〜95mEq/kgとなるDCAD値を有する、請求項6又は7に記載の飼料。
  9. 前記他の飼料と前記混合飼料との飼料全体で換算したときに、硫酸カルシウム及びその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの総計が、乾物換算で0mEq/kgである、請求項6〜8の何れか1項に記載の飼料。
  10. 前記混合飼料がペレット形態である、請求項6〜9の何れか1項に記載の飼料。
  11. 前記硫酸カルシウム及び/又はその水和物が、無水石膏、半水石膏及び二水石膏からなる群から選ばれる少なくとも1種に由来する、請求項1〜10の何れか1項に記載の飼料。
  12. 前記硫酸カルシウムが無水石膏に由来する、請求項1〜11の何れか1項に記載の飼料。
  13. 7歳以上の乾乳牛に給与するための、請求項1〜12の何れか1項に記載の飼料。
  14. 請求項1〜13の何れか1項に記載の飼料を乾乳牛に給与することを特徴とする、乾乳牛の飼育方法。
  15. 硫酸カルシウム及び/又はその水和物を乾乳牛に73〜131g/日給与し、硫酸カルシウム及びその水和物以外の陰イオン供給源に由来する塩素及びイオウの給与量の総計が、400mEq/頭・日以下である乾乳牛の飼育方法。
  16. 尿pHを7.1〜7.6に調整する、請求項14又は15に記載の方法。
  17. 給与対象が4歳以上の乾乳牛である、請求項14〜16の何れか1項に記載の方法。
  18. 給与対象が7歳以上の乾乳牛である、請求項14〜17の何れか1項に記載の方法。
  19. 前記硫酸カルシウムが無水石膏に由来する、請求項14〜18の何れか1項に記載の方法。
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