JP2017021880A - 磁気記録媒体用アルミニウム基板およびその製造方法 - Google Patents

磁気記録媒体用アルミニウム基板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐疵付性と耐熱性に優れた磁気記録媒体用アルミニウム基板を提供する。【解決手段】アルミニウム基板上に、厚さ7μm以上25μm以下の陽極酸化皮膜が形成され、前記陽極酸化皮膜上にメチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液をレベリング効果が発現する量塗工し、シリカ転化させた膜が形成されていることを特徴とする磁気記録媒体用アルミニウム基板。【選択図】図5

Description

本発明は、磁気記録媒体用の基板として好適な皮膜が形成されたアルミニウム基板、およびその製造方法に関する。
磁気記録媒体用アルミニウム基板としては、もっぱらJIS H4000−2014に規定されたA5086合金が使われている。この合金単独では、磁気記録媒体に適した表面平滑性や表面無欠陥性、耐疵付性などが不十分であるため、表面処理として無電解NiPめっきが施されている。
無電解NiPめっきを施すことで、表面に現れる晶出物や介在物を覆い隠し表面無欠陥性を実現することができる。また、結晶粒界を覆うことで研磨により高い平滑性を実現することができる。さらには、表面硬度を高くすることで耐疵付性を改善することができる。
しかしながら、従来使われているNiPめっきは、300℃以上に加熱処理されると結晶化し、表面の平滑性が劣化するだけでなく、強磁性を示すことになり磁気記録媒体用基板として不適切となる。
一方で、磁気記録媒体に求められる性能として、高記録密度があり、そのためには磁性層成膜時の温度条件の緩和が求められている。
特許文献1では、NiPめっきのもつ300℃以上の温度での熱処理による磁性の発現を抑制するために、Ni−P−Wめっきが提案されている。
NiPめっき以外の表面処理として、例えば特許文献2では、アルマイト基板の表面処理として、酸化シリコンを塗布し熱処理することでアルマイト基板表面を平滑化する表面処理方法が提案されている。
また、高記録密度に対応するためには、記録ヘッドの基板表面への衝突に伴う疵発生を抑制することも重要である。磁気記録では、記録媒体の表面を高さ数nmで記録再生ヘッドが高速で移動しており、ヘッドと基板との衝突により基板表面の変形を防ぐことが重要である。そのため、厚さ10μm程度のNiPめっきが用いられている。基板表面に要求される硬度は、耐疵付性を実現するために求められる。
特許文献3では、アルミニウム基板上に窒化珪素質連続薄膜が形成された磁気ディスク基板が開示されている。当該基板の製造方法として、アルミニウム基板上に無機ポリシラザンを塗工した後、大気中200℃で1時間熱処理することで、厚さ約1μmでニッケルリンめっき基板よりも高い硬度と平滑性を実現できることが開示されている。
特開2012−19502号公報 特開平2−73520号公報 特開平4−252420公報
しかしながら、特許文献1に記載のNi−P−Wめっきでも、耐熱温度は320℃に留まる。また、特許文献2には、アルマイト処理を行ったアルミニウム基板上にオルガノシロキサン溶液を塗工し、150℃から350℃で焼付けを行うことで、アルマイト表面を平滑にできることは開示されている。すなわち、陽極酸化処理により生じる表面の凹凸や微細気孔を有機シリコンで塗工、熱処理することにより平滑化できることが開示されている。しかしながら、磁気記録媒体用基板として特に重要な耐熱性や耐疵付性に関しては何ら言及されていない。また、塗工される有機シリコンとして適した組成、物性等にも何ら言及されていない。
また、特許文献3に記載の磁気ディスク基板は、アルミニウム基板上に硬度の高い皮膜を形成しても、厚さが1μmである場合には、現行汎用されているNiPめっき(厚さ〜10μm)基板に比べて耐疵付性は大きく劣る。
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、耐疵付性と耐熱性に優れた磁気記録媒体用アルミニウム基板を提供することを目的とする。
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム合金の少なくとも一方の表面に、特定の厚みの陽極酸化皮膜を形成し、その上にさらに特定のシリカ転化させた膜を形成することにより、耐疵付性及び耐熱性に優れた磁気記録媒体用アルミニウム基板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]に係るものである。
[1] アルミニウム基板上に、厚さ7μm以上25μm以下の陽極酸化皮膜が形成され、前記陽極酸化皮膜上にメチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液をレベリング効果が発現する量塗工し、シリカ転化させた膜が形成されていることを特徴とする磁気記録媒体用アルミニウム基板。
[2] 前記メチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液が、メチルヒドロポリシラザンと無機ポリシラザンとの混合物であることを特徴とする前記[1]に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板。
[3] 前記混合物におけるメチルヒドロポリシラザンと無機ポリシラザンとの配合比が10:0〜2:8(重量比)の範囲であることを特徴とする前記[2]に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板。
[4] 前記シリカ転化させた膜が膜厚0.2μm以上のシリカ層であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板。
[5] アルミニウム基板上に厚さ7μm以上25μm以下の陽極酸化皮膜を形成する工程と、前記陽極酸化皮膜上にメチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液をレベリング効果が発現する量塗工した後、加熱によりシリカ転化させて膜を形成する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法。
[6] 前記陽極酸化皮膜を少なくともシュウ酸を含む陽極酸化処理液により形成することを特徴とする前記[5]に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法。
[7] 前記メチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液が、メチルヒドロポリシラザンと無機ポリシラザンとの混合物であることを特徴とする前記[5]又は[6]に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法。
[8] 前記混合物におけるメチルヒドロポリシラザンと無機ポリシラザンとの配合比が10:0〜2:8(重量比)の範囲であることを特徴とする前記[7]に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法。
[9] 前記シリカ転化させた膜が膜厚0.2μm以上のシリカ層であることを特徴とする前記[5]〜[8]のいずれか1に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法。
本発明によれば、耐熱性及び耐疵付性に非常に優れた磁気記録媒体用アルミニウム基板を提供することができる。
図1はシリカ膜のSi−O−Si、Si−CH特性振動領域のATRスペクトルを表すグラフである。 図2は陽極酸化皮膜の疵深さの荷重依存性を、皮膜厚さごとに示したグラフである。 図3は陽極酸化皮膜とシリカ膜の組合せによる疵深さの荷重依存性を、皮膜ごとに示したグラフである。 図4は陽極酸化皮膜とシリカ膜の組合せによる疵深さの荷重依存性を、皮膜ごとに示したグラフである。 図5は陽極酸化皮膜とシリカ膜の組合せによる疵深さの荷重依存性を、皮膜ごとに示したグラフである。
本発明に係る磁気記録媒体用アルミニウム基板は、アルミニウム(以下、単に「アルミ」と称することもある。)基板上に、厚さ7μm以上25μm以下の陽極酸化皮膜が形成され、前記陽極酸化皮膜上にメチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液をレベリング効果が発現する量塗工し、シリカ転化させた膜が形成されていることを特徴とする。
<アルミニウム基板>
本発明で基板として用いるアルミニウム合金(単に「アルミニウム」と称することもある。)は、その化学成分組成については、磁気記録媒体用として必要な強度を持ち陽極酸化皮膜の形成に用いられうるものである限り、特に限定されるものではないが、例えば、Mg:3.5重量%以上6重量%以下、Cu:0.02重量%以上0.5重量%以下、Si:0.05重量%以下、Fe:0.05重量%以下含有し、かつCr:0.05重量%以上0.6重量%以下、Mn:0.05重量%以上1.5重量%以下、およびZr:0.05重量%以上0.6重量%以下よりなる群から選ばれる少なくとも一つを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、かつ、表面における金属間化合物の最大長さが10μm以下であり、基板表面1mm当たりの、最大長さが5μm以上である金属間化合物の個数が1個以下のアルミニウム合金などを例示することができる。
<陽極酸化皮膜>
本発明における陽極酸化皮膜は、アルミニウム基板上に形成された膜厚7μm以上25μm以下の陽極酸化皮膜であり、アルミニウム合金基材の全面がこの陽極酸化皮膜で覆われている。
陽極酸化皮膜を形成する時の陽極酸化処理液としては、少なくともシュウ酸を含む陽極酸化処理液を用いることが好ましい。これは陽極酸化皮膜がアルミニウム合金基材にシュウ酸系皮膜を形成することで、硬度が高く高温耐クラック性を向上させることができるからである。
即ち、一般的な陽極酸化処理液として、シュウ酸、ギ酸等の有機酸、リン酸、クロム酸、硫酸などの無機酸が挙げられるが、硬度が高く高温でのクラックの発生を著しく低減させるという観点から、少なくともシュウ酸を含む陽極酸化処理液を用いることが好ましい。陽極酸化処理液中のシュウ酸濃度は、所望とする作用効果を有効に発揮することができるように適宜適切に制御すれば良い。陽極酸化処理液中のシュウ酸濃度の下限は、好ましくは10g/Lであり、より好ましくは15g/Lである。また、当該シュウ酸濃度の上限は、好ましくは50g/Lであり、より好ましくは40g/Lである。
陽極酸化皮膜の厚膜化や皮膜形成の高速化の方法として、少なくともシュウ酸を含む混酸溶液(陽極酸化処理液)による陽極酸化処理を行うことが好ましい。このときの、シュウ酸と混ぜる他の酸溶液は、特に限定されない。例えば、蟻酸等の有機酸、クロム酸、硫酸、リン酸などの無機酸等が挙げられ、これらの中から一つ以上の酸溶液を選んで用いることができる。このように、少なくともシュウ酸を含む溶液(陽極酸化処理液)を用いることによって、形成される多孔質の陽極酸化皮膜は処理溶液による溶解が少なく、陽極酸化皮膜の厚膜化が可能になると共に、耐クラック性(クラックが生じない特性)に優れる皮膜となる。
上述した混酸溶液(シュウ酸を含む溶液)による陽極酸化処理では、各種酸濃度、処理温度、電解電圧、電流密度は特に定めるものではなく、適宜処理条件を選択すればよい。
その他の陽極酸化処理条件についても、特に定めるものではないが、例えば陽極酸化処理を行う際の温度は、生産性を損なうことなく、また陽極酸化皮膜の溶解が顕著に起こらない範囲で設定すればよく、おおむね、0〜50℃とすることが好ましい。また、陽極酸化処理を行う際の処理時間も、同様に適宜設定することができ、特に限定されないが、たとえば10〜300分行うことができる。
陽極酸化処理を行うときの電解電圧(陽極酸化皮膜形成電圧)や電流密度は、所望の陽極酸化皮膜が得られるように、適宜適切に調節すればよい。このうち電解電圧については、電解電圧が低いと電流密度が小さくなって成膜速度が遅くなり、一方、電解電圧が高すぎると大電流により皮膜の溶解によって陽極酸化皮膜が形成されなくなる傾向がある。電解電圧による影響は、使用する電解処理液(陽極酸化処理溶液)の組成や、陽極酸化皮膜を行う温度などにも関係するため、適宜設定すればよい。陽極酸化処理時の電解電圧は、具体的には5〜150V程度が好ましく、より好ましくは20〜120V程度である。また、陽極酸化処理時に流す電流密度は、100A/dm以下であることが好ましく、50A/dm以下であることがより好ましく、30A/dm以下であることが更に好ましい。
上記のようにして形成される陽極酸化皮膜の厚みは、耐疵付性を担う重要な因子であり、良好な耐疵付性を得る観点から、7μm以上とすることが好ましく、より好ましくは9μm以上であり、さらに好ましくは12μm以上である。なお、陽極酸化皮膜単独の場合には陽極酸化皮膜の厚さが15μm以上でNi−Pめっきと同等の耐疵付性が得られるが、本発明においてはシリカ転化した膜(シリカ膜)と組み合わせることから、7μm以上であれば上記効果を得ることができる。
一方、陽極酸化皮膜の厚みがあまり厚くなると、コストが増大し、かえって耐疵付性が低下することから、25μm以下とすることが好ましく、より好ましくは20μm以下である。
<シリカ転化させた膜>
前記陽極酸化皮膜上にメチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液をレベリング効果が発現する量塗工し、シリカ転化させた膜(シリカ膜)を形成する。
ポリシラザン溶液を塗工後、水蒸気を含む雰囲気にて熱処理をすることにより、シリカ転化する。
シリカ膜により、陽極酸化皮膜の細孔や合金中の介在物、晶出物由来のピットを目詰めすることができることから、欠陥の無い平滑な面を実現でき、また耐疵付性を改善することができる。
ポリシラザン溶液はメチルヒドロポリシラザンを含むことにより陽極酸化単体に比べて耐疵付性が改善される。また、さらに膜硬度を向上できる点からメチルヒドロポリシラザンと無機ポリシラザンとの混合物であることが好ましい。無機ポリシラザンとメチルヒドロポリシラザンとの配合比は0:10〜8:2(重量比)の範囲であることが好ましく、2:8〜5:5(重量比)がより好ましい。
無機ポリシラザンの好ましい例としてパーヒドロポリシラザンが挙げられるが、パーヒドロポリシラザンは水蒸気と反応し、SiOに転化することは良く知られている。この場合、Si−O−Siが3次元のネットワークでつながり、溶融石英類似の構造となるため、硬いく柔軟性に欠ける皮膜となる。
これに対して、シリコン原子にメチル基が結合したメチルヒドロポリシラザンを水蒸気と反応させると、Si−O−Siの骨格がメチル基のために硬い構造を作ることができず、柔軟性を有する膜となる。両者を適当な割合で混合し、水蒸気と反応させることにより、Si−O−Siの3次元ネットワークの一部をメチル基で終端させた柔軟性を有するシリカ骨格を形成させることができる。
適度に柔軟性を持つ膜は、アルミニウム基板との熱膨張差に起因する応力を緩和するので、耐熱性の改善が期待される。
レベリング効果が発現する量とは、ある程度平滑性が担保できる量であり、その量は陽極酸化皮膜の厚さやポリシラザン溶液の濃度、有機:無機の混合比率、塗工方法等によって変化するが、一般的には基板単位面積当たりに塗工されるポリシラザン量として0.15mg/cm以上が好ましく、0.2mg/cm以上がより好ましく、0.4mg/cm以上がさらに好ましい。塗工されるポリシラザン量の上限はレベリング効果の発現ではなく、シリカ転化された状態での膜厚さが3μm以内という制約で決まる。
ポリシラザンの塗工量は、塗工前の基板重量と塗工後の基板重量の差および基板内外径から計算される面積から求めることができる。
また、シリカ膜は膜厚0.2μm以上のシリカ層であることが好ましく、0.3μm以上がより好ましい。また、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。
シリカ転化させた膜の膜厚は、皮膜の断面を走査型顕微鏡(SEM)観察及び元素マッピングを行うことによって測定することができる。また、陽極酸化皮膜が多孔質である場合には、孔の中にポリシラザン溶液が含浸され、シリカ転化していてもよい。
<磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法>
本発明に係る磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法は、アルミニウム基板上に厚さ7μm以上25μm以下の陽極酸化皮膜を形成する工程と、前記陽極酸化皮膜上にメチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液をレベリング効果が発現する量塗工した後、加熱によりシリカ転化させて膜を形成する工程を含むことを特徴とする。陽極酸化皮膜及びシリカ膜はアルミニウム基板の少なくとも一方の表面に形成されていればよいが、基板表面の効率的利用の点から、両方の表面に形成されていることが好ましい。
好ましいアルミニウム基板、陽極酸化皮膜、シリカ膜は先述したとおりである。
アルミニウム基板に陽極酸化皮膜を形成する工程は、公知の方法により行うことができるが、例えば基板となるアルミニウム合金を、シュウ酸、ギ酸等の有機酸、リン酸、クロム酸、硫酸などの無機酸等を含む溶液中で通電することにより形成することができる。この場合、陽極酸化皮膜厚さは、通電時間により調整することが可能である。
ここで、前述したように、高温でのクラックの発生を著しく低減させつつ耐電圧性を向上させるという観点からは、少なくともシュウ酸を含む陽極酸化処理液を用いることが好ましい。
陽極酸化皮膜上にポリシラザン溶液を塗工する際には、ディップコート、スプレーコート、スピンコート等によって塗工することができる。中でもスピンコートが均一な膜厚さを実現できる点から好ましい。
なお、ポリシラザン溶液の濃度を調整する場合に用いる溶剤としては、分子構造中に水酸基(−OH)を含むアルコール類はポリシラザンと反応するために使用できない。石油系有機溶剤、キシレン等の芳香族溶剤、ジブチルエーテル等のアルキルエーテルが好ましい。濃度は、塗工方法や条件によって適切な範囲に設定すれば良いが、ポリシラザン濃度として20重量%から60重量%が一般的である。濃度が濃いと粘度が高くなり塗工しにくくなる。一方、濃度が低くなり過ぎると溶剤乾燥後に十分な膜厚さを得ることができない。
ポリシラザン溶液を塗工後、加熱によりシリカ(SiO)に転化し、シリカ膜とすることができる。
ポリシラザンのシリカ転化には水との反応が必要であり、加熱雰囲気に水蒸気を導入すれば良い。加熱温度は200〜370℃がシリカ転化を効率的に進める点から好ましい。また、加熱時間は20分〜2時間が十分なシリカ転化と生産性の点から好ましい。
陽極酸化皮膜及びシリカ転化させた膜をアルミニウム基板の両方の面に形成させる場合、例えばアルミニウム合金を陽極酸化処理液に浸漬、通電を行うことでアルミニウム合金の両面に陽極酸化皮膜を形成し、その後、一方の表面にメチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液に塗工、熱処理によるシリカ転化を行い、次いで他方の表面についても同様に塗工、熱処理によるシリカ転化を行うことにより得ることができる。
また、一方の表面に該ポリシラザン溶液を塗工して乾燥させ、他方の表面にも該ポリシラザン溶液を塗工した後に熱処理をすることにより、両面を一度にシリカ転化させることもできる。さらには、両方の表面に一度に該ポリシラザン溶液を塗工し、熱処理によるシリカ転化を行ってもよい。
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、その趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
<シリカ膜>
下記表1に示す組成比でメチルヒドロポリシラザンとパーヒドロポリシラザン(Merck Performance Materials(旧AZ Electronic Materials社製、NL120A−20およびHTA1500)の混合物を調製し、厚さ10μmの陽極酸化皮膜上に上記混合物を塗工、水蒸気を含む雰囲気中300℃で1時間熱処理してシリカ転化させた後、各温度で15分の熱履歴を加えた。なお、厚さ10μmの陽極酸化皮膜は、アルミニウム合金をシュウ酸を30g/L含む30℃の溶液中で通電することにより形成させた。陽極酸化皮膜厚さは、通電時間により調整できる。
目視および光学顕微鏡観察で膜の亀裂やはく離が認められない温度を耐熱温度とした。結果を表1に示す。なお、表1の結果は、シリカ膜厚さ0.3μmと2μmで差は認められなかった。また、表中「PHPS」とはパーヒドロポリシラザンを意味し、「MHPS」とはメチルヒドロポリシラザンを意味する。
なお、シリカ膜中のメチルヒドロポリシラザンとパーヒドロポリシラザンの比はATR法(Attenuated Total Reflection;全反射測定法)により求めることができる。
すなわち、ATR法において、Si原子に結合したメチル基は1,270〜1,280cm−1付近に鋭い特性吸収を示す。また、Si−O−Siの骨格振動に起因する強い特性吸収が、1,030〜1,050cm−1付近に観測される。この両者のピーク高さの比から、シリカ骨格中のメチル基の量を評価できるため、メチルヒドロポリシラザンとパーヒドロポリシラザンの比を求めることができる。
(ATRスペクトル測定条件)
装置:パーキンエルマー社製 Spectrum Spotlight 400
測定方法:1回反射ATR Ge結晶 入射角48°
分解能:4cm−1
吸収量:Absorbance表示
(ATRスペクトル測定条件及び解析方法)
測定されたスペクトルについて870cm−1と1,300cm−1の両点を直線で結び、1,030〜1,050cm−1付近に現れるSi−O−Siの骨格振動に由来する特性吸収ピークの当該直線からの値「I(Si−O−Si)」と、1,265〜1,280cm−1に現れるSi−CHの特性吸収のピークの当該直線からの値「I(Si−CH3)」との比を求める。得られたATRスペクトルを図1に示す。この値が、0.02である場合が無機ポリシラザン(PHPS)とメチルヒドロポリシラザン(MHPS)との配合比は0:10(重量比)である場合に相当し、0.25である場合が、PHPSとMHPSとの配合比は8:2(重量比)である場合に相当することから、0.02以上0.25以内が好ましいと言える。
なお、図1中、PHPSとMHPSとの比率(重量比)はHD−208が8:2、HD−210が6:4、HD−212が4:6、HD−214が2:8のものである。
Figure 2017021880
<陽極酸化皮膜>
アルミニウム基板に厚さ5、10、15、20、30μmの陽極酸化皮膜をそれぞれ形成し、耐疵付性を評価した。
結果を図2に示す。陽極酸化皮膜単独でも、厚さ15μm以上であれば、従来のNi−Pめっき処理(厚さ10μm)よりも耐疵付性は改善される。すなわち、陽極酸化処理がアルミニウム基板の耐疵付性改善に効果的であることを意味する。陽極酸化皮膜単独の場合、厚さが30μmとなると、20μmに比べて耐疵付性はわずかではあるが、劣化傾向を示す。これは、陽極酸化処理時間が長くなり、初期に形成された膜の表面近傍が電解液により侵食されたためと推察される。
なお、アルミニウム基板としてはMg:5.5重量%、Cu:0.04重量%、Si:0.01重量%、Fe:0.015重量%、Mn:0.3重量%及びCr:0.5重量%含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用い、シュウ酸を30g/L含む30℃の溶液中で通電することにより陽極酸化皮膜を形成させた。陽極酸化皮膜厚さは、通電時間により調整した。
陽極酸化皮膜の厚さは、渦電流式膜厚計を用いて測定した。測定は、同一の箇所を5回測定し、その平均値を当該箇所の膜厚とした。
耐疵付き性の評価は、新東科学社製Type18の連続荷重式引掻強度試験機を用いて測定した。測定は、先端にR加工を施し、圧子に半径0.1mmのダイヤモンド球を用いた円錐型引掻針に、10、20(あるいは25)、50、70、100gの荷重を負荷して、試験片表面を10mm走引した。走引後、試験片表面に形成される疵の深さを測定した。
疵深さは、KLA−Tencor社アルファステップ段差計を用いて測定した。
図2中、「5μm」、「10μm」、「15μm」、「20μm」、「30μm」とはそれぞれ陽極酸化皮膜の膜厚を表し、「Gサブ」とは表面を研削し表面処理を行っていないアルミニウム基板を表し、「NPP」とは研削後にNiPめっきを施した後表面研磨したアルミニウム基板を表す。
<陽極酸化皮膜とシリカ膜の組み合わせ>
陽極酸化皮膜厚さを10μmと15μmとし、表1に示したPHPSとMHPSのブレンド品のうち、PHPS:MHPS(重量比)が8:2、6:4、4:6、2:8及び0:10の溶液をそれぞれ陽極酸化皮膜に塗工し、水蒸気を含む雰囲気中で300℃、1時間の熱処理を行うことでシリカ転化し、厚さ0.6μmおよび1.2μmのシリカ膜をそれぞれ得た。膜厚は、同一条件で調製した試験片の断面SEM観察から求めた。作製した試料について表2にまとめた。
各試料の耐疵付性を評価は、先の陽極酸化皮膜の耐疵付性の評価と同様の方法により行った。それらの結果を図3〜5に示す。図3は表2におけるNo.7〜10(記号 8:2−2、6:4−2、4:6−2、2:8−2)の結果、図4は表2におけるNo.11〜13(記号 6:4−1、4:6−1、0:10−1)の結果、図5は表2におけるNo.14〜17(記号 6:4−1、6:4−2、4:6−1、4:6−2)の結果である。図3〜5における「NPP」とは参照のニッケルリンめっき基板の結果であり、「陽極酸化10μm」とは膜厚10μmの陽極酸化皮膜単独での耐疵付性の結果であり、「陽極酸化15μm」とは膜厚15μmの陽極酸化皮膜単独での耐疵付性の結果である。
なお、シリカコートの厚さが0.1μm以下の場合、PHPSとMHPSのブレンド比によらず押込み荷重が25gfを超えると、陽極酸化皮膜単独の場合と、耐疵付性に優位な差は認められなかった。
Figure 2017021880
以上の結果より、MHPS単体のシリカ前駆体又はPHPSにMHPSを混合したシリカ前駆体を、陽極酸化皮膜上に塗工した後にシリカ転化することで、耐熱性、耐疵付性に優れたアルミニウム基板を得ることができる。

Claims (9)

  1. アルミニウム基板上に、厚さ7μm以上25μm以下の陽極酸化皮膜が形成され、前記陽極酸化皮膜上にメチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液をレベリング効果が発現する量塗工し、シリカ転化させた膜が形成されていることを特徴とする磁気記録媒体用アルミニウム基板。
  2. 前記メチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液が、メチルヒドロポリシラザンと無機ポリシラザンとの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板。
  3. 前記混合物におけるメチルヒドロポリシラザンと無機ポリシラザンとの配合比が10:0〜2:8(重量比)の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板。
  4. 前記シリカ転化させた膜が膜厚0.2μm以上のシリカ層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板。
  5. アルミニウム基板上に厚さ7μm以上25μm以下の陽極酸化皮膜を形成する工程と、前記陽極酸化皮膜上にメチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液をレベリング効果が発現する量塗工した後、加熱によりシリカ転化させて膜を形成する工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法。
  6. 前記陽極酸化皮膜を少なくともシュウ酸を含む陽極酸化処理液により形成することを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法。
  7. 前記メチルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液が、メチルヒドロポリシラザンと無機ポリシラザンとの混合物であることを特徴とする請求項5又は6に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法。
  8. 前記混合物におけるメチルヒドロポリシラザンと無機ポリシラザンとの配合比が10:0〜2:8(重量比)の範囲であることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法。
  9. 前記シリカ転化させた膜が膜厚0.2μm以上のシリカ層であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用アルミニウム基板の製造方法。
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