蒸気タービンの流路内を流れる蒸気は、湿り度が高いほど多くのドレンを含み、エンタルピーが低下する。そのため、蒸気タービンにおいては、流路内の蒸気の湿り度が高いほど内部効率が低下する。特に、蒸気タービンの流路内の蒸気は、低圧側(下流側)の段落において湿り度が特に高くなるため、当該段落における内部効率が低下し易い。これに対し、蒸気に含まれるドレンを除去した場合には、蒸気の湿り度が低下して蒸気のエンタルピーが増大するため、内部効率の向上を図ることができる。
また、蒸気に含まれるドレンは、一般的に、数十ミクロン以上の粗大水滴と、それよりも小さい微小水滴と、を含む。このようなドレンは、蒸気タービンの流路内において、水滴の形で蒸気の主流とともに下流に向かって流れる。この際、粗大水滴となったドレンが高速で回転しているタービン動翼(以下、動翼と呼ぶ。)に衝突すると、動翼が浸食され、その結果、その寿命が縮まるとともに、翼断面形状の変化による性能低下が生じる。
上述の観点から、蒸気タービンでは、その流路内にドレンを除去するための構造が設けられる場合がある。
蒸気タービンの流路において、ドレンが蒸気の主流とともに上流側の段落から下流側の段落に向けて流れる際には、ドレンは、まず、下流側の段落のノズル表面に接触して液膜を形成する。この液膜は、ノズル後端(下流端)から排出されるが、その際にノズルの腹面側と背面側を流れる蒸気の主流によってせん断を受けることで微細化し、再度、水滴となる。ここで水滴となったドレンのうちの微小水滴は、蒸気の主流とともに動翼に向けて流れるが、粗大水滴は慣性が大きいため、蒸気の主流とは一体的に流れることができない場合がある。その結果、流路内の旋回流の影響により、下流に進むに従って蒸気タービンの半径方向(以下、タービン半径方向と呼ぶ。)外側へ流れる場合がある。
図8(A)は、蒸気タービンにおける粗大水滴の流れを蒸気タービン軸方向(以下、タービン軸方向と呼ぶ。)から見た図を示している。図8(B)は、粗大水滴の流れをタービン軸方向に沿って延びる面から見た図を示している。図8(A)において、矢印81は、蒸気タービンの回転方向を示し、流路内では、矢印81の方向に旋回流が生じる。また、図8(A),(B)において、矢印82は、蒸気及びこれと一体に流れる微小水滴の流れを示し、矢印83は、粗大水滴の動きを示し、符号101はノズルを示している。図8(A),(B)の矢印83に示すように、粗大水滴は、ノズル101から下流に向けてタービン半径方向外側に流れ、微小水滴を含む蒸気の主流から外れる場合がある。
図9(A)は、ノズルから動翼に流れる蒸気の主流の流れを説明する速度三角形を示している。図9(B)は、ノズルから動翼に向かう粗大水滴の流れを説明する速度三角形を示している。なお、図9において、符号102は動翼を示している。
図9(A)に示すように、主流の蒸気の流れは、ノズル101の出口(後端)における絶対速度Cと動翼の周速度Uとで定まる動翼102への相対流入速度Wの方向が、動翼102の入り口形状に合う方向となるように、設計されている。
これに対して、図9(B)に示すように、ノズル101の出口における粗大水滴の絶対速度C’は、その質量が大きいことから、蒸気の絶対速度Cより小さくなる。そのため、動翼の周速度Uを考慮すると、動翼102への流入速度W’の方向は、下流の段落の動翼102の背面の前部に衝突する方向となる(特に、図9(B)の拡大部分参照)。
したがって、粗大水滴は、動翼102の背面の前部に衝突し易い。なお、このように衝突した粗大水滴の一部は、タービン軸方向に流れるが、その大部分は、動翼102の背面に付着して、動翼102の回転により、動翼102の背面上を半径方向外側に流れる。
このように、粗大水滴は動翼の背面の前部に衝突する傾向にあるため、この点を考慮して、動翼の背面の前部においてドレンの除去を行う構造が従来から用いられる場合がある。一般的な構造として、動翼の背面の前部付近に、ドレンを排出するためのドレン溝が複数設けられる構造が知られている。このようなドレン溝では、粗大水滴のほとんどがドレン溝を伝って半径方向外側へ流れる。その一方、動翼の背面に衝突した水滴の一部は、弾かれたり、動翼の背面を流れる間に剥離したりして、蒸気の主流に戻り、下流の段落へ運ばれる。
図10は、一般的なドレン溝を有する動翼の背面側を周方向に沿って見た図を示し、図11(A)〜(D)は、図10のA−A線、B−B線、C−C線及びD−D線に対応する図を示している。また、図11(E)は、図11(A)の拡大図である。以下では、図示の一般的なドレン溝について説明する。なお、図10及び図11においても、符号102が動翼を示している。
図10及び図11に示す動翼102における複数のドレン溝102a〜102dは、動翼102の高さ方向(以下、翼高さ方向と呼ぶ。)の先端から基端側に向けて延びるように形成されている。なお、一般的なドレン溝の加工本数は、通常2つ以上であるが、この例では、4つのドレン溝102a〜102dが設けられている。以下では、4つのドレン溝102a〜102dを、動翼の前側から後側(上流側から下流側)に並ぶ順で、第1ドレン溝102a、第2ドレン溝102b、第3ドレン溝102c、第4ドレン溝102dと呼ぶ。
図11(E)に示すように、この例において、第1ドレン溝102aは、翼高さ方向に沿って見た場合に、動翼102の背面から蒸気タービン周方向(以下、タービン周方向と呼ぶ。)における反回転側に延びるに従い後側に向けて延びる直線状の前側内面111と、前側内面111の後側に位置して動翼102の背面からタービン周方向における反回転側に延びるに従い前側に向けて延びる直線状の後側内面112と、前側内面111及び後側内面112を接続する円弧状の底面113と、で形成されている。底面113は、前側内面111の内部側端点と後側内面112の内部側端点とを接続する半円形状となっている。なお、他のドレン溝102b〜102dも、第1ドレン溝102aと同様の形状であり、前側内面と、後側内面と、円弧状(半円形状)の底面と、で形成されている。
この例における各ドレン溝102a〜102dの形状は、上述の前側内面と後側内面とによって規定される開き角度と、この開き角度の二等分線がタービン周方向となす角度と、溝深さとによって決定されている。
詳しくは、各ドレン溝102a〜102dの開き角度は、前側内面と後側内面とがなす角度である。この開き角度は、任意の値(例えば、30度等)に設定される。また、開き角度の二等分線は、当該開き角度を二等分する線である。具体的にこの例における各ドレン溝102a〜102dでは、翼高さ方向に沿って見た場合に、各々の開き角度の二等分線がタービン周方向に平行となっている。これにより、各ドレン溝102a〜102の向きが規定されている。すなわち、各ドレン溝102a〜102dの二等分線とタービン周方向とがなす角度が0°となっており、各ドレン溝102a〜102dは、タービン周方向に沿うように開放している。このように各ドレン溝102a〜102dの二等分線とタービン周方向とがなす角度が0°となる関係は、各ドレン溝102a〜102dの先端から基端にわたる全断面で成立している。
具体的に、図11(E)に示す第1ドレン溝102aについて説明すると、図中のα11は、第1ドレン溝102aの開き角度を示し、図中のL11は、開き角度L11の二等分線を示している。二等分線L11は、タービン周方向と平行であり、タービン周方向となす角度は、0°である。
また、各ドレン溝102a〜102dの溝深さは、図11(B)において、h1a〜h1dで示されている。これら溝深さh1a〜h1dは、各ドレン溝102a〜102dにおいて、底面におけるタービン周方向で最も深くなる位置(以下、最下点と呼ぶ。)と、前側内面の外部側端点及び後側内面の外部側端点を流線形状に接続する仮想曲線と、を結んだ長さで規定されている。なお、前記仮想曲線は、溝加工前の動翼102の背面によって形成される曲線に相当する。また、これら溝深さh1a〜h1dの各々は、対応する各ドレン溝102a〜102dの先端から基端にわたる全断面で一定となっている。
また、この例におけるドレン溝102a〜102dの配置は、ドレン溝102a〜102dのうちの隣り合うドレン溝の半円形状の底面の中心間の間隔である溝間隔によって決定されている。隣り合うドレン溝の溝間隔は、図11(A)において、d1a〜d1cで示されている。これら溝深さd1a〜d1cは、先端から基端にわたり一定となっている。さらに、図10において、符号Hは、ドレン溝102a〜102dの翼高さ方向における設置範囲を示している。この設置範囲Hは、この例では、動翼102の先端から全体高さに対する50〜60%までの範囲に規定されている。設置範囲Hは、上流のノズルから動翼102に流れて衝突する水滴の水滴量の多い領域をドレン溝102a〜102dでカバーするために、設定されている。
一方、図11(A)〜(D)において、符号Dは、動翼102の前端から最も後側に位置する第4ドレン溝102dの後側内面の外部側端点までのタービン軸方向における距離であり、複数のドレン溝102a〜102dの設置範囲を示している。この設置範囲Dは、約15〜20mmの範囲となっている。設置範囲Dは、実稼動後の動翼表面の観察結果である動翼表面に残された流跡に基づいて、上流のノズルから流れて動翼102に衝突する水滴の大部分がこの範囲に集中していると判断されるため、設定されている。
図12は、ドレン溝の無い図10及び図11に示す形状の動翼の実稼動後の表面上での流跡の観察結果を説明するための図である。この観察結果では、動翼の表面が、以下で説明する表面の状況に基づき、図12に示すI〜Vの5つの領域に分類されている。
「領域I:エロージョンによる動翼形状の変化あり」
領域Iは、動翼の前端から背面の前部のうちの特に翼断面形状の変化が大きかった部分までの領域である。領域Iでは、粗大水滴が直接衝突することによって発生したと考えられる、エロージョンによる翼断面形状の変化が確認された。この領域Iでは、翼断面形状が変化するほどの影響を受けていることから、粗大水滴が、高速で回転する動翼へ直接衝突していると考えられる。
「領域II:動翼表面上をタービン半径方向に沿って延びる窪みあり」
領域IIは、背面の前部のうちの領域Iよりも後側であり、領域Iよりも翼断面形状の変化が小さかった領域である。領域IIでは、動翼表面に付着した水滴の流れによって発生したと考えられるタービン半径方向に延びる窪みが形成されていた。この窪みには軸方向への傾きはほとんどなく、動翼表面に付着した水滴は、動翼の高速回転により、タービン軸方向とほぼ垂直にタービン半径方向外側に移動するものと考えられる。
「領域III:表面に薄く不純物付着あり」
領域IIIは、領域IIの後端から背面の前後方向略中央までの領域である。領域IIIでは、まだら模様の水跡が残されているが、これは動翼表面上に薄く付着しているだけであった。このため、動翼表面上に存在していた水滴量は少ないものと考えられる。
「領域IV:水跡の痕跡なし」
領域IVは、領域IIIの後端から背面の後端までの領域である。領域IVでは、水跡は確認されず、動翼表面上に存在した水滴は非常に少ないと考えられる。
「V:表面に薄く不純物付着あり」
領域Vは、動翼の腹面全体である。領域Vでは、領域IIIと同様に、存在した水滴量は少ないと考えられる。
この観察結果において、形状変化が大きく現れた図12における領域I,IIは、動翼の前端から15〜20mmの範囲であった。これに基づき、上述の一般的なドレン溝102a〜102dを有する動翼102では、ドレン溝の設置範囲Dが、約15〜20mmの範囲に設定されている。
しかしながら、上述した一般的なドレン溝には、以下の問題点1〜4がある。
(問題点1)
上述のように、水滴量が多く存在する範囲は、図12に示した領域I及びIIである。このことを考慮すると、第1ドレン溝102aは、可能な限り動翼102の前端の近くに設置することが望ましい。しかしながら、第1ドレン溝102aでは、例えば図11(D)に示す距離d2dのように、特に動翼ルート部側で、動翼102の前端から第1ドレン溝102aの底面までのタービン軸方向の距離が比較的大きくなっている。
この理由は、一般的な動翼流体設計の結果、動翼の捻り角度は、動翼先端で大きく、動翼ルート部で小さいためである。すなわち、この場合、動翼102の前端近傍となる第1ドレン溝102aの設置位置でのタービン周方向における肉厚T1a〜T1d(加工前)は、図11(A)〜(D)から明らかなように、各断面で異なり、ロータ中心からの距離が近い(動翼ルート部側の)断面ほど、小さくなる傾向となる。ここで、第1ドレン溝102aを加工した際には肉厚T1a〜T1dは減少するが、溝加工後の肉厚T2a〜T2dはある程度の厚さを確保する必要がある。そのため、動翼ルート部に近い断面では、動翼先端側の断面と比較して、上述の距離d2dのように、動翼の前端から下流側に比較的離れた位置に第1ドレン溝102aを設置する必要が生じる。このような理由から、第1ドレン溝102aでは、特に、動翼ルート部側で、動翼102の前端から第1ドレン溝102aの底面までのタービン軸方向の距離を比較的大きくせざるを得ない。
しかしながら、動翼102の前端から第1ドレン溝102aまでの距離が大きくなることは、第1ドレン溝102aを可能な限り動翼102の前端の近くに設置することが望ましいという上述の理想から外れる。したがって、上述の一般的なドレン溝には、効果的にドレンを捕獲できておらず、効果的にドレンを排出できていないという問題がある。
(問題点2)
図13(A)〜(D)には、図11(A)〜(D)に示す各ドレン溝102a〜102dを重ねて翼高さ方向に沿って見た図が示されている。なお、図13における各ドレン溝102a〜102dには、符号A〜Dを括弧書きで付している。この付記された符号は、図11(A)〜(D)のいずれかに対応することを意味する。図13(A)〜(D)に示すように、各ドレン溝102a〜102dでは、各断面におけるドレン溝102a〜102dの底面を線で結んだ場合に、この線が折れ曲がっていることが分かる。
また、図14は、第1ドレン溝102aの底面の翼高さ方向の先端から基端にかけてのタービン周方向での位置変化を表すグラフを示している。図14において、縦軸は、動翼102の全長を1.0とした際の高さ位置を示し、横軸は、第1ドレン溝102aの底面のタービン軸方向の位置(mm)を示している。また、符号Caは図11(A)に対応する底面の位置、符号Cbは図11(B)に対応する底面の位置、符号Ccは図11(C)に対応する底面の位置、符号Cdは図11(D)に対応する底面の位置を示している。図14に示すように、第1ドレン溝102aの底面は、基端から先端側に向けて延びる際に、CcとCbの間で急激に傾きが変換する傾き変化点を有することが分かる。図示省略するが、他のドレン溝102b〜102dも同様に急激に傾きが変換する傾き変化点を有する。
ドレン溝102a〜102dにて確保された水滴は、溝内をタービン半径方向外側に移動するが、上述のように、底面に折れ曲がりや傾き変化点が存在する場合には、このような箇所で水滴が溝から離脱し易くなり、蒸気タービンの流路内に再び戻ってしまう可能性がある。これは、ドレンの排出に関して良好な形状とは言い難い。したがって、この点においても、上述した一般的なドレン溝には、効果的にドレンを排出できていないという問題がある。なお、ドレン溝102a〜102dにて確保された水滴は、回転方向と略直交するタービン半径方向外側へ流れるため、この方向に流れる水滴を阻害しない溝形状が望まれる。
(問題点3)
ドレン溝102a〜102dのうちの隣り合うドレン溝の底面の中心の間の間隔である溝間隔が一定である点に着目すると、特に、図11(A)の断面において、第3ドレン溝102cと第4ドレン溝102dとの間の部分が、刃状に尖った形状となっていることがわかる。これは、全てのドレン溝102a〜102dにおいて、開き角度の二等分線とタービン周方向とが平行(開き角度(ドレン溝加工角度)β=0°)のために、動翼102の捻り角度が大きくなる先端側は、隣り合うドレン溝の間の部分、特に下流側で隣り合うドレン溝の間の部分が、基端側に比べて平たい形状になってしまうことに起因している。
しかしながら、上述のように隣り合う溝の間の尖った形状の部分においては、ドレン溝102a〜102dの設置範囲Dに制約があるために、肉厚を確保することが難しい。そのため、エロージョンが生じた際に、溝形状を保つことが困難となり易く、ドレン溝での水滴の捕獲が困難となる恐れがある。したがって、上述した一般的なドレン溝には、ドレン溝の間の部分の強度を確保し難しく、これにより水滴の捕獲性能に支障が生じ得るという問題がある。
(問題点4)
図15(A)〜(D)は、図11(A)〜(D)に示すドレン溝102a〜102dにおいて水滴を保持できる有効面積を示す図であり、斜線部が有効面積領域を示している。動翼102が高速で回転することにより、水滴は各ドレン溝102a〜102dの底面に押し付けられるため、図中の斜線部で水滴を保持することができる。ここで、例えば図11(C),(D)に示す断面では、各ドレン溝102a〜102dの有効面積に大きな差は見られないが、図11(A),(B)に示す断面では、動翼102の捻りの影響を受け、各ドレン溝102a〜102dの有効面積が小さくなっていることが分かる。
図16は、第1ドレン溝102a及び第4ドレン溝102dの有効面積の翼高さ方向における変化状況を表すグラフを示す。縦軸は、動翼102の全長を1.0とした際の高さ位置を示し、横軸は、各ドレン溝の各高さ位置における有効面積を最大有効面積で除して示した値を示している。また、破線は、第1ドレン溝102aの有効面積を示し、実線は、第4ドレン溝102dの有効面積を示している。
図16に示すように、第1ドレン溝102a及び第4ドレン溝102dの有効面積はともに、動翼先端側において減少する傾向にある。特に、下流側に位置する第4ドレン溝102dでは、動翼102の捻りの影響を大きく受けるために、例えば、図11(A)に示す断面での有効面積は、図11(D)に示す断面での有効面積の30%程度に減少している。このように有効面積が先端に向けて減少し且つその変化量が大きい場合には、確保した水滴の多くが、タービン半径方向外側に排出される際に、保持しきれずに溢れて蒸気に戻ってしまい易い。そのため、上述した一般的なドレン溝では、この点においても、効果的にドレンを捕獲できておらず、効果的にドレンを排出できていないという問題がある。
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、ドレンを効果的に排出することができるタービン動翼を提供することを目的とする。
実施の形態によるタービン動翼は、動翼本体を備える。前記動翼本体の背面の前部に、翼高さ方向の先端から基端側に向けて延びる複数のドレン溝が形成されている。翼高さ方向に沿って見た場合に、前記複数のドレン溝のうちの最も前側に位置するドレン溝の前側内面と後側内面とがなす開き角度の二等分線が、前記タービン周方向に対して前側に傾く、及び/又は、前記複数のドレン溝のうちの最も前側に位置するドレン溝よりも後側に位置するドレン溝の少なくともいずれかの前側内面と後側内面とがなす開き角度の二等分線が、前記タービン周方向に対して後側に傾く。
本発明によれば、ドレンを効果的に排出することができる。
以下に、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係るタービン動翼1の背面側を周方向に沿って見た図である。図2(A)〜(D)は、図1のA−A線、B−B線、C−C線、D−D線に対応する図である。図1に示すように、本実施の形態に係るタービン動翼1は、図示省略するロータに結合されてロータの半径方向外側に延びる動翼本体2を備えている。動翼本体2の根元には、図示省略する植え込み部が設けられている。動翼本体2は、この植え込み部によってロータに結合されるようになっている。
以下の説明においては、動翼本体2が延びるロータの半径方向のことを、タービン半径方向又は翼高さ方向と呼ぶ。ロータの回転軸方向をタービン軸方向と呼び、タービン軸方向周りの方向をタービン周方向と呼ぶ。また、タービン動翼1は、軸流タービンに設けられることが想定されており、この場合、蒸気はタービン軸方向に沿って流れる。この蒸気の流れで見た場合のタービン軸方向の上流側を前側と呼び、下流側を後側と呼ぶ。
図1及び図2に示すように、動翼本体2は、ロータを回転させるためにノズルから流れる蒸気を受ける腹面21と、その反対側の背面22と、を有している。このうち背面22の前部22Fに、翼高さ方向の先端から基端側に向けて延びる複数のドレン溝2a〜2dが形成されている。本実施の形態では、ドレン溝2a〜2dが4つ形成されているが、この数に限られるものではない。以下では、4つのドレン溝2a〜2dを、前側から後側に並ぶ順で、第1ドレン溝2a、第2ドレン溝2b、第3ドレン溝2c、第4ドレン溝2dと呼ぶ。
腹面21と背面22とは、図示省略するキャンバーラインによって区切られている。上述のドレン溝2a〜2dが形成される背面22の前部22Fは、キャンバーラインが動翼本体2に前側で交差する境界点に近接した背面22の前側の部分を意味する。なお、図2に示す符号22DEは、動翼本体2のうちで最も前側に位置する部分である前端を示している。また、図1において、符号Hは、ドレン溝2a〜2dの翼高さ方向における設置範囲を示している。この設置範囲Hは、この例では、動翼本体2の先端から全体高さに対する50〜60%までの範囲に規定されている。
図3(A)には、第1ドレン溝2aが示され、図3(B)には、第2ドレン溝2bが示され、図3(C)には、第3ドレン溝2cが示され、図3(D)には、第4ドレン溝2dが示されている。図3(A)に示すように、本実施の形態の第1ドレン溝2aは、翼高さ方向に沿って見た場合に、背面22からタービン周方向における反回転側に延びる直線状の前側内面30aと、前側内面30aの後側に位置して背面22からタービン周方向における反回転側に延びる直線状の後側内面30bと、前側内面30a及び後側内面30bを接続する底面30cと、で形成されている。
本実施の形態では、底面30cが、一例として、前側内面30aの内部側端点P1と後側内面30bの内部側端点P2とを接続する半円形状となっているが、これに限られるものではない。例えば、底面30cは、前側内面30aの内部側端点と後側内面30bの内部側端点とに内接する内接円の一部によって構成される円弧形状に形成されてもよい。また、底面30aは、前側内面30aの内部側端点と後側内面30bの内部側端点とを直線状に結ぶ平坦面状に形成されてもよい。
他のドレン溝2b〜2dも、第1ドレン溝2aと同様の形状である。すなわち、図3(B)〜(D)に示すように、第2ドレン溝2bは、前側内面31aと、後側内面31bと、底面31cと、で形成されている。第3ドレン溝2cは、前側内面32aと、後側内面32bと、底面32cと、で形成されている。第4ドレン溝2dは、前側内面33aと、後側内面33bと、底面33cと、で形成されている。
各ドレン溝2a〜2dにおいては、前後で並ぶ上述の前側内面と上述の後側内面とがなす角度によって、開き角度α1〜α4が規定されている。開き角度α1〜α4は任意の角度に設定されている。そして、翼高さ方向に沿って見た場合に、当該開き角度α1〜α4を二等分する二等分線L1〜L4のタービン周方向に対する傾きによって、各ドレン溝2a〜2dの向きが規定されている。
詳しくは、本実施の形態においては、翼高さ方向に沿って見た場合に、第1ドレン溝2aの二等分線L1が、タービン周方向に対して前側に15度(β1)の角度をなして傾いている。第2ドレン溝2bの二等分線L2は、タービン周方向に対して平行であり、二等分線L2がタービン周方向となす角度は0度(β2)となっている。第3ドレン溝2cの二等分線L3は、タービン周方向に対して後側に15度(β3)の角度をなして傾き、同様に、第4ドレン溝2dの二等分線L4は、タービン周方向に対して後側に15度(β4)の角度をなして傾いている。なお、開き角度の二等分線とタービン周方向とがなす角度は、当該タービン周方向に対して前側に30度から後側に30度の範囲に設定されることが好ましい。当該範囲であれば、動翼本体2の強度或いは剛性は好適に確保され得る。
各ドレン溝2a〜2dについてさらに詳述すると、図4(A)〜(D)は、図2(A)〜(D)に示す各ドレン溝2a〜2dを重ねて翼高さ方向に沿って見た図であり、この図4における各ドレン溝2a〜2dには、符号A〜Dを括弧書きで付している。この付記された符号は、図2(A)〜(D)のいずれかに対応することを意味する。
図4(A)〜(D)に示すように、本実施の形態において、ドレン溝2a〜2dの各々は、翼高さ方向に沿って見た場合に、それぞれの半円形状の底面30c,31c,32c,33cの中心が翼高さ方向の先端から基端にわたって直線状に並ぶように形成されている。なお、上述の30c,31c,32c,33cの中心とは、それぞれ半円形状に形成される底面の輪郭を規定する円の中心を意味する。図中の符号C1は第1ドレン溝2aの底面30cの中心を示し、符号C2は第2ドレン溝2bの底面31cの中心を示し、符号C3は第3ドレン溝2cの底面32cの中心を示し、符号C4は第4ドレン溝2dの底面33cの中心を示している。なお、このようなドレン溝の配置を実現するために、図4から明らかなように、本実施の形態では、ドレン溝2a〜2dの溝深さは、翼高さ方向の先端から基端にかけて変化している。また、底面30c,31c,32c,33cが内接円の一部によって規定される円弧形状となる場合には、この内接円の中心が各底面の中心となる。
このように底面30c,31c,32c,33cの中心が直線状に並ぶ場合には、底面30c,31c,32c,33cのタービン軸方向における急激な位置変化が抑制され、底面30c,31c,32c,33cが翼高さ方向の先端から基端にかけて滑らかに連続する。具体的に、図5には、第1ドレン溝2aの底面30cの翼高さ方向の先端から基端にかけてのタービン軸方向での位置変化を表すグラフが示されている。図5に示すように、底面30cは、翼高さ方向の先端から基端にかけて滑らかに連続している。なお、詳細には、図5は、底面30cの最下点の位置変化を示している。最下点は、翼高さ方向に沿って見た場合に、底面30cのうちのタービン周方向に最も深くなる位置を意味する。
また、図2(B)を参照し、符号d12は、第1ドレン溝2aの後側内面30bの外部側端点P12と第2ドレン溝2bの前側内面31aの外部側端点P21との間のタービン軸方向での間隔を示している。符号d23は、第2ドレン溝2bの後側内面31bの外部側端点P22と第3ドレン溝2cの前側内面32aの外部側端点P31との間のタービン軸方向での間隔を示している。符号d34は、第3ドレン溝2cの後側内面32bの外部側端点P32と第4ドレン溝2dの前側内面33aの外部側端点P41との間のタービン軸方向での間隔を示している。
間隔d12,d23,d34の各々は、翼高さ方向の位置に応じて変化するが、本実施の形態では、翼高さ方向の先端から基端にかけて1mm以上に確保されている。なお、このような間隔は、1mm未満となってもよいが、1mm以上であれば蒸気の衝突及びそれに含まれる水滴の衝突に好適に耐え得る強度が確保される。
次に、本実施の形態の作用について説明する。
本実施の形態では、翼高さ方向に沿って見た場合に、複数のドレン溝2a〜2dのうちの最も前側に位置する第1ドレン溝2aの開き角度α1の二等分線L1が、タービン周方向に対して前側に傾く。これにより、第1ドレン溝2aに好適に水を捕獲し得る溝深さを設定し、翼高さ方向の先端から基端にわたって第1ドレン溝2aの底面30cから動翼本体2の腹面21までの望ましい肉厚を確保できる程度に、動翼本体2の前端22DEから底面30cまでのタービン軸方向での距離を比較的大きく確保した場合であっても、第1ドレン溝2aを前端22DEに極力近づけることが可能となる。これにより、動翼本体2の適切な強度或いは剛性を確保しつつ、ノズルから流れて動翼本体22の前端22DE近傍に衝突する水滴を、第1ドレン溝2aによって多く捕獲できることにより、効果的にドレンを捕獲でき、且つ効果的にドレンを排出できる。
具体的に、図10及び図11等を用いて説明した一般的なドレン溝(第1ドレン溝102a)との対比で説明すると、本実施の形態に係る第1ドレン溝2aと一般的な第1ドレン溝102aとの間で、溝深さ、タービン軸方向での形成位置、及び開き角度を同一と想定した場合に、本実施の形態に係る第1ドレン溝2aは前側に傾くことにより、一般的な第1ドレン溝102aよりも、前端22DEに近づくため、一般的な第1ドレン溝102aよりも効果的にドレンを捕獲でき、捕獲性能を向上させることができる。
さらに、一般的な第1ドレン溝102aと対比すると、本実施の形態に係る第1ドレン溝2aは前側に傾くことにより、前側内面30aと後側内面30bとの間のタービン軸方向における距離が、一般的な第1ドレン溝102aよりも大きくなる。そのため、本実施の形態の第1ドレン溝2aでは、一般的な第1ドレン溝102aを有する動翼と同等の強度或いは剛性を確保しつつ、水滴を捕獲し得る有効面積を拡大させることもできる。また、溝深さを一般的な第1ドレン溝102aよりも小さくしながらも、一般的な第1ドレン溝102aと同等の水滴を捕獲し得る有効面積を確保することもできる。したがって、本実施の形態の第1ドレン溝2aの構成によれば、一般的な第1ドレン溝102aを有する動翼よりも、動翼本体22の強度或いは剛性を有利に確保しつつ、水滴の捕獲性能を向上させることも可能となる。
また、図6(A)〜(D)は、図2(A)〜(D)に示すドレン溝2a〜2dの各々において水滴を保持できる有効面積を示す図であり、斜線部が有効面積領域を示している。本実施の形態では、第1ドレン溝2aを前側に傾けるとともに、第3ドレン溝2c及び第3ドレン溝2dを後側に傾けることにより、図10及び図11等を用いて説明した一般的なドレン溝を有する動翼よりも、効果的にドレン溝の有効面積のばらつきを抑えて、効果的にドレンの捕獲性能及びドレンの排出性能を向上させることも可能となる。
詳しくは、各ドレン溝2a〜2dの有効面積は、動翼本体2の捻りの影響によって、先端側において減少する傾向にある。ここで、本実施の形態に係る第1ドレン溝2aにおいては、一般的な第1ドレン溝102aと、溝深さ、タービン軸方向での形成位置、及び開き角度を同一と想定した場合に、第1ドレン溝2aが前側に傾くことにより、特に、先端側において、一般的な第1ドレン溝102aよりも有効面積を大きく確保できる。これにより、本実施の形態に係る第1ドレン溝2aでは、一般的な第1ドレン溝102aを有する動翼よりも、動翼本体22の強度或いは剛性を低下させることなく、且つドレン溝の基端側と先端側との有効面積との差を小さく抑えることができる。これにより、一般的なドレン溝を有する動翼よりも、効果的にドレン溝の有効面積のばらつきを抑えて、効果的にドレンの捕獲性能及びドレンの排出性能を向上させることができることになる。
また、本実施の形態に係る第3ドレン溝2c及び第4ドレン溝2dでは、基端側との有効面積との差を抑制するために、先端側の溝深さを大きくして有効面積を大きく確保した場合であっても、後側に傾くことにより、第3ドレン溝2c及び第4ドレン溝2dのタービン軸方向での設置範囲を抑えることができる。これに対して、一般的なドレン溝の第3ドレン溝102c及び第4ドレン溝102dでは、溝深さを大きくして有効面積を大きく確保した場合には、タービン軸方向での設置範囲が大きくなってしまい、動翼の流体性能の低下が生じ得る。したがって、本実施の形態に係る第3ドレン溝2c及び第4ドレン溝2dでは、一般的な第3ドレン溝102c及び第4ドレン溝102dよりも、動翼の流体性能を低下させることなく、ドレン溝の基端側と先端側との有効面積との差を小さく抑えることができる。これにより、一般的なドレン溝を有する動翼よりも、効果的に有効面積のばらつきを抑えて、効果的にドレンの捕獲性能及びドレンの排出性能を向上させることができることになる。
ここで、図7は、本実施の形態に係る第1ドレン溝2a及び第4ドレン溝2dの有効面積の翼高さ方向における変化状況を表すグラフを示している。図7において、縦軸は、動翼本体2の全長を1.0とした際の高さ位置を示し、横軸は、各ドレン溝の各高さ位置における有効面積を最大有効面積で除して示した値を示している。また、破線は、第1ドレン溝2aの有効面積を示し、実線は、第4ドレン溝2dの有効面積を示している。
図7に示すように、本実施の形態では、第1ドレン溝2a及び第4ドレン溝2dにおいては、捩じれ角の大きな先端側でも有効面積を大きく確保できており、第1ドレン溝2aでは最大値の80%以上、第4ドレン2dでは最大値の70%以上の有効面積となっている。そのため、有効面積の変化が緩やかになっており、水滴がドレン溝を通って半径方向外側に排出される際に、途中で溢れて蒸気流の中に戻る可能性を防止することができるようになっている。
また、本実施の形態では、図4(A)〜(D)に示したように、ドレン溝2a〜2dの各々は、翼高さ方向に沿って見た場合に、それぞれの半円形状(円弧状)の底面30c,31c,32c,33cの中心が翼高さ方向の先端から基端にわたって直線状に並ぶように形成されている。これにより、底面30c,31c,32c,33cのタービン軸方向における急激な位置変化が抑制され、底面30c,31c,32c,33cは翼高さ方向の先端から基端にかけて滑らかに連続する。このように底面30c,31c,32c,33cが翼高さ方向の先端から基端にかけて滑らかに連続する場合には、ドレン溝2a〜2bの基端側で捕獲された水滴が、動翼の回転によって、翼高さ方向(タービン半径方向)に沿って外側に排出される際に、途中で離脱することが抑制される。したがって、本実施の形態によれば、ドレンの排出性能を更に向上させることもできる。
また、本実施の形態では、第1ドレン溝2aの後側内面30bの外部側端点P12と第2ドレン溝2bの前側内面31aの外部側端点P21との間の間隔d12、第2ドレン溝2bの後側内面31bの外部側端点P22と第3ドレン溝2cの前側内面32aの外部側端点P31との間の間隔d23、及び第3ドレン溝2cの後側内面32bの外部側端点P32と第4ドレン溝2dの前側内面33aの外部側端点P41との間の間隔d34の各々が1mm以上確保されている。これにより、水滴の衝突に好適に耐え得る強度が確保される。そして、エロージョンでドレン溝間の部分が減肉した際におけるドレン溝2a〜2dの有効面積の減少を抑えることができる。すなわち、侵食に対するロバスト性能を向上できる。
ここで、本実施の形態では、第1ドレン溝2aを前側に傾けるとともに、第3ドレン溝2c及び第4ドレン溝2dを後側に傾けることにより、上述の間隔d12,d23,d34を1mm以上確保し、且つ水滴を好適に捕獲し得る有効面積を確保しつつ、ドレン溝2a〜2dのタービン軸方向での設置範囲をコンパクトに抑制してタービン動翼1の流体性能の低下を抑制することができる。これに対して、一般的なドレン溝102a〜102dを有する動翼において、隣接する溝間の間隔を1mm以上確保し、本実施の形態と同等の有効面積を確保しようとした場合には、ドレン溝102a〜102dのタービン軸方向での設置範囲が大きくなってしまい、流体性能が低下してしまう。そのため、本実施の形態によれば、一般的なドレン溝102a〜102dを有する動翼よりも、コンパクトに複数のドレン溝を形成しながらも、水滴の衝突に好適に耐え得る強度及び水滴を好適に捕獲し得る有効面積を確保することができるという効果も得られる。
したがって、本実施の形態によれば、ドレンを効果的に排出することができる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記の実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、第1ドレン溝2aの二等分線L1の角度等は、上述の実施の形態に限定されるものではない。この角度は、ノズルからのドレンの飛来位置及び方向に応じて適切な角度が設定されればよい。また、上述の実施の形態では、ドレン溝2a〜2dの前側内面及び後側内面が直線状に形成される例であるが、これら前側内面及び後側内面は円弧状でもよい。この場合、前側内面と後側内面とで規定される開き角度は、前側内面の両端点間を結ぶ直線と、後側内面の両端点間を結ぶ直線とで規定される。