以下、本発明に係る荷電粒子検出器の種々の実施形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。さらに、本発明は、これら例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図されている。
図1は、本実施形態に係る荷電粒子検出器の概略構成および動作原理を説明するための図である。図1において、本実施形態に係る荷電粒子検出器1は、マイクロチャネルプレート(MCP)10と、MCP10から出力された二次電子を受光する電子衝撃型ダイオード(PD)80と、MCP10とPD80との間に設けられ、MCP10から出射された二次電子の軌道を集束するためのフォーカス電極60を備える。MCP10は、入射荷電粒子が到達する入力面10aと、該入射荷電粒子に応答して発生した二次電子を出射させる出力面10bと、それぞれが所定のバイアス角だけ傾斜した状態で並列配置された複数の貫通孔を有する。フォーカス電極60は、同電位に設定された中空胴体部60aと、フランジ部60bにより構成されている。また、中空胴体部60aは、二次電子の軌道をMCP10の中心軸AX1付近に集束させるための貫通孔60a1を有する。フランジ部60bは、PD80の電子入射面に一致した基準平面100上に到達する二次電子の集束スポットのスポット径を調整するための開口60b1を有する。
上述の装置構成において、基準平面100上における二次電子の集束スポットの位置は、MCP10のバイアス角に依存してMCP10の中心軸AX1からずれてしまう。すなわち、電子入射面の中心C1がMCP10の中心軸AX1上に位置するようPD80が配置された構成では、例えば図7に示されたように、MCP10から出射された二次電子の一部がPD80の電子入射面に到達できない状態となる。そのため、MCP10のバイアス角による電子軌道への影響を考慮しない場合、PD80の小型化は困難になる。
本実施形態では、上述のようなMCP10のバイアス角による電子軌道への影響を考慮し、PD80を基準平面100に沿って図1中の矢印S1で示されたバイアス角方向に偏心配置する構成、および/または、フランジ部60bの開口60b1の中心C2を図1中の矢印S2で示されたバイアス角方向に偏心配置する構成が採用されている。
図2は、PD80の電子入射面800と、該電子入射面800上における二次電子の集束スポットSPのスポット径との関係を説明するための図である。本実施形態では、MCP10の中心軸AX1に対して、PD80(電子入射面800の中心C1)および/またはフランジ部60bの開口60b1の中心C2が、MCP10のバイアス角で規定されるバイアス角方向に沿って偏心配置されるため、PD80自体の小型化が可能になる。そのため、本実施形態において、PD80における電子入射面800の最大幅は3mm以下、好ましくは1mm以下である。また、二次電子の集束スポットSPの最大スポット径は1mm以下である。
次に、本実施形態に係る荷電粒子検出器1に適用されるMCP10の具体的な構成、バイアス角、およびバイアス角方向を、図3および図4を用いて詳細に説明する。なお、図3(a)は、MCP10の構造を説明するための斜視図であり、図3(b)は、図3(a)中の矢印Aで示された方向から見たMCP10の断面図である。
図3(a)に示されたように、MCP10は板状の構造体(本体)を備え、複数のチャネルが規則正しく配列された電子増倍素子として知られている。すなわち、MCP10は、鉛ガラスを主成分とする薄型円盤状の構造体(本体)であり、環状の外周部11を除いて厚み方向(入力面10aから出力面10bへ向かう方向)に伸びた複数の貫通孔12が配置され、該構造体の両面には電極13が蒸着により形成されている。電極13は、MCP10の全面をカバーするのではなく、MCP10の外周部11を外周端から0.5mm〜1.0mm露出させて形成されている。
複数の貫通孔12は、図3(b)に示されたように、MCP10の出力面10bに対して所定のバイアス角だけ傾斜した状態で並列配置されており、それらの内壁(チャネル壁)面上には二次電子放出面121が形成されている。また、「バイアス角」は、MCP10の出力面10bに垂直な基準軸AX2と、各貫通孔12の中心軸AX3により規定される。すなわち、複数の貫通孔12のうちから選択された貫通孔(基準貫通孔)について、該基準貫通孔の開口のうち出力面10bに一致した開口の中心O1を通る基準軸AX2を規定したとき、この開口中心O1において基準軸AX2と交差する基準貫通孔の中心軸AX3とのなす鋭角がバイアス角θである。
さらに、上述のように規定されたMCP10のバイアス角θに基づいてバイアス角方向が特定される。具体的には、図4(a)に示されたように、PD80の電子入射面800に一致する基準平面100において、基準貫通孔の開口のうちMCP10の出力面10bに一致する開口の中心O1を通りかつ該出力面10bに直交する基準軸AX2と、基準平面100との交点をO2とする。また、基準貫通孔の中心軸AX3と基準平面100との交点をO3とする。この時、基準平面100上の交点O2から交点O3へ向かう、矢印S3で示された方向がバイアス角方向となる。
具体的に、PD80をMCP10の中心軸AX1に対して偏心させる場合、PD80の電子入射面800の中心C1を、MCP10の中心軸AX1に対して、上述のように規定されたバイアス角方向S3に沿って移動させることにより実現される。また、フランジ部60bの開口60b1をMCP10の中心軸AX1に対して偏心させる場合、フランジ部60bの開口60b1の中心C2を、MCP10の中心軸AX1に対して、上述のように規定されたバイアス角方向S3に沿って移動させることにより実現される。
なお、本実施形態では、荷電粒子検出器1を組み立てる際に、MCP10のバイアス角θで規定されるバイアス角方向の確認を可能にするため、図4(b)に示されたように、MCP10にバイアス角方向を示すマーカ14が設けられている。図4(b)は、MCP10を入力面10aから見た、該MCP10の平面図である。図4(b)の平面図において、マーカ14の先端から当該MCP10の中心(中心軸AX1と入力面10aとの交点)へ向かう方向がバイアス角方向である。また、図4(b)において、斜線で示された領域Rは、荷電粒子が入射可能なMCP10の有効領域であり、本実施形態では、その面積が有効領域Rの面積よりも小さいPDが適用される。
(第1実施形態)
図5は、第1実施形態に係る荷電粒子検出器1Aの組み立て工程図であり、図6(a)は、図5に示された組立工程を経て得られた荷電粒子検出器1Aの斜視図である。また、図6(b)は、図6(a)中のX1−X1線に沿った当該荷電粒子検出器1Aの断面図である。なお、図6(b)中に示された軸AXC1は、PD80の電子入射面800の中心C1を通り、該電子入射面800に垂直な軸(MCP10の中心軸AX1に平行な軸)である。
当該荷電粒子検出器1Aの組み立て工程では、MCP10からフォーカス電極60へ向かう方向(MCP10の中心軸AX1に沿った方向)に沿って順に、金属キャップ5、MCP入力側電極30a(以下、MCP−In電極という)、MCP10を収納する貫通孔20aを有するスペーサ20、MCP出力側電極30b(以下、MCP−Out電極という)、上側絶縁リング40a、メッシュ電極50、下側絶縁リング40b、および、フォーカス電極60が配置され、これら金属キャップ5、MCP−In電極30a、スペーサ20、MCP−Out電極30b、上側絶縁リング40a、メッシュ電極50、下側絶縁リング40bのそれぞれが、4本の樹脂ネジ6a〜6dにより、フォーカス電極60に固定される。さらに、フォーカス電極60からPD80へ向かう方向(MCP10の中心軸AX1に沿った方向)に沿って順に、4個のスペーサ65a〜65d、および、PD80が搭載されたブリーダ回路基板70が配置され、これらスペーサ65a〜65d、ブリーダ回路基板70のそれぞれが、4本の樹脂ネジ91a〜91dによりフォーカス電極60に固定される。
具体的に、金属キャップ5は、MCP10の有効領域R(図4(b)参照)を規定するための窓5aを有する金属ディスクであって、窓5aを取り囲むように、樹脂ネジ6a〜6dを貫通させた状態で保持するための4個のネジ孔が設けられている。
MCP10は、ディスク形状を有するスペーサ20の貫通孔20a内に収納された状態で、MCP−In電極30aと、MCP−Out電極30bに挟まれる。その際、MCP−In電極30aは、MCP10の入力面10a上に形成された電極13に電気的に接続され、同様に、MCP−Out電極30bは、MCP10の出力面10b上に形成された電極13に電気的に接続される。なお、MCP−In電極30aは、MCP10の入力面10aを露出させるための開口30a1と、当該MCP−In電極30aを所定電位に設定するため、所定電圧の給電ピン92dに電気的に接続される給電部30a2を有する。さらに、MCP−In電極30aは、開口30a1を取り囲むように、樹脂ネジ6a〜6dを貫通させた状態で保持するための4個のネジ孔が設けられている。一方、MCP−Out電極30bは、MCP10の出力面10bを露出させるための開口30b1と、当該MCP−Out電極30bを所定電位に設定するため、所定電圧の給電ピン92cに電気的に接続される給電部30b2を有する。さらに、MCP−Out電極30bは、開口30b1を取り囲むように、樹脂ネジ6a〜6dを貫通させた状態で保持するための4個のネジ孔が設けられている。
メッシュ電極50は、金属メッシュ50aが配置された開口が設けられたディスク形状を有するとともに、当該メッシュ電極50を所定電位に設定するため、所定電圧の給電ピン92bに電気的に接続される給電部50bを有する。また、メッシュ電極50は、金属メッシュ50aを露出させるための開口40a1が設けられた上側絶縁リング40aと、金属メッシュ50aを露出させるための開口40b1が設けられた下側絶縁リング40bにより挟まれる。なお、上側絶縁リング40aは、MCP−Out電極30bとメッシュ電極50を電気的に分離するための絶縁スペーサとして機能し、下側絶縁リング40bは、メッシュ電極50とフォーカス電極60を電気的に分離するための絶縁スペーサとして機能する。これら上側絶縁リング40a、下側絶縁リング40bの双方にも、それぞれ開口40a1、40b1を取り囲むように4個のネジ孔が設けられている。
フォーカス電極60は、全体として円筒形状を有し、MCP10の中心軸AX1を軸中心とする。具体的に、フォーカス電極60は、MCP10の出力面10bからの二次電子を通過させるための貫通孔60a1(当該フォーカス電極60の入射側開口を規定している)を有する中空胴体部60aと、当該フォーカス電極60の出射側開口を規定するための開口60b1を有するフランジ部60bにより、構成されている。フランジ部60bは、中空胴体部60aに対して同電位になるよう接触しており、当該フランジ部60bを所定電位に設定するため、所定電圧の給電ピン92a、92cに電気的にそれぞれ接続される給電部60b2、60b3を有する。なお、中空胴体部60aの入射端側には、貫通孔60a1を取り囲むように、樹脂ネジ6a〜6d用の4個のネジ孔が設けられる一方、出射端側にも、貫通孔60a1を取り囲むように、樹脂ネジ91a〜91d用の4個のネジ孔が設けられている。フランジ部60bには、開口60b1を取り囲むように樹脂ネジ91a〜91d用の4個のネジ孔が設けられている。
フランジ部60bとブリーダ回路基板70との間には、絶縁材料からなる4個のスペーサ65a〜65dは配置されており、これらスペーサ65a〜65dにも、樹脂ネジ91a〜91dをそれぞれ貫通させるためのネジ孔が設けられている。ブリーダ回路基板70には、その主面上にPD80が搭載されるとともに、MCP−In電極30a、MCP−Out電極30b、メッシュ電極50、フランジ部60bに所定電圧を供給するための4本の給電ピン92a〜92dが設けられている。なお、MCP−Out電極30bの給電部30b2とフランジ部60bの給電部60b3には、中空胴体部60aとともにこれらMCP−Out電極30b、フランジ部60bを同電位に設定するため、給電ピン92cが電気的に接続されている。また、ブリーダ回路基板70には、PD80が搭載された面とは反対側の面にPD80からの信号を取り出すためのSMA(Sub Miniature type A)コネクタが取り付けられる一方、給電ピン92a〜92dそれぞれに所定の電圧を供給するためのブリーダ回路90が作り込まれている。
第1実施形態に係る荷電粒子検出器1Aは、金属キャップ5、MCP−In電極30a、MCP10を収納したスペーサ20、MCP−Out電極30b、上側絶縁リング40a、メッシュ電極50、および、下側絶縁リング40bを、4本の樹脂ネジ6a〜6dにより中空胴体部60a(フォーカス電極60の一部を構成する)の入射端側に固定する一方、フランジ部60b、4個のスペーサ65a〜65d、および、ブリーダ回路基板70を、4本の樹脂ネジ91a〜91dにより中空胴体部60aの出射端側に固定することにより、得られる。なお、給電構造の複雑化を避けるため、この第1実施形態では、フォーカス電極60が、MCP10の出力面10bと同電位に設定されているが、該フォーカス電極60は、PD80の電子入射面800と同電位に設定されてもよい。このように、フォーカス電極60の電位を、MCP10の出力面10bまたはPD80(電子入射面800)の電位に一致させることで、より少ない電源で当該荷電粒子検出器の駆動が可能になる。
次に、上述のように組み立てられる荷電粒子検出器において、PD80の偏心配置およびフランジ部60bにおける開口60b1の偏心配置について、図7〜図12を用いて詳細に説明する。
まず、図7(a)は、比較例に係る荷電粒子検出器において、MCP10−PD80間の位置関係を示す平面図(MCP10の入力面10aから見たMCP10の平面図)である。係る荷電粒子検出器は、図5に示された組み立て工程を経て得られる。また、図7(b)は、図7(a)中のX2−X2線に沿った、比較例に係る荷電粒子検出器の断面図に相当し、MCP10とPD80との間の空間における等電位線および二次電子の軌道が示されている。
この比較例に係る荷電粒子検出器では、MCP10に設けられたマーカ14により、該マーカ14からMCP10の中心に向かう方向がバイアス角方向であることが分かる。一方、PD10は、電子入射面800の中心C1とMCP10の中心とが一致するように配置されており、MCP10のバイアス角による電子軌道の影響は考慮されていない。そのため、図7(b)に示されたように、MCP10の出力面10bから基準平面100に到達した二次電子の集束スポットは、MCP10の中心軸AX1からずれ、基準平面100に到達した二次電子の一部がPD80により受光されないこととなる。
これに対し、第1実施形態に係る荷電粒子検出器1Aの一例において、PD80をMCP10の中心軸AX1に対して偏心配置した場合が図8に示されている。すなわち、図8(a)は、図5に示された組み立て工程を経て得られる、この例の荷電粒子検出器1Aの一例として、MCP10−PD80間の位置関係を示す平面図(MCP10の入力面10aから見たMCP10の平面図)である。また、図8(b)は、図8(a)中のX3−X3線に沿った、荷電粒子検出器1Aの断面図に相当し、MCP10とPD80との間の空間における等電位線および二次電子の軌道が示されている。
この例に係る荷電粒子検出器1Aでは、MCP10に設けられたマーカ14により、該マーカ14からMCP10の中心に向かう方向がバイアス角方向であることが分かり、PD10は、電子入射面800の中心C1がマーカ14で指示されたバイアス角方向に配置されている。そのため、図8(b)に示されたように、MCP10の出力面10bから基準平面100に到達した二次電子の集束スポットが、MCP10の中心軸AX1からずれた場合であっても、基準平面100に到達した二次電子の大部分が効率よくPD80により受光される。また、この構成は小型のPDの適用も可能にする。
続いて、図8に示された荷電粒子検出器1A(PD80が偏心配置された構成)の例について、より具体的なシミュレーション結果を示す。図9および図10は、いずれもPD80がMCP10の中心軸AX1に対して偏心配置された例であるが、図9の例は、フォーカス電極60の一部を構成する中空胴体部60aが単一部材で構成された荷電粒子検出器の例である。特に、図9(a)は、単一部材の中空胴体部60aを有する荷電粒子検出器の具体的な断面構造を示し、図9(b)は、図9(a)に示された荷電粒子検出器における二次電子の軌道のシミュレーション結果を示す。一方、図10には、フォーカス電極60の一部を構成する中空胴体部60aがMCP10側に位置する第1胴体部600a(中空部材)と、PD80側に位置する第2胴体部600b(中空部材)により構成された荷電粒子検出器の例である。特に、図10(a)は、中空胴体部60aが第1胴体部600aと第2胴体部600bで構成された荷電粒子検出器の具体的な断面構造を示し、図10(b)は、図10(a)に示された荷電粒子検出器における二次電子の軌道のシミュレーション結果を示す。
図9の例では、図9(a)に示されたように、MCP10における有効領域Rの直径は10mmである。メッシュ電極50の厚みは0.5mmである。MCP10とメッシュ電極50との間隔は3mmである。フォーカス電極60において、中空胴体部60aの内径は22mmであり、フランジ部60bの開口60b1の直径は16mmである。なお、フランジ部60bの厚みは0.5mmである。また、中空胴体部60aの外周径は34mmである。この例において、MCP10の中心軸AX1に対するPD80の電子入射面800の中心C1(図中、AXC1は電子入射面800の中心軸)とのずれ量は0.9mmである(図9(b))。
一方、図10の例では、フォーカス電極60の中空胴体部60aは、MCP10側に配置される第1胴体部600aと、PD80側に配置される第2胴体部600bで構成されている。第1胴体部600aは、フランジ部60bと電気的に接触した状態で、MCP−Out電極30bと同電位に設定されている。第2胴体部600bは、第1胴体部600aとは逆側にPD80を搭載した状態で、該PD80と同電位に設定されている。
図10(a)に示されたように、MCP10における有効領域Rの直径は25mmである。メッシュ電極50の厚みは0.5mmである。MCP10とメッシュ電極50との間隔は3mmである。フォーカス電極60の中空胴体部60aの一部を構成する第1胴体部600aの内径は50mmであり、フランジ部60bの開口60b1の直径は40mmである。なお、第1胴体部600aとフランジ部60bを合わせた厚みは20.5mmである。また、第2胴体部600bの厚みは27mm、第1および第2胴体部600a、600bの外周径はともに70mmである。さらに、MCP10の中心軸AX1に対するPD80の電子入射面800の中心C1(図中、AXC1は電子入射面800の中心軸)とのずれ量は1.5mmである(図10(b))。
(第2実施形態)
図11および図12は、第2実施形態に係る荷電粒子検出器の特徴的な構造として、MCP10の中心軸AX1上に電子入射面800の中心が位置するようPD80が配置された構成において、フォーカス電極60のフランジ部60bにおける開口60b1の中心をMCP10の中心軸AX1に対して偏心させた構成を説明するための図である。なお、この第2実施形態に係る荷電粒子検出器の構成は、フォーカス電極60におけるフランジ部60bの構造を除き、上述の第1実施形態に係る荷電粒子検出器1A(図5、図6)と同様である。
すなわち、図11は、第2実施形態に係る荷電粒子検出器の特徴的な構成として、フォーカス電極60のうち、MCP10の中心軸AX1に対して開口60b1の中心が偏心しているフランジ部60bの構造を説明するための図である。通常、フランジ部60bの開口60b1は、図11(a)に示されたように、当該荷電粒子検出器が組み立てられたときに、MCP10の中心軸AX1と開口60b1の中心C2が一致するよう形成される。しかしながら、この第2実施形態では、図11(b)に示されたように、MCP10の中心軸AX1に対して開口60b1の中心C2が、MCP10のマーカ14により指示されるバイアス角方向に偏心している。
上述の構成において、MCP10−PD80間の位置関係が図12(a)に示され、MCP10とPD80との間の空間における等電位線および二次電子の軌道が図12(b)に示されている。なお、図12(a)は、MCP10の入力面10a側から見たMCP10の平面図であり、図12(b)は、図12(a)中のX4−X4線に沿った当該荷電粒子検出器の断面図に相当する。図12(b)から分かるように、この第2実施形態に係る荷電粒子検出器において、フランジ部60bの一方(図12(b)中の左側)が中空胴体部60aの貫通孔60a1に長さD1だけ飛び出しているのに対し、フランジ部60bの他方(図12(b)中の右側)が長さD2(>D1)だけ飛び出す構造となっており、この結果、開口60b1の中心C2がMCP10の中心軸AX1に対して、MCP10のマーカ14で指示されるバイアス角方向に偏心した状態が実現されている。
すなわち、図12(b)に示されたように、MCP10の出力面10bから出射された二次電子の軌道は、一旦MCP10のバイアス角の影響によりバイアス角方向に大きく偏心するが、フランジ部60bの開口60b1により、二次電子の集束スポットの位置がMCP10の中心軸AX1側に近づくよう調節されている。
(第3実施形態)
図13は、第3実施形態に係る荷電粒子検出器の断面構造を説明するための図であり、この第3実施形態に係る荷電粒子検出器1Bは、フォーカス電極60とブリーダ回路基板70との接続構造を除き、上述の第1実施形態に係る荷電粒子検出器1Aと同様の構造を有する。すなわち、この第3実施形態に係る荷電粒子検出器1Bは、質量分析装置等の真空チャンバに固定された状況でのメンテナンス作業の向上を目的とし、PD80のみを容易に交換できる構造を備える。なお、図13(a)は、真空チャンバ200の開口210に取り付けられた当該第3実施形態に係る荷電粒子検出器1Bの構成を示す断面図である。図13(b)は、真空チャンバ200からPD80が搭載されたブリーダ回路基板70だけを取り外した状態を示す、断面図である。また、図13(a)および図13(b)は、図6(a)のX5−X5線に沿った断面図に対応しており、図中の軸AXC1は、PD80の電子入射面800の中心C1を通り、該電子入射面800に垂直な軸(MCP10の中心軸AX1に平行な軸)である。
一般に荷電粒子検出器のゲイン劣化(ライフエンド)の原因は、主としてPD80の、電子打込みゲインの低下である。当該荷電粒子検出器1Bでイオンを検出するとPD80に照射された電子が、該PD80上にアモルファスカーボンを堆積させる。したがって、ライフエンドとなったMCP10とPD80の組み合わせにより構成では、PD80のみを交換することでゲインを復活させることができる。
図13(a)に示されたように、当該荷電粒子検出器1BのうちMCP10とフォーカス電極60を含む装置上段は、真空チャンバ200の開口210に挿入された状態で、該開口210を取り囲むように当該真空チャンバ200の外側に設置された樹脂フランジ(絶縁フランジ)300に、4本の樹脂ネジ(図13(a)では2本の樹脂ネジ91b、91dのみが示されている)により固定されている。さらに、PD80が搭載されたブリーダ回路基板70を含む装置下段が、4本の樹脂ネジ(図中、93b、93dのみ示されている)により、真空チャンバ200の外側から樹脂フランジ300に固定されている。なお、ブリーダ回路基板70には、当該荷電粒子検出器1Bを駆動するための給電ピン92a〜92dや信号を出力するためのSMAコネクタ95が取り付けられており、これらが、真空フランジの役割を担っている。
上述の構成により、装置上段は、真空チャンバ200の内側(真空側)に位置する一方、装置下段は真空チャンバ200の外側(大気側)に位置することとなる。なお、真空チャンバ200と樹脂フランジ300の接触部分には、真空チャンバ200内の気密性を維持するため、密閉用のOリング350が取り付けられている。また、同様の理由で、樹脂フランジ300とブリーダ回路基板70との間にもOリング350が取り付けられている。
上述のように当該荷電粒子検出器1Bが真空チャンバ200の開口210に取り付けられた状態(図13(a))から、PD80を交換する場合、図13(b)に示されたように、樹脂フランジ300から樹脂ネジ93b、93dを取り外すことにより、PD80が搭載されたブリーダ回路基板70を真空チャンバ200から分離することが可能になる。分離後は、上述の分離作業とは逆の手順、すなわち、取り外されたブリーダ回路基板70に替え、正常動作可能なPD80が搭載された別のブリーダ回路基板が、樹脂ネジ93b、93dにより樹脂フランジ300に取り付けられる。
以上の本発明の説明から、本発明を様々に変形しうることは明らかである。そのような変形は、本発明の思想および範囲から逸脱するものとは認めることはできず、すべての当業者にとって自明である改良は、以下の請求の範囲に含まれるものである。