以下、本発明の実施形態の一例を図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。
(細胞培養容器)
図1は、本発明の実施形態に係る細胞培養容器20の構成を示す平面図である。細胞培養容器20は、一例として、可撓性およびガス透過性を有する2枚のプラスチックフィルムを、ヒートシール(熱圧着)などの手法により貼り合せることにより形成される。細胞培養容器20は、その外縁に沿って形成されたシール部201を有し、シール部201の内側に形成される、細胞を収容する収容空間203は密閉されている。すなわち、本実施形態において、細胞培養容器20は、プラスチックで構成されたバッグの形態を有しており、シングルユースの細胞培養容器として好適に使用することが可能である。細胞培養容器20をシングルユースとすることにより、交差汚染のリスクを排除するとともに、滅菌や洗浄およびそれらのバリデーションの実施が不要となる。なお、細胞培養容器20は、1枚のプラスチックフィルムを折り返して、貼り合せて構成してもよい。また、プラスチックフィルムは、細胞培養容器20内で培養される細胞の目視による観察を可能とするために、可視光を透過することが好ましい。
細胞培養容器20を構成するプラスチックフィルムは、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、およびセルロースアシレート(トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などを材料とするものであってもよい。これらのポリマーは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態をとってもよい。また、これらのポリマーは、必要に応じて2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。光学用途に使う場合には、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンなどが好ましい。
細胞培養容器20は、一例として、図1における上端部近傍に流入口21を有し、図1における下端部近傍に流出口22を有する。細胞培養容器20内への細胞懸濁液や培養液の注入は、流入口21を介して行うことができ、細胞培養容器20からの細胞懸濁液や培養液の排出は、流出口22を介して行うことができる。本実施形態において、流入口21および流出口22は、シール部201を貫くようにして細胞培養容器20本体に挿入されたコネクタ21aおよび22aによって構成されている。このように、細胞培養容器20の収容空間203は、流入口21および流出口22を介してのみ外部と連通する構成を有しており、高い密閉性が維持されている。これにより、収容空間203と大気との接触が制限され、シャーレやフラスコなどを用いる場合と比較して細菌汚染のリスクが低減される。なお、流入口21および流出口22の配置は、適宜変更することが可能である。また、シール部201には、収容空間203から離間して貫通孔204が設けられている。貫通孔204は、細胞培養容器20の支持に使用することができる。
図2は、図1における2−2線に沿った断面図である。図2に示すように、細胞培養容器20は、内壁面205によって形成される収容空間203内において、細胞Cを培養液L中に浮遊させた状態で培養する浮遊培養に好適に用いることができる。すなわち、培養期間中、収容空間203内に浮遊状態で存在する細胞Cは、細胞培養容器20の内壁面205に囲まれる。なお、培養液L中で浮遊していない細胞が一部存在していても、多数の細胞が浮遊状態で存在している場合には、浮遊培養に含まれる。
図3(a)は、細胞培養容器20の内壁面205の構造を示す平面図であり、図3(b)は、図3(a)における3b−3b線に沿った断面図である。
細胞培養容器20の内壁面205は、細胞培養容器20の外壁面206側に向けて凹んだ複数の凹部210を含む非平坦構造を有する。本実施形態において、複数の凹部210は、細胞培養容器20を構成するプラスチックフィルム自体に形成されている。また、本実施形態において、複数の凹部210は、細胞培養容器20の内壁面205の全域に亘って形成されている。すなわち、内壁面205の全体が非平坦構造を有し、収容空間203の全体が非平坦構造で囲まれている。なお、「内壁面の全体が非平坦構造を有する」とは、内壁面205の大部分(例えば90%以上)が非平坦構造を有することを意味し、例えば、収容空間203内に収容された細胞が接触し得ない一部の領域において、非平坦構造を有しない場合も含まれる。
本実施形態において、複数の凹部210は、規則配列されている。具体的には、複数の凹部210は、ハニカム状に配列(六方最密配列)されている。すなわち、図3(a)における第n列に配列された凹部210の各々は、第(n+1)列に配列された、互いに隣接する凹部210間の列方向の中央に対応する位置に配置されている。複数の凹部210をハニカム状に規則配列させたプラスチックフィルムは、後述する方法で製造することが可能であり、他の配列とする場合と比較して製造コストを抑えることができる。なお、複数の凹部210は、マトリックス状(格子状)に配列されていてもよい。すなわち、複数の凹部210は、列方向および列方向と直交する行方向に沿って配列されていてもよい。また、複数の凹部210の配列をランダムとすることも可能であるが、細胞培養容器20の内壁面205に形成される凹部210の密度が不均一となった場合には、培養される細胞の均質性に悪影響を与えるおそれがあることから、複数の凹部210は、規則配列されることが好ましい。
凹部210の形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態において、凹部210の各々は、球体の一部を切り取った球欠形状を有する。すなわち、凹部210の各々は、細胞培養容器20の内壁面において円形の開口部210aを形成している。凹部210の各々の形状を球欠形状とすることにより、後述する製造方法を使用することが可能となり、他の形状とする場合と比較して製造コストを抑えることができる。なお、凹部210の各々の形状は、円柱形状または角柱形状などであってもよい。
複数の凹部210は、細胞培養容器20で培養される細胞の、内壁面205への接着を阻害する大きさおよび間隔で設けられている。複数の凹部210は、内壁面205が平坦構造を有する場合と比較して、細胞の内壁面205との接着面積が減少する大きさおよび間隔で設けられることが好ましい。すなわち、細胞培養容器20の内壁面205に形成される非平坦構造は、凹部210の開口部210aにおける径Dh(以下、開口径Dhという)および互いに隣接する凹部210の間に延在する平坦部の幅Wが、培養期間中に細胞培養容器20内で形成される細胞塊Sの径Dsよりも小さくなるように構成されている。凹部210の開口径Dhを、細胞塊Sの径Dsよりも小さくすることで、細胞塊Sの凹部210内への侵入を防止することができ、これにより、凹部210の内側の壁面への細胞塊Sの接着を阻害することが可能となる。また、互いに隣接する凹部210の間に延在する平坦部の幅Wを、細胞塊Sの径Dsよりも小さくすることで、上記平坦部への細胞塊Sの接着を阻害することができる。なお、開口径Dhは、凹部210によって内壁面205に形成される開口部210aの、内壁面205と平行な方向における最長部の長さである。細胞塊Sの径Dsは、細胞塊Sの最長部の長さである。
本実施形態に係る細胞培養容器20での培養期間中における細胞塊Sの径Dsの想定範囲は、例えば、100μm以上400μm以下である。上記のサイズの細胞塊Sに対して、凹部210の開口径Dhを、例えば、1μm以上80μm以下とすることができる。凹部210の開口径Dhを1μm以上とすることで、細胞塊Sからみた細胞培養容器20の内壁面205は、実質的な非平坦構造となり、細胞培養容器20の内壁面205への細胞塊Sの接着を阻害する機能が発揮される。一方、凹部210の開口径Dhを80μm以下とすることで、細胞塊Sの凹部210内への侵入を阻害することができ、これにより、凹部210の内側の壁面への細胞塊Sの接着を阻害することが可能となる。
また、互いに隣接する凹部210の中心間距離P1の変動係数は、0.1以下であることが好ましい。変動係数は、母集団の標準偏差を算術平均で割った値であり、当該母集団の相対的なばらつきの度合いを示す指標である。互いに隣接する凹部210の中心間距離P1の変動係数を小さくする程、細胞培養容器20の内壁面205における凹部210の密度の偏りが小さくなる。互いに隣接する凹部210の中心間距離P1の変動係数を0.1以下とすることで、凹部210の密度が均一化され、細胞培養容器20で培養される細胞の均質性が確保される。互いに隣接する凹部210の中心間距離P1は、例えば、1.5μm以上160μm以下とすることができる。
以下において、細胞培養容器20を構成する、非平坦構造を表面に有するプラスチックフィルムの製造方法の一例について説明する。図4(a)〜図4(d)は、ハニカム状に配列された複数の凹部210を含む非平坦構造を表面に有するプラスチックフィルムの製造方法を示す断面図である。
はじめに、細胞培養容器20を構成するプラスチックフィルムの材料となる疎水性を有するポリマーを溶媒に溶解した塗布液を用意する。続いて、この塗布液をガラスまたは高分子化合物などによって構成される支持体300の上に塗布して支持体300上に塗布膜310を形成する(図4(a))。
次に、加湿空気を塗布膜310の表面全体に亘って流すことにより、結露現象によって塗布膜310上に水滴320を形成する(図4(b))。ここで、塗布膜310の近傍を流れる加湿空気の露点Tdと、塗布膜310の表面温度Tsとの差分ΔT(=Td−Ts)が、下記の(1)式を満たすように、TdおよびTsの少なくとも一方を制御する。
3℃≦ΔT≦30℃・・・(1)
次に、加湿空気の供給を継続することにより水滴320を成長させる。水滴320の各々は、互いに略同一の大きさに成長する。また、塗布膜310に含まれる溶媒の蒸発によりポリマーが析出する。水滴320は、溶媒の蒸発に伴って、毛細管力によりハニカム状配列をなすように規則的に配列されるとともに、塗布膜310の中に入り込む(図4(c))。
次に、溶媒の蒸発に並行して、或いは溶媒を蒸発させた後に、水滴320を蒸発させる。これにより、塗布膜310における水滴320が入り込んだ部分が凹部210として残る(図4(d))。その後、塗布膜310を支持体300から剥離することによって表面に複数の凹部210を含む非平坦構造を有するプラスチックフィルムが得られる。図5は、上記の方法を用いて製造された、複数の凹部を表面に有するプラスチックフィルムを走査型電子顕微鏡を用いて撮影した写真である。
なお、凹部210の開口径Dhの調整は、例えば、加湿空気に含まれる水蒸気の供給量や、水滴320を蒸発させるタイミングを変化させて水滴320の大きさを調整することで行うことが可能である。なお、上記したハニカム状に配列された複数の凹部を表面に有するプラスチックフィルムの製造方法の詳細は、例えば、特開2007−291367号公報および特開2009−256624号公報に記載されている。上記の製造方法によれば、水滴320を利用して非平坦構造のパターニングが行われるので、ハニカム状に配列された均一サイズの複数の凹部210を型やマスクを使用することなくプラスチックフィルム上に形成することができる。これにより、製造コストを抑制することができる。なお、細胞培養容器20を構成する非平坦構造を表面に有するプラスチックフィルムを、エッチング、サンドブラストまたはプレス成形等の他の方法を用いて製造することも可能である。
図6(a)は、細胞培養容器20の内壁面205が平坦である場合における細胞塊Sの状態を模式的に示す図である。細胞培養容器20の内壁面205が平坦である場合には、細胞培養容器20内を浮遊する細胞塊Sは、細胞培養容器20の内壁面205に接着しやすく、接着した場合には、内壁面205に沿って広がるように変形し、内壁面205に沿って増殖する。これにより、内壁面205に接着した他の細胞塊Sとの融合が誘発される。細胞塊同士が融合すると、細胞が分化を開始したり、細胞塊の中心部の細胞が壊死したりするといった問題が生じ得る。このため、浮遊培養においては、細胞塊同士の自発的な融合を抑制することが好ましい。
図6(b)は、細胞培養容器20の内壁面205が複数の凹部210を含む非平坦構造を有する場合における細胞塊Sの状態を模式的に示す図である。細胞培養容器20の内壁面205が非平坦構造を有する場合には、細胞塊Sと内壁面205との接触面積が小さくなり、細胞塊Sが安定的に接着し得る領域がなくなるので、細胞塊Sの内壁面205への接着が阻害される。これにより、培養期間中、細胞塊Sの形状は維持され、細胞塊同士の融合が抑制される。細胞塊同士の融合が抑制されることにより、細胞の培養効率の低下を抑制することができ、また、多能性幹細胞の培養においては、細胞の分化を抑制することが可能となる。本実施形態に係る細胞培養容器20においては、内壁面205の全体が非平坦構造を有し、収容空間203の全体が非平坦構造で囲まれているため、収容空間203内に収容された細胞塊同士の融合を抑制する効果が促進される。
図7(a)は、細胞培養容器20の内壁面205に形成される非平坦構造の他の例を示す平面図である。図7(b)は、図7(a)における7b−7b線に沿った断面図である。図7(c)は、図7(b)において破線で囲まれた領域Aの拡大図である。
細胞培養容器20の内壁面205に形成される非平坦構造は、図7に示すように、細胞培養容器20の内側に向けて突出した複数の凸部(ピラー)220を含んで構成されていてもよい。本実施形態において、複数の凸部220は、細胞培養容器20を構成するプラスチックフィルム自体に形成されている。本実施形態において、凸部220は、細胞培養容器20の内壁面205の全域に亘って形成されている。すなわち、内壁面205の全体が非平坦構造を有し、収容空間203の全体が非平坦構造で囲まれている。
本実施形態において、複数の凸部220は、規則配列されている。具体的には、複数の凸部220は、ハニカム状に配列されている。複数の凸部220をハニカム状に規則配列させたプラスチックフィルムは、後述する方法で製造することが可能であり、他の配列とする場合と比較して製造コストを抑えることができる。なお、複数の凸部220は、マトリックス状(格子状)に配列されていてもよい。すなわち、複数の凸部220は、列方向および列方向と直交する行方向に沿って配列されていてもよい。また、複数の凸部220の配列をランダムとすることも可能であるが、細胞培養容器20の内壁面205に形成される凸部220の密度が不均一となった場合には、培養される細胞の均質性に悪影響を与えるおそれがあることから、複数の凸部220は、規則配列されることが好ましい。
凸部220の形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態において、凸部220の各々は、凸部220の先端側に向けて徐々に幅が狭くなるテーパ形状を有している。凸部220の各々は、円柱形状または角柱形状などであってもよい。
複数の凸部220は、細胞培養容器20で培養される細胞の、内壁面205への接着を阻害する大きさおよび間隔で設けられている。複数の凸部210は、内壁面205が平坦構造を有する場合と比較して、細胞の内壁面205との接着面積が減少する大きさおよび間隔で設けられることが好ましい。すなわち、凸部220の先端部における径Dp(以下、先端径Dpと称する)および互いに隣接する凸部220間の距離P2は、培養期間中に細胞培養容器20内で形成される細胞塊Sの径Dsよりも小さい。凸部220の先端径Dpを、細胞塊Sの径Dsよりも小さくすることで、凸部220の先端部への細胞塊Sの接着を阻害することができる。また、互いに隣接する凸部220間の距離P2を細胞塊Sの径Dsよりも小さくすることで、互いに隣接する凸部220の間の領域への細胞塊Sの接着を阻害することができる。なお、凸部220の先端径Dpは、細胞培養容器20の内壁面205と平行な方向における凸部220の先端部の長さである。
上記したように、培養期間中における細胞塊Sの径Dsの想定範囲は、例えば、100μm以上400μm以下である。上記のサイズの細胞塊Sに対して、凸部220の先端径Dpを例えば、0.01μm以上10μm以下とすることができる。凸部220の先端径Dpを0.01μm以上とすることで、細胞塊Sからみた細胞培養容器20の内壁面205は、実質的な非平坦構造となり、細胞培養容器20の内壁面205への細胞塊Sの接着を阻害する機能が発揮される。一方、凸部220の先端径Dpを10μm以下とすることで、凸部220の先端への細胞塊Sの接着を阻害することができる。また、凸部220の先端径Dpの大きさを上記の範囲とすることで、後述する方法によってプラスチックフィルムの表面に非平坦構造を形成することが可能となる。
一方、互いに隣接する凸部220間の中心間距離P2を、例えば、2μm以上90μm以下とすることができる。互いに隣接する凸部220間の距離P2を、2μm以上とすることで、細胞塊Sからみた細胞培養容器20の内壁面205は、実質的な非平坦構造となり、細胞培養容器20の内壁面205への細胞塊Sの接着を阻害する機能が発揮される。一方、互いに隣接する凸部220の中心間距離P2を、90μm以下とすることで、互いに隣接する凸部220の間の領域への細胞塊Sの接着を阻害することができる。
また、互いに隣接する凸部220の中心間距離P2の変動係数は、0.1以下であることが好ましい。互いに隣接する凸部220の中心間距離P2の変動係数を小さくすることは、細胞培養容器20の内壁面205における凸部220の密度の偏りが小さくなることを意味する。互いに隣接する凸部220の中心間距離P2の変動係数を0.1以下とすることで、細胞培養容器20の内壁面205における凸部220の密度が均一化され、細胞培養容器20で培養される細胞の均質性が確保される。
図8は、ハニカム状に配列された複数の凸部220を含む非平坦構造を表面に有するプラスチックフィルムの製造方法を示す図である。複数の凸部220を表面に有するプラスチックフィルムは、上記した複数の凹部210を表面に有するプラスチックフィルムを用いて製造することが可能である。すなわち、図8に示すように、支持体300上に形成された、複数の凹部210が形成されたプラスチックフィルムを構成する塗布膜310に粘着テープ330を貼り付けた後、粘着テープ330を剥離する。これにより、塗布膜310の上層部分が除去され、互いに隣接する凹部210の間の部位が凸部220として残る。図9は、上記の方法を用いて製造された、複数の凸部を表面に有するプラスチックフィルムを走査型電子顕微鏡を用いて撮影した写真である。上記の製造方法によれば、型やマスクを使用することなく、ハニカム状に配列された均一サイズの複数の凸部220をプラスチックフィルムに形成することができ、製造コストを抑えることが可能である。
細胞培養容器20の内壁面205の非平坦構造が複数の凸部220を含んで構成される場合においても、非平坦構造が複数の凹部210を含んで構成される場合と同様、細胞塊Sと内壁面205との接触面積が小さくなる。これにより、細胞塊Sが安定的に接着し得る領域がなくなるので、細胞塊Sの内壁面205への接着が阻害される。これにより、培養期間中、細胞塊Sの形状は維持され、細胞塊同士の融合が抑制される。細胞塊同士の融合が抑制されることにより、細胞の培養効率の低下を抑制することができ、また、多能性幹細胞の培養においては、細胞の分化を抑制することが可能となる。本実施形態に係る細胞培養容器20においては、内壁面205の全体が非平坦構造を有し、収容空間203の全体が非平坦構造で囲まれているため、収容空間203内に収容された細胞塊同士の融合を抑制する効果が促進される。
なお、細胞培養容器20は、本発明における細胞培養容器の一例である。内壁面205は、本発明における内壁面の一例である。収容空間203は、本発明における収容空間の一例である。凹部210は、本発明における凹部の一例である。凸部220は、本発明における凸部の一例である。
(細胞培養実験)
細胞培養容器の内壁面を非平坦構造とすることによって得られる、細胞の内壁面への接着を阻害する効果および細胞塊同士の融合を抑制する効果を実証するために、細胞培養実験を行った。上記した非平坦構造を表面に有する複数種類のプラスチックフィルムを作成し、これらをそれぞれ市販のウェルプレートの底面に配置したものを細胞培養容器として用いて細胞の培養を行った。比較実験として、上記した非平坦構造を有するプラスチックフィルムを底面に配置しないウェルプレートを使用して細胞の培養を行った。すなわち、比較実験においては、平坦なウェルプレートの底面上で細胞の培養を行った。各実験に用いた細胞培養容器の構成の詳細および培養5日目における細胞の状態に関する評価結果を表1に示す。
実験1〜実験4に係る細胞培養容器は、図5に示すような複数の凹部を表面に有するプラスチックフィルムを市販のウェルプレートの底面に配置して構成されたものである。すなわち、実験1〜実験4では、複数の凹部を表面に有するプラスチックフィルム上で細胞の培養を行った。実験1〜実験4に係るプラスチックフィルムは、凹部の開口径Dhが互いに異なる。すなわち、実験1〜実験4に係るプラスチックフィルムに形成された凹部の開口径Dhは、それぞれ、0.8μm、1.5μm、5μmおよび35μmである。
一方、実験5に係る細胞培養容器は、図9に示すような複数の凸部を表面に有するプラスチックフィルムを市販のウェルプレートの底面に配置して構成されたものである。すなわち、実験5では、複数の凸部を表面に有するプラスチックフィルム上で細胞の培養を行った。実験5に係るプラスチックフィルムに形成された凸部の先端径Dpは、0.1μmである。なお、実験1〜実験5に係るプラスチックフィルムの材質は、ポリブタジエンである。
比較実験1および比較実験2においては、非平坦構造を有するプラスチックフィルムを使用せずに、平坦構造を有するウェルプレートの底面上で細胞の培養を行った。比較実験2においては、底面に低接着処理を施したウェルプレートを使用した。
iPS細胞(株:207B7)を、初期細胞密度2×105cells/mlとなるように無血清培地TeSR(登録商標)−E8(登録商標)(STEMCELL Technologies社、品番:ST-05940)に懸濁し、それぞれの細胞培養容器に3ml播種して、5%CO2、37℃の条件で培養を開始した。培養期間中、それぞれの細胞培養容器を静置状態に維持し、培養液の交換を毎日実施した。
表1に示される、細胞塊の細胞培養容器の底面への接着に関する評価の判定基準は、以下のとおりである。
A:細胞塊の殆どが容器底面に接着していない。
B:細胞塊の一部が容器底面に接着している。
C:細胞塊の多くが容器底面に接着している。
表1に示される、細胞塊同士の融合に関する評価の判定基準は、以下のとおりである。
A:細胞塊の殆どが他の細胞塊と融合していない。
B:細胞塊の一部が他の細胞塊と融合している。
C:細胞塊の多くが他の細胞塊と融合している。
図10(a)〜図10(e)は、それぞれ、実験1〜実験5に係る細胞培養容器を用いた場合の培養5日目における細胞の状態を示す顕微鏡写真である。図11(a)および図11(b)は、それぞれ、比較実験1および比較実験2に係る細胞培養容器を用いた場合の培養5日目における細胞の状態を示す顕微鏡写真である。
実験1〜実験5に係る細胞培養容器を使用した場合には、容器底面への細胞塊の接着は確認されなかった。また、図10(b)〜図10(d)に示すように、実験2〜実験5に係る細胞培養容器を用いた場合には、細胞塊の変形および細胞塊同士の融合は殆ど確認されなかった。一方、図10(a)に示すように、実験1に係る細胞培養容器を用いた場合には、一部の細胞塊において、細胞塊の変形および細胞塊同士の融合が確認された。
一方、比較実験1および比較実験2に係る細胞培養容器を使用した場合には、一部の細胞塊において、培養容器底面への接着が確認された。また、図11(a)および図11(b)に示すように、比較実験1および比較実験2に係る細胞培養容器を用いた場合には、多くの細胞塊において、細胞塊の変形および細胞塊同士の融合が確認された。
このように、細胞培養容器の内壁面が、細胞塊の径よりも小さい開口径Dhを有する凹部または細胞塊の径よりも小さい先端径Dpを有する凸部を含む非平坦構造を有することにより、細胞培養容器の内壁面への細胞塊の接着を阻害できることが確認され、また、細胞培養容器の内壁面に沿って広がるような細胞塊の変形および細胞塊同士の自発的な融合が抑制されることが確認された。さらに、図10(b)〜図10(d)に示されるように、細胞培養容器の内壁面を非平坦構造とすることで、細胞塊同士が近接している状態においても、細胞塊同士の融合が誘発されないことが明らかとなった。このことは、細胞培養容器の内壁面に形成された非平坦構造が、細胞塊同士の融合反応を停止または抑制するように細胞に対して直接的に作用していることを示唆するものである。
細胞塊同士の融合を抑制するために、メチルセルロース等の増粘作用をもたらす水溶性高分子を培養液中に添加する浮遊培養法が提案されている(WO2013/077423A1)。本発明の実施形態に係る細胞培養容器20によれば、増粘作用をもたらす水溶性高分子を培養液に添加することなく細胞塊同士の融合を抑制することが可能となるので、培養期間中において実施される培地交換処理等の煩雑さを緩和することができ、また、従来よりも低コストで細胞培養を行うことが可能となる。
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態に係る細胞培養容器20によれば、収容空間203内において浮遊する細胞塊同士の融合を抑制することが可能となる。これにより、細胞の壊死を抑制することができ、多能性幹細胞の培養においては、細胞の分化を抑制することができ、培養効率を従来よりも向上させることが可能となる。
なお、上記の実施形態においては、細胞培養容器20の内壁面205に形成される非平坦構造が、複数の凹部210および複数の凸部220のいずれか一方を含む場合を例示したが、この態様に限定されるものではない。細胞培養容器20の内壁面205に形成される非平坦構造が複数の凹部210および複数の凸部220の双方を含んで構成されていてもよい。
また、プラスチックフィルムを熱圧着によって貼り合せて細胞培養容器20を構成する場合には、プラスチックフィルム同士の密着性の観点から、シール部201(図1参照)の貼り合せ面は、非平坦構造を有していないことが好ましい。
また、上記の実施形態においては、非平坦構造を表面に有するプラスチックフィルムそのものを細胞培養容器として用いる場合を例示したが、この態様に限定されるものではない。例えば、非平坦構造を表面に有するプラスチックフィルムを、これとは別の支持体に貼り付けたもので細胞培養容器20を構成することも可能である。上記支持体は、例えば、プラスチック、ガラスまたは金属などで構成されていてもよい。
また、上記の実施形態においては、細胞培養容器の内壁面をプラスチック素材で構成する場合を例示したが、細胞培養容器の内壁面を、例えば、金属、ガラスまたはセラミックなどで構成してもよい。この場合、例えば、溶射、サンドブラスト加工またはエッチング加工によって非平坦構造を形成することが可能である。また、細胞培養容器の全体が、金属、ガラスまたはセラミックなどで構成されていてもよい。なお、細胞の接着を阻害する効果を高める観点から、細胞培養容器の内壁面をプラスチック素材で構成することが好ましい。また、本実施形態に係る細胞培養容器20のように、表面に非平坦構造を有するプラスチックフィルムを細胞培養容器の基材として用いることで、安価なシングルユースの細胞培養バッグとして使用することが可能である。
(細胞培養装置)
図12は、本発明の実施形態に係る細胞培養装置10の構成を示す図である。細胞培養装置10は、細胞供給部100、培地供給部110、希釈液供給部120および凍結液供給部130を備える。また、細胞培養装置10は、細胞培養容器20、貯留容器30、分割処理部40、廃液回収容器16および凍結部17を備える。
細胞培養装置10は、細胞供給部100から供給される細胞を、培地供給部110から供給される培地(培養液)とともに細胞培養容器20内に収容し、細胞培養容器20内において細胞を培地中に例えば浮遊させた状態で培養する。
<細胞供給部>
細胞供給部100は、細胞培養装置10による培養の対象となる細胞を凍結させた状態で収容する細胞収容部101と、細胞収容部101に収容された細胞を、配管c1を含んで構成される流路F3に送出するポンプP1とを有する。また、細胞供給部110は、細胞収容部101と配管c1とを接続する配管の、ポンプP1の下流側に設けられた開閉バルブV1を有する。細胞収容部101に収容された細胞は、ポンプP1が駆動され、開閉バルブV1が開状態とされることにより流路F3に送出される。
本実施形態に係る細胞培養装置10による培養の対象となる細胞は、特に制限されず、動物細胞、植物細胞、真菌細胞、細菌細胞、プロトプラスト、樹立された細胞株、人為的に遺伝子改変が施された細胞、等のあらゆる細胞が対象となり得る。
培養対象となる細胞の一例は、幹細胞である。幹細胞は、自己複製能と分化能とを有する細胞であれば特に制限されず、多能性幹細胞でもよく、体性幹細胞でもよい。
多能性幹細胞は、自己複製能と、外胚葉、中胚葉および内胚葉のいずれにも分化し得る多分化能とを有する細胞である。多能性幹細胞としては、胚性幹細胞(Embryonic Stem cell;ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cell;iPS細胞)、胚性生殖細胞(Embryonic Germ cell;EG細胞)、胚性癌細胞(Embryonal Carcinoma cell;EC細胞)、多能性成体前駆細胞(Multipotent Adult Progenitor cell;MAP細胞)、成体多能性幹細胞(Adult Pluripotent Stem cell;APS細胞)、Muse細胞(Multi-lineage differentiating Stress Enduring cell)などが挙げられる。
体性幹細胞としては、例えば、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞などが挙げられる。
培養対象となる細胞の他の例は、生体を構成する体細胞、及びその前駆細胞である。具体的には、リンパ球、好中球、単球、巨核球、マクロファージ、線維芽細胞、基底細胞、ケラチノサイト、上皮前駆細胞、周皮細胞、内皮細胞、脂肪前駆細胞、筋芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、肝実質細胞、膵β細胞、グリア細胞、等が挙げられる。
培養対象となる細胞の他の例は、CHO(chinese hamster ovary)、COS、HeLa、HepG2、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowesメラノーマ細胞等の動物細胞;ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞;酵母、アスペルギルス等の真菌細胞;大腸菌、枯草菌等の細菌細胞;植物細胞、カルス;などである。これらの細胞は、タンパク質の大量発現を目的にタンパク質発現ベクターが導入された細胞であってもよい。
なお、細胞培養容器20内に予め細胞および培地を収容した状態で細胞培養を開始する場合などにおいては、細胞培養装置10において細胞供給部100を省略することが可能である。
<培地供給部>
培地供給部110は、細胞の培養に使用する培地(培養液)を収容する培地収容部111および114と、培地収容部111および114にそれぞれ収容された培地を、流路F3に送出するポンプP2およびP3と、ポンプP2およびP3からそれぞれ送出された培地を除菌するためのフィルタ113および116とを有する。また、培地供給部110は、培地収容部111と配管c1とを接続する配管の、フィルタ113の下流側に設けられた開閉バルブV2と、培地収容部114と配管c1とを接続する配管の、フィルタ116の下流側に設けられた開閉バルブV3とを有する。このように、本実施形態に係る培地供給部110は、培地収容部111、ポンプP2、フィルタ113および開閉バルブV2を含む第1の系統と、培地収容部114、ポンプP3、フィルタ116および開閉バルブV3を含む第2の系統と、からなる2系統の培地供給機能を備えており、互いに異なる2種類の培地が供給可能である。なお、培地供給部110における系統の数は、細胞の培養プロトコル等に応じて適宜増減することが可能である。すなわち、培地供給部110を、3種類以上の培地を供給可能とする構成としてもよいし、1種類の培地を供給可能とする構成としてもよい。培地収容部111に収容された培地は、ポンプP2が駆動され、開閉バルブV2が開状態とされることにより流路F3に送出される。培地収容部114に収容された培地は、ポンプP3が駆動され、開閉バルブV3が開状態とされることにより流路F3に送出される。
本実施形態に係る細胞培養装置10による細胞培養において適用し得る培地は、特に制限されず、あらゆる培地を適用することができる。具体的には、哺乳動物細胞用の基本培地(例えば、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)、DMEM/F-12(Dulbecco's Modified Eagle Medium: Nutrient Mixture F-12)、EMEM(Eagle's minimal essential medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI 1640 Medium (Roswell Park Memorial Institute 1640 Medium)、E8 base medium、SkBM(Skeletal Muscle Cell Basal Medium)、MCDB104、MCDB153、199、L15)、市販品の幹細胞維持用培養液、昆虫細胞用の基本培地、酵母用培地、細菌用培地、等の液体培地である。
本実施形態に係る細胞培養装置10による細胞培養において適用し得る培地は、細胞を継続的に浮遊させる目的、及び/又は、細胞同士の過度の密着を防ぐ目的で、細胞毒性を有しない高分子化合物が添加されていてもよい。上記目的で培地に添加される高分子化合物は、例えば、培地の比重を調整する高分子化合物、培地の粘度を調整する高分子化合物、培地中で三次元ネットワーク構造を形成する高分子化合物である。このような高分子化合物としては、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ジェランガム、脱アシル化ジェランガム、ヒアルロン酸、アルギン酸、カラギーナン、キサンタンガム、ダイユータンガム、デンプン、ペクチン等の多糖類;コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質;ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の合成高分子;などが挙げられる。
本実施形態に係る細胞培養装置10による細胞培養に適用し得る培地は、一般に添加可能な各種の成分、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質;アスコルビン酸、レチノイン酸等のビタミン又はビタミン誘導体;グルコース等の糖源;アミノ酸;無機塩;血清、血清代替物;トランスフェリン等のタンパク質;インスリン等のホルモン;増殖因子;分化抑制因子;2−メルカプトエタノール、ジチオトレイトール等の抗酸化剤;カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン等の金属イオン;などが添加されていてもよい。
<希釈液供給部>
希釈液供給部120は、細胞の培養過程において適宜実施される希釈処理に用いられる希釈液を収容する希釈液収容部121を有する。また、希釈液供給部120は、希釈液収容部121に収容された希釈液を流路F3に送出するポンプP4と、ポンプP4から送出された希釈液を除菌するためのフィルタ123とを有する。また、希釈液供給部120は、希釈液収容部121と配管c1とを接続する配管の、フィルタ123の下流側に設けられた開閉バルブV4を有する。希釈液収容部121に収容された希釈液は、ポンプP4が駆動され、開閉バルブV4が開状態とされることにより流路F3に送出される。
本実施形態に係る細胞培養装置10による細胞培養に適用し得る希釈液は、特に制限されず、例えば、哺乳動物細胞用の基本培地(例えば、DMEM、DMEM/F-12、MEM、DME、RPMI1640、MCDB104、199、MCDB153、L15、SkBM、Basal Medium、E8 base medium)を希釈液として使用することが可能である。なお、細胞培養過程において希釈処理が不要である場合には、希釈液供給部120を省略することが可能である。
<凍結液供給部>
凍結液供給部130は、培養された細胞を凍結部17において凍結保存する場合に用いられる凍結液を収容する凍結液収容部131を有する。また、凍結液供給部130は、凍結液収容部131に収容された凍結液を、流路F3に送出するポンプP5と、ポンプP5から送出された凍結液を除菌するためのフィルタ133とを有する。また、凍結液供給部130は、凍結液収容部131、ポンプP5およびフィルタ133を接続する配管の、フィルタ133の下流側に設けられた開閉バルブV5を含む。凍結液収容部131に収容された凍結液は、ポンプP5が駆動され、開閉バルブV5が開状態となることにより流路F3に送出される。なお、培養された細胞を凍結保存する必要がない場合には、細胞培養装置10において凍結液供給部130を省略することが可能である。
<細胞培養容器>
細胞培養容器20は、細胞供給部100から供給される細胞を、培地供給部110から供給される培地とともに収容し、収容された細胞を培養するための容器である。細胞培養容器20は、上記したように、細胞を収容する収容空間203を囲む内壁面205が、複数の凹部および複数の凸部の少なくとも一方を含む非平坦構造を有する(図2、図3および図7参照)。細胞培養容器20は、細胞および培地を細胞培養容器20内に流入させるための流入口21と、細胞培養容器20に収容された細胞および培地を細胞培養容器20の外部に流出させるための流出口22と、を有する。
細胞培養容器20は、例えば、温度30℃〜40℃(好ましくは37℃)且つCO2濃度2%〜10%(好ましくは5%)に制御され且つ密閉されたインキュベータ24内に収容され得る。インキュベータ24は、細胞培養容器20内に培地とともに収容された細胞に酸素(O2)および二酸化炭素(CO2)を供給するためのガス供給機構25を備える。また、インキュベータ24は、細胞培養容器20内の圧力を調整する圧力調整機構26を備える。圧力調整機構26は、細胞培養容器20内にエアーを導入することにより細胞培養容器20内の雰囲気を加圧し、または、細胞培養容器20内の雰囲気を外部に排出することにより細胞培養容器20内の雰囲気を大気に解放する。圧力調整機構26は、細胞培養容器20内の圧力を、後述する循環流路F1内の圧力よりも高めることにより、細胞培養容器20内に収容された細胞および培地を循環流路F1内に流出させる。細胞培養容器20は、ガス供給機構25から供給される二酸化炭素を受け入れるための流通口、細胞培養容器20内におけるエアーの吸気および排気を行うための流通口が、流入口21および流出口22とは別に設けられていてもよい。
<循環流路>
細胞培養装置10は、細胞培養容器20の流出口22と流入口21とを接続する配管a1〜a7を含んで構成される循環流路F1を有する。細胞培養容器20に収容された細胞および培地は、培養過程において、循環流路F1内を循環する。循環流路F1内を流れる細胞および培地は、流入口21を経由して細胞培養容器20内へ流入し、細胞培養容器20の内部に収容された細胞および培地は、流出口22を経由して循環流路F1内に流出する。
細胞培養容器20の流入口21に接続された循環流路F1を構成する配管a7には開閉バルブV11が設けられ、細胞培養容器20の流出口22に接続された循環流路F1を構成する配管a1には開閉バルブV12が設けられている。開閉バルブV11は、循環流路F1から細胞培養容器20内に細胞および培地を流入させる場合に開状態とされ、それ以外の場合には閉状態とされる。開閉バルブV12は、細胞培養容器20内から循環流路F1内に細胞および培地を流出させる場合に開状態とされ、それ以外の場合には閉状態とされる。
細胞供給部100、培地供給部110、希釈液供給部120および凍結液供給部130に接続された配管c1によって構成される流路F3は、接続部位X3において循環流路F1に接続されている。すなわち、細胞収容部101に収容された細胞、培地収容部111および114にそれぞれ収容された培地、希釈液収容部121に収容された希釈液および凍結液収容部131に収容された凍結液は、流路F3および接続部位X3を経由して循環流路F1内に供給される。
流路F3を構成する配管c1には、接続部位X3の近傍において開閉バルブV6が設けられている。開閉バルブV6は、細胞供給部100、培地供給部110、希釈液供給部120および凍結液供給部130からそれぞれ、細胞、培地、希釈液および凍結液を循環流路F1内に供給する場合に開状態とされ、それ以外の場合は閉状態とされる。
<貯留容器>
貯留容器30は、循環流路F1内、すなわち、循環流路F1の途中に設けられている。貯留容器30は、循環流路F1内を流れる細胞、培地、希釈液および凍結液を一時的に貯留するための容器であり、培養期間中に実施される後述する継代処理、培地交換処理、分割処理および凍結処理において使用される。貯留容器30の形態は、特に限定されず、例えば、ガラス製またはステンレス製の容器、プラスチック製のバッグの形態を有する容器を使用することが可能である。
貯留容器30は、循環流路F1内を流れる細胞、培地、希釈液および凍結液を貯留容器30内に流入させるための流入口31と、貯留容器30に収容された細胞、培地、希釈液および凍結液を循環流路F1内に流出させるための流出口32を有する。貯留容器30の流入口31は、循環流路F1を構成する配管a1、a2およびa3によって細胞培養容器20の流出口22に接続されている。貯留容器30の流出口32は、循環流路F1を構成する配管a4、a5、a6およびa7によって細胞培養容器20の流入口21に接続されている。また、本実施形態においては、循環流路F1と流路F3とが接続される接続部位X3が貯留容器30の流入口31の近傍に配置されているが、循環流路F1と流路F3との接続位置は、循環流路F1内におけるあらゆる位置に配置することが可能である。
循環流路F1を構成する配管a2には、貯留容器30の流入口31の近傍において開閉バルブV13が設けられている。開閉バルブV13は、循環流路F1から貯留容器30内に細胞および培地等を流入させる場合に開状態とされ、それ以外の場合には閉状態とされる。また、循環流路F1を構成する配管a5には、貯留容器30の流出口32の近傍において開閉バルブV14が設けられている。開閉バルブV14は、貯留容器30内から循環流路F1内に細胞および培地等を細胞培養容器20、分割処理部40および凍結部17に移送する場合に開状態とされ、それ以外の場合には閉状態とされる。
貯留容器30は、貯留容器30内の圧力を調整する圧力調整機構33を備える。圧力調整機構33は、貯留容器30内にエアーを導入することにより貯留容器30内の雰囲気を加圧し、または、貯留容器30内の雰囲気を外部に排出することにより貯留容器30内の雰囲気を大気に解放する。圧力調整機構33は、貯留容器30内の圧力を循環流路F1内の圧力よりも高めることにより、貯留容器30内に貯留された細胞、培地、希釈液および凍結液を、流出口32から循環流路F1内に流出させる。
細胞培養装置10は、循環流路F1内における、貯留容器30の流出口32と細胞培養容器20の流入口21との間に位置する接続部位X1と、循環流路F1内における、貯留容器30の流入口31と細胞培養容器20の流出口22との間に位置する接続部位X2と、を接続する配管b1およびb2を含んで構成される流路F2を有する。循環流路F1内を流れる細胞および培地等は、接続部位X1を経由して流路F2内に流入することが可能である。また、流路F2内を流れる細胞および培地等は、接続部位X2を経由して循環流路F1内に流入することが可能である。
<分割処理部>
分割処理部40は、流路F2内、すなわち、流路F2の途中に設けられている。分割処理部40は、細胞培養容器20内において細胞を培養することによって生じる細胞塊を分割する分割処理を行うための処理容器42を備える。処理容器42内において行われる分割処理は、機械的分割処理であってもよいし、細胞解離酵素を用いた酵素処理であってもよい。機械的分割処理が適用される場合には、処理容器42内には、メッシュフィルタが(図示せず)配置され得る。細胞塊をメッシュフィルタに通すことで、細胞塊はメッシュフィルタのメッシュサイズに応じたサイズに分割される。一方、酵素処理による分割処理が適用される場合には、処理容器42内には、トリプシン−EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)等の細胞解離酵素が収容され得る。細胞塊を一定時間に亘り細胞解離酵素に浸漬することで、細胞塊が分割される。
分割処理部40は、循環流路F1から接続部位X1を経由して流路F2内に流入する細胞塊を処理容器42において分割する。分割処理が施された細胞は、接続部位X2を経由して循環流路F1内に流出する。
分割処理部40は、処理容器42に連通する圧力容器41と、圧力容器41および処理容器42内の圧力を調整する圧力調整機構43と、を備える。圧力調整機構43は、圧力容器41内にエアーを導入することにより圧力容器41および処理容器42内の雰囲気を加圧し、または、圧力容器41内の雰囲気を外部に排出することにより圧力容器41および処理容器42内の雰囲気を大気に解放する。圧力調整機構43は、圧力容器41および処理容器42内の圧力を循環流路F1内の圧力よりも高めることにより、分割処理が施された細胞を循環流路F1内に流出させる。
流路F2を構成する、分割処理部40の上流側に配置される配管b1には、接続部位X1の近傍において開閉バルブV21が設けられている。開閉バルブV21は、貯留容器30から分割処理部40に細胞等を移送する場合に開状態とされ、それ以外の場合には閉状態とされる。一方、流路F2を構成する、分割処理部40の下流側に配置される配管b2には、接続部位X2の近傍に開閉バルブV22が設けられている。開閉バルブV22は、分割処理部40によって分割処理が施された細胞を循環流路F1内に流出させる場合に開状態とされ、それ以外の場合には閉状態とされる。
循環流路F1を構成する配管a1には、接続部位X2の近傍であって接続部位X2の上流側に開閉バルブV15が設けられている。開閉バルブV15は、細胞培養容器20から貯留容器30に細胞および培地等を移送する場合に開状態とされ、それ以外の場合は閉状態とされる。
<廃液回収容器>
細胞培養装置10は、循環流路F1内における、貯留容器30の流出口32と細胞培養容器20の流入口21との間であって、接続部位X1よりも上流側(貯留容器30寄り)に位置する接続部位X4において、循環流路F1に接続された配管d1を含んで構成される流路F4を有する。流路F4の端部には、廃液回収容器16が設けられている。廃液回収容器16は、循環流路F1から接続部位X4を経由して流路F4内に流入する廃液を回収するための容器である。廃液回収容器16に回収される廃液には、使用済みの培地、使用済みの希釈液、細胞供給部100から凍結状態で供給される細胞に随伴する凍結液等が含まれる。廃液回収容器16の形態は、特に限定されず、例えば、ガラス製またはステンレス製の容器、プラスチック製のバッグの形態を有する容器を使用することが可能である。
流路F4を構成する配管d1には、接続部位X4の近傍において開閉バルブV31が設けられている。開閉バルブV31は、貯留容器30から流出する廃液を廃液回収容器16内に回収する場合に開状態とされ、それ以外の場合には閉状態とされる。
<凍結部>
細胞培養装置10は、接続部位X1において、循環流路F1に接続された配管e1を含んで構成される流路F5を有する。流路F5の端部には、凍結部17が設けられている。凍結部17は、循環流路F1から接続部位X1を経由して流路F5内に流入する細胞を凍結液供給部130から供給される凍結液とともに収容する保存容器17aを有する。保存容器17aは、例えば、バイアル、クライオチューブまたはバッグの形態を有するものであってもよい。凍結部17は保存容器17aに収容された細胞および凍結液を凍結させるフリーザを含んで構成され得る。また、凍結部17は、液体窒素を充填したタンクを備えていてもよく、タンク内に保存容器17aを収容し得るように構成されていてもよい。また、凍結部17は、例えば、太陽日酸社製のクライオライブラリー(登録商標)システムを含んで構成されていてもよい。流路F5を構成する配管e1には、接続部位X1の近傍において開閉バルブV41が設けられている。開閉バルブV41は、貯留容器30から凍結部17に細胞および凍結液を移送する場合に開状態とされ、それ以外の場合には閉状態とされる。なお、流路F5と循環流路F1との接続位置は、貯留容器30の流出口32と細胞培養容器20の流入口21と間であれば、いかなる位置であってもよい。また、細胞を凍結保存する必要がない場合には、凍結部17を省略することが可能である。
<制御部>
制御部18は、ポンプP1〜P5、開閉バルブV1〜V5、V11〜V16、V21、V22、V31およびV41、ガス供給機構25、圧力調整機構26、33および43の動作を統括的に制御する。これにより、所定の細胞培養プロトコルに沿った細胞の培養が、人手を介在させることなく、自動で実施される。なお、図12において、制御部18と、制御部18によって制御される上記の各構成要素との間の電気的な接続配線は、図面の煩雑さを回避する観点から図示を省略している。
<配管>
図13は、循環流路F1および流路F2〜F5を構成する各配管a1〜a7、b1、b2、c1、d1およびe1の内部構造の一例を示す断面図である。図13に示すように、配管a1〜a7、b1、b2、c1、d1およびe1の内壁面400は、細胞培養容器20の内壁面205に形成された複数の凹部210または複数の凸部220を含む非平坦構造と同様の非平坦構造を有していてもよい。すなわち、各配管a1〜a7、b1、b2、c1、d1およびe1の内壁面400には、複数の凹部または複数の凸部の少なくとも一方が、細胞培養容器20で培養される細胞の、内壁面400への接着を阻害する大きさおよび間隔で設けられていてもよい。これにより、配管a1〜a7、b1、b2、c1、d1およびe1内を流通する細胞の、内壁面400への接着が阻害され、各配管内を流通する細胞塊同士の融合が抑制される。また、細胞が配管a1〜a7、b1、b2、c1、d1およびe1内部に残留してしまうことを防止することができる。各配管a1〜a7、b1、b2、c1、d1およびe1の材質は、特に限定されるものではないが、細胞培養装置10全体をシングルユースとする場合には、各配管a1〜a7、b1、b2、c1、d1およびe1は、プラスチック等の安価な材料で構成されることが好ましい。
なお、細胞培養容器20の流入口21は、本発明における第1の流入口の一例である。細胞培養容器20の流出口22は、本発明における第1の流出口の一例である。貯留容器30は、本発明における貯留容器の一例である。貯留容器30の流入口31は、本発明における第2の流入口の一例である。貯留容器30の流出口32は、本発明における第2の流出口の一例である。循環流路F1は、本発明における第1の流路の一例である。流路F2は、本発明における第2の流路の一例である。接続部位X1は、本発明における第1の部位の一例である。接続部位X2は、本発明における第2の部位の一例である。分割処理部40は、本発明における分割処理部の一例である。培地供給部110は、本発明における培地供給部の一例である。
以下に、本実施形態に係る細胞培養装置10において実施され得る処理の一例を示す。細胞培養装置10は、例えば、以下に例示する継代処理、培地交換処理、分割処理および凍結処理を実施する。なお、以下に説明する継代処理、培地交換処理、分割処理および凍結処理は、制御部18が、開閉バルブV1〜V5、V11〜V16、V21、V22、V31およびV41、ポンプP1〜P5、圧力調整機構26、33および43の動作を制御することにより実現される。
<継代処理>
細胞培養装置10は、細胞収容部101に収容された細胞を、培地収容部111および114に収容された培地とともに細胞培養容器20内に収容して細胞培養を開始する継代処理を以下のようにして実施する。なお、以下の説明では、分割処理部40における分割処理が機械的分割処理である場合を例示する。図14は、細胞培養装置10が継代処理を実施する場合における、細胞および培地等の流れを示す図である。なお、図14において、細胞および培地等の流れと、以下に示す各処理ステップとの対応が示されている。
ステップS1において、開閉バルブV1、V4およびV6が開状態とされ、ポンプP1およびP4が駆動される。これにより、細胞収容部101において凍結状態で収容された細胞および希釈液収容部121に収容された希釈液が、流路F3および循環流路F1を経由して貯留容器30内に流入する。
ステップS2において、貯留容器30内に貯留された細胞、細胞に随伴する凍結液および希釈液を含む混合物から凍結液および希釈液を除去する濃縮処理が実施される。上記の濃縮処理は、例えば、貯留容器30内に希釈液とともに収容された細胞を、貯留容器30内において沈降させ(自然沈降)、希釈液および凍結液を含む上澄み液を除去することにより行われる。具体的には、細胞を貯留容器30内において沈降させた後、開閉バルブV14を短期間開状態とする。これにより、貯留容器30内に上澄み液を残しつつ、細胞を貯留容器30から流出させ、配管a5内に滞留させる。その後、開閉バルブV14を閉状態とし、開閉バルブV31を開状態とする。これにより貯留容器30内に残存する希釈液および凍結液を含む廃液が貯留容器30の流出口32から流出し、流路F4を経由して廃液回収容器16に回収される。なお、貯留容器30から配管a5への細胞の移送および貯留容器30から廃液回収容器16への希釈液および凍結液の移送は、圧力調整機構33によって貯留容器30内の雰囲気を加圧することによって行われる。
ステップS3において、開閉バルブV2、V3およびV6が開状態とされ、ポンプP2およびP3が駆動される。これにより、培地収容部111および114に収容された培地Aおよび培地Bが、流路F3および循環流路F1を経由して貯留容器30内に流入する。その後、開閉バルブV14が開状態とされ、培地Aおよび培地Bからなる混合培地は、貯留容器30から流出し、配管a5内に滞留している細胞と合流する。
ステップS4において、開閉バルブV14、V16およびV21が開状態とされる。また、圧力調整機構33によって貯留容器30内の雰囲気が加圧される。これにより、配管a5内に滞留する細胞および培地が接続部位X1を経由して流路F2内に流入し、分割処理部40内に流入する。分割処理部40内に流入した細胞は、処理容器42内において分割処理が施される。なお、ここでの分割処理は、凍結状態とされた細胞を破砕する目的で行われる。
ステップS5において、開閉バルブV22およびV13が開状態とされる。また、圧力調整機構43によって圧力容器41および処理容器42内の雰囲気が加圧される。これにより、分割処理が施された細胞が、培地とともに接続部位X2を経由して循環流路F1内に流出し、貯留容器30内に移送される。
ステップS6において、開閉バルブV14、V16およびV11が開状態とされる。また、圧力調整機構33によって貯留容器30内の雰囲気が加圧される。これにより、貯留容器30内に貯留された細胞および培地が、循環流路F1を経由して細胞培養容器20内に流入する。以上のステップS1〜S6の処理を経ることにより、継代処理が完了する。
なお、上記の例では、濃縮処理および新たな培地の供給を分割処理前に実施しているが、濃縮処理および新たな培地の供給を分割処理後に実施してもよい。
<培地交換処理>
細胞培養においては、細胞から分泌される代謝物などによって培地が変質する。そのため、培養期間内における適切な時期に、細胞培養容器20内における使用済みの培地を、新たな培地に交換する培地交換処理が必要とされる。本実施形態に係る細胞培養装置10は、上記の培地交換処理を、以下のようにして実施する。図15は、細胞培養装置10が培地交換処理を実施する場合における細胞および培地等の流れを示す図である。なお、図15において、細胞および培地等の流れと、以下に示す各処理ステップとの対応が示されている。
ステップS11において、開閉バルブV12、V15およびV13が開状態とされる。また、圧力調整機構26によって細胞培養容器20内の雰囲気が加圧される。これにより、細胞培養容器20内に収容された細胞および使用済みの培地が、循環流路F1内に流出し、貯留容器30内に移送される。
ステップS12において、貯留容器30内に貯留された細胞および使用済みの培地を含む混合物から使用済みの培地を除去する濃縮処理が実施される。濃縮処理は、上記した継代処理のステップS2における処理と同様の手順で行われる。濃縮処理により、使用済みの培地は廃液回収容器16内に回収され、細胞は、配管a5内に滞留する。なお、細胞の沈降を促進させるために、希釈液を貯留容器30内に導入してもよい。
ステップS13において、開閉バルブV2、V3およびV6が開状態とされ、ポンプP2およびP3が駆動される。これにより、培地収容部111および114に収容された新たな培地Aおよび新たな培地Bが、流路F3および循環流路F1を経由して貯留容器30内に流入する。その後、開閉バルブV14が開状態とされ、培地Aおよび培地Bを含む新たな培地は、貯留容器30から流出し、配管a5内に滞留している細胞と合流する。
ステップS14において、開閉バルブV14、V16およびV11が開状態とされる。また、圧力調整機構33によって貯留容器30内の雰囲気が加圧される。これにより、配管a5内に滞留する細胞および新たな培地が細胞培養容器20内に流入する。細胞培養容器20内に収容された細胞は、新たな培地によって培養される。以上のステップS11〜S14の処理を経ることにより、培地交換処理が完了する。
<分割処理(機械的分割処理)>
例えば、多能性幹細胞の培養においては、細胞を培養することによって生じる細胞塊のサイズが過大となると、細胞塊同士が接着融合し、細胞が分化を開始したり、細胞塊の中心部の細胞が壊死したりするといった問題が生じ得る。従って、細胞塊のサイズが過大となることを防止するために、培養期間中の適切な時期に、細胞塊を分割する分割処理が必要となる場合がある。本実施形態に係る細胞培養装置10は、上記の分割処理を、以下のようにして実施する。なお、以下の説明では、分割処理部40における分割処理が機械的分割処理である場合を例示する。図16は、細胞培養装置10が分割処理を実施する場合における細胞および培地等の流れを示す図である。なお、図16において、細胞および培地等の流れと、以下に示す各処理ステップとの対応が示されている。
ステップS21において、開閉バルブV12、V15およびV13が開状態とされる。また、圧力調整機構26によって細胞培養容器20内の雰囲気が加圧され、細胞培養容器20内に生じた細胞塊および使用済みの培地が、循環流路F1内に流出し、貯留容器30内に移送される
ステップS22において、貯留容器30内に貯留された細胞塊および使用済みの培地を含む混合物から使用済みの培地を除去する濃縮処理が実施される。濃縮処理は、上記した継代処理のステップS2における処理と同様の手順で行われる。濃縮処理により、使用済みの培地は廃液回収容器16内に回収され、細胞塊は、配管a5内に滞留する。なお、細胞の沈降を促進させるために、希釈液を貯留容器30内に導入してもよい。
ステップS23において、開閉バルブV2、V3およびV6が開状態とされ、ポンプP2およびP3が駆動される。これにより、培地収容部111および114に収容された新たな培地Aおよび新たな培地Bが、流路F3および循環流路F1を経由して貯留容器30内に流入する。その後、開閉バルブV14が開状態とされ、培地Aおよび培地Bを含む新たな培地は、貯留容器30から流出し、配管a5内に滞留している細胞塊と合流する。
ステップS24において、開閉バルブV14、V16およびV21が開状態とされる。また、圧力調整機構33によって貯留容器30内の雰囲気が加圧される。これにより、配管a5内に滞留する細胞塊および培地が接続部位X1を経由して流路F2内に流入し、分割処理部40内に流入する。分割処理部40内に流入した細胞は、処理容器42内において分割処理が施される。
ステップS25において、開閉バルブV22およびV13が開状態とされる。また、圧力調整機構43によって圧力容器41内および処理容器42内の雰囲気が加圧される。これにより、分割処理が施された細胞が、培地とともに接続部位X2を経由して循環流路F1内に流出し、貯留容器30内に移送される。
ステップS26において、開閉バルブV14、V16およびV11が開状態とされる。また、圧力調整機構33によって貯留容器30内の雰囲気が加圧される。これにより、貯留容器30内に貯留された分割処理が施された細胞および新たな培地が、細胞培養容器20内に流入する。細胞培養容器20内において、分割処理が施された細胞の培養が継続される。以上のステップS21〜S26の処理を経ることにより、分割処理が完了する。
なお、上記の例では、濃縮処理および新たな培地の供給を分割処理前に実施しているが、濃縮処理および新たな培地の供給を分割処理後に実施してもよい。
<分割処理(酵素処理)>
図17は、分割処理部40における分割処理が、上記した細胞解離酵素を用いた酵素処理を含む場合の、細胞培養装置10が分割処理を実施する場合における細胞および培地等の流れを示す図である。なお、図17において、細胞および培地等の流れと、以下に示す各処理ステップとの対応が示されている。
図17におけるステップS31〜S33の処理は、上記したステップS21〜S23の処理と同様であるので、重複する説明は省略する。
ステップS34において、開閉バルブV14、V16およびV21が開状態とされる。また、圧力調整機構33によって貯留容器30内の雰囲気が加圧される。これにより、配管a5内に滞留する細胞塊および培地が接続部位X1を経由して流路F2内に流入し、分割処理部40内に流入する。分割処理部40内に流入した細胞は、処理容器42内において細胞解離酵素を用いた分割処理が施される。
ステップS35において、開閉バルブV22およびV13が開状態とされる。また、圧力調整機構43によって圧力容器41および処理容器42内の雰囲気が加圧される。これにより、分割処理が施された細胞が、細胞解離酵素を含む培地とともに接続部位X2を経由して循環流路F1内に流出し、貯留容器30内に移送される。
ステップS36において、開閉バルブV4およびV6が開状態とされ、ポンプP4が駆動される。これにより、希釈液収容部121に収容された希釈液が、流路F3および循環流路F1を経由して、貯留容器30内に流入する。貯留容器30に収容された細胞および細胞解離酵素を含む培地に希釈液を添加することで、細胞解離酵素による細胞解離作用が停止される。
ステップS37において、貯留容器30内に貯留された細胞、細胞解離酵素を含む培地および希釈液を含む混合物から細胞解離酵素を含む培地および希釈液を除去する濃縮処理が実施される。濃縮処理は、上記した継代処理のステップS2における処理と同様の手順で行われる。濃縮処理により、細胞解離酵素を含む培地および希釈液は、廃液回収容器16内に回収され、細胞は、配管a5内に滞留する。
ステップS38において、開閉バルブV2、V3およびV6が開状態とされ、ポンプP2およびP3が駆動される。これにより、培地収容部111および114に収容された新たな培地Aおよび新たな培地Bが、流路F3および循環流路F1を経由して貯留容器30内に流入する。その後、開閉バルブV14が開状態とされ、培地Aおよび培地Bを含む新たな培地は、貯留容器30から流出し、配管a5内に滞留している細胞と合流する。
ステップS39において、開閉バルブV14、V16およびV11が開状態とされる。また、圧力調整機構33によって貯留容器30内の雰囲気が加圧される。これにより、配管a5内に滞留する分割処理が施された細胞および新たな培地が細胞培養容器20内に流入する。細胞培養容器20内において、分割処理が施された細胞の培養が継続される。以上のステップS31〜S39の処理を経ることにより、分割処理が完了する。
なお、上記の例では、濃縮処理および新たな培地の供給を分割処理前に実施しているが、濃縮処理および新たな培地の供給を分割処理後に実施してもよい。
<凍結処理>
培養された細胞を回収して保存する場合、細胞を保存容器内に回収して凍結保存することが一般的である。本実施形態に係る細胞培養装置10は、培養された細胞を回収して凍結させる凍結処理を、以下のようにして実施する。図18は、細胞培養装置10が凍結処理を実施する場合における細胞および培地等の流れを示す図である。なお、図18において、細胞および培地等の流れと、以下に示す各処理ステップとの対応が示されている。
ステップS41において、開閉バルブV12、V15およびV13が開状態とされる。また、圧力調整機構26によって細胞培養容器20内の雰囲気が加圧される。これにより、細胞培養容器20内に収容された細胞および使用済みの培地が循環流路F1内に流出し、貯留容器30内に移送される。
ステップS42において、貯留容器30内に貯留された細胞および使用済みの培地を含む混合物から使用済みの培地を除去する濃縮処理が実施される。濃縮処理は、上記した継代処理のステップS2における処理と同様の手順で行われる。濃縮処理により、使用済みの培地は廃液回収容器16内に回収され、細胞は、配管a5内に滞留する。なお、細胞の沈降を促進させるために、希釈液を貯留容器30内に導入してもよい。
ステップS43において、開閉バルブV5およびV6が開状態とされ、ポンプP5が駆動される。これにより、凍結液収容部131に収容された凍結液が、流路F3および循環流路F1を経由して貯留容器30内に流入する。その後、開閉バルブV14が開状態とされ、凍結液は、貯留容器30から流出し、配管a5内に滞留している細胞と合流する。
ステップS44において、開閉バルブV14、V16およびV41が開状態とされる。また、圧力調整機構33によって貯留容器30内の雰囲気が加圧される。これにより、配管a5内に滞留する細胞および凍結液が流路F5を経由して凍結部17の保存容器17a内に収容される。凍結部17は、保存容器17a内に収容された細胞を凍結液とともに凍結させる。以上のステップS41〜S44の処理を経ることにより、分割処理が完了する。
なお、細胞を凍結保存する方法として、例えば、特許第4705473号に記載の方法を適用してもよい。この方法では、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロピレングリコール、アセトアミド及び培地を所定量含む媒体中で、細胞を急速凍結させる工程、を含む。また、特許第4223961号に記載の方法を適用してもよい。この方法は、所定濃度の、ジメチルスルホキシド、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも一つを凍結保護剤として含有する凍結保存液を利用した細胞の凍結保存方法であって、細胞を凍結保存液に懸濁する工程と、所定の冷却速度で凍結保存液を−80℃以下まで冷却し凍結させる冷却工程と、凍結保存液を-80℃以下で保存する保存工程を含む。
なお、上記の継代処理、培地交換処理および分割処理においては培地供給部110から2種類の培地Aおよび培地Bを供給する場合を例示しているが、使用する培地の種類は、細胞の培養プロトコルに応じて適宜変更することが可能である。すなわち、使用する培地は、培養プロトコルに応じて1種類であってもよいし、3種類以上であってもよい。
<細胞培養処理>
細胞培養装置10は、制御部18が以下に例示する細胞培養処理プログラムを実行することにより、細胞培養を、人手を介在させることなく自動で行うことが可能である。図19は、制御部18が実行する細胞培養プログラムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS101において、制御部18は、上記の継代処理を実行することにより、細胞供給部100から供給される細胞および培地供給部110から供給される培地を細胞培養容器20内に収容し、細胞培養を開始する。
ステップS102において、制御部18は、細胞培養を開始してから所定期間経過後に、上記の培地交換処理(1回目)を実施することにより、細胞培養容器20内の使用済みの培地を、培地収容部111および114に収容された新たな培地に交換し、細胞培養を継続する。
ステップS103において、制御部18は、1回目の培地交換処理を実施してから所定期間経過後に、上記の培地交換処理(2回目)を実施することにより、細胞培養容器20内の使用済みの培地を、培地収容部111内および114内に収容された新たな培地に交換し、細胞培養を継続する。
ステップS104において、制御部18は、2回目の培地交換処理を実施してから所定期間経過後に、上記の分割処理を実施することにより、細胞塊を分割して細胞培養を継続する。
ステップS105において、制御部18は、上記のステップS102〜S104における処理を1サイクルとする培養サイクルのサイクル数が、所定数に達したか否かを判定する。制御部18は、培養サイクルのサイクル数が所定数に達していないと判定した場合には、処理をステップS102に戻す。一方、制御部18は、培養サイクルのサイクル数が所定のサイクル数に達したと判定した場合には、処理をステップS106に進める。培養サイクルの進行とともに、細胞の培養スケールは増大する。
ステップS106において、制御部18は、上記の凍結処理を実施することによって培養された細胞を凍結部17の保存容器17a内に収容して凍結保存する
なお、上記の例では、培養サイクルの1サイクル内において、培地交換処理を2回実施しているが、培養サイクルの1サイクル内における培地交換処理の実施回数は、適宜変更することが可能である。
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る細胞培養装置10は、細胞培養容器20の流入口21と流出口22とを接続する循環流路F1を有する。また、細胞培養装置10は、循環流路F1内に設けられた貯留容器30を有する。貯留容器30は、細胞培養容器20の流出口22に接続された流入口31および細胞培養容器20の流入口21に接続された流出口32を有する。貯留容器30は、上記の継代処理、培地交換処理、分割処理および凍結処理において実施される濃縮処理等の用に供される。また、細胞培養装置10は、貯留容器30の流出口32と細胞培養容器20の流入口21との間に位置する循環流路F1内の接続部位X1と、貯留容器30の流入口31と細胞培養容器20の流出口22との間に位置する循環流路F1内の接続部位X2と、を接続する流路F2を有する。細胞培養装置10は、流路F2内に設けられ、接続部位X1を経由して循環流路F1から流入する細胞塊を分割し、分割した細胞塊を、接続部位X2を経由して循環流路F1内に流出させる分割処理部40を有する。また、細胞培養装置10は、循環流路F1内に培地を供給する培地供給部110を有する。
細胞培養装置10を上記のように構成することで、培地交換処理や分割処理等の細胞培養において必要とされる一連の処理を閉鎖系において連続的に実施することが可能となる。これにより、均質な細胞の大量生産が可能となる。本実施形態に係る細胞培養装置10によれば、継代処理から凍結処理までの細胞培養に必要な一連の処理を人手を介在させることなく行うことが可能である。
また、本実施形態に係る細胞培養装置10によれば、細胞培養容器20から貯留容器30への細胞の移送、貯留容器30から分割処理部40および細胞培養容器20への細胞の移送、分割処理部40から貯留容器30への細胞の移送は、いずれも圧力調整機構26、33および43による圧送により行われる。これにより、ダイヤフラムポンプ、チューブポンプ、ペリスタリックポンプおよびモーノポンプ等の接液ポンプを用いて細胞の移送を行う場合と比較して細胞に与えるダメージを軽減することができ、細胞の生存率の低下を抑制することが可能となる。なお、本実施形態に係る細胞培養装置10は、制御部18が、開閉バルブV1〜V5、V11〜V16、V21、V22、V31およびV41、ポンプP1〜P5、圧力調整機構26、33および43の動作を制御することにより、継代処理から凍結処理までを自動化する場合を例示したが、この態様に限定されるものではない。開閉バルブV1〜V5、V11〜V16、V21、V22、V31およびV41、ポンプP1〜P5、圧力調整機構26、33および43を、ユーザが手動で操作してもよい。
また、本実施形態に係る細胞培養装置10によれば、細胞培養容器20の内壁面205が、複数の凹部および複数の凸部の少なくとも一方を含む非平坦構造を有するので、細胞培養容器20の収容空間203内において浮遊する細胞塊同士の融合を抑制することが可能となる。これにより、細胞の壊死を抑制することができ、多能性幹細胞の培養においては、細胞の分化を抑制することができ、培養効率を従来よりも向上させることが可能となる。また、循環流路F1および流路F2〜F5を構成する各配管a1〜a7、b1、b2、c1、d1およびe1の内壁面400は、細胞培養容器20の内壁面205に形成された非平坦構造と同様の非平坦構造を有するので、配管a1〜a7、b1、b2、c1、d1およびe1内を流通する細胞の、内壁面400への接着が阻害され、各配管内を流通する細胞塊同士の融合が抑制される。また、細胞が配管a1〜a7、b1、b2、c1、d1およびe1内部に残留してしまうことを防止することができる。なお、貯留容器30の内壁面においても、細胞培養容器20の内壁面205に形成された非平坦構造と同様の非平坦構造を形成してもよい。これにより、貯留容器30の内壁面への細胞の接着が阻害され、貯留容器30内に貯留された細胞塊同士の融合が抑制される。