図1には、本実施形態に係る絶縁型電力変換装置が示されている。この絶縁型電力変換装置は、直流電源10から供給される電力を調整する機能を備えた装置である。この絶縁型電力変換装置は、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車又は燃料電池自動車等の車両に搭載され、当該車両に設けられた負荷に供給される電力を調整する装置である。もちろん、この絶縁型電力変換装置は、車両以外の別の用途に用いられてもよい。
直流電源10は直流電圧を供給する電源である。直流電源10として、例えば充放電可能な電源が用いられてもよい。充放電可能な電源として、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等を用いることができる。
ここで、直流電源10の電源ラインについて、高圧側のラインを正極側ライン12と称し、低圧側のラインを負極側ライン14と称することとする。直流電源10のプラス端子に接続されているラインが正極側ライン12であり、直流電源10のマイナス端子に接続されているラインが負極側ライン14である。
絶縁型電力変換装置は、複数のスイッチング素子(スイッチング素子S1〜S6)と、複数のコンデンサ(コンデンサC1〜C3)と、複数のトランス(トランスT1〜T3)と、を含む。
絶縁型電力変換装置は、正極側ライン12と負極側ライン14との間に互いに並行に配置された複数の相アームを含む。図1に示す例では、一例として、3つの相アーム(A相アーム、B相アーム及びC相アーム)が形成されている。A相アームは、スイッチング素子S1,S2とコンデンサC1との直列接続によって構成されている。B相アームは、スイッチング素子S3,S4とコンデンサC2との直列接続によって構成されている。C相アームは、スイッチング素子S5,S6とコンデンサC3との直列接続によって構成されている。A相アームにおいて、スイッチング素子S1は、下側アームに属するスイッチング素子であって、負極側ライン14に接続された負極側スイッチング素子である。スイッチング素子S2は、上側アームに属するスイッチング素子であって、正極側ライン12に接続された正極側スイッチング素子である。正極側ライン12とスイッチング素子S2との間にはコンデンサC1が設けられている。同様に、B相アームにおいて、スイッチング素子S3は、下側アームに属するスイッチング素子であって、負極側ライン14に接続された負極側スイッチング素子である。スイッチング素子S4は、上側アームに属するスイッチング素子であって、正極側ライン12に接続された正極側スイッチング素子である。正極側ライン12とスイッチング素子S4との間にはコンデンサC2が設けられている。同様に、C相アームにおいて、スイッチング素子S5は下側アームに属するスイッチング素子であって、負極側ライン14に接続された負極側スイッチング素子である。スイッチング素子S6は、上側アームに属するスイッチング素子であって、正極側ライン12に接続された正極側スイッチング素子である。正極側ライン12とスイッチング素子S6との間にはコンデンサC3が設けられている。
スイッチング素子S1〜S6は、例えばMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子である。各スイッチング素子においては、ソースとドレインとの間(エミッタとコレクタの間)に、ソース(エミッタ側)からドレイン側(コレクタ側)に電流を流すダイオード(ダイオードD1〜D6)が配置されている。
例えば、スイッチング素子S1〜S6のそれぞれに駆動回路が設けられており、スイッチング素子S1〜S6は、図示しない制御部からの制御信号(ゲート信号)に基づいて、対応する駆動回路によってスイッチング制御(オン又はオフ制御)される。これにより、電力が変換される。なお、制御部の構成については、図2を参照して後で説明する。
コンデンサC1〜C3はスナバコンデンサである。
トランスT1は、1次側コイルL1と2次側コイルL2とによって構成されており、A相アームに属するスイッチング素子S1,S2のスイッチング動作によって生成された電力を伝達するためのトランスである。1次側コイルL1の一方端子は、正極側ライン12に接続されており、1次側コイルL1の他方端子は、A相アームにおいてスイッチング素子S1,S2の中間点に接続されている。
トランスT2は、1次側コイルL3と2次側コイルL4とによって構成されており、B相アームに属するスイッチング素子S3,S4のスイッチング動作によって生成された電力を伝達するためのトランスである。1次側コイルL3の一方端子は、正極側ライン12に接続されており、1次側コイルL3の他方端子は、B相アームにおいてスイッチング素子S3,S4の中間点に接続されている。
トランスT3は、1次側コイルL5と2次側コイルL6とによって構成されており、C相アームに属するスイッチング素子S5,S6のスイッチング動作によって生成された電力を伝達するためのトランスである。1次側コイルL5の一方端子は、正極側ライン12に接続されており、1次側コイルL5の他方端子は、C相アームにおいてスイッチング素子S5,S6の中間点に接続されている。
1次側コイルL1,L3,L5は並列に接続されており、2次側コイルL2,L4,L6は直列に接続されている。
トランスT1〜T3の2次側には、ダイオードD7,D8、リアクトルL7、及び、平滑コンデンサC4が接続されており、これらの素子によって整流平滑回路が構成されている。この整流平滑回路を経由して負荷16に対して電力が供給される。
トランスT1の2次側コイルL2の一方端子は、ダイオードD7のアノード端子に接続されている。ダイオードD7のカソード端子は、リアクトルL7の一方端子及びダイオードD8のカソード端子に接続されている。リアクトルL7の他方端子は、負荷16の一方端子及び平滑コンデンサC4の一方端子に接続されている。平滑コンデンサC4は、負荷16の両端子に接続されている。一方、トランスT1の2次側コイルL2の他方端子は、トランスT2の2次側コイルL4の一方端子に接続されている。2次側コイルL4の他方端子は、トランスT3の2次側コイルL6の一方端子に接続されている。2次側コイルL6の他方端子は、ダイオードD8のアノード端子、平滑コンデンサC4の他方端子、及び、負荷16の他方端子に接続されている。
なお、本実施形態では、一例として、3つの相アーム(A相アーム、B相アーム及びC相アーム)が形成されているが、5相以上の奇数相のアームが形成されてもよい。この場合、形成されたアームの数に対応する数のトランスが用いられる。つまり、本実施形態では、3相以上の奇数相のアームが形成されていればよい。
本実施形態では、各相に属するスイッチング素子のオン/オフ期間を制御することにより、トランスT1〜T3に形成される電圧の極性を制御する。例えば、スイッチング素子のオン/オフ期間の位相を各相間でずらすことにより、トランスT1〜T3に形成される電力の極性を制御する。そして、トランスT1〜T3のそれぞれに形成された電圧が合成され、この合成によって生成された合成電圧が2次側に印加される。この合成により、交流電圧の高周波化が可能となる。
図2には、スイッチング素子S1〜S6のスイッチング動作を制御する制御部の構成が示されている。制御部には、低電圧側の負荷16の電圧指令値(低圧負荷指令値)と負荷16の電圧値とが入力され、電圧PI制御18によって負荷16に印加される電圧が制御される。電圧PI制御18の指令値は、PI差分処理後、0〜1の値をもつキャリア波20,22,24と比較される。キャリア波22,22,24は一例として三角波である。この比較によって、スイッチング素子S1〜S6のスイッチング動作を制御するためのゲート信号(制御信号)が生成される。各ゲート信号は、個々のスイッチング素子に対応する駆動回路に供給される。これにより、個々のゲート信号に従って、スイッチング素子S1〜S6のスイッチング動作が制御される。
本実施形態では、合成電圧を高周波化するために、キャリア波20の位相を基準として、キャリア波22,24の位相がずらされる。例えば、3つの相が用いられる場合においてディーティ比(1制御周期に対するオン期間の割合)が0.5の場合、各ゲートパルス間の位相差として、60°(=180°/3)が設定される。
図3には、指令値が低い場合(デューティ比<0.5)におけるゲート信号の一例が示されている。横軸は時間である。符号26で示す期間は1制御周期に対応する。電圧PI制御18の指令値とキャリア波20,22,24とが比較され、これにより、スイッチング素子S1〜S6のスイッチング動作を制御するためのゲート信号が生成される。ゲート信号28は、スイッチング素子S1のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号30は、スイッチング素子S2のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号32は、スイッチング素子S3のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号34は、スイッチング素子S4のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号36は、スイッチング素子S5のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号38は、スイッチング素子S6のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号28〜38に従ってスイッチング素子S1〜S6が動作することにより、トランスT1〜T3には、トランス電圧(−V〜+V)が形成される。本実施形態では、キャリア波20の位相を基準として、キャリア波22,24の位相がずらされており、これにおり、各ゲート信号の位相がずれている。例えば、各ゲート信号間には、60°の位相差が設けられている。
図4には、指令値が高い場合(ディーティ比≧0.5)におけるゲート信号の一例が示されている。横軸は時間である。電圧PI制御18の指令値とキャリア波20,22,24とが比較され、これにより、ゲート信号40〜50が生成される。ゲート信号40は、スイッチング素子S1のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号42は、スイッチング素子S2のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号44は、スイッチング素子S3のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号46は、スイッチング素子S4のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号48は、スイッチング素子S5のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号50は、スイッチング素子S6のスイッチング動作を制御するための信号である。ゲート信号40〜50に従ってスイッチング素子S1〜S6が動作することにより、トランスT1〜T3には、トランス電圧(−V〜+V)が形成される。キャリア波20の位相を基準として、キャリア波22,24の位相がずらされており、これにおり、各ゲート信号の位相がずれている。例えば、各ゲート信号間には、60°の位相差が設けられている。
次に、図5を参照して、本実施形態に係る絶縁型電力変換装置の基本動作について説明する。説明を簡便にするために、A相アームにおける動作について説明する。そのため、図5の(A)〜(C)には、B相アーム及びC相アームは図示されていない。
まず、図5の(A)に示すように、下側アームに属するスイッチング素子S1をオンすると、直流電源10からの電圧がスイッチング素子S1に印加される。これにより、トランスT1の一次側に電流経路52が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT1の1次側コイルL1及びスイッチング素子S1を流れる。このとき、トランスの原理によって、トランスT1の励磁インダクタンスの電流が上昇し、トランスT1の2次側に逆起電力が発生する。これにより、2次側には電流経路54が形成される。つまり、電流が、ダイオードD7、リアクトルL7及び負荷16を流れ、リアクトルL7にエネルギーが蓄積される。このとき、負荷16の抵抗によって電流値が決まる。なお、スイッチング素子S2はオフになっている。
次に、図5の(B)に示すように、下側アームに属するスイッチング素子S1をオフし、上側アームに属するスイッチング素子S2をオンする。このとき、スイッチング素子S2には、直流電源10からの電圧が印加されていないので、スイッチング素子S2においてゼロ電圧スイッチング(ZVS)が実現される。この段階では、トランスT1の励磁インダクタンスが変化し、その変化によって、スイッチング素子S2に接続されたコンデンサC1への充電が始まり、トランスT1の励磁インダクタンスの電流が低下する。このとき、電流経路56が形成される。
次に、トランスT1の励磁インダクタンスが0(ゼロ)になると、コンデンサC1に蓄積されたエネルギーが放電される。その状態が、図5の(C)に示されている。このとき、スイッチング素子S2、コンデンサC1及び1次側コイルL1によって、循環経路が形成され、その循環経路に沿って電流経路58が形成される。つまり、電流が、スイッチング素子S2、コンデンサC1及び1次側コイルL1を流れる。このとき、2次側においてリアクトルL7に蓄積されたエネルギーが放出され、電流経路60が形成される。つまり、電流が、リアクトルL7、負荷16及びダイオードD8を流れる。このように、コンデンサC1を含む循環経路を利用することにより、2次側に電力が供給される。このとき、トランスT1の2次側に形成される電圧は、コンデンサC1に印加される電圧によって決まる。コンデンサC1は負荷16から切断されているため、流れる電流の値が小さくなる。それ故、コンデンサC1として小容量のコンデンサを用いることが可能となる。
本実施形態では、制御期間によってスイッチング素子S1,S2に印加される電圧が変化する。以下の式(1)には、スイッチング素子S1に印加される電圧Vs、スイッチング素子S2に印加される電圧Vc、及び、直流電源10の電圧Vbと指令値との比率D、の関係が示されている。
Vs=Vc+Cb
Vc+Vb=Vb/(1−D)・・・(1)
よって、Vc=(Vb/(1−D))−Vbとなる。
B相アーム及びC相アームにおける動作も、A相アームにおける動作と同じである。これら3つの相アームにおける動作によって、トランスT1の2次側に高周波の交流電圧が形成される。
以下、上記の基本動作を踏まえたうえで、本実施形態に係る絶縁型電力変換装置の動作について説明する。
図6〜図8を参照して、指令値が低い場合(ディーティ比<0.5)における動作について説明する。この場合の動作は、図3に示されている1制御周期(符号26で示す期間)において、ゲート信号28〜38に従った動作である。
図6には、スイッチング素子S1〜S6のオン/オフ状態と合成電圧の極性とが示されている。合成電圧は、トランスT1〜T3に形成された各トランス電圧の合成の電圧である。0はオフを示し、1はオンを示している。例えば、スイッチング素子S1がオン(1)であり、スイッチング素子S2がオフ(0)であり、スイッチング素子S3がオフ(0)であり、スイッチング素子S4がオン(1)であり、スイッチング素子S5がオフ(0)であり、スイッチング素子S6がオン(1)である場合、合成電圧の極性はプラス(+V)となる。このように、スイッチング素子S1〜S6のオン/オフ状態に応じて、合成電圧の極性が変わる。
図7及び図8には、電流経路が示されている。この電流経路は、ゲート信号28〜38に従ってスイッチング動作によって形成される経路である。
図7の(A)には、期間t1に形成される電流経路が示されている。期間t1においては、スイッチング素子S1,S4,S6がオンになり、スイッチング素子S2,S3,S5がオフになる。スイッチング素子S1がオンになると、電流経路62が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT1の1次側コイルL1及びスイッチング素子S1を流れる。これにより、トランスT1の2次側コイルL2には、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。また、スイッチング素子S4がオンになると、循環経路としての電流経路64が形成される。つまり、コンデンサC2に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC2、スイッチング素子S4及びトランスT2の1次側コイルL3を流れる。これにより、トランスT2の2次側コイルL4には、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。同様に、スイッチング素子S6がオンになると、循環経路としての電流経路66が形成される。つまり、コンデンサC3に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC3、スイッチング素子S6及びトランスT3の1次側コイルL5を流れる。これにより、トランスT3の2次側コイルL6には、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。そして、トランスT1〜T3に形成された電圧が合成され、これにより、2次側に合成電圧が形成される。
2次側に形成される合成電圧の値は、各相アームによって形成される電圧の値に依存する。例えば、指令値を0.1とし、直流電源10の電圧を100Vとすると、スイッチング素子S1に印加される電圧Vs1は111Vとなり、スイッチング素子S4に印加される電圧Vs4とスイッチング素子S6に印加される電圧Vs6は、共に11Vとなる。電圧Vs1が電圧Vs4,Vs6の合計よりも高いため、2次側に形成される合成電圧の極性はプラス(+)となる。この場合、2次側には電流経路68が形成される。つまり、電流が、ダイオードD7、リアクトルL7、負荷16及び2次側コイルL2,L4,L6を流れる。これにより、リアクトルL7にエネルギーが蓄積される。
図7の(B)には、期間t1の次の期間t2に形成される電流経路が示されている。期間t2においては、スイッチング素子S1がオンからオフに切り替えられ、スイッチング素子S2がオフからオンに切り替えられる。その結果、スイッチング素子S2,S4,S6がオンになり、スイッチング素子S1,S3,S5がオフになる。スイッチング素子S2には、直流電源10から電圧が印加されていないので、スイッチング素子S2においてゼロ電圧スイッチング(ZVS)が実現される。これにより、スイッチング素子S2におけるスイッチング損失の発生を防止することが可能となる。スイッチング素子S2,S4,S6がオンになると、循環経路としての電流経路70,72,74が形成される。つまり、コンデンサC1に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC1、スイッチング素子S2及びトランスT1の1次側コイルL1を流れる。これにより、トランスT1の2次側コイルL2には、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。他の相についても同様であり、トランスT2の2次側コイルL4及びトランスT3の2次側コイルL6には、それぞれマイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。そして、トランスT1〜T3に形成された電圧が合成され、これにより、2次側に合成電圧が形成される。各相の電圧の極性がマイナス(−)となるため、合成電圧の極性はマイナス(−)となる。このとき、2次側において、リアクトルL7に蓄積されたエネルギーが放出される。これにより、2次側に電流経路76が形成される。つまり、電流が、ダイオードD8、リアクトルL7及び負荷16を流れる。
図8の(A)には、期間t2の次の期間t3に形成される電流経路が示されている。期間t3においては、スイッチング素子S3がオフからオンに切り替えられ、スイッチング素子S4がオンからオフに切り替えられる。その結果、スイッチング素子S2,S3,S6がオンになり、スイッチング素子S1,S4,S5がオフになる。スイッチング素子S3には、直流電源10から電圧が印加されていないので、スイッチング素子S3においてゼロ電圧スイッチング(ZVS)が実現される。スイッチング素子S3がオンになると、電流経路78が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT2の1次側コイルL3及びスイッチング素子S3を流れる。これにより、トランスT2の2次側コイルL4には、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。また、スイッチング素子S2,S6がオンになると、循環経路としての電流経路80,82が形成される。つまり、電流が、コンデンサC1、スイッチング素子S2及びトランスT1の1次側コイルL1を流れる。これにより、トランスT1の2次側コイルL2には、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。また、電流が、コンデンサC3、スイッチング素子S6及びトランスT3の1次側コイルL5を流れる。これにより、トランスT3の2次側コイルL6には、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。上述した期間t1と同様に、2次側コイルL4に形成される電圧(プラスの電圧)が、2次側コイルL2,L6に形成される電圧(マイナスの電圧)の合計よりも高いため、2次側に形成される合成電圧の極性はプラス(+)となる。この場合、2次側に電流経路84が形成される。つまり、電流が、ダイオードD7、リアクトルL7、負荷16及び2次側コイルL2,L4,L6を流れる。これにより、リアクトルL7にエネルギーが蓄積される。
期間t3の次の期間においては、期間t2と同様に、スイッチング素子S2,S4,S6がオンになり、スイッチング素子S1,S3,S5がオフになる。これにより、2次側に形成される合成電圧の極性はマイナス(−)となる。このとき、2次側において、リアクトルL7に蓄積されたエネルギーが放出され、電流が、ダイオードD8、リアクトルL7及び負荷16を流れる。
図8の(B)には、更に次の期間t4に形成される電流経路が示されている。期間t4においては、スイッチング素子S5がオフからオンに切り替えられ、スイッチング素子S6がオンからオフに切り替えられる。その結果、スイッチング素子S2,S4,S5がオンになり、スイッチング素子S1,S3,S6がオフになる。スイッチング素子S5には、直流電源10から電圧が印加されていないので、スイッチング素子S5においてゼロ電圧スイッチング(ZVS)が実現される。スイッチング素子S5がオンになると、電流経路86が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT3の1次側コイルL5及びスイッチング素子S5を流れる。これにより、トランスT3の2次側コイルL6には、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。また、スイッチング素子S2,S4がオンになると、循環経路としての電流経路88,90が形成される。つまり、電流が、コンデンサC1、スイッチング素子S2及びトランスT1の1次側コイルL1を流れる。これにより、トランスT1の2次側コイルL2には、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。また、電流が、コンデンサC2、スイッチング素子S4及びトランスT2の1次側コイルL3を流れる。これにより、トランスT2の2次側コイルL4には、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。上述した期間t1と同様に、2次側コイルL6に形成される電圧(プラスの電圧)が、2次側コイルL2,L4に形成される電圧(マイナスの電圧)の合計よりも高いため、2次側に形成される合成電圧の極性はプラス(+)となる。この場合、2次側に電流経路92が形成される。つまり、電流が、ダイオードD7、リアクトルL7、負荷16及び2次側コイルL2,L4,L6を流れる。これにより、リアクトルL7にエネルギーが蓄積される。
期間t4の次の期間においては、期間t2と同様に、スイッチング素子S2,S4,S6がオンになり、スイッチング素子S1,S3,S5がオフになる。これにより、2次側に形成される合成電圧の極性はマイナス(−)となる。このとき、2次側において、リアクトルL7に蓄積されたエネルギーが放出され、電流が、ダイオードD7、リアクトルL7及び負荷16を流れる。そして、この期間の次に期間t1に戻り、1制御周期における動作が終了する。
次に、図9〜図11を参照して、指令値が高い場合(ディーティ比≧0.5)における動作について説明する。この場合の動作は、図4に示されている1制御周期(符号26で示す期間)において、ゲート信号40〜50に従った動作である。
図9には、スイッチング素子S1〜S6のオン/オフ状態と合成電圧の極性とが示されている。合成電圧は、トランスT1〜T3に形成された各トランス電圧の合成の電圧である。0はオフを示し、1はオンを示している。例えば、スイッチング素子S1がオン(1)であり、スイッチング素子S2がオフ(0)であり、スイッチング素子S3がオフ(0)であり、スイッチング素子S4がオン(1)であり、スイッチング素子S5がオン(1)であり、スイッチング素子S6がオフ(0)である場合、合成電圧の極性はプラス(+V)となる。このように、スイッチング素子S1〜S6のオン/オフ状態に応じて、合成電圧の極性が変わる。
図10及び図11には、電流経路が示されている。この電流経路は、ゲート信号40〜50に従ってスイッチング動作することによって形成される経路である。
図10の(A)には、期間t1に形成される電流経路が示されている。期間t1においては、スイッチング素子S1,S4,S5がオンになり、スイッチング素子S2,S3,S6がオフになる。スイッチング素子S1がオンになると、電流経路94が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT1の1次側コイルL1及びスイッチング素子S1を流れる。これにより、トランスT1の2次側コイルL2には、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。同様に、スイッチング素子S5がオンになると、電流経路96が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT3の1次側コイルL5及びスイッチング素子S5を流れる。これにより、トランスT3の2次側コイルL6には、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。また、スイッチング素子S4がオンになると、循環経路としての電流経路98が形成される。つまり、コンデンサC2に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC2、スイッチング素子S4及びトランスT2の1次側コイルL3を流れる。これにより、トランスT2の2次側コイルL4には、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。そして、トランスT1〜T3に形成された電圧が合成され、これにおり、2次側に合成電圧が形成される。
例えば、指令値を0.5とし、直流電源10の電圧を100Vとすると、スイッチング素子S1に印加される電圧Vs1とスイッチング素子S5に印加される電圧Vs5は、共に250Vとなり、スイッチング素子S4に印加される電圧Vs4は、150Vとなる。従って、2次側に形成される合成電圧の極性はプラス(+)となる。この場合、2次側には電流経路100が形成される。つまり、電流が、ダイオードD7、リアクトルL7、負荷16及び2次側コイルL2,L4,L6を流れる。これにより、リアクトルL7にエネルギーが蓄積される。
図10の(B)には、期間t1の次の期間t2に形成される電流経路が示されている。期間t2においては、スイッチング素子S5がオンからオフに切り替えられ、スイッチング素子S6がオフからオンに切り替えられる。その結果、スイッチング素子S1,S4,S6がオンになり、スイッチング素子S2,S3,S5がオフになる。スイッチング素子S6には、直流電源10から電圧が印加されていないので、スイッチング素子S6においてゼロ電圧スイッチング(ZVS)が実現される。スイッチング素子S1がオンになると、電流経路102が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT1の1次側コイルL1及びスイッチング素子S1を流れる。これにより、トランスT1の2次側コイルL2に、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。スイッチング素子S4,S6がオンになると、循環経路としての電流経路104,106が形成される。つまり、コンデンサC2に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC2、スイッチング素子S4及びトランスT2の1次側コイルL3を流れる。これにより、トランスT2の2次側コイルL4には、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。同様に、トランスT3の2次側コイルL6には、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。2次側コイルL4,L6に形成される電圧(マイナスの電圧)の合計は、2次側コイルL2に形成される電圧(プラスの電圧)よりも大きくなる。それ故、2次側に形成される合成電圧の極性はマイナス(−)となる。この場合、2次側に電流経路108が形成される。つまり、リアクトルL7に蓄積されたエネルギーが放出され、電流が、ダイオードD8、リアクトルL7及び負荷16を流れる。
図10の(C)には、期間t2の次の期間t3に形成される電流経路が示されている。期間t3においては、スイッチング素子S3がオフからオンに切り替えられ、スイッチング素子S4がオンからオフに切り替えられる。その結果、スイッチング素子S1,S3,S6がオンになり、スイッチング素子S2,S4,S5がオフになる。スイッチング素子S3には、直流電源10から電圧が印加されていないので、スイッチング素子S3においてゼロ電圧スイッチング(ZVS)が実現される。スイッチング素子S1,S3がオンになると、電流経路110,112が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT1の1次側コイルL1及びスイッチング素子S1を流れる。これにより、トランスT1の2次側コイルL2に、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。また、電流が、直流電源10、トランスT2の1次側コイルL3及びスイッチング素子S3を流れる。これにより、トランスT2の2次側コイルL4に、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。スイッチング素子S6がオンになると、循環経路としての電流経路114が形成される。つまり、コンデンサC3に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC3、スイッチング素子S6及びトランスT3の1次側コイルL5を流れる。これにより、トランスT3の2次側コイルL6に、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。2次側コイルL2,L4に形成される電圧(プラスの電圧)の合計は、2次側コイルL6に形成される電圧(マイナスの電圧)よりも大きくなる。それ故、2次側に形成される合成電圧の極性はプラス(+)となる。この場合、2次側に電流経路116が形成される。つまり、電流が、ダイオードD7、リアクトルL7、負荷16及び2次側コイルL2,L4,L6を流れる。これにより、リアクトルL7にエネルギーが蓄積される。
図11の(A)には、期間t3の次の期間t4に形成される電流経路が示されている。期間t4においては、スイッチング素子S1がオンからオフに切り替えられ、スイッチング素子S2がオフからオンに切り替えられる。その結果、スイッチング素子S2,S3,S6がオンになり、スイッチング素子S1,S4,S5がオフになる。スイッチング素子S2には、直流電源10から電圧が印加されていないので、スイッチング素子S2においてゼロ電圧スイッチング(ZVS)が実現される。スイッチング素子S3がオンになると、電流経路118が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT2の1次側コイルL3及びスイッチング素子S3を流れる。これにより、トランスT2の2次側コイルL4に、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。スイッチング素子S2,S6がオンになると、循環経路としての電流経路120,122が形成される。つまり、コンデンサC1に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC1、スイッチング素子S2及びトランスT1の1次側コイルL1を流れる。これにより、トランスT1の2次側コイルL2に、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。また、コンデンサC3に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC3、スイッチング素子S6及びトランスT3の1次側コイルL5を流れる。これにより、トランスT3の2次側コイルL6に、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。2次側コイルL2,L6に形成される電圧(マイナスの電圧)の合計は、2次側コイルL4に形成される電圧(プラスの電圧)よりも大きくなる。それ故、2次側に形成される合成電圧の極性はマイナス(−)となる。この場合、2次側に電流経路124が形成される。つまり、リアクトルL7に蓄積されたエネルギーが放出され、電流が、ダイオードD8、リアクトルL7及び負荷16を流れる。
図11の(B)には、期間t4の次の期間t5に形成される電流経路が示されている。期間t5においては、スイッチング素子S5がオフからオンに切り替えられ、スイッチング素子S6がオンからオフに切り替えられる。その結果、スイッチング素子S2,S3,S5がオンになり、スイッチング素子S1,S4,S6がオフになる。スイッチング素子S5には、直流電源10から電圧が印加されていないので、スイッチング素子S5においてゼロ電圧スイッチング(ZVS)が実現される。スイッチング素子S3、S5がオンになると、電流経路126,128が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT2の1次側コイルL3及びスイッチング素子S3を流れる。これにより、トランスT2の2次側コイルL4に、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。また、電流が、直流電源10、トランスT3の1次側コイルL5及びスイッチング素子S5を流れる。これにより、トランスT3の2次側コイルL6に、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。スイッチング素子S2がオンになると、循環経路としての電流経路130が形成される。つまり、コンデンサC1に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC1、スイッチング素子S2及びトランスT1の1次側コイルL1を流れる。これにより、トランスT1の2次側コイルL2に、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。2次側コイルL4,L6に形成される電圧(プラスの電圧)の合計は、2次側コイルL2に形成される電圧(マイナスの電圧)よりも大きくなる。それ故、2次側に形成される合成電圧の極性はプラス(+)となる。この場合、2次側に電流経路132が形成される。つまり、電流が、ダイオードD7、リアクトルL7、負荷16及び2次側コイルL2,L4,L6を流れる。これにより、リアクトルL7にエネルギーが蓄積される。
図11の(C)には、期間t5の次の期間t6に形成される電流経路が示されている。期間t6においては、スイッチング素子S3がオンからオフに切り替えられ、スイッチング素子S4がオフからオンに切り替えられる。その結果、スイッチング素子S2,S4,S5がオンになり、スイッチング素子S1,S3,S6がオフになる。スイッチング素子S4には、直流電源10から電圧が印加されていないので、スイッチング素子S4においてゼロ電圧スイッチング(ZVS)が実現される。スイッチング素子S5がオンになると、電流経路134が形成される。つまり、電流が、直流電源10、トランスT3の1次側コイルL5及びスイッチング素子S5を流れる。これにより、トランスT3の2次側コイルL6に、プラス(+)の極性をもった電圧が形成される。スイッチング素子S2,S4がオンになると、循環経路としての電流経路136,138が形成される。つまり、コンデンサC1に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC1、スイッチング素子S2及びトランスT1の1次側コイルL1を流れる。これにより、トランスT1の2次側コイルL2に、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。また、コンデンサC2に蓄積されたエネルギーが放出され、これにより、電流が、コンデンサC2、スイッチング素子S4及びトランスT2の1次側コイルL3を流れる。これにより、トランスT2の2次側コイルL4に、マイナス(−)の極性をもった電圧が形成される。2次側コイルL2,L4に形成される電圧(マイナスの電圧)の合計は、2次側コイルL6に形成される電圧(プラスの電圧)よりも大きくなる。それ故、2次側に形成される合成電圧の極性はマイナス(−)となる。この場合、2次側に電流経路140が形成される。つまり、リアクトルL7に蓄積されたエネルギーが放出され、電流が、ダイオードD8、リアクトルL7及び負荷16を流れる。そして、期間t6の次に期間t1に戻り、1制御周期における動作が終了する。
以上のように、本実施形態によると、複数の相アームからの出力電圧をトランスによって合成することにより、合成電圧の高周波化が可能となる。これにより、負荷16に接続されるフィルターの小型化が可能となる。一例として、3つの相アームからの出力電圧をトランスT1〜T3によって合成することにより、合成電圧の周波数を、各相アームからの出力電圧の周波数の3倍にすることが可能となる。換言すると、同一周波数をもつ合成電圧を単体のスイッチング素子で形成する場合と比べて、スイッチング素子S1〜S6におけるスイッチング動作の低周波化が可能となる。つまり、本実施形態では、単体のスイッチング素子によって合成電圧を形成する場合と比べて、スイッチング素子S1〜S6におけるスイッチング動作の周波数を1/3に低減することが可能となる。これにより、スイッチング素子S1〜S6にて発生するスイッチング損失を低減することが可能となる。
また、直流電源10からの電圧を利用せずに、コンデンサを含む循環経路を利用することにより、マイナス(−)の極性をもった合成電圧を形成することが可能となる。このとき、負電圧を生成するための循環経路に含まれる素子には、直流電源10から電圧が印加されない。そのため、コンデンサC1〜C3の容量を低減すること可能となる。つまり、コンデンサC1〜C3として、小容量のコンデンサを利用することが可能となる。その結果、絶縁型電力変換装置の回路構成を小型化することが可能となる。
また、負電圧を生成するための循環経路に含まれるスイッチング素子は、直流電源10から電圧が印加されていない状態でオンにされる。それ故、当該スイッチング素子においてスイッチング損失(オン損失)の発生を防止することが可能となる。これにより、スイッチング損失を低減することが可能となる。また、負電圧を形成する相アームにおいて、循環経路に含まれないスイッチング素子はオフにされており、直流電源10から電圧が印加されていない。それ故、次に当該スイッチング素子をオンするときに、当該スイッチング素子においてオン損失の発生を防止することが可能となる。