以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
実施の形態1.
まず、本発明の実施の形態1について説明する。本実施の形態1では、可動反射素子100の基本的な構成と、その動作について説明する。なお、実施の形態1から、後述する実施の形態4までの可動反射素子100は、同様の思想に基づき設計されており、同一のグループに属するものである。
(反射面、電極層を実現するD層を除く可動反射素子の構成)
図1(A)は、本実施の形態に係る可動反射素子100の主構造体(D層を除く)の上面図であり、図1(B)は、可動反射素子100の主構造体の側面図である。
図1(A)に示すように、可動反射素子100は、全体として、矩形平板状の素子であり、可動反射素子100では、その平板にスリットが形成されて、次の各部、すなわち固定枠110と、可動枠120と、鏡面部130と、アクチュエータ部140、150とが形成されている。
固定枠110は最も外周に配置された平板状の枠体である。可動枠120は、固定枠110の枠内に配置された矩形平板状の枠体である。鏡面部130は、可動枠120の枠内に配置された矩形平板状の部材である。アクチュエータ部140は、固定枠110と可動枠120とを連結する一対の部材である。また、アクチュエータ部150は、可動枠120と鏡面部130とを連結する一対の部材である。
ここで、鏡面部130の重心位置を原点OとするXYZ3次元直交座標系を規定する。このXYZ座標系では、図1(A)において、紙面左右方向をX軸とし、紙面上下方向をY軸とし、紙面垂直方向をZ軸とする。
固定枠110は、外部物体に固定される。可動枠120および鏡面部130は、外部物体には直接固定されない状態で用いられる。アクチュエータ部140は、固定枠110と可動枠120との間であって、可動枠120のX軸方向両側にそれぞれ設けられ、固定枠110と可動枠120とを連結する。また、アクチュエータ部150は、可動枠120と鏡面部130との間であって、鏡面部130のY軸方向両側にそれぞれ設けられ、可動枠120と鏡面部130とを連結する。
可動反射素子100は、図1(B)に示すように、A層100A、B層100B、C層100Cがこの順に積層された積層構造を有している。A層100Aは、実際には、3つの層(100A1、100A2、100A3)に分かれている。この3つの層については、後述する。
図2(A)には、可動反射素子100の主構造体を、XZ平面で切断した断面が示されている。図2(B)には、可動反射素子100の主構造体を、YZ平面で切断した断面が示されている。図2(A)、(B)に示すように、固定枠110は、A層110A、B層110B、C層110Cの3層構造を含んでいる。また、可動枠120は、A層120A、B層120B、C層120Cの3層構造を含んでいる。鏡面部130は、A層130A、B層130B、C層130Cの3層構造を含んでいる。アクチュエータ140は、A層140A、B層140B、C層140Cの3層構造を含んでいる。アクチュエータ150は、A層150A、B層150B、C層150Cの3層構造を含んでいる。
なお、可動反射素子100は、上述したA層130A、140A、150Aを含まないようにしてもよい。すなわち、鏡面部130、アクチュエータ部140、150が、B層130B、140B、150BとC層130C、140C、150Cとからなる2層構造であってもよい。
図2(A)、(B)に示すように、固定枠110、可動枠120の厚みに比べて、鏡面部130、アクチュエータ部140、150の厚みは小さく設定されており、鏡面部130、アクチュエータ部140、150の下方には空隙が形成されている。また、可動枠120の厚みを大きくすることによって、或いは、可動枠120のX軸に沿う辺、可動枠120のY軸に沿う辺を長くすることによって、可動枠120の駆動周波数を低くできる。
図3(A)は、可動反射素子100の主構造体の各部の機能を示す上面図であり、図3(B)は、可動反射素子100の主構造体をXZ面に沿って切断した側断面図である。図3(A)、(B)におけるハッチングは、断面を示すものではなく、各部の機能を示す。
図3(A)において、固定枠110は、水玉状のハッチングで示されている。図3(B)に示すように、固定枠110の下面は、土台基板200の上面に、スペーサ300を介して固着される。なお、固定枠110は、下面の全面ではなく、下面の一部の面が、スペーサ300を介して土台基板200の上面に固着されていればよい。
図3(A)において、可動枠120は、所定の間隔を置いた4本斜線のハッチングで示されている。図3(B)に示すように、可動枠120は、固定枠110で囲まれた空間内において、土台基板200から浮いた状態となっている。
図3(A)において、アクチュエータ部140は、かご網目状のハッチングで示されている。図3(B)に示すように、アクチュエータ部140は、固定枠110と可動枠120との間で、土台基板200から浮いた状態となっている。可動枠120は、アクチュエータ部140を介して固定枠110によって支持されている。アクチュエータ部140は、少なくとも上下方向(Z軸方向)に関して可撓性を有しており、上方に反ったり、下方に反ったりすることができる。これにより、アクチュエータ部140は、所定の自由度の範囲内で、固定枠110に対して可動枠120を変位させることができる。
図3(A)において、鏡面部130は、等間隔斜線のハッチングで示されている。この鏡面部130の上面には、後述するように+Z側に反射面(図示しないD層100D)が形成され、入射した光、電磁波等のビームを反射する。
図3(A)において、アクチュエータ部150は、かご網目状のハッチングで示されている。アクチュエータ部150は、可動枠120と鏡面部130との間で、土台基板200から浮いた状態となっている。鏡面部130は、アクチュエータ部150を介して可動枠120によって支持されている。アクチュエータ部150は、少なくとも上下方向(Z軸方向)に関して可撓性を有しており、上方に反ったり、下方に反ったりすることができる。このため、アクチュエータ部150は、所定の自由度の範囲内で、可動枠120に対して鏡面部130を変位させることができる。
続いて、可動反射素子100の全体構成について説明する。図4(A)は、この実施の形態に係る可動反射素子100の主構造体の上面図であり、図4(B)は、可動反射素子100の主構造体をXZ平面に沿って切断した側断面図である。図4(A)、(B)に示す可動反射素子100では、図1(A)、(B)に示す可動反射素子100の上面に、図示しないD層100Dが付加されている。
上述のように、A層100A、B層100B、C層100Cの3層は、互いに同一の平面形状(図1(A)の上面図に示す形状)を有しているが、D層100Dの平面形状はA層100A、B層100B、C層100Cとは異なっている。図4(A)では、このD層100Dの部分(具体的には、140D、150D、160D、170Dの部分)にハッチングが施されている。図4(A)におけるハッチングは、D層の平面形状パターンを示すものであり、断面を示すためのものではない。
D層100Dは、アクチュエータ140に形成された上部電極層140Dと、アクチュエータ150に形成された上部電極層150Dと、鏡面部130に形成された反射層130Dと、検出用電極160D、170Dとを含む。固定枠110及び可動枠120には、配線を除き、D層は形成されていない。ただし、図4(A)に示す固定枠110及び可動枠120においては、配線の図示を省略している。上部電極層140D、150Dは、圧電素子の電極を形成し、反射層130Dは、鏡面部130の反射面を形成する。それ以外の部分には、D層を形成する必要はない。
固定枠110には、前述の通り、配線として機能するD層が形成される。しかし、上部電極層140D、150Dは、それぞれ別個の圧電素子を形成するために電気的に絶縁されている必要があるので、C層の上面全面に、同一の平面形状を有するD層を形成するのは望ましくない。
次に、可動反射素子100を構成するA層100A、B層100B、C層100C、D層100Dの材質について説明する。まず、A層100Aは、他の各層の支持基板となる基板層であり、その上面に形成されるB層100B、C層100C、D層100Dを支持することができる材質によって形成されている。ただし、アクチュエータ部140、150は、少なくとも上下方向(Z軸方向)に関して可撓性を有している必要がある。すなわち、基板層としてのA層100Aは、各アクチュエータ部140、150が必要な範囲内(鏡面部130を、要求される角度で傾斜させるために必要な範囲内)で撓みを生じることができるよう、ある程度の可撓性を有する材料によって形成される。この実施の形態では、シリコン基板によってA層100Aが構成されている。より具体的には、図1(B)に示すように、A層100Aは、シリコンからなる支持層100A1と、支持層100A1の上に形成された二酸化シリコンのBOX層(二酸化ケイ素絶縁膜)100A2と、BOX層100A2の上に形成されたシリコンからなる活性層100A3の3層構造となっている。
なお、A層100Aは、BOX層100A2を含まず、支持層100A1と活性層100A3とからなる2層構造であってもよい。即ち、A層100Aは、単一のシリコン基板でもよい。
B層100Bは、圧電素子の下部電極を構成する。D層100Dは、圧電素子の上部電極を構成する。したがって、いずれも導電性材料によって形成される。
C層100Cは、圧電素子を構成し、圧電効果を呈する圧電材料によって構成される。例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)またはKNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)の薄膜によってC層100Cが形成されている。本実施の形態では、圧電材料層(C層100C)を導電性材料層(B層100B及びD層100D)で挟んだサンドイッチ構造体によって圧電素子が構成される。
なお、D層100Dのうち、各アクチュエータ部140、150に形成される部分140D、150Dは、上述のように、圧電素子用の上部電極層を構成することになる。しかし、鏡面部130に形成されるD層130Dは、鏡面部130の反射面として機能する。したがって、アクチュエータ部140、150の上部電極層140D、150Dは、導電性の層であればよく、表面が反射性である必要はない。また、鏡面部130に形成されるD層130Dは、表面が反射性を有していればよく、導電性の層である必要はない。
ただし、可動反射素子100を量産する場合は、上部電極層140D、150D及び反射層130Dを、同一の材料からなるD層100Dとして形成する。この場合、D層100Dの材料としては、電極層の機能と反射層の機能とを兼ね備えた材料が用いられる。
より具体的に言えば、D層100Dは、上面が反射面(鏡面)としての機能も果たす必要があるため、D層100Dの上面部分を、反射率の高い耐腐食性に優れた材料、例えば金(Au)の薄膜層によって構成するのが望ましい。金(Au)の薄膜層は、光や電磁波に対して良好な反射率を有しており、しかも耐腐食性に優れているため、長期間にわたって安定した反射性能を維持することができる。なお、B層100Bは、下部電極(導電層)としての機能を果たせばよいので、任意の金属層で十分である。
図4(B)に示す可動反射素子100は、量産化に適した構造を有している。特に、可動反射素子100の製造には、半導体製造プロセスを利用したMEMS素子の製造方法を適用することが可能である。図4(B)に示す可動反射素子100は、シリコン基板100A(A層:基板層)の上面に、白金層100B(B層:下部電極層)、PZT層100C(C層:圧電材料層)、白金/金層100D(D層:下層部分は白金、上層部分は金からなる2層構造層)を順次堆積させて構成されている。上部電極層及び下部電極層として白金を用いるのは、圧電材料層となるPZT層との間に良好な界面を形成できるためである。一方、反射層としては、上述したように金を用いるのが好ましいので、D層の下層部分は上部電極層に適した白金を用い、上層部分は反射層に適した金を用いることとする。
4層の積層構造体を形成したら、D層100Dに対してパターニング処理を行って図4(A)に示すハッチングが施された領域のみを残し、更に、A層、B層、C層の3層からなる主構造体の部分に対して、エッチングなどの方法で上下方向に貫通するスリットを形成する。また、アクチュエータ部140、150や鏡面部130の下面側の一部分をエッチング等で除去すれば、図4(B)に示すように、アクチュエータ部140、150や鏡面部130が、土台基板200から浮いた構造を実現できる。
反射可動素子100の各部の寸法の一例について説明する。A層100Aは、一辺5mm角、厚み0.3mmのシリコン基板である。B層100Bは、厚み300nm程度の白金の薄膜層である。また、C層100Cは、厚み2μm程度のPZT層である。D層100Dは、厚み300nm程度の白金/金の薄膜層である。ここで、アクチュエータ部140、150や鏡面部130については、シリコン基板100A(A層)の下面側をエッチング除去して、厚みを0.10mmとしている。これにより、土台基板200の上面との間に、0.20mmの空隙が形成される。また、図4(A)に示す平面図において、固定枠110と可動枠120、固定枠110とアクチュエータ部140、可動枠120とアクチュエータ部150の間のスリットの幅を0.3mmとし、アクチュエータ部140、150の幅を0.5mmとしている。
各部の寸法は任意に変更することができる。アクチュエータ部140、150の厚みや幅、長さは、鏡面部130が所定の角度範囲(可動鏡として要求される性能を満たす範囲)で傾斜できるような可撓性が得られる寸法に変更すればよい。また、固定枠110の厚みは、この可動反射素子100を土台基板200に堅固に固着できる寸法に設定すればよい。
(アクチュエータ部の動作)
次に、アクチュエータ部140、150の動作について説明する。図4(B)に示すように、アクチュエータ部140には、A層(基板層)140A、B層(下部電極層)140B、C層(圧電材料層)140C、D層(上部電極層)140Dが形成されている。A層(基板層)140Aを「アクチュエータ本体部140A」と呼ぶ。また、B層(下部電極層)140B、C層(圧電材料層)140C、D層(上部電極層)140Dの3層構造部分を「圧電素子(140A、140B、140C)」と呼ぶ。このようにすれば、アクチュエータ部140は、可撓性を有するアクチュエータ本体部140Aと、このアクチュエータ本体部140Aの上面に固着された圧電素子(140B、140C、140D)とによって構成されているとみなすことができる。
同様に、アクチュエータ部150には、図2(B)、図4(A)に示すように、A層(基板層)150A、B層(下部電極層)150B、C層(圧電材料層)150C、D層(上部電極層)150Dが形成されている。A層(基板層)150Aの部分を「アクチュエータ本体部150A」と呼ぶ。また、B層(下部電極層)150B、C層(圧電材料層)150C、D層(上部電極層)150Dの3層構造部分を「圧電素子」と呼ぶ。このようにすれば、アクチュエータ部150は、可撓性を有するアクチュエータ本体部150Aと、このアクチュエータ本体部150Aの上面に固着された圧電素子(150B、150C、150D)と、によって構成されているとみなすことができる。
図5(A)、(B)、(C)は、アクチュエータ部140の動作を示す断面図である。図5(A)に示すように、A層140Aは、シリコン基板等からなるアクチュエータ本体部であり、B層140B、C層140C、D層140Dからなる3層構造体が圧電素子である。C層(圧電材料層)140Cは、厚み方向に所定極性の電圧を印加すると、長手方向(厚み方向に直交する方向)に伸縮する性質を有する。
D層(上部電極層)140D側が正、B層(下部電極層)140B側が負となるように、両電極層間に電圧を印加すると、C層(圧電材料層)140Cは長手方向(厚み方向に直交する方向)に伸びる。逆に、D層(上部電極層)140D側が負、B層(下部電極層)140B側が正となるように、両電極層間に電圧を印加すると、C層(圧電材料層)140Cは長手方向に縮む性質をもっている。伸縮の度合いは、印加する電圧値に応じた量になる。
したがって、図5(B)に示すように、D層(上部電極層)140Dが正で、B層(下部電極層)140Bが負となる極性(以下、正極性と呼ぶ)の電圧を印加すると、B層140B、C層140C、D層140Dの3層からなる圧電素子は長手方向に伸び、可撓性を有するA層140Aの上面側に、面方向(Y軸に沿った方向)に伸びる方向への応力が加わる。その結果、アクチュエータ部140は、上方が凸になるように反り返る。
これに対して、図5(C)に示すように、D層(上部電極層)140Dが負で、B層(下部電極層)140Bが正となる極性(以下、逆極性と呼ぶ)の電圧を印加すると、B層、C層、D層の3層からなる圧電素子は長手方向に縮み、可撓性を有するA層140Aの上面側に、面方向に縮む方向への応力が加わる。その結果、アクチュエータ部140は、下方が凸になるように反り返る。
もちろん、D層(上部電極層)140D側が正、B層(下部電極層)140B側が負となるように、両電極層間に電圧を印加すると、C層(圧電材料層)140Cが長手方向に縮む一方で、D層(上部電極層)140D側が負、B層(下部電極層)140B側が正となるように、両電極層間に電圧を印加すると、長手方向に伸びる性質を有するようなC層140Cを用いても構わない。この場合、正極性の電圧を印加すると、下方が凸になるように反り返り、負極性の電圧を印加すると、上方が凸になるように反り返る。
いずれにしても、D層(上部電極層)140DとB層(下部電極層)140Bとの間に、所定極性の電圧を印加することにより、図5(B)又は図5(C)に示す変形を生じさせることができる。変形の度合いは、印加する電圧値に応じた量になる。なお、圧電素子を構成する材料によって(例えば、バルク、薄膜によって)、分極作用が異なるので、電圧の極性と伸縮の関係とが上述とは逆になる場合がある。
上述の動作は、アクチュエータ部150についても同様である。
図4(A)に戻り、図示しないD層100Dのうち、検出用電極160Dは、アクチュエータ部140の変位を検出するために設けられている。検出用電極160Dは、アクチュエータ部140の幅よりも幅が狭くなるように形成されている。また、検出用電極170Dは、アクチュエータ部150の変位を検出するために設けられている。検出用電極170Dの幅は、アクチュエータ部150よりも狭くなるように形成されている。なお、検出用電極160D、170Dの少なくとも一方の幅が、それぞれのアクチュエータの幅よりも狭くなっていればよい。
検出用電極160Dは、アクチュエータ部140と固定枠110とが接続する部分に設けられ、検出用電極170Dは、アクチュエータ部150と可動枠120とが接続する部分に設けられている。これらの部分は、アクチュエータ部140、150の変形が大きくなる場所である。したがって、これらの場所に検出用電極160D、170Dを配設することにより、アクチュエータ部140、150の変位を安定して検出することができる。
図4(A)に示すように、鏡面部130は、固定枠110に対して、アクチュエータ部140、可動枠120、アクチュエータ部150を介して接続されており、アクチュエータ部140、150によって、土台基板200から浮いた宙吊り状態で支持されている。したがって、アクチュエータ部140が上方もしくは下方に反り返ると、宙吊り状態で支持されている鏡面部130は、可動枠120とともに、X軸周り、すなわちY軸方向に傾斜する。また、アクチュエータ部150が上方もしくは下方に反り返ると、宙吊り状態で支持されている鏡面部130は、Y軸周り、すなわちX軸方向に傾斜する。
図6(A)、(B)、(C)は、図4(A)、(B)に示す可動反射素子100における可動枠120のY軸方向への傾斜状態(X軸周りの回転状態)を示す側面図である。図6(A)〜図6(C)では、可動枠120を太線で示し、固定状態にある土台基板200にハッチングを施して示す。また、アクチュエータ部140の変形状態は、実際よりも誇張して示されている。
図6(A)には、傾斜が生じていない定位置の状態、すなわち、各圧電素子に何ら電圧が印加されていない状態における、アクチュエータ部140と可動枠120との位置関係が示されている。土台基板200上に固定された固定枠110から可動枠120に向かってアクチュエータ部140が延びている。可動枠120は、アクチュエータ部140を介して、土台基板200の上方に水平姿勢のまま支持されている。白い三角形は、可動枠120(鏡面部130)の重心Gを示す。重心Gは、座標系の原点Oと一致している。
図6(B)は、アクチュエータ部140の圧電素子に、正極性の電圧(図5(B)参照)を印加することにより、アクチュエータ部140に対して上方が凸になるような変形を生じさせた状態が示されている。アクチュエータ部140は、−Y側で固定枠110に固定されているため、上方が凸になるような変形が生じると、+Y側が下がる方向に変位する。その結果、−Y端より先に接続されているすべての構成要素が、X軸周りに回転し、鏡面部130は、X軸周りの回転−Rxを生じる。なお、ここでは、X軸周りの正方向に右ネジを進める回転方向を正にとるため、この場合の回転方向は負方向になる。この回転時に、可動枠120、鏡面部130の重心Gは下方に移動する。
一方、図6(C)は、アクチュエータ部140の圧電素子に、負極性の電圧(図5(C)参照)を印加することにより、アクチュエータ部140に対して下方が凸になるような変形を生じさせた状態が示されている。アクチュエータ部140は、−Y端が固定枠110に固定されているため、下方が凸になるような変形が生じると、その+Y端が上がる方向に変位する。その結果、+Y端より先に接続されているすべての構成要素が、X軸周りに回転し、可動枠120は、図示のとおり、X軸周りの回転+Rxを生じる。このため、可動枠120、鏡面部130の重心Gは上方に移動する。
このように、アクチュエータ部140の圧電素子を構成するB層(下部電極層)140BとD層(上部電極層)140Dとの間に、D層(上部電極層)140D側が正となるような極性の電圧を印加すると、図6(B)に示すように、可動枠120を、その+Y側が下がるようにY軸方向に傾斜させることができ、逆極性の電圧を印加すると、図6(C)に示すように、可動枠120を、その−Y側が下がるようにY軸方向に傾斜させることができる。傾斜の度合いは、印加する電圧値に応じた量になる。したがって、印加する電圧の極性および値を調整すれば、可動枠120、鏡面部130のY軸方向への傾斜角度を任意に調整することが可能である。
図7(A)、(B)、(C)は、可動反射素子100における鏡面部130のX軸方向への傾斜状態(Y軸周りの回転状態)を示す側面図である。図7(A)、(B)、(C)では、鏡面部130が太線で示されている。また、変形状態が、実際よりも誇張して示されている。
図7(A)は、傾斜が生じていない定位置の状態、すなわち、圧電素子に何ら電圧が印加されていない状態における、アクチュエータ部150と鏡面部130との位置関係を示す。アクチュエータ部150の−X端は、可動枠120に接続されており、土台基板200によって間接的に支持されている。鏡面部130は、アクチュエータ部150の+X端に接続されている。図7(A)では、鏡面部130は、可動枠120に水平姿勢のまま支持されている。白い三角形は、鏡面部130の重心Gを示す。重心Gは、座標系の原点Oと一致している。
これに対して、図7(B)は、アクチュエータ部150の圧電素子に、図5(B)に示すような正極性の電圧を印加することにより、アクチュエータ部150に対して上方が凸になるような変形を生じさせた状態を示している。アクチュエータ部150は、可動枠120に支持されているため、上方が凸になるような変形が生じると、その+X端が下がる方向に変位する。その結果、アクチュエータ部150の+X端に接続されている鏡面部130は、Y軸周りに回転し、Y軸周りの回転+Ry(Y軸に対して右ねじの回転方向が正)を生じる。このため、重心Gは下方に移動する。
一方、図7(C)は、アクチュエータ部150の圧電素子に、図5(C)に示すような負極性の電圧を印加することにより、アクチュエータ部150に対して下方が凸になるような変形を生じさせた状態を示す。アクチュエータ部150は、可動枠120に支持されているため、下方が凸になるような変形が生じると、その+X端が上がる方向に変位する。その結果、アクチュエータ部150の+X端に接続されている鏡面部130は、Y軸周りに回転し、Y軸周りの回転−Ryを生じる。このため重心Gは上方に移動する。
このように、アクチュエータ部150の圧電素子を構成するB層(下部電極層)150BとD層(上部電極層)150Dとの間に、D層(上部電極層)150D側が正となるような極性の電圧を印加すると、図7(B)に示すように、鏡面部130を、その+X端が下がるように傾斜させることができる。一方、逆極性の電圧を印加すると、図7(C)に示すように、鏡面部130を、+X側が上がるように傾斜させることができる。傾斜の度合いは、印加する電圧値に応じた量になる。したがって、印加する電圧の極性および値を調整すれば、鏡面部130のX軸方向への傾斜角度を任意に調整することが可能である。
なお、例えば、アクチュエータ部140では上面に圧電素子を設け、アクチュエータ部150では下面に圧電素子を設ける、というように、圧電素子の配置を逆にすることも可能である。また、各アクチュエータ部140、150について、各アクチュエータ本体部140A、150Aの上下両面に圧電素子を形成してもかまわない。ただし、実用上は、各アクチュエータ本体部140A、150Aの上面に各圧電素子を形成するのが、製造プロセスを単純化する上で好ましい。
この実施の形態に係る可動反射素子100は、反射面を有する鏡面部130が、可撓性をもったアクチュエータ部150を介して可動枠120に接続され、可動枠120が、アクチュエータ部140を介して固定枠110に接続される。このようにすると、従来のジンバル構造による支持手法に比べて、単純な構造でありながら、十分な変位角を確保することが可能になる。ジンバル構造を機械的な回動機構によって実現すると、部品の点数が増え、構造が複雑にならざるを得ない。また、ジンバル構造を、トーションバーを用いて実現すると、構造は単純化されるが、最大変位角はトーションバーの最大捻れ角度の範囲内に抑えられてしまい、十分な変位角を確保することが困難になる。本実施の形態では、アクチュエータ部140、150によって鏡面部130を支持するため、単純な構造でありながら、十分な変位角を確保することができる。
図4(B)に示す構造を有する可動反射素子100は、MEMS素子として、半導体製造プロセスを利用した製造方法により量産することができ、小型化に適している。また、駆動を行うための素子として圧電素子を用いているため、低消費電流化に適している。
また、可動反射素子100は、Y軸に沿って延びたアクチュエータ部140と、X軸に沿って延びたアクチュエータ部150と、を有しており、その上面もしくは下面には、それぞれ所定極性の電圧を印加することにより長手方向に沿って伸縮する圧電素子が固着されている。そのため、アクチュエータ部140の圧電素子に電圧を印加して、圧電素子を伸縮させれば、図6(B)、(C)に示すように、鏡面部130をY軸方向に傾斜させる(X軸周りに回転させる)ことができ、アクチュエータ部150の圧電素子に電圧を印加して、伸縮させれば、図7(B)、(C)に示すように、鏡面部130をX軸方向に傾斜させる(Y軸周りに回転させる)ことができる。このため、X軸およびY軸の2軸方向(2軸周り)に関して、二次元走査装置を実現するために十分な変位角を確保することが可能になる。
なお、この実施の形態では、固定枠110に、アクチュエータ部140、可動枠120、アクチュエータ部150及び鏡面部130を配置した構造を採用している。しかしながら、固定枠110を枠体によって構成する必要はなく、例えば、アクチュエータ部140の一端を固定できれば枠状でなくてもよい。
ただし、アクチュエータ部140、150及び鏡面部130は、変位を生じる可動構成要素であるため、外部物体と接触することは避けた方がよい。この点、固定枠110のように枠状であれば、可動構成要素を内部に囲い込むことができるので、可動構成要素を外部物体との接触から保護できる。
また、固定枠110、可動枠120および鏡面部130については、矩形状に限られるものではなく、例えば楕円状、多角形状であってもよい。
また、この実施の形態では、固定枠110を支持する土台基板200が設けられている。このように、土台基板200を設け、固定枠110の下面を土台基板200の上面に固定すれば、アクチュエータ部140、可動枠120、アクチュエータ部150および鏡面部130が、この土台基板200の上方に浮いた状態になり、土台基板200の上方に確保された空隙の大きさによって定まる自由度の範囲内で鏡面部130を傾斜させることができる。また、鏡面部130に過剰な変位が生じることを防ぐことができるので、アクチュエータ部140、150に過度な撓みが生じ、破損してしまうことを防止することができる。また、この実施の形態では、固定枠110の厚みに比べて、アクチュエータ部140、アクチュエータ部150、鏡面部130の厚みを小さくすることにより、宙吊り構造を実現しているが、これら各部の厚みを同一にし、固定枠110の下面に、いわゆるスペーサ300を履かせることにより宙吊り構造を実現するようにしてもよい。
以上説明した本実施の形態1の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140のY軸方向に沿った部分の長さは、固定枠110の内辺からY軸方向に沿った可動枠120の外辺の中点までの距離よりも長くなっている。このようにすれば、アクチュエータ部150の長さに対するアクチュエータ部140の長さの比をさらに大きくすることができる。これにより、可動枠120の駆動周波数と鏡面部130の駆動周波数との比率を所望の値にできる。また、アクチュエータ部140、150を例えば何重にも折り返すことなく、鏡面部130を実用上十分な範囲で揺動させることができる。よって、本実施の形態1の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
なお、土台基板200を、可動反射素子100の装置筐体とすれば、土台基板200は、可動反射素子100の製品自体に組み込まれた一部品ということになる。これに対して、可動反射素子100の製品自体としては、土台基板200を含まない形態を採ることも可能である。この場合、この可動反射素子を部品として実装する何らかの装置の実装面の構造体が、土台基板200として機能するようになる。
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
上述した実施の形態1では、アクチュエータ部140が直線状であったが、本実施の形態2では、アクチュエータ部140が略L字状となっている。このように構成することで、アクチュエータ部140のY軸方向に沿った部分の長さをより長くできる。
図8(A)に示すように、アクチュエータ部140は、X軸方向に沿って可動枠120の両側に配置された一対の部材である。アクチュエータ部140は、アーム部340A(第8のアーム部)、340B(第9のアーム部)を備える。
アーム部340Aは、一端が固定枠110の内辺に接続している。アーム部340Aは、固定枠110と可動枠120との隙間をY軸方向に沿って、一端から可動枠120の外辺の中点を超えて、すなわち、X軸を超えて、直線状に延びている。アクチュエータ部140のアーム部340Bは、アーム部340Aの他端から、折り返しなくX軸に沿って延び、可動枠120の外辺の中点(Y軸上の点)を避けて、可動枠120の角部と接続している。
アクチュエータ部150は、一端が可動枠120の内辺に接続し、可動枠120と鏡面部130との隙間をX軸方向に沿って、一端から鏡面部130の外辺の中点を超えて、すなわち、Y軸を超えて、直線状に延びたアーム部(第10のアーム部)を有している。アクチュエータ部150は、アーム部の他端から、折り返しなくX軸方向に延び、鏡面部130の外辺の中点を避けて鏡面部130の角部と接続している。
図8(A)に示す、アクチュエータ部140のアーム部340Aには、図9(A)、(B)に示すように、圧電素子(140B、140C、140D)が形成されている。この圧電素子に正極性、負極性の電圧が印加されることにより、図5(B)、(C)に示すように、アーム部340Aが上側又は下側に反り曲がる。これにより、図6(A)、(B)及び(C)に示す動作と同様に、可動枠120及び鏡面部130がX軸周りに揺動する。
アクチュエータ部150についても、図9(A)、(B)に示すように、圧電素子(150B、150C、150D)が形成されている。この圧電素子に正極性、負極性の電圧が印加されることにより、図5(B)、(C)に示すように、アーム部が上側又は下側に反り曲がる。これにより、図7(A)、(B)及び(C)に示す動作と同様に、鏡面部130がY軸周りに駆動される。
以上説明した本実施の形態2の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140のY軸方向に沿った部分の長さは、固定枠110の内辺からY軸方向に沿った可動枠120の外辺の中点までの距離よりも長くなっている。このようにすれば、アクチュエータ部150の長さに対するアクチュエータ部140の長さの比をさらに大きくすることができる。これにより、可動枠120の駆動周波数と鏡面部130の駆動周波数との比率を所望の値にできる。また、アクチュエータ部140、150を例えば何重にも折り返すことなく、鏡面部130を実用上十分な範囲で揺動させることができる。よって、本実施の形態2の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態3では、アクチュエータ部150の構成が、略L字状となっている点が、実施の形態1と異なっている。
図10(A)、(B)に示すように、アクチュエータ部150は、アーム部350A(第10のアーム部)、350B(第11のアーム部)を備える。アーム部350Aは、可動枠120の内辺に接続している。アーム部350Aは、可動枠120と鏡面部130との隙間をX軸方向に沿って、一端から鏡面部130の外辺の中点を超えて直線状に延びている。
アーム部350Bは、アーム部350Aの他端から、可動枠120と鏡面部130との隙間をY軸方向に沿って延び、Y軸方向に沿った可動枠120の外辺の中点を超えて鏡面部130の角部と接続している。
図10(A)、図11(B)に示すように、アーム部350Aには、圧電素子(150B、150C、150D)が形成されている。この圧電素子に正極性、負極性の電圧が印加されることにより、図5(B)及び(C)に示すように、アーム部350Aが上側又は下側に反り曲がる。これにより、図7(A)、(B)及び(C)に示す動作と同様に、鏡面部130がY軸周りに揺動する。
以上説明したように、本実施の形態によれば、アクチュエータ部150の長さも、可動枠120の内辺から鏡面部130の外辺の中点までの距離に制限されなくなる。これにより、可動枠120の駆動周波数と鏡面部130の駆動周波数との比率を所望の値に設定することが可能となる。また、アクチュエータ部140、150を例えば何重にも折り返すことなく、鏡面部130を実用上十分な範囲で揺動させることができる。よって、本実施の形態3の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
実施の形態4.
次に、本発明の実施の形態4について説明する。本実施の形態4の可動反射素子100は、アクチュエータ部140、150ともに略L字状となっている。
図12(A)、(B)に示すように、アクチュエータ部140は、アーム部340A、340Bを有する。アーム部340Aは、一端が固定枠110の内辺に接続し、固定枠110と可動枠120との隙間をY軸方向に沿って、一端から可動枠120の外辺の中点を過ぎた先まで直線状に延びている。アーム部340Bは、アーム部340Aの他端からX軸方向に延び、可動枠120の外辺の中点を超えて可動枠120の角部と接続する。
一方、アクチュエータ部150は、アーム部350A、350Bを有する。アーム部350Aは、一端が可動枠120の内辺に接続し、可動枠120と鏡面部130との隙間をX軸方向に沿って、一端から鏡面部130の外辺の中点を過ぎた先まで直線状に延びている。アーム部350Bは、アーム部350Aの他端からY軸方向に延びて、鏡面部130の外辺の中点を過ぎた先で、鏡面部130の角部と接続している。
図13(A)に示すアーム部340Aには、圧電素子(140B、140C、140D)が形成されている。この圧電素子に正極性、負極性の電圧が印加されることにより、図5(B)及び(C)に示す動作と同様に、アーム部340Aが上側又は下側に反り曲がる。これにより、図6(A)、(B)及び(C)に示すように可動枠120がX軸周りに揺動する。
また、図13(A)に示すアーム部350Aには、圧電素子(150B、150C、150D)が形成されている。この圧電素子に正極性、負極性の電圧が印加されることにより、図5(A)、(B)及び(C)に示す動作と同様に、アーム部350Aが上側又は下側に反り曲がる。これにより、図7(A)、(B)及び(C)に示すように鏡面部130がY軸周りに揺動する。
以上説明した本実施の形態4の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140、150の長さが、固定枠110の内辺から可動枠120の外辺の中点までの距離、可動枠120の内辺から鏡面部130の外辺の中点までの距離に制限されなくなる。これにより、可動枠120の駆動周波数と鏡面部130の駆動周波数との比率を所望の値に設定することが可能となる。また、アクチュエータ部140、150を例えば何重にも折り返すことなく、鏡面部130を実用上十分な範囲で揺動させることができる。よって、本実施の形態4の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
実施の形態5.
次に、本発明の実施の形態5について説明する。なお、実施の形態5から、後述する実施の形態7までの可動反射素子100は、同様の思想に基づき設計されており、同一のグループに属するものである。
図14(A)に示すように、本実施の形態5に係る可動反射素子100は、上述した実施の形態1〜4の可動反射素子100と同様に、外部物体に固定される固定枠110と、固定枠110の枠内に配置された可動枠120と、可動枠120の枠内に配置された鏡面部130と、を備える。さらに、可動反射素子100は、固定枠110と可動枠120とを連結する一対の部材であるアクチュエータ部140と、可動枠120と鏡面部130とを連結する一対の部材であるアクチュエータ部150とを備える。図14(B)に示すように、本実施の形態に係る可動反射素子100では、実施の形態1〜4の可動反射素子100と同様に、A層100A(100A1、100A2、100A3)、B層100B、C層100Cが積層されている。
アクチュエータ部140は、固定枠110と可動枠120との間であって、X軸方向における可動枠120の両側に設けられている。アクチュエータ部150は、可動枠120と鏡面部130との間であって、Y軸方向における鏡面部130の両側に設けられている。
図15(A)、(B)に示すように、本実施の形態5に係る可動反射素子100においても、固定枠110、可動枠120、鏡面部130、アクチュエータ部140、150は、それぞれA層100A、B層100B、C層100Cの3層構造を含んでいる。固定枠110、可動枠120の厚みに比べて、鏡面部130、アクチュエータ部140、150の厚みは小さく設定されており、鏡面部130、アクチュエータ部140、150の下方には空隙が形成されている。
図16(A)、(B)に示すように、本実施の形態5に係る可動反射素子100は、アクチュエータ部140の形状が、実施の形態1〜4に係る可動反射素子100と異なっている。本実施の形態では、アクチュエータ部140の形状は、略S字状となっている。
アクチュエータ部140は、3つの部分から構成されており、それぞれの部分を、アーム部240A(第1のアーム部)と、アーム部240B(第2のアーム部)と、アーム部240C(第3のアーム部)としている。すなわち、アクチュエータ部140は、アーム部240A、240B及び240Cを備える。
まず、アクチュエータ部140(240A、240B、240C)における+X側の部材の構成について説明する。
アーム部240Aの−Y側の一端は、固定枠110の内辺(+Y側を向いた内辺の+X側の隅部)に接続している。アーム部240Aは、固定枠110と可動枠120との隙間をY軸方向に沿って、−Y側の一端から+Y方向に延びている。アーム部240Aは、固定枠110と可動枠120との隙間で、アーム部240Cに沿って延びることができるような幅となっている。アーム部240Aは、可動枠120のY軸方向に沿った外辺の中点N(図14(A)参照)を超えて、すなわちX軸を超えて直線状に延びている。
アーム部240Bの+X側の一端は、アーム部240Aの+Y側の端部と接続している。アーム部240Bの幅及び厚みは、アーム部240Aとほぼ同じである。アーム部240Bは、その+X側の一端からX軸方向に沿って可動枠120の方向に延びている。
アーム部240Cは、+Y側の一端がアーム部240Bの−X側の他端と接続する。アーム部240Cは、アーム部240Bの−X端から折り返してアーム部240Aに沿って延びている。アーム部240Cの幅及び厚みは、アーム部240Aとほぼ同じである。アーム部240Cは、その−Y端で可動枠120の外辺の中点(X軸上の点)Nと接続している。
図17(A)、(B)に示すように、アーム部240Aには、圧電素子(140B、140C、140D)が形成されている。圧電素子は、B層(下部電極層)140B、C層(圧電材料層)140C及びD層(上部電極層)140Dで形成されている。
アクチュエータ部140の−X側の部材も、アーム部240A、240B及び240Cを備える。この−X側の部材では、アーム部240Aは、+Y側の内辺から−Y方向に可動枠120の外辺の中点Nを超えて延びており、アーム部240Bは、アーム部240Aの−Y側の端部から+X方向に延び、アーム部240Cは、アーム部240Bの+X側の端部から+Y方向に延びて可動枠120の外辺の中点Nと接続している。すなわち、アクチュエータ部140の一対の部材それぞれが、鏡面部130の重心を中心として2回回転対称に配置されている。これと同様に、アクチュエータ部150の一対の部材それぞれが、鏡面部130を中心として2回回転対称に配置されている。
図18(A)に示すように、アクチュエータ部140の圧電素子(140B、140C、140D)を構成するB層(下部電極層)140BとD層(上部電極層)140Dとの間に、電圧が加えられていない場合には、可動枠120及び鏡面部130は、アクチュエータ部140を介して土台基板200の上方に水平姿勢のまま支持されている。白い三角形は、鏡面部130の重心Gを示す。重心Gは、座標系の原点Oと一致している。
B層(下部電極層)140BとD層(上部電極層)140Dとの間に、D層(上部電極層)140D側が正となるような極性の電圧を印加する。この場合、図5(B)に示すように、アーム部240Aでは、B層140B、C層140C、D層140Dの3層からなる圧電素子は長手方向に伸び、可撓性を有するA層140Aの上面側に、面方向に伸びる方向への応力が加わる。その結果、アーム部240が、上方に凸になるように反り返る。アーム部240が、上方に凸になるように反り返ると、アーム部240Bを介して、アーム部240Cがその+Y端が下がるように傾斜するようになり、アクチュエータ部140全体が、+Y端が下がるように傾斜するようになる。これにより、図18(B)に示すように、可動枠120及び鏡面部130を、その+Y端が下がるように傾斜させることができる。
B層(下部電極層)140BとD層(上部電極層)140Dとの間に、逆極性の電圧を印加すると、B層100B、C層100C、D層100Dの3層からなる圧電素子(140B、140C、140D)は長手方向に縮み、可撓性を有するアーム部240Aを構成するA層100Aの上面側に、面方向に縮む方向への応力が加わる。その結果、アーム部240Aは、下方が凸になるように反り返る。アーム部240Aが、下方に凸になるように反り返ると、アーム部240Bを介して、アーム部240Cの+Y端が上がるように傾斜するようになり、アクチュエータ140全体が、+Y端が上がるように傾斜するようになる。これにより、図18(C)に示すように、可動枠120及び鏡面部130を、その+Y端が上がるように傾斜させることができる。
一対のアクチュエータ部140において、+X側の圧電素子及び−X側の部材の圧電素子には、それぞれ逆極性の電圧が加えられる。これにより、固定枠110に対して、可動枠120をX軸周りに揺動させることができる。
傾斜の度合いは、印加する電圧値に応じた量になる。したがって、印加する電圧の極性および値を調整すれば、鏡面部130のX軸方向への傾斜角度を任意に調整することが可能になる。
図14(A)に戻り、アクチュエータ部150は、1本のアーム部250(第7のアーム部)を有する。アーム部250の一端が可動枠120の内辺に接続している。アーム部250は、可動枠120と鏡面部130との隙間をX軸方向に沿って、一端から鏡面部130の外辺の中点、すなわちY軸を超えて直線状に延びている。アーム部250は、鏡面部130の角部に他端が接続している。アクチュエータ部150には、圧電素子(150B、150C、150D)が形成されており、圧電素子に正極性、負極性に電圧を印加することにより、図7(B)、図7(C)に示すように、圧電素子を上方向、下方向に反り返えらせることができる。
一対のアクチュエータ部150において、+Y側の圧電素子及び−Y側の部材の圧電素子には、それぞれ逆極性の電圧が加えられる。これにより、可動枠120に対して、鏡面部130をY軸周りに揺動させることができる。
以上説明した本実施の形態5の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140のY軸方向に沿った部分の長さは、固定枠110の内辺からY軸方向に沿った可動枠120の外辺の中点までの距離よりも長くなっている。このようにすれば、アクチュエータ部150の長さに対するアクチュエータ部140の長さの比をさらに大きくすることができる。これにより、可動枠120の駆動周波数と鏡面部130の駆動周波数との比率を所望の値にできる。また、アクチュエータ部140、150を例えば何重にも折り返すことなく、鏡面部130を実用上十分な範囲で揺動させることができる。よって、本実施の形態5の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
また、実施の形態5に係る可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140の長さを長くすることができるので、可動反射素子100のX軸方向の長さに対してY軸方向の長さを短くすることができる。後述するように、X軸周りの揺動を、ビームの垂直方向の走査に対応させた場合、プロジェクタ等の機器に可動反射素子100を組み込んだとき、可動反射素子100のY軸方向を、機器の厚み方向に対応させることができる。したがって、本実施の形態5に係る可動反射素子100を採用すれば、可動反射素子100のY軸方向の長さが短いので、可動反射素子100を組み込む機器をより薄くして小型化することができる。
また、アクチュエータ部140は、可動枠120の外辺の中点Nに接続されているので、XY方向以外のモーメントが可動枠120に殆ど働かず、可動枠120の振動がいずれかの方向に偏らず捩じれないようにすることができる。また、アクチュエータ部150については、簡素な構成として、可動枠120を小型化することができる。
実施の形態6.
次に、本発明の実施の形態6について説明する。
図19(A)に示すように、本実施の形態6に係る可動反射素子100は、アクチュエータ部150の形状が、実施の形態5に係る可動反射素子100と異なる。本実施の形態6に係る可動反射素子100は、アクチュエータ部150の形状が、略S字状となっている。その他は、実施の形態5に係る可動反射素子100と同じである。
アクチュエータ部150は、アーム部250A(第4のアーム部)、250B(第5のアーム部)、250C(第6のアーム部)を備える。まず、アクチュエータ部150(250A、250B、250C)における+Y側の部材の構成について説明する。
アーム部250Aの+X側の一端は、可動枠120の内辺(−X側を向いた内辺の+Y側の隅部)に接続している。アーム部250Aは、可動枠120と鏡面部130との隙間をX軸方向に沿って、+X側の一端から−X方向に延びている。アーム部250Aは、可動枠120と鏡面部130との隙間で、アーム部250Cと間隔を置いて、−X方向に延びることができるような幅となっている。アーム部250Aは、鏡面部130のX軸方向に沿った外辺の中点K(Y軸上の点)を超えて、すなわちY軸を超えて延びている。アーム部250Aは、可動枠120の+X側を向いた内辺の近傍まで延びている。
アーム部250Bの+Y側の一端は、アーム部250Aの−X側の端部と接続している。アーム部250Bの幅及び厚みは、アーム部250Aとほぼ同じである。アーム部250Bは、その+Y側の一端からY軸方向に沿って鏡面部130の方向に延びている。
アーム部250Cは、−X側の一端がアーム部250Bの−Y側の他端と接続している。アーム部250Cは、アーム部250Bの−Y端から+X方向に折り返してアーム部240Cに沿うように延びている。アーム部250Cの幅及び厚みは、アーム部250Aとほぼ同じである。アーム部250Cは、その+X端で鏡面部130の外辺の中点(Y軸上の点)Kと接続している。
アーム部250Aには、圧電素子(150B、150C、150D)が形成されている。圧電素子は、B層(下部電極層)150B、C層(圧電材料層)150C及びD層(上部電極層)150Dで形成されている。
アクチュエータ部150の−Y側の部材も、アーム部250A、250B及び250Cを備える。この−Y側の部材では、アーム部250Aは、可動枠120の−X側の内辺から+X方向に鏡面部130の外辺の中点を超えて延びており、アーム部250Bは、アーム部250Aの+X側の端部から+Y方向に延び、アーム部250Cは、アーム部250Aの+Y側の端部から−X方向に延びて鏡面部130の外辺の中点Kと接続している。
アクチュエータ部150の圧電素子(150B、150C、150D)を構成するB層(下部電極層)150BとD層(上部電極層)150Dとの間に、電圧が加えられていない場合には、図21(A)に示すように、鏡面部130は、水平姿勢のまま可動枠120に支持されている。白い三角形は、鏡面部130の重心Gを示す。重心Gは、座標系の原点Oと一致している。
B層(下部電極層)150BとD層(上部電極層)150Dとの間に、D層(上部電極層)150D側が正となるような極性の電圧を印加すると、アーム部250Aにおいて、B層150B、C層150C、D層150Dの3層からなる圧電素子は長手方向(厚み方向に直交する方向)に伸び、可撓性を有するA層150Aの上面側に、面方向(X軸に沿った方向)に伸びる方向への応力が加わる。その結果、アーム部250Aが、上方に凸になるように反り返る。アーム部250Aが上方に凸になるように反り返ると、アーム部250Bを介して、アーム部250Cの+X端が下がるように傾斜するようになり、アクチュエータ部150全体が+X端が下がるように傾斜する。これにより、図21(B)に示すように、鏡面部130は、Y軸周りに回転し、Y軸周りの回転+Ry(Y軸に対して右ねじの回転方向が正)を生じる。このようにして、可動反射素子100は、鏡面部130を+X端が下がるように傾斜させることができる。
B層(下部電極層)150BとD層(上部電極層)150Dとの間に、逆極性の電圧を印加すると、B層100B、C層100C、D層100Dの3層からなる圧電素子(150B、150C、150D)は長手方向に縮み、可撓性を有するアーム部250Aを構成するA層100Aの上面側に、面方向に縮む方向への応力が加わる。その結果、アーム部250は、下方が凸になるように反り返る。アーム部250Aが、下方に凸になるように反り返ると、アーム部250Bを介して、アーム部250Cの+X端が上がるように傾斜するようになり、アクチュエータ部250全体が+X端が上がるように傾斜する。これにより、図21(C)に示すように、鏡面部130は、Y軸周りに回転し、Y軸周りの回転−Ryを生じる。このようにして、可動反射素子100は、鏡面部130を+X端が上がるように傾斜させることができる。
一対のアクチュエータ部150において、+Y側の圧電素子と−Y側の圧電素子との間には、それぞれ逆極性の電圧が加えられる。これにより、可動枠120に対して、鏡面部130をY軸周りに揺動させることができる。
傾斜の度合いは、印加する電圧値に応じた量になる。したがって、印加する電圧の極性および値を調整すれば、鏡面部130のX軸方向への傾斜角度を任意に調整することが可能になる。
以上説明した本実施の形態6の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140のY軸方向に沿った部分の長さは、固定枠110の内辺からY軸方向に沿った可動枠120の外辺の中点までの距離よりも長くなっている。このようにすれば、アクチュエータ部150の長さに対するアクチュエータ部140の長さの比をさらに大きくすることができる。これにより、可動枠120の駆動周波数と鏡面部130の駆動周波数との比率を所望の値にできる。また、アクチュエータ部140、150を例えば何重にも折り返すことなく、鏡面部130を実用上十分な範囲で揺動させることができる。よって、本実施の形態6の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
また、本実施の形態6では、アクチュエータ部140の一対の部材それぞれが、鏡面部130の原点Oを中心として2回回転対称に配置されている。また、アクチュエータ部150の一対の部材それぞれが、鏡面部130を中心として2回回転対称に配置されている。そして、アーム部240Aにおいて固定枠110と接続される一端から他端へ向かう向きと、アーム部250Aにおいて可動枠110と接続される一端から他端へ向かう向きとが、鏡面部130の重心を中心とする回転方向に関して同じになっている。
そして、アクチュエータ部140とアクチュエータ部150との両方についても、略S字状となっている。これにより、駆動周波数の比率を最適化できるとともに、可動枠120を小型化することができる。また、鏡面部130を偏りなく保持してバランス良く揺動させることができる。
実施の形態7.
次に、本発明の実施の形態7について説明する。
本実施の形態7に係る可動反射素子100は、アクチュエータ部150の向きが、実施の形態6と異なる他は、実施の形態6に係る可動反射素子100の構成と同じである。
図22(A)に示すように、アクチュエータ部140の各部材それぞれは、鏡面部130の原点Oを中心として2回回転対称に配置されている。また、アクチュエータ部150の一対の部材それぞれが、鏡面部130の原点Oを中心として2回回転対称に配置されている。本実施の形態7では、アーム部240Aの、固定枠110と接続された一端から他端へ向かう向きと、アーム部250Aの、可動枠120と接続された一端から他端へ向かう向きとが、鏡面部130の原点Oを中心とする回転方向に関して逆向きとなっている点が、実施の形態6と異なる。
例えば、実施の形態6に係る可動反射素子100でビームの二次元走査を行った場合に、投影される画像に歪みが生じる場合には、代わりに本実施の形態7に係る可動反射素子100を用いることにより、画像の歪みが矯正される場合がある。このような場合には、本実施の形態7に係る可動反射素子100を採用すればよい。
以上説明した本実施の形態7の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140のY軸方向に沿った部分の長さは、固定枠110の内辺からY軸方向に沿った可動枠120の外辺の中点までの距離よりも長くなっている。このようにすれば、アクチュエータ部150の長さに対するアクチュエータ部140の長さの比をさらに大きくすることができる。これにより、可動枠120の駆動周波数と鏡面部130の駆動周波数との比率を所望の値にできる。また、アクチュエータ部140、150を例えば何重にも折り返すことなく、鏡面部130を実用上十分な範囲で揺動させることができる。よって、本実施の形態7の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
上述した二次元走査による画像の歪みを矯正する方法には、他に種々な方法がある。例えば、図23に示すように、可動枠120に重り400を付けることにより、可動枠120及び鏡面部130の揺動状態の軸ずれを補正して、投影される画像の歪みを矯正するようにしてもよい。
なお、重り400を付けるのは、可動枠120に限定されない。例えば、重り400を、鏡面部130に付けてもよい。或いは、重り400を、アクチュエータ140、150の両方、或いは一方につけてもよい。
実施の形態8.
次に、本発明の実施の形態8について説明する。なお、実施の形態8と後述する実施の形態9との可動反射素子100は、同様の思想に基づき設計されており、同一のグループに属するものである。
図24(A)、(B)に示すように、本実施の形態8に係る可動反射素子100では、可動枠120、アクチュエータ部140、150の形状が、実施の形態1〜7と異なる。
可動枠120には、Y軸方向両側の外辺の中点に凹部220が設けられている。凹部220を設けるのは、後述する圧電素子を、アーム340Cに設けるためである。なお、凹部220は、可動枠120のY軸方向両側の外辺の中点に設けるのが望ましいが、これに限られるものではなく、上述の外辺上に設けられていればよい。
アクチュエータ部140は、アーム部340A(第12のアーム部)、340B(第13のアーム部)及び340C(第14のアーム部)を備える。また、アクチュエータ部150は、アーム部350A(第15のアーム部)、350B(第16のアーム部)及び350C(第17のアーム部)を備える。
アーム部340Aは、固定枠110のY軸方向における中点に設けられた内辺からY軸方向に沿って延び、Y軸方向に沿った可動枠120の外辺を超えて延びている。アーム部340Bの一端は、アーム部340Aの他端と接続している。アーム部340Bは、この一端から−X軸方向に沿って延びている。アーム部340Cの一端は、アーム340Bの他端と接続している。アーム部340Cは、アーム部340Aに沿って延び、アーム部340Cの他端は、可動枠120の凹部220に接続されている。
よって、アーム部340AのY軸方向に沿った部分の長さは、固定枠110のY軸方向における中点に位置する内辺からY軸方向に沿った可動枠120の外辺までの距離よりも長い。なお、固定枠110のY軸方向における中点に位置する内辺からY軸方向に沿った可動枠120の外辺までの距離は、−Y側であり且つ+X側である固定枠110のかどの内辺(或いは、+Y側であり且つ−X側である固定枠110のかどの内辺)からY軸方向に沿った可動枠120の外辺の中点までの距離と、設計上、同じである。
また、アーム部350Aは、可動枠120の内辺から−X軸方向に沿って延び、X軸方向に沿った鏡面部130の外辺の中点を超えて、すなわち、Y軸を超えて延びている。アーム部350Bの一端は、アーム部350Aの他端と接続している。アーム部350Bは、この一端からY軸方向に延びている。アーム部350Cの一端は、アーム部350Bの他端と接続している。アーム部350Cの他端はX軸方向に延びて、鏡面部130の外辺の中点に接続されている。
アクチュエータ部140を構成するアーム部340A、340B及び340Cには、図25(A)、(B)に示すように、それぞれ上部電極層140D1、140D2、140D3が形成されている。これにより、各アーム部340A、340B、340Cについて、独立して動作する圧電素子が形成される。各アーム部340A、340B、340Cの圧電素子に正極性、負極性の電圧を個別に印加することにより、アーム部340A、340B、340Cを、個別に、上側又は下側に反り曲げることができる。この結果、可動枠120がX軸周りに揺動する。
また、アーム部350Aには、上部電極層150Dが形成されている。これにより、アーム部350Aに圧電素子が形成される。アーム部350Aの圧電素子に正極性、負極性の電圧を印加することにより、アーム部350Aを上側又は下側に反り曲げることができる。この結果、鏡面部130がY軸周りに揺動する。
以上説明した本実施の形態8の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140に個別に動作可能な圧電素子が形成されている。これらの圧電素子を組み合わせて動作させることにより、アクチュエータ部140による可動枠120の搖動状態をきめ細かく制御することができる。
また、本実施の形態8の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140のY軸方向に沿った部分の長さは、固定枠110のY軸方向における中点に位置する内辺からY軸方向に沿った可動枠120の外辺までの距離よりも長くなっている。このようにすれば、アクチュエータ部150の長さに対するアクチュエータ部140の長さの比をさらに大きくすることができる。これにより、可動枠120の駆動周波数と鏡面部130の駆動周波数との比率を所望の値にできる。また、アクチュエータ部140、150を例えば何重にも折り返すことなく、鏡面部130を実用上十分な範囲で揺動させることができる。よって、本実施の形態8の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
また、本実施の形態8の可動反射素子100には、幅広部111が設けられている。幅広部111は、アクチュエータ部140と固定枠110とが接続する部分に設けられており、幅広部111の幅は、アクチュエータ部140の幅よりも広くなっている。この幅広部111により、変動が大きい、アクチュエータ部140と固定枠110とが接続する部分を補強することができる。
なお、アクチュエータ部150と可動枠120とが接続する部分に、アクチュエータ部150の幅よりも幅の広い幅広部を設けてもよい。また、幅広部111を設けずに、アクチュエータ部150と可動枠120とが接続する部分だけに幅広部を設けるようにしてもよい。いずれも変動が大きい部分であり、幅広部はその補強となる。
実施の形態9.
次に、本発明の実施の形態9について説明する。
本実施の形態9では、アクチュエータ部140に形成される上部電極層の構成が、実施の形態8と異なる。図26(A)、(B)に示すように、アーム部340Aには、複数の上部電極層140D11、140D12が設けられている。上部電極層140D11は、固定枠110との接続部分からアーム部340Aの中点付近まで延びた一対の電極である。上部電極層140D12は、アーム部340Aの中点からアーム部340Bとの接続部分まで延びた一対の電極である。
アーム部340Bには、複数の上部電極層140D21、140D22が設けられている。上部電極層140D21は、アーム部340Aとの接続部分からアーム部340Bの中点付近まで延びた一対の電極である。上部電極層140D22は、アーム部340Bの中点からアーム部340Cとの接続部分まで延びた一対の電極である。
アーム部340Cには、一対の上部電極層140D3が設けられている。上部電極層140D3は、アーム部340Bとの接続部分から可動枠120の凹部220まで延びた一対の電極である。
このように、アクチュエータ部140には、各アーム部340A、340B及び340Cの長さ方向及び幅方向に上部電極層を複数形成することができる。これは、各アーム部340A、340B及び340Cにそれぞれ個別駆動される複数の圧電素子を形成したことを意味する。このように、各アーム部340A、340B及び340Cに複数の圧電素子を形成し、各圧電素子を個別に駆動することにより、各アーム部340A、340B及び340Cの動作をきめ細かく制御することができ、結果的に、可動反射素子100のより正確な二次元走査が可能となる。
なお、一対のアクチュエータ部140の少なくとも一方に、或いは、一対のアクチュエータ部150の少なくとも一方に、圧電素子が設けられていてもよい。
また、実施の形態9のアクチュエータ部140では、下流の圧電素子へ電力を供給する回路パターンを形成するスペースを確保する必要があるため、可動枠120から固定枠110へ進むにつれて、上部電極層の幅が細くなっている。
なお、本実施の形態9では、図27(A)、(B)に示すように、アクチュエータ部140の幅を可動枠120から固定枠110に向かうにつれて太くすることもできる。このようにすれば、アクチュエータ部140の上部電極層の幅を狭くすることなく、各上部電極層に電力を供給するための回路パターンを通すスペースを確保することができる。
また、本実施の形態9では、アクチュエータ部150を、鏡面部130から可動枠120に向かうにつれて、幅が太くなるように構成するようにしてもよい。
このように、アクチュエータ部140、150の幅は均一である必要はなく、可動枠120から固定枠110に向かって太くするようにしてもよいし、鏡面部130から可動枠120に向かって太くするようにしてもよい。また、アクチュエータ部140、150は、部分的に幅を変えるようにしてもよい。
以上説明した本実施の形態9の可動反射素子100によれば、アクチュエータ部140のY軸方向に沿った部分の長さは、固定枠110のY軸方向における中点に位置する内辺からY軸方向に沿った可動枠120の外辺までの距離よりも長くなっている。このようにすれば、アクチュエータ部150の長さに対するアクチュエータ部140の長さの比をさらに大きくすることができる。これにより、可動枠120の駆動周波数と鏡面部130の駆動周波数との比率を所望の値にできる。また、アクチュエータ部140、150を例えば何重にも折り返すことなく、鏡面部130を実用上十分な範囲で揺動させることができる。よって、本実施の形態9の可動反射素子100によれば、駆動周波数の最適化と小型化とを実現することができる。
実施の形態10.
次に、本発明の実施の形態10〜12について説明する。
本実施の形態10の可動反射素子100は、図28(A)に示すように、第1の制限部としての制限部(ストッパ)500と、第2の制限部としての制限部501とを備える点が、実施の形態4と異なっている。
制限部500は、可動枠120に対する鏡面部130の動きを制限するために、可動枠120の内辺から延び、可動枠120と鏡面部130との隙間に配置されている。
制限部501は、固定枠110に対する可動枠120の動きを制限するために、固定枠110の内辺から延び、固定枠110と可動枠120との隙間に配置されている。
図28(A)に示す可動反射素子100は、実施の形態4に係る可動反射素子100に制限部500、501を設けたものであるが、これと同様に、図28(B)に示す実施の形態11の可動反射素子100は、実施の形態6に係る可動反射素子100に制限部500、501を設けたものである。また、図28(C)に示す実施の形態12の可動反射素子100は、実施の形態8に係る可動反射素子100に制限部500、501を設けたものである。
このような制限部500、501を備えることにより、外力が加えられた場合の可動枠120、鏡面部130等の破損を防ぐことができる。
詳細には、実施形態10および実施形態12の鏡面部130の外周面は、制限部500を避けるように形成されている。このように鏡面部130の外周面が形成されているので、可動反射素子100に外力が加えられた場合、制限部500が鏡面部130の外周面に当接する。よって、外力が加えられた場合、鏡面部130がX軸方向およびY軸方向に大きく動いて破損することを防止できる。
同様に、実施形態10および実施形態12の可動枠120の外周面は、制限部501を避けるように形成されている。このように可動枠120の外周面が形成されているので、可動反射素子100に外力が加えられた場合、制限部501が可動枠120の外周面に当接する。よって、外力が加えられた場合、可動枠120がX軸方向およびY軸方向に大きく動いて破損することを防止できる。
また、実施形態10および実施形態12の鏡面部130は、制限部500を避けて、且つ、静止状態における鏡面部130の重心が鏡面部130の中心になるよう、外周面が形成されている。具体的には、上述の鏡面部130では、対向する辺の外周面の形状が、鏡面部130の中心に対して点対称である。これにより、制限部500を避ける必要のない所にダミーの切り欠きが形成される。このような外周面にすることで、鏡面部130は、静止している場合の重心を鏡面部130の中心にでき、静止状態における傾きの発生を防止できる。
同様に、実施形態10および実施形態12の可動枠120は、制限部501を避けて、且つ、静止状態における可動枠120の重心が可動枠120の中心になるよう、外周面が形成されている。具体的には、上述の可動枠120では、対向する辺の外周面の形状が、可動枠120の中心に対して点対称である。これにより、制限部501を避ける必要のない所にダミーの切り欠きが形成される。このような外周面にすることで、可動枠120は、静止している場合の重心を可動枠120の中心にでき、静止状態における傾きの発生を防止できる。
なお、図28(A)〜図28(C)に示す制限部500、501の形状は、T字状であったが、これに限られず、凸状であればよい。また、制限部500、501の一方はなくてもよい。
以上説明した実施の形態1〜12における可動反射素子100においては、アクチュエータ部140、150に複数の圧電素子を設けることができる点、検出用電極の幅がアクチュエータ部の幅よりも狭い点、検出用電極を、固定枠110とアクチュエータ部140とが接続される部分、或いは、鏡面部130とアクチュエータ部150とが接続される部分に設ける点、可動枠120を鏡面部130より厚く形成する点、アクチュエータ部140、150の幅を変更し得る点、可動枠120に重り400を取り付け得る点、制限部500、501を設け得る点を、適宜組み合わせることが可能である。
実施の形態13.
次に、本発明の実施の形態13について説明する。本実施の形態13では、可動反射素子100を備える二次元走査装置について説明する。
実施の形態1〜12に係る可動反射素子100は、鏡面部130の表面に形成された反射面を2軸の自由度をもって傾斜させることができる。このため、可動反射素子100を、光ビームや指向性電波を二次元的に走査する二次元走査装置に組み込んで、二次元走査を行うことができる。この二次元走査装置により、光ビームを走査すれば、スクリーンに画像を投影するプロジェクタを実現することができ、指向性電波を走査すれば、車載用のレーダ等を実現することができる。
特に、実施の形態1〜12に係る可動反射素子100は、前述したとおり、MEMS素子として、小型化及び低消費電流化に適しているため、携帯電話、スマートフォン、タブレット型電子端末などの小型機器に組み込んで利用するのに最適であり、これら小型機器にプロジェクタの機能を付加する用途に適している。近年、自動車には、レーダが不可欠の技術になってきており、指向性のある電波を広範囲に照射する必要がある。実施の形態1〜12に係る可動反射素子100を利用すれば、小型で広範囲なレーダ照射が可能な車載用装置を実現することも可能である。
以下では、実施の形態1〜12に係る可動反射素子100を交流信号で駆動させる二次元走査装置を構成し、この二次元走査装置をプロジェクタに組み込んだ場合について説明する。この二次元走査装置は、上述したような車載用のレーダ装置などにも利用可能である。
図29は、二次元走査装置を利用したプロジェクタ80の構成を示すブロック図である。プロジェクタ80は、スクリーン10上に画像を投影する機能を有する。プロジェクタ80は、二次元走査装置20、レーザ光源30、表示制御装置40を備える。なお、レーダ装置においては、レーザ光源30の代わりに、指向性電波を発生する電波源(アンテナ)を備える。
二次元走査装置20は、可動反射素子100とコントローラ22とを備える。可動反射素子100は、実施の形態1〜12に係る可動反射素子100である。可動反射素子100を構成する圧電素子に交流電圧を印加することにより、XY平面に平行な反射面Mを有する鏡面部130をY軸方向(X軸周り)およびX軸方向(Y軸周り)に傾斜させることができる。コントローラ22は、この可動反射素子100の圧電素子に駆動信号(交流電圧)を供給する。
可動反射素子100は、上述のように、アクチュエータ部140、150を備えている。コントローラ22は、アクチュエータ部150の圧電素子に対して第1の周期H1である第1の駆動信号を供給し、アクチュエータ部140の圧電素子に対して第2の周期H2である第2の駆動信号を供給する。
レーザ光源30は、レーザビームを発生させ、これを二次元走査装置20内の可動反射素子100の反射面Mに照射する。反射面Mで反射したレーザビームは、スクリーン10上の所定位置にスポットSを形成する。したがって、可動反射素子100の反射面Mを二次元方向に傾斜させると、スクリーン10上に形成されるスポットSの位置を二次元方向に走査することができる。
表示制御装置40は、外部から与えられる画像データに基づいて、スクリーン10上に所定の画像を表示するための表示制御を行う。具体的には、表示制御装置40は、表示対象となる画像についての画像データに基づく変調信号をレーザ光源30に与えるとともに、二次元走査装置20内のコントローラ22に対して制御信号を与える。
レーザ光源30は、表示制御装置40から与えられる変調信号に基づいて、強度もしくは波長またはその双方を変調したレーザビームを発生させ、これを二次元走査装置20内の可動反射素子100の鏡面部130の反射面Mに照射する。表示対象となる画像がモノクロ画像である場合は、レーザ光源30は単色のレーザビームを発生させ、その強度を変調すればよい。表示対象となる画像がカラー画像である場合は、例えば、レーザ光源30として、3原色RGBのレーザビームを発生させる複合光源を採用し、個々の原色ごとに独立して強度変調を行えばよい。
一方、二次元走査装置20は、表示制御装置40から入力される制御信号に基づいて、反射面Mで反射したレーザビームによりスクリーン10上に形成されるスポットSが、スクリーン10上を二次元的に移動するように、可動反射素子100の鏡面部130を揺動させる。
表示制御装置40から二次元走査装置20に与えられる制御信号は、可動反射素子100の鏡面部130の揺動動作のON/OFFを示すとともに、揺動動作のタイミングを示す信号になっている。表示制御装置40は、レーザ光源30に与える変調信号のタイミングに同期した制御信号を二次元走査装置20に与える。その結果、スクリーン10上のスポットSの位置と、スポットSを形成するレーザビームの変調内容とが同期し、スクリーン10上に画像データに応じた画像が表示されることになる。
続いて、二次元走査装置20によるビーム走査の具体的な動作について説明する。ここでは、二次元走査装置20に組み込む可動反射素子100として、実施の形態5に係る可動反射素子100を用いた場合を例にとって、説明を行う。図30(A)は、図29に示すプロジェクタ80において、コントローラ22が可動反射素子100に供給する駆動信号Dx,Dyの一例を示す信号波形を示すグラフであり、図30(B)は、このような駆動信号Dx、Dyを可動反射素子100に供給した場合に得られる、スクリーン10上のビームの2次元走査の様子を示すグラフである。
図30(A)の上段には、第1の駆動信号Dxとして第1の周期H1である鋸歯状の信号波形が示されており、図30(A)の下段には、第2の駆動信号Dyとして第2の周期H2である階段状の信号波形が示されている。なお、ここでは、H2=6×H1に設定した例が示されているが、実用上は、この比はもっと大きな値に設定される。
図30(A)に示すように、第1の駆動信号Dxは、時間軸tに沿った時刻t0〜t1の第1周期において、電圧値−Vx〜+Vxまで上昇した後、時刻t1において電圧値−Vxまで降下し、続く時刻t1〜t2の第2周期において、電圧値−Vx〜+Vxまで上昇した後、時刻t2において電圧値−Vxまで降下する、という動作を繰り返す。このような第1の駆動信号Dxを、図17(A)に示す可動反射素子100のアクチュエータ部150の圧電素子に与えると、鏡面部130はX軸方向(Y軸周り)に周期H1で揺動する。
一方、第2の駆動信号Dyは、時間軸tに沿った時刻t0〜t6の周期において、周期H1に対応する単位時間ステップで、電圧値−Vy〜+Vyまで階段状に上昇するという動作を、周期H2で繰り返す。このような第2の駆動信号Dyを、図17(A)に示す可動反射素子100のアクチュエータ部140の圧電素子に与えると、可動枠120及び鏡面部130はY軸方向(X軸周り)に周期H2で揺動する。
実際には、可動反射素子100のB層(下部電極層)100Bを接地電位に固定した状態で、アクチュエータ部150のD層(上部電極層)150Dに、第1の駆動信号Dxを供給し、アクチュエータ部140のD層(上部電極層)140Dに第2の駆動信号Dyを供給する二次元走査の駆動動作を行えばよい。図30(B)は、このような二次元走査の駆動動作を行った場合にスクリーン10上に得られるスポットSの走査軌跡を示している。ここで、スクリーン10の横方向は、図17(A)に示す可動反射素子100のX軸方向に対応し、スクリーン10の縦方向は、図17(A)に示す可動反射素子100のY軸方向に対応する。
図30(B)に示すように、スポットSの位置は、実線で示すように、スクリーン10の左上隅の走査点Q1から水平に右へと移動して走査点Q2に到達し、その後、破線で示すように、直ちに走査点Q3の位置へとジャンプする。このような走査を繰り返すことにより、スポットSは、スクリーン10上をジグザグに移動してゆき、やがて右下隅の走査点Q12まで到達する。このような走査は、一般的に利用されているラスター方式の走査であり、走査点Q1〜Q12までの走査によって、1フレーム分の画像表示が行われる。
続いて、走査点Q12から走査点Q1までジャンプし、再び、走査点Q1〜Q12へ至るジグザグ走査が行われる。すなわち、画像の次のフレームの表示が行われることになる。ここで、実線で示す水平方向の走査周期が、図30(A)に示す周期H1に対応し、走査点Q1〜Q12までの走査周期が、図30(A)に示す周期H2に対応する。このようなラスター方式の走査を行う場合、表示制御装置40は、画像データを構成する個々の画素のデータを、その配列順に従って順に抽出し、各駆動信号Dx,Dyの周期H1、H2に同期したタイミングで変調信号としてレーザ光源30に与える。
なお、駆動信号の波形上において、図30(B)の走査点Q1,Q3,Q5,Q7,Q9,Q11は、それぞれ図30(A)の時間軸t上の時刻t0,t1,t2,t3,t4,t5に対応する点になる。しかし、実際には、コントローラ22から可動反射素子100に対して、図30(A)に示す駆動信号Dx,Dyを供給したとしても、可動反射素子100の圧電素子に伸縮が生じて鏡面部130が傾斜を生じるまでには、機械的な遅れが生じる。このため、駆動信号Dx,Dyの位相に対して、スクリーン10上に得られるスポットSの走査運動の位相は遅れを生じることになる。実時間において、スポットSが走査点Q1,Q3,Q5,Q7,Q9,Q11に到達する時刻は、それぞれ時刻t0,t1,t2,t3,t4,t5よりも遅れた時刻になる。
上述した走査方式以外の走査方式でスポットSを走査するために用いる駆動信号Dx,Dyの信号波形が、図31(A)に示されている。図31(B)には、このような駆動信号Dx,Dyを可動反射素子100に供給した場合に得られる、スクリーン10上の光ビームの走査線が示されている。図31(A)に示すように、この走査方式では、第1の駆動信号Dxとして第1の周期H1である正弦波を用い、第2の駆動信号Dyとして第2の周期H2である正弦波を用いることになる。
第1の駆動信号Dxは、電圧値−Vx〜+Vxをとる周期H1の正弦波であり、このような第1の駆動信号Dxを、図17(A)に示す可動反射素子100のアクチュエータ部150の圧電素子に与えると、鏡面部130はX軸方向(Y軸周り)に揺動し、スクリーン10上のスポットSはX軸方向に周期H1で単振動する。また、第2の駆動信号Dyは、電圧値−Vy〜+Vyをとる周期H2の正弦波であり、このような第2の駆動信号Dyを、図17(A)に示す可動反射素子100のアクチュエータ部140の圧電素子に与えると、鏡面部130は、Y軸方向(X軸周り)に揺動し、スクリーン10上のスポットSはY軸方向に周期H2で単振動する。
実際には、可動反射素子100のB層(下部電極層)100Bを接地電位に固定した状態において、D層(上部電極層)100Dに第1の駆動信号Dxを供給し、D層(上部電極層)100Dに第2の駆動信号Dyを供給する駆動動作を行う。図31(B)は、このような駆動動作を行った場合にスクリーン10上に得られるスポットSの走査軌跡を示している。ここでも、スクリーン10の横方向は、図17(A)に示す可動反射素子100のX軸方向に対応し、スクリーン10の縦方向は、図17(A)に示す可動反射素子100のY軸方向に対応する。
図31(B)に示すように、スポットSの位置は、実線で示す8の字状の滑らかな線に沿って移動する。この移動軌跡は一筆書きの循環経路になっており、走査点Q1を起点として、Q1→Q2→Q3→... →Q19→Q1という経路に沿って循環する。ここで、走査点Q1は時刻t0に対応し、走査点Q5(往路)は時刻t1に対応し、走査点Q9(往路)は時刻t2に対応し、走査点Q13は時刻t3に対応し、走査点Q9(復路)は時刻t4に対応し、走査点Q5(復路)は時刻t5に対応し、走査点Q1(復路)は時刻t6に対応する。以下、このような走査方式を「8の字状走査方式」と呼ぶことにする。
なお、上述したとおり、実際には、コントローラ22から可動反射素子100に対して、図31(A)に示すような駆動信号Dx,Dyを供給したとしても、可動反射素子100の圧電素子に伸縮が生じて鏡面部130が傾斜を生じるまでには、機械的な遅れが生じるため、駆動信号Dx,Dyの位相に対して、スクリーン10上に得られるスポットSの走査運動の位相は遅れを生じることになる。したがって、駆動信号の波形上においては、図31(B)の各走査点Q1,Q5,Q9,Q13,Q9,Q5,Q1が、それぞれ図31(A)の時間軸t上の時刻t0,t1,t2,t3,t4.t5,t6に対応する点になるが、実時間においては、スポットSが走査点Q1,Q5,Q9,Q13,Q9,Q5,Q1に到達する時刻は、それぞれ時刻t0,t1,t2,t3,t4,t5,t6よりも遅れた時刻になる。
この「8の字状走査方式」は、一般的に利用されているラスター方式の走査とは異なり、スポットSの移動経路が、一般的な画像を構成する画素配列(縦横の二次元マトリックス状の配列)に沿った経路にはならない。したがって、図29に示すプロジェクタ80において、この「8の字状走査方式」を採用する場合は、表示制御装置40がスクリーン10上のスポットSの位置を予測し、画像データの中から予測位置の画素に対応するデータを抽出して、レーザ光源30に対して抽出データを与える処理を行う必要がある。
もっとも、この二次元走査装置をプロジェクタではなく、例えば、液晶表示素子用のバックライト照明として利用するのであれば、画像データは必要なく、レーザ光源30による変調処理は不要である。したがって、このようなバックライト照明という用途の場合は、ラスター方式の走査を採用するよりも、滑らかな走査軌跡が得られる「8の字状走査方式」を採用する方が好ましい。
(共振周波数の調整)
本実施の形態13に係る二次元走査装置20をプロジェクタ80等に利用する場合、可動反射素子100の反射面Mの傾斜角はできるだけ大きな範囲に設定できる方が好ましい。反射面Mの傾斜角を大きくするには、鏡面部130の揺動運動の振幅を大きくする必要がある。振幅を大きくするためには、圧電素子に供給する電圧を大きくする必要がある。ただ、同じ電圧の交流信号を供給した場合でも、鏡面部130の揺動運動の振幅は、その周波数によって異なってくる。これは、一般に、振動系におけるエネルギー効率は、振動系に固有の共振周波数で振動させた場合に最も高まるためである。
例えば、図17(A)に示すような構造を有する可動反射素子100の鏡面部130の共振周波数fは、各部の材質やアクチュエータ部の寸法や形状によって一義的に定まる物理的な固有値になる。この共振周波数fで鏡面部130を振動させると、最もエネルギー効率が良好になる。別言すれば、同じ振幅を得るために必要な供給電圧は、共振周波数fで振動させた場合に最も低くなる。
鏡面部130を共振周波数fで振動させる場合には、圧電素子に5V程度の交流駆動信号を供給すれば十分であるのに対して、特定の非共振周波数で振動させる場合には、500〜1000Vの交流駆動信号が必要になるケースもあった。可動反射素子100をMEMS素子などの微細な半導体素子として形成した場合、このような高い電圧で駆動させると絶縁破壊などが生じる可能性がある。
このような観点から、実用上は、可動反射素子100の鏡面部130を共振周波数fで振動させる運用を行うのが好ましい。換言すれば、用途が予め定まっているのであれば、その用途に適した振動周波数が共振周波数fに一致するように、可動反射素子100の機械的構造部の設計を行うようにするのが好ましい。
例えば、本実施の形態13に係る二次元走査装置20を、図29に示すようなプロジェクタ80に用いる場合について考える。このプロジェクタ80では、前述したとおり、コントローラ22から可動反射素子100に対して、例えば、図30(A)に示すような駆動信号Dx,Dyが供給され、スクリーン10上で図30(B)に示すようなスポットSの走査が行われる。
ここでは、このプロジェクタ80において、例えば、X軸に沿った方向への駆動信号Dxの周波数fxをfx=10kHz(周期H1=1/10000秒)に設定し、Y軸に沿った方向への駆動信号Dyの周波数fyをfy=100Hz(周期H1=1/100秒)に設定することになっていたとする。このような駆動信号の設定は、図30(A)における走査点Q1〜Q2までの水平走査時間を1/10000秒とし、1画面を100本の水平走査線によって構成し、図30(B)における走査点Q1〜Q12までの垂直走査時間を1/100秒とする設定に対応する。
このように、可動反射素子100の用途として、X軸に沿った方向に関しては周波数fx=10kHzで振動させ、Y軸に沿った方向に関しては周波数fy=100Hzで振動させる用途に利用することが予め定まっているのであれば、可動反射素子100を設計する段階から、これらの周波数fx,fyが共振周波数となるような配慮を行うのが好ましい。そのような設計を行った可動反射素子100をプロジェクタ80に組み込めば、鏡面部130は、その固有の共振周波数で振動させられることになるので、極めて効率の良い動作が可能になる。
上述したように、二次元走査装置20をプロジェクタ80に組み込んで用いる場合、通常、水平走査時間と垂直走査時間との間に大きな差が生じることになるので、可動反射素子100に要求されるX軸に沿った方向に関する共振周波数fxとY軸に沿った方向に関する共振周波数fyとの間にも大きな差が生じる。実際、上例の場合、fx=10kHzに対して、fy=100Hzであり、両者には100倍もの差が生じている。したがって、このようなプロジェクタ80用の可動反射素子100では、鏡面部130のX軸に沿った方向に関する共振周波数fxとY軸に沿った方向に関する共振周波数fyとが異なるようにする必要がある。
一般に、ある振動系の共振周波数fは複数通り存在し、低い方から順に、第1次共振周波数、第2次共振周波数、... のように称呼されている。したがって、X軸に沿った方向に関する共振周波数がfxであり、Y軸に沿った方向に関する共振周波数がfyであるような可動反射素子を設計する際には、X軸に沿った方向に関する特定の次数の共振周波数がfxとなり、Y軸に沿った方向に関する特定の次数の共振周波数がfyとなるような設計を行えばよい。
なお、X軸に沿った方向に関する任意の次数の共振周波数がY軸に沿った方向に関する任意の次数の共振周波数と一致してしまうと、X軸に沿った方向の振動とY軸に沿った方向の振動との間に不都合な干渉が生じる可能性がある。したがって、実用上は、X軸に沿った方向に関する各次数の共振周波数が、Y軸に沿った方向に関するいずれの次数の共振周波数にも一致しないような設計を行うのが好ましい。
共振周波数fxとfyとが異なるようにするための設計には、様々な形態が考えられるが、本願発明者が最も実用的であると考える形態は、各アクチュエータ部140、150の長さ、幅もしくは厚みによって調整する方法である。以下、図8(A)に示す可動反射素子100の構造を基本として、共振周波数fxとfyとが異なるようにするための具体的な方法を説明する。
一般に、アクチュエータ部140の幅W1をアクチュエータ部150の幅W2よりも狭くすると、鏡面部130のX軸に沿った方向の共振周波数を、Y軸に沿った方向の共振周波数よりも高くする効果が得られる。もちろん、これとは逆に、Y軸に沿った方向の共振周波数をX軸に沿った方向の共振周波数よりも高く設定する場合は、アクチュエータ部140の幅W1をアクチュエータ部150の幅W2よりも広くする設定を行えばよい。
一方、図32(A)は、各アクチュエータ部140、150の厚みを調整した可動反射素子100の上面図であり、図32(B)は、この可動反射素子100をXZ面に沿って切断した側断面図である。この可動反射素子100もA層、B層、C層、D層の4層構造を有しているが、図32(A)、(B)では、D層の図示は省略されている。なお、図32(A)に施したハッチングは、厚みが同一の領域を示すためのものであり、断面を示すためのものではない。
図32(A)に示すように、この可動反射素子100は、固定枠110、可動枠120、鏡面部130、アクチュエータ部140、アクチュエータ部150を有している。図32(A)には、図32(B)の上面図に示す各構成要素の層構造が示されている。
図32(A)、(B)に示す可動反射素子100では、アクチュエータ部140の厚みをT1とし、アクチュエータ部150の厚みをT2とした場合に、厚みT1と厚みT2とが異なる値に設定されている。具体的には、アクチュエータ部140の厚みT1はアクチュエータ部150の厚みT2に比べて小さくなっている。なお、可動枠120の厚みT3は、鏡面部130の厚みT2より大きくなっているが、これは、鏡面部130を可動枠120の内部に宙吊りとなるように支持するためである。
図32(A)、(B)では、便宜上、厚みT1を有する領域(アクチュエータ部140の部分)には縞のハッチングを施し、厚みT2を有する領域(アクチュエータ部150、鏡面部130の部分)はかご網目状及び等間隔斜線とし、厚みT3を有する領域(固定枠110の部分)にはチェック模様のハッチングを施してある。
厚みT1、T2に関して、T1<T2と設定すると、鏡面部130のX軸に沿った方向に関する第k次共振周波数fx(k)とY軸に沿った方向に関する第k次共振周波数fy(k)との関係を、fx(k)>fy(k)とすることができる。したがって、上例のように、X軸に沿った方向に関する共振周波数が10kHzとなり、Y軸に沿った方向に関する共振周波数が100Hzとなるような構造体を実現しやすくなる。実際には、k=1として、鏡面部130のX軸に沿った方向に関する1次共振周波数fx(1)とY軸に沿った方向に関する1次共振周波数fy(1)との関係を、fx(1)>fy(1)とすれば十分である。
このことは、他の実施の形態に係る可動反射素子100についても同様であり、一般に、アクチュエータ部140の厚みT1をアクチュエータ部150の厚みT2よりも小さくすると、鏡面部130のX軸に沿った方向の共振周波数をY軸に沿った方向の共振周波数よりも高くする効果が得られる。もちろん、逆に、Y軸に沿った方向の共振周波数をX軸に沿った方向の共振周波数よりも高く設定する場合は、T2<T1なる設定を行えばよい。
以上、共振周波数fxとfyとが異なるようにする調整方法として、各アクチュエータ部140、150の幅を調整する方法と各アクチュエータ部140、150の厚みを調整する方法(図32(A)、(B))とを述べたが、これ以外にも、各アクチュエータ部140、150の長さを調整する方法がある。もちろん、これらの方法を組み合わせて調整を行うことも可能である。実際の設計にあたっては、三次元設計データに基づくシミュレーションによって、各座標軸方向の共振周波数を求め、試行錯誤による設計変更を繰り返して、所望の共振周波数をもつ構造体を決定する作業を行えばよい。
(フィードバック制御)
上述したように、図29に示すプロジェクタ80を構成するコントローラ22は、可動反射素子100の反射面MをX軸方向およびY軸方向に振動させる駆動機能を有しているが、実用上は、このような駆動を適切に行うために、コントローラ22にフィードバック制御機能をもたせておくのが好ましい。図33は、このようなフィードバック制御機能を備えたプロジェクタ80の模式図である。なお、可動反射素子100の上面図におけるハッチングは、D層の平面形状パターンを明瞭に示すためのものであり、断面を示すためのものではない。
二次元走査装置20は、可動反射素子100とコントローラ22とによって構成されている。可動反射素子100は、例えば、図17(A)に示す可動反射素子100と同様の構造を有している。
図17(A)に示す可動反射素子100には、一対のアクチュエータ部140のそれぞれに、2組の圧電素子(1組は、D層(上部電極層)140Dを有する圧電素子、もう1組は、D層(上部電極層)160Dを有する圧電素子)が形成され、アクチュエータ部150のそれぞれに、2組の圧電素子(1組は、D層(上部電極層)150Dを有する圧電素子、もう1組は、D層(上部電極層)170Dを有する圧電素子)が形成されている。
すなわち、アクチュエータ部140、150には、合計4組の圧電素子が設けられている。これら4組の圧電素子のうちの一部は駆動用圧電素子として機能し、他の一部は検出用圧電素子として機能する。具体的には、D層(上部電極層)140D及び150Dの領域に形成される圧電素子は駆動用圧電素子として機能し、D層(上部電極層)160D及び170Dの領域に形成される圧電素子は検出用圧電素子として機能する。
もっとも、4組の圧電素子の基本的な層構成は同一であり、その物理的な構成や基本機能に差があるわけではない。ここで、各圧電素子を「駆動用圧電素子」や「検出用圧電素子」と呼んで区別しているのは、専らコントローラ22側から見たときの機能を区別するためである。各圧電素子のB層(下部電極層)100Bは接地電位に固定されており、各D層(上部電極層)140D、150D、160D、170Dは、図33に示すコントローラ22の内部に設けられたX軸方向振動制御部221もしくはY軸方向振動制御部222に接続されている。
ここで、X軸方向振動制御部221からD層(上部電極層)150Dに対しては、X軸方向駆動信号Dxが与えられ、Y軸方向振動制御部222からD層(上部電極層)140Dに対しては、Y軸方向駆動信号Dyが与えられる。これら駆動信号Dx,Dyは、例えば、図30(A)又は図31(A)に示す駆動信号である。一方、D層(上部電極層)170Dの電圧を示す信号は、X軸方向検出信号SxとしてX軸方向振動制御部221にフィードバックされ、D層(上部電極層)160Dの電圧を示す信号は、Y軸方向検出信号SyとしてY軸方向振動制御部222にフィードバックされる。
X軸方向振動制御部221は、このX軸方向検出信号Sxをフィードバック信号として参照してX軸方向駆動信号Dxを生成するフィードバック制御を行い、Y軸方向振動制御部222は、このY軸方向検出信号Syをフィードバック信号として参照してY軸方向駆動信号Dyを生成するフィードバック制御を行う。
ここで、アクチュエータ部140、150に形成された圧電素子を構成するC層(圧電材料層)100Cは、前述の通り、D層(上部電極層)100DとB層(下部電極層)100Bとの間に所定極性の電圧を印加すると、図5(B)、(C)に示すように、長手方向に伸縮する性質を有している。このため、圧電素子を駆動素子として捉えた場合は、電圧の印加により機械的な変形(応力)を生じる素子ということになるが、逆に、この圧電素子を検出素子として捉えると、生じた機械的な変形(応力)を電気信号として検出する素子ということもできる。
具体的には、図5(A)に示す圧電素子には、外力の作用によって図5(B)に示すような変形が生じると、D層(上部電極層)100D側に正電荷、B層(下部電極層)100B側に負電荷が生じる分極作用があり、外力の作用によって図5(C)に示すような変形が生じると、D層(上部電極層)100D側に負電荷、B層(下部電極層)100B側に正電荷が生じる分極作用がある。上述したX軸方向検出信号Sxは、アクチュエータ部150の変形に起因して、D層(上部電極層)170Dに発生した電荷を示す信号であり、図7(B)、(C)に示すような変形状態におけるアクチュエータ部150の上面の伸縮程度を示している。同様に、上述したY軸方向検出信号Syは、アクチュエータ部140の変形に起因して、D層(上部電極層)160Dに発生した電荷を示す信号であり、図18(B)、(C) に示すような変形状態におけるアクチュエータ部140の上面の伸縮の度合いを示している。
X軸方向駆動信号Dx及びY軸方向駆動信号Dyとして、駆動信号を供給すると、各アクチュエータ部140、150に形成された駆動用圧電素子は所定周期で伸縮運動を繰り返すことになるが、その結果、各アクチュエータ部140、150に形成された検出用圧電素子にも所定周期で伸縮運動が生じることになる。フィードバック信号としてコントローラ22に戻されるX軸方向検出信号SxおよびY軸方向検出信号Syは、このような各アクチュエータ部140、150の周期的な伸縮運動を示す信号ということになり、鏡面部130のX軸方向およびY軸方向の振動を示す信号となる。
前述のように、レーザ光源30から照射されたレーザビームは、鏡面部130の反射面Mで反射して、スクリーン10上の所定位置にスポットSを形成することになる。したがって、X軸方向検出信号Sxは、スポットSのX軸方向の位置を示す信号に相当し、Y軸方向検出信号Syは、スポットSのY軸方向の位置を示す信号に相当する。X軸方向振動制御部221は、スクリーン10上のスポットSのX軸方向の位置を示す信号Sxに基づいて、スポットSをスクリーン10上でX軸に沿った方向に走査するためのX軸方向駆動信号Dxを生成するフィードバック制御を行うことができる。同様に、Y軸方向振動制御部222は、スクリーン10上のスポットSのY軸に沿った方向の位置を示す信号Syに基づいて、スポットSをスクリーン10上でY軸に沿った方向に走査するためのY軸方向駆動信号Dyを生成するフィードバック制御を行うことができる。
以上、図33に示す可動反射素子100についてフィードバック制御を行う場合を説明したが、一般論として説明すれば、可動反射素子100の1つもしくは複数のアクチュエータ部140、150にそれぞれ複数の圧電素子を設けるようにし、この複数の圧電素子の一部を駆動用圧電素子として機能させ、別の一部は検出用圧電素子として機能させるようにすればよい。ここで、駆動用圧電素子は、コントローラ22から供給される駆動信号に基づいて鏡面部130を揺動させる機能を果たし、検出用圧電素子は、鏡面部130の揺動に起因して発生した電荷を示す検出信号をコントローラ22にフィードバックする機能を果たす。そうすれば、コントローラ22は、この検出信号に基づいて駆動信号に対するフィードバック制御を行うことができる。
より具体的には、コントローラ22には、X軸方向振動制御部221とY軸方向振動制御部222とを設けておくようにする。ここで、X軸方向振動制御部221は、X軸に沿って延びたアクチュエータ部150に設けられた検出用圧電素子からフィードバックされるX軸方向検出信号Sxに基づいて、アクチュエータ部150に設けられた駆動用圧電素子に供給するX軸方向駆動信号Dxを生成すればよい。また、Y軸方向振動制御部222は、Y軸に沿って延びたアクチュエータ部140に設けられた検出用圧電素子からフィードバックされるY軸方向検出信号Syに基づいて、アクチュエータ部140に設けられた駆動用圧電素子に供給するY軸方向駆動信号Dyを生成すればよい。
このように、コントローラ22にフィードバック制御機能を設けておけば、鏡面部130の揺動運動が適切に行われているか否かを監視しながら、適切な揺動運動から外れる場合には、これを自動的に修正する制御が可能になる。
図33に示す表示制御装置40は、外部から与えられる画像データに基づいて、スクリーン10上に画像を表示させる処理を行う装置であり、レーザ光源30に対して所定のタイミングで画像データ(個々の画素の画素値を示すデータ)に基づく変調信号を提供するとともに、X軸方向振動制御部221に対してX軸方向走査制御信号Cxを与え、Y軸方向振動制御部222に対してY軸方向走査制御信号Cyを与える。
ここに示す例の場合、X軸方向走査制御信号Cxには、X軸に沿った方向に関する所定振幅Gxを示す情報および所定周波数φxを示す情報が含まれており、Y軸方向走査制御信号Cyには、Y軸に沿った方向に関する所定振幅Gyを示す情報および所定周波数φyを示す情報が含まれている。表示制御装置40は、これら走査制御信号Cx,Cyを用いて、鏡面部130の揺動運動の振幅および周波数を所望の値に設定することができる。振幅Gx,Gyを大きな値に設定すればするほど、スクリーン10上には大きな画像が表示されることになり、周波数φx,φyを大きな値に設定すればするほど、スクリーン10上には早いフレームレートで画像表示を行うことができる。
なお、前述したとおり、実用上は、効率的な振動が可能になるように、X軸に沿った方向に関する所定周波数φxとしては、可動反射素子100に固有のX軸方向共振周波数fxを設定し、Y軸に沿った方向に関する所定周波数φyとしては、可動反射素子100に固有のY軸方向共振周波数fyを設定するのが好ましい。
X軸方向振動制御部221は、フィードバックされたX軸方向検出信号Sxの振幅および周波数が、X軸方向走査制御信号Cxによって指示された所定振幅Gxおよび所定周波数φxに応じた値になるように、X軸方向駆動信号Dxの振幅および周波数を増減するフィードバック制御を行う。同様に、Y軸方向振動制御部222は、フィードバックされてきたY軸方向検出信号Syの振幅および周波数が、Y軸方向走査制御信号Cyによって指示された所定振幅Gyおよび所定周波数φyに応じた値になるように、Y軸方向駆動信号Dyの振幅および周波数を増減するフィードバック制御を行う。
なお、X軸方向振動制御部221から表示制御装置40に対しては、X軸方向走査位置信号Uxが与えられ、Y軸方向振動制御部222から表示制御装置40に対しては、Y軸方向走査位置信号Uyが与えられる。ここで、X軸方向走査位置信号Uxは、スクリーン10上のスポットSのX軸に沿った方向に関する現在位置(位相)を示す信号であり、Y軸方向走査位置信号Uyは、スクリーン10上のスポットSのY軸に沿った方向に関する現在位置(位相)を示す信号である。これら走査位置信号UxおよびUyは、それぞれX軸方向検出信号SxおよびY軸方向検出信号Syの位相に基づいて生成することができる。
表示制御装置40は、これら走査位置信号UxおよびUyに基づいて、スクリーン10上のスポットSの現在位置を認識することができるので、画像データに基づいて、位置に応じた画素の画素値を示すデータを変調信号としてレーザ光源30に提供できる。レーザ光源30は、こうして提供された変調信号に基づいて、発生するレーザビームの強度を変調することができる。したがって、図31(B)に示すような「8の字状走査方式」を採用した場合にも、スクリーン10上のスポットSの位置には、位置に応じた適切な画素を表示することができる。
(自励振制御)
これまで、鏡面部130を揺動運動させる際に、個々の軸方向に関する固有の共振周波数で振動させるような駆動を行うと良好なエネルギー効率が得られることを説明し、予め用途が定められている可動反射素子100の場合は、固有の共振周波数が、予定されている駆動信号の周波数になるような設計を行うのが好ましいことを説明した。そして、表示制御装置40からコントローラ22に与える制御信号Cx,Cyによって、固有の共振周波数fx,fyによる振動を指示するのが好ましいことを説明した。
しかしながら、実際には、表示制御装置40によって、可動反射素子100の正確な共振周波数fx,fyを指示することが難しい場合がある。これは、同一の設計図に基づいて多数の量産品を製造したとしても、可動反射素子100の固有の共振周波数は同一にはならないからである。その第1の要因は、量産工程におけるバラツキによって個体間に寸法誤差が生じるためである。同一規格で生産された工業製品であっても、個々の個体によって、若干の寸法誤差が生じることは避けられない。
第2の要因は、この可動反射素子100をプロジェクタなどに実装する際の取り付け態様に起因して、それぞれ固有の応力歪みが生じるためである。例えば、図29に示すプロジェクタ80の場合、可動反射素子100を二次元走査装置20の構成部品として、プロジェクタ80の本体内に取り付ける必要があるが、このとき、ネジ、半田、接着剤などを用いて固定枠110を固定すると、取り付け態様に応じて、固定枠110にそれぞれ固有の応力歪みが生じることになり、共振周波数を変動させる要因になる。
そして、第3の要因は、使用時に、温度などの外部環境が変動するためである。例えば、夏と冬とでは、使用環境の温度が大きく異なるため、共振周波数も大きく変動する。また、プロジェクタなどに内蔵して利用する場合は、始動後に光源の温度が徐々に上昇してゆくため、分単位で使用環境の温度が変動することになる。
このように、実際には、種々の要因によって共振周波数の変動は避けられないため、図33に示すフィードバック制御機能を備えたプロジェクタ80であっても、表示制御装置40側から、制御信号Cx,Cyによって、コントローラ22に対して可動反射素子100の固有の共振周波数fx,fyを正確に指示することが難しい場合がある。
ここでは、上述した種々の要因によって共振周波数が変動しても、正確な共振周波数fx,fyで鏡面部130を振動させることが可能な変形例について説明する。その基本原理は、X軸方向振動制御部221およびY軸方向振動制御部222に自励振制御機能を持たせることにある。すなわち、X軸方向振動制御部221は、鏡面部130をX軸に沿った方向に関して、所定振幅Gxおよび共振周波数fxで振動させるX軸方向自励振制御を行い、Y軸方向振動制御部222は、鏡面部130をY軸に沿った方向に関して、所定振幅Gyおよび共振周波数fyで振動させるY軸方向自励振制御を行う。
表示制御装置40から二次元走査装置20に与えられるX軸方向走査制御信号Cxは、X軸に沿った方向に関して所定振幅Gxで走査を行うべきことを示す走査指示の信号であり、周波数を指定する情報は含まれていない。同様に、表示制御装置40から二次元走査装置20に与えられるY軸方向走査制御信号Cyは、Y軸に沿った方向に関して所定振幅Gyで走査を行うべきことを示す走査指示の信号であり、周波数を指定する情報は含まれていない。
二次元走査装置20は、この走査指示に基づいて、鏡面部130で反射したレーザビームによりスクリーン10上に形成されるスポットSが、スクリーン10上を二次元的に移動するように鏡面部130を揺動運動させる。このとき、揺動運動の振幅が、表示制御装置40から指示された所定振幅Gx,Gyに応じたものになるように振幅制御が行われるが、揺動運動の周波数は、外部からの指定を受けることなしに、二次元走査装置20が自身で決定することになる。
具体的には、二次元走査装置20内のX軸方向振動制御部221に対して、表示制御装置40から所定振幅Gxでの振動を指示するX軸方向走査制御信号Cxが与えられると、X軸方向振動制御部211は、このX軸方向走査制御信号Cxに基づいてX軸に沿った方向における自励振制御を行う。同様に、二次元走査装置20内のY軸方向振動制御部222に対して、表示制御装置40から所定振幅Gyでの振動を指示するY軸方向走査制御信号Cyが与えられると、Y軸方向振動制御部222は、このY軸方向走査制御信号Cyに基づいてY軸に沿った方向における自励振制御を行う。
このような自励振制御は、フィードバック信号として与えられるX軸方向検出信号SxおよびY軸方向検出信号Syの位相を検出することによって行うことができる。これは、一般に、ある振動系に対して所定の駆動信号Dを与えて振動子を振動させている状態においては、この振動子の実際の動きを検出信号Sとして検出した場合、振動子が固有の共振周波数で振動しているならば、駆動信号Dと検出信号Sとの位相差がπ/2になる、という基本原理を利用できるためである。
図33に示すように、X軸方向振動制御部221から可動反射素子100に対してはX軸方向駆動信号Dxが与えられ、そのフィードバック信号としてX軸方向検出信号Sxが戻される。このとき、検出信号Sxは駆動信号Dxより若干位相が遅れた信号になる。これは、駆動信号Dxに基づいて圧電素子が機械的変形を生じて、実際に変位が生じるまでに遅延時間が生じるためである。そして、上述の基本原理によると、X軸に沿った方向の振動周波数が共振周波数fxであれば、駆動信号Dxと検出信号Sxとの位相差はπ/2になる。したがって、X軸方向振動制御部221は、位相差が常にπ/2に維持されるように、駆動信号Dxの位相を調整するフィードバック制御を行えばよい。
同様に、Y軸方向振動制御部222から可動反射素子100に対してはY軸方向駆動信号Dyが与えられ、そのフィードバック信号としてY軸方向検出信号Syが戻される。この場合も、Y軸に沿った方向の振動周波数が共振周波数fyであれば、駆動信号Dyと検出信号Syとの位相差はπ/2になる。したがって、Y軸方向振動制御部222は、位相差が常にπ/2に維持されるように、駆動信号Dyの位相を調整するフィードバック制御を行えばよい。
X軸方向振動制御部221には、鏡面部130のX軸に沿った方向に関する振幅が所定振幅Gxに維持されるように、フィードバックされるX軸方向検出信号Sxの振幅に基づいてX軸方向駆動信号Dxの振幅を増減するとともに、鏡面部130のX軸に沿った方向に関する振動周波数が共振周波数fxに維持されるように、X軸方向駆動信号DxとX軸方向検出信号Sxとの位相差をπ/2に維持するフィードバック制御を行う自励振回路を組み込んでおけばよい。
同様に、Y軸方向振動制御部222には、鏡面部130のY軸に沿った方向に関する振幅が所定振幅Gyに維持されるように、フィードバックされるY軸方向検出信号Syの振幅に基づいてY軸方向駆動信号Dyの振幅を増減するとともに、鏡面部130のY軸に沿った方向に関する振動周波数が共振周波数fyに維持されるように、Y軸方向駆動信号DyとY軸方向検出信号Syとの位相差をπ/2に維持するフィードバック制御を行う自励振回路を組み込んでおけばよい。
このような自励振制御機能をコントローラ22に持たせておけば、二次元走査装置20は、外部から周波数の指定を受けることなく、自律して鏡面部130を正確な共振周波数で振動させることができる。すなわち、共振周波数が個々の個体ごとに異なっていても、温度環境などに依存して時間的に変化しても、鏡面部130を正しい共振周波数で振動させることができ、良好なエネルギー効率をもった動作を確保することができる。
なお、一般的な自励振回路では、駆動信号Dx,Dyとして、図31(A)に示すような正弦波信号を用いる必要があるので、ビームの走査方式は、図31(B)に示すような「8の字状走査方式」が採用される。このため、スクリーン10上に正しい画像表示を行うためには、表示制御装置40は、スポットSの走査位置を把握して、位置に応じた画素に対応する変調信号をレーザ光源30に与える必要がある。図33に示すX軸方向走査位置信号UxおよびY軸方向走査位置信号Uyは、このような便宜を図るために表示制御装置40に与えられる信号である。
すなわち、X軸方向振動制御部221は、X軸方向検出信号Sxの位相が所定値に達したことを示すX軸方向走査位置信号Uxを表示制御装置40に与え、Y軸方向振動制御部222は、Y軸方向検出信号Syの位相が所定値に達したことを示すY軸方向走査位置信号Uyを表示制御装置40に与える。表示制御装置40は、X軸方向走査位置信号UxおよびY軸方向走査位置信号Uyによって示されるタイミングを参照して、画像データに含まれる個々の画素に対応する変調信号を適切なタイミング(スクリーン10上において、スポットSが画素に対応する位置になるタイミング)でレーザ光源30に与える処理を行う。
例えば、X軸方向走査位置信号Uxとして、X軸方向検出信号Sxの位相が0,π/2,π,3π/2のタイミングになった時点を示す信号を用いることにすれば、スクリーン10上のスポットSの、図31(B)における各走査点Q1,Q2,Q3,... ,Q19に到達した各タイミングが、表示制御装置40に報告されることになる。同様に、Y軸方向走査位置信号Uyとして、Y軸方向検出信号Syの位相が0,π/2,π,3π/2のタイミングになった時点を示す信号を用いることにすれば、スクリーン10上のスポットSの、図31(B)における各走査点Q1,Q7(往路),Q13,Q7(復路)に到達した各タイミングが、表示制御装置40に通知されることになる。
もちろん、走査位置信号Ux,Uyとして、例えば、位相が0,π/4,π/2,3π/4,π,5π/4,3π/2,7π/4のタイミングになった時点を通知する詳細な信号を用いるようにすれば、スポットSのより正確な位置情報を伝達することができる。
なお、前述の実施の形態では、X軸方向振動制御部221及びY軸方向振動制御部222の双方に自励振制御機能を持たせているが、いずれか一方のみに自励振制御機能を持たせるようにしても構わない。例えば、X軸方向振動制御部221にのみ自励振制御機能をもたせ、Y軸方向振動制御部222に対しては、所定の振動周波数φyを指定する情報をもったY軸方向走査制御信号Cyを与えるようにすれば、X軸に沿った方向に関しては、共振周波数fxによる自励振が行われ、Y軸に沿った方向に関しては、外部から指定した周波数φyによる励振が行われることになる。
この発明は、この発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、この発明の範囲を限定するものではない。すなわち、この発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。