開示の詳細な説明
本開示は、オイゲノールのフェルラ酸への生物変換、およびその後のバニリンへのさらなる変換を通してフェルラ酸を製造するための方法を提供する。生物変換は、Escherichia coli細菌などの細胞系において媒介することができる。
本開示の一態様は、フェルラ酸を製造する生物変換方法であって、該方法は、細胞系においてVaoA遺伝子を発現させること、細胞系においてMtSAD1遺伝子を発現させること、細胞を培地中で増殖させること、細菌にオイゲノールを供給すること、細菌をインキュベートすること、ならびにフェルラ酸を収集することを含む。2つの前述の遺伝子の発現は、フェルラ酸を製造する方法を提供する。他の遺伝子の発現は、当該方法を増強するためにのみ役立つ。生物変換方法は、細胞系におけるAtADH遺伝子のさらなる発現を含んでもよい。AtADHの発現は、フェルラ酸を製造するための生物変換経路を増強する。生物変換経路を増強するために、細胞系においてcalA遺伝子をさらに発現させてもよい。同様に、同じまたは類似の生合成経路を増強する目的のために、細胞系においてcalB遺伝子をさらに発現させてもよい。細胞系は、フェルラ酸の蓄積を促進することができる任意の数の細胞系であってよい。一態様は、E. coliなどの細菌に基づく細胞系を用いる。別の態様は、Amycolatopsisに基づく細胞系を利用する。さらなる態様は、酵母に基づく細胞系を利用する。発現されたMtSAD1は、アミノ酸配列番号1またはそのバリアント、相同体、変異体、誘導体もしくはフラグメントに基づく。代替的態様において、発現されたMtSAD1は、配列番号1に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸に基づく。あるいは、発現されたMtSAD1は、配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸に基づく。さらに、一態様において、発現されたMtSAD1は、E. coliから発現されるアミノ酸配列に基づく。
用語「生物変換」は、本明細書において用いられる場合、例えば細胞培養中の宿主細胞(特に微生物宿主細胞)中でのin vivo生成による、生成物の生成であって、この細胞による生成が、任意に、さらなる生合成生成ステップ(例えば先のものとは異なる宿主細胞中での)と、および/または、例えばin vitro反応による、化学合成の反応と組み合わせることができるものを、特に指すであろう。用語「生物変換」は、明細書を通して、用語「生体内変換」および/または「生合成」または「生合成的な」と、交換可能に用いられる。
用語「バニリル−アルコールオキシダーゼ(VaoA)」とは、本明細書において用いられる場合、Penicillium simplicissimumからの、広範なパラ置換化合物に対して活性な共有結合性フラボタンパク質を指す。VaoAは、オイゲノールを含む4−アルキルフェノール類の酸化を触媒する。VaoA酵素(EC 1.1.3.38)はまた、宿主細胞において発現されて、任意の形態のバニリルアルコールをバニリンへと酸化することができる。VaoA酵素は、当該分野において公知であり、限定されないが、Fusarium onilifomis(GENBANK受入番号AFJ11909)およびPenicillium simplicissium(GENBANK受入番号P56216; Benen, et al. (1998) J. Biol. Chem. 273:7865-72)などの糸状菌、ならびにModestobacter marinus(GENBANK受入番号YP_006366868)、Rhodococcus jostii(GENBANK受入番号YPJ703243.1)およびR. opacus(GENBANK受入番号EHI39392)などの細菌からの酵素が挙げられる。Penicillium simplicissimumからのVaoAのcDNAはまた、国立生物工学情報センター(GenBank)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)から、参照Y15627により入手可能である。VaoA ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、本明細書においてそれぞれ配列番号6および配列番号5として提供される。
本開示の方法は、二機能性であることが発見された、植物であるタルウマゴヤシから誘導されたMtSAD1のデヒドロゲナーゼ遺伝子産物を利用する。本質的には、MtSAD1は、calAおよびcalBの遺伝子産物の両方の活性を有する。したがって、MtSAD1は、calAおよびcalBの発現産物を置換することができ、それにより、潜在的に、オイゲノールからのフェルラ酸の生成のためのより効率的な生物変換/生合成経路が可能となる。したがって、VaoAおよびMtSAD1からの遺伝子産物は、オイゲノールをフェルラ酸に生物変換することができる。MtSAD1のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、は、本明細書において、それぞれ配列番号2および配列番号1として提供される。
オイゲノールは、そのIUPAC名:4−アリル−2−メトキシフェノールにより知られる。それはフェニルプロペン、アリル鎖で置換されたグアヤコールである。オイゲノールは、クローブ樹木であるSyzygium aromaticumのエッセンシャルオイルから工業スケールで単離することができる、相対的に安価な天然基質である。オイゲノールおよびイソオイゲノールは、フェニルプロペン、アリル鎖で置換されたグアヤコールである。オイゲノールは、フェニルプロパノイドのクラスの化学化合物のメンバーである。それは、特定のエッセンシャルオイルから、特にクローブ油、ナツメグ、シナモン、バジルおよび月桂樹から抽出される、透明から淡黄色の油性の液体である。それは、僅かに水溶性であり、有機溶媒中で可溶性である。それは、ピリッとしたクローブ様の芳香を有する。それは、クローブ芽油中に80〜90%、クローブ葉油中に82〜88%の濃度で存在する。
フェルラ酸は、化学的にはそのIUPAC名(E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシ−フェニル)プロプ−2−エン酸により知られる。それはまた、フェルラート(Ferulate)、コニフェル酸(Coniferic acid)およびトランス−フェルラ酸(E)−フェルラ酸としても知られる。フェルラ酸は、有機化合物の一種であるヒドロキシ桂皮酸である。それは、共有結合性側鎖としてアラビノキシランなどの植物細胞壁成分中に見出される豊富なフェノール性植物化学物質である。それは、トランス−桂皮酸に関連する。リグニンの成分として、フェルラ酸は、他の芳香族化合物の製造における前駆体である。
AtADHは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH2C4)である。AtADHのヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、国立生物工学情報センター(GenBank)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)において、参照NM_113359.3により入手可能である。AtADHのヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、本明細書において、それぞれ配列番号4および配列番号3として提供される。
CalA(EC 1.1.1.194)として知られるコニフェリル−アルコールデヒドロゲナーゼは、化学反応:
を触媒する酵素である。したがって、この酵素の2つの基質は、コニフェリルアルコールおよびNADP+であり、一方、その3つの生成物は、コニフェリルアルデヒド、NADPHおよびH+である。この酵素は、酸化還元酵素のファミリー、特にドナーのCH−OH基に対してNAD+またはNADP+をアクセプターとして作用するものに属する。この酵素クラスの系統名は、コニフェリル−アルコール:NADP+酸化還元酵素である。この酵素はまたCADとも称される。コニフェリルアルコールデヒドロゲナーゼのヌクレオチド配列は、国立生物工学情報センター(GenBank)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)において参照A92130により入手可能である。コニフェリルアルコールデヒドロゲナーゼ(CalA)についてのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列はまた、EP0845532, US2002/0182697A1およびUS6524831B2においても開示される。
CalB(EC 1.2.1.68)として知られるコニフェリル−アルデヒドデヒドロゲナーゼは、化学反応:
を触媒する酵素である。この酵素の4つの基質は、コニフェリルアルデヒド、H2O、NAD+およびNADP+であり、一方、その4つの生成物は、フェルラート、NADH、NADPHおよびH+である。この酵素は、酸化還元酵素のファミリー、特にドナーのアルデヒドまたはオキソ基に対してNAD+またはNADP+をアクセプターとして作用するものに属する。この酵素クラスの系統名は、コニフェリルアルデヒド:NAD(P)+酸化還元酵素である(Achterholt S, Priefert H, Steinbuchel A (1998).「Purification and characterization of the coniferyl aldehyde dehydrogenase from Pseudomonas sp.Strain HR199 and molecular characterization of the gene」、J. Bacteriol. 180 (17): 4387-91. PMC 107445. PMID 9721273を参照)。コニフェリルアルデヒドデヒドロゲナーゼヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、国立生物工学情報センター(GenBank)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)において参照AJ006231により入手可能である。コニフェリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(CalB)についてのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列はまた、EP0845532, US2002/0182697A1およびUS6524831B2においても開示される。
用語「遺伝子」とは、本明細書において用いられる場合、特に本開示の核酸分子またはポリヌクレオチドを指すであろう。これは、DNA、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、またはRNAであってよく、二本鎖または一本鎖であってよく、センスおよび/またはアンチセンス鎖であってよい。用語「遺伝子」は、特に、本明細書において用いられる場合、例えば全長ヌクレオチド配列またはそのフラグメントもしくは部分としてのポリヌクレオチドであって、酵素(例えば代謝経路の酵素)活性を有するポリペプチドをコードするもの、またはそれぞれそのフラグメントもしくは部分に適用される。
用語はまた、対応するゲノムDNAがイントロンを有し、したがって異なる配列を有する、cDNA;フランキング遺伝子の少なくとも一方を欠失するゲノムフラグメント;ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により生成され、フランキング遺伝子の少なくとも一方を欠失するcDNAまたはゲノムDNAのフラグメント;フランキング遺伝子の少なくとも一方を欠失する制限酵素切断フラグメント;融合タンパク質、ムテイン、または所与のタンパク質のフラグメントなどの天然に存在しないタンパク質をコードするDNA;ならびにcDNAまたは天然に存在する核酸の縮重バリアントである核酸などの別個の分子を含む。さらに、それは、ハイブリッド遺伝子、すなわち、天然に存在しない融合タンパク質をコードする遺伝子の一部である組み換えヌクレオチド配列を含む。
リボ核酸(RNA)分子は、in vitroでの転写により生成することができる。これらの分子のセグメントもまた、本開示の範囲内と考えられ、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により生成するか、または1もしくは2以上の制限エンドヌクレアーゼによる処理により生成することができる。核酸分子のセグメントは、遺伝子のDNAフラグメント、特に部分的な遺伝子のものとして言及されてもよい。フラグメントはまた、いくつかのオープンリーディングフレーム(ORF)、同じORFまたは異なるORFのいずれかの繰り返し、を含んでもよい。当該用語は特にコードヌクレオチド配列を指すであろうが、また、非コードである、例えば転写されないかもしくは翻訳されない配列、またはポリペプチドを完全にまたは部分的にコードするヌクレオチド配列をも含むであろう。本明細書において、例えば会合、多様化または組み換えのために用いられる遺伝子は、非コード配列、またはポリペプチドをコードする配列もしくはタンパク質をコードする配列、または首尾よい組み換えイベントのために十分な配列長さを有するそれらの部分もしくはフラグメントであってよい。より具体的には、前記遺伝子は、3bp、好ましくは少なくとも100bp、より好ましくは少なくとも300bpの最少の長さを有する。
単離されたDNAへの言及は、例えばcDNAまたはゲノムDNAのライブラリーまたはゲノムDNA制限酵素消化物中の、例えば制限酵素消化反応混合物または電気泳動ゲルスライス中の、何百から何百万もの他のDNA分子中に存在するDNAを意味しないことは、前記から明らかであろう。用語「単離された」ポリペプチドまたはペプチドフラグメントとは、本明細書において用いられる場合、天然に存在するカウンターパートを有しないか、または天然で(例えば植物中で)それに付随する成分から分離もしくは精製されているポリペプチドまたはペプチドフラグメントを指す。さらに、本開示の単離された核酸分子は、天然の状態においてはそれ自体としては見出されないセグメントを包含する。
本開示の単離されたポリペプチド(またはペプチドフラグメント)は、例えば天然のソースから(例えば植物ソースから)の抽出により;ポリペプチドをコードする組み換え核酸の発現により;または化学合成により、得ることができる。それが天然で起源とするソースとは異なる細胞系において生成されるポリペプチドは、天然ではそれに付随する成分を必然的に含まないであろうことから、「単離され」ている。単離の程度または純度は、任意の適切な方法、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析により、測定することができる。
本明細書において用いられる場合、用語「組み換えDNA」とは、以下のいずれかである:(1)いかなる天然に存在する配列とも同一でない配列を含むDNA、天然に存在しない(例えば、2つの本来では分離された配列のセグメントの、ヒトの介入を通しての人工の組み合わせ(例えば単離された核酸のセグメントの、例えば遺伝子工学技術による、人工の操作)により作成された)ポリヌクレオチドまたは核酸の配列、または(2)天然に存在する配列を有するDNA(例えばcDNAまたはゲノムDNA)に関して、生物のゲノム中の目的のDNAを含む遺伝子を挟む遺伝子のうちの少なくとも1つを含まないDNAであって、ここで、目的のDNAを含む遺伝子は天然に存在する。
用語「組み換えDNA」とは、本明細書において、特に核酸配列に関して用いられる場合はまた、組み換えDNA技術により生成された核酸またはポリヌクレオチド、例えば、任意に宿主細胞中に組み込まれる宿主細胞にとって異種のポリヌクレオチドを含むDNAコンストラクトを指すであろう。キメラヌクレオチド配列は、特に、組み換え分子として生成することができる。用語「組み換え」は、特に、交差または遺伝子モザイクを達成するための組み換えにより、またはこれによらずに、ポリヌクレオチドまたはその部分を一緒に結合する、ポリヌクレオチドの会合に適用されるであろう。例えば、それは、所望される機能の核酸セグメントを一緒に結合して所望される機能の組み合わせを作製するために行われる。本明細書において記載されるポリペプチドをコードする組み換え遺伝子は、当該ポリペプチドを発現させるために好適な1以上の調節領域にセンス方向において作動的に連結された、そのポリペプチドについてのコード配列を含む。多くの微生物は、ポリシストロン性mRNAから複数の遺伝子産物を発現することができるので、所望される場合は、それらの微生物のための単一の調節領域の制御下において、複数のポリペプチドを発現させることができる。コード配列と調節領域とは、調節領域とコード配列とが、当該調節領域が、配列の転写または翻訳を調節するために有効であるように配置される場合に、作動的に連結されると考えられる。
用語「組み換え」とは、本明細書において、特に酵素に関して用いられる場合、組み換えDNA技術により生成された、すなわち、所望される酵素をコードする外来DNAコンストラクトにより形質転換された細胞から生成された酵素を指すであろう。「合成」酵素とは、化学合成により調製されたものである。キメラ酵素は、特に、組み換え分子として生成することができる。用語「組み換えDNA」は、したがって、ベクター中に、自己複製プラスミドまたはウイルス中に、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に(または類似の細胞のゲノムに、天然の染色体位置とは異なる位置において)組み込まれた組み換えDNAを含む。
本開示のさらなる側面は、本開示のポリヌクレオチドまたは本開示のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質を含むベクターである。用語「ベクター」とは、細胞中に導入されることができるか、または、細胞中に含まれるタンパク質および/または核酸に導入することができる、タンパク質またはポリヌクレオチドまたはそれらの混合物を指す。導入されたポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質は、ベクターの導入の後で、細胞内で発現されることが好ましい。多様な遺伝子基質をプラスミド中に導入することができる。プラスミドは、しばしば、標準的なクローニングベクター、例えば細菌のマルチコピープラスミドである。基質は、同じプラスミド中に導入しても、異なるプラスミド中に導入してもよい。しばしば、少なくとも2つの型のベクターを含む細胞の選択を可能にするために、異なる型の選択可能なマーカーを有する少なくとも2つの異なる型のプラスミドを用いる。
好ましい態様において、本開示のベクターは、プラスミド、ファージミド、ファージ、コスミド、人工哺乳動物染色体、ノックアウトまたはノックインコンストラクト、合成核酸配列またはカセットを含み、サブセットは、直鎖状ポリヌクレオチド、プラスミド、メガプラスミド、合成または人工の染色体、例えば植物、細菌、哺乳動物または酵母の人工染色体の形態において生成することができる。
用語「組み換え宿主」はまた、「遺伝子改変された宿主細胞」としても言及され、異種核酸を含む宿主細胞を表す。
さらなる側面において、本開示の核酸分子は、発現制御配列に作動的に連結され、これが原核生物および/または真核生物宿主細胞における発現を可能にする。上で言及される転写/翻訳調節エレメントとして、限定されないが、誘導性または非誘導性の、構成的な、細胞周期により調節されるか、代謝的に調節される、プロモーター、エンハンサー、オペレーター、サイレンサー、リプレッサー、および当業者に公知であり、遺伝子発現を駆動するかまたは他に調節する他のエレメントが挙げられる。かかる調節エレメントとして、限定されないが、例えばtet-onまたはtet-off系、lac系、trp系の調節エレメントにおいて使用される、例えばCUP-1プロモーター、tet-リプレッサーのような、構成的発現を指揮するかまたは誘導性発現を可能にする調節エレメントが挙げられる。例として、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)は100μM〜1.0mMの濃度範囲においてタンパク質発現の効果的な誘導因子である。この化合物は、lacオペロンの転写を引き起こすラクトース代謝物であるアロラクトース(allolactose)の分子模倣物であり、したがって、遺伝子がlacオペレーターの制御下にある場合に、タンパク質発現を誘導するために用いられる。タンパク質発現を誘導する調節エレメントの別の例は、ラクトースである。
本明細書において用いられる場合、「作動的に連結される」とは、発現制御配列が目的のコード配列の発現を効果的に制御するように、遺伝子コンストラクト中に組み込まれることを意味する。
同様に、本開示の核酸分子は、さらなるポリペプチド配列、例えばマーカーまたはレポーターとして機能する配列をコードするハイブリッド遺伝子の部分を形成することができる。マーカーおよびレポーター遺伝子の例として、ベータ−ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、アデノシンデアミナーゼ(adenosine deammase:ADA)、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、ハイグロマイシン−B−ホスホトランスフェラーゼ(HPH)、チミジンキナーゼ(TK)、lacZ(ベータ−ガラクトシダーゼをコードする)、およびキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT)が挙げられる。本開示の実施に関連する標準的な手順の多くと同様に、当業者は、さらなる有用な試薬、例えばマーカーまたはレポーターの機能を果たすことができるさらなる配列を知っているであろう。
本開示の別の側面は、上で概略されるポリヌクレオチドまたはベクターにより遺伝子操作された宿主細胞である。本開示の目的のために用いることができる宿主細胞として、限定されないが、細菌(例えば、E. coliおよびB. subtilis)などの原核生物細胞であって、例えば本開示のポリヌクレオチド分子を含む組み換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNA発現ベクターにより形質転換することができるもの;酵母(例えば、SaccharomycesおよびPichia)のような簡単な真核生物細胞であって、例えば本開示のポリヌクレオチド分子を含む組み換え酵母発現ベクターにより形質転換することができるものが挙げられる。本開示のポリヌクレオチドを導入するために用いられる宿主細胞およびそれぞれのベクターに依存して、ポリヌクレオチドは、例えば染色体またはミトコンドリアDNA中に組み込まれても、例えばエピソームなどの染色体外に維持されても、または一過性のみで細胞中に含まれてもよい。
当該分野において周知であるように、以下のヌクレオチド配列の任意の1以上により、細胞をトランスフェクトすることができる。in vivoでの組み換えのために、ゲノムまたは他の遺伝子と組み換えされるべき遺伝子を、標準的なトランスフェクション技術を用いて宿主をトランスフェクトするために用いる。好適な態様において、複製起点を提供するDNAをコンストラクト中に含める。複製起点は、当業者により好適に選択され得る。遺伝子の性質に依存して、配列が、それら自体が複製起点として作動可能である遺伝子またはゲノムと共に既に存在する場合は、追加の複製起点がを必要としない場合がある。
外来性または異種性のDNAにより、かかるDNAが細胞内に導入された場合に、細胞を形質転換することができる。形質転換DNAは、組み込まれても組み込まれなくても、すなわち細胞のゲノム中に共有結合してもしなくてもよい。例えば原核生物、酵母および哺乳動物細胞においては、形質転換DNAは、プラスミドなどのエピソームエレメント上に維持されてもよい。真核生物細胞に関して、安定して形質転換された細胞は、形質転換DNAが、それが染色体の複製を通して娘細胞により受け継がれるように、染色体中に組み込まれたものである。この安定性は、真核生物細胞が形質転換DNAを含む娘細胞の集団からなる細胞株またはクローンを確立することができる能力により、実証される。
本開示はまた、組み換え宿主に注目する。本明細書において用いられる場合、用語、組み換え宿主とは、そのゲノムが少なくとも1つの組み込まれたDNA配列により増補されている宿主を指すことを意図する。かかるDNA配列として、限定されないが、天然に存在しない遺伝子、通常はRNAに転写されないかまたはタンパク質に翻訳(「発現」)されないDNA配列、および非組み換え宿主中に導入することが所望される他の遺伝子もしくはDNA配列が挙げられる。典型的には、本明細書において記載される組み換え宿主のゲノムは、1以上の組み換え遺伝子の安定な導入を通して増補されることが理解されるであろう。しかしながら、自律的または伴複製的なプラスミドまたはベクターもまた、本開示の範囲内において用いることができる。さらに、本開示は、低コピー数、例えば単一コピー、または高コピー数(本明細書において例示されるように)のプラスミドまたはベクターを用いて実施することができる。
一般に、導入されたDNAは、当該DNAのレシピエントである宿主中には元々は存在しないが、所与の宿主からDNAセグメントを単離すること、およびその後に、例えば遺伝子の生成物の産生を増強するために、または遺伝子の発現パターンを改変するために、そのDNAの1以上のさらなるコピーを同じ宿主中に導入することは、本開示の範囲内である。いくつかの例において、導入されたDNAは、例えば相同組み換えまたは部位特異的変異誘発により、内在性の遺伝子またはDNA配列を改変するか、またはこれを置き換えることすらある。好適な組み換え宿主として、微生物、植物細胞および植物が挙げられる。
本明細書において、特に遺伝子工学および1もしくは2以上の遺伝子もしくは会合した遺伝子のクラスターを細胞中へ導入することに関して用いられる、用語「細胞」または産生細胞とは、任意の原核生物または真核生物細胞を指すことが理解される。原核生物および真核生物宿主細胞は、いずれも、本開示による使用のために企図され、E. coliまたはBacillus sp.のような細菌宿主細胞、S. cerevisiaeなどの酵母宿主細胞、Spodooptera frugiperdaなどの昆虫宿主細胞、またはHeLaおよびJurkatなどのヒト宿主細胞を含む。
特に、細胞は、真核生物細胞、好ましくは真菌、哺乳動物もしくは植物細胞、または原核生物細胞である。好適な真核生物細胞として、例えば、限定することなく、哺乳動物細胞、酵母細胞、または昆虫細胞(Sf9を含む)、両生類細胞(メラノフォア細胞を含む)、またはCaenorhabditis属(Caenorhabditis elegansを含む)の細胞を含む線虫(worm)細胞が挙げられる。好適な哺乳動物細胞として、例えば、限定することなく、COS細胞(Cos-1およびCos-7を含む)、CHO細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293 T-RexTM細胞、または他のトランスフェクト可能な真核生物細胞株が挙げられる。好適な細菌細胞として、限定することなくE. coliが挙げられる。
好ましくは、E. coli、Bacillus、Streptomycesなどの原核生物、HeLa細胞もしくはJurkat細胞のような哺乳動物細胞、またはシロイヌナズナなどの植物細胞を用いることができる。
好ましくは、細胞は、Aspergillus sp.または真菌細胞であり、好ましくは、属Saccharomyces、Candida、Kluyveromyces、Hansenula、Schizosaccaromyces、Yarrowia、PichiaおよびAspergillusからなる群より選択することができる。
好ましくは、E.coli宿主細胞は、工業および規制の当局により認識されるE.coli 宿主細胞であるE.coli 宿主細胞である(限定されないが、E.coli K12宿主細胞を含む)。
本開示により使用するための1つの好ましい宿主細胞は、E. coliであり、これは本明細書において記載されるとおり、組み換えにより調製することができる。したがって、組み換え宿主はE. coliであってよい。E. coliについて利用可能な変異体、プラスミド、詳細なコンピューター代謝モデルおよび他の情報のライブラリーが存在し、これにより、生成物の収率を増強するための多様なモジュールの合理的な設計が可能になる。組み換えE. coli微生物を作製するために、Saccharomycesについての上記のものと類似の方法を用いてもよい。
一態様において、組み換えE. coli微生物は、VaoA、MtSAD1およびAtADH遺伝子、または、限定されないが、そのバリアント、相同体、変異体、誘導体もしくはフラグメントを含む、その機能的等価物/ホモロジーを含む。
好ましくは、組み換えE. coli微生物は、図2において提供されるとおり、CgVaoA-pETDuetコンストラクトを含む。
好ましくは、組み換えE. coli微生物は、図3において提供されるとおり、MtSADrbsAtADH-pRSFDuetコンストラクトを含む。
好ましくは、組み換えE.coli株は、オイゲノールをフェルラ酸に生物変換するプラスミドCgVaoA-pETDuetおよびMtSADrbsAtADH-pRSFDuetの両方を含む。
別の好ましい態様において、組み換えE.coli微生物は、echおよびfcs遺伝子、または、限定されないが、そのバリアント、相同体、変異体、誘導体もしくはフラグメントを含む、その機能的等価物/ホモロジーを含む。
本開示により使用するための別の好ましい宿主細胞は、S. cerevisiaeであり、これは、合成生物学において広範に用いられるシャーシ・オーガニズム(chassis organism)である。したがって、組み換え宿主は、S. cerevisiaeであってよい。S. cerevisiaeについて利用可能な変異体、プラスミド、詳細なコンピューター代謝モデルおよび他の情報のライブラリーが存在し、これにより、生成物の収率を増強するための多様なモジュールの合理的な設計が可能になる。組み換えS. cerevisiae微生物を作製するための方法は公知である。
Saccharomyces cerevisiaeの組み換え株を用いるオイゲノールの変換によるフェルラ酸およびコニフェリルアルコールの生成は、Lambert et al (2013) Flavour and Fragrance Journal DOI 10.1002/ffj.3173において開示されている(例えば、US8344119Bおよび/またはEP2126059を参照)。
用語「細胞」は、特に、単一の細胞、または細胞株などの細胞培養中で培養された細胞を含むであろう。
用語「産生細胞」とは、本明細書において用いられる場合、特に、産生方法または生合成の産物、例えば代謝経路の産物を産生するように、組み換えにより操作された細胞を指すであろう。
所望される生物変換の産物を産生するクローンを選択した後で、産物は、典型的には、産生宿主細胞株により、ラージスケールで、好適な発現系および発酵により、例えば細胞培養中での微生物による産生により、産生される。
用語「細胞株」とは、本明細書において用いられる場合、長期間にわたり増殖する能力を獲得した特定の細胞型の確立されたクローンを指す。用語「宿主細胞株」とは、ポリペプチドまたはかかるポリペプチドにより媒介される細胞代謝物を産生するように、内在または組み換え遺伝子または代謝経路の産物を操作するかおよび/またはこれを発現させるために用いられる細胞株を指す。「産生宿主細胞株」または「産生細胞株」は、産生方法または生合成の産物、例えば代謝経路の産物を得るために、バイオリアクター中での培養のためにすぐ使用できる細胞株であるものと一般的に理解される。
あるいは、以下の酵素VAO、MtSAD1、AtADA、CalA、CalB、FCSおよびECHの任意の1以上を、安定発現系または一過性発現系を用いて発現させてもよい。安定な細胞株の作製は、周知である。
本明細書において記載される組み換え宿主微生物は、フェルラ酸/バニリンを生成する方法において用いることができる。例えば、組み換え宿主が微生物である場合、方法は、培養培地中で、フェルラ酸および/またはバニリン生合成遺伝子が発現される条件下において、組み換え微生物を増殖させることを含んでもよい。
組み換え微生物は、回分、流加回分、または持続的方法、あるいはこれらの組み合わせにおいて増殖させることができる。典型的には、組み換え微生物は、発酵槽中で、規定の温度で、好適な栄養源、例えば炭素源の存在下において、オイゲノールをフェルラ酸/バニリンに生物変換するために、および所望される量のフェルラ酸および/またはバニリンを生成するために所望される期間にわたり、増殖させる。
組み換え宿主細胞微生物は、その後の生物変換ステップのために好適な細胞を提供するために、多数の方法において培養することができる。培養は、かかる細胞がその後の生物変換ステップのために用いられる予定である場合には全ての場合において、生細胞を生じる条件下において行われる。生物変換ステップのために適用可能な微生物は広範に変化し得るので(例えば、酵母、細菌および真菌)、培養条件は、無論、各々の種の特異的な必要条件に対して調整しなければならず、これらの条件は周知であり、文書化されている。本開示のその後の生物変換ステップにおいて利用可能な細胞を作製するために、組み換え宿主細胞微生物の細胞を増殖させるための当該分野において公知の任意の方法を用いることができる。
細胞の培養は、従来の様式において行う。培養培地は、炭素源、少なくとも1の窒素源および無機塩を含み、酵母抽出物をそれに添加する。この培地の構成要素は、問題の微生物の種を培養するために従来から用いられているものであり得る。
本方法において使用される炭素源として、組み換え宿主細胞により代謝されて、増殖ならびに/またはバニリンおよび/もしくはバニリングルコシドの産生を促進することができる、任意の分子が挙げられる。好適な炭素源の例として、限定されないが、スクロース(例えば糖蜜中に見出されるもの)、フルクトース、キシロース、エタノール、グリセロール、グルコース、セルロース、デンプン、セロビオースまたは他のグルコース含有ポリマーが挙げられる。
酵母を宿主として用いる態様においては、例えば、スクロース、フルクトース、キシロース、エタノール、グリセロールおよびグルコースなどの炭素源が好適である。炭素源は、培養期間全体にわたり宿主生物に提供してもよく、あるいは、生物を、一定の期間にわたり別のエネルギー源(例えばタンパク質)の存在下において増殖させて、次いで、流加回分期の間のみ炭素源を提供できる。
本開示における使用のための組み換え宿主細胞微生物の好適性は、簡単な試験手順により周知の方法を用いて決定することができる。例えば、試験されるべき微生物を、富栄養培地(例えば、LB培地、Bacto-トリプトン酵母抽出物培地、栄養培地など)中で、微生物の増殖のために一般的に用いられるpH、温度および通気条件下において増殖させることができる。細胞は、遠心分離または濾過により収集し、同化可能な炭素源を含まない同一の無菌培地で洗浄する。
洗浄した細胞を、0.1%のオイゲノールおよび0.1%のグルコースを含む最少培地(例えば、Mandels培地、MCGC培地、YNB培地)中で懸濁し、混合物を、通気しながら、または通気せずに(好ましくは約200rpmでの振とうにより通気しながら)、30℃でインキュベートする。12時間間隔でインキュベーション混合物から上清のアリコートを採取し、フェルラ酸についてHPLCにより分析する。フェルラ酸の存在は、フェルラ酸へのオイゲノール変換の指標である。
本開示の一態様において、M9Aなどの規定の最少培地を細胞培養のために用いる。
M9A培地の成分は、以下を含む:14g/LのKH2PO4、16g/LのK2HPO4、1g/Lのクエン酸Na3・2H2O、7.5g/Lの(NH4)2SO4、0.25g/LのMgSO4・7H2O、0.015g/LのCaCl2・2H2O、5g/Lのグルコースおよび1.25g/Lの酵母抽出物)。
一態様において、用いられる培地組成物がM9Aであったとき、特にフェルラ酸のバニリン酸への生物変換に関して、生物変換の促進が観察される。
本開示の別の態様において、LB(Luria-Bertani)などの富栄養培地を用いた。LBの成分は、以下を含む:10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母抽出物、5g/LのNaCl)。
本開示の別の態様において、グルコース酵母抽出物(GYE)培地を用いる。TSB培地の成分は、以下を含む:酵母抽出物、8g/L;グルコース、30g/L;MgSO4・7H2O、0.8g/L;Na2HPO4・7H2O、7.5g/L;ならびにKH2PO4、1.0g/L。
無機培地およびM9無機培地の他の例は、例えばUS 6524831B2およびUS 2003/0092143A1において開示される。
生物変換ステップを行うために、オイゲノールおよび細胞培養培地を含む水溶液を、組み換え宿主細胞微生物と接触させて、生物変換混合物を形成し、これを、オイゲノールのフェルラ酸への変換を促進するために必要なpH、温度および撹拌の条件下に維持する。
用語「混合物」は、本開示において、用語「培地」と交換可能に用いられる。
生物変換混合物がまた、微生物の生存能を促進するために必要な他の物質、例えば無機塩、バッファー、補助因子、栄養物質などを含むことが、非常に好ましい。フェルラ酸を分解する微生物の生存能の維持のための一般的な必要条件は、周知である。特定の微生物の生存能を維持するための特異的な必要条件もまた、文献においてよく文書化されており、または、そうでない場合は、技術を有する微生物学者により容易に決定される。好ましくは、生物変換混合物を形成するために用いられる溶液は、Mandels培地またはMCGC培地などの最少培地からなり、これに、オイゲノールおよび組み換え宿主細胞微生物を添加する。
混合物を、次いで、フェルラ酸および/またはバニリンの産生を促進するために必要なpHおよび温度に維持する。好ましいpHは、約pH3〜約pH7であり、好ましい温度は、約20℃〜約40℃である。さらに、生物変換混合物が、例えばグルコース、スクロース、フルクトース、マルトースなどの、組み換え宿主細胞微生物のために同化可能な炭素源を含むことが非常に好ましい。生物変換混合物中での同化可能な炭素源の使用は、フェルラ酸および/またはバニリンの収率を実質的に増大する。最も好ましい炭素源はグルコースである。
細胞の生存能を維持するための条件は、生物変換ステップ全体にわたり維持されなければならないが、活発な細胞増殖が起こる必要はない。実際には、このステップのために、組み換え宿主細胞が静止期にあることが好ましい。また、生物変換ステップの間に混合物中で還元条件が維持されることが好ましい。絶対的な嫌気条件は推奨されないが、バニリンの酸化を防ぐために、pHが約6.0より高い場合は特に、撹拌(stiring/agitation)を通しての生物変換混合物中への酸素の組み込みは最小化されることが好ましい。また無論、生物変換ステップを、不活性雰囲気下において、例えば窒素ブランケット下において行うことにより、酸素を除外してもよい。
好ましくは、生体内変換/生物変換混合物は、培養培地として用いられる培地であって、好ましくは本明細書において記載される組み換え宿主細胞/微生物またはその変異体を含むものである。
よく制御されたバイオリアクター中で流加回分および持続培養のために用いられる培地組成物は、以下のとおりであった:
いくつかの態様において、フェルラ酸は、オイゲノールなどの前駆体分子を含む原材料を供給されるホールセルを用いて生成する。原材料は、細胞増殖の間または細胞増殖の後で供給することができる。ホールセルは、懸濁液中にあっても固定されていてもよい。ホールセルは、発酵ブロスまたは反応バッファー中であってよい。いくつかの態様において、基質の細胞中への効率的な輸送のために透過処理剤が必要とされる場合がある。
本開示の生物変換方法は、オイゲノール源のバニリンへの最大の変換を提供するために、時間、温度、pH、栄養の型および濃度の条件、通気条件、メチオニン補充および限定されたグルコース濃度下で行われる。例1において詳細に記載されるとおり、好ましい態様において、流加回分発酵槽を用いてオイゲノール源をフェルラ酸に変換し、その後、フェルラ酸を有機抽出する(例えば、発酵ブロスを酸性化して有機溶媒で抽出する)か、またはpHの変化によりフェルラ酸を結晶化させ、有機溶媒抽出は用いない。流加回分発酵槽方法および有機抽出法は、当業者に公知である。オイゲノールは細胞にとって毒性であるので、細胞の完全性を維持して、反応を36−48−64時間の期間にわたり持続させるために、オイゲノールは、36−48−64時間の期間をかけてゆっくりと培養培地中に添加する。細胞が溶解した場合は、反応は停止し、収率は非常に低くなるであろう。したがって、オイゲノールは、任意の新たなオイゲノールを添加する前に変換が完了するように、繰り返し少量で添加する。宿主細胞は、可溶化したフェルラ酸を沈殿させるために有機溶媒を添加する前に、またはフェルラ酸を沈殿させるために酸(例えばHCl)を添加するまでに、培養培地から分離する。また、オイゲノールのフェルラ酸への変換率に影響を及ぼし得る正確なバイオマスを確実にするように注意する。
多くのフェルラ酸前駆体出発材料により示される微生物にとっての一般的な毒性に起因して、生物変換混合物中でのかかるものの濃度を限定することが必要である場合がある。したがって、生体内変換の間の任意の所与の時間において、出発材料の濃度が限定されることが好ましい。これは特に、脂溶性である傾向がある前駆体(例えばオイゲノール)について真実であり、これは、例えばフェルラ酸などの、より高い水溶性およびより低い毒性を有するものとは対照的である。前駆体がバニリンに変換されるにつれてこれを置き換えるために、生物変換ステップの経過全体を通して、複数回の前駆体の添加を行ってもよい。
好ましい態様において、生物変換混合物を、約30℃〜約37℃の温度、および約6.5〜約7.5のpHに維持する。生物変換混合物がまた、無機塩、バッファー、補助因子、栄養物質などの、組み換え微生物の生存能を促進するために必要な他の物質を含むことが好ましい。生物変換混合物は、好ましくは、定常状態の溶解酸素(DO)濃度に維持され、したがって、グルコースが限定された条件下に維持され、ここで、グルコース添加の速度は、溶解した酸素濃度のレベルにより決定される。微生物の生存能の維持のためのより一般的な必要条件は周知であり、特定の微生物の生存能を維持するための特異的な必要条件もまた、文献において文書化されることにより周知であり、またはそうでない場合は、当業者により容易に決定される。次いで、当該分野において公知の方法(例えば有機抽出)によりフェルラ酸を生物変換混合物から回収して、バニリンを産生する第2の組み換え宿主細胞と接触させることができる。
組み換え微生物を培養中で所望される期間にわたり増殖させた後で、次いで、当該分野において公知の多様な技術、例えば抽出、減圧蒸留、および水溶液からの多段階再結晶化、および超遠心による単離および精製を用いて、フェルラ酸を回収することができる。例として、細胞から培養ブロスを分離して、それを、限定されないが酢酸エチルなどの有機溶媒で抽出することにより、フェルラ酸を回収することができる。
好ましくは、精製は、精製液中でのフェルラ酸の溶解、および溶解しなかった不純物からのその分離を含む。
未精製の第1の材料は、溶液からの沈殿により、好ましくは結晶または大結晶状態で、得ることができる。溶液は、生物変換/生体内変換培地であっても、かかる培地から、例えば生体触媒(これは、ホールセル、細胞の部分、または固定された酵素であってよい)の除去、低温殺菌および濃縮などの1以上のステップにより誘導してもよい。生物変換/生体内変換培地は、一般に、通常はフェルラ酸のバニリンへの生体内変換によりバニリンを産生する生物変換/生体内変換方法からのものである。
他の態様において、フェルラ酸を、組み換え宿主から抽出物として単離する。このことに関して、フェルラ酸を単離してもよいが、必ずしも均一になるまで精製しなくともよい。
このことに関して、生物変換産物に関する用語「単離された」とは、それに付随する他の成分から分離または精製された生成物を意味する。
典型的には、生物変換産物は、それが、乾燥重量により少なくとも70%、それが関連しているタンパク質および他の材料を含まない場合に、「単離された」と考えられる。好ましくは、本開示の生物変換産物は、乾燥重量により少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも99%である。したがって、例えば、かかるフェルラ酸の調製物は、乾燥重量により少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも99%である。
いくつかの態様において、フェルラ酸は、均一(例えば、少なくとも90%、92%、94%、96%または98%純粋)になるまで単離および精製される。望ましくは、精製されるフェルラ酸の量は、約1mg/l〜約20,000mg/L(20g/L)またはそれ以上であり得る。
例えば約1〜約100mg/L、約30〜約100mg/L、約50〜約200mg/L、約100〜約500mg/L、約100〜約1,000mg/L、約250〜約5,000mg/L、約1,000(1g/l)〜約15,000mg/L(15g/l)、または約2,000(2g/l)〜約10,000mg/L(10g/l)、または約2,000(2g/l)〜約25,000mg/L(25g/l)、または約2,000(2g/l)〜約25,000mg/L(25g/l)、26,000mg/L(26g/l)、27,000mg/L(27g/l)、28,000mg/L(28g/l)、29,000mg/L(29g/l)、30,000mg/L(30g/l)のフェルラ酸を生成することができる。
一般的に、より長い培養時間は、より多量の生成物をもたらすであろう。したがって、組み換え微生物は、1日間〜7日間、1日間〜5日間、1日間〜3日間、3日間〜5日間、約3日間、約4日間、または約5日間にわたり培養することができる。
好ましくは少なくとも20g/lの濃度のフェルラ酸が、4〜120時間の期間内に生成される。
好ましくは約5〜6g/lの濃度のフェルラ酸が、約4〜約25時間の期間内に生成される。
好ましくは約15〜16g/lの濃度のフェルラ酸が、約4〜約40時間の期間内に生成される。
好ましくは約25〜27g/lの濃度のフェルラ酸が、約4〜約70時間の期間内に生成される。
例2が示すとおり、本開示は、生体内変換/生物変換方法を30Lの発酵容積(50Lの発酵ビヒクル中)までスケールアップした場合に、64時間のインキュベーションの後で回収されたフェルラ酸(26g/l)を提供する。
したがって、本開示は、フェルラ酸を製造するための方法を提供し、該方法は、(i)経済的に魅力的であり;(ii)環境に優しく;(iii)出発材料において豊富かつ相対的に安価な資源を利用し;ならびに(iv)高収率のフェルラ酸を提供するものである。
E.coliの組み換え株中でオイゲノールをフェルラ酸に変換するための生物変換/生体内変換方法が開示される。
好ましくは、組み換え宿主細胞微生物は、少なくとも3g/l、好ましくは少なくとも4g/l、5g/l、6g/l、7g/l、8g/l、9g/l、10g/l、11g/l、12g/l、13g/l、14g/l、15g/l、16g/l、17g/l、18g/l、19g/l、20g/l、21g/l、22g/l、23g/l、24g/l、25g/l、26g/l、27g/l、28g/l、29g/l、30g/lのフェルラ酸を含む培地を生成する。
異なる微生物によるオイゲノール、イソオイゲノールからのフェルラ酸産生は、過去10年間に研究された。オイゲノールは、フェルラ酸生成のための最も重要な原材料のうちの一つであり、クローブ樹木Syzygium aromaticumから抽出されたオイルの主要な構成要素である。EhyAB、CalAおよびcalB酵素により触媒される、オイゲノールエポキシド、オイゲノールジオール、コニフェリルアルコールおよびコニフェリルアルデヒドのような中間体を伴う、オイゲノールのフェルラ酸への生体内変換の機序を解明するために、多くの研究がおこなわれてきた。オイゲノールからフェルラ酸への経路(図1)は、Pseudomonas(HR199)の株において特徴づけられた(Rabenhorst J Arch Microbiol Biotechnol (1996) 46: 470-474)。反応は、オイゲノールヒドロキシラーゼ(ehyAおよびehyB遺伝子)、コニフェリルアルコールデヒドロゲナーゼ(calA)およびコニフェリルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(calB)により、首尾よく触媒される(Priefert et al 1999 Arch Microbiol (1999) 172: 354-363)。Penicillium simplicissimumからのバニリルアルコールオキシダーゼ(VaoA)はまた、オイゲノールを酸化してコニフェリルアルコールを生成することができる(Overhage et al (2003) Appl and Environ Microbiol 69(11) 6569-6576)。
シュードモナスに由来する遺伝子ehyABによりコードされるオイゲノールヒドロキシラーゼは、それぞれまたシュードモナスに由来するcalAおよびcalBによりコードされるコニフェリルアルコールデヒドロゲナーゼおよびコニフェリルアルデヒドデヒドロゲナーゼと共に、最初は、出願人により、細菌中でオイゲノールからフェルラ酸を生成するために利用された。
オイゲノールヒドロキシラーゼは、コニフェリルアルコールデヒドロゲナーゼおよびコニフェリルアルデヒドデヒドロゲナーゼと共に、オイゲノールのフェルラ酸への微生物変換において成功することを証明したが、方法を促進することができるより効果的な酵素が探索された。出願人はまた、バニリルアルコールオキシダーゼ(VaoA)をコードするPenicillium simplicissimumからのVaoA遺伝子は、オイゲノールのコニフェリルアルコールへの変換を触媒することができることを確認した。このVaoA酵素は、オイゲノールヒドロキシラーゼのフラボタンパク質サブユニットのアミノ酸配列と広範囲な相同の領域を共有する。コニフェリルアルコールデヒドロゲナーゼおよびコニフェリルアルデヒドデヒドロゲナーゼと組み合わされたバニリルアルコールオキシダーゼ(VaoA)は、オイゲノールのフェルラ酸への生物変換/生体内変換を促進する。
Overhageら(2003 Appl and Env Microbiol 69(11) 6569-6576)は、Penicillum simplicissimum CBS 170.90のVaoA遺伝子ならびにPseudomonas sp. HR199のCalAおよびcalB遺伝子からなるPlacベースの発現ベクター(pSKvaomPcalAmcalB)を用いて、Escherichia coliの組み換え株を構築し、これは、オイゲノールを、コニフェリルアルコール、コニフェリルアルデヒドおよび最終的にフェルラ酸に首尾よく変換し、モル濃度の収率は、15時間のインキュベーション中に91%であった。この生体内変換を30Lの発酵容積までスケールアップしたところ、30時間のインキュベーションの後でフェルラ酸(14.7g/l)を回収した(93.3%モル濃度収率)。インキュベーション時間を延長することにより、収率を改善するように当該方法を増強することができたか否かについては、データ/情報は提供されなかった。
本開示は、E.coliの組み換え株においてオイゲノールをフェルラ酸に変換するための生物変換/生体内変換方法を提供する。既知のPseudomonas sp.HR199の細菌CalA/CalB遺伝子(Overhage et al 2003 Appl and Env Microbiol 69(11) 6569-6576)において開示されるもの)が、植物に基づく遺伝子(MtSAD1およびAtADH1)で置き換えられ、これらは首尾よく、オイゲノールを、コニフェリルアルコール、コニフェリルアルデヒド、そして最終的にはフェルラ酸に変換した。この生体内変換を30Lの発酵容積までスケールアップしたところ、約64時間のインキュベーションの後で、フェルラ酸(26g/l)を回収した。開示される生物変換方法の一利点は、富栄養培養培地(LB、TSBまたはTBなど)よりも費用効率が高い無機培養培地(M9A培地など)中で、高い効率で発酵および変換を行うことができることである。
E.coliの組み換え株においてオイゲノールからフェルラ酸を製造するための生物変換方法の首尾よい開発により、バニリン生成のための低コストかつ工業的に経済的な方法を提供することができる。
本開示は、オイゲノールのフェルラ酸への生物変換、およびその後のバニリンへのさらなる変換を通してバニリンを生成するための方法を提供する。生物変換は、細菌Escherichia coliなどの細胞系において、同じ宿主細胞において、または異なる宿主細胞において(例えば異なるE.coli宿主細胞、もしくはE.coli株およびAmycolatopsis株などの異なる微生物種宿主細胞において)、媒介され得る。
したがって、本開示の別の態様は、バニリンを製造する方法であって、該方法は、細胞系においてVaoA遺伝子を発現させること、細胞系においてMtSAD1遺伝子を発現させること、細胞系を培地中で増殖させること、オイゲノールを細胞系に供給すること、細胞系をインキュベートすること、ならびにフェルラ酸をバニリンに変換することを含む。方法はさらに、細胞系においてADH遺伝子を発現させることを含んでもよい。ADHの発現は、バニリンを製造するための生合成経路を増強する。方法を増強するために、細胞系においてcalA遺伝子をさらに発現させてもよい。同様に、同じまたは同様の方法を増強する目的のために、細胞系においてcalB遺伝子をさらに発現させてもよい。フェルラ酸のバニリンへの生物変換に関しては、これは微生物により、特にフェルロイル−CoAシンテターゼ(FCS)、エノイル−CoAヒドラターゼ/アルドラーゼ(ECH)および任意にバニリンシンターゼを発現するものにより促進される。好適な微生物の例は、Pseudomonas sp. HR 199、Amycolatopsis sp. ATCC 39116、Amycolatopsis sp. HR167、Sphingomonas paucimobilis SYK-6、Pseudomonas fluorescens AN103、Streptomyces seotonii、Streptomyces sannanensis、Amycolalopsis sp.株(Zhp06)である(例えば、US2013/0115667A1からのCCTCC No. 2011265を参照)。
別の態様において、バニリンを製造する方法において、フェルロイル−CoAシンテターゼ(FCS)およびエノイル−CoAヒドラターゼ/アルドラーゼ(ECH)を発現させることは、単独でまたは集合的に、細胞系において、またはin vitro系において、各々のステップを発現することをさらに含む。細胞系は、バニリンの発現を促進することができる任意の数の細胞系であってよい。一態様は、E. coliなどの細菌に基づく細胞系を用いる。別の態様は、Amycolatopsis/Streptomycesベースの細胞系を利用する。別の態様は、酵母に基づく細胞系を利用する。
フェルロイル−CoAシンテターゼ(FCS)は、トランス−フェルロイル−CoAシンターゼ(EC 6.2.1.34)であって、化学反応:
を触媒する酵素である。この酵素の3つの基質は、フェルラ酸、CoASHおよびATPであり、一方、その2つの生成物は、トランス−フェルロイル−CoAおよびATP分解の生成物である。この酵素は、リガーゼのファミリー、特に酸−チオールリガーゼなどの炭素−硫黄結合を形成するものに属する。この酵素クラスの体系名は、トランス−フェルラート:CoASHリガーゼ(ATP加水分解型)である。この酵素はまた、トランス−フェルロイル−CoAシンテターゼとも称される(Narbad A, Gasson MJ (Pt 5).「Metabolism of ferulic acid via vanillin using a novel CoA-dependent pathway in a newly-isolated strain of Pseudomonas fluorescens」、Microbiology. 144 (5): 1397-405. doi:10.1099/00221287-144-5-1397. PMID 9611814. およびPometto AL 3rd Crawford DL (1983).「Whole-cell bioconversion of vanillin to vanillic acid by Streptomyces viridosporus」、Appl. Environ. Microbiol. 45 (5): 1582-5. PMC 242504. PMID 6870241を参照)。FCSは、German Collection of Microorganisms and Cell Cultures(DSMZ)において参照DSMZ 7063により入手可能である。FCSヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、本明細書においてそれぞれ配列番号7および8として提供される。
エノイル−CoAヒドラターゼ(ECH)/アルドラーゼは、Pseudomonas sp. DSMZ 7063のエノイル−CoA−ヒドラターゼ/アルドラーゼであり、UniProtからQ9EY87として入手可能である。ECHヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、本明細書においてそれぞれ配列番号9および10として提供される。
バニリンシンターゼ(EC 4.1.2.41)は、化学反応:
を触媒する酵素であり、そのため、この酵素は1つの基質、3−ヒドロキシ−3−(4−ヒドロキシ−3メトキシフェニル)プロパノイル−CoA、および2つの生成物、バニリンおよびアセチル−CoAを有する。この酵素は、リアーゼ、特に炭素−炭素結合を切断するアルデヒド−リアーゼのファミリーに属する。この酵素クラスの体系名は、3−ヒドロキシ−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパノイル−CoAバニリン−リアーゼ(アセチル−CoA形成型)である。一般に使用される他の名称として、3−ヒドロキシ−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロピニル−CoA:およびバニリンリアーゼ(アセチル−CoA形成型)が挙げられる。
本明細書において議論される多様な遺伝子およびモジュールは、単一の微生物ではなく、むしろ2または3以上の組み換え宿主微生物中に存在してもよいことが理解されるであろう。複数の組み換え微生物が用いられる場合、それらを、フェルラ酸および/またはバニリンを産生させるために混合培養において増殖させることができる。
いくつかの態様において、バニリンを製造する方法は1ステップの方法であり、一方、他の態様においては、バニリンを製造する方法は2ステップの方法である。この2ステップの方法は、同じ微生物宿主細胞を用いても、異なる微生物宿主細胞を用いてもよい。
本明細書において記載されるバニリン生成は、主要なバニラ香味化合物を含む、完全に展開し、良好にバランスが取れた香味プロフィールを有するバニリン生成物を提供する。
バニラ香味剤の主要な構成要素は、バニリン(3−メトキシ−4−ヒドロキシベンズアルデヒド)である。それは一般に、バニラ莢のおよそ3重量%未満を構成する。バニラ莢に起源を有する天然バニラの芳香および香味は、多くがフェノール性の化合物の複雑な混合物に起因し、そのうちのバニリンは、単に組成物のパーセンテージに関して主要な一つに過ぎないことは、理解されねばならない。主要なバニラ香味化合物として、限定することなく、フェノール性化合物、フラン化合物、脂肪酸化合物、エタノールとの反応により形成される化合物、およびアセトアルデヒドジエチルアセタールが挙げられる。
これらのフェノール性バニラ香味化合物として、限定することなく、アセトバニロンアルファ−エトキシ−p−クレゾール、安息香酸、グアヤコール、4−メチルグアヤコール、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、メチルパラベン、メチルバニレート(vanillate)、2−メトキシ−4−ビニルフェノール5−メトキシバニリン、フェノール、バニリン、バニリン酸、バニリルアルコール、バニリルエチルエーテルおよびp−ビニルフェノールが挙げられる。これらのフェノール性バニラ香味化合物、特にグアヤコールは、望ましくは、それらが香味を支配し、その結果として香味のバランスの不均衡をもたらすことがないように、低濃度において存在する。
フランバニラ香味化合物として、限定することなく、2−フルフラール、2−フルフロール(furfurol)5−(ヒドロキシメチル)−2−フルフラール、5−メチル−2−フルフラール、2−ヒドロキシフラネオール、ガンマ-ブチロラクトン(ジヒドロ2(3H)−フラノン)が挙げられる。脂肪酸バニラ香味化合物として、限定することなく、リノール酸およびパルミチン酸が挙げられる。バニラ香味をエタノールなどの溶媒で抽出する場合は、エタノールとの反応により形成されるバニラ香味化合物として、限定することなく、酢酸エチル、グリコール酸エチル、乳酸エチル、リノール酸エチル、ピルビン酸エチル、レブリン酸エチルおよびコハク酸ジエチルが挙げられる。伝統的な熟成(curing)方法を用いてバニラ莢から調製されたバニラ抽出物のものに匹敵する天然バニリン生成物を生成することを探求する者は、バニリンを選択的に生成することを探求するのではなく、多くがフェノール性の化合物の混合物を生成することを探求し、そのうちのバニリンは、単に組成物のパーセンテージに関して主要な一つであるに過ぎない。Overhageら(2003 Appl and Env Microbiol 69(11) 6569-6576)はまた、2つの組み換えE.coli株により触媒される2ステップの方法を用いる、オイゲノールからのバニリン生成を提案した。第1のステップにおいては、E.coli株XL1-Blue(pSKvaomPcalAmCalB)が、オイゲノールをFAに93.3%モル濃度収率で変換し(上で議論されるとおり)、第2のステップにおいては、組み換えE.coli(pSKechE/Hfcs)が、フェルラ酸をバニリンに変換した。この方法は、オイゲノール基質からの4.6g/lのフェルラ酸、0.3g/lのバニリンおよび0.1g/lのバニリルアルコールの生成をもたらし、これは、組み換えE.coli 宿主細胞を用いるオイゲノールのバニリンへの生物変換が低率で起きることを示している。WO 2012/172108においては、E.coliにおけるこの2ステップの方法からのバニリンの収率は低すぎて、経済的に実現可能な方法とは考えられないと報告された。
例3が示すように、本開示は、バニリンを産生する遺伝子echおよびfcsを提供し、これらから、天然バニリンを産生させるためにE.coliにおいてクローニングしたものは、LB培養中では成功は限定されていたが、M9A培養培地中では変換率ははるかに改善された。いかなる理論にも束縛されることは望まないが、フェルラ酸から天然バニリンを産生させるために、Amycolatopsis株の代わりに組み換えE.coli宿主微生物を使用することは、より良好な変換率に関する利点を有し得る。
対照的に、典型的には、フェルラ酸から生成される最高濃度のバニリンは、Stepromyces setonii(例えば、EP0885968BおよびMuheim and Lerch (1999) Appl Microbiol Biotechnol 51: 456-461を参照)およびAmycolatopsis sp. HR167(EP0761817)を用いて得られ、これらの細菌を用いてフェルラ酸を発酵させた場合、約8〜16g/lの濃度が報告された。Amycolatopsis株HR167、DSM9991およびDSM9992について、19.9gのフェルラ酸から32時間以内に10リットルスケールにおいて11.5g/lのバニリンが産生されたことが報告されている。
本開示による生成の方法において、本開示の微生物は、選択された生成物を産生させることを可能にする条件下において、選択された出発材料に暴露される。かかる条件は、例えばフェルラ酸からのバニリンの産生についてはEP0885968BまたはEP0761817Bにおいて記載される。
例として、Haarman & Reimer GmbHは、Amycolatopsisの2つの株を開示している(EP0761817Bおよび/またはUS6133003A)。それらのうちの1つを用いたところ、11.5g/lまでのバニリンおよび1g/lまでの未反応のフェルラ酸を含む培養培地が達成された。濃度はHPLCにより決定された。後処理技術または生成物の単離の開示は存在しない。Givaudan SAは、EP0885968Bおよび/またはUS6235507B1において、バニリンおよびいくつかの副生成物を生成するためのStreptomyces setoniiの使用を開示した。バニリンの濃度は、8〜16g/lの範囲であると開示される。
本開示の方法において用いることができる本開示の微生物は、Actinomycetalesの科に、好ましくはActinomycineae、Actinopolysporineae、Catenulisporineae、Corynebacterineae、Frankineae、Glycomycineae、Kineosporiineae、Micrococcineae、Micromonosporineae、Propionibacterineae、Pseudonocardineae、StreptomycineaeおよびStreptosporangineaからなる群より選択される亜目に属し、ここでPseudonocardineaeおよびStreptomycineaeの亜目が好ましく、さらにより好ましくはPseudonocardiaceaeまたはStreptomycetaceaeの科に、およびさらにより好ましくは属AmycolatopsisまたはStreptomycesに、および最も好ましくは属Amycolatopsisに属する。
好ましくは、微生物は、Pseudomonas sp. HR 199、Amycolatopsis sp. ATCC 39116、Amycolatopsis sp. HR167、Sphingomonas paucimobilis SYK-6、Pseudomonas fluorescens AN103、Streptomyces seotonii、Streptomyces sannanensis、Amycolalopsis sp.株(Zhp06)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
属Amycolatopsisのうちで、それぞれ株Amycolatopsis sp. ATCC 39116、HR167およびDSMZ 9992は、本開示に関して特に好ましい。これらの株(特にATCC39116)は、非常に高いバニリン耐性を示し、本開示によるバニリンデヒドロゲナーゼ遺伝子の不活化または欠失の前ですら、フェルラ酸の変換によるバニリンの良好な収率の達成を可能にすることが報告される。
好ましくは、フェルラ酸からの天然バニリンの生成のための生体内変換/生物変換培地は、好ましくはStreptomyces setoniiまたはAmycolatopsis微生物などのActinomycetes微生物、最も好ましくは受入番号ATCC39116下で受託された株(EP0885968および/もしくはUS6235507B1を参照)またはその変異体、例えばCCTCC番号2011265から(US2013/0115667A1から)入手可能な変異体を含む、培養培地である。
好ましくは、微生物は、少なくとも3g/l、好ましくは少なくとも4g/l、5g/l、6g/l、7g/l、8g/l、9g/l、10g/l、11g/l、12g/l、13g/l、14g/l、15g/l、16g/l、17g/l、18g/l、19g/l、20g/l、21g/l、22g/l、23g/l、24g/l、25g/l、26g/l、27g/l、28g/l、29g/l、30g/lのバニリンを含む培地を産生する。
上で議論された酵素(バニリンシンターゼを含む)のいずれかをコードするさらなる遺伝子(例えばechおよび/またはfcsおよび/またはCalAおよび/またはCalB)の付加は、それぞれの前駆体を対応する生成物へと変換するためのさらなる代謝手段を提供し、それによりそれぞれの反応を触媒する酵素の量を増加させることにより、バニリンの生成を改善する。
本開示の特に好ましい微生物は、属Amycolatopsisのもの、さらにより好ましくは株Amycolatopsis sp. ATCC 39116のものであり、ここでバニリンデヒドロゲナーゼのための遺伝子を、バニリンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子中への抗生物質耐性遺伝子の挿入により、不活化する。別の好ましい選択肢は、マーカーを含まない(markerless)バニリンデヒドロゲナーゼノックアウト変異体の作製である(例えば、WO2012/172108およびUS2014/0087428A1を参照)。
本明細書において記載されるポリペプチドの機能的相同体(例えば少なくとも以下の遺伝子VaoA、MtSAD1、AtADH、CalA、CalB、fcs、echなどの1以上によりコードされる)はまた、組み換え宿主中でフェルラ酸および/またはバニリンを産生させることにおける使用のためにも好適である。したがって、組み換え宿主は、上記のポリペプチドの機能的相同体をコードする1以上の異種核酸、および/または上記の変異体ポリペプチドをコードする異種核酸を含んでもよい。
機能的相同体は、参照ポリペプチドに対して配列類似性を有するポリペプチドであって、参照ポリペプチドの1以上の生化学的または生理学的機能を担持するものである。機能的相同体および参照ポリペプチドは、天然に存在するポリペプチドであってよく、配列類似性は、収束進化的または分岐進化的イベントに起因するものであってよい。したがって、機能的相同体はときに、文献において、相同体、またはオルソログ、またはパラログとして呼ばれる。天然に存在する機能的相同体のバリアント、例えば、野生型コード配列の変異体によりコードされるポリペプチドは、それ自体が機能的相同体であってよい。機能的相同体はまた、ポリペプチドについてのコード配列の部位特異的変異誘発を介して、または天然に存在する異なるポリペプチドについてのコード配列からのドメインを組み合わせること(「ドメインスワッピング」)により、作出することができる。本明細書において記載される機能的なものをコードする遺伝子を改変するための技術は、公知であり、とりわけ定向進化技術、部位特異的変異誘発技術およびランダム変異誘発技術を含み、所望の様式に、ポリペプチドの特定の活性を増大させるため、基質特異性を改変するため、発現レベルを改変するため、細胞内局在を改変するため、またはポリペプチド:ポリペプチド相互作用を修飾するために有用であり得る。かかる修飾されたポリペプチドは、機能的相同体とみなされる。用語「機能的相同体」はときに、機能的に相同なポリペプチドをコードする核酸に適用される。
機能的相同体は、ヌクレオチドおよびポリペプチドの配列アラインメントの分析により同定することができる。例えばヌクレオチドまたはポリペプチド配列のデータベースにおいて検索を行うことにより、コードされる遺伝子VaoA、MtSAD1、CalA、CalBポリペプチド、FCS/ECHポリペプチドなどの相同体を同定することができる。
配列分析は、関連性のあるアミノ酸配列を参照配列として用いる、非重複データベースのBLAST、Reciprocal BLASTまたはPSI-BLAST分析を含んでもよい。アミノ酸配列は、いくつかの場合において、ヌクレオチド配列から推定される。データベース中の40%より高い配列同一性を有するポリペプチドは、フェルラ酸/バニリン生合成ポリペプチドとしての適合性についてのさらなる評価のための候補である。アミノ酸配列類似性は、1つの疎水性残基の別のものへの置換、または1つの極性残基の別のものへの置換などの、保存的アミノ酸置換を可能にする。所望される場合、さらに評価されるべき候補の数を狭めるために、かかる候補の手作業による検査を行ってもよい。手作業による検査は、ポリペプチドまたはバニリン生合成ポリペプチド中に存在するドメイン、例えば保存された機能的ドメインを有すると考えられる候補を選択することにより行うことができる。
典型的には、少なくとも約40%のアミノ酸配列同一性を示すポリペプチドが、保存された領域を同定するために有用である。関連するポリペプチドの保存された領域は、少なくとも45%のアミノ酸配列同一性(例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%のアミノ酸配列同一性)を示す。いくつかの態様において、保存された領域は、少なくとも92%、94%、96%、98%または99%のアミノ酸配列同一性を示す。配列同一性は、上記のように決定することができる。
発現されたMtSAD1は、アミノ酸配列番号1またはそのバリアント、相同体、変異体、誘導体もしくはフラグメントに基づく。
発現されたMtSAD1は、配列番号1に対して少なくとも70%、75%、80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列に基づく。
代替的な態様において、発現されたMtSAD1は、配列番号1に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸に基づく。
あるいは、発現されたMtSAD1は、配列番号1に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列に基づく。
さらに、発現されたMtSAD1は、E. coliから発現されるアミノ酸配列に基づく。
遺伝子のヌクレオチド配列に関する「パーセント(%)同一性」は、最大の配列同一性のパーセントを達成するために配列をアラインメントし、必要な場合にはギャップを導入した後で、任意の保存的置換を配列同一性の部分としてみなすことなく、DNA配列中のヌクレオチドと同一である候補DNA配列中のヌクレオチドのパーセンテージとして定義される。ヌクレオチド配列同一性のパーセントを決定することを目的とするアラインメントは、当該分野における技術の範囲内である多様な方法において公共で利用可能なコンピューターソフトウェアを用いて達成することができる。当業者は、比較されている全長にわたる最大アラインメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメーターを決定することができる。
用語「ポリペプチド」と「タンパク質」とは、本明細書において交換可能に用いられ、長さまたは翻訳後修飾に関わりなく、任意のペプチド結合されたアミノ酸の鎖を意味する。
本明細書において用いられる場合、用語「誘導体」は、限定されないが、バリアントおよび化学修飾された誘導体を含む。用語「誘導体」と「バリアント」とは、本明細書において交換可能に用いられる。
本明細書において用いられる場合、用語「バリアント」は、それがアミノ酸配列中の1以上の変更により誘導されるポリペプチドと比較して異なるポリペプチドとして理解されるべきである。バリアントが誘導される元のポリペプチドはまた、親または参照ポリペプチドとしても知られる。典型的には、バリアントは、人工的に、好ましくは遺伝子技術的手段により構築される。典型的には、バリアントが誘導される元のポリペプチドは、野生型タンパク質または野生型タンパク質ドメインである。しかしながら、本開示において使用可能なバリアントはまた、バリアントが親ポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を示すことを前提として、親ポリペプチドの相同体、オルソログもしくはパラログから、または人工的に構築されたバリアントから誘導することができる。アミノ酸配列中の変更は、アミノ酸交換、挿入、欠失、N末端トランケーション、またはC末端トランケーション、またはこれらの変更の組み合わせであってよく、これは、1か所の部位で起きてもいくつかの部位で起きてもよい。
好ましい態様において、本開示において使用可能なバリアントは、アミノ酸配列中に200まで(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190または200まで)の合計数の変更(すなわち、交換、挿入、欠失、N末端トランケーションおよび/またはC末端トランケーション)を示す。アミノ酸交換は、保存的および/または非保存的であってよい。好ましい態様において、本開示において使用可能なバリアントは、それが1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100までのアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸変更により誘導される、元のタンパク質またはドメインとは異なる。バリアントは、付加的に、または代替的に、アミノ酸の欠失を含んでもよく、これは、N末端トランケーション、C末端トランケーションまたは内部欠失またはこれらの任意の組み合わせであってよい。N末端トランケーション、C末端トランケーションおよび/または内部欠失を含むかかるバリアントは、本願の文脈において、「欠失バリアント」または「フラグメント」として言及される。用語「欠失バリアント」と「フラグメント」とは、本明細書において交換可能に用いられる。欠失バリアントは、天然に存在するもの(例えばスプライスバリアント)であってもよく、またはそれは人工的に、好ましくは遺伝子技術的手段により構築されてもよい。典型的には、欠失バリアントが誘導される元のタンパク質またはタンパク質ドメインは、野生型タンパク質である。しかしながら、本開示の欠失バリアントはまた、欠失バリアントが親ポリペプチドの少なくとも1つの生物学的活性を示すことを前提として、親ポリペプチドの相同体、オルソログまたはパラログから、または人工的に構築されたバリアントから誘導することができる。好ましくは、欠失バリアント(またはフラグメント)は、そのN末端においておよび/またはC末端においておよび/または内部に、親ポリペプチドと比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100アミノ酸までの欠失を有する。
「バリアント」とは、本明細書において用いられる場合、代替的にまたは付加的に、それが誘導される元の親ポリペプチドに対する一定の程度の配列同一性により特徴づけることができる。本開示のバリアントは、それぞれの参照ポリペプチドに対して、またはそれぞれの参照ポリヌクレオチドに対して、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性の配列同一性を有していてよい。表現「少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性」とは、本明細書全体にわたって、ポリペプチドおよびポリヌクレオチド配列の比較に関して用いられる。
より正確には、本開示の文脈におけるバリアントは、その親ポリペプチドに対して「少なくとも80%の配列同一性」を示す。好ましくは、配列同一性は、20、30、40、45、50、60、70、80、90、100またはそれより多くのアミノ酸の連続的な区間にわたる。表現「少なくとも80%の配列同一性」は、本明細書全体にわたり、ポリペプチドおよびポリヌクレオチド配列の比較に関して用いられる。この表現は、好ましくは、それぞれの参照ポリペプチドに対して、またはそれぞれの参照ポリヌクレオチドに対して、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を指す。好ましくは、問題のポリペプチドおよび参照ポリペプチドは、20、30、40、45、50、60、70、80、90、100またはそれより多くのアミノ酸の連続的な区間にわたり、指示される配列同一性を示す。好ましくは、問題のポリヌクレオチドおよび参照ポリヌクレオチドは、60、90、120、135、150、180、210、240、270、300またはそれより多くのヌクレオチドの連続的な区間にわたり、指示される配列同一性を示す。2つの配列が比較され、それと比較して配列同一性のパーセンテージが計算されるべき参照配列が特定されない場合、配列同一性は、他に特に示されない場合は、比較されるべき2つの配列のうちの長い方を参照して計算されるべきである。参照配列が示される場合は、配列同一性は、他に特に示されない場合は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9または10により示される参照配列の全長に基づいて決定される。
例えば、269アミノ酸残基を有する全長MtSAD1のアミノ酸と比較した30アミノ酸からなるペプチド配列は、11.15%(30/269)の最大の配列同一性パーセンテージを示すことができ、一方、150アミノ酸の長さを有する配列は、55.70%(150/269)の最大の配列同一性パーセンテージを示すことができる。ヌクレオチドおよびアミノ酸の配列の類似性、すなわち、配列同一性のパーセンテージは、配列アラインメントを介して決定することができる。かかるアラインメントは、例えばhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw/において、またはhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw2/index.htmlにおいて、またはhttp://npsa-pbil.ibcp.fr/cgi-bin/npsa_automat.pl?page=/NPSA/npsa_clustalw.htmlにおいて入手可能な、当該分野において公知のいくつかのアルゴリズムにより、好ましくはKarlinおよびAltschul(Karlin & Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5877)の数学的アルゴリズムにより、hmmalign(HMMER package, http://hmmer.wustl.edu/)により、またはCLUSTALアルゴリズム(Thompson, J. D., Higgins, D. G. & Gibson, T. J. (1994) Nucleic Acids Res. 22, 4673-80)により、行うことができる。
用いられる好ましいパラメーターは、それらがhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw/またはhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw2/index.htmlにおいて設定されるとおりの、デフォルトのパラメーターである。配列同一性のグレード(配列マッチング)は、例えばBLAST、BLATまたはBlastZ(またはBlastX)を用いて計算することができる。類似のアルゴリズムを、Altschul et al (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-410のBLASTNおよびBLASTPプログラム中に組み込む。関連性のあるタンパク質をコードする核酸と相同なポリヌクレオチド配列を得るために、BLASTポリヌクレオチド検索は、BLASTNプログラムにより、スコア=100、文字長さ=12で行う。
SrKOポリペプチドと相同なアミノ酸配列を得るために、BLASTタンパク質検索は、BLASTPプログラムにより、スコア=50、文字長さ=3で行う。比較の目的のためにギャップを含むアラインメントを得るために、Gapped BLASTをAltschul et al (1997) Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402において記載されるように利用する。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合は、それぞれのプログラムのデフォルトのパラメーターを用いる。配列マッチング分析は、Shuffle-LAGAN(Brudno M., Bioinformatics 2003b, 19 Suppl 1:154-162)またはMarkov random fieldsのような確立された相同性マッピング技術により補われてもよい。本願において配列同一性のパーセンテージが言及される場合、これらのパーセンテージは、他に特に示されない場合は、より長い配列の全長に対して相対的に計算される。
「保存的置換」は、例えば、関係するアミノ酸残基の極性、電荷、サイズ、可溶性、疎水性、親水性および/または両親媒性の性質における類似性に基づいて行うことができる。20個の天然に存在するアミノ酸は、以下の6個の標準的なアミノ酸群にグループ化することができる:
(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、He;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr;Asn、Gin;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の向きに影響を及ぼす残基:Gly、Pro;ならびに
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
本明細書において用いられる場合、「保存的置換」は、上の6個の標準的なアミノ酸群のうちの同じ群内に列記されるアミノ酸の別のアミノ酸による交換として定義される。例えば、AspのGluによる交換は、そのように修飾されたポリペプチドにおける1つの負の電荷を保持する。さらに、グリシンおよびプロリンは、α−へリックスを破壊するそれらの能力に基づいて、互いに置換することができる。上の6群内のいくつかの好ましい保存的置換は、以下の亜群内の交換である:(i)Ala、Val、LeuおよびHe;(ii)SerおよびThr;(ii)AsnおよびGin;(iv)LysおよびArg;ならびに(v)TyrおよびPhe。既知の遺伝子コード、ならびに組み換えおよび合成DNA技術を所与として、技術を有する科学者は、保存的アミノ酸バリアントをコードするDNAを容易に構築することができる。
本明細書において用いられる場合、「非保存的置換」または「非保存的アミノ酸交換」は、上に示される6つの標準アミノ酸群(1)〜(6)のうちの異なる群に列記される別のアミノ酸による、アミノ酸の交換として定義される。
本明細書において用いられる場合、用語、ポリペプチドの「誘導体」とはまた、それが20個の天然に存在するアミノ酸以外の他の化学基を含むように化学修飾されているポリペプチドを指す。かかる化学基の例として、限定することなく、グリコシル化されたアミノ酸およびリン酸化されたアミノ酸が挙げられる。誘導体が誘導される元のポリペプチドはまた、親ポリペプチドとしても知られる。この親ポリペプチドは、天然に存在するタンパク質であってもよいが、また、上で定義されるようなタンパク質バリアントであってもよい。ポリペプチドの化学修飾は、親ポリペプチドと比較して有利な特性、例えば増強された安定性、延長された生物学的半減期、または増大した水溶性の1以上を提供することができる。本開示において使用可能な誘導体に適用可能な化学修飾として、限定することなく、以下が挙げられる:PEG化、非グリコシル化親ポリペプチドのグリコシル化、または親ポリペプチドにおいて存在するグリコシル化パターンの改変。
「生物学的活性」とは、本明細書において用いられる場合、ポリペプチドが示し得る任意の活性を指し、これは、限定することなく以下を含む:酵素活性;別の化合物に対する結合活性(例えば別のポリペプチドへの結合、特に、受容体に対する結合もしくは核酸に対する結合);阻害活性(例えば酵素阻害活性);活性化活性(例えば酵素活性化活性);または毒性効果。バリアントまたは誘導体が親ポリペプチドと同じ程度までかかる活性を示すことは必要とされない。バリアントは、それが、親ポリペプチドの活性の少なくとも10%の程度まで適切な活性を示す場合に、本願の文脈内においてバリアントとみなされる。同様に、誘導体は、それが、親ポリペプチドの活性の少なくとも10%の程度まで適切な生物学的活性を示す場合に、本願の文脈内において誘導体とみなされる。
本明細書において開示される酵素のいずれかのファミリーに属するポリヌクレオチドまたはタンパク質は、それぞれ関連性のある遺伝子またはタンパク質に対するその類似性に基づいて同定することができる。例えば、同定は、配列同一性に基づいてもよい。ある好ましい態様において、本開示は、(a)配列番号1、3、5、8または10のポリペプチドをコードする核酸分子、(b)配列番号2、4、6、7または9のヌクレオチド配列、および(c)配列番号2、4、6、7または9の、少なくとも30(例えば、少なくとも30、40、50、60、80、100、125、150、175、200、250、300、400、500、600、700、800、850、900、950、1000または1010)ヌクレオチドのセグメントを含む核酸分子に対して、少なくとも50%(または55%、65%、75%、85%、90%、95%もしくは98%)同一である、単離された核酸分子に注目する。
2つの核酸配列の間のパーセント同一性の決定は、Karlin and Altschul, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 5873-5877, 1993の数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。かかるアルゴリズムは、Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215, 403-410のBLASTNおよびBLASTPプログラム中に組み込まれる。BLASTヌクレオチド検索は、HIN-1をコードする核酸に対して相同なヌクレオチド配列を得るために、BLASTNプログラム、スコア=100、文字長さ=12により行う。BLASTタンパク質検索は、TAS2Rポリペプチドに対して相同なアミノ酸配列を得るために、BLASTPプログラム、スコア=50、文字長さ=3により行う。比較の目的のためにギャップを含むアラインメントを得るために、Gapped BLASTを、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25, 3389-3402において記載されるように利用する。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合は、それぞれのプログラムのデフォルトのパラメーター。
ハイブリダイゼーションもまた、2つの核酸配列の間の相同性の尺度として用いることができる。本明細書において開示されるタンパク質のいずれかをコードする核酸配列またはその部分は、ハイブリダイゼーションプローブとして、標準的なハイブリダイゼーション技術に従って用いることができる。試験ソース(例えば、哺乳動物細胞)からのDNAまたはRNAへのプローブのハイブリダイゼーションは、試験ソース中の関連性のあるDNAまたはRNAの存在の指標である。ハイブリダイゼーション条件は当業者に公知であり、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y., 6.3.1-6.3.6, 1991において見出すことができる。中程度のハイブリダイゼーション条件は、2×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中での30℃でのハイブリダイゼーションと、その後の1×SSC、0.1%のSDS中での50℃での洗浄に相当するものとして定義される。高ストリンジェントな条件は、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中での45℃でのハイブリダイゼーションと、その後の0.2×SSC、0.1%のSDS中での65℃での洗浄に相当するものとして定義される。
本開示によるフェルラ酸のバニリンへの生物変換は、主要な化合物としてバニリンを生成するが、またバニリン以外の化合物も生成し、これらは生物変換混合物に心地良いフレーバーノートを付与し、正の様式において混合物の知覚特性に対して寄与し、食品のための香料としてのその価値を増大させる。知覚分析は、例えば「3点比較法」、または訓練されたフレーバリストにより利用される他の良く確立された知覚試験を用いて行う。
バニラは、世界中で最も広く用いられている香味剤のうちの一つである。それは、ランVanilla planifolia、Vanilla tahitiensisおよびVanilla pomponaから抽出される、バニラ豆の抽出物の主要成分である。バニラの抽出物中には多くの化合物が存在するが、化合物バニリン(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンズアルデヒド)が、主に、バニラの特徴的なフレーバーおよび匂いの原因である。
バニリンは、フェノール性アルデヒドであって、これは分子式C8H8O3を有する有機化合物である。その官能基は、アルデヒド、エーテルおよびフェノールを含む。それは、激烈に甘く非常に粘り強いクリーミーなバニラ様の香気を有する白色の針状結晶粉末である。バニラ種子の莢を生育させることは労働集約的であるため、バニラは、サフランの次に2番目に最も高価な香辛料である。その費用にもかかわらず、バニラはその香味のために高く評価される。さらに、消費者により主導される天然バニリンについての要求は、植物ソースにより抽出されるバニリンの量を高く超える。
結果として、バニラは、商業および家庭の両方におけるベーキング、香水製造およびアロマセラピーにおいて、広く用いられる。それは、多様な機能的特性を有する主要な香味付け材料として用いられる。純粋なバニリンは、食品における香味を増強するために、およびバイオ保存剤(biopreservative)として(なぜならばそれは抗菌および抗酸化特性であるので)、広く用いられる。それは、製薬業における重要な原材料である。
バニリンは、天然バニラ抽出物の代わりに、今や、食品、飲料および医薬における香味剤として、より頻繁に用いられる。バニリンの最大の使用は、通常は甘い食品における、香味剤としてのものである。アイスクリームおよびチョコレート工業は、一緒に、香味剤としてのバニリンについての市場の75%を含み、より少ない量が、菓子および焼成製品において用いられる。バニリンはまた、フレグランス工業において、香水中で、ならびに医薬、家畜飼料および洗浄製品の不快な臭気または味をマスクするために用いられる。それはまた、香味剤工業において、多くの異なる香味、特にクリームソーダのようなクリーミーなプロフィールのための非常に重要なキーノートとして用いられる。さらに、バニリンは、医薬および他のファインケミカルの生成における化学中間体として用いられてきている。
エタノール中の合成バニリンの溶液から基本的になる合成エッセンスは、フェノールから誘導され、高純度のものである。合成バニリンは、多数の家事用製品、デオドラント、エアフレッシュナー、床磨き剤および除草剤を製造するために用いられる。オイゲノールまたはイソオイゲノールからのバニリンの「古典的」合成は、1896年に開発され、約50年間にわたり好ましい方法であり続けた。しかし、バニリンは、今では、Reimer-Tiemann反応により工業的に大量に調製される。これが、その生成のための代替的方法の研究をもたらした。結果として、リグニン、オイゲノール、イソオイゲノールおよびフェルラ酸からのバニリンの生成について、真菌、細菌、植物細胞または遺伝子操作された微生物を適用することにより、多様な生物工学に基づくアプローチが研究されてきた。生物工学は、重要な食品材料を製造する方法を開発するために、遺伝子工学のツールを使用する。それは、食品香味剤の生合成のための可能な基質の範囲を広げ、健康的で、より味が良く、安全な食品を提供することにおける消費者の選択肢を拡大する。生物工学的方法を通して天然基質から得られる生成物は、一般に、安全であるとみなされ、天然のものであると考えられる。
フェルラ酸/バニラ生成物またはその前駆体生成物は、そのまま(すなわち最終生成物として)、または中間体として(例えば、中間体を前駆体として、さらに誘導体もしくは最終生成物を生成するために)、商業的に用いることができる。単離され、任意に精製されたバニリンの抽出物は、食品、栄養補助食品、栄養補給食品、医薬組成物、歯科衛生用組成物、および化粧品などの消耗品に香味付けることにおいて用途を見出す。
食品はまた、ハーブ、香辛料およびシーズニング、および調味料などの薬味を含む。食品はまた、ダイエット用甘味料、液体甘味料、水で再構成することにより非炭酸飲料を提供する顆粒状の香味ミックス、インスタントのプディングミックス、インスタントのコーヒーおよび紅茶、コーヒー用粉末クリーム、麦芽乳ミックス、ペットフード、家畜飼料、タバコ、およびベーキング用途のための材料(パン、クッキー、ケーキ、パンケーキ、ドーナツなどの調製のための粉末ベーキングミックスなど)などの、調製された包装された製品を含む。食品はまた、スクロースを殆どまたは全く含まない、ダイエット用または低カロリーの食品および飲料を含む。本開示により想起される食品の他の例は、以下に、および本明細書全体にわたり、記載される。
別の態様において、食品は、果物、野菜、果汁、肉製品(ハム、ベーコンおよびソーセージなど);卵製品、果物濃縮物、ゼラチンおよびゼラチン様製品(ジャム、ゼリー、プリザーブなど);乳製品(アイスクリーム、サワークリームおよぼシャーベットなど);アイシング、糖蜜を含むシロップ;トウモロコシ、コムギ、ライムギ、ダイズ、カラスムギ、コメおよびオオムギ製品、ナッツ果肉およびナッツ製品、ケーキ、クッキー、菓子(飴、ガム、果物味のドロップおよびチョコレートなど)、クリーム、アイシング、アイスクリーム、パイおよびパンである。
別の態様において、消耗品は医薬組成物である。好ましい組成物は、バニリンおよび/またはバニリンベータ−D−グルコシドおよび1以上の薬学的に受容可能な賦形剤を含む、医薬組成物である。これらの医薬組成物は、生物学的効果を発揮する1以上の活性剤を含む医薬を処方するために用いることができる。したがって、医薬組成物は、好ましくは、生物学的効果を発揮する1以上の活性剤をさらに含む。かかる活性剤は、活性を有する、薬学的よび生物学的な剤を含む。かかる活性剤は、当該分野において周知である。
本開示の一態様において、医薬組成物は、栄養補給組成物である。望ましくない味を有する栄養補給組成物の例は、必ずしもこれらに限定されないが、栄養欠乏、外傷、外科手術、クローン病、腎臓疾患、高血圧、肥満などの処置のため、運動競技の成績を向上させるため、筋肉増強、または一般的な福祉のため、またはフェニルケトン尿症などの先天的な代謝の誤りの処置のための、経腸栄養製品である。特に、かかる栄養補助処方物は、苦いまたは金属的な味または後味を有する1以上のアミノ酸を含んでもよい。
別の態様において、食品、食品前駆体材料、または食糧の産生において用いられる添加物の製造のための方法が提供され、該方法は、本開示の方法により得ることができるバニリンを、調理済の製品、食品、食品前駆体材料、または食糧の産生において用いられる添加物と混合する方法を含む。
さらなる態様において、栄養補給食品または医薬組成物の製造のための方法が提供され、該方法は、本開示の方法により得ることができるバニリンを、賦形剤と、ならびに任意に薬学的に受容可能なキャリアおよび/またはアジュバントと混合するステップを含む。
さらなる態様において、先の段落の方法であって、医薬組成物を薬学的に受容可能な形態に処方するステップをさらに含む方法が提供される。
摂取可能な(または調理済の)組成物は、「食品または飲料製品」および「非可食製品」の両方を含む。「食品または飲料製品」により、ヒトまたは動物による消費のために意図される、固体、半固体または液体(例えば飲料)を含む、任意の可食製品が意味される。
用語「非可食製品」は、補助食品、栄養補給食品、機能性食品(例えば、栄養を補給する基本的な補給機能を超えて、健康を促進する、および/または疾患を予防する特性を有することを主張された、任意のフレッシュなまたは処理された食品)、医薬および市販薬(over the counter medication)、歯磨剤および洗口剤などの口腔ケア製品、リップバームなどの化粧品、および他のパーソナルケア製品を含む。
摂取可能な(または調理済の)組成物はまた、医薬(pharmaceutical)、医薬(medicinal)、または代替的に処方物、例えば、医薬(pharmaceutical)もしくは医薬(medicinal)処方物または食品もしくは飲料の製品もしくは処方物を含む。本開示の化合物はまた、個別に、または既知のもしくは後で発見される任意の摂取可能な組成物と組み合わせて、提供することができる。
香味剤、香水および材料の工業は、食品製造者および最終消費者からの、真偽およびトレーサビリティについての要求の増大に気が付いている。したがって、バニラ製品の植物学的起源を識別するための、より進歩した分析方法が開発されてきている。
これらの分析方法は、限定されないが、以下の方法を含み、Lebensmittelchemie (2010) 64: 17-48中の「Herkunf und Authentizitaet von Vanillearomen」において詳細に議論され、抽出物は、背景の情報として以下に提供される:
天然バニラ香味剤は、バニリンに加えて、例えばp−ヒドロキシベンズアルデヒド、バニリン酸およびp−ヒドロキシ安息香酸などの他の特徴的な関連物質を含む。天然バニラ香味剤中のこれらの成分の濃度は、互いに特徴的な比率にあり、特定の状況において、真偽の試験において利用することができる。HPLCおよびGC法は、これらの物質の定量的決定のために用いられるようになってきている。
バニラ莢から得られてきた天然バニリンは、安定な同位体比を用いて、合成によりまたは生物工学的に製造されたバニリンと区別することができる。安定な同位体の分画に基づく科学的原理は、技術文献において詳細に記載される(例えば、Gassenmeier et al (2013) Flavour Fragr. J. 28; 25-29を参照)。それらの光合成経路に従って、植物およびそれらの成分物質は、元素の炭素(13C/12C)および水素(2H/1H)の特異的な安定な同位体比を示す。したがって、植物においてCO2固定についての3つの光合成経路が知られている。いわゆるC3植物(例えば、コムギ、コメ、サトウダイコン)は、リブロース二リン酸カルボキシラート反応を利用し、一方、C4植物(例えば、サトウキビ、トウモロコシ)は、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ反応を使用する。多肉植物およびラン(例えば、Vanilla planifolia)などのCAM植物は、ベンケイソウ型酸代謝を有する。
背景情報として、天然に存在するフェノール性化合物であるフェルラ酸は、C3、C4またはCAM植物の細胞壁中に見出される最も豊富なヒドロキシ桂皮酸であり、細胞壁において、それは多糖にエステル結合している。植物が太陽からエネルギーを取得して、それを糖の結合中に貯蔵する方法である光合成は、行うために光、水および二酸化炭素のみを必要とする単純な方法である。植物は、それらの光合成経路に依存して、3つの異なる型:C3、C4およびCAM植物に分けることができる。C3植物は、コメおよびコムギを含む。C4植物はトウモロコシおよび幾つかの型の草本を含む。CAMは、C3とC4との間の中間的な機構であり、ここで植物はC3またはC4経路を使用する。C3、C4またはCAM植物からの3つの光合成方法は、同位体効果、特に、以下で議論されるように植物学的起源のトレーサビリティに役立つ13C同位体効果を生じるであろう。
ガスクロマトグラフィー−IRMS(GC-IRMS)および元素分析計−IRMS(EA-IRMS):元素分析計(EA)またはガスクロマトグラフ(GC)と、同位体比質量分析計(IRMS)との直接連結により、炭素、酸素および水素の安定な同位体を、高い正確性により決定することが可能である。
GC-IRMSの使用により、バニリンのおよび十分な濃度ではまた溶媒抽出物中の関連物質の同位体比に対して成分特異的分析を行うことが可能になる。炭素同位体比の決定はGC-燃焼(combustion)-IRMS(GC-C-IRMS)により、酸素および水素の同位体比の決定はGC-熱分解(pyrolysis)-IRMS(GC-P-IRMS)により行う。
分取用合成により単離されたバニリンにおいて、18O/16Oおよび2H/1H同位体比は、高温変換元素分析計(TC/EA)により決定し、13C/12C同位体比は、燃焼元素分析計(C/EA)により決定する。
全ての方法において、13Cおよび12C同位体の濃度を比として設定し、国際的に確立された標準Vienna Pee Dee Belemnite(VPDB)に関連付ける。パーミル(‰)VPDBにおける炭素同位体比(13C/12C)のデータ値(δ13C値)は、式:
に従って報告される。
水素(2H/1H)の、および酸素(18O/16O)の同位体比は、したがって、δ2Hまたはδ18O値として計算され、‰VSMOW(Vienna Standard Mean Ocean Water)として報告される、
EA-IRMSおよびGC-IRMSにより様々な研究室の多くの技能検査の一部としてこれまで決定された単離されたバニリンのδ13C値は、非常に良好な比較性を示してきた:したがって、それらの方法は、検証されたものとみなされるべきである。
本明細書において用いられる場合、用語「δ13C」とは、パーミル(‰)VPDBにおける炭素同位体比(13C/12C)を指し、式;
により報告される。
以下の表1は、異なる地理的および植物学的起源のバニリン中の、および異なる原材料から生成されたバニリンの、炭素および水素についての、技術文献において公開されている安定な同位体比の概要を提供する。
以下の表1から、多様な植物起源ならびに異なる製造方法からのバニリンを識別するために、δ13C値を用いることができることを理解することができる:
− Vanilla planifoliaもしくはVanilla tahitensisからの、またはこれらの変種の水性のエタノール性抽出物からの天然バニラは、−21.5‰VPDBよりも正側(positive)のδ13C値をもたらす;
− 生物工学的に(例えばフェルラ酸(コメからの)から)製造され、食品法により天然バニラであると称され得るバニリンについて、δ13C値は、典型的には−36‰〜−37‰VPDBの領域である;
− リグニン、オイゲノールまたはグアヤコールから化学的に合成され、なお施行中のAromenV(香味剤の規制)により「天然のものと同一(nature-identical)」として分類されるバニリンは、
−25‰VPDBよりも負側(negative)のδ13C値を有する。
別の報告における開示によれば(Cochennec C Perfumer & Flavourist (2013) 38: 20-27を参照)、植物のδ13C同位体の偏向は、光合成の機構に依存して変化する。
Cochennec(2013)においては、トウモロコシなどのC4光合成機構を有する植物は、−19%〜−16‰の範囲のトウモロコシなどのC4植物からのフェルラ酸についてのδ13C値同位体偏向を示し、したがって、約14‰のおよその−δ13C値の平均の同位体偏向を示すであろうことが開示される。
対照的に、Cochennec(2013)においてはまた、コメおよびコムギなどのC3植物からのフェルラ酸からのバニリンは、−38%〜−35‰の範囲のδ13C値同位体変更を示し、これは、それを、C4植物のフェルラ酸からのバニリン、またはマメ類(CAM植物)からのバニリンと明らかに区別することが開示される。
したがって、C4植物についてのδ13C値は、一般に、C3植物についてのδ13Cと比較して、値が「より負でない(less negative)」または「より高い」であろう。
以下の表1において開示されるバニラ豆からのバニリンについてのδ13C値(約−21.5‰VPDB)は、C3植物とC4植物との間である。
まとめると:一研究によれば(Cochennec C Perfumer & Flavourist (2013) 38: 20-27を参照)、C4植物(例えばトウモロコシ)からのフェルラ酸は、-16〜-19‰の範囲のδ13C値を有し、C3植物(例えばコメ)からのバニリンは、-35-38‰のδ13C値を有する。
別の研究によれば(以下の表1を参照)、C3植物(例えばコメ)からのバニリンについてのδ13C値は、典型的には−36‰〜−37‰VPDBの領域である;
本明細書において例5において開示されるように、出願人らは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸/天然バニリン酸は、約−25〜約−32‰の範囲のδ13C値を有することを示した。
好ましくは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸/天然バニリン酸は、約−25‰のδ13C値を有する。
好ましくは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸/天然バニリン酸は、約−26‰のδ13C値を有する。
好ましくは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸/天然バニリン酸は、約−27‰のδ13C値を有する。
好ましくは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸/天然バニリン酸は、約−28‰のδ13C値を有する。
好ましくは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸/天然バニリン酸は、約−29‰のδ13C値を有する。
好ましくは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸/天然バニリン酸は、約−30‰のδ13C値を有する。
好ましくは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸/天然バニリン酸は、約−31‰のδ13C値を有する。
好ましくは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸/天然バニリン酸は、約−32‰のδ13C値を有する。
天然フェルラ酸(FA)/天然バニリン(NV)(オイゲノールからのもの)は、他の天然植物ソースからのFA/NVとは異なる:
したがって、上のデータを考慮すると、C3、C4およびCAM植物が異なるδ13C値の特徴を有し、C3、C4の草本およびCAM植物を検出することおよびそれらのδ13C値により区別することを可能にするのみならず、本開示の方法を用いてオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸および天然バニリンは、少なくとも、C3、C4植物から(すなわち、コメ、トウモロコシ、サトウダイコン、コムギおよびクルクミンから選択される天然植物群のソースから)得られるδ13C値とは異なる、およびCAM植物についてのδ13C値(例えば、伝統的なバニラ豆の熟成からの、および/または加速させた生物学的方法(例えばWO2010/066060およびWO 2010/066061を参照;これらの全内容は、本明細書において参考として援用される)を用いることからのバニラ抽出物についてのδ13C値)とは異なるδ13C値を有する。
表1:異なる起源および製造のバニリン中の炭素および水素の安定な同位体比(Lebensmittelchemie (2010) 64: 17-48中の「Herkunf und Authentizitaet von Vanillearomen」の翻訳として得られた)−表1中の文献についての全ての参照は、上記の2010年の刊行物において引用される文献についての参照である。
異なる科学的研究において決定された方法
上で引用される2010年の刊行物(上の表1を提供する)において、以下のことが記述される:バニリン分子の様々な位置における2H/1H(D/H)比は、位置的(positional)2H−NMR測定により決定することができる。SNIF−NMR(登録商標)としても知られる方法はまた、分子の様々な位置における2H同位体の分布は、統計学的には起きないが、原材料の(生)合成の間の識別効果に依存的であるという事実に基づく。評価に関連性があるバニリン分子の4つの(D/H)同位体比にわたって、天然バニリンと合成バニリンとの配合すら検出することができる。方法は、AOAC(Association of Official Analytical Chemists)ラウンド・ロビン実験において試験され、特に芳香工業において真偽の監視のための用いられる。現在までに、最高の可能な純度を有する比較的大量の物質が必要とされているので、この方法は、食品の公的監視および質のコントロールの実施においては適用可能ではないか、または非常に限定された程度までしか適用可能でない。13C−NMRは著しくより高感度であるため、NMRを用いるバニリン分子中の位置的13C分布の決定についての第1の結果は、2H−NMRに対して利点を約束する。したがって、この場合において、化学的に合成されたバニリンを生合成バニリンから区別する、特に著しい可能性が存在する。この方法も、おそらくはまた、予見可能な将来の内においては、少数の特別な研究室において用いられ得るのみである。
別の研究(Cochennec 2010)は、以下のことを教示する:13C IRMSおよび2H−SNIF−NMR(部位特異的天然同位体分画-核磁気共鳴)などの同位体偏向分析は、バニラの真偽の評価のための方法であり、バニラ豆からのバニラを、全ての他の既知のバニリンのソースまたはその混合物から明確に識別するために、一般に用いられる。13CIRMSおよび2H−SNIF−NMR同位体偏向法は、コメ糠からのフェルラ酸の生物変換により得られたバニリンを、バニラ豆由来のバニリンから完全に識別し、したがって、ソースの真性を保証したことが報告されている(Cochennec C Perfumer & Flavourist (2013) 38: 20-27を参照)。
本明細書において用いられる場合、用語、位置的2H−NMR測定、D−NMRおよびSNIF−NMR(登録商標)は、交換可能に用いられ、「D−NMR」についての任意の参照は、2H−NMR測定および/またはSNIF−NMR(登録商標)nについての参照である。
同位体データベースにおいて先には知られていなかった各々の新たなバニリンのソース、例えばオイゲノールからのフェルラ酸からの天然バニリンについて、植物学的起源の決定は、D−NMRと組み合わせた同位体決定を用いて行うことができる。このことに関して、以下の議論により証明されるとおり、D−NMRは、出願人らにより、本発明の方法を用いてオイゲノールから得ることができる天然に誘導されたフェルラ酸/バニリンと、リグニンおよび/またはグアヤコールから得られた人工的に誘導されたおよび/または合成のフェルラ酸/バニリンとの間を区別するために、首尾よく用いられた。
天然フェルラ酸(FA)/天然バニリン(NV)(オイゲノールからのもの)は、他の人工的に誘導された/化学的に合成されたFA/NVソースからのFA/NVとは異なる:
上の表1および表6(例5)が示すとおり、人工的に/合成により誘導されたリグニンは、約−27〜−29‰の範囲のδ13C値を有し、これは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができるフェルラ酸/バニリンについてのδ13C値の範囲内の部分範囲である。さらに、人工的に/合成により誘導されたグアヤコールは、約−25〜−36‰の範囲のδ13C値を有し、これは、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができるフェルラ酸/バニリンについての約−25〜−32‰のδ13C値の範囲と重複する範囲である。
しかし、例6が示すとおり、多様なソースからのバニリンのフェニル環上のデューテリウムの集積を測定する二次試験もまたD−NMRを用いて測定された場合に、本開示の方法によりオイゲノールから得られたフェルラ酸/バニリン試料は、リグニンおよび/またはグアヤコール試料とは異なる位置でクラスター形成し、したがって、δ13C値測定と組み合わせた二次試験としてのD−NMRの使用もまた、天然フェルラ酸/バニリンの植物学的起源が同定されることを容易にする。
本開示の他の側面は、以下の番号が付けられた段落を含む:
1.オイゲノールをフェルラ酸に変換する1以上のVaoA、MtSAD1およびAtADH遺伝子またはそのバリアント、相同体、変異体、誘導体もしくはフラグメントを含む、組み換えE.coli株。
2.フェルラ酸を調製する方法であって、オイゲノールを、1以上のVaoA、MtSAD1およびAtADH遺伝子またはそのバリアント、相同体、変異体、誘導体もしくはフラグメントを含む組み換えE.coli微生物、あるいはオイゲノールをフェルラ酸に生体内変換するその単離された酵素に、前記オイゲノールをフェルラ酸に生体内変換するために十分な期間にわたり供すること、ならびにこのようにして形成されたフェルラ酸を回収することを含む、前記方法。
3.前記フェルラ酸が天然フェルラ酸である、段落2に記載の方法。
4.フェルラ酸をバニリンにさらに変換することを用いることを含む、段落2または3に記載の方法。
5.バニリンを天然フェルラ酸から製造する、段落4に記載の方法。
6.第1の組み換えE.coli微生物がオイゲノールをフェルラ酸に生体内変換し、第2の組み換えE.coli株がフェルラ酸をバニリンに生体内変換する、段落4〜5のいずれか一つに記載の方法。
7.第1の組み換えE.coli株が、1以上のVaoA、MtSAD1およびAtADH遺伝子またはそのバリアント、相同体、変異体、誘導体もしくはフラグメントを含むE.coli微生物である、段落6に記載の方法。
8.第2の組み換えE.coli微生物が、1以上のechおよびfcs遺伝子またはそのバリアント、相同体、変異体、誘導体もしくはフラグメントを含む、段落6または7に記載の方法。
9.フェルラ酸を調製する方法であって、オイゲノールを、オイゲノールをフェルラ酸に変換する、1以上のVaoA、MtSAD1およびAtADH遺伝子またはそのバリアント、相同体、変異体、誘導体もしくはフラグメントを含む組み換えE.coli微生物、あるいはその単離された酵素に、前記オイゲノールをフェルラ酸に変換するために十分な期間にわたり供すること、ならびにこのようにして形成されたフェルラ酸を回収することを含み、ここで、組み換えE.coli微生物が、オイゲノールをフェルラ酸に生体内変換する場合は、当該組み換えE.coli微生物を、炭素源を含む培地中に含有させる、前記方法。
10.培地がM9A培地である、段落9に記載の方法。
11.フェルラ酸が、約マイナス25‰〜約マイナス32‰のδ13C値を有する、段落9または10に記載の方法。
12.フェルラ酸をバニリンにさらに変換することを含む、段落9〜11のいずれか一つに記載の方法。
13.フェルラ酸を調製する方法であって、オイゲノールを、オイゲノールをフェルラ酸に生体内変換する、1以上のVaoA、MtSAD1およびAtADH遺伝子またはそのバリアント、相同体、変異体、誘導体もしくはフラグメントを含む組み換えE.coli微生物、あるいはその単離された酵素に供して、前記オイゲノールを、少なくとも5〜6g/lの濃度で約4〜約25時間の期間にわたり、約15〜16g/lの濃度で約4〜約40時間の期間にわたり、および約25〜27g/lの濃度で約4〜約70時間の期間にわたり、フェルラ酸に生体内変換すること、ならびにこのようにして形成されたフェルラ酸を回収することを含む、前記方法。
14.バニリンが、約マイナス25‰〜約マイナス32‰のδ13C値を有する、段落13に記載の方法。
15.δ13C値および/またはD-NMR値測定を用いて天然フェルラ酸および/または天然バニリンの真偽を決定する、段落11または段落14に記載の方法。
16.バニリンを製造する生物変換方法であって、混合物中でVaoA遺伝子を発現させること、混合物中でMtSAD1遺伝子を発現させること、混合物にオイゲノールを供給すること、ならびに菌Amycolalopsis sp.微生物(Zhp06)および/または組み換えE.coli微生物と共にインキュベートすることによりフェルラ酸をバニリンに変換することを含む、前記方法。
17.段落1〜16のいずれか一つに記載のオイゲノールから得ることができるフェルラ酸/バニリン試料の真偽を確認するための、δ13C値および/またはD-NMR値測定の使用。
18.マイナス25‰〜約マイナス32‰の範囲のδ13C値が、オイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸および/または天然バニリンの指標である、段落17に記載の使用。
19.オイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸および/または天然バニリンの真偽を、D-NMR試験を用いて確認する、段落18に記載の使用。
本明細書において記載される方法のいずれかにおいて用いることができるさらなる配列は、以下の通りである:
配列番号17.PRT タルウマゴヤシ(MtSAD1のアミノ配列またはそのバリアント)
配列番号18.DNA タルウマゴヤシ(MtSAD1のDNA配列またはそのバリアント)
配列番号19.PRT シロイヌナズナ(AtADHのタンパク質配列またはそのバリアント)
配列番号20.DNA シロイヌナズナ(AtADHのDNA配列またはそのバリアント)
配列番号21.DNA Penicillium simplicissimum(VaoAのDNA配列またはそのバリアント)
本明細書全体およびそれに続く請求の範囲にわたり、文脈が他を必要としない限り、単語「含む(comprise)」、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などのバリエーションは、記述された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群の包含を意味するが、任意の他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群の除外を意味しないことが理解されるであろう。用語「含む(comprising)」はまた、「含む(including)」ならびに「からなる(consisting)」を意味し、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、排他的にXからなっても、何か付加的なもの、例えばX+Yを含んでもよい。また、本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を指示しない限り、複数の参照対象を含むことに注意しなければならない。例として、「a gene」または「an enzyme」についての参照は、「one or more genes」または「one or more enzymes」についての参照である。
本開示は、本明細書において記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されないことが理解されるべきである。なぜならばそれらは変化し得るからである。また、本明細書において用いられる用語は、特定の態様を記載することのみを目的とし、添付の請求の範囲によってのみ限定されるであろう本開示の範囲を限定することは意図されないことはまた理解される。他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術および科学用語は、当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。本開示により、使用される従来の分子生物学、微生物学および組み換えDNA技術が存在し得、これらは当該分野における技術の範囲内である。
本開示は、その適用において、以下の説明において記載されるか、図面において説明される成分の構成および配置の詳細に限定されない。本開示は、他の態様ならびに多様な方法において実施されることおよび実行されることが可能である。また、本明細書において用いられる表現および用語は、説明を目的とするものであり、限定するものとしてみなされるべきではない。「含む(including)」、「含む(comprising)」または「有する(having)」、「含む(containing)」、「含む(involving)」および本明細書におけるそれらのバリエーションの使用は、その後に列記された項目およびそれらの均等物、ならびにさらなる項目を包含することを意味する。
好ましくは、本明細書において用いられる用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」(Leuenberger, H.G.W, Nagel, B.およびKolbl, H.編(1995)Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland)において記載されるように定義される。
いくつかの文書は、本明細書の本文を通して引用される。本明細書において引用される文書(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造者の仕様書、説明書、GenBankの配列寄託の受入番号など)の各々は、上記または下記に関わらず、本明細書によりその全体において参考として援用される。
本明細書において記載される例は、本開示の説明であり、本開示に対する限定となることは意図されない。本開示の異なる態様は、本開示により記載されてきた。本明細書において記載され説明される技術に対して、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、多くの修飾およびバリエーションが行われ得る。したがって、例は、単に説明的なものであって、本開示の範囲に対して限定するものではないことが理解されるべきである。
より詳細な図面の説明
図1は、オイゲノールからフェルラ酸へ、そしてバニリンへの、既知および新規の酵素経路を説明する;
図2は、CgVaoA-pETDuetコンストラクトの模式図を提供する。VaoA遺伝子を、ベクターpETDuetのNde/Xho部位中にクローニングし、CgVaoA-pETDuetを生じた;
図3は、MtSADrbsAtADH-pRSFDuetコンストラクトの模式図を提供する。MtSADおよびAtADHを、cgcagcAGGAGGttaagのrbs配列で連結し、ベクターpRSFDuetのNde/Xho部位中にクローニングした。2つのコンストラクト、CgVaoA-pETDuetおよびMtSADrbsAtADH-pRSFDuetを、BL21(DE3)細胞中に同時形質転換した;
図4は、E. coliにおけるMtSAD1のタンパク質発現を開示する。矢印はMtSAD1タンパク質を示す;
図5A〜5Bは、MtSAD1の遺伝子産物によるコニフェリルアルコールの生物変換を示す。図5A(上パネル)において示されるとおり、MtSAD1を発現するE. coli細胞は、培養中に供給されたコニフェリルアルコール(ピーク1)をコニフェリルアルデヒド(ピーク3)に変換した。驚くべきことに、それはまた、フェルラ酸(ピーク2)を産生した。変換時間が増大するにつれて、コニフェリルアルデヒドのレベルは低下し、およびしたがって、フェルラ酸のレベルが増大した(図5B、下パネル)。これらの観察に基づいて、出願人は、MtSAD1タンパク質は二機能性酵素であり、アルコールをアルデヒドに生物変換し、さらにアルデヒドをフェルラ酸に変換することを示す;
図6は、MtSAD1およびAtADHの遺伝子産物(これはアルコールのフェルラ酸へのin-vivo変換を増大した)を含むE. coliにおけるコニフェリルアルコールのフェルラ酸への生物変換を示す;
図7は、M9A培地中でのE. coliにおけるオイゲノールによるフェルラ酸のin vivo生成を示す。
VaoAおよびMtSAD1と共のE. coliの培養中では、36時間中に約0.2g/Lのフェルラ酸が産生されたが、AtADHの導入により、25mLのシェイカーフラスコ中で、2.4g/Lのフェルラ酸が得られた;
図8は、オイゲノールから調製されたフェルラ酸によるバニリンの生成を示す。出願人らの結果は、21.6g/Lのフェルラ酸(FA)から13.4g/Lのバニリンの収量が得られたことを示し、これは、79.2%のバニリンのモル濃度収率に対応する。バニリンの蓄積は、多かれ少なかれ、発酵期間にわたって直線的である。しかしながら、出願人は、最初の24時間における急速なFAの減少を観察し、このことは、S. viridosporus(Zhp06)が、FAを、バニリンに生物変換される前に、異なる中間体へと生物変換することを示唆している;
図9は、echおよびfcs遺伝子を含む、組み換えE. coli株が、LB培地中では低効率であるがM9A培地中では相対的により高い効率で(なぜならば、全ての添加されたフェルラ酸が、生物変換条件を用いて11時間内にバニリンへと生物変換されたので)フェルラ酸(青色(上)矢印)をバニリン(赤色(下)矢印)へと転換することができることを示す;
図10は、M9A培地中でのバニリン生成のHPLC分析を示し、ここで、全ての添加されたフェルラ酸が、生物変換条件を用いて11時間以内にバニリンに変換される;
図11は、多様なバニリン試料:合成バニリン−石油化学的前駆体から誘導されたバニリン(橙色のxのもの)、ex-フェノール/グアヤコール(緑色のxのもの)、ex-フェルラ酸(紫色の塗りつぶした三角形)、オイゲノールからのex-クローブ−US「天然バニリン」(青色の塗りつぶしていない三角形)、ex-マダガスカルビーン(青色の塗りつぶしていない正方形)、ex-リグニン(紫色の塗りつぶしていない円)のD−NMRを示す;ならびに
図12は、オイゲノールのバニリンへの生体内変換、ならびにバニリンのバニリン酸およびプロトカテクアルデヒドへのさらなる変換のための模式的経路を示す。
例
例25mL(0.025リットル)シェイカーフラスコ中でのオイゲノールからのフェルラ酸の生成。
それぞれタルウマゴヤシおよびシロイヌナズナからの、短鎖アルコールデヒドロゲナーゼ(MtSAD1)およびアルデヒドデヒドロゲナーゼ(AtADH)のクローニング。MtSAD1およびAtADHを、タルウマゴヤシ(生態型A17)およびシロイヌナズナ(生態型Columbia-0)からクローニングした。Trizol Plus RNA精製キット(Invitrogen Inc.)を用いて、植物の全RNAを抽出した。Promega Inc.製のIm Prom-II(商標)逆転写系を、製造者の手引書に従って用いて、cDNAの合成を行った。New England Biolab’s Phusion PCRキットを表2において列記されるプライマーと共に用いて、合成されたcDNAから遺伝子を増幅した。
対応する制限酵素によるPCR生成物の消化の後で、pRSFDuet-1ベクターのNde IおよびXho I部位のクローニング部位中にMtSAD1を挿入した。AtADHは、pCDFDuet-1のBgl IIおよびXho Iのクローニング部位中に挿入した。配列の確認の後で、これらのコンストラクトをそれぞれBL21(DE3)中に導入した。ヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号2および配列番号4において列記し、対応するアミノ酸配列は、配列番号1および配列番号3において列記する。
表2.MtSAD1、AtADHおよびVaoAのクローニングのために用いられたプライマー
配列番号1.MtSAD1のアミノ配列:
配列番号2.MtSAD1のDNA配列
配列番号3.AtADHのタンパク質配列
配列番号4.AtADHのDNA配列
VaoA発現ベクターの構築。VaoA遺伝子は、E. coliにおけるコドン最適化により、以下に列記されるDNA配列として合成し、タンパク質配列を生じた。
配列番号5.VaoAのタンパク質配列
配列番号6.VaoAのDNA配列
遺伝子を、上記のとおりPCRで、表2において列記されるプライマーを用いて増幅した。アガロースゲルからPCR生成物を回収し、Nde IおよびXho Iで消化し、次いでpETDuet-1発現ベクターのNde IおよびXho I部位に挿入した。発現ベクターを、次いで、Topo 10コンピテント細胞中にトランスフォームした。シークエンシングにより正しいインサートを有するコンストラクトを確認し、VaoA-pETDuetと命名した。
E coli中でのVaoAおよびMtSAD1の共発現。VaoA-pETDuetおよびMtSAD1-pRSFDuetのプラスミドを、慣用的なプロトコルに従って、E. coli BL21(DE3)コンピテント細胞中に共トランスフォームした。カナマイシンおよびアンピシリンを用いてLBプレート上で生育するコロニーを、2つの外来遺伝子の存在のコロニーPCR評価のためにピックアップした。陽性のコロニーを、生物変換研究のために用いた。
E coli中でのVaoA、MtSAD1およびAtADHの共発現。VaoA-pETDuet、MtSAD1-pRSFDuetおよびAtADH-pCDFDuetのプラスミドを、慣用的なプロトコルに従って、E. coli BL21(DE3)コンピテント細胞中に共トランスフォームした。カナマイシン、アンピシリンおよびスペクチノマイシンを用いてLBプレート上で生育するコロニーを、3つの外来遺伝子の存在について、コロニーPCRによりチェックした。陽性のコロニーを、生物変換研究のために用いた。
図2は、CgVaoA-pETDuetコンストラクトの模式図を提供する。VaoA遺伝子を、ベクターpETDuetのNde/Xho部位中にクローニングし、CgVaoA-pETDuetを生じた。
図3は、MtSADrbsAtADH-pRSFDuetコンストラクトの模式図を提供する。MtSADおよびAtADHをcgcagcAGGAGGttaagのrbs配列で連結し、ベクターpRSFDuetのNde/Xho部位中にクローニングした。2つのコンストラクト、CgVaoA-pETDuetおよびMtSADrbsAtADH-pRSFDuetを、BL21(DE3)細胞中に共トランスフォームした。
プラスミドCgVaoA-pETDuetおよびMtSADrbsAtADH-pRSFDuetの両方を含む新たな組み換えE.coli株は、オイゲノールをフェルラ酸に生物変換する。
コニフェリルアルコールの生物変換。MtSAD1またはMtSAD1+AtADHを含むE coli BL21(DE3)を、1.25g/Lの酵母抽出物を50μg/Lのアンピシリンおよび100μg/Lのスペクチノマイシンと共に加えたM9培地中で、OD600=0.6まで、シェイカー中で37℃で増殖させ、次いで、1.5%(w/v)の最終濃度までラクトースを添加しながら30℃に変化させ、2つの遺伝子の発現を誘導した。8時間の発現誘導の後で、50%のメタノール中に溶解したコニフェリルアルコールを、培養に添加した。同じ培養条件下において培養を振とうし続け、HPLC分析のために、間隔をあけて試料を採取した。
オイゲノールのフェルラ酸への生物変換。VaoA、MtSAD1およびAtADHを含むE coli BL21(DE3)を、1.25g/Lの酵母抽出物を50μg/Lのアンピシリンおよび100μg/Lのスペクチノマイシンと共に加えたM9A培地中で、OD600=0.6まで、シェイカー中で37℃で増殖させ、次いで、1.5%(w/v)の最終濃度までラクトースを添加しながら30℃に変化させ、2つの遺伝子の発現を誘導した。8時間の発現誘導の後で、オイゲノールを、1リットルの培養物あたり0.1mL/時間の速度で培地に添加した。同じ培養条件下において培養を振盪し続け、HPLC分析のために、間隔をあけて試料を採取した。
発酵槽中でのフェルラ酸のバニリンへの変換。用いたS. viridosporus種培地は、グルコース酵母抽出物(GYE)培地であり、発酵槽の培地成分は、以下のとおりである:酵母抽出物、8g/L;グルコース、30g/L;MgSO4・7H2O、0.8g/L;Na2HPO4・7H2O、7.5g/L;KH2PO4、1.0g/L;ならびに0.2mL/Lの消泡剤。培地を、120℃で、それぞれ15分間および30分間、オートクレーブした。
単一のS. viridosporus[改名されたAmycolalopsis sp.株(Zhp06)]コロニーを、TSB中に播種し、30℃で、対数期後期まで振とうし、次いで、2Lの発酵槽中に5%で継代した。発酵槽(New Brunswick Scientific Bioflo-115 3.0L)を、30℃において、20%を超えるDOを維持するように、rpmおよび通気により制御した。増殖の間、pHは7に制御した。新たに作製した1MのNaOH中のフェルラ酸(FA)ストック溶液を、静止期初期の間、発酵槽中に約10%で供給し、HPLCアッセイにより、FA、バニリンおよびバニリンアルコールの濃度を追跡した。FAが培養から枯渇した場合、FA溶液の新たなバッチを発酵槽に供給して、生体内変換を持続させた。Amycolalopsis sp.株(Zhp06)を用いてFAを天然バニリン(NV)に変換する方法は、US2013/00115667A1およびCN102321563B1において詳細に記載され、これらの内容は、本明細書において参考として援用される。
HPLC分析。Dionex Ultimate 3000系を用いて、フェルラ酸およびオイゲノールのHPLC分析を行った。Dionex Acclaim 120 C18カラム(粒子サイズ3μm;150x2.1mm)における逆相クロマトグラフィーにより、0.15%(vol/vol)酢酸(溶離液A)およびアセトニトリル(溶離液B)、溶離液B10〜40%(vol/vol)の範囲における勾配で、0.6ml/分の流速で、中間体を分離した。定量化のために、全ての中間体を、外部標準によりキャリブレーションした。系におけるダイオードアレイ検出器により同定される保持時間ならびに対応するスペクトルにより、化合物を同定した。
発酵を通して得られるバニリンおよびフェルラ酸基質の同位体分析。フェルラ酸の様々なソースと共に、生体内変換されたバニリンの数回分のバッチを、Isotech Laboratories, Inc.(Champaign, Illinois)においてEA-IRMSによりδ13C分析のために分析した。
結果I
MtSAD1タンパク質は二機能性である
MtSAD1タンパク質は、コニフェリルアルコールのコニフェリルアルデヒドへの変換、およびコニフェリルアルデヒドのフェルラ酸への変換を触媒することにおいて、二機能性活性を示した。図2において示されるとおり、MtSAD1遺伝子産物は、SDS-PAGEにより試験されたE. coliにおいて首尾よく発現された。MtSAD1タンパク質は、可溶性および不溶性の両方の画分中に存在した。
MtSAD1タンパク質は、コニフェリルアルコールのコニフェリルアルデヒドへの変換を触媒する;それはまた、後者をフェルラ酸に変換する。
図5A(上パネル)において示されるとおり、、MtSAD1の発現を有するE. coli細胞は、培養中に供給されたコニフェリルアルコール(ピーク1)をコニフェリルアルデヒド(ピーク3)に変換した。驚くべきことに、それはまた、フェルラ酸(ピーク2)を産生した。変換時間が増大するにつれて、コニフェリルアルデヒドのレベルは低下し、およびしたがって、フェルラ酸のレベルが増大した(図5B、下パネル)。これらの観察に基づいて、出願人は、MtSAD1タンパク質は二機能性酵素であり、アルコールをアルデヒドに変換し、アルデヒドをフェルラ酸にさらに変換することを示す。
AtADHタンパク質の存在は、E. coliにおけるオイゲノールのフェルラ酸への変換効率を改善する。
上の結果から、出願人は、工業的利用のためには触媒効率が低いことを認める。アルデヒドデヒドロゲナーゼを、シロイヌナズナ(AtADH)からクローニングした。MtSAD1およびAtADHの共発現を有するE. coli細胞は、アルコールのフェルラ酸へのin vivo変換を劇的に増大させた(図4)。
VaoA、MtSAD1およびAtADHを含むE. coliにおけるオイゲノールを用いるフェルラ酸の生成。
VaoA、MtSAD1の発現を有するE. coli細胞は、オイゲノールをフェルラ酸に変換することができる。AtADHの導入により、フェルラ酸の生成は、劇的に増大した。25mLのシェイカーフラスコ中で、VaoAおよびMtSAD1を有するE. coliの培養においては36時間中に約0.2g/Lのフェルラ酸が産生されたが、AtADHの導入により、2.4g/Lのフェルラ酸が得られた(図5A〜5B)。
例2A.50リットルの発酵槽中の30L容積中でのオイゲノールを用いるフェルラ酸の生成。
CgVaoA-pETDuetおよびMtSADrbsAtADH-pRSFDuetを保有するE. coli細胞を含む1ミリリットルのグリセロールストック溶液を、100mg/Lのアンピシリンおよび30mg/Lのカナマイシンを含有する1LのLB培地中に播種し、37℃で一晩種培養として培養し、これをついで、50リットルの発酵槽中の100mg/Lのアンピシリンおよび30mg/Lのカナマイシンを含有する30リットルのLB培地中に移した。初期温度を37℃に設定し、300rpmで撹拌し、溶解酸素(DO)を30%を超えるように維持し、0.6vvmで通気し、pHは初めは制御しなかった。1〜1.5時間後に、温度を30℃に低下させ、2Lの22.5g/Lのラクトースを添加し、15g/Lの最終濃度にして、誘導を開始した。この時点において、容積は約33〜34リットルである。通気を0.6vvmに維持し、撹拌を350rpmに上げ、DOを15%を超えるように維持した。14〜16時間にわたる発酵の後で、基質オイゲノールを添加し、温度を30℃に、通気を0.6vvmに、撹拌を350rpmに、DOを15%超に維持した。オイゲノール添加の速度は、以下のとおりである:オイゲノールを、16〜32時間において発酵ブロス1Lあたり約0.67%/hで、32〜48時間において約0.4%/h/Lまで低下させ、その後、72時間における終了時までにさらに約0.3%/h/Lまで低下させた。HPLC分析のために、間隔をあけて発酵槽から試料を採取した。
結果2A
本発明者らの発酵研究において、オイゲノールからのFAの高変換が達成された。平均して、本発明者らの研究条件下において、約25〜30g/Lのタイターが得られ、中間体生成物であるコニフェリルアルコール(CA)の蓄積は非常に少なかった(表3)。
表3.50リットル発酵槽中でのオイゲノールのフェルラ酸への生物変換。
比較データ
Overhageら(Appl Env Microbiol (2003) 69; 6569-6576)は、E.coliの組み換え株中での、オイゲノールをフェルラ酸に変換するための生体内変換方法、およびバニリンへのさらなる変換を開示する。生体内変換方法は、首尾よく30Lスケールにトランスファーされ、ここで、30時間の総発酵時間の後で、14.7g/lのフェルラ酸濃度が得られた。インキュベーション時間を延長することにより収率を改善するために方法を増強することができたか否かについては、何らのデータ/情報も提供されなかった。US 20140087428Aにおいては、第2の組み換えE.coli株を用いて得られたバニリンの収量(2時間後に0.3g/lのバニリン)は、経済的に実現可能な方法のためには低すぎたことが報告された。
E.coliにおける代謝工学アプローチの首尾よい採用により、バニリン生成のための低コストかつ工業的に経済的な方法を提供することができる。E.coliの組み換え株においてオイゲノールをフェルラ酸に変換するための生物変換/生体内変換方法が開示される。Pseudomonas sp.HR199の既知の細菌のCalA/CalB遺伝子(Overhage et al 2003 Appl Env Microbiol (2003) 69; 6569-6576において開示されるもの)を、植物に基づく遺伝子(MtSAD1およびAtADH1)で置き換え、これは、オイゲノールを、コニフェリルアルコール、コニフェリルアルデヒドそして最終的にはフェルラ酸に首尾よく変換した。この生体内変換を30Lの発酵容積までスケールアップしたところ、64時間のインキュベーションの後で、フェルラ酸(26g/l)を回収した。
例2B.フェルラ酸のバニリンへの生物変換。
本発明者らのVaoA-MtSAD1-AtADH系によりオイゲノールから変換された、精製されたフェルラ酸(FA)を、バニリン生成のための基質として用いた。Amycolalopsis sp.株(Zhp06)とUS 2013/0115667A1およびCN102321563B1において記載されるような方法とを用いて、FAを天然バニリン(NV)に変換した。出願人らの結果は、21.6g/LのFAから13.4g/Lのバニリンの収量が得られたことを示し、これは、79.2%におけるバニリンのモル濃度収率に相当する(図8)。バニリンの蓄積は、多かれ少なかれ、発酵期間にわたり直線的である。しかしながら、出願人は、最初の24時間における急速なFAの減少を観察し、このことは、S. viridosporusが、FAを、バニリンに変換される前に異なる中間体に変換することを示唆している。
例3.フェルラ酸を用いてバニリンを生成するためのE. coli株の開発
天然バニリンを生成するために、バニリンを産生する遺伝子ech(エノイル−CoAヒドラターゼ/アルドラーゼ)およびfcs(トランス−フェルロイル−CoAシンターゼ)を、E. coli中にクローニングした。
例示的方法
AmFCS発現ベクターの構築。AmFCS遺伝子は、E. coliにおけるコドン最適化により、以下に列記される配列として合成した。PCRで遺伝子を増幅し、pCDFDuet-1発現ベクターのNde IおよびXho I部位中に挿入し、AmFCS-pCDFDuetのプラスミドを生じた。
配列番号7:FCSについてのヌクレオチド配列
配列番号8:FCSについてのアミノ酸配列:
PfECH発現ベクターの構築。PfECH遺伝子をE. coliにおけるコドン最適化により、以下に列記される配列として合成した。PCRで遺伝子を増幅し、pRSFDuet-1発現ベクターのNde IおよびXho I部位中に挿入し、AmFCS-pRSFDuetのプラスミドを生じた。
配列番号9:ECHについてのヌクレオチド配列
配列番号10:ECHについてのアミノ酸配列:
E coli中でのAmFCSとPfECHとの共発現。AmFCS-pCDFDuetおよびPfECH-pRSFDuetのプラスミドを、BL21(DE3)中に共トランスフォームした。カナマイシンおよびスペクチノマイシンを含むLBプレート中で生育するコロニーを、コロニーPCRチェックのためにピックアップした。陽性のコロニーを生物変換研究のために用いた。
フェルラ酸のバニリンへの生物変換。AmFCS-pCDFDuetおよびPfECH-pRSFDuetを含むE coli BL21(DE3)を、30mg/Lのカナマイシンおよび50mg/Lのスペクチノマイシンを加えたLB培地またはM9A培地(14g/LのKH2PO4、16g/LのK2HPO4、1g/Lのクエン酸Na3・2H2O、7.5g/Lの(NH4)2SO4、0.25g/LのMgSO4・7H2O、0.015g/LのCaCl2・2H2O、5g/Lのグルコース)中で、OD600=0.6まで、シェイカー中で37℃で増殖させ、次いで、IPTGを0.5mMの最終濃度まで添加しながら30℃に変化させ、2つの遺伝子の発現を誘導した。5時間の発現誘導の後、0.1MのNaOH中に溶解したフェルラ酸(100g/L)を、2g/Lの最終濃度まで培養に添加した。同じ培養条件下において培養を振とうし続け、最初のフェルラ酸の添加の後で、1g/Lのフェルラ酸を培養に添加し、HPLC分析のために、間隔をあけて試料を採取した。
HPLC分析。Dionex Ultimate 3000系により、フェルラ酸およびバニリンのHPLC分析を行った。Dionex Acclaim 120 C18カラム(粒子サイズ3μm;150x2.1mm)における逆相クロマトグラフィーにより、0.15%(vol/vol)酢酸(溶離液A)およびアセトニトリル(溶離液B)、溶離液B10〜40%(vol/vol)の範囲における勾配で、0.6ml/分の流速で、中間体を分離した。定量化のために、全ての中間体を、外部標準によりキャリブレーションした。系におけるダイオードアレイ検出器により同定される保持時間ならびに対応するスペクトルにより、化合物を同定した。
図9が示すとおり、組み換えE. coli株は、LB培地中で、相対的に低い効率で、フェルラ酸(青色(上)矢印)をバニリン(赤色(下)矢印)に変換する。フェルラ酸の添加の11時間後、LB培養中には、少量のバニリンが観察された。対照的に、M9A培地中での変換効率は、本発明者らの変換条件において11時間以内に全ての添加されたフェルラ酸がバニリンに変換されたことから、相対的に高い(図9)。合計3g/Lの添加されたフェルラ酸の全てが、完全に変換され、24時間の変換の後で、バニリンの収量は約2.2g/Lであった。
天然バニリンを生成するために、バニリンを産生する遺伝子echおよびfcsを、E.coli中にクローニングし、LB培養中では成功は限定されたが、M9A培養培地中では変換率ははるかに改善された。
例4.δ13C(C13/C12)同位体分析.
フェルラ酸の異なるソース(例えばトウモロコシおよびオイゲノールからのもの)と共に、生物変換/生体内変換されたバニリンの数回分のバッチを、13C/12C(δ13C)分析のために、Isotech Laboratories, Inc.(Isotech Laboratories, Inc. 1308 Parkland Court|Champaign Illinois 61821)においてEA-IRMSにより分析した(表4)。
トウモロコシからのフェルラ酸/バニリンは、WO 2014/106189A2において開示される方法に従って調製した。WO 2014/106189A2の全内容は、本明細書において参考として援用される。
オイゲノールからのフェルラ酸/バニリンは、本明細書において開示され、請求される方法に従って調製した。
δ13C値は、以下のとおり決定した:
13C/12Cについての比は、δ13Cとして報告される。定義は、パーミルにおいて:
ここで、標準は、確立された参照材料である。
炭素−13の研究のために確立された標準は、Pee Dee Belemnite(PDB)であり、サウスカロライナのPee Dee層からの白亜紀の海洋化石Belemnitella americanaに基づく。この材料は、異常に高い13C:12C比(0.0112372)を有し、ゼロのδ13C値として確立された。この標準の使用は、殆どの天然材料に負のδ13Cを与える。標準は、質量分析の正確性を検証するために用いる;同位体研究が一般的になるにつれて、標準についての要求が供給を消耗させた。Vienna PDBについてVPDBとして知られるものを含む他の標準が、元のものを置き換えてきている。
C3およびC4植物は、異なるδ13Cの特徴を有し、これにより、以下のように要約し得るδ13C値測定を用いてC4の草本を検出することが可能である:
一研究によれば(Cochennec C Perfumer & Flavourist (2013) 38: 20-27を参照)、C4植物(例えばトウモロコシ)からのフェルラ酸は、−16〜−19‰の範囲のδ13C値を有し、C3植物(例えばコメ)からのバニリンは、−35〜−38‰のδ13C値を有する。
別の研究によれば(Lebensmittelchemie (2010) 64: 17-48における「Herkunf und Authentizitaet von Vanillearomen」からの表を参照)、
C3植物(例えばコメ)から生物工学的に生成されたバニリンについてのδ13C値は、典型的には、−36‰〜−37‰VPDBの領域である;
したがって、C4植物についてのδ13C値は、一般に、C3植物についてのδ13C値と比較して、値が「より負でない」または「より高い」であろう。
結果4
炭素同位体(δ13C)分析は、本開示の方法により、オイゲノールから調製されたフェルラ酸(FA)、およびこのFA調製から生成されたバニリンは、トウモロコシ穂軸からのフェルラ酸/バニリンについてのδ13C値とは異なるδ13C値を有することを示唆する。表4は、トウモロコシから得られたバニリンについてのδ13C値が−16.6‰であることを示す。トウモロコシ穂軸FAから調製されたバニリンについてのδ13Cの平均値の範囲は、約−19〜−16.0‰である(Cochennec C Perfumer &Flavourist (2013) 38; 20-27を参照)。対照的に、表4は、本開示の方法によりオイゲノールから調製されたフェルラ酸(FA)およびその結果生じたバニリンについて、約−32‰のδ13C値が観察されたことを示す。
理論により拘束されることは望まないが、これら2つの異なる植物ソース(すなわちトウモロコシおよびオイゲノール)からのフェルラ酸/バニリンについてのδ
13C値の間の差異は、植物ソース出発材料のための異なる光合成経路に起源を有し得る。殆どのオイゲノールが由来する植物は、C
3植物であり、これは、
13Cよりも多くの
12Cを光合成により同化し、このことが、それらの植物材料からのフェルラ酸/バニリンについて、C
4植物と比較して、潜在的により低い(すなわちより負の)δ
13C値をもたらす。トウモロコシはC
4植物であり、その二酸化炭素固定は、はるかにより低い
12Cと
13Cとの間の区別を示すので、トウモロコシから得ることができるフェルラ酸/バニリンについてのδ
13C値は、環境中のものに匹敵し得る。
表4.異なる生体材料ソースからのバニリンおよびフェルラ酸の同位体分析
天然フェルラ酸(FA)/天然バニリン(NV)(オイゲノールからのもの)は、他の天然植物ソースからのFA/NVとは異なる:
表4における結果、および上で議論されるとおり引用される先行技術における結果は、少なくともC3、C4およびCAM植物は異なるδ13Cの特徴を有し、このことにより、C3、C4の草本およびCAM植物を、それらのδ13C値により検出し、区別することが可能であることを示す。さらに、表4におけるデータは、本開示の方法を用いてオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸および天然バニリンはまた、(約−32‰の)δ13C値を有し、これは、少なくともC3、C4(例えば、コメ、トウモロコシ、サトウダイコン、コムギおよびクルクミンから選択される天然植物群のソースからのものなど)ならびに/またはCAM植物から得られるδ13C値((例えば、バニラ豆の伝統的な熟成からの、および/または加速させた生物学的方法を用いたものからの(例えば、WO2010/066060およびWO 2010/066061を参照)バニラ抽出物についてのδ13C値)とは異なる。
例5
Overhageら(Appl Env Microbiol (2003) 69; 6569-6576)において記載される既知の生物変換方法を用いてVaoA/CalAおよびCalB遺伝子を用いて得られたフェルラ酸/バニリンについてのδ13C値と、VaoA/MtSAD1およびAtADH遺伝子を用いる本開示の生物変換方法の比較を行った。これらの生物変換方法は、それぞれ「既知の」および「新たな」方法と名付けられる。
結果5
驚くべきことに、同位体分析は、「新たな」方法を用いて得られたバニリンについて、δ
13Cが約−28.1であることを示し、これは、「既知の」方法を用いて得られたバニリンについての−31.7のδ
13C値とは異なる。
表5.代替的な酸化酵素によりオイゲノールから誘導されたバニリンについてのδ
13C値
酸化酵素#1(CalA)を組み込む既知の方法(Overhageら(Appl Env Microbiol (2003) 69; 6569-6576において開示されるような))は、(約−32‰の)δ13C値をもたらした。酵素#2(MtSAD1)による酸化酵素#1(CalA)の置き換えは、−31.7‰から−28.1‰へのδ13C値の変化をもたらした。表5において開示されるデータ、および異なる領域および地域からのオイゲノールの異なる植物学的ソースが異なるδ13C値を有し得るという事実を考慮して、出願人は、本開示の方法によりオイゲノールから得ることができる天然フェルラ酸/バニリン酸は、約−25〜−32‰の範囲のδ13C値を有することを提案する。
理論に拘束されることは望まないが、観察されたδ13C値の変化を説明し得る2つの提案される経路が存在する。第1の場合においては、酵素#2(MtSAD1)が、可逆反応においてバニリンをプロトカテク酸へと脱メチル化する二次活性を有し得る(図2参照)。逆反応の間に、細胞を増殖させるために用いられたC4ベースのトウモロコシ糖から誘導されたメチル基が、プロトカテク酸上に組み込まれて、バニリンを生じる。C3源上の元のメチル基がC4ベースのメチル基で置き換えられるので、期待値からのδ13C値の変化が存在する。
δ13C値の変化が起こり得る第2の経路は、酵素の動力学および動的同位体効果を考慮する。酵素#2(MtSAD1)は、二次活性として、バニリンのバニリン酸への付加的酸化を引き起こす。アルデヒド酸化の速度は、各々の炭素同位体について異なり、これが、部分がバニリン酸として流出するにつれて、バニリンについてのδ13C値を改変し得る。さらなる研究は、酵素#2が経路中に組み込まれた場合にバニリン酸が形成されるか否かを決定するであろう。
例6
マイナス25‰〜マイナス32‰の範囲のδ13C値は、それ自体の課題のセットを有する。なぜならば、それは、グアヤコールまたはリグニンまたはUS天然バニリンから人工的に誘導されたバニリン(これは−28.7‰〜−26.5‰の範囲のδ13C値を有する(以下の表6を参照))と確実に区別することができないからである。したがって、二次的なD-NMR試験を用いて、多様なソースからのバニリンのフェニル環上のデューテリウムの集積を測定した。
結果6
図9が示すとおり、多様なソースからのバニリンについて、クラスターを見ることができる。試料20130630-A1(赤色の塗りつぶされた円)および131206(青色の塗りつぶされた三角)は、オイゲノールの2つのソースから、方法において酵素#1(CalA)を用いて調製された。試料131225は、方法において酵素#2(MtSAD1)を組み込むオイゲノールから得られたバニリンを代表する。3つ全ての試料は、緊密に、しかしオイゲノールから誘導されるUSの「天然」バニリンに対応するクローブからのものとは別に、クラスター化する。無関係に、δ13C値は、人工/不純物が混じった(adulterated)バニリン(例えばグアヤコールまたはリグニンから人工的に誘導されたバニリン)と誤解され得るが、一方、D-NMRの結果は、D-NMR法が、オイゲノールからの天然バニリン、他のソースからの天然バニリン、およびグアヤコールまたはリグニンから人工的に誘導されたバニリンならびにオイゲノールから誘導されたUSの「天然」バニリンを区別することができることを示唆するであろう。
まとめると、オイゲノールからフェルラ酸/天然バニリン(FA/NV)を生成するための生物変換方法を開発し、本明細書において開示するが、FA/NV材料が人工的に、合成により、またはEUにおいて受け入れられない手段により誘導されたものからユニークであることを証明するためには、2種類の証拠を必要とし得る。
表6.多様なソースからのバニリンについてのδ
13C値(データはLebensmittelchemie (2010) 64: 17-48中の「Herkunf und Authentizitaet von Vanillearomen」から得られた)
本開示は、発酵に基づく方法を提供し、これは、オイゲノールを、EUにおける天然材料についての規制上の必要条件に適合するバニリンに変換する。発酵に基づく方法は、オイゲノールのフェルラ酸への変換を促進する新規の酸化酵素(MtSAD1)を組み込む。この酵素を用いる新たな方法は、Overhageら(2003)における開示に基づくVaoA/CalA/CalB発酵方法を用いる発酵に基づく方法を用いて得られたものと比較して期待されるものと異なるδ13C値の範囲をもたらすことを発見した。
要旨
E.coliにおける生物変換方法の首尾よい採用は、バニリン生成のための低コストかつ工業的に経済的な方法を提供する。Pseudomonas sp.HR199の既知の細菌CalA/CalB遺伝子を、植物に基づく遺伝子(MtSAD1およびAtADH1)で置き換え、これは、24時間のインキュベーション中に90%〜96%のモル濃度収率で、フェルラ酸を天然バニリンに首尾よく変換した。この生体内変換を、50Lのバイオリアクター中で30Lの発酵容積までスケールアップしたところ、VaoAと植物に基づく遺伝子(MtSAD1およびAtADH1)とを含む新規の組み換えE.coli微生物を用いた約60時間のインキュベーションの後で、フェルラ酸(26g/l)を回収した。
E.coliの組み換え株におけるオイゲノールをフェルラ酸に変換するための生体内変換方法およびバニリンへのさらなる変換を開示する。生体内変換方法を、首尾よく30Lのスケールに移し、ここで、64時間の総発酵時間の後で、26g/lのフェルラ酸濃度を得た。この首尾よい変換に基づいて、オイゲノールからバニリンをもたらす2つの異なる2ステップの生体内変換方法を確立した。
第1の2ステップの生体内変換方法は、フェルラ酸を天然バニリンに変換するために、第1のステップにおいて組み換えE.coli株を、第2のステップにおいてStreptomyces/Amcolatopsis株を用いる。第2の2ステップの生体内変換方法は、第1のステップにおいて組み換えE.coli株を、第2のステップにおいて異なる組み換えE.coli株を用いる。
第1の2ステップの生体内変換方法を用いると、出願人らの結果は、21.6g/LのFAから13.4g/Lのバニリンの収量が得られたことを示し、これは、79.2%のバニリンのモル濃度収率に相当する。バニリンの蓄積は、多かれ少なかれ、発酵時間全体にわたって直線的である。しかしながら、初めの24時間において急速なFAの減少が観察され、このことは、S. viridosporusが、フェルラ酸を、バニリンに変換される前に異なる中間体に変換することを示唆している。第2の2ステップの生体内変換方法を用いると、ハイブリッドプラスミドAmFCS-pCDFDuetおよびPfECH-pRSFDuetを保有する2つの組み換えE.coli株の連続適用は、初めに、24時間後に、3g/lのフェルラ酸から2.2g/lの産生をもたらし、これは、2時間の後で0.3g/lのFAの生産量が得られたOverhageら(2003)により得られたものよりも良い収量である。
本開示は、発酵に基づく方法を提供し、これは、オイゲノールを、EUにおける天然材料についての規制上の必要条件に適合するバニリンに変換する。新規の発酵に基づく方法は、オイゲノールのフェルラ酸への変換を促進する酸化酵素(MtSAD1)を組み込む。新規方法が、コメ、トウモロコシ、サトウダイコン、コムギおよびクルクミンから選択される他の植物ソースから得られたフェルラ酸/バニリンについて得られるδ13C値の範囲と比較した場合に異なるδ13C値の範囲を有するフェルラ酸/バニリン生成物をもたらすことを発見した。