定義
本発明は、特定の実施形態に関して、およびある特定の図面に関して記載されるが、本発明はそれらに限定されることはなく、特許請求の範囲にのみ限定される。特許請求の範囲におけるいかなる参照記号も範囲を限定するものと解釈すべきではない。記載された図面は、単なる図解であって、非限定的なものである。図面において、いくつかの要素のサイズは、誇張されている場合もあるし、図解を目的とし、正しい寸法で描かれたものではない。用語「含む」が本明細書および特許請求の範囲で用いられる場合、それは他の要素または工程を除外しない。単数名詞を参照して定冠詞または不定冠詞、例えば、「1つの(a)」または「1つの(an)」、「その(the)」が用いられる場合、これは、何か他に特別に述べられない限り、その名詞の複数を含む。さらに、本明細書および特許請求の範囲中の用語である第1の、第2の、第3のなどは、同様の要素間を区別するために用いられるのであって、必ずしも連続的な順番または時間的順番を記載するために用いられるわけではない。そのように用いられる用語は、適切な環境下では互換的であり、本明細書に記載される本発明の実施形態は、本明細書で記載されまたは例示される順番以外の順番で操作することも可能であると理解されるべきである。
本明細書で特に定義しない限り、本発明と関連して使用される科学技術用語および語句は、当業者に通常理解されている通りの意味を有する。一般に、本明細書に記載される分子細胞生物学、構造生物学、生物物理学、薬理学、遺伝学ならびにタンパク質および核酸化学と関連して使用される命名法とそれらの技術は、当該技術分野において周知であり、通常使用されているものである。Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology、第2版、John Wiley and Sons、New York(1994)、およびHale & Marha、The Harper Collins Dictionary of Biology、Harper Perennial、NY(1991)は、本開示において使用されている多数の用語の一般的な辞書を当業者に与える。特に指定しない限り、本発明の方法および技術は、本明細書の全体を通して引用および検討されている種々の一般的なおよびより具体的な文献に記載されているように、当該技術分野において周知の従来の方法に従って一般に実施される。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(2001);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates(1992、および2002までの補遺);Rup、Biomolecular crystallography:principles、Practice and Applications to Structural Biology、第1版、Garland Science、Taylor & Francis Group,LLC、an informa Business、N.Y.(2009);Limbird、Cell Surface Receptors、第3版、Springer(2004)を参照されたい。
本明細書で使用するとき、「ポリペプチド」、「タンパク質」、「ペプチド」は、本明細書において互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマー形態を指し、コードされたおよびコードされていないアミノ酸、化学的もしくは生化学的に修飾されたまたは誘導体化されたアミノ酸、および修飾されたペプチド主鎖を有するポリペプチドを含むことができる。本出願の全体を通して、アミノ酸の標準的な一文字表記が使用される。典型的には、用語「アミノ酸」とは、「タンパク質原性アミノ酸」、すなわち、タンパク質において天然に存在するそれらのアミノ酸を指す。とりわけ、アミノ酸は、L異性体型であるが、Dアミノ酸もまた想定される。
本明細書で使用するとき、用語「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」、「ポリ核酸」、「核酸」は、互換的に使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドまたはそれらの類似体のいずれかのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有してもよく、既知または未知の任意の機能を果たすことができる。ポリヌクレオチドの非限定的な例としては、遺伝子、遺伝子断片、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、制御領域、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、およびプライマーが挙げられる。核酸分子は、直鎖状または環状であってもよい。
本明細書で開示されている任意のペプチド、ポリペプチド、核酸、化合物などは、「単離されて」または「精製されて」いてもよい。「単離された」は、本明細書で使用され、言及される材料が、(i)天然に存在する1つ以上の物質から分離され(例えば、少なくともいくつかの細胞材料から分離され、他のポリペプチドから分離され、その自然の配列関係から分離され)、および/または(ii)例えば組換えDNA技術、化学合成などの人間の手を伴うプロセスによって製造され;および/または(iii)天然で見出されない配列、構造、もしくは化学組成を有する。「単離された」とは、実質的に目的の化合物に濃縮されている試料内にある化合物、および/または目的の化合物が部分的もしくは実質的に精製されている化合物を含むことを意味する。「精製された」とは、本明細書で使用するとき、言及される材料が、その天然の環境から除去され、「実質的に純粋である」とも呼ばれ、自然に会合している他の成分を少なくとも60%含まない、少なくとも75%含まない、または少なくとも90%含まないことを示す。
用語「配列同一性」は、本明細書で使用するとき、配列が、比較ウィンドウ上でヌクレオチド対ヌクレオチド基準またはアミノ酸対アミノ酸基準で同一である程度を指す。したがって、「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウ上で2つの最適に整列された配列を比較し、両配列において同じ核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)または同じアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysおよびMet)が現れる位置の数を求めて合致する位置の数を出し、合致する位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で割り、結果に100をかけて配列同一性のパーセンテージを出して計算する。配列同一性のパーセンテージの決定は、手動で、または当該技術分野において利用可能なコンピュータープログラムを利用することによって行うことができる。有用なアルゴリズムの例は、PILEUP(Higgins & Sharp、CABIOS 5:151(1989)、BLAST and BLAST 2.0(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403(1990)である。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公衆に利用可能である。
「類似性」は、同一であるまたは保存的置換を構成するアミノ酸の数のパーセンテージを指す。類似性は、GAP(Deverauxら、1984)などの配列比較プログラムを用いて決定されてもよい。このようにして、本明細書において引用された配列と類似したまたは実質的に異なった長さの配列は、例えば、GAPによって用いられる比較アルゴリズムによって決定されるギャップをアラインメントに挿入することによって比較されてもよい。本明細書で使用するとき、「保存的置換」とは、アミノ酸を、その側鎖が類似した生化学的特性を有する(例えば、脂肪族である、芳香族である、正に帯電している、・・・)他のアミノ酸で置換することであり、当業者に周知である。次に、非保存的置換は、アミノ酸を、その側鎖が同様の生化学的性質を有しない他のアミノ酸で置換すること(例えば、疎水性残基を極性残基で置換すること)である。保存的置換は、典型的には、もはや同一でないが、なおも非常に類似している配列を生じさせる。保存的置換によって、gly、ala;val、ile、leu、met;asp、glu;asn、gln;ser、thr;lys、arg;cys、met;およびphe、tyr、trpなどの組合せが意図される。
「欠失」は、本明細書において、1つ以上のアミノ酸残基またはヌクレオチド残基が、それぞれ、親のポリペプチドまたは核酸のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較して存在しないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列のいずれかにおける変化として定義される。タンパク質との関連では、欠失は、約2個、約5個、約10個、最大約20個、最大約30個もしくは最大約50個またはそれらを超えるアミノ酸の欠失を含むことができる。タンパク質またはその断片は、2個以上の欠失を含有してもよい。GPCRとの関連では、欠失は、ループ欠失、またはN末端および/もしくはC末端欠失であってもよい。当業者に明らかになるように、GPCRのN末端欠失および/またはC末端欠失はまた、GPCRのアミノ酸配列の切断または切断型GPCRと呼ばれる。
「挿入」または「付加」は、親タンパク質のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較して、それぞれ、1つ以上のアミノ酸残基またはヌクレオチド残基の付加をもたらすアミノ酸配列またはヌクレオチド配列におけるその変化である。「挿入」とは、一般的に、ポリペプチドのアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸残基への付加を指し、一方、「付加」とは、挿入であってもよく、またはN末端もしくはC末端または両末端に付加されたアミノ酸残基を指す。タンパク質またはその断片との関連では、挿入または付加は、約1個、約3個、約5個、約10個、最大約20個、最大約30個もしくは最大約50個またはそれらを超えるアミノ酸のものである。タンパク質またはその断片は、2個以上の挿入を含有してもよい。
「置換」は、本明細書で使用されるとき、親タンパク質またはその断片のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較して、それぞれ、異なるアミノ酸またはヌクレオチドによる1つ以上のアミノ酸またはヌクレオチドの置換をもたらす。タンパク質またはその断片は、タンパク質の活性に実質的に影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換を有してもよいことが理解される。保存的置換によって、gly、ala;val、ile、leu、met;asp、glu;asn、gln;ser、thr;lys、arg;cys、met;およびphe、tyr、trpなどの組合せが意図される。
用語「組換え」とは、細胞、核酸、タンパク質またはベクターに関して用いるとき、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種の核酸もしくはタンパク質の導入または天然の核酸もしくはタンパク質の改変によって修飾されていること、または細胞がこのように修飾された細胞に由来することを示す。したがって、例えば、組換え細胞は、細胞の天然(非組換え)形態内において見出されない核酸もしくはポリペプチドを発現し、または他には異常に発現され、発現中であり、過剰発現されもしくは全く発現されない天然の遺伝子を発現する。
本明細書で使用するとき、用語「発現」とは、ポリペプチドが遺伝子の核酸配列に基づいて生成されるプロセスを指す。プロセスは、転写と翻訳の両方を含む。
用語「作動可能に連結される」とは、本明細書で使用するとき、調節配列が、目的とする遺伝子を制御するために、目的とする遺伝子と連続している連結、および目的とする遺伝子を制御するためにトランスでまたはある距離で作用する調節配列を指す。例えば、DNA配列は、プロモーターの転写開始部位に関して下流でプロモーターに連結され、転写伸長がDNA配列全体でプロセッシングを可能にする場合、プロモーターに作動可能に連結される。シグナル配列のDNAは、ポリペプチドの輸送に関与するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドをコードするDNAに作動可能に連結される。調節配列へのDNA配列の連結は、典型的には、適切な制限部位でのライゲーションによって、または当業者に公知の制限エンドヌクレアーゼを使用して、その代わりに挿入されたアダプターもしくはリンカーでのライゲーションによって達成される。
用語「調節配列」とは、本明細書で使用されるとき、「制御配列」とも呼ばれ、作動可能に連結されているコード配列の発現に影響を及ぼすのに必要とされるポリヌクレオチド配列を指す。調節配列は、核酸配列の転写、転写後の事象および翻訳を制御する配列である。調節配列としては、適切な転写開始配列、終止配列、プロモーター配列およびエンハンサー配列;効率的RNAプロセッシングシグナル、例えば、スプライシングシグナルおよびポリアデニル化シグナル;細胞質mRMAを安定化する配列;翻訳効率を高める配列(例えば、リボソーム結合部位);タンパク質の安定性を高める配列;ならびに必要に応じて、タンパク質の分泌を高める配列が挙げられる。このような制御配列の性質は、宿主生物に応じて異なる。用語「調節配列」は、最低限として、その存在が発現に必須である全ての成分を含むことが意図され、また、その存在が有利である追加の成分、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列を含むことができる。
用語「ベクター」は、本明細書で使用するとき、連結されている別の核酸分子を輸送することができる核酸分子を指すことが意図される。ベクターは、限定されないが、ファージ、ウイルス、プラスミド、ファージミド、コスミド、バクミドまたは人工染色体をも含む任意の適切なタイプのものであってもよい。ある種のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律複製可能である(例えば、宿主細胞において機能する複製起点を有するベクター)。他のベクターは、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込むことができ、それによって宿主ゲノムと一緒に複製される。さらに、ある種の好ましいベクターは、目的とするある種の遺伝子の発現を指向することができる。このようなベクターは、本明細書において、「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と呼ばれる。適切なベクターは、必要に応じておよび特定の宿主生物(例えば、細菌細胞、酵母細胞)に従って、プロモーター配列、エンハンサー配列、ターミネーター配列などの調節配列を有する。典型的には、本発明の組換えベクターは、少なくとも1つの「キメラ遺伝子」または「発現カセット」を含む。発現カセットは、一般的に、好ましくは(転写方向で5’から3’に)プロモーター領域、転写開始領域と作動可能に連結された本発明のポリヌクレオチド配列、そのホモログ、変異体または断片、およびRNAポリメラーゼに対する終止シグナルを含む終止配列、およびポリアデニル化シグナルを含むDNA構築物である。これらの領域の全ては、形質転換されるために、原核細胞または真核細胞などの生物学的細胞において操作され得なければならないことが理解される。好ましくはRNAポリメラーゼ結合部位を含む転写開始領域を含むプロモーター領域、およびポリアデニル化シグナルは、形質転換される生物学的細胞に由来するものであってもよく、または代替的な供給源に由来してもよく、この場合、領域は生物学的細胞において機能的である。
用語「宿主細胞」は、本明細書で使用するとき、組換えベクターが導入されている細胞を指すことが意図される。このような用語は、特定の対象細胞だけでなく、このような細胞の子孫も指すことが意図されるものと理解されるべきである。ある種の修飾が変異または環境の影響のいずれかに起因して、続く世代において起こり得るため、このような子孫は、実際に、親細胞と同一ではない場合があるが、本明細書で使用される用語「宿主細胞」の範囲内になおも含まれる。宿主細胞は、単離された細胞もしくは培養液中で増殖させた細胞株であってもよく、または生体組織もしくは生物に存在する細胞であってもよい。特に、宿主細胞は、細菌または真菌由来のものであるが、植物もしくは哺乳動物由来のものでもあってもよい。表現「宿主細胞」、「組換え宿主細胞」、「発現宿主細胞」、「発現宿主系」、「発現系」は、同じ意味を有することが意図され、本明細書において互換的に使用される。
「Gタンパク質共役受容体」または「GPCR」は、それぞれ膜を貫通する7つのアルファヘリックスを形成する、22から24個の間の疎水性アミノ酸の7つの領域を有する共通の構造的モチーフを共有するポリペプチドである。それぞれの貫通領域(span)は、番号によって同定され、すなわち、膜貫通−1(TM1)、膜貫通−2(TM2)などとする。膜貫通ヘリックスは、それぞれ、「細胞外」領域1、2および3(EC1、EC2およびEC3)と呼ばれる、細胞膜の外部または「細胞外」側における膜貫通−2と膜貫通−3との間、膜貫通−4と膜貫通−5との間、および膜貫通−6と膜貫通−7との間のアミノ酸の領域によって連結されている。また、膜貫通ヘリックスは、それぞれ、「細胞内」領域1、2および3(IC1、IC2およびIC3)と呼ばれる、細胞膜の内部または「細胞内」側における膜貫通−1と膜貫通−2との間、膜貫通−3と膜貫通−4との間および膜貫通−5と膜貫通−6との間のアミノ酸の領域によって連結されている。受容体の「カルボキシ」(「C」)末端は、細胞内にある細胞内空間に位置し、受容体の「アミノ」(「N」)末端は、細胞外にある細胞外空間に位置する。GPCR構造および分類は、一般に、当該技術分野において周知であり、GPCRに関するさらなる考察は、Probst、DNA Cell Biol.,1992、11:1−20;Marcheseら、Genomics 23:609−618、1994;以下の書籍:Jurgen Wess(編)Structure−Function Analysis of G Protein−Coupled Receptors published by Wiley Liss(第1版;1999年10月15日);Kevin R. Lynch (編) Identification and Expression of G Protein−Coupled Receptors published by John Wiley & Sons(1998年3月)およびTatsuya Haga(編)、G Protein−Coupled Receptors、published by CRC Press(1999年9月24日);およびSteve Watson(編)G−Protein Linked Receptor Factsbook、Academic Pressにより発行(第1版;1994)に見出すことができる。
GPCRに関して、用語「生物学的に活性な」とは、天然に存在するGPCRの生化学的機能(例えば、結合機能、シグナル伝達機能、またはリガンド結合の結果として立体構造を変化させる能力)を有するGPCRを指す。
一般的に、GPCRに関して、用語「天然に存在する」とは、(例えば、ヒトなどの野生型哺乳動物によって)天然に産生されるGPCRを意味する。このようなGPCRは天然に見出される。GPCRに関して、用語「天然に存在しない(non−naturally occurring)」とは、天然には存在しないGPCRを意味する。変異を介して構成的に活性にされた天然に存在するGPCR、ならびに天然に存在する膜貫通型受容体の変異体、例えば、エピトープでタグ付けされたGPCRおよびそれらの元のN末端を欠損しているGPCRは、天然に存在しないGPCRの例である。天然に存在するGPCRの天然に存在しないバージョンは、多くの場合、天然に存在するGPCRと同じリガンドによって活性化される。本発明との関連で、天然に存在するまたは天然に存在しないGPCRのいずれかの非限定的な例は、本明細書において、特にムスカリン性アセチルコリン受容体についてさらに与えられる。
「エピトープ」とは、本明細書で使用するとき、ポリペプチドの抗原決定基を指す。エピトープは、エピトープに固有の空間的立体構造における3個のアミノ酸を含み得る。一般的に、エピトープは、少なくとも4、5、6、7個のこのようなアミノ酸からなり、さらに通常は、少なくとも8、9、10個のこのようなアミノ酸からなる。アミノ酸の空間的立体構造を決定する方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、X線結晶構造解析および多次元核磁気共鳴を含む。「立体構造エピトープ」とは、本明細書で使用するとき、ポリペプチドの折り畳まれた三次元立体構造に固有の空間的な立体構造におけるアミノ酸を含むエピトープを指す。一般的に、立体構造エピトープは、タンパク質の折り畳み構造において一体となる、直鎖状配列において非連続的なアミノ酸からなる。しかしながら、立体構造エピトープはまた、ポリペプチドの折り畳まれた三次元立体構造に固有の立体構造をとる(変性状態には存在しない。)アミノ酸の直鎖状配列からなる場合がある。
タンパク質の用語「立体構造」または「立体構造状態」とは、一般的に、タンパク質が任意の瞬間においてとり得る構造の範囲を指す。当業者は、立体構造または立体構造状態の決定因子が、タンパク質のアミノ酸配列(修飾されたアミノ酸を含む。)に反映されるタンパク質の一次構造、およびタンパク質を取り巻く環境を含むことを認識する。また、タンパク質の立体構造または立体構造状態は、タンパク質二次構造(例えば、とりわけα−ヘリックス、β−シート)、三次構造(例えば、ポリペプチド鎖の三次元フォールディング)、および四次構造(例えば、ポリペプチド鎖と他のタンパク質サブユニットとの相互作用)などの構造的特徴に関する。とりわけリガンド結合、リン酸化、硫酸化、グルコシル化、または疎水性基の付着などのポリペプチド鎖に対する翻訳後および他の修飾は、タンパク質の立体構造に影響を及ぼし得る。さらに、とりわけ周囲の溶液のpH、塩濃度、イオン強度および浸透圧、ならびに他のタンパク質および補助因子との相互作用などの環境要因が、タンパク質立体構造に影響を及ぼし得る。タンパク質の立体構造状態は、活性もしくは別の分子との結合の機能アッセイまたは他の方法の中でもX線結晶構造解析、NMRもしくはスピン標識などの物理的方法のいずれかによって決定され得る。タンパク質立体構造および立体構造状態の総合的な考察のため、Cantor and Schimmel、Biophysical Chemistry、第I部:The Conformation of Biological.Macromolecules、W.H.Freeman and Company、1980、およびCreighton、Proteins:Structures and Molecular Properties、W.H.Freeman and Company、1993を参照されたい。
「機能的立体構造」または「機能的立体構造状態」とは、本明細書で使用するとき、タンパク質が、活性のダイナミックレンジ、特に活性なしから最大活性にわたる活性のダイナミックレンジを有する様々な立体構造状態を保有するという事実を指す。「機能的立体構造状態」とは、活性がないことを含むいかなる活性も有する、タンパク質の任意の立体構造状態を網羅することを意味し、タンパク質の変性状態を網羅することは意味しないことは明らかなはずである。機能的立体構造の非限定的な例としては、活性な立体構造、不活性な立体構造または基本立体構造(本明細書においてさらに定義される。)が挙げられる。特定のクラスの機能的立体構造は、「新薬の開発につながる立体構造」として定義され、一般的に、標的タンパク質の固有の治療関連立体構造状態を指す。実例として、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2のアゴニストに結合する活性立体構造は、疼痛および膠芽細胞腫に関連するこの受容体の新薬の開発につながる立体構造に対応する。したがって、新薬の開発につながることは、治療徴候に応じて特定の立体構造に限定されることが理解される。より詳細は本明細書においてさらに与えられる。
本明細書で使用するとき、用語「活性立体構造」および「活性型」とは、活性となるような方法で折り畳まれているGPCR、特にムスカリン性アセチルコリン受容体M2を指す。GPCRは、受容体のアゴニストを用いて、活性立体構造に配置され得る。例えば、その活性立体構造のGPCRは、ヘテロ三量体Gタンパク質に結合し、下流のシグナル伝達経路を活性化するためにGタンパク質のヌクレオチド交換を触媒する。活性化されたGPCRは、ヘテロ三量体Gタンパク質の不活性な、GDP結合形態に結合し、Gタンパク質にそれらのGDPを放出させ、そのためGTPが結合することができる。GTPが結合することができる、このプロセスに起因する一過性の「ヌクレオチド不含」状態がある。GTPが結合されると、受容体とGタンパク質は解離し、GTP結合Gタンパク質は、例えば、アデニリルシクラーゼ、イオンチャネル、RAS/MAPKなどの下流のシグナル伝達経路を活性化し得る。用語「不活性立体構造」および「不活性形態」とは、不活性となるような方法で折り畳まれている、GPCR、特にムスカリン性アセチルコリン受容体M2を指す。GPCRは、受容体のインバースアゴニストを用いて、不活性立体構造に配置され得る。例えば、その不活性立体構造のGPCRは、高親和性でヘテロ三量体Gタンパク質に結合しない。用語「活性立体構造」および「不活性立体構造」は、本明細書においてさらに例証される。本明細書で使用するとき、用語「基本的立体構造」とは、アゴニストの非存在下でさえ、特定のシグナル伝達経路に対する活性を示す方法で折り畳まれている、GPCR、特にムスカリン性アセチルコリン受容体M2を指す(基本的活性または構成的活性とも呼ばれる。)。インバースアゴニストは、この基礎的活性を阻害することができる。したがって、GPCRの基礎的立体構造は、リガンドまたは付属タンパク質の非存在下で安定な立体構造または顕著な構造種に対応する。
GPCRの機能的立体構造状態に関して、用語「安定している」または「安定化された」とは、本明細書中で使用するとき、本発明の結合剤とGPCRの相互作用の効果に起因して、他には仮定され得る可能な立体構造のサブセットにおけるGPCRタンパク質の維持または保持を指す。こうした中で、タンパク質の特定の立体構造または立体構造状態に選択的に結合する結合剤は、タンパク質が仮定し得る他の立体構造または立体構造状態に対するよりも、立体構造または立体構造状態のサブセットにおけるタンパク質に対して高い親和性で結合する結合剤を指す。当業者は、タンパク質の特定の立体構造または立体構造状態に特異的または選択的に結合する結合剤が、この特定の立体構造または立体構造状態、およびその関連する活性を安定化させることを認識する。より詳細は、本明細書においてさらに提供される。
用語「親和性」とは、本明細書で使用するとき、標的タンパク質とリガンドの平衡を、それらの結合によって形成される複合体の存在に向かってシフトさせるように、リガンド(本明細書においてさらに定義される。)が標的タンパク質に結合する程度を指す。したがって、例えば、GPCRとリガンドが相対的に等濃度で組み合わせられる場合、高親和性のリガンドは、得られる複合体の高濃度に向かって平衡をシフトさせるように、GPCR上の利用可能な抗原に結合する。解離定数は、一般的に、リガンドと標的タンパク質間の親和性を説明するために用いられる。典型的には、解離定数は10−5Mよりも低い。好ましくは、解離定数は10−6Mよりも低く、より好ましくは10−7Mよりも低い。最も好ましくは、解離定数は10−8Mよりも低い。リガンドとその標的タンパク質間の親和性を説明するための他の方法は、会合定数(Ka)、阻害定数(Ki)であり、または間接的には、最大半阻害濃度(IC50)もしくは最大半有効濃度(EC50)を測定することによって、リガンドの効力を評価することによる。本発明の範囲内で、リガンドは、GPCR上の立体構造エピトープに結合する結合剤、好ましくは免疫グロブリン、例えば抗体、または免疫グロブリン断片、例えばVHHもしくはナノボディであってもよい。本発明の範囲内で、用語「親和性」は、標的GPCRの立体構造エピトープに結合する結合剤、特に免疫グロブリンまたは免疫グロブリン断片、例えばVHHまたはナノボディとの関連において、および標的GPCR、とりわけ標的GPCRのオルソステリックまたはアロステリック部位に結合する試験化合物(本明細書においてさらに定義される。)との関連で使用されることが認識される。
用語「特異性」とは、本明細書で使用するとき、結合剤、特に免疫グロブリンまたは免疫グロブリン断片、例えばVHHまたはナノボディが、異なる抗原と対比して、1つの抗原に優先的に結合する能力を指し、必ずしも高親和性を意味しない。
用語「特異的に結合する」および「特異的結合」とは、本明細書で使用するとき、一般的に、結合剤、特に免疫グロブリン、例えば、抗体、または免疫グロブリン断片、例えば、VHHまたはナノボディが、異なる抗原の均一な混合物に存在する特定の抗原に優先的に結合する能力を指す。ある特定の実施形態において、特異的結合相互作用は、試料中の望ましい抗原と望ましくない抗原の間を識別し、一部の実施形態において、約10倍超から100倍以上(例えば、約1000倍超または10,000倍超)で識別する。GPCR、特にムスカリン性アセチルコリン受容体M2の立体構造状態のスペクトルとの関連で、これらの用語は、特に、結合剤(本明細書において定義されている。)が、別の立体構造状態と比較して、GPCRの特定の立体構造状態を優先的に認識および/または結合する能力を指す。
本明細書で使用するとき、本発明との関連で、用語「立体構造選択的な結合剤」とは、立体構造選択的な方式で標的タンパク質に結合する結合剤を指す。タンパク質の特定の立体構造または立体構造状態に選択的に結合する結合剤は、タンパク質が仮定し得る他の立体構造または立体構造状態と比較して、立体構造または立体構造状態のサブセットにおけるタンパク質に対してより高い親和性で結合する結合剤を指す。当業者は、タンパク質の特定の立体構造または立体構造状態に選択的に結合する結合剤が、この特定の立体構造または立体構造状態においてタンパク質を安定化させまたは維持することを認識する。例えば、活性立体構造選択的な結合剤は、活性立体構造状態におけるGPCRに優先的に結合し、不活性立体構造状態におけるGPCRに結合しないまたはその程度がより小さく、したがって、前記活性立体構造状態に対してより高い親和性を有し;またはその反対もある。用語「特異的に結合する」、「選択的に結合する」、「優先的に結合する」、ならびにその文法的に同等なものは、本明細書において互換的に使用される。また、用語「立体構造特異的」または「立体構造選択的」とは、本明細書において互換的に使用される。
用語「化合物」または「試験化合物」または「候補化合物」または「薬物候補化合物」は、本明細書で使用するとき、スクリーニングアッセイまたは創薬アッセイなどのアッセイにおいて試験される天然に存在するまたは合成のいずれかの任意の分子を説明する。このようなものとして、これらの化合物は、有機化合物および無機化合物を含む。化合物は、低分子量によって特徴付けられたポリヌクレオチド、脂質またはホルモンアナログを含む。他のバイオポリマー有機試験化合物は、抗体、抗体断片または抗体コンジュゲートなどの、約2から約40個のアミノ酸を含む小ペプチドまたはペプチド様分子(ペプチド模倣物)および約40から約500個のアミノ酸を含むより大きなポリペプチドを含む。試験化合物はまた、タンパク質スキャフォールドであってもよい。ハイスループットな目的で、十分な範囲の多様性をもたらすコンビナトリアルライブラリーまたは無作為化ライブラリーなどの試験化合物ライブラリーが使用されてもよい。例としては、限定されないが、天然化合物ライブラリー、アロステリック化合物ライブラリー、ペプチドライブラリー、抗体断片ライブラリー、合成化合物ライブラリー、断片ベースのライブラリー、ファージディスプレイライブラリーなどが挙げられる。より詳細な説明は、本明細書においてさらに見出すことができる。
本明細書で使用するとき、用語「リガンド」とは、GPCR、特にムスカリン性アセチルコリン受容体M2に特異的に結合する分子を意味する。リガンドは、限定的であることを目的としないが、ポリペプチド、脂質、小分子、抗体、抗体断片、核酸、炭水化物であってもよい。リガンドは、合成であるまたは天然に存在してもよい。リガンドはまた、固有のGPCRに対する内因性の天然リガンドである「固有のリガンド」を含む。本発明との関連で、リガンドは、細胞内または細胞外のいずれかでGPCRに結合することができる。リガンドは、アゴニスト、部分アゴニスト、インバースアゴニスト、アンタゴニスト、アロステリックモジュレーターであってもよく、オルソステリック部位またはアロステリック部位のいずれかに結合することができる。特定の実施形態において、リガンドは、「立体構造選択的なリガンド」または「立体構造特異的なリガンド」であってもよく、これは、このようなリガンドが立体構造選択的な方式でGPCRに結合することを意味する。立体構造選択的なリガンドは、GPCRがとる他の立体構造よりも、GPCRの特定の立体構造に、より高い親和性で結合する。例証の目的で、アゴニストは、活性立体構造選択的なリガンドの一例であり、一方、インバースアゴニストは、不活性立体構造選択的なリガンドの一例である。明確性のために、ニュートラルアンタゴニストは、立体構造選択的なリガンドとして考慮されない。これは、ニュートラルアンタゴニストがGPCRの異なる立体構造間で区別しないためである。
「オルソステリックリガンド」は、本明細書で使用するとき、GPCR、特にムスカリン性アセチルコリン受容体M2の活性部位に結合し、それらの有効性に従って、または換言すると、それらが特定の経路を介したシグナル伝達において有する効果に従ってさらに分類される。本明細書で使用するとき、「アゴニスト」とは、受容体タンパク質の結合によって、受容体のシグナル伝達活性を増加させるリガンドを指す。完全アゴニストは、最大のタンパク質刺激が可能であり;部分アゴニストは、飽和濃度でさせ完全な活性を誘発することができない。部分アゴニストはまた、より強固なアゴニストの結合を妨げることによって、「ブロッカー」として機能することができる。「アンタゴニスト」は、「ニュートラルアンタゴニスト」とも呼ばれ、任意の活性を刺激することなしに、受容体に結合するリガンドを指す。「アンタゴニスト」はまた、他のリガンドの結合を妨げ、したがって、アゴニストによって誘導される活性をブロックするその能力のため、「ブロッカー」として知られている。さらに、「インバースアゴニスト」とは、アゴニスト効果をブロックすることに加えて、リガンドが結合していないタンパク質を下回る、受容体の基礎的活性または構成的活性を減少させるアンタゴニストを指す。
本明細書で使用されるリガンドはまた、受容体のシグナル伝達活性のサブセット、例えば、GPCRの場合では、Gタンパク質またはβ−アレスチン機能の選択的な活性化を選択的に刺激する能力を有する「バイアスをかけたリガンド」であってもよい。このようなリガンドは、「バイアスをかけたリガンド」、「バイアスをかけたアゴニスト」または「機能的な選択的アゴニスト」として知られている。とりわけ、リガンドのバイアスは、異なるシグナルの異なる相対的な有効性(非絶対的な選択性)を有する複数の受容体活性のリガンド刺激によって特徴付けられる不完全なバイアスであってもよく、または別の公知の受容体タンパク質活性のいかなる刺激もなしに、1つの受容体タンパク質活性のリガンド刺激によって特徴付けられる完全なバイアスであってもよい。
別の種類のリガンドは、アロステリック調節因子として知られている。「アロステリック調節因子」またはそうでなければ「アロステリックモジュレーター」、「アロステリックリガンド」もしくは「エフェクター分子」とは、本明細書で使用するとき、GPCR、特にムスカリン性アセチルコリン受容体M2のアロステリック部位(すなわち、タンパク質の活性部位と物理的に区別される調節部位)で結合するリガンドを指す。オルソステリックリガンドとは対照的に、アロステリックモジュレーターは非競合的であり、これは、内因性リガンドがまた結合している場合でさえ、異なる部位で受容体タンパク質に結合し、それらの機能を修飾するためである。タンパク質の活性を高めるアロステリック調節因子は、本明細書において「アロステリック活性化因子」または「正のアロステリックモジュレーター」(PAM)と呼ばれ、一方、タンパク質活性を減少させるものは、本明細書において「アロステリック阻害剤」またはそうでなければ「負のアロステリックモジュレーター」(NAM)と呼ばれる。
本明細書で使用するとき、用語「決定すること」、「測定すること」、「評価すること」、「アッセイすること」は互換的に使用され、定量的決定と定性的決定の両方を含む。
用語「抗体」は、抗原結合することができる免疫グロブリンまたはその任意の断片を意味することが意図される。用語「抗体」は、単鎖抗体と唯一の結合ドメインを有する抗体を指す。
本明細書で使用するとき、抗体との関連で、用語「相補性決定領域」または「CDR」とは、H(重)鎖またはL(軽)鎖(それぞれ、VHおよびVLと略記される。)のいずれかの可変領域を指し、抗原性標的に特異的に結合することができるアミノ酸配列を含有する。これらのCDR領域は、特定の抗原決定基構造に対する抗体の基本的な特異性の主要因である。このような領域はまた「超可変領域」とも呼ばれる。CDRは、可変領域内のアミノ酸の非連続的ストレッチを表すが、種にかかわらず、可変重鎖領域および軽鎖領域内のこれらの重要なアミノ酸配列の位置的配置は、可変鎖のアミノ酸配列内で類似した配置を有することが見出されている。全ての標準的な抗体の可変重鎖および軽鎖は、それぞれ、3つのCDR領域を有し、それぞれ、各軽(L)鎖および重(H)鎖について他のもの(L1、L2、L3、H1、H2、H3と呼ばれる。)と非連続的である。免疫グロブリン単一可変ドメイン、特にナノボディは、一般的に、4つの「フレームワーク配列もしくは領域」またはFRと3つの「相補性決定領域」またはCDRを含むものと考えることができる単一のアミノ酸鎖を含む。ナノボディは、3つのCDR領域を有し、それぞれ、他のもの(CDR1、CDR2、CDR3と呼ばれる。)と非連続である。FRおよびCDR配列の描写は、例えば、VドメインおよびV様ドメインのIMGT固有の番号付けシステム(Lefrancら、2003)に基づくことができる。
詳細な説明
ムスカリン性アセチルコリン受容体に対する立体構造選択的な結合剤とそれを含む複合体
本発明の第一の態様は、ムスカリン性アセチルコリン受容体ファミリー(mAChR)のGPCRに対して指向されるおよび/または特異的に結合することができる立体構造選択的な結合剤に関する。
ムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)は、GPCRのスーパーファミリー(本明細書において定義されている。)、とりわけファミリーAのGPCRに属し、M1からM5と称する5つのサブタイプを含む。古典的には、これらの受容体は、Gタンパク質に対するそれらの一次結合効率に基づいて、2つの広いグループにサブ分割される。M2とM4ムスカリン受容体は、Gi/o−タンパク質に結合することができ、一方、M1、M3とM5ムスカリン受容体は、Gq/11−タンパク質に結合し、ホスホリパーゼCを活性化することができる。神経伝達物質アセチルコリン(ACh)は、受容体のこのファミリーに対する天然アゴニストである。ムスカリン性アセチルコリン受容体のアミノ酸配列(およびそれらをコードするcDNAのヌクレオチド配列)は、例えば、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez)を参照することによって容易に入手可能である。ヒト遺伝子に対するHGNC標準化命名法、異なる生物由来の異なるアイソフォームの受託番号は、Uniprot(www.uniprot.org)から入手可能である。さらに、ムスカリン性アセチルコリン受容体に関する受容体の命名法、薬理学的、機能的および病態生理学的情報の包括的な概要は、IUPHARデータベース(http://www.iuphar−db.org/)から検索することができる。用語「ムスカリン性アセチルコリン受容体」と「ムスカリン受容体」は、本明細書において互換的に使用される。
好ましい実施形態によれば、本発明の立体構造選択的な結合剤は、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2(M2R)に対して指向されるおよび/または特異的に結合する。ムスカリン性アセチルコリン受容体、具体的にはムスカリン受容体M2の性質は、本発明にとって重要ではなく、任意の生物、例えば、真菌(酵母を含む。)、線虫、ウイルス、昆虫、植物、鳥類(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ)、爬虫類または哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、スナネズミ、イヌ、ネコ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、クジラ、サル、ラクダ、またはヒト)由来であってもよい。好ましくは、ムスカリン性アセチルコリン受容体は、哺乳動物由来、さらにより好ましくはヒト由来のものである。
具体的な実施形態において、本発明の立体構造選択的な結合剤は、ヒトムスカリン性アセチルコリン受容体M2(配列番号153)、および/またはマウスムスカリン性アセチルコリン受容体M2(配列番号154)、および/またはラットムスカリン性アセチルコリン受容体M2(配列番号155)に特異的に結合する。好ましくは、本発明の立体構造選択的な結合剤は、ヒトムスカリン性アセチルコリン受容体M2(配列番号153)に結合する。
特定の実施形態において、本発明の立体構造選択的な結合剤は、ムスカリン性アセチルコリン受容体M3(例えば、ヒトムスカリン受容体M3;Uniprot識別子P20309)に対して指向されず、および/または特異的に結合しない。他の一実施形態において、本発明の立体構造選択的な結合剤は、ムスカリン性アセチルコリン受容体M4(例えば、ヒトムスカリン受容体M4;Uniprot識別子P08173)に対して指向されず、および/または特異的に結合しない。他の一実施形態において、本発明の立体構造選択的な結合剤は、ムスカリン性アセチルコリン受容体M5(例えば、ヒトムスカリン受容体M5;Uniprot識別子P08912)に対して指向されず、および/または特異的に結合しない。他の一実施形態において、本発明の立体構造選択的な結合剤は、ムスカリン性アセチルコリン受容体M1(例えば、ヒトムスカリン受容体M1;Uniprot識別子P11229)に対して指向されず、および/または特異的に結合しない。
結合剤の必要条件は、(本明細書で定義されているように)ムスカリン性アセチルコリン受容体、好ましくはムスカリン受容体M2に特異的に結合するその能力である。したがって、結合剤は、ムスカリン受容体の任意の立体構造エピトープ(本明細書で定義されている。)に対して指向されてもよい。「立体構造エピトープ」に特異的に結合する結合剤は、折り畳まれたタンパク質の三次(すなわち、三次元)構造に特異的に結合し、非常に減少した(すなわち、少なくとも2、5、10、50倍の)親和性で、タンパク質の直鎖状(すなわち、折り畳まれていない、変性した)形態に結合する。特に、前記立体構造エピトープは、細胞内もしくは細胞外領域の一部、または膜内領域の一部、またはムスカリン受容体のドメインもしくはループ構造の一部であり得る。したがって、特定の実施形態によれば、結合剤は、ムスカリン受容体の細胞外領域、ドメイン、ループまたは他の細胞外立体構造エピトープに対して指向されてもよいが、好ましくは、膜貫通ドメインの細胞外部分に対して、または膜貫通ドメインに連結している細胞外ループに対して指向される。または、結合剤は、ムスカリン受容体の細胞内領域、ドメイン、ループまたは他の細胞内立体構造エピトープに対して指向されてもよいが、好ましくは、膜貫通ドメインの細胞内部分に対して、または膜貫通ドメインに連結している細胞内ループに対して指向される。他の具体的な実施形態において、結合剤は、天然リガンドの結合部位の一部を形成する立体構造エピトープに対して指向されてもよく、限定されないが、内因性オルソステリックアゴニストが挙げられる。なお他の実施形態において、結合剤は、下流のシグナル伝達タンパク質に対する結合部位、例えば、限定されないが、Gタンパク質結合部位またはβ−アレスチン結合部位に含まれる、立体構造エピトープ、特に細胞内立体構造エピトープに対して指向されてもよい。具体的な実施形態によれば、結合剤は、ムスカリン受容体M2の細胞内立体構造エピトープに結合してもよく、立体構造エピトープは、以下のアミノ酸残基:T56、N58、R121、C124、V125、P132、V133、R135、Y206、I209、S213、S380、V385、T388、I389、R381、C439、Y440、C443、A445、T446の少なくとも1種を含み、この場合、アミノ酸番号付けは、ヒトムスカリン受容体M2R(配列番号153)において定義される通りである。これらの残基は、当業者によって日常的に実施される、下記配列のアラインメントから容易に導くことができるように、マウスM2R(配列番号154)およびラットM2R(配列番号155)を含む他の種において保存されることに留意されたい。
立体構造選択的な結合剤は、特定の立体構造のムスカリン受容体を安定化させ得ることが理解される。用語「安定化している」または文法的に同等の用語は、本明細書において先に定義されているように、構造(例えば、立体構造状態)に関してムスカリン受容体の安定性の増加、および/または特定の生物活性(例えば、細胞内シグナル伝達活性、リガンド結合活性、・・・)の増加を意味する。構造および/または生物活性に対する安定の増加に関連して、これは、他の方法の中で、活性(例えば、Ca2+放出、cAMP産生もしくは転写活性、β−アレスチン動員、・・・)またはリガンド結合についての機能的アッセイ、または物理的方法、例えば、X線結晶学、NMR、またはスピン標識などの物理的方法の手段によって容易に決定され得る。また、用語「安定化する」は、変性剤または変性条件によって誘導される非生理的条件下での受容体の熱安定性の増加を含む。用語「熱安定化する」、「熱安定化している」、「の熱安定性を増加させること」とは、本明細書で使用するとき、受容体の熱力学的特性というよりはむしろ機能特性を意味し、限定されないが、加熱、冷却、凍結、化学変性剤、pH、界面活性剤、塩、添加剤、プロテアーゼまたは温度を含む熱的および/または化学的アプローチによって誘導される不可逆的変性に対するタンパク質の耐性を指す。不可逆的変性は、タンパク質の機能的立体構造の不可逆的アンフォールディング、生物活性の喪失および変性タンパク質の凝集をもたらす。加熱に対する安定性の増加に関連して、これは、リガンド結合を測定することによって、または温度上昇でのアンフォールディングに感受性である、蛍光、CDまたは光散乱などの分光学的方法を用いることによって、容易に決定され得る。好ましくは、結合剤は、少なくとも2℃、少なくとも5℃、少なくとも8℃、およびより好ましくは少なくとも10℃または15℃または20℃で機能的立体構造状態におけるムスカリン受容体の熱的安定性の増加によって測定したとき、安定性を増加させることができる。界面活性剤またはカオトロピック剤に対する安定性の増加に関連して、典型的には、ムスカリン受容体は、試験界面活性剤または試験カオトロピック剤の存在下で所定時間インキュベートされ、安定性は、例えば、リガンド結合または分光法を用いて、場合により、上記で検討されたように温度上昇で決定される。そうでなければ、結合剤は、ムスカリン受容体の機能的立体構造状態の極端なpHに対する安定性を増加させることができる。極端なpH値に関連して、典型的な試験pHは、例えば、6から8の範囲、5.5から8.5の範囲、5から9の範囲、4.5から9.5の範囲、より具体的には4.5から5.5の範囲(低pH)または8.5から9.5の範囲(高pH)で選択される。用語「(熱)安定化させる」、「(熱)安定化している」、「の(熱)安定性を増加させること」は、本明細書で使用するとき、脂質粒子または脂質層(例えば、脂質単層、脂質二重層など)に埋め込まれたムスカリン受容体、および界面活性剤において安定化されているムスカリン受容体に適用する。
したがって、特に、本発明の立体構造選択的な結合剤は、結合剤の結合の際に機能的立体構造のムスカリン受容体を安定化させることが想定される。本発明の好ましい実施形態によれば、ムスカリン受容体、より具体的にはムスカリン受容体M2は、活性立体構造について立体構造選択的である結合剤の結合の際に活性立体構造で安定化される。用語「活性立体構造」とは、本明細書で使用するとき、Gタンパク質依存性シグナル伝達および/またはGタンパク質非依存性シグナル伝達(例えば、β−アレスチンのシグナル伝達)などの細胞内エフェクター系に向かってシグナル伝達を可能にする受容体立体構造のスペクトルを指す。したがって、「活性立体構造」は、ある範囲のリガンド特異的立体構造を包含し、例えば、アゴニスト特異的な活性状態の立体構造、部分アゴニスト特異的な活性状態の立体構造またはバイアスをかけたアゴニスト特異的な活性状態の立体構造が挙げられ、その結果、細胞内エフェクタータンパク質の協同的結合を誘導する。好ましくは、ムスカリン受容体、より具体的にはムスカリンM2受容体は、活性立体構造選択的な結合剤の結合の際に活性立体構造で安定化され、この場合、受容体は、Gタンパク質依存性シグナル伝達を誘導することによって活性化される方法で折り畳まれる。または、ムスカリン受容体、より具体的にはムスカリン受容体M2は、不活性立体構造について立体構造選択的である結合剤の結合の際、不活性立体構造で安定化される。用語「不活性立体構造」とは、本明細書で使用するとき、細胞内エフェクター系に向かってシグナル伝達を許容しないまたはブロックする受容体立体構造のスペクトルを指す。したがって、「不活性立体構造」は、ある範囲のリガンド特異的立体構造を包含し、例えば、インバースアゴニスト特異的な不活性状態の立体構造が挙げられ、その結果、細胞内エフェクタータンパク質の協同的結合を妨げる。リガンドの結合部位は、活性または不活性立体構造を得るために重要ではないことが理解される。したがって、オルソステリックリガンドおよびアロステリックモジュレーターは、同等に、活性または不活性立体構造のムスカリン受容体を安定化させることが可能であってもよい。本発明の特定の実施形態によれば、ムスカリン受容体を安定化させることができる結合剤は、オルソステリック部位またはアロステリック部位で結合し得る。他の特定の実施形態において、ムスカリン受容体を安定化させることができる結合剤は、オルソステリック部位またはアロステリック部位のいずれかで結合することによって、活性立体構造選択的な結合剤、または不活性立体構造選択的な結合剤であってもよい。
一般的に、ムスカリン受容体、より具体的にはムスカリン受容体M2の活性立体構造を安定化させる立体構造選択的な結合剤は、結合剤の非存在下(またはムスカリン受容体M2に対して指向されないおよび/または特異的に結合しない−対照結合剤または無関係な結合剤とも呼ばれる−模擬結合剤の存在下)での受容体と比較して、活性立体構造選択的リガンド、例えば、アゴニスト、より具体的には、完全アゴニスト、部分アゴニストまたはバイアスをかけたアゴニストに対する受容体の親和性を増加させるまたは増強させる。また、ムスカリン受容体の活性立体構造を安定化させる結合剤は、結合剤の非存在下(または模擬結合剤の存在下)での受容体と比較して、不活性立体構造選択的なリガンド、例えば、インバースアゴニストに対する受容体の親和性を減少させる。対照的に、ムスカリン受容体の不活性立体構造を安定化させる結合剤は、インバースアゴニストに対する受容体の親和性を増強し、結合剤の非存在下(または模擬結合剤の存在下)での受容体と比較して、アゴニスト、特に完全アゴニスト、部分アゴニストまたはバイアスをかけたアゴニストに対する受容体の親和性を減少させる。リガンドに対する親和性の増加または減少は、直接測定されてもよく、および/または、それぞれ、EC50、IC50、Kd、Kiまたは当業者に公知の親和性もしくは効力の任意の他の測定値の減少もしくは増加から計算されてもよい。特に好ましくは、ムスカリン受容体の特定の立体構造を安定化させる結合剤が、受容体への結合の際、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、より好ましくは少なくとも100倍、さらにより好ましくは少なくとも1000倍以上で立体構造選択的なリガンドに対する親和性を増加または減少させることができる。特定のシグナル伝達経路を引き起こす/阻害する立体構造選択的なリガンドに対する親和性測定は、任意のタイプのリガンド、例えば、天然のリガンド、小分子、および生物学的製剤を用いて;オルソステリックリガンドおよびアロステリックモジュレーターを用いて;単一化合物および化合物ライブラリーを用いて;リード化合物または断片を用いてなど、行われ得ることが認識される。
特に好ましい実施形態によれば、ムスカリン受容体、より具体的にはM2Rに対して指向されおよび/または特異的に結合している、本発明の立体構造選択的な結合剤は、Gタンパク質模倣物である。用語「Gタンパク質模倣物」とは、本明細書で使用するとき、ムスカリン受容体に結合すると、天然Gタンパク質のムスカリン受容体への結合の際と同程度まで、オルソステリックまたはアロステリックアゴニストに対する受容体の親和性を高める。好ましくは、Gタンパク質模倣物である結合剤は、ムスカリン受容体のGタンパク質結合部位を占有する。
本発明の立体構造選択的な結合剤が結合するムスカリン性アセチルコリン受容体、より具体的にはM2Rは、天然に存在するまたは天然に存在しない(すなわち、ヒトによって変更された)受容体(本明細書において定義されている。)であり得ることが理解される。特に、野生型の多型変異体およびムスカリン性アセチルコリン受容体のアイソフォーム、ならびに異なる種を超えたオルソログは、天然に存在するタンパク質の例であり、例えば、限定されないが、哺乳動物、より具体的には、とりわけヒト、またはウイルス、または植物、または昆虫動物において見出される。このような受容体は天然に見出される。例えば、「ヒトムスカリン性アセチルコリン受容体M2」は、Genbank受託番号AAA51570.1の天然に存在する「ヒトムスカリン性アセチルコリン受容体M2」と少なくとも95%同一(例えば、少なくとも95%同一または少なくとも98%同一)であるアミノ酸配列を有する。変異した野生型ムスカリン性アセチルコリン受容体および天然に存在するムスカリン性アセチルコリン受容体の他の変異体は、天然に存在しないタンパク質の例である。天然に存在しないムスカリン性アセチルコリン受容体の非限定的な例としては、限定されないが、変異を介して構成的に活性にされているムスカリン性アセチルコリン受容体、ループが欠失しているムスカリン性アセチルコリン受容体、N末端および/もしくはC末端が欠失しているムスカリン性アセチルコリン受容体、アミノ酸またはヌクレオチド配列に関して、置換、挿入もしくは付加、またはこれらの任意の組合せを含むムスカリン性アセチルコリン受容体、または天然に存在するムスカリン性アセチルコリン受容体の他の変異体が挙げられる。また、本発明の範囲には、キメラもしくはハイブリッド構造、例えば、1つのムスカリン性アセチルコリン受容体由来のN末端および/またはC末端と第2のムスカリン性アセチルコリン受容体のループを有するキメラムスカリン性アセチルコリン受容体を含むムスカリン性アセチルコリン受容体、またはGPCR結晶化(Chunら、2012、およびさらには特許出願WO2012/158555、WO2012/030735、WO2012/148586に記載されている。)における有用性として、T4リゾチーム、フラボドキシン、キシラナーゼ、ルブレドキシンまたはシトクロムbなどの部分に融合したムスカリン性アセチルコリン受容体を含むムスカリン性アセチルコリン受容体が含まれる。本発明の範囲内の具体的な実施形態によれば、天然に存在しないムスカリン性アセチルコリン受容体、特にM2Rは、対応する天然に存在するムスカリン性アセチルコリン受容体に対して、少なくとも80%同一、少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有してもよい。
したがって、好ましい実施形態によれば、立体構造選択的な結合剤は、天然に存在するおよび天然に存在しないムスカリン性アセチルコリン受容体の両方、特にM2Rを認識することができる。これは、ある特定の状況において特に有利であってもよく、および目的または用途に応じてもよい。例えば、および例示の目的のためにのみ、本発明の立体構造選択的な結合剤によって可能とされる特定の立体構造において安定化されたムスカリン性アセチルコリン受容体の結晶を得る可能性を高めるために、立体構造(例えば、アゴニストに対する親和性が増加した活性立体構造)に影響を与えずにまたはほんの最小限に影響を与えて、一部のタンパク質工学を行うことが望ましい場合がある。または、代替的にまたは追加的に、ムスカリン性アセチルコリン受容体の細胞発現レベルを増加させるために、または安定性を増加させるために、目的とする受容体にある種の変異を導入することを考慮してもよい。
用語「結合剤」は、本明細書で使用するとき、ムスカリン性アセチルコリン受容体、より具体的にはM2Rに、特定の分子間相互作用を用いて結合することができるタンパク性(タンパク質、タンパク質様またはタンパク質含有)分子の全体または一部を意味する。特定の実施形態において、用語「結合剤」は、Gタンパク質、アレスチン、内因性リガンドなどの、ムスカリン性アセチルコリン受容体の天然に存在する結合パートナー;およびその変異体もしくは誘導体(断片を含む。)を含むことを意味しない。より具体的には、用語「結合剤」とは、ポリペプチド、とりわけタンパク質ドメインを指す。適切なタンパク質ドメインは、自己安定であり、タンパク質鎖の残り部分から独立して折り畳まれる全体的なタンパク質構造の要素であり、多くの場合、「結合ドメイン」と呼ばれる。このような結合ドメインは、約25個のアミノ酸と最大500個のアミノ酸またはそれを超えるアミノ酸の間で長さが変化する。多くの結合ドメインは、折り畳み構造で分類され得、認識され得る、識別可能な3次元構造である。いくつかの折り畳み構造は、それらが特定の名称を与えられている多数の異なるタンパク質において非常に一般的である。非限定的な例としては、とりわけ3−または4−ヘリックスバンドル、アルマジロリピートドメイン、ロイシンリッチ反復ドメイン、PDZドメイン、SUMOまたはSUMO様ドメイン、カドヘリンドメイン、免疫グロブリン様ドメイン、ホスホチロシン結合ドメイン、プレクストリン相同性ドメイン、srcホモロジー2ドメインから選択される結合ドメインが挙げられる。したがって、結合ドメインは、天然に存在する分子、例えば、先天性もしくは適応免疫系の構成要素に由来してもよく、または完全に人工的に設計されてもよい。
一般的に、結合ドメインは、免疫グロブリンベースであってもよく、または限定されないが、微生物タンパク質、プロテアーゼインヒビター、毒素、フィブロネクチン、リポカリン、一本鎖逆平行コイルドコイルタンパク質もしくは反復モチーフタンパク質などのタンパク質に存在するドメインに基づくものであってもよい。当該技術分野において公知である結合ドメインの特定の例としては、限定されないが、抗体、重鎖抗体(hcAb)、単一ドメイン抗体(sdAb)、ミニボディ、ラクダ重鎖抗体に由来する可変ドメイン(VHHまたはナノボディ)、サメ抗体に由来する新規抗原受容体の可変ドメイン(VNAR)、アルファボディ、プロテインA、プロテインG、設計されたアンキリンリピートドメイン(DARPin)、フィブロネクチンIII型リピート、アンチカリン、ノッチン、操作されたCH2ドメイン(ナノ抗体)、操作されたSH3ドメイン、アフィボディ、ペプチドおよびタンパク質、リポペプチド(例えば、ペプデュシン)(例えば、Gebauer & Skerra,2009;Skerra、2000;Starovasnikら、1997;Binzら、2004;Koideら、1998;Dimitrov、2009;Nygrenら、2008;WO2010066740)が挙げられる。多くの場合、選択方法を用いて結合ドメインの特定のタイプを生じさせる場合、無作為化された潜在的な相互作用残基を含有する、コンセンサスまたはフレームワーク配列を含むコンビナトリアルライブラリーは、タンパク質などの目的の分子への結合についてスクリーニングするために使用される。
好ましい実施形態によれば、特に、本発明の結合剤は、先天性または適応免疫系に由来することが想定される。好ましくは、前記結合剤は、免疫グロブリンに由来する。好ましくは、本発明の結合剤は、抗体または抗体断片に由来する。用語「抗体」(Ab)とは、一般的に、抗原に特異的に結合し、認識し、当業者に公知である免疫グロブリン遺伝子またはその機能的断片によってコードされるポリペプチドを指す。抗体は、ポリペプチド鎖の2つの同一の対を含む従来の4本鎖の免疫グロブリンを含むことを意味し、それぞれの対は、1つの「軽」鎖(約25kDa)と1つの「重」鎖(約50kDa)を有する。典型的には、従来の免疫グロブリンにおいて、重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖可変ドメイン(VL)は、抗原結合部位を形成するために相互作用する。用語「抗体」とは、一本鎖抗体全体を含む全抗体、および抗原結合断片を含むことを意味する。一部の実施形態において、抗原結合断片は、抗原結合抗体断片であってもよく、例えば、限定されないが、Fab、Fab’とF(ab’)2、Fd、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド結合したFv(dsFv)、およびVLもしくはVHドメインのいずれかを含むまたはそれからなる断片、ならびにそれらまたは標的抗原に結合することができる免疫グロブリンペプチドの任意の他の機能部分のいずれかの組合せが挙げられる。また、用語「抗体」とは、本明細書でさらに定義されている免疫グロブリン単一可変ドメインを含む重鎖抗体またはそれらの断片を含むことを意味する。
用語「免疫グロブリン単一可変ドメイン」は、抗原結合部位が、単一免疫グロブリンドメイン(典型的には、2つの免疫グロブリン可変ドメインが相互作用して、抗原結合部位を形成する従来の免疫グロブリンまたはそれらの断片とは異なる。)上に存在し、およびそれによって形成される分子を定義する。しかしながら、用語「免疫グロブリン単一可変ドメイン」は、抗原結合部位が単一可変ドメインによって形成される従来の免疫グロブリンの断片を含むことは明らかであるべきである。好ましくは、本発明の範囲内の結合剤は、免疫グロブリン単一可変ドメインである。
一般的に、免疫グロブリンの単一可変ドメインは、好ましくは以下の式(1):FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4(1)による、4つのフレームワーク領域(FR1からFR4)および3つの相補性決定領域を含むアミノ酸、または任意の適切なその断片(続いて、通常は、相補性決定領域の少なくとも1つを形成するアミノ酸残基の少なくとも一部を含有する。)である。4つのFRと3つのCDRを含む免疫グロブリン単一可変ドメインは、当業者に公知であり、非限定的な例としてWesolowskiら、2009において記載されている。免疫グロブリン単一可変ドメインの典型的であるが、非限定的な例としては、単一の抗原結合単位を形成することができる限り、軽鎖可変ドメイン配列(例えば、VLドメイン配列)もしくはその適切な断片、または重鎖可変ドメイン配列(例えば、VHドメイン配列もしくはVHHドメイン配列)もしくはその適切な断片が挙げられる。したがって、好ましい実施形態によれば、結合剤は、軽鎖可変ドメイン配列(例えば、VLドメイン配列)または重鎖可変ドメイン配列(例えば、VHドメイン配列)である免疫グロブリンの単一可変ドメインである;より具体的には、免疫グロブリン単一可変ドメインは、従来の4本鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン配列、または重鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン配列である。免疫グロブリンの単一可変ドメインは、ドメイン抗体、または単一ドメイン抗体、または「dAB」もしくはdAb、またはナノボディ(本明細書において定義されている。)、または別の免疫グロブリン単一可変ドメイン、またはそれらのいずれか1つの任意の適切な断片であってもよい。単一ドメイン抗体の一般的な説明については、以下の書籍:「Single domain antibodies」、Methods in Molecular Biology、SaerensおよびMuyldermans編、2012、第911巻が参照される。免疫グロブリン単一可変ドメインは、一般的に、4つの「フレームワーク配列」またはFR’と3つの「相補性決定領域」またはCDR(本明細書において上記で定義されている。)を含むものと考えることができる単一アミノ酸鎖を含む。免疫グロブリン単一可変ドメインのフレームワーク領域はまた、それらの抗原の結合に寄与し得ることは明らかであるべきである(Desmyterら、2002;Korotkovら、2009)。CDR配列(したがって、同様にFR配列)の描写は、VドメインおよびV様ドメイン(Lefracら、2003)に関するIMGT固有の番号付けシステムに基づくことができる。または、FR配列およびCDR配列の描写は、RiechmannおよびMuyldermans(2000)の論文における、ラクダ由来のVHHドメインに適用されるカバット番号付けシステムを使用することによって行うことができる。
最も広い意味において結合剤としての免疫グロブリン単一可変ドメインは、具体的な生物学的供給源または具体的な製造方法に限定されないことに留意すべきである。用語「免疫グロブリン単一可変ドメイン」は、マウス、ラット、ウサギ、ロバ、ヒト、サメ、ラクダの可変ドメインを含む、異なる由来の可変ドメインを包含する。具体的な実施形態によれば、免疫グロブリン単一可変ドメインは、サメ抗体(いわゆる免疫グロブリンの新規な抗原受容体またはIgNAR)に由来し、より具体的には、軽鎖を欠損している、天然に存在している重鎖サメ抗体由来であり、VNARドメイン配列として知られている。好ましくは、免疫グロブリン単一可変ドメインは、ラクダ抗体に由来する。より好ましくは、免疫グロブリン単一可変ドメインは、軽鎖を欠損している、天然に存在する重鎖ラクダ抗体に由来し、VHHドメイン配列またはナノボディとして知られている。
特に好ましい実施形態によれば、本発明の結合剤は、ナノボディ(本明細書においてさらに定義され、限定されないが、VHHを含む。)である免疫グロブリン単一可変ドメインである。用語「ナノボディ」(Nb)は、本明細書で使用するとき、単一ドメイン抗原結合断片である。それは、特に、天然に存在する重鎖抗体に由来する単一可変ドメインを指し、当業者に公知である。ナノボディは、通常、ラクダに見られる重鎖抗体のみ(軽鎖を欠損している。)(Hamers−Castermanら、1993;Desmyterら、1996)に由来し、その結果、多くの場合、VHH抗体またはVHH配列と呼ばれる。ラクダは、旧世界のラクダ(カメルス・バクトリアヌス(Camelus bactrianus)とカメルス・ドロメダリウス(Camelus dromedariu))および新世界のラクダ(例えば、ラマ・パコス(Lama paccos)、ラマ・グラマ(Lama glama)、ラマ・グアニコエ(Lama guanicoe)およびラマ・ビキューナ(Lama vicugna))を含む。Nanobody(登録商標)およびNanobodies(登録商標)は、Ablynx NV(ベルギー)の登録商標である。VHH’またはナノボディのさらなる説明のために、書籍「Single domain antibodies」、Methods in Molecular Biology、SaerensおよびMuyldermans編、2012、第911巻、特にVinckeおよびMuyldermans(2012)による章、ならびに一般的な背景技術として言及される特許出願の非限定的なリストを参照されたい。例えば、Vrije Universiteit BrusselのWO94/04678、WO95/04079、WO96/34103;UnileverのWO94/25591、WO99/37681、WO00/40968、WO00/43507、WO00/65057、WO01/40310、WO01/44301、EP1134231およびWO02/48193;Vlaams Instituut voor Biotechnologie(VIB)のWO97/49805、WO01/21817、WO03/035694、WO03/054016およびWO03/055527;Ablynx N.V.のWO04/041867、WO04/041862、WO04/041865、WO04/041863、WO04/062551、WO05/044858、WO06/40153、WO06/079372、WO06/122786、WO06/122787およびWO06/122825、ならびにAblynx N.V.によるさらに公開された特許出願が挙げられる。当業者に知られているように、ナノボディは、例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO08/020079、75頁、表A−3に記載されているように、フレームワーク配列の1つ以上(カバット番号付けによる。)における1つ以上のラクダの「特徴残基」の存在によって、特に特徴付けられる。最も広い意味において本発明のナノボディは、具体的な生物学的供給源または具体的な製造方法に限定されないことに留意すべきである。例えば、ナノボディは、一般的に、(1)天然に存在する重鎖抗体のVHHドメインを単離することによって;(2)天然に存在するVHHドメインをコードするヌクレオチド配列を発現させることによって;(3)天然に存在するVHHドメインを「ヒト化させる」ことによって、もしくはこのようなヒト化VHHドメインをコードする核酸を発現させることによって;(4)任意の動物種由来、特に哺乳動物種由来、例えばヒト由来の、天然に存在するVHドメインを「ラクダ化させる」ことによって、もしくはこのようなラクダ化VHドメインをコードする核酸を発現させることによって;(5)当該技術分野において説明されている「ドメイン抗体」または「Dab」を「ラクダ化」させることによって、もしくはこのようなラクダ化VHドメインをコードする核酸を発現させることによって;それ自体が知られているタンパク質、ポリペプチドもしくは他のアミノ酸配列を調製するための合成技術または半合成技術を用いることによって;(7)それ自体が知られている核酸合成の技術を用いて、ナノボディをコードする核酸を調製することによって、続いて、このようにして得られた核酸を発現させることによって;および/または(8)前述の1つ以上を任意に組み合わせることによって、得ることができる。ヒト化および/またはラクダ化のナノボディを含むナノボディのさらなる説明は、例えば、WO08/101985およびWO08/142164に見出され、ならびにさらに本明細書に見出され得る。天然の標的物の立体構造エピトープに結合する特定クラスのナノボディは、グザペロン(Xaperone)と呼ばれ、ここでは特に想定される。Xaperone(商標)は、VIBとVUB(ベルギー)の商標である。Xaperone(商標)は、固有の、疾患に関連した新薬につながる立体構造に薬物標的を制約するラクダ単一ドメイン抗体である。
本発明の範囲内で、用語「免疫グロブリン単一可変ドメイン」はまた、「ヒト化」または「ラクダ化」されている可変ドメイン、特に「ヒト化」または「ラクダ化」されているナノボディを包含する。例えば、「ヒト化」と「ラクダ化」はともに、それぞれ、天然に存在するVHHドメインをコードするヌクレオチド配列を用意し、次に、それ自体が知られている方法で、新規なヌクレオチド配列が、それぞれ、本発明の「ヒト化」または「ラクダ化」の免疫グロブリン単一可変ドメインをコードするようにして、前記ヌクレオチド配列において1つ以上のコドンを変化させることによって行うことができる。次に、この核酸は、本発明の所望の免疫グロブリン単一可変ドメインを提供するように、それ自体が知られている方法で発現させることができる。または、天然に存在するVHHドメインまたはVHドメインのアミノ酸配列に基づいて、それぞれ、本発明の所望のヒト化またはラクダ化免疫グロブリン単一可変ドメインのアミノ酸配列は、それぞれ、それ自体が知られているペプチド合成のための技術を用いて、設計され、次に、デノボで合成され得る。また、天然に存在するVHHドメインまたはVHドメインのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列に基づいて、それぞれ、本発明の所望のヒト化またはラクダ化免疫グロブリン単一可変ドメインをコードするヌクレオチド配列は、それぞれ、それ自体が知られている核酸合成のための技術を用いて、設計され、次に、デノボで合成され得、その後、このようにして得られた核酸は、本発明の所望の免疫グロブリン単一可変ドメインを提供するように、それ自体が知られている方法で発現させることができる。天然に存在するVH配列または好ましくはVHH配列か開始して、本発明の免疫グロブリンの単一可変ドメインおよび/またはそれをコードする核酸を得るための他の適切な方法および技術は、当業者に明らかであり、本発明のナノボディまたはそれをコードするヌクレオチド配列もしくは核酸配列を提供するように、例えば、1つ以上の天然に存在するVH配列(例えば、1つ以上のFR配列および/またはCDR配列)の1つ以上の部分、1つ以上の天然に存在するVHH配列(例えば、1つ以上のFR配列またはCDR配列)の1つ以上の部分、1つ以上の合成もしくは半合成の配列を、適切な方法で組み合わせることを含んでもよい。
さらなる具体的な実施形態によれば、本発明は、立体構造選択的な結合剤、特に立体構造選択的な免疫グロブリン単一可変ドメインを包含し、これは、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2を標的とし、以下の式(1):
FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4(1)
(式中、CDR1は、
a)配列番号31から41、105から112、
b)配列番号31から41、105から112と少なくとも80%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド、
c)配列番号31から41、105から112と3つ、2つまたは1つのアミノ酸が異なるポリペプチド
からなる群から選択され、
CDR2は、
a)配列番号53から63、121から128、
b)配列番号53から63、121から128と少なくとも80%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド、
c)配列番号53から63、121から128と3つ、2つまたは1つのアミノ酸が異なるポリペプチド
からなる群から選択され、
CDR3は、
a)配列番号75から85、137から144、
b)配列番号75から85、137から144と少なくとも80%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド、
c)配列番号75から85、137から144と3つ、2つまたは1つのアミノ酸が異なるポリペプチド
からなる群から選択される)に従う、4つのフレームワーク領域(FR1からFR4)および3つの相補性決定領域(CDR1からCDR3)を含むアミノ酸配列を含む。
本発明の特定の実施形態において、ムスカリン性アセチルコリン受容体に対して指向されるおよび/または特異的に結合する立体構造選択的な免疫グロブリンの単一可変ドメインは、ナノボディまたはVHHであり、ナノボディは、配列番号1から19からなる群から選択されるアミノ酸配列またはその変異体を有する。特に好ましい実施形態において、本発明は、以下の式(1):
FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4(1)
(式中、CDR1は配列番号31であり、CDR2は配列番号53であり、CDR3は配列番号75であり;またはCDR1は配列番号32であり、CDR2は配列番号54であり、CDR3は配列番号76であり;またはCDR1は配列番号33であり、CDR2は配列番号55であり、CDR3は配列番号77であり;またはCDR1は配列番号34であり、CDR2は配列番号56であり、CDR3は配列番号78であり;またはCDR1は配列番号35であり、CDR2は配列番号57であり、CDR3は配列番号79であり;またはCDR1は配列番号36であり、CDR2は配列番号58であり、CDR3は配列番号80であり;またはCDR1は配列番号37であり、CDR2は配列番号59であり、CDR3は配列番号81であり;またはCDR1は配列番号38であり、CDR2は配列番号60であり、CDR3は配列番号82であり;またはCDR1は配列番号39であり、CDR2は配列番号61であり、CDR3は配列番号83であり;またはCDR1は配列番号40であり、CDR2は配列番号62であり、CDR3は配列番号84であり;またはCDR1は配列番号41であり、CDR2は配列番号63であり、CDR3は配列番号85であり;またはCDR1は配列番号105であり、CDR2は配列番号121であり、CDR3は配列番号137であり;またはCDR1は配列番号106であり、CDR2は配列番号122であり、CDR3は配列番号138であり;またはCDR1は配列番号107であり、CDR2は配列番号123であり、CDR3は配列番号139であり;またはCDR1は配列番号108であり、CDR2は配列番号124であり、CDR3は配列番号140であり;CDR1は配列番号109であり、CDR2は配列番号125であり、CDR3は配列番号141であり;またはCDR1は配列番号110であり、CDR2は配列番号126であり、CDR3は配列番号142であり;またはCDR1は配列番号111であり、CDR2は配列番号127であり、CDR3は配列番号143であり;またはCDR1は配列番号112であり、CDR2は配列番号128であり、CDR3は配列番号 144である。)
に従う、4つのフレームワーク領域(FR1からFR4)および3つの相補性決定領域(CDR1からCDR3)を含むアミノ酸配列を含む免疫グロブリン単一可変ドメインを提供する。
より好ましくは、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2に対して指向されるおよび/または特異的に結合する立体構造選択的な結合剤、特に免疫グロブリンの単一可変ドメインは、配列番号1から19からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。特定の一実施形態において、本発明の立体構造選択的な結合剤は、配列番号1から19によって定義される。
特に、Gタンパク質模倣物(本明細書において上記で定義されている。)として具体的に特徴付けられる、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2に対して指向されるおよび/または特異的に結合する立体構造選択的な結合剤の非限定的な例としては、配列番号1から11からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する免疫グロブリンの単一可変ドメインが挙げられる。したがって、好ましい実施形態によれば、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2に対して指向されるおよび/または特異的に結合する立体構造選択的な結合剤は、配列番号1から11からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。好ましくは、本発明の立体構造選択的な結合剤は、配列番号1によって定義されるアミノ酸配列を有する。細胞外立体構造エピトープに結合するものとして具体的に特徴付けられる、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2に対して指向されるおよび/または特異的に結合する立体構造選択的な結合剤の非限定的な例は、配列番号12から19からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する免疫グロブリンの単一可変ドメインである。したがって、好ましい実施形態によれば、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2に対して指向されるおよび/または特異的に結合する立体構造選択的な結合剤は、配列番号12から19からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。
また、本発明の範囲内には、免疫グロブリン単一可変ドメインの天然もしくは合成の類似体、突然変異体、変異体、対立遺伝子、部分または断片、特に本明細書において定義されるナノボディ、特に配列番号1から19の免疫グロブリンの単一可変ドメインの変異体が含まれる(表1から2参照)。したがって、本発明の一実施形態によれば、最も広い意味において、用語「本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン」または「本発明のナノボディ」はまた、このような変異体を含む。一般に、このような変異体において、1種以上のアミノ酸残基は、本明細書で定義される本発明の免疫グロブリン単一可変ドメインと比較して、置換、欠失および/または付加されていてもよい。このような置換、挿入または欠失は、1つ以上のFRにおいて、および/または1つ以上のCDRにおいて、特に配列番号1から19の免疫グロブリンの単一可変ドメインのFRおよびCDRの変異体においてなされてもよい(表1から2参照)。変異体は、本明細書で使用するとき、各々または任意のフレームワーク領域と各々または任意の相補性決定領域が、PILEUPおよびBLAST(50、51)などのアルゴリズムを利用することによって電子的に測定し得る場合、参照配列における対応する領域(すなわち、FR1_変異体対FR1_参照、CDR1_変異体対CDR1_参照、FR2_変異体対FR2_参照、CDR2_変異体対CDR2_参照、FR3_変異体対FR3_参照、CDR3_変異体対CDR3_参照、FR4_変異体対FR4_参照)と少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも85%の同一性、より好ましくは90%の同一性、さらにより好ましくは95%の同一性、またはなおさらにより好ましくは99%の同一性を示す配列である。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(http://www/ncbi.nlm.nih.gov/)から公衆に入手可能である。免疫グロブリン単一可変ドメインの1つ以上の配列のCDRのアミノ酸配列のアミノ酸同一性の程度を決定するために、フレームワーク領域を形成するアミノ酸残基は無視されることが理解される。同様に、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメインの1つ以上の配列のFRのアミノ酸配列のアミノ酸同一性の程度を決定するために、相補性領域を形成するアミノ酸残基は無視される。免疫グロブリンの単一可変ドメインのこのような変異体は、それらが効力/親和性を向上させた可能性があるため、特に有利であり得る。
非限定的な例として、置換は、例えば、保存的置換(本明細書において記載されている。)であってもよく、および/またはアミノ酸残基は、別のVHHドメインにおいて同じ位置で天然に存在する別のアミノ酸残基によって置換されてもよい。したがって、免疫グロブリン単一可変ドメインの特性を改善し、または所望の特性もしくは免疫グロブリンの単一可変ドメインの所望の特性のバランスもしくは組合せから損なわない(すなわち、免疫グロブリンの単一可変ドメインが意図された使用にもはや適さない程度に)任意の1つ以上の置換、欠失または挿入は、本発明の範囲内である。当業者は、一般に、本明細書における開示に基づいて、場合により、限定された程度の日常的な実験後に、適切な置換、欠失もしくは挿入、またはそれらの適した組合せを決定し、選択することができ、それは、例えば、制限された数の可能な置換を導入し、このようにして得られた免疫グロブリンの単一可変ドメインの特性におけるそれらの影響を決定することを伴う場合がある。
また、本発明の範囲内には、2つ以上の一価の免疫グロブリン単一可変ドメインが一緒になって、「多価」形態であり、結合によって、化学的に、または組換えDNA技術によって形成される免疫グロブリン単一可変ドメインがある。多価構築物の非限定的な例としては、「二価」構築物、「三価」構築物、「四価」構築物などが挙げられる。多価構築物に含まれる免疫グロブリンの単一可変ドメインは、同一または異なっていてもよい。別の特定の実施形態において、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメインは、少なくとも1つが異なった特異性を有する、2つ以上の免疫グロブリン単一可変ドメインと一緒になって、「多重特異的」形態であり、結合によって形成される。多重特異的構築物の非限定的な例としては、「二重特異的」構築物、「三重特異的」構築物、「四重特異的」構築物などが挙げられる。これをさらに例証するために、本発明の任意の多価または多重特異的(本明細書において定義されている。)免疫グロブリンの単一可変ドメインは、適切には、同一抗原上の2つ以上の異なるエピトープに対して、例えば、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2の2つ以上の異なるエピトープに対して指向されてもよく;または2つ以上の異なる抗原に対して、例えば、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2のエピトープとムスカリン性アセチルコリン受容体M2の天然の結合パートナー(例えば、Gタンパク質、β−アレスチン)のエピトープに対して指向されてもよい。特に、本発明の一価の免疫グロブリン単一可変ドメインは、500nM未満、好ましくは200nM未満、より好ましくは10nM未満、例えば、500pM未満の親和性で標的受容体に結合するようなものである。また、本発明の多価または多重特異的な免疫グロブリン単一可変ドメインは、増加した結合力、ならびに/または所望の受容体に関して、および/もしくはこのような多価もしくは多重特異的な免疫グロブリン単一可変ドメインの使用によって得ることができる任意の他の所望の特性もしくは所望の特性の組合せに関して改善された選択性を有してもよい(またはそれらのために操作されおよび/もしくは選択されてもよい。)。特定の実施形態において、本発明のこのような多価または多重特異的な結合ドメインはまた、GPCRのシグナル伝達活性の調節において改善された有効性を有してもよい(またはそのために操作されおよび/もしくは選択されてもよい。)。本発明の多価または多重特異的な結合ドメインは、追加的に、異なる抗原、例えば、限定されないが、ムスカリン性アセチルコリン受容体または1つ以上の下流のシグナル伝達タンパク質と相互作用するリガンドに適切に指向されてもよい。
さらに、本発明の結合剤を発現させるために使用される宿主生物に応じて、結合剤内の欠失および/または置換は、当業者の能力の範囲内であるため、例えば、翻訳後修飾に関する1つ以上の部位(例えば、1つ以上のグリコシル化部位)が除去されるようにして設計されてもよい。または、置換または挿入は、官能基(本明細書においてさらに記載される。)が結合するための1つ以上の部位を導入するように設計されてもよい。
また、立体構造選択的な結合剤は、一般的に、ムスカリン性アセチルコリン受容体、具特にM2Rの全ての天然に存在するもしくは合成の類似体、変異体、突然変異体、対立遺伝子、部分、断片およびアイソフォームに結合することができ;または本発明の結合剤がムスカリン性アセチルコリン受容体に結合する抗原性決定基(単数もしくは複数)またはエピトープ(単数もしくは複数)と本質的に同じである1つ以上の抗原性決定基またはエピトープを含有するムスカリン性アセチルコリン受容体の類似体、変異体、突然変異体、対立遺伝子、部分、断片およびアイソフォームに結合することができる。
別の態様において、本発明はまた、ムスカリン受容体、好ましくはムスカリン受容体M2と、およびムスカリン受容体に対して指向されるおよび/または特異的に結合する立体構造選択的な結合剤を含む複合体を提供する。非限定的な例として、安定した複合体は、サイズ排除クロマトグラフィーによって精製されてもよい。一実施形態によれば、上述した複合体は、少なくとも1つの他の立体構造選択的な受容体リガンド(本明細書において定義されている。)をさらに含む。立体構造選択的な受容体リガンドの非限定的な例としては、完全アゴニスト、部分アゴニスト、インバースアゴニスト、天然の結合パートナー、アロステリックモジュレーターなどが挙げられる。これをさらに例証するために、限定的することを目的とせずに、ムスカリン受容体M2のアゴニストは、当該技術分野において公知であり、とりわけキサノメリン、オキソトレモリン、アセチルコリン、カルバコール、ピロカルピン、フルメチド、ベタネコールを含む。ムスカリン受容体M2のアンタゴニストは、当該技術分野において公知であり、とりわけアトロピン、トリピトラミン、プロパンテリン、スコポラミンを含む。ムスカリン受容体M2のインバースアゴニストは、当該技術分野において公知であり、とりわけトルテロジン、オキシブチニン、ダリフェナシンを含む。ムスカリン受容体M2のアロステリックモジュレーターは、当該技術分野において公知であり、とりわけスタウロスポリン、ビンカミン、ブルシン、ガラミンを含む。さらなる例としては、IUPHARデータベース(http://www.iuphar−db.org/)に見出すことができる。
好ましい実施形態において、本発明の立体構造選択的な結合剤および/または複合体は、可溶化形態であり、例えば、界面活性剤の状態である。代替の好ましい実施形態において、本発明の立体構造選択的な結合剤および/または複合体は、固体支持体に固定化される。固体支持体の非限定的な例、ならびに固定化のための方法および技術は、詳細な説明においてさらに説明される。さらに別の実施形態において、本発明の立体構造選択的な結合剤および/または複合体は、生物、組織、細胞、細胞株などの細胞組成物の状態であり、または前記生物、組織、細胞または細胞株に由来する膜組成物もしくはリポソーム組成物の状態である。膜またはリポソーム組成物の例としては、限定されないが、細胞小器官、膜調製物、ウイルス、ウイルス様リポ粒子などが挙げられる。細胞組成物、または膜もしくはリポソーム組成物は、天然または合成の脂質を含んでもよいことが認識される。さらに別の好ましい実施形態において、複合体は結晶性である。そのため、複合体の結晶はまた提供され、および以下により詳細に説明されている上記結晶を製造する方法が提供される。好ましくは、本発明の複合体と受容体リガンドの結晶形態が想定される。
ムスカリン性アセチルコリン受容体に対する立体構造選択的な結合剤のスクリーニングおよび選択
立体構造選択的な結合剤、特に免疫グロブリン単一可変ドメインは、いくつかの方法で同定することができ、非限定的な方法で以下にVHHについて例証される。VHHのナイーブもしくは合成ライブラリー(このようなライブラリーの例については、WO9937681、WO0043507、WO0190190、WO03025020およびWO03035694を参照されたい。)は、機能的立体構造でムスカリン受容体に対する立体構造結合剤を含有してもよいが、本発明の好ましい実施形態は、特定の立体構造である受容体(例えば、活性な立体構造状態での受容体に対して指向される抗体を生じさせるようなアゴニストが結合するムスカリン受容体)に固有の立体構造エピトープで動物の免疫系を曝露するために、場合により受容体リガンドに結合されている、機能的立体構造のムスカリン受容体を用いたラクダの免疫化を含む。場合により、特定のリガンドは、化学的架橋によって、対象とする受容体に結合することができる。したがって、本明細書においてさらに記載されるように、このようなVHH配列は、好ましくは、ある種のラクダをムスカリン受容体、好ましくは機能的立体構造状態の受容体で適切に免疫することによって(すなわち、前記受容体に対して指向される免疫応答および/または重鎖抗体を生じさせるように)、前記ラクダからの適切な生物学的試料(例えば、血液試料、またはB細胞の任意の試料)を得ることによって、および前記試料から開始して前記受容体に対して指向されるVHH配列を生じさせることによって、生じることができまたは得ることができる。このような技術は、当業者には明らかである。しかし、所望のVHH配列を得るための別の技術は、適切には、それ自体が知られている任意の適切な技術を用いて、重鎖抗体を発現することができるトランスジェニック哺乳動物を適切に免疫すること(すなわち、機能的立体構造状態のムスカリン受容体に対して指向される免疫応答および/または重鎖抗体を生じさせるように)、前記トランスジェニック哺乳動物からの適切な生物学的試料(例えば、血液試料、またはB細胞の任意の試料)を得ること、次に、前記試料から開始して前記受容体に対して指向されるVHH配列を生じさせることを伴う。例えば、この目的のために、WO02085945とWO04049794に記載されている。重鎖抗体を発現するマウスならびにさらなる方法および技術を用いることができる。
ムスカリン性アセチルコリン受容体を用いて動物を免疫化するために、受容体は、宿主細胞においてタンパク質の組換え形態を発現させ、アフィニティークロマトグラフィーおよび/または抗体ベースの方法を用いてタンパク質を精製することを採用してもよい従来の方法を用いて産生させ、精製させてもよい。特定の実施形態において、バキュロウイルス/Sf−9のシステムは発現のために使用されてもよいが、他の発現系(例えば、細菌、酵母または哺乳動物細胞系)も使用してもよい。ムスカリン性アセチルコリン受容体のようなGPCRを発現させ、精製させるための例示的な方法は、例えば、とりわけKobilka(1995)、Erogluら(2002)、Chelikaniら(2006)および書籍「Identification and Expression of G Protein−Coupled Receptors」(Kevin R.Lynch(編)、1998)に記載されている。また、ムスカリン性アセチルコリン受容体などのGPCRは、リン脂質ベシクルにおいて再構成されてもよい。同様に、リン脂質ベシクルにおいて活性GPCRを再構成する方法は公知であり、とりわけLucaら(2003)、Mansoorら(2006)、Niuら(2005)、Shimadaら(2002)およびErogluら(2003)に報告されている。ある特定の場合において、GPCRおよびリン脂質は、高密度(例えば、リン脂質1mgあたり1mgの受容体)で再構成されてもよい。特定の実施形態において、リン脂質ベシクルは、GPCRが活性であることを確認するために試験されてもよい。多くの場合において、GPCRは、両方の配向で(通常の配向、および細胞内ループがベシクルの外側にある「逆さまの」配向で)リン脂質ビヒクルに存在してもよい。他の免疫方法には、限定されないが、とりわけ(例えば、WO2010070145、WO2011083141に記載されている。)ムスカリン性アセチルコリン受容体またはその断片を発現する完全な細胞の使用、ムスカリン性アセチルコリン受容体をコードする核酸配列を用いたワクチン接種(例えば、DNAワクチン接種)、ムスカリン性アセチルコリン受容体を発現する粒子のようなウイルス(複数または単数)を用いた免疫化が挙げられる。
任意の適切な動物、とりわけウサギ、マウス、ラット、ラクダ、ヒツジ、ウシ、ブタなどの哺乳動物、またはニワトリもしくはシチメンチョウなどの鳥、またはサメなどの魚は、免疫応答を生じさせるために適切な当該技術分野において周知の技術のいずれかを用いて免疫化されてもよい。
非限定的な例として、ムスカリン受容体の機能的立体構造状態の立体構造エピトープに特異的に結合するVHHまたはナノボディの選択は、例えば、それ自体が知られている方法において全てが行われてもよい、表面に重鎖抗体を発現する細胞のセット、回収もしくはライブラリー、または表面にgenIIIおよびナノボディの誘導体を提示するバクテリオファージ、または接合因子タンパク質Aga2Pの融合体を提示する酵母細胞をスクリーニングすることによって、VHH配列またはナノボディ配列の(自然もしくは免疫)ライブラリーをスクリーニングすることによって、またはVHH配列またはナノボディ配列をコードする核酸配列の(自然もしくは免疫)ライブラリーをスクリーニングすることによって行われてもよい。前記方法は、場合により、1つ以上の他の適切な工程をさらに含んでもよく、前記工程としては、例えば、限定されないが、親和性変異の工程、所望のアミノ酸配列を発現する工程、所望の抗原(本件においては、特定の立体構造であるムスカリン受容体)に対する結合および/または活性についてスクリーニングする工程、所望のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を決定するための工程、1つ以上のヒト化置換を導入する工程、適切な多価および/または多重特異的フォーマットを整える工程、所望の生物学的および/または物理的特性を(すなわち、当該技術分野において知られている適切なアッセイを用いて)スクリーニングする工程、ならびに/または任意の適した順番で、このような1つ以上の工程の任意の組合せが挙げられる。
様々な方法が、結合剤と標的ムスカリン受容体の間の特異的結合(本明細書において上記で定義されている。)を決定するために使用されてもよく、前記方法としては、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、フローサイトメトリー、放射性リガンド結合アッセイ、表面プラズモン共鳴アッセイ、ファージディスプレイなどが挙げられ、これらは、当該技術分野において一般的な実施であり、例えば、Sambrookら、(2001)、Molecular Cloning、 A Laboratory Manual.第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NYにおいて検討され、さらに、実施例の節において例証されている。この目的のために、多くの場合、本明細書にさらに記載されるように、固有の標識またはタグ、例えば、ペプチド標識、核酸標識、化学標識、蛍光標識、または放射性同位体標識が使用されることが認識される。
立体構造選択的な結合剤を選択するための特に好ましい方法は、例えば、WO2012/007593に記載されているものである。代替の好ましい実施形態において、立体構造選択的な結合剤の選択はまた、両方ではないが、活性立体構造のムスカリン受容体または不活性立体構造のムスカリン受容体いずれかに特異的に結合する細胞を、細胞外の結合剤がつながれた細胞表面のライブラリーを含む細胞集団から選択するために細胞分類を用いることによって行われ得る。限定することを目的とせずに、立体構造選択的な結合剤の選択はまた、実施例の節においてさらに例証される。
立体構造選択的な結合剤の修飾
本発明の立体構造選択的な結合剤は、本明細書においてさらに記載されるように、さらに修飾されてもよくおよび/または他の部分を含んでもよい(またはそれと融合され得る。)。修飾の例、ならびに(すなわち、タンパク質骨格上であるが、好ましくは側鎖上のいずれかで)修飾され得る本発明の結合剤内のアミノ酸残基の例、このような修飾を導入するために使用され得る方法および技術、このような修飾の潜在的な使用および利点は、当業者に明らかとなる。例えば、このような修飾は、結合剤中にまたはその上に1つ以上の官能基または部分の導入(例えば、共有連結によって、または別の適切な方法による。)を伴ってもよい。このような官能基およびそれらを導入するための技術の例は、当業者に明らかとなり、一般的に、当該技術分野において言及されている全ての官能基および技術、ならびに医薬タンパク質の修飾に対して、特に抗体または抗体断片(ScFv’および単一ドメイン抗体を含む。)に対して、それ自体が知られている官能基および技術を含むことができ、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Mack Publishing Co.,Easton、PA(1980)を参照されたい。このような官能基は、例えば、結合剤に直接的に(例えば共有結合で)連結され、または場合により適切なリンカーまたはスペーサーを介して連結されてもよく、同様に、当業者に明確になる。
半減期を増大させおよび/または医薬タンパク質の免疫原性を低下させるために最も広く使用される技術の1つは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)またはその誘導体(例えば、メトキシポリ(エチレングリコール)もしくはmPEG)などの適切な薬理学的に許容されるポリマーの結合を含む。一般的に、ペグ化の任意の適切な形態が使用され得、例えば、抗体および抗体断片(限定されないが、(単一)ドメイン抗体およびScFv’を含む。)について、当該技術分野において使用されるペグ化が挙げられる;例えば、Chapman、Nat. Biotechnol.,54、531−545(2002);VeroneseおよびHarrisによる、Adv.Drug Deliv.Rev.54、453−456(2003)、HarrisおよびChessによる、Nat.Rev.Drug.Discov.,2、(2003)およびWO04060965を参照されたい。また、タンパク質のペグ化のための種々の試薬は、例えば、Nektar Therapeutics、USAから市販されている。好ましくは、部位特異的ペグ化は、システイン残基を介して、特に、使用されている(Yangら、タンパク質工学、16、10、761−770(2003)を参照)。例えば、この目的のために、PEGは、結合剤において天然に存在するシステイン残基に結合させてもよく、または結合剤は、PEGの結合のために1つ以上のシステイン残基を適切に導入するように修飾されてもよく、またはPEGの結合のために1つ以上のシステイン残基を含むアミノ酸は、結合剤のN末端および/またはC末端に融合されてもよく、これら全ては、それら自体が当業者に知られているタンパク質工学の技術を用いるものである。好ましくは、本発明の結合剤について、5000を超える分子量、例えば、10,000超であり、200,000未満、例えば100,000未満である分子量;例えば、20,000−80,000の範囲の分子量を有するPEGが使用される。別の、通常あまり好ましくない修飾は、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメインまたはポリペプチドを発現させるために使用される宿主細胞に応じて、通常、同時翻訳および/または翻訳後修飾の一部として、N結合型またはO結合型グリコシル化を含む。結合剤の半減期を増加させるための別の技術は、二官能性構築物(例えば、標的M2Rに対する1つのナノボディと、アルブミンなどの血清タンパク質に対するもの)、または結合剤とペプチド(例えば、アルブミンなどの血清タンパク質に対するペプチド)の融合体への操作を含んでもよい。
通常あまり好ましくない修飾は、本発明の結合剤を発現させるために使用される宿主細胞に応じて、通常、同時翻訳および/または翻訳後の修飾の一部として、N結合型またはO結合型グリコシル化を含む。
さらに別の修飾は、標識された結合剤の意図された目的に応じて、1つ以上の検出可能な標識または他のシグナル生成基もしくは部分の導入を含んでもよい。それらを結合させ、使用し、および検出するための適切な標識および技術は、当業者に明らかであり、例えば、限定されないが、蛍光標識、(例えば、IRDye800、VivoTag800、フルオレセイン、イソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド、およびフルオレサミン、ならびにEuなどの蛍光金属またはランタニド系列からの他の金属)、燐光標識、化学発光標識または生物発光標識(例えば、ルミナル、イソルミノール、セロマティックアクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、シュウ酸エステル、ジオキセタンまたはGFPおよびその類似体など)、放射性同位体、金属、金属キレート剤または金属カチオンまたは他の金属またはインビボ、インビトロもしくはインサイチュの診断および造影における使用に特に適している金属陽イオン、ならびに発色団および酵素(リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ−V−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α−グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ビオチナアビジンペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−VI−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼなど)が挙げられる。他の適切な標識は、当業者に明らかであり、例えば、NMRまたはESR分光法を用いて検出することができる部分を含む。本発明のこのような標識された結合剤は、特定の標識の選択に応じて、例えば、インビボまたはインサイチュのアッセイ(それ自体が知られているイムノアッセイ、例えば、ELISA、RIA、EIAおよび他の「サンドイッチアッセイなどを含む。)において使用されてもよく、ならびにインビボの診断および造影の目的で使用されてもよい。当業者には明らかなように、例えば、上記で言及されている金属または金属カチオンの1つをキレートするために、別の修飾は、キレート基の導入を伴ってもよい。適切なキレート基としては、例えば、限定されないが、2,2’,2’’−(10−(2−((2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)オキシ)−2−オキソエチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリイル)三酢酸(DOTA)、2,2’−(7−(2−((2,5−ジオキソピロリジン−1−イル)オキシ)−2−オキソエチル)−1,4,7−トリアゾナン−1,4−ジイル)二酢酸(NOTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が挙げられる。さらに別の修飾は、結合対、例えば、ビオチン−(ストレプト)アビジン結合対などの特定の結合対の一部である官能基の導入を含んでもよい。このような官能基は、すなわち、結合対の形成を介して、結合対の他の半分に結合される別のタンパク質、ポリペプチドまたは化合物に結合剤を連結するために使用することができる。例えば、本発明の結合剤は、ビオチンにコンジュゲートされてもよく、アビジンまたはストレプトアビジンとコンジュゲートされる別のタンパク質、ポリペプチド、化合物または担体に連結されてもよい。例えば、このようなコンジュゲートされた結合剤は、例えば、診断系におけるレポーターとして使用されてもよく、この場合、検出可能なシグナル生成剤はアビジンまたはストレプトアビジンとコンジュゲートされる。このような結合対は、例えば、医薬目的に適した担体などの担体に本発明の結合剤を結合させるために使用されてもよい。1つの非限定的な例としては、CaoおよびSuresh、Journal of Drug Targetting、8、4、257(2000)によって記載されるリポソーム製剤である。このような結合対はまた、本発明の結合剤に治療的に活性な薬剤を連結するために使用されてもよい。
立体構造選択的な結合剤が特定の官能基、残基または部分(以上に記載されている。)を結合剤に連結させることによって修飾される場合において、しばしば、リンカー分子が使用される好ましい「リンカー分子」または「リンカー」は、長さが1から200個のアミノ酸のペプチドであり、典型的には、必ずしも必要ではないが、構造化されず、柔軟であるように選択または設計される。例えば、特定の二次構造を形成しないアミノ酸を選択することができる。または、アミノ酸は、それらが安定した三次構造を形成しないように選択することができる。または、アミノ酸リンカーは、ランダムコイルを形成してもよい。このようなリンカーとしては、限定されないが、Gly、Ser、Thr、Gln、Glu、または天然タンパク質において非構造化領域と頻繁に関連付けられるさらなるアミノ酸に富んだ合成ペプチドが挙げられる(Dosztanyi,Z.,Csizmok,V.,Tompa,P.およびSimon,I.(2005).IUPred:推定エネルギー量に基づくタンパク質の本質的な非構造化領域を予測するためのウェブサーバー。Bioinformatics(Oxford、England)、21(16)、3433−4)。適切なリンカー配列の非限定的な例としては、(GS)5(GSGSGSGSGS;配列番号156)、(GS)10(GSGSGSGSGSGSGSGSGSGS;配列番号157)、(G4S)3(GGGGSGGGGSGGGGS;配列番号NO:158)、ラマIgG2ヒンジ(AHHSEDPSSKAPKAPMA;配列番号159)またはヒトIgAヒンジ(SPSTPPTPSPSTPPAS;配列番号160)リンカーが挙げられる。
したがって、具体的な実施形態によれば、アミノ酸(AA)リンカー配列は、0と200個のAAの間、0と150個のAAの間、0と100個のAAの間、0と90個のAAの間、0と80個のAAの間、0と70個のAAの間、0と60個のAAの間、0と50個のAAの間、0と40個のAAの間、0と30個のAAの間、0と20個のAAの間、0と10個のAAの間、0と5個のAAの間のペプチドである。短いリンカー配列の例としては、限定されないが、PPP、PPまたはGSが挙げられる。
特定の用途について、リンカー分子が1つ以上の特定の配列モチーフを含むまたはそれからなることは有利であり得る。例えば、タンパク質分解性切断部位は、検出可能な標識または部分が放出され得るように、リンカー分子に導入することができる。有用な切断部位は、当該技術分野において公知であり、配列IEGR(配列番号161)を有する第Xa因子切断部位、配列LVPR(配列番号162)を有するトロンビン切断部位、配列DDDDK(配列番号163)を有するエンテロキナーゼ切断部位、またはLEVLFQGP(配列番号164)を有するプレシジョン切断部位などのプロテアーゼ切断部位を含む。
または、タンパク質修飾のための化学酵素的方法を使用して、結合剤が検出可能な標識または部分に連結される場合において、インビボまたはインビトロで共有結合した分子を製造するために使用される酵素または合成化学に応じて、異なる化学的実在物のリンカー部分が存在してもよい(Rabuka 2010、Curr Opin Chem Biol 14:790−796に概説されている。)。
発現系
他の一態様において、本発明は、以上に記載した本発明の立体構造選択的な結合剤のいずれかをコードする核酸配列を含む核酸分子に関する。さらに、本発明はまた、本発明の立体構造選択的な結合剤のいずれかをコードする核酸配列を含む発現ベクター、およびこのような発現ベクターを発現する宿主細胞を想定する。適切な発現系としては、細菌または酵母における構成的および誘導性の発現系、ウイルス発現系、例えば、バキュロウイルス、セムリキ森林ウイルスおよびレンチウイルス、または昆虫もしくは哺乳動物細胞における一過性トランスフェクションが挙げられる。本発明の立体構造選択的な結合剤のクローニングおよび/または発現は、当業者に公知の技術に従って行うことができる。
本発明の「宿主細胞」は、任意の原核生物または真核生物であってもよい。好ましい実施形態によれば、宿主細胞は真核細胞であり、任意の真核生物であってもよいが、特定の実施形態において、酵母、植物、哺乳動物および昆虫細胞が想定される。使用される細胞の性質は、典型的には、結合剤を製造する容易さと費用、所望のグリコシル化特性、結合剤の由来、意図された用途、またはそれらの任意の組合せに依存する。哺乳動物細胞は、例えば、複雑なグリコシル化を達成するために使用されてもよいが、哺乳動物細胞系においてタンパク質を製造するには費用効率が高くない場合がある。植物および昆虫細胞、ならびに酵母は、典型的には、高い生産レベルを達成し、より費用効率が高いが、哺乳動物タンパク質の複雑なグリコシル化パターンを模倣するには、追加の修飾が必要とされることがある。酵母細胞は、多くの場合、タンパク質の発現に使用され、これは、それらが経済的に培養され、高収率のタンパク質を与えるためであり、適切に修飾された場合、適したグリコシル化パターンを有するタンパク質を製造することができる。さらに、酵母は、迅速な形質転換、試験されたタンパク質の局在化戦略、および簡便な遺伝子ノックアウト技術を可能にする確立された遺伝学を提供する。また、昆虫細胞は、ムスカリン受容体を含むGPCRを発現させるための魅力的なシステムであり、これは、昆虫細胞が、GPCRを干渉することなく、Gタンパク質セットが限定された発現系を提供するためである。タンパク質産生用の真核細胞または細胞株は、当該技術分野において周知であり、修飾されたグリコシル化経路を有する細胞株を含み、非限定的な例を以下に提供する。
タンパク質を有し、発現させ、および産生させ、その後の単離および/または精製に適した動物または哺乳動物の宿主細胞としては、チャイニーズハムスターオバレイ細胞(CHO)、例えば、CHO−K1(ATCC CCL−61)、DG44(Chasinら、1986;Kolkekarら、1997)、CHO−K1 Tet−On細胞株(Clontech)、ECACC 85050302として指定されたCHO(CAMR、Salisbury、Wiltshire、UK)、CHOクローン13(GEIMG、Genova、IT)、CHOクローンB(GEIMG、Genova、IT)、ECACC 93061607として指定されたCHO−K1/SF(CAMR、Salisbury、Wiltshire、UK)、ECACC 92052129として指定されたRR−CHOK1(CAMR、Salisbury、Wiltshire、UK)、ジヒドロ葉酸還元酵素ネガティブCHO細胞(CHO/−DHFR、Urlaub and Chasin、1980)、およびdp12.CHO細胞(U.S.Pat.No.5,721,121);SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1細胞(COS細胞、COS−7、ATCC CRL−1651);ヒト胎児腎臓細胞(例えば、懸濁培養における増殖のためにサブクローニングされた293細胞、または293T細胞、または293細胞、Grahamら、1977、J.Gen.Virol.,36:59、またはGnTI KO HEK293S細胞、Reevesら、2002);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL−10);サル腎臓細胞(CV1、ATCC CCL−70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76、ATCC CRL−1587;VERO、ATCC CCL−81);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、1980、Biol.Reprod.,23:243−251);ヒト子宮頚癌細胞(HELA、ATCC CCL−2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL−34);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL−75);ヒトヘパトーマ細胞(HEP−G2、HB 8065);マウス乳癌細胞(MMT 060562、ATCC CCL−51);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL−1442);TRI細胞(Mather,1982);MCR5細胞;FS4細胞が挙げられる。特定の実施形態によれば、細胞は、Hek293細胞またはCOS細胞から選択される哺乳動物細胞である。
例示的な非哺乳動物細胞株としては、限定されないが、昆虫細胞、例えば、Sf9細胞/バキュロウイルス発現系(例えば、Jarvis、Virology Volume 310、第1刊、2003年5月25日、1−7頁参照)、植物細胞、例えば、タバコ細胞、トマト細胞、トウモロコシ細胞、藻類細胞、または酵母、例えば、サッカロミセス属種、シゾサッカロミセス属種、ハンゼヌラ属種、ヤロウイア属種もしくはピキア属種が挙げられる。特定の実施形態によれば、真核生物細胞は、サッカロミセス属種(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、シゾサッカロミセス属種(例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ハンゼヌラ属種(例えば、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenul polymorpha))、ヤロウィア属種(例えば、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))、クルイベロミセス属種(例えば、クルイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis))、ピキア属種(例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris))、またはコマガタエラ種(例えば、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)由来の酵母細胞である。特定の実施形態によれば、真核生物細胞は、ピキア細胞、および最も特定の態様においては、ピキア・パストリス細胞である。
標的細胞(例えば、哺乳動物細胞)のトランスフェクションは、SambrookおよびRussel(Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第3版、第3巻、第16章、第16項 1−16.54)で概説されている原理に従って行うことができる。さらに、ウイルス形質導入はまた、アデノウイルスベクターなどの試薬を用いて行うことができる。適切なウイルスベクター系、調節領域および宿主細胞の選択は、当業者のレベル内で一般的な知識である。得られた、トランスフェクトされた細胞は、培養中で維持される、または標準的な慣行に従って、後の使用のために凍結される。
したがって、本発明の別の態様は、本発明の立体構造選択的な結合剤を製造する方法に関し、該方法は、少なくとも
a)適切な細胞発現系(上記で定義されている。)において、本発明の立体構造選択的な結合剤をコードする核酸を発現させる工程、ならびに場合により
b)前記結合剤を単離および/または精製する工程
を含む。
上述された立体構造選択的な結合剤ならびにそれを含む複合体は、スクリーニングおよび創薬(その最も広い意味で)に特に有用であり、これら全ては本明細書においてさらに詳述される。
応用
本明細書に記載されており立体構造選択的な結合剤は、様々な事情および適用において、例えば、限定されないが、(1)結合に応じて、立体構造選択的な結合剤が受容体を特定の立体構造に維持させる、ムスカリン性アセチルコリン受容体、より具体的にはM2Rの捕捉および/または精製のため;(2)立体構造選択的な結合剤と複合体を形成させ、場合によりさらに別の立体構造選択的受容体リガンドに結合させて、ムスカリン性アセチルコリン受容体、より具体的にはM2Rの同時結晶化研究および高分解能構造分析のため;(3)リガンドスクリーニング、および(構造ベースの)創薬のため;(4)治療薬および/または診断薬として、使用され得、これらの全ては、以下にさらに詳細に説明される。
機能的立体構造のムスカリン性アセチルコリン受容体に対する捕捉、分離および精製
別の態様において、本発明は、上記の立体構造選択的な結合剤のいずれかを利用することによって機能的立体構造のムスカリン性アセチルコリン受容体、より具体的にはM2Rを捕捉および/または精製するための方法を提供する。機能的立体構造の受容体を捕捉および/または精製することは、とりわけそれに続く結晶化、リガンド特徴付けおよび化合物スクリーニング、免疫化を可能にする。
したがって、特定の実施形態において、本発明はまた、活性または不活性立体構造のムスカリン性アセチルコリン受容体を捕捉するために、本発明の立体構造選択的な結合剤の使用に関する。場合により、必ずしもそうではないが、上記で記載される特定の立体構造の受容体を捕捉することには、別の立体構造選択的受容体リガンド(例えば、オルソステリックリガンド、アロステリックリガンド、Gタンパク質またはアレスチンなどの天然の結合パートナーなど)との複合体における受容体を捕捉することを含んでもよい。
したがって、本発明はまた、機能的立体構造のムスカリン性アセチルコリン受容体、特にM2Rを捕捉する方法を提供し、該方法は、
(i)本発明の立体構造選択的な結合剤をムスカリン性アセチルコリン受容体、より具体的にはM2Rを含む溶液と接触させる工程、および
(ii)結合剤をムスカリン性アセチルコリン受容体M2に特異的に結合させ、それによって、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2が機能的立体構造で捕捉される工程
を含む。
より具体的には、本発明はまた、機能的立体構造のムスカリン性アセチルコリン受容体、特にM2Rを捕捉する方法を想定し、該方法は、
(i)本発明の固定化された立体構造選択的な結合剤を有する固相支持体に、複数の立体構造でムスカリン性アセチルコリン受容体、より具体的にはM2Rを含有する溶液を提供する工程、および
(ii)結合剤をムスカリン性アセチルコリン受容体M2に特異的に結合させ、それによって、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2が機能的立体構造で捕捉される工程、および
(iii)弱く結合したまたは非結合の分子を除去する工程
を含む。
上記されている方法のいずれかは、上述した方法の工程(ii)において形成された複合体を単離する工程をさらに含んでもよく、前記複合体は、立体構造選択的な結合剤と特定の立体構造のムスカリン性アセチルコリン受容体を含む。
ムスカリン受容体を単離/精製するための上記の方法は、限定されないが、親和性ベースの方法、例えば、とりわけアフィニティークロマトグラフィー、アフィニティー精製、免疫沈降、タンパク質検出、免疫化学、表面ディスプレイ、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーを含み、これらの全ては当該技術分野において周知である。
構造ベースの薬物設計における結晶学と応用
本発明の一態様は、ムスカリン性アセチルコリン受容体、特にM2のX線結晶構造解析における本発明の立体構造選択的な結合剤の有用性、および構造ベースの薬物設計のその応用に関する。当該技術分野において利用可能であるムスカリン性アセチルコリン受容体M2とM3の非活性状態の構造を用いて、薬剤師は、現在、いくつかの活性な治療標的に対するリガンド開発を導くために実験データを有している。しかしながら、インシリコスクリーニングのためのこれらの分解能構造の価値が制限される。一方、例証の問題として、アゴニストが結合した受容体結晶は、ムスカリン性アセチルコリン受容体の活性状態の三次元表現を提供することができる。これらの構造は、リガンド結合とGタンパク質の相互作用部位を接続する立体構造変化の明確化に役立ち、より正確なメカニズムの仮説、最終的に新しい治療法へと導く。リガンドによって活性化されたGPCRに固有の立体構造の柔軟性と、アゴニスト結合受容体によって示されるより大きな不均一性が示されると、このような状態を安定化させることは容易ではない。このような努力は、受容体の活性立体構造状態に特異的である結合剤を添加することによって、アゴニストが結合した受容体の立体構造の安定化から利益を得ることができる。その点で、Gタンパク質様の挙動を示し、アゴニスト結合に関する協同特徴を示す立体構造選択的な結合剤が見出されることは、本発明の特別な利点である。これはまた、創薬の発見を手助けするために大きな利点となる。特に、効力、選択性、または薬物動態パラメータを向上させるために、薬理学的または生物学的活性を有し、化学構造が化学修飾のための出発点として使用されるリード化合物に結合する受容体の構造を取得するための方法は、非常に価値があり、本明細書において提供される。当業者は、本発明の立体構造選択的な結合剤は、結合剤によって誘導される新薬につながる立体構造に関して選択的であるリード化合物を用いて、受容体:結合剤の同時結晶化に特に適しており、それは、この結合剤が、立体構造選択的受容体リガンドの親和性を実施鉄的に増加させることができるためである。
したがって、結合剤が、受容体上の立体構造エピトープに結合することは、本発明の立体構造選択的な結合剤の特別の利点であり、このようにして、その特定の立体構造の受容体を安定化させ、その立体構造の柔軟性を低下させ、その極性表面を増加させ、結晶化を促進させる。本発明の立体構造選択的な結合剤は、標的ムスカリン性アセチルコリン受容体の立体構造不均一性を最小化させることによって、十分に配向した結晶を得る確率を高めるための特有のツールである。
したがって、一実施形態によれば、結晶化のために、本発明の立体構造選択的な結合剤を使用することが想定される。有利には、結晶は、立体構造選択的な結合剤とムスカリン性アセチルコリン受容体の複合体で形成することができ、受容体は、特定の受容体の立体構造、とりわけ治療に関連する受容体立体構造(例えば、活性立体構造)にトラップされ、立体構造選択的な結合剤の選択によって確認される。結合剤はまた、受容体への結合に応じて細胞外領域の柔軟性を減少させ、十分に配向した結晶を成長させる。特に、ナノボディを含む免疫グロブリン単一可変ドメインは、この目的のために特に適した結合剤であり、これは、それらが、立体構造エピトープに結合し、従来の抗体またはFab’などの誘導された断片とは異なり、柔軟なリンカー領域を欠いた1つの単一の剛性球状ドメインで構成されるためである。
したがって、好ましい実施形態によれば、本発明は、立体構造選択的な結合剤と、結合剤が特異的に結合するムスカリン性アセチルコリン受容体の複合体を結晶化させるためのツールとして有用な立体構造選択的な結合剤を提供し、最終的には複合体の構造を解明する。特定の実施形態によれば、本発明はまた、立体構造選択的な結合剤、前記結合剤が特異的に結合するムスカリン性アセチルコリン受容体、および別の立体構造選択的受容体リガンド(本明細書において上記で定義されている。)の複合体を結晶化することを想定する。したがって、本発明の立体構造選択的な結合剤と、特定の立体構造で維持されるムスカリン性アセチルコリン受容体を含む複合体は、膜タンパク質に関する多数の特定の結晶化法のいずれかを用いて結晶化されてもよく、その多くは、Caffrey(2003および2009)に概説されている。一般論として、方法は、結晶化前の複合体に脂質を加えることを含む脂質ベースの方法である。このような方法は、以前に、他の膜タンパク質を結晶化するために使用されている。これらの方法の多くは、脂質立方相結晶化法およびバイセル結晶化法を含み、ベシクル(ベシクル融合法)、円盤状ミセル(バイセル法)、および液晶または中間相(中間相または立方相法)として、脂質および界面活性剤の自発的な自己組織化脂質の性質を利用する。脂質立方相結晶化方法は、例えば、Landauら、1996;Gouaux 1998;Rummelら、1998;Nollertら、2004、Rasmussenら、2011に記載され、これらの刊行物は、それらの方法の開示について参照により組み込まれる。バイセル結晶化法は、例えば、Fahamら、2005;Fahamら、2002に記載され、これらの刊行物は、それらの方法の開示について参照により組み込まれる。
別の実施形態によれば、本発明は、立体構造選択的な結合剤との複合体において、場合により別の立体構造選択的な受容体リガンドとの複合体において、ムスカリン性アセチルコリン受容体の構造を解明するために、本明細書において記載されている立体構造選択的な結合剤の使用に関する。「構造を解明すること」とは、本明細書で使用するとき、タンパク質の原子または原子座標の配置を決定することを意味し、多くの場合、X線結晶学などの生物物理学的方法によって行われる。
多数の場合において、回折質結晶を得ることは、その原子分解能構造を解明するための主要障壁である。したがって、具体的な実施形態によれば、本明細書に記載されている立体構造選択的な結合剤は、受容体:結合剤の複合体の結晶構造が解明されるように、結晶の回折質を向上させるために使用され得る。
したがって、本発明は、機能的立体構造のムスカリン性アセチルコリン受容体、特にM2Rの結晶構造を決定するための方法を包含し、該方法は、
a)本発明の立体構造選択的な結合剤とムスカリン性アセチルコリン受容体M2、および場合により受容体リガンドを用意する工程、および
b)結合剤、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2と場合により受容体リガンドの複合体を形成させる工程、
c)工程b)の前記複合体を結晶化させて、結晶を形成する工程
を含む。
結晶構造の決定は、X線結晶学などの生物物理的方法によって行うことができる。方法は、さらに、結晶の原子座標を得るための工程(本明細書において以上に定義されている。)を含んでもよい。
リガンドスクリーニングおよび創薬
特に、本明細書においてさらに説明される、化合物スクリーニングおよび免疫化を含む本発明の立体構造選択的な結合剤を利用することができる他の用途が想定される。
化合物スクリーニング、リード最適化および創薬(抗体発見を含む。)のプロセスにおいて、様々な化合物の特徴における同時の情報、および様々な細胞経路におけるそれらの効果(すなわち、有効性、特異性、毒性および薬物代謝)を与える、より速く、より効果的な、より安価で、特に情報が豊富なスクリーニングアッセイが必要とされる。したがって、潜在的な新規な薬剤候補であり得る、対象とするタンパク質の新規な特定のリガンド、好ましくは立体構造選択的リガンドを同定するために、非常に多数の化合物を迅速および安価にスクリーニングする必要がある。本発明は、機能的立体構造、好ましくは活性立体構造のムスカリン性アセチルコリン受容体、特にM2Rを安定化または固定する立体構造選択的な結合剤を提供することによって、この問題を解決する。これは、受容体アゴニスト、インバースアゴニスト、アンタゴニストおよび/またはモジュレーターならびにムスカリン性アセチルコリン受容体の阻害剤を迅速および確実にスクリーニングし、これらを区別できるようにし、そのため、所望の薬理学的特性を有するリガンドを同定する可能性を増加させる。特に、立体構造選択的な結合剤、それを含む複合体、それを含む宿主細胞、ならびに宿主細胞培養物またはそれらに由来する膜調製物が提供され、それに対する特定の選択性は本明細書において以上で説明され、この目的に特に適切であり、さらに、様々な事情でスクリーニングするための免疫原または選択試薬として用いることができる。
これをさらに例証するために、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2の活性立体構造を認識する本発明の立体構造選択的な結合剤は、好ましくは、アゴニストをスクリーニングするためにスクリーニングアッセイにおいて使用され、これは、それらが、インバースアゴニストまたはアンタゴニストと比較して、アゴニストの親和性を増加させるためである。相互に、ムスカリン性アセチルコリン受容体M2の不活性状態の立体構造を安定化させる結合剤は、アゴニストまたはアンタゴニストと比較して、インバースアゴニストに対する親和性を増加させる。このような結合剤は、好ましくは、インバースアゴニストをスクリーニングするために使用される。
したがって、好ましい実施形態によれば、本発明は、本発明の立体構造選択的な結合剤、それを含む複合体、それを含む宿主細胞、宿主細胞培養物、またはそれらに由来する膜調製物を、ムスカリン性アセチルコリン受容体、特にM2Rの立体構造選択的結合パートナーのスクリーニングおよび/または同定プログラムにおいて使用することを包含し、最終的には、潜在的な新規の薬物候補を導く可能性がある。
一実施形態によれば、本発明は、立体構造選択的な化合物を同定する方法を想定し、該方法は、
(i)ムスカリン性アセチルコリン受容体、特にM2Rと、前記受容体に特異的に結合する立体構造選択的な結合剤を含む複合体を用意する工程、および
(ii)試験化合物を用意する工程、および
(iii)複合体において構成されたM2Rに対する試験化合物の選択的結合を評価する工程
を含む。
立体構造選択的な結合剤、複合体、宿主細胞、宿主細胞培養物およびそれらの膜調製物に対する特定の優先性は、本発明の先の態様に関して上記で定義された通りである。
好ましい実施形態において、立体構造選択的な結合剤、ムスカリン性アセチルコリン受容体または立体構造選択的な結合剤とムスカリン性アセチルコリン受容体を含む複合体は、本明細書に記載されるスクリーニング方法のいずれかにおいて使用されるとき、全細胞、または細胞(細胞小器官)抽出物、例えば、その膜抽出物もしくは画分として提供され、または脂質層またはベシクル(天然および/もしくは合成の脂質を含む。)、高密度脂質粒子、または任意のナノ粒子、例えば、ナノディスクに組み込まれてもよく、またはウイルスまたはウイルス様粒子(VLP)として提供され、その結果、それぞれのタンパク質の十分な機能性が保持される。膜断片または膜界面活性剤抽出物からのGPCRを調製するための方法は、参照により本明細書に組み込まれるCooper(2004)において詳細に概説されている。または、受容体および/または複合体はまた、界面活性剤に可溶化することができる。可溶化された受容体調製物の非限定的な例としてはまた、実施例の節において提供される。
創薬のためのスクリーニングアッセイは、固相(例えば、ビーズ、カラム、スライド、チップもしくはプレート)または溶液相アッセイ、例えば、放射性リガンド結合アッセイなどの結合アッセイであってもよい。ハイスループットアッセイでは、96、384または1536ウェルのフォーマットで1日に最大数千個の異なる化合物をスクリーニングすることができる。例えば、マイクロタイタープレートの各ウェルは、選択された潜在的なモジュレーターに対する別々のアッセイを行うために使用することができ、または濃度もしくはインキュベート時間効果が観察されなければならない場合、5から10ウェル毎に単一モジュレーターを試験することができる。したがって、単一の標準的なマイクロタイタープレートは、約96個のモジュレーターをアッセイすることができる。1日あたり多数のプレートをアッセイすることができる;約6,000個、20,000個、50,000個またはそれらを超える異なる化合物のアッセイスクリーニングは、当日可能である。好ましくは、ムスカリン受容体の立体構造選択的化合物のスクリーニングは、宿主細胞、または宿主細胞培養物、またはそれらに由来する膜調製物から開始して行われる。
様々な方法が、安定化されたムスカリン受容体と試験化合物の間の結合を決定するために使用され得、例えば、フローサイトメトリー、放射性リガンド結合アッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、表面プラズモン共鳴アッセイ、チップベースアッセイ、イムノサイトフルオレッセンス、酵母ツーハイブリッド技術およびファージディスプレイが挙げられ、これらは、当該技術分野において、例えば、Sambrookら、(2001)、Molecular Cloning、A Laboratory Manual.第3版 Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYにおいて記載され、一般的な方法である。試験化合物と膜タンパク質の間の結合を検出するための他の方法としては、イオンスプレー質量分析/HPLC法または他の(生物)物理学的および分析的方法を伴う限外濾過が挙げられる。蛍光共鳴エネルギー移動は(FRET)法はまた、例えば、当業者に周知であり、使用されてもよい。結合した試験化合物は、本明細書においてさらに記載されるように、ペプチド標識、核酸標識、化学標識、蛍光標識、または放射性同位体標識などの、化合物と結合した固有の標識またはタグを用いて検出することができることが認識される。
特に好ましい実施形態によれば、立体構造選択的化合物を同定するための上記方法は、リガンド結合アッセイまたは競合アッセイ、さらにより好ましくは、放射性リガンド結合または競合アッセイによって行われる。最も好ましくは、立体構造選択的な化合物を同定するための上記方法は、比較アッセイ、より具体的には、比較リガンド競合アッセイ、さらにより具体的には、比較放射性リガンド競合アッセイにおいて行われる。
上述の方法が比較アッセイで行われる場合には、前記方法は、対象とする機能的立体構造、好ましくは活性立体構造の立体構造選択的な結合剤によって安定化されたM2Rについての試験化合物の結合を、対照への試験化合物の結合と比較する工程を含むことが理解される。本発明の範囲内で、対照は、立体構造選択的な結合剤の非存在下、または対応するM2Rに対して指向されずおよび/または特異的に結合しない結合剤である模擬結合剤(対照結合剤もしくは無関係結合部分とも呼ばれる。)の存在下で、対応するM2Rであってもよい。
特定の好ましい実施形態において、上記で記載される方法のいずれかにおいて、受容体への試験化合物の選択的結合を評価する工程は、受容体についての試験化合物の親和性(本明細書において定義されている。)を測定および/または計算することによって行われる。
多くの場合、受容体の立体構造選択的な結合パートナーについてのハイスループットスクリーニングが好ましい。これは、整列され得、または他には多重化され得る適切な固体表面または表面への、本発明の立体構造選択的な結合剤、ムスカリン性アセチルコリン受容体、または立体構造選択的な結合剤とムスカリン性アセチルコリン受容体を含む複合体のいずれかの固定化によって促進されてもよい。適切な固体支持体の非限定的な例としては、ビーズ、カラム、スライドガラス、チップまたはプレートが含まれる。
より具体的には、固体支持体は、粒子(例えば、一般に抽出カラムに使用される、ビーズもしくは顆粒)または平面、ひだ状またはホローファーバーもしくはチューブであり得るシート形態(例えば、膜もしくはフィルター、ガラスもしくはプラスチックスライド、マイクロタイターアッセイプレート、ディップスティック、キャピラリー充填デバイスもしくはそのようなもの)であってもよい。以下のマトリックスが例として与えられ、網羅的ではないが、このような例としては、シリカ(多孔性非晶質シリカ)、すなわち、Biotage(Dyax Corp.の一部門)によって供給される60A不規則シリカ(32−63μmもしくは35−70μm)、アガロースもしくはポリアクリルアミド支持体、例えば、Amersham Pharmacia Biotechによって供給される製品のSepharoseレンジ、またはBio−Radによって供給されるAffi−Gel支持体を挙げることができる。さらに、Bio−Radによって供給される圧安定性Affi−Prep支持体などのマクロ多孔性ポリマーがある。利用することができる他の支持体としては、デキストラン、コラーゲン、ポリスチレン、メタクリル酸塩、アルギン酸カルシウム、制御された細孔ガラス、アルミニウム、チタン、および多孔質セラミックスが挙げられる。または、固体表面は、質量依存センサーの一部、例えば、表面プラズモン共鳴検出器を含んでもよい。市販の支持体のさらなる例としては、例えば、Protein Immobilisation、R.F.Taylor編、Marcel Dekker,Inc.,New York、(1991)において検討されている。
固定化は、非共有結合または共有結合のいずれであってもよい。特に、立体構造選択的な結合剤、ムスカリン性アセチルコリン受容体または立体構造選択的な結合剤とムスカリン性アセチルコリン受容体を含む複合体の固体表面上の非共有結合固定化または吸着は、当業者によって公知の標準的な技術に従って、結合剤に結合した分子タグ(例えば、ビオチンタグ、ヒスチジンタグなど)を認識する、抗体、またはストレプトアビジンもしくはアビジン、または金属イオンのいずれかを用いた表面コーティングを介して生じさせてもよい。
特に、立体構造選択的な結合剤、ムスカリン性アセチルコリン受容体または立体構造選択的な結合剤とムスカリン性アセチルコリン受容体を含む複合体は、従来のカップリング化学を用いて、共有結合架橋によって固体表面に結合させてもよい。固体表面は、共有結合に適した架橋性残基を自然に含んでもよく、または当該技術分野において周知の方法に従って、適切な架橋性基を導入するためにコーティングされもしくは誘導体化されてもよい。特定の一実施形態において、固定化されたタンパク質の十分な官能性は、化学スペーサーアームを含んでいない反応性部分を介して、所望のマトリックスに直接共有結合の後に保持される。固体支持体上の抗体(断片)の固定化法に関するさらなる例およびより詳細な情報は、Jungら(2008)において報告され;同様に、膜受容体の固定化法は、Cooper(2004)に概説されている;ともに参照により本明細書に組み込まれる。
特に部位特異的変異誘発法を介した分子生物学の進歩は、タンパク質配列中の特定のアミノ酸残基の変異を可能にする。特定のアミノ酸の(公知のまたは推定される構造を有するタンパク質における)リジンまたはシステイン(または所望のアミノ酸)への変異は、例えば、共有結合のための特定の部位を提供し得る。また、結合したタンパク質の配向を制御する効果において、化学的結合(Kallwassら、1993)に関与する表面の利用可能なアミノ酸の分布を変更するために、特定のタンパク質を再操作することが可能である。同様のアプローチは、複合体に含まれるかどうかに関わりなく、本発明の立体構造選択的な結合剤、ならびに立体構造的に安定化されたムスカリン受容体に適用し得、その結果、天然または非天然アミノ酸のいずれかを含む他のペプチドテールまたはドメインを付加することなしに配向固定化の手段を与える。抗体または抗体断片、例えばナノボディの場合には、フレームワーク領域における変異の導入が好ましく、抗体(断片)の抗原結合活性の崩壊を最小限に抑える。
好都合には、固定化されたタンパク質は、当該技術分野において従来の標準的な方法に従って、本発明の固定化されたタンパク質を試験試料と接触させることによって、イムノアッセイなどの免疫吸着プロセス、例えば、ELISA、または免疫親和性精製プロセスにおいて使用されてもよい。または、特にハイスループット目的のために、固定化されたタンパク質は、配列され得るまたは他には多重化され得る。好ましくは、本発明の固定化されたタンパク質は、ムスカリン受容体、特にM2Rの特定の立体構造に特異的に結合する化合物のスクリーニングおよび選択のために使用される。
立体構造選択的な結合剤または標的ムスカリン受容体のいずれかは、実施するために必要とする応用のタイプまたはスクリーニングのタイプに依存して固定化されてもよいことが認識される。また、(受容体の特定の立体構造エピトープを標的とする)立体構造選択的な結合剤の選択は、受容体の配向、したがって、化合物同定の所望の結果、例えば、前記立体構造的に安定化された受容体の細胞外部分、膜内部分または細胞内部分に特異的に結合する化合物を決定する。
代替の実施形態において、試験化合物(または試験化合物のライブラリー)は、チップ表面などの固相表面上に固定化されてもよく、一方、立体構造選択的な結合剤およびムスカリン受容体は、例えば、界面活性剤溶液中または膜状調製物で提供される。
したがって、特定の一実施形態において、本発明の立体構造選択的な結合剤を固定化させる固体支持体は、上記のスクリーニング法のいずれかにおいて使用するために提供される。
最も好ましくは、立体構造選択的な結合剤、およびムスカリン受容体、および試験化合物のいずれも、例えば、溶液のファージディスプレイ選択、または放射性リガンド結合アッセイにおいて固定化されない。
試験されるべき化合物は、任意の小化合物、または巨大分子、例えば、タンパク質、糖、核酸もしくは脂質であってもよい。典型的には、試験化合物は、小化合物、ペプチド、抗体またはそれらの断片である。いくつかの例において、試験化合物が、試験化合物のライブラリーであってもよいことが認識される。特に、本発明のアゴニスト、アンタゴニストまたはインバースアゴニストおよび/またはモジュレーターなどの治療用化合物についてのハイスループットスクリーニングアッセイは、本発明の一部を形成する。ハイスループットの目的のために、化合物ライブラリーまたはコンビナトリアルライブラリー、例えば、アロステリック化合物ライブラリー、ペプチドライブラリー、抗体ライブラリー、断片ベースのライブラリー、合成化合物ライブラリー、天然化合物ライブラリー、ファージディスプレイライブラリーなどが用いられてもよい。このようなライブラリーを調製およびスクリーニングするための方法は当業者に公知である。
試験化合物は、場合により、検出可能な標識に共有結合または非共有結合されてもよい。それらを結合し、使用しおよび検出するための適切な検出可能な標識および技術は、当業者に明確であり、限定されないが、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段によって検出可能な任意の組成物が挙げられる。有用な標識としては、磁気ビーズ(例えば、ダイナビーズ)、蛍光色素(例えば、全てのアレクサフルオロ色素、フルオレセインイソチオシアネート、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質など)、放射標識(例えば、3H、125I、35S、14Cまたは32P)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)、比色標識、例えば、コロイド金または着色ガラスもしくはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)のビーズが挙げられる。このような標識を検出する手段は、当業者に周知である。したがって、例えば、放射性標識は、写真フィルムまたはシンチレーションカウンターを用いて検出されてもよく、蛍光マーカーは、発光を検出するために光検出器を用いて検出されてもよい。酵素標識は、典型的には、酵素に基質を与え、基質における酵素の作用によって産生された反応生成物を検出することによって検出され、比色標識は、単に着色標識を可視化することによって検出される。他の適切な検出可能な標識は、結合剤に関する本発明の第一の態様との関連で先に記載された。
したがって、特定の実施形態によれば、上記のスクリーニング方法のいずれかにおいて使用される試験化合物は、本明細書において先に定義されるように、ポリペプチド、ペプチド、小分子、天然産物、ペプチド模倣物、核酸、脂質、リポペプチド、炭水化物、抗体またはそれに由来する任意の断片、例えば、Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fdを、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド連結されたFv(dsFv)およびVLまたはVHドメインを含む断片、重鎖抗体(hcAB)、単一ドメイン抗体(sdAb)、ミニボディ、ラクダ重鎖抗体に由来する可変ドメイン(VHHまたはナノボディ)、サメ抗体に由来する新規な抗原受容体の可変ドメイン(VNAR)、タンパク質スキャフォールド、例えば、アルファボディ、プロテインA、プロテインG、設計されたアンキリンリピートドメイン(DARPin)、III型フィブロネクチンリピート、アンチカリン、ノッチン、操作されたCH2ドメイン(ナノ抗体)を含む群から選択される。
好ましい一実施形態において、ハイスループットスクリーニング法は、大多数の潜在的な治療的リガンドを含むコンビナトリアルケミカルまたはペプチドライブラリーを提供することを伴う。次に、このような「コンビナトリアルライブラリー」または「化合物ライブラリー」は、所望の特徴的な活性を示すそれらのライブラリーメンバー(特定の化学種またはサブクラス)を同定するために、本明細書に記載されるように、1つ以上のアッセイでスクリーニングされる。「化合物ライブラリー」は、通常、最終的にはハイスループットスクリーニングに使用される保存された化学物質の集合体である。「コンビナトリアルライブラリー」は、試薬などの多数の化学的「ビルディングブロック」を組み合わせることによって、化学合成または生物学的合成のいずれかによって生成された多様な化合物の集合体である。コンビナトリアルライブラリーの調製およびスクリーニングは、当業者に周知である。このようにして同定された化合物は、従来の「リード化合物」として機能することができ、または、それ自体が潜在的なもしくは実際の治療薬として使用することができる。したがって、さらなる一実施形態において、本明細書において上記で記載されるスクリーニング法は、特定の立体構造のムスカリン受容体に選択的に結合することが示されている試験化合物を修飾し、特定の立体構造に存在する場合、修飾された試験化合物が受容体に結合するかどうかを決定することをさらに含む。
一実施形態において、化合物が、受容体リガンド(本明細書において定義されている。)へのムスカリン受容体の結合を変更するかどうかが決定される。リガンドに対する受容体の結合は、本明細書に記載されるように、当該技術分野において公知の標準的なリガンド結合法を用いてアッセイすることができる。例えば、リガンドは、蛍光標識または放射性標識され得る。アッセイは、全細胞上で、または細胞から得られた膜もしくは界面活性剤を用いて水溶化された受容体上で行ってもよい。化合物は、標識されたリガンドの結合を変更するその能力によって特徴付けられる(実施例の節を参照されたい。)。化合物は、受容体とそのリガンドの間の結合を減少させることができ、または受容体とそのリガンドの間の結合を少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、100倍で増加させることができる。
したがって、より具体的な実施形態によれば、本発明の立体構造選択的な結合剤、ムスカリン受容体と受容体リガンドを含む複合体は、上記のスクリーニング方法のいずれかにおいて使用することができる。好ましくは、受容体リガンドは、小分子、ポリペプチド、抗体またはそれらに由来する任意の断片、天然物などを含む群から選択される。より好ましくは、受容体リガンドは、本明細書において以前に記載されているように、完全アゴニスト、または部分アゴニスト、偏ったアゴニスト、アンタゴニスト、またはインバースアゴニストである。
特定の実施形態によれば、上記のスクリーニング法のいずれかにおいて使用される試験化合物は、生物学的試料として提供される。特に、試料は、個体から採取された任意の適切な試料であり得る。例えば、試料は、血液、血清、血漿、脊髄液などの体液試料であってもよい。
また、対象とする特定の立体構造のムスカリン受容体、特にM2Rへの結合を確立することに加えて、受容体における化合物の機能的効果を決定することが望まれる。例えば、化合物は、受容体の生物学的機能、特に下流の受容体シグナル伝達の調節(活性化または阻害)をもたらすムスカリン受容体に結合することができる。細胞内シグナル伝達のこの調節は、オルトまたはアロステリック的に発生する可能性がある。化合物は、受容体シグナル伝達を活性化もしくは増加させるように;または、受容体シグナル伝達を減少もしくは阻害させるように、ムスカリン受容体に結合してもよい。化合物はまた、受容体の構成的活性を遮断するように、ムスカリン受容体に結合することができる。化合物はまた、アロステリック調節を媒介する(例えば、アロステリック部位で受容体に結合する。)ように、ムスカリン受容体に結合してもよい。このような方法で、化合物は、受容体において異なる領域(例えば、アロステリック部位)に結合することによって受容体機能を調節し得る。例えば、Georgeら、2002;Kenakin、2002;Riosら、2001を参照されたい。本発明の化合物はまた、受容体を介したシグナル伝達の持続時間を延長し、またはそれらは、受容体−リガンド親和性を増大させることによって、受容体シグナル伝達を増強するように、ムスカリン受容体に結合することができる。さらに、化合物はまた、受容体の機能的ホモマーまたはヘテロマーの集合を阻害または増強するように、ムスカリン受容体に結合することができる。化合物および/またはそれらを含む組成物の有効性は、関与する特定の疾患または障害に応じて、任意の適したインビトロのアッセイ、細胞ベースのアッセイ、それ自体が公知であるインビボのアッセイおよび/または動物モデル、または任意のそれらの組合せを用いて試験することができる。
本発明の立体構造選択的結合因子、複合体、宿主細胞およびそれらの誘導体は、さらに操作されてもよく、したがって、細胞ベースのアッセイを開発または改良するために特に有用なツールであることが理解される。細胞ベースのアッセイは、化合物の新規な生物学的標的および生物活性の作用機序を評価するために重要である。例えば、限定する目的でなく、GPCRに関する現在の細胞ベースのアッセイとしては、経路の活性化(Ca2+放出、cAMP生成または転写活性);GFPを用いたGPCRおよび下流の要素をタグ化することによって、タンパク質輸送の測定;ならびに、Forster共鳴エネルギー移動(FRET)、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)または酵母ツーハイブリッドアプローチを用いた、タンパク質間の相互作用を直接測定が挙げられる。
さらに、ムスカリン受容体に対する抗体、好ましくは立体構造選択的抗体を生じさせるために、ムスカリン受容体、特にM2Rと、前記受容体に対して指向されるおよび/もしくは特異的に結合する立体構造選択的な結合剤を含む複合体を用いて、または前記複合体もしくはその誘導体を含む宿主細胞を用いて、動物を免疫することが特に有利であり得る。したがって、このような免疫法はまたここに想定される。インビボで抗体を生じさせるための方法は、当該技術分野において公知であり、また本明細書において以上に記載されている。任意の適切な動物、例えば、温血動物、特に哺乳動物、例えば、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、ヒツジ、ウシ、サメもしくはブタ、またはニワトリもしくは七面鳥などの鳥類は、免疫応答の生成に適した当該技術分野において周知の技術のいずれかを用いて免疫化され得る。免疫化後、細菌、酵母、糸状ファージ、リボソームもしくはリボソームサブユニットまたは他のディスプレイ系において発現させる、免疫グロブリン遺伝子またはその一部をコードする発現ライブラリーは、当該技術分野において周知の技術に従って作製することができる。それだけでなく、生成される抗体ライブラリーは、本明細書において以上に記載されているスクリーニング法のいずれかにおいて使用するための適切な試験化合物の集合体を含む。本明細書において上記に記載される、生じされた抗体はまた、特定の立体構造のムスカリン受容体を特異的に検出するための有用な診断ツールであってもよく、したがって、本発明の部分を形成してもよい。
一実施形態において、ムスカリン受容体、特にM2Rと、ムスカリン受容体に対して指向されおよび/または特異的に結合する立体構造選択的な結合剤を含む複合体は、上記で記載されるスクリーニング法のいずれかによって、受容体に結合する抗体または抗体断片を含む立体構造選択的な結合剤を選択するために使用されてもよい。当業者は、このような結合剤は、非限定的な例として、とりわけ、細胞表面上に結合剤を発現する細胞、バクテリオファージ表面でgenIIIと結合剤の融合体を表示するバクテリオファージ、もしくは接合因子タンパク質Aga2Pの融合体を表示する酵母細胞のセット、集合体またはライブラリーをスクリーニングすることによって、またはリボソームディスプレイによって選択され得る。
治療的および診断的適用
本発明のさらなる態様は、本発明の治療的有効量の立体構造選択的な結合剤と、医薬として許容される担体、アジュバントまたは希釈剤の少なくとも1つを含む医薬組成物に関する。
「担体」または「アジュバント」、特に「医薬として許容される担体」または「医薬として許容されるアジュバント」は、それ自体が組成物を受ける個人に有害な抗体の産生を誘導せず、およびそれらが防御を誘発しない任意の適切な賦形剤、希釈剤、担体および/またはアジュバントである。そのため、医薬として許容される担体は、本質的に無毒性および非治療的であり、当業者に公知である。適切な担体またはアジュバントは、典型的には、以下の非網羅的リスト:タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合アミノ酸、アミノ酸コポリマーおよび不活性ウイルス粒子などの大きなゆっくり代謝される巨大分子に含まれる化合物のうちの1つ以上を含む。担体またはアジュバントは、非限定的な例として、リンゲル液、デキストロース溶液またはハンクス液であってもよい。また、固定油およびオレイン酸エチルなどの非水溶液が使用されてもよい。好ましい賦形剤は、生理食塩水中の5%デキストロースである。賦形剤は、緩衝剤および保存剤を含む、等張性および化学的安定性を増強する物質などの少量の添加剤を含有してもよい。
本発明の立体構造選択的な結合剤またはその医薬組成物の投与は、経口、吸入または非経口投与によってもよい。特定の実施形態において、結合剤は、髄腔内または脳室内投与を通じて送達される。活性化合物は、単独で投与されてもよく、または好ましくは医薬組成物として処方されてもよい。タンパク質結合ドメインによって認識される抗原を発現しているある種の疾患または障害を治療するのに有効な量は、治療を受けている障害の性質および重症度ならびに哺乳動物の体重などの通常の要因に依存する。しかしながら、単位用量は、通常、タンパク質結合ドメインまたはその医薬組成物の0.1mgから1mg、例えば、0.1から500mg、例えば、0.1から50mgまたは0.1から2mgの範囲である。単位用量は、通常、1カ月に1回、1週間に1回または1週間に2回、1日に1回以上、例えば、1日に2、3もしくは4回、より通常には1日に1から3回投与される。大いに好ましくは、結合剤またはその医薬組成物は、単位用量経口、非経口または吸入組成物などの単位用量組成物の形態で投与される。このような組成物は、混合によって調製され、経口、吸入または非経口投与のために適切に適合され、したがって、錠剤、カプセル、経口液体調製物、粉末、顆粒、トローチ、再構成可能粉末、注射可能および注入可能な溶液または懸濁液または坐薬またはエアロゾルの形態であってもよい。経口投与のための錠剤およびカプセルは、通常、単位用量で提示され、結合剤、充填剤、希釈剤、成形剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、香味料および湿潤剤などの従来の賦形剤を含有する。錠剤は、当該技術分野において周知の方法に従ってコーティングされてもよい。使用に適した充填剤としては、セルロース、マンニトール、ラクトースおよび他の類似の薬剤が挙げられる。適切な崩壊剤としては、デンプン、ポリビニルピロリドンおよびデンプングリコール酸ナトリウムなどのデンプン誘導体が挙げられる。適切な潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウムが挙げられる。適切な医薬として許容される湿潤剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。これらの固形経口組成物は、混和、充填、成形などの従来の方法によって調製され得る。繰り返し混和操作は、活性薬剤を大量の充填剤を用いてそれらの組成物全体に分配するために使用されてもよい。このような操作は、当然のことながら、当該技術分野において慣習的である。経口液体調製物は、例えば、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳濁液、シロップもしくはエリキシル剤の形態であってもよく、または使用前に水もしくは他の適切な溶媒を用いて再構成するための乾燥製品として提示されてもよい。このような液体調製物は、懸濁剤、例えば、ソルビトール、シロップ、メチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲルもしくは水素化食用脂肪、乳濁剤、例えば、レシチン、ソルビタンモノオレエートまたはアカシア;非水性ベシクル(食用油を含んでもよい。)、例えば、アーモンド油、ヤシ油、グリセリン、プロピレングリコールもしくはエチルアルコールのエステルなどの油性エステル;保存剤、例えば、メチルもしくはプロピルp−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸などの従来の添加剤、および必要に応じて従来の香味剤または着色剤を含有してもよい。また、経口製剤は、腸溶コーティングを有する錠剤または顆粒などの従来の持続放出製剤を含む。好ましくは、吸入のための組成物は、スナッフまたはネブライザー用のエアロゾルもしくは溶液としてまたは吹送のための超微粒粉末として、単独またはラクトースなどの不活性担体と組み合わせて気道に投与するために提示される。このような場合、活性化合物の粒子は、適切には、50ミクロン未満、好ましくは10ミクロン未満、例えば、2から5ミクロンなどの1から5ミクロンの直径を有する。好適な吸入用量は、0.05から2mg、例えば、0.05から0.5mg、0.1から1mgまたは0.5から2mgの範囲である。非経口投与に関して、本発明の化合物および無菌ベシクルを含有する液体単位剤形が調製される。活性化合物は、ベシクルおよび濃度に応じて、懸濁または溶解することが可能である。非経口溶液は、通常、化合物をベシクルに溶解させ、濾過殺菌後、適切なバイアルまたはアンプルに充填して密封することにより調製されてもよい。有利には、局所麻酔薬、保存剤および緩衝剤などのアジュバントはまたベシクルに溶解させる。安定性を増強させるために、組成物は、バイアルに充填し、真空下で水を除去した後に凍結させることができる。非経口懸濁液は、溶解させる代わりに、化合物をベシクルに懸濁させ、無菌溶媒に懸濁させる前にエチレンオキシドに曝露して殺菌すること以外は、実質的に同じ方法で調製される。有利には、界面活性剤または湿潤剤が組成物に含まれて、活性化合物の均一分布を促進する。必要に応じて、少量の気管支拡張剤、例えば、イソプレナリン、イソエタリン、サルブタモール、フェニレフリンおよびエフェドリンなどの交感神経刺激アミン;テオフィリンおよびアミノフィリンなどのキサンチン誘導体ならびにプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイドならびにACTHなどの副腎刺激剤を含んでもよい。一般的方法であるように、組成物は、通常、関連する医学的処置において使用するための文書または印刷された説明書を伴う。
生物製剤の場合では、立体構造選択的な結合剤の細胞内への送達は、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質について記載された通りに実施されてもよい。抗原が細胞外であるまたは細胞外ドメインである場合、結合剤は、細胞内に送達する必要なしで、このドメインに結合することによってその機能を発揮し得る。本明細書に記載される本発明の結合剤は、ムスカリン受容体の細胞内立体構造エピトープを標的としてもよい。これらの結合剤を細胞内部で効果的で安全な治療薬として使用するために、細胞内送達は、当該技術分野において公知のタンパク質形質導入または送達システムによって増強され得る。タンパク質形質導入ドメイン(PTD)は、生体膜を通過して移動するそれらの能力のために薬物送達分野においてかなりの関心を集めてきた。PTDは、この明らかな移動活性を、それらがコンジュゲートしている、複合体化しているまたは融合しているタンパク質および他の巨大分子カーゴに与える比較的短い(1−35アミノ酸)配列である(Sawant and Torchilin、2010)。例えば、HIV由来TATペプチド(YGRKKRRQRRR)は、小分子からタンパク質、ペプチド、医薬としてのナノ担体および造影剤の範囲までに及ぶ様々な薬剤の細胞内送達に広く使用されてきた。または、受容体媒介性エンドサイトーシス機構はまた、細胞内薬物送達に使用することができる。例えば、トランスフェリン受容体媒介性の内在化経路は、薬物およびタンパク質の部位特異的送達のために開発されてきた効率的な細胞取り込み経路である(Qianら、2002)。これは、化学的には、トランスフェリンと治療薬もしくはタンパク質のコンジュゲーションによって、または一般的には治療ペプチドもしくはタンパク質のトランスフェリンの構造内への注入によって達成される。天然に存在するタンパク質(例えば、鉄結合タンパク質トランスフェリン)は、これらのタンパク質が生分解性、無毒性および非免疫原性であるので薬物ターゲティングのこの分野では非常に有用である。さらに、それらは、それらの受容体が細胞表面に大量に存在するために部位特異的ターゲティングを達成することができる。さらに他の送達システムとしては、限定する目的でなく、ポリマーおよびリポソームに基づく送達システムが含まれる。
本発明の立体構造選択的な結合剤の効力およびそれを含む組成物の効力は、関係する特定の疾患または障害に応じて、任意の適切なインビトロのアッセイ、細胞ベースのアッセイ、インビボのアッセイおよび/もしくはそれ自体が公知の動物モデルまたはそれらの任意の組合せを用いて試験することができる。
本発明の別の態様は、M2Rシグナル伝達活性を調節するための、本明細書に以前に記載されている立体構造選択的な結合剤または組成物の使用に関する。
本明細書に記載されている本発明の立体構造選択的な結合剤は、受容体シグナル伝達を活性化するもしくは増加するように;または代わりに受容体シグナル伝達を減少するもしくは阻害するようにムスカリン受容体に結合してもよい。本発明の結合剤はまた、受容体の構成的活性を遮断するように受容体に結合してもよい。本発明の結合剤はまた、アロステリック調節を媒介する(例えば、受容体にアロステリック部位で結合する。)ように受容体に結合してもよい。このように、本発明の結合剤は、受容体中の異なる領域に(例えば、アロステリック部位に)結合させることによって受容体機能を調節し得る。例えば、Georgeら(2002)、Kenakin(2002)およびRiosら(2001)を参照されたい。本発明の結合剤はまた、受容体を媒介したシグナル伝達の持続時間を延長する、または受容体−リガンド親和性を増加させることによって受容体シグナル伝達を増強するように受容体に結合してもよい。さらに、本発明の結合剤はまた、受容体機能的ホモマーまたはヘテロマーの組立てを阻害するまたは増強するように受容体に結合してもよい。
特定の一実施形態において、本明細書に記載されている立体構造選択的な結合剤または医薬組成物は、Gタンパク質を媒介したシグナル伝達をブロックする。
別の実施形態において、本発明はまた、ムスカリン受容体関連疾患、特にM2R関連疾患の治療に使用するための、本明細書において上記で記載されている立体構造選択的な結合剤または医薬組成物を想定する。
したがって、上記の立体構造選択的な結合剤のうちのいくらかは、治療的有用性を有し得、状態を有する対象に、対象の状態を治療するために投与されてもよいことが理解される。立体構造選択的な結合剤の治療的有用性は、その受容体を介したシグナル伝達が状態と連結している点で、結合剤が結合するムスカリン受容体によって決定され得る。立体構造選択的な結合剤は、ムスカリン受容体を媒介した状態、特にM2Rを媒介した状態、例えば、とりわけアルツハイマー病および認知障害、疼痛、IBD、膠芽細胞腫(gliomablastoma)を治療するために用いられてもよい。On−line Mendelian Inheritance in Man databaseでの追加の例となるムスカリン受容体関連状態は、NCBIのワールドワイドウェブサイトに見出される。そのため、本発明の特定の実施形態はまた、ムスカリン受容体関連疾患または障害、特にM2R関連疾患または障害を治療するための立体構造選択的な結合剤または医薬組成物の使用を想定する。
ある特定の実施形態において、立体構造選択的な結合剤は、他の薬物物質と組み合わせて使用するための同時治療薬として、例えば、このような薬物の治療活性の増強剤として、またはこのような薬物の投薬必要量もしくは潜在的な副作用を低減させる手段として用いられてもよい。立体構造選択的な結合剤は、固定された医薬組成物中の他の薬剤物質と混合され得るまたは他の薬剤物質の前に、それと同時に、その後に、別々に投与されてもよい。一般的に言えば、これらのプロトコールは、ムスカリン受容体関連疾患または障害、具体的にはM2R関連疾患または障害を被っている個体に、宿主における受容体を調節し、障害について個体を治療するために、ムスカリン受容体、特にM2Rを調節する有効量の立体構造選択的な結合剤を投与することを伴う。
一部の実施形態において、ムスカリン受容体、特にM2Rの活性の減少が望ましい場合、受容体の活性を減少させる1つ以上の化合物が投与されてもよく、一方、ムスカリン受容体、特にM2Rの活性の上昇が望ましい場合、受容体の活性を上昇させる1つ以上の化合物が投与されてもよい。
種々の個体が、本方法に従って治療可能である。一般的に、このような個体は、哺乳動物または哺乳類であり、この場合、これらの用語は、肉食動物目(例えば、イヌおよびネコ)、齧歯目(例えば、マウス、モルモットおよびラット)および霊長目(例えば、ヒト、チンパンジーおよびサル)を含む、哺乳動物綱内の生物を記載するのに広く使用されている。多くの実施形態において、個体はヒトである。本治療法は、典型的には、このような障害を有する個体またはこのような障害を避けたいと考えている個体に実施される。
さらに別の実施形態によれば、立体構造選択的な結合剤はまた、本明細書において上記で記載されているムスカリン受容体関連疾患、特にM2R関連疾患または障害の診断または予後に有用であり得る。
キットオブパーツ
本発明のさらに別の態様は、ムスカリン受容体、特にM2Rを標的とする立体構造選択的な結合剤を含むキット、または本発明のムスカリン受容体を標的とする立体構造選択的な結合剤を含む宿主細胞もしくは宿主細胞培養物もしくは膜調製物を含むキットに関する。キットは、緩衝液、分子タグ、ベクター構築物、参照試料物質、および適切な固体支持体などをさらに含んでもよい。このようなキットは、本明細書に記載されている本発明の適用のいずれに有用であり得る。例えば、キットは、化合物スクリーニング適用に有用な試験化合物(のライブラリー)を含んでいてもよい。
実施例のための方法
M2ムスカリン受容体の発現および精製。ヒトM2ムスカリン受容体遺伝子は、グリコシル化部位を除去し、アミノ末端FLAGタグおよびカルボキシ末端8×Hisタグを追加するように修飾された。さらに、細胞内ループ3の残基233−374を削除した。この領域は、以前には、構造化されていないことが示され(Ichiyamaら、2006)、Gタンパク質結合に必須ではない(Shapiroら、1989)。アミノ末端FLAGエピトープタグとカルボキシ末端8×Hisタグを有するヒトM2ムスカリン性受容体は、BestBacバキュロウイルス系(発現系;Davis、CA)を用いてSf9細胞において発現させた。細胞を4×106細胞/mLの密度で感染させ、次に、2日間、27℃でインキュベートした。受容体を抽出し、M3ムスカリン受容体について以前に記載されている方法(Kruseら、2012)で精製した。簡単に述べると、受容体を、最初にNi−NTAクロマトグラフィー、FLAGアフィニティークロマトグラフィー、次にサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。1μMアトロピンは、全ての緩衝液に含まれた。次に、受容体は、25mMのHEPES pH7.2を含有する緩衝液中の5倍モル過剰のビオチン−NHSエステル(Sigma−Aldrich;St.Louis、MO)で標識された。室温にて30分間のインキュベートおよび氷上で30分間のインキュベーション後、未反応の標識を50mMのTris pH8でクエンチした。蛍光色素−NHSエステルで直接標識した試料を同時に調製した。その後、受容体は、10μMチオトロピウム、10μMイペロキソ、またはリガンドを含まない緩衝液のいずれかを含有する緩衝液中で脱塩された。リガンドを含有しない緩衝液中に溶出された受容体は、室温で20分間、50μMイペロキソマスタード(M2受容体への共有結合を可能にするイペロキソの誘導体)で処理された。次に、試料を濃縮し、分注し、20%(v/v)グリセロールでフラッシュ凍結した。
ラマ免疫化試料。M2受容体は、上記のように調製され、FLAG洗浄工程で10μMで開始し、および全てのその後の緩衝液においてそれを含ませることによってイペロキソに結合させた。受容体は、10:1(w:w)比のDOPC(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、Avanti Polar Lipids)とリピドAで構成されるリン脂質ベシクルに再構成され、その後、1mg/mlの受容体濃度で分注し、注入前に100μLアリコートで凍結された。
ラマ免疫化。一頭のラマ(ラマ・グラマ)は、合計1mg受容体で6週間免疫された。末梢血リンパ球を免疫した動物から単離し、総RNAを抽出した。cDNAは、50μgの総RNAと2.5μgのオリゴ−dN6プライマーを用いて調製された。ナノボディのオープンリーディングフレームを記載(Conrathら、2001)されているように増幅した。
免疫後M2ラマナノボディ酵母ライブラリーの構築。PCRのナノボディライブラリから開始し、ナノボディVHH断片は、プライマーpYalNB80AMPF(CATTTTCAATTAAGATGCAG TTACTTCGCT GTTTTTCAAT ATTTTCTGTT ATTGCTAGCG TTTTAGCAAT GGCCCAGGTG CAGCTGCAGG AG;配列番号165)とpYalNB80AMPR5CCACCAGATC CACCACCACC CAAGGTCTTCT TCGGAGATAA GCTTTTGTTC GGATCCTGAG GAGACGGTGA CCTGGGTCCC;配列番号166)を用いたPCRによって増幅された。次に、PCR産物は、線形化したpYalとともに酵母菌EBY100に同時形質転換され、0.6×108個の形質転換体のライブラリーサイズを得た。
免疫後M2ラマナノボディライブラリーからのM2 Gi模倣ナノボディの選択。選択の第1ラウンドについて、対抗選択は、膜タンパク質または二次染色試薬に対して非特異的に結合する酵母クローンを除去するために、β2アドレナリン受容体に対して行われた。1.0×109個の誘導された酵母をPBEM緩衝液で洗浄し、その後、1時間、4℃でカラゾロールと結合した1μMのビオチン化β2受容体を含有する5mLのPBEM緩衝液中で染色した。酵母をPBEM緩衝液で洗浄し、次に、15分間、4℃でPBEM緩衝液中の二次試薬としてストレプトアビジン−647を用いて染色した。酵母を再びPBEM緩衝液で洗浄し、15分間、4℃で4.75mLのPBEM緩衝液中の抗647マイクロビーズ(Miltenyi)を用いて磁気標識した。その後、陽性標識された酵母、β2受容体を結合する細胞は、LDカラム(Miltenyi)への適用によって除去された;次に、除かれたフロースルーを次の選択に用いた。M2受容体の活性状態を認識するクローンの陽性選択は、1時間、4℃にて2μMイペロキソを用いて補足された5mLのPBEM緩衝液中のアゴニストのイペロキソと結合した2μMのビオチン化M2受容体を用いて酵母を染色することによって行われた。その後、酵母を洗浄し、ストレプトアビジン−647で染色し、抗647マイクロビーズで磁気標識したが、全ての工程でPBEM緩衝液中に1μMイペロキソを含む。M2受容体結合酵母クローンの磁気分離は、製造業者の指示に従って、LSカラム(Miltenyi)を用いて行われた。磁気的にソートされた酵母をSDCAA培地に再懸濁し、30℃で培養した。ラウンド2−4を同様にして選択し、1μMのビオチン化β2受容体+カラゾロールに対する対抗選択と、1μMのビオチン化M2受容体+イペロキソを用いた陽性選択であった。これらのラウンドについて、スケールは、10倍減少させて1×108個の誘導された酵母とし、0.5mLの染色体積とした。
立体構造選択をラウンド5−9について行った。ラウンド5−8について、酵母は、1時間、4℃で高親和性アンタゴニストのチオトロピウムとともにプレインキュベートされた1μMのビオチン化されたM2受容体を用いて染色された。次に、酵母は、ストレプトアビジン−647またはストレプトアビジン−PEのいずれかを用いて蛍光標識され、対応する抗647または抗PEマイクロビーズ(Miltenyi)を用いて磁気標識された。チオトロピウムを有したM2受容体に結合する酵母細胞だけが標識され、非活性化状態の結合物の枯渇は、LSカラムを用いて行われた。次に、浄化された酵母は、1時間、4℃にて、イペロキソに予め結合させた、0.5μM(ラウンド5−7)または0.1μM(ラウンド8)のビオチン化されたM2受容体を用いて染色することによって陽性選択された。次に、酵母は、先の手順において対抗選択とは異なる蛍光色素を用いて、ストレプトアビジン−PEまたはストレプトアビジン−647のいずれかで蛍光標識された。イペロキソを有するM2受容体に結合する酵母細胞が標識され、アゴニストが占有したM2受容体の磁気分離は、工程1−4と同様に、LSカラムを用いて行われた。ラウンド9について、二色FACSを行った。誘導された酵母は、同時に、イペロキソマスタードと反応した1μMのAlexa647で標識されたM2受容体と、1時間、4℃でチオトロピウムと予め結合された、1μMのAlexa647標識されたM2受容体で染色された。Alexa647陽性/Alexa488陰性の酵母をFACS Jazz細胞(BD Biosciences)ソーターを用いて精製した。ソート後の酵母をSDCAA寒天プレート上に播種し、いくつかのコロニーのナノボディをコードする配列について配列決定した。アゴニスト親和性を高めることが確認されたクローンの完全配列は、Nb9−1(配列番号8)、Nb9−8(配列番号10)およびNb9−20(配列番号11)である。
M2 Gi模倣ナノボディNb9−8を用いた機能性ナノボディの選択
選択は、立体構造選択前に、M2 Gi模倣ナノボディについて選択の最初の4ラウンド後に残っている酵母から開始された。ラウンド5&6について、酵母は、ビオチン化されたNb9−8にコンジュゲートされた500nMのPE標識されたストレプトアビジン四量体に対するMACSを用いて予め浄化され、Nb9−8に直接結合するクローンを除いた。四量体は、氷上で10分間、PBEM緩衝液中の0.5μMストレプトアビジン−PEとともに、2μMのビオチン化されたNb9−8をプレインキュベートすることによって形成された。次に、酵母は、イペロキソマスタードと反応した1μMのAlexa488標識されたM2受容体を用いて酵母を最初に染色後、500nMストレプトアビジン−PE/Nb9−8四量体を用いて陽性に選択された。MACSを用いた磁気分離は、抗PEマイクロビーズおよびLSカラムを用いて達成された。M2受容体の細胞外のアロステリック/オルソステリック部位で結合するクローンをさらに選択するために、ラウンド7および8について、対抗選択は、2mMのアロステリック/オルソステリックリガンドガラミンの存在下で、イペロキソで占有された1μMのビオチン化M2受容体に対して行われた。その後、ガラミンの非存在下でのM2受容体の陽性選択は、ラウンド7についてはイペロキソとMACSで占有された1μMのビオチン化M2受容体を用いて、およびラウンド8についてはイペロキソマスタードとFACSと反応した1μMのAlexa488標識されたM2受容体を用いて行われた。
イー・コリ(E.coli)におけるMBP−ナノボディ融合体の発現。ナノボディ配列は、アミノ末端、3Cプロテアーゼ切断可能なマルトース結合タンパク質(MBP)タグおよびカルボキシ末端8×ヒスチジンタグを含有する、修飾されたpMalp2×ベクター(New England Biolabs)にサブクローニングされた。プラスミドは、BL21(DE3)細胞に形質転換され、タンパク質発現は、OD600が0.8で1mMまでIPTGを添加することによって、テリフィックブロスにおいて誘導された。22℃で24時間のインキュベーション後、細胞を回収し、ペリプラズムタンパク質を浸透圧ショックによって得た。MBP−ナノボディ融合体は、Ni−NTAクロマトグラフィーによって精製され、MBPは3Cプロテアーゼを用いて除去された。切断されたMBPは、追加のNi−NTA精製工程によって、8×Hisでタグ化されたナノボディから分離された。続いて、8×Hisタグは、カルボキシペプチダーゼAを用いて除去された。ビオチン化されたナノボディを得るために、タンパク質は、カルボキシ末端のビオチン受容体ペプチドタグ(GLNDIFEAQKIEWHE)とともに発現させ、上記の通りに精製された。精製されたタンパク質は、BirAリガーゼを用いてインビトロでビオチニル化され、次に、サイズ排除クロマトグラフィーによって反応混合物から再精製された。
Gタンパク質の発現および精製。ヘテロ三量体Giは、ヒトGαi1サブユニットについて単一のバキュロウイルス、およびヒトGβ1とGγ2サブユニットについて第2の2シストロン性ウイルスを用いて発現させることによって調製された。Gタンパク質は、HighFive昆虫細胞において発現させ、次に、GSについて以前に記載(Rasmussenら、2011年)されているように精製された。簡単に言えば、Gタンパク質は、コール酸で抽出され、Ni−NTAクロマトグラフィーによって精製され、ドデシルマルトシド緩衝液に界面活性剤交換され、次に、イオン交換によって精製され、使用前に透析された。
M2受容体放射性リガンド結合アッセイ。M2受容体を発現させ、上記のように精製した。次に、受容体は、アポリポタンパク質A1と3:2(モル:モル)の脂質POPC:POPG(それぞれ、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン:1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンおよび1−ヘキサデカノイル−2−(9Z−オクタデセノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホ−(1’−rac−グリセロール)、Avanti Polar Lipids)の混合物からなるHDL粒子に再構成された。結合反応は、50fmolの機能性受容体、0.6nMの3H N−メチルスコポラミン(NMS)、100mMのNaCl、20mMのHEPES pHが7.5、0.1%のBSA、および指示されるリガンドとナノボディを含んだ。ナノボディの一点アロステリック効果は、10nMのイペロキソの存在下で測定された。ナノボディの濃度依存性効果は、10nMのイペロキソの存在下で測定された。全ての反応は、体積が500μLであった。反応物を混合し、次に、2時間インキュベートした。その後、試料は、0.1%ポリエチレンイミンで前処理されたフィルター上に、48ウェルのハーベスター(Brandel)で濾過された。全ての測定は、液体シンチレーション計数によって行われ、実験を少なくとも3点測定で実施した。
結晶化試料。結晶化のためのM2受容体を上記のように調製した。FLAG樹脂に結合したとき、試料は、ドデシルマルトシド緩衝液(DDM)と、0.2%ラウリルマルトースネオペンチルグリコール界面活性剤(MNG;Anatrace)を含有する緩衝液の混合物で洗浄された。これらの緩衝液は、最初に1:1の比(DDM:MNG緩衝液)で、次に1:4の比、および1:10の比で混合された。それぞれの工程で、5mLのカラムを1mL/分の流速で10mLの緩衝液を用いて洗浄し、全ての緩衝液は1μMアトロピンを含有した。最後に、カラムを10mLのMNG緩衝液で洗浄し、次に、アゴニストを含む10mLの低界面活性剤緩衝液(0.01%MNG、0.001%コレステロールヘミスクシネート、20mMのHEPES pH7.5、100mMのNaCl、10IIMイペロキソ)で洗浄した。試料を溶出し、1.5倍の化学量論的に過剰なNb9−8と第2のナノボディ、NbB4と混合した。このナノボディは、Nb9−8と異なるエピトープに結合するが、結晶構造において解明されていなかった。混合後、試料を氷上で30分間インキュベートし、次に、低い界面活性剤緩衝液中でサイズ排除によって濃縮および精製した。溶出されたタンパク質は、A280=96になるまで濃縮され、7μLのアリコート中にて液体窒素で凍結させた。
結晶化。精製されたM2受容体は、質量で1.5倍過剰の10:1(w:w)モノオレインコレステロール脂質混合と混合することによって脂質立方相に再構成された。タンパク質と脂質は、ガラスシリンジ(Art Robbins Instruments、Sunnyvale、CA)に充填され、次に、連結シリンジ法(Caffrey and Cherezov 2009)によって100回混合された。体積にして30−100nLの試料を96ウェルガラスプレート上にスポットし、各ウェルに対して600nLの沈殿剤溶液を用いてまとめて覆った。沈殿剤溶液は、10−20%のPEG300、100mMのHEPES pH7.2−7.9、1.2%の1,2,3−ヘプタントリル(heptanetril)、および20−80mMのEDTA pH8.0で構成された。
データ回収。結晶の格子は、Advanced Photon Sourceビームライン23ID−Bおよび23ID−Dでラスタリング(raster)された。初期のラスタリングは、5倍減衰および1秒曝露で80μm×30μmビームで行われ、強い回折のある領域は、同等のX線線量で10μmの平行ビームを用いてサブラスターされた。データ回収は、同様に、10μmビームを用いて、減衰なしおよび典型的には1−5秒曝露で行われた。1−2度の振動幅は、それぞれの場合に使用され、5−10度のくさびは、最終的なデータセットを作成するために集められた。
データ整理と精緻化。回折データは、HKL2000(OtwinowskiおよびMinor、1997)で処理し、統計値は、図6に概要されている。構造は、Phaser(McCoyら、2007)における検索モデルとして、不活性M2受容体(PDB ID:3UON)とNb80(PDB ID:3POG)の構造で分子置換を用いて解明された。得られた構造は、PheniX(Afonineら、2012)において反復して精緻化され、Coot(Emsleyら、2004)において手動で再構築された。最終的な精密化統計値は、図6にまとめられる。数値はPyMol(Schrodinger)において調製された。
[実施例1]
酵母ディスプレイによるM2 Gi−模倣ナノボディの立体構造選択
立体構造特異的なGi模倣タンパク質は、M2ムスカリン受容体について同定された(実験の詳細については、上記の「実施例のための方法」の節を参照されたい。)。最初に、ラマは、アゴニストであるイペロキソに結合されたM2受容体を用いて免疫され、ファージディスプレイされた免疫後単一可変ドメイン(VHH)ライブラリーが構築された。β2ARの場合とは異なり、標準的なバイオパニング技術は、立体構造選択的なM2受容体結合ナノボディの同定において成功しなかった。このようなナノボディを特異的に単離するために、本発明者らは、酵母表面ディスプレイを使用して、立体構造選択戦略を用いた。ラマナノボディ変異体の免疫後ライブラリーは、酵母表面上に表示され、アゴニストであるイペロキソで占有されたM2受容体に結合する能力について選択された。選択の4ラウンドは、最初にMACSによって行われ、無関係な膜タンパク質(β2アドレナリン受容体)に対する第1の対抗選択後、アゴニストが結合した受容体を用いてそれぞれのラウンドを選択した。これは、MACSを用いて立体構造選択のいくつかのラウンドに続き、この場合、酵母は、最初に、アンタゴニスト(チオトロピウム)が占有したM2受容体に対して対抗選択され、続いて、アゴニスト(イペロキソ)が占有したM2受容体による陽性選択が行われた。9番目と最終ラウンドの選択については、FACSベースの選択を用いた。酵母は、共有結合したアゴニストであるイペロキソが結合したAlexa647標識されたM2受容体と、チオトロピウムに結合したAlexa488標識されたM2受容体を用いて同時に染色された。Alexa647標識に対してのみ陽性な酵母細胞が精製され、したがって、アゴニストが占有した受容体を優先的に結合している酵母細胞を選択した。全体として選択プロセス中におけるライブラリーの染色は、アゴニストであるイペロキソによって占有されたM2受容体に結合するが、特にラウンド5−9において立体構造選択を適用した後、アンタゴニストであるチオトロピウムに結合したM2受容体に結合しない、ナノボディ変異体の富化を示す(図1)。
[実施例2]
放射性リガンド結合アッセイは選択されたナノボディがM2受容体の活性状態を安定化することを確認する
アゴニストが結合したM2受容体を特異的に染色するナノボディ変異体が、M2受容体の活性状態を安定化し得るかどうかを決定するために、結合アッセイを行った。GPCRのアロステリック特性に起因して、受容体の活性立体構造を安定化させる分子はアゴニスト親和性を増加させる。いくつかの立体構造特異的な結合体を単離し、非共有結合したアゴニストであるイペロキソの親和性の増加を誘導するそれらの能力について試験した。これらのうちの1つであるナノボディクローンNb9−8についての結果を図2に示す。さらに、Nb9−8および他の立体構造特異的な結合体は、放射性プローブを置き換えるアゴニスト能力における用量依存的な効果を示した(図2)。Nb9−8が最も強力であり、EC50は約100nMであった。高濃度で、Nb9−8は、ヘテロ三量体Gタンパク質Giの存在下で観察されたものとほぼ同程度に、イペロキソに対するM2受容体の親和性を増強した。
[実施例3]
Gi模倣ナノボディはアゴニストが結合したM2受容体の結晶化を促進する
アゴニストに結合したM2受容体を用いた初期の結晶化の試みは成功しなかった。β2−アドレナリン受容体について元々記載されているように(Rosenbaumら、2007)、アミノ末端T4リソザイム(T4L)にM2受容体を融合させることによって、または第3の細胞内ループにT4Lを挿入することによって、いくつかの試みがなされた。これは、安定性タンパク質の非存在下で、細胞内受容体表面の柔軟性に起因して最も可能性が高い。したがって、M2受容体に対するGiタンパク質模倣ナノボディは、活性立体構造のM2受容体の結晶化を可能にするために使用された。
M2受容体は、10μMのイペロキソの存在下で精製され、本発明者らは、脂質メソ相結晶学によって、Nb9−8との複合体においてイペロキソが結合したM2の結晶を得ることができた(実験の詳細については、上記される「実施例のための方法」の節を参照されたい。)。構造は、Advanced Photon Sourceビームライン23ID−Bと23ID−Dで微小回折によって解明された。いくつかのGPCRはアゴニストとの複合体で結晶化されているが、β2ARとロドプシンだけは、Gタンパク質結合を可能にするための十分な空間を有する完全な活性状態を示す(Rasmussenら、2011;Parkら、2008)。機能的研究に基づいて予想されるように、Nb9−8との複合体におけるM2受容体は、類似した構造変化を示し、Nb9−8は受容体の細胞内表面に結合する(図5)。Nb9−8とイペロキソの複合体における活性M2受容体に対する座標と構造因子は、タンパク質データバンクに寄託されている。
[実施例4]
M2 Gi模倣ナノボディNb9−8の結合エピトープ
Nb9−8は、M2R(配列番号153)の細胞内の空洞に結合する。結合エピトープは、以下の要素:TM1とTM2を連結する細胞内ループにおける残基T56とN58の側鎖、TM3のR121、C124とV125の側鎖、TM3とTM4を連結する細胞内ループのP132、V133とR135の側鎖、TM5のY206、I209とS213の側鎖、M6の一部である、S380、V385、T388とI389の側鎖およびR381の主鎖原子、C439とY440の主鎖原子、およびTM7のC443、A445とT446の側鎖で構成されている。
[実施例5]
M2 Gi模倣ナノボディNb9−8を用いた機能性ナノボディの選択
M2受容体に対する機能性リガンドを選択するために、上記したMACS選択の最初の4ラウンドから得られたライブラリーは、受容体の細胞外側に結合するナノボディ変異体を同定するために、さらなる選択に供された。最初に、MACS選択の2ラウンドは、M2受容体の存在下で、Nb9−8を集める変異体の能力の選択によって行われ、一方、M2受容体の不存在下で、Nb9−8に結合する変異体についての対抗選択によって行われた。この選択戦略は、M2受容体の活性立体構造を誘導するまたはそれと適合するが、さらに、Nb9−8の活性立体構造とは異なる部位に結合するクローンについて強化する。M2受容体の細胞外側に特異的に結合する変異体をさらに選択するために、ガラミンの不存在下でM2受容体に結合するクローンを陽性選択しながら、アロステリックなムスカリン性リガンドガラミンの存在下でM2受容体に対して、対抗選択を行った。全体として選択プロセスの染色は、M2受容体とNb9−8に同時に結合するナノボディ変異体の富化を示す(図3)。さらに、これらのクローンは、ガラミンの存在に感受性であり、それらが受容体のアロステリック/オルソステリック部位に結合することを示唆する。これらのクローンのいくつかについてアロステリック結合特性を結合アッセイによって測定した(図4)。特徴付けられた変異体のうち、クローンB4(配列番号16)などは、アゴニストの存在下でのみ、放射性リガンドのN−メチルスコポラミンの結合を減少させた。これは、M2受容体のアロステリック部位で結合するクローンの能力と一致した。