本発明の第一の形態によれば、ディーゼル燃料調合物に使用するための添加剤組成物が提供され、本添加剤組成物は、(i)セタン価向上剤と、(ii)式(I):
(式中nは、6〜20の整数であり、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素、場合によっては置換されていてもよいアルキル、場合によっては置換されていてもよいアリールおよびカルボニルから選択され、ただしR1、R2およびR3の全てが水素ではない)の改変シクロデキストリンとを含み、ここでセタン価向上剤は、包接錯体の形態で改変シクロデキストリン(I)のホスト分子内のゲスト分子として存在する。
式(I)の改変シクロデキストリンは、セタン価向上添加剤にとって極めて好適な媒体であり得ることが発見された。シクロデキストリン分子は自然に、適切なサイズおよび極性を有する添加剤分子の収容が可能な空孔を形成する。シクロデキストリン「ホスト」分子による添加剤「ゲスト」分子の捕捉および放出は、共有結合またはイオン結合の形成には関与せず、代わりに水素結合、ファンデルワールス相互作用および/または静電的相互作用を利用するために、それらは可逆的である。この方式でのセタン価向上添加剤の封入は、そこに添加されるディーゼル燃料調合物への作用を損なわないようである。しかしながら封入は、ある程度まで外部の影響から添加剤を保護でき、したがって添加剤の安定性の改善および/または調合物中に存在する他の化学種との都合の悪い相互作用を起こす危険を低下させるのに役立つ可能性がある。
シクロデキストリンの内部の空孔は、エタノールの溶解特性と似た溶解特性を有していることから、シクロデキストリンは様々な親水性および疎水性の「ゲスト」分子両方に対して魅力的なものとなっている。しかしながら、それ自身の環境におけるシクロデキストリンの溶解性は、シクロデキストリンがR1、R2およびR3位に存在する置換基の数およびタイプによって決まる。そのため、全体としての錯体の溶解性は、ゲストというよりはシクロデキストリン分子の溶解性によって決定されると予想されることから、シクロデキストリンホスト分子の内部にセタン価向上添加剤を封入することにより、添加剤の溶解性を効果的に改変することが可能になる。
さらに驚くべきことに、改変シクロデキストリン(I)は、セタン価を向上させるゲスト分子の活性を強化できることが見出された。場合によっては、改変シクロデキストリン(I)は、セタン価向上剤としてより有用になるように添加剤の活性も改変できる。またこれらの作用は、セタン価向上剤を必要とする燃料の調合物においても有利であり得る。
所定の条件下、例えばホストとゲストとの会合を弱める条件下、または空孔を形成するシクロデキストリンの高分子構造を例えば蒸発により分解する条件下で、シクロデキストリンホストはセタン価向上剤ゲスト分子を放出できることから、さらなる考えられる利益を獲得できる。それゆえに、所定の条件下でセタン価向上剤が運搬され、必要に応じて保護されるように、ただしその作用が最も必要とされる望ましい時間または位置でセタン価向上剤が放出されるように、改変シクロデキストリン(I)を選択または設計することが可能である。例えば、セタン価向上剤は、エンジンの燃料噴射領域および燃焼領域において特に有用である可能性があることから、そのような領域にセタン価向上剤の放出を標的化することによりその有効性を向上させることができる。
分子封入剤の使用のさらなる利益は、これまでに添加剤の運搬媒体として提唱されてきたポリマーマトリックスおよびマイクロカプセルとは対照的に、分子封入剤はよりいっそう小さいために、例えば燃料ラインおよび燃料フィルターの目詰まり、または燃料消費システム中での望ましくないデポジット蓄積を引き起こし難いことである。
1967年にUS3,314,884で燃料添加剤用のキャリアーとしてのホスト−ゲスト包接錯体の使用が提唱されている。この文書ではシクロデキストリンが可能性のあるホスト化合物として言及されているが、それらの使用は例示されていない。しかしながら、未修飾シクロデキストリン(すなわちR1、R2およびR3が全て水素の式(I)のシクロデキストリン)は、結晶質の材料であり、有機系、特に液体炭化水素などの低極性の有機系に不溶性である。したがってこれらは、典型的な炭化水素ベースの燃料調合物での利用は期待できないと予想される。実際にシクロデキストリンは、食物、飲料、芳香剤、化粧品、および製薬において活性物質用の媒体とし広く使用されているが、そのような状況においてシクロデキストリンは低極性の有機系ではなく水性の系に配合されている。
US5,199,959;US5,226,925;US5,482,520、およびUS2001/0003231などの文書は、ディーゼル燃料中の酸化窒素レベルを低下させる化合物、ならびにケロシン、ジェット燃料および潤滑油などの液状油生成物の熱安定性を改善する化合物のためのホストとしてのカリックスアレーンの使用を教示している。カリックスアレーンは、シクロデキストリンのようにゲスト分子を捕捉できる空孔を形成する大環状分子である。しかしながら、それらの構成的な炭化水素環の化学構造は、シクロデキストリン分子を構成する親水性糖単位の化学構造とは極めて異なっており、クラスとしてのその機能的多様性はそれほど高くない可能性がある。
本発明の添加剤組成物は、ディーゼル燃料調合物での使用に好適であると予想される。本発明の添加剤組成物は、このような調合物での使用に適合させてもよいし、および/またはこのような使用を対象としていてもよい。好ましくは本発明の添加剤組成物は、このような使用に好適であるか、および/または適合されている。
本発明の状況において、ディーゼル燃料調合物は、あらゆる調合物であってもよく、典型的には、圧縮点火燃料消費システムでの可燃性燃料としての使用に好適な、および/または適合させた液体形態であってもよい。ディーゼル燃料調合物は、特に、炭化水素ベースのものであってもよく、すなわち主成分としての(例えば80%v/vまたはそれより多く、または85もしくは90もしくは95%v/vまたはそれより多くの)炭化水素燃料成分、例えばアルカン、シクロアルカン、アルケン、および芳香族炭化水素などを含むものであってもよい。炭化水素燃料成分は、鉱物由来であってもよいし、または生物学的な源由来であってもよいし、または合成であってもよい。このような調合物は、その炭化水素燃料成分に加えて、1種またはそれより多くの成分を含有していてもよく、このような成分は、例えば酸素化物、生物燃料成分、および燃料添加剤から選択される。
ディーゼル燃料調合物は、特に自動車用ディーゼル燃料調合物であってもよい。
ディーゼル燃料調合物の他の好ましい特色は、以下で本発明の第二の形態と関連して説明される通りであってもよい。
本発明の添加剤組成物において、式(I)のシクロデキストリンは、有機(特に炭化水素ベースの)調合物中でのその溶解性が増加するように改変される。したがって、改変シクロデキストリン(I)、および添加剤組成物全体は、それらが使用されるように適合および/または意図されたディーゼル燃料調合物において好適な可溶性を有する。このような調合物は、脂肪酸メチルエステルなどのより高い極性の成分を包含することによってそのベースとなる炭化水素と比べて調合物の極性を増加させる可能性があるが、典型的には低い極性を有すると予想される。R1、R2およびR3基の性質は、例えばシクロデキストリン分子に望ましい溶解特性を付与すると予想され、それにより添加剤組成物を選ばれた燃料調合物での使用に適合させることが可能になる。
この方式で、ディーゼル燃料調合物におけるセタン価向上剤の有効な溶解性を改変することが可能になる。別の状況では調合物に比較的不溶性であると予想されるセタン価向上剤分子は、シクロデキストリンホスト分子に封入されれば、そのホストの溶解性がより大きいために利益を得る可能性がある。
本発明の実施態様において、式(I)の改変シクロデキストリンは、アルキル化シクロデキストリンである。「アルキル化シクロデキストリン」は、R1、R2およびR3基のうち少なくとも1つが、場合によっては置換されていてもよい(ただし特定には非置換の)アルキル基である式(I)のシクロデキストリンを意味する。一実施態様において、R1、R2およびR3基のうち2つまたは少なくとも2つが、独立して、場合によっては置換されていてもよい(特定には非置換の)アルキル基から選択される。一実施態様において、R1、R2およびR3基の3つ全てが、独立して、場合によっては置換されていてもよい(特定には非置換の)アルキル基から選択される。
アルキル化シクロデキストリンが2つまたはそれより多くのアルキル基で置換されている場合、2つまたはそれより多くのアルキル基は同じであってもよい。
アルキル化シクロデキストリンにおいて、アルキル基ではないR1、R2およびR3基のいずれかが水素であることが好適である。したがって、R1、R2およびR3基は、独立して、水素、および場合によっては置換されていてもよい(特定には非置換の)アルキルから選択されてもよい。一実施態様において、R1は、場合によっては置換されていてもよい(特定には非置換の)アルキルから選択され、R2およびR3は両方とも水素である。一実施態様において、R1およびR3は、独立して、場合によっては置換されていてもよい(特定には非置換の)アルキルから選択され、R2は水素である。
一般的に、アルキル化シクロデキストリンにおいて、R1、R2およびR3の3つの位置における全体の置換度は、例えば33%またはそれより大きくてもよく、または50%またはそれより大きくてもよく、または66%またはそれより大きくてもよい。R1、R2またはR3の個々の位置における置換度は、0〜100%であってもよく、例えば10%またはそれより大きくてもよく、または25%またはそれより大きくてもよく、または50%またはそれより大きくてもよく、または75%またはそれより大きくてもよい。実施態様において、アルキル置換基は、R1、R2およびR3の位置間でランダムに分布していてもよい。
式(I)のアルキル化シクロデキストリンにおいて、整数nは、特定には6〜8であってもよく、より特定には7であってもよい。
本発明の内容において、「アルキル」基は、直鎖アルキル基であってもよいし、または分岐鎖アルキル基であってもよい。アルキル基は、最大22個の炭素原子を含有していてもよいし、または最大20個、もしくは18個、もしくは16個、もしくは14個、もしくは12個の炭素原子を含有していてもよいし、または場合によっては最大6個、もしくは5個、もしくは4個、もしくは3個の炭素原子を含有していてもよい。アルキル基は、1個の炭素原子もしくはそれより多くを含有していてもよいし、または2個もしくは3個の炭素原子もしくはそれより多くを含有していてもよいし、例えば1〜12個、もしくは1〜10個、もしくは1〜8個の炭素原子を含有していてもよいし、または1〜6個、もしくは1〜4個、もしくは1〜3個の炭素原子を含有していてもよいし、または場合によっては2〜8個、もしくは3〜8個、もしくは4〜8個の炭素原子を含有していてもよい。アルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピル、およびブチル基から選択されてもよい。アルキル基は、メチル、およびブチル基から選択されてもよい。ブチル基の置換基はn−ブチル基であってもよいし、またはn−ブチルとイソブチル基との混成であってもよい。
特に改変シクロデキストリン(I)がアルキル化シクロデキストリンである場合、アルキル基(複数可)は、C1〜C12アルキル基、またはC2〜C12もしくはC3〜C12アルキル基から選択されてもよい。アルキル基(複数可)は、C1〜C10アルキル基、またはC2〜C10もしくはC3〜C10もしくはC4〜C10アルキル基から選択されてもよい。アルキル基(複数可)は、C1〜C8アルキル基、またはC2〜C8アルキル基、またはC3〜C8もしくはC4〜C8アルキル基から選択されてもよい。アルキル基(複数可)は、C1〜C6アルキル基、またはC2〜C6アルキル基、またはC3〜C6もしくはC4〜C6アルキル基から選択されてもよい。アルキル基(複数可)は、C1〜C5アルキル基、またはC2〜C5アルキル基、またはC3〜C5アルキル基から選択されてもよい。アルキル基(複数可)は、C1〜C4アルキル基、またはC2〜C4アルキル基、またはC3〜C4アルキル基から選択されてもよい。
具体的な実施態様において、R1、R2、およびR3は同じであり、C1〜C4アルキル基から選択され、特にメチルである。
他の具体的な実施態様において、R1、R2、およびR3のうち少なくとも2つ(例えばR1およびR3の2つなど)は、C1〜12もしくはC1〜C10もしくはC1〜C8アルキル基、またはC2〜C10もしくはC2〜C8もしくはC2〜C6アルキル基、またはC2〜C10もしくはC2〜C8もしくはC2〜C6アルキル基から選択される。特に、R1、R2およびR3のうち少なくとも2つ(例えばR1およびR3の2つなど)はブチルであってもよく、残りの基は、可能な場合は水素であってもよい。したがって、例えば改変シクロデキストリン(I)は、ヘプタキス(2,6−ジ−O−n−ブチル)−シクロデキストリンであってもよい。
式(I)の改変シクロデキストリンにおいて、アルキル基は、1つまたはそれより多くの、典型的には1つのヒドロキシル基で置換されていてもよく、ここでヒドロキシル基は、1級、2級または3級ヒドロキシル基であってもよく、特に2級ヒドロキシル基であってもよい。ヒドロキシルで置換されたアルキル基(「ヒドロキシアルキル」基)は、特定にはヒドロキシプロピル(例えば2−ヒドロキシプロピル)またはヒドロキシエチルであってもよく、より特定にはヒドロキシプロピルであってもよい。一実施態様において、R1、R2およびR3基のうち少なくとも1つは、ヒドロキシアルキル基である。一実施態様において、R1は、ヒドロキシアルキル基、特に2−ヒドロキシプロピルであり、その場合、R2およびR3は、好適には水素である。
アルキル基は、1つまたはそれより多くの、典型的には1つのアミン基−NR4R5で置換されていてもよく、式中R4およびR5は、それぞれ独立して、水素、および場合によっては置換されていてもよい(好適には非置換の)アルキル基から選択され、特に水素、およびC1〜C4またはC1〜C3またはC1〜C2アルキル基から選択される。アミン基−NR4R5は、特に−NH2であってもよい。
「アリール」基は、芳香族炭化水素環を含有する基であり、例えばフェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ナフチルまたはアントラシル(anthracyl)である。アリール基は、例えばC5〜C18アリール基、またはC6〜C18アリール基、またはC6〜C14もしくはC6〜C10もしくはC6〜C8アリール基であってもよい。アリール基は、特定にはフェニルまたはベンジルであってもよく、より特定にはベンジルであってもよい。
「カルボニル」基は、式R6−C(O)−で示される基であり、式中R6は、場合によっては置換されていてもよい(好適には非置換の)アルキルまたはアリール基であり、例えばアルキル、フェニルまたはベンジル基であり、ここでアルキル基は、特にC1〜C4またはC1〜C3またはC1〜C2アルキル基であってもよい。カルボニル基は、特定にはアセチルまたはベンゾイルであってもよく、より特定にはアセチルであってもよい。
「場合によっては置換されていてもよい」基は、1つまたはそれより多くの置換基、例えば1または2つの置換基、特に1つの置換基で置換されていてもよく、これらの置換基は、例えば、アルキル、より特定にはC1〜C4アルキルまたはC1〜C3アルキルまたはC1〜C2アルキル、例えばメチル;アリール、例えばフェニル;カルボン酸およびカルボン酸イオン、例えば−CH2CO2H、−CO2Hまたは対応するアニオン;アルコキシル、例えばエトキシルまたはメトキシル、特にメトキシル;アミン(例えば−NR4R5)およびアミド基、特に第一アミンおよびアミド基;および−OHから選択されてもよい。このような置換基は、特定にはアルキル、アリール、アルコキシル、および−OHから選択されてもよい。さらにより特定には、このような置換基は、アルキル基、例えばC1〜C4またはC1〜C3またはC1〜C2アルキル基、例えばメチルから選択されてもよい。
「場合によっては置換されていてもよい」基は、特定には非置換であってもよい。
本発明の実施態様において、R1、R2およびR3基は、独立して、水素、非置換のアルキル(特に非置換のC1〜C8またはC1〜C4アルキル)、およびヒドロキシアルキル(特にC1〜C4ヒドロキシアルキル、より特定にはヒドロキシプロピル)から選択される。一実施態様において、R1は、場合によっては置換されていてもよいアルキル(特に非置換のアルキルおよびヒドロキシアルキル)およびカルボニルから選択され、R2およびR3はいずれも水素である。一実施態様において、R1は、場合によっては置換されていてもよいアルキル(特に非置換のアルキルおよびヒドロキシアルキル)から選択され、R2およびR3はいずれも水素である。
一般的に、R1、R2、およびR3基の炭素鎖の長さは、選ばれたディーゼル燃料調合物におけるシクロデキストリン(I)の溶解性が強化されるように選ぶことができ、鎖の基が長いほど典型的にはより大きい疎水性をもたらすことから、より低い極性、より高い疎水性の有機系に対してより大きい親和性ももたらす。高酸素化物含量のディーゼル燃料調合物などのより高い極性の調合物で使用する場合、R1、R2およびR3基が、より短い鎖のアルキル基、特にメチルから選択されるか、および/またはヒドロキシルなどの極性官能基で置換されているアルキル基からから選択されることが好ましい可能性がある。シクロデキストリンをより疎水性にするためには、より長い鎖のアルキル基、例えばブチルが使用される可能性がある。
低い極性のディーゼル燃料調合物で使用するためには、R1、R2およびR3基のうち少なくとも1つ、好適には2または3つが、より長い鎖(例えばC4またはそれより大きい、またはC4〜C12もしくはC4〜C10もしくはC4〜C8)のアルキル基(ここで該アルキル基は、好適には非置換である)であることが好ましい可能性がある。場合によっては、このようなより長い鎖のアルキル基は、C12〜C22またはC12〜C18アルキル基であってもよい。
一実施態様において、特に添加剤組成物が非極性ディーゼル燃料調合物で使用するためのものである場合、R1、R2およびR3基は、独立して、水素および非置換のアルキル(特定にはC1〜C8もしくはC4〜C8アルキル、例えばメチル、またはより特定にはブチル)から選択されてもよい。さらにより特定には、R1、R2およびR3のうち少なくとも2つ(例えばR1およびR3)は、独立して、非置換のアルキル(例えばC1〜C8もしくはC4〜C8アルキル、特定にはメチル、またはブチル、より特定にはブチル)から選択されてもよく、2つまたはそれより多くのアルキル基は、同じであってもよい。
一実施態様において、特に添加剤組成物が、中度に極性のディーゼル燃料調合物、例えば脂肪酸メチルエステル(FAME)などの酸素化物を最大約10%v/v含有する調合物に使用するためのものである場合、R1、R2およびR3基のうち1または2つ(例えばR1およびR3)は、独立して、非置換のアルキル(特定にはC1〜C8もしくはC1〜C4アルキル、例えばメチル、またはブチル、より特定にはメチル)から選択されてもよく、残りの基(複数可)は水素であってもよい。したがって、例えば改変シクロデキストリン(I)は、トリ−メチルシクロデキストリンまたはジ−O−n−ブチルシクロデキストリンであってもよい。
一実施態様において、特に添加剤組成物が、より高い極性のディーゼル燃料調合物、例えばFAMEなどの酸素化物を約5または10%v/vより多く(またはこのような酸素化物を場合によっては20もしくは30もしくは40もしくは50%v/vまたはそれより多く)含有する調合物に使用するためのものである場合、R1、R2およびR3基のうち少なくとも1つは、ヒドロキシルなどの極性基で置換されたアルキル基(特にC1〜C4アルキル基)であってもよく、このケースにおいて、好適には、少なくともR1はヒドロキシアルキル基である。
一実施態様において、改変シクロデキストリン(I)は、アルキル基(複数可)が非置換のC1〜C12またはC1〜C8またはC2〜C8アルキル基から選択されるアルキル化シクロデキストリンである。
特に好ましいアルキル化シクロデキストリンは、各単量体の残基上で2つのブチル基(例えばn−ブチル基、またはn−ブチル基とイソブチル基との混成)で置換されており、このようなシクロデキストリンは、好適にはβ−シクロデキストリンである。これらのシクロデキストリンは、様々なディーゼル燃料において優れた溶解性を有することが見出されており、親水性と疎水性との優れたバランス(HLBバランス)を示すことが予想される。
改変シクロデキストリン(I)において、整数nは、特定には4〜10、もしくは5〜9であってもよく、またはより特定には6〜8であってもよい。n=6の場合、シクロデキストリンは、α−シクロデキストリンであり、これは、1.4nmの外径と0.6nmの内部空孔直径を有する円錐台形構造を形成する。n=7の場合、シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンであり、これは、1.5nmの外径と0.8nmの内径を有する円錐台形構造を形成する。n=8の場合、シクロデキストリンは、γ−シクロデキストリンであり、その円錐台形は、1,7nmの外径と1.0nmの内径を有する。したがって、nの値は、ゲスト分子を封入できる空孔のサイズに影響を与える。それゆえにnの値は、選ばれたセタン価向上剤の1つまたはそれより多くの分子(好適には1つの分子)を収容するのに好適なサイズの空孔が得られるように選ぶことができる。
本発明の実施態様において、改変シクロデキストリン(I)は、β−シクロデキストリン(すなわちn=7)である。
本発明の内容において、セタン価向上剤は、燃料調合物のセタン価を増加させることができる物質であり、これらは、錯体化されていない状態で存在していてもよいし、および/または改変シクロデキストリン(I)のホスト分子内における包接錯体の形態で存在していてもよい。燃料調合物のセタン価を増加させることができる物質は、改変シクロデキストリン(I)との包接錯体ではない形態で存在していてもよい。調合物がエンジンまたは他の燃料消費システムで使用される場合、一般的にセタン価向上剤は、ディーゼル燃料調合物の点火特性を向上させることができるものであってもよい。
セタン価向上剤は、ディーゼル燃料添加剤として使用するのに好適であり、および/またはそのような使用に適合させてあると予想される。
一実施態様において、セタン価向上剤は、極性化学種である。
またセタン価向上剤は、セタン価向上剤または点火促進剤と理解される場合もある。多くのこのような添加剤は公知であり市販されている。セタン価向上剤は、典型的には、燃料消費システムの燃焼室で燃料が反応し始めたらフリーラジカル濃度を増加させることによって機能する。その例としては、有機硝酸塩および亜硝酸塩、特に硝酸(シクロ)アルキル、例えば硝酸イソプロピル、硝酸2−エチルヘキシル(2−EHN)および硝酸シクロヘキシル、ならびに硝酸エチル、例えば硝酸メトキシエチル;ならびに有機(ヒドロ)ペルオキシド、例えばジ−tert−ブチルペルオキシドが挙げられる。セタン価を向上させたディーゼル燃料添加剤は、例えばHITEC(商標)4103(例えばアフトンケミカル(Afton Chemical))として、ならびにCI−0801およびCI−0806(例えばイノスペック社(Innospec Inc))として市販されている。
一実施態様において、セタン価向上剤は、有機硝酸塩および亜硝酸塩、特に硝酸(シクロ)アルキル;有機(ヒドロ)ペルオキシド;ならびにそれらの混合物から選択される。一実施態様において、セタン価向上剤は、2−EHN、ジ−tert−ブチルペルオキシド、およびそれらの混合物から選択される。
本発明の内容において、セタン価向上剤は、通常は燃料調合物のセタン価を増加させることができないが、改変シクロデキストリン(I)中に封入されるとそれができるようになる物質であってもよい。特に、このような物質は、オクタンブースターであってもよい。
したがって、一般論として、本発明で使用される「セタン価向上剤」は、ディーゼル燃料調合物の添加剤として使用するのに好適であるか、および/または適合されており、さらに改変シクロデキストリン(I)との包接錯体中のゲスト分子として存在する場合、それが添加された燃料調合物のセタン価を増加させることができるあらゆる燃焼促進剤であってもよい。燃焼促進剤は、典型的には、上記で説明したタイプのセタン価向上剤、オクタンブースター、およびそれらの混合物から選択されると予想される。
オクタンブースターは、燃料調合物のオクタン価を増加させることができる物質であり、ここでこのような物質は、錯体化されていない状態か、および/または改変シクロデキストリン(I)のホスト分子内の包接錯体の形態のいずれかで存在する。調合物がエンジンまたは他の燃料消費システムで使用される場合、一般的にオクタン向上剤は、ガソリン燃料調合物の点火特性を向上させることができるものであってもよい。
このようなオクタンブースターは、ガソリン燃料添加剤として使用するのに理想的に好適であるか、および/またはそれに適合されている。
多くのこのような添加剤は公知であり市販されている。芳香族アミン、例えば特にアニリンは、ガソリン燃料中でオクタンブースターとして使用されることが知られている。WO2008/073118、WO2008/076759、WO2010/001341およびRU2235117は、この目的のためのN−メチルアニリン(NMA)などのN−アルキルアニリンの使用を説明している。
またアルキルt−ブチルエーテルなどのエーテル(例えばメチルt−ブチルエーテル(MTBE)およびエチルt−ブチルエーテル(ETBE))も、ガソリン燃料のオクタンブースターとして包含されてきた。US6,858,048;US5,470,358;US2006/0225340;EP0948584;WO02/22766、およびUS2008/0168706は、エーテル、エステルおよびアルコールオクタンブースターを含有する航空用ガソリン調合物を開示している。
またフェニルまたはシクロペンタジエニル環などの芳香族部分、特にフェニル環を包含する化学種も、オクタンブースターとして知られている。このようなオクタンブースターは、完全に有機性であってもよいし(例えばトルエン)、または金属成分を包含していてもよく、例えば芳香族系のオクタン価を高める金属錯体の形態であってもよく、メチルシクロペンタジエニルマンガントリカルボニル(MMT)、フェロセン(これは、中央のFe2+イオンに結合した2つのシクロペンタジエニル環を含む)、および置換されたフェロセン、例えばアルキル(例えばデカメチル)フェロセンであってもよい。それゆえに芳香族系オクタンブースターは、例えば、芳香族アミンオクタンブースター、アルキル置換ベンゼン(特にトルエン)、アルキル置換フェノール、キノリン誘導体、金属を含有する芳香族系オクタンブースター、およびそれらの混合物から選択されてもよい。芳香族系オクタンブースターは、フェノール誘導体およびそれらの混合物から選択されてもよい。芳香族系オクタンブースターは、例えば、アルキル置換フェノール、例えばクレゾール(特にm−クレゾール)、4−エチルフェノールまたは2,4,6−トリメチルフェノールを含んでいてもよい。アルキル置換フェノールは、最大5個、好適には最大4個、より適切には最大3個のアルキル基で置換されていてもよく、ここでアルキル基は、特定にはC1〜C4アルキル基、より特定にはC1〜C2アルキル基であってもよい。芳香族系オクタンブースターは、キノリン誘導体およびそれらの混合物から選択されてもよく、例えば芳香族系オクタンブースターは、1,2,3,4−テトラヒドロキノリンを含んでいてもよい。
他の公知のオクタンブースターは、イソオクタンである。
芳香族アミンオクタンブースターは、特にアミンで置換されたフェニル環を包含する化学種であってもよい。アミンで置換されたフェニル環は、アミンの窒素原子基の位置で、および/またはフェニル環上の1つまたはそれより多くの炭素原子の位置でさらに置換されていてもよい。したがって、芳香族系オクタンブースターは、アニリン(すなわちアニリンそのもの、または置換アニリン)であってもよい。
置換アニリンは、環炭素原子の位置で、および/または窒素原子の位置で置換されていてもよく、さらに例えば一置換または二置換されていてもよく、特に一置換されていてもよい。好適な置換基は、C1〜C4アルキル基およびフェニルから選択されてもよく、特定にはメチル、エチルおよびフェニルから選択されてもよく、より特定にはメチルおよびエチルから選択されてもよい。
それゆえに置換アニリンとしては、フェニル環が1つまたはそれより多くの、特に1つのアルキル基で置換されたアルキル置換アニリン(例えば、4−エチルアニリンまたはトルイジン、例えばm−トルイジンなど);フェニル環が、例えばフルオロおよびクロロ基から選択される1つまたはそれより多くの、特に1つのハロ基で置換されたハロ置換アニリン、例えば4−フルオロアニリン;フェニル環が1つまたはそれより多くの、特に1つのアルコキシル基で置換されたアルコキシル置換アニリン(例えばm−アニシジンなどのアニシジン);フェニル環が式−NR1R2(式中R1およびR2は、独立して水素およびアルキルから選択される)で示される1つまたはそれより多くの、特に1つのアミン基で置換されたアミン置換アニリン(例えばN,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン);ならびにアミン基の窒素原子がアルキルおよびフェニル基から選択される1つまたはそれより多くの、特に1つの基で置換されたN−置換アニリン(例えばN−メチルアニリンなどのN−アルキルアニリン、およびジフェニルアミンなどのN−フェニルアニリン)が挙げられる。
一実施態様において、芳香族系オクタンブースターは、アニリン;m−トルイジン;p−トルイジン;4−エチルアニリン;N−メチルアニリン;ジフェニルアミン;4−フルオロアニリン;m−アニシジン;N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン;p−クレゾール;m−クレゾール;MMT;フェロセン;1,2,3,4−テトラヒドロキノリン;4−エチルフェノール;2,4,6−トリメチルフェノール;ならびにそれらの混合物から選択される。一実施態様において、芳香族系オクタンブースターは、アニリン;m−トルイジン;4−エチルアニリン;ジフェニルアミン;4−エチルフェノール;2,4,6−トリメチルフェノール;MMT;フェロセン;ならびにそれらの混合物から選択される。
芳香族アミンオクタンブースターがピロールではないことが好ましいと予想される。
オクタンブースターは、上記で説明したように芳香族部分を包含する化学種、特定には芳香族アミン、より特定にはアニリン;エーテル、特定にはジアルキルエーテル、より特定にはアルキルt−ブチルエーテル;ならびにそれらの混合物から選択されてもよい。一実施態様において、オクタンブースターは、芳香族アミン、特にアニリン、およびそれらの混合物から選択される。
本発明に係る添加剤組成物は、2種またはそれより多くの異なるセタン価向上剤の混合物を含んでいてもよい。これら全てが必ずしも改変シクロデキストリンホスト分子内のゲスト分子として存在する必要はない。したがって、本組成物は、式(I)の改変シクロデキストリンに封入されていない、1種またはそれより多くの追加のセタン価向上剤を含んでいてもよい。
本発明の添加剤組成物は、セタン価向上剤および改変シクロデキストリン(I)のための、溶媒キャリアーまたはそれらの混合物を含んでいてもよい。好適なこのような溶媒は周知であり、市販されている。一般的に使用される添加剤用の溶媒としては、炭化水素溶媒、例えばアルカン、アルケン、および芳香族炭化水素;炭化水素の混合物、例えば蒸留留分;ならびにより極性の溶媒、例えばアルコールおよびエーテルが挙げられる。使用中に組成物の安定性および有効性が最適化されるように、添加剤組成物で使用される溶媒または溶媒混合物の性質(特にその極性)は、セタン価向上剤および改変シクロデキストリン、加えて添加剤組成物が使用されるディーゼル燃料調合物の性質および極性に適合するように選ぶことができる。
しかしながら、一実施態様において、添加剤組成物は、固体の形態であってもよい。
添加剤組成物中の、セタン価向上剤と改変シクロデキストリン(I)とで形成された包接錯体濃度は、例えば10ppmw(重量に基づく百万分率)もしくはそれより大きくてもよく、例えば50もしくは100ppmwまたはそれより大きくてもよい。上記濃度は、例えば最大10,000ppmw、または最大5,000ppmwであってもよく、例えば10〜10,000ppmwまたは100〜5,000ppmwであってもよい。一実施態様において、添加剤組成物は、特に組成物が固体の形態である場合、本質的に包接錯体からなっていてもよい(例えば、少なくとも98または99%w/wの包接錯体を含有していてもよい)。
添加剤組成物中のセタン価向上剤と改変シクロデキストリン(I)とのモル比は、例えば1:50もしくはそれより大きくてもよいし、または1:25もしくはそれより大きくてもよいし、または1:20もしくはそれより大きくてもよい。この比率は、例えば最大5:1、または最大2:1もしくは1:1、または最大1:2もしくは1:5もしくは1:10であってもよく、例えば1:50〜5:1、または1:50〜2:1、または1:50〜1:1であってもよく、または場合によっては1:50〜1:2もしくは1:20〜1:10であってもよく、例えば約1:10であってもよい。
この比率は、セタン価向上剤および改変シクロデキストリン(I)の性質によって決まる場合があり、例えば、単一のシクロデキストリンホスト分子内に、それより小さいセタン価向上剤の1または2個の分子を封入できるようになっていてもよく、一方、他のケースにおいては、単一のゲスト分子の周りに2個のシクロデキストリン分子が適合するようになっていてもよい。高分子セタン価向上剤は、1個より多くのシクロデキストリン分子と会合して、それぞれポリマー分子の別個の部分と錯化できるものであってもよい。
本発明の実施態様において、組成物が添加されるディーゼル燃料調合物において望ましい技術的な作用が達成されるように、過量モル濃度の改変シクロデキストリン(I)またはセタン価向上剤を使用することもできる。例えば、過量のセタン価向上剤は、多量の未封入のセタン価向上剤(これは即座に利用可能であるが、それゆえに経時的により容易に損失または分解されやすい可能性がある)に加えて、多量の封入されたセタン価向上剤(後半で、未封入のセタン価向上剤が枯渇した後、適切な誘導因子に応答して望ましい位置または時間で放出させることができる)を提供すると予想される。これは、ディーゼル燃料調合物で使用される前、および/または使用中のセタン価向上剤の実効寿命を延長させるのに使用できる。
本発明に係る添加剤組成物は、1種またはそれより多くの追加の活性物質、加えてセタン価向上剤を含んでいてもよい。この場合において、「活性物質」は、ディーゼル燃料添加剤として活性であり、さらにディーゼル燃料添加剤として使用するのに好適な物質である。このような物質は、ディーゼル燃料調合物中に取り込まれた場合、技術的な機能を発揮することができ、典型的には、調合物の特性および/または性能を改変できると予想される。一実施態様において、このような物質は、自動車用ディーゼル燃料添加剤として好適な、および/またはそのような使用に適合させた物質である。
追加の活性物質は、例えば、抗酸化剤、腐食抑制剤、洗浄剤および分散添加剤、金属不活性化剤、バルブシートリセッション保護化合物、粘度調整剤、色素および他のマーカー、摩擦調整剤、潤滑添加剤、追加のセタン価向上剤、帯電防止添加剤、消泡剤、低温流動性添加剤、およびそれらの組み合わせから選択されてもよい。追加の活性物質は、特に、抗酸化剤;燃焼促進剤(例えば追加のセタン価向上剤);洗浄剤;潤滑添加剤;低温流動性添加剤;およびそれらの組み合わせから選択されてもよい。追加の活性物質は、抗酸化剤;燃焼促進剤(例えば追加のセタン価向上剤);洗浄剤;ならびにそれらの混合物から選択されてもよいし、または燃焼促進剤(特に追加のセタン価向上剤);洗浄剤;ならびにそれらの混合物から選択されてもよい。
一実施態様において、追加の活性物質は、極性化学種である。
このような追加の活性物質の全てが、必ずしも改変シクロデキストリンホスト分子内のゲスト分子として存在していなくてもよい。したがって、添加剤組成物は、式(I)の改変シクロデキストリン中に封入されていない1種またはそれより多くの追加の活性物質を含んでいてもよい。
組成物は、2種またはそれより多くの異なる式(I)の改変シクロデキストリンの混合物を含んでいてもよい。これら全てが、必ずしもセタン価向上剤または他の活性物質と錯体化していなくてもよい。
本発明に係る添加剤組成物は、セタン価向上剤と改変シクロデキストリン(I)とを、好適には溶媒キャリアーまたはそれらの混合物と共に、さらに場合によっては1種またはそれより多くの追加のディーゼル燃料添加剤または活性物質と共に混合することによって調製してもよい。ゲスト分子を含有するシクロデキストリン包接錯体を調製する技術は当業者公知であり、好適な例としては、混練、加熱、共沈、フリーズドライまたは凍結乾燥、噴霧乾燥、気液法、超臨界流体ベースの方法、およびそれらの組み合わせが挙げられる(例えばMarques、「A review on cyclodextrin encapsulation of essential oils and volatiles」、Flavour Fragr J、2010、25:313〜326、特に321〜322頁;およびChemical Reviews 98、2035〜2044を参照)。一例として、望ましいホスト−ゲスト錯体を生成するために、シクロデキストリン(I)とセタン価向上剤とを、必要に応じて加熱しながら、適切な溶媒中で一緒に撹拌し、続いてろ過または噴霧乾燥などの好適な手段で溶媒を除去してもよい。錯体形成を検証するために、例えば核磁気共鳴分光分析、可視または紫外分光分析、蛍光分光分析、赤外分光分析、示差走査熱量測定または他の熱的方法、X線回折、クロマトグラフィー、マススペクトロメトリー、光学的方法、真空方法などの公知の技術を使用してもよいし、または相溶解の変化を参照してもよい(ここでも、上記で参照したMarques、322〜324頁を参照されたい)。
セタン価向上剤と改変シクロデキストリン(I)とが個々に、それぞれの好適な溶媒または他のキャリアー中で使用されてもよい。したがって、場合により1種またはそれより多くのキャリアーを共に含むセタン価向上剤を含有する第一の予備混合物と、場合により1種またはそれより多くのキャリアーを共に含む改変シクロデキストリン(I)を含有する第二の予備混合物とを組み合わせることによって、本発明の添加剤組成物を調製することもできる。それゆえに、特にディーゼル燃料調合物に使用するのに好適な1種またはそれより多くのキャリアーを共に含む式(I)の改変シクロデキストリン含有予備混合物が、本発明を実施するための必須の要素を構成していてもよい。
このような予備混合物中のキャリアーは、特に液体キャリアーであってもよい。液体キャリアーは、それらがディーゼル燃料調合物での使用に好適になるように、低い極性、および/または疎水性、および/または非水性の性質を適宜有していてもよい。本発明の第一の形態に係る組成物を形成するために、予備混合物を、例えばセタン価向上剤含有添加剤パッケージと組み合わせてもよい。
式(I)の改変シクロデキストリンは、合成化学者に周知と予想される標準的な化学的技術で未修飾シクロデキストリンから得てもよい。未修飾シクロデキストリンは、広く商業的に入手可能である。未修飾シクロデキストリンは、典型的には酵素による変換によってデンプンから生産される。したがって、シクロデキストリン(I)は生物学的な源から誘導されてもよく、これは、ディーゼル燃料調合物により高濃度の生物学的に誘導された成分を包含させようとする要求が高まっていることから有利な可能性がある。
セタン価向上剤および改変シクロデキストリン(I)、特に整数nの値ならびにR1、R2およびR3基の性質は、特にディーゼル燃料調合物中での使用中に、組成物の調製、貯蔵、輸送、および/または使用の望ましい条件下で、自然にそれらが互いに会合して望ましいホスト−ゲスト包接錯体が形成されるように選ばれることが好適である。
本発明の実施態様において、改変シクロデキストリン(I)は、具体的な条件下での使用、および/または具体的なセタン価向上剤との使用に合うように設計されてもよい。より特定には、改変シクロデキストリン(I)は、具体的な条件下でセタン価向上剤ゲスト分子が放出されるように設計されてもよい。この方式で、本発明の組成物を使用して、ディーゼル燃料調合物中のセタン価向上剤の送達を制御する(例えばそのような送達を標的化する)ことが可能である。
一例として、具体的な範囲内の温度、例えば臨界的な使用期間中にディーゼル燃料調合物が晒される温度範囲に組成物が晒されたときに、セタン価向上剤の全部または一部をシクロデキストリン包接錯体から放出させることもできる。この方式で、例えば燃料消費システムの燃焼領域などセタン価向上剤の化学的作用が最も求められるポイントに到達するまで、シクロデキストリンによってセタン価向上剤を保護し安定化することができ、あるいは健康上もしくは安全上の危険が提示されているセタン価向上剤のケースでは、それを封入することによってさらに安全にすることができる。その代わりに、またはそれに加えて、組成物が具体的な範囲内の圧力、または具体的な範囲内の剪断力に晒されたときに、セタン価向上剤の全部または一部を包接錯体から放出させることもできる。
セタン価向上剤および改変シクロデキストリン(I)は、使用中に望ましい速度でシクロデキストリン包接錯体からセタン価向上剤が放出されるように選ばれてもよく、それにより添加剤組成物中またはディーゼル燃料調合物中のセタン価向上剤の有効性を延長できる。
本発明の実施態様において、予め決められた値より高いまたは低い(特定には高い)温度、例えば添加剤組成物が使用されるかまたは使用されることが意図されたエンジンまたは他の燃料消費システムの稼働範囲内の温度に添加剤組成物が晒されたときに、セタン価向上剤がシクロデキストリン包接錯体から放出されるように、セタン価向上剤と改変シクロデキストリン(I)とが設計されている。例えば、50℃またはそれより高い、または60℃またはそれより高い、または100℃もしくは150℃またはそれより高い、または200もしくは220℃またはそれより高い温度に組成物が晒されたときに、セタン価向上剤が放出されてもよい。
シクロデキストリンは、熱分解性である。それらの熱分解の速度および開始は、上記式(I)におけるそれらの置換基とnの値に応じて変化する。一例として、トリメチル置換β−シクロデキストリンは、一般的に50〜150℃で安定であり(200分にわたり顕著な分解が起こらない);200℃および約0.01mg/分で分解し;250℃で約1mg/分のより速い分解速度を示すことが見出された。それゆえにこのような分子は、セタン価を向上させる燃料添加剤のホストとして好適であると予想される:このような添加剤は、貯蔵条件下では封入されたままであり(例えば燃料タンクの温度は、典型的には約50℃である);それより高温の条件下では徐々に放出され(例えばコモンレールディーゼルシステムの燃料ラインは、約150℃で存在する可能性が高い);高温条件下ではより迅速に放出され(例えば噴射後、燃焼前);燃焼ポイントにおける超高温条件下ではほとんど即座に放出されると予想される。
一実施態様において、予め決められた値を超える圧力、例えば添加剤組成物が使用されるかまたは使用されることが意図されたエンジンまたは他の燃料消費システムの稼働範囲内の圧力に組成物が晒されたときに、セタン価向上剤がシクロデキストリン包接錯体から放出されるように、セタン価向上剤と改変シクロデキストリン(I)とが設計されている。例えば、組成物が、1気圧より大きい、または100もしくは200気圧またはそれより大きい、または500もしくは1,000もしくは1,500もしくは2,000気圧またはそれより大きい、例えば最大2,200気圧の圧力に晒されたとき、セタン価向上剤が放出されてもよい。
セタン価向上剤および改変シクロデキストリン(I)は、予め決められた値より低い圧力、例えば1気圧未満の圧力に組成物が晒されたときに、セタン価向上剤が放出されるように設計されている。
一実施態様において、別の化学種、例えばシクロデキストリンの空孔への侵入に関してセタン価向上剤と競合する可能性がある化学種に添加剤組成物が晒されたときに、セタン価向上剤がシクロデキストリン包接錯体から放出されるように、セタン価向上剤と改変シクロデキストリン(I)とが設計されている。
したがって、シクロデキストリン(I)の性質、特にその改変基であるR1、R2およびR3の性質は、シクロデキストリン(I)の使用が意図された環境やそれとの使用が意図されたセタン価向上剤だけでなく、シクロデキストリン(I)がセタン価向上剤と会合したりそれから解離したりする条件、および/または別の方式で、例えば分子または高分子レベルでの自己分解によってゲスト分子が放出される条件にも適合するように設計されていてもよい。
本発明の第二の形態は、第一の形態に係る添加剤組成物を含むディーゼル燃料調合物を提供する。
一実施態様において、ディーゼル燃料調合物は、自動車用ディーゼル燃料調合物である。さらなる実施態様において、ディーゼル燃料調合物は、工業用ガス油調合物、暖房用油調合物、またはより特定には船舶用ディーゼル燃料調合物であってもよい。一実施態様において、該調合物は、酸素化物またはバイオディーゼル成分、例えばFAMEまたは硬化植物油、特にFAMEを含有するディーゼル燃料調合物である。このような酸素化物およびバイオディーゼル成分の濃度は、以下で説明した通りであってもよい。
本発明の添加剤組成物とは別に、このような調合物は、その成分とそれらの相対濃度については従来通りであってもよい。このような調合物は、例えば、ディーゼル用ベース燃料を含んでいてもよい。
ディーゼル用ベース燃料は、圧縮点火(ディーゼル)エンジン内での燃焼に好適であるか、および/またはそれに適合されたあらゆる燃料成分またはそれらの混合物であり得る。ディーゼル用ベース燃料は、典型的には液体炭化水素の中間留分燃料であり、より典型的にはガス油であると予想される。ディーゼル用ベース燃料は、石油由来であってもよい。ディーゼル用ベース燃料は、ケロシン燃料成分であってもよいし、またはそれを含有していてもよい。ディーゼル用ベース燃料は、合成燃料成分、例えばフィッシャー−トロプシュの凝縮プロセスの生成物であってもよいし、またはそれを含有していてもよい。ディーゼル用ベース燃料は、生物学的な源から誘導された燃料成分、例えば生物学的に誘導された硬化油(特に硬化植物油、HVO)またはそれらの混合物であってもよいし、またはそれを含有していてもよい。ディーゼル用ベース燃料は、酸素化物であってもよいし、またはそれを含有していてもよく、このような酸素化物としては、例えば脂肪酸アルキルエステル、特に脂肪酸メチルエステル(FAME)、例えば菜種メチルエステル(RME)またはパーム油メチルエステル(POME)が挙げられる。
ディーゼル用ベース燃料は、典型的には、150または180から370℃までの範囲で沸騰すると予想される(ASTM D86またはEN ISO3405)。ディーゼル用ベース燃料は、好適には40〜70、または40〜65、または51〜65、または70の測定セタン価(ASTM D613)を有すると予想される。
本発明の第二の形態に係るディーゼル燃料調合物は、ディーゼル用ベース燃料を、50%v/vまたはそれより高い、または60もしくは70もしくは80%v/vまたはそれより高い、または85もしくは90もしくは95もしくは98%v/vまたはそれより高い濃度で含んでいてもよい。ベース燃料濃度は、最大99.99%v/v、または最大99.95%v/v、または最大99.9もしくは99.5%v/vであってもよい。ベース燃料濃度は、最大99%v/v、例えば最大98もしくは95もしくは90%v/v、または場合によっては最大85もしくは80%v/vであってもよい。
ディーゼル燃料調合物が酸素化物またはFAMEなどのバイオディーゼル成分を含む場合、その濃度は、調合物全量に基づき1%v/vまたはそれより高い、または2もしくは5%v/vまたはそれより高い濃度であってもよく、または場合によっては7もしくは10もしくは20もしくは30%v/vまたはそれより高い濃度であってもよい。FAME濃度は、最大100%v/vであってもよく(言い換えれば、ディーゼル燃料調合物は、FAMEまたはFAMEの混合物からなっていてもよく、場合によっては1種またはそれより多くのディーゼル燃料添加剤を含んでいてもよい)、または最大99もしくは98もしくは95%v/v、または最大90もしくは80もしくは70もしくは60もしくは50%v/vであってもよく、または場合によっては最大40もしくは30もしくは20もしくは10%v/v、例えば1〜40%v/vであってもよい。
本発明の実施態様において、しかしながら、ディーゼル燃料調合物にとって、酸素化物成分または少なくともFAME(例えばPOME)を含有しないか、またはそれらを低濃度(例えば5%v/vまたはそれ未満、または2%v/vまたはそれ未満、または1もしくは0.5%v/vまたはそれ未満)でしか含有しないことが好ましい場合がある。
本発明に係るディーゼル燃料調合物は、適用される現行のディーゼル燃料の標準規格(複数可)、例えばEN590(欧州の場合)またはASTM D975(米国の場合)などに準拠していることが好適であると予想される。一例として、調合物全体は、15℃で820〜845kg/m3の密度(ASTM D4052またはEN ISO3675);360℃またはそれ未満のT95沸点(ASTM D86またはEN ISO3405);40またはそれより大きい、理想的には51またはそれより大きい測定セタン価(ASTM D613);40℃で2〜4.5センチストークス(mm2/秒)の動粘性率(VK40)(ASTM D445またはEN ISO3104);55℃またはそれより高い引火点(ASTM D93またはEN ISO2719);50mg/kgまたはそれ未満の硫黄含量(ASTM D2622またはEN ISO20846);−10℃未満の曇り点(IP219);および/または11%w/w未満の多環式芳香族炭化水素(PAH)含量(EN12916)を有していてもよい。
しかしながら関連する仕様は、国ごと、季節ごとおよび年ごとに異なる場合があり、調合物の意図した使用によっても左右される場合がある。さらに、ブレンド全体の特性は、その個々の成分の特性とかなり異なっている可能性がしばしばあることから、本発明に係るディーゼル燃料調合物は、これらの範囲から外れた特性を有する個々の燃料成分を含有していてもよい。
本発明の第二の形態に係るディーゼル燃料調合物は、第一の形態の添加剤組成物に加えて、1種またはそれより多くの燃料添加剤または精油用添加剤を含んでいてもよい。多くのこのような添加剤は公知であり市販されている。このような添加剤は、ベース燃料中に存在していてもよいし、またはその調製中のあらゆるポイントで調合物に添加されてもよい。ディーゼル用ベース燃料またはディーゼル燃料調合物中に包含され得る好適なタイプの燃料添加剤の非限定的な例としては、セタン価向上剤、帯電防止添加剤、潤滑添加剤、低温流動性添加剤、およびそれらの組み合わせ、加えてそのための溶媒、希釈剤およびキャリアーが挙げられる。このような添加剤は、燃料調合物中に、最大4,000ppmw、または最大3,000もしくは2,000もしくは1,000もしくは500もしくは300ppmw、例えば50〜4,000ppmwもしくは50〜1,500ppmwもしくは50〜1,000ppmwもしくは50〜500ppmwもしくは50〜300ppmwの濃度で包含されてもよい。
本発明に係るディーゼル燃料調合物は、圧縮点火(ディーゼル)内燃機関での使用に好適であるか、および/またはそのような使用に適合されると予想される。本発明に係るディーゼル燃料調合物は、特に自動車用ディーゼル燃料としての使用に好適であるか、および/またはそのような使用に適合させることができる。さらなる実施態様において、本発明に係るディーゼル燃料調合物は、工業用ガス油として、または暖房用油として、または船舶用ディーゼル燃料として使用するのに好適であるか、および/またはそのような使用に適合させることができる。
本発明の第二の形態によれば、ディーゼル燃料調合物中の添加剤組成物の濃度は、例えば50ppmwまたはそれより高い、または100もしくは250もしくは500ppmwまたはそれより高い濃度であってもよい。その濃度は、例えば最大10,000ppmw、または最大5,000もしくは4,000もしくは3,000もしくは2,000もしくは1,500ppmw、例えば500〜1,500ppmwであってもよい。これらの濃度は、添加剤組成物中のあらゆる溶媒キャリアーまたは包接錯体と共に存在する他の化学種に関わりなく、燃料調合物中のセタン価向上剤−シクロデキストリン包接錯体の濃度と相関する。
燃料調合物全体におけるセタン価向上剤の濃度が、例えば5ppmwまたはそれより高い、または10ppmwまたはそれより高い、または25もしくは50ppmwまたはそれより高い濃度になるように、添加剤組成物の濃度を選んでもよい。この濃度は、例えば最大1,000ppmw、または最大500ppmw、または最大300もしくは200もしくは150ppmw、例えば50〜150ppmwであってもよい。
本発明の第二の形態に係るディーゼル燃料調合物において、添加剤組成物の好ましい特色(例えば改変シクロデキストリン(I)およびセタン価向上剤の性質および濃度)は、上記で本発明の第一の形態に関して説明した通りであってもよい。特に、改変シクロデキストリン(I)は、上記で定義されたタイプのアルキル化シクロデキストリンであってもよい。
第三の形態によれば、本発明は、ディーゼル燃料調合物の調製方法を提供し、本方法は、場合により1種またはそれより多くの追加のディーゼル燃料添加剤と共に、第一の形態に係る添加剤組成物と、1種またはそれより多くのディーゼル燃料成分(例えばディーゼル用ベース燃料)とを一緒に混合することを含む。添加剤組成物および燃料成分(複数可)ならびにそれと混合される添加剤(複数可)の好ましい特色は、上記で本発明の第一および第二の形態に関して説明した通りであってもよい。
添加剤組成物とディーゼル燃料調合物の他の成分とは、調合物を使用する前のあらゆる好適な時間で、例えば製油所で、または製油所下流の配送もしくは分配ポイントで、特に製油所または燃料貯蔵庫内の配送ポイントで混合されてもよい。シクロデキストリンホスト分子は、封入されたセタン価向上剤を安定化して、熱、光、酸素および可能性のある他の反応物などの外部の影響からそれを保護するのに役立つことから、燃料調合物の貯蔵、輸送機関および使用のタイミングという観点でどの段階で添加剤組成物を燃料調合物に取り込むことができるかに関して、本発明は、より大きい柔軟性をもたらすことができる。
一実施態様において、本発明の第三の形態の方法は、例えば、1種またはそれより多くのディーゼル燃料成分と添加剤組成物とを混合する前に、上記で説明したような予備混合物を使用して添加剤組成物を調製することを含む。一実施態様において、第三の形態の方法は、このような予備混合物を、1種またはそれより多くのディーゼル燃料成分と混合することを含む。このようにして得られた改変シクロデキストリン含有予備混合物を含むディーゼル燃料調合物は、本発明の第二または第三の形態を実施するのに必須の要素を構成する場合がある。
一実施態様において、改変シクロデキストリン(I)は、セタン価向上剤とは別々に、1種またはそれより多くのディーゼル燃料成分と混合されてもよい。例えば改変シクロデキストリン(I)は、すでにセタン価向上剤を含有するディーゼル燃料成分の混合物に添加されてもよいし、または改変シクロデキストリン(I)は、セタン価向上剤の添加前にディーゼル燃料成分の混合物に添加されてもよい。
本発明の第四の形態によれば、ディーゼル燃料消費システムの稼働方法、および/またはこのようなシステムによって稼働する装置(例えば乗り物または暖房器具)が提供され、本方法は、システムに、本発明の第一の形態に係る添加剤組成物、または第二の形態に係るディーゼル燃料調合物を導入することを含む。この方法は、例えば、ディーゼル燃料消費システムの燃焼室に添加剤組成物または調合物を導入することを含んでいてもよい。本システムは、例えば内燃機関、特に圧縮点火エンジンであってもよい。
本発明の第五の形態は、添加剤組成物中またはディーゼル燃料調合物中のセタン価向上剤用の媒体としての、上述した式(I)の改変シクロデキストリンの使用を提供する。
上記で説明したように、改変シクロデキストリン(I)中へのセタン価向上剤の封入は、ディーゼル燃料調合物において多数の有益な作用を有する可能性がある。第一に、封入は、熱、光、酸素、およびセタン価向上剤が別の方式で相互作用するかもしれない調合物中の他の化学種などの外部の影響からセタン価向上剤を保護するのに役立つ可能性がある。したがって、封入は、セタン価向上剤が望ましくない化学的プロセスに巻き込まれる可能性の程度を低下させることができる。第二に、シクロデキストリンは、封入されたセタン価向上剤の揮発性を低くするのに役立つ可能性がある。これらの方式および場合により他の方式で、シクロデキストリンは、セタン価向上剤の安定性、加えてセタン価向上剤との相互作用により弱められた可能性がある調合物中の他の化学種の安定性を向上させることができる。
場合によっては、シクロデキストリンそれ自身の固有の溶解性により、すなわちホスト分子が効果的にそれ自身の溶解性を封入されたゲスト分子に付与するために、シクロデキストリンは、ディーゼル燃料調合物へのセタン価向上剤の可溶化に役立つ可能性がある。
このような作用は、例えば望ましい活性型でのセタン価向上剤の利用率を増加させたり、および/または使用中の所定の時間においてより多くのセタン価向上剤が利用できるようにその寿命を長くしたりすることによって、セタン価向上剤の活性を効果的に増加させることができる。したがって本発明は、以下で本発明の第八の形態に関して説明するように、ディーゼル燃料調合物中でより低いセタン価向上剤濃度を使用することを可能にする。
場合によっては、上記で説明したメカニズムによるか、または何かそれ以外のあまりよく理解されていない活性物質とホスト分子との相互作用を介するかに関わらず、改変シクロデキストリン(I)への封入は、ディーゼル燃料調合物の特性および/または性能に対して活性物質が有する作用の性質を改変できることが発見された。それにより、別の方式ではセタン価向上剤として活性ではないか、またはそのセタン価を向上させる活性が別の方式では望ましい最小値よりも低いと予想される物質を、セタン価向上剤として使用できるようになる可能性がある。また、ディーゼル燃料調合物中で他の活性物質をより低い濃度で使用できるようになる可能性もある。
したがって、本発明の第六の形態は、以下の目的:
i.組成物または調合物中のセタン価向上剤の溶解性を改変すること(特に増加させること);
ii.組成物または調合物中のセタン価向上剤の活性を改変すること(特にその性質を増加させたり、または変化させたりすること);
iii.組成物または調合物中のセタン価向上剤の安定性を改変すること(特に増加させること);
iv.組成物または調合物中のセタン価向上剤の揮発性を改変すること(特に低下させること);および
v.組成物または調合物中で晒される可能性がある外部の影響、例えば熱、光、酸素、または組成物または調合物中に存在する別の化学種から、セタン価向上剤を少なくとも部分的に保護すること
のうち1つまたはそれより多くのための、添加剤組成物またはディーゼル燃料調合物におけるセタン価向上剤と組み合わせた上述の式(I)の改変シクロデキストリンの使用を提供する。
この本発明の形態および他の形態の内容において、用語「セタン価向上剤」はまた、改変シクロデキストリン(I)の非存在下だと、ディーゼル燃料調合物中でセタン価向上剤として活性ではないか、またはそのセタン価を向上させる活性が、ディーゼル燃料調合物中で望ましい最小値よりも低いと予想される活性物質も包含する。
この本発明の第六の形態の一実施態様において、改変シクロデキストリン(I)は、少なくとも目的(i)のために、または少なくとも目的(i)および(ii)のために使用される。一実施態様において、改変シクロデキストリン(I)は、少なくとも目的(iii)のために、または少なくとも目的(iii)および(iv)のために、または少なくとも目的(iii)および(v)のために、または少なくとも目的(iii)および(iv)および(v)のために使用される。一実施態様において、改変シクロデキストリン(I)は、少なくとも目的(v)のために、または少なくとも目的(iv)のために使用される。
また、改変シクロデキストリン(I)は、ゲスト分子として封入するセタン価向上剤の送達を標的化するか、または別の方式で制御するのに使用できることも見出された。所定の条件下でのみ、例えばホスト−ゲスト錯体の解離、別の競合ゲスト分子でのセタン価向上剤の交換、またはシクロデキストリンホスト分子またはその大環状構造の分解(例えば蒸発または化学分解による)を引き起こす条件下でのみ、シクロデキストリンホスト分子からセタン価向上剤が放出される。放出条件以外の場合では、シクロデキストリンは、セタン価向上剤を保持してそれを外部の影響から保護することができる。放出条件下では、セタン価向上剤は、シクロデキストリンの空孔から離れて他所の反応で利用可能になる。したがって、上記で説明したように、セタン価向上剤の送達は、具体的な温度もしくは圧力範囲、または剪断力などの具体的な適用された力、または競合ゲスト分子などの別の化学種の導入などの具体的な一連の条件を標的化できる。選ばれたセタン価向上剤を用いて、望ましい条件または一連の条件下で解離する包接錯体が達成されるように、改変シクロデキストリン(I)を設計することが可能である。この本発明の形態は、例えば燃料噴射システムまたは燃焼室内のようなセタン価向上剤が最も多く利用される可能性が高い、ディーゼル燃料消費システム内の領域および/またはディーゼル燃料調合物の使用期間にセタン価向上剤の送達を標的化することにおいて有用な可能性がある。その代わりに、またはそれに加えて、本発明は、具体的な環境に、例えば具体的な気候またはディーゼル燃料消費システム内の具体的な一連の動作条件にセタン価向上剤の送達を標的化するのに使用される可能性がある。それにより、送達前に、例えば貯蔵および輸送中に、ダメージを与える可能性がある外部の影響からセタン価向上剤を保護できる。
したがって、本発明の第七の形態は、組成物もしくは調合物内または組成物もしくは調合物からのセタン価向上剤の送達を制御する目的のための、添加剤組成物またはディーゼル燃料調合物におけるセタン価向上剤と組み合わせた式(I)の改変シクロデキストリンの使用を提供する。
この本発明の第七の形態の内容において、セタン価向上剤の送達を「制御すること」は、セタン価向上剤の送達の時間、位置および/または速度を改変することを含んでいてもよい。上記制御は、例えば所定時間にわたり持続放出が達成されるように、添加剤組成物もしくはディーゼル燃料調合物に、またはそれらからセタン価向上剤が送達される速度を改変することを含んでいてもよい。
セタン価向上剤の送達を制御することは、具体的な時間または位置または条件(例えば温度、圧力および/または剪断の条件)にその送達を標的化することを含んでいてもよい。上記制御は、セタン価向上剤の送達速度を改変すること;それが送達される時間もしくは位置または条件を改変すること;標的位置に到達するセタン価向上剤の量もしくは比率、または具体的な期間内に標的位置に到達する量もしくは比率を改変すること;ならびに/またはより正確に具体的な時間もしくは位置に送達を標的化することを含んでいてもよい。上記制御は、標的時間または位置でのセタン価向上剤の有効性または認められる有効性を改変すること(特に強化すること)を含んでいてもよく、これは、セタン価向上剤が標的時間または位置でディーゼル燃料調合物に与える作用(特にセタン価を向上させる作用)の速度および/もしくは規模および/もしくは持続時間および/もしくは場所を改変すること(特に増加させること)、または作用の速度、規模、タイミング、持続時間もしくは場所への制御を増加させることを含んでいてもよい。本発明は、このようなパラメーターのあらゆる程度の改変を達成するのに使用される可能性がある。
本発明の内容において、セタン価向上剤の「送達」と述べられる場合、それは、セタン価向上剤が存在するディーゼル燃料調合物の特性および/または性能を改変できる形態でセタン価向上剤を利用可能な状態にすることを指す。典型的には、「送達」は、シクロデキストリン包接錯体からのセタン価向上剤の放出を含むと予想される。
一実施態様において、改変シクロデキストリン(I)は、ディーゼル燃料消費システム内の具体的な位置に、特に燃料噴射または燃料燃焼領域にセタン価向上剤の送達を標的化するのに使用される。改変シクロデキストリン(I)は、具体的なタイムポイントに、特にディーゼル燃料消費システム内での燃料噴射または燃料燃焼時にセタン価向上剤の送達を標的化するのに使用される可能性がある。改変シクロデキストリン(I)は、具体的な位置での、または具体的な期間中での、例えば貯蔵および/または輸送中でのセタン価向上剤の放出を予防または抑制するのに使用される可能性があり、これは、セタン価向上剤が健康上または安全上の危険を有する場合に有用であり得る。
例えば、現代のコモンレール技術を用いたディーゼルエンジンでは、タンクからの燃料は、燃料噴射器に到達する前に高温および高圧に晒される。このようにして晒された燃料の一部のみが噴射され、残りは燃料タンクに戻されるが、温度および/または圧力の変化に晒されたために、そこで分解を起こす可能性が高くなる。本発明は、燃焼領域上流の温度または圧力の変化とそれによって生じる分解の危険から保護しながら、燃料燃焼領域にセタン価向上剤の送達を標的化するのに使用される可能性がある。
改変シクロデキストリン(I)は、燃料消費システム中の別の化学種の存在と同時にセタン価向上剤の放出を標的化するのに使用される可能性がある。
本発明の第七の形態に係る改変シクロデキストリン(I)の使用は、ディーゼル燃料消費システム(例えばエンジン)に、添加剤組成物またはディーゼル燃料調合物を導入すること、その後、システム内の該組成物または該調合物を、シクロデキストリンと共に形成される包接錯体からの少なくとも部分的なセタン価向上剤の放出を誘導する条件に晒すことを含んでいてもよい。この条件は、例えば、予め決められた範囲内の温度もしくは圧力、または予め決められた範囲内の剪断力、またはセタン価向上剤の放出を誘導できる別の化学種の存在であってもよい。
したがって、本発明の第七の形態は、ディーゼル燃料消費システムにセタン価向上剤を送達する方法の一部を構成または形成していてもよく、本方法は、上記で説明した導入および放出を誘導する工程を含む。
本発明の第六および第七の形態は、セタン価向上剤の溶解性、安定性、活性または送達速度などの関連パラメーターをあらゆる程度に改変することに使用される可能性がある。
本発明は、セタン価向上剤の活性、利用可能性、溶解性もしくは安定性を向上させたり、またはその活性もしくは利用可能性を標的化したりするのに使用できることから、本発明は続いて、セタン価向上剤が添加されるディーゼル燃料調合物へのセタン価向上剤の全体的な作用を損なうことなくより低いセタン価向上剤濃度を使用できるようにする可能性がある。その代わりに、またはそれに加えて、本発明は、別の方式でディーゼル燃料調合物への望ましい作用を達成するのに必要な場合がある他の添加剤をより低い濃度で使用できるようにする可能性がある。そのため本発明は、調合物の調製にかかるコストと複雑さを低減し、および/またはディーゼル燃料調合物の実用性により大きい多様性を付与できる。
したがって、第八の形態によれば、本発明は、組成物または調合物中に存在する添加剤の濃度を低下させる目的のための、添加剤組成物またはディーゼル燃料調合物におけるセタン価向上剤と組み合わせた上述した式(I)の改変シクロデキストリンの使用を提供する。一実施態様において、改変シクロデキストリン(I)は、セタン価向上剤の濃度を低下させる目的のために使用される。一実施態様において、改変シクロデキストリン(I)は、別のディーゼル燃料添加剤、例えば別のセタン価向上添加剤の濃度を低下させる目的のために使用される。
本発明の第八の形態の内容において、用語「〜を低下させること」は、低下からゼロまでのあらゆる程度の低下を包含する。低下は、例えば関連添加剤の元の濃度の10%もしくはより大きい低下、または25もしくは50もしくは75もしくは90%またはそれより大きい低下であってもよい。低下は、意図された組成物または調合物の使用状況においてそれに必要なおよび/または望ましい特性および性能を獲得するために組成物または調合物に別の方式で取り込まれたであろう添加剤の濃度と比較したときの低下であってもよい。この濃度は、例えば、本発明によって提供される方法での改変シクロデキストリン(I)の使用が達成される前の組成物または調合物中に存在していた添加剤の濃度であってもよいし、および/または本発明に従って添加剤組成物または燃料調合物に改変シクロデキストリン(I)が添加される前に、類似の状況で使用するために意図された(例えば市販された)、その他の点で類似した添加剤組成物または燃料調合物中に存在していた添加剤の濃度であってもよい。
添加剤の濃度の低下は、改変シクロデキストリン(I)の非存在下で組成物または調合物にとって望ましい特性または性能を達成するのに必要であると予測された添加剤の濃度と比較したときの低下であってもよい。
本発明の第九の形態によれば、ディーゼル燃料調合物またはそれらの構成要素のセタン価を増加させる目的のための、第一の形態に係る添加剤組成物の使用が提供される。組成物は、調合物または成分のセタン価のあらゆる程度の向上を達成するため、および/または望ましい目標セタン価を達成するかまたはそれを上回るようにするために使用される可能性がある。
燃料調合物または構成要素のセタン価は、あらゆる好適な方法、例えばいわゆるエンジンの稼働条件下で得られた「測定」セタン価を提供する標準的な試験法であるASTM D613(ISO5165、IP41)を使用して決定することが可能である。その代わりにセタン価はまた、定容燃焼室に導入された燃料サンプルの噴射と燃焼との間の時間遅延に基づいて「導出」セタン価を提供するより最新の「点火特性試験」(IQT)(ASTM D6890、IP498)を使用して決定することも可能である。この比較的迅速な技術は、多様な燃料の実験室スケール(約100ml)のサンプルに使用できる。
その代わりに、セタン価は、例えばUS5,349,188で説明されているように近赤外(NIR)分光法によっても測定が可能である。この方法は、例えばASTM D613ほど煩雑ではない可能性があるために、製油環境において好ましい場合がある。NIR測定は、測定されたサンプルのスペクトルと実際のセタン価との相関を利用する。基礎となるモデルは、様々な燃料サンプルの公知のセタン価とそれらの近赤外線スペクトルデータとを相関させることにより作製される。
一実施態様において、本発明は、40またはそれより高い、または45もしくは50もしくは51またはそれより高い、例えば55もしくは60またはそれより高い、場合によっては65もしくは70もしくは75またはそれより高い導出セタン価(ASTM D6890)を有するディーゼル燃料調合物をもたらす。
それに加えて、またはその代わりに、本発明を使用して、セタン価と同等の、またはセタン価に関連するディーゼル燃料調合物またはそれらの構成要素のあらゆる特性を調節することができ、例えばその燃焼性能を改善する(例えば点火遅れを短くする、常温始動を容易にする、および/または燃料調合物または構成要素で稼働する燃料消費システムにおける不完全燃焼および/もしくはそれに伴う排気を低減させる)、ならびに/または燃料の経済性を改善することができる。
本発明の内容において、ディーゼル燃料調合物またはそれらの成分における改変シクロデキストリン(I)の「使用」は、シクロデキストリンを、典型的には、セタン価向上剤と共に、1種またはそれより多くの他のディーゼル燃料成分、例えばディーゼル用ベース燃料、および場合によっては1種またはそれより多くのディーゼル燃料添加剤を含むブレンド(すなわち物理的な混合物)として調合物または成分に取り込むことを意味する。シクロデキストリンは、都合のよい形態としては、ただし必ずしもそれに限られないが、燃料消費システムに調合物または成分が導入される前に取り込まれると予想される。その代わりに、またはそれに加えて、改変シクロデキストリン(I)の使用は、典型的にはエンジンの燃焼室にシクロデキストリンを含有するディーゼル燃料調合物を導入することによって、そのような調合物で燃料消費システム、典型的には内燃機関を稼働させることを含んでいてもよい。改変シクロデキストリン(I)の使用は、燃料消費システムによって駆動する乗り物または他の装置を、シクロデキストリンを含有するディーゼル燃料調合物で稼働させることを含んでいてもよい。
また上記で説明した方法での改変シクロデキストリン(I)の「使用」は、上記で本発明の第五から第九の形態に関して説明した目的のうち1つまたはそれより多くのための、ディーゼル燃料調合物またはそれらの成分におけるシクロデキストリン使用の説明書と共にシクロデキストリンを供給することを包含する場合もある。シクロデキストリンはそれ自身、ディーゼル燃料添加剤、特に本発明の第一の形態に係る添加剤組成物、またはそのための予備混合物として使用するのに好適であるか、および/または適合されているか、および/または意図されている組成物の一部として供給されてもよい。このケースにおいて、上記で本発明の第五から第九の形態に関して説明したあらゆる目的のうち1つまたはそれより多くのために、改変シクロデキストリンは、このような組成物または予備混合物中に包含されていてもよい。
したがって改変シクロデキストリン(I)は、本発明の第一の形態に係る添加剤組成物またはそのための予備混合物の形態でディーゼル燃料調合物またはそれらの成分に使用される可能性がある。それゆえに改変シクロデキストリン(I)の「使用」は、本発明の添加剤組成物または予備混合物の「使用」を含む場合がある。
添加剤組成物での改変シクロデキストリン(I)の「使用」は、シクロデキストリンを、典型的にはセタン価向上剤、1種またはそれより多くの溶媒キャリアー、および場合によっては1種またはそれより多くの追加のディーゼル燃料添加剤を含むブレンド(すなわち物理的な混合物)として組成物に取り込むことを意味する。都合のよい形態としては、ただし必ずしもそれに限られないが、シクロデキストリンは、ディーゼル燃料調合物もしくはそれらの成分に、またはディーゼル燃料消費システムに組成物が導入される前に取り込まれると予想される。シクロデキストリンは、上記で説明したような予備混合物の形態で取り込まれてもよい。その代わりに、またはそれに加えて、改変シクロデキストリン(I)の使用は、典型的にはシステムの燃焼領域に、添加剤組成物中にシクロデキストリンを含有するディーゼル燃料調合物を導入することによって、そのような調合物でディーゼル燃料消費システム、典型的には内燃機関を稼働させることを含んでいてもよい。改変シクロデキストリン(I)の使用は、燃料消費システムによって駆動する乗り物または他の装置を、添加剤組成物中にシクロデキストリンを含有するディーゼル燃料調合物で稼働させることを含んでいてもよい。
また上記で説明した方法での改変シクロデキストリン(I)の「使用」は、上記で本発明の第五のから第九の形態に関して説明した目的のうち1つまたはそれより多くのための、添加剤組成物におけるシクロデキストリン使用の説明書と共にシクロデキストリンを供給することを包含する場合もある。
一般的に、添加剤組成物または燃料調合物または燃料成分に、成分を「添加する」または成分を「取り込む」と述べられる場合、これは、組成物もしくは調合物もしくは成分の生産中のあらゆるポイント、またはその使用前のあらゆる時点での添加または取り込みを包含するものと解釈できる。
実施態様において、本発明を使用して、少なくとも1,000リットルの改変シクロデキストリン含有添加剤組成物またはディーゼル燃料調合物、または少なくとも5,000もしくは10,000もしくは20,000もしくは50,000リットルの改変シクロデキストリン含有添加剤組成物またはディーゼル燃料調合物を生産することができる。
本発明に係る、または本発明に従って調製もしくは使用されるディーゼル燃料調合物は、特に調合物中に存在するセタン価向上剤の有効性、安定性、溶解性もしくは活性の向上;このようなセタン価向上剤の送達の向上;および/または調合物中のセタン価向上剤もしくは他の活性物質の濃度の低減といった、改変シクロデキストリン(I)を包含することによる向上の利益を有すると表示して販売してもよい。このような調合物の販売は、(a)関連する表示を含む容器中に調合物を入れること;(b)そのような表示を含む製品パンフレットと共に調合物を供給すること;(c)調合物を説明する出版物または看板(例えば販売場所の)にそのような表示を出すこと;および(d)例えばラジオ、テレビまたはインターネットで放映されるコマーシャルにそのような表示を出すことから選択される活動を含んでいてもよい。このような表示において、向上は、少なくとも部分的に改変シクロデキストリン(I)の存在に起因するとしてもよい。本発明は、調合物の調製中またはその後に調合物の関連する特性を評価することを含んでいてもよい。本発明は、例えば改変シクロデキストリンが調合物中で関連する向上に寄与していることが確認できるように、改変シクロデキストリン取り込みの前および後の両方で関連する特性を評価することを含んでいてもよい。
本発明に係る、または本発明に従って調製もしくは使用される添加剤組成物は、特に組成物中に存在するセタン価向上剤の有効性、安定性、溶解性もしくは活性の向上;このようなセタン価向上剤の送達の向上;および/または組成物中のセタン価向上剤もしくは他の活性物質の濃度の低減といった、改変シクロデキストリン(I)を包含することによる向上の利益を有すると表示して販売してもよい。このような組成物の販売は、(a)関連する表示を含む容器中に組成物を入れること;(b)そのような表示を含む製品パンフレットと共に組成物を供給すること;(c)組成物を説明する出版物または看板(例えば販売場所の)にそのような表示を出すこと;および(d)例えばラジオ、テレビまたはインターネットで放映されるコマーシャルにそのような表示を出すことから選択される活動を含んでいてもよい。このような表示において、向上は、少なくとも部分的に改変シクロデキストリン(I)の存在に起因するとしてもよい。本発明は、組成物の調製中またはその後に組成物の関連する特性を評価することを含んでいてもよい。本発明は、例えば改変シクロデキストリンが組成物中で関連する向上に寄与していることが確認できるように、改変シクロデキストリン取り込みの前および後の両方で関連する特性を評価することを含んでいてもよい。
ここに記載された説明および特許請求の範囲の全体にわたり、「含む」および「含有する」という文言およびその文言の変化形、例えば「含むこと」および「含む」は、「これらに限定されないが、〜が挙げられる」を意味し、他の部分、添加剤、成分、整数または工程を排除しない。さらに単数形は、文脈上他の意味が指定されない限り、複数形を包含する。特に不定冠詞が使用される場合、本明細書では、文脈上他の意味が指定されない限り、単数形と同様に複数形も意図しているものと理解されることとする。
本発明の各形態の好ましい特色は、他の形態のいずれかに関して説明されているのと同様であってもよい。本発明の他の特色は、以下の実施例から明らかになると予想される。一般的に言えば、本発明は、本明細書(添付された全ての特許請求の範囲および図面を包含する)で開示された特色のうちいずれか新規のもの、またはそれらのあらゆる新規の組み合わせに及ぶ。したがって本発明の特定の形態、実施態様または実施例と共に説明された特色、整数、特徴、化合物、化学成分または基は、本明細書で説明される他のあらゆる形態、実施態様または実施例にも矛盾がない限り適用可能であると理解されるものとする。例えば、誤解を避けるために言えば、改変シクロデキストリン(I)、セタン価向上剤およびディーゼル燃料調合物の任意選択の特色および好ましい特色(濃度を包含する)は、改変シクロデキストリン、セタン価向上剤またはディーゼル燃料調合物について言及された本発明の全ての形態に適用できる。
さらに特に他の指定がない限り、本明細書において開示されたあらゆる特色は、同じまたは類似の目的に役立つ代替の特色で置き換えることもできる。
特性に関して、例えば添加剤または燃料成分の濃度に関して上限および下限が述べられる場合、上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせで定義された値の範囲も意味する可能性がある。
本明細書において、シクロデキストリン、セタン価向上剤、燃料および燃料成分の特性などの物理的特性について述べられる場合、それらは、特に他の指定がない限り、周囲条件下で、すなわち大気圧で、16から22もしくは25℃、または18から22もしくは25℃、例えば約20℃の温度で測定された特性である。
ここで本発明を、以下の非限定的な実施例および添付の例示的な図面を参照しながらさらに説明する。
図1A〜1Dは、以下の実施例1〜3で行われたセタン価測定の結果を示す棒グラフである。
図2A〜2C、3Aおよび3Bは、以下の実施例4で行われた揮発実験の結果を示すグラフである。
図3Cは、実施例4で論じられたように図3Aおよび3Bと比較した典型的なFAME非含有ディーゼル燃料の蒸留曲線である。
実施例1−DTBP添加剤
本発明に従って、混練法を使用して式(I)の改変シクロデキストリンを公知のセタン価向上剤であるジ−t−ブチルペルオキシド(DTBP)とブレンドすることによって固体添加剤組成物を調製した。組成物は、ガスクロマトグラフィーによって決定したところ3.5%w/wのDTBP濃度を有していた。
次いで本発明に従って、得られた添加剤組成物を、完成した燃料調合物においてそれぞれ35および350ppmwのDTBPに相当する1,000ppmwおよび10,000ppmwの両方の供給率でディーゼル用ベース燃料BF1とブレンドすることによってディーゼル燃料調合物を調製した。ブレンドは、添加剤組成物をベース燃料に混合して、固体が完全に溶解するまでこの混合物をかき混ぜることによって実行された。
燃料調合物中におけるセタン価向上剤の有効性を評価するために、標準的な試験方法であるIP498/06を使用して、それらのIQTセタン価を測定した。比較目的で、ベース燃料単独と、(a)封入されていないDTBP、すなわち改変シクロデキストリンの非存在下のDTBPを有する、および(b)シクロデキストリン単独を有するベース燃料のブレンドとでIP498/06のセタン価も測定した。
ベース燃料BF1は、7%v/vの生物燃料成分POME(パーム油メチルエステル)を含有するいわゆる「B7」ディーゼル用ベース燃料であった。BF1は、シェル(Shell)のグループ会社から供給され、欧州のディーゼル燃料の仕様EN590に準拠していた。BF1は、洗浄剤またはセタン価向上添加剤をまったくを含有していなかった。以下の表1にその特性をまとめた。
DTBPは、VWRから供給された。シクロデキストリンは、(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリン、すなわち上記で定義されたn=7であり、R1、R2およびR3が全てのメチルの式(I)のシクロデキストリンであり、これは、シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)から供給された。DTBP−シクロデキストリン錯体は、シクロラボR&Dラボラトリー(Cyclolab R&D Laboratory)(ハンガリー)から供給された。
以下の表2にセタン価測定の結果を示す。「CN」は、IP498/06によるセタン価を指し;「CyD」は、改変シクロデキストリンを指す。記載された「活性物質」濃度は、DTBP単独を指す。「供給量」の数値は、試験燃料調合物中に存在するDTBPまたはDTBP−シクロデキストリン錯体いずれかの濃度である。Δ値は、ベース燃料BF1単独のセタン価と比較したセタン価の変化を表す。Δ値を計算するために、BF1および/またはCyDのみを含有する調合物の「活性物質」濃度を1とした。
実施例3の最後で結果を考察した。
実施例2−カルバゾール添加剤
DTBPの代わりに他の公知の燃焼促進剤であるカルバゾールを使用したこと以外は、実施例1を繰り返した。カルバゾールは、VWRから供給された。カルバゾールを改変シクロデキストリンとブレンドして、UV−vis分光分析によって決定したところ7.4%w/wのカルバゾール濃度を有する固体形態の添加剤組成物を得た。カルバゾール−シクロデキストリン錯体は、シクロラボR&Dラボラトリー(ハンガリー)から供給された。
表2に、セタン価測定の結果も示した。この内容において、記載された「活性物質」濃度は、カルバゾール(CBZ)単独を指す。「供給量」の数値は、試験燃料調合物中に存在するカルバゾールまたはカルバゾール−シクロデキストリン錯体いずれかの濃度である。これらの結果も、実施例3の最後で考察した。
実施例3−NMA添加剤
DTBPの代わりにN−メチルアニリン(NMA)を使用したこと以外は、実施例1を繰り返した。NMAは、ガソリン燃料調合物のオクタンブースターとして使用されてきたものであり、したがってセタン価の抑制因子として作用することが公知である。NMAは、VWRから供給された。NMAを改変シクロデキストリンとブレンドして、UV−vis分光分析によって決定したところ7.2%w/wのNMA濃度を有する固体形態の添加剤組成物を得た。NMA−シクロデキストリン錯体は、シクロラボR&Dラボラトリー(ハンガリー)から供給された,
表2に、セタン価測定の結果も示した。この内容において、記載された「活性物質」濃度は、NMA単独を指し、「供給量」の数値は、試験燃料調合物中に存在するNMAまたはNMA−シクロデキストリン錯体いずれかの濃度である。この実施例の最後で結果を考察した。
表2のデータを、図1で棒グラフとして示した。図1Aは、BF1における、および1,000ppmwの添加剤組成物を含有する調合物における、改変シクロデキストリン存在下および非存在下の両方でのそれぞれの活性物質によって引き起こされたセタン価の変化を示す。図1Bは、10,000ppmwの添加剤供給率で引き起こされたセタン価の変化を示す。図1Aおよび1Bに記載のエラーバーは、IP498/06で説明されているような0.7のセタン価の測定誤差を表す。図1Cおよび1Dは、それぞれ1,000および10,000ppmwの添加剤組成物を含有する調合物における、活性物質1ppmwあたりのセタン価の変化を示す。
実施例1〜3の考察
これらの実施例の結果から、改変シクロデキストリン単独では、ディーゼル用ベース燃料のセタン価に対して比較的わずかな作用しかないことが示される。
実施例1は、公知のセタン価向上剤DTBPは、燃料調合物全体におけるその濃度に応じた程度までベース燃料のセタン価を増加させたことを示す。DTBPは、改変シクロデキストリンに封入されると、そのセタンを強化する活性を保持した(より大きいシクロデキストリン錯体の一部として添加された場合、実際のDTBP濃度を考慮に入れた)。それにより、改変シクロデキストリン(I)は、ディーゼル用ベース燃料の添加剤のための媒体として好適であることが確認された。しかしながら、驚くべきことに、封入されたDTBPは、封入されていない場合と比較して、ベース燃料のセタン価に対してより大きい作用を有していた。この活性の増加は、より多くの添加剤供給率の場合よりも大きいようであり、同じセタン価を達成するのに最大でDTBPの9分の1未満しか要さない。ここで封入されたDTBP(1.5×10−2ppmw−1)の効力は、封入されていないDTBPの効力(1.4×10−3ppmw−1)よりもほぼ1桁大きい。
本発明者らはこの理論に拘束されることを望まないが、この作用は、改変シクロデキストリンに封入された場合、DTBPの揮発性が効果的に低下することに起因する可能性があると考えられる(実施例4を参照)。封入された添加剤は、燃焼ポイントの前に燃料調合物から蒸発する可能性が低いか、または調合物内で分解する可能性が低い可能性があるため、結果として臨界期間で利用可能な添加剤はより高濃度になる。燃焼時に燃料調合物が晒される高温は、シクロデキストリンホストの分解とDTBPゲスト分子の揮発とを引き起こす可能性が高いことから、DTBPは、最も必要とされる時間で燃料中のそのセタン価を高める作用を付与するのに役立つ。したがって、改変シクロデキストリンは、安定性を向上させてDTBP添加剤の実効寿命を延長させるだけでなく、その送達を標的化することにも使用される可能性がある。
実施例2は、カルバゾール単独では、ベース燃料のセタン価に対してほとんど作用を示さないことを示す。しかしながら、驚くべきことに、カルバゾールは、改変シクロデキストリンに封入されると、特により高い添加剤供給率でベース燃料のセタン価を有意に増加させることができた。したがって、別の方式ではセタン価向上剤としての使用が期待できないと予想される化合物(実際には、理論上、オクタンブースターとしてより優れていると知られている)は、改変シクロデキストリン(I)と組み合わせればセタン価向上剤として使用できるようである。本発明者らはこの理論に拘束されることを望まないが、この作用は、封入された添加剤の溶解性が効果的に増加したことに起因する可能性があると考えられる。カルバゾール単独は、結晶質であり、ディーゼルには比較的不溶性である。カルバゾールは、より高い可溶性を有するシクロデキストリン内のゲスト分子として存在する場合、ディーゼル燃料調合物中によりよく分散させることができることから、セタン価を強化する作用を付与するためにさらに簡単に利用できるようになる。シクロデキストリンへの封入は、カルバゾール分子を可溶化し、且つその沈殿を抑制することから、カルバゾール分子をよりよく燃焼および酸化反応に参加できる状態に維持する。
NMA単独(実施例3)は、セタン価の抑制因子として作用することがわかる。しかしながら、驚くべきことに、NMAと改変シクロデキストリンとの組み合わせは、セタン価の低下をより少なくし、より高い添加剤供給率で、実際に全体的なセタン価の増加を達成できた。したがって、この場合でも、別の方式ではセタン価向上剤としての使用が期待できないと予想される化合物は、改変シクロデキストリン(I)と組み合わせればセタン価向上剤として使用できるようである。これは、優れたセタン品質を有するディーゼル燃料を生産したいと考えている燃料配合者にとって利用可能な選択肢を大いに増やすことができる。物質がセタン価向上剤またはオクタン価向上剤のいずれかとして作用するメカニズムはしばしば複雑であることから、この作用は特に驚くべきことである。本発明者らはこの理論に拘束されることを望まないが、この作用は、少なくとも部分的にNMAとシクロデキストリンとの分子間相互作用に起因する可能性があり、すなわち封入によって関連する官能基がより近接した状態になるためであると考えられる。例えば、NMAのアミン部分は、シクロデキストリンのエーテル部分と水素結合する可能性があるため、ゲスト分子の電子構造を変更して、もしかするとN−H結合を延伸させて弱くする可能性がある。この状況において、ラジカル形成がより容易に起こる可能性がある。カルバゾール−シクロデキストリン系においても類似の作用が起こっている可能性がある。
したがって、本発明に従って、改変シクロデキストリン(I)は、ディーゼル燃料調合物においてセタン価向上添加剤のための媒体として使用できることがわかる。シクロデキストリンへのセタン価向上剤の封入は、そのセタン価を高める活性に対して不利な作用はないようである。それとは逆に、封入は、燃料調合物中にセタン価向上剤を可溶化し、および/またはその安定性を向上し、それによりその活性を増加させるのに役立つ可能性がある。場合によっては、改変シクロデキストリン(I)への添加剤の封入により添加剤の活性の性質を改変して、別の方式では利用できない可能性があるセタン価向上作用をもたらすことが可能になる。
結果として、潜在的により広い範囲の活性物質が、ディーゼル燃料調合物中のセタン価向上剤として使用するために利用できるようになる可能性がある。さらに、改変シクロデキストリン媒体の活性を強化する作用によって、および/または添加剤の放出を標的化するシクロデキストリンの能力によって、DTBPなどの公知のセタン価向上剤をより低い濃度で使用できるようになる可能性がある。
実施例4−添加剤の放出
この実施例において、改変シクロデキストリンホスト分子からの封入されたセタン価向上剤の温度依存性の放出、すなわちセタン価向上剤の放出を標的化するためのシクロデキストリン使用の可能性を実証した。
実施例1の固体添加剤組成物を熱重量分析して、包接錯体からDTBP分子が放出される温度を決定した。比較のために、DTBP単独およびシクロデキストリン単独を同じ分析で処理した。3つのサンプルの結果を、図2A(シクロデキストリン単独)、図2B(DTBP単独)および図2C(包接錯体)に示す。実線は温度に対する質量損失を示し、点線は時間に対する質量損失の速度(すなわちdm/dt)を示す。質量損失は、有機分子の熱蒸発および/または熱分解を評価するのに有用な測定基準である。
図2から、改変シクロデキストリンは、約250〜380℃で質量損失を起こし始めることがわかる。封入されていないDTBPは、40から100℃の間で質量損失を起こす。しかしながら、シクロデキストリンホスト分子で活性物質が錯体化されている場合(図2C)、DTBPの質量損失は、150から250℃の間に起こる。このような質量損失の開始温度の増加は、シクロデキストリンホスト分子内にDTBPが封入されていることの裏付けになる。そこでシクロデキストリンとDTBPとの会合に打ち勝つにはより多くのエネルギーが必要であることから、揮発はより高温を必要とする。セタン価向上剤は、封入されていることにより、蒸発および/または熱分解から効果的に保護され得る。
これらの結果の実際的な関連は、図3A〜3Cで見ることができる。図3Aおよび3Bは、封入されていないDTBPおよび封入されたDTBPそれぞれのサンプルの質量損失を示す。図3Cは、典型的なFAME非含有ディーゼル燃料の蒸留(回収)曲線を示す。封入されていないDTBPの質量損失(図3A)は、蒸発および/または熱分解により起こり、50%質量損失の温度(T50%)は68℃であった。対照的に、封入されたDTBPの質量損失は、より高温の150℃で起こった。DTBP−CyD錯体の場合、4%の質量損失は、実験開始時における2%の質量のずれを差し引いた実際のDTBP濃度の3.5%を考慮に入れたおよそ50%のDTBP質量損失を表す。
図3から、封入は、ディーゼル軽質留分とよりよくオーバーラップする温度範囲に揮発性を抑制することがわかる。内燃機関で使用する際、点火後、軽質留分および封入された(より低い揮発性の)DTBPは同じ空気−燃料領域に存在すると予想されることから、セタン価を高める特性をより効果的に送達すると予想される。シクロデキストリンは、DTBPを早すぎる熱分解からも保護すると予想されることから、損失を低下させる。これらの2つのメカニズムは、DTBPが改変シクロデキストリン(I)と錯体化されている場合に観察された効力の増加に寄与すると考えられる。下記の実施例5は、このような活性を強化する作用が、ディーゼルエンジンでの使用中に実際に維持されることを確認する。
したがって、シクロデキストリンは、DTBPの揮発性を低下させ、DTBP−シクロデキストリン錯体が解離するまで効果的にその放出を遅らせる。これは、具体的な温度状態にDTBPの送達を標的化するのに使用できる。例えば、典型的なディーゼルエンジンの燃料コモンレールまたはインジェクター内の稼働温度は、それぞれ60〜150℃または60〜220℃の範囲である可能性が高い。セタン価向上剤の作用が特に役に立つところは、ディーゼルエンジンの燃焼室である。しかしながら、DTBPなどの封入されていない添加剤は、燃料噴射装置に到達する前に揮発または熱分解によって失われる可能性がある。改変シクロデキストリン(I)は、燃焼向上の促進が最も求められるより高温の燃料噴射装置または燃焼室内のポイントまで添加剤の放出を遅延させるのに使用できることから、その有効性を効果的に増加させる。
同時に、実施例1〜3および5から、添加剤の封入は、燃料調合物においてそのセタン価を向上させる作用を大きく損なうことはなく、実際にはそのような作用を増加させることが多いことが実証される。
NMAなどの他の活性物質は、式(I)の改変シクロデキストリンへの封入による類似の熱安定性の強化から利益を得る可能性があることが発見された。
実施例5−EHN添加剤
本発明に従って、混練法を使用してヘプタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリン(TRIMEB)を公知のセタン価向上剤であるEHNとブレンドすることによって固体添加剤組成物を調製した。組成物は、ガスクロマトグラフィーによって決定したところ9〜10%w/wのEHN濃度を有していた。EHNは、シクロラボR&Dラボラトリー(ハンガリー)から供給された。
次いで本発明に従って、得られた添加剤組成物を、完成した燃料調合物においてそれぞれ200および400ppmwのEHNに相当する2,000および4,000ppmwの両方の供給率でディーゼル用ベース燃料BF2とブレンドすることによってディーゼル燃料調合物を調製した。
ベース燃料BF2は、シェルのグループ会社から供給され、欧州のディーゼル燃料の仕様EN590に準拠する7%v/vのPOMEを含有するB7ディーゼル用ベース燃料であった。B7ディーゼル用ベース燃料は、洗浄剤またはセタン価向上添加剤をまったくを含有していなかった。以下の表3にその特性をまとめた。
完成した調合物中の660ppmwの総EHN含量(封入された分子と封入されていない分子の両方を包含する)に相当する、600ppmwのEHN−TRIMEB添加剤組成物および追加の600ppmwのEHNを含有するさらなる調合物を調製した。ブレンドは、添加剤組成物をベース燃料に混合して、固体が完全に溶解するまでこの混合物をかき混ぜることによって実行された。
燃料調合物中におけるセタン価向上剤の有効性を評価するために、標準的な試験方法であるIP498/06を使用して、それらのIQTセタン価を測定した。加えて、標準的な試験方法であるASTM D613(「定容チャンバーでの燃焼によるディーゼル燃料油の点火遅れおよび導出セタン価(DCN)の決定(Determination of Ignition Delay and Derived Cetane Number (DCN) of Diesel Fuel Oils by Combustion in a Constant Volume Chamber)」)を使用して、調査用エンジンで調合物のセタン価も試験した。
比較目的で、ベース燃料単独と、封入されていないEHN、すなわち改変シクロデキストリンの非存在下でEHNを有するベース燃料のブレンドとでIQTおよび調査用エンジンのセタン価の両方も測定した。
以下の表4にセタン価測定の結果を示す。「DCN(IQT)」は、IP498/06によるセタン価を指し;「CN(RE)」は、調査用エンジンを使用して測定されたセタン価を指し;「EHN−TRIMEB」は、改変シクロデキストリンとEHN添加剤とで形成されたホスト−ゲスト錯体を指す。記載された「活性物質」濃度は、EHN単独を指す。
表4から、EHNは、シクロデキストリン包接錯体内のゲスト分子として存在する場合でさえもセタン価向上剤としての機能を維持することがわかる。さらに、その封入は、そのセタン価を向上させる活性を強化するようである((a)400ppmwのEHNおよび(b)400ppmwの活性EHNに等しい4,000ppmwのEHN−TRIMEB錯体を含有する調合物の値と比較して)。
実施例6−改変シクロデキストリンの選択
2種の式(I)の改変シクロデキストリン、および比較用の未修飾シクロデキストリンを試験して、それらのディーゼル燃料中での溶解性および安定性を評価した。
シクロデキストリンは、前の実施例で使用されたTRIMEB;ヘプタキス(2,6−ジ−O−n−ブチル)−β−シクロデキストリン(RABUB);および未改変β−シクロデキストリン(R1=R2=R3=水素)であった。RABUBは、シクロラボR&Dラボラトリー(ハンガリー)から供給され、未修飾シクロデキストリンは、シグマ−アルドリッチから供給された。
試験された燃料は、(a)ディーゼル用ベース燃料および(b)冬季グレードのフィッシャー−トロプシュ由来ディーゼル燃料であった。
それぞれのケースにおいて、シクロデキストリンを1,000ppmwの濃度および室温で燃料に添加した。
未改変β−シクロデキストリンは、ディーゼル用ベース燃料およびフィッシャー−トロプシュ由来燃料の両方において不溶性であることが見出された。これは、US3,314,884では一般例としてシクロデキストリンが挙げられていたが、典型的なディーゼル燃料調合物において、未改変分子は添加剤または添加剤用媒体として不適当であることを実証する。
TRIMEBは、長い溶解時間を要したが、ディーゼル用ベース燃料中で透明で明るい色の溶液になった。フィッシャー−トロプシュ由来燃料中では、それより長い溶解時間で部分的に溶解させることができた。したがって、TRIMEBは、より高い極性の環境ではより高い溶解性を示すようである。
RABUBは、ディーゼル燃料中では極めてよく溶解するようであり、透明で明るい色の溶液を形成した。またRABUBは、試験されたシクロデキストリンのなかでは最も早く溶解した。それゆえに他のアルキル化β−シクロデキストリン、特にC2またはそれより高次のアルキル基、例えばC3〜C8アルキル基で置換されたβ−シクロデキストリンも、自動車用ディーゼル燃料に可溶性であること、ならびにセタン価向上剤および他の添加剤のための媒体としてこのような燃料での使用に好適であることが期待できる。
実施例7−さらなるシクロデキストリンの溶解性
3種のさらなる式(I)の改変シクロデキストリンを、ディーゼル用ベース燃料中での溶解性に関して試験した。
シクロデキストリンは、それぞれエチル基で置換されたアルキル化β−シクロデキストリン(RAEBと称される化合物)、プロピル基で置換されたアルキル化β−シクロデキストリン(RAPB)およびオクチル基で置換されたアルキル化β−シクロデキストリン(RAOB)であった。それぞれのケースにおいて、R1、R2およびR3の位置は、関連するアルキル基でランダムに置換されており、各分子中の残基1つあたり、3つの位置のうち平均して少なくとも2つの位置で置換されていた。プロピルおよびオクチル置換基は、直鎖状および分岐状鎖アルキル基の混成であった。3種の化合物は全て、シクロラボR&Dラボラトリー(ハンガリー)から供給された。
ベース燃料は、7%v/vのPOMEを含有するB7ディーゼル用ベース燃料であった。シクロデキストリンを1,000ppmwの濃度および室温で燃料に添加した。それらのおよその溶解速度および得られた溶液の物理的な外観を目視で評価した。以下の表5にその観察をまとめた。「秒単位の溶解時間」とは、数秒(すなわち1分未満)でシクロデキストリンが溶解したことを示し、「分単位の溶解時間」とは、数分以内ただし1時間未満で溶解したことを意味し、「時間単位」とは、溶解するのに1時間より長くかかったことを意味する。
表5から、試験された全てのアルキル化シクロデキストリンは、優れた、または少なくとも適度なディーゼル燃料への溶解性を有していたことがわかる。溶解性の程度および溶解速度は、シクロデキストリンおよび燃料それぞれの極性に関連があるようである。シクロデキストリンの極性は、RAOBでは低く、RAEBまで高く増加する。比較的低い極性のB7ディーゼル燃料において、最も低い極性のシクロデキストリンであるRAOBが、その迅速な溶解時間で証明されたように最も簡単に溶解した。したがって、改変シクロデキストリン(I)の使用が意図される具体的なタイプの燃料に合わせてその親和性が増加するように、改変シクロデキストリン(I)上の置換基を設計してもよい。
実施例8−添加剤の安定性
B7ディーゼル用ベース燃料に溶解させた1,000ppmwのTRIMEBを含有する調合物を、およそ20℃、−2℃および−20℃で6ヶ月間保存した。6ヶ月間にわたり所定の時間間隔で、この調合物を室温で安定化させて目視で評価した。最も低い温度で保存した場合でも、全て透明で明るい色であることが見出された。
これらの結果から、式(I)の改変シクロデキストリンは、溶解性または安定性の問題がない、炭化水素ベースのディーゼル燃料調合物での使用に好適であり得ることが示される。
追加の試験で、最大10,000ppmwのTRIMEBを含有させたが、B7ディーゼル用ベース燃料の蒸留特性に有意な作用はなかったことが見出された。
この実施例ならびに実施例6および7の結果は、ディーゼル燃料調合物中のセタン価向上添加剤用媒体としての式(I)の改変シクロデキストリン、特にアルキル化シクロデキストリンの有用性の裏付けとなる。またこれらの結果は、所定のあらゆる調合物におけるそれらの溶解性および安定性が最適化されるように置換基R1〜R3を設計できることから、これらの化合物の「調整しやすさ(tuneability)」も実証する。