JP2016224007A - 皮革の動物種を判定する方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】皮革材料や皮革製品の動物種を判定する方法を提供する。【解決手段】皮革に含まれるコラーゲンのトリプシン分解物であって、特定のアミノ酸ペプチドの2種以上の有無を指標とし、前記皮革の動物種を特定することを特徴とする。皮革が、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタおよびシカのいずれに由来するかを判定することができる。分解しやすいDNA配列に代えてアミノ酸配列で特定するため、精度が高く、LC/MS/MSで測定できるため迅速な判断が可能である。【選択図】なし

Description

本発明は、皮革に含まれるコラーゲンのトリプシン分解物を使用して当該皮革の動物種を判定する方法に関する。
一部に皮革を使用する製品は多く、バッグ、財布、ベルト、靴、手袋、衣料などに多用されている。書類カバン、ボストンバッグ、スーツケース、トランク、ランドセル等のかばん類は、外面積の60%以上に表皮付きのウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ由来の皮革が使用されている場合、家庭用品品質表示法によって皮革の種類を表示することが義務付けられている。また、表面積の50%以上にウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ、ブタ、ウマ由来の皮革が使用される衣類や、表面積の50%以上にウシ、ブタ、ペッカリー、ヒツジ、ヤギ、シカ、イヌ由来の皮革が使用される手袋も同様である。皮革の種類によって価値が異なるため、上記以外の製品でも正しい表示が求められる。
現在、皮革の動物種の判別は、電子顕微鏡による表面及び断面構造の観察と、毛穴及び繊維の形態の違いにより行われることが多い。しかしながら、皮革製品の製造工程において毛穴が塞がれたり皺が伸ばされたりする場合があり、熟練した専門家でなければ判断が困難である。特に、ウシとウマや、ヤギとヒツジなどは構造が類似するため正確な判別は容易でない。
一方、天然皮革製品の判定法として、皮革製品の表面被膜から物理的に採取した試験片にコラゲナーゼを作用させ、DNAを抽出し、予測される動物種特有のプライマーを用いて種特有のDNA断片を増幅し、動物種を判断する、天然皮革製品の判別法がある(特許文献1)。皮革材料は、製品になるまでに種々の処理を受け、皮革に含まれるDNA量も少なく損傷を受けることも多い。したがって、採取した表面被膜にコラゲナーゼを作用させてDNAを抽出し、これに基づいて動物種を判別するというものである。DNAとしては、保存性が比較的良いとされるミトコンドリアDNAの中でも変異率が高く、生物種ごとに特有の配列を持つとされるチトクロームb遺伝子の配列が利用され、種特異性の高いプライマーを利用し、このプライマーを用いて抽出DNAを増幅し、動物種を判定している。
特開2003−125781号公報
しかしながら、特許文献1記載の方法は、皮革から採取した試験片からDNAを抽出するため、DNAの抽出に時間がかかり、迅速な動物種の判定は困難である。また、DNAに基づいて判定するため、抽出したDNAを増幅し、および電気泳動により分離する必要があり、操作も煩雑である。しかも、新たにブタとウシ種判定用プライマーを1種ずつ特定したものの、この特定のウシ種判定用プライマーで増幅されたことを根拠に判定対象の皮革を「ウシ由来」と判定するに過ぎず、ウシ種判定用プライマーで増幅されない場合に、ウシ種以外のどの動物種に由来するかの判定を行うことができない。ブタも同様である。
一方、アミノ酸から構成されるペプチドやタンパク質は、DNAよりも安定性に優れる。ただし、1種のアミノ酸ペプチドに基づいて判定する場合には、動物種に特異な配列を特定する必要があり、そのような配列が特定できない場合には、その動物種でないことがわかるのみで、前記特許文献1と同様にどの動物種に由来するかの判定を行うことができない。
更に、形態観察などのように熟練した能力が要求されると、そのような能力ある専門家の数に依存するため、多数の試料を処理することが困難となる。
更に、動物種の判定は、皮革製品に限定されず、加工前の鞣し皮においても重要である。皮革を使用した製品には、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギの他、ウマやシカなども存在し、これらも正確に動物種を判定できることが望まれる。
上記現状に鑑み、本発明は、皮革の構造に習熟した専門家でなくても、簡便かつ迅速に動物種の判定を行う方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、各種動物の皮革に含まれるコラーゲンのトリプシン分解物を詳細に検討し、トリプシン分解物に含まれる特定の2種以上のアミノ酸ペプチドを組み合わせることで、当該皮革の動物種を判定できること、このようなアミノ酸ペプチドを5種以上組み合わせると、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギおよびシカを区別しうることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、皮革に含まれるコラーゲンのトリプシン分解物であって、下記表1に示される配列番号1〜6からなる群から選択されるアミノ酸ペプチドの2種以上の有無を指標とし、前記皮革の動物種を特定することを特徴とする、皮革の動物種を判定する方法を提供するものである。
また本発明は、前記配列番号2と3とを使用し、動物種がヒツジとヤギとのいずれであるかを判定することを特徴とする、前記皮革の動物種を判定する方法を提供するものである。
また本発明は、前記配列番号2と5とを使用し、動物種がウシとウマとのいずれであるかを判定することを特徴とする、前記皮革の動物種を判定する方法を提供するものである。
また本発明は、前記配列番号1〜6のいずれか5種以上を使用し、下記表2に従って、前記皮革の動物種が、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタまたはシカのいずれであるかを判定することを特徴とする、前記皮革の動物種を判定する方法を提供するものである。
また本発明は、皮革が、鞣し皮または皮革製品の一部であることを特徴とする、前記皮革の動物種を判定する方法を提供するものである。
また本発明は、前記アミノ酸ペプチドの有無は、LC/MS/MSによって測定することを特徴とする、前記皮革の動物種を判定する方法を提供するものである。
本発明の皮革の動物種を判定する方法によれば、皮革由来のコラーゲンのトリプシン分解物に含まれるアミノ酸ペプチドの有無を測定することで、当該皮革がウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタおよびシカのいずれに由来するかを判定することができる。
実施例1の皮革(ウシ)のLC/MS/MS分析の結果を示す図である。 実施例2の皮革(ウマ)のLC/MS/MS分析の結果を示す図である。 実施例3の皮革(ヒツジ)のLC/MS/MS分析の結果を示す図である。 実施例4の皮革(ヤギ)のLC/MS/MS分析の結果を示す図である。 実施例5の皮革(ブタ)のLC/MS/MS分析の結果を示す図である。 実施例6の皮革(シカ)のLC/MS/MS分析の結果を示す図である。
本発明は、皮革に含まれるコラーゲンのトリプシン分解物であって、下記表に示される配列番号1〜6からなる群から選択されるアミノ酸ペプチドの2種以上の有無を指標とし、前記皮革の動物種を特定することを特徴とする、皮革の動物種を判定する方法である。下記表に示すアミノ酸配列において、Oはヒドロキシプロリンを示す。配列番号1で示すアミノ酸配列は、I型コラーゲンα1鎖のN末端側の3重螺旋開始アミノ酸を1とする場合に第316〜327番目の12個のアミノ酸に相当し、同様に配列番号2はI型コラーゲンα1鎖のN末端側の3重螺旋開始アミノ酸から第733〜756番目の24個のアミノ酸に相当する。動物種の判定においてアミノ酸ペプチドを指標とすれば、DNAを使用する場合と比較して短時間で処理でき、かつDNAよりも安定性が高いため判定精度を高く維持することができる。以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において「皮革」とは、動物の皮膚の生のままの原皮、前記原皮を鞣した鞣し皮、前記鞣し皮を使用した皮革製品を含む。
本発明では動物種を判定するアミノ酸ペプチドとして、皮革に含まれるコラーゲン由来のアミノ酸ペプチドを用いる。本来、コラーゲンのアミノ酸配列は動物間によって近似し、ゆえに抗原性の少ない生体材料として使用される場合も多い。しかしながら、種々の動物から得たコラーゲンのトリプシン分解物を詳細に検討したところ、前記トリプシン分解物を構成するアミノ酸ペプチドの2種以上を組み合わせることで、動物種を判定できることが判明した。
コラーゲンは、3本のポリペプチド鎖の三重螺旋構造を基本単位とし、−(Gly−アミノ酸X−アミノ酸Y)n−で示される、いわゆる「コラーゲン様配列」と呼ばれる一次構造を有する。生体内で前記一次構造を有するペプチド鎖が翻訳された後に、プロリンやリジンがそれぞれヒドロキシプロリンやヒドロキシリジンに変換され、前記三重螺旋構造を形成する。コラーゲンには、I型からXXVIII型までが知られ、生体を構成する部位によって異なるコラーゲン型が主成分となるが、いずれも上記一次構造と三重螺旋構造とを有する点で共通する。皮革に含まれるコラーゲンは、I型を主成分とすることが知られ、これを抽出してトリプシン分解することで、本発明の動物種の判定方法の測定試料として利用することができる。
本発明では、上記配列番号1〜6に示すアミノ酸ペプチドの2種以上を使用し、その有無により動物種を特定する。従来から1種のアミノ酸ペプチドを使用する判定法も存在したが、動物種に特異な1種のアミノ酸ペプチドを特定すること自体が容易でない。特に、コラーゲンは動物種間で配列が近似するため、動物種に特異なアミノ酸配列のアミノ酸数が多くなる。また、結合数の多いアミノ酸ペプチドを指標とする場合には、皮革からコラーゲンを抽出する過程で当該アミノ酸ペプチド結合の分解や、アミノ酸の修飾が起こると、当該動物種であるとの判定を行うことができず、判定精度が低下する。しかも、このようなアミノ酸ペプチドを特定する困難性に鑑みて、判定できる動物種も低減する。しかしながら、本発明では、アミノ酸数が12〜24のアミノ酸ペプチドの2種以上、好ましくは3種以上、より好ましくは5種以上、特に好ましくは6種を使用し、その有無を組み合わせるため、判定精度を向上させることができる。しかも、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、シカという多くの動物種を判定することができる。
表1に示す配列番号1〜6で示すアミノ酸ペプチドの有無と、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、シカとの関係を下記表2に示す。
例えば、皮革由来のコラーゲンのトリプシン分解物が、配列番号1、2および4のアミノ酸ペプチドを含み、配列番号3、5および6のアミノ酸ペプチドを含まない場合には、当該皮革の動物種を「ウシ」と判定する。一方、例えば、配列番号1、2、3および4のアミノ酸ペプチドを含み、配列番号5および6のアミノ酸ペプチドを含まない場合は、表2のいずれの動物種にも該当しない。この場合には、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、シカのいずれにも該当せず、「不明」と判定する。
一方、表2を利用し、ヒツジとヤギとの判定は、配列番号2と配列番号3との組み合わせによって判定することができる。従来から、皮革表面の毛穴や断面図などでは、ヒツジとヤギとの判定が困難であった。しかしながら、皮革表面の外観観察によってヒツジかヤギのいずれであるかが決定されている場合には、配列番号2と配列番号3との組み合わせにより、配列番号3を有し、配列番号2を有しないものをヒツジと判定し、また、配列番号3を有さず、配列番号2を有するものをヤギと判定することができる。なお、原理的には、配列番号2のみ、配列番号3のみを用いてヒツジとヤギとの判定を行うことも可能である。しかしながら、本願発明では、アミノ酸配列の有無を基準に動物種を判定するため、検出誤差を考慮して少なくとも2以上のアミノ酸配列を使用する。配列番号2と配列番号3とを用いてヒツジとヤギとを判定する際の組み合わせを下記表に示す。下記表において、「+」は、トリプシン分解物に当該アミノ酸ペプチドを検出する場合を意味し、「−」は、当該アミノ酸ペプチドを検出しない場合を意味する。
同様に、皮革表面の毛穴や断面図など外観観察の結果、ウシかウマかの判定が求められている場合には、配列番号2と配列番号5との組み合わせによりいずれの動物種であるかを判定することができる。これにより、従来から判別が容易でなかったウシとウマの判別を、迅速に行うことができる。配列番号2と配列番号5とを用いてウシとウマとを判定する際の組み合わせを下記表に示す。下記表において、「+」は、トリプシン分解物に当該アミノ酸ペプチドを検出する場合を意味し、「−」は、当該アミノ酸ペプチドを検出しない場合を意味する。
一方、皮革が、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタおよびシカのいずれの動物種に由来するかを、例えば、配列番号1〜配列番号5を使用して判定することができる。判定基準を下記表に示す。なお、何れにも該当しない場合は、「不明」と判定する。
同様に、配列番号2〜配列番号6を使用しても、その有無により、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタおよびシカのいずれの動物種に由来するかを判定することができる。判定基準を下記表に示す。
配列番号1と配列番号3〜配列番号6を使用する場合の判定基準を下記表に示す。
配列番号1、配列番号2および配列番号4〜配列番号6を使用する場合の判定基準を下記表に示す。
配列番号1〜配列番号3と配列番号5、配列番号6を使用する場合の判定基準を下記表に示す。
配列番号1〜配列番号4と配列番号6を使用する場合の判定基準を下記表に示す。
一方、上記配列番号1〜6の全てを使用すれば、動物種が「ウシ」である場合に、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタおよびシカのいずれかの動物種として判定される誤判定を回避することができる。配列番号1〜6で示すアミノ酸ペプチドは、表2に示すように各動物間で相互に2以上の相違を有する。このため、たとえ他のアミノ酸ペプチドの有無についてミスが生じた場合でも、本来の動物種以外の動物種として判定される誤判定を回避することができる。「ウシ」で例示すれば、配列番号1、2および4のアミノ酸ペプチドを含み、配列番号3、5および6のアミノ酸ペプチドを含まない場合に該当するが、アミノ酸ペプチドの分析結果が、配列番号1、2、3および4のアミノ酸ペプチドを含み、配列番号5および6のアミノ酸ペプチドを含まないと認定された場合は、表2の何れにも該当せず「不明」となる。このことは、ウシ以外のウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタおよびシカのいずれかに誤って判断される誤判定を回避できることを意味する。本発明によれば、このような誤判定を回避し、より正確に動物種の判定を行うことができる。
上記アミノ酸ペプチドの有無を評価する方法は、特に限定されない。例えば、液体クロマトグラフィーなどによりコラーゲンのトリプシン分解物から上記アミノ酸ペプチドを分離し、ペプチドシークエンスなどにより確認しつつ、その有無を評価することができる。また、LC/MSやLC/MS/MSなどであってもよい。本発明は、LC/MS/MSによって分析することが好適である。LC/MS/MSによれば、LC部でトリプシン分解物をカラムとの親和性によって分離でき、イオン化してから、MS部で更に質量ごとに分離して検出することができるため、一連の操作を迅速に行うことができる。特に、3連4重極型質量分析装置を用いれば、1段目の4重極部でプレカーサーイオンを選択し、2段目の衝突室でそのイオンを壊して、3段目の4重極部で前記壊して得たプロダクトイオンの中から特定のイオンを検出する多重反応モニタリング方法(MRMモード)を設定することができるため、特異性の高い判定が可能となる。さらに、一度の測定で複数のチャンネルを設定することができるため、多成分の分析が可能となる。
本発明では、皮革由来コラーゲンのトリプシン分解物が、上記表1で特定する配列番号1〜6のアミノ酸ペプチドを含むか否かを分析し、その結果を上記表2と整合し、動物種を判定するものである。LC/MS/MS分析において、前記配列番号1〜6のアミノ酸ペプチドのプレカーサーイオンを特定し、発生するプロダクトイオン(測定イオン)を検出することで、当該アミノ酸ペプチドが含まれていると分析することができる。更に、別のプロダクトイオン(確認イオン)を特定し、その有無から確実性をさらに高くできる。測定イオンと確認イオンとを検出することで、確実にその有無を評価することができる。
本発明では、動物種判定に使用するアミノ酸ペプチドはわずか6種である。各アミノ酸ペプチドに対応するプレカーサーイオンや測定イオン、更には確認イオンの検出条件を予め設定し、一度の分析で上記6種を同時に分析することで、簡便に動物種の判定を行うことができる。
更に、判定対象の皮革から抽出したコラーゲンのトリプシン分解物をLC/MS/MSにて分析して動物種を判定する場合、LC/MS/MS分析装置に更に判定用の電子機器を配設し、前記電子機器の記憶部に予め表2の内容を記憶させ、演算部にLC/MS/MS分析装置の配列番号1〜6の結果を入力させ、前記表2の動物種と入力結果とを関連づけて動物種を判定させることができる。判定結果は、印字またはディスプレイ等に表示させてもよい。
動物種を判定するためのコラーゲンのトリプシン分解物は、定法により調製することができる。たとえば、皮革からコラーゲンまたはゼラチンを抽出し、これをトリプシンで分解すればよい。トリプシン分解物に限定したのは、入手が容易で、かつコラーゲン分解の再現性に優れるからである。なお、コラーゲンの分解にコラゲナーゼを使用する場合もあるが、本発明ではコラゲナーゼを使用しない。コラゲナーゼはGly−アミノ酸X−アミノ酸Yまで分解し、特異性を失ってしまうためである。
トリプシン分解物の調製には、例えば、原皮やタンニン鞣し皮などの皮革の一部を水中で加熱した後にトリプシンを添加して分解すればよい。皮革片は、抽出効率を高めるため、細切断することが好ましい。例えば、1mm角に切断した皮革を使用する。これを1〜20倍の水に投入し、加熱する。加熱処理は、温度50〜100℃、好ましくは60〜90℃、特に好ましくは70〜90℃である。加熱時間は、試験片のサイズにもよるが、5分から2時間、好ましくは10分から1時間、特に好ましくは20分から50分である。これにより皮革に含まれるコラーゲンがゼラチン様に変化する。
次いで、コラーゲンがゼラチン様に変化した皮革に、温度15〜60℃でトリプシンを作用させる。反応時間は、1〜24時間、好ましくは2〜16時間、特に好ましくは4〜16時間である。この際、反応液に緩衝液その他を添加してもよい。緩衝液としては、トリス塩酸緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液などがある。更に添加しうる試薬としては、塩化カルシウムなどの安定化剤、ドデシル硫酸ナトリウムや尿素などの変性剤などがある。遠心分離し、不要の固形分などを除去し動物種判定用の試験液とすることができる。
上記したように、皮革の加熱処理とトリプシン処理との双方の処理時間を含めて、最短で約5時間で測定用の試料を調製することができる。
なお、クロム鞣し皮や皮革製品の動物種を判定する場合には、クロム鞣しによる影響を除去する必要がある。このため、試験片を細切断した後に、皮革に対して1〜20倍の0.25%水酸化カルシウム溶液を加えて10分〜24時間、好ましくは30分から10時間、特に好ましくは1〜5時間振盪し、水洗後、0.3M硫酸を加えて2〜60分、好ましくは5〜30分、特に好ましくは10〜30分間振盪し、その後、水洗する。次いで、この水洗試験片を上記と同様に加熱処理し、およびトリプシン処理すればよい。
本発明の皮革の動物種を判定する方法において、トリプシン分解物に含まれるアミノ酸ペプチドをLC/MS/MSで測定する場合には、測定時間が10分で済む。上記したように、たとえクロム鞣し皮や皮革製品の動物種を判定する場合に水酸化カルシウム水溶液による処理や硫酸による処理を加えても、1日で判別を行うことができる。
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
各実施例で調製したサンプルのLC/MS/MS条件は以下に従った。
(1)装置
高速液体クロマトグラフ(アジレント・テクノロジー社製:1200シリーズ)と質量分析装置(株式会社エービーサイエックス製、3200QTRAP)を含むLC/MSを使用した。
(2)HPLC条件
分析カラム:Ascentis Express C18 15cm×2.1mm×5μm
移動相:A液;0.1%ギ酸、B液;100%アセトニトリル
グラジエント条件:0−2分:A液98%、2−6分:A液98−40%、6.1−8分:A液40−10%、8.1−10分:A液98%
流速:500μl/min
カラム温度:40℃
注入量:2μl
(3)質量分析条件
イオン化:ESI、ポジティブ
分析モード:Multiple Reaction Monitoring(MRM)モード
イオンスプレー電圧:4.0kV
イオンソース温度:700℃
(実施例1)
(1)サンプルの調製
(i)ウシ皮革と表示された中国製皮革から試験片0.5gを切り出し、これを1mm角に細切断した。これを0.25%水酸化カルシウム溶液10mLに浸漬し24時間振盪し、その後、溶液を7回水洗した。次いで、0.3Mの硫酸溶液10mLを加えて60分間振盪し、その後試験片を7回水洗した。
(ii)前処理した試験片を5片採取し、水200μLを加え、80℃で30分間加熱した。
(iii)次いで、水を除去し、0.1Mトリス塩酸バッファー(pH 7.6)、1mM塩化カルシウム、更に、0.025 mg/mlトリプシン(総液量200μL)を添加し、37℃で一晩静置させた。
(iv)その後、1.0%ギ酸でpH2.8に調整し、遠心分離した後、不要の固形分などを除去し、LC/MS/MS分析用サンプルとした。
この分析用サンプルを使用し、LC/MS/MS分析を行った。MRMのチャートを図1に示す。上記表1に示す配列番号1:GFOGADGVAGPK、配列番号2:GETGPAGROGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGKのピークが検出され、かつ配列番号3、5および6のピークを検出しなかった。これらアミノ酸ペプチドの有無と表2に示す動物種との関係から、皮革の動物種を「ウシ」と判定した。
上記と同様にして、更に、ウシ皮革と表示された中国製皮革2品、日本製皮革3品、イタリア製皮革3品、インド製皮革3品、パキスタン製皮革3品、米国製皮革3品、北米製(国は不明)皮革1品、バングラディッシュ製皮革2品について動物種を判定した。その結果、全ての皮革から、配列番号1:GFOGADGVAGPK、配列番号2:GETGPAGROGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGKのピークを検出し、かつ配列番号3、5および6のピークを検出しなかった。この結果に基づいて、これら皮革の動物種は「ウシ」と判定した。
(実施例2)
ウシ皮革と表示された中国製皮革に代えてウマ皮革と表示された北米製(国は不明)皮革を使用した以外は、実施例1と同様に操作して、LC/MS/MS分析用サンプルを調製した。
この分析用サンプルを使用し、LC/MS/MS分析を行った。MRMのチャートを図2に示す。上記表1に示す配列番号1:GFOGADGVAGPK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号5:GPOGESGAAGPAGPIGSRのピークが検出され、かつ配列番号2、3および6のピークを検出しなかった。これらアミノ酸ペプチドの有無と表2に示す動物種との関係から、皮革の動物種を「ウマ」と判定した。
上記と同様にして、更に、ウマ皮革と表示されたフランス製皮革1品、日本製皮革2品、ポーランド製皮革3品、欧州製皮革3品、モンゴル製皮革1品について動物種を判定した。その結果、上記全ての皮革から、配列番号1:GFOGADGVAGPK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号5:GPOGESGAAGPAGPIGSRのピークを検出し、かつ配列番号2、3および6のピークを検出しなかった。この結果に基づいて、これら皮革の動物種は「ウマ」と判定した。
(実施例3)
ウシ皮革と表示された中国製皮革に代えてヒツジ皮革と表示された日本製皮革を使用した以外は、実施例1と同様に操作して、LC/MS/MS分析用サンプルを調製した。
この分析用サンプルを使用し、LC/MS/MS分析を行った。MRMのチャートを図3に示す。上記表1に示す配列番号3:AGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークが検出され、かつ配列番号1、2および5のピークを検出しなかった。これらアミノ酸ペプチドの有無と表2に示す動物種との関係から、皮革の動物種を「ヒツジ」と判定した。
上記と同様にして、更に、ヒツジ皮革と表示された日本製皮革2品、パキスタン製皮革3品、イタリア製皮革5品、インドネシア製皮革2品、中国製皮革3品、インド製皮革3品について動物種を判定した。その結果、中国製皮革1品を除いた以外は全て、配列番号3:AGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークを検出され、かつ配列番号1、2および5のピークを検出しなかった。この結果に基づいて、これら皮革の動物種は「ヒツジ」と判定した。
一方、「ヒツジ」と判定されなかった上記中国製皮革1品は、配列番号2:GETGPAGROGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークを検出し、かつ配列番号1、3および5のピークを検出せず、「ヤギ」と判定された。
なお、ヒツジ皮革と表示され「ヤギ」と判定された上記中国製皮革1品について、電子顕微鏡を用いて断面図と表面から動物種の判定を行った。断面図から「ヒツジ」または「ヤギ」に絞れたが、表面の毛穴が確認できなかったため、「ヒツジ」と「ヤギ」のいずれであるかを判定することはできなかった。
(実施例4)
ウシ皮革と表示された中国製皮革に代えてヤギ皮革と表示されたインド製皮革を使用した以外は、実施例1と同様に操作して、LC/MS/MS分析用サンプルを調製した。
この分析用サンプルを使用し、LC/MS/MS分析を行った。MRMのチャートを図4に示す。上記表1に示す配列番号2:GETGPAGROGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークが検出され、かつ配列番号1、3および5のピークを検出しなかった。これらアミノ酸ペプチドの有無と表2に示す動物種との関係から、皮革の動物種を「ヤギ」と判定した。
上記と同様にして、更に、ヤギ皮革と表示されたインド製皮革2品、インドネシア製皮革3品、中国製皮革3品、パキスタン製皮革3品、イタリア製皮革1品について動物種を判定した。その結果、中国製皮革製品1品以外は全て、配列番号2:GETGPAGROGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークが検出され、かつ配列番号1、3および5のピークを検出しなかった。この結果に基づいて、これら皮革の動物種は「ヤギ」と判定した。
上記「ヤギ」と判定されなかった中国製皮革1品は、配列番号3:AGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークを検出し、かつ配列番号1、2および5のピークを検出せず、「ヒツジ」と判定された。
なお、ヤギ皮革と表示され「ヒツジ」と判定された上記中国製皮革1品について、電子顕微鏡を用いた動物種の判定を行った。その結果、断面の繊維構造と表面の毛穴から「ヒツジ」と判定された。
(実施例5)
ウシ皮革と表示された中国製皮革に代えてブタ皮革と表示された日本製皮革を使用した以外は、実施例1と同様に操作して、LC/MS/MS分析用サンプルを調製した。
この分析用サンプルを使用し、LC/MS/MS分析を行った。MRMのチャートを図5に示す。上記表1に示す配列番号1:GFOGADGVAGPK、配列番号5:GPOGESGAAGPAGPIGSR、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークが検出され、かつ配列番号2、3および4のピークを検出しなかった。これらアミノ酸ペプチドの有無と表2に示す動物種との関係から、皮革の動物種を「ブタ」と判定した。
上記と同様にして、更に、ブタ皮革と表示された日本製皮革2品、中国製皮革3品について動物種を判定した。その結果、全て、配列番号1:GFOGADGVAGPK、配列番号5:GPOGESGAAGPAGPIGSR、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークが検出され、かつ配列番号2、3および4のピークを検出しなかった。この結果に基づいて、これら皮革の動物種は「ブタ」と判定した。
(実施例6)
ウシ皮革と表示された中国製皮革に代えてシカ皮革と表示されたニュージーランド製皮革を使用した以外は、実施例1と同様に操作して、LC/MS/MS分析用サンプルを調製した。
この分析用サンプルを使用し、LC/MS/MS分析を行った。MRMのチャートを図6に示す。上記表1に示す配列番号1:GFOGADGVAGPK、配列番号2:GETGPAGROGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号5:GPOGESGAAGPAGPIGSR、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークが検出され、かつ配列番号3のピークを検出しなかった。これらアミノ酸ペプチドの有無と表2に示す動物種との関係から、皮革の動物種を「シカ」と判定した。
上記と同様にして、更に、シカ皮革と表示されたニュージーランド製皮革製品2品、日本製皮革製品3品について動物種を判定した。その結果、全て、配列番号1:GFOGADGVAGPK、配列番号2:GETGPAGROGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号5:GPOGESGAAGPAGPIGSR、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークが検出され、かつ配列番号3のピークを検出しなかった。この結果に基づいて、これら皮革の動物種は「シカ」と判定した。
(比較例1)
ウシ皮革と表示された中国製皮革に代えてシカ皮革と表示されたイタリア製皮革を使用した以外は、実施例1と同様に操作して、LC/MS/MS分析用サンプルを調製した。
この分析用サンプルを使用し、LC/MS/MS分析を行ったところ、上記表1に示す配列番号1:GFOGADGVAGPK、配列番号2:GETGPAGROGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークが検出され、かつ配列番号3および配列番号5のピークを検出しなかった。これらアミノ酸ペプチドの有無は、表2に示す動物種のいずれにも該当せず、「不明」と判定した。
上記と同様にして、更に、シカ皮革と表示されたイタリア製皮革製品2品、米国製皮革製品3品について動物種を判定した。その結果、全て、上記表1に示す配列番号1:GFOGADGVAGPK、配列番号2:GETGPAGROGEVGPOGPOGPAGEK、配列番号4:GFOGSOGNIGPAGK、配列番号6:TGQOGAVGPAGIRのピークが検出され、かつ配列番号3および配列番号5のピークを検出しなかった。これらアミノ酸ペプチドの有無は、表2に示す動物種のいずれにも該当せず、「不明」と判定した。
なお、シカ皮革と表示され「不明」と判定された上記皮革について、電子顕微鏡を用いて断面図と表面から動物種の判定を行ったが、繊維構造や毛穴に特有な傾向がみられず、動物種の判定はできなかった。

Claims (6)

  1. 皮革に含まれるコラーゲンのトリプシン分解物であって、下記表1に示される配列番号1〜6からなる群から選択されるアミノ酸ペプチドの2種以上の有無を指標とし、前記皮革の動物種を特定することを特徴とする、皮革の動物種を判定する方法。
  2. 前記配列番号2と3とを使用し、動物種がヒツジとヤギとのいずれであるかを判定することを特徴とする、請求項1記載の皮革の動物種を判定する方法。
  3. 前記配列番号2と5とを使用し、動物種がウシとウマとのいずれであるかを判定することを特徴とする、請求項1記載の皮革の動物種を判定する方法。
  4. 前記配列番号1〜6のいずれか5種以上を使用し、下記表2に従って、前記皮革の動物種が、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタまたはシカのいずれであるかを判定することを特徴とする、請求項1記載の皮革の動物種を判定する方法。
  5. 前記皮革は、鞣し皮または皮革製品の一部であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の皮革の動物種を判定する方法。
  6. 前記アミノ酸ペプチドの有無は、LC/MS/MSによって測定することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の皮革の動物種を判定する方法。
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