以下、被圧延材の巻出しおよび巻取りにテンションリールを用いる代表的な圧延機であるシングルスタンド圧延機を例に本発明の詳細を説明する。図1は、本実施形態に係るシングルスタンド圧延機S100のの制御構成を示すブロック図である。
本実施形態に係るシングルスタンド圧延機S100は、圧延機1の圧延方向(図1中、矢印で示す)に対して圧延機1の入側に、被圧延材uを供給して圧延機1に挿入させる入側テンションリール2(以下、入側TR2と称す)を有し、出側に、圧延機1で圧延された被圧延材uを巻き取る出側テンションリール3(以下、出側TR3と称す)を有している。
入側TR2および出側TR3は、それぞれ電動機にて駆動され、この電動機と電動機を駆動制御するための装置として、それぞれ入側TR制御装置66および出側TR制御装置86が設置されている。この構成により、シングルスタンド圧延機S100における圧延は、入側TR2から巻き出された被圧延材uを圧延機1で圧延した後、出側TR3で巻き取ることにより行われる。
圧延機1には、上作業ロールRs1と下作業ロールRs2とのロール間の間隔であるロールギャップを変更することで、被圧延材uの圧延後の板厚(製品板厚)または被圧延材uにかかる張力を制御するためのロールギャップ制御装置7と、圧延機1の速度(上・下作業ロールRs1、Rs2の周速度)を制御するためのミル速度制御装置4が設置されている圧延時、圧延速度設定装置10より速度指令がミル速度制御装置4に対して出力され、ミル速度制御装置4は、圧延機1の速度(上・下作業ロールRs1、Rs2の周速度)を一定とするような制御を実施する。
圧延機1の入側(図1の圧延機1の左側)、出側(図1の圧延機1の右側)では、被圧延材uに張力をかけることで圧延を安定かつ効率的に実施する。そのために必要な張力を計算するのが、入側張力設定装置11および出側張力設定装置12である。また、入側張力電流変換装置15および出側張力電流変換装置16は、入側張力設定装置11及び出側張力設定装置12にて計算された入側および出側張力設定値に基づき、入側および出側の設定張力を被圧延材uに加えるために入側TR2および出側TR3のそれぞれの電動機の必要な電動機トルクを得るための電流値を求め、それぞれの電流値を入側TR制御装置66および出側TR制御装置86に与える。
入側TR制御装置66および出側TR制御装置86では、それぞれ与えられた電流となるように電動機の電流を制御し、入側TR2および出側TR3に与えられるそれぞれの電動機トルクにより被圧延材uに所定の張力を与える。入側張力電流変換装置15、出側張力電流変換装置16は、TR(テンションリール)機械系およびTR(テンションリール)制御装置のモデルに基き張力設定値となるような電流設定値(電動機トルク設定値)を演算する。
ただし、この制御モデルは誤差を含むため、圧延機1の入側および出側に設置された入側張力計8および出側張力計9で測定された実績張力を用いて、入側張力制御13および出側張力制御14により張力設定値に補正を加えて、入側張力電流変換装置15、出側張力電流変換装置16に付与する。これにより、入側張力電流変換装置15、出側張力電流変換装置16が入側TR制御装置5および出側TR制御装置6へ設定する電流値を変更する。
また、被圧延材uの板厚は製品品質上重要であるため、板厚制御が実施される。一般的な制御態様として、入側TR2、出側TR3をトルク一定制御(電流一定制御)で動作ささせ、トルク一定処理により圧延機入側の張力制御を行う場合がある。この場合、被圧延材の板厚が薄く、圧延速度が高速である場合、圧延機出側板厚が長周期で振動する現象が発生する。そのような現象が発生する場合には、テンションリールを速度一定制御で運転し、入側TR2の速度を操作端とする板厚制御が行われる。
出側TR3は、圧延機の出側張力を制御するために用いられるが、これについても、トルク一定制御で動作させると、出側張力の実績に応じて速度が変動し、マスフロー一定則より出側板厚変動の原因となる。そのため、出側TR3も速度一定制御で動作させ、出側TR3の速度を操作端とする出側張力制御が行われる。出側TR3については、入側TR2を速度一定制御で動作させる場合は、速度一定制御で動作させ、トルク一定制御で動作させる場合は、トルク一定制御で動作させる。
ここで、圧延における中立点と先進率、後進率の関係について、図2を参照して説明する。圧延は、上作業ロールRs1と下作業ロールRs2の間を、被圧延材uを通すことにより行われる。その時、被圧延材uと上下作業ロールRs1、Rs2との間では、スリップが発生し、ロール速度と被圧延材uの速度が一致する点(中立点)が作業ロールと被圧延材の接触する領域に1つ発生する。
被圧延材uと上下作業ロールRs1、Rs2との間で発生するスリップとは即ち、被圧延材が押しつぶされて伸びることにより、被圧延材の表面が上下作業ロールRs1、Rs2に対して滑ることである。その際、上下作業ロールRs1、Rs2によって被圧延材が押しつぶされる力が最も加わる位置においては被圧延材の表面が上下作業ロールRs1、Rs2に対して停止した状態となる。この点が中立点である。
作業ロールと被圧延材の接触開始点における搬送速度が入側速度Veとなる。また、作業ロールと被圧延材の接触終了点における搬送速度が出側速度Voとなる。先進率fは、出側速度Voと中立点速度VRの比(Vo/VR)から1を減算したものであり、後進率bは入側速度Veと中立点速度VRの比(Ve/VR)より1を減算したものである。
圧延の基本式として、マスフロー一定則、入側張力式、出側張力式がある。出側速度Voと出側TR速度VDTRが一致していると、出側張力式から出側張力は一定値となる。入側についても同様である。また、入側板厚、出側板厚が経時的に変化せず一定であれば、入側速度Veと出側速度Voの比率は一定となる。
中立点の位置は圧延条件により変化する。例えば、圧延速度が変化したり、摩擦係数や変形抵抗の変化、入側出側の張力変化により変動する。図2に示すように、中立点の位置が、中立点Aから中立点Bに変化した場合、被圧延材のうち、出側に延ばされる部分が少なくなり、入側に延ばされる部分が多くなる。即ち、先進率fは小さくなり、後進率bは大きくなる。
中立点位置は作業ロールと被圧延材の速度が一致した点である。そのため、中立点がAからBに変化した前後において圧延速度が同一であれば、後進率bが大きくなった分、入側速度が遅くなる。また、先進率fが小さくなった分、出側速度が遅くなる。尚、圧延速度は作業ロール速度に等しい。
そして、中立点Aにおいて夫々の値について圧延の基本式が成立していたことに対して、中立点Bに中立点が移動したため、入側TR速度VETR、出側TR速度VDTRが変化することとなる。具体的に、後進率bが大きくなったことにより入側速度Veが入側TR速度VETRよりも小さくなり、結果的に入側張力Tbが小さくなる。また、先進率fが小さくなったことにより出側速度Voが出側TR速度VDTRよりも小さくなり、結果的に出側張力Tfが大きくなる。
また、中立点位置は、入側張力、出側張力によっても変化する。出側張力が上昇し入側張力が減少すると、中立点位置は中立点Aの方向に移動する。つまり、入側張力、出側張力が変化することで入出側TR速度が同じであっても、圧延現象が中立点位置を中立点Bにもどし、同じ入側速度、出側速度、入側板厚、出側板厚を維持することができる。
図2に示すように中立点Aから中立点Bへ中立点が変動するような外乱が加わった場合の出側板厚、入側張力、出側張力のシミュレーション結果について説明する。中立点が変動するような外乱とは、例えば圧延機ロールと被圧延材との摩擦条件が変わるような外乱である。具体的には、ロール速度の変更や、圧延機ロールと被圧延材との間に供給される潤滑油の濃度の変更である。尚、中立点の変動に応じた後進率の変動は、図3に示すように、入側板厚、出側板厚から決定される比率に従って変動するものとしている。
図4は、入側張力制御及び出側張力制御を行わない場合のシミュレーション結果である。また、図4においては、外乱として与えられた中立点位置の変動予測値を細い点線で、実際の中立点位置の実績を太い点線で示している。張力制御を実施しない場合、前述したような圧延現象により、入側張力が減少し、出側張力が増大することで中立点位置変動を抑制し、出側板厚は変化しない。従って、ある程度の張力変動であれば、それを許容することにより、出側板厚の変動を抑えることが出来る。
図5は、ロールギャップによる入側張力制御のみを行う場合のシミュレーション結果である。入側張力制御により図4の態様よりも入側張力の減少が抑えられ、中立点位置の変動抑制効果がなくなる。その分、出側張力が大きく変化することによりって中立点位置の変動が抑制される。その結果、出側板厚はほとんど変動しない。
図5の場合、出側板厚変動は抑えられているが、出側張力変動が図4の場合よりも大きくなり、圧延動作を安定して行うことが困難となる。従って、図5の態様は実用性に問題がある。
図6は、図5の制御に加えて、出側TR速度による出側張力制御を加えた場合のシミュレーション結果である。入側張力の減少に加えて出側張力の減少も抑えられた結果、中立点変動が抑制されず、出側板厚変動となってあらわれる。出側張力の増大に対しては、出側TR速度が原則制御されて張力が維持される。その結果、出側板速が減速するため、マスフロー一定則に従って出側板厚は増大する。
出側板厚制御を入側TRの速度により実施している場合、圧下張力制御は、入側張力が減少することからロールギャップを開くように制御する。これにより入出側の張力は上昇し、かつ出側板厚は増大する。また板厚制御は入側TR速度を下げて出側板厚を薄くしようとする。このため、張力制御と板厚制御が干渉し、出側板厚変動が発生する。
図7は、出側板厚をロールギャップにより制御する場合のシミュレーション結果である。この場合、入側張力は入側TR2の速度により、出側張力は出側TR3の速度により制御される。入側張力が減少すると、入側TR速度が下げられる。これにより、マスフロー一定則に従って出側板厚が薄くなる。同時に、板厚制御によってロールギャップが狭められる。
その結果、入出側の張力が減少し、出側板厚は薄くなる。このため、張力制御と板厚制御の干渉がほとんど発生せず、出側板厚変動はほとんど発生しない。しかしながら、板厚が薄く圧延速度が速い場合、ロールギャップによる板厚制御の影響が非常に弱くなるため、図7の態様は実質的に利用できない。
このように、入側TR速度を操作する板厚制御を実施している場合、出側張力制御が出側TR速度を操作すると、板厚制御と張力制御が干渉して、出側板厚変動が発生する。これは、出側張力に基づく出側TR速度制御、出側板厚に基づく入側TR速度制御、入側張力に基づくロールギャップ制御が夫々別個に動作しているために発生する問題である。
このような問題を回避するため、出側張力制御によって出側TR速度が制御される際、マスフロー一定則が保存されるように入側TR速度を補正することが本実施形態に係る要旨の1つである。以降、このような補正制御を、「出側張力非干渉制御」と呼ぶ。このよな制御により、出側板厚変動が抑制されるだけでなく、入側張力変動も抑制する事ができ、圧延動作の安定性を保ったうえで、板厚精度を向上することが可能となる。
図8は、図6の態様に対して出側張力非干渉制御を適用した場合のシミュレーション結果である。図8に示すように、出側板厚変動が抑制されると共に、入側張力変動も抑制される。
圧延機の加減速時に発生する板厚、張力変動の要因としては、上述した中立点変動の他、入側TRと出側TR、圧延機の作業ロール速度の揃速性が不良で有る場合も考えられる。このような現象は、例えば圧延機1の作業ロールを回転駆動するミルモータと、入側TR2、出側TR3を夫々回転駆動するテンションリールモータとの特性の違いにより、圧延速度を加減速する場合に発生することがある。この場合、図3に示すように、マスフロー一定則より決定される圧延機の入側速度、出側速度に対する偏差として、入側TR速度偏差ΔVETR、出側TR速度偏差ΔVDTRを与える。
図9は、入側TR速度偏差ΔVETR、出側TR速度偏差ΔVDTRが同一方向に変動した場合のシミュレーション結果である。この場合、上述したように中立点変動が発生した場合と同様の挙動となり、入側張力と出側張力が逆方向に変動する。
図10は、図9の態様において、入側圧下張力制御、出側TR速度張力制御、入側TR速度板厚制御を実施した場合のシミュレーション結果である。図10に示すように、制御系が干渉する事で、出側板厚変動が発生する。
図11は、図10の態様において出側張力非干渉制御を行った場合のシミュレーション結果である。図11に示すように、出側張力非干渉制御により、出側板厚変動を抑えることが可能である。
図12は、入側TR速度偏差ΔVETR、出側TR速度偏差ΔVDTRが逆方向に変動した場合のシミュレーション結果である。この場合、マスフロー一定則より、出側板厚変動が発生する。図13は、図12の態様において、入側圧下張力制御、出側TR速度張力制御、入側TR速度板厚制御を実施した場合のシミュレーション結果である。図13に示すように、出側板厚変動は抑制されるが、まだ大きいことがわかる。
図14は、図13の態様において出側張力非干渉制御を実施した場合のシミュレーション結果である。図14に示すように、出側板厚変動が抑えられていることがわかる。ただし、この場合、出側張力非干渉制御の出力を図12の場合とは逆方向とする必要がある。
図4から図14に示すシミュレーションをまとめると、中立点変動の場合、入側TR速度及び出側TR速度が同一方向に変動する。従って、出側張力非干渉制御の方向は出側TR速度の制御方向と同方向となる。
他方、入側TRと出側TR、圧延機の作業ロール速度の揃速性の不良の場合、入側TR速度偏差ΔVETR、出側TR速度偏差ΔVDTRの方向に応じた制御が必要となる。入側TR速度偏差ΔVETR、出側TR速度偏差ΔVDTRの方向が同一である場合、出側張力非干渉制御の方向は出側TR速度の制御方向と同方向となる。また、入側TR速度偏差ΔVETR、出側TR速度偏差ΔVDTRの方向が逆である場合、出側張力非干渉制御の方向は出側TR速度の制御方向と逆方向となる。
従って、出側板厚および出側張力の変化方向により非干渉制御の補正方向を変更する事で、いずれの外乱に対しても出側板厚変動を抑制するように制御する事が可能である。換言すると、出側張力非干渉制御を行う場合、制御の方向を外乱の態様に応じて変更する必要が有る。
圧延設備においては、多様な材質の被圧延材を、多様な板厚に圧延しており、また圧延速度も多様である。従って、圧延状態に応じて、出側板厚および入側張力制御を安定に実施できる、以下の3種類の場合が発生する。
A)ロールギャップを操作する板厚制御と、トルク一定制御で運転する入側TRによる入側張力制御、トルク一定制御で運転する出側TRによる出側張力制御。
B)ロールギャップを操作する板厚制御と、速度一定制御で運転する入側TRの速度を操作する速度張力制御、速度一定制御で運転する出側TRの速度を操作する出側速度張力制御。
C)ロールギャップを操作する圧下張力制御と、速度一定制御で運転する入側TRの速度を操作する速度板厚制御、速度一定制御で運転する出側TRの速度を操作する出側速度張力制御。
圧延機の板厚制御および張力制御を安定に実施するためには、圧延状態に応じて、上記3種の制御を切替えて使用する必要がある。本実施形態に係るシングルスタンド圧延機S100は、そのような制御を実現するための構成を有する。
図1に示す出側板厚計17で検出した出側板厚偏差Δhを用いて、圧下板厚制御61によりロールギャップへの操作指令ΔΔSAGCを生成し、速度板厚制御62により入側TR速度への操作指令ΔΔVAGCを生成する。また、入側張力計8で測定した入側張力実績と、入側張力設定装置11で設定した入側張力設定との偏差(入側張力偏差)ΔTbを用いて、速度張力制御63により入側TR速度への操作指令ΔΔVATRを生成し、圧下張力制御64によりロールギャップへの操作指令ΔΔSATRを生成する。
また、入側TR2が、トルク一定制御で運転している場合については、入側張力設定装置11による入側張力設定値に、入側張力実績と入側張力設定値との偏差により入側張力設定値を操作する入側張力制御13からの制御出力を加えたものを、入側TR2への電流指令に入側張力電流変換装置15により変換して、入側TR制御装置66への電流指令を作成する。
制御方法選択装置70は、圧延状態に応じて、上述したA)、B)、C)のいずれの制御方法を適用すれば最も出側板厚変動、入側張力変動を低減可能かを選択し、選択結果に基づきロールギャップ制御装置7に対してロールギャップ操作指令を出力する。入側TR速度を操作する場合は、入側TR速度指令装置65に速度操作指令を出力する。入側TR速度指令装置65においては、基準速度設定装置19より出力される入側TR基準速度と、制御方法選択装置70よりの入側TR速度変更量より入側TR速度指令を作成し、入側TR制御装置66に出力する。
入側TR制御装置66においては、電流指令に応じてトルク一定制御(電流一定制御)を行う運転モードと、速度指令に応じて速度一定制御を行う運転モードを持ち、制御方法選択装置70からの指令に応じて切替えて運転する。
図15に、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64のブロック図の一例を示す。これらは、各制御構成の一例であり、これ以外の方法を用いて制御系を構成することも可能である。例えば、図15の例では、各制御系は積分制御(I制御)となっているが、比例積分(PI制御)または、比例積分微分制御(PID制御)とすることもできる。
圧下板厚制御61は、出側板厚実績hfbと出側板厚設定値hrefとの差である出側板厚偏差Δh=hfb−hrefを入力とし、入力された出側板厚偏差に調整ゲインおよび出側板厚偏差からロールギャップへの変換ゲインをかけたものを積分する積分制御(I制御)で構成される。積分後の出力と、前回値との偏差をとって、制御出力ΔΔSAGCとする。
また、速度板厚制御62は、出側板厚偏差Δhを入力とし、入力された出側板厚偏差に調整ゲインおよび出側板厚偏差から入側速度への変換ゲインをかけたものを積分する積分制御(I制御)で構成される。積分後の出力と、前回値との偏差をとって、以下の式(1)を制御出力とする。
ここで、Mは圧延機のミル定数、Qは被圧延材の塑性定数である。また、速度板厚制御の指令は、設定速度に対する速度変更比率として出力される。
圧下張力制御64は、入側張力実績Tbfbbと入側張力設定値Tbrefとの差である入側張力偏差ΔTb=Tbfbb−Tbrefを入力とし、入力された入側張力偏差ΔTbに調整ゲインおよび入側張力偏差ΔTbからロールギャップへの変換ゲインをかけたものを積分する積分制御(I制御)で構成される。積分後の出力と、前回値との偏差をとって、制御出力ΔΔSATRとする。
また、速度張力制御63は、入側張力偏差ΔTbを入力とし、入力された入側張力偏差ΔTbに調整ゲインおよび入側張力偏差ΔTbから入側速度への変換ゲインをかけたものを積分する積分制御(I制御)で構成される。積分後の出力と、前回値との偏差をとって、以下の式(2)を制御出力とする。
出側速度張力制御84は、出側張力偏差ΔTfを入力とし、入力された出側張力偏差ΔTfに調整ゲインおよび出側張力偏差ΔTfから出側速度への変換ゲインをかけたものを積分する積分制御(I制御)で構成される。積分後の出力と、前回値との偏差をとって、以下の式(3)を制御出力とする。
図16に、制御方法選択装置70の概要を示す。制御方法選択装置70は、最適制御方法決定装置71および制御出力選択装置72より構成される。最適制御方法決定装置71にて、上述したA)、B)、C)のいずれの制御方法を用いて制御するかを決定し、制御出力選択装置72において、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64のいずれの出力を使用するか選択して、ロールギャップ制御装置7および入側TR速度指令装置65、入側TR制御装置66に制御指令を出力する。
上述した板厚制御、張力制御の干渉による出側板厚変動は、圧下による出側板厚制御利用時はほとんど発生しない。従って、上述した出側張力非干渉制御は、入側TR速度を操作端とする出側板厚制御、即ち上述したC)の制御方法において用いられる。
図17に、最適制御方法決定装置71の動作概要を示す。ここでは、ロールギャップ制御による入側張力への影響が大きい正状態では、制御方法C)を用いて圧下による張力制御、リール速度による板厚制御を行う。また、入側張力に基づいて入側TR速度を制御する入側張力抑制系の張力修正時定数が大きい場合は、制御方法B)により、圧下による板厚制御と、TR速度を操作する入側張力制御を行う。それ以外の場合は、従来より実施されている制御方法A)を選択する。
3つの制御方法のいずれを選択するかは、以下によって決定する。被圧延材の鋼種、出側板厚および圧延速度により、最適制御方法は変化すると考えられることから、鋼種または出側板厚が変ったら、圧延速度を低速、中速、高速の3段階程度に分け、圧延中に該当する圧延速度になったら、ロールギャップをステップ状に変化させて入側張力および出側板厚の変化を調べる。この場合、ロールギャップ変更量は、被圧延材の製品品質に影響を与えない大きさで変化させれば、製品材の圧延中にも実施可能である。またロールギャップをステップ状に変化させる場合には、上述した制御方法A)を選択しておく。
尚、本実施形態においては、図17に示すように、低速、中速、高速の順で段階的に圧延速度を変化させている。これは、上述した3つの制御方法のいずれかを選択するために実行されるものである。しかしながら、実際に圧延操業を開始する場合においても、図17に示すように段階的に圧延速度を上昇させる。従って図17に示すような操作は、通常の圧延操業に併せて実施することが可能であり、生産性を低下させることなく実施可能である。
ロールギャップをステップ状に変化させた直後の入側張力変動量、出側板厚変動量を測定し、ロールギャップ制御による入側張力への影響係数とロールギャップ制御による出側板厚への影響係数のいずれが大きいかを判断する。また、入側張力に基づいて入側TR速度を制御する入側張力抑制系の応答時間は、ロールギャップをステップ状に動作させた場合の入側張力変化から判断する。
例えば、図17に示すように、圧延速度に応じて低速、中速、高速の領域を定める。この定め方は、最高速度までを3等分しても良いし、その他適当な基準により分割する。圧延速度がそれらの領域に入ったら、ロールギャップにステップ状の外乱を加える。ステップ状外乱を加えることで、入側張力および出側板厚が変動する。
次に、図18に示すように、入側張力および出側板厚偏差の実績より、パラメータdTb、dh、TbTを求める。これらのパラメータは、実績値の時間方向の変動状況より信号処理にて求めることができる。求めたパラメータdTb、dh、TbTの大小関係から制御方法A)、制御方法B)、制御方法C)を選択する。
制御方法A)、制御方法B)、制御方法C)夫々の選択に際しては、図18に示すように、上述したパラメータdTb、dh、TbTに基づいて算出される値と、所定の閾値との比較により判断する。例えば、(dh/href)/(dTb/Tbref)によって算出される値が、所定の閾値である制御方法C)選択値以下である場合、制御方法C)が選択される。
また、TbTが所定の閾値である制御方法B)選択値以上である場合、制御方法B)が選択される。制御方法C)選択値、制御方法B)選択値については、過去の実績値や圧延機のシミュレーション等によりあらかじめ求めて設定しておくことが可能である。
この最適制御方法選択処理を、低速、中速、高速におけるステップ状変更1.、ステップ状変更2.、ステップ状変更3.について行うと、図17に示す場合は、低速については制御方法A)、中速については制御方法B)、高速については制御方法C)を最適制御方法として選択するという結果になる。
制御方法選択装置70は、このような最適制御方法決定手順を実行し、求めた最適制御方法に制御方法を切り替える。この場合、制御方法A)と制御方法B)および制御方法C)では、入側TRの制御方法が異なるため、圧延操業中には切替できない場合もある。その場合は、制御方法A)で圧延操業を継続し、次回同一鋼種、同一板幅の被圧延材が来た場合に制御方法を切り替えればよい。求めた最適制御方法は、被圧延材の鋼種、出側板厚および圧延速度を検索条件とするデータベースに記録し、次回同種の被圧延材を圧延する場合は、データベースに記録してある最適制御方法に従って制御する。
データベースのレコード例を図19に示す。圧延設備によっては、圧延操業中に制御方法A)と制御方法B)および制御方法C)の切替ができない場合があるが、制御方法A)の代わりに制御方法B)を用いることも可能である。このようにすれば、低速では制御方法A)であるが高速では制御方法C)が最適である被圧延材の場合、低速では制御方法B)、高速では制御方法C)を選択することで全速度域において安定かつ高精度な圧延が可能となる。
なお、上で述べた方法は最適制御方法の決定手順の一例であり、他の方法を用いることも可能である。例えば、圧延実績より、圧延現象モデルを用いてロールギャップ制御が出側板厚や入側張力に及ぼす影響の影響係数や、位置が和TR速度が出側板厚や入側張力に及ぼす影響の影響係数を数値的に求め、その大小関係から最適制御方法を選択する事も可能である。
図20に、制御出力選択装置72の動作概要を示す。制御出力選択装置72においては、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64、出側速度張力制御84からの出力、最適制御方法決定装置71からの制御方法選択結果、及び出側補正判定装置88で決定された出側張力非干渉制御ゲインGDTRICを入力として、ロールギャップ制御装置7、入側TR速度指令装置65、入側TR制御装置66、出側TR速度指令装置85、出側TR制御装置86へ制御指令を出力する。
図20に示すように、制御出力選択装置72においては、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64、出側速度張力制御84からの出力が、夫々ゲインコントローラ73、74、75、76、77に入力されている。ゲインコントローラ73〜77は、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64、出側速度張力制御84夫々の出力にゲインをかけて出力する信号調整部である。ゲインコントローラ73〜77のゲインは、最適制御方法決定装置71からの制御方法選択結果に基づいて調整される。
また、出側補正判定装置88からの出力が、出側張力非干渉制御89に入力されている。出側張力非干渉制御89は、入側TR速度指令装置65への制御指令を調整するための調整信号を生成する。
制御方法A)選択の場合は、圧下板厚制御61からの出力を積分処理してロールギャップ制御装置7に出力する。また、入側TR制御装置66及び出側TR制御装置86に対して、トルク一定制御モード選択を出力する。
そのため、最適制御方法決定装置71による制御方法選択結果により、ゲインコントローラ74〜77のゲインがゼロに設定されると共に、ゲインコントローラ73のゲインが調整され、圧下板厚制御61からの出力が積分処理部90によって積分処理されるように設定される。また、最適制御方法決定装置71による制御方法選択結果により、入側TR制御装置66、出側TR制御装置86に対して、トルク一定制御モード選択が出力される。
制御方法B)選択の場合は、圧下板厚制御61からの出力を積分処理してロールギャップ制御装置7に出力すると共に、速度張力制御63からの出力を積分処理して入側TR速度指令装置65に出力する。また、出側速度張力制御84からの出力を積分処理して出側TR速度指令装置85に出力する。
そのため、最適制御方法決定装置71による制御方法選択結果により、ゲインコントローラ74、75のゲインがゼロに設定されると共に、ゲインコントローラ73、76、77のゲインが調整され、圧下板厚制御61からの出力が積分処理部90によって積分処理されるように設定される。また、速度張力制御63からの出力が積分処理部91によって積分処理されるように設定される。更に、出側速度張力制御84からの出力が積分処理部93によって積分処理されるように設定される。
制御方法C)選択の場合は、速度板厚制御62からの出力を積分処理して入側TR速度指令装置65に出力するとともに、圧下張力制御64からの出力を積分処理してロールギャップ制御装置7に出力する。また、出側速度張力制御84からの出力を積分処理して出側TR速度指令装置85に出力する。
そのため、最適制御方法決定装置71による制御方法選択結果により、ゲインコントローラ73、76のゲインがゼロに設定されると共に、ゲインコントローラ74、75、77のゲインが調整され、圧下張力制御64からの出力が積分処理部90によって積分処理されると共に速度板厚制御62からの出力が積分処理部91によって積分処理されるように設定される。
即ち、圧下張力制御64から積分処理部90を経てロールギャップ制御装置7につながる制御パスがロールギャップ制御部として機能する。また、速度板厚制御62から積分処理部91を経て入側TR速度指令装置65につながる制御パスが速度制御部として機能する。
また、出側速度張力制御84からの出力が積分処理部93によって積分処理されて出側TR速度指令装置85に入力されると共に、出側張力非干渉制御89において積分処理され、積分処理部91に入力されるように設定される。そのため、出側補正判定装置88は、出側張力非干渉制御89において、積分処理部93からの信号に乗ずるゲインを設定する。即ち、出側速度張力制御84から積分処理部93を経て出側TR速度指令装置85につながる制御パスが出側速度制御部として機能する。
出側張力非干渉制御89においては、出側速度張力制御84から、出側TR速度指令装置85への出力である1+(ΔVDTR)/(VDTR)の差分に、出側補正判定装置88での判定結果である出側張力非干渉制御ゲインGDTRICを乗算したものを積分する。これにより、出側張力非干渉制御89は、以下の式(4)によって表される出側張力非干渉制御出力を決定する。
上記式(4)によって表される出側張力非干渉制御出力は、図20に示すように、積分処理部91における要素として用いられる。これにより、入側TR速度指令装置65への制御出力には、出側速度張力制御84によって出側TR速度指令装置85に与えられる制御出力の内容が出側張力非干渉制御ゲインGDTRICに応じて加味されることとなる。従って、上述したような出側張力非干渉制御が実現される。即ち、出側張力非干渉制御89が、非干渉制御部として機能し、その出力が非干渉制御量として用いられる。また、出側補正判定装置88が、出側補正判定部として機能する。
次に、図21を用いて出側補正判定装置88の動作について説明する。出側補正判定装置88においては、圧延機出側板厚および出側張力の変化方向等、圧延機による被圧延材の圧延状態から出側張力非干渉制御89の補正の要否を判定し、制御ゲインGDTRICとして制御方法判定装置70に設定する。中立点変動や、入側TR、出側TRの圧延機との揃速性変動は、圧延機の加減速時に発生する事から、出側補正判定装置88は、圧延機のロール速度が変動したときのみ判定を実施し、ロール速度変動が無い場合は補正を実施しない。即ち、GDTRIC=0となる。
圧延機ロール速度VRの時間変化量(前回値との偏差)を以下の式(5)で示す。
また、出側板厚hの時間変化量を、以下の式(6)で示す。
また、出側張力Tfの時間変化量を以下の式(7)で示す。
出側補正判定装置88は、これらの値から図21の圧延機ロール速度判断処理881、出側板厚判断処理882、出側張力判断処理883に示すようなメンバーシップ関数を用いて、圧延機ロール速度時間変化がプラス側に大きい度合VRP、マイナス側に大きい度合VRM、出側板厚時間変化がプラス側に大きい度合SHP、マイナス側に大きい度合SHM、出側張力時間変化がプラス側に大きい度合TFP、マイナス側に大きい度合TFMをそれぞれ算出する。
以上それぞれの度合から、推論処理885において推論ルールを用いて推論を実施し、出側張力非干渉制御を実施したい度合DTRIを算出する。ここで、DTRIがプラスの場合は、出側TRの操作方向と同方向に入側TR速度を補正する。また、DTRIがマイナスの場合は、出側TRの操作方向と逆方向に入側TR速度を補正する。
推論処理885は、圧延機ロール速度判断処理881から入力されるVRM、VRPに基づき、圧延機ロール速度が加速中若しくは減速中であることを判断する。そして、圧延機ロール速度が加減速中であれば、出側板厚判断処理882、出側張力判断処理883から夫々入力されるSHP、SHM、TFP、TFMの組み合わせに基づき、DTRIを決定する。
例えば、図21に示す推論ルール(a)の場合、圧延機ロールが加減速中である場合において、出側板厚がプラス側、出側張力がプラス側に変動している場合、出側張力制御の制御出力を同方向で入側TRに補正したい度合が1.0である事を示す。図21に示す推論ルールは一例であり、例えば圧延機速度時間変化がプラス側(加速側)、マイナス側(減速側)で同じとしているが、加速側または減速側で別個のルールとしても良い。
DTRIが決定されると、最後に制御ゲイン設定886が、DTRIより出側張力非干渉制御ゲインGDTRICへの変換を行う。一例であるが、図25においては、DTRIにデッドバンドを設けてGDTRICのゲインを±1.0に設定するようにしている。
加減速時に発生する出側板厚変動は、圧延機の機械構成(電動機や油圧圧下装置の応答等による圧延機と入側TR、出側TRとの揃速性変動)や被圧延材の材質や圧延油(中立点変動の発生状況)等によって変化するが、同様の状況では同様の原因にて発生すると考えられる。従って、図21に示すような方法で判定する必要は無く、被圧延材の材質、圧延スケジュール等を検索条件とするデータベースを作成し、データベースの検索結果に従って出側張力非干渉制御ゲインGDTRICを決定しても良い。
上記で説明した出側補正判定装置88の動作は、一例であり他の方法で出側張力制御から入側TRへの速度補正要否を判定しても良い。例えば、出側板厚、出側張力のみでなく、入側張力の変動も含めて判定する方法等が考えられる。
図20に示すような方法を用いることで、圧延操業中にでも例えば圧延速度に応じて、制御方法A)、B)、C)を相互に切り替えることが可能である。また、出側張力非干渉制御が適用されることにより、出側張力制御が動作することにより発生する出側板厚変動が防止される。
入側TR速度指令装置65においては、図1に示す基準速度設定装置19において圧延機入側後進率bを考慮して生成された入側TR速度VETRを取得する。そして、入側TR速度指令装置65は、制御方法選択装置70からの制御指令及び上述したように取得した入側TR速度VETRを用いて入側TR速度指令VETRrefを作成し、入側TR制御装置66に出力する。
基準速度設定装置19は、オペレータの手動操作により圧延速度設定装置10にて決定された圧延機速度VMILLより、圧延機入側後進率bを考慮して入側TR速度VETRを決定する。
入側TR制御装置66は、入側TR速度指令装置65からの入側TR速度指令VETRrefと、入側張力電流変換装置15からの電流指令IETRset、制御方法選択装置70からのトルク一定制御モードを入力として、入側TR2への電流を出力とする。ここで、入側TR2は、TRの機械装置とそれを動かすための電動機より構成されており、入側TR2への電流とは、電動機への電流を示している。
入側TR制御装置66は、速度指令VETRrefと速度実績VETRfbを一致させるように電流指令を作成する速度制御機能と、作成された電流指令IETRsetと入側TR2の電動機に流れる電流IETRfbが一致するように制御する電流制御機能とを含む。トルク一定制御モードが選択された場合は、入側張力電流変換装置15からの入側TR電流設定値IETRsetに基づく制御を行う。トルク一定制御モードが選択されない場合、速度指令VETRrefに基づく制御を行う。
出側TR速度指令装置85においては、図1に示す基準速度設定装置19において圧延機入側先進率fを考慮して生成された出側TR速度VDTRを取得する。そして、出側TR速度指令装置85は、制御方法選択装置70からの制御指令及び上述したように取得した出側TR速度VDTRを用いて出側TR速度指令VDTRrefを作成し、出側TR制御装置86に出力する。
基準速度設定装置19は、オペレータの手動操作により圧延速度設定装置10にて決定された圧延機速度VMILLより、圧延機出側先進率fを考慮して出側TR速度VDTRを決定する。
出側TR制御装置86は、出側TR速度指令装置85からの出側TR速度指令VDTRrefと、出側張力電流変換装置16からの電流指令IDTRset、制御方法選択装置70からのトルク一定制御モードを入力として、入側TR2への電流を出力とする。ここで、出側TR3は、TRの機械装置とそれを動かすための電動機より構成されており、出側TR3への電流とは、電動機への電流を示している。
出側TR制御装置86は、速度指令VDTRrefと速度実績VDTRfbを一致させるように電流指令を作成する速度制御機能と、作成された電流指令IDTRsetと入側TR3の電動機に流れる電流IDTRfbが一致するように制御する電流制御機能とを含む。トルク一定制御モードが選択された場合は、出側張力電流変換装置16からの出側TR電流設定値IDTRsetに基づく制御を行う。トルク一定制御モードが選択されない場合、速度指令VDTRrefに基づく制御を行う。
以上、説明したように、本実施形態に係るシングルスタンド圧延機における圧延制御では、出側板厚に基づいて入側TR速度を制御すると共に、出側張力に基づいて出側TR速度を制御する制御方法の際に、出側張力変動に応じて出側TR速度を操作する場合には、入側TR速度も操作することにより、マスフロー一定側が保存されるようにして出側板厚変動を抑える。これにより、被圧延材の出側張力の変動を被圧延材の出側テンションリール速度によって制御する場合に、被圧延材の出側板厚に対する影響を抑制することが出来る。
尚、図4において説明したように、出側張力及び入側張力の変動を許容した場合、張力変動によって中立点変動が抑えられ、結果的に板厚変動が抑えられる。従って、所定範囲の張力変動は許容した上で、許容範囲を超えた張力変動が発生した場合に、速度張力制御63や出側速度張力制御84による張力制御を行うことが好ましい。
この場合、速度張力制御63、出側速度張力制御84は、張力計8、張力計9から夫々入力される張力実績値に対して所定範囲のデッドバンドを有し、張力実績値の変動幅がデッドバンドの範囲内の場合、張力が変動していないことを示す信号を出力する。そして、張力実績値の変動幅がデッドバンドの範囲を超えた場合に図20に示す制御出力選択装置72に対して張力変動を示す信号を出力する。
このような制御により、圧延操業の安定性を損なわない範囲においては、張力変動を許容することによって中立点変動を抑え、出側板厚変動を抑えると共に、圧延操業を安定して行うことが困難な張力変動に対しては、張力制御と共に非干渉制御を行って出側板厚変動を抑えることが出来る。
また、上記実施形態においては、図20において説明したように、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64、出側速度張力制御84夫々の出力のうち、制御方法に応じて使用しない出力に対するゲインをゼロとする場合を例として説明した。この他、夫々のゲインをゼロにするのではなく小さくすることにより、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64、出側速度張力制御84夫々の出力をゲインに応じた割合で混在させ、制御方法A)、制御方法B)、制御方法C)夫々の制御方法を併用することも可能である。
また、上記実施形態においては、出側張力非干渉制御ゲインが1.0若しくは−1.0である場合を例として説明したが、これは一例である。出側張力非干渉制御の目的は、出側張力変動に応じて出側TR速度を操作する場合にマスフロー一定側を保存することである。従って、出側張力非干渉制御ゲインは、出側TR速度を操作した場合のマスフロー一定則への影響に応じて適宜設定することが好ましい。
また、上記実施形態においては、図17、図18において説明したように、圧延実績に応じて制御方法A)、制御方法B)、制御方法C)を切り替えていたが、機械仕様や被圧延材の製品仕様に従って、あらかじめいずれかの制御方法を選択して継続的に使用することも可能である。このような場合において、図19において説明したデータベースを用いることが可能である。
また、図1において説明した制御方法選択装置70を中心とした圧延制御装置は、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって実現される。ここで、本実施形態に係る圧延制御装置の各機能を実現するためのハードウェアについて、図22を参照して説明する。図22は、本実施形態に係る圧延制御装置を構成する情報処理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図22に示すように、本実施形態に係る圧延制御装置は、一般的なサーバやPC(Personal Computer)等の情報処理端末と同様の構成を有する。
即ち、本実施形態に係る圧延制御装置は、CPU(Central Processing Unit)201、RAM(Random Access Memory)202、ROM(Read Only Memory)203、HDD(Hard Disk Drive)204およびI/F205がバス208を介して接続されている。また、I/F205にはLCD(Liquid Crystal Display)206および操作部207が接続されている。
CPU201は演算手段であり、圧延制御装置全体の動作を制御する。RAM202は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU201が情報を処理する際の作業領域として用いられる。ROM203は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、ファームウェア等のプログラムが格納されている。
HDD204は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体であり、OS(Operating System)や各種の制御プログラム、アプリケーション・プログラム等が格納されている。I/F205は、バス208と各種のハードウェアやネットワーク等を接続し制御する。また、I/F205は、夫々の装置が情報をやり取りし、若しくは圧延機に対して情報を入力するためのインタフェースとしても用いられる。
LCD206は、オペレータが圧延制御装置の状態を確認するための視覚的ユーザインタフェースである。操作部207は、キーボードやマウス等、オペレータが圧延制御装置に情報を入力するためのユーザインタフェースである。このようなハードウェア構成において、ROM203やHDD204若しくは図示しない光学ディスク等の記録媒体に格納されたプログラムがRAM202に読み出され、CPU201がそのプログラムに従って演算を行うことにより、ソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部と、ハードウェアとの組み合わせによって、本実施形態に係る圧延制御装置の機能が実現される。
尚、上記実施形態においては、各機能が圧延制御装置に全て含まれている場合を例として説明した。このように全ての機能を1つの情報処理装置において実現しても良いし、より多くの情報処理装置に各機能を分散して実現しても良い。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部に他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。