JP2016217808A - 試料測定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】測定対象試料が絶縁体である場合であってもXAFS測定を好適に行うことができる試料測定方法を提供する。
【解決手段】この方法は、X線吸収微細構造分析を用いて絶縁体試料の表面を測定する方法であって、表面に沿った第1方向に並ぶ二以上の領域を少なくとも含み、該二以上の領域間に隙間を有する導電性の金属膜を、表面に密着させて形成する第1ステップと、金属膜に電流計を接続する第2ステップと、表面にX線を照射し、金属膜を流れる電流の大きさを電流計によって測定する第3ステップとを含む。
【選択図】図2
【解決手段】この方法は、X線吸収微細構造分析を用いて絶縁体試料の表面を測定する方法であって、表面に沿った第1方向に並ぶ二以上の領域を少なくとも含み、該二以上の領域間に隙間を有する導電性の金属膜を、表面に密着させて形成する第1ステップと、金属膜に電流計を接続する第2ステップと、表面にX線を照射し、金属膜を流れる電流の大きさを電流計によって測定する第3ステップとを含む。
【選択図】図2
Description
本発明は、試料測定方法に関するものである。
特許文献1には、X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure;XAFS)解析を行う装置が開示されている。
従来より、XAFS法が広く用いられている。XAFS法では、測定対象試料に電流計を接続しておき、X線の照射により試料表面を励起する。これにより飛び出した電子の数だけ正電荷が生じて電流計に電流が流れるので、この電流量をX線のエネルギー毎に読み取ることによって、試料表面の原子構造を得ることができる。
試料が導電体である場合には、このような方法により、試料表面の測定を容易に行うことができる。しかしながら、試料が絶縁体である場合、試料に電流が流れ難いことから上記の方法において困難を伴う。すなわち、X線が照射される試料表面と異なる面に金属膜を設けると、表面から飛び出した電子に対応する電流が、金属膜から表面へ流れることができない。また、試料表面上の全面に金属膜を設けると、電子の飛び出しを妨げてしまう。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、測定対象試料が絶縁体である場合であってもXAFS測定を好適に行うことができる試料測定方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る試料測定方法は、X線吸収微細構造分析を用いて絶縁体試料の表面を測定する方法であって、表面に沿った第1方向に並ぶ二以上の領域を少なくとも含み、該二以上の領域間に隙間を有する金属膜を、表面に密着させて形成する第1ステップと、金属膜に電流計を接続する第2ステップと、表面にX線を照射し、金属膜を流れる電流の大きさを電流計によって測定する第3ステップと、を含む。
本発明による試料測定方法によれば、測定対象試料が絶縁体である場合であってもXAFS測定を好適に行うことができる。
[本願発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明の一実施形態に係る試料測定方法は、X線吸収微細構造分析を用いて絶縁体試料の表面を測定する方法であって、表面に沿った第1方向に並ぶ二以上の領域を少なくとも含み、該二以上の領域間に隙間を有する導電性の金属膜を、表面に密着させて形成する第1ステップと、金属膜に電流計を接続する第2ステップと、表面にX線を照射し、金属膜を流れる電流の大きさを電流計によって測定する第3ステップとを含む。
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明の一実施形態に係る試料測定方法は、X線吸収微細構造分析を用いて絶縁体試料の表面を測定する方法であって、表面に沿った第1方向に並ぶ二以上の領域を少なくとも含み、該二以上の領域間に隙間を有する導電性の金属膜を、表面に密着させて形成する第1ステップと、金属膜に電流計を接続する第2ステップと、表面にX線を照射し、金属膜を流れる電流の大きさを電流計によって測定する第3ステップとを含む。
この試料測定方法では、試料表面にX線が照射されると、金属膜の二以上の領域の間に設けられた隙間から電子が飛び出す。そして、飛び出した電子の数だけ正電荷が生じるので、試料表面から金属膜の二以上の領域を介して電流計に電流が流れる。また、金属膜は試料表面に密着させて形成されるので、金属膜と試料表面との密着性を高めることができ、試料表面から金属膜を介して微小な電流を好適に流すことができる。従って、この方法によれば、試料が絶縁体である場合であってもXAFS測定を好適に行うことができる。
また、上記の試料測定方法では、第3ステップにおいて、二以上の領域のうち少なくとも一つと、X線が照射される領域の中心との第1方向における距離が、XAFS信号を有効に取得できる領域の幅よりも短くてもよく、一例では30μm以下であってもよい。このように、X線照射領域と金属膜との距離が離れ過ぎず適切な範囲内であることにより、X線照射領域からの電流を金属膜を介して流れ易くすることができる。また、この場合、絶縁体試料が窒化ホウ素であってもよい。
また、上記の試料測定方法では、金属膜が、白金(Pt)とパラジウム(Pd)との合金、及び金(Au)のうち少なくとも一方を含んでもよい。本発明者の知見によれば、金属膜がこれらのような材料を含むことにより、金属膜と試料表面との間の導電性を更に良好にできる。
また、上記の試料測定方法では、互いに隣り合う領域のそれぞれと隙間との境界線が互いに傾斜してもよい。これにより、互いに隣り合う領域の間隔(すなわち隙間の幅)が連続的に変化するので、試料の種類に応じた好適な隙間間隔を特定し易くすることができる。
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る試料測定方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本発明の実施形態に係る試料測定方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る試料測定方法に用いられるXAFS法を説明するための図である。XAFS法では、測定対象である試料10に配線12の一端を接続し、配線12の他端を電流計14に接続する。そして、試料10の表面10aにX線16を照射する。このとき、試料10の表面10aにX線16が吸収され、X線16によって励起された電子18が表面10aから飛び出す。この電子の個数は、X線吸収強度に比例する。
そして、飛び出した電子18と同数の正電荷が生じるので、飛び出した電子18の数に比例する大きさの電流が、試料10から配線12を介して電流計14へ流れる。従って、電流計14における電流値を計測することにより、飛び出した電子18の個数すなわちX線吸収強度を得ることができる。そして、X線16のエネルギーを変化させながらこのような計測を複数回行うことにより、図1(b)に示されるような、入射X線エネルギーと吸収強度との相関である吸収スペクトルを得ることができる。この吸収スペクトルに基づいて、試料10の原子レベルでの化学的状態(価数、配位種、配位数、結合距離、結晶配向性など)を知ることができる。なお、このような方法は、電子収量法(Total Electron Yield;TEY)と称される。
本実施形態では、上記のような測定方法を、絶縁性の試料(例えば窒化ホウ素(BN)など)に適用する。図2は、本実施形態の試料測定方法における、試料10の表面10aの様子を示す平面図である。この試料10の表面10aには、金属膜20が設けられている。金属膜20は、表面10aに蒸着によって形成されており、導電性の金属(例えば金(Au)、白金(Pt)とパラジウム(Pd)との合金、或いはそれらの組み合わせなど)を含む。また、金属膜20は、表面10aに沿った所定方向A(第1方向)に並ぶ二以上の領域20a〜20dを少なくとも含む。これら二以上の領域20a〜20dは、互いに離間している。一例では、金属膜20は図2に示されるような縞状のパターンを有する。この場合、各領域20a〜20dは、例えば所定方向Aに沿って延びる導電性部材(例えば炭素テープ)21を介して互いに電気的に接続されているとよい。また、他の一例では、金属膜20は、領域20a〜20d及びこれらの領域20a〜20dと交差する領域を含む格子状のパターンを有する。所定方向Aにおける領域20a〜20dの好適な幅は、例えば0.25mmである。また、金属膜20の厚さは、例えば10nm以上である。
二以上の領域20a〜20dが互いに離間していることにより、領域20a〜20dの間には、表面10aが露出する隙間22a〜22cが設けられている。所定方向Aにおける隙間22a〜22cの好適な幅は、例えば200μm以上350μm以下であり、一例では300μmである。
本実施形態による試料測定方法をまとめると、次の通りである。まず、金属膜20を試料10の表面10aに蒸着する(第1ステップ)。次に、金属膜20に電流計14を接続する(第2ステップ)。続いて、表面10aにX線を照射し、金属膜20を流れる電流の大きさを電流計14によって測定する(第3ステップ)。
試料10の表面10aにX線を照射すると、図2の拡大部分に示されるように、電子18が隙間22a〜22cから飛び出す。そして、飛び出した電子18を補うように正電荷19が生じ、正電荷19は表面10aから金属膜20の領域20a〜20dに取り込まれ、図1(a)に示された電流計14へ流れる。また、上述したように、金属膜20は表面10aに蒸着により形成されているので、金属膜20と表面10aとの密着性が高まり、表面10aから金属膜20を介して微小な電流を好適に流すことができる。また、これにより、試料10のチャージアップによる電流量の低下を抑制することができる。
そして、上記の第3ステップを、X線エネルギーを変更しながら繰り返し行うことにより、図1(b)に示された吸収スペクトルを得る。この吸収スペクトルに基づいて、試料10の原子レベルでの化学的状態を特定する。このように、本実施形態の方法によれば、試料10が絶縁体である場合であってもXAFS測定を好適に行うことができる。
例えば、ダイヤモンド工具或いはcBN工具といった、軽元素であるホウ素(B)、窒素(N)、炭素(C)などにより構成された絶縁材料を利用した工具においては、被切削材料との接触面である表面(具体的には、表面から厚さ数nmの部分)の化学状態が特性を左右する。特に切削工具においては、表面の化学状態は削れ易さや耐久性に強く影響する。従って、工具表面の原子レベルでの化学状態の制御と、その為の表面状態の解析は極めて重要である。本実施形態の測定方法によれば、絶縁性の工具表面の化学状態をXAFS法を用いて測定することが可能となる。
また、本実施形態のように、金属膜20は、白金(Pt)とパラジウム(Pd)との合金、及び金(Au)のうち少なくとも一方を含んでもよい。本発明者の知見によれば、金属膜20がこれらのような材料を含むことにより、金属膜20と表面10aとの間の導電性を更に良好にできる。
(第1実施例)
続いて、上記実施形態の第1実施例について説明する。本実施例では、上述した方法を用いてホウ素(B)のK吸収端近傍のXAFS測定を行った。本実施例において使用した施設は、兵庫県立大学のニュースバル放射光施設のBL09Aである。図3は、BL09Aの測定系を概略的に示す。この測定系100は、アンジュレータ101と、回折格子102と、出射スリット103と、集光ミラー104と、金(Au)からなる網状のメッシュ材105と、電流計106と、絶縁性ホルダ107と、電流計14とを備える。
続いて、上記実施形態の第1実施例について説明する。本実施例では、上述した方法を用いてホウ素(B)のK吸収端近傍のXAFS測定を行った。本実施例において使用した施設は、兵庫県立大学のニュースバル放射光施設のBL09Aである。図3は、BL09Aの測定系を概略的に示す。この測定系100は、アンジュレータ101と、回折格子102と、出射スリット103と、集光ミラー104と、金(Au)からなる網状のメッシュ材105と、電流計106と、絶縁性ホルダ107と、電流計14とを備える。
アンジュレータ101から出射されたX線16は、回折格子102によって分光される。そして、任意の波長のX線16のみが出射スリット103を通過する。出射スリット103を通過したX線16は、集光ミラー104によって集光されながらメッシュ材105を通過する。メッシュ材105では、光電効果によってX線16の強度に応じた電流が発生する。この電流の大きさは、電流計106によって計測される。メッシュ材105を通過したX線16は、絶縁性ホルダ107上に搭載された試料10の表面10aに到達する。そして、表面10aから飛び出した電子を補うように発生した電流は、図2に示された金属膜20を介して、電流計14に流れる。電流計14は、その電流の大きさを計測する。なお、絶縁性ホルダ107は回転可能となっており、表面10aに対するX線16の入射角を調整できる。
本実施例では、ホウ素(B)のK−XAFS測定におけるエネルギー範囲である185〜225eVにおいてX線16の強度が強くなるように、アンジュレータ101のギャップ値を38mmに設定した。また、ホウ素(B)のK吸収端(〜188eV)付近の測定に適した回折格子102として、回折格子の本数を1mmあたり900本とした。また、出射スリット103のスリット間隔を50μmとした。電流計106として、Keithley Instruments社製6514型ピコアンメータを用いた。電流計14として、Keithley Instruments社製6517A型ピコアンメータを用いた。
また、本実施例では、試料10として窒化ホウ素(BN)を用いた。図4は、本実施例において測定された試料の一覧を示す図表である。まず、ホウ素(B)のK−XAFSの標準スペクトルを取得するために、バルク状の窒化ホウ素(以下、バルクBN)を乳鉢により細かくすり潰して粉末状とし、Inシートに埋め込んだ(試料1:粉末BN)。次に、比較のため、バルクBNの表面に銅メッシュ材を被せた試料(試料2:Cuメッシュ載せ品)、バルクBNの表面全体に厚さ1〜2nmのオスミウムを蒸着した試料(試料3:Osコート品)、バルクBNの表面全体に厚さ1〜2nmの白金(Pt)−パラジウム(Pd)合金を蒸着した試料(試料4:Pd−Ptコート品)を作製した。最後に、バルクBNの表面に金(Au)を縞状(厚さ70nm、方向Aにおける1本あたりの幅0.5mm)に蒸着した試料(試料5:Auストライプ品)を作製した。なお、表面に何らの膜も形成されていないバルクBNを試料6として準備した。これらの試料1〜6の表面にカーボンテープを貼ることにより、電流計14との間の導通を確保した。
図5〜図7は、本実施例により得られた、照射X線エネルギー(eV)とX線吸収強度(任意単位)との関係(XAFSスペクトル)を示すグラフである。なお、縦軸のX線吸収強度は、図3に示された電流計14の測定値I1を、電流計106の測定値I0によって規格化した値(I1/I0)である。また、吸収端以下のエネルギー領域を直線近似し、この直線を外挿してバックグラウンドとして差し引いた。更に、理解の容易のため、このような手順により得られたXAFSスペクトルを、試料毎に縦軸方向にオフセットして表示している。図5〜図7において、グラフG10は評価基準としての粉末BN(試料1)のスペクトルである。グラフG11はバルクBN(試料6)のスペクトルである。グラフG12はCuメッシュ載せ品(試料2)のスペクトルである。グラフG13はOsコート品(試料3)のスペクトルである。グラフG14はPd−Ptコート品(試料4)のスペクトルである。グラフG15はAuストライプ品(試料5)のスペクトルである。
図5に示されるように、試料表面に何らの膜も設けられていないバルクBN(試料6)では、基準となる粉末BN(試料1)のXAFSスペクトルの形状が十分に再現されなかった。この原因としては、試料表面での導電性の確保及びチャージアップの抑制ができていないことにより、十分な電流量を確保できていないためと考えられる。また、図6を参照すると、Cuメッシュ載せ品(試料2)、Osコート品(試料3)、及びPd−Ptコート品(試料4)のそれぞれにおいては、基準となる粉末BN(試料1)のXAFSスペクトルの形状が殆ど再現されなかった。以上の結果より、試料1〜4ではXAFSスペクトルを正確に得ることは困難であった。
本発明者は、上記の結果について検討した。まず、試料3および試料4に関しては、試料表面全体がOsやPd−Pt等の金属膜によって覆われていることが問題であると考えられる。すなわち、TEY測定の原理上、試料表面から電子が飛び出す必要がある。従って、厚さが僅か1〜2nmである薄膜であっても、TEY測定においては正確な測定を妨げる要因となる。このことから、TEY測定を精度良く行うためには、電子が飛び出すための露出した試料表面を確保する必要がある。
次に、試料2に関しては、試料表面とCuメッシュ材との接触度合いの低さが原因であると考えられる。銅メッシュ材をなるべく試料表面に密着するように設置したものの、試料表面は完全には平坦ではなく、微視的な接触度合いを高めることは困難である。そして、接触度合いが低いと、飛び出した電子に対応する正電荷が、銅メッシュ材に到達しにくくなる。その結果、チャージアップが顕著に生じ、正確な測定を妨げる要因になったと考えられる。
本発明者は、上記の試料2〜4における問題点を検討した結果、二以上の領域間に隙間を有する導電性の金属膜を、試料表面に密着させて形成することに思い至った。導電性の金属膜を形成する方法としては、蒸着や、流動性の高い金属或いは金属粒子含有ペーストを塗布すること、或いはこれらペースト状金属を試料と金属膜との接着層として用いた接着が挙げられる。このような方法によれば、隙間から試料表面を露出させ得るとともに、試料表面に凹凸があっても金属膜との密着性を高めることができる。従って、試料表面が露出した領域(すなわち電子が飛び出すための領域)と、金属膜が試料表面に密着した領域(すなわちチャージアップを抑制するための領域)とが併存できる。
そこで本実施例では、試料5すなわちAuストライプ品を作製し、XAFSスペクトルのTEY測定を行った。図7に示されるように、試料5(グラフG15)ではXAFSスペクトルを十分な精度で検出できており、吸収強度がピークとなるエネルギー値も、試料1のXAFSスペクトル(グラフG10)の該エネルギー値(191eV,193eV,197eV,199eV,203eV,206eV,及び215eV)と完全に一致した。この結果は、金属膜に隙間を設けることにより電子の飛び出しが可能になったこと、及び金属膜を蒸着することによりチャージアップが効果的に抑制されたことを示している。
なお、試料1及び試料5のスペクトル形状を詳細に比較すると、191eVのsp2結合を反映したピーク強度が試料5において比較的強く検出され、また、193eV付近のスペクトル形状に若干の相違がある。特に、sp2結合を反映したピーク強度はX線の偏向性に敏感であり、結晶配向性を有する試料では該ピーク強度が顕著に変化する。本実施例において用いられたバルクBN(h−BN及びt−BNの混合)は結晶配向性を有するので、X線の偏向性がXAFSスペクトルに大きく反映される。一方、バルクBNを粉末化した粉末BNではその影響が打ち消される。この違いが、上述したバルクBN及び粉末BNのスペクトル形状に違いをもたらしたと考えられる。
(第2実施例)
続いて、試料表面におけるX線照射領域と金属膜との距離と、得られるXAFSスペクトル形状との関係について調べた結果について説明する。図8は、本実施例において用いられた試料10の平面図であって、表面10aを示している。表面10a上にはAuからなるストライプ状の金属膜20が蒸着により形成されており、金属膜20の短手方向におけるX線照射領域A1の位置を40μmずつ変化させながらTEY測定を行った。なお、金属膜20の短手方向の幅は0.5mmであり、厚さは70nmであった。また、以下の説明において、X線照射領域とは、X線強度がピークの半値以上となる領域の2倍の範囲を指す。
続いて、試料表面におけるX線照射領域と金属膜との距離と、得られるXAFSスペクトル形状との関係について調べた結果について説明する。図8は、本実施例において用いられた試料10の平面図であって、表面10aを示している。表面10a上にはAuからなるストライプ状の金属膜20が蒸着により形成されており、金属膜20の短手方向におけるX線照射領域A1の位置を40μmずつ変化させながらTEY測定を行った。なお、金属膜20の短手方向の幅は0.5mmであり、厚さは70nmであった。また、以下の説明において、X線照射領域とは、X線強度がピークの半値以上となる領域の2倍の範囲を指す。
図9は、上記の測定により得られた結果を示すグラフであって、縦軸は電流計14(図1参照)により検出された電流量(単位:pA)を示し、横軸は金属膜20の短手方向におけるX線照射領域A1の位置(単位:mm)を示している。なお、このグラフの取得においては、X線エネルギーを225(eV)とした。
図9に示されるように、X線照射領域A1の位置が金属膜20と重なる場合(図中の範囲D1)には、電流量が顕著に増大した。なお、範囲D1の幅は470μmであり、金属膜20の短手方向の幅(500μm)と概ね一致する。また、X線照射領域A1の位置が金属膜20から遠ざかるほど、電流量は減少した。
図10は、本実施例により得られたXAFSスペクトルを示すグラフである。このXAFSスペクトルは、sp2結合を反映したピーク形状と、sp3結合を反映したピーク形状とを含む。図11は、sp2結合を反映したピーク形状を拡大して示すグラフである。なお、図10及び図11において、グラフG21は、図9の位置D1(すなわちX線照射領域A1が金属膜20に近い場合)におけるXAFSスペクトルを示す。また、グラフG22は、図9の位置D2(X線照射領域A1が金属膜20から遠い場合)におけるXAFSスペクトルを示す。
図10及び図11を参照すると、X線照射領域A1が金属膜20に近いほど、sp2結合を反映したピーク強度、すなわち窒化ホウ素(BN)に起因するピーク強度が増大することがわかる。従って、X線照射領域A1を金属膜20に近づけることによって、TEY測定をより正確に行うことができる。
本発明者は、X線照射領域A1と金属膜20との好適な位置関係について更に詳細に調べた。図12は、X線照射領域A1と金属膜20との位置関係を表す平面図である。図中のX線照射領域A11は金属膜20と完全に重なっており、X線照射領域A12はその半分だけ金属膜20と重なっており、X線照射領域A13は金属膜20の縁と接しており、X線照射領域A14は金属膜20の縁から僅かに離れており、X線照射領域A15は金属膜20の縁から大きく離れている。
図13(a)〜図13(c)のそれぞれは、図12に示されたX線照射領域A11〜A13それぞれのXAFSスペクトルを示す。また、図14(a)及び図14(b)のそれぞれは、図12に示されたX線照射領域A14及びA15それぞれのXAFSスペクトルを示す。先に述べたとおり、X線照射領域が金属膜20に近いほど、窒化ホウ素(BN)に起因するピーク強度(sp2)が増大する。なお、図12の照射領域A11においてもXAFSスペクトルが取得できているが、X線ビームの一部が無蒸着領域まで拡がっていることにより信号が取得できているものと考えられる。
ここで、TEY測定において試料を流れる電流量の計算モデルについて説明する。図15は、計算モデルを示す図である。図15には、試料表面10a及び金属膜20が示されており、加えて、金属膜20の短手方向におけるX線照射位置と、該位置において生じる電流量との関係を示すグラフG30が示されている。この計算モデルでは、X線の強度プロファイルをガウス関数と仮定し、有効なXAFS電流は金属膜20から距離X(μm)の位置において生じるものとし、電流量はX線強度に比例するものとした。このとき、計測される電流量は、次の数式(1)によって表される。
数式(1)の右辺第一項は、X線が金属膜に吸収されて生じる電流量である。また、右辺第二項は、X線が試料表面に吸収されて生じる電流量である。μ0は、金属膜20の短手方向におけるX線強度のピーク位置である。αは、金属膜20と被測定試料との励起効率の違いを補正する係数である。
数式(1)の右辺第一項は、X線が金属膜に吸収されて生じる電流量である。また、右辺第二項は、X線が試料表面に吸収されて生じる電流量である。μ0は、金属膜20の短手方向におけるX線強度のピーク位置である。αは、金属膜20と被測定試料との励起効率の違いを補正する係数である。
図16は、上記の計算モデルを用いてX線照射位置と吸収強度との関係を解析した結果を示すグラフである。なお、図中において、プロットP1は実測値を示しており、プロットP2は解析結果を示している。なお、上の数式(1)の定数αを0.42とした。この解析の結果、Xは156μmとなった。すなわち、この解析結果によって、金属膜20の縁から例えば156μmの範囲内であれば、X線の照射により生じた電流が、XAFS測定のために有効であることが実験的に示された。以下、このようにXAFS測定のために有効な大きさの電流信号を取得できる領域を、有効信号取得領域と称する。
図17は、X線が金属膜に吸収されて生じる電流と、X線が試料表面に吸収されて生じる電流とを分離して示すグラフである。図17に示されるように、X線が金属膜に吸収されて生じる電流は、X線照射領域が金属膜から離れるほど小さくなる。一方、X線が試料表面に吸収されて生じる電流は、X線照射領域と金属膜との重なりが小さくなるほど大きくなり、X線照射領域と金属膜とが離れた後ではこれらの距離が長くなるほど小さくなる。
また、本実施例によれば、図2に示された金属膜20の少なくとも一つの領域の縁と、X線照射領域の中心(すなわちピーク位置)との所定方向Aにおける距離は、有効信号取得領域の幅よりも短いことが好ましく、一例では30μm以下である。このように、X線照射領域と金属膜20との距離が離れ過ぎず適切な範囲内であることにより、X線照射領域からの電流を金属膜20を介して流れ易くすることができる。このような効果は、本実施形態において用いられた窒化ホウ素(BN)において特に顕著である。
(変形例)
図18は、上記実施形態の一変形例に係る金属膜24の形状を示す平面図である。この金属膜24は、表面10aに沿った所定方向Aに並ぶ二つの領域24a及び24bを少なくとも含む。これら二つの領域24a及び24bは、所定方向Aにおいて互いに離間している。領域24a及び24bが互いに離間していることにより、領域24a及び24bの間には、表面10aが露出する隙間26が設けられている。
図18は、上記実施形態の一変形例に係る金属膜24の形状を示す平面図である。この金属膜24は、表面10aに沿った所定方向Aに並ぶ二つの領域24a及び24bを少なくとも含む。これら二つの領域24a及び24bは、所定方向Aにおいて互いに離間している。領域24a及び24bが互いに離間していることにより、領域24a及び24bの間には、表面10aが露出する隙間26が設けられている。
本変形例では、互いに隣り合う領域24a及び24bのそれぞれと隙間26との境界線が互いに傾斜している。これにより、互いに隣り合う領域の間隔(すなわち隙間の幅)が連続的に変化するので、試料の種類に応じた好適な隙間間隔を、一つの試料の表面において特定し易くすることができる。また、上記境界線が互いに交わることによって、その交点付近に極めて微細な隙間を生じさせることができるので、試料の種類に応じた好適な隙間間隔が微細であっても特定することができる。
本発明による試料測定方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では試料が窒化ホウ素(BN)である場合を例示したが、本発明に係る試料測定方法は、他の様々な絶縁体試料に対して適用可能である。また、試料表面に蒸着する金属は金(Au)若しくはPt−Pd合金に限られるものではなく、例えばCu等の、蒸着可能である導電性の様々な種類の金属或いは合金を用いることができる。また試料表面への金属膜形成方法としては、蒸着以外にも、流動性の高い金属或いは金属粒子含有ペーストを塗布すること、或いはこれらペースト状金属を試料と金属膜との接着層として用いた接着、も利用可能である。
10…試料、10a…表面、12…配線、14…電流計、16…X線、18…電子、19…正電荷、20,24…金属膜、20a〜20d,24a,24b…領域、22a〜22c,26…隙間、100…測定系、101…アンジュレータ、102…回折格子、103…出射スリット、104…集光ミラー、105…メッシュ材、106…電流計、107…絶縁性ホルダ、A…所定方向(第1方向)、A1…X線照射領域、A11〜A15…X線照射領域。
Claims (6)
- X線吸収微細構造分析を用いて絶縁体試料の表面を測定する方法であって、
前記表面に沿った第1方向に並ぶ二以上の領域を少なくとも含み、該二以上の領域間に隙間を有する導電性の金属膜を、前記表面に密着させて形成する第1ステップと、
前記金属膜に電流計を接続する第2ステップと、
前記表面にX線を照射し、前記金属膜を流れる電流の大きさを前記電流計によって測定する第3ステップと、
を含む、試料測定方法。 - 前記第3ステップにおいて、前記二以上の領域のうち少なくとも一つと、前記X線が照射される領域の中心との前記第1方向における距離が、XAFS信号を有効に取得できる領域の幅よりも短い、請求項1に記載の試料測定方法。
- 前記第3ステップにおいて、前記二以上の領域のうち少なくとも一つと、前記X線が照射される領域の中心との前記第1方向における距離が30μm以下である、請求項1または2に記載の試料測定方法。
- 前記絶縁体試料が窒化ホウ素である、請求項3に記載の試料測定方法。
- 前記金属膜が、白金(Pt)とパラジウム(Pd)との合金、及び金(Au)のうち少なくとも一方を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の試料測定方法。
- 互いに隣り合う前記領域のそれぞれと前記隙間との境界線が互いに傾斜している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の試料測定方法。
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