JP2013195192A - 絶縁性試料の前処理方法、及び表面分析方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】測定領域の帯電状態を均一にすることができる絶縁性試料の前処理方法、及び表面分析方法を提供する。
【解決手段】絶縁性試料1のX線照射領域の周囲に導電性薄膜4を成膜する。これにより、単色化X線源プローブ及び中和電子銃を用いて絶縁性試料のX線光電子分光分析を行う際、測定領域内の余分な電子を効率良く逃がし、測定領域の帯電状態を均一とすることができる。
【選択図】図3
【解決手段】絶縁性試料1のX線照射領域の周囲に導電性薄膜4を成膜する。これにより、単色化X線源プローブ及び中和電子銃を用いて絶縁性試料のX線光電子分光分析を行う際、測定領域内の余分な電子を効率良く逃がし、測定領域の帯電状態を均一とすることができる。
【選択図】図3
Description
本発明は、X線光電子分光分析法における絶縁性試料の前処理方法、及び表面分析方法に関する。
X線光電子分光法(XPS)は、試料表面にエネルギー既知のX線を照射し、試料表面から放出された光電子の運動エネルギーを検出する分析法である。ある元素から放出された光電子の運動エネルギー(Ek)、その元素中の電子の束縛エネルギー(Eb)、入射X線のエネルギー(hν)、及び仕事関数(φ)は、Ek=hν−Eb−φの関係になっており、光電子運動エネルギーから元素中の電子の束縛エネルギーの情報が得られる。XPSでは、電子の束縛エネルギーを解析することで元素情報及び化学状態の情報を得ることができる。
XPSのプローブとしては、Al、Mg、Ag、Crなどの各種金属ターゲットからの特性X線が用いられる。それらのX線は、ターゲットからのX線をそのまま試料に照射する場合と回折格子を用いて単色化された後試料に照射される場合がある。
単色化X線源を用いると入射X線のエネルギー幅が狭くなり、得られる光電子スペクトルの半値幅が狭くなるため、より詳細な化学状態の情報を得ることができる。また、単色化X線源の使用には、非単色化X線源に含まれる連続X線成分のカットによるノイズレベルの低下や分析プローブとして用いるX線以外の特性線のカットによるゴーストピークの除外などのメリットがある。このようなXPSは、プローブとして荷電粒子を用いないために、オージェ電子分光分析法などの各種表面分析法の中では、絶縁性試料及び高抵抗試料の測定に強い分析法として知られている。
しかしながら、XPSは、試料の導電性が著しく低い場合には、測定中、試料からの光電子放出の結果、X線が照射されている領域では試料表面が正に帯電する。試料の導電性が高い場合にはX線の照射領域以外の部分から電子が速やかに補填されることでX線照射領域内に電位勾配は発生しないが、絶縁性試料の場合には周囲からの電子の補填が十分行われず、X線の照射領域内で電位勾配が発生する。すなわち、X線の中心部は、端部と比較してX線照射領域外からの電子供給が少ないほか、X線の照射密度も高くなるため、電位が高くなる。
上記のような帯電現象の結果、試料の仕事関数が変化し、光電子の運動エネルギーは真の値よりも低エネルギー側にシフトする。光電子の運動エネルギー値のシフトは、元素分析を行う上で妨害となる場合がある。また、X線プローブ内で発生する電位勾配は、XPSスペクトル半値幅の増加を招き、詳細な化学状態の解析を妨害する。半値幅の増加は、特に数100μm以下の微小領域に高密度のX線を照射する場合に顕著となる。これらの結果、XPSスペクトルの解析の際に誤った解釈を与える場合がある。
XPS分析時における試料表面の帯電による測定の妨害は、特に単色化X線源の場合に問題となる。これは、非単色化X線源ではX線照射密度が低いほか、X線照射と同時にX線管の照射窓から2次電子が放出され、試料表面に行き渡ることで帯電が緩和されるためである。しかしながら、前述したようにXPSにおいてより詳細な化学状態の解析を行う上で、単色化X線源の使用が不可欠である。また、近年では、微小領域の高感度分析を目的としてX線プローブの微小化・高密度化が進んでおり、これに伴って測定時に発生する帯電現象もより大きくなることから、帯電の補正はXPS分析技術の発展の上で最重要課題となっている。
単色化X線を用いた絶縁物又は高抵抗試料の測定の際に生じる帯電を解決する方法として、従来、電子銃を用いて外部から電子を供給する方法が行われている。
しかし多くの場合、電子線の照射のみでは絶縁物のXPS測定は正しく行うことができない。これは試料の導電性が低いため、電子線を照射することでX線照射領域外では逆に余分な電子が試料表面にたまり、この結果、X線照射領域内の帯電状態も不均一になるためである。
この現象を改善する手段として、測定前の前処理として測定領域を含む試料表面に貴金属の薄膜を形成する手法、アース電位の導電性メッシュを試料表面に被せ、中和用の電子線と併用する方法(非特許文献1)がある。
測定領域を含む試料表面に薄膜を形成する手法は、Au、Ptなどの貴金属を薄膜材料として蒸着法やスパッタリング法で薄膜を形成して余分な電子を効率よく系外へ逃がす方法である(非特許文献2〜4)。しかしながら、この方法では、測定領域にも薄膜が形成されるため、目的の元素の感度を低くしてしまう可能性が考えられる。
また、導電性メッシュを試料表面に被せる方法も、金属メッシュからの信号が測定結果に混入するという問題がある。
また、不均一帯電を解消する他の方法として、測定領域を囲むように円形の穴を開けた金属のマスクを着用し、中和銃から供給される電子のうちX線照射領域外にたまる余分な電子を試料外に逃がし、試料表面の電位勾配を均一に保つ方法が提案されている。
この金属マスクを使用する方法は、汎用的であり、最も一般的に用いられている。この方法は、直径数mm程度の穴を開けた薄い金属板を試料に接着させて、中和銃からの余分な電子を試料外へ逃がすことにより、測定領域の帯電状態を均一にすることができる。
しかしながら、この方法は、金属マスクと試料の間に僅かでも隙間があり、接地が不十分であると、電子の流れが不均一となり、不均一帯電を形成してしまい、すべての試料において試料と金属マスクの接地状況を同一にすることが実質不可能である。
図10(A)及び図10(B)に、金属マスクを使用してポリイミドフィルムを測定した結果を示す。図10(A)は、1回目の測定結果であり、N−C=O結合の結合エネルギー位置に相当するスペクトルが不明瞭となっている。また、図10(B)は、N−C=O結合の結合エネルギー位置に相当するスペクトルが明瞭となるまで、金属マスクの接地をやり直して測定を行うことを複数回実施した後に得られたスペクトルである。
このように、従来実施されてきた金属マスクを使用する方法は、精度の良いデータを得るには複数回の測定を実施する必要がある。また、複数回の測定を実施しても精度の良いデータが得られないこともあり、作業効率が悪い。
また、湾曲しているなど、平坦でない形状の試料や凹凸の大きな試料においては、金属マスクと試料を接地させることは不可能であり、このような形状の絶縁性試料を単色化X線源で測定することは極めて困難である。
C.E. Bryson: Surf. Sci., 189/190. 50 (1987)、G. Barth, et al. Surf. Interface Anal, 11, 307 (1988)
Y.Uwamino,T.Ishizuka and H. Yamatera,J.Electron Spectrosc., 23,55(1981)
S.Kohiki and K. Oki,J.Electron Spectrosc.,36,1054(1985)
Shigemi and Kohiki,Applications of Sruface Science 17,497(1984)
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、測定領域の帯電状態を均一にすることができる絶縁性試料の前処理方法、及び表面分析方法を提供する。
上述した課題を解決するために、本発明に係る絶縁性試料の前処理方法は、単色化X線源プローブ及び中和電子銃を用いて絶縁性試料のX線光電子分光分析を行うに際し、絶縁性試料のX線照射領域の周囲に導電性薄膜を成膜することを特徴としている。
また、本発明に係る表面分析方法は、絶縁性試料のX線照射領域の周囲に導電性薄膜を成膜し、単色化X線源プローブ及び中和電子銃を用いて前記絶縁性試料のX線光電子分光分析を行うことを特徴としている。
本発明によれば、絶縁性試料のX線照射領域の周囲に導電性薄膜を成膜することにより、測定領域内の余分な電子を効率良く逃がし、測定領域の帯電状態を均一とすることができる。また、導電性薄膜の成膜により、絶縁性試料と導電性薄膜との接地を均一とすることができ、平坦ではない形状の絶縁性試料のXPS分析を行うことができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。先ず、絶縁物又は高抵抗試料である絶縁性試料をX線光電子分光法(XPS)により測定した場合の帯電について説明する。
絶縁性試料をXPSにより測定する場合、X線照射により試料表面から光電子が放出する結果、周囲からの電子の補填が十分行われず、X線の照射領域内で電位勾配が発生する。すなわち、X線の中心部は、端部と比較して電位が高くなる。
また、帯電現象は、面内のみではなく試料の深さ方向にも生じる。一般にX線光電子の脱出深さは、数nm〜数10nm程度であるが、表面に近いほど光電子の放出量が多くなるため、表面に近いほど電位は高くなる。
このような帯電現象の結果、試料の仕事関数が変化し、光電子の運動エネルギーは真の値よりも低エネルギー側にシフトする。光電子の運動エネルギー値のシフトは、元素分析を行う上で妨害となる場合がある。また、X線プローブ内で発生する電位勾配は、XPSスペクトル半値幅の増加を招き、詳細な化学状態の解析を妨害する。
試料表面の帯電によるXPS分析の妨害は、数100μm以下の微小領域に高密度のX線を照射するような単色化X線源の場合に特に問題となる。このため、従来、電子銃を用いて外部から電子を供給し、X線照射により試料表面から放出される光電子との間に電子収支の平衡状態を形成する中和法が最も汎用的かつ有効に行われている。
しかしながら、電子線の照射のみでは試料面内で発生する電位勾配が解消されないことが多い。これは、試料の導電性の低さに起因して、X線照射領域外に余分な電子がたまり、負電荷が多くなるためである。
そこで、本実施の形態では、単色化X線源プローブ及び中和電子銃を用いて絶縁性試料のX線光電子分光分析を行うに際し、絶縁性試料のX線照射領域の周囲に導電性薄膜を成膜し、中和銃から供給される電子のうち余分な電子を効率よく試料外に逃がすことで試料表面の帯電状態を均一とする。
<第1の実施の形態>
以下、本手法について具体的に説明する。
以下、本手法について具体的に説明する。
図1は、成膜用マスクが固定された平坦形状の絶縁性試料を示す斜視図である。先ず、絶縁性試料1の表面への導電性薄膜形成の際に、目的とする測定領域に薄膜が形成されないように成膜用マスク2でマスクする。すなわち、X線照射領域を含み、X線照射領域より大きい領域を成膜用マスク2でマスクする。なお、本明細書において、絶縁性試料は、樹脂、酸化物、水酸化物等の導電性の著しく低い試料を示す。また、導電性薄膜は、純金属、合金、酸化物半導体などを原料とし、蒸着法やスパッタリング法を用いて形成される薄膜を示す。
成膜用マスク2の材料は、表面が清浄であれば特に限定されるものではなく、汎用性や表面清浄度の観点から、アルミ箔を用いることが好ましい。成膜用マスク2は、アルミ箔などの材料を市販のパンチなどで打ち抜いて作成される。打ち抜く際は、マスク表面の汚染を防止するため、予めマスクの材料を薬包紙に包んでから打ち抜く必要がある。
成膜用マスク2でマスクする測定領域は、XPS分析時に測定領域の帯電状況を均一にするため、可能な限り小さいことが望ましく、X線照射領域であるX線プローブ領域の2倍以上5倍以下であることが好ましい。
また、成膜用マスク2部分は、XPS分析時の測定領域になることから、その形状は円形であることが好ましい。すなわち、X線照射領域を含み、X線照射領域より大きい円の外側に導電性薄膜が成膜されることにより、X線照射領域から導電性薄膜部分までの距離が均一となり、帯電状態を均一にすることができる。
また、成膜用マスク2が円形の場合、その具体的な直径は1mm以上5mm以下であることが好ましい。直径が5mmより大きい場合、測定領域の帯電状態の均一性が悪くなる可能性があり、直径が1mmより小さい場合、X線プローブの範囲が測定領域外の導電性薄膜部分まで及ぶ可能性がある。
成膜用マスク2は、成膜時に邪魔にならない固定部材3により絶縁性試料1の表面に固定される。固定部材3は、特に限定されるものではなく、テープ、クリップなどを用いることができ、薄膜形成の邪魔にならないように可能な限り小さいものを用いるのが好ましい。また、粉末試料の場合、予め試料を両面テープ上などに固定した後に成膜用マスク2を固定することが好ましい。
図2は、導電性薄膜が成膜された平坦形状の絶縁性試料を示す斜視図である。薄膜形成の手法としては、膜の緻密性や均一性の観点から、蒸着法又はスパッタリング法を用いることが好ましい。緻密な膜を形成するという観点では、スパッタリング法を用いることが好ましい。一方、表面粗さが大きい試料においては、均一な膜を形成するという観点から、スパッタリング法よりも蒸着法を用いることが好ましい。
絶縁性試料1の表面に形成する導電性薄膜4の材料としては、導電性の観点から、Cu、Au、Pt、Ag、Al、Cr、Hf、Ir、Mo、Ni、Pd、Rh、Ru、Si、Ta、Tiなどの純金属又はその合金からなる金属類が用いられる。これらの中でも、特にCu、Au、Ptなどの導電性に優れた材料を用いることがより好ましい。
ここで、導電性薄膜4の材料は、測定対象となる絶縁性試料1に含まれていない可能性が高いものを選ぶ必要がある。例えば、炭素を導電性薄膜4の材料とすることは、導電性の観点や、測定領域へのコンタミネーションの有無が確認できないといった理由から望ましくない。
導電性薄膜4の厚みは、5nm以上であることが望ましい。膜厚が5nmよりも薄い場合、膜厚のコントロールが難しく、形成する膜が不均一になる可能性がある。また、必要以上に膜厚を厚くすることは、分析のスループットの点で望ましくない。
図3は、試料ホルダーに接地された平坦形状の絶縁性試料を示す斜視図である。図3に示すように、薄膜形成後、測定領域上の成膜用マスク2が外され、X線照射領域の周囲に導電性薄膜が成膜される。また、測定試料は、装置付属の金属製ホルダー5に固定される。このとき、導電性薄膜4部分と導電性を有する金属製ホルダー5とを導電材6で接地し、電流のパスを作る必要がある。導電材6としては、導電性テープ、金属製クリップなどを使用することができる。
以上のような絶縁性試料1の前処理によれば、単色化X線プローブ、及び中和電子銃を用いるXPS分析において、測定領域を囲むように形成された導電性薄膜4が中和電子銃から供給される電子のうち余分な電子を効率よく試料外に逃がすため、試料表面の帯電状態を均一とすることができる。
<第2の実施の形態>
また、本手法は、従来の金属マスクで接地することが困難であった平坦でない形状の絶縁性試料にも適用することが可能である。
また、本手法は、従来の金属マスクで接地することが困難であった平坦でない形状の絶縁性試料にも適用することが可能である。
図4は、成膜用マスクが固定された湾曲形状の絶縁性試料を示す斜視図である。第1の実施の形態と同様、先ず、絶縁性試料10の表面への導電性薄膜形成の際に、目的とする測定領域に薄膜が形成されないように成膜用マスク2でマスクする。
成膜用マスク2の材料、成膜用マスク2でマスクする測定領域、及び固定部材3については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
図5は、導電性薄膜が成膜された湾曲形状の絶縁性試料を示す斜視図である。薄膜形成の手法、導電性薄膜4の材料、及び導電性薄膜4の厚みについては、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
また、図6は、試料ホルダーに接地された平坦形状の絶縁性試料を示す斜視図である。図6に示すように測定試料の導電性薄膜4部分と金属製ホルダー5とを導電材6で接地し、電流のパスを作ることにより、従来の金属マスク使用時に見られた試料と金属マスク間の接地の不均一を解消することができ、金属マスクで接地することが困難であった湾曲形状など、複雑な形状の絶縁性試料についてXPS分析を行うことができる。
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1について、図1〜図3を参照して説明する。平坦形状の絶縁性試料1としてポリイミドフィルムを使用し、本手法を適用させた。
実施例1について、図1〜図3を参照して説明する。平坦形状の絶縁性試料1としてポリイミドフィルムを使用し、本手法を適用させた。
先ず、図1に示すように、成膜用マスク2として、市販のパンチを用いて打ち抜いた直径約4mmの円形のアルミ箔を使用し、固定部材3としてテープを用いて試料表面の目的とする測定領域に固定した。
次に、図2に示すようにスパッタリングにより試料表面に導電性薄膜4を成膜した。薄膜形成には、Gatan社製Precision Etching Coating System Model 682(PECS)を用いた。ターゲットとしてPtを用い、6kV 200μAの条件で5nmの厚さの導電性薄膜4を成膜した。
次に、図3に示すように、成膜用マスク2のアルミ箔を外した。これにより、X線照射領域を含む円形からなる測定領域の外側、すなわち測定領域の円周外に亘って導電性薄膜4が形成された。また、導電材6として導電性テープを用いてXPS装置付属の金属性試料ホルダー5に導電性薄膜4を接地させた。
前処理された実施例の絶縁性試料1についてXPS分析を行った。XPS分析には、Thermo Fisher製 ESCALAB220iXLを使用した。単色化AlKα線をプローブとして用い、X線管の出力150W(10kV 15mA)、X線の入射角度45°、光電子の取り出し角90°で測定を行った。測定中は中和電子銃を使用し、試料表面へ電子を供給した。そのときの中和電子銃のフィラメント電流は3A、中和電子の加速電圧は4Vであった。なお、帯電シフト量の補正は、C1sスペクトルのC−C,C−H結合のエネルギーに対応する測定値を文献値284.6eVに合わせる方法で行った。
図7に、C1sスペクトルの測定結果を示す。図7に示すように、C−C,C−H結合のスペクトルピークとN−C=O結合のスペクトルピークはそれぞれシャープな立ち上がりを有し、また、これらのスペクトルピークが明瞭に区別できることが確認された。
なお、上記一連の測定を行う前に、測定結果に影響を与える要因となる導電性薄膜原料であるPtのX線照射領域への混入の有無をXPSの定性分析によって確認した。この結果、X線照射領域へのPtの混入はないことを確認し、従って測定結果へのPtの影響はないものと判断した。
[実施例2]
実施例2について、図1〜図3を参照して説明する。平坦形状の絶縁性試料1として金属水酸化物/酸化物混合粉末を使用した以外は、実施例1と同様である。
実施例2について、図1〜図3を参照して説明する。平坦形状の絶縁性試料1として金属水酸化物/酸化物混合粉末を使用した以外は、実施例1と同様である。
先ず、図1に示すように、成膜用マスク2として、市販のパンチを用いて打ち抜いた直径約4mmの円形のアルミ箔を使用し、固定テープ3を用いて試料表面の目的とする測定領域に固定した。
次に、図2に示すようにスパッタリングにより試料表面に導電性薄膜4を成膜した。薄膜形成には、Gatan社製Precision Etching Coating System Model 682(PECS)を用いた。ターゲットとしてPtを用い、6kV 200μAの条件で5nmの厚さの導電性薄膜4を成膜した。
次に、図3に示すように、成膜用マスク2のアルミ箔を外した。これにより、X線照射領域を含む円形からなる測定領域の外側、すなわち測定領域の円周外に亘って導電性薄膜4が形成された。また、導電材6として導電性テープを用いてXPS装置付属の金属性試料ホルダー5に導電性薄膜4を接地させた。
前処理された実施例の絶縁性試料1についてXPS分析を行った。XPS分析には、Thermo Fisher製 ESCALAB220iXLを使用した。単色化AlKα線をプローブとして用い、X線管の出力150W(10kV 15mA)、X線の入射角度45°、光電子の取り出し角90°で測定を行った。測定中は中和電子銃を使用し、試料表面へ電子を供給した。そのときの中和電子銃のフィラメント電流は3A、中和電子の加速電圧は4Vであった。なお、帯電シフト量の補正は、C1sスペクトルのC−C,C−H結合のエネルギーに対応する測定値を文献値284.6eVに合わせる方法で行った。
図8(A)及び図8(B)にそれぞれC1sスペクトル及びO1sスペクトルの測定結果を示す。図8(A)に示すように、C1sスペクトルにおいてC−C,C−H結合のスペクトルピークはシャープな立ち上がりを有していることが確認された。また、図8(B)に示すように、O1sスペクトルにおいて、酸化物のスペクトルピークと水酸化物のスペクトルピークはそれぞれシャープな立ち上がりを有し、また、これらのスペクトルピークが明瞭に区別できることが確認された。
なお、上記一連の測定を行う前に、測定結果に影響を与える要因となる導電性薄膜原料であるPtのX線照射領域への混入の有無をXPSの定性分析によって確認した。この結果、Ptの混入はないことを確認し、従って測定結果へのPtの影響はないものと判断した。
[実施例3]
実施例3について、図4〜図6を参照して説明する。湾曲形状の絶縁性試料10としてアルミナ製の円筒型試料を使用し、本手法を適用させた。
実施例3について、図4〜図6を参照して説明する。湾曲形状の絶縁性試料10としてアルミナ製の円筒型試料を使用し、本手法を適用させた。
先ず、図4に示すように、成膜用マスク2として、市販のパンチを用いて打ち抜いた直径約4mmの円形のアルミ箔を使用し、固定テープ3を用いて試料表面の目的とする測定領域に固定した。
次に、図5に示すようにスパッタリングにより試料表面に導電性薄膜4を成膜した。薄膜形成には、Gatan社製Precision Etching Coating System Model 682(PECS)を用いた。ターゲットとしてPtを用い、6kV 200μAの条件で5nmの厚さの導電性薄膜4を成膜した。
次に、図6に示すように、成膜用マスク2のアルミ箔を外した。これにより、X線照射領域を含む円形からなる測定領域の外側、すなわち測定領域の円周外に亘って導電性薄膜4が形成された。また、導電材6として導電性テープを用いてXPS装置付属の金属性試料ホルダー5に導電性薄膜4を接地させた。
実施例の絶縁性試料10についてXPS分析を行った。XPS分析には、Thermo Fisher製 ESCALAB220iXLを使用した。単色化AlKα線をプローブとして用い、X線管の出力150W(10kV 15mA)、X線の入射角度45°、光電子の取り出し角90°で測定を行った。測定中は中和電子銃を使用し、試料表面へ電子を供給した。そのときの中和電子銃のフィラメント電流は3A、中和電子の加速電圧は4Vであった。なお、帯電シフト量の補正は、C1sスペクトルのC−C,C−H結合のエネルギーに対応する測定値を文献値284.6eVに合わせる方法で行った。
図9(A)、図9(B)及び図9(C)にそれぞれC1sスペクトル、O1sスペクトル及びAl2pスペクトルの測定結果を示す。図9(A)、図9(B)及び図9(C)に示すように、C1sスペクトル、O1sスペクトル及びAl2pスペクトルは、それぞれシャープな立ち上がりを有することが確認された。
なお、上記一連の測定を行う前に、測定結果に影響を与える要因となる導電性薄膜原料であるPtのX線照射領域への混入の有無をXPSの定性分析によって確認した。この結果、Ptの混入はないことを確認し、従って測定結果へのPtの影響はないものと判断した。
以上、実施例1〜3によれば、X線照射領域を囲むように形成された導電性薄膜4が中和電子銃から供給される電子のうち余分な電子を効率よく試料外に逃がすため、試料表面の帯電状態を均一とすることができることが分かった。また、測定試料の導電性薄膜4を接地し、電流のパスを作ることにより、従来の金属マスク使用時に見られた試料と金属マスク間の接地の不均一を解消することができ、金属マスクで接地することが困難であった湾曲形状の絶縁性試料についてもXPS分析を行うことができた。
1 絶縁性試料、2 成膜用マスク、3 固定部材、4 導電性薄膜、5 金属性試料ホルダー、6 導電材、10 絶縁性試料
Claims (6)
- 単色化X線源プローブ及び中和電子銃を用いて絶縁性試料のX線光電子分光分析を行うに際し、絶縁性試料のX線照射領域の周囲に導電性薄膜を成膜することを特徴とする絶縁性試料の前処理方法。
- 前記X線照射領域を含み、該X線照射領域より大きい領域の外側に導電性薄膜を成膜することを特徴とする請求項1記載の絶縁性試料の前処理方法。
- 前記導電性薄膜をスパッタリング法又は蒸着法を用いて成膜することを特徴とする請求項1又は2記載の絶縁性試料の前処理方法。
- 絶縁性試料のX線照射領域の周囲に導電性薄膜を成膜し、
単色化X線源プローブ及び中和電子銃を用いて前記絶縁性試料のX線光電子分光分析を行うことを特徴とする表面分析方法。 - 前記X線照射領域を含み、該X線照射領域より大きい領域の外側に導電性薄膜を成膜することを特徴とする請求項4記載の絶縁性試料の表面分析方法。
- 前記導電性薄膜を接地させることを特徴とする請求項4又は5記載の表面分析方法。
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JP2021001882A (ja) * | 2019-06-18 | 2021-01-07 | マツダ株式会社 | 光電子分光法による分析方法 |
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2012
- 2012-03-19 JP JP2012061791A patent/JP2013195192A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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