JP2016216815A - 高Crフェライト系耐熱鋼 - Google Patents

高Crフェライト系耐熱鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】優れた高温強度および長時間クリープ強度を有する高Crフェライト系耐熱鋼の提供【解決手段】化学組成が、質量%で、C:0.01〜0.13%、Si:0.1〜0.5%、Mn:2.0%以下、P:≦0.03%、S:≦0.01%、Cr:8.0〜12.0%、W:1.0〜4.0%、Co:1.0〜5.0%、V:0.1〜0.5%、Nb:0.01〜0.10%、Al:≦0.05%、B:0.002〜0.02%、N:0.005〜0.020%、Nd:0.005〜0.050%、Ca:0〜0.05%、Cu:0〜1.0%、Ni:0〜1.0%、Mo:0〜1.0%、Ta:0〜1.0%、残部:Feおよび不純物であり、結晶粒内に存在するMX析出物のうち、粒子径が20nm以上であるもの平均粒子間距離λが20nm以上100nm以下である高Crフェライト系耐熱鋼。【選択図】なし

Description

本発明は、高Crフェライト系耐熱鋼に関する。
石炭火力発電プラント等の高温、高圧環境で用いられる配管等の鋼材には、高温クリープ強度、クリープ疲労強度、耐食性および耐酸化性等の特性が要求される。
現在、このような用途の鋼材には、例えばCr含有量が9〜12質量%程度であるフェライト鋼(以下「高Crフェライト鋼」という。)が使用されている。
しかし、高Crフェライト鋼を用いた鋼材は、長時間クリープ強度の低下が顕著である。
そのため、これまでに高Crフェライト鋼について高温長時間クリープ強度の低下の抑制が図られてきた(例えば、特許文献1〜9を参照)。
国際公開第2006/109664号 国際公開第2008/149703号 特開2009−293063号公報 特開2002−235154号公報 特開2000−026940号公報 特開2001−279391号公報 特開2002−069588号公報 特開2002−317252号公報 特開2010−007094号公報
しかし、本発明者らが調査したところ、特許文献1〜9に記載の鋼であっても、高温長時間のクリープ強度の低下の抑制が十分とはいえない場合があることが分かった。本発明者らは、その原因について鋭意研究を行い、その原因が、結晶粒内に存在するMX析出物のうち、粒子径が20nm以上であるものの平均粒子間距離λにあることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、優れた高温長時間クリープ強度を有する高Crフェライト系耐熱鋼を提供とすることを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行い、本発明を完成させた。本発明は、下記(1)〜(3)に示す高Crフェライト系耐熱鋼を要旨とする。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.01〜0.13%、
Si:0.1〜0.5%、
Mn:2.0%以下、
P:0.03%以下、
S:0.01%以下、
Cr:8.0〜12.0%、
W:1.0〜4.0%、
Co:1.0〜5.0%、
V:0.1〜0.5%、
Nb:0.01〜0.10%、
Al:0.05%以下、
B:0.002〜0.02%、
N:0.005〜0.020%、
Nd:0.005〜0.050%、
Ca:0〜0.05%、
Cu:0〜1.0%、
Ni:0〜1.0%、
Mo:0〜1.0%、
Ta:0〜1.0%、
残部:Feおよび不純物であり、
結晶粒内に存在するMX析出物のうち、粒子径が20nm以上であるものの平均粒子間距離λが20nm以上100nm以下である高Crフェライト系耐熱鋼。
(2)前記化学組成が、質量%で、
Ca:0.0005〜0.05%
を含有する、上記(1)に記載の高Crフェライト系耐熱鋼。
(3)前記化学組成が、質量%で、
Cu:0.05〜1.0%、および
Ni:0.05〜1.0%
から選択される1種以上の元素を含有する、上記(1)または(2)に記載の高Crフェライト系耐熱鋼。
(4)前記化学組成が、質量%で、
Mo:0.005〜1.0%、および
Ta:0.01〜1.0%
から選択される1種以上の元素を含有する、上記(1)から(3)までのいずれか一つに記載の高Crフェライト系耐熱鋼。
本発明の高Crフェライト系耐熱鋼は、優れた高温長時間クリープ強度(以下「長時間クリープ強度」ともいう。)を有するため、石炭火力発電プラント等の高温、高圧環境で用いられる配管等の鋼材として好適である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.化学組成
本発明の鋼の化学組成の限定理由は次のとおりである。以下の説明において各元素の含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.01〜0.13%
Cは、オーステナイト安定化元素として鋼の組織を安定化する。また合金元素の炭化物および/または炭窒化物を形成して、鋼のクリープ強度の向上に寄与する。しかし、C含有量が0.01%未満であると、上記の効果が十分に得られない上に、δフェライト量が多くなり鋼の強度を低下させることがある。一方、C含有量が0.13%を超えると、鋼の加工性および溶接性が低下するとともに、使用初期から炭化物の凝集、粗大化が生じ、長時間クリープ強度の低下を招く。このため、C含有量は0.01〜0.13%とする。C含有量は、0.08%以上が好ましく、0.11%以下が好ましい。
Si:0.1〜0.5%
Siは、鋼の脱酸および耐水蒸気酸化性能の向上に必要な元素である。Si含有量が0.1%未満であると、脱酸が不十分となることおよび/または鋼の耐水蒸気酸化性が十分に得られないことがある。一方、Si含有量が0.5%を超えると鋼のクリープ強度の低下が著しくなる。このため、Si含有量は0.1〜0.5%とする。特に高い耐水蒸気酸化性を得るには、Si含有量の下限を0.25%とすることが好ましい。Si含有量の上限は0.4%が好ましい。
Mn:2.0%以下
Mnは、鋼の脱酸およびオーステナイトの安定化に寄与する元素である。また、Mnは、MnSを形成してSを固定する。しかし、Mn含有量が過剰な場合には、鋼のクリープ強度の低下を招く。このため、Mn含有量は2.0%以下とする。ただし、上記の効果を十分に得るため、Mn含有量は0.01%以上とするのが好ましく、より好ましいのは0.1%以上である。Mn含有量は1.0%以下とするのが好ましい。
P:0.03%以下
Pは、不純物として鋼中に存在する元素であり、鋼の熱間加工性、溶接性、クリープ強度、クリープ疲労強度等を悪化させる。そのため、P含有量は低いほど好ましい。しかし、P含有量を過度に低下させる場合、大幅なコストアップとなるため、P含有量は0.03%以下とする。
S:0.01%以下
SもPと同様に、不純物として鋼中に存在する元素であり、鋼の熱間加工性、溶接性、クリープ強度、クリープ疲労強度等を悪化させる。そのため、S含有量は低いほど好ましい。しかし、S含有量を過度に低下させる場合、大幅なコストアップとなるため、S含有量は0.01%以下とする。
Cr:8.0〜12.0%
Crは、鋼の高温における耐食性、耐酸化性および耐水蒸気酸化性を確保するのに不可欠な元素である。さらに、Crは、炭化物を形成して鋼のクリープ強度を向上させる。Cr含有量が8.0%未満ではこれらの効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が12.0%を超えると、長時間クリープ強度の低下を招く。このため、Cr含有量は8.0〜12.0%とする。Cr含有量は、8.5%以上が好ましく、10.0%未満が好ましい。
W:1.0〜4.0%
Wは、固溶強化元素として、鋼のクリープ強度の向上に寄与する元素である。さらに、Wは、一部がCr炭化物中に固溶して、炭化物の凝集、粗大化を抑制し、これによってもクリープ強度の向上に寄与する。W含有量が1.0%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、W含有量が4.0%を超えると、δフェライトの生成が促進され、クリープ強度の低下を招く。このため、W含有量は1.0〜4.0%とする。W含有量は、1.5%を超えることが好ましく、3.0%以下が好ましい。
Co:1.0〜5.0%
Coは、オーステナイトの安定化に寄与する元素である。Co含有量が1.0%未満ではこの効果が十分に得られない。一方、Co含有量が5.0%を超えると、鋼のクリープ強度の低下を招く。このため、Co含有量は1.0〜5.0%とする。Co含有量は1.5%以上が好ましく、4.5%以下が好ましい。
V:0.1〜0.5%
Vは、固溶強化作用により、および微細な炭窒化物を形成することにより、鋼のクリープ強度の向上に寄与する元素である。V含有量が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。一方、V含有量が0.5%を超えると、δフェライトの生成が促進され、長時間クリープ強度の低下を招く。このため、V含有量は0.1〜0.5%とする。V含有量は0.15%以上が好ましく、0.25%以下が好ましい。
Nb:0.01〜0.10%
Nbは、微細な炭窒化物を形成することにより、鋼の長時間クリープ強度の向上に寄与する元素である。Nb含有量が0.01%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Nb含有量が0.10%を超えると、δフェライトの生成が促進され、長時間クリープ強度の低下を招く。このため、Nb含有量は0.01〜0.10%とする。Nb含有量は0.04%以上が好ましく、0.08%以下が好ましい。
Al:0.05%以下
Alは、鋼の脱酸に用いられる元素である。Al含有量が0.05%を超えると、クリープ強度の低下を招く。このため、Al含有量は0.05%以下とする。Al含有量は、0.01%以下が好ましい。Alの脱酸性を安定して発揮させるには、Al含有量は0.001%以上が好ましく、0.005%以上がより好ましい。なお、本発明のAl含有量とは、酸可溶Al(所謂「sol.Al」)での含有量を指す。
B:0.002〜0.02%
Bは、鋼の焼入れ性を高めるとともに、高温での強度特性を向上させる元素である。B含有量が0.002%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、B含有量が0.02%を超えると鋼の溶接性および長時間クリープ強度の低下を招く。このため、B含有量は0.002〜0.02%とする。B含有量は0.005%以上が好ましく、0.015%以下が好ましい。
N:0.005〜0.020%
Nは、オーステナイト安定化元素として鋼の組織を安定化させる。また、Nは窒化物および/または炭窒化物を析出させて鋼の高温での強度特性を向上させる。N含有量が0.005%未満では、これらの効果が十分に得られない。一方、N含有量が0.020%を超えると、鋼が溶解した際にブローホールを生成させたり、溶接欠陥の原因となったりするだけでなく、窒化物および炭窒化物の粗大化により長時間クリープ強度の低下を招く。このため、N含有量は0.005〜0.020%とする。N含有量は、0.010%以上が好ましく、0.015%以下が好ましい。
Nd:0.005〜0.050%
Ndは、粒界脆化を生じさせるSを硫化物として固定し、クリープ破断延性およびクリープ疲労強度を大幅に向上させる元素である。Nd含有量が0.005%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Nd含有量が0.050%を超えると粗大な窒化物を形成し、鋼のクリープ強度の低下を招く。このため、Nd含有量は0.005〜0.050%とする。Nd含有量は0.010%以上が好ましく、0.040%以下が好ましい。
Ca:0〜0.05%
Caは、鋼の熱間加工性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Ca含有量が0.05%を超えると、鋼のクリープ強度の低下を招く。このため、Caを含有させる場合の含有量は0.05%以下とする。Ca含有量は0.04%以下が好ましい。一方、熱間加工性の向上効果を顕著に得るには、Ca含有量は0.0005%以上が好ましく、0.001%以上がより好ましい。
Cu:0〜1.0%
Cuは、オーステナイト安定化元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Cu含有量が1.0%を超えると、鋼のクリープ強度を低下させる。このため、Cuを含有させる場合の含有量は1.0%以下とする。Cu含有量は0.8%以下が好ましい。一方、オーステナイトの安定化効果を安定して得るには、Cu含有量は0.05%以上が好ましく、0.1%以上がより好ましい。
Ni:0〜1.0%
Niは、オーステナイト安定化元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Ni含有量が1.0%を超えると、鋼のクリープ強度を低下させる。このため、Niを含有させる場合の含有量は1.0%以下とする。Ni含有量は0.8%以下が好ましい。一方、オーステナイトの安定化効果を安定して得るには、Ni含有量は0.05%以上が好ましく、0.1%以上がより好ましい。
上記のCuおよびNiは、これらのうちいずれか1種のみを含有させること、または2種を複合して含有させることができる。なお、2種を複合して含有させる場合の合計含有量は0.15%以下であることが好ましい。
Mo:0〜1.0%
Moは、固溶強化元素として鋼のクリープ強度を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Mo含有量が1.0%を超えると、長時間クリープ強度の低下を招く。このため、Moを含有させる場合の含有量は1.0%以下とする。Mo含有量は0.8%以下が好ましく、0.1%以下がより望ましい。一方、クリープ強度の向上効果を安定して得るには、Mo含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
Ta:0〜1.0%
Taは、微細な炭窒化物を形成して鋼のクリープ強度を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかし、Ta含有量が1.0%を超えると、その効果は飽和し、却ってクリープ強度を低下させる。そのため、Taを含有させる場合の含有量は1.0%以下とする。Ta含有量は0.8%以下が好ましく、0.1%以下がより望ましい。一方、クリープ強度を向上させる効果を安定して得るには、Ta含有量は0.01%以上が好ましく、0.02%以上がより好ましい。Ta含有量は、0.05%以上がさらに好ましい。
上記のMoおよびTaは、これらのうちいずれか1種のみを含有させること、または2種を複合して含有させることができる。なお、2種を複合して含有させる場合の合計含有量は1.5%以下であることが好ましい。
本発明の鋼の化学組成の残部は、Feおよび不純物からなる。なお、「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
2.金属組織
本発明の高Crフェライト系耐熱鋼の金属組織はMX析出物を有し、結晶粒内に存在するMX析出物のうち、粒子径が20nm以上であるものの平均粒子間距離λが20nm以上100nm以下である。「MX」の「M」は金属元素、「X」はCおよびNの少なくとも一方であり、「MX」は金属元素の炭化物、窒化物または炭窒化物を意味する。なお、MX析出物についての「粒子径」とは、円相当径を指す。
平均粒子間距離λを規定するMX析出物の粒子径を20nm以上としたのは、粒子径が20nm未満のMX析出物は転位によって切断されやすく、転位のピン止め効果による鋼の強化作用が得にくいからである。なお、平均粒子間距離λを規定するMX析出物の粒子径の上限は200nmが好ましい。
粒子径が20nm以上のMX析出物の平均粒子間距離λを20nm以上100nm以下と規定したのは、λが20nm未満の場合には、高温環境下での鋼の使用中におけるMX析出物の粗大化が著しくなるからである。一方、λが100nmを超えると転位のピン止め効果による鋼の強化作用が得にくいからである。なお、平均粒子間距離λとは、隣接する析出物粒子の最近接距離の平均値を指す。
平均粒子間距離λは、透過型電子顕微鏡を用いて、試料の任意の領域における粒子径が20nm以上のMX析出物の個数を測定し、その領域の面積と析出物の個数とから算出することができる。なお、透過型電子顕微鏡の観察においては、試料を透過させた電子線の回折像を用いることから、試料は薄膜化する必要があり、観察箇所の試料厚さは通常100nm程度である。このとき、電子顕微鏡で観察した領域に、球状のMX析出物が規則的に二次元的に配置されている(例えば正方格子状または三角格子状に配置されている)と仮定して、観察した領域の面積および測定された析出物の個数から算出される、隣接する析出物の最近接距離を平均粒子間距離λとみなす。なお、観察された析出物がMX析出物であることは、EDS分析(Energy Dispersive X-ray Analysis)によって確認する。
3.製造方法
本発明の高Crフェライト系耐熱鋼は、例えば、以下の方法により製造することができるが、この方法には限定されない。
上記で説明した化学組成を有する鋼を、溶解炉を用いて溶製した後、鋳造によりインゴットまたは鋳片とする。鋳造されたインゴットまたは鋳片は、熱間鍛造、熱間圧延等の熱間加工によって鋼板、鋼管等の形状に加工した後、焼ならし処理および焼戻し処理を順に施す。焼戻し処理後は、任意の冷却方法で室温まで冷却する。焼ならし処理および焼戻し処理は、以下の条件で行う。
焼ならし処理の処理温度をT1(℃)、処理時間をt1(h)とし、焼戻し処理の処理温度をT2(℃)、処理時間をt2(h)とした場合、T1、t1、T2およびt2が、それぞれ下記(i)〜(iv)式を満たすものとする。
T1a≦T1≦T1b …(i)
t1a≦t1≦t1b …(ii)
T2a≦T2≦T2b …(iii)
t2a≦t2≦t2b …(iv)
ここで、T1a、T1b、t1a、t1b、T2a、T2b、t2aおよびt2b
は、下記(v)〜(xii)で定義される値である。
T1a=105×{50×Nb+10×V+60×(C+N)} …(v)
T1b=110×{50×Nb+10×V+60×(C+N)} …(vi)
t1a=0.05×{50×Nb+10×V+60×(C+N)} …(vii)
t1b=0.2×{50×Nb+10×V+60×(C+N)} …(viii)
T2a=72×{50×Nb+10×V+60×(C+N)} …(ix)
T2b=76×{50×Nb+10×V+60×(C+N)} …(x)
t2a=0.2×{50×Nb+10×V+60×(C+N)} …(xi)
t2b=0.8×{50×Nb+10×V+60×(C+N)} …(xii)
ただし、各元素記号は、高Crフェライト系耐熱鋼のそれぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
焼ならし処理の処理温度T1および処理時間t1、ならびに焼戻し処理の処理温度T2および処理時間t2を規定した理由は次のとおりである。
焼ならし処理の処理温度T1がT1aを下回ると、十分に焼ならしされず、鋼中に存在する析出物を十分に固溶させることができない。この場合、その後焼戻し処理を行っても、微細なMX析出物を十分に得ることができず、粗大なMX析出物が疎に分散することとなる。そのため、粒子径が20nm以上のMX析出物の平均粒子間距離λが大きくなり、得られた鋼のクリープ強度が低くなる。
一方、処理温度T1がT1bを上回ると、鋼の結晶粒が粗大となり靱性を劣化させるとともに、δフェライトが生成する可能性が高くなる。δフェライト組織では、マルテンサイト組織と比較して、析出物が疎に分散する。そのため、δフェライトが生成すると、その後焼戻し処理を行っても、微細なMX析出物を十分に得ることができず、粒子径が20nm以上のMX析出物の平均粒子間距離λが大きくなり、得られた鋼のクリープ強度が低くなる。
焼ならし処理の処理時間t1がt1aを下回ると、十分に焼ならしされず、鋼中に存在する析出物を十分に固溶させることができない。この場合、その後焼戻し処理を行っても、微細なMX析出物を十分に得ることができず、粗大なMX析出物が疎に分散することとなる。そのため、粒子径が20nm以上のMX析出物の平均粒子間距離λが大きくなり、得られた鋼のクリープ強度が低くなる。
一方、処理時間t1がt1bを上回ると、鋼の結晶粒が粗大になり、靱性が低下する。さらに、製造コストが悪化する。
焼戻し処理の処理温度T2がT2aを下回ると、鋼が十分に軟化されず靱性を劣化させる。また、鋼の強度向上に寄与する粒子径が20nm以上のMX析出物が減少して、粒子径が20nm以上のMX析出物の平均粒子間距離λが大きくなるため、得られた鋼のクリープ強度が低くなる。
一方、処理温度T2がT2bを上回ると、逆変態オーステナイトが新たに生成する可能性が高くなる。逆変態オーステナイトとは、析出物がない結晶粒界に生成する新たなオーステナイト組織である。逆変態オーステナイトが生成すると、その生成した部分におけるマルテンサイト組織において、析出物がラスバウンダリー上に析出しないため、粒子径が20nm以上のMX析出物の平均粒子間距離λが大きくなり、得られた鋼のクリープ強度が低くなる。
焼戻し処理の処理時間t2がt2aを下回ると、鋼が十分に軟化されず靱性を劣化させる。また、鋼の強度向上に寄与する粒子径が20nm以上のMX析出物が減少して、粒子径が20nm以上のMX析出物の平均粒子間距離λが大きくなるため、得られた鋼のクリープ強度が低くなる。
処理時間t2がt2bを上回ると、高温環境下における鋼の使用中にMX析出物が粗大化するため、粒子径が20nm以上のMX析出物の平均粒子間距離λが大きくなり、得られた鋼のクリープ強度が低くなる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す鋼A〜Dの化学成分を有する4種類の鋼を、真空溶解炉を用いて溶製した後、鋳造によりインゴットとした。インゴットに対して熱間鍛造および熱間圧延を行い、厚さ15mmの鋼板を得た。各鋼板に焼ならし処理および焼戻し処理を表2に示す条件で順に施した。試験番号1〜6は鋼A、試験番号7〜12は鋼B、試験番号13〜18は鋼C、試験番号19〜23は鋼Dからなる鋼板をそれぞれ使用した。表2には、鋼A〜Dについて化学成分から算出したT1a、T1b、t1a、t1b、T2a、T2b、t2aおよびt2bの値も示す。
Figure 2016216815
Figure 2016216815
各鋼板から採取した試料について各鋼板について機械研磨により厚さ80μm以下の薄片を作製し、直径3mmの円盤状試料を採取した。その後、電解研磨により穴をあけて、薄膜化した穴周辺の厚さ100nmの部分についてMX析出物の観察を行った。透過型電子顕微鏡を用いて視野の大きさが1.5μm×1.5μmである写真をそれぞれ3枚撮影した。各写真について、観察されたMX析出物のうち、粒子径が20nm以上であるものの数を測定した。観察された析出物がMXであることは、エネルギー分散型X線分析により確認し、MX析出物の粒子径は円相当径として測定した。この結果を用い、視野内にMX析出物が三角格子を形成するように並んでいると仮定した場合の三角格子の格子定数を算出した。なお、この三角格子の格子定数を粒子径が20nm以上のMX析出物の平均粒子間距離λとみなした。
さらに、各鋼板から採取した試料を用いてクリープ試験を行った。クリープ試験は、試料温度を650℃、引張応力を150MPaとして行い、クリープ破断時間を測定した。クリープ破断時間が1000時間以上を合格、1000時間未満を不合格と判定した。
表2に、平均粒子間距離λおよびクリープ破断時間の結果を示す。試験番号1〜4、7〜10、13〜16および19〜22は、いずれも平均粒子間距離λが本発明の規定を満足し、クリープ破断時間が1000時間以上であったため、合格と判定された。
試験番号5、6、11、12、17、18および23は、いずれも平均粒子間距離λが100nmを超え、クリープ破断時間が1000時間未満であったため、不合格と判定された。なお、表2に示すように、試験番号5は、焼ならし温度T1がT1a未満であった。試験番号6は、焼戻し温度T2がT2a未満であった。試験番号11は焼ならし時間t1がt1a未満であった。試験番号12は、焼戻し時間t2がt2a未満であった。試験番号17は、焼ならし温度T1がT1bを超えていた。試験番号18は、焼戻し温度T2がT2bを超えていた。試験番号23は、焼戻し時間t2がt2bを超えていた。
本発明の高Crフェライト系耐熱鋼は、優れた高温長時間クリープ強度を有するため、石炭火力発電プラント等の高温、高圧環境で用いられる配管等の鋼材として好適である。

Claims (4)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.01〜0.13%、
    Si:0.1〜0.5%、
    Mn:2.0%以下、
    P:0.03%以下、
    S:0.01%以下、
    Cr:8.0〜12.0%、
    W:1.0〜4.0%、
    Co:1.0〜5.0%、
    V:0.1〜0.5%、
    Nb:0.01〜0.10%、
    Al:0.05%以下、
    B:0.002〜0.02%、
    N:0.005〜0.020%、
    Nd:0.005〜0.050%、
    Ca:0〜0.05%、
    Cu:0〜1.0%、
    Ni:0〜1.0%、
    Mo:0〜1.0%、
    Ta:0〜1.0%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    結晶粒内に存在するMX析出物のうち、粒子径が20nm以上であるものの平均粒子間距離λが20nm以上100nm以下である高Crフェライト系耐熱鋼。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    Ca:0.0005〜0.05%
    を含有する、請求項1に記載の高Crフェライト系耐熱鋼。
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    Cu:0.05〜1.0%、および
    Ni:0.05〜1.0%
    から選択される1種以上の元素を含有する、請求項1または2に記載の高Crフェライト系耐熱鋼。
  4. 前記化学組成が、質量%で、
    Mo:0.005〜1.0%、および
    Ta:0.01〜1.0%、
    から選択される1種以上の元素を含有する、請求項1から3までのいずれか一つに記載の高Crフェライト系耐熱鋼。


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