JP2016214086A - Egfr遺伝子の変異検出方法及びキット - Google Patents

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Abstract

【課題】より短時間で簡便にEGFR遺伝子の変異を検出することができる方法及びキットを提供することを目的とする。
【解決手段】被検サンプルのEGFR遺伝子の対象領域に存在する変異を検出する方法であって、前記対象領域のセンス鎖又はアンチセンス鎖の塩基配列を有するペプチド核酸断片の存在下で、対照サンプル及び前記被検サンプルを鋳型として、等温増幅法により、EGFR遺伝子の前記対象領域を含む領域を増幅する工程と、前記対照サンプル及び前記被検サンプルの遺伝子増幅速度を比較し、前記被検サンプルの遺伝子増幅速度が前記対照サンプルの遺伝子増幅速度よりも速かった場合に、前記被検サンプルのEGFR遺伝子の前記対象領域には変異が存在すると判定する工程と、を含む方法及びキット。
【選択図】なし

Description

本発明は、EGFR遺伝子の変異検出方法及びキットに関する。
成長因子は細胞の増殖や機能獲得に重要な役割を果たしている。上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)は、EGF、アンフィレギュリン、TGF−α等の成長因子の受容体である。EGFRタンパク質は、細胞外領域、膜貫通領域及び細胞内領域に大別される。細胞内領域にはチロシンリン酸化領域が存在し、腫瘍細胞の分裂や増殖に重要な役割を果たす。
成長因子がEGFRに結合すると、細胞内領域のチロシンキナーゼ部位がリン酸化し、その刺激がJAK/STAT経路、RAS経路及びPI3K/mTOR経路を経て核内に伝達される。正常な細胞と同様に、癌細胞においても成長因子により細胞の機能が調節され、癌細胞の増殖、アポトーシス抑制、血管新生、浸潤・転移が生じることが知られている。
EGFRは近年注目されている分子標的薬のターゲットの1つである。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(一般名「ゲフィチニブ」、商品名「イレッサ(登録商標)」)は、EGFRのリン酸化を阻害するため、成長因子が結合したシグナルが下流へ伝達されなくなり、その機能を低下させる。また、セツキシマブ(商品名「アービタックス(登録商標)」)及びパニツムマブ(商品名「ベクティビックス(登録商標)」)はEGFRに対する抗体であり、EGFRの細胞外領域に結合し、成長因子の結合を阻害するため、EGFRの機能を低下させる。
EGFR遺伝子のコドン746〜753の領域は、チロシンリン酸化領域に相当し、肺癌をはじめとする種々の癌で変異が報告されている(例えば、非特許文献1を参照。)。上記の領域に変異がある場合、ゲフィチニブの奏功率が高いことが知られている。一方で、EGFRの下流に存在するK−Rasに変異がある場合、K−Rasが常に活性化された状態となり、抗EGFR抗体薬(セツキシマブ、パニツムマブ等)や、EGFRリン酸化阻害剤(ゲフィチニブ等)の奏功率が低下することが知られている。このようなことから、例えば癌患者の治療方針を決定するための情報の1つとして、EGFR遺伝子の変異を検出する需要がある。
Pao W. and Miller V.A., Epidermal growth factor receptor mutations, small-molecule kinase inhibitors, and non-small-cell lung cancer: current knowledge and future directions., J. Clin. Oncol., 23, 2556-2568, 2005.
癌患者のEGFR遺伝子の変異を検出する方法として、患者の癌組織から抽出したゲノムDNAを鋳型として、DNAシーケンス法、polymerase chain reaction-single strand conformation polymorphism(PCR−SSCP)法を行う方法等が知られている。
DNAシーケンス法は、目的とする遺伝子の一部を増幅させ、サンガー法によりその塩基配列を決定する方法である。また、PCR−SSCP法は、1本鎖DNAでは1塩基の違いでも高次構造が変化し、電気泳動による移動度が異なる性質を利用する変異検出法である。PCR−SSCP法では、PCRにより増幅した2本鎖DNA断片を加熱して1本鎖DNAにし、電気泳動を行って遺伝子の変異を検出する。
しかしながら、ゲノムDNAの抽出は約1時間を要する上に手技の習熟を必要とする。また、変異検出の結果を得るまでに、DNAシーケンス法では約1週間、PCR−SSCP法では約3日間を要するのが通常である。
そこで、本発明は、より短時間で簡便にEGFR遺伝子の変異を検出することができる方法及びキットを提供することを目的とする。
本発明は以下の通りである。
(1)被検サンプルのEGFR遺伝子の対象領域に存在する変異を検出する方法であって、前記対象領域のセンス鎖又はアンチセンス鎖の塩基配列を有するペプチド核酸断片の存在下又は非存在下で、前記被検サンプルを鋳型として、等温増幅法により、EGFR遺伝子の前記対象領域を含む領域を増幅する工程と、前記ペプチド核酸断片の存在下及び非存在下の遺伝子増幅速度を比較し、前記ペプチド核酸の存在下での遺伝子増幅速度と前記ペプチド核酸の非存在下での遺伝子増幅速度とが実質的に変わらなかった場合に、前記被検サンプルのEGFR遺伝子の前記対象領域には変異が存在すると判定する工程と、を含む方法。
(2)被検サンプルのEGFR遺伝子の対象領域に存在する変異を検出する方法であって、前記対象領域のセンス鎖又はアンチセンス鎖の塩基配列を有するペプチド核酸断片の存在下で、対照サンプル及び前記被検サンプルを鋳型として、等温増幅法により、EGFR遺伝子の前記対象領域を含む領域を増幅する工程と、前記対照サンプル及び前記被検サンプルの遺伝子増幅速度を比較し、前記被検サンプルの遺伝子増幅速度が前記対照サンプルの遺伝子増幅速度よりも速かった場合に、前記被検サンプルのEGFR遺伝子の前記対象領域には変異が存在すると判定する工程と、を含む方法。
(3)前記被検サンプル又は前記対照サンプルは、細胞又は組織をリン酸緩衝液中で煮沸後遠心分離して回収された上清である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記対象領域がEGFR遺伝子のコドン746〜753の領域である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記ペプチド核酸断片が配列番号1に記載の塩基配列又は配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列からなり、前記等温増幅法が、配列番号2に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマーを用いて行われる、(4)に記載の方法。
(6)前記等温増幅法が、配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマーを更に用いて行われる、(5)に記載の方法。
(7)前記等温増幅法がLAMP法である、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)配列番号1に記載の塩基配列又は配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を有するペプチド核酸断片、配列番号2に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマーを含む、EGFR遺伝子の変異検出キット。
(9)配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマーを更に含む、(8)に記載のキット。
本発明によれば、より短時間で簡便にEGFR遺伝子の変異を検出することができる方法及びキットを提供することができる。
(a)及び(b)は、実験例の結果を示すグラフである。
<EGFR遺伝子の変異を検出する方法>
[第1実施形態]
第1実施形態において、本発明は、被検サンプルのEGFR遺伝子の対象領域に存在する変異を検出する方法であって、前記対象領域のセンス鎖又はアンチセンス鎖の塩基配列を有するペプチド核酸断片(以下、「ロックプライマー」という場合がある。)の存在下又は非存在下で、前記被検サンプルを鋳型として、等温増幅法により、EGFR遺伝子の前記対象領域を含む領域を増幅する工程と、前記ペプチド核酸断片の存在下及び非存在下の遺伝子増幅速度を比較し、前記ペプチド核酸の存在下での遺伝子増幅速度と前記ペプチド核酸の非存在下での遺伝子増幅速度とが実質的に変わらなかった場合に、前記被検サンプルのEGFR遺伝子の前記対象領域には変異が存在すると判定する工程と、を含む方法を提供する。
本実施形態の変異検出方法により、短時間(1時間以内)で簡便にEGFR遺伝子の変異を検出することができる。このため、小規模診療施設においても遺伝子変異の検査を導入することができる。その結果、効率的にEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の奏功しやすい患者をスクリーニングすることが可能になる。また、遺伝子変異の検出に要する時間及び費用を大幅に低減することができる。また、従来は、効果が期待できない薬剤を処方する事例がみられたが、これを回避することにより、医療費を削減する効果が見込まれる。
(ロックプライマー)
本実施形態の変異検出方法は、ロックプライマーの存在下でEGFR遺伝子を等温増幅するものである。ロックプライマーは野生型の塩基配列を有しており、鋳型であるEGFR遺伝子にハイブリダイズし、その遺伝子増幅を阻害する。ここで、EGFR遺伝子の対象領域に変異が存在すると、ロックプライマーがハイブリダイズすることができず、遺伝子増幅が阻害されない。このため、野生型の塩基配列を有するEGFR遺伝子は遺伝子増幅が阻害され、変異を有するEGFR遺伝子は効率よく遺伝子増幅される。このため、遺伝子増幅速度を測定することにより、EGFR遺伝子の変異の有無を検出することができる。
ロックプライマーとしては、ペプチド核酸(PNA)を用いる。PNAは、DNAやRNAに類似した構造を有する分子であり、主鎖にペプチド構造を有する。DNAやRNAは糖(デオキシリボース又はリボース)を主鎖に有するが、PNAは糖の代わりにN−(2−アミノエチル)グリシンがアミド結合で結合したものを主鎖に有する。そして、核酸塩基に相当するプリン環やピリミジン環が、メチレン基とカルボニル基を介して主鎖に結合している。PNAは、DNAやRNAと同様に相補的な塩基配列を有する核酸に対して特異的かつ強力にハイブリダイズする。しかし、核酸ポリメラーゼのプライマーとして機能することができない。また、PNA断片に1塩基でもミスマッチがある場合には核酸にハイブリダイズすることができない。このため本実施形態の変異検出方法に好適に用いることができる。
PNA断片は、例えば、Hanvey J.C., et al., Antisense and antigene properties of peptide nucleic acids., Science, 258(5087), 1481-1485, 1992.に記載された方法にしたがって合成することができる。また、PNA断片の合成を業者に依頼することも可能である。
上述したように、EGFR遺伝子のコドン746〜753の領域は、肺癌をはじめとする種々の癌で変異が報告されている。そこで、EGFR遺伝子の変異の存在を検出する対象領域は、EGFR遺伝子のコドン746〜753の領域であってもよい。この場合、ロックプライマーとして、配列番号1に記載の塩基配列又は配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列からなるペプチド核酸断片を用いるとよい。配列番号1は、野生型のEGFR遺伝子のコドン746〜753の領域のセンス鎖の塩基配列である。
なお、本実施形態の変異検出方法は、肺癌等の癌に限られず、EGFR遺伝子の変異が関連する様々な疾患にも適用することができる。
(等温増幅法)
等温増幅法としては、納富らが開発した、PCR法で不可欠とされる温度制御が不要なループ媒介等温増幅法(Loop-Mediated Isothermal Amplification法、LAMP法;国際公開第00/28082号公報を参照。)を好適に利用することができる。LAMP法は、同じ遺伝子増幅技術であるPCRに比べて増幅効率が高く、DNAを15分〜1時間で10〜1010倍に増幅することができる。また、LAMP法は、最低4種類のプライマーを用いる核酸増幅法であるため、2種類のプライマーを用いるPCR法と比較して特異性が極めて高い。また、LAMP法は、等温(約65℃)での遺伝子増幅が可能であることから、従来の機器と比べると小型で安価な反応装置で実施することができる。
LAMP法では、鋳型核酸の塩基配列の計6領域、すなわち、3’末端側からF3c、F2c、F1cという領域と、5’末端側からB3、B2、B1という領域をそれぞれ規定し、これらの領域の塩基配列に基づいて、FIP、F3、BIP、B3と呼ばれる4種類のプライマーを設計する。
FIPは、F2c領域と相補的な塩基配列であるF2領域の塩基配列を3’末端側に持ち、5’末端側にF1c領域の塩基配列と同じ塩基配列を持つように設計する。F3は、F3c領域と相補的な塩基配列であるF3領域の塩基配列を持つように設計する。BIPは、B2c領域と相補的な塩基配列であるB2領域の塩基配列を3’末端側に持ち、5’末端側にB1c領域の塩基配列と同じ塩基配列を持つように設計する。B3は、B3c領域と相補的な塩基配列であるB3領域の塩基配列を持つように設計する。これらのプライマーは、設計支援ソフト(http://primerexplorer.jp/)等を利用して適宜設計することができる。
本実施形態の変異検出方法において、等温増幅法は、例えば、配列番号2に記載の塩基配列からなるプライマー(FIPに対応する。)、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマー(F3に対応する。)、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー(BIPに対応する。)及び配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマー(B3に対応する。)を用いて行ってもよい。
LAMP法においては、上記の4種類のプライマーに加えて、LF、LBと呼ばれるプライマー(ループプライマー)を用いることができる。LFは、F1領域とF2領域の間の塩基配列に相補的な塩基配列を持つように設計する。LBは、B1領域とB2領域の間の塩基配列に相補的な塩基配列を持つように設計する。これらのプライマーを追加で用いることにより、LAMP法による核酸増幅における核酸合成の起点が増加し、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能となる。LF、LBも、上述した設計支援ソフト等を利用して設計することができる。
本実施形態の変異検出方法において、等温増幅法は、上述したFIP、F3、BIP、B3に加えて、例えば、配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマー(LFに対応する。)及び配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマー(LBに対応する。)を更に用いて行ってもよい。
FIP、F3、BIP、B3、LF、LBの各プライマーの長さは、10塩基以上、好ましくは15塩基以上である。また、各プライマーは単一のオリゴヌクレオチドであってもよく、複数のオリゴヌクレオチドの混合物であってもよい。
(被検サンプル)
被検サンプルとしては、例えば、採取された直後の細胞又は組織、エタノール又はホルマリンで固定された細胞又は組織、パラフィンブロックから薄切された細胞又は組織から精製された、DNA又はRNA等の核酸を用いることができる。
LAMP法による遺伝子増幅の鋳型には、精製された核酸を使用することが一般的である。しかしながら、後述する実施例で示すように、本実施形態の変異検出方法においては、上述の精製されたサンプルだけでなく、細胞又は組織をリン酸緩衝液中で煮沸後遠心分離して回収された上清も、被検サンプル(鋳型)として用いることができる。このため、より短時間で簡便にEGFR遺伝子の変異を検出することができる。細胞又は組織は、煮沸する前に、例えばボールミル等の粉砕器を用いて破砕してもよい。
(遺伝子増幅速度)
等温増幅法による遺伝子増幅の程度は、例えば、サイバーグリーンI等のインターカレーター色素の存在下で遺伝子増幅を行い、増幅された遺伝子の量が、インターカレーター色素が発する蛍光強度と相関することを利用して測定することができる。あるいは、遺伝子増幅が進行するにしたがって等温増幅法の反応溶液が濁ることを利用して、吸光度計又は目視により遺伝子増幅の程度を判断することもできる。
遺伝子増幅速度がより速いとは、より短時間に所定の遺伝子増幅量に到達することを意味する。あるいは、例えば、遺伝子増幅量の変化を、横軸を時間、縦軸を遺伝子増幅量としたグラフに表した場合に、反応開始からグラフが立ち上がり始めるまでの時間がより速いということもできる。
本実施形態の変異検出方法においては、ロックプライマーの存在下及び非存在下の遺伝子増幅速度を比較し、ロックプライマーの存在下での遺伝子増幅速度とロックプライマーの非存在下での遺伝子増幅速度とが実質的に変わらなかった場合に、被検サンプルのEGFR遺伝子の前記対象領域には変異が存在すると判定する。
ロックプライマーの存在下及び非存在下の遺伝子増幅速度が実質的に変わらないのは、被検サンプルのEGFR遺伝子の対象領域に変異が存在することにより、ロックプライマーがハイブリダイズすることができず、遺伝子増幅が阻害されないためである。
ここで、「遺伝子増幅速度が実質的に変わらない」とは、ロックプライマーの存在下及び非存在下における遺伝子増幅において、所定の遺伝子増幅量に到達するのに要する時間が、例えば15分未満、例えば10分未満、例えば5分未満しか違わないことを意味する。あるいは、遺伝子増幅量の変化を、横軸を時間、縦軸を遺伝子増幅量としたグラフに表した場合に、反応開始からグラフが立ち上がり始めるまでの時間が、例えば15分未満、例えば10分未満、例えば5分未満しか違わないことを意味する。
逆に、「遺伝子増幅速度に差が認められる」とは、ロックプライマーの存在下及び非存在下における遺伝子増幅において、所定の遺伝子増幅量に到達するのに要する時間に、例えば15分以上、例えば20分以上、例えば25分以上の差が認められることを意味する。あるいは、遺伝子増幅量の変化を、横軸を時間、縦軸を遺伝子増幅量としたグラフに表した場合に、反応開始からグラフが立ち上がり始めるまでの時間に、例えば15分以上、例えば20分以上、例えば25分以上の差が認められることを意味する。
[第2実施形態]
第2実施形態において、本発明は、被検サンプルのEGFR遺伝子の対象領域に存在する変異を検出する方法であって、前記対象領域のセンス鎖又はアンチセンス鎖の塩基配列を有するペプチド核酸断片(ロックプライマー)の存在下で、対照サンプル及び前記被検サンプルを鋳型として、等温増幅法により、EGFR遺伝子の前記対象領域を含む領域を増幅する工程と、前記対照サンプル及び前記被検サンプルの遺伝子増幅速度を比較し、前記被検サンプルの遺伝子増幅速度が前記対照サンプルの遺伝子増幅速度よりも速かった場合に、前記被検サンプルのEGFR遺伝子の前記対象領域には変異が存在すると判定する工程と、を含む方法を提供する。本実施形態の変異検出方法において、ロックプライマー、等温増幅法、被検サンプル、遺伝子増幅速度については上述したものと同様である。
本実施形態の変異検出方法は、上述した第1実施形態の変異検出方法と原理的には同じであり、変異の有無を判定する基準が異なるものである。本実施形態の変異検出方法では、ロックプライマーの存在下で対照サンプル及び前記被検サンプルを鋳型とした遺伝子増幅を行い、対照サンプル及び被検サンプルの遺伝子増幅速度を比較する。
(対照サンプル)
対照サンプルとしては、上述した被検サンプルと同様な細胞又は組織から精製された、DNA又はRNA等の核酸、細胞又は組織をリン酸緩衝液中で煮沸後遠心分離して回収された上清等であって、EGFR遺伝子の対象領域に変異が存在しないことが予め明らかであるものを用いることができる。
<変異検出キット>
1実施形態において、本発明は、配列番号1に記載の塩基配列又は配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を有するペプチド核酸断片(ロックプライマー)、配列番号2に記載の塩基配列からなるプライマー(FIPに対応する。)、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマー(F3に対応する。)、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー(BIPに対応する。)及び配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマー(B3に対応する。)を含む、EGFR遺伝子の変異検出キットを提供する。本実施形態の変異検出キットは、上述したEGFR遺伝子の変異検出方法に好適に用いることができる。
本実施形態の変異検出キットは、上述したロックプライマー、FIP、F3、BIP、B3に加えて、例えば、配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマー(LFに対応する。)及び配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマー(LBに対応する。)を更に含んでいてもよい。LF及びLBを更に用いることにより、変異検出に要する時間を更に短縮することができる。
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例]
(サンプルの調製)
培養した肺腺癌細胞株HCC−827及び大腸腺癌細胞株HT−29をそれぞれ適量ずつマイクロチューブに回収した。続いて、リン酸緩衝液を適量添加し、1分間煮沸した。続いて12,000×gで1分間遠心分離し、上清を回収し、サンプルとした。
なお、HCC−827細胞株はEGFR遺伝子のコドン746〜753の領域に変異を有していることが知られている。具体的には、コドン746〜750が欠失している。一方、HT−29細胞株のEGFR遺伝子は野生型であり、変異を有していないことが知られている。
(等温増幅法による遺伝子増幅)
ロックプライマーとして、配列番号1に示す塩基配列を有するペプチド核酸断片を使用した。また、FIP、F3、BIP、B3プライマーとして、それぞれ配列番号2〜5に記載の塩基配列からなるプライマーを使用した。
ロックプライマーの存在下及び非存在下で、FIP、F3、BIP、B3プライマーを用いて、HCC−827細胞株由来のサンプル及びHT−29細胞株由来のサンプルをそれぞれ鋳型とした遺伝子増幅を行った。遺伝子増幅の反応液には、市販のキット(型式「Isothermal Master Mix」、ニッポンジーン社)を使用した。遺伝子増幅反応は、蛍光検出遺伝子増幅装置(型式「Genie(R)II」、OptiGene社製)を用いて行った。遺伝子増幅量は、反応液中に添加された蛍光物質の蛍光強度に基づいて測定した。
図1(a)及び(b)は、実験結果を示すグラフである。横軸は反応時間を表し、縦軸は遺伝子増幅量の相対値を表す。図1(a)は、HCC−827細胞株由来のサンプルを鋳型に用いた結果である。図1(b)は、HT−29細胞株由来のサンプルを鋳型に用いた結果である。
その結果、図1(a)では、ロックプライマーの存在下及び非存在下における遺伝子増幅量に実質的な差が認められなかった。より具体的には、遺伝子増幅反応の開始からグラフが立ち上がり始めるまでの時間が、ロックプライマーの存在下及び非存在下で約2分間しか違わなかった。
この結果は、HCC−827細胞株のEGFR遺伝子のコドン746〜753の領域には変異が存在することを示す。これは、HCC−827細胞株のEGFR遺伝子にロックプライマーがハイブリダイズできなかったため、遺伝子増幅が阻害されなかったことによるものである。
一方、図1(b)では、ロックプライマーの存在下及び非存在下における遺伝子増幅量に顕著な差が認められた。より具体的には、遺伝子増幅反応の開始からグラフが立ち上がり始めるまでの時間に、ロックプライマーの存在下及び非存在下で約18分間の差が認められた。
この結果は、HT−29細胞株のEGFR遺伝子のコドン746〜753の領域には変異が存在しないことを示す。これは、HT−29細胞株のEGFR遺伝子にロックプライマーがハイブリダイズし、遺伝子増幅が阻害されたことによるものである。
本発明によれば、より短時間で簡便にEGFR遺伝子の変異を検出することができる方法及びキットを提供することができる。

Claims (9)

  1. 被検サンプルのEGFR遺伝子の対象領域に存在する変異を検出する方法であって、
    前記対象領域のセンス鎖又はアンチセンス鎖の塩基配列を有するペプチド核酸断片の存在下又は非存在下で、前記被検サンプルを鋳型として、等温増幅法により、EGFR遺伝子の前記対象領域を含む領域を増幅する工程と、
    前記ペプチド核酸断片の存在下及び非存在下の遺伝子増幅速度を比較し、前記ペプチド核酸の存在下での遺伝子増幅速度と前記ペプチド核酸の非存在下での遺伝子増幅速度とが実質的に変わらなかった場合に、前記被検サンプルのEGFR遺伝子の前記対象領域には変異が存在すると判定する工程と、
    を含む方法。
  2. 被検サンプルのEGFR遺伝子の対象領域に存在する変異を検出する方法であって、
    前記対象領域のセンス鎖又はアンチセンス鎖の塩基配列を有するペプチド核酸断片の存在下で、対照サンプル及び前記被検サンプルを鋳型として、等温増幅法により、EGFR遺伝子の前記対象領域を含む領域を増幅する工程と、
    前記対照サンプル及び前記被検サンプルの遺伝子増幅速度を比較し、前記被検サンプルの遺伝子増幅速度が前記対照サンプルの遺伝子増幅速度よりも速かった場合に、前記被検サンプルのEGFR遺伝子の前記対象領域には変異が存在すると判定する工程と、
    を含む方法。
  3. 前記被検サンプル又は前記対照サンプルは、細胞又は組織をリン酸緩衝液中で煮沸後遠心分離して回収された上清である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記対象領域がEGFR遺伝子のコドン746〜753の領域である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記ペプチド核酸断片が配列番号1に記載の塩基配列又は配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列からなり、前記等温増幅法が、配列番号2に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマーを用いて行われる、請求項4に記載の方法。
  6. 前記等温増幅法が、配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマーを更に用いて行われる、請求項5に記載の方法。
  7. 前記等温増幅法がLAMP法である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 配列番号1に記載の塩基配列又は配列番号1に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を有するペプチド核酸断片、配列番号2に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマーを含む、EGFR遺伝子の変異検出キット。
  9. 配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマーを更に含む、請求項8に記載のキット。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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