JP2016195579A - 鉄分供給方法、鉄分供給物、植物の栽培方法、ユーグレナの培養方法及び魚介類の養殖方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】鉄を水中に二価の状態で安定して存在させることにより植物又は藻類に効率よく鉄分を供給できる鉄分供給方法を提供する。【解決手段】本発明の鉄分供給方法は、植物又は藻類に鉄分を供給する方法であって、水中での鉄又は鉄化合物とポリフェノールとの接触により上記水中に鉄分を溶出又はコロイド分散する工程を備えることを特徴とする。上記溶出又はコロイド分散工程の鉄又は鉄化合物として製鋼スラグが用いられるとよい。また、上記溶出又はコロイド分散工程のポリフェノールが茶殻から抽出されるとよい。また、上記溶出又はコロイド分散工程を海、河川又は湖沼の水中で行うとよい。また、上記溶出又はコロイド分散工程で得られた液体を植物又は藻類に投与する工程をさらに備えてもよい。また、本発明の鉄分供給物は、植物又は藻類に鉄分を供給する物であって、鉄又は鉄化合物を含有する第1材料と、ポリフェノールを抽出可能な第2材料とを備える。【選択図】なし
Description
本発明は、鉄分供給方法、鉄分供給物、植物の栽培方法、ユーグレナの培養方法及び魚介類の養殖方法に関する。
鉄は、植物プランクトンにおける硝酸などの栄養の取り込み促進や、光合成の促進等の触媒作用があり、植物プランクトンの増殖に有効であると考えられている。しかし、近年森林等の伐採や河川護岸工事等によって川や海に流れ込む鉄分が減少しており、その結果、藻場が消失する磯焼け等が発生すると考えられている。
海水中の鉄分を増加させることで、このような消失した藻場を再生することができる。つまり、海水中の鉄分が増加すると、例えば海水中で植物性プランクトンの生育が促進されて繁殖し、この植物性プランクトンを補食する動物性プランクトンが増加し、さらにこの動物性プランクトンを捕食するエビや小魚等が集まることによって藻場が再生し、海洋環境が良好となる。さらに、魚が食用とする海藻類が生育することによって大きな魚も集まり、良好な漁場が生成される。
海水中の鉄分を増加させる方法として、護岸設備の表面に形成した凹部内に、緩衝材を介在させて鉄又は鉄化合物を含有する基体を表面が露出するように埋め込み付設する海藻増殖方法が提案されている(特許2802575号公報参照)。この海藻増殖方法は、緩衝材を介在させることにより護岸設備と基体との間の電気化学的な反応が生じないようにすると共に、基体に含有される鉄や鉄化合物が鉄イオンとして溶解することで徐々に海水中の溶解鉄を増加させる。
しかし、鉄は、pHが低い液体中では溶解し易い二価の状態となる一方で、pHが8.3程度と高い海水中では沈殿を形成しやすい三価の状態となるため、植物プランクトンの鉄吸収効率は非常に低くなる。上記公報で提案されている海藻増殖方法では、鉄又は鉄化合物を含有する基体を海水中に付設しているだけなので、この基体から鉄イオンとして海水中に溶解している鉄は三価の状態と考えられ、海水中に増加させた鉄分が効率よく植物プランクトンに吸収されるとはいえない。
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、鉄を水中に二価の状態で安定して存在させることで植物又は藻類に効率よく鉄分を供給できる鉄分供給方法、鉄分供給物、植物の栽培方法、ユーグレナの培養方法及び魚介類の養殖方法の提供を目的とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、pHの比較的高い水中であっても鉄又は鉄化合物とポリフェノールとを接触させることにより、上記鉄又は鉄化合物から水中に溶出する鉄を二価の状態で一定量安定して存在させられることを見出した。
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、植物又は藻類に鉄分を供給する方法であって、水中での鉄又は鉄化合物とポリフェノールとの接触により上記水中に鉄分を溶出又はコロイド分散する工程を備えることを特徴とする鉄分供給方法である。
当該鉄分供給方法は、水中で鉄又は鉄化合物とポリフェノールとを接触させるので、この水のpHが比較的高い場合でも上記鉄又は鉄化合物から溶出する鉄を二価の状態で一定量安定して存在させることができる。これにより、当該鉄分供給方法は、植物プランクトン等の藻類や植物などに鉄分を効率よく供給することができるので、良好な漁場を生成することができ、また水耕栽培においてpHが比較的高い培養液を用いても鉄分を効率よく植物に供給することができる。
上記溶出又はコロイド分散工程の鉄又は鉄化合物として製鋼スラグが用いられるとよい。このように、溶出又はコロイド分散工程の鉄又は鉄化合物として製鋼スラグを用いることで、鉄分供給源を低コストで取得できるので、より低コストで鉄分を効率よく植物又は藻類に供給できる。ここで、製鋼スラグとは、銑鉄やスクラップから靭性及び加工性に優れた「鋼」を製造する製鋼工程で副生されるスラグのことを意味し、予備処理スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ、鋳造スラグ、脱リンスラグ等である。
上記溶出又はコロイド分散工程のポリフェノールが茶殻から抽出されるとよい。このように、溶出又はコロイド分散工程のポリフェノールを茶殻から抽出することで、ポリフェノール供給源を低コストで取得できるので、より低コストで鉄分を効率よく植物又は藻類に供給できる。
上記溶出又はコロイド分散工程を海、河川又は湖沼の水中で行うとよい。これにより、海、河川又は湖沼に生息する植物又は藻類に容易かつ確実に鉄分を供給できる。
上記溶出又はコロイド分散工程で得られた液体を植物又は藻類に投与する工程をさらに備えるとよい。このように、溶出又はコロイド分散工程で得られた液体を植物又は藻類に投与する工程を備えることで、より確実かつ効率よく植物又は藻類に鉄分を吸収させることができる。
また、上記課題を解決するためになされた別の発明は、植物又は藻類に鉄分を供給する物であって、鉄又は鉄化合物を含有する第1材料と、ポリフェノールを抽出可能な第2材料とを備えることを特徴とする鉄分供給物である。
当該鉄分供給物は、鉄又は鉄化合物を含有する第1材料と、ポリフェノールを抽出可能な第2材料とを備えているので、第1材料と第2材料から抽出されるポリフェノールとを水中で接触させることにより、この水のpHが比較的高い場合でも第1材料から溶出する鉄を二価の状態で一定量安定して存在させることができる。これにより、当該鉄分供給物は、植物プランクトン等の藻類や植物などに鉄分を効率よく供給することができるので、良好な漁場を生成することができ、また水耕栽培においてpHが比較的高い培養液を用いても鉄分を効率よく植物に供給することができる。
上記第1材料が製鋼スラグであるとよい。このように、第1材料として製鋼スラグを用いることで、鉄分供給源である第1材料を低コストで取得できるので、より低コストで鉄分を効率よく植物又は藻類に供給できる。
上記第2材料が茶殻であるとよい。このように、第2材料として茶殻を用いることで、ポリフェノール供給源である第2材料を低コストで取得できるので、より低コストで鉄分を効率よく植物又は藻類に供給できる。
上記第1材料及び第2材料が結合材で一体に成形されているとよい。水中に生息する植物又は藻類に鉄分を供給する場合、このように第1材料及び第2材料を結合材で一体に成形した成形体を水中へ付設することにより、容易かつ確実に第1材料と第2材料から抽出されるポリフェノールとを接触させて植物又は藻類に鉄分を吸収させることができる。
上記第1材料及び第2材料が通水性袋に封入されていてもよい。水中に生息する植物又は藻類に鉄分を供給する場合、このように第1材料及び第2材料を封入した通水性袋を水底へ載置することにより、容易かつ確実に第1材料と第2材料から抽出されるポリフェノールとを接触させて植物又は藻類に鉄分を吸収させることができる。
また、上記課題を解決するためになされた別の発明は、上記鉄分供給方法で得られる鉄分含有液を植物栽培のための土壌又は培養液中へ添加する工程を備える植物の栽培方法である。このように、植物栽培のための土壌又は培養液中へ上記鉄分含有液を添加することにより、土壌栽培や水耕栽培における植物の根部から鉄分を効率よく吸収させることができ、植物の生育を促進することができる。ここで、「鉄分含有液」とは、上記鉄分供給方法の鉄又は鉄化合物から鉄分を溶出又はコロイド分散する工程で得られる二価の状態で安定して存在する鉄分を含有する含有液を意味する。
また、上記課題を解決するためになされた別の発明は、上記鉄分供給方法で得られる鉄分含有液をユーグレナを含む培養液を貯留する培養槽へ添加する工程を備えるユーグレナの培養方法である。このように、ユーグレナを含む培養液中へ上記鉄分含有液を添加することにより、ユーグレナに鉄分を効率よく供給することができ、ユーグレナの生育を促進でき、培養効率を向上できる。
また、上記課題を解決するためになされた別の発明は、上記鉄分供給方法で得られる鉄分含有液を魚介類が生息する海、河川、湖沼又は水槽へ添加する工程を備える魚介類の養殖方法である。このように、魚介類が生息する海、河川、湖沼又は水槽へ上記鉄分含有液を添加することにより、水中の植物プランクトンに鉄分を効率よく供給して生育を促進できる。この植物プランクトンの増殖により、動物プランクトンが増殖し、ひいては動物プランクトンを捕食する魚介類の生育を促進できる。
以上説明したように、本発明の鉄分供給方法、鉄分供給物、植物の栽培方法、ユーグレナの培養方法及び魚介類の養殖方法により、鉄を水中に二価の状態で安定して存在させることができ、植物又は藻類に鉄分を効率よく供給できる。
以下、本発明に係る鉄分供給方法、鉄分供給物、植物の栽培方法、ユーグレナの培養方法及び魚介類の養殖方法の実施形態について説明する。
[鉄分供給方法]
当該鉄分供給方法は、植物又は藻類に鉄分を供給する方法であって、水中での鉄又は鉄化合物とポリフェノールとの接触により上記水中に鉄分を溶出又はコロイド分散する工程を主に備える。また、当該鉄分供給方法は、上記溶出又はコロイド分散工程で得られた液体を植物又は藻類に投与する工程を備える。
当該鉄分供給方法は、植物又は藻類に鉄分を供給する方法であって、水中での鉄又は鉄化合物とポリフェノールとの接触により上記水中に鉄分を溶出又はコロイド分散する工程を主に備える。また、当該鉄分供給方法は、上記溶出又はコロイド分散工程で得られた液体を植物又は藻類に投与する工程を備える。
<溶出又はコロイド分散工程>
溶出又はコロイド分散工程では、水中で鉄又は鉄化合物とポリフェノールとを接触させ、上記水中に鉄分を溶出又はコロイド分散させる。
溶出又はコロイド分散工程では、水中で鉄又は鉄化合物とポリフェノールとを接触させ、上記水中に鉄分を溶出又はコロイド分散させる。
水中で鉄又は鉄化合物とポリフェノールとを接触させる方法としては、例えば鉄又は鉄化合物と茶などのポリフェノールの供給源となる材料とを接触又は近接するよう水底又は水中に載置する。これにより、ポリフェノールの供給源から水中にポリフェノールが抽出され、ポリフェノールが鉄又は鉄化合物の表面に接触する。没食子酸類のポリフェノールは、鉄に対して還元性と錯体形成能とを有しているので、ポリフェノールと接触することにより鉄又は鉄化合物から水中に鉄分が溶出又はコロイド分散する。また、水中に溶出した鉄は、ポリフェノールと接触することにより二価の状態から三価の状態への酸化が抑制されるので、一定量が二価の状態で安定して維持される。
(鉄又は鉄化合物)
上記鉄化合物としては、例えば酸化鉄が挙げられる。また、上記鉄又は鉄化合物を含む材料として、例えば鋼材、鉄粉、製鋼スラグ等を用いることができる。鉄粉を用いることでポリフェノールとの接触が良好となり、鉄分を溶出又はコロイド分散する工程を効率的に行うことができる。また、製鋼スラグには、例えば10%程度の酸化鉄が含まれている。製鋼スラグを用いることで、鉄分供給源を低コストで取得でき、より低コストで上記水中に鉄分を溶出又はコロイド分散させることができる。
上記鉄化合物としては、例えば酸化鉄が挙げられる。また、上記鉄又は鉄化合物を含む材料として、例えば鋼材、鉄粉、製鋼スラグ等を用いることができる。鉄粉を用いることでポリフェノールとの接触が良好となり、鉄分を溶出又はコロイド分散する工程を効率的に行うことができる。また、製鋼スラグには、例えば10%程度の酸化鉄が含まれている。製鋼スラグを用いることで、鉄分供給源を低コストで取得でき、より低コストで上記水中に鉄分を溶出又はコロイド分散させることができる。
(ポリフェノール)
ここで用いるポリフェノールとは、分子内に複数のフェノール性水酸基をもつ成分のことを意味し、その構造の違いからフラボン、フラボノール、フラバノン、イソフラボン、フラバノール、カルコン、アントシアニンなどに分類することができる。また、上記分類の他にクロロゲン酸、エラグ酸、プロアントシアニジン、タンニン等もここで用いることができるポリフェノールである。
ここで用いるポリフェノールとは、分子内に複数のフェノール性水酸基をもつ成分のことを意味し、その構造の違いからフラボン、フラボノール、フラバノン、イソフラボン、フラバノール、カルコン、アントシアニンなどに分類することができる。また、上記分類の他にクロロゲン酸、エラグ酸、プロアントシアニジン、タンニン等もここで用いることができるポリフェノールである。
なお、これらのポリフェノールとしては合成品だけでなく果実や種子等の抽出物由来のポリフェノール、果実や種子等をすり潰した果汁由来のポリフェノール等も使用することができる。このような抽出物及び果汁としては、バラ科、ツバキ科、ブドウ科、シソ科、アカネ科、アオギリ科、タデ科、カキノキ科又はウルシ科に属する植物の抽出物及び果汁が好ましい。また、これらの植物と重複するものもあるが、マングローブや草木染めに使用する植物などにもポリフェノールが含まれ、これらの植物もポリフェノールの供給源として用いることができる。
バラ科の主な代表例としては、リンゴ、ナシ、モモ、イチゴ等が挙げられ、ツバキ科としては、茶が挙げられ、ブドウ科としては、ブドウ(ノブドウを含む)が挙げられ、シソ科としては、シソ、ハッカ、マンネロウ、メボウキ等が挙げられ、アカネ科としては、コーヒー、クチナシ等が挙げられ、アオギリ科としては、カカオ、コーラ等が挙げられ、タデ科としては、ソバ、ダイオウ等が挙げられ、カキノキ科としては、カキノキ等が挙げられ、ウルシ科としてはヌルデ等が挙げられる。
また、このような抽出物及び果汁由来のポリフェノールの主な代表例としては、リンゴポリフェノール、ブドウ種子ポリフェノール、ブドウ葉ポリフェノール、ウーロン茶ポリフェノール、茶ポリフェノール、シソポリフェノール、カカオポリフェノール、ソバポリフェノール、コーヒーポリフェノール等が挙げられる。また、柿渋やタマネギの皮などもポリフェノールの供給源として用いることができる。
また、ポリフェノールの供給源として、茶葉で茶を煎じた後の残りかすである茶殻や、コーヒー豆でコーヒーを淹れた後の残りかすであるコーヒー殻を用いてもよい。茶殻やコーヒー殻にも一定量のポリフェノールが残存しており、他のポリフェノールと同様に、酸化鉄還元能、鉄の溶解機能、及び溶解した鉄との錯体形成能を有している。茶殻やコーヒー殻からポリフェノールを抽出することで、ポリフェノール供給源を低コストで取得できるので、より低コストで鉄又は鉄化合物から水中に溶出する鉄を二価の状態で一定量安定して存在させることができる。さらに、茶殻やコーヒー殻の廃棄コストも削減できる。例えば茶殻を廃棄する場合、質量の増加に伴って廃棄コストが増加するので廃棄時に乾燥する必要があるが、当該鉄分供給方法で使用する場合には十分に乾燥しなくても用いることができ、上記乾燥に要するコストを低減できる。なお、低コストでかつ容易に入手できる点において、コーヒー殻よりも茶殻の方が好ましい。
鉄又は鉄化合物の供給源として製鋼スラグを用い、ポリフェノールの供給源として茶殻を用いる場合、乾燥状態での製鋼スラグに対する茶殻の配合量の質量割合の下限としては、1/20が好ましく、1/10がより好ましい。一方、乾燥状態での製鋼スラグに対する茶殻の配合量の質量割合の上限としては、3/2が好ましく、1/1がより好ましい。乾燥状態での製鋼スラグに対する茶殻の配合量の質量割合が上記下限より小さいと、水中に溶出する鉄の二価の状態で維持できる割合が小さくなるおそれがある。逆に、乾燥状態での製鋼スラグに対する茶殻の配合量の質量割合が上記上限を超えると、水中に溶出又はコロイド分散する鉄分の量が十分に得られないおそれがある。
(水)
当該鉄分供給方法は、水中で鉄又は鉄化合物とポリフェノールとを接触させるが、この水として、蒸留水や海水等を用いることができる。海水のようにpHの比較的高い水中では鉄は沈殿し易い三価の状態となり易いが、ポリフェノールと接触させることで、pHの比較的高い水中でも鉄を溶解し易い二価の状態に維持させることができる。そのため、当該鉄分供給方法では、鉄分を溶出又はコロイド分散させる水として、pHの比較的高い海水も用いることができる。
当該鉄分供給方法は、水中で鉄又は鉄化合物とポリフェノールとを接触させるが、この水として、蒸留水や海水等を用いることができる。海水のようにpHの比較的高い水中では鉄は沈殿し易い三価の状態となり易いが、ポリフェノールと接触させることで、pHの比較的高い水中でも鉄を溶解し易い二価の状態に維持させることができる。そのため、当該鉄分供給方法では、鉄分を溶出又はコロイド分散させる水として、pHの比較的高い海水も用いることができる。
鉄又は鉄化合物とポリフェノールとを接触させる水のpHの下限としては、2.5が好ましく、2.8がより好ましい。一方、上記水のpHの上限としては、9.0が好ましく、8.5がより好ましい。上記水のpHが上記下限より小さいと、カルシウムやマグネシウムが植物に吸収され難くなり、植物の生育に悪影響を与えるおそれがある。逆に、上記水のpHが上記上限を超えると、鉄分を水中に二価の状態で維持できなくなるおそれがある。
<液体投与工程>
上記溶出又はコロイド分散工程で得られた液体の投与工程では、鉄分が溶出又はコロイド分散した液体を植物又は藻類が生息する水中へ投与する。具体的には、例えば上記溶出又はコロイド分散工程で得た鉄分が溶出又はコロイド分散した液体をポンプにより、海、河川又は湖沼の水中の植物又は藻類が生息する領域へ流し込む。このようにすることで、植物又は藻類が生息する領域の水中において二価の状態で存在する鉄の濃度を高くでき、水中の鉄分を植物又は藻類に効率よく吸収させることができる。
上記溶出又はコロイド分散工程で得られた液体の投与工程では、鉄分が溶出又はコロイド分散した液体を植物又は藻類が生息する水中へ投与する。具体的には、例えば上記溶出又はコロイド分散工程で得た鉄分が溶出又はコロイド分散した液体をポンプにより、海、河川又は湖沼の水中の植物又は藻類が生息する領域へ流し込む。このようにすることで、植物又は藻類が生息する領域の水中において二価の状態で存在する鉄の濃度を高くでき、水中の鉄分を植物又は藻類に効率よく吸収させることができる。
当該鉄分供給方法を海で用いる一例として、魚を養殖するプラントが挙げられる。例えば網などで海の領域を区切り、その区切られた領域内の海水中へ、鉄分が溶出又はコロイド分散した上記液体を定期的に流し込むようにする。これにより、上記領域内に生息する植物プランクトンや動物プランクトンを生育させ、魚を養殖することができる。河川や湖沼においても、同様にして当該鉄分供給方法を用いることができる。河川や湖沼の場合、網で囲むような領域を形成しなくても、水の流出方向を遮るように網などを設置することでその上流側にプラントを形成できる。
また、海、河川又は湖沼以外で当該鉄分供給方法を用いる一例として、水耕栽培での利用が挙げられる。例えば植物の根部が浸漬する培養液を貯留させた栽培用ベッド内へ、鉄分が溶出又はコロイド分散した上記液体を定期的に流し込むようにする。これにより、植物の根部から鉄分を効率よく吸収させることができ、植物の生育を促進できる。
[鉄分供給物]
当該鉄分供給物は、植物又は藻類に鉄分を供給する物であって、鉄又は鉄化合物を含有する第1材料と、ポリフェノールを抽出可能な第2材料とを備える。
当該鉄分供給物は、植物又は藻類に鉄分を供給する物であって、鉄又は鉄化合物を含有する第1材料と、ポリフェノールを抽出可能な第2材料とを備える。
<第1材料>
上記第1材料として、鉄又は鉄化合物を含有するものを用いることができる。例えば酸化鉄を含有する製鋼スラグも第1材料として用いることができる。
上記第1材料として、鉄又は鉄化合物を含有するものを用いることができる。例えば酸化鉄を含有する製鋼スラグも第1材料として用いることができる。
<第2材料>
上記第2材料として、例えばポリフェノールが残留する茶殻やコーヒー殻を用いることができる。なお、茶殻やコーヒー殻は、乾燥していない状態で用いてもよいし、乾燥させて用いてもよい。また、茶殻やコーヒー殻は、そのまま粉砕せずに用いてもよいし、粉砕して用いてもよい。ただし、茶殻やコーヒー殻を粉砕することでポリフェノールが水中に抽出され易くなるので、茶殻又はコーヒー殻の使用量を低減できる。
上記第2材料として、例えばポリフェノールが残留する茶殻やコーヒー殻を用いることができる。なお、茶殻やコーヒー殻は、乾燥していない状態で用いてもよいし、乾燥させて用いてもよい。また、茶殻やコーヒー殻は、そのまま粉砕せずに用いてもよいし、粉砕して用いてもよい。ただし、茶殻やコーヒー殻を粉砕することでポリフェノールが水中に抽出され易くなるので、茶殻又はコーヒー殻の使用量を低減できる。
上述のように天然由来の素材又は天然の素材を上記第2材料として使用することで、上記第2材料を環境に適用し易く、かつ環境負荷を小さくできる。さらに、上記第2材料として天然由来の素材又は天然の素材を使用することで、農業の有機栽培、魚介類の養殖などにおいて、他のビタミン、ポリフェノール等のフィトケミカルとの組み合わせ効果が期待できる。
当該鉄分供給物の形態の一例として、上記第1材料及び第2材料を結合材で一体に成形したものが挙げられる。このように結合材で一体に成形した成形体を海、河川又は湖沼の水中に載置することにより、成形体内で第2材料と接触する第1材料から水中へ鉄分が溶出又はコロイド分散する。
上記成形体は、例えば上記結合材としてセメントを用いることで製造できる。具体的には、第1材料、第2材料及びセメントに水を混合し、撹拌した後、所定期間養生することにより上記成形体を製造できる。
上記成形体に用いる製鋼スラグ等の第1材料は粒状であることが好ましく、第1材料の平均粒径の下限としては、1mmが好ましく、2mmがより好ましい。一方、第1材料の平均粒径の上限としては、30mmが好ましく、20mmがより好ましい。第1材料の平均粒径が上記下限より小さいと、第1材料を均一に混合し難くなり、撹拌時間が長くなるおそれがある。逆に、第1材料の平均粒径が上記上限を超えると、第1材料と第2材料との接触面積が小さくなり、十分な量の鉄分が水中に溶出又はコロイド分散しないおそれがある。なお、「平均粒径」とは、JIS−Z8815(1994)のふるい分け試験法通則における乾式ふるい分けに準拠して得られた粒径分布の累積ふるい下百分率が50質量%となる粒径を意味する。
上記成形体の乾燥質量に対する第1材料の質量割合の下限としては、75%が好ましく、80%がより好ましい。一方、上記第1材料の質量割合の上限としては、98%が好ましく、95%がより好ましい。上記第1材料の質量割合が上記下限より小さいと、十分な量の鉄分が水中に溶出又はコロイド分散しないおそれがある。逆に、上記第1材料の質量割合が上記上限を超えると、相対的にポリフェノール量が小さくなりすぎ、二価の状態で水中に存在する鉄の割合が小さくなるおそれがある。
上記成形体の乾燥質量に対する第2材料の質量割合の下限としては、1%が好ましく、2%がより好ましい。一方、上記第2材料の質量割合の上限としては、5%が好ましく、4%がより好ましい。上記第2材料の質量割合が上記下限より小さいと、二価の状態で水中に存在する鉄の割合が小さくなるおそれがある。逆に、上記第2材料の質量割合が上記上限を超えると、成形体の強度が低下するおそれがある。
上記成形体の乾燥質量に対するセメントの質量割合の下限としては、1%が好ましく、3%がより好ましい。一方、上記セメントの質量割合の上限としては、20%が好ましく、15%がより好ましい。上記セメントの質量割合が上記下限より小さいと、成形体が欠けやすくなり形状を保持できないおそれがある。逆に、上記セメントの質量割合が上記上限を超えると、相対的に第1材料の質量割合が小さくなり、十分な量の鉄分が水中に溶出又はコロイド分散しないおそれがある。
当該鉄分供給物の形態の他の一例として、上記第1材料及び第2材料を通水性袋に封入したものが挙げられる。このように第1材料及び第2材料を封入した通水性袋を植物又は藻類が生息する海、河川又は湖沼の水中に載置することにより、通水性袋内に水が浸入する。そして、通水性袋内に浸入した水中に第2材料からポリフェノールが抽出され、このポリフェノールと接触した第1材料から鉄分が溶出又はコロイド分散する。この溶出又はコロイド分散した鉄分が、通水性袋を通過して周りの水中へ流出し、植物又は藻類に吸収される。
また、例えば水耕栽培では、植物の生育に伴い培養液のpHは上昇する。そのため、従来は、植物への鉄分供給不足を防止するために培養液のpHが上昇すると硫酸や硝酸の添加によりpHを調整していた。しかし、上記通水性袋を水底に載置しておくことで、pHが高くなっても継続的に水中に鉄分が溶出又はコロイド分散するので、培養液のpH調整作業を低減できる。
<利点>
当該鉄分供給方法は、水中で鉄又は鉄化合物とポリフェノールとを接触させるので、この水のpHが比較的高い場合でも上記鉄又は鉄化合物から溶出する鉄を二価の状態で一定量安定して存在させることができる。これにより、植物プランクトン等の藻類や植物などに鉄分を効率よく供給することができるので、良好な漁場を生成することができ、また水耕栽培においてpHが比較的高い培養液を用いても鉄分を効率よく植物に供給することができる。
当該鉄分供給方法は、水中で鉄又は鉄化合物とポリフェノールとを接触させるので、この水のpHが比較的高い場合でも上記鉄又は鉄化合物から溶出する鉄を二価の状態で一定量安定して存在させることができる。これにより、植物プランクトン等の藻類や植物などに鉄分を効率よく供給することができるので、良好な漁場を生成することができ、また水耕栽培においてpHが比較的高い培養液を用いても鉄分を効率よく植物に供給することができる。
[植物の栽培方法]
当該植物の栽培方法は、当該栽培液供給方法の鉄又は鉄化合物から鉄分を溶出又はコロイド分散する工程で得られる鉄分含有液を、植物栽培のための土壌又は培養液中へ添加する工程を備える。
当該植物の栽培方法は、当該栽培液供給方法の鉄又は鉄化合物から鉄分を溶出又はコロイド分散する工程で得られる鉄分含有液を、植物栽培のための土壌又は培養液中へ添加する工程を備える。
<鉄分含有液を添加する工程>
鉄分含有液を添加する工程では、植物を栽培する土壌又は培養液中へ鉄分含有液を添加する。具体的には、例えば土壌栽培では、植物を栽培している周囲の土壌の上から上記鉄分含有液をかける。これにより、土壌に浸み込んだ上記鉄分含有液が植物の根部と接触し、根部から鉄分が効率よく吸収され、植物の生育が促進する。
鉄分含有液を添加する工程では、植物を栽培する土壌又は培養液中へ鉄分含有液を添加する。具体的には、例えば土壌栽培では、植物を栽培している周囲の土壌の上から上記鉄分含有液をかける。これにより、土壌に浸み込んだ上記鉄分含有液が植物の根部と接触し、根部から鉄分が効率よく吸収され、植物の生育が促進する。
また、例えば水耕栽培では、植物を栽培する培養液中に上記鉄分含有液を供給する。これにより、鉄分含有液に含まれる鉄分が培養液中に流れ出し、培養液に浸漬する植物の根部から効率よく吸収される。この結果、植物の生育が促進する。
また、当該栽培方法で栽培したネギなどの植物は、食したときに甘く感じられる。
また、藍藻(シアノバクテリア)や根粒細菌を有する植物に鉄分含有液を添加することで、ニトロゲナーゼの生成を促進でき、タンパク質やアミノ酸等の窒素化合物の供給源を強化できる。
[ユーグレナの培養方法]
当該ユーグレナの培養方法は、上記鉄分含有液をユーグレナの培養槽へ添加する工程を備える。
当該ユーグレナの培養方法は、上記鉄分含有液をユーグレナの培養槽へ添加する工程を備える。
<鉄分含有液を添加する工程>
鉄分含有液を添加する工程では、ミドリムシ等のユーグレナを含む培養液中へ鉄分含有液を添加する。これにより、鉄分含有液に含まれる鉄分が培養液中に流れ出し、培養液中で生育するユーグレナに鉄分を効率よく供給できる。この結果、ユーグレナの生育を促進でき、ユーグレナを増産できる。
鉄分含有液を添加する工程では、ミドリムシ等のユーグレナを含む培養液中へ鉄分含有液を添加する。これにより、鉄分含有液に含まれる鉄分が培養液中に流れ出し、培養液中で生育するユーグレナに鉄分を効率よく供給できる。この結果、ユーグレナの生育を促進でき、ユーグレナを増産できる。
[魚介類の養殖方法]
当該魚介類の養殖方法は、上記鉄分含有液を魚介類が生息する海、河川、湖沼又は水槽へ添加する工程を備える。
当該魚介類の養殖方法は、上記鉄分含有液を魚介類が生息する海、河川、湖沼又は水槽へ添加する工程を備える。
<鉄分含有液を添加する工程>
鉄分含有液を添加する工程では、海、河川、湖沼又は水槽へ鉄分含有液を添加する。これにより、鉄分含有液に含まれる鉄分が、海、河川、湖沼又は水槽の水中へ流れ出し、水中の植物プランクトンに鉄分を効率よく供給して生育を促進する。さらに、植物プランクトンの増殖により、動物プランクトンが増殖し、ひいては動物プランクトンを捕食する魚介類の生育を促進できる。
鉄分含有液を添加する工程では、海、河川、湖沼又は水槽へ鉄分含有液を添加する。これにより、鉄分含有液に含まれる鉄分が、海、河川、湖沼又は水槽の水中へ流れ出し、水中の植物プランクトンに鉄分を効率よく供給して生育を促進する。さらに、植物プランクトンの増殖により、動物プランクトンが増殖し、ひいては動物プランクトンを捕食する魚介類の生育を促進できる。
[その他の実施形態]
なお、本発明の鉄分供給方法及び鉄分供給物は、上記実施形態に限定されるものではない。
なお、本発明の鉄分供給方法及び鉄分供給物は、上記実施形態に限定されるものではない。
つまり、上記実施形態では、当該鉄分供給物が第1材料及び第2材料を備えることとしたが、さらにキレート剤を備えてもよい。キレート剤を備えることで、水中で鉄を二価の状態でより安定して維持させ易くなる。キレート剤としては、水中を汚染することなく入手が容易な点で果実酸又は果実酸化合物が好ましい。
また、上記実施形態の溶出又はコロイド分散工程で得られた液体を乾燥し、固体状にして保存してもよい。この固体状にして保存したものを水に分散させ、例えば植物又は藻類に投与することで、植物プランクトン等の藻類や植物などに鉄分を効率よく供給することができる。なお、上記液体を乾燥したものを粉体状で保存しておくことで、上記保存したものが水に分散し易くなる。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[二価鉄溶出評価]
以下の試験を実施し、鉄がポリフェノールと接触した場合に水中に溶出される鉄の状態を評価した。
以下の試験を実施し、鉄がポリフェノールと接触した場合に水中に溶出される鉄の状態を評価した。
<試験方法>
ポリフェノールを含有する液体として茶(株式会社伊藤園の「おーい お茶 濃い味」)を用い、鉄材として内径10mm×外径32mm×厚み2.5mmの表面ユニクロメッキのワッシャー(株式会社ダイドーハント製)を用いた。具体的には、常温にて1000mL容量のビーカーに上記茶500mLを入れ、メッキ除去処理を行った4個の上記ワッシャーを吊り下げる形態で茶に浸漬するようビーカーに入れた。その後、1時間経過するまでは10分毎に、1時間経過後は1時間毎にガラス棒で緩やかに撹拌した。5時間経過以降は静置し、24時間経過直前に緩やかに撹拌した。
ポリフェノールを含有する液体として茶(株式会社伊藤園の「おーい お茶 濃い味」)を用い、鉄材として内径10mm×外径32mm×厚み2.5mmの表面ユニクロメッキのワッシャー(株式会社ダイドーハント製)を用いた。具体的には、常温にて1000mL容量のビーカーに上記茶500mLを入れ、メッキ除去処理を行った4個の上記ワッシャーを吊り下げる形態で茶に浸漬するようビーカーに入れた。その後、1時間経過するまでは10分毎に、1時間経過後は1時間毎にガラス棒で緩やかに撹拌した。5時間経過以降は静置し、24時間経過直前に緩やかに撹拌した。
<溶液中の鉄分の分析>
ワッシャーをビーカーに入れる前、1時間経過後及び24時間経過後のビーカー内の溶液をそれぞれNo.1、No.2及びNo.3とし、これらの溶液について全鉄及び二価鉄の濃度を測定した。具体的には、各溶液を酸でpH調整した後にマイクロ波処理し、ICP発光分光分析により全鉄の濃度を測定した。また、各溶液を0.4μmメンブレンフィルターでろ過した後、ろ液にo−フェナントロリンを添加し有機溶剤を加えて二層分離させた後にo−フェナントロリンを含む有機層を回収し、その回収液についてICP発光分光分析を行って二価鉄の濃度を測定した。なお、ここで全鉄とは、二価鉄及び三価鉄の両方を含む鉄分である。ワッシャーの単位面積当たりの量に換算した全鉄及び二価鉄の溶出量を表1に示す。なお、表1中「−」は、定量下限を下回っていることを示す。全鉄の定量下限値は、0.0057mg/cm2であり、二価鉄の定量下限値は、0.0001mg/cm2である。
ワッシャーをビーカーに入れる前、1時間経過後及び24時間経過後のビーカー内の溶液をそれぞれNo.1、No.2及びNo.3とし、これらの溶液について全鉄及び二価鉄の濃度を測定した。具体的には、各溶液を酸でpH調整した後にマイクロ波処理し、ICP発光分光分析により全鉄の濃度を測定した。また、各溶液を0.4μmメンブレンフィルターでろ過した後、ろ液にo−フェナントロリンを添加し有機溶剤を加えて二層分離させた後にo−フェナントロリンを含む有機層を回収し、その回収液についてICP発光分光分析を行って二価鉄の濃度を測定した。なお、ここで全鉄とは、二価鉄及び三価鉄の両方を含む鉄分である。ワッシャーの単位面積当たりの量に換算した全鉄及び二価鉄の溶出量を表1に示す。なお、表1中「−」は、定量下限を下回っていることを示す。全鉄の定量下限値は、0.0057mg/cm2であり、二価鉄の定量下限値は、0.0001mg/cm2である。
<溶液中のポリフェノール濃度の測定>
No.1、No.2及びNo.3の各溶液を3000rpmで15分間遠心分離し、得られた上澄みについてフォーリンデニス法によりポリフェノール濃度を測定した。各溶液中のポリフェノール濃度を表1に示す。
No.1、No.2及びNo.3の各溶液を3000rpmで15分間遠心分離し、得られた上澄みについてフォーリンデニス法によりポリフェノール濃度を測定した。各溶液中のポリフェノール濃度を表1に示す。
<測定結果>
表1より、鉄材として用いたワッシャーを浸漬する前のNo.1では鉄分が定量下限未満であったのに対し、ワッシャーの浸漬後は、溶液中に鉄分が溶出し、鉄分の溶出量が経時的に増加することが確認できた。また、上記試験において、ビーカー内の茶にワッシャーを浸漬すると直ちに黒色物質が生じ、経時的にその黒色物質が増加することが確認された。このことからも、鉄分の溶出量が経時的に増加するといえる。また、表1の結果より、溶液中の鉄分は、三価鉄の形態だけではなく二価鉄の形態でも存在することを確認できた。
表1より、鉄材として用いたワッシャーを浸漬する前のNo.1では鉄分が定量下限未満であったのに対し、ワッシャーの浸漬後は、溶液中に鉄分が溶出し、鉄分の溶出量が経時的に増加することが確認できた。また、上記試験において、ビーカー内の茶にワッシャーを浸漬すると直ちに黒色物質が生じ、経時的にその黒色物質が増加することが確認された。このことからも、鉄分の溶出量が経時的に増加するといえる。また、表1の結果より、溶液中の鉄分は、三価鉄の形態だけではなく二価鉄の形態でも存在することを確認できた。
また、表1より、ポリフェノールの濃度は経時的に減少することが確認できた。この結果及び上記鉄分溶出量の測定結果より、茶に含まれるポリフェノールが鉄との結合に用いられていると考えられる。
[鉄分の溶出挙動評価]
次に、鉄材として製鋼スラグを用い、ポリフェノールを抽出可能な材料として茶殻を用いた場合の海水中における鉄分の溶出挙動を評価するため、以下の試験を実施した。
次に、鉄材として製鋼スラグを用い、ポリフェノールを抽出可能な材料として茶殻を用いた場合の海水中における鉄分の溶出挙動を評価するため、以下の試験を実施した。
<試験方法>
溶媒として人口海水溶液(大阪薬研株式会社の「マリンアート SF−1」)1000mLを容量2Lの広口ポリ容器に入れ、この溶媒中に鉄分供給源として粒鉄を含有する製鋼スラグ100g及びポリフェノール供給源として茶殻100gを添加し、No.4の溶液とした。なお、粒鉄を含有する製鋼スラグとして脱リンスラグを用いた。
溶媒として人口海水溶液(大阪薬研株式会社の「マリンアート SF−1」)1000mLを容量2Lの広口ポリ容器に入れ、この溶媒中に鉄分供給源として粒鉄を含有する製鋼スラグ100g及びポリフェノール供給源として茶殻100gを添加し、No.4の溶液とした。なお、粒鉄を含有する製鋼スラグとして脱リンスラグを用いた。
また、溶媒として純水1000mLを用い、鉄分供給源として純鉄100gを添加した以外は上記No.4と同様の方法で作成した溶液をNo.5の溶液とした。
<鉄分の溶出挙動の分析>
No.4及びNo.5の各ポリ容器に蓋をした後、各溶液をよく撹拌し静置した。その1時間後、24時間後及び1週間後に各溶液をサンプリングして溶出した鉄分の濃度を測定した。具体的には、各サンプリング直前に溶液をよく撹拌して静置した後、0.45μmメンブレンフィルターでろ過した後の全鉄の溶出量を測定した。全鉄の溶出量の測定結果を表2に示す。また、全鉄の溶出量の経時的変化を図1に示す。
No.4及びNo.5の各ポリ容器に蓋をした後、各溶液をよく撹拌し静置した。その1時間後、24時間後及び1週間後に各溶液をサンプリングして溶出した鉄分の濃度を測定した。具体的には、各サンプリング直前に溶液をよく撹拌して静置した後、0.45μmメンブレンフィルターでろ過した後の全鉄の溶出量を測定した。全鉄の溶出量の測定結果を表2に示す。また、全鉄の溶出量の経時的変化を図1に示す。
<測定結果>
表2及び図1より、鉄分供給源として製鋼スラグを用い、ポリフェノール供給源として茶殻を用いた場合でも、海水中に一定量の鉄分が溶出することを確認できた。
表2及び図1より、鉄分供給源として製鋼スラグを用い、ポリフェノール供給源として茶殻を用いた場合でも、海水中に一定量の鉄分が溶出することを確認できた。
[ミドリムシの培養評価]
次に、鉄をポリフェノールと接触させた溶液を培養液として用いた場合の効果を確認すべく、ミドリムシの生育を評価した。
次に、鉄をポリフェノールと接触させた溶液を培養液として用いた場合の効果を確認すべく、ミドリムシの生育を評価した。
<試験方法>
浄水器水(創世ワールド株式会社の「創世水」)200mLをNo.6の培養液とし、この培養液と5mLのスポイト容器に入ったミドリムシ(株式会社科学クラブの「理科教材 生きたミドリムシ」)とを容量500mLの煮沸消毒蓋付ガラス容器に入れ、蓋を閉めた。
浄水器水(創世ワールド株式会社の「創世水」)200mLをNo.6の培養液とし、この培養液と5mLのスポイト容器に入ったミドリムシ(株式会社科学クラブの「理科教材 生きたミドリムシ」)とを容量500mLの煮沸消毒蓋付ガラス容器に入れ、蓋を閉めた。
また、上記浄水器水150mLと緑茶(キリンビバレッジ株式会社の「キリン生茶」)50mLとを混合してNo.7の培養液とし、この培養液と上記5mLのスポイト容器に入ったミドリムシとを別の上記煮沸消毒蓋付ガラス容器に入れ、蓋を閉めた。また、上記緑茶500mLに長さ50mm、質量2.5gの鉄釘1本を1週間浸漬した溶液を作成し、この溶液50mLと上記浄水器水150mLとを混合してNo.8の培養液とし、この培養液と上記5mLのスポイト容器に入ったミドリムシとを別の上記煮沸消毒蓋付ガラス容器に入れ、蓋を閉めた。
No.6〜No.8の培養液に入れたミドリムシの生育を4日間観察した。図2〜図4に、ガラス容器に入れて4日後のNo.6〜No.8の各培養液の状態の写真を示す。
<評価結果>
各培養液の液面を撮影した図2(a)、図3(a)及び図4(a)の写真を比較すると、図4(a)の培養液表面に斑点状にミドリムシが増殖していることが観察されるが、図2(a)及び図3(a)では、ミドリムシの増殖が認められない。また、各培養液を側面から撮影した図2(b)、図3(b)及び図4(b)においても、図4(b)の培養液の液面近傍にのみミドリムシの増殖している層が認められる。
各培養液の液面を撮影した図2(a)、図3(a)及び図4(a)の写真を比較すると、図4(a)の培養液表面に斑点状にミドリムシが増殖していることが観察されるが、図2(a)及び図3(a)では、ミドリムシの増殖が認められない。また、各培養液を側面から撮影した図2(b)、図3(b)及び図4(b)においても、図4(b)の培養液の液面近傍にのみミドリムシの増殖している層が認められる。
このようにNo.8の培養液中でミドリムシが増殖した理由は、鉄釘が緑茶に含まれるポリフェノールと接触することにより緑茶中で鉄が二価の状態で安定して存在し、これによりミドリムシに鉄分が効率よく供給できたためと考えられる。
[植物の栽培評価]
次に、上記鉄分含有液をミネラル補給液として用いた場合の効果を確認すべく、ネギの生育及び味を評価した。
次に、上記鉄分含有液をミネラル補給液として用いた場合の効果を確認すべく、ネギの生育及び味を評価した。
<試験方法>
ネギを60株作付けし、作付け1ヶ月後に1株当たり50mLのミネラル液を30株のみに補給し、残りの30株にはミネラル液を補給せず、その2週間後のネギの生育を観察した。上記ミネラル液として、2Lのペットボトル入り緑茶(サントリー食品インターナショナル株式会社の「伊右衛門」)に長さ50mm、質量2.5gの鉄釘1本を1週間浸漬したものを用いた。ミネラル液を補給したネギ及び補給しなかったネギの写真を図5(a)及び図5(b)に示す。これらは、ミネラル液を補給して2週間後の同じ時期に撮影したものである。
ネギを60株作付けし、作付け1ヶ月後に1株当たり50mLのミネラル液を30株のみに補給し、残りの30株にはミネラル液を補給せず、その2週間後のネギの生育を観察した。上記ミネラル液として、2Lのペットボトル入り緑茶(サントリー食品インターナショナル株式会社の「伊右衛門」)に長さ50mm、質量2.5gの鉄釘1本を1週間浸漬したものを用いた。ミネラル液を補給したネギ及び補給しなかったネギの写真を図5(a)及び図5(b)に示す。これらは、ミネラル液を補給して2週間後の同じ時期に撮影したものである。
ネギの味の評価については、官能評価を行った。具体的には、ミネラル液を補給したネギと補給していないネギとを10名の被験者に食してもらい、被験者の味覚により味を評価した。
<評価結果>
ネギは、ミネラル液を補給した株の方が、ミネラル液を補給しなかった株よりも成長速度が速かった。これは、上記ミネラル液に鉄が二価の状態で安定して存在し、ミネラル液中の鉄分が効率よくネギに供給され、ネギの成長が促進されたためと考えられる。
ネギは、ミネラル液を補給した株の方が、ミネラル液を補給しなかった株よりも成長速度が速かった。これは、上記ミネラル液に鉄が二価の状態で安定して存在し、ミネラル液中の鉄分が効率よくネギに供給され、ネギの成長が促進されたためと考えられる。
また、ネギの味の評価を行った被験者10名は、全員ミネラル液を補給したネギの方が甘いと判断した。
以上説明したように、当該鉄分供給方法、鉄分供給物、植物の栽培方法、ユーグレナの培養方法及び魚介類の養殖方法は、鉄を水中に二価の状態で安定して存在させることにより植物又は藻類に効率よく鉄分を供給できるので、消失した藻場の再生、植物の生育促進、ユーグレナの培養の促進、魚介類の生育の促進等のために好適に用いることができる。
Claims (13)
- 植物又は藻類に鉄分を供給する方法であって、
水中での鉄又は鉄化合物とポリフェノールとの接触により上記水中に鉄分を溶出又はコロイド分散する工程
を備えることを特徴とする鉄分供給方法。 - 上記溶出又はコロイド分散工程の鉄又は鉄化合物として製鋼スラグが用いられる請求項1に記載の鉄分供給方法。
- 上記溶出又はコロイド分散工程のポリフェノールが茶殻から抽出される請求項1又は請求項2に記載の鉄分供給方法。
- 上記溶出又はコロイド分散工程を海、河川又は湖沼の水中で行う請求項1、請求項2又は請求項3に記載の鉄分供給方法。
- 上記溶出又はコロイド分散工程で得られた液体を植物又は藻類に投与する工程をさらに備える請求項1、請求項2又は請求項3に記載の鉄分供給方法。
- 植物又は藻類に鉄分を供給する物であって、
鉄又は鉄化合物を含有する第1材料と、
ポリフェノールを抽出可能な第2材料と
を備えることを特徴とする鉄分供給物。 - 上記第1材料が製鋼スラグである請求項6に記載の鉄分供給物。
- 上記第2材料が茶殻である請求項6又は請求項7に記載の鉄分供給物。
- 上記第1材料及び第2材料が結合材で一体に成形されている請求項6、請求項7又は請求項8に記載の鉄分供給物。
- 上記第1材料及び第2材料が通水性袋に封入されている請求項6、請求項7又は請求項8に記載の鉄分供給物。
- 請求項1、請求項2又は請求項3に記載の鉄分供給方法で得られる鉄分含有液を植物栽培のための土壌又は培養液中へ添加する工程
を備える植物の栽培方法。 - 請求項1、請求項2又は請求項3に記載の鉄分供給方法で得られる鉄分含有液をユーグレナの培養槽へ添加する工程
を備えるユーグレナの培養方法。 - 請求項1、請求項2又は請求項3に記載の鉄分供給方法で得られる鉄分含有液を魚介類が生息する海、河川、湖沼又は水槽へ添加する工程
を備える魚介類の養殖方法。
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