JP2022146824A - 鉄分供給方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】鉄またはアルミニウムの多い土壌に、鉄分を供給する方法を提供する。【解決手段】中性またはアルカリ性の液体中で、タンニンと鉄を接触させて、Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を製造する工程と、該Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を鉄分および/またはアルミニウム含有量の多い土壌に散布する工程と、を有する土壌改良方法。【選択図】図1

Description

本発明は、植物への鉄分供給方法に関し、特にタンニン鉄コロイド分散液を植物の生育促進に使用する方法に関する。
火山灰土壌等では、アルミや鉄などのミネラル分がリン酸とともに沈殿し、植物が利用しにくい状態になることが問題となっていた。鉄分が不足すると、葉緑体のクロロフィルや電子伝達系の合成量が低下し、光合成やATPの生産が十分でなくなり、植物の生育が悪くなるという問題があった。海洋においても、光合成細菌への鉄分供給が律速となって、光合成量が制限されているという問題があった。
この解決策として、キレート剤を散布することも可能ではあるが、EDTA等の場合、化学物質を使うので有機農法と謳えないという問題があった。また、2価の鉄を使用する方法もあるが(特許文献1)、可溶性の鉄イオンを圃場に散布した場合、リン酸と結合して不溶性の沈殿となり、植物のリン吸収に悪影響を与える、という問題があった。火山灰土壌におけるリン吸収問題の原因となるアルミニウムに関しても同様であった。
一方、鉄やアルミニウムがリン酸と結合して不溶性となった土壌を改良するには、タンニンを散布することも考えられるが、タンニンは植物の生育阻害を引き起こすという問題があった(非特許文献1)。そこで、植物の生育阻害を引き起こさず、鉄分やリンを植物に利用しやすい形態に変える方法が求められていた。また、圃場の老朽化を防止し、農業の持続可能性を維持する方法も求められていた。
特開2016-195579号公報
農林水産省生産環境推進部会、スギ、ヒノキ樹皮粉砕繊維の鉄処理による生育障害要因の除去技術(https://www.naro.affrc.go.jp/org/warc/research_results/h18/02_kankyo/p83/index.html)
鉄またはアルミニウムの多い土壌に、鉄分を供給する方法を提供する。
(1)中性またはアルカリ性の液体中で、タンニンと鉄を接触させて、Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を製造する工程と、
該Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を鉄分および/またはアルミニウム含有量の多い土壌(アルミニウムや鉄などのミネラル分がリン酸とともに沈殿し、植物が利用しにくい状態になっている土壌)に散布する工程とを有する土壌改良方法。ここでFe(III)は3価の鉄イオンを意味する。
(2)前記Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液の製造工程において、銅および/またはマグネシウムを共存させることを特徴とする、(1)の土壌改良方法。
(3)土壌改良が、難溶性リン酸化合物からのリン酸遊離によるものである、(1)または(2)の土壌改良方法。
(4)前記(1)または(2)に記載のFe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を植物および/または土壌に散布することによる、植物生育促進方法。
(5)さらに、植物の食味および/または食感を改善することを特徴とする、(4)の植物生育促進方法。
(6)前記(1)または(2)に記載のFe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を植物および/または土壌に散布することにより、植物の耐虫性を高めることを特徴とする、(4)または(5)の植物生育促進方法。
(7)前記(1)または(2)に記載のFe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を土壌に散布することにより、土壌中の糸状菌および/または放線菌の増殖を促進させる方法。
(8)前記(1)または(2)に記載のFe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を海、河川または湖沼に散布することにより、植物および/または微生物の生育を促進する方法。
(9)タンニン散布により、リン肥料の過剰施肥によるクロロシスを回復させる方法。
本発明によれば、Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を、鉄分および/またはアルミニウム含有量の多い土壌に散布することによる土壌改良方法が提供される。
図1は、本発明のFe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液がレタス生育に及ぼす影響を示す写真である(実施例1)。 図2は、本発明のFe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液が小松菜の生育に及ぼす影響を示す写真である(実施例2)。 図3は、ペットボトルのお茶に鉄くぎを投入して作成したタンニン鉄液の写真である。
本発明は、タンニン溶液と鉄の混合物を用いて、土壌改良および/または作物の生育促進を行うものである。より詳細には、3価の鉄が没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)と錯体(強固なキレート構造)を形成し(Fe(III)-没食子酸錯体)、コロイド溶液となった溶液(この溶液をタンニン鉄液という場合がある)を作物および/または土壌に散布することにより、土壌改良、作物の生育促進、作物の食味・食感改善、作物の耐虫性向上、および/または土壌微生物の増殖促進を実現するものである。本発明は、金属鉄とタンニンを直接接触させるだけでタンニン鉄液を得ることができることを見出した。さらに、できるだけ鉄イオンを溶解させずに、コロイド分散した鉄化合物を含む液体の状態で、植物に鉄分を供給できる点に新規性がある。水に不溶である特性は、農業用地や自然界に当たり前に存在するリン化合物との化学反応を避けるために必要な特性である。本発明のタンニン鉄は、沈殿せずコロイドとして分散された状態を一年以上維持できることを確認した。これは通常のコロイドが時間とともに沈殿するのとは全く異なり、予想外の特性である。
本発明の、Fe(III)-没食子酸錯体は、液体中で鉄とタンニンを接触させることにより製造される。すなわち、pHが中性ないしアルカリ性の液体(例えば、蒸留水、水道水、井戸水、農業用水、湖沼水、海水など)に、鉄または鉄化合物と、タンニンを入れると、液体中で鉄または鉄化合物とタンニンが溶解して接触し、両材料の間でキレート反応(または錯体の生成反応)が生じてタンニン鉄(化1、Fe(III)-没食子酸錯体)が生成する。タンニン水溶液に金属鉄を投入するだけで、タンニン鉄を得ることができる。例えば市販のペットボトル入り緑茶に同じく、市販の鉄丸くぎ(5cm程度)を2~5本放置し、一週間程度待つことで、容易にタンニン鉄のコロイド溶液を得ることができる。タンニン鉄のコロイドを含む溶液をタンニン鉄液というが、タンニン鉄液には、ポリフェノール鉄錯体を含んでいても良い。鉄分を多く含む地下水、鉄分を多く含む土壌に粉茶を散布することによりタンニン鉄が生成される場合もある。
Figure 2022146824000002
その後、これを放置すると、タンニン鉄がコロイド分散される。これにより、タンニン鉄のコロイド溶液が生成され、鉄分供給剤として使用できる。かかる鉄分供給剤の製造工程において、発酵を防止するために容器内を撹拌したり、エアバブルを入れて酸素濃度を高めることが好ましい。また、銅板を容器内に入れることによっても発酵を防止することができる。また、木炭、白炭などの炭素資材の投入で発酵を防止できることも確認済みである。マグネシウムは静菌効果があるだけでなく、植物の葉緑素の構成要素であるマグネシウムを供給する効果がある。
Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液の製造に用いられる水のpHは中性ないしアルカリ性が好ましい。中性ないしアルカリ性とは、pH7以上であり、pHの上限は、pH11以下、より好ましくはpH10以下、さらに好ましくはpH9以下、よりさらに好ましくはpH8以下である
Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液の製造に用いられる鉄としては、鉄/鋳鉄(例えば、鉄板、鉄くぎ、鉄鍋、鋳物など)(鋳物は自然に鉄/炭の組み合わせができ、局部電池の効果で鉄が溶出しやすくなる。普通鋳鉄は、フェライト(鉄)、グラファイト(炭素)、パーライト(鉄/炭素))または酸化鉄を含有する製鋼スラグなどが挙げられるが、これらに限られない。他の鉄の供給材料としては、鉄分含有量の多い落ち葉等の有機物、鉄分を含む壁土、鉄分含有量の多い土、鉄分を多く含む地下水を用いてもよい。さらに、液体を入れる容器が鉄製であれば、容器から鉄を供給することもできる。五右衛門風呂用の風呂釜を使っても良い。鉄の表面積が大きいのでものすごく高速に溶けるという利点がある。要は、液体中でタンニンと錯体を形成してFe(III)-没食子酸錯体のコロイド溶液となる鉄であればよい。
Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液の製造に用いられるタンニンとしては、茶殻、コーヒー殻、ビールやウイスキーの発酵残渣、玉ねぎの皮もしくはポリフェノールを含む落ち葉、植物残渣、食品残渣、雨水、地下水などが挙げられるがこれらに限られず、Fe(III)―没食子酸錯体を製造できる材料であれば特に制限されない。
本発明においては、化1のFe(III)―没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を用いる点に特徴がある。このFe(III)―没食子酸錯体のコロイドを含む溶液には、鉄イオンと結合していないタンニンが含まれる。Fe(III)―没食子酸のコロイドを含む溶液は、本明細書において、タンニン鉄液と呼ぶことがある。Fe(III)―没食子酸錯体のコロイドを含む溶液中のタンニン鉄の濃度の上限は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは9重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下、よりさらに好ましくは7重量%以下、特に好ましくは6重量%以下、最も好ましくは5重量%以下であり、下限は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上、よりさらに好ましくは3重量%以上、特に好ましくは4重量%以上、最も好ましくは5重量%以上である。
本発明においては、水溶性の2価の鉄イオンではなく、3価の鉄イオンと没食子酸が強固に結合した不溶性の鉄キレート物を用いる。水溶性の2価の鉄を散布した場合、土壌中のリン酸と結合してリン酸鉄を形成し、植物に利用できなくなり、リン吸収の問題が起きるからである。肥料成分のリンも利用できなくなる。その点、不溶性のFe(III)―没食子酸の場合には、水に不溶性であるためリン吸収の問題は起きない。
本発明においては、タンニン鉄液を作物の表面および/または土壌に散布することによりレタスや小松菜などの作物の生育を促進することができ、生産量が増加し、さらに、食味も向上するという特徴を有する。レタスにおいては、見た目で2倍以上の大きさになり、重量では3倍となった。また、レタスにおいては、葉が肉厚になり、食味も向上した。これらの野菜の生産量増加は、光合成による二酸化炭素の固定が増加していることを意味し、二酸化炭素による地球温暖化を抑制する効果もある。また、リン吸収問題のある畑の輪作の問題も解消できる可能性があり、農業の持続的発展やSDGsにも貢献できるという効果もある。
本発明において、タンニン鉄液を散布する場合、基本的には、土壌散布が好ましい。この理由としては、(1)土壌散布の障害がない(通常の鉄資材は障害が出る可能性)、(2)過剰散布起きにくい、(3)葉面散布すると葉物野菜など味が残る、等のためである。ただし、根菜類など土壌散布不敵な場合には、葉面散布する。散布はジョウロを用いてもよく、動力噴霧器などを用いてもよい。目詰まりを防止するために、フィルターを用いてもよい。
本発明を適用するのに適した土壌としては、例えば、鉄分および/またはアルミニウム含有量の多い土壌である。「鉄分および/またはアルミニウム含有量の多い土壌」とは、アルミニウムや鉄などのミネラル分がリン酸とともに沈殿し、植物が利用しにくい状態になっている土壌をいい、例えば、火山灰土壌などが挙げられる。火山灰土壌では、リン酸吸収係数は、1500以上である。リン酸吸収係数とは、土壌がリン酸を吸着・固定する力を表わす指標である。具体的には、土壌の2倍量の2.5%リン酸アンモニウム液を添加して、時々攪拌して反応させ、24時間後に土壌が吸収したリン酸量を土壌100g当たりmgで表わした値である(http://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=15544)。本発明のタンニン鉄散布が効果を発揮しやすいのは、リン吸収係数が、1200以上、より好ましくは1300以上、さらに好ましくは1400以上、特に好ましくは1500以上である。リン吸収問題が起きやすい神鍋高原の火山灰土壌では、本発明のタンニン鉄液散布によりレタスの重量が約3倍に増加した。しかし、その他の土壌(リン吸収の問題のない土壌、作物生育に適した状態の土壌など)に散布した場合でも、植物自身による生育調整と考えられる何等かの効果が得られた。生育調整とは、植物の成長を促進(または抑制)、着果促進、発根促進などの作用をいう。
神鍋高原の特異例では、スイカの糖度が11/12だったのが15/17に向上した。
タンニン鉄栽培の一般的な食味は、苦み渋味、アクやエグ味が少なく、野菜本来の香りが強く、優しい甘さを感じる。うま味が強く、後味に青臭さではなく、甘味とうま味が残る。これは、タンニン鉄液により、鉄分が供給されることで、硝酸態窒素の窒素原子がアミノ酸に取り込まれ、硝酸イオンの苦味やえぐみが減って、うまみが強くなるためと考えられる。水分量が多いため瑞々しい、シャキッとした食感で歯切れがよいがかたくない。包丁の通りが良く、火の通りもよく、煮崩れしにくく、食感が残る。しっかりして、ずっしり重く、日持ちが良い。(タンニン鉄栽培の野菜は、細胞膜がしっかりして強くなるが、各細胞の中に水分をたっぷり含むため、ほとんど水分で、ところどころに細胞膜がある状態の野菜になるため、包丁が通りやすく、歯で噛んだ時、かたいと感じない。その割に、タイヤチューブにパンパンに空気が入ったような状態になるため、しっかりして、ずっしり重くなる。細胞膜が強くなるので、水分が抜けにくいため日持ちが良い。細胞膜が強くなる、水分が多くなる理由は不明である。苦み、渋味、アク、エグ味が少なくなるのは、鉄を活性中心に持つ酵素が、根から吸収した、硝酸態、アンモニア態の窒素化合物をアミノ酸に合成する。根から吸収した鉄が、植物中のタンニンと反応し、タンニン鉄に変わるため、タンニンに起因する苦み・渋味が消える。鉄の効果で葉緑素合成能力が増し、養分を作る力が増すので糖度が上がりやすい。さらに、鉄の増加によりミトコンドリアの電子伝達系のATPの生産効率が上がるため、少ない養分で大量のエネルギーを作れるようになり、植物が楽に生きていけるようになる。余剰の栄養分を利用可能になる。葉緑素合成効率が上がるため、資材の窒素肥料の低減が可能となる。同様に、ATPの代謝効率が上がるため資材のリン肥料の低減が可能となる。結果的に、通常では実現できないような窒素、リンの低肥料栽培が可能となり、残留由来のアクとエグ味が極端に少なくなる。100名以上の人に官能検査を行ったところ、1名を除いて他の全員がタンニン鉄を散布した野菜の方がおいしい、と回答した。これらの食味、食感の改善は、アミノ酸分析の結果からも裏付けられた(実施例9、表6参照)。
本発明のタンニン鉄液は、土壌改良剤としても利用できる。鉄やアルミニウムを多く含む土壌では、リン酸がこれらと結合して、不溶性のリン酸鉄、リン酸アルミニウムを形成し、植物が利用できない形態となり、リン酸が不足するという問題があった。しかしながら、本発明のタンニン鉄液を土壌に散布することにより、タンニンがリン酸鉄、リン酸アルミニウムから鉄やアルミニウムを解離させ、リン酸を遊離させることにより、植物に利用可能なリンを供給することができる。タンニン鉄コロイド分散液は、タンニン鉄/タンニンの混合物の状態である。解離した鉄は、タンニン鉄として利用される。
本発明のタンニン鉄液の散布時期としては、栽培期間中一度、定植前~収穫前一週間の間どの時期でも効果が見られた。基本は土壌散布である。
果菜類、豆類などについては、栽培期間中一週間おき程度回数を重ねて散布すると、アクとエグ味が少なくなり、甘みが増した。それ以外の葉物、根菜類などの品種では、栽培期間中一回程度の散布で十分効果が得られた。散布量は、畝の定植場所付近が変色して湿る程度の散布で十分である。
定植前、生育初期に散布した場合、植物の徒長防止、根の成長促進効果が認められた。ただし、播種・定植前5日、定植後5日程度は、タンニンによる生育障害が出る可能性があるので、散布を避けるのが好ましい。ベビーリーフなどの栽培では、通常濃度の100倍希釈液を用いることが好ましい(市販のペットボトル入り緑茶と鉄くぎの組み合わせの濃度が基準)。濃度は、色の目視などで管理すればよく、実用上は厳密な濃度管理までは不要である。ただし、全く黒くならない場合などは注意が必要である。
育苗時の培養土に散布する場合、植物種によってはタンニンによる生育障害が出る可能性がある。そのため、上述のように、通常濃度の100倍希釈液を用いるのが好ましい。しかし、植物によっては発芽・育苗が改善される場合もあるので、濃度を段階的に希釈して散布して、最適な希釈率を植物毎に決定するのが好ましい。希釈する場合の希釈率としては、例えば、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、150倍、200倍などが考えられるが、これらに限定されず、生育促進に最適な希釈倍率であれば、これら以外の希釈倍率でもよい。
本発明のタンニン鉄液を作物の葉面および/または土壌に散布することにより、作物の耐虫性が向上した。これは、作物の生理状態がよくなることにより耐虫性が向上した可能性や、タンニン、鉄化合物、銅などが関与している可能性も考えられる。上記効果により、植物体の内部に残留する窒素肥料分が低減する可能性が考えられる。窒素肥料過剰施肥により、植物体に残留する窒素肥料分が虫を誘引する可能性が指摘されている。例えば、昨年関西では、稲作のウンカ虫害が深刻であったが、無農薬、無肥料栽培のタンニン鉄稲作は、4ヘクタールの栽培面積に対して、虫害が皆無に近かった。隣接する水田は、被害にあっていた。
本発明のタンニン鉄液を散布することで土壌中の微生物のうち、糸状菌および放線菌の割合が増加した(実施例5,表3)。放線菌はキチナーゼなどを分泌し、糸状菌の細胞壁やセンチュウの卵を構成するキチンやタンパク質を分解することで病虫害を抑止することが知られている。糸状菌はアミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ等を分泌し、でんぷんやセルロース、タンパク質を分解することで他の細菌の増殖を促進する働きをする。
定植前に、本発明のタンニン鉄液を散布する場合、土壌微生物活性化効果があるため太陽熱消毒と発酵熱で地温が十分に(55~60℃に)上がると雑草の種と菌類が微生物分解され、雑草も菌類も生えない。
温度上昇が低いと雑草は失活し菌類が残ることとなり、雑草なし菌類生える状態となる(きのこ温度帯)。
さらに温度上昇が低いと雑草が山のように生える。
タンニン鉄液を製造する際に、タンニン源として茶を用いた場合、茶が発酵する場合がある。これを抑制するために、銅板を投入することが有効であることが分かった(実施例6)。ボウフラの忌避効果も確認された。銅イオンはボルドー液で知られるように、弱い防虫、病気予防効果があることから、本発明のタンニン鉄液に銅イオンも含めることでさらに防虫、病気予防効果が高まると考えられる。
本明細書において、タンニン(tannin)とは、植物に由来し、タンパク質、アルカロイド、金属イオンなどと反応し強く結合して難溶性の塩を形成する水溶性化合物の総称をいう。タンニンはポリフェノール化合物を含み、多数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ複雑な芳香族化合物で、タンパク質や他の巨大分子と強固に結合し、複合体を形成しているものもある。本明細書においては、狭義の意味では、タンニンは没食子酸を指す場合もある。
緑茶ポリフェノールが、リン酸鉄やリン酸アルミニウムから鉄、アルミニウム、リン酸を遊離させるかについて調べたところ、高い遊離効果が見られた(実施例4、表1,2)。すなわち、リン酸鉄とお茶を混合した場合、鉄の溶出量は、純水0.3mg/Lに対し、お茶17.9mg/Lと約60倍の溶出効果を示した。同実験でのリン溶出量は、純水53mg/L,お茶96mg/Lであった。
リン酸アルミニウム溶出試験では、アルミニウム溶出量は、純水0.53mg/L、お茶4.4mg/Lと、お茶は純水の約8倍の溶出効果があった。リン溶出量は、純水8.9mg/L、お茶20mg/Lであった。
これらの実験結果から、茶葉ポリフェノールがリン酸鉄やリン酸アルミニウムから、鉄やアルミニウムを遊離させ、リンも遊離させることがわかった。この効果により、本発明のタンニン鉄液もリン酸鉄やリン酸アルミニウムからリンを遊離させ、土壌改良できるものと考えられる。
本発明のタンニン鉄が適用される植物としては、特に制限されず、単子葉植物、双子葉植物、裸子植物、被子植物等が対象となる。
本発明のタンニン鉄液は、鉄やアルミニウムが多く含まれる土壌に特に効果があると期待される。例えば、火山灰土壌、関東ローム層などが挙げられるが、これに限られず、鉄やアルミニウムが多く含まれ、リン酸と沈殿を形成して、リン吸収が十分でない土壌であれば好ましく使用できる。
本発明のタンニン鉄液は、圃場に限らず、森林に散布してもよい。また、湖沼、河川および/または海に散布して、魚のえさとなる藻や水草、光合成細菌を繁殖させることにより生育促進を図ることも可能である。
本発明のタンニン鉄技術は、以下の3機能を有することで、鉄、アルミニウム、リンなどの供給のバランスを取る能力がある。
1. 植物が吸収しやすい形の鉄分供給
2. リン酸鉄、リン酸アルミからの、リンの回復、および、鉄の再利用
3. タンニン単独使用の場合の生育障害の緩和
また、タンニン鉄は、本来、広葉樹の落ち葉と土壌中の鉄分との化学反応で自然にできる化学物質であるため、安全、環境負荷がない
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、これらは本発明の実施形態の一部であって、これら実施例によって本発明は何ら制限されない。
(実施例1)
タンニン鉄液の製造方法
タンニン鉄液の簡易な作り方としては、2Lペットボトルのお茶に釘(5cm程度のもの)を2本投入し、1週間以上静置してから使用する。
より大量に作る場合は、バスタブなどの容器にタンニン資材と鉄資材をそれぞれ袋に入れて投入し24時間以上置く。300kgの容器の場合、タンニンは300g程度、鉄は、市販のスキレット(鉄製フライパンの1種)を1個投入すればよい。鉄としては、鋳鉄や廃農機具の純鉄、炭素鋼などでも使用できる。形状は鋳鉄の丸棒を輪切りにしたものであってもよい。大量に作成する場合、タンニン資材と鉄資材の入った袋は底に付けるよりも、底との間に距離を開けるためにラックなどの上に置き、空気でバブリングすると、発酵や腐敗せずに目的のタンニン酸鉄ができる。バスタブの代わりに、鉄製の五右衛門風呂を容器として用いれば、鋳鉄を投入する必要はなく、タンニンと水を投入し、バブリングすればよい。タンニンは、工業用タンニン酸(富士化学工業)などを用いることができる。
(実施例2)
兵庫県神鍋高原の火山灰土壌において、結球レタスを栽培し、本発明のタンニン鉄液を育成途中で一度葉面散布した。栽培期間、2018年4月20日~2018年6月30日。収穫後のレタスの写真を図1に示す。図1に示すように、本発明のタンニン鉄液を散布したレタスは、散布しなかったレタスに比べて約2倍以上の大きさ(重量では3倍)であった。葉も肉厚で、軟らかくて食味もよくなった。このことから、本発明のタンニン鉄液は、火山灰土壌では、生育促進効果、食味改善効果があると考えられた。
(実施例3)
埼玉県の関東ローム層の畑において、小松菜の栽培について、本発明のタンニン鉄液の及ぼす影響について調べた。実験は、タンニン(お茶)も鉄も散布しない区(図2の上段)、お茶を散布した区(図2の中段)、本発明のタンニン鉄液を散布した区(図2の下段)の3区で行った。その結果、図2に示すように、本発明のタンニン鉄液を散布した区では、最も生育がよく、次いで、何も散布しない区、お茶のみを散布した区では生育障害が見られた。また、本発明のタンニン鉄液を散布した区では、虫にも強くなっており、本発明のタンニン鉄液は小松菜の耐虫性を高めると考えられた。栽培期間2020年4月23日~2020年7月10日、タンニン鉄コロイド溶液を種まきの5日前と発芽して10日後の2回、長さ5m、幅60cmの畝に10L土壌散布した。
(実施例4)
リン酸鉄またはリン酸アルミニウムにタンニンを添加した場合に、鉄またはアルミニウムが溶出される程度を調べた。鉄およびアルミニウムの定量には原子吸光法、リンの溶出量の測定にはモリブデン青比色法を用いて行った。結果を表1および表2に示す。
Figure 2022146824000003
Figure 2022146824000004
表1に示すように、リン酸鉄に純水を添加した場合には、鉄溶出量は0.3mg/Lであったのに対し、お茶を添加した場合には、鉄が17.9mg/L溶出した。これは純水を用いた場合の約60倍であり、お茶に含まれるタンニンがリン酸鉄から鉄を溶出したと考えられる。
表2に示すように、リン酸アルミ(リン酸アルミニウム)に純水を125mL添加した場合、アルミニウムの溶出量は0.53mg/Lであったが、お茶を添加した場合には、4.4mg/Lのアルミニウムが溶出した。このことからもお茶タンニンは、リン酸アルミニウムからアルミニウムを遊離する能力があると考えられた。
リンの溶出量についても、純水に比べ、お茶の方が高い溶出量を示した。
(実施例5)
本発明のタンニン鉄液が、土壌微生物数に及ぼす影響について調べた。対照区と、本発明のタンニン鉄液散布区の土壌を採取し、希釈平板法により、糸状菌、放線菌、細菌の数を計数した。結果を表3に示す。
Figure 2022146824000005
表3に示すように、対照区に比べ、鉄茶区(本発明のタンニン鉄液を散布した区)では、糸状菌、放線菌とも顕著に増加していた。一般細菌数にはほとんど差は認められなかった。従って、細菌/糸状菌の割合は、対照区では、2100、鉄茶区では1200で、鉄茶区において細菌数に対して糸状菌、放線菌の数が多い傾向が見られた。これは、作物の生育に好影響を与えると考えられる。
(実施例6)
タンニン鉄を製造する際に、有機物である茶葉が発酵するという問題が起こり得る。これを解決するために、銅板を投入した場合の効果を調べた。タンニン鉄作成用タンク500Lに対して、30cm角の銅板を1枚投入したところ、発酵を防止することができた。同時にボウフラの発生も抑制できた。
(実施例7)
銅の溶出についてお茶の影響を調べた。銅粉末2.5グラム(富士フィルム和光純薬工業株式会社製、特級99%試薬粉末)をお茶(おーいお茶(登録商標)、伊藤園)25mLまたは純水25mLに定容後、120rpm、1分間振とうした後、24時間静置し、上清について、銅量を原子吸光法により測定した。その結果を表4に示す。水抽出が1.3mg/Lの溶出量に対し、お茶抽出は、53mg/Lと約40倍の溶出量であった。
Figure 2022146824000006
(実施例8)
マグネシウムの溶出についてお茶の影響を調べた。マグネシウム粉末2.5グラム(富士フィルム和光純薬工業株式会社製、特級99%試薬粉末)をお茶(おーいお茶(登録商標)、伊藤園)25mLまたは純水25mLに定容後、120rpm、1分間振とうした後、24時間静置し、上清について、マグネシウム量を原子吸光法により測定した。その結果を表5に示す。
Figure 2022146824000007
表5に示すように、お茶抽出の方が水抽出の15倍ものマグネシウムが溶出していた。下段のお茶はお茶原液のマグネシウム含有量を測定したものである。以上の実験から、お茶のタンニンが、鉄のみならず、マグネシウムの溶出にも有効であることが示された。マグネシウムは光合成のためのクロロフィルの成分であり、マグネシウムが不足すると、葉が黄色くなるクロロシスを起こし、光合成に支障をきたす。表5のデータによれば、タンニンにより、マグネシウムの溶出量が大幅に増加し、効率よく植物に供給できるという利点もある。
(実施例9)
鉄の溶出について、お茶(タンニン)の影響を調べた。鉄粉2.5gを水25mLまたはお茶25mLに定容後、それぞれ120rpm、1分間振とうした後、24時間静置した。お茶は、伊藤園濃いおーいお茶500mL)を用いた。鉄粉は、85%試薬特級(富士フィルム和光純薬)を用いた。その結果を表6に示す。水抽出に比べ、お茶抽出では、545倍溶出していた。
Figure 2022146824000008
(実施例10)アミノ酸含有量の測定
ほうれん草を、本発明のタンニン鉄液を散布した区(A、実施例3と同様に散布)と、散布していない区(B)で栽培して、アミノ酸含有量を測定した(表6)。※1は、株元、損傷葉を除いて測定したことを示す。※2は、過ギ酸酸化処理後、塩酸加水分解し測定を行った。測定は、トリプトファンを除き、全自動アミノ酸分析機(日本電子株式会社(JEOL)製)を用いてアミノ酸自動分析法により行った。トリプトファンについては、高速液体クロマトグラフィーにより測定した。
Figure 2022146824000009
表7に示すように、本発明のタンニン鉄液を散布して栽培した区(A)のほうれん草の方が、散布しなかった区(B)よりも全てのアミノ酸で含有量が多かった。このことから、本発明のタンニン鉄液を散布することにより、植物のアミノ酸含有量を増加させる効果があると考えられる。
(実施例11)
市販の緑茶2Lペットボトルに、丸くぎ2本を投入し、1週間放置したところ、薄い黄緑色から黒色に変色した(図3右側のボトル、左は無処理)。このペットボトルを1年間放置しても、コロイド状態が維持され、沈殿しなかった。
さらに、炭酸水素ナトリウムを飽和するまで溶解させ、pHを7.9にしても沈殿しなかった。この溶液を自然乾燥させると粉末になり、水を添加すると再分散できた。
本発明は、農業、漁業、肥料産業、環境再生事業などに利用できる。

Claims (9)

  1. 中性またはアルカリ性の液体中で、タンニンと鉄を接触させて、Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を製造する工程と、
    該Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液をアルミニウムや鉄などのミネラル分がリン酸とともに沈殿し、植物が利用しにくい状態になっている土壌に散布する工程と
    を有する土壌改良方法。
  2. 前記Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液の製造工程において、銅および/またはマグネシウムを共存させることを特徴とする、請求項1の土壌改良方法。
  3. 土壌改良が、難溶性リン酸化合物からのリン酸遊離によるものである、請求項1または2の土壌改良方法。
  4. 請求項1または2に記載のFe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を植物および/または土壌に散布することによる、植物生育促進方法。
  5. さらに、植物の食味および/または食感を改善することを特徴とする、請求項4の植物生育促進方法。
  6. 請求項1または2に記載のFe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を植物および/または土壌に散布することにより、植物の耐虫性を高める方法。
  7. 前記Fe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を土壌に散布することにより、土壌中の糸状菌および/または放線菌の増殖を促進させる方法。
  8. 前記請求項1または2に記載のFe(III)-没食子酸錯体のコロイドを含む溶液を海、河川または湖沼に散布することにより、植物および/または微生物の生育を促進する方法。
  9. タンニン散布により、リン肥料の過剰施肥によるクロロシスを回復させる方法。
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