以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
<内燃機関全体の説明>
図1は、本発明の第一実施形態に係る排気浄化装置が用いられる内燃機関を概略的に示す図である。図1を参照すると1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダブロック2内で往復動するピストン、4はシリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド、5はピストン3とシリンダヘッド4との間に形成された燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポートをそれぞれ示す。吸気弁6は吸気ポート7を開閉し、排気弁8は排気ポート9を開閉する。
図1に示したようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4の内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。点火プラグ10は、点火信号に応じて火花を発生させるように構成される。また、燃料噴射弁11は、噴射信号に応じて、所定量の燃料を燃焼室5内に噴射する。なお、燃料噴射弁11は、吸気ポート7内に燃料を噴射するように配置されてもよい。また、本実施形態では、燃料として理論空燃比が14.6であるガソリンが用いられる。しかしながら、本発明の排気浄化装置が用いられる内燃機関では、ガソリン以外の燃料、或いはガソリンとの混合燃料を用いてもよい。
各気筒の吸気ポート7はそれぞれ対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は吸気管15を介してエアクリーナ16に連結される。吸気ポート7、吸気枝管13、サージタンク14、吸気管15は吸気通路を形成する。また、吸気管15内にはスロットル弁駆動アクチュエータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。スロットル弁18は、スロットル弁駆動アクチュエータ17によって回動せしめられることで、吸気通路の開口面積を変更することができる。
一方、各気筒の排気ポート9は排気マニホルド19に連結される。排気マニホルド19は、各排気ポート9に連結される複数の枝部とこれら枝部が集合した集合部とを有する。排気マニホルド19の集合部は上流側排気浄化触媒20を内蔵した上流側ケーシング21に連結される。上流側ケーシング21は、排気管22を介して下流側排気浄化触媒24を内蔵した下流側ケーシング23に連結される。排気ポート9、排気マニホルド19、上流側ケーシング21、排気管22及び下流側ケーシング23は、排気通路を形成する。
電子制御ユニット(ECU)31はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36及び出力ポート37を具備する。吸気管15には、吸気管15内を流れる空気流量を検出するためのエアフロメータ39が配置され、このエアフロメータ39の出力は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、排気マニホルド19の集合部には排気マニホルド19内を流れる排気ガス(すなわち、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス)の空燃比を検出する上流側空燃比センサ40が配置される。加えて、排気管22内には排気管22内を流れる排気ガス(すなわち、上流側排気浄化触媒20から流出して下流側排気浄化触媒24に流入する排気ガス)の空燃比を検出する下流側空燃比センサ41が配置される。これら空燃比センサ40、41の出力も対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。なお、これら空燃比センサ40、41の構成については後述する。
また、アクセルペダル42にはアクセルペダル42の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ43が接続され、負荷センサ43の出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。クランク角センサ44は例えばクランクシャフトが15度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート36に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ44の出力パルスから機関回転数が計算される。一方、出力ポート37は対応する駆動回路45を介して点火プラグ10、燃料噴射弁11及びスロットル弁駆動アクチュエータ17に接続される。なお、ECU31は、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御及び下流側空燃比センサ41の出力空燃比に基づいて下流側空燃比センサ41の異常診断を行う異常診断制御を行う制御装置として機能する。
上流側排気浄化触媒20及び下流側排気浄化触媒24は、酸素吸蔵能力を有する三元触媒である。具体的には、排気浄化触媒20、24は、セラミックから成る担体に、触媒作用を有する貴金属(例えば、白金(Pt))及び酸素吸蔵能力を有する物質(例えば、セリア(CeO2))を担持させた三元触媒である。三元触媒は、三元触媒に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比に維持されていると、未燃HC、CO及びNOxを同時に浄化する機能を有する。加えて、排気浄化触媒20、24に或る程度の酸素が吸蔵されている場合には、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比に対してリッチ側或いはリーン側に若干ずれたとしても未燃HC、CO及びNOxとが同時に浄化される。
すなわち、排気浄化触媒20、24が酸素吸蔵能力を有していると、すなわち排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量よりも少ないと、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも若干リーンになったときには、排気ガス中に含まれる過剰な酸素が排気浄化触媒20、24内に吸蔵される。このため、排気浄化触媒20、24の表面上が理論空燃比に維持される。その結果、排気浄化触媒20、24の表面上において未燃HC、CO及びNOxが同時に浄化され、このとき排気浄化触媒20、24から流出する排気ガスの空燃比は理論空燃比となる。
一方、排気浄化触媒20、24が酸素を放出することができる状態にあると、すなわち排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵量が0よりも多いと、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも若干リッチになったときには、排気ガス中に含まれている未燃HC、COを還元させるのに不足している酸素が排気浄化触媒20、24から放出される。このため、この場合にも排気浄化触媒20、24の表面上が理論空燃比に維持される。その結果、排気浄化触媒20、24の表面上において未燃HC、CO及びNOxが同時に浄化され、このとき排気浄化触媒20、24から流出する排気ガスの空燃比は理論空燃比となる。
このように、排気浄化触媒20、24に或る程度の酸素が吸蔵されている場合には、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比に対してリッチ側或いはリーン側に若干ずれたとしても未燃HC、CO及びNOxとが同時に浄化され、排気浄化触媒20、24から流出する排気ガスの空燃比は理論空燃比となる。
<空燃比センサの説明>
本実施形態では、空燃比センサ40、41として、コップ型の限界電流式空燃比センサが用いられる。図2を用いて、空燃比センサ40、41の構造について簡単に説明する。空燃比センサ40、41は、固体電解質層51と、その一方の側面上に配置された排気側電極52と、その他方の側面上に配置された大気側電極53と、通過する排気ガスの拡散律速を行う拡散律速層54と、基準ガス室55と、空燃比センサ40、41の加熱、特に固体電解質層51の加熱を行うヒータ部56とを具備する。
特に、本実施形態のコップ型の空燃比センサ40、41では、固体電解質層51は一端が閉じられた円筒状に形成される。固体電解質層51の内部に画成された基準ガス室55には、大気ガス(空気)が導入されると共に、ヒータ部56が配置される。固体電解質層51の内面上に大気側電極53が配置され、固体電解質層51の外面上に排気側電極52が配置される。固体電解質層51及び排気側電極52の外面上にはこれらを覆うように拡散律速層54が配置される。なお、拡散律速層54の外側には、拡散律速層54の表面上に液体等が付着するのを防止するための保護層(図示せず)が設けられてもよい。
固体電解質層51は、ZrO2(ジルコニア)、HfO2、ThO2、Bi2O3等にCaO、MgO、Y2O3、Yb2O3等を安定剤として配当した酸素イオン伝導性酸化物の焼結体により形成されている。また、拡散律速層54は、アルミナ、マグネシア、けい石質、スピネル、ムライト等の耐熱性無機物質の多孔質焼結体により形成されている。さらに、排気側電極52及び大気側電極53は、白金等の触媒活性の高い貴金属により形成されている。
また、排気側電極52と大気側電極53との間には、ECU31に搭載された印加電圧制御装置60によりセンサ印加電圧Vが印加される。加えて、ECU31には、センサ印加電圧Vを印加したときに固体電解質層51を介してこれら電極52、53間に流れる電流Iを検出する電流検出部61が設けられる。この電流検出部61によって検出される電流が空燃比センサ40、41の出力電流Iである。
このように構成された空燃比センサ40、41は、図3に示したような電圧−電流(V−I)特性を有する。図3からわかるように、空燃比センサ40、41の出力電流Iは、排気ガスの空燃比、すなわち排気空燃比A/Fが高くなるほど(リーンになるほど)、大きくなる。また、各排気空燃比A/FにおけるV−I線には、センサ印加電圧V軸に平行な領域、すなわちセンサ印加電圧Vが変化しても出力電流Iがほとんど変化しない領域が存在する。この電圧領域は限界電流領域と称され、このときの電流は限界電流と称される。図3では、排気空燃比が18であるときの限界電流領域及び限界電流をそれぞれW18、I18で示している。
図4は、印加電圧Vを0.45V程度(図3)で一定にしたときの、排気空燃比と出力電流Iとの関係を示している。図4からわかるように、空燃比センサ40、41では、排気空燃比が高くなるほど(すなわちリーンになるほど)、空燃比センサ40、41からの出力電流Iが大きくなるように、排気空燃比に対して出力電流がリニアに(比例するように)変化する。加えて、空燃比センサ40、41は、排気空燃比が理論空燃比であるときに出力電流Iが零になるように構成される。
なお、空燃比センサ40、41としては、図2に示した構造の限界電流式空燃比センサに代えて、例えば積層型の限界電流式空燃比センサ等の他の構造の限界電流式の空燃比センサを用いてもよい。
<基本的な制御>
次に、本実施形態の内燃機関の制御装置における基本的な空燃比制御の概要を説明する。本実施形態の空燃比制御では、上流側空燃比センサ40の出力空燃比に基づいて上流側空燃比センサ40の出力空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射弁11からの燃料噴射量を制御するフィードバック制御が行われる。すなわち、本実施形態の空燃比制御では、上流側空燃比センサ40の出力空燃比に基づいて上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が目標空燃比となるようにフィードバック制御が行われる。なお、「出力空燃比」は、空燃比センサの出力値に相当する空燃比を意味する。
また、本実施形態の空燃比制御では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比等に基づいて目標空燃比が設定される。具体的には、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ空燃比となったときに、目標空燃比がリーン設定空燃比に設定される。この結果、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比もリーン設定空燃比になる。ここで、リーン設定空燃比は、理論空燃比(制御中心となる空燃比)よりも或る程度リーンである予め定められた一定値の空燃比であり、例えば、14.65〜20、好ましくは14.65〜18、より好ましくは14.65〜16程度とされる。また、リーン設定空燃比は、制御中心となる空燃比(本実施形態では、理論空燃比)に正の空燃比補正量を加算した空燃比として表すこともできる。加えて、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が理論空燃比よりも僅かにリッチであるリッチ判定空燃比(例えば、14.55)以下になったときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ空燃比になったと判断される。
目標空燃比がリーン設定空燃比に変更されると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの酸素過不足量が積算される。酸素過不足量は、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比にしようとしたときに過剰となる酸素の量又は不足する酸素の量(過剰な未燃HC、CO等(以下、「未燃ガス」という)の量)を意味する。特に、目標空燃比がリーン設定空燃比となっているときには上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス中の酸素は過剰となり、この過剰な酸素は上流側排気浄化触媒20に吸蔵される。したがって、酸素過不足量の積算値(以下、「積算酸素過不足量」という)は、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの推定値であるといえる。
なお、酸素過不足量の算出は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比、及びエアフロメータ39の出力等に基づいて算出される燃焼室5内への吸入空気量の推定値又は燃料噴射弁11からの燃料供給量等に基づいて行われる。具体的には、酸素過不足量OEDは、例えば、下記式(1)により算出される。
OED=0.23×Qi×(AFup−AFR) …(1)
ここで、0.23は空気中の酸素濃度、Qiは燃料噴射量、AFupは上流側空燃比センサ40の出力空燃比、AFRは制御中心となる空燃比(本実施形態では、基本的には理論空燃比)をそれぞれ表している。
このようにして算出された酸素過不足量を積算した積算酸素過不足量が、予め定められた切替基準値(予め定められた切替基準吸蔵量Crefに相当)以上になると、それまでリーン設定空燃比だった目標空燃比が、リッチ設定空燃比に設定される。リッチ設定空燃比は、理論空燃比(制御中心となる空燃比)よりも或る程度リッチである予め定められた空燃比であり、例えば、12〜14.58、好ましくは13〜14.57、より好ましくは14〜14.55程度とされる。また、リッチ設定空燃比は、制御中心となる空燃比(本実施形態では、理論空燃比)に負の空燃比補正量を加算した空燃比として表すこともできる。なお、本実施形態では、リッチ設定空燃比の理論空燃比からの差(リッチ度合い)は、リーン設定空燃比の理論空燃比からの差(リーン度合い)以下とされる。
その後、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が再びリッチ判定空燃比以下となったときに、目標空燃比が再びリーン設定空燃比とされ、その後、同様な操作が繰り返される。このように本実施形態では、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの目標空燃比がリーン設定空燃比とリッチ設定空燃比とに交互に繰り返し設定される。換言すると、本実施形態では、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に切り替えられるといえる。
<タイムチャートを用いた空燃比制御の説明>
図5を参照して、上述したような操作について具体的に説明する。図5は、本実施形態の空燃比制御を行った場合における、空燃比補正量、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFup、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSA、積算酸素過不足量ΣOED、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwn及び上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガス中のNOx濃度のタイムチャートである。
なお、空燃比補正量AFCは、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの目標空燃比に関する補正量である。空燃比補正量AFCが0のときには目標空燃比は制御中心となる空燃比(以下、「制御中心空燃比」という)に等しい空燃比(本実施形態では、理論空燃比)とされ、空燃比補正量AFCが正の値であるときには目標空燃比は制御中心空燃比よりもリーンな空燃比(本実施形態では、リーン空燃比)となり、空燃比補正量AFCが負の値であるときには目標空燃比は制御中心空燃比よりもリッチな空燃比(本実施形態では、リッチ空燃比)となる。また、「制御中心空燃比」は、機関運転状態に応じて空燃比補正量AFCを加算する対象となる空燃比、すなわち空燃比補正量AFCに応じて目標空燃比を変動させる際に基準となる空燃比を意味する。
図示した例では、時刻t1以前の状態では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrich(リッチ設定空燃比に相当)とされている。すなわち、目標空燃比はリッチ空燃比とされており、これに伴って上流側空燃比センサ40の出力空燃比がリッチ空燃比となる。上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス中に含まれている未燃ガス等は、上流側排気浄化触媒20で浄化され、これに伴って、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していく。上流側排気浄化触媒20における浄化により上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガス中には未燃ガス等は含まれていないため、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはほぼ理論空燃比となる。上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比となっているため、上流側排気浄化触媒20からのNOx排出量はほぼゼロとなる。
上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが徐々に減少すると、酸素吸蔵量OSAはゼロに近づき、これに伴って、上流側排気浄化触媒20に流入した未燃ガス等の一部は上流側排気浄化触媒20で浄化されずに流出し始める。これにより、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが徐々に低下し、時刻t1において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。
本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になると、酸素吸蔵量OSAを増大させるべく、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFClean(リーン設定空燃比に相当)に切り替えられる。また、このとき、積算酸素過不足量ΣOEDは0にリセットされる。
なお、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達してから、空燃比補正量AFCの切替を行っている。これは、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が十分であっても、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が理論空燃比から極わずかにずれてしまう場合があるためである。逆に言うと、リッチ判定空燃比は、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が十分であるときには上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が到達することのないような空燃比とされる。
時刻t1において、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比からリーン空燃比に変化する。時刻t1において上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比に変化すると、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは増大する。また、これに伴って、積算酸素過不足量ΣOEDも徐々に増大していく。
これにより、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が理論空燃比へと変化し、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnも理論空燃比に収束する。このとき、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリーン空燃比となっているが、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵能力には十分な余裕があるため、流入する排気ガス中の酸素は上流側排気浄化触媒20に吸蔵され、NOxは還元浄化される。このため、上流側排気浄化触媒20からのNOxの排出はほぼゼロとなる。
その後、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが増大すると、時刻t2において、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Crefに到達する。このため、積算酸素過不足量ΣOEDが、切替基準吸蔵量Crefに相当する切替基準値OEDrefに到達する。本実施形態では、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になると、上流側排気浄化触媒20への酸素の吸蔵を中止すべく、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。したがって、目標空燃比はリッチ空燃比とされる。また、このとき、積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされる。
なお、切替基準吸蔵量Crefは、車両の急加速による意図しない空燃比のずれ等が生じても、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxには到達しないように十分少ない量とされる。例えば、切替基準吸蔵量Crefは、上流側排気浄化触媒20が未使用であるときの最大吸蔵可能酸素量Cmaxの3/4以下、好ましくは1/2以下、より好ましくは1/5以下とされる。この結果、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが理論空燃比よりも僅かにリーンなリーン判定空燃比(例えば、14.65。理論空燃比からの偏差がリッチ判定空燃比と理論空燃比との差と同程度のリーン空燃比)に到達する前に空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられることになる。
時刻t2において目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリーン空燃比からリッチ空燃比に変化する。上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス中には未燃ガス等が含まれることになるため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していく。このときの上流側排気浄化触媒20からのNOxの排出はほぼゼロとなる。
上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していくと、時刻t3において、時刻t1と同様に、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。その後、上述した時刻t1〜t3のサイクルが繰り返される。
以上の説明から分かるように本実施形態によれば、上流側排気浄化触媒20からのNOx排出量を常に抑制することができる。すなわち、上述した制御を行っている限り、基本的には上流側排気浄化触媒20からのNOx排出量をほぼゼロとすることができる。また、積算酸素過不足量ΣOEDを算出する際の積算期間が短いため、長期間に亘って積算する場合に比べて算出誤差が生じにくい。このため、積算酸素過不足量ΣOEDの算出誤差によりNOxが排出されてしまうことが抑制される。
また、一般に、排気浄化触媒の酸素吸蔵量が一定に維持されると、その排気浄化触媒の酸素吸蔵能力が低下する。すなわち、排気浄化触媒の酸素吸蔵能力を高く維持するためには、排気浄化触媒の酸素吸蔵量が変動することが必要になる。これに対して、本実施形態によれば、図5に示したように、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは常に上下に変動しているため、酸素吸蔵能力が低下することが抑制される。
なお、上記実施形態では、時刻t1〜t2において、空燃比補正量AFCはリーン設定補正量AFCleanに維持される。しかしながら、斯かる期間において、空燃比補正量AFCは必ずしも一定に維持されている必要はなく、徐々に減少させる等、変動するように設定されてもよい。或いは、時刻t1〜t2の期間中において、一時的に空燃比補正量AFCを0よりも小さな値(例えば、リッチ設定補正量等)としてもよい。
同様に、上記実施形態では、時刻t2〜t3において、空燃比補正量AFCはリッチ設定補正量AFCrichに維持される。しかしながら、斯かる期間において、空燃比補正量AFCは必ずしも一定に維持されている必要はなく、徐々に増大させる等、変動するように設定されてもよい。或いは、時刻t2〜t3の期間中において、一時的に空燃比補正量AFCを0よりも大きな値(例えば、リーン設定補正量等)としてもよい。
なお、このような本実施形態における空燃比補正量AFCの設定、すなわち目標空燃比の設定は、ECU31によって行われる。したがって、ECU31は、下流側空燃比センサ41によって検出された排気ガスの空燃比がリッチ判定空燃比以下となったときに、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Cref以上になったと推定されるまで、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの目標空燃比を継続的又は断続的にリーン空燃比にすると共に、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Cref以上になったと推定されたときに、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに達することなく下流側空燃比センサ41によって検出された排気ガスの空燃比がリッチ判定空燃比以下となるまで、目標空燃比を継続的又は断続的にリッチ空燃比にしているといえる。
より簡単に言えば、本実施形態では、ECU31は、下流側空燃比センサ41によって検出された空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比(すなわち、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比)をリーン空燃比に切り替えると共に、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Cref以上になったときに目標空燃比(すなわち、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比)をリッチ空燃比に切り替えているといえる。
<空燃比センサの素子割れ>
ところで、上述したような空燃比センサ40、41に生じる異常として、空燃比センサ40、41を構成する素子に割れが生じる素子割れという現象が挙げられる。具体的には、固体電解質層51及び拡散律速層54を貫通する割れ(図6のC1)や、固体電解質層51及び拡散律速層54に加えて両電極52、53を貫通する割れ(図6のC2)が発生する。このような素子割れが発生すると、図6に示したように割れた部分を介して排気ガスが基準ガス室55内に進入する。
この結果、空燃比センサ40、41周りの排気ガスの空燃比がリッチ空燃比である場合には、リッチ空燃比の排気ガスが基準ガス室55内に進入する。これにより、基準ガス室55内にリッチ空燃比の排気ガスが拡散し、大気側電極53周りにおける酸素濃度が低下する。一方、この場合でも、排気側電極52は拡散律速層54を介して排気ガスに曝されることになる。このため、大気側電極53周りと排気側電極52周りとの間における酸素濃度差が低下し、結果的に、空燃比センサ40、41の出力空燃比がリーン空燃比となる。すなわち、空燃比センサ40、41に素子割れが発生すると、空燃比センサ40、41周りの排気ガスの空燃比がリッチ空燃比であっても、空燃比センサ40、41の出力空燃比はリーン空燃比となってしまう。
一方、空燃比センサ40、41周りの排気ガスの空燃比がリーン空燃比である場合には、このような出力空燃比の逆転現象は発生しない。これは、排気ガスの空燃比がリーン空燃比である場合には、空燃比センサ40、41の出力電流は固体電解質層51の両側の空燃比の差よりも拡散律速層54を介して排気側電極52表面上に到達する酸素の量に依存するためである。
このように、空燃比センサ40、41に素子割れが生じると、空燃比センサ40、41周りの排気ガスの空燃比がリッチ空燃比であるときに誤った出力を発生させてしまう。このため、例えば、下流側空燃比センサ41に素子割れが生じると、上述したような空燃比制御を行っているときには、空燃比制御を適切に行うことができなくなる。このため、下流側空燃比センサ41に素子割れが生じたことを迅速に診断することが必要となる。
<異常診断>
そこで、本実施形態では、上述したような下流側空燃比センサ41の素子割れ異常の性質を利用して、下流側空燃比センサ41の素子割れに基づく異常診断を行うようにしている。具体的には、異常診断制御において、上述した空燃比制御によって上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比にされているときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン判定空燃比よりもリッチな空燃比からリーンな空燃比に変化したときには、下流側空燃比センサ41に異常が生じていると判定するようにしている。
加えて、本実施形態では、異常診断制御により下流側空燃比センサ41に異常が生じていると判定された場合には、リッチ設定補正量の絶対値を小さくするように、すなわちリッチ設定空燃比のリッチ度合いを小さくするようにしている。加えて、本実施形態では、下流側空燃比センサ41に異常が生じていると判定された場合には、リーン設定補正量の絶対値を小さく、すなわちリーン設定空燃比のリーン度合いを小さくするようにしている。図7を参照してこの様子を説明する。
図7は、空燃比補正量AFC、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFup、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSA、積算酸素過不足量ΣOED及び下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnのタイムチャートである。図中の破線は下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していないときの推移を、図中の実線は下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生しているときの推移をそれぞれ示している。
図7に示した例では、時刻t1以前において、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに設定されており、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupはリッチ空燃比となっている。特に、このときのリッチ設定補正量AFCrichは第1リッチ設定補正量AFCrich1とされている。これに伴って、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少してゼロに近づき、これにより上流側排気浄化触媒20に流入した未燃ガス等の一部が上流側排気浄化触媒20で浄化されずに流出し始める。
上流側排気浄化触媒20から未燃ガス等が流出し始めると、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していないときには、図中に破線で示したように時刻t1において下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ空燃比となる。ところが、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生しているときには、図中に実線で示したように時刻t1において下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがほぼ理論空燃比からリーン空燃比へと変化する。
すなわち、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生している場合には、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに設定されているとき、すなわち空燃比補正量AFCが負の値に設定されているときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean未満からリーン判定空燃比AFlean以上へと変化する。本実施形態では、このような下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnの変化が起きた時刻t1において、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定する。これにより、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の素子割れの異常を正確に診断することができる。
図7に示した例では、時刻t1において、下流側空燃比センサ41に異常が発生したときにONにされる異常診断フラグがONにされる。加えて、本実施形態では、このように下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定されたときには、例えば、内燃機関を搭載した車両の警告灯が点灯せしめられる。
また、時刻t1において、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定されたときには、リッチ設定補正量AFCrichの絶対値及びリーン設定補正量AFCleanの絶対値が減少せしめられる。図7に示した例では、リッチ設定補正量AFCrichが第1リッチ設定補正量AFCrich1から第1リッチ設定補正量AFCrich1よりも絶対値の小さい第2リッチ設定補正量AFCrich2へと変更される(|AFCrich1|>|AFCrich2|)。また、リーン設定補正量AFCleanが第1リーン設定補正量AFClean1から第1リーン設定補正量AFClean1よりも絶対値の小さい第2リーン設定補正量AFClean2へと変更される(|AFClean1|>|AFClean2|)。したがって、リッチ設定空燃比のリッチ度合い及びリーン設定空燃比のリーン度合いが低下せしめられる。
これにより、時刻t1以降、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスのリッチ度合いが低下し、上流側空燃比センサ40の出力空燃比のリッチ度合いが低下する。このため、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガス中の未燃ガス等の濃度が低下し、よって排気エミッションの悪化を抑制することができる。なお、本実施形態では、リッチ設定補正量AFCrichの絶対値及びリーン設定補正量AFCleanの絶対値の両方を減少させている。しかしながら、必ずしも両方を減少させなくてもよく、リッチ設定補正量AFCrichの絶対値のみを減少させてもよい。
図7に実線で示した例では、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定された後も、そのまま上述した空燃比制御が続行される。このため、上述したように、空燃比補正量AFCは、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になったときに、リッチ設定補正量AFCrichからリーン設定補正量AFCleanへと切り替えられる。このため、時刻t1では、空燃比補正量AFCはリーン設定補正量AFCleanに切り替えられず、リッチ設定補正量AFCrichのまま維持される。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAはほぼゼロのまま維持されることになる。
なお、上述した実施形態では、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると1回判定されると、車両の警告灯が点灯せしめられる。しかしながら、判定精度を高めるために、一定時間内に下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定された回数が所定回数以上であるときに車両の警告灯を点灯させるようにしてもよい。或いは、空燃比補正量AFCをリッチ設定補正量AFCrich及びリーン設定補正量AFCleanに1回ずつ設定する期間を1サイクルとすると、このサイクルの回数に対する下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定された回数の割合が予め定められた割合Ra(0<Ra<1)以上であるときに車両の警告灯を点灯させるようにしてもよい。
同様に、上述した実施形態では、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると1回判定されると、リッチ設定補正量AFCrichの絶対値及びリーン設定補正量AFCleanの絶対値が減少せしめられる。しかしながら、これら設定補正量の不用意な変更を避けるために、一定時間内に下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定された回数が所定回数以上であるときにこれら設定補正量の絶対値を減少させるようにしてもよい。或いは、上記サイクルの回数に対する下流側空燃比センサに異常が生じていると判定される回数の割合が予め定められた割合Ra(0<Ra<1)以上である場合には、これら設定補正量の絶対値を減少させるようにしてもよい。
なお、上記実施形態では、空燃比制御において、下流側空燃比センサ41よって検出された空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比がリーン空燃比に切り替えられる。また、積算酸素過不足量ΣOEDが所定の切替基準値OEDref以上になったときに目標空燃比がリッチ空燃比に切り替えられる。しかしながら、空燃比制御として、別の制御を用いてもよい。斯かる別の制御としては、例えば、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン判定空燃比以上になったときに目標空燃比をリッチ空燃比に切り替え、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比をリーン空燃比に切り替える制御が考えられる。このような制御を行った場合でも、同様に下流側空燃比センサ41の素子割れの異常を診断することができる。
<具体的な制御の説明>
次に、図8〜図11を参照して、上記実施形態における制御装置について具体的に説明する。本実施形態における制御装置は、機能ブロック図である図8に示したように、A1〜A8の各機能ブロックを含んで構成されている。以下、図8を参照しながら各機能ブロックについて説明する。これら各機能ブロックA1〜A8における操作は、基本的にECU31において実行される。
<燃料噴射量の算出>
まず、燃料噴射量の算出について説明する。燃料噴射量の算出に当たっては、筒内吸入空気量算出手段A1、基本燃料噴射量算出手段A2、及び燃料噴射量算出手段A3が用いられる。
筒内吸入空気量算出手段A1は、吸入空気流量Gaと、機関回転数NEと、ECU31のROM34に記憶されたマップ又は計算式とに基づいて、各気筒への吸入空気量Mcを算出する。吸入空気流量Gaはエアフロメータ39によって計測され、機関回転数NEはクランク角センサ44の出力に基づいて算出される。
基本燃料噴射量算出手段A2は、筒内吸入空気量算出手段A1によって算出された筒内吸入空気量Mcを、目標空燃比AFTで除算することにより、基本燃料噴射量Qbaseを算出する(Qbase=Mc/AFT)。目標空燃比AFTは、後述する目標空燃比設定手段A6によって算出される。
燃料噴射量算出手段A3は、基本燃料噴射量算出手段A2によって算出された基本燃料噴射量Qbaseに、後述するF/B補正量DFiを加えることで燃料噴射量Qiを算出する(Qi=Qbase+DFi)。このようにして算出された燃料噴射量Qiの燃料が燃料噴射弁11から噴射されるように、燃料噴射弁11に対して噴射指示が行われる。
<目標空燃比の算出>
次に、目標空燃比の算出について説明する。目標空燃比の算出に当たっては、酸素過不足量算出手段A4、空燃比補正量算出手段A5及び目標空燃比設定手段A6が用いられる。
酸素過不足量算出手段A4は、燃料噴射量算出手段A3によって算出された燃料噴射量Qi及び上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupに基づいて積算酸素過不足量ΣOEDを算出する。酸素過不足量算出手段A4は、例えば、上流側空燃比センサ40の出力空燃比と制御中心空燃比との差分に燃料噴射量Qiを乗算すると共に、求めた値を積算することによって積算酸素過不足量ΣOEDを算出する。
空燃比補正量算出手段A5では、酸素過不足量算出手段A4によって算出された積算酸素過不足量ΣOEDと、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnとに基づいて、目標空燃比の空燃比補正量AFCが算出される。具体的には、図9に示したフローチャートに基づいて空燃比補正量AFCが算出される。
目標空燃比設定手段A6は、制御中心空燃比AFR(本実施形態では理論空燃比)に、空燃比補正量算出手段A5で算出された空燃比補正量AFCを加算することで、目標空燃比AFTを算出する。このようにして算出された目標空燃比AFTは、基本燃料噴射量算出手段A2及び後述する空燃比偏差算出手段A7に入力される。
<F/B補正量の算出>
次に、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupに基づいたF/B補正量の算出について説明する。F/B補正量の算出に当たっては、空燃比偏差算出手段A7及びF/B補正量算出手段A8が用いられる。
空燃比偏差算出手段A7は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupから目標空燃比設定手段A6によって算出された目標空燃比AFTを減算することによって空燃比偏差DAFを算出する(DAF=AFup−AFT)。この空燃比偏差DAFは、目標空燃比AFTに対する燃料供給量の過不足を表す値である。
F/B補正量算出手段A8は、空燃比偏差算出手段A7によって算出された空燃比偏差DAFを、比例・積分・微分処理(PID処理)することで、下記式(2)に基づいて燃料供給量の過不足を補償するためのF/B補正量DFiを算出する。このようにして算出されたF/B補正量DFiは、燃料噴射量算出手段A3に入力される。
DFi=Kp・DAF+Ki・SDAF+Kd・DDAF …(2)
なお、上記式(2)において、Kpは予め設定された比例ゲイン(比例定数)、Kiは予め設定された積分ゲイン(積分定数)、Kdは予め設定された微分ゲイン(微分定数)である。また、DDAFは、空燃比偏差DAFの時間微分値であり、今回更新された空燃比偏差DAFと前回更新されていた空燃比偏差DAFとの偏差を更新間隔に対応する時間で除算することで算出される。また、SDAFは、空燃比偏差DAFの時間積分値であり、この時間積分値SDAFは前回更新された時間積分値SDAFに今回更新された空燃比偏差DAFを加算することで算出される(SDAF=SDAF+DAF)。
<空燃比補正量設定制御のフローチャート>
図9は、空燃比補正量設定制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔の割り込みによって行われる。
図9に示したように、まず、ステップS11において空燃比補正量AFCの算出条件が成立しているか否かが判定される。空燃比補正量AFCの算出条件が成立している場合とは、フィードバック制御が行われる通常制御中であること、例えば燃料カット制御中等ではないこと等が挙げられる。ステップS11において目標空燃比の算出条件が成立していると判定された場合には、ステップS12へと進む。
ステップS12では、リーン設定フラグFlがOFFに設定されているか否かが判定される。リーン設定フラグFlは、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに設定されるとONとされ、それ以外の場合にはOFFとされる。ステップS12においてリーン設定フラグFlがOFFに設定されている場合には、ステップS13へと進む。ステップS13では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下であるか否かが判定される。下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichよりも大きいと判定された場合にはステップS14へと進む。ステップS14では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに設定されたまま維持され、制御ルーチンが終了せしめられる。
一方、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが減少して、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が低下すると、ステップS13にて下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下であると判定される。この場合には、ステップS15へと進み、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。次いで、ステップS16では、リーン設定フラグFlがONに設定され、制御ルーチンが終了せしめられる。
リーン設定フラグFlがONに設定されると、次の制御ルーチンにおいては、ステップS12において、リーン設定フラグFlがOFFに設定されていないと判定されて、ステップS17へと進む。ステップS17では、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられてからの積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefよりも少ないか否かが判定される。積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefよりも少ないと判定された場合にはステップS18へと進み、空燃比補正量AFCが引き続きリーン設定補正量AFCleanに設定されたまま維持され、制御ルーチンが終了せしめられる。一方、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が増大すると、やがてステップS17において積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上であると判定され、ステップS19へと進む。ステップS19では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。次いで、ステップS20では、リーン設定フラグFlがOFFにリセットされ、制御ルーチンが終了せしめられる。
<異常診断制御のフローチャート>
図10は、下流側空燃比センサ41の異常診断を行う異常診断制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンは、一定時間間隔の割り込みによって行われる。
図10に示したように、まず、ステップS31において、異常診断の実行条件が成立しているか否かが判定される。異常診断の実行条件が成立している場合とは、例えば、上述した空燃比制御が実行されていること等が挙げられる。ステップS31において、異常診断の実行条件が成立していると判定された場合にはステップS32へと進む。
ステップS32では、上述した空燃比補正量の設定制御において、空燃比補正量AFCが0未満に設定されているか否か、すなわち目標空燃比がリッチ空燃比であるか否かが判定される。ステップS32において、空燃比補正量AFCが0未満に設定されていると判定された場合、すなわち目標空燃比がリッチ空燃比であると判定された場合には、ステップS33へと進む。
ステップS33では、ストイキフラグFsがOFFに設定されているか否かが判定される。ストイキフラグFsは、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに設定されているときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanよりも小さくて理論空燃比近傍の空燃比となっているときにONとされ、それ以外の場合にOFFにされるフラグである。ステップS33においてストイキフラグFsがOFFに設定されていると判定された場合には、ステップS34へと進む。
ステップS34では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean未満であるか否かが判定される。空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられた直後は上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比はほぼ理論空燃比となっているため、ステップS34において下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean未満であると判定され、ステップS35へと進む。ステップS35では、ストイキフラグFsがONにされ、制御ルーチンが終了せしめられる。
ストイキフラグFsがONにされると、次の制御ルーチンではステップS33からステップS36へと進む。ステップS36では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になったか否か、すなわち出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanよりも低い空燃比からリーン判定空燃比AFlean以上に変化したか否かが判定される。下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になっていないと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、ステップS36において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になっていると判定された場合には、ステップS37へと進む。ステップS37では、下流側空燃比センサ41に異常があると判定され、ステップS38へと進む。ステップS38では、ストイキフラグFsがOFFにされ、制御ルーチンが終了せしめられる。
一方、ステップS32において、空燃比補正量AFCが0以上に設定されていると判定された場合、すなわち目標空燃比がリーン空燃比であると判定された場合には、ステップS39へと進む。ステップS39では、ストイキフラグFsがONになっているか否かが判定される。目標空燃比がリーン空燃比に設定される前にリッチ空燃比に設定されていたときに、ステップS35においてストイキフラグFsがONにされていた場合には、ステップS40へと進む。この場合、目標空燃比がリッチ空燃比に前回設定されていたときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはリーン判定空燃比AFlean以上にはならなかったことを意味している。このため、ステップS40において下流側空燃比センサ41は正常であると判定される。次いで、ステップS41では、ストイキフラグFsがOFFにリセットされ、制御ルーチンが終了せしめられる。ストイキフラグFsがOFFにリセットされると、次回の制御ルーチンでは、ステップS39においてストイキフラグFsがONになっていないと判定され、制御ルーチンが終了せしめられる。
<設定空燃比変更制御のフローチャート>
図11は、リッチ設定空燃比及びリーン設定空燃比の設定制御における制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔の割り込みによって行われる。
まず、ステップS51において、図10のステップS37にて下流側空燃比センサ41に異常があると判定されているか否かが判定される。ステップS37において、下流側空燃比センサ41の異常判定がなされていないと判定された場合には、ステップS52へと進む。ステップS52では、リッチ設定補正量AFCrichが第1リッチ設定補正量AFCrich1に設定される。したがって、図9に示したフローチャートのステップS14、S19において、空燃比補正量AFCは第1リッチ設定補正量AFCrich1に設定される。
次いで、ステップS53では、リーン設定補正量AFCleanが第1リーン設定補正量AFClean1に設定される。したがって、図9に示したフローチャートのステップS15、S18において、空燃比補正量AFCは第1リーン設定補正量AFClean1に設定される。
一方、ステップS51において、下流側空燃比センサ41の異常判定がなされていると判定された場合には、ステップS54へと進む。ステップS54では、リッチ設定補正量AFCrichが第2リッチ設定補正量AFCrich2(|AFCrich2|<|AFCrich1|)に設定される。したがって、図9に示したフローチャートのステップS14、S19において、空燃比補正量AFCは第2リッチ設定補正量AFCrich2に設定される。
次いで、ステップS55では、リーン設定補正量AFCleanが第2リーン設定補正量AFClean2(|AFClean2|<|AFClean1|)に設定される。したがって、図9に示したフローチャートのステップS15、S18において、空燃比補正量AFCは第2リーン設定補正量AFClean2に設定される。
<第二実施形態>
次に、図12〜図18を参照して、本発明の第二実施形態に係る排気浄化装置について説明する。第二実施形態に係る排気浄化装置の構成及び制御は、以下に説明する点を除いて、基本的に第一実施形態に係る排気浄化装置の構成及び制御と同様である。
<上流側空燃比センサにおけるずれ>
ところで、機関本体1が複数の気筒を有する場合、各気筒から排出される排気ガスの空燃比には気筒間でずれが生じる場合がある。一方、上流側空燃比センサ40は排気マニホルド19の集合部に配置されるが、その配置位置に応じて各気筒から排出された排気ガスが上流側空燃比センサ40に曝される程度が気筒間で異なる。この結果、上流側空燃比センサ40の出力空燃比は、或る特定の気筒から排出された排気ガスの空燃比の影響を強く受けることになる。このため、この或る特定の気筒から排出された排気ガスの空燃比が全気筒から排出される排気ガスの平均空燃比とは異なる空燃比となっている場合、平均空燃比と上流側空燃比センサ40の出力空燃比との間にはずれが生じる。すなわち、上流側空燃比センサ40の出力空燃比は実際の排気ガスの平均空燃比よりもリッチ側又はリーン側にずれることになる。
また、未燃ガス等のうち水素は空燃比センサの拡散律速層の通過速度が速い。このため、排気ガス中の水素濃度が高いと、上流側空燃比センサ40の出力空燃比が排気ガスの実際の空燃比よりも低い側(すなわち、リッチ側)にずれてしまう。
このように上流側空燃比センサ40の出力空燃比にずれが生じていると、上述したような制御を行っていても、上流側排気浄化触媒20からNOx及び酸素が流出したり、未燃ガス等の流出頻度が高くなったりしてしまう可能性が高くなる。以下では、図12を参照して斯かる現象について説明する。
図12は、図5と同様な、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSA等のタイムチャートである。図12は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比がリッチ側にずれている場合を示している。図中、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにおける実線は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比を示している。一方、破線は、上流側空燃比センサ40周りを流通する排気ガスの実際の空燃比を示している。
図12に示した例においても、時刻t1以前の状態では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとされており、よって目標空燃比がリッチ設定空燃比とされている。これに伴い、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupはリッチ設定空燃比と等しい空燃比となる。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比はリッチ側にずれているため、排気ガスの実際の空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーン側の空燃比となっている。すなわち、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupは、実際の空燃比(図中の破線)よりも低い(リッチ側)ものとなっている。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの減少速度は遅いものとなる。
また、図12に示した例では、時刻t1において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。このため、上述したように、時刻t1において、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。すなわち、目標空燃比がリーン設定空燃比に切り替えられる。
これに伴って、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupはリーン設定空燃比に等しい空燃比となる。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比はリッチ側にずれているため、排気ガスの実際の空燃比はリーン設定空燃比よりもリーンの空燃比となっている。すなわち、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupは、実際の空燃比(図中の破線)よりも低い(リッチ側)ものとなっている。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの増加速度は速くなると共に、目標空燃比をリーン設定空燃比としている間に上流側排気浄化触媒20に供給される実際の酸素量は切替基準吸蔵量Crefよりも多くなる。
このように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにずれが生じていると、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに設定されているときに上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比のリーン度合いが大きくなる。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに達していなくても、上流側排気浄化触媒20に流入したNOxや酸素を全て吸蔵することができずに、上流側排気浄化触媒20からNOxや酸素が流出してしまう場合がある。また、時刻t2において、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは切替基準吸蔵量Cref以上になっており、時刻t2近傍において上述したような意図しない空燃比のずれ等が生じると上流側排気浄化触媒20からNOxや酸素が流出する可能性がある。
以上より、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれを検出することが必要になると共に、検出されたずれに基づいて出力空燃比等の補正を行うことが必要である。
<学習制御>
そこで、本発明の実施形態では、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれを補償すべく、通常運転中(すなわち、上述したような目標空燃比に基づいてフィードバック制御を行っているとき)に学習制御が行われる。以下では、この学習制御について説明する。
ここで、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えてから、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になるまで、すなわち目標空燃比を再びリッチ空燃比に切り替えるまでの期間を酸素増大期間とする。同様に、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてから、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になるまで、すなわち目標空燃比を再びリーン空燃比に切り替えるまでの期間を酸素減少期間とする。本実施形態の学習制御では、酸素増大期間における積算酸素過不足量ΣODEの絶対値として積算酸素過剰量を算出する。なお、積算酸素過剰量は、酸素増大期間において、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比にしようとしたときに過剰となる酸素の量の積算値を表す。加えて、酸素減少期間における積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値として積算酸素不足量を算出する。なお、積算酸素不足量は、酸素減少期間において、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比にしようとしたときに不足する酸素の量の積算値を表す。そして、これら積算酸素過剰量と積算酸素不足量との差が小さくなるように制御中心空燃比AFRが補正される。図13にこの様子を示す。
図13は、制御中心空燃比AFR、空燃比補正量AFC、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFup、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSA、積算酸素過不足量ΣOED、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwn及び学習値sfbgのタイムチャートである。図13は、図12と同様に、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupが低い側(リッチ側)にずれている場合を示している。なお、学習値sfbgは、上流側空燃比センサ40の出力空燃比(出力電流)のずれに応じて変化する値であり、本実施形態では制御中心空燃比AFRを補正するのに用いられる。また、図中、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにおける実線は、上流側空燃比センサ40によって検出された出力に相当する空燃比を、破線は、上流側空燃比センサ40周りを流通する排気ガスの実際の空燃比をそれぞれ示している。加えて、一点鎖線は、目標空燃比、すなわち理論空燃比に空燃比補正量AFC及び学習値sfbgを加算した空燃比を示している。
図13に示した例では、図5及び図12と同様に、時刻t1以前の状態では、制御中心空燃比が理論空燃比とされ、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとされている。このとき、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupは実線で示したようにリッチ設定空燃比に相当する空燃比となる。しかしながら、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにはずれが生じているため、排気ガスの実際の空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーンの空燃比となっている(図13の破線)。ただし、図13に示した例では、図13の破線から分かるように、時刻t1以前の実際の排気ガスの空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーンながらも、リッチ空燃比となっている。したがって、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量は徐々に減少していく。
時刻t1において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、上述したように、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。時刻t1以降は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比はリーン設定空燃比に相当する空燃比となる。しかしながら、上流側空燃比センサ40の出力空燃比のずれにより、排気ガスの実際の空燃比は、リーン設定空燃比よりもリーンな空燃比、すなわちリーン度合いの大きい空燃比となる(図13の破線を参照)。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは急速に増大する。
一方、酸素過不足量OEDは、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupに基づいて算出される。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにはずれが生じている。したがって、算出された酸素過不足量OEDは、実際の酸素過不足量OEDよりも少ない(すなわち、酸素量が少ない)値となる。その結果、算出された積算酸素過不足量ΣOEDは、実際の値よりも少なくなる。
時刻t2では、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達する。このため、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。したがって、目標空燃比はリッチ空燃比とされる。このとき、実際の酸素吸蔵量OSAは図13に示したように切替基準吸蔵量Crefよりも多くなっている。
時刻t2以降は、時刻t1以前の状態と同様に、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとされ、よって目標空燃比はリッチ空燃比とされる。このときも、排気ガスの実際の空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーンの空燃比となっている。この結果、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの減少速度は遅くなる。加えて、上述したように、時刻t2において、上流側排気浄化触媒20の実際の酸素吸蔵量は切替基準吸蔵量Crefよりも多くなっている。このため、上流側排気浄化触媒20の実際の酸素吸蔵量OSAがゼロに到達するまでには時間がかかる。
時刻t3では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、上述したように、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。したがって、目標空燃比がリッチ設定空燃比からリーン設定空燃比へと切り替えられる。
ところで、本実施形態では、上述したように、時刻t1から時刻t2までにおいて、積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。ここで、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えた時(時刻t1)から上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの推定値が切替基準吸蔵量Cref以上になった時(時刻t2)までの期間を酸素増大期間Tincと称すると、本実施形態では酸素増大期間Tincに積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。図13では、時刻t1〜時刻t2の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値(積算酸素過剰量)をR1で示している。
この積算酸素過剰量R1は、時刻t2における酸素吸蔵量OSAに相当する。しかしながら、上述したように、酸素過不足量OEDの推定には上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupが用いられ、この出力空燃比AFupにはずれが生じている。このため、図13に示した例では、時刻t1〜時刻t2の積算酸素過剰量R1は、時刻t2における実際の酸素吸蔵量OSAに相当する値よりも少ないものとなっている。
また、本実施形態では、時刻t2から時刻t3までにおいても、積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。ここで、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えた時(時刻t2)から下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する時(時刻t3)までの期間を酸素減少期間Tdecと称すると、本実施形態では酸素減少期間Tdecに積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。図13では、時刻t2〜時刻t3の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値(積算酸素不足量)をF1で示している。
この積算酸素不足量F1は、時刻t2から時刻t3までに上流側排気浄化触媒20から放出された総酸素量に相当する。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにはずれが生じている。このため、図13に示した例では、時刻t2〜時刻t3の積算酸素不足量F1は、時刻t2から時刻t3までに上流側排気浄化触媒20から実際に放出された総酸素量に相当する値よりも多いものとなっている。
ここで、酸素増大期間Tincでは上流側排気浄化触媒20に酸素が吸蔵されると共に、酸素減少期間Tdecでは吸蔵されていた酸素が全て放出される。したがって、積算酸素過剰量R1と、積算酸素不足量F1とは基本的に同一の値になるのが理想的である。ところが、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにずれが生じている場合、このずれに応じてこれら積算値の値も変化する。上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比が低い側(リッチ側)にずれている場合、積算酸素過剰量R1に対して積算酸素不足量F1の方が多くなる。逆に、上流側空燃比センサ40の出力空燃比が高い側(リーン側)にずれている場合、積算酸素過剰量R1に対して積算酸素不足量F1の方が少なくなる。加えて、積算酸素過剰量R1と積算酸素不足量F1との差ΔΣOED(=R1−F1。以下、「過不足量誤差」という)は上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれの程度を表している。この過不足量誤差ΔΣOEDが大きくなるほど、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれが大きいといえる。
そこで、本実施形態では、過不足量誤差ΔΣOEDに基づいて、制御中心空燃比AFRを補正するようにしている。特に、本実施形態では、積算酸素過剰量R1と積算酸素不足量F1との差ΔΣOEDが小さくなるように制御中心空燃比AFRを補正するようにしている。
具体的には、本実施形態では、下記式(3)により学習値sfbgを算出すると共に、下記式(4)により制御中心空燃比AFRが補正される。
sfbg(n)=sfbg(n−1)+k1・ΔΣOED …(3)
AFR=AFRbase+sfbg(n) …(4)
なお、上記式(3)において、nは計算回数又は時間を表している。したがって、sfbg(n)は今回の計算又は現在の学習値である。加えて、上記式(3)におけるk1は、過不足量誤差ΔΣOEDを制御中心空燃比AFRに反映させる程度を表すゲインである。ゲインk1の値が大きいほど制御中心空燃比AFRの補正量が大きくなる。さらに、上記式(4)において、基本制御中心空燃比AFRbaseは、基本となる制御中心空燃比であり、本実施形態では理論空燃比である。
図13の時刻t3においては、上述したように、積算酸素過剰量R1及び積算酸素不足量F1に基づいて学習値sfbgが算出される。特に、図13に示した例では、積算酸素過剰量R1よりも積算酸素不足量F1の方が多いことから、時刻t3において学習値sfbgは減少せしめられる。
ここで、制御中心空燃比AFRは、上記式(4)を用いて学習値sfbgに基づいて補正される。図13に示した例では、学習値sfbgは負の値となっているため、制御中心空燃比AFRは、基本制御中心空燃比AFRbaseよりも小さな値、すなわちリッチ側の値となっている。これにより、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ側に補正されることになる。
この結果、時刻t3以降、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比の目標空燃比に対するずれは時刻t3以前と比べて小さなものとなる。したがって、時刻t3以降、実際の空燃比を表す破線と目標空燃比を表す一点鎖線との間の差は、時刻t3以前における差よりも小さくなっている。
また、時刻t3以降も、時刻t1〜時刻t2における操作と同様な操作が行われる。したがって、時刻t4において積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達すると、目標空燃比がリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えられる。その後、時刻t5において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達すると、再度、目標空燃比がリーン設定空燃比に切り替えられる。
時刻t3〜時刻t4は、上述したように酸素増大期間Tincに該当し、よってこの間の積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値は図13の積算酸素過剰量R2で表せる。また、時刻t4〜時刻t5は、上述したように酸素減少期間Tdecに該当し、よってこの間の積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値は図13の積算酸素不足量F2で表せる。そして、これら積算酸素過剰量R2と積算酸素不足量F2との差ΔΣOED(=R2−F2)に基づいて、上記式(3)を用いて学習値sfbgが更新される。本実施形態では、時刻t5以降も同様な制御が繰り返され、これにより学習値sfbgの更新が繰り返される。
学習制御によりこのように学習値sfbgの更新を行うことにより、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupは徐々に目標空燃比から離れていくが、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比は徐々に目標空燃比に近づいていく。これにより、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれを補償することができる。
なお、上述したように、学習値sfbgの更新は、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDと、この酸素増大期間Tincの直後に続く酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDとに基づいて行われるのが好ましい。これは、上述したように、酸素増大期間Tincに上流側排気浄化触媒20に吸蔵される総酸素量とこの直後に続く酸素減少期間Tdecに上流側排気浄化触媒20から放出される総酸素量が等しくなるためである。
加えて、上記実施形態では、1回の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDと、1回の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDとに基づいて学習値sfbgの更新が行われている。しかしながら、複数回の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDの合計値又は平均値と、複数回の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDの合計値又は平均値とに基づいて学習値sfbgの更新を行ってもよい。
また、上記実施形態では、学習値sfbgに基づいて、制御中心空燃比を補正することとしている。しかしながら、学習値sfbgに基づいて補正するのは、空燃比に関する他のパラメータであってもよい。他のパラメータとしては、例えば、燃焼室5内への燃料供給量や、上流側空燃比センサ40の出力空燃比、空燃比補正量等が挙げられる。
なお、本実施形態においても、空燃比制御として上述した別の制御を行うことができる。具体的には、別の制御としては、例えば、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン判定空燃比以上になったときに目標空燃比をリッチ空燃比に切り替え、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比をリーン空燃比に切り替える制御が考えられる。
この場合、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてから下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になるまでの酸素減少期間における積算酸素過不足量の絶対値として積算酸素不足量が算出される。加えて、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えてから下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン判定空燃比以上になるまでの酸素増大期間における積算酸素過不足量の絶対値として積算酸素過剰量が算出される。そして、これら積算酸素過剰量と積算酸素不足量との差が小さくなるように制御中心空燃比等が補正されることになる。
したがって、以上をまとめると、本実施形態では、学習制御において、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えてから再びリッチ空燃比に切り替えるまでの酸素増大期間における積算酸素過剰量と、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてから再びリーン空燃比に切り替えるまでの酸素減少期間における積算酸素不足量とに基づいて、これら積算酸素過剰量と積算酸素不足量との差が小さくなるように空燃比に関するパラメータが補正されるといえる。
<素子割れ発生時の挙動>
上述したように、下流側空燃比センサ41に素子割れが発生すると、基本的には、下流側空燃比センサ41周りの排気ガスの空燃比がリッチ空燃比であるときに下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン空燃比となる。しかしながら、このような現象は、下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの流量に応じて発生しない場合がある。
図14は、下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの流量と、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnとの関係を示した図である。図14は、下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも僅かにリッチなリッチ空燃比となっている場合を示している。また、図中の丸印は素子割れの生じていない正常なセンサを用いた場合を、図中の三角印は素子割れが生じているセンサを用いた場合をそれぞれ示している。
図14からわかるように、下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの流量が多いときには、下流側空燃比センサ41に素子割れが生じていなければ、その出力空燃比AFdwnは排気ガスの実際の空燃比に一致する。したがって、図14に示した例では、出力空燃比AFdwnは理論空燃比よりも僅かにリッチな空燃比になっている。一方、このとき、下流側空燃比センサ41に素子割れが生じていると、上述したように出力空燃比AFdwnはリーン空燃比となる。これに対して、下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの流量が少ないときには、下流側空燃比センサ41の素子割れの有無にかかわらず、出力空燃比AFdwnは排気ガスの実際の空燃比に一致し、理論空燃比よりも僅かにリッチな空燃比になっている。
このように、下流側空燃比センサ41に上述した素子割れが生じている場合であっても、排気ガスの流量が少ないときには上述したような現象が生じないのは、以下の理由であると考えられる。すなわち、下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの流量が少ないと、割れが生じている部分を介して基準ガス室55内に侵入してくる排気ガスの流量が少なくなる。このため、割れを介して排気ガスが基準ガス室55内に侵入しても、大気側電極53周りにおける酸素濃度はほとんど変化しない。この結果、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnも変化せず、正しい空燃比を出力することになる。
<素子割れによる誤学習>
下流側空燃比センサ41に素子割れが発生したときにその出力空燃比が上述したような挙動を示すため、上述したような学習制御を行っていると、誤って学習値を更新してしまうことがある。このような誤った学習値の更新について図15を参照して説明する。
図15は、下流側空燃比センサ41に素子割れが発生しているときの、吸入空気量Mc、制御中心空燃比AFR、空燃比補正量AFC、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSA、積算酸素過不足量ΣOED、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwn及び学習値sfbgのタイムチャートである。図15に示した例では、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupに誤差は生じていない。
図15に示した例では、時刻t1以前の状態では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに設定されている。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していき、時刻t1近傍で上流側排気浄化触媒20から未燃ガス等が流出し始める。このとき、内燃機関の燃焼室5への吸入空気量Mcは比較的少なく、よって下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの流量も比較的少ない。このため、下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比になると、これに伴って下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnもリッチ空燃比になる。この結果、図示した例では、時刻t1において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ設定空燃比AFrich以下になる。このため、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichからリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。
時刻t1において空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられると、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが徐々に増加する。また、これに伴って積算酸素過不足量ΣOEDも徐々に増大し、時刻t2において切替基準値OEDrefに到達する。このため、時刻t2において空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanからリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。
空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられると、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが徐々に減少し、時刻t3近傍で上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAがほぼゼロに到達する。このため、時刻t3近傍で上流側排気浄化触媒20から未燃ガス等が流出し始める。
このとき、図15に示した例では、内燃機関の燃焼室5への吸入空気量Mcが比較的多くなっており、よって下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの流量も比較的多い。このため、下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比になると、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはリーン空燃比となる。したがって、時刻t3において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはリーン判定空燃比AFlean以上となり、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定する。
しかしながら、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはリッチ判定空燃比AFrich以下になっているわけではないため、空燃比補正量AFCはリッチ設定補正量に維持され続ける。このため、上流側排気浄化触媒20からは未燃ガス等が流出し、また、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはリーン判定空燃比AFleanよりも大きな空燃比に維持される。
その後、図15に示した例では、時刻t4において吸入空気量Mcが減少し、下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの流量が比較的少なくなる。このため、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnは排気ガスの実際の空燃比に相当する正しい空燃比に向かって変化する。この結果、時刻t5において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下となる。このため、空燃比補正量AFCがリッチ設定空燃比AFCrichからリーン設定空燃比AFCleanへと切り替えられる。
ここで、上述したように、学習値sfbgを算出する際に用いられる酸素減少期間は、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えた時から下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する時(または、目標空燃比をリーン空燃比に切り替える時)までの期間とされる。このため、酸素減少期間をこのように算出すると、酸素減少期間が極めて長くなってしまう。この結果、時刻t2〜時刻t5の積算酸素不足量F1は、時刻t1〜時刻t2の積算酸素過剰量R1よりも多くなり、図15に示したように学習値sfbgが大きく減少せしめられることになる。この結果、上流側空燃比センサ40の出力空燃比には誤差が生じていないにもかかわらず、学習値sfbgが変更され、誤った学習値の更新が行われてしまう。この結果、図15に示したように、制御中心空燃比AFRが誤って変更されてしまう。
<素子割れ異常時の学習値更新>
そこで、本実施形態では、目標空燃比がリッチ空燃比に設定されているときに下流側空燃比センサ41に異常が生じていると判定された場合には、その後に下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になって目標空燃比がリーン空燃比に切り替えられても、このときの積算酸素不足量に基づく学習値sfbgの補正を中止するようにしている。
加えて、本実施形態では、目標空燃比がリッチ空燃比に設定されているときに下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanよりもリッチな空燃比からリーン判定空燃比AFleanよりもリーンな空燃比に変化したことにより下流側空燃比センサ41に異常が生じていると判定された場合には、目標空燃比を前回リッチ空燃比に切り替えてから下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanよりもリッチな空燃比からリーンな空燃比に変化したときまでの期間における積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値を積算酸素不足量Fとして算出し、このように算出された積算酸素不足量Fと積算酸素過剰量Rとの差が小さくなるように学習値sfbgを補正するようにしている。以下、図16を参照して、本実施形態における学習値の更新方法について説明する。
図16は、空燃比補正量AFC等を示す図15と同様なタイムチャートである。図16は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupに僅かな誤差が生じている場合を示している。図16に示した例においても、時刻t3までは図15に示した例と同様に各パラメータが推移する。
また、図16に示した例においても、時刻t3において下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanに到達し、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定される。このとき、図16からわかるように酸素吸蔵量OSAがほぼゼロになっており、よって実際には上流側排気浄化触媒20からはリッチ空燃比の排気ガスが流出している。したがって、時刻t2から時刻t3における積算酸素過不足量ΣOEDは、時刻t2から時刻t3の間に上流側排気浄化触媒20から放出された酸素量を表しており、時刻t2における上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量に相当する。すなわち、時刻t2から時刻t3は図13における酸素減少期間Tdecに相当すると共に、時刻t2から時刻t3までの積算酸素過不足量ΣOEDは、図13に示した積算酸素不足量Fに相当する。
このため、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにずれが生じていなければ、時刻t1から時刻t2までの酸素増大期間Tincにおける積算酸素過剰量R1と時刻t2から時刻t3までの酸素減少期間Tdecにおける積算酸素不足量F1とは同一の値となる。しかしながら、上流側空燃比センサ40にずれが生じている場合には、これら積算酸素過剰量R1と積算酸素不足量F1とが異なる値となる。
そこで、本実施形態では、時刻t1から時刻t2までの酸素増大期間Tincにおける積算酸素過剰量R1と、時刻t2から下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になった時刻t3までの酸素減少期間Tdecにおける積算酸素不足量F1との差である過不足量誤差ΔΣOED(=R1−F1)に基づいて、上記式(3)により学習値sfbgを算出するようにしている。また、算出された学習値sfbgに基づいて上記式(4)により制御中心空燃比AFRを補正するようにしている。
この結果、図16に示した例では、積算酸素過剰量R1よりも積算酸素不足量F1の方が多いため、時刻t3において学習値sfbgが減少せしめられる。また、この結果、制御中心空燃比AFRが減少せしめられる。これにより、本実施形態によれば、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生しているときであっても、適切に学習値sfbgの更新を行うことができ、よって上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれを適切に補償することができる。
また、図16に示した例では、図15に示した例と同様に、時刻t4において吸入空気量Mcが減少し、下流側空燃比センサ41周りを流通する排気ガスの流量が比較的少なくなる。このため、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnは、時刻t4以降、リッチ空燃比に向かって変化し、時刻t5において、リッチ判定空燃比AFrich以下となる。このため、空燃比補正量AFCがリッチ設定空燃比AFCrichからリーン設定空燃比AFCleanへと切り替えられる。
このとき、本実施形態では、時刻t5において、学習値sfbgの更新が中止せしめられ、よって制御中心空燃比AFRの補正が中止せしめられる。図15を参照して説明したように、時刻t2から時刻t5における積算酸素不足量に基づいて学習値sfbgの更新を行うと学習値sfbgが誤って更新されてしまう。本実施形態では、時刻t5において、時刻t2から時刻t5における積算酸素不足量に基づく学習値sfbgの更新が行われないため、学習値sfbgを誤って更新することが防止せしめられる。
なお、上記実施形態では、時刻t3において学習値sfbgの更新を行っているが、このときの学習値sfbgの更新は必ずしも行わなくてもよい。すなわち、下流側空燃比センサ41に素子割れが発生したこと以外の理由によって、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに設定されているときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になる場合がある。このような場合としては、例えば、機関負荷が急激に変化して上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が急激に変化した場合等が考えられる。時刻t3において学習値sfbgを更新しないことにより、このような場合に学習値を誤って更新することが抑制される。
<第二実施形態における制御の説明>
次に、図17及び図18を参照して、本実施形態における制御装置について具体的に説明する。本実施形態における制御装置は、図17に示したように、A1〜A10の各機能ブロックを含んで構成されている。このうち、機能ブロックA1〜A8は、第一実施形態における機能ブロックA1〜A8と同様であるので、基本的に説明を省略する。
学習値算出手段A9では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwn、酸素過不足量算出手段A4によって算出された積算酸素過不足量ΣOED等に基づいて学習値sfbgが算出される。具体的には、図18に示した学習制御のフローチャートに基づいて学習値sfbgが算出される。このようにして算出された学習値sfbgは、ECU31のRAM33のうち、内燃機関を搭載した車両のイグニッションキーがオフにされても消去されない記憶媒体に保存される。
制御中心空燃比算出手段A10では、基本制御中心空燃比AFRbase(例えば、理論空燃比)と、学習値算出手段A9によって算出された学習値sfbgとに基づいて制御中心空燃比AFRが算出される。具体的には、上述した式(4)に示したように、基本制御中心空燃比AFRbaseに学習値sfbgを加算することによって制御中心空燃比AFRが算出される。
目標空燃比設定手段A6は、制御中心空燃比算出手段A10によって算出された制御中心空燃比AFRに、空燃比補正量算出手段A5で算出された空燃比補正量AFCを加算することで、目標空燃比AFTを算出する。
<学習制御のフローチャート>
図18は、学習制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔の割り込みによって行われる。
図18に示したように、まず、ステップS61において、学習値sfbgの更新条件が成立しているか否かが判定される。更新条件が成立している場合とは、例えば、通常制御中であること等が挙げられる。ステップS61において、学習値sfbgの更新条件が成立していると判定された場合には、ステップS62へと進む。ステップS62では、リーン設定フラグFlがONに設定されているか否かが判定される。リーン設定フラグFlは、図9に示した空燃比補正量設定制御の制御ルーチンにおいて設定されるフラグである。ステップS62において、リーン設定フラグFlがONに設定されていると判定された場合、すなわち空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに設定されている場合には、ステップS63へと進む。
ステップS63では、空燃比補正量AFCの切替タイミングであったか否かが判定される。具体的には、本制御ルーチンが前回終了してから今回開始されるまでの間に空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichからリーン設定補正量AFCleanに切り替えられたか否かが判定される。ステップS63において、空燃比補正量AFCの切替タイミングでなかったと判定された場合には、ステップS64へと進む。ステップS64では、積算酸素過不足量ΣOEDに現在の酸素過不足量OEDが加算される。
その後、目標空燃比がリッチ空燃比へと切り替えられると、次の制御ルーチンではステップS62においてリーン設定フラグFlがOFFに設定されていると判定され、ステップS65へと進む。ステップS65では、空燃比補正量AFCの切替タイミングであったか否かが判定される。具体的には、本制御ルーチンが前回終了してから今回開始されるまでの間に空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanからリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられたか否かが判定される。ステップS65において、空燃比補正量AFCの切替タイミングであったと判定された場合には、ステップS66へと進む。ステップS66では積算酸素過剰量Rnが現在の積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値とされる。次いで、ステップS67では、積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされ、制御ルーチンが終了せしめられる。
次の制御ルーチンでは、通常、ステップS62においてリーン設定フラグFlがOFFに設定されていると判定され、ステップS65において空燃比補正量AFCの切替タイミングでなかったと判定される。この場合、本制御ルーチンはステップS68へと進む。ステップS68では、積算酸素過不足量ΣOEDに現在の酸素過不足量OEDが加算される。
その後、目標空燃比がリーン空燃比へと切り替えられると、次の制御ルーチンではステップS62においてリーン設定フラグFlがONに設定されていると判定され、ステップS63において空燃比補正量AFCの切替タイミングであったと判定される。この場合、本制御ルーチンはステップS69へと進む。ステップS69では、目標空燃比がリッチ空燃比に設定されていた間に下流側空燃比センサ41に異常判定がなされているか否かが判定される。ステップS69において、下流側空燃比センサ41に異常判定がなされていないと判定された場合には、ステップS70へと進む。
ステップS70では、積算酸素不足量Fnが現在の積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値とされる。次いで、ステップS71では、積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされる。次いで、ステップS72では、ステップS66で算出された積算酸素過剰量RnとステップS70で算出された積算酸素不足量Fnとに基づいて学習値sfbgが更新され、制御ルーチンが終了せしめられる。このようにして更新された学習値sfbgは、上記式(4)にて制御中心空燃比AFRを補正するのに用いられる。
一方、ステップS69において、下流側空燃比センサ41に異常判定がなされていると判定された場合には、ステップS73へと進む。ステップS73では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられてから下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になるまでの期間に積算された積算酸素過不足量ΣOEDが積算酸素不足量Fnとして算出される。次いで、ステップS71では、積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされる。次いで、ステップS72では、ステップS66で算出された積算酸素過剰量RnとステップS73で算出された積算酸素不足量Fnとに基づいて学習値sfbgが更新され、制御ルーチンが終了せしめられる。このようにして更新された学習値sfbgは、上記式(4)にて制御中心空燃比AFRを補正するのに用いられる。なお、学習値を誤って更新することを抑制するために、ステップS69において下流側空燃比センサ41に異常判定がなされていると判定された場合に、ステップS72において学習値sfbgを更新しなくてもよい。
なお、上記第一実施形態及び第二実施形態では、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定されたときには、リッチ設定補正量AFCrichの絶対値及びリーン設定補正量AFCleanの絶対値を減少させるようにしている。この結果、制御中心空燃比にリッチ設定補正量AFCrichを加算したリッチ設定空燃比のリッチ度合いが低下せしめられる。加えて、制御中心空燃比にリーン設定補正量AFCleanを加算したリーン設定空燃比のリーン度合いが低下せしめられる。
しかしながら、下流側空燃比センサ41に素子割れの異常が発生していると判定されたときには、リッチ設定補正量AFCrichの絶対値及びリーン設定補正量AFCleanの絶対値ではなく、リッチ設定空燃比及びリーン設定空燃比を直接補正するようにしてもよい。この場合、素子割れの異常が発生していると判定されたときには、リッチ設定空燃比のリッチ度合い及びリーン設定空燃比のリーン度合いが低下せしめられることになる。