以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明のインクジェットプリンターとして、インクジェットヘッドの一種である記録ヘッド3を搭載したプリンター1を例に挙げて説明する。
プリンター1の構成について、図1を参照して説明する。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2(着弾対象の一種)の表面に対してインク(液体の一種)を噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送する搬送機構6等を備えている。ここで、上記のインクは、液体供給源としてのインクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジがプリンターの本体側に配置され、当該インクカートリッジからインク供給チューブを通じて記録ヘッドに供給される構成を採用することもできる。
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。したがってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。キャリッジ4の主走査方向の位置は、位置情報検出手段の一種であるリニアエンコーダー(図示せず)によって検出される。リニアエンコーダーは、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)をプリンター1の制御部に送信する。
また、キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジ4の走査の基点となるホームポジションが設定されている。このホームポジションには、端部側から順に、記録ヘッド3のノズル面(ノズルプレート21)に形成されたノズル22を封止するキャップ11、及び、ノズル面を払拭するためのワイピングユニット12が配置されている。
次に記録ヘッド3について説明する。図2は、記録ヘッド3の構成を説明する断面図である。図3は、記録ヘッド3の要部を拡大した断面図、すなわちアクチュエーターユニット14の一側(図2における左側)を拡大した断面図である。本実施形態における記録ヘッド3は、図2に示すように、アクチュエーターユニット14および流路ユニット15が積層された状態でヘッドケース16に取り付けられている。なお、便宜上、アクチュエーターユニット14を構成する各部材の積層方向を上下方向として説明する。
ヘッドケース16は、合成樹脂製の箱体状部材であり、その内部には各圧力室30にインクを供給するリザーバー18が形成されている。このリザーバー18は、複数形成された圧力室30に共通なインクが貯留される空間であり、2列に並設(列設)された圧力室30の列に対応して2つ形成されている。なお、ヘッドケース16の上方には、インクカートリッジ7側からのインクをリザーバー18に導入するインク導入路(図示せず)が形成されている。また、ヘッドケース16の下面側には、当該下面からヘッドケース16の高さ方向の途中まで直方体状に窪んだ収容空間17が形成されている。後述する流路ユニット15がヘッドケース16の下面に位置決めされた状態で接合されると、連通基板24上に積層されたアクチュエーターユニット14(圧力室形成基板29、封止板33等)が収容空間17内に収容されるように構成されている。
ヘッドケース16の下面に接合される流路ユニット15は、連通基板24及びノズルプレート21を有している。連通基板24は、シリコン製の板材であり、本実施形態では、表面(上面および下面)を(110)面としたシリコン単結晶基板から作製されている。この連通基板24には、図2に示すように、リザーバー18と連通し、各圧力室30に共通なインクが貯留される共通液室25と、この共通液室25を介してリザーバー18からのインクを各圧力室30に個別に供給する個別連通路26とが、エッチングにより形成されている。共通液室25は、圧力室30の並設方向(ノズル列方向)に沿った長尺な空部であり、2つのリザーバー18に対応して2列形成されている。この共通液室25は、連通基板24の板厚方向を貫通した第1液室25aと、連通基板24の下面側から上面側に向けて当該連通基板24の板厚方向の途中まで窪ませ、上面側に薄板部を残した状態で形成された第2液室25bと、から構成される。個別連通路26は、第2液室25bの薄板部において、圧力室30に対応して当該圧力室30の並設方向に沿って複数形成されている。この個別連通路26は、連通基板24と圧力室形成基板29とが位置決めされて接合された状態で、対応する圧力室30の長手方向における一側の端部と連通する。
また、連通基板24の各ノズル22に対応する位置には、連通基板24の板厚方向を貫通したノズル連通路27が形成されている。すなわち、ノズル連通路27は、ノズル列に対応して当該ノズル列方向に沿って複数形成されている。このノズル連通路27によって、圧力室30とノズル22とが連通する。本実施形態のノズル連通路27は、連通基板24と圧力室形成基板29とが位置決めされて接合された状態で、対応する圧力室30の長手方向における他側(個別連通路26とは反対側)の端部と連通する。
ノズルプレート21は、連通基板24の下面(圧力室形成基板29とは反対側の面)に接合されたシリコン製の基板(例えば、シリコン単結晶基板)である。本実施形態では、このノズルプレート21により、共通液室25となる空間の下面側の開口が封止されている。また、ノズルプレート21には、複数のノズル22が直線状(列状)に開設されている。本実施形態では、2列に形成された圧力室30の列に対応して、ノズル列が2列形成されている。この並設された複数のノズル22(ノズル列)は、一端側のノズル22から他端側のノズル22までドット形成密度に対応したピッチ(例えば600dpi)で、主走査方向に直交する副走査方向に沿って等間隔に設けられている。なお、ノズルプレートを連通基板における共通液室から内側に外れた領域に接合し、共通液室となる空間の下面側の開口を例えば可撓性を有するコンプライアンスシート等の部材で封止することもできる。このようにすれば、ノズルプレートを可及的に小さくできる。
アクチュエーターユニット14は、図2及び図3に示すように、圧力室形成基板29、振動板31、圧電素子32および封止板33が積層されてユニット化されている。このアクチュエーターユニット14は、収容空間17内に収容可能なように、収容空間17よりも小さく形成されている。
圧力室形成基板29は、シリコン製の硬質な板材であり、本実施形態では、表面(上面および下面)を(110)面としたシリコン単結晶基板から作製されている。この圧力室形成基板29には、エッチングにより一部が板厚方向に完全に除去されて、圧力室30となるべき空間がノズル列方向に沿って複数形成されている。この空間は、下側が連通基板24により区画され、上側が振動板31により区画されて、圧力室30を構成する。また、この空間、すなわち圧力室30は、2列に形成されたノズル列に対応して2列に形成されている。各圧力室30は、ノズル列方向に直交する方向に長尺な空部であり、当該方向(すなわち、圧力室30の長手方向)の一側の端部に個別連通路26が連通し、他側の端部にノズル連通路27が連通する。なお、本実施形態の圧力室30のノズル列方向に直交する方向の両側壁は、シリコン単結晶基板の結晶性に起因して、圧力室形成基板29の上面或いは下面に対して傾斜している。
振動板31は、弾性を有する薄膜状の部材であり、圧力室形成基板29の上面(連通基板24とは反対側の面)に積層されている。この振動板31によって、圧力室30となるべき空間の上部開口が封止されている。換言すると、振動板31によって、圧力室30の上面が区画されている。この振動板31における圧力室30の上面を区画する区画領域35は、圧電素子32の撓み変形に伴ってノズル22から遠ざかる方向あるいは近接する方向に変形(変位)する変位部として機能する。すなわち、振動板31における区画領域35は、撓み変形が許容される領域であり、振動板31における区画領域35から外れた領域は撓み変形が阻害される領域である。なお、振動板31は、例えば、圧力室形成基板29の上面に形成された二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜と、この弾性膜上に形成された酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜と、から成る。そして、この絶縁膜上(振動板31の圧力室30側とは反対側の面)における区画領域35に対応する位置に圧電素子32がそれぞれ積層されている。すなわち、圧電素子32は、振動板31を介して圧力室形成基板29上に設けられている。
本実施形態の圧電素子32は、所謂撓みモードの圧電素子である。この圧電素子32は、2列に並設された圧力室30の列に対応して2列に並設されている。各圧電素子32は、図3に示すように、振動板31上に、下電極層37、圧電体層38、上電極層39、及び金属層40が順次積層されてなる。本実施形態では、下電極層37が圧電素子32毎に独立して形成される個別電極となっており、上電極層39が複数の圧電素子32に亘って連続して形成される共通電極となっている。すなわち、下電極層37及び圧電体層38は、圧力室30毎に形成されている。一方、上電極層39は、複数の圧力室30に亘って形成されている。図3に示すように、本実施形態における各層37、38、39のノズル列方向に直交する方向における両端は、区画領域35よりも外側まで延設されている。
そして、下電極層37と上電極層39との間に圧電体層38が挟まれた領域が、圧電素子32として機能することになる。すなわち、下電極層37と上電極層39との間に両電極の電位差に応じた電界が付与されると、圧電体層38がノズル22から遠ざかる方向あるいは近接する方向に撓み変形し、区画領域35の振動板31を変形させる。なお、圧電素子32のうち区画領域35の外側まで延在された部分は、圧力室形成基板29により変形(変位)が阻害される。
また、本実施形態における圧電素子32は、長手方向(ノズル列方向に直交する方向)における両端部に密着層41を介して金属層40が設けられている。圧電素子32の他側(アクチュエーターユニット14における内側)の端部に形成された金属層40は、上電極層39上に積層されて共通電極となる第1の共通金属層40aである。圧電素子32の一側(アクチュエーターユニット14における外側)の端部に形成された金属層40は、上電極層39上に積層され、第1の共通金属層40aと同様に、共通電極となる第2の共通金属層40bである。第2の共通金属層40bよりも外側(第1の共通金属層40a側とは反対側)に形成された金属層40は、一部が下電極層37上に積層されて個別電極となる個別金属層40cである。なお、個別金属層40cの下側に形成される密着層41は、アクチュエーターユニット14の端まで延設されている。そして、本実施形態では、第1の共通金属層40a及び個別金属層40cに、後述するバンプ電極42が接続される。このため、第1の共通金属層40a及び個別金属層40cが本発明における第1の電極端子に相当する。
なお、上記した下電極層37及び上電極層39としては、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、チタン(Ti)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、金(Au)等の各種金属、及び、これらの合金やLaNiO3等の合金等が用いられる。また、圧電体層38としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、ビスマス(Bi)又はイットリウム(Y)等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その他、チタン酸バリウムなどの非鉛材料も用いることができる。さらに、金属層40としては、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、タングステン(W)、及び、これらの合金等からなる密着層上に金(Au)、銅(Cu)等が積層されたものが用いられる。
封止板33は、複数のバンプ電極42を介在させた状態で振動板31(或いは、圧電素子32)に対して間隔を開けて配置された平板状の部材である。なお、この間隔は、圧電素子32の変形が阻害されない程度の間隔に設定されている。本実施形態の封止板33は、表面(上面および下面)が(110)面のシリコン単結晶基板から成り、平面視において圧力室形成基板29の外径と略同じに揃えられている。図3に示すように、この封止板33の下面(圧電素子32側の面)における圧電素子32と対向する領域には、各圧電素子32を個々に駆動する信号(駆動信号)を出力する駆動回路46(ドライバー回路)が形成されている。駆動回路46は、封止板33となるシリコン単結晶基板(シリコンウェハ)の表面に、半導体プロセス等(即ち、成膜工程、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程等)を用いて作成される。この駆動回路46は、複数の導体層、及び、当該複数の導体層間の層間膜となる絶縁体層等が積層されて成る。また、封止板33の圧電素子32側の駆動回路46が形成された領域を含むほぼ全面には、保護膜56が積層されている(図7参照)。なお、この保護膜56は、その表面が平坦になるように加工されている。また、封止板33の上面(駆動回路46側とは反対側の面)も平坦になるように加工されている。
また、図3に示すように、封止板33における区画領域35から外れた領域であって、圧電体層38上に形成された第1の共通金属層40aおよび個別金属層40cに対向する領域には、圧力室形成基板29側に突出した、弾性を有するバンプ電極42が形成されている。このバンプ電極42は、弾性を有する内部樹脂43と、駆動回路46内の対応する配線と電気的に接続され、内部樹脂43の表面を覆う導電膜44と、からなる。本実施形態では、個別金属層40cに接続される個別バンプ電極42bが、2列に形成された圧電素子32に対応して2列に形成されている。また、第1の共通金属層40aに接続される共通バンプ電極42aが、2列に形成された個別バンプ電極42bの間において1列に形成されている。なお、内部樹脂43としては、例えば、ポリイミド樹脂等の樹脂が用いられる。また、導電膜44としては、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、タングステン(W)等の金属が用いられる。この導電膜44が本発明における第2の電極端子に相当する。
封止板33と、振動板31及び圧電素子32が積層された圧力室形成基板29とは、図3に示すように、各バンプ電極42を介在させた状態で接着剤48により接合されている。この接着剤48は、各バンプ電極42のノズル列方向に直交する方向における両側にノズル列方向に沿って帯状に配置されている。特に、個別バンプ電極42bよりも外側(共通バンプ電極42a側とは反対側)に配置された接着剤48は、圧力室形成基板29の外周に形成されている。すなわち、この接着剤48は、各圧電素子32及びバンプ電極42を囲繞するように形成されている。また、各接着剤48は、駆動回路46の一部と重なるように形成されている。
なお、接着剤48としては、感光性かつ熱硬化性を有する樹脂等が好適に用いられる。例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、スチレン樹脂等を主成分に含む樹脂が望ましい。このように、感光性を有するものを接着剤48として用いれば、接着剤48を塗布した後に露光及び現像することで、所定の位置に正確に接着剤48を配置できるようになる。これにより、接着剤48のはみ出しを抑制でき、ひいては記録ヘッド3を小型化できる。すなわち、接着剤48が予定された位置からはみ出すことによりアクチュエーターユニット14を構成する他の部分と干渉することを抑制ができ、接着剤48を当該部分に可及的に近づけることができる。その結果、アクチュエーターユニット14を小型化でき、ひいては記録ヘッド3を小型化できる。
そして、上記のように形成された記録ヘッド3は、インクカートリッジ7からのインクをインク導入路、リザーバー18、共通液室25および個別連通路26を介して圧力室30に導入する。この状態で、駆動回路46からの信号が各バンプ電極42を介して圧電素子32に供給されると、圧電素子32が駆動し、圧力室30内に圧力変動が生じる。記録ヘッド3は、この圧力変動を利用することで、ノズル連通路27を介してノズル22からインク滴を噴射する。
次に、上記した記録ヘッド3、特にアクチュエーターユニット14の製造方法について説明する。図4は、圧力室形成基板29となる第1の基板51と、封止板33となる第2の基板52とを表す斜視図である。図5は、接合された第1の基板51及び第2の基板52を分割する切断予定ラインLを表す第2の基板52側から見た平面図である。図6は、第1の基板51の製造過程を説明する断面における状態遷移図である。図7は、第2の基板52の製造過程を説明する断面における状態遷移図である。図8は、第1の基板51及び第2の基板52の位置決め工程を説明する模式図である。図9(a)は第1のアライメントマーク61の一例を表す平面図であり、図9(b)は第2のアライメントマーク62の一例を表す平面図である。図10は、アクチュエーターユニットの製造過程を説明する断面における状態遷移図である。
本実施形態のアクチュエーターユニット14は、図4に示すように、振動板31及び圧電素子32が積層されて圧力室形成基板29となる領域が複数形成されたシリコン単結晶基板(シリコンウェハ)からなる第1の基板51と、封止板33となる領域が複数形成されたシリコン単結晶基板(シリコンウェハ)からなる第2の基板52とを、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62を用いて位置決め(位置合わせ)した状態で接着剤48により貼りあわせ、その後、図4及び図5に示す切断予定ラインL(スクライブライン)に沿って切断して個片化することで得られる。なお、第1の基板51及び第2の基板52の端部には、図6及び図7に示すように、角が丸められた面取り部51a、52aが形成されている。
詳しく説明すると、第1の基板51(圧力室形成基板29側のシリコン単結晶基板)では、まず、振動板31及び圧電素子32等を形成する。具体的には、第1の基板51の上面(封止板33と対向する側の表面)に振動板31を形成する。次に、半導体プロセスにより、下電極層37、圧電体層38及び上電極層39を順次パターニングする。その後、第1の金属層形成工程において、半導体プロセスにより、密着層41及び金属層40を順次パターニングし、圧電素子32等を形成する。このとき、図6(a)に示すように、切断予定ラインLよりも外側の第1の基板51の端部領域(圧力室形成基板29とならずに破棄される領域)に、金属層からなる第1のアライメントマーク61が形成される。すなわち、金属層40の形成と同時に第1のアライメントマーク61が形成される。
これにより、図4に示すように、第1の基板51に、個々の記録ヘッド3に対応した圧力室形成基板29となる領域及び第1のアライメントマーク61が形成される。換言すると、第1の基板51の切断予定ラインLにより区画された複数の領域に、圧力室形成基板29に対応する領域がそれぞれ形成される。また、第1の基板51の両端部に、第1のアライメントマーク61が形成される。なお、第1の基板51の第1のアライメントマーク61と重なる位置には、その他の金属層が形成されていない。換言すると、第1のアライメントマーク61は、その他の金属層と重なる位置から外れた位置に形成されている。また、本実施形態における第1のアライメントマーク61は、図9(a)に示すように十字型のパターンが用いられる。
なお、図6に示すように、本実施形態における個別金属層40cの下側に形成された密着層41は、切断予定ラインLを越えて隣接する領域(端部領域)まで延設されている。また、第1の基板51の上面であって、振動板31の外側から第1の基板51の端部に亘る領域は、熱酸化膜58により覆われている。本実施形態における熱酸化膜58は、二酸化シリコン(SiO2)からなり、振動板31を構成する二酸化シリコン(SiO2)を当該振動板31から第1の基板51の端部に亘って設けることで形成される。これにより、振動板31を作製する工程と同じ工程で熱酸化膜58を形成することができる。
第1の基板51に振動板31及び圧電素子32が形成されたならば、第1の基板51の表面(第2の基板52に対向する面)に、感光性および熱硬化性を有する液体状の接着剤をスピンコーター等により塗布し、加熱させることで弾性を有する接着剤層を形成する。次に、露光及び現像することで、図6(b)に示すように、各バンプ電極42の両側に対応する位置に接着剤48の形状をパターニングする。ここで、圧力室形成基板29の外周に形成される接着剤48は、駆動回路46と重なる予定の領域から切断予定ラインLを越えて隣接する領域(端部領域)まで延設されている。換言すると、切断予定ラインLと重なる領域であって、切断公差を含めた領域に亘って接着剤48が形成される。また、第1のアライメントマーク61よりも外側であって、第1の基板51の外周にも接着剤48が形成されている。この接着剤48により、第1のアライメントマーク61側へのエッチング溶液の進入を抑制し、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62となる金属層が溶け出すことを抑制する。このため、この領域に形成される接着剤48としては、エッチング溶液として用いられる水酸化カリウム(KOH)に対して耐性を有するものが望ましく、例えば、エポキシ系の樹脂が望ましい。なお、接着剤48は、製膜後における加熱量及び露光時における露光量の調整により、硬化反応が進められて、ある程度の硬化度まで硬化されている。これにより、接着剤48が濡れ広がることを抑制できる。その結果、接着剤48のパターニング精度を向上させることができる。
一方、第2の基板52(封止板33側のシリコン単結晶基板)では、まず、駆動回路形成工程において、図7に示すように、イオン注入及び半導体プロセスにより下面(圧力室形成基板29と対向する側の表面)に駆動回路46等を形成する。この駆動回路46は、金属等からなる導体層(イオン注入により導体又は半導体となったものも含む)及びシリコン酸化膜やシリコン窒化膜等からなる絶縁体層が交互に積み重ねられて構成される。すなわち、駆動回路46は、半導体プロセス等により導体層と、当該導体層間に形成される絶縁体層とを順次パターニングすることで形成される。次に、保護膜形成工程において、駆動回路46と重なる位置から第2の基板52の端部に亘って保護膜56を形成する。これにより、駆動回路46が保護膜56により保護される。なお、切断予定ラインLよりも外側の端部領域には、イオン注入が行われない。また、保護膜56としては、シリコン窒化膜(SiN)が用いられる。
保護膜56が形成されたならば、平坦化工程において、CMP(化学機械研磨)法等の研磨方法を用いて保護膜56を削り、保護膜56の表面を平坦化させる。これにより、保護膜56に接着される接着剤48の接着力の低下を抑制できる。その後、表面に樹脂膜を製膜し、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程により、内部樹脂43を形成した後、加熱により当該内部樹脂43を溶融してその角を丸める。そして、第2の金属層形成工程において、導電膜44を形成し、バンプ電極42を作製する。具体的には、蒸着やスパッタリング等により内部樹脂43の表面に金属層を成膜し、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程により、導電膜44を形成する。このとき、図7(a)に示すように、駆動回路46と重なる位置から外れた位置であって、切断予定ラインLよりも外側の第2の基板52の端部領域(封止板33とならずに破棄される領域)に、金属層からなる第2のアライメントマーク62が形成される。すなわち、導電膜44の形成と同時に第2のアライメントマーク62が形成される。
これにより、図4に示すように、第2の基板52に、個々の記録ヘッド3に対応した封止板33となる領域及び第2のアライメントマーク62が形成される。換言すると、第2の基板52の切断予定ラインLにより区画された複数の領域に、封止板33に対応する領域がそれぞれ形成される。また、第2の基板52の両端部に、第2のアライメントマーク62が形成される。なお、第2の基板52の第2のアライメントマーク62と重なる位置には、その他の金属層が形成されていない。換言すると、第2のアライメントマーク62は、その他の金属層と重なる位置から外れた位置に形成されている。また、本実施形態における第2のアライメントマーク62は、図9(b)に示すように正方形の中心を十字型に抜いたパターン、換言すると、4つの小さい正方形がこれよりも大きい仮想的な正方形の4隅に配置されたパターンが用いられる。
第2の基板52に駆動回路46等が形成されたならば、図7(b)に示すように、第2の基板平坦化工程おいて、第2の基板52の上面(第2のアライメントマーク62が形成される面とは反対側の面)を平坦化する。例えば、CMP(化学機械研磨)法等の研磨方法を用いて保護膜56を削り、保護膜56の表面を平坦化する。
そして、第1の基板51に接着剤48が積層され、第2の基板52の上面が平坦化されたならば、位置決め工程において、第1の基板51の上面(すなわち、第1のアライメントマーク61側の面)と第2の基板52の下面(すなわち、第2のアライメントマーク62側の面)とを対向させた状態で、第1の基板51と第2の基板52との相対位置を決める。例えば、図8に示すように、基板貼り合わせ装置70の吸着ステージ71上に、第1のアライメントマーク61側の面を上方にした状態で第1の基板51を配置する。また、基板貼り合わせ装置70の基板ホルダ72に、第2のアライメントマーク62側の面を下方にした状態で、第1の基板51に対して間隔を開けて第2の基板52を配置する。この状態で、吸着ステージ71の下方に設けられた赤外線光源73から吸着ステージ71に形成された貫通孔71aを介して、第1の基板51の下面側における第1のアライメントマーク61に対応する位置(すなわち、端部領域)に赤外線(約0.7μm〜1000μmの波長の光)を照射する。
ここで、第1の基板51及び第2の基板52は、シリコン単結晶基板であるため、赤外線を透過する。これにより、金属層からなる第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62を、第2の基板52の上方に設けた赤外線カメラ74により確認することができる。特に、本実施形態では、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62が、駆動回路46と重なる位置から外れた端部領域に形成されているため、すなわち、イオン注入が行われない領域に形成されているため、イオンが注入されて導体或いは半導体となった領域により赤外線の透過が阻害される虞が無い。このため、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62を一層確認し易くなる。また、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62は、その他の金属層と重なる位置から外れた位置に形成されているため、その他の金属層のパターンと重なることなく、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62のみを確認することができる。このため、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62をより一層確認し易くなる。
そして、第1の基板51及び第2の基板52を透過した赤外線を赤外線カメラ74により確認し、図示しない画面に映し出される第1のアライメントマーク61と第2のアライメントマーク62との相対位置を確認しながら、第1の基板51と第2の基板52との相対位置を決める。具体的には、重ね合された第1のアライメントマーク61と第2のアライメントマーク62との相対位置を確認しながら、吸着ステージ71或いは基板ホルダ72の何れか一方を並行に移動させて、第1の基板51と第2の基板52との相対位置を調整する。
第1の基板51と第2の基板52との相対位置が合わせられたならば、すなわち、位置決めされたならば、基板接合工程により第1の基板51と第2の基板52とを接合する。具体的には、吸着ステージ71或いは基板ホルダ72の何れか一方を移動させて、第1の基板51を第2の基板52に向けて相対的に移動させる。そして、接着剤48を両基板51、52の間に挟んで張り合わせる。この状態で、バンプ電極42の弾性復元力に抗して、第1の基板51及び第2の基板52を上下に加圧する。これにより、バンプ電極42が押し潰され、導電膜44と対応する金属層40とが接続される。また、接着剤48が第2の基板52の表面に密着される。そして、加圧しながら、接着剤48の硬化温度まで加熱する。その結果、バンプ電極42が押し潰された状態で、接着剤48が硬化し、両基板が接合される(図10(a)参照)。
両基板51、52が接合されたならば、図10(b)に示すように、第1の基板51を下面側(第2の基板52側とは反対側)から研磨し、当該第1の基板51を薄くする。その後、圧力室形成工程において、フォトリソグラフィー工程及びエッチング工程により、薄くなった第1の基板51に圧力室30を形成する。具体的には、第1の基板51の下面にフォトレジストをパターニングし、両基板51、52が接合された状態で、エッチング溶液(例えば、水酸化カリウム(KOH))に浸す。これにより圧力室30に対応する領域がエッチングされる。この時、両基板51、52の外周には接着剤48が形成されているため、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62となる金属層が溶け出すことを抑制できる。これにより、エッチング溶液槽内に不要な金属イオンが溶出することを抑制できる。その後、フォトレジストを剥離して圧力室30が形成される(図10(c)参照)。なお、図10(c)に示すように、エッチングにより圧力室30を形成する際に、切断予定ラインLと重なる領域であって、切断公差を含めた領域もシリコン単結晶基板が除去される。
最後に、基板切断工程において、図10(d)に示すように、接合された第1の基板51及び第2の基板52を、切断予定ラインLに沿って切断することで、個々の圧力室形成基板29及び封止板33に分割する。このとき、第1の基板51の切断予定ラインLと重なる領域が除去されているため、切断が容易になる。また、切断予定ラインLと重なる領域に接着剤48を配置したので、切断時の衝撃により、圧力室形成基板29と封止板33との相対位置がずれたり、圧力室形成基板29と封止板33との間隔がばらついたりする不具合を抑制できる。さらに、切断予定ラインLと重なる領域に密着層41を配置したので、靱性を得ることができ、破片等が発生することを抑制できる。なお、第1の基板51及び第2の基板52を切断する方法としては、ダイヤモンド等からなるカッターを用いる方法やレーザーを用いる方法等、種々の方法を採用できる。
そして、上記の過程により製造されたアクチュエーターユニット14は、接着剤等を用いて流路ユニット15(連通基板24)に位置決めされて固定される。そして、アクチュエーターユニット14をヘッドケース16の収容空間17に収容した状態で、ヘッドケース16と流路ユニット15とを接合することで、圧力室形成基板29と封止板33とが高精度に位置合わせされた記録ヘッド3を製造することができる。
このように、本実施形態における記録ヘッド3の製造方法では、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62が金属層により形成されるため、基板を貫通させる貫通孔よりもこれらのパターニング精度が向上する。また、第1のアライメントマーク61と第2のアライメントマーク62との相対位置を、赤外線により第1の基板51及び第2の基板52を透過させて確認するため、第1のアライメントマーク61と第2のアライメントマーク62とが合わさった状態を直接確認することができる。その結果、第1の基板51と第2の基板52との相対位置を高精度に合わせることが可能になる。さらに、第2の基板52の第2のアライメントマーク62が形成される面とは反対側の面が平坦化されるため、当該面における光の散乱を抑制し、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62を確認し易くなる。これにより、第1の基板51と第2の基板52との位置合わせ精度が更に向上する。また、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62が金属層からなるため、基板を貫通させる貫通孔をアライメントマークとする場合よりも製造が容易になる。
また、第1の共通金属層40a及び個別金属層40cと第1のアライメントマーク61とが同じ工程で形成され、導電膜44と第2のアライメントマーク62とが同じ工程で形成されるため、第1の共通金属層40a及び個別金属層40cと導電膜44との相対位置を高精度に合わせることが可能になる。すなわち、例えば、導電膜と第2のアライメントマーク62とが別の工程で作成される場合、第1のアライメントマーク61と第2のアライメントマーク62との相対位置だけでなく、この第2のアライメントマーク62と導電膜との相対位置も影響するため、第1の共通金属層及び個別金属層と導電膜との間の相対位置を高精度に合わせることができない虞がある。これに対して、本実施形態では、第2のアライメントマーク62と導電膜44とが同じ工程で形成されるため、第2のアライメントマーク62と導電膜44との相対位置を考慮せずに、第1のアライメントマーク61と第2のアライメントマーク62との相対位置を合わせることで、第1の共通金属層40a及び個別金属層40cと導電膜44との相対位置を高精度に合わせることが可能になる。その結果、第1の共通金属層40a及び個別金属層40cと導電膜44との間の導通不良を抑制でき、記録ヘッド3の信頼性を高めることができる。
さらに、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62は、駆動回路46と重なる位置から外れた位置、すなわち、第2の基板52のイオン注入が行われない領域と重なる領域に形成されるため、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62を一層確認し易くなる。その結果、第1の基板51と第2の基板52との位置合わせ精度が一層向上する。また、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62は、その他の金属層と重なる位置から外れた位置に形成されるため、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62をより一層確認し易くなる。その結果、第1の基板51と第2の基板52との位置合わせ精度がより一層向上する。
ところで、上記した実施形態では、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62として、図9に示す形状のものが用いられたが、これには限られない。第1のアライメントマーク及び第2のアライメントマークとしては、第1の基板と第2の基板との相対位置が確認できれば、どのような形状のものであっても良い。また、上記した実施形態では、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62が第1の基板51及び第2の基板52の端部領域に形成されたが、これには限られない。要するに、第1のアライメントマーク及び第2のアライメントマークは、駆動回路と重ならない領域、すなわち、第2の基板のイオン注入が行われない領域であって、その他の金属層と重ならない領域であれば、どの位置に配置されても良い。なお、アライメントマークを撮影した画像において画像処理を行ったり、赤外線の波長、強度等を調整したりすることで、第1のアライメントマーク及び第2のアライメントマークを確認できれば、これらのアライメントマークを駆動回路と重なる領域やイオン注入が行われる領域に配置することもできる。
また、上記した実施形態では、第1のアライメントマーク61及び第2のアライメントマーク62がそれぞれ2つずつ形成されたが、これには限れない。第1のアライメントマーク及び第2のアライメントマークが少なくとも1つ以上形成されていればよい。また、両基板のX方向、Y方向及びθ方向の位置合わせ精度を向上させるためには、第1のアライメントマーク及び第2のアライメントマークをそれぞれ3つ以上形成することが望ましい。特に、これらのアライメントマークは、第1の基板及び第2の基板の外周に設けることが望ましい。これにより、第1の基板と第2の基板との位置合わせ精度が更に向上する。
さらに、上記した実施形態では、第1の基板51及び第2の基板52の下方から赤外線を照射したが、これには限られない。第1の基板及び第2の基板の上方から赤外線を照射してもよい。さらに、上記した実施形態では、第1の基板51及び第2の基板52を接合してから個片化することで電子デバイス14を作製したが、これには限られない。例えば、先に封止板及び圧力室形成基板をそれぞれ個片化してから、これらを接合するようにしてもよい。また、それぞれのシリコン単結晶基板を個片化してから、これらの個片化された基板に封止板及び圧力室形成基板を形成するようにしても良い。これらの場合、圧力室形成基板に第1のアライメントマークを形成し、また、封止板に第2のアライメントマークを形成し、上記の方法と同様の方法で、両アライメントマークの相対位置を確認しながら圧力室形成基板と封止板との位置決めを行う。
さらに、上記した実施形態では、下電極層37及び上電極層39とこれらに対応する各バンプ電極42が、それぞれ圧電体層38上に積層された金属層40と接続されたが、これには限られない。圧電体層上において、複数のバンプ電極の少なくとも一部が、下電極層又は上電極層の何れか一方と電気的に接続されていればよい。さらに、上記した実施形態では、バンプ電極42を封止板33側に設けたが、これには限られない。例えば、バンプ電極を圧力室基板側に設けることもできる。この場合、バンプ電極の導電膜が本発明における第1の電極端子に相当し、これに接続される封止板側の金属層が本発明における第2の電極端子に相当する。
そして、以上で述べた実施形態では、インクジェットヘッドとして、インクジェットプリンターに搭載されるインクジェット式記録ヘッドを例示したが、インク以外の液体を噴射するものにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明のインクジェットヘッドを用いることができる。