以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、三相交流電源1に受電設備2が接続され、その受電設備2に本実施形態のモータ駆動装置3が接続される。そして、モータ駆動装置3の出力端に、直流モータたとえばブラシレスDCモータ(モータ)5が接続される。受電設備2には、三相交流電源1側への高調波電流の流出量を制限するための規制値が設定されている。この規制値の大きさは、受電設備2の受電容量に比例し、受電容量が大きければ大きくなる。ブラシレスDCモータ5は、設備機器たとえばヒートポンプ式熱源機の圧縮機を駆動するもので、複数の相巻線Lu,Lv,Lwを有するステータ(電機子)5a、および複数たとえば4極の永久磁石が埋設されたロータ(回転子)5bを含む。ロータ5bは、相巻線Lu,Lv,Lwに電流が流れることにより生じる磁界とステータ5aの各永久磁石が作る磁界との相互作用により、回転する。
モータ駆動装置3は、PWMコンバータ(コンバータ)10、平滑コンデンサ30、インバータ40、コントローラ(MCU)70を含む。インバータ40の出力端に、ブラシレスDCモータ5の相巻線Lu,Lv,Lwが接続される。
PWMコンバータ10は、リアクタ11,12,13、これらリアクタ11,12,13(および受電設備2)を介して三相交流電源1に接続されるダイオード21a〜26aのブリッジ回路、これらダイオード21a〜26aに並列接続されたスイッチング素子たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)21〜26を含み、三相交流電源1の電圧をIGBT21〜26のスイッチング(断続的なオン)により昇圧および直流変換する。後述するコンバータ制御部72が、電源電流の位相に同期させてIGBT21〜26のオン、オフデューティを調整することで、昇圧電圧は可変される。また、PWMコンバータ10は、IGBT21〜26のスイッチング停止により、三相交流電源1の電圧をダイオード21a〜26aで全波整流する。この出力電圧が平滑コンデンサ30に印加される。なお、ダイオード21a〜26aは、IGBT21〜26の回生用ダイオードである。
インバータ40は、IGBT41,42を直列接続し、そのIGBT41,42の相互接続点がブラシレスDCモータ5の相巻線Luに接続されるU相用直列回路、IGBT43,44を直列接続しそのIGBT43,44の相互接続点がブラシレスDCモータ5の相巻線Lvに接続されるV相用直列回路、IGBT45,46を直列接続しそのIGBT45,46の相互接続点がブラシレスDCモータ5の相巻線Lwに接続されるW相用直列回路を含み、PWMコンバータ10の出力電圧(平滑コンデンサ30の電圧)Vcを各IGBTのスイッチングにより所定周波数の三相交流電圧に変換して各IGBTの相互接続点から出力する。なお、IGBT41〜46には、回生用ダイオード(フリー・ホイール・ダイオード)41a〜46aが逆並列接続されている。
インバータ40の出力端とブラシレスDCモータ5との間の通電路に、モータ電流(相巻線電流)検知用の電流センサ51,52,53が配置される。受電設備2とリアクタ11,12,13との間の通電路に、入力電流検知用の電流センサ61,62,63が配設される。これら電流センサ61〜63の検知結果がコントローラ70に供給される。なお、ここでは、電流センサ61〜63を各相に設けているが、三相中の二相にのみ電流センサを設け、この二相の電流値から残りの一相の電流値を計算で算出しても良い。同様にモータ電流検知用の電流センサ51,52,53についても、三相中の二相にのみ電流センサを設け、この二相の電流値から残りの一相の電流値を計算で算出しても良い。さらに電流センサ51,52,53の替わりに、直流ラインに1つのシャント抵抗を設け、インバータ40の通電タイミングとの組み合わせに基づきブラシレスDCモータ5の各相電流を検知しても良い。
コントローラ70は、直流電圧検出部(直流電圧検出手段)71、コンバータ制御部(制御手段)72、インバータ制御手段73、負荷検出部(負荷検出手段)74、高調波電流検出部(高調波電流検出手段)75、制限値設定部(制限値設定手段)76、昇圧値設定部(昇圧値設定手段)77、電源電圧検出部(電源電圧検出手段)78、電源電流値記憶部(電源電流値記憶手段)79、上限回転数記憶部(上限回転数記憶手段)89を含む。
またコントローラには、外部から運転制御指令として、モータ駆動装置3のオン/オフの指示及びオン中のブラシレスDCモータ5の回転数を指定するためのモータ回転数指令値(モータの目標回転数)Nsが入力されている。このモータ回転数指令値Nsは、コンバータ10を制御するコンバータ制御部(制御手段)72およびインバータ40を制御するインバータ制御手段73に供給される。 なお、これらの指示、指令は、一般に上位側の制御器、例えば、空調機であれば、空調制御器からコントローラ70に送られてくる。
電源電圧検出部78は、受電設備2を介した三相交流電源1の三相電源ラインを入力し、三相交流電源1の電圧値(実効値)Vpを検出する。以下、説明では、「三相交流電源1」は、モータ駆動装置10へ供給される三相交流電源を意味し、本実施形態では、受電設備2を介した後の交流電源となる。この検出電圧値Vpは、昇圧値設定部77に入力され、後述する昇圧値設定部77におけるPWMコンバータ10の昇圧電圧の目標値の設定に用いられる。PWMコンバータ10の出力に接続された直流電圧検出部71は、PWMコンバータ10の出力電圧値Vc(以下、出力電圧Vcという)を検出する。直流電圧検出部71にて検出された出力電圧Vcは、コンバータ制御部72およびインバータ制御部73に供給される。インバータ制御部73ではブラシレスDCモータ5を駆動するためのセンサレス・ベクトル制御にこのデータが用いられる。
コンバータ制御部72は、電流センサ61〜63の検知電流及び電圧検出部71の検出電圧Vcを入力とし、検出電圧Vcが目標値となるようにPWMコンバータ10のIGBT21〜26のスイッチングを制御する。ここで、高調波電流検出手段75は、電流センサ61〜63の検知電流変化をフーリエ展開して制御に必要な次数の高調波電流値を算出して、コンバータ制御部72に供給する。一般的に5次高調波電流が最も大きく、規制値に対する許容幅も少ないため、高調波電流検出手段75は、代表として5次高調波を算出する。
高調波電流検出手段75の検出する高調波電流が規制値を超え、PWMコンバータ10の昇圧動作が行われた直後に、コンバータ制御部72から電源電流値記憶部79に対して電源電流値を記憶する指令が出され、電源電流値記憶部79は、その時の電源電流値Ip(以下、電流記憶値Ipという)を記憶し、保持する。
なお、この電源電流値記憶部79の電源電流値の記憶は、昇圧動作が解除された場合またはPWMコンバータ10のスイッチング動作が停止したところで、解除(リセット)される。
コンバータ制御部72は、インバータ制御部73から後述するインバータ40がモータに供給する通電波形のオン,オフデューティ(デューティ)Dのデータやインバータ40で駆動されるブラシレスDCモータ5の回転数Nのデータ(推定データ含む)等のPWMコンバータ10の制御に必要なデータを受け取っている。
インバータ制御部73は、電流センサ51,52,53の検知結果に基づいてブラシレスDCモータ5の回転数N(回転速度ともいう)を推定し、その推定回転数Nが目標回転数Nsとなるようにインバータ40におけるIGBT41〜46のオン,オフデューティを制御するセンサレス・ベクトル制御を行う。すなわち、インバータ制御部73は、低速度運転域ではデューティDを小さくしてインバータ40の出力電圧を低下させ、中速度運転域から高速度運転域ではデューティDを大きくしてインバータ40の出力電圧を高める制御を行う。
インバータ制御部73は、デューティDが制御の上限、すなわちフルデューティに達した場合、さらにモータの回転数を高めるために負の界磁成分電流−Idを注入する弱め界磁制御によりブラシレスDCモータ5のロータ位置に対する通電タイミングを速める(進み角θを増す)。これにより、ブラシレスDCモータ5における逆起電力に打ち勝つようにブラシレスDCモータ5に電流が流れ込み、ブラシレスDCモータ5の回転数が上昇する。
高調波電流検出部75は、PWMコンバータ10から受電設備2(および商用三相交流電源1)側に流出する高調波電流Ihを電流センサ61〜63の検知結果に基づいて検出する。なお、この電流センサ61〜63の検知電流は、PWMコンバータのスイッチング制御にも用いられる。
制限値設定部76は、PWMコンバータ10から受電設備2(および商用三相交流電源1)側への高調波電流Ihの流出量を制限するための高調波電流の制限値Ihsを記憶し、その値をコンバータ制御部72に供給する。この制限値Ihsは、受電設備2に対し設定される規制値の範囲内で割り当てられるもので、外部からの指令に応じて制限値設定部76に可変設定される。この外部からの指令は、通信を用いた入力であっても良いし、設置時に設備業者が手動で設定しても良い。
昇圧値設定部77には、電源電圧検出部78で検出された三相交流電源1の電圧値(実効値)Vpが入力され、この電圧Vpに基づきPWMコンバータ10の昇圧の目標値である第1電圧値Vc1および第2電圧値Vc2(Vc1<Vc2)が算出されて設定され、コンバータ制御部72に供給される。この昇圧の目標値である第1電圧値Vc1及び第2電圧値Vc2は、高調波を低減するとともにロスを低減するために望ましい電圧値となっている。
ここで、第1電圧値Vc1および第2電圧値Vc2の設定について説明する。PWMコンバータ10から受電設備2(および三相交流電源1)側へ流出する高調波電流Ihの特性は、図2に示すように、PWMコンバータ10の出力電圧VcおよびブラシレスDCモータ5の負荷Lに応じて変化する。高調波電流Ihは、PWMコンバータ10の出力電圧Vcの上昇に伴って減少し、無負荷時の全波整流での電圧値であるおおよそVp*√2(電源電圧が200Vの場合、283V)付近で最も低下した後、増加に転じる。その後、高調波電流Ihは、出力電圧Vcの上昇に伴って増加し、出力電圧Vcが、おおよそVp*√2*102.5%(電源電圧が200Vの場合、290V)に達したところでピークとなり、さらに出力電圧Vcの上昇に伴って再び減少に転じる。以後、高調波電流Ihは、出力電圧Vcの上昇に伴い減少していく。そして、無負荷時の全波整流での電圧値(Vp*√2)*105%程度の出力電圧(電源電圧が200Vの場合、約300V)となったところで、高調波電流Ihは、無負荷時の全波整流での電圧値である出力電圧Vp*√2の時と同じレベルとなる。
また、PWMコンバータ10の特性上、昇圧電圧を高くすればするほどIGBT21〜26のスイッチングにより効率が低下する。このような特性から、高調波電流を制限値内の低い値に抑えつつ、ロスの少ない運転を行わせるために、第1電圧値Vc1としては、できるだけ低い昇圧電圧で高調波電流を低減できる範囲であるVp*√2*(95%〜101%)が選定される。一方、第2電圧値Vc2は、昇圧しても高調波電流が多くなってしまうピーク値のVp*√2*102.5%付近を使用することなく、出力電圧Vcが第1電圧値Vc1=Vp*√2と同程度に高調波電流を低減できる値となる(Vp*√2)*105%近傍に設定される。
この設定により、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第1電圧値Vc1と第2電圧値Vc2の間に、コンバータから流出する高調波電流のピーク値が存在することになり、このピーク値近傍の出力電圧を使用しない昇圧を行うことで高調波電流の低い運転を可能としている。
また、リアクタ11〜13のリアクタンス値は、モータ負荷(消費電流/電力)が定格負荷もしくは定格負荷より大きい負荷領域でPWMコンバータ10が昇圧動作した場合に効率が最も良くなる値に選定されている。この結果、高調波電流Ihについては、中負荷の領域を超えて定格負荷もしくは定格負荷より大きい負荷領域では、高調波電流Ihが低下する。すなわち、高調波電流Ihは、PWMコンバータ10による昇圧動作に対し、モータ負荷が低負荷領域で最も小さく、次いで定格負荷もしくは定格負荷より大きい負荷領域で大きく、中負荷の領域で最も大きくなる。さらに、リアクタ11〜13のリアクタンス値は、PWMコンバータ10が、無負荷時の全波整流での出力電圧Vcの値近傍まで昇圧した場合、ブラシレスDCモータ5の全負荷領域にわたり高調波電流Ihが制限値Ihsを下回る値に設定されている。
以下、三相交流電源として200Vの商用三相電源を用いた場合を例にとって説明する。ここでは、第1電圧値Vc1として、高調波電流Ihが小さく、かつ昇圧電圧の低い無負荷時の全波整流での電圧値近傍の280V(Vp*√2*99%)が設定されている。上述のとおり、PWMコンバータ10の無負荷時の全波整流での出力電圧Vcの値近傍である第1電圧値Vc1まで昇圧すれば、ブラシレスDCモータ5の全負荷領域にわたり高調波電流Ihが制限値Ihsを下回るため、以後は、ブラシレスDCモータ5の回転数Nを上昇させるためのインバータ40の弱め界磁制御を必要とする場合を除き、PWMコンバータ10の昇圧電圧を変更する必要はない。
PWMコンバータ10から受電設備2(および商用三相交流電源1)側へ流出する高調波電流Ihは、図3に示すように、PWMコンバータ10をスイッチング停止させた、すなわち、全波整流状態では、ブラシレスDCモータ5の負荷Lに応じて変化する。負荷LがL0未満の低負荷(低速度)運転領域では、全波整流だけでも高調波電流Ihが制限値Ihsに達しない。よって、負荷LがL0未満の低速度運転領域では、高調波電流Ihが制限値Ihsを超えない限りPWMコンバータ10をスイッチング停止により全波整流させるほうがPWMコンバータ10の電力損失が少なくなる。つまり、モータ駆動装置3の電力変換効率が向上する。
なお、負荷がL0を超えた後、さらに負荷が増加していくと、高調波電流Ihは一旦上昇後に徐々に低下してくる傾向にある。これは、モータ側での消費電力が増加し、電流の基本波が増加していくためと考えられる。
続いて、ブラシレスDCモータ5の回転数Nと弱め界磁制御の進み角θとの関係を図4に示す。なお、回転数Nと負荷Lは、一般に、ほぼ比例関係にあるが、モータの状態によって完全な比例関係とならない場合もある。モータ5の回転数Nの増加に対処するべくインバータ40の出力電圧を高めるためのオン,オフデューティの増大が頭打ちになると、モータ回転数指令値Nsに到達させるためにインバータ制御部73がモータ回転数を高めるための弱め界磁制御を実行する必要がある。ただし、弱め界磁制御の制御量である進み角θが過大な上限値θs以上になると、インバータ制御部73のセンサレス・ベクトル制御が不安定となり、そのときの負荷Lに見合う電力を出力できなくなってブラシレスDCモータ5が失速(脱調)する可能性が生じる。
この対策として、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2であるVp×√2×105%及びそれ以上に上昇させることにより、同じ進み角θであっても、ブラシレスDCモータ5を失速させることなくブラシレスDCモータ5の回転数を上昇させることができる。図4中、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2(=Vp×√2×105%)に上昇させた場合のブラシレスDCモータ5回転数Nに対する進み角の変化を一点鎖線で示す。出力電圧Vcが第1電圧値Vc1の状態では回転数N1から進み角θが増加し、回転数N2において、進み角の上限値θsに達するが、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2に増加させると、右方向にシフトし、回転数N3(>N1)おいて進み角θが入り始め、回転数N4(>N3)において、進み角の上限値θsに達する。
以上のとおり、昇圧電圧を高めることで、ブラシレスDCモータ5の回転数範囲を拡大することが可能となり、ひいては、ブラシレスDCモータ5が搭載されるヒートポンプ式熱源機の最大能力を上げることができ、ヒートポンプ式熱源機の能力範囲の拡大に寄与することができる。
進み角θが入り始める、すなわち弱め界磁制御が入り始める回転数N1,N3は、PWMコンバータ10の出力電圧VcとブラシレスDCモータ5の逆起電圧e(誘起電圧)で決まる。逆起電圧eは、モータ巻線直径、巻数及びブラシレスDCモータの磁石の磁束に基づき計算されるモータ定数である誘起電圧係数Keにその時のブラシレスDCモータ5の回転数Nを掛ける(e=Ke*N)ことで算出可能である。少なくとも、PWMコンバータ10の出力電圧Vcがこの逆起電圧eよりも高くなければモータ巻線に電流は流せない。このことから、モータ定数を事前に測定または計算しておけば、出力電圧Vcに対応した進み角θの入り始めの回転数N1やN3は、ブラシレスDCモータ5の仕様に基づき予め決定できる。後述するように本実施形態においては、PWMコンバータ10を制御するために回転数N1及びN4がコンバータ制御部72内の上限回転数記憶部89に予め記憶されている。
ここで、本実施形態においては、ブラシレスDCモータ5に対して高い回転数が要求された場合、すなわち運転制御指令中のモータ回転数指令値Nsが高い場合、まず、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第1電圧値Vc1では、進み角θを入れない状態でブラシレスDCモータ5の回転数がそれ以上、上げられなくなったところ、すなわち、モータ回転数がN1で、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2に増加させる。それでもブラシレスDCモータ5の回転数Nが、モータ回転数指令値Nsに到達できない場合、すなわち、モータ回転数指令値Nsが回転数N3を超える場合、進み角θを増加させる。
さらに、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第2電圧値Vc2の状態で、進み角が上限値θsに達してもブラシレスDCモータ5の回転数Nがモータ回転数指令値Nsに到達できない場合には、進み角が上限値θsを保った状態でPWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2からさらに上昇させてブラシレスDCモータ5の回転数Nをモータ回転数指令値Nsに到達させるようになっている。
なお、三相交流電源1として商用400V三相交流電源を用いた場合には、電源電圧検出部78により受電設備2を介して入力されるPWMコンバータ10への入力電圧Vpが400Vであることが検出され、この場合には、第1電圧値Vc1は、無負荷時の全波整流での電圧値Vpの√2倍である566Vの近傍の値、例えば565Vに設定され。第2電圧値Vc2は、Vpの√2倍の1.05倍以上の値、例えば600Vに設定される。
さらに三相交流電源1として、商用三相交流電源ではなく、自家発電設備を用いた場合でも、電源電圧検出部78により入力電圧Vp(実効値)が検出され、第1電圧値Vc1には、Vp*√2倍近傍となるVp*√2*(95%〜101%)の範囲にある値、第2電圧値Vc2には、Vp*√2の105%以上の値が設定される。
国内においては三相交流電源1の出力電圧が変動することはほとんどない。また機器が運転を始めると、その運転によってノイズ等が発生することから、電源電圧検出部78による入力電圧Vpの検出は、モータ駆動装置3の運転開始前、すなわち、PWMコンバータ10及びインバータ40が停止している状態で行うことが精度の点から望ましい。
なお、三相交流電源1が、電源の整備が不十分な地域や容量の小さい自家発電装置等の場合には、同じ電源に接続されている他の負荷の影響で交流電圧に電圧降下等の変動が生じる場合もある。このような電圧変動が発生する可能性がある場合には、常に電源電圧検出部78により入力電圧Vpを検出して、この値を基に第1電圧値Vc1と第2電圧値Vc2を設定するようにすれば、電圧変更が生じても高調波電流が増加することはない。
コンバータ制御部72は、PWMコンバータ10の制御を行う、例えばマイクロコントローラ(MCU)からなり、高調波電流Ihの抑制に関わる主要な機能として、第1比較部(第1比較手段)72a、第2比較部(第2比較手段)72b、第3比較部(第3比較手段)72c、第4比較部(第4比較手段)72d、第5比較部(第5比較手段)72eを含む。これらの機能は、マイクロコントローラのプログラムもしくは論理回路によって達成される。なお、上述の高調波電流検出部75は高調波電流の検出にフーリエ級数展開の高度な演算が必要となるため、論理回路で構成するよりも同じマイクロコントローラによるプログラム処理を用いるほうが簡単となる。また、後述するようにPWMコンバータ10のコンバータ制御部72とインバータ40のインバータ制御部73は、動作中にモータ回転数N等の種々のデータをやり取りする必要がある。このため、各々の制御部72、73のハード構成を別々にするよりも、各々の制御部の機能をプログラムした1つのマイクロコントローラ(MCU)で構成することが望ましい。
コンバータ制御部72は、コントローラ70に入力される運転制御信号に応じたモータ駆動装置3の運転開始には、PWMコンバータ10のスイッチングを行わない、すなわち全波整流となる。なお、運転制御信号はモータ駆動装置3に対してブラシレスDCモータ5を駆動するための外部からの指令であり、モータ5の運転・停止及び運転中の回転数指示からなる。
以下、モータ駆動装置3の動作を、PWMコンバータ10の制御を主体に説明する。
モータ駆動装置3の停止中は、PWMコンバータ10のスイッチングは停止したままで、全波整流の状態にある。この状態において電源電圧検出部78により入力電圧Vp(実効値)が検出される。続いて、外部からの運転制御指令による運転開始(ON)後、第1比較部72aは、高調波電流検出部75の検出する高調波電流値Ihと制限値設定部76内の制限値Ihsとを比較する。第1比較部72aの比較結果が“Ih≦Ihs”の場合には、PWMコンバータ10のスイッチングの停止を継続する。PWMコンバータ10のスイッチング動作を停止させて、昇圧しない全波整流での運転を行うことでPWMコンバータ10のスイッチングによるロスを低減できる。
回転数の上昇などによってある程度、モータ負荷が大きくなり、電流が上昇してくると、高調波電流Ihが増加しはじめる。 そして、第1比較部72aの比較結果が“Ih>Ihs”となった場合、続いて、第2比較部72bが、モータ回転数指令値Nsが予め上限回転数記憶部89に記憶されている回転数N1を超えているか否かを判定して、インバータ制御部73による弱め界磁制御の実施が必要な領域にあるか否か(進み角θ>0)を判定する。
図5においては、図4に合わせた進み角θと回転数Nを示している。コンバータ制御部72は、第2比較部72bの比較結果が“N1≦Ns”の場合に昇圧値設定部77内の第1電圧値Vc1を昇圧の目標値としてPWMコンバータ10をスイッチング動作させ、第2比較部72bの比較結果が“Ns>N1”となった時に昇圧値設定部77内の第2電圧値Vc2を昇圧の目標値としてPWMコンバータ10をスイッチング動作させる。現実的には、進み角θを入れる前にブラシレスDCモータ5の電流が増加し、高調波電流値Ihが制限値Ihsを超えるため、PWMコンバータ10がスイッチング動作していない状態から第2電圧値Vc2を昇圧の目標値としてPWMコンバータ10をスイッチング動作開始することはない。
ここで、PWMコンバータ10が昇圧動作停止(全波整流)から第1電圧値Vc1を目標に昇圧を始めた後、負荷が低下してきた場合には、全波整流のみによって高調波電流が制限値以下で運転可能であれば、できるだけPWMコンバータ10の昇圧動作を停止させることが効率面から望ましい。しかしながら、一旦、PWMコンバータ10の昇圧動作を開始すると高調波電流が大幅に低下するため、実測した高調波電流値を制限値と比較して昇圧のON/OFFを行うと頻繁にON/OFFを繰り返してしまい、ロスが多く、安定した運転ができなくなる。
これを防止するために制限値にヒステリシスを設けたとしてもPWMコンバータ10の昇圧動作によって高調波電流が大幅に低下するため、極めて大きいヒステリシス(ディファレンシャル)を設けなければならず、結局、PWMコンバータ10の昇圧動作を停止できる範囲が狭くなり、効率的でない。
そこで、PWMコンバータ10の昇圧動作を停止する条件として、高調波電流以外のモータ駆動装置の動作に関連する物理的パラメータを用いる。高調波電流以外の物理的パラメータとしては、モータの負荷に関連するパラメータが好ましい。たとえば、三相交流電源1に流れる電流、ブラシレスDCモータ5の回転数、モータ電流、モータ駆動装置3の直流部分の電流、モータ駆動装置3の消費電力、ブラシレスDCモータ5の消費電力等がある。また、ブラシレスDCモータ5の回転数指令値Nsは、モータの回転数Nと概ね一致するため、間接的にモータの負荷に関連するパラメータとなることから、このブラシレスDCモータ5の回転数指令値NsをPWMコンバータ10の昇圧動作を停止する条件に用いても良い。
この実施形態においては、パラメータとして三相交流電源1の電流を用いた方法を説明する。ここで、三相交流電源1の電流値(実効値)を用いる場合には、単純に電流値を用いるには、若干の配慮が必要になる。PWMコンバータ10が停止中(全波整流)から昇圧動作に移行すると、スイッチングによって力率が大きく改善される。これに伴って、三相交流電源1の電流値が小さくなる。したがって、PWMコンバータ10が停止中の電流値とPWMコンバータ10が昇圧動作中の電流を比較してPWMコンバータ10を昇圧動作から停止に切り替えようとすると、力率変化による電流値変化を予め見越して設定値を決める必要があり、面倒である。さらには、負荷の状態によって力率も変化することから設定値の決定が難しい。
そこで、PWMコンバータ10を昇圧動作から停止に切り替える際の三相交流電源1の電流値の基準値をPWMコンバータ10が昇圧動作を開始した後の値を用いる。これにより負荷が変化しても適切な切り替えができ、PWMコンバータ10が昇圧と停止を繰り返すことを無くすことができる。
まず、第1比較部72aの比較結果が、それまで“Ih≦Ihs”であったものが、 “Ih>Ihs”に変化した場合に、コンバータ制御部72は、上述のPWMコンバータ10の第1電圧値Vc1への昇圧運転を開始する(図5中L0点)。このPWMコンバータ10の昇圧運転を開始した後、電源電流値記憶部79に対して電源電流値を記憶する指令を出す。この指令に基づき電源電流値記憶部79は、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第1電圧値Vc1に安定した直後の電源電流値Ip1を記憶し、保持する。
コンバータ制御部72は、PWMコンバータ10が第1電圧値Vc1に昇圧中は、その内部の第3比較部72cにおいて、常に実際の三相交流電源1の電流値Iと電源電流値記憶部79に記憶した電流記憶値Ip1から予め定められた小さなヒステリシス分の値(ディファレンシャル)Δを差し引いた値(Ip1−Δ)とを比較している。なお、電流値の検出は、コンバータ制御部72の内部に設けられた入力電流検出部(図示しない)で実行される。そして、実際の三相交流電源1の電流値Iが、電流記憶値Ip1−Δ以下となった時にコンバータ制御部72は、PWMコンバータ10の動作を停止させ、全波整流に切り替える。
上述の通り、高調波電流は負荷に応じて変動する。このため、高調波電流が制限値を超えた時の負荷よりも低い負荷であれば、高調波電流値は制限値を超えない。したがって、高調波電流値が制限値を超えた時の負荷に対応する電流記憶値Ip1からわずかに低い値(Ip1−Δ)を基準にPWMコンバータ10の動作を停止させても、負荷が変動しない限り高調波電流が制限値を超える状態にはならず、全波整流のみで安定して運転を継続でき、効率の向上が図れる。
また、コンバータ制御部72は、PWMコンバータ10が第1電圧値Vc1に昇圧中は、第2比較部72bが、常にモータ回転数指令値Nsが上限回転数記憶部89に予め記憶されている回転数N1を超えているか否かを判定して、インバータ制御部73による弱め界磁制御の実施が必要な領域にあるか否かを判別する。具体的には、モータ回転数指令値Ns>回転数N1となった場合、ブラシレスDCモータ5の回転数を上げるためには弱め界磁が必要(進み角θ>0)となるため、弱め界磁制御が入る前の、この時点でPWMコンバータ10の出力電圧Vcが第2電圧値Vc2となるようにコンバータ制御部72は、PWMコンバータ10を制御する。
この結果、インバータ制御部73は、弱め界磁制御を入れることなく、回転数N3までブラシレスDCモータ5の回転数を上昇させることができる。この後、モータ回転数指令値Nsが上昇し、回転数N3より大きくなった場合、インバータ制御部73は、弱め界磁制御を入れる。
第4比較部72dは、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第2電圧値Vc2以上の状態で動作し、モータ回転数指令値Nsと上限回転数記憶部89に記憶された回転数N4を比較している。モータ回転数指令値Nsが回転数N4よりも大きくなった場合、コンバータ制御部72は、ブラシレスDCモータ5の回転数Nがモータ回転数指令値Nsに到達するまでPWMコンバータ10の出力電圧Vcを上昇させる。一方、モータ回転数指令値Nsが低下してくるとそれに合わせてコンバータ制御部72は、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを低下させる。
続いて、モータ回転数指令値Nsが低下し、モータ回転数指令値Nsが回転数N4より小さくなったことを第4比較部72dが検出すると、コンバータ制御部72は、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2に固定制御する。この結果、モータ回転数指令値Nsが回転数N3とN4の間ではPWMコンバータ10の出力電圧Vcが第2電圧値Vc2に固定され、インバータ制御部73が、弱め界磁制御による進み角θをモータ回転数指令値Nsに見合う値に変更する。
第5比較部72eは、コンバータ制御部72が第2電圧値Vc2を昇圧の目標値としてPWMコンバータ10をスイッチング動作させている間に、モータ回転数指令値Nsについて“N1−Δn≦Ns”の判定を実施する。ここで、Δnは、予め定められた小さなヒステリシス分の値(ディファレンシャル)であり、1〜3rps程度の範囲で設定されている。第5比較部72eが、“N1−Δn≦Ns”となったこと、すなわち、弱め界磁制御を加える必要がない回転数になったことを判定すれば、コンバータ制御部72は昇圧の目標値を第2電圧値Vc2から第1電圧値Vc1に変更し、PWMコンバータ10の出力電圧を第1電圧値Vc1に低下させる。
以上のとおり、第5比較部72eにてPWMコンバータ10の出力電圧Vcが第2電圧値Vc2の状態における弱め界磁制御の要否をモータ回転数指令値Nsにて判別し、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2から第1電圧値Vc1へと切り換えるため、出力電圧Vcが第2電圧値Vc2から第1電圧値Vc1に低下したところですぐに弱め界磁制御が必要になったり、第1電圧値Vc1に低下させた出力電圧Vcを短時間で再び第2電圧値Vc2に増加させたりすることがなくなる。このため、出力電圧Vcの安定した制御が可能で、不必要に高い電圧で運転を継続することがなく、効率が向上する。
ここで、第1比較部72a〜第5比較部72eの検出内容とそれに基づくコンバータ制御部72の動作をまとめて説明する。
第1比較部72aは、PWMコンバータ10が停止して全波整流の状態にある時に、高調波電流検出部75の検出する高調波電流値Ihと制限値設定部76内の制限値Ihsとを比較する。コンバータ制御部72は、第1比較部72aの比較結果が“Ih≦Ihs”の場合には、PWMコンバータ10のスイッチングの停止を継続し、“Ih>Ihs”となった場合、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第1電圧値Vc1となるように昇圧運転する。
第2比較部72bは、インバータ40が弱め界磁制御を必要とする状態にあるか否かを判断するもので、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第1電圧値Vc1で昇圧運転中に、モータ回転数指令値Nsを上限回転数記憶部89に記憶されている回転数N1と比較する。コンバータ制御部72は、第2比較部72bの比較結果が“N1≦Ns”の場合には、インバータ40が弱め界磁制御を必要としない状態にあると判断し、そのまま第1電圧値Vc1を昇圧の目標値としてPWMコンバータ10をスイッチング動作させる。 一方、第2比較部72bの比較結果が“Ns>N1”となった時は、インバータ40が弱め界磁制御を必要とする状態にあると判断し、第2電圧値Vc2を昇圧の目標値としてPWMコンバータ10をスイッチング動作させる。
第3比較部72cは、PWMコンバータ10が第1電圧値Vc1に昇圧中に、実際の三相交流電源1の電流値Iと(Ip1−Δ)とを比較している。コンバータ制御部72は、検出した電流値Iが、(Ip1−Δ)以下となった時に、PWMコンバータ10の動作を停止し、全波整流に切り替える。
第4比較部72dは、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第2電圧値Vc2以上の状態下で、モータ回転数指令値Nsと上限回転数記憶部89に記憶された回転数N4とを比較している。コンバータ制御部72は、第4比較部72dが、モータ回転数指令値Nsが回転数N4より小さくなったことを検出し、この検出に基づきPWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2に制御する。
さらに、第5比較部72eは、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第2電圧値Vc2の状態にある時に、モータ回転数指令値Nsと予め定められた回転数N1からヒステリシス分の値ΔNを差し引いた回転数N1−ΔNとを比較する。コンバータ制御部72は、モータ回転数指令値Nsが回転数N1−ΔNより小さくなった場合、モータの回転数が弱め界磁制御を加える必要がない回転数になったと判断し、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2から第1電圧値Vc1に低下させる。
なお、コンバータ制御部72は、第4比較部72dが、モータ回転数指令値Nsが回転数N4より小さくなったことを検出してPWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2に制御した後、第5比較部72eが、モータ回転数指令値Nsが回転数N1−Δより小さくなったことを検出するまではPWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2に固定制御する。
上述のコンバータ制御部72による、実際のモータ駆動装置3の運転制御動作例を図5に基づき説明する。インバータ40の運転開始時は、PWMコンバータ10の停止状態を維持し、全波整流のみで運転を開始する(図5中の原点)。その後、インバータ40の出力周波数、すなわちモータの回転数、が上昇するに伴って負荷が増加し、電流が増加する。また、図5中、負荷Lの0〜L0の小負荷(低回転数)区間)では、インバータ40の出力電流が大きくなるにつれて、平滑コンデンサ30からインバータ40側に流れる電流が増加し、直流電圧Vcは低下していく。
コンバータ制御部72は、PWMコンバータ10から流出する高調波電流Ihが制限値Ihsに達しないうちは(低速度運転域;L<L0)、PWMコンバータ10のスイッチングの停止を継続し、PWMコンバータ10は、入力電圧を全波整流する。その後、ブラシレスDCモータ5の回転数Nの増加等により負荷Lが増加し、ある程度電流が大きくなると、高調波電流Ihが増加してくる。コンバータ制御部72は、高調波電流Ihが制限値Ihsに達した場合(中速度運転域;L≧L0)、第1電圧値Vc1を昇圧の目標値として、PWMコンバータ10のスイッチング動作を開始する。
このPWMコンバータ10による第1電圧値Vc1への昇圧の結果、中速度領域(N<N1)において、高調波電流Ihを制限値Ihs以下に維持することができる。一方、PWMコンバータ10が第1電圧値Vc1を昇圧の目標値としてスイッチング動作を行っている状態で、三相交流電源1の電流値Iが、(Ip1−Δ)以下となった時(図5中A点 )にコンバータ制御部72は、PWMコンバータ10の動作を停止させ、全波整流に切り替える。この動作により高調波電流を制限値内に抑えつつ効率の良い運転が可能となる。
さらに、回転数NがN1以上となる高速度運転域(N>N1)になると、ブラシレスDCモータ5の回転数Nを上昇させるために、コンバータ制御部72は、PWMコンバータ10の出力電圧Vcの目標値を、第1電圧値Vc1からより高い第2電圧値Vc2に変更して、PWMコンバータ10をスイッチング動作させる。
ここでは、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第1電圧値Vc1から第2電圧値Vc2へと上昇させることにより、図2に示される第1電圧値Vc1と第2電圧値Vc2の間に存在する高調波電流が多く発生するピーク部分(290V近傍)を飛ばし、高調波電流Ihが増加する出力電圧の領域を使用しないようにしている。
なお、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第1電圧値Vc1から第2電圧値Vc2へと上昇させる際には、PWMコンバータ10の制御上、徐々に出力電圧Vcを上昇させることになる。このため、第1電圧値Vc1と第2電圧値Vc2との間に存在する高調波電流Ihの発生ピークを通過することになるが、早い変化速度で出力電圧Vcを上昇させることで、大きな高調波電流Ihの発生は短時間に限定することができ、その影響を排除できる。
このように、第2電圧値Vc2となるようにPWMコンバータ10をスイッチング動作させることで、PWMコンバータ10のスイッチングによる電力損失をできるだけ抑えながら、ブラシレスDCモータ5を失速させることなくブラシレスDCモータ5の回転数を上昇させることができる。
さらにモータ回転数Nを回転数N3以上に増加させる場合は、インバータ制御部73が、進み角θを増加させていく(図5中、回転数NがN3〜N4の区間)。
その後、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2まで上昇させ、かつ、インバータ制御部73が進み角θを上限値θsまで進ませても、ブラシレスDCモータ5の回転数Nを上昇させることが出来なくなる(モータ回転数指令値Ns>N4)と、PWMコンバータ10は、出力電圧Vcを第2電圧値Vc2からさらに高い出力電圧となるように動作する。この結果、ブラシレスDCモータ5は所望する高回転数に至ることができる。このようにモータ回転数NがN4以上の領域においては、進み角θは上限値θsを維持した状態でモータ5がモータ指令回転数NsとなるようにPWMコンバータ10の出力電圧Vcが制御される。
一方、PWMコンバータ10が第2電圧値Vc2以上の出力電圧で運転中にモータ指令回転数NsがN4以下に低下するとPWMコンバータ10の出力電圧Vcが第2電圧値Vc2になり、モータ指令回転数Nsがさらに回転数N1−ΔN以下に低下するまでPWMコンバータ10は出力電圧Vcを第2電圧値Vc2に固定維持する。
PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第2電圧値Vc2にある状態から、モータ指令回転数NsがN1−ΔNに低下すると、コンバータ制御部72は、PWMコンバータ10の出力目標電圧を第1電圧値Vc1に低下させる。この結果、安定した出力電圧の制御が可能となり、かつ不必要な昇圧を防止して、高調波電流を制限値内に抑えつつ効率の良い運転が可能となる。
以上の制御により、PWMコンバータ10の採用に伴う電力変換効率の低下をできるだけ抑えながら、高調波電流Ihの発生量を低減でき、高価な高調波抑制装置を搭載する必要がなく、コストの上昇を抑えることができる。また、モータの回転数を上げるための昇圧を行うことで、効率よくブラシレスDCモータ5の回転数を上昇させることができる。さらに不必要な高い電圧への昇圧を行うことなく、必要十分な昇圧電圧で運転することができ、機器の効率が向上する。
なお、コンバータ制御部72は、第5比較部72eにおいて、モータ回転数指令値Nsが回転数N1−ΔNより小さくなった場合、モータの回転数が弱め界磁制御を加える必要がない回転数になったと判断し、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2から第1電圧値Vc1に低下させるようにした。通常、モータの回転数Nは、モータ回転数指令値Nsと一致するが、過渡的な状況下では、インバータ40の制御遅れにより回転数Nとモータ回転数指令値Nsにずれが生じる場合がある。 そこで、このようなずれによる制御の不安定を招かないために、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2から第1電圧値Vc1に低下させるための条件として、モータ回転数指令値Ns及び実際のブラシレスDCモータ5の回転数Nの両方が回転数N1−ΔNより小さくなったことを第5比較部72eの判断条件としても良い。この場合、モータの回転数Nが弱め界磁制御を加える必要がない回転数として、モータ回転数指令値Ns及び実際のブラシレスDCモータ5の回転数Nの両方が回転数N1−ΔNより小さい、という条件を用いたものである。
上述の実施形態においては、インバータ40において弱め界磁制御の要否を、モータ目標回転数Nsと上限回転数記憶部89に予め記憶したモータの回転数N1に基づきPWMコンバータ10の出力電圧Vcの第1電圧値Vc1から第2電圧値Vc2及び第2電圧値Vc2から第1電圧値Vc1への切り替えを行った。この切り替え基準となる回転数N1を決定する元となった逆起電圧eは、モータ巻線直径、巻数及びモータの磁石の磁束に基づき計算されるモータ定数である誘起電圧係数Keを用いている。この誘起電圧係数Keを決定するためのモータの磁石の磁束等は、その磁石の温度によってわずかであるが変化する。そこで、弱め界磁制御の要否をブラシレスDCモータ5の状況に合わせてより正確に検出して、判断するための他の実施形態を図6を参照して説明する。
図6では、図1からの変更部分のみ抜粋して表している。この態様では、第2比較部72bと第5比較部72eの入力および比較対象が上述の実施形態から変更されている。また、上限回転数記憶部89へのモータの回転数N1の記憶は不要となり、代わりにコンバータ制御部72に指示に基づく特定のタイミングでその時点のモータ回転数Nを記憶するモータ回転数記憶部(モータ回転数記憶手段)90が追加される。これ以外の構成は、上述の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
コンバータ制御部72には、インバータ制御部73から常時、モータ回転数N及びインバータ40のスイッチングにおけるデューティDが入力されている。第2比較部72bには、モータ回転数指令値Ns、モータ回転数N及びデューティDが入力され、これらのデータに基づきインバータ40の弱め界磁制御の要否が判別される。PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第1電圧値Vc1で昇圧運転中において、第2比較部72bは、デューティDが最大(フルデューティ)となり、かつ、モータ回転数指令値Nsが現在のモータ回転数Nよりも高いこと(Ns>N)を検出すると、コンバータ制御部72は、第1電圧値Vc1下では、弱め界磁制御を入れる必要があると判断し、第2電圧値Vc2を昇圧の目標値としてPWMコンバータ10をスイッチング動作させる。この結果、弱め界磁を入れることなく、モータの回転数Nを上昇させることができる。
同時に、コンバータ制御部72は、第2比較部72bが、デューティDが最大となり、かつ、Ns>Nを検出した時に、モータ回転数記憶部90に対して、その時点のモータ回転数Nを比較値Ncとして記憶させる。
一方、第5比較部72eには、このモータ回転数記憶部90の比較値Ncとモータ回転数Nが入力される。PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第2電圧値Vc2の状態にある時に、モータ回転数Nと、比較値Ncからヒステリシス分の値ΔNを差し引いた回転数Nc−ΔNとを比較する。この第5比較部72eの比較結果に基づき、コンバータ制御部72は、モータ回転数Nが回転数Nc−ΔNより小さくなった場合(N<Nc−ΔN)、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2から第1電圧値Vc1に低下させる。
この実施形態においては、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第1電圧値Vc1の運転中に、第2比較部72bが、デューティDが最大となり、かつ、モータ回転数指令値Nsが現在のモータ回転数Nよりも高いことを検出することで、弱め界磁制御が入る状態を判別している。 その上で、この時点の回転数Nを比較値Ncとして記憶させる。すなわち、実運転の環境下で、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第1電圧値Vc1の運転中に、弱め界磁制御を入れなければならなくなる回転数を比較値Ncとして記憶する。そして、第5比較部72eでは、この比較値Ncと実際の運転中の回転数Nを比較しているため、より確実に実運転状態における弱め界磁制御の要否(入り・切り)の時期が判断できることになる。
このため、この第5比較部72eの比較結果に基づき、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第2電圧値Vc2から第1電圧値Vc1に低下させた直後に弱め界磁制御が必要となり、再びPWMコンバータ10の出力電圧Vcを第1電圧値Vc1から第2電圧値Vc2に上昇させなければならなくなるような事態を引き起こすことがなく、低い昇圧電圧とすることで効率の良い安定した運転が可能となる。
なお、いずれの実施形態でも、高調波電流Ihに対する制限値Ihsを受電設備2に設定される規制値の範囲内の値として定める構成としたが、受電設備2に設定される規制値とは関係なく独自に設定してもよい。
以上に説明した実施形態では、第2比較部72bで弱め界磁制御を必要とする状態を検出(モータ回転数N1の状態)して、PWMコンバータ10の出力電圧Vcを第1電圧値Vc1から第2電圧値Vc2に昇圧して、弱め界磁制御の動作を遅らせたが、これに限られるものではない。たとえば、第2比較部72bの比較条件を変更することで、PWMコンバータ10の出力電圧Vcが第1電圧値Vc1の状態を維持して弱め界磁制御を動作させてモータの回転数を上昇させ、その後、弱め界磁制御による進み角θが上限値θsに達したところを検出(モータ回転数N2の状態)した時点でPWMコンバータ10の出力電圧Vcを第1電圧値Vc1から第2電圧値Vc2に昇圧してモータ回転数指令値Nsに到達させるようにしても良い。
その他、上記複数の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、部分的な構成要素の置き換え、組み合わせ、構成要素の変更を行うことができる。これらの実施形態や変形は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。