JP2016148069A - 被覆鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】長期にわたって陰極剥離の発生を抑制でき、カソード防食が適用される重防食鋼材としても好適に使用できる被覆鋼材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼材と、前記鋼材の表面にアルキルシラノールが共有結合することによって形成された化成処理層とを備え、前記アルキルシラノールが、Si原子に直接結合した水酸基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルキルシラノール(ただし、nは1、2、または3)である被覆鋼材。
【選択図】 図2
【解決手段】鋼材と、前記鋼材の表面にアルキルシラノールが共有結合することによって形成された化成処理層とを備え、前記アルキルシラノールが、Si原子に直接結合した水酸基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルキルシラノール(ただし、nは1、2、または3)である被覆鋼材。
【選択図】 図2
Description
本発明は、地中、河川、海洋、および海浜地域などの極めて厳しい腐食環境下で用いられる被覆鋼材に関するものである。特に、カソード防食が適用される鋼管、鋼管杭、鋼矢板、鋼管矢板などに用いられる重防食鋼材として好適に使用できる被覆鋼材に関するものである。
鋼管、鋼管杭、鋼管矢板、および鋼矢板などの鋼構造部材は、主に地中、河川、海洋といった環境で用いられるため、極めて厳しい腐食環境にさらされる。そこで、そのような鋼構造部材としては、50年程度に渡る長期の耐食性を付与することを目的として、鋼材にポリオレフィン樹脂やウレタンエラストマーを被覆した、いわゆる重防食鋼材が用いられてきた。重防食鋼材では、長期に渡る耐食性を保証するために、各種の機能を有する複数の被覆層が鋼材の表面に積層されている。
例えば、ウレタンエラストマーを被覆した重防食鋼材の場合には、素地鋼材側から順に、素地鋼材に直接施される非常に薄い化成処理層、厚さ10〜100μmの接着剤層、および厚さ1〜5mm程度の防食層(ウレタンエラストマー層)が積層されている。また、ポリオレフィン樹脂を被覆した重防食鋼材の場合には、素地鋼材側から順に、素地鋼材に直接施される非常に薄い化成処理層、厚さ10〜100μmのエポキシ系接着剤層、厚さ100〜500μmのポリオレフィン系接着剤層、および厚さ1〜5mm程度の防食層(ポリオレフィン樹脂層)が積層されている。
これらの重防食鋼材においては、ポリオレフィン樹脂やウレタンエラストマーからなる最上層は腐食因子の遮断と耐衝撃性の付与に、接着剤層は鋼材と防食層との密着性の確保に、そして、化成処理層は接着剤層と鋼材との耐水二次密着性の確保に、それぞれ主に寄与している。
しかしながら、これらの重防食鋼材が広く普及するにともなって、重防食鋼材が、港湾施設における代表的な期待耐用年数である50年に対し、実際には20年程度と短い寿命しか有しないことが明らかになってきた。
例えば、防食層に耐候剤としてカーボンブラック等を添加した場合、防食層の光化学的安定性が向上し、防食層の材料自体は、50年程度の寿命を有することが分かっている。にもかかわらず、実際の使用環境においては、鋼材と防食層との間に侵入した水や酸素などの腐食因子によって接着剤層の剥離が進行し、20年程度で防食層による防食効果が失われる。特に、重防食鋼材にカソード防食法を適用した場合には、以下に述べるように防食層の剥離が顕著となる。
カソード防食法とは、電気防食法の一種であり、微弱な電流を流すことによって防食対象である金属製部材の電位を腐食が生じる電位よりも卑な電位に下げ、腐食を抑制する方法である。カソード防食法における通電は、外部電源を使用して強制的に電流を流す方法(外部電源法)と、防食対象金属よりも卑な(腐食しやすい)金属からなる犠牲陽極を用いる方法(流電陽極法)の、いずれかによって行われる。このカソード防食法は、海浜環境で使用される構造物、船舶、地中埋設配管など、腐食環境にさらされる金属の防食に広く使用されている。
重防食鋼材の場合、防食層によってすでに鋼材が腐食から保護されているが、防食層に鋼材の表面にまで達する傷が生じた場合、その傷を起点として腐食が発生してしまう。そこで、重防食鋼材にも、防食層による保護に加え、カソード防食を適用することが一般的に行われている。これにより、例えば、施工の際などに防食層に傷が生じた場合でも、長期にわたって鋼材の腐食を防止することができる。また、海中で使用される鋼管杭や鋼矢板においては、コストを削減するために、朔望平均干潮面の1m下から海上大気部にかけてのみ重防食被覆を行い、海中部はカソード防食によって保護することも行われている。
このように、重防食鋼材に対するカソード防食の適用は産業上有用な手法であるが、その一方で、カソード防食を行うことによって防食層の剥離が加速されてしまうという問題があることも知られている。カソード防食による防食層の剥離は、「陰極剥離」として知られている現象であり、防食層を透過した酸素が鋼材表面で還元されてアルカリ(OH−)が生じる結果、鋼材と防食層との界面がアルカリ性となることによって引き起こされる。
このような陰極剥離が生じると、素地鋼材が露出してしまうため、防食層による保護効果が得られなくなる。また、海面付近で使用される重防食鋼材の場合には、剥離した防食層が潮の干満によって繰り返し応力を受け、防食層のさらなる剥離が生じてしまう。さらに、カソード防食が流電陽極法で実施されている場合には、陰極剥離による鋼材露出面積の増加によって犠牲陽極の消耗が早められてしまうという問題もある。
また、上記陰極剥離は、カソード防食適用時に特に顕著に見られる現象であるが、カソード防食が施されていない重防食鋼材でも起こりえる。すなわち、カソード防食されていない重防食鋼材において、防食層が傷つくなどして素地鋼材の表面の一部が海水などの腐食環境にさらされた場合、露出した鋼材の表面では鉄が溶出するアノード反応が起る。同時に、当該露出部に近接した防食層下の素地鋼材表面では、防食層を透過してきた酸素が還元されるカソード反応が生じる。その結果、防食層下の素地鋼材表面でアルカリの蓄積が起こり、カソード防食併用時よりは進展速度が遅いものの、同様の陰極剥離現象が発生する。
このようにカソード防食を適用していない鋼材で陰極剥離が発生した場合、露出した鋼材の表面はまったく防食されていない状態となり、速やかに腐食が進行するので、やはり陰極剥離は好ましくない。
そこで、重防食鋼材の陰極剥離を抑制することを目的として、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、鋼材の表面に、Fe、P、およびVを含む酸化物層、シランカップリング剤層、および樹脂層(防食層)を順次形成した、耐陰極剥離性に優れる樹脂被覆鋼材が記載されている。前記樹脂被覆鋼材における酸化物層は、鋼材表面を擬似不働態化することにより鋼材表面における電気化学反応を抑制する機能を有している。また、シランカップリング剤層は、接着性に乏しい酸化物層と樹脂層の接着を補助する助剤としての機能を有している。
また、特許文献2には、ビスフェノールF型固形エポキシ樹脂、末端ビスフェノールF型フェノール系硬化剤、イミダゾール系硬化促進剤、および特定の無機顔料を、所定の比率で含む粉体塗料組成物を用いて、重防食鋼材の接着剤層を形成する方法が記載されている。前記方法においては、塗料組成物に特定の無機顔料を添加することによって、得られる接着剤層の応力を緩和するとともに酸素や水の透過を抑制し、その結果として樹脂層の耐久性を向上させている。
上記特許文献1、2に記載された方法によれば、陰極剥離の発生をある程度抑制することが可能である。しかしながら、得られる被覆鋼材の耐久性は、重防食鋼材のように極めて厳しい腐食環境下で用いられる部材としては、依然、十分とはいえなかった。
本発明は、上記の実情に鑑み開発されたものであり、長期にわたって陰極剥離の発生を抑制でき、カソード防食が適用される重防食鋼材としても好適に使用できる被覆鋼材、およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、樹脂層を備える被覆鋼材における鋼材と樹脂層の間の接着力の発現機構と陰極剥離との関係を検討した結果、次の(1)〜(4)の知見を得た。
(1)特許文献1、2に記載された技術等においては、鋼材と被覆層の間の接着力が酸・塩基結合に由来している。
(2)酸・塩基結合に基づく接着力は、アルカリの蓄積により失われ、陰極剥離が発生する。
(3)脂肪族炭化水素の一方の末端の炭素原子にシラノール基が結合したアルキルシラノールを鋼材の表面に結合させた後に、樹脂を被覆することにより、疎水性相互作用に基づく接着力を得ることができる。
(4)前記疎水性相互作用に基づく接着力は、酸・塩基結合に基づく接着力と異なりアルカリの影響を受けないため、長期にわたって陰極剥離を防止することができる。
(1)特許文献1、2に記載された技術等においては、鋼材と被覆層の間の接着力が酸・塩基結合に由来している。
(2)酸・塩基結合に基づく接着力は、アルカリの蓄積により失われ、陰極剥離が発生する。
(3)脂肪族炭化水素の一方の末端の炭素原子にシラノール基が結合したアルキルシラノールを鋼材の表面に結合させた後に、樹脂を被覆することにより、疎水性相互作用に基づく接着力を得ることができる。
(4)前記疎水性相互作用に基づく接着力は、酸・塩基結合に基づく接着力と異なりアルカリの影響を受けないため、長期にわたって陰極剥離を防止することができる。
ここで、酸・塩基結合に基づく接着力とは以下のようなものを意味する。
一般的に、プロトンを受容および放出できる官能基を有する物質は固有の等電点を有しており、等電点より酸性側の環境ではプロトンを受容して正に帯電し、等電点よりアルカリ側の環境ではプロトンを放出して負に帯電する。大気に暴露された鋼材の場合、その表面はごく薄い鉄酸化物の層で覆われており、さらにその最表面には鉄原子に結合した水酸基(Fe−OH)が存在する。その結果、鋼の表面はプロトンの受容と放出が可能であり、その等電点はおおよそpH7である。
一般的に、プロトンを受容および放出できる官能基を有する物質は固有の等電点を有しており、等電点より酸性側の環境ではプロトンを受容して正に帯電し、等電点よりアルカリ側の環境ではプロトンを放出して負に帯電する。大気に暴露された鋼材の場合、その表面はごく薄い鉄酸化物の層で覆われており、さらにその最表面には鉄原子に結合した水酸基(Fe−OH)が存在する。その結果、鋼の表面はプロトンの受容と放出が可能であり、その等電点はおおよそpH7である。
特許文献1に記載された被覆鋼材では、鋼材の表面にFe、P、およびVを含む酸化物層が形成されている。前記酸化物層に含まれるVは、バナジン酸塩の状態で存在していると考えられ、その等電点はおおよそpH2である。したがって、鋼材表面のpHが2〜7の領域では、鋼材表面の水酸基と酸化物層中のバナジン酸塩との間で酸・塩基反応が生じ、鋼材表面がプロトンを放出して負に帯電する一方、酸化物層は、バナジン酸塩がプロトンを受容することによって正に帯電する。このようにして生じた正負の電荷の間に働く静電引力により、特許文献1に記載された被覆鋼材における鋼材表面と酸化物層との間の接着力が発現する。これを、酸・塩基結合に基づく接着力という。
しかし、特許文献1の被覆鋼材においても、酸化物層によって鋼材表面が疑似不働態化されているとはいえ、腐食環境にさらされた際に、被覆層下でカソード反応が発生することを完全に防止することはできない。そのため、カソード反応が生じた部位では、発生したアルカリの蓄積によりpHが12程度以上に上昇する。このpHは、鋼材表面と酸化物層の両者の等電点より塩基性側の環境であるため、鋼材表面の水酸基とバナジン酸が共にプロトンを放出して負に帯電し、その結果、鋼材/酸化物層界面における接着力が失われる。
特許文献2に記載された被覆鋼材においても、同様に酸・塩基結合に基づく接着力が利用されているため、やはりアルカリの発生による陰極剥離を完全に防止することはできない。
また、鋼材表面に化成処理を行わず、直接接着剤層を積層した場合でも、鋼材/接着剤層間で形成される結合は、鋼材表面の鉄水酸化物と樹脂に含有される極性基との酸・塩基結合であるため、前述と同様のメカニズムで陰極剥離が進展する。
以上の知見に基づき、鋼材の表面に形成する化成処理層の材質や、製造条件について詳細な検討を行い、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)鋼材と、
前記鋼材の表面にアルキルシラノールが共有結合することによって形成された化成処理層とを備え、
前記アルキルシラノールが、Si原子に直接結合した水酸基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルキルシラノール(ただし、nは1、2、または3)である被覆鋼材。
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)鋼材と、
前記鋼材の表面にアルキルシラノールが共有結合することによって形成された化成処理層とを備え、
前記アルキルシラノールが、Si原子に直接結合した水酸基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルキルシラノール(ただし、nは1、2、または3)である被覆鋼材。
(2)前記アルキル基が、前記Si原子と結合した炭素原子と反対側の末端の炭素原子に結合した少なくとも1つのフッ素原子を有する、前記(1)に記載の被覆鋼材。
(3)前記化成処理層が、第1の有機溶剤、水、およびアルコキシシランを含む化成処理液を前記鋼材の表面に塗布し、次いで第2の有機溶剤を含有する洗浄液を用いて前記鋼材の表面を洗浄し、さらに前記鋼材を60〜200℃に加熱して形成されたものであり、
前記アルコキシシランが、Si原子に直接結合した水酸基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルコキシシラン(ただし、nは1、2、または3)である、前記(1)または(2)に記載の被覆鋼材。
前記アルコキシシランが、Si原子に直接結合した水酸基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルコキシシラン(ただし、nは1、2、または3)である、前記(1)または(2)に記載の被覆鋼材。
(4)前記化成処理層上に、さらに樹脂層を有する前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の被覆鋼材。
(5)前記樹脂層が、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、またはウレタンエラストマーを含有し、かつ厚さが1〜5mmである、前記(4)に記載の被覆鋼材。
(6)前記樹脂層が、厚さ1〜5mmのフッ素樹脂層である、前記(4)に記載の被覆鋼材。
(7)第1の有機溶剤、水、およびアルコキシシランを含む化成処理液を鋼材の表面に塗布する工程と、
第2の有機溶剤を含有する洗浄液を用いて前記鋼材の表面を洗浄する工程と、
前記鋼材を60〜200℃に加熱して、前記鋼材の表面に化成処理層を形成する工程とを有し、
前記アルコキシシランが、Si原子に直接結合したアルコキシ基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルコキシシラン(ただし、nは1、2、または3)である、被覆鋼材の製造方法。
第2の有機溶剤を含有する洗浄液を用いて前記鋼材の表面を洗浄する工程と、
前記鋼材を60〜200℃に加熱して、前記鋼材の表面に化成処理層を形成する工程とを有し、
前記アルコキシシランが、Si原子に直接結合したアルコキシ基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルコキシシラン(ただし、nは1、2、または3)である、被覆鋼材の製造方法。
(8)前記化成処理層上に樹脂層を形成する工程をさらに有する、前記(7)に記載の被覆鋼材の製造方法。
本発明によれば、長期にわたって陰極剥離の発生を抑制でき、カソード防食が適用される重防食鋼材としても好適に使用できる被覆鋼材を得ることができる。かかる被覆鋼材は、地中、河川中、海洋中、および海浜地域などの極めて厳しい腐食環境下で用いられる重防食鋼材として、極めて有用である。
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。
図1、2に、被覆鋼材の断面構造を模式的に示す。本発明の一実施形態における被覆鋼材10は、図1に示したように、鋼材11の表面に化成処理層12を備えている。そして、本発明の他の実施形態における被覆鋼材20は、図2に示したように、化成処理層12の表面に、さらに防食層としての樹脂層13を備えている。
図1、2に、被覆鋼材の断面構造を模式的に示す。本発明の一実施形態における被覆鋼材10は、図1に示したように、鋼材11の表面に化成処理層12を備えている。そして、本発明の他の実施形態における被覆鋼材20は、図2に示したように、化成処理層12の表面に、さらに防食層としての樹脂層13を備えている。
<鋼材>
本実施形態において、被覆鋼材に使用される鋼材の種類は特に限定されず、各種公知の鋼材を使用することができる。例えば、鋼管杭、鋼管矢板、および鋼矢板等に使用される軟鋼、高強度鋼、および低合金鋼を好適に用いることができる。
本実施形態において、被覆鋼材に使用される鋼材の種類は特に限定されず、各種公知の鋼材を使用することができる。例えば、鋼管杭、鋼管矢板、および鋼矢板等に使用される軟鋼、高強度鋼、および低合金鋼を好適に用いることができる。
上記鋼材の表面は、後述する化成処理に先立って充分に脱脂しておくことが好ましい。これにより、均一に化成処理を施すことが可能となる。脱脂の方法は特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウムなどの強アルカリを用いたアルカリ脱脂、有機溶剤を用いた溶剤脱脂、および電解脱脂など、各種公知の方法を単独で、または複数組み合わせて使用することができる。脱脂を行った後は、該鋼材を水洗し、直ちに乾燥させることが好ましい。また、前記脱脂に代えて、または脱脂に加えて、酸洗やブラストによる黒皮の除去を実施してもよい。また、後述する化成処理が効率良く実施できる様、脱脂した鋼材表面に予め水蒸気プラズマ処理を施し、鋼材表面に充分な濃度の水酸基を生成させても良い。
<化成処理層>
上記鋼材の表面には化成処理層が形成される。本実施形態においては、前記化成処理層が、アルキルシラノールを前記鋼材の表面に共有結合させて形成したものであり、かつ前記アルキルシラノールが、Si原子に直接結合した水酸基をn個と、Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するシラノール(ただし、nは1、2、または3)であることが重要である。
上記鋼材の表面には化成処理層が形成される。本実施形態においては、前記化成処理層が、アルキルシラノールを前記鋼材の表面に共有結合させて形成したものであり、かつ前記アルキルシラノールが、Si原子に直接結合した水酸基をn個と、Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するシラノール(ただし、nは1、2、または3)であることが重要である。
アルキルシラノールは、特定のアルコキシシランを加水分解することによって得ることができる。アルコキシシランに含まれる、Si原子と結合したアルコキシ基(Si−OR)は、水分と反応することによってシラノール基(Si−OH)となる。そして、シラノール基は、鋼材の表面に存在する水酸基(Fe−OH)と脱水縮合して、強固な共有結合(Fe−O−Si)を生成する。一方、前記アルコキシシランに含まれるアルキル基は、アルコキシ基のような反応性を有していないため、前記共有結合の形成に関与することはなく、したがって、化成処理層の表面(鋼材とは反対側の面)側に位置することとなる。アルキル基は低極性であるため、上記のような化成処理層を形成することにより、鋼材の表面を疎水性とすることができる。前記化成処理層上に樹脂層を設ける場合、この疎水性により優れた接着性が得られる。疎水性による接着力発現の原理については、後ほど説明する。
一実施態様においては、上記アルコキシシランとして、1つのSi原子に、アルコキシ基が1〜3個結合したものを使用する。前記アルコキシ基は、1つの基あたりの炭素数が1〜4であるアルコキシであることが好ましく、メトキシ基またはエトキシ基であることがより好ましい。また、1つのSi原子に複数のアルコキシ基が結合している場合、それらは同じであっても、互いに異なっていてもよい。
前記Si原子に直接結合したアルキル基の個数は、上記Si原子に直接結合したアルコキシ基の個数をn個としたとき、4−n個とする。なお、アルキル基同士の立体障害による鋼材表面上におけるアルコキシシラン分子の密度低下を防ぐために、前記アルキル基の個数は1から2個とすることが好ましい。前記アルキル基の個数が1個である場合、Si原子には3個のアルコキシ基が結合していることとなる。前記アルキル基の炭素数は、適切な疎水性を得るために1〜30とする。前記炭素数は、3〜16とすることがより好ましい。また、1つのSi原子に複数のアルキル基が結合している場合、それらは同じであっても、互いに異なっていてもよい。
上記アルコキシシランとして好適に使用される化合物の一例としては、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ウンデシルメチルジメトキシシラン、ドデシルメチルジメトキシシラン、トリデシルメチルジメトキシシラン、テトラデシルメチルジメトキシシラン、ペンタデシルメチルジメトキシシラン、ヘキサデシルメチルジメトキシシランおよびヘキサデシルエチルジメトキシシランなどが挙げられる。
2個または3個のアルコキシ基を有するアルコキシシランを使用する場合、そのアルコキシ基のうち1つは鋼材との共有結合の形成に消費されるが、1個または2個のアルコキシ基が残る。これらの残存アルコキシ基は、化成処理層中において隣接する他のアルコキシシランの残存アルコキシ基と脱水縮合して、シロキサン結合(Si−O−Si)を形成していてもよい。このように隣接するアルコキシシラン間でシロキサン結合が形成されることにより、より安定性の高い化成処理層を得ることができる。
また、他の実施態様においては、上記アルキル基として、フッ素原子で置換されたアルキル基を用いることもできる。ここで、「フッ素原子で置換されたアルキル基」とは、アルキル基に含まれる水素原子の1個または2個以上が、フッ素原子で置換されていることを意味する。フッ素原子で置換された炭化水素は、置換されていない炭化水素に比べて疎水性が高い。そのため、フッ素原子で置換されたアルキル基を有するアルコキシシランを用いることにより、より高い疎水性を鋼材表面に付与することができる。そして、その結果として、後述する疎水性相互作用による接着力を、より効果的に得ることができる。
フッ素原子で置換される位置は、アルキル基のどの位置であってもよい。また、アルキル基1つあたりのフッ素原子の数は特に限定されず、1置換のもの(モノフルオロアルキル基)から、すべての水素原子がフッ素で置換されたもの(パーフルオロアルキル基)まで、いずれのものも使用することができる。なかでも、フッ素樹脂との相溶性が向上するため、Si原子と結合する側とは反対側の末端の炭素原子を含む1つ以上の炭素原子に、3つ以上のフッ素原子が結合しているフルオロアルキル基を用いることが好ましい。
上記フッ素原子で置換されたアルキル基を有するアルコキシシランとして好適に使用される化合物の一例としては、トリフルオロエチルトリメトキシシラン、トリフルオロエチルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロブチルトリメトキシシラン、トリフルオロブチルトリエトキシシラン、トリフルオロペンチルトリメトキシシラン、トリフルオロペンチルトリエトキシシラン、トリフルオロヘキシルトリメトキシシラン、トリフルオロヘキシルトリエトキシシラン、トリフルオロヘプチルトリメトキシシラン、トリフルオロヘプチルトリエトキシシラン、トリフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリフルオロオクチルトリエトキシシラン、トリフルオロノニルトリメトキシシラン、トリフルオロノニルトリエトキシシラン、トリフルオロデシルトリメトキシシラン、トリフルオロデシルトリエトキシシラン、ヘキサフルオロデシルトリメトキシシラン、ヘキサフルオロデシルメチルジメトキシシラン、ドデカフルオロデシルトリメトキシシランおよびパーフルオロヘキサデシルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
本実施形態における化成処理層の付着量は特に限定されないが単分子層とすることがより好ましい。
また、本実施形態における化成処理層の形成方法は特に限定されず、例えば、上記アルコキシシランを含む化成処理液を用いた湿式法や、加熱によって蒸発させたアルコキシシランを用いる気相法など、各種の方法を用いることができる。なかでも、製造効率の観点から、湿式法を用いることが好ましい。その方法を、以下に具体的に説明する。
湿式法による化成処理層の形成においては、第1の有機溶剤、水、およびアルコキシシランを含む化成処理液を使用する。前記第1の有機溶剤は、アルコキシシランを溶解、分散することが出来れば特に限定しないが、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール、トルエン、常温で液体の炭化水素化合物等を用いることができる。
上記化成処理液に含まれる水は、アルコキシシランを加水分解してシラノール基を生成するために必要な成分である。したがって、前記化成処理液中における水の量は、加水分解を起こさせるのに十分な量であればよく、その濃度は特に限定されないが、例えば、0.4〜50質量%、好ましくは0.5〜20質量%とすることができる。
上記アルコキシシランとしては、先に述べたように、Si原子に直接結合したアルコキシ基をn個と、Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有する、アルコキシシラン(ただし、nは1、2、または3)を使用する。上記化成処理液中におけるアルコキシシランの濃度は、0.4〜20質量%とすることが好ましい。濃度が0.4質量%以上とすることにより、樹脂層に対する十分な接着性を有する化成処理層を形成することができる。一方、化成処理液中におけるアルコキシシランの濃度が高すぎると、化成処理液中でアルコキシシラン同士の自己縮合反応が生じて化成処理液がゲル化してしまうことがある。化成処理液中におけるアルコキシシランの濃度を20質量%以下とすることにより、前記ゲル化を防止し、その結果、優れた化成処理性と樹脂層に対する接着性を得ることができる。なお、前記アルコキシシランの濃度は、0.5〜15質量%とすることが、より好ましい。
なお、上記化成処理液には、化成処理性や化成処理層の特性を損なわない限りにおいて、各種の添加剤を含有させることができる。例えば、シリカ、各種シリケート、各種シランカップリング剤、各種チタネート、および各種アルミネート等を添加してもよい。添加剤を使用する場合、前記化成処理液は、第1の有機溶剤、水、アルコキシシラン、および添加剤からなる処理液とすることが好ましい。化成処理液における前記添加剤の含有量は、10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましい。
上記化成処理液を鋼材表面に適用する方法は特に限定されず、各種公知の方法を用いることができる。なかでも、スプレー塗装やしごき塗り等を用いることが好ましい。その際の化成処理液の温度は10〜60℃とすることが好ましい。
<洗浄工程>
本実施形態では、上記化成処理液を鋼材表面に塗布した後、加熱を行う前に、第2の有機溶剤を含有する洗浄液を用いて前記鋼材の表面を洗浄する。必要以上のアルコキシシランやシラノールが鋼材表面に残留していると、シラノール基同士が自己縮合反応を起こして物理的、化学的に脆弱な層が形成され、陰極剥離の起点となることがある。そのため、洗浄を行って、鋼材表面に存在する余分なアルコキシシランやシラノールを洗い流すことにより、陰極剥離の発生をさらに抑制することができる。
本実施形態では、上記化成処理液を鋼材表面に塗布した後、加熱を行う前に、第2の有機溶剤を含有する洗浄液を用いて前記鋼材の表面を洗浄する。必要以上のアルコキシシランやシラノールが鋼材表面に残留していると、シラノール基同士が自己縮合反応を起こして物理的、化学的に脆弱な層が形成され、陰極剥離の起点となることがある。そのため、洗浄を行って、鋼材表面に存在する余分なアルコキシシランやシラノールを洗い流すことにより、陰極剥離の発生をさらに抑制することができる。
上記洗浄工程においては、第2の有機溶剤を含有する洗浄液が使用される。前記洗浄液は第2の有機溶剤のみからなるものであってもよいし、前記第2の有機溶剤と、他の有機溶剤や水との混合溶媒であってもよい。前記第2の有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール、トルエン、常温で液体の炭化水素化合物等を用いることができる。製造上の観点からは、化成処理液に含有されている前記第1の有機溶剤と同じものを前記第2の有機溶剤として用いることが好ましい。
上記洗浄液を鋼材表面に適用する方法は特に限定されず、各種公知の方法を用いることができる。なかでも、浸漬やスプレーを用いることが好ましい。その際の洗浄液の温度は10〜60℃とすることが好ましい。
<加熱工程>
次に、本実施形態においては、上記洗浄工程で洗浄された鋼材を60〜200℃に加熱する。アルコキシシランの加水分解により形成されているシラノール基が、この加熱により、鋼材表面の水酸基と脱水縮合して、Fe原子とSi原子との間に酸素原子を介した共有結合(Fe−O−Si)が形成される。その結果、鋼材表面がアルキル基またはフッ素原子で置換されたアルキル基で覆われ、疎水性を示すようになる。前記加熱温度を60℃以上とすることにより、脱水反応を十分に進行させ、強固な共有結合を形成することができる。また、加熱温度を200℃以下とすることにより、アルコキシシランの熱分解を抑制することができる。
次に、本実施形態においては、上記洗浄工程で洗浄された鋼材を60〜200℃に加熱する。アルコキシシランの加水分解により形成されているシラノール基が、この加熱により、鋼材表面の水酸基と脱水縮合して、Fe原子とSi原子との間に酸素原子を介した共有結合(Fe−O−Si)が形成される。その結果、鋼材表面がアルキル基またはフッ素原子で置換されたアルキル基で覆われ、疎水性を示すようになる。前記加熱温度を60℃以上とすることにより、脱水反応を十分に進行させ、強固な共有結合を形成することができる。また、加熱温度を200℃以下とすることにより、アルコキシシランの熱分解を抑制することができる。
上記加熱を行う方法は特に限定されず、各種公知の方法を用いることができる。なかでも、電気炉、ガス炉、誘導加熱方式を用いることが好ましい。
以上のようにして得られた鋼材は、アルコキシシランが共有結合してできた化成処理層に表面が覆われており、前記アルコキシシランが有するアルキル基の作用により表面が高度に疎水性となっている。この被覆鋼材は、さらにその表面に樹脂層を形成して用いるための化成処理鋼材として好適に使用できる。
<樹脂層>
次に、上記化成処理層の表面に設けられる樹脂層について説明する。
本発明の他の実施形態においては、化成処理層上に、さらに樹脂層が被覆される。前記樹脂層は、周囲の環境から腐食因子が侵入することを防ぐための層であり、防食層とも呼ばれる。この樹脂層を設けることにより、本実施形態における被覆鋼材を重防食鋼材として使用することができる。
次に、上記化成処理層の表面に設けられる樹脂層について説明する。
本発明の他の実施形態においては、化成処理層上に、さらに樹脂層が被覆される。前記樹脂層は、周囲の環境から腐食因子が侵入することを防ぐための層であり、防食層とも呼ばれる。この樹脂層を設けることにより、本実施形態における被覆鋼材を重防食鋼材として使用することができる。
上記樹脂層の材質としては、各種公知の有機高分子を使用することができるが、防食性と耐久性の観点から、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、またはウレタンエラストマーを用いることが好ましい。化成処理層の形成に、フッ素置換されていないアルキル基を有するアルコキシシランを使用した場合には、樹脂層の材質をポリオレフィン樹脂、ウレタンエラストマー、またはフッ素樹脂とすることが好ましい。一方、フッ素原子を1つ以上有するアルキル基を備えたアルコキシシランを使用した場合には、樹脂層の材質をフッ素樹脂とすることが好ましい。
前記樹脂層には、各種公知の添加剤が含まれていてもよい。前記添加剤としては、例えば、無機充填材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候性を付与するための着色顔料(カーボンブラック等)などを用いることができる。前記樹脂層中における前記添加剤の含有量は、30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。
上記樹脂層の厚みは、1〜5mmとすることが好ましい。厚みが1mm以上とすることにより、腐食因子の遮断機能を十分に得ることができ、その結果、密着耐久性が向上する。一方、樹脂層が厚すぎると、該樹脂層の残留応力が増大するため、かえって密着耐久性が低下する。そこで、樹脂層の厚みを5mm以下とすることにより、残留応力を低減し、密着耐久性を向上させることができる。前記樹脂層の形成方法は特に限定されず、例えば、樹脂フィルムの圧着やスプレー塗装等、各種公知の方法を用いることができる。
<疎水性相互作用に基づく接着>
本実施形態の被覆鋼材においては、化成処理層と樹脂層との間に、疎水性相互作用に基づく接着力が作用し、その結果、従来の被覆鋼材に比べて極めて高い耐陰極剥離性を得ることができる。以下、その理由について説明する。
本実施形態の被覆鋼材においては、化成処理層と樹脂層との間に、疎水性相互作用に基づく接着力が作用し、その結果、従来の被覆鋼材に比べて極めて高い耐陰極剥離性を得ることができる。以下、その理由について説明する。
先にも述べたように、特許文献1、2に記載されているような従来の重防食鋼材においては、酸・塩基結合に基づく接着力を利用して、被覆の密着性を確保していた。そのため、カソード反応によりアルカリが生じた部位では接着力が失われ、陰極剥離が発生した。
これに対して、本実施形態の被覆鋼材では、酸・塩基結合ではなく、疎水性相互作用による接着力により、素地鋼材と樹脂層との間の密着性を確保している。疎水性相互作用とは、疎水性物質間に働く、引きつけ合う力を指す用語である。本実施形態の被覆鋼材の場合、化成処理層の表面に、疎水性であるアルキル基が存在するため、もともと疎水性である樹脂との間に疎水性相互作用が働き、両者が接着される。
このように、疎水性相互作用に基づく接着は、プロトンの受容と放出の結果生じる酸・塩基反応を利用したものではないため、接着面におけるpHの影響を受けない。そのため、本実施形態の被覆鋼材では、陰極剥離の発生を大幅に抑制することが可能となる。
なお、従来の酸・塩基結合を用いて鋼材に樹脂層を接着する技術では、鋼材と樹脂層との間に化成処理層に加えて、接着剤層を設ける必要があった。例えば、樹脂層としてウレタンエラストマーやフッ素樹脂を用いる場合には、その下層にエポキシ系、ウレタン系、またはフッ素系接着剤層が必須であった。また、樹脂層としてポリオレフィン樹脂を用いる場合には、その下層にエポキシ系接着剤層と接着性ポリオレフィン層の両者が必須であった。これは、鋼材表面が親水性を有するのに対し、樹脂が疎水性であり、そのままでは接着性が得られないためである。これに対し本実施形態では、鋼材表面を化成処理層によって疎水化しているため、接着剤層や接着性ポリオレフィン層を省略することが可能となった。
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明は、該実施例によって何ら限定されるものではない。本発明の実施形態は、本発明の趣旨に適合する範囲で適宜変更することが可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に包含される。
(被覆鋼板の作製)
以下の手順により被覆鋼板を作成し、耐陰極剥離性の評価を行った。
まず、100×100×6mmtの素材鋼板を用意し、その表面にブラスト処理を施して除錆した。ブラスト処理後の鋼板表面の十点平均粗さRzは30μmであった。
以下の手順により被覆鋼板を作成し、耐陰極剥離性の評価を行った。
まず、100×100×6mmtの素材鋼板を用意し、その表面にブラスト処理を施して除錆した。ブラスト処理後の鋼板表面の十点平均粗さRzは30μmであった。
次に、前記鋼板の表面に化成処理を施して、化成処理層を形成した。用いた化成処理液の組成と、加熱温度を表1に示す。表1のNo.1〜15の試料については、化成処理液を塗布した後、加熱を行う前に、同表中に示した洗浄液を用いて鋼材表面を洗浄した。なお、比較例であるNo.16、17の試料については、ブラスト処理を施した鋼板上にクロメート処理液をCr換算で300mg/m2となるように塗布し、鋼材温度が120℃となるように焼き付けてクロメート層を形成した。
次に、上記化成処理層の表面に樹脂層を形成した。形成した樹脂層の種類を表2に示す。No.1〜9、14、および16の試料においては、100×100×3mmtのポリエチレンフィルムを積層し、圧力1kgf/cm2、温度180℃の条件で10分間加熱して圧着した。圧着後のポリエチレン層の膜厚は2mmであった。No.10〜13の試料においては、非黄変性のポリイソシアネートを硬化剤として用いた2液型のフッ素樹脂を、膜厚が3mmとなるように被覆した。
比較例であるNo.16の試料においては、ポリエチレンフィルムの下層に、プライマー層と接着層とを設けた。前記プライマー層は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と脂環式ポリアミンからなるエポキシプライマーを、乾燥後の層厚が30〜50μmになるよう塗布し、鋼材温度が150℃なるように電気炉を用いて加熱してゲル化させて形成した。このエポキシプライマー層上に、接着層となる100×100×0.5mmtの無水マレイン酸変性ポリエチレンフィルムと、防食層となる100×100×3mmtのポリエチレンを圧着した。圧着後の無水マレイン酸変性ポリエチレン層の厚さは200〜300μm、ポリエチレン防食層の厚さは2mmであった。
また、比較例であるNo.17の試料においては、化成処理層の表面に、No.16の試料と同様のエポキシプライマー層を設けた後に、防食層としてのフッ素樹脂層を形成した。前記フッ素樹脂層は、非黄変性のポリイソシアネートを硬化剤として用いた2液型のフッ素樹脂を、膜厚が3mmとなるように塗布して形成した。
(耐陰極剥離性の評価)
以上のようにして得られた、化成処理層と樹脂層とを有する被覆鋼板の耐陰極剥離性を、次の方法により評価した。
まず、試験片となる被覆鋼板の中央部に、鋼板表面に達する直径6mmの孔(人工欠陥)をボール盤で形成した。次に、前記試験片の4端面を研磨した後、樹脂被覆されたリード線を前記4端面のうちの一の端面にアルミリベットを用いて取り付けた。アルミリベット部をエポキシ系の接着剤でシールした後、全ての試験片について、裏面(防食層で被覆されていない素地鋼材表面)と端面をシリコーンシーラントでシールした。
以上のようにして得られた、化成処理層と樹脂層とを有する被覆鋼板の耐陰極剥離性を、次の方法により評価した。
まず、試験片となる被覆鋼板の中央部に、鋼板表面に達する直径6mmの孔(人工欠陥)をボール盤で形成した。次に、前記試験片の4端面を研磨した後、樹脂被覆されたリード線を前記4端面のうちの一の端面にアルミリベットを用いて取り付けた。アルミリベット部をエポキシ系の接着剤でシールした後、全ての試験片について、裏面(防食層で被覆されていない素地鋼材表面)と端面をシリコーンシーラントでシールした。
シーラントを完全に乾燥させた後、前記試験片を60℃の3質量%NaCl水溶液に60日間浸漬させた。溶存酸素濃度の影響を一定とするため、前記NaCl溶液には、試験期間中、一定の流量で空気を吹き込んだ。前記浸漬中は、カソード防食の状態を再現するために、リード線の片端をポテンシオスタットに接続し、白金電極を対極として、−1.5V vs SCEの電位になるように、人工欠陥部の露出した鋼材表面に電圧を印加した。
60日経過後、試験片を溶液から取り出し、防食層を強制的に剥離させ、人工欠陥部の端面から鋼材表面が露出した距離をノギスで測定した。測定結果は、陰極剥離距離として表2に示したとおりである。なお、この剥離作業によって鋼材表面が露出した領域は、樹脂層の密着性が失われているため、実質的な防食性能はもはや期待できない部位であり、この陰極剥離距離が短かった被覆鋼板ほど、良好な耐陰極剥離性を有するといえる。
従前のクロメート処理を施したNo.16および17の被覆鋼材(比較例)では、陰極剥離距離が20mmであった。これに対して、本発明の化成処理を施したNo.1〜13の被覆鋼材(発明例)は、いずれも陰極剥離距離が4mm以下であり、前記比較例の被覆鋼材に比べて、耐陰極剥離性が著しく改善されていた。この結果から、本発明の被覆鋼材が、カソード防食された状態における陰極剥離に対し、優れた耐性を有していることが分かる。
また、化成処理後の加熱温度が60〜200℃の範囲外であるNo.14、15の被覆鋼板では、アルキル基を有するアルコキシシランを用いて化成処理を行ったにもかかわらず、いずれも陰極剥離距離が20mm前後と、十分な耐陰極剥離性が得られなかった。No.14については、加熱温度が低いため反応が十分に進行せず、鋼材表面とアルコキシシランとの間に共有結合を形成させることができなかったものと考えられる。また、No.15については、加熱温度が高すぎたためアルコキシシランが熱分解し、その結果、化成処理層を形成できなかったものと考えられる。この結果から、湿式法で化成処理層を形成する場合には、化成処理後の加熱を適正な温度で行って、アルコキシシランの熱分解を防止しつつ、該アルコキシシランを確実に鋼材表面に結合させる必要があることが分かる。
10、20 被覆鋼材
11 鋼材
12 化成処理層
13 樹脂層(防食層)
11 鋼材
12 化成処理層
13 樹脂層(防食層)
Claims (8)
- 鋼材と、
前記鋼材の表面にアルキルシラノールが共有結合することによって形成された化成処理層とを備え、
前記アルキルシラノールが、Si原子に直接結合した水酸基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルキルシラノール(ただし、nは1、2、または3)である被覆鋼材。 - 前記アルキル基が、前記Si原子と結合した炭素原子と反対側の末端の炭素原子に結合した少なくとも1つのフッ素原子を有する、請求項1に記載の被覆鋼材。
- 前記化成処理層が、第1の有機溶剤、水、およびアルコキシシランを含む化成処理液を前記鋼材の表面に塗布し、次いで第2の有機溶剤を含有する洗浄液を用いて前記鋼材の表面を洗浄し、さらに前記鋼材を60〜200℃に加熱して形成されたものであり、
前記アルコキシシランが、Si原子に直接結合した水酸基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルコキシシラン(ただし、nは1、2、または3)である、請求項1または2に記載の被覆鋼材。 - 前記化成処理層上に、さらに樹脂層を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の被覆鋼材。
- 前記樹脂層が、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、またはウレタンエラストマーを含有し、かつ厚さが1〜5mmである、請求項4に記載の被覆鋼材。
- 前記樹脂層が、厚さ1〜5mmのフッ素樹脂層である、請求項4に記載の被覆鋼材。
- 第1の有機溶剤、水、およびアルコキシシランを含む化成処理液を鋼材の表面に塗布する工程と、
第2の有機溶剤を含有する洗浄液を用いて前記鋼材の表面を洗浄する工程と、
前記鋼材を60〜200℃に加熱して、前記鋼材の表面に化成処理層を形成する工程とを有し、
前記アルコキシシランが、Si原子に直接結合したアルコキシ基をn個と、前記Si原子に直接結合し、フッ素原子で置換されていてもよい水素原子を有する炭素数1〜30のアルキル基を4−n個有するアルコキシシラン(ただし、nは1、2、または3)である、被覆鋼材の製造方法。 - 前記化成処理層上に樹脂層を形成する工程をさらに有する、請求項7に記載の被覆鋼材の製造方法。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2015024414A JP2016148069A (ja) | 2015-02-10 | 2015-02-10 | 被覆鋼材およびその製造方法 |
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JP (1) | JP2016148069A (ja) |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2023048082A1 (ja) * | 2021-09-23 | 2023-03-30 | Ntn株式会社 | フィルタおよびフィルタ組立体 |
-
2015
- 2015-02-10 JP JP2015024414A patent/JP2016148069A/ja active Pending
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