JP2016145357A - ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の製造方法 - Google Patents

ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】表面硬度が高く、難燃性が高く、異物の少ないポリカーボネート樹脂の提供。
【解決手段】式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂であって、式(1)の片方のベンゼン核の水酸基に隣接した位置にカルボキシル基又はカルボン酸エステル基が置換した化合物に由来する構造単位の含有量が20〜1000ppmであるポリカーボネート樹脂。

(R1及びR2は夫々独立に、置換/無置換のC1−20以下のアルキル基又は置換/無置換のアリール基;Xは単結合、置換/無置換のアルキレン基、置換/無置換のアルキリデン基、置換/無置換のS又はO)
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリカーボネート樹脂、およびポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度,電気的特性,透明性などに優れ、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子機器分野、自動車分野等様々な分野において幅広く利用されている。近年、これら用途分野においては、成形加工品の薄肉化、小型化、軽量化が進展し、成形素材のさらなる性能向上が要求され、その中でも薄肉でも高硬度であるポリカーボネート樹脂の開発が望まれるようになり、いくつかの提案がなされている。
例えば、従来のビスフェノールAとは異なるビスフェノール類を用いて表面硬度に優れたポリカーボネートやコポリカーボネートとする方法(特許文献1、特許文献2)、ジメチルビスフェノールシクロヘキサンタイプのポリカーボネートとビスフェノールAタイプのポリカーボネートとのブレンドにより流動性や硬度のバランスを取る方法(特許文献3)等が知られている。
特開昭64−069625号公報 特開平08−183852号公報 国際公開第2009/083933号パンフレット
従前知られた技術によるポリカーボネート樹脂であっても、表面硬度、難燃性の観点においてその性能が未だ充分で無い場合があり、さらに薄肉で良好な難燃性が要求されている。
本発明の目的は、表面硬度が高く、難燃性が高く、更に異物の少ないポリカーボネート樹脂を提供することにある。
本発明者等は、上記目的を達成するため鋭意検討したところ、特定の繰り返し単位を持つポリカーボネート樹脂において、特定の構造単位の含有量を特定の範囲に調整することにより、表面硬度が高く、難燃性が高く、更に異物の少ないポリカーボネート樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は下記[1]〜[5]に係るポリカーボネート樹脂およびポリカーボネート樹脂の製造方法に存する。
[1]
下記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂であって、下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が20ppm以上2000ppm以下であるポリカーボネート樹脂。
(式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
(式(2)中、R1及びR2は、前記式(1)と同じ基を示し、R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
[2]
下記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂であって、下記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が200ppm以上7000ppm以下であるポリカーボネート樹脂。
(式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
(式(3)中、R1、R2、Xは、前記式(1)と同じ基を示し、R4は、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
[3]
下記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂であって、下記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が100ppm以上2000ppm以下である[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂。
(式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
(式(4)中、R1及びXは、前記式(1)と同義である。R5は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
[4]
前記式(1)で表される化合物を含むジヒドロキシ化合物成分と、カーボネート形成性化合物成分とを重合することにより得られる、[1]から[3]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂の製造方法であって、該カーボネート形成性化合物成分が炭酸ジエステルである、ポリカーボネート樹脂の製造方法。
[5]
長周期型周期表第1族および第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物の存在下で重合する、[4]に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
本発明によれば、従前知られるポリカーボネート樹脂と比較して、表面硬度が高く、難燃性が高く、かつ異物の少ないポリカーボネート樹脂を得ることが出来る。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有し、更に、下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、下記式(3)で表される化合物に由来する構造単位、および下記式(4)で表される化合物に由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を、特定量含むものである。
<ポリカーボネート樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有し、式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。
1及びR2の、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R1及びR2は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
ここで、式(1)におけるR1、R2の結合位置は、それぞれのフェニル環上のXに対して2位、3位、5位及び6位から選ばれる任意の位置である。これらの中でも、好ましくはXに対して3位、5位である。
式(1)において、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。置換若しくは無置換の硫黄原子としては、例えば、−S−、−SO2−等が挙げられる。
置換若しくは無置換のアルキレン基、及び置換若しくは無置換のアルキリデン基を以下に示す。
ここで、R6及びR7は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のアルキレン基又はポリメチレン基を示す。nは、1〜10の整数を示す。
6及びR7の、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R6及びR7は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又は4−メチルフェニル基が好ましく、更にはメチル基が好ましく、特に、R6及びR7の両方がメチル基であり、nが1、つまり式(1)のXがイソプロピリデン基であることが好ましい。
Zは、式(1)において、2個のフェニル基を結合する炭素と結合して、置換若しくは無置換の二価の炭素環を形成する。二価の炭素環としては、例えば、シクロペンチリデン基、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基等のシクロアルキリデン基(好ましくは、炭素数5〜8)が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基、シクロドデシリデン基のメチル置換体が好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される化合物のうち、下記式(6)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するものがより好ましい。
式(6)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を表し、前述した式(1)におけるR1及びR2と同様である。
中でも本発明のポリカーボネート樹脂が有する繰返し単位は、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンに由来する繰返し単位であることが、特に好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂は、少なくとも式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するが、その含有量は、ジヒドロキシ化合物に由来する全繰返し単位に対して式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位が50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。式(1)で表される構造単位量が過度に少ないと、表面硬度や流動性が劣る傾向がある。
本発明のポリカーボネート樹脂は、更に、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を、特定量含むものである。本発明において、本発明のポリカーボネート樹脂が含有する、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位の量は、本発明のポリカーボネート樹脂を後述の方法によりアルカリ加水分解した際に、液体クロマトグラフィーにて測定された値で定義される。
本発明のポリカーボネート樹脂において、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位を含有する場合の含有量は、20ppm以上2000ppm以下であるが、20ppm以上1300ppm以下が好ましく、20ppm以上1000ppm以下がより好ましく、200ppm以上1000ppm以下が更に好ましい。前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が少なすぎると、難燃性が低くなる虞があり、多すぎると異物量が多くなる虞がある。また、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位を含有する場合の含有量は、200ppm以上7000ppm以下であるが、500ppm以上5000ppm以下が好ましく、1000ppm以上4500ppm以下であることがより好ましく、3000ppm以上4000ppm以下であることが更に好ましい。前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が少なすぎると、難燃性が低くなる虞があり、多すぎると異物量が多くなる虞がある。また、前記式(4)で表される化合物を含有する場合の含有量は、100ppm以上2000ppm以下が好ましく、200ppm以上600ppm以下がより好ましく、350ppm以上600ppm以下であることがさらに好ましく、500ppm以上600以下であることが最も好ましい。前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が少なすぎると、難燃性が低くなる虞があり、多すぎると異物量が多くなる虞がある。
・式(2)で表される化合物
本発明の下記式(2)で表される化合物において、R1及びR2は、前記式(1)と同じ基を示し、R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
式(2)で表される化合物としては、式(1)が2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンである場合を例にとると、以下の式(7)で表される化合物が挙げられる(以下、この化合物を「化合物2」と略記することがある)。
・式(3)で表される化合物
本発明の下記式(3)で表される化合物において、R1及びR2は、前記式(1)と同じ基を示し、R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
式(3)で表される化合物としては、式(1)が2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンである場合を例にとると、下記式(8)で表される化合物が挙げられる(以下、この化合物を「化合物3」と略記することがある)。
・式(4)で表される化合物
本発明の下記式(4)で表される化合物において、R1及びR2は、前記式(1)と同じ基を示し、R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
式(4)で表される化合物としては、式(1)が2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンである場合を例にとると以下の式(9)で表される化合物が挙げられる(以下、この化合物を「化合物4」と略記することがある)。
これらの式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物、式(4)で表される化合物は、特に溶融重合法など高温下にポリカーボネート及びその原料が曝されることにより、生成していると推測される。これら式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物、式(4)で表される化合物の構造は、ポリカーボネート樹脂中ではその構造より分岐点となっていると推測される。これら式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物、式(4)で表される化合物で表される構造は、いわゆるビスフェノールAを原料としたポリカーボネートでは観測されておらず、本発明のポリカーボネート樹脂特有の構造と考えられる。
・アルカリ加水分解による定量方法
本発明のポリカーボネート樹脂の有する、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位の量は、本発明のポリカーボネート樹脂をアルカリ加水分解した際に、液体クロマトグラフィーにて測定された値で定義される。その測定方法としては、ポリカーボネート樹脂0.5gを塩化メチレン5mlに溶解した後、メタノール45mlおよび25重量%水酸化ナトリウム水溶液5mlを加え、70℃で30分間攪拌して得られた溶液を、液体クロマトグラフィーにて分析し、式(2)で表される化合物に由来する構造単位、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位の量を定量する。
液体クロマトグラフィーによる、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位の量の測定は、例えば以下の条件で可能である。
(分析条件)
液体クロマトグラフィー装置:(株)島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:YMC−Pack ODS−AM 75mm×Φ4.6mm
オーブン温度:40℃
検出波長:280nm
溶離液:A液:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液:アセトニトリル
A/B=60/40(vol%)からA/B=95/5(vol%)まで
25分間でグラジエント
流量:1mL/min
試料注入量:20μl
また、より具体的に、式(1)で表される化合物が2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンである場合を例にとると、(2)で表される化合物に由来する構造単位である化合物2、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位である化合物3、および前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位である化合物4は、上記液体クロマトグラフィー条件にて、下記リテンションタイムに観測される。
式(4)で表される化合物4:13.9分
式(2)で表される化合物2:15.9分
式(3)で表される化合物3:21分
各化合物の特定は、上記リテンションタイムに観測されるピークに相当する部分を分取し、分取したサンプルの1H NMR、13C NMR、質量分析法(MS)、赤外線吸収スペクトル(IRスペクトル)等により実施することができる。
<ポリカーボネート樹脂の物性>
本発明のポリカーボネート樹脂は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が、3.0以上5.0以下の範囲であることが好ましい。さらに、(Mw/Mn)は、3.0以上4.0以下の範囲がより好ましい。(Mw/Mn)が過度に小さいと、溶融状態での流動性が増大し成形性が低下する傾向にある。一方、(Mw/Mn)が過度に大きいと、溶融粘度が増大し成形困難となる傾向がある。
本発明のポリカーボネート樹脂は、JIS K5400に準拠した鉛筆硬度が、HB以上であることが好ましい。さらに、ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、好ましくは、F以上であり、さらに好ましくはH以上である。但し、通常、3H以下である。鉛筆硬度がHB未満のポリカーボネート樹脂では表面が傷つきやすく、従来のビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂では鉛筆硬度は2Bであり不十分である。
本発明のポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は特に限定されない。製造方法として後述するエステル交換法を採用する場合、得られるポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度は、通常、100ppm以上、好ましくは、200ppm以上、さらに好ましくは、300ppm以上である。但し、通常、2000ppm以下、好ましくは1800ppm以下、さらに好ましくは1200ppm以下である。ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度が過度に小さいと、成形時の初期色相が悪化する傾向がある。末端水酸基濃度が過度に大きいと、滞留熱安定性が低下する傾向がある。
本発明のポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常15,000以上、好ましくは20,000以上、より好ましくは25,000以上、特に好ましくは30,000以上である。また、通常100,000以下、好ましくは50,000以下、より好ましくは40,000以下、特に好ましくは35,000以下である。粘度平均分子量が低すぎると、難燃性および機械的物性が低下する虞がある。また、粘度平均分子量が高すぎると、流動性が低下し、異物量が多くなる虞がある。
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
次に、本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法について説明する。本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法に特に制限は無く、前記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有し、更に、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を、特定量含むものとなるように製造可能であれば、如何なる方法で製造しても構わない。通常ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物成分と、カーボネート形成性化合物成分とを重合することにより得られる。
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法には、前記式(1)で表される化合物を含有するジヒドロキシ化合物成分と、カーボネート形成性化合物成分として炭酸ジエステルを用いたエステル交換反応に基づく溶融重縮合法(以下、溶融法と略記することがある)、前記式(1)で表される化合物を含有するジヒドロキシ化合物成分と、カーボネート形成性化合物成分として塩化カルボニルを用いた界面重縮合法(以下、界面法と略記することがある)が挙げられる。これらの中でも、下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位および下記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、更には下記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量を特定量に制御することが容易であるという点で、溶融法が好ましい。
(ジヒドロキシ化合物成分)
ジヒドロキシ化合物成分としては、溶融法(エステル交換法)、及び界面法ともに下記式(1)で表される化合物を含有することが好ましい。
(式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)アダマンタン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルホン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、3,3´−ジメチルビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)アダマンタン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジ−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)プロパン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルホン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルフィド、3,3´,5,5´−テトラメチルビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン等が挙げられる。
これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、3,3´−ジメチルビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、3,3´,5,5´−テトラメチルビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン等が挙げられる。
さらに、これらの中で、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下ビスフェノールCもしくはBPCと略記する場合がある)、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、及び1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサンが好ましく、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカンが好ましい。
式(1)で表される化合物は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
(溶融法:エステル交換法)
溶融法においては、原料として前記式(1)で表される化合物を含有するジヒドロキシ化合物成分と、カーボネート形成性化合物成分として炭酸ジエステルを用い、エステル交換触媒の存在下、連続的に行われる溶融重縮合反応によりポリカーボネート樹脂を製造する。
(炭酸ジエステル)
本発明で使用する炭酸ジエステルとしては、下記式で示される炭酸ジエステル化合物が挙げられる。
ここで、上記式中、A´は、置換基を有することがある炭素数1〜炭素数10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基である。2つのA´は、同一でも相互に異なるものでもよい。尚、A´上の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、炭素数1以上10以下のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等が例示される。
炭酸ジエステル化合物の具体例としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと略記することがある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
また、上記の炭酸ジエステル化合物は、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。
代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
本発明において、これらの炭酸ジエステル化合物(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いられる。
即ち、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、通常、炭酸ジエステル化合物が1.01モル〜1.30モル、好ましくは1.02モル〜1.20モルの範囲で用いられる。前記炭酸ジエステル化合物の使用量が過度に小さいと、得られるポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度が高くなり、熱安定性が悪化する傾向となる。また、前記炭酸ジエステル化合物の使用量が過度に大きいと、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有するポリカーボネート樹脂の生産が困難となる傾向となる他、樹脂中の炭酸ジエステル化合物の残存量が多くなり、成形加工時や成形品としたときの臭気の原因となることがあり、好ましくない。
(エステル交換触媒)
本発明においては、ポリカーボネート樹脂をエステル交換触媒の存在下で重合することが好ましい。エステル交換触媒としては、通常、エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際に用いられる触媒が挙げられ、特に限定されない。一般的には、例えば、長周期型周期表第1族および第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物、ベリリウム化合物、マグネシウム化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。これらの中でも、実用的には長周期型周期表第1族および第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物が望ましい。これらのエステル交換触媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
エステル交換触媒の使用量は、通常、全芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して1×10-9〜1×10-1モルの範囲で用いられるが、成形特性や色相に優れた芳香族ポリカーボネートを得るためには、エステル交換触媒の量は、長周期型周期表第1族および第2族の金属化合物を用いる場合、全芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、好ましくは1.0×10-7〜5×10-6モルの範囲内、より好ましくは0.5×10-6〜4×10-6モルの範囲内であり、特に好ましくは1.0×10-6〜3×10-6モルの範囲内である。上記下限量より少なければ、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位および前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、更には前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が少なくなり、難燃性が悪化する虞があり、多い場合は、ポリマー色相が悪化し、また、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、更には前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が多くなりすぎ、溶媒に不溶のゲル状物や異物が発生して外観不良およびポリカーボネート樹脂の機械物性が低下する虞がある。
長周期型周期表第1族金属化合物としては、当該金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機金属化合物;当該金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等の有機金属化合物等が挙げられる。ここで、長周期型周期表第1族金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。これらの金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、特に、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムが好ましい。
長周期型周期表第2族金属化合物としては、例えば、当該金属の水酸化物、炭酸塩等の無機金属化合物;当該金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。ここで、長周期型周期表第2族金属としては、例えばカルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
また、ベリリウム化合物及びマグネシウム化合物としては、例えば、当該金属の水酸化物、炭酸塩等の無機金属化合物;前記金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。
塩基性ホウ素化合物としては、ホウ素化合物のナトリウム塩
、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。ここで、ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等が挙げられる。
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又はこれらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
(触媒失活剤)
本発明に於いては、エステル交換反応終了後に、エステル交換触媒を中和失活させるための触媒失活剤を添加しても良い。このような処理により得られたポリカーボネート樹脂の耐熱性、耐加水分解性が向上する。
このような触媒失活剤としては、スルホン酸やスルホン酸エステルのようなpKaが3以下の酸性化合物が好ましく、具体的にはベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸プロピル、ベンゼンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸プロピル、並びにp−トルエンスルホン酸ブチルなどが挙げられる。
これらの中でも、p−トルエンスルホン酸並びにp−トルエンスルホン酸ブチルが好適に用いられる。
溶融法によるポリカーボネート樹脂の製造方法は、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの原料混合溶融液を調製し(原調工程)、前記原料混合溶融液を、エステル交換反応触媒の存在下、溶融状態で複数の反応槽を用いて多段階で重縮合反応をさせる(重縮合工程)ことによって行われる。反応方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよい。反応槽は、複数基の竪型撹拌反応槽、及び必要に応じてこれに続く少なくとも1基の横型撹拌反応槽が用いられる。通常、これらの反応槽は直列に設置され、連続的に処理が行われる。
重縮合工程後、反応を停止させ、重縮合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、ポリカーボネート樹脂を所定の粒径に形成する工程等を適宜追加してもよい。
次に、製造方法の各工程について説明する。
(原調工程)
ポリカーボネート樹脂の原料として使用するジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とは、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式又は連続式の撹拌槽型の装置を用いて、原料混合溶融液として調製される。溶融混合の温度は、例えば、ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールCを用い、炭酸ジエステル化合物としてジフェニルカーボネートを用いる場合は、通常120℃〜180℃、好ましくは125℃〜160℃の範囲から選択される。
以下、ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールC、炭酸ジエステル化合物としてジフェニルカーボネートを原料として用いる場合を例として説明する。
この際、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物との割合は、炭酸ジエステル化合物が過剰になるように調整され、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステル化合物は、通常1.01モル〜1.30モル、好ましくは1.02モル〜1.20モルの割合になるように調整される。
(重縮合工程)
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換反応による重縮合は、通常、2段階以上、好ましくは3段階〜7段階の多段方式で連続的に行われる。各段階の具体的な反応条件としては、温度:150℃〜330℃、圧力:常圧〜0.01Torr(1.3Pa)、平均滞留時間:5分〜150分の範囲である。
多段方式の各反応槽においては、エステル交換反応の進行とともに副生するフェノール等のモノヒドロキシ化合物をより効果的に系外に除去するために、上記の反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。
特に最終重合槽の反応温度は通常250℃〜330℃、好ましくは270℃〜320℃、さらに好ましくは280℃〜300℃である。最終重合槽の反応温度が低すぎると、本発明のポリカーボネート樹脂が有する、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、更には前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が少なくなり、難燃性が低下する虞がある。また重合反応が十分に進行せず、分子量の低いポリカーボネートしか得られない虞がある。一方、最終重合槽の反応温度が高すぎると、ポリマー色相が悪化し、また、本発明のポリカーボネート樹脂が有する、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、更には前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が多くなりすぎ、溶媒に不溶のゲル状物や異物が発生して外観不良およびポリカーボネート樹脂の機械物性が低下する虞がある。
また最終重合槽の平均滞留時間は通常5分〜150分、好ましくは30分〜120分、さらに好ましくは60分〜90分である。最終重合槽の平均滞留時間が短すぎると、化合物2、化合物3、化合物4の生成量が少なくなり、難燃性が低下する虞がある。また重合反応が十分に進行せず、分子量の低いポリカーボネートしか得られない虞がある。一方、最終重合槽の平均滞留時間が長すぎると、ポリマー色相が悪化し、また、本発明のポリカーボネート樹脂が有する、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位の量が多くなりすぎ、溶媒に不溶のゲル状物や異物が発生して外観不良およびポリカーボネート樹脂の機械物性が低下する虞がある。
重縮合工程を多段方式で行う場合は、通常、竪型撹拌反応槽を含む複数基の反応槽を設けて、ポリカーボネート樹脂の平均分子量を増大させる。反応槽は通常2基〜6基、好ましくは4基〜5基設置される。
ここで、反応槽としては、例えば、撹拌槽型反応槽、薄膜反応槽、遠心式薄膜蒸発反応槽、表面更新型二軸混練反応槽、二軸横型撹拌反応槽、濡れ壁式反応槽、自由落下させながら重縮合する多孔板型反応槽、ワイヤーに沿わせて落下させながら重縮合するワイヤー付き多孔板型反応槽等が用いられる。
竪型撹拌反応槽の撹拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼((株)神鋼環境ソリューション製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼((株)日立プラントテクノロジー製)等が挙げられる。
また、横型撹拌反応槽とは、撹拌翼の回転軸が横型(水平方向)であるものをいう。横型撹拌反応槽の撹拌翼としては、例えば、円板型、パドル型等の一軸タイプの撹拌翼やHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住友重機械工業(株)製)、あるいはメガネ翼、格子翼((株)日立プラントテクノロジー製)等の二軸タイプの撹拌翼が挙げられる。
尚、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物との重縮合に使用するエステル交換触媒は、通常、予め溶液として準備されていてもよい。触媒溶液の濃度は特に限定されず、触媒の溶媒に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整される。溶媒としては、アセトン、アルコール、トルエン、フェノール、水等を適宜選択することができる。
触媒の溶媒として水を選択した場合、水の性状は、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水や脱イオン水等が好ましく用いられる。
(界面法)
界面法によるポリカーボネート樹脂の製造方法は、通常、ジヒドロキシ化合物成分の長周期型周期表第1族および/または第2族による塩の水溶液を調製し、重合触媒として使用するアミン化合物の存在下で、ジヒドロキシ化合物成分とカーボネート形成性化合物成分である塩化カルボニル(以下、CDCともいう。)との界面重縮合反応を行い、次いで、中和、水洗、乾燥工程を経てポリカーボネート樹脂を得る。
CDCは、通常、液状又はガス状で使用される。CDCの好ましい使用量は、反応条件、特に、反応温度及び水相中の芳香族ジヒドロキシ化合物の金属塩の濃度によって適宜選択され、特に限定されない。通常、芳香族ジヒドロキシ化合物の1モルに対し、CDC1モル〜2モル、好ましくは1.05モル〜1.5モルである。CDCの使用量が過度に多いと、未反応CDCが多くなり原単位が極端に悪化する傾向がある。また、CDCの使用量が過度に少ないと、クロロフォルメート基量が不足し、適切な分子量伸長が行われなくなる傾向がある。
界面法では、通常、有機溶媒を使用する。有機溶媒としては、塩化カルボニル及びカーボネートオリゴマー、ポリカーボネート樹脂等の反応生成物を溶解し、水と相溶しない(または、水と溶液を形成しない)不活性有機溶媒が挙げられる。
このような不活性有機溶媒として、例えば、ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパン及び1,2−ジクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン及びクロロトルエン等の塩素化芳香族炭化水素;その他、ニトロベンゼン及びアセトフェノン等の置換芳香族炭化水素等が挙げられる。
これらの中でも、例えば、ジクロロメタン又はクロロベンゼン等の塩素化された炭化水素が好適に使用される。これらの不活性有機溶媒は、単独であるいは他の溶媒との混合物として使用することができる。
縮合触媒としては、二相界面縮合法に使用されている多くの縮合触媒の中から、任意に選択することができる。例えば、トリアルキルアミン、N−エチルピロリドン、N−エチルピペリジン、N−エチルモルホリン、N−イソプロピルピペリジン、N−イソプロピルモルホリン等が挙げられる。中でも、トリエチルアミン、N−エチルピペリジンが好ましい。
連鎖停止剤としては、モノフェノールを使用する。モノフェノールとしては、例えば、フェノール;p−t−ブチルフェノール、p−クレゾール等の炭素数1以上20以下のアルキルフェノール;p−クロロフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール等のハロゲン化フェノールが挙げられる。モノフェノールの使用量は、得られるカーボネートオリゴマーの分子量に応じ適宜選択され、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、0.5モル%〜10モル%である。
界面法において、ポリカーボネート樹脂の分子量は、モノフェノール等の連鎖停止剤の添加量で決定される。このため、ポリカーボネート樹脂の分子量を制御する観点から、連鎖停止剤の添加時期は、カーボネート形成性化合物の消費が終了した直後から、分子量伸長が始まる前での間が好ましい。
カーボネート形成性化合物の共存下でモノフェノールを添加すると、モノフェノール同士の縮合物(炭酸ジフェニル類)が多く生成し、目標とする分子量のポリカーボネート樹脂が得られにくい傾向がある。モノフェノールの添加時期が極端に遅れると、分子量制御が困難となり、さらに、分子量分布の低分子側に特異な肩を有する樹脂となり、成型時には垂れを生じる等の弊害が生じる傾向がある。
また、界面法では、任意の分岐剤を使用することができる。このような分岐剤としては、たとえば、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(4,4´−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン等が挙げられる。また、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、塩化シアヌル等も使用しうる。これらの中でも、少なくとも3個のフェノール性ヒドロキシル基を有する分岐剤が好適である。分岐剤の使用量は、得られるカーボネートオリゴマーの分岐度に応じ適宜選択され、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物に対し、0.05モル%〜2モル%である。
(界面法によるポリカーボネート樹脂の製造)
界面法による本発明のポリカーボネート樹脂は、通常、ジヒドロキシ化合物の長周期型周期表第1族金属水溶液を調製し、縮合触媒として、例えばアミン化合物の存在下で、ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重縮合反応を行い、次いで、中和、水洗、乾燥工程を経てポリカーボネート樹脂が得られる。具体的には、界面法によるポリカーボネート樹脂製造プロセスは、モノマー成分等の原料調製を行う原調工程、オリゴマー化反応が行われるオリゴマー化工程、オリゴマーを用いた重縮合反応が行われる重縮合工程、重縮合反応後の反応液をアルカリ洗浄、酸洗浄、水洗浄により洗浄する洗浄工程、洗浄された反応液を予濃縮しポリカーボネート樹脂を造粒後に単離するポリカーボネート樹脂単離工程、単離されたポリカーボネート樹脂の粒子を乾燥する乾燥工程を、少なくとも有している。以下、各工程について説明する。
(原調工程)
原調工程では、原調タンクに、ジヒドロキシ化合物と、水酸化ナトリウム(NaOH)等の長周期型周期表第1族金属化合物の水溶液又は水酸化マグネシウム等の長周期型周期表第2族金属化合物の水溶液と、脱塩水(DMW)と、さらに必要に応じてハイドロサルファイト(HS)等の還元剤を含むジヒドロキシ化合物の長周期型周期表第1族および/または第2族金属塩の水溶液等の原料が調製される。
(長周期型周期表第1族および第2族の金属化合物)
長周期型周期表第1族および第2族の金属化合物としては、通常、水酸化物が好ましく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウムが特に好ましい。 ジヒドロキシ化合物に対する長周期型周期表第1族および第2族の金属化合物の割合は、通常、1.0〜1.5(当量比)、好ましくは、1.02〜1.04(当量比)である。長周期型周期表第1族および第2族の化合物の割合が過度に多い又は過度に少ない場合は、後述するオリゴマー化工程において得られるカーボネートオリゴマーの末端基に影響し、その結果、重縮合反応が異常となる傾向がある。
(オリゴマー化工程)
次に、オリゴマー化工程では、所定の反応器において、原調工程で調製されたジヒドロキシ化合物の長周期型周期表第1族および/または第2族の金属塩の水溶液とホスゲン(CDC)とを、塩化メチレン(CH2Cl2)等の有機溶媒の存在下で、ジヒドロキシ化合物のホスゲン化反応が行われる。
続いて、ジヒドロキシ化合物のホスゲン化反応が行われた混合液に、トリエチルアミン(TEA)等の縮合触媒と、p−t−ブチルフェノール(pTBP)等の連鎖停止剤が添加され、ジヒドロキシ化合物のオリゴマー化反応が行われる。
次に、ジヒドロキシ化合物のオリゴマー化反応液は、さらにオリゴマー化反応が進められた後、所定の静置分離槽に導入され、カーボネートオリゴマーを含有する有機相と水相とが分離され、分離された有機相は、重縮合工程に供給される。
ここで、ジヒドロキシ化合物のホスゲン化反応が行われる反応器にジヒドロキシ化合物の長周期型周期表第1族および/または第2族の金属塩の水溶液が供給されてから静置分離槽に入るまでのオリゴマー化工程における滞留時間は、通常、120分以下、好ましくは、30分〜60分である。
(CDC)
オリゴマー化工程で使用するCDCは、通常、液状又はガス状で使用される。オリゴマー化工程におけるCDCの好ましい使用量は、反応条件、特に、反応温度及び水相中のジヒドロキシ化合物の濃度によって適宜選択され、特に限定されない。通常、ジヒドロキシ化合物の1モルに対し、CDC1モル〜2モル、好ましくは1.05モル〜1.5モルである。CDCの使用量が過度に多いと、未反応CDCが多くなり原単位が極端に悪化する傾向がある。また、CDCの使用量が過度に少ないと、クロロフォルメート基量が不足し、適切な分子量伸長が行われなくなる傾向がある。
(有機溶媒)
オリゴマー化工程では、通常、有機溶媒を使用する。有機溶媒としては、オリゴマー化工程における反応温度及び反応圧力において、CDC及びカーボネートオリゴマー、ポリカーボネート樹脂等の反応生成物を溶解し、水と相溶しない(または、水と溶液を形成しない)任意の不活性有機溶媒が挙げられる。
このような不活性有機溶媒として、例えば、ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパン及び1,2−ジクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン及びクロロトルエン等の塩素化芳香族炭化水素;その他、ニトロベンゼン及びアセトフェノン等の置換芳香族炭化水素等が挙げられる。
これらの中でも、ジクロロメタン又はクロロベンゼン等の塩素化された炭化水素が好適に使用される。これらの不活性有機溶媒は、単独であるいは他の溶媒との混合物として使用することができる。
(縮合触媒)
オリゴマー化反応は、縮合触媒の存在下で行うことができる。縮合触媒の添加時期は、CDCを消費した後が好ましい。縮合触媒としては、二相界面縮合法に使用されている多くの縮合触媒の中から、任意に選択することができる。例えば、トリアルキルアミン、N−エチルピロリドン、N−エチルピペリジン、N−エチルモルホリン、N−イソプロピルピペリジン、N−イソプロピルモルホリン等が挙げられる。中でも、トリエチルアミン、N−エチルピペリジンが好ましい。
(連鎖停止剤)
本実施の形態において、オリゴマー化工程では、通常、連鎖停止剤としてモノフェノールを使用する。モノフェノールとしては、例えば、フェノール;p−t−ブチルフェノール、p−クレゾール等の炭素数1以上20以下のアルキルフェノール;p−クロロフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール等のハロゲン化フェノールが挙げられる。モノフェノールの使用量は、得られるカーボネートオリゴマーの分子量に応じ適宜選択され、通常、ジヒドロキシ化合物に対して、0.5モル%〜10モル%である。
界面法において、ポリカーボネート樹脂の分子量は、モノフェノール等の連鎖停止剤の添加量で決定される。このため、ポリカーボネート樹脂の分子量を制御する観点から、連鎖停止剤の添加時期は、カーボネート形成性化合物の消費が終了した直後から、分子量伸長が始まる前での間が好ましい。
カーボネート形成性化合物の共存下でモノフェノールを添加すると、モノフェノール同士の縮合物(炭酸ジフェニル類)が多く生成し、目標とする分子量のポリカーボネート樹脂が得られにくい傾向がある。モノフェノールの添加時期が極端に遅れると、分子量制御が困難となり、さらに、分子量分布の低分子側に特異な肩を有する樹脂となり、成形時には垂れを生じる等の弊害が生じる傾向がある。
(分岐剤)
また、オリゴマー化工程では、任意の分岐剤を使用することができる。このような分岐剤としては、たとえば、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(4,4´−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン等が挙げられる。また、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、塩化シアヌル等も使用しうる。これらの中でも、少なくとも3個のフェノール性ヒドロキシル基を有する分岐剤が好適である。分岐剤の使用量は、得られるカーボネートオリゴマーの分岐度に応じ適宜選択され、通常、ジヒドロキシ化合物に対し、0.05モル%〜2モル%である。
オリゴマー化工程では、二相界面縮合法を採用した場合、ジヒドロキシ化合物の長周期型周期表第1族金属化合物水溶液又は長周期型周期表第2族金属化合物水溶液とホスゲンとの接触に先立ち、ジヒドロキシ化合物を含む有機相と長周期型周期表第1族金属化合物又は長周期型周期表第2族金属化合物を含む水相と、水と任意に混合しない有機相とを接触させ、乳濁液を形成させることが特に好ましい。
このような乳濁液を形成する手段としては、例えば、所定の撹拌翼を有する撹拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、フロージェットミキサー、超音波乳化機等の動的ミキサー、静的ミキサー等の混合機を使用するのが好ましい。乳濁液は、通常、0.01μm〜10μmの液滴径を有し、乳化安定性を有する。
乳濁液の乳化状態は、通常、ウェーバー数又はP/q(単位容積当たりの負荷動力値)で表される。ウェーバー数としては、好ましくは10,000以上、さらに好ましくは20,000以上、最も好ましくは35,000以上である。また、上限としては1,000,000以下程度で十分である。また、P/qとしては、好ましくは200kg・m/L以上、さらに好ましくは500kg・m/L以上、最も好ましくは1,000kg・m/L以上である。
乳濁液とCDCとの接触は、前述した乳化条件よりも弱い混合条件下で行うのがCDCの有機相への溶解を抑制する意味で好ましい。ウェーバー数としては、10,000未満、好ましくは5,000未満、さらに好ましくは2,000未満である。また、P/qとしては、200kg・m/L未満、好ましくは100kg・m/L未満、さらに好ましくは50kg・m/L未満である。CDCの接触は、管型反応器や槽型反応器にCDCを導入することによって達成することができる。
オリゴマー化工程における反応温度は、通常、80℃以下、好ましくは60℃以下、さらに好ましくは10℃〜50℃の範囲である。反応時間は反応温度によって適宜選択され、通常、0.5分〜10時間、好ましくは1分〜2時間である。反応温度が過度に高いと、副反応の制御ができず、CDC原単位が悪化する傾向がある。反応温度が過度に低いと、反応制御上は好ましい状況ではあるが、冷凍負荷が増大し、コストアップとなる傾向がある。
有機相中のカーボネートオリゴマー濃度は、得られるカーボネートオリゴマーが可溶な範囲であればよく、具体的には、10重量%〜40重量%程度である。有機相の割合はジヒドロキシ化合物の長周期型周期表第1族金属塩水溶液又は長周期型周期表第2族金属塩水溶液を含む水相に対し、0.2〜1.0の容積比であることが好ましい。
(重縮合工程)
次に、重縮合工程では、静置分離槽で水相と分離されたカーボネートオリゴマーを含有する有機相は、撹拌機を有するオリゴマー貯槽に移送される。オリゴマー貯槽には、トリエチルアミン(TEA)等の縮合触媒がさらに添加される。
続いて、オリゴマー貯槽内で撹拌された有機相は所定の重縮合反応槽に導入され、続いて、重縮合反応槽に、脱塩水(DMW)、塩化メチレン(CH2Cl2)等の有機溶媒及び水酸化ナトリウム水溶液が供給され、撹拌混合されてカーボネートオリゴマーの重縮合反応が行われる。
重縮合反応槽中の重縮合反応液は、その後、複数の重縮合反応槽に連続的に順次導入され、カーボネートオリゴマーの重縮合反応が完結される。
ここで、重縮合工程において、連続的にカーボネートオリゴマーの重縮合反応が行われる重縮合反応槽における滞留時間は、通常、12時間以下、好ましくは、0.5時間〜5時間である。
重縮合工程の好ましい態様としては、先ず、カーボネートオリゴマーを含む有機相と水相とを分離し、分離した有機相に必要に応じて不活性有機溶媒を追加し、カーボネートオリゴマーの濃度を調整する。この場合、重縮合反応によって得られる有機相中のポリカーボネート樹脂の濃度が5重量%〜30重量%となるように、不活性有機溶媒の量を調整する。次に、新たに水及び長周期型周期表第1族金属化合物又は長周期型周期表第2族金属化合物を含む水溶液を加え、さらに、重縮合条件を整えるために、好ましくは縮合触媒を添加し、界面重縮合法に従い重縮合反応を行う。重縮合反応における有機相と水相との割合は、容積比で有機相:水相=1:0.2〜1:1程度が好ましい。
長周期型周期表第1族金属化合物又は長周期型周期表第2族金属化合物としては、前述したオリゴマー化工程において使用するものと同様な化合物が挙げられる。中でも、工業的に水酸化ナトリウムが好ましい。長周期型周期表第1族金属化合物又は長周期型周期表第2族金属化合物の使用量は、重縮合反応中、反応系が常に塩基性に保たれる量以上であればよく、重縮合反応の開始時に、全量を一括して添加してもよく、また、重縮合反応中に適宜分割して添加してもよい。
長周期型周期表第1族金属化合物又は長周期型周期表第2族金属化合物の使用量が過度に多いと、副反応である加水分解反応が進む傾向がある。そのため、重縮合反応終了後における水相に含まれる長周期型周期表第1族金属化合物又は長周期型周期表第2族金属化合物の濃度が0.05N以上、好ましくは0.05N〜0.3N程度となるようにするのがよい。
重縮合工程における重縮合反応の温度は、通常、常温付近である。反応時間は0.5時間〜5時間、好ましくは1時間〜3時間程度である。
(洗浄工程)
次に、重縮合反応槽における重縮合反応が完結した後、重縮合反応液は、公知の方法により、アルカリ洗浄液によるアルカリ洗浄、酸洗浄液による酸洗浄及び洗浄水による水洗浄が行われる。尚、洗浄工程の全滞留時間は、通常、12時間以下、好ましくは、0.5時間〜6時間である。
(ポリカーボネート樹脂単離工程)
ポリカーボネート樹脂単離工程では、先ず、洗浄工程において洗浄されたポリカーボネート樹脂を含む重縮合反応液は、所定の固形分濃度に濃縮された濃縮液として調製される。濃縮液におけるポリカーボネート樹脂の固形分濃度は、通常、5重量%〜35重量%、好ましくは、10重量%〜30重量%である。
次に、濃縮液は、所定の造粒槽に連続的に供給され、所定の温度の脱塩水(DMW)と撹拌混合される。そして、水中で懸濁状態を保ちながら有機溶媒を蒸発させる造粒処理が行われ、ポリカーボネート樹脂粒状体を含む水スラリーが形成される。
ここで、脱塩水(DMW)の温度は、通常、37℃〜67℃、好ましくは、40℃〜50℃である。また、造粒槽内で行われる造粒処理によりポリカーボネート樹脂の固形化温度は、通常、37℃〜67℃、好ましくは、40℃〜50℃である。
造粒槽から連続的に排出されるポリカーボネート樹脂粉状体を含む水スラリーは、その後、所定の分離器に連続的に導入され、水スラリーから水が分離される。
(乾燥工程)
乾燥工程では、分離器において、水スラリーから水が分離されたポリカーボネート樹脂粉状体が、所定の乾燥機に連続的に供給され、所定の滞留時間で滞留させた後、連続的に抜き出される。乾燥機としては、例えば流動床型乾燥機が挙げられる。尚、複数の流動床型乾燥機を直列につなぎ、連続的に乾燥処理を行ってもよい。
ここで、乾燥機は、通常、熱媒ジャケット等の加熱手段を有し、例えば、水蒸気にて、通常、0.1MPa−G〜1.0MPa−G、好ましくは、0.2MPa−G〜0.6MPa−Gに保持されている。これにより、乾燥機の中を流通する窒素(N2)の温度は、通常、100℃〜200℃、好ましくは、120℃〜180℃に保持されている。
上述の界面法で得られたポリカーボネート樹脂は通常前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量のいずれも非常に少ない場合がある。そこで、本発明のポリカーボネート樹脂とするために以下の方法が用いられる。
界面法で得られたポリカーボネート樹脂を熱処理することにより前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量および前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、更には前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量を特定範囲に制御可能となる。熱処理は如何なる方法でも良いが、具体的には、バッチ形式によりポリカーボネート樹脂を槽内で加熱する方法、連続形式によりポリカーボネート樹脂を槽内で加熱する方法、ポリカーボネート樹脂を押出機で加熱する方法等が挙げられる。中でも1軸押出機または2軸押出機により加熱することがより好ましく、ベント口付き2軸押出機により加熱することが更に好ましい。熱処理温度としてはポリカーボネート樹脂温度として200℃〜400℃が好ましく、260℃〜390℃がより好ましく、270℃〜380℃がさらに好ましく、280℃〜370℃が最も好ましい。ポリカーボネート樹脂温度が低すぎると、本発明のポリカーボネート樹脂における前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量および前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、更には前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が少なく、難燃性が低下する虞がある。一方、ポリカーボネート樹脂温度が高すぎると、ポリマー色相が悪化し、また、本発明のポリカーボネート樹脂における前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量および前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、更には前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量のいずれも多くなりすぎ、溶媒に不溶のゲル状物や異物が発生する場合があり、外観不良およびポリカーボネート樹脂の機械物性が低下する虞がある。
尚、ポリカーボネート樹脂温度とは押出機であれば押出機出口におけるポリカーボネート樹脂温度、反応槽であれば槽内のポリカーボネート樹脂温度のことである。
熱処理時間としては、0.5分〜2時間が好ましく、より好ましくは1分〜1時間、さらに好ましくは1.5分〜30分、最も好ましくは2分〜10分である。熱処理時間が短すぎると、本発明のポリカーボネート樹脂における、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量および前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、更には前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量のいずれも少なくなり、難燃性が低下する虞がある。一方、熱処理時間が長すぎると、ポリマー色相が悪化し、また、本発明のポリカーボネート樹脂における前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量および前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量、更には前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量のいずれも多くなりすぎ、溶媒に不溶のゲル状物や異物が発生する場合があり、外観不良およびポリカーボネート樹脂の機械物性が低下する虞がある。尚、押出機による熱処理の場合、熱処理時間は、押出速度とバレル内体積から算出するものとする。
本発明のポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される化合物を主成分として含むジヒドロキシ化合物とカーボネート形成性化合物とを重合することにより得られるポリカーボネート樹脂に加え、必要に応じて、下記式(10)で表される化合物を主成分として含むジヒドロキシ化合物とカーボネート形成性化合物とを重合することにより得られるポリカーボネート樹脂を含むことができる。
ここで、式(10)中、Xは、前記式(1)における場合と同義である。
式(10)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂の具体例としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が挙げられる。
本発明では、式(1)で表される化合物を主成分として含むジヒドロキシ化合物とカーボネート形成性化合物とを重合することにより得られるポリカーボネート樹脂に加え、式(10)で表される化合物を主成分として含むジヒドロキシ化合物とカーボネート形成性化合物とを重合することにより得られるポリカーボネート樹脂とを併用する場合、式(1)で表される化合物を主成分として含むジヒドロキシ化合物とカーボネート形成性化合物とを重合することにより得られるポリカーボネート樹脂の含有量が、全ポリカーボネート樹脂中の10重量%以上であるのがより好ましく、20重量%以上がさらに好ましく、30重量%以上が最も好ましい。また、99重量%以下が好ましく、90重量%以下がより好ましい。式(1)で表される化合物を主成分として含むジヒドロキシ化合物とカーボネート形成性化合物とを重合することにより得られるポリカーボネート樹脂の含有量が多すぎると耐衝撃性が低下する虞があり、少なすぎると色調が悪化し、鉛筆硬度が下がり、難燃性が低下する虞がある。
(難燃剤)
本発明のポリカーボネート樹脂は難燃剤を添加してポリカーボネート樹脂組成物とした場合に、さらに顕著な効果を発揮し、難燃性が向上する。使用する難燃剤としては、例えば、スルホン酸金属塩系難燃剤、ハロゲン含有化合物系難燃剤、燐含有化合物系難燃剤及び珪素含有化合物系難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、スルホン酸金属塩系難燃剤が好ましい。
本発明で使用する難燃剤の配合量は、通常、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.01重量部以上であり、好ましくは、0.05重量部以上である。難燃剤の配合量が過度に少ないと、難燃効果が低下する。難燃剤の配合量が過度に多いと、樹脂成形品の機械強度が低下しすぎる傾向がある。
スルホン酸金属塩系難燃剤としては、脂肪族スルホン酸金属塩、芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられる。これら金属塩の金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの長周期型周期表第1族金属;ベリリウム、マグネシウムのマグネシウム類;カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の長周期型周期表第2族金属等が挙げられる。スルホン酸金属塩は、1種又は2種以上を混合して使用することもできる。スルホン酸金属塩としては、芳香族スルホンスルホン酸金属塩、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩等が挙げられる。
スルホン酸金属塩系難燃剤は、前記ポリカーボネート樹脂の100重量部に対し、好ましくは0.04〜0.3重量部、より好ましくは0.05〜0.2重量部添加される 芳香族スルホンスルホン酸金属塩の具体例としては、例えば、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、4,4´−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸ナトリウム、4,4´−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホンのカリウム、4−クロロー4´−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸カルシウム、ジフェニルスルホン−3,3´−ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルスルホン−3,3´−ジスルホン酸ジカリウム等が挙げられる。
パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸のテトラエチルアンモニウム塩等が挙げられる。
ハロゲン含有化合物系難燃剤の具体例としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、トリブロモフェノール、臭素化芳香族トリアジン、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAエポキシポリマー、デカブロモジフェニルオキサイド、トリブロモアリルエーテル、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、エチレンビステトラブロモフタルイミド、デカブロモジフェニルエタン、臭素化ポリスチレン、ヘキサブロモシクロドデカン等が挙げられる。
ハロゲン含有化合物系難燃剤は、前記ポリカーボネート樹脂の100重量部に対して好ましくは5〜30重量部、より好ましくは10〜25重量部添加される。
燐含有化合物系難燃剤としては、赤燐、被覆された赤燐、ポリリン酸塩系化合物、リン酸エステル系化合物、フォスファゼン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、リン酸エステル化合物の具体例としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート等が挙げられる。
燐含有化合物系難燃剤は、前記ポリカーボネート樹脂の100重量部に対して好ましくは3〜15重量部、より好ましくは5〜25重量部、最も好ましくは10〜12重量部添加される。
珪素含有化合物系難燃剤としては、例えば、シリコーンワニス、ケイ素原子と結合する置換基が芳香族炭化水素基と炭素数2以上の脂肪族炭化水素基とからなるシリコーン樹脂、主鎖が分岐構造でかつ含有する有機官能基中に芳香族基を持つシリコーン化合物、シリカ粉末の表面に官能基を有していてもよいポリジオルガノシロキサン重合体を担持させたシリコーン粉末、オルガノポリシロキサン−ポリカーボネート共重合体等が挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂より形成される成形体は、前述した式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂と難燃剤と組み合わせることにより、例えば、ビスフェノールAを原料モノマーとして得られるポリカーボネート樹脂(「A−PC」と記す。)を用いる樹脂組成物から形成される成形体と比較して、難燃性が向上する。
本発明のポリカーボネート樹脂から形成される成形体の難燃性が向上する理由は明確ではないが、例えば、ポリカーボネート樹脂成分に、芳香族ジヒドロキシ化合物の2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを原料モノマーとして使用して得られたポリカーボネート樹脂(「C−PC」と記す。)を用いる場合を例に挙げると、以下のように考えられる。
すなわち、本発明のポリカーボネート樹脂が有する、前記式(2)で表される化合物に由来する構造単位、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位、および前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位から生成する分岐構造のために、低剪断領域での粘度が大きくなり、このため、燃焼試験において燃焼滴下物(ドリップ)が抑制され、難燃性が向上すると考えられる。さらにC−PC等は、A−PCと比較して、骨格を形成するベンゼン環にメチル基を有することにより分子鎖が切れ易く、分解が早い。このため、C−PC等は素早く分解して黒鉛化し、断熱層(チャー)を形成することにより難燃性を発現しやすい。C−PC等の熱分解開始温度がA−PCと比較して低いのは、ビスフェノール骨格の「2個のベンゼン環の3位がメチル基で置換されている」という構造上の差違が影響していると考えられる。
本発明のポリカーボネート樹脂から形成される成形体は、このような特質を有することから、例えば、携帯電話、PC等の精密機器用筐体;TV等の家電製品ハウジング;スクリーン用フィルム;グレージング等の二色以上の多色成形樹脂成形品の外装部材;カーポート、農業ハウス、防音板等の建築資材の表層二層以上の多層押出品等の高寸法精度が要求される樹脂部材の原材料として有用である。
また、本発明のポリカーボネート樹脂からは、高硬度且つ難燃性が向上した樹脂成形体を調製することが可能であり、さらに該成形体は、ランプレンズ、保護カバー、拡散板等のLED等照明関連樹脂成形品;眼鏡レンズ、自販機ボタン、携帯機器等のキー等に好適に用いられる。
<添加剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、種々の添加剤が配合される。添加剤としては、例えば、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、ワラストナイト、珪酸カルシウム、硼酸アルミニウムウィスカー等が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂と難燃剤及び必要に応じて配合される添加剤等の混合方法は特に限定されない。本発明では、例えば、ペレット又は粉末等の固体状態のポリカーボネート樹脂と難燃剤等を混合後、押出機等で混練する方法、溶融状態のポリカーボネート樹脂と難燃剤等とを混合する方法、溶融法又は界面法における原料モノマーの重合反応の途中又は重合反応終了時に難燃剤等を添加する方法等が挙げられる。
<ポリカーボネート樹脂成形体>
本発明のポリカーボネート樹脂およびポリカーボネート樹脂組成物を用いて、ポリカーボネート樹脂成形体が調製される。ポリカーボネート樹脂成形体の成形方法は特に限定されず、例えば、射出成型機等の従来公知の成型機を用いて成形する方法等が挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂成形体は、例えば、ビスフェノールA等をモノマーとして得られるポリカーボネート樹脂を使用する場合と比較して、成形体の表面硬度及び透明性の低下が抑制され、且つ難燃性が良好である。
具体的には、本発明のポリカーボネート樹脂組成物から形成される成形体は、難燃性については、厚さ2mm以下の試験片によるUL94の難燃性試験においてV−0規格を満たすことが好ましい。透明性については、JIS−K7136の規定に基づく厚さ3mmの試験片によるヘーズ値が1.0以下であることが好ましい。
<鉛筆硬度>
本発明のポリカーボネート樹脂、及びポリカーボネート樹脂組成物は、JIS K5600に準拠した鉛筆硬度が、HB以上であることが好ましい。該鉛筆硬度は、より好ましくは、F以上であり、さらに好ましくはH以上である。但し、通常、3H以下である。該鉛筆硬度がHB未満では、樹脂成形体の表面が傷つきやすい傾向がある。
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で使用したポリカーボネート樹脂並びに組成物の物性は、下記の方法により評価した。
(1)粘度平均分子量(Mv)
ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
(2)ポリカーボネートの末端水酸基濃度(OH)
ポリカーボネートの末端水酸基濃度は、四塩化チタン/酢酸法(Makromol. Chem. 88, 215(1965)参照)に準拠し、比色定量を行うことにより測定した。
(3)式(2)式(3)および式(4)で表される化合物に由来する構造単位の定量
ポリカーボネート樹脂0.5gを塩化メチレン5mlに溶解した後、メタノール45mlおよび25重量%水酸化ナトリウム水溶液5mlを加え、70℃で30分間攪拌する。得られた溶液を液体クロマトグラフィーにて分析し、式(2)式(3)および式(4)で表される化合物に由来する構造単位を定量する。尚、定量は式(1)で表される繰り返し単位の定量にて作成した検量線を用いて行った。
液体クロマトグラフィー測定は、以下の方法で実施した。
装置:(株)島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:YMC−Pack ODS−AM 75mm×Φ4.6mm
オーブン温度:40℃
検出波長:280nm
溶離液:A液:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、B液:アセトニトリル
A/B=60/40(vol%)からA/B=95/5(vol%)まで
25分間でグラジエント
流量:1mL/min
試料注入量:20μl
また、式(2)で表される化合物に由来する構造単位である化合物2、前記式(3)で表される化合物に由来する構造単位である化合物3、および前記式(4)で表される化合物に由来する構造単位である化合物4は、上記液体クロマトグラフィー条件にて、下記リテンションタイムに観測された。
式(4)で表される化合物4:13.9分
式(2)で表される化合物2:15.9分
式(3)で表される化合物3:21分
各化合物の特定は、上記リテンションタイムに観測されるピークに相当する部分を分取し、分取したサンプルの1H NMR、13C NMR、二次元NMR法、質量分析法(MS)、赤外線吸収スペクトル法(IRスペクトル)により実施した。
式(4)で表される化合物4は、上記分取したサンプルの質量分析法による分子量と、各NMRスペクトルシグナル、さらにIRスペクトルにおいてアルデヒドに由来するシグナルが観測されたことから特定した。式(2)で表される化合物2は、上記分取したサンプルの質量分析法による分子量と、各NMRスペクトルシグナル、さらにIRスペクトルにおいてカルボン酸に由来するシグナルが観測されたことから特定した。式(3)で表される化合物3は、表される化合物は上記分取したサンプルの質量分析法による分子量と、各NMRスペクトルシグナルより特定した。
(4)塩化メチレン不溶物有無の判定
ポリカーボネート樹脂0.5gを塩化メチレン5mlに浸漬し、30分間攪拌した後、グラスフィルターで濾過を実施した。このグラスフィルターを常温にて真空乾燥を2時間実施後、ろ過前と比較して重量増加が0.01g以上ある場合を塩化メチレン不溶物有りと判定した。また、重量増加が0.01g以下である場合を塩化メチレン不溶物無しと判定した。
(5)射出成形体の鉛筆硬度
射出成形機(株式会社日本製鋼所製J50E2)を用い、バレル温度280℃、金型温度90℃の条件下にて、厚み3mm、縦60mm、横60mmのポリカーボネート樹脂のプレート(成形体)又はポリカーボネート樹脂組成物のプレート(成形体)を射出成形した。この成形体について、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
(6)難燃剤添加した場合の射出成形体のV−0達成厚み
ポリカーボネート樹脂を二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30XCT)により、バレル温度280℃で混練し、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを得た。その際難燃剤としてパーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(Bayer社製バイオウェットC4)を0.1重量%、離型剤としてペンタエリスリトールテトラステアレート(日油社製ユニスターH−476)を0.1重量%添加した。得られたペレットは、80℃、5時間乾燥し、射出成型機(住友重機械工業社製SE100DU)により、シリンダ温度260℃〜280℃、成形サイクル30秒の条件で、UL規格に従い、厚みを変化させた試験片を射出成形し、UL規格94の垂直燃焼試験を行った。
本発明では各ポリカーボネート樹脂組成物の3mm、2mm、1.8mm、1.5mm、1.2mm、1.0mm、0.8mmの厚みの試験片にて評価した際にV−0を達成する最も厚い厚みをV−0達成厚みとした。尚、V−0達成厚みが薄いほど、薄肉での難燃性が高いことを意味する。
[実施例1]
ジヒドロキシ化合物として、2,2−ビス(4−ヒドロキシ-3−メチルフェニル)プロパン(以下、「BPC」と略記する場合がある。)(本州化学社製)37.6kg(約147mol)とジフェニルカーボネート(DPC)32.2kg(約150mol)に、炭酸セシウムの水溶液を、炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり1.5μmolとなるように添加して混合物を調整した。次に該混合物を、攪拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ、還流冷却器を具備した内容量200Lの第1反応器に投入した。
次に、第1反応器内を1.33kPa(10Torr)に減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を5回繰り返し、第1反応器の内部を窒素置換した。窒素置換後、熱媒ジャケットに温度230℃の熱媒を通じて第1反応器の内温を徐々に昇温させ、混合物を溶解させた。その後、300rpmで撹拌機を回転させ、熱媒ジャケット内の温度をコントロールして、第1反応器の内温を220℃に保った。そして、第1反応器の内部で行われるBPCとDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて第1反応器内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100Torr)まで減圧した。
続いて、第1反応器内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。系内を窒素で絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、予め200℃以上に加熱した移送配管を経由して、第1反応器内のオリゴマーを第2反応器に圧送した。尚、第2反応器は内容量200Lであり、攪拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ並びに還流冷却管を具備しており、内圧は大気圧、内温は240℃に制御していた。
次に、第2反応器内に圧送したオリゴマーを38rpmで攪拌し、熱媒ジャケットにて内温を昇温し、第2反応器内を40分かけて絶対圧で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。その後、昇温を継続し、さらに40分かけて、内圧を絶対圧で13.3kPaから399Pa(3Torr)まで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。さらに、昇温を続け、第2反応器内の絶対圧が70Pa(約0.5Torr)に到達後、70Paを保持し、重縮合反応を行った。第2反応器内の最終的な内部温度は279℃とした。第2反応器の攪拌機が予め定めた所定の攪拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。第2反応器での重合反応時間は120分であった。
このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
[実施例2]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり1.5μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を285℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は実施例1と同様に実施した。第2反応器での重合反応時間は235分であった。
このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
[実施例3]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり2.0μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を280℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は実施例1と同様に実施した。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。第2反応器での重合反応時間は207分であった。結果を表1に示す。
[実施例4]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり2.0μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を280℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は実施例1と同様に実施した。第2反応器での重合反応時間は180分であった。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
[実施例5]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり2.0μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を290℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は実施例1と同様に実施した。第2反応器での重合反応時間は201分であった。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
[比較例1]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり2.0μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を306℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は実施例1と同様に実施した。第2反応器での重合反応時間は202分であった。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。このポリカーボネート樹脂は塩化メチレン不溶物が含有されていた。
[比較例2]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり2.0μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を300℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は実施例1と同様に実施した。第2反応器での重合反応時間は275分であった。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。このポリカーボネート樹脂は塩化メチレン不溶物が含有されていた。
[比較例3]
BPC13.80kg/時、水酸化ナトリウム(NaOH)5.8kg/時及び水93.5kg/時を、ハイドロサルファイト0.017kg/時の存在下に、35℃で溶解した後、25℃に冷却した水相と5℃に冷却した塩化メチレン61.9kg/時の有機相とを、各々内径6mm、外径8mmのテフロン(登録商標)製配管に供給し、これに接続する内径6mm、長さ34mのテフロン(登録商標)製パイプリアクターにおいて、ここに別途導入される0℃に冷却した液化ホスゲン7.2kg/時と接触させた。
上記原料は、ホスゲンとパイプリアクター内を1.7m/秒の線速度にて20秒間流通する間に、ホスゲン化、オリゴマー化反応が行われる。このとき、反応温度は、断熱系で塔頂温度60℃に達した。反応物の温度は、次のオリゴマー化槽に入る前に35℃まで外部冷却を行い調節した。
オリゴマー化に際し、触媒としてトリエチルアミン5g/時(BPC1モルに対して0.9×10-3モル)、分子量調節剤としてp−t−ブチルフェノール0.153kg/時を用い、これらは各々、オリゴマー化槽に導入した。
この様にして、パイプリアクターより得られるオリゴマー化された乳濁液を、さらに内容積50リットルの撹拌機付き反応槽に導き、窒素ガス(N2)雰囲気下30℃で撹拌し、オリゴマー化することで、水相中に存在する未反応のBPCのナトリウム塩(BPC−Na)を消費させ、その後、水相と油相を静置分離し、オリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。
上記オリゴマーの塩化メチレン溶液のうち、23kgを、内容積70リットルのファウドラー翼付き反応槽に仕込み、これに希釈用塩化メチレン10kgを追加し、さらに25重量%水酸化ナトリウム水溶液2.2kg、水6kg及びトリエチルアミン2.2g(BPC1モルに対して1.1×10-3モル)を加え、窒素ガス雰囲気下30℃で撹拌し、60分間重縮合反応を行ってポリカーボネート樹脂を得た。
次いで、塩化メチレン30kg及び水7kgを加え、20分間撹拌した後、撹拌を停止し、水相と有機相を分離した。分離した有機相に、0.1N塩酸20kgを加え15分間撹拌し、トリエチルアミン及び小量残存するアルカリ成分を抽出した後、撹拌を停止し、水相と有機相を分離した。
更に、分離した有機相に、純水20kgを加え、15分間撹拌した後、撹拌を停止し、水相と有機相を分離した。この操作を抽出排水中の塩素イオンが検出されなくなるまで(3回)繰り返した。得られた精製された有機相を、40℃温水中にフィードすることで粉化し、乾燥後、ポリカーボネート樹脂の粒状粉末を得た。
[比較例4]
BPC(本州化学工業株式会社製)を360重量部、25重量%水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液585.1重量部および水1721.5重量部をハイドロサルファイト0.41重量部の存在下に、40℃で溶解したのち20℃に冷却し、BPC水溶液を得た。このBPC水溶液8.87kg/時間と塩化メチレン4.50kg/時間とを、還流冷却器、攪拌機、冷媒ジャケットを有する1.8Lのガラス製第一反応器に導入し、ここに別途供給される常温のホスゲン0.672kg/時間とを接触させた。このときの反応温度は35℃に達した。次にこの反応液・反応ガスを反応器に取り付けてあるオーバーフロー管にて次の第一反応器と同じ形状を有する第二反応器(1.8L)に導入し、反応させた。第二反応器には、別途、分子量調整剤としてp−t−ブチルフェノール(8重量%塩化メチレン溶液)0.097kg/時間を導入した。次いで、第二反応器に取り付けてあるオーバーフロー管より反応液・反応ガスを第一反応器と同じ形状を有するオリゴマー化槽(4.5L)に導入した。オリゴマー化槽には別途触媒として2重量%トリメチルアミン水溶液0.020kg/時間を導入した。次いで、このようにして得られたオリゴマー化された乳濁液をさらに内容積5.4Lの分液槽(セトラー)に導き、水相と油槽を分離し、オリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。
上記オリゴマーの塩化メチレン溶液のうち、2.258kgを内容積6.8Lのパドル翼付き反応槽に仕込み、これに希釈用塩化メチレン2.780kgを追加し、さらに25重量%水酸化ナトリウム水溶液0.280kg、水0.925kg、2重量%トリエチルアミン水溶液8.37g、p−t−ブチルフェノール(8重量%塩化メチレン溶液)1.94g、10℃で攪拌し、300分間重縮合反応を行った。
上記重縮合反応液のうち、3.12kgを内容積5.4Lのパドル翼付き反応槽に仕込み、これに塩化メチレン2.54kg及び水0.575kgを加え、15分間攪拌した後、攪拌を停止し、水相と有機相を分離した。分離した有機相に、0.1N塩酸1.16kgを加え15分間攪拌し、トリエチルアミン及び少量残存するアルカリ成分を抽出した後、攪拌を停止し、水相と有機相を分離した。更に、分離した有機相に、純水1.16kgを加え、15分間攪拌した後、攪拌を停止し、水相と有機相を分離した。この操作を3回繰り返した。得られた精製された有機相を60〜75℃温水中にフィードすることで粉化し、乾燥し、粉末状ポリカーボネート樹脂を得た。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
[実施例6]
比較例3で得られた粉末状ポリカーボネート樹脂を1つのベント口を有する日本製鋼所製2軸押出機(LABOTEX30HSS−32)にて、入口のバレル設定温度100℃、出口のバレル設定温度330℃、ポリカーボネート樹脂出口温度367℃、熱処理時間4分にて溶融混練し、2軸押出機の出口からストランド状に押し出し、水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化し、ポリカーボネート樹脂ペレットを得た。なお、溶融混練時は、2軸押出機のベント口は真空ポンプに連結し、前記ベント口での圧力が500Paになるように制御した。
このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
実施例3〜5と比較例1を比較すると射出成形体の鉛筆硬度と難燃剤を添加した場合の射出成形体のV−0達成厚みはほぼ同等であるが、比較例1では化合物(2)、化合物(3)の量が多いために、塩化メチレン不溶物が発生していることがわかる。実施例3と比較例3を比較すると、Mvはほぼ同じであるが、難燃剤を添加した場合の射出成形体のV−0達成厚みは比較例3の方が厚く、難燃性が低いことがわかる。さらに実施例3と比較例4を比較すると、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)が未検出のポリカーボネートだとMvが高くV−0達成厚みが厚く、難燃性に劣ることがわかる。
本発明によれば、簡便な方法により、表面硬度にすぐれ、難燃性が高く、異物の少ないポリカーボネート樹脂組成物及び成形品を得ることができ、携帯電話・パソコン等の電気・電子機器分野、ヘッドランプレンズ・車両用窓等の自動車分野、照明・エクステリア等の建材分野等の、特には表面硬度を要求される用途への利用分野の拡大が可能となる。
本発明者等は、上記目的を達成するため鋭意検討したところ、特定の繰り返し単位を持つポリカーボネート樹脂において、特定の構造単位の含有量を特定の範囲に調整することにより、表面硬度が高く、難燃性が高く、更に異物の少ないポリカーボネート樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は下記[1]〜[5]に係るポリカーボネート樹脂およびポリカーボネート樹脂の製造方法に存する。
また、本発明の要旨は下記[A1]〜[A6]に係るポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に存する。
[1]
下記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂であって、下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が20ppm以上2000ppm以下であるポリカーボネート樹脂。
(式(4)中、R1及びXは、前記式(1)と同義である。R5は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
[4]
前記式(1)で表される化合物を含むジヒドロキシ化合物成分と、カーボネート形成性化合物成分とを重合することにより得られる、[1]から[3]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂の製造方法であって、該カーボネート形成性化合物成分が炭酸ジエステルである、ポリカーボネート樹脂の製造方法。
[5]
長周期型周期表第1族および第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物の存在下で重合する、[4]に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
[A1]
界面法によるポリカーボネート樹脂の製造方法であって、該ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂であって、下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が20ppm以上1000ppm以下である、ポリカーボネート樹脂の製造方法
(式(1)中、R 1 及びR 2 は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)

(式(2)中、R 1 及びR 2 は、前記式(1)と同じ基を示し、R 3 は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
[A2]
下記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が200ppm以上7000ppm以下である[A1]に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法
(式(3)中、R 1 、R 2 、Xは、前記式(1)と同じ基を示し、R 4 は、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
[A3]
下記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が100ppm以上2000ppm以下である、[A1]又は[A2]に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法
(式(4)中、R 1 及びXは、前記式(1)と同義である。R 5 は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
[A4]
前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が15000以上40000以下である、[A1]から[A3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
[A5]
界面法による重縮合反応後に、更に熱処理する、[A1]から[A4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の製造方法。
[A6]
下記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有し、下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が20ppm以上1000ppm以下である界面法で得られたポリカーボネート樹脂に難燃剤を添加する、ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
(式(1)中、R 1 及びR 2 は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)

(式(2)中、R 1 及びR 2 は、前記式(1)と同じ基を示し、R 3 は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
参考例1]
ジヒドロキシ化合物として、2,2−ビス(4−ヒドロキシ-3−メチルフェニル)プロパン(以下、「BPC」と略記する場合がある。)(本州化学社製)37.6kg(約147mol)とジフェニルカーボネート(DPC)32.2kg(約150mol)に、炭酸セシウムの水溶液を、炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり1.5μmolとなるように添加して混合物を調整した。次に該混合物を、攪拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ、還流冷却器を具備した内容量200Lの第1反応器に投入した。
参考例2]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり1.5μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を285℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は参考例1と同様に実施した。第2反応器での重合反応時間は235分であった。
このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
参考例3]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり2.0μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を280℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は参考例1と同様に実施した。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。第2反応器での重合反応時間は207分であった。結果を表1に示す。
参考例4]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり2.0μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を280℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は参考例1と同様に実施した。第2反応器での重合反応時間は180分であった。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
参考例5]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり2.0μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を290℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は参考例1と同様に実施した。第2反応器での重合反応時間は201分であった。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
[比較例1]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり2.0μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を306℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は参考例1と同様に実施した。第2反応器での重合反応時間は202分であった。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。このポリカーボネート樹脂は塩化メチレン不溶物が含有されていた。
[比較例2]
炭酸セシウムがジヒドロキシ化合物1mol当たり2.0μmolとなるように添加し、第2反応器の攪拌機の終了時の温度を300℃とし、所定の攪拌動力値を変えた以外は参考例1と同様に実施した。第2反応器での重合反応時間は275分であった。このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。このポリカーボネート樹脂は塩化メチレン不溶物が含有されていた。
[実施例]
比較例3で得られた粉末状ポリカーボネート樹脂を1つのベント口を有する日本製鋼所製2軸押出機(LABOTEX30HSS−32)にて、入口のバレル設定温度100℃、出口のバレル設定温度330℃、ポリカーボネート樹脂出口温度367℃、熱処理時間4分にて溶融混練し、2軸押出機の出口からストランド状に押し出し、水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化し、ポリカーボネート樹脂ペレットを得た。なお、溶融混練時は、2軸押出機のベント口は真空ポンプに連結し、前記ベント口での圧力が500Paになるように制御した。
このポリカーボネート樹脂を上記の手順に従い、各評価を実施した。結果を表1に示す。
参考例3〜5と比較例1を比較すると射出成形体の鉛筆硬度と難燃剤を添加した場合の射出成形体のV−0達成厚みはほぼ同等であるが、比較例1では化合物(2)、化合物(3)の量が多いために、塩化メチレン不溶物が発生していることがわかる。参考例3と比較例3を比較すると、Mvはほぼ同じであるが、難燃剤を添加した場合の射出成形体のV−0達成厚みは比較例3の方が厚く、難燃性が低いことがわかる。さらに参考例3と比較例4を比較すると、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)が未検出のポリカーボネートだとMvが高くV−0達成厚みが厚く、難燃性に劣ることがわかる。

Claims (4)

  1. 下記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂であって、下記式(2)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が20ppm以上1000ppm以下であるポリカーボネート樹脂。
    (式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
    (式(2)中、R1及びR2は、前記式(1)と同じ基を示し、R3は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
  2. 下記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂であって、下記式(3)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が200ppm以上7000ppm以下であるポリカーボネート樹脂。
    (式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
    (式(3)中、R1、R2、Xは、前記式(1)と同じ基を示し、R4は、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
  3. 下記式(1)で表される化合物に由来する繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂であって、下記式(4)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が100ppm以上2000ppm以下である請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂。
    (式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
    (式(4)中、R1及びXは、前記式(1)と同義である。R5は、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1以上20以下のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。)
  4. 前記式(1)で表される化合物を含むジヒドロキシ化合物成分と、カーボネート形成性化合物成分とを重合することにより得られる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂の製造方法であって、該カーボネート形成性化合物成分が炭酸ジエステルであり、
    長周期型周期表第1族および第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物の存在下で重合する、ポリカーボネート樹脂の製造方法。
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