JP2016144888A - メッキされた部品からなる異音の発生が抑制された物品 - Google Patents

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Abstract

【課題】表面がメッキされた2つの部品の一方が他方の部品のメッキされた部分と接触する場合でも、軋み音等の異音の発生が抑制されたものを提供する。
【解決手段】互いに接触する2つの部品10、20を少なくとも備え、2つの部品10,20は、何れも、その表面の少なくとも一部がメッキ13、23されてなる物品であって、2つの部品10,20の少なくとも一方10は、他方の部品20のメッキされた部分23と接触する部分13の少なくとも一部が、成分(A)5〜40質量%と成分(B)60〜95質量%と(但し、成分(A)と成分(B)の合計は100質量%)を含有する熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている物品。成分(A);ポリプロピレン系樹脂。成分(B);エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを含有し、JIS K 7121−1987に従って測定した融点が0〜130℃の範囲にあるゴム強化芳香族ビニル系樹脂。
【選択図】図9

Description

本発明は、互いに接触する2つの部品を少なくとも備えてなる物品において、前記2つの部品の何れも、その表面の少なくとも一部がメッキされていて、前記2つの部品の一方が他方の部品のメッキされた部分と接触する場合でも、軋み音等の異音の発生が抑制されるようにしたものに関する。
樹脂成形品は、今日、車両、電気・電子機器、OA(オフィスオートメーション)機器、家電製品、建材、サニタリー用品等の各種製品の部品として広く用いられている。これらの製品は通常複数の部品の組立体からなり、これら部品同士は嵌合されたり、当接されたり、重ね合わされたり、螺子等で締結されたりすることにより、互いに隣接又は接触して配置されることが多い。このような組立体は、振動、回転、ねじれ、摺動、衝撃等が加わることで、隣接する部品同士が互いに動的に接触して擦れ合うと、軋み音(擦れ音)が発生することが知られている。例えば、自動車内に配設されたエアコンの吹出口又はオーディオの筐体部品と、その周縁又は内部に配置された嵌合部品とが、振動等により擦れ合うことで軋み音が発生することがある。上述の軋み音は、2つの物体が擦れ合う時に発生するスティックスリップ現象に起因して生じる異音として知られており、単なる樹脂の摺動とは異なる性質に起因する。
スティックスリップ現象は、図11に示されるように、摩擦力が周期的に大きく変動する現象として理解されており、より具体的には、図12に示されるようにして発生する。すなわち、図12(a)のモデルで示されるように駆動速度Vで動く駆動台の上にバネでつながれた物体Mが置かれた場合、物体Mは先ず静摩擦力の作用により駆動速度Vで移動する台とともに図12(b)のように右方向に移動する。そしてバネによって元に戻されようとする力が、この静摩擦力と等しくなったとき、物体Mは駆動速度Vと逆の方向に滑り出す。このときに、物体Mは動摩擦力を受けることになるので、バネの力とこの動摩擦力が等しくなった図12(c)の時点で滑りが止まり、すなわち駆動台に付着することになり、再び駆動速度Vと同じ方向に移動することになる(図12(d))。これをスティックスリップ現象といい、図11に示されるように、静摩擦係数μsと、ノコギリ波形下端の摩擦係数μlの差Δμが大きいと、軋み音が発生しやすくなるといわれている。尚、動摩擦係数はμsとμlの中間の値になる。よって、静摩擦係数の絶対値が小さくても、Δμが大きければ、軋み音が発生しやすくなる。これらの軋み音は、自動車室内やオフィス内、住宅室内の快適性や静粛性を損ねる大きな原因となっており、軋み音の低減が強く要求されている。
従来、融点を備えたエチレン・α−オレフィン系ゴムなどの結晶性を有するゴムで強化されたゴム強化芳香族ビニル系樹脂を成形材料として用いることで、成形品の軋み音の発生を抑制できることが知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。しかし、この成形材料から得られた成形品は、ジエン系ゴムで強化されたABS樹脂のようなゴム強化芳香族ビニル系樹脂に比べてメッキ性が劣っていた。
従来、非ジエン系ゴムで強化されたゴム強化芳香族ビニル系樹脂のメッキ性を向上させるために、所定量のポリプロピレン系樹脂を配合してアロイ化することは知られている(特許文献3)。しかし、このアロイからなる成形品にメッキを施した複数の部品を組み合わせて物品を構成した場合、これらの部品のメッキ面同士が接触する際に軋み音等の異音が発生することがわかった。
特開2013−112812号公報 国際公開第2013/031946号 特開2008−150593号公報
本発明の目的は、表面の少なくとも一部がメッキされてなる部品を少なくとも2つ備えた物品であって、前記2つの部品の一方が他方の部品のメッキされた部分、特にメッキ面と接触する場合でも、軋み音等の異音の発生が抑制されたものを提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、上記物品において、一方の部品のメッキされた部分と接触する他方の部品の部分の少なくとも一部を特定の熱可塑性樹脂(X)で形成することにより上記異音の発生が抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして、本発明の一局面によれば、互いに接触する2つの部品を少なくとも備え、前記2つの部品は、何れも、その表面の少なくとも一部がメッキされてなる物品であって、
前記2つの部品の少なくとも一方は、他方の部品のメッキされた部分と接触する部分の少なくとも一部が、下記成分(A)5〜40質量%と下記成分(B)60〜95質量%と(但し、成分(A)と成分(B)の合計は100質量%)を含有する熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている物品が提供される。
成分(A);ポリプロピレン系樹脂。
成分(B);エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを含有し、JIS K 7121−1987に従って測定した融点が0〜130℃の範囲にあるゴム強化芳香族ビニル系樹脂。
また、本発明の他の局面によれば、互いに接触する2つの部品を少なくとも備え、前記2つの部品は、何れも、その表面の少なくとも一部がメッキされている物品を構成する部品であって、
他方の部品のメッキされた部分と接触する部分の少なくとも一部が、上記成分(A)5〜40質量%と上記成分(B)60〜95質量%と(但し、成分(A)と成分(B)の合計は100質量%)を含有する熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている部品が提供される。
本発明によれば、表面の少なくとも一部がメッキされてなる部品を少なくとも2つ備えた物品において、一方の部品のメッキされた部分と接触する他方の部品の部分の少なくとも一部を特定の熱可塑性樹脂(X)で形成することにより、両部品のメッキされた表面同士が直接接触することを防止するとともに、一方の部品のメッキされた部分が他方の部品の特定の熱可塑性樹脂(X)で形成された部分と接触するようにしたので、軋み音などの異音の発生を防止できる。上記熱可塑性樹脂(X)は、メッキ性にも優れているため、前記2つの部品の全体又は他方の部品と接触する部分の一部若しくは全部を上記熱可塑性樹脂(X)で成形した場合は、軋み音などの異音の発生を防止できるだけでなく、部品のメッキ性も良好に維持することができる。
本発明の物品の一例を示す断面図である。 本発明の他の物品の一例を示す断面図である。 本発明の他の物品の一例を示す断面図である。 本発明の他の物品の一例を示す断面図である。 本発明の他の物品の一例を示す断面図である。 本発明の他の物品の一例を示す断面図である。 本発明の他の物品の一例を示す断面図である。 本発明の他の物品の一例を示す断面図である。 本発明の他の物品の一例を示す断面図である。 本発明の他の物品の一例を示す斜視図である。 図10の物品の軸線方向断面図である。 スティックスリップ現象の説明図である。 (a)、(b)、(c)、(d)はスティックスリップ現象のモデル図である。
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び/又は共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
また、JIS K 7121−1987に準じて測定した融点(本明細書において、「Tm」と表記することもある)は、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値である。
1.本発明の物品
本発明の物品は、互いに接触する2つの部品を少なくとも備え、前記2つの部品は、何れも、その表面の少なくとも一部がメッキされてなり、前記2つの部品の少なくとも一方は、他方の部品のメッキされた部分と接触する部分の少なくとも一部が上記熱可塑性樹脂(X)で形成されている。換言すれば、本発明の物品は、互いに接触する第一の部品と第二の部品とを少なくとも備え、前記2つの部品は、何れも、その表面の少なくとも一部がメッキされてなり、前記第一の部品は、前記第二の部品のメッキされた部分(特に、メッキされた表面)と接触する部分(特に、前記第一の部品の端面)の少なくとも一部が、上記熱可塑性樹脂(X)で形成されていればよい。とりわけ、前記第一の部品は、その全体又は前記第二の部品のメッキされた部分(特に、メッキされた表面)と接触する部分(特に、前記第一の部品の端面)の一部若しくは全部が、前記熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されていることが好ましい。本発明の構成は、前記第一及び第二の部品が上記のように互いに接触するものであればよいが、特に、スナップフィット、螺合等により凹凸部を介して接触する物品に好適に使用することができる。
本発明の物品の具体例としては、図1に示されるように、片方の表面に断続的にメッキ13が施された樹脂成形品11からなる第一の部品10と、接触部(端面)25以外の全表面にメッキ23が施された樹脂成形品21からなる第二の部品20とで構成された物品が挙げられる。図1の物品では、第一の部品10の断続的にメッキされた表面の側のメッキされていない部分に、第二の部品20の接触部(端面)25およびそのメッキ23が接触するが、本発明に従い第一の部品10の樹脂成形品11を熱可塑性樹脂組成物(X)から形成した場合には、両部品が動的に接触した場合でも軋み音等の異音の発生が抑制される。なお、第二の部品20の樹脂成形品21も熱可塑性樹脂組成物(X)から形成してもよい。
本発明の物品の他の具体例としては、図2に示されるように、片方の表面の全体にメッキ13が施された樹脂成形品11からなる第一の部品10と、接触部(端面)25以外の全表面にメッキ23が施された樹脂成形品21a、21bからなる第二の部品20とで構成された物品が挙げられる。図2の物品では、第一の部品10のメッキされた表面の上に、第二の部品20の接触部(端面)25及びそのメッキ23が接触するが、本発明に従い接触部(端面)25の成形品部分21aを熱可塑性樹脂組成物(X)で形成した場合は、両部品が動的に接触した場合でも軋み音等の異音の発生が抑制される。なお、第二の部品20の樹脂成形品は、前記部分21a以外の部分21bも熱可塑性樹脂組成物(X)で形成してもよく、換言すれば、第二の部品20の樹脂成形品21a、21bの全体を熱可塑性樹脂組成物(X)で形成しても¥よい。図2の態様は、図1の態様と異なり、第一の部品10の第二の部品20と接触する表面全体をメッキすることができるので、製造も容易であり、また、物品の外観に非メッキ部分が現れないので、意匠的にも好ましい。
本発明の物品の他の具体例としては、図3に示されるように、上面のみにメッキ13が施された樹脂成形品11からなる第一の部品10と、上面及び両側面にメッキ23が施された樹脂成形品21からなる第二の部品20とで構成された物品が挙げられる。図3の物品では、第一の部品10の接触面(側面)15及びそのメッキ13が第二の部品20のメッキされた側面に当接しているが、本発明に従い第一の部品10の樹脂成形品11を熱可塑性樹脂組成物(X)から形成した場合には、両部品が動的に接触した場合でも軋み音等の異音の発生が抑制される。なお、第二の部品20の樹脂成形品21も熱可塑性樹脂組成物(X)から形成してもよい。
本発明の物品の他の具体例としては、図4に示されるように、樹脂成形品11の端部を樹脂成形品21の側面の相補的な穴に嵌め込んで組み立てた組立体の上面のみにメッキ13及び23を施してなる物品が挙げられる。図4の物品では、樹脂成形品21の側面のメッキ23が樹脂成形品11の上面の樹脂成形品21との接触部(隣接部)15と接触しているが、通常、メッキの膜厚は薄いため、本発明に従い樹脂成形品11を熱可塑性樹脂組成物(X)から形成した場合には、両成形品が動的に接触した場合でも軋み音等の異音の発生が抑制される。なお、第二の部品20の樹脂成形品21も熱可塑性樹脂組成物(X)から形成してもよい。
本発明の物品の他の具体例としては、図5に示されるように、断面L字形の樹脂成形品11からなる第一の部品10と、第一の部品10の隅角部に架け渡された平板状の樹脂成形品21からなる第二の部品20とから構成され、樹脂成形品21の両端部を樹脂成形品11の相補的な穴に嵌め込んで固定するとともに、両樹脂成形品11及び21の内面にメッキ13,23を施した物品が挙げられる。図5の物品では、図4の物品と同様に、樹脂成形品21のメッキ23が樹脂成形品11の樹脂成形品21との接触部(隣接部)15と接触しているが、本発明に従い樹脂成形品11を熱可塑性樹脂組成物(X)から形成した場合には、両成形品が動的に接触した場合でも軋み音等の異音の発生が抑制される。なお、第二の部品20の樹脂成形品21も熱可塑性樹脂組成物(X)から形成してもよい。
本発明の物品の他の具体例としては、図6に示されるように、2つの脚部を備え、上面及び側面がメッキされた樹脂成形品11からなる第一の部品10と、上面がメッキされ、第一の部品10の一方の脚部に相補的な凹部を備えた樹脂成形品21とから構成される物品が挙げられる。図5の物品では、樹脂成形品11の一方の接触部(脚部)15aの端面及びそのメッキ13が樹脂成形品21のメッキ23に当接し、他方の接触部(脚部)15bが上記凹部に嵌合してそこのメッキ23と接触しているが、本発明に従い樹脂成形品11を熱可塑性樹脂組成物(X)から形成した場合には、両成形品が動的に接触した場合でも軋み音等の異音の発生が抑制される。なお、第二の部品20の樹脂成形品21も熱可塑性樹脂組成物(X)から形成してもよい。
本発明の物品の他の具体例としては、図7に示されるように、板状の樹脂成形体11からなる第一の部品10の2つを、樹脂成形体21からなる第二の部品20の2つで架け渡した物品が挙げられる。図7の物品では、2つの樹脂成形体11の外面にメッキ13が施され、樹脂成形体21はその外側面にメッキ23が施された後、樹脂成形体11の内方面に形成された相補的な接触部(凹部)15に嵌合されている。したがって、樹脂成形品21のメッキ23は、樹脂成形体11の接触部(凹部)15と接触しているが、本発明に従い樹脂成形品11を熱可塑性樹脂組成物(X)から形成した場合には、両成形品が動的に接触した場合でも軋み音等の異音の発生が抑制される。なお、第二の部品20の樹脂成形品21も熱可塑性樹脂組成物(X)から形成してもよい。
本発明の物品の他の具体例としては、図8に示されるように、接触部(凹部)15を備えた樹脂成形体11からなる第一の部品10と、該接触部(凹部)15に差し込まれた樹脂成形体21からなる第二の部品20とから構成される物品が挙げられる。図8の物品では、樹脂成形体11の接触部(凹部)15以外はメッキ13が施されており、樹脂成形体21の上下両面の全体にメッキ23が施されている。したがって、樹脂成形品21のメッキ23は、樹脂成形体11の接触部(凹部)15と接触する場合でも、本発明に従い樹脂成形品11を熱可塑性樹脂組成物(X)から形成した場合には、両成形品が動的に接触した場合でも軋み音等の異音の発生が抑制される。図8では、接触部(凹部)15の内のりが、そこに差し込まれる樹脂成形体12の端部よりもやや大きく作られているが、嵌合部にこのような遊びがある場合でも、本発明によれば、軋み音等の異音の発生を抑制できる。なお、第二の部品20の樹脂成形品21も熱可塑性樹脂組成物(X)から形成してもよい。
本発明の物品の他の具体例としては、図9に示されるように、穴部を備えた樹脂成形体11からなる第一の部品10と、該穴部にスナップフィット式に嵌合する樹脂成形体21からなる第二の部品20とから構成される物品が挙げられる。図9の物品では、樹脂成形体11は上面のみにメッキ13が施されており、樹脂成形体21は外面全体にメッキ23が施されている。したがって、図9のように、第一の部品10の前記穴部に第二の部品20を嵌合させた場合、前記穴部の接触部(内面)15が第二の部品20のメッキ23と接触するが、本発明に従い樹脂成形品11を熱可塑性樹脂組成物(X)から形成した場合には、両成形品が動的に接触した場合でも軋み音等の異音の発生が抑制される。なお、第二の部品20の樹脂成形品21も熱可塑性樹脂組成物(X)から形成してもよい。
本発明の物品の他の具体例としては、図10(a)に示されるように、外面にメッキ13が施された円筒状の樹脂成形体11からなる第一の部品10と、第一の部品の内部に入れ子状に組み合わされる同様の樹脂成形体21からなる第二の部品20とから構成される物品が挙げられる。この物品は、樹脂成形体21の外面にメッキ23が施されているので、図10(b)に示されるように、両部品を組み合わせた場合、第二の部品20のメッキ23が第一の部品10の内面と接触するが、本発明に従い樹脂成形品11を熱可塑性樹脂組成物(X)から形成した場合には、両部品が動的に接触した場合でも軋み音等の異音の発生が抑制される。なお、第二の部品20の樹脂成形品21も熱可塑性樹脂組成物(X)から形成してもよい。
2.熱可塑性樹脂組成物(X)
本発明の物品に用いられる熱可塑性樹脂組成物(X)(本明細書では「成分(X)」ともいう)は、樹脂成分として、ポリプロピレン系樹脂(本明細書では「成分(A)」ともいう)及びエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを含有し、JIS K 7121−1987に従って測定した融点が0〜130℃の範囲にあるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(本明細書では「成分(B)」ともいう)を含み、必要に応じて、相溶化剤(C)を含んでもよい。
本発明の物品に用いられる熱可塑性樹脂組成物(X)は、耐衝撃性の観点から、熱可塑性樹脂組成物(X)全体を100質量%とした場合に、ゴム含量が3〜60質量%であることが好ましく、3〜45質量%であることがより好ましく、3〜30質量%であることがさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物(X)が結晶性を有すると、部品同士が動的に接触することにより発生する軋み音等の異音の発生を抑制する効果がさらに優れて好ましい。具体的には、JIS K 7121−1987に準じて測定した融点が0〜130℃の範囲にあることが好ましく、10〜90℃の範囲がより好ましく、20〜80℃の範囲がさらに好ましい。尚、上記のように、融点(Tm)は、JIS K 7121−1987に従って吸熱パターンのピーク温度を読みとることにより得られるが、0〜130℃の範囲における吸熱パターンのピークの数は、一つに限定されず、二つ以上でもよい。また、0〜130℃の範囲に見られるTm(融点)は、下記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)、特にゴム部分(b1)に由来するものであってよく、または、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)に関連して下記する添加剤、例えば、数平均分子量が10,000以下といった低分子量のポリオレフィンワックス等の摺動性付与剤に由来するものであってもよい。なお、該摺動性付与剤は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)に添加されたものであっても、熱可塑性樹脂組成物(X)に直接添加されたものであってもよい。
以下、本発明の物品に用いられる熱可塑性樹脂組成物(X)について詳述する。
2−1.ポリプロピレン系樹脂(成分(A))
ポリプロピレン系樹脂(A)としては、プロピレン単独重合体、プロピレンを主成分とし、更にエチレンまたは炭素数4以上のα―オレフィンをコモノマーとして含有するランダムまたはブロック共重合体、並びにこれらの混合物等が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂(A)は、230℃ 2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が、通常0.1〜200g/10分、好ましくは1〜150g/10分、より好ましくは2〜100g/10分で、GPCで測定した分子量分布(Mw/Mn)が、通常1.2〜10、好ましくは1.5〜8、より好ましくは2〜6であり、融点(Tm)は、通常150〜170℃である。
ポリプロピレン系樹脂(A)は、上記のMFR、分子量分布および融点が満足されていれば、特にその製造法が限定されるものではないが、通常、チーグラー(ZN)触媒、またはメタロセン触媒を用いて製造される。
チーグラー(ZN)触媒としては、高活性触媒が好ましく、特に、マグネシウム、チタン、ハロゲン、電子供与体を必須成分とする固体触媒成分と有機アルミニウム化合物を組み合わせた高活性触媒が好ましい。
メタロセン触媒としては、ジルコニウム、ハフニウム、チタンなどの遷移金属にシクロペンタジエニル骨格を有する有機化合物、ハロゲン原子などが配位したメタロセン錯体と、アルモキサン化合物、イオン交換性珪酸塩、有機アルミニウム化合物などを組み合わせた触媒が有効である。
プロピレンと共重合させるコモノマーとしては、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1等が挙げられる。これらコモノマー成分の含有量は、共重合体全体を100質量%として、通常0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%である。これらのうち、特に好ましいものは、プロピレンとエチレンおよび/又はブテン−1とのブロック共重合体である。
反応系中の各モノマーの量比は経時的に一定である必要はなく、各モノマーを一定の混合比で供給することも可能であるし、供給するモノマーの混合比を経時的に変化させることも可能である。また、共重合反応比を考慮してモノマーのいずれかを分割添加することもできる。
重合様式は、触媒成分と各モノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式の方法を採用することができる。具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるバルク法、溶液法、実質的に液体溶媒を用いず各モノマーを実質的にガス状に保つ気相法などを採用することができる。
また、連続重合、回分式重合のいずれを用いてもよい。スラリー重合の場合には、重合溶媒としてヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族または芳香族炭化水素を単独で又は混合して用いることができる。
重合条件としては重合温度が通常−78〜160℃、好ましくは0〜150℃であり、そのときの分子量調節剤として補助的に水素を用いることができる。また、重合圧力は通常0〜90kg/cm2・G、好ましくは0〜60kg/cm2・G、特に好ましくは1〜50kg/cm2・Gである。
本発明の組成物における成分(A)の使用量は、成分(A)及び成分(B)の合計100質量%中、5〜40質量%であり、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは8〜25質量%、特に好ましくは15〜25質量%である。成分(A)が少なすぎるとメッキ密着性に劣り、また、成分(A)が多すぎてもメッキ密着性が劣る。
2−2.ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、上記の軋み音等の異音の発生を抑制するために、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを含有することが必要であり、ゴム含量は、上記成分(A)の配合量によって異なるが、上記熱可塑性樹脂組成物(X)全体を100質量%とした場合に、5〜60質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましく、5〜30質量%であることがさらにより好ましい。また、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、上記熱可塑性樹脂組成物(X)が有する上記の軋み音等の異音の発生を抑制する機能をさらに優れたものとするため、結晶性を有することが必要であり、具体的には、JIS K 7121−1987に従って測定した融点が0〜130℃の範囲にあることが必要であり、0〜120℃の範囲が好ましく、10〜90℃の範囲がより好ましく、20〜80℃の範囲がさらにより好ましい。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、ゴム質重合体に由来するゴム部分(b1)とビニル系単量体に由来する構成単位を有する樹脂部分(b2)とからなり、ゴム部分(b1)は樹脂部分(b2)がグラフト重合したグラフト共重合体を形成していることが好ましい。したがって、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、上記グラフト共重合体と、ゴム部分(b1)にグラフト重合していない樹脂部分(b2)とから少なくとも構成されることが好ましく、さらに、樹脂部分(b2)にグラフトしていないゴム部分(b1)、又は、添加剤等のその他の成分を含んでもよい。なお、上記ゴム部分(b1)は、25℃でゴム質であるもの即ちゴム弾性を有するものであればよく、同温度でこのような性質を示さない樹脂部分(b2)とは区別される。
上記ゴム部分(b1)は、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを必須成分として含有し、軋み音等の異音の防止効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の非ジエン系ゴム及び/又はジエン系ゴムを含有してもよいが、上記ゴム部分(b1)の全部がエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムから構成されることが好ましい。上記ゴムは、いずれも、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。
エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムの具体例としては、エチレンに由来する構造単位と、α−オレフィンに由来する構造単位とを含む共重合体ゴムが挙げられる。α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。α−オレフィンの炭素原子数は、耐衝撃性の観点から、好ましくは3〜20、より好ましくは3〜12、更に好ましくは3〜8である。エチレン・α−オレフィン系ゴムにおけるエチレン:α−オレフィンの質量比は、通常5〜95:95〜5、好ましくは50〜95:50〜5、より好ましくは60〜95:40〜5である。エチレン:α−オレフィンの質量比が上記範囲にあると、得られる成形品の耐衝撃性がさらに優れて、好ましい。エチレン・α−オレフィン系ゴムは、必要に応じて、非共役ジエンに由来する構造単位を含んでもよい。非共役ジエンとしては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類が挙げられ、好ましくは5−エチリデン−2−ノルボルネンおよびジシクロペンタジエンである。これらの非共役ジエンは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。非共役ジエンの、ゴム質重合体全量に対する割合は、通常0〜10質量%、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜3質量%である。
本発明においては、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとして、融点(Tm)が0〜130℃のものを使用することが好ましい。エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムのTm(融点)は、より好ましくは10〜90℃、さらにより好ましくは20〜80℃である。エチレン・α−オレフィン系ゴムが融点(Tm)を有するということは、該ゴムが結晶性を有することを意味する。したがって、かかる融点(Tm)を備えるエチレン・α−オレフィン系ゴムを使用することで、上記熱可塑性樹脂組成物(X)に0〜130℃の範囲で融点を発現させ、金属製部品と樹脂製部品との接触部分に耐衝撃性だけでなく、軋み音等の異音抑制効果をさらに優れたものとすることができる。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)がかかる結晶性を有すると、スティックスリップ現象の発生が抑制されるため、金属製部品と樹脂製部品との接触部分とが動的に接触した場合、軋み音等の異音の発生が抑制されると考えられる。尚、スティックスリップ現象と軋み音の関係は、特開2011−174029公報等に開示されている。
エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃;JIS K 6300に準拠)は、通常5〜80、好ましくは10〜65、より好ましくは10〜45である。ムーニー粘度が上記範囲にあると、成形性が優れる他、成形品の衝撃強度及び外観がさらに優れて、好ましい。
エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムは、軋み音等の異音発生の低減の観点から、非共役ジエン成分を含有しないエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましく、これらのうち、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体がさらに好ましく、エチレン・プロピレン共重合体が特に好ましい。
上記成分(B)のゴム部分(b1)は、軋み音低減効果の観点から、その全部がエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムから構成されることが好ましいが、軋み音等の異音の防止効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の非ジエン系ゴム及び/又はジエン系ゴムを含有してもよい。
必要に応じて添加できる非ジエン系ゴムとしては、ウレタン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーンゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム;共役ジエン系化合物に由来する構造単位を含む(共)重合体を水素添加してなる水素添加重合体(但し、水素添加率は50%以上)等が挙げられる。この水素添加重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
必要に応じて添加できるジエン系ゴムとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。該ジエン系ゴム質重合体は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。上記成分(B)のゴム部分(b1)が、ジエン系ゴムを含有すると、熱可塑性樹脂組成物(X)の成形性及び耐衝撃性が向上する。
本発明において、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)中のゴム部分(b1)の含有量は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)全体100質量%に対して、好ましくは3〜80質量%、より好ましくは3〜65質量%、さらに好ましくは4〜55質量%、さらに好ましくは5〜50質量%、特に好ましくは7〜45質量%である。ゴム部分(b1)の含有量が前記範囲にあると、熱可塑性樹脂組成物(X)の耐衝撃性、異音の低減効果、寸法安定性、成形性、メッキ性等がさらに優れて好ましい。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)の樹脂部分(b2)は、ビニル系単量体に由来する構造単位からなり、該ビニル系単量体は芳香族ビニル化合物を必須成分として含有し、所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物を含有してもよい。上記芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物としては、好ましくは、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも1種が使用でき、さらに必要に応じて、これらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体も使用することができる。かかる他のビニル系単量体としては、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物等が挙げられ、これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
上記マレイミド系化合物の具体例としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記カルボキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)中の上記芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量の下限値は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物に由来する構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは40質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは60質量%である。尚、上限値は、通常、100質量%である。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)の樹脂部分(b2)が構造単位として、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む場合、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、通常40〜90質量%であり、好ましくは55〜85質量%であり、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、10〜60質量%であり、好ましくは15〜45質量%である。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、例えば、融点(Tm)が0〜130℃である結晶性ゴム成分を含むゴム質重合体(b)の存在下に、芳香族ビニル化合物及び所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル系化合物からなるビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造することができる。この製造方法における重合方法は、上記グラフト共重合体が得られる限り特に限定されず、公知の方法を適用することができる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合方法とすることができる。これらの重合方法では、公知の重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を適宜使用することができる。
上記製造方法では、通常、ビニル系単量体同士の(共)重合体がゴム質重合体にグラフト重合したグラフト共重合体と、ゴム質重合体にグラフト重合していないビニル系単量体同士の(共)重合体との混合生成物が得られる。場合により、上記混合生成物は、該(共)重合体がグラフト重合していないゴム質重合体を含むこともある。本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、ゴム質重合体に由来するゴム部分(b1)と芳香族ビニル系単量体に由来する構成単位を有する樹脂部分(b2)とからなり、ゴム部分(b1)は樹脂部分(b2)がグラフト重合したグラフト共重合体を形成していることが好ましいので、上記のようにして製造されたグラフト共重合体と(共)重合体との混合生成物を、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)としてそのまま使用することができる。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、ゴム質重合体(b)の不存在下に、芳香族ビニル化合物及び所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル系化合物からなるビニル系単量体を重合することにより製造した(共)重合体(B´)を添加されたものであってもよい。この(共)重合体(B´)は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)に添加されると、ゴム部分(b1)にグラフト重合していない樹脂部分(b2)を構成することになる。
本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、ゴム部分が非ジエン系ゴムとジエン系ゴムの混合物であってもよい。このような複数のゴムを含有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)の製造方法としては、例えば、非ジエン系ゴム質重合体及びジエン系ゴム質重合体を含有するゴム質重合体(b)の存在下にビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造する方法の他、非ジエン系ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造したゴム強化芳香族ビニル系樹脂と、ジエン系ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造したゴム強化芳香族ビニル系樹脂とを混合する方法などによって得ることができる。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)のグラフト率は、通常10〜150%、好ましくは15〜120%、より好ましくは20〜100%、特に好ましくは20〜80%である。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)のグラフト率が前記範囲にあると、本発明の積層フィルムの耐衝撃性、真空成形性がさらに良好となる。
グラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)=((S−T)/T)×100 …(1)
上記式中、Sはゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tはゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)1グラムに含まれるゴム部分(b1)の質量(g)である。このゴム部分(b1)の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法により求めることができる。
グラフト率は、例えばゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)を製造する際のグラフト重合で用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)のアセトンに可溶な成分(以下、「アセトン可溶分」ともいう)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、通常0.05〜0.9dl/g、好ましくは0.07〜0.8dl/g、より好ましくは0.1〜0.7dl/gである。極限粘度[η]が前記範囲にあると、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がより良好となる。
極限粘度[η]の測定は下記方法で行うことができる。まず、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
極限粘度[η]は、例えば、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)をグラフト重合する際に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度、重合時間等を適宜選択することにより調整することができる。また、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)に、このアセトン可溶分の極限粘度[η]と異なる極限粘度[η]を備える(共)重合体(B´)を混合して調整することができる。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、摺動性付与剤及びその他の添加剤を含んでもよい。摺動性付与剤は、熱可塑性樹脂組成物(X)に摺動性を付与して本発明の物品の組み立てを容易にするだけなく、使用時に本発明の物品から軋み音等の異音が発生するのを抑制する効果を付与することができる。摺動性付与剤の代表例としては、特開2011−137066号公報に記載されるような低分子量酸化ポリエチレン(c1)、超高分子量ポリエチレン(c2)、ポリテトラフルオロエチレン(c3)や、低分子量(例えば、数平均分子量10,000以下)ポリオレフィンワックス、シリコーンオイルなどが挙げられる。
上記ポリオレフィンワックスとしては、融点が0〜130℃に存在するポリエチレンワックス等が好ましい。また、このような融点を有するポリオレフィンワックスや、融点が0〜130℃に存在するその他の添加剤をゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)に添加した場合、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)のゴム部分が融点(Tm)を備えていなくても、軋み音等の異音の発生抑制効果を得ることができる。これらの摺動性付与剤は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの摺動性付与剤の配合量は、熱可塑性樹脂組成物(X)100質量部に対して、通常0.1〜10質量部である。
また、他の添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、老化防止剤、充填剤、帯電防止剤、難燃性付与剤、防曇剤、滑剤、抗菌剤、防かび剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、黒鉛、カーボブラック、カーボンナノチューブ、顔料(たとえば、赤外線吸収、反射能力を有する、機能性を付与した顔料も含む。)等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの添加剤の配合量は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)100質量部に対して、通常0.1〜30質量部である。
上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の樹脂を含むものであってもよい。
本発明における成分(B)の使用量は、成分(A)及び成分(B)の合計100質量%中、60〜95質量%であり、好ましくは65〜95質量%、より好ましくは75〜92質量%、特に好ましくは75〜85質量%である。成分(B)が少なすぎるとメッキ密着性及び耐衝撃性が劣り、また、成分(B)が多すぎるとメッキ密着性が劣る。
2−3.相溶化剤(成分(C))
相溶化剤(C)としては、上記所定量の成分(A)と成分(B)とを相溶化させる性質を有するものであればよく、特に制限はない。該相溶化剤としては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体及びこれらの水素添加物などのスチレン系熱可塑性エラストマーに代表される共役ジエン系重合体の他、アクリル系熱可塑性エラストマー、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。このような相溶化剤を用いることにより、優れた物性、メッキ密着性、耐薬品性を有する組成物が得られる。これらの相溶化剤は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの相溶化剤のうち、共役ジエン系重合体及びその水素添加物(C1)、とりわけ水素添加共役ジエン系重合体が好ましく、また、ポリプロピレン系樹脂の存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られる共重合体(C2)も好ましい。
該共役ジエン系重合体(C1)を構成する共役ジエン系ゴム質重合体としては、共役ジエン化合物の重合体の他、共役ジエン化合物と、共役ジエン化合物と共重合可能な他のビニル系単量体との共重合体が挙げられる。
共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、メチルペンタジエン、フェニルブタジエン、3,4−ジメチル−1、3―ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。好ましいものは、ブタジエン及びイソプレンである。
また、共役ジエン化合物と共重合可能な他のビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、ビニルシアン化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド化合物、不飽和酸化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、水酸基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物、及び置換又は非置換のアミノ基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。これらのうち、芳香族ビニル化合物が好ましく用いられる。
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α―メチルスチレン、ο―メチルスチレン、p―メチルスチレン、ビニルトルエン、臭素化スチレン、ヒドロキシスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、スチレンが好ましい。
前記成分(C)として好ましく用いられる水素添加共役ジエン系重合体(C1)では、ジエン部分の水素添加率は好ましくは10%以上、より好ましくは10〜95%、さらにより好ましくは20〜70%、特に好ましくは30〜65%である。上記領域では、前記成分(A)と前記成分(B)の分散性を向上させ、目的の樹脂成形品の耐衝撃性、耐薬品性、メッキ性の物性バランスが優れたものになる。
前記成分(C)として好ましく用いられる水素添加共役ジエン系重合体は、好ましくは、芳香族ビニル化合物単位(C)0〜90質量%と、共役ジエン化合物単位(C)10〜100質量%とから成る共役ジエン系重合体を水素添加したものである。好ましいC/C比は、10〜90/90〜10質量%、更に好ましくは30〜90/70〜10質量%、特に好ましくは50〜80/50〜20質量%の範囲である。
前記水素添加共役ジエン系重合体としては、芳香族ビニル化合物が共重合されていることが好ましく、1分子中に少なくとも1個の芳香族ビニル化合物重合体ブロックを有することが、本発明の目的を達成する上で特に好ましい。また、芳香族ビニル化合物の共重合量は、成分(C)の50〜80質量%であることが特に好ましい。
水素添加共役ジエン系重合体の前駆体としての共役ジエン系重合体としては、前記例示した共役ジエン化合物(ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、メチルペンタジエン、フェニルブタジエン、3,4−ジメチルー1、3―ヘキサジエン、4,5−ジエチルー1,3−オクタジエン等の1種又は2種以上)の単独(共)重合体、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物のランダム共重合体若しくはブロック共重合体、又はそれらの混合物が好ましい。水素添加共役ジエン系重合体が種類の異なる共役ジエン系重合体の混合物である場合は、水素添加前に混合し、その後に水素添加したものでもよく、また、水素添加後に混合したものでもよい。
水素添加共役ジエン系重合体の前駆体としての共役ジエン系重合体に於いて、共役ジエン系重合体のジエン部分のミクロ構造である1,2−及び3,4−ビニル結合含有量は、全ビニル結合量の合計を100%として、好ましくは10〜80%の範囲である。目的の樹脂成形品の耐衝撃性を特に重視する場合、20〜80%が好ましく、更に好ましくは30〜60%の範囲である。
前記成分(C)に於いて、共役ジエン系重合体の数平均分子量は、好ましくは5000〜1000000、更に好ましくは10000〜300000、特に好ましくは20000〜200000である。
前記成分(C)に於いて、共役ジエン系重合体の構造としては下記(1)〜(14)を例示できる。即ち、前記共役ジエン系重合体は下記(1)〜(14)を骨格とする共重合体であってもよく、又は下記(1)〜(14)の基本骨格を繰り返し有する共重合体であってもよい。また、それらをカップリングして得られる共役ジエン系重合体であってもよい。
以下で、A〜Cは、下記の通りである。
A:芳香族ビニル化合物重合体,
B:ジエン重合体,
A/B:芳香族ビニル化合物/ジエン化合物のランダム共重合体,
C:ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体であり、かつ芳香族ビニル化合物が漸増するテーパーブロック.
(1)A−B
(2)A−B−A
(3)A−B−C
(4)A−B1−B2(B1のビニル結合は好ましくは20%以上、B2のビニル結合は好ましくは20%未満)
(5)B
(6)A/B
(7)A−A/B
(8)A−A/B−C
(9)A−A/B−A
(10)B2−B1−B2(B1のビニル結合は好ましくは20%以上、B2のビニル結合は好ましくは20%未満)
(11)C−B
(12)C−B−C
(13)C−A/B−C
(14)C−A−B
前記共役ジエン系重合体の製造方法は特に限定されるものでは無く、公知の方法を採用できる。例えば、特公昭36−19286号公報に記載されている有機リチウム触媒を用いたリビングアニオン重合の技術を用いて不活性溶媒中で芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を重合することで、(ブロック共)重合体を製造することができる。有機リチウム触媒としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなどのモノリチウム化合物等がある。共役ジエン化合物のビニル結合量の調節は、N,N,N´,N´−テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジアゾビシクロ(2,2,2)オクタン等のアミン類、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、チオエーテル類、ホスフィン類ホスホルアミド類、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウムやナトリウムのアルコキシド等を用いて行える。
前記成分(C)として好ましく用いられる水素添加共役ジエン系重合体は、上記で得た共役ジエン系重合体を公知の方法で水素添加反応することにより、また、公知の方法で水素添加率を調整することにより、目的の重合体を得ることができる。具体的な方法としては、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公昭63−5401号公報、特願昭63−285774号、特願昭63−127400号に示されている方法がある。
上記芳香族ビニル化合物重合体Aとジエン重合体Bとを備え、ジエン重合体Bが1,3−ブタジエンの重合体ブロックである共役ジエン系重合体の場合、非選択的に水素添加すると、1,4−ビニル結合で重合した部分からはエチレンが、1,2−ビニル結合で重合した部分からはブチレンが生成し、スチレン―エチレン―ブチレン―スチレン共重合体(SEBS)などが水素添加物として生成し、1,2−ビニル結合を選択的に水素添加すると、スチレン―ブタジエン―ブチレン―スチレン共重合体(SBBS)などが水素添加物として生成する。これらのうち、本発明では、SBBSなどの1,2−ビニル結合を選択的に水素添加した共役ジエン系重合体(以下、選択部分水添共役ジエン系重合体)が好ましい。
この選択部分水添共役ジエン系重合体は、少なくとも1つの芳香族ビニル化合物重合体ブロック(上記A)と、少なくとも1つの共役ジエン化合物重合体ブロック(上記B)とを有するブロック共重合体であり、該共役ジエン化合物重合体ブロックの二重結合部分の10〜95%が水素添加されているものであることが好ましく、該水素添加率は、より好ましくは20〜70%、更により好ましくは30〜65%である。また、この選択部分水添共役ジエン系重合体は、水素添加された1,2−ビニル結合量/水素添加された全2重結合量の比率が0.6〜1.0の範囲であることが好ましく、0.7〜1.0の範囲であることがさらに好ましい。水素添加された1,2−ビニル結合量/水素添加された全2重結合量の比率が低すぎると、水素添加された1,4−ビニル結合量すなわちテトラメチレン単位が多くなり硬度が増加して加工性が悪化する傾向がある。
上記選択部分水添共役ジエン系重合体は、前記共役ジエン系重合体のブタジエン部分の二重結合を、チタン系水素添加触媒を用いて水素添加することにより得ることができる。チタン系水素添加触媒としては、チタンの有機金属化合物、又はそれとリチウム、マグネシウム、アルミニウムなどの有機金属化合物からなる均一系水素添加触媒を用いることができる。上記選択的部分水素添加は、かかる触媒を用い、特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報などの記載に従い、低圧、低温の比較的穏和な条件下、触媒量、水素の供給量などを適宜調節することにより実施できる。
成分(C1)の好ましい具体例としては、スチレン―エチレン―ブチレン―スチレン共重合体(SEBS)、スチレン―ブタジエン―ブチレン―スチレン共重合体(SBBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)などが挙げられる。さらに、成分(C1)は、アミノ基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、酸無水物基、エポキシ基等の官能基が導入された変性重合体であってよい。かかる変性重合体を用いると、ゲート付近での剥離、成形品の外観不良、ウエルド強度の低下がさらに生じにくくなり好ましい。成分(C1)としては、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体のアミン変性物(例えば、JSR株式会社製「ダイナロン 8630P」)、スチレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体(例えば、旭化成株式会社製「タフテック H1041」)などの市販品を使用することができる。
成分(C)として好ましい上記成分(C2)は、ポリプロピレン系樹脂の存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られる共重合体である。ビニル系単量体として、芳香族ビニル化合物又はシアン化ビニル化合物と共重合可能な他の単量体を併用してもよい。
ポリプロピレン系樹脂としては、成分(A)のポリプロピレン系樹脂に記載のものを挙げることができ、これらのうち、プロピレン単独重合体が特に好ましい。
成分(C2)で用いられるポリプロピレン系樹脂は、230℃ 2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が、通常1〜100g/10分、好ましくは5〜50g/10分、より好ましくは5〜30g/10分で、GPCで測定した分子量分布(Mw/Mn)が、通常1.2〜10、好ましくは1.5〜8、より好ましくは2〜6であり、融点(Tm)は、通常150〜170℃、好ましくは155〜167℃である。
成分(C2)で用いられる芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、およびこれらと共重合可能な他の単量体は、上記成分(B)について述べたと同様の記述があてはまる。なお、当該成分(C2)に用いられる芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物およびこれらと共重合可能な他の単量体は、上記成分(B)に用いられるものと同じであってもよく、異なっていてもよい。
成分(C2)におけるポリプロピレン系樹脂の含有量は、成分(C2)の共重合体全体を100質量%として、好ましくは5〜70質量%、より好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは20〜50質量%の範囲である。5質量%より小さくても、70質量%より大きくても相溶性が不足する傾向を示し、好ましくない。
芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物を用いる場合の質量比率は、上記成分(B)について述べたと同様の記述があてはまる。
共重合可能な他の単量体を用いる場合、その使用量も、上記成分(B)について述べたと同様の記述があてはまる。
本発明で使用する成分(C)の製造方法としては、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合などの公知の方法を用いることができるが、特に品質の観点から溶液重合が好ましい。また、溶液重合は、回分式重合法と連続式重合法の何れの方法によっても実施できるが、経済性の点から連続式重合法が好ましい。
溶液重合に用いることのできる溶剤としては、例えば、芳香族炭化水素を主体とする不活性溶剤が挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、i−プロピルベンゼンなどが挙げられるが、経済性および品質の観点からトルエンが好ましい。また、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、ハロゲン化炭化水素などの極性溶剤を溶剤中の30質量%以下で用いることは差し支えないが、脂肪族炭化水素との併用は好ましくない。不活性溶剤の使用量はポリプロピレン系樹脂と単量体の合計100質量部に対して通常50〜200質量部、好ましくは60〜180質量部である。重合温度は、好ましくは80〜140℃、更に好ましくは90〜135℃、特に好ましくは100〜130℃の範囲である。
重合に際しては、重合開始剤を用いてもよいし、重合開始剤を使用せずに熱重合で重合してもよいが、重合開始剤を用いる方が好ましい。重合開始剤としては、通常公知のものを用いることができるが、グラフト反応に効果的な有機過酸化物を用いることが好ましい。有機過酸化物としては、パーオキシエステル系化合物、ジアルキルパーオキサイド系化合物、ジアシルパーオキサイド系化合物、パーオキシジカーボネート系化合物、パーオキシケタール系化合物などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種類以上を併用することできる。これらのうち、パーオキシエステル系化合物が好ましく、t―ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが最も好ましい。重合開始剤の使用量は、ポリプロピレン系樹脂と単量体の合計100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜3質量部、更に好ましくは0.1〜2質量部である。また、連鎖移動剤を用いることもでき、例えば、メルカプタン類、α−メチルスチレンダイマー等を挙げることができる。さらに、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよく、その添加方法としては最終製品に混合してもよいし、重合反応前後に添加してもよい。
成分(C2)のグラフト率は、好ましくは20〜200質量%、更に好ましくは30〜150質量%、特に好ましくは40〜120質量%である。このグラフト率(%)は、次式(3)により求められる。
グラフト率(質量%)={(T−S)/S}×100 ・・・(3)
上記式(3)中、Tは成分(C2)1gをアセトン20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sは成分(C2)1gに含まれるポリプロピレン系樹脂の質量(g)である。
また、本発明に関わる成分(C2)のアセトン可溶分の極限粘度〔η〕(溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、好ましくは0.1〜1.2dl/g、更に好ましくは0.15〜1dl/g、特に好ましくは0.15〜0.8dl/gである。
なお、溶液重合により、ポリプロピレン系樹脂の存在下、単量体を共重合して得られる成分(C2)には、通常、単量体がポリプロピレン系樹脂にグラフトした共重合体と単量体がポリプロピレン系樹脂にグラフトしていない未グラフト成分(すなわち、単量体同士の単独および共重合体)が含まれる。
前記成分(C)の使用量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部中、0.5〜30質量部が好ましく、さらに好ましくは1〜25質量部、特に好ましくは2〜20質量部である。この使用量の範囲内において、メッキ密着性、耐薬品性、耐衝撃性に優れる樹脂組成物が得られる。なお、本発明の樹脂組成物において上記成分(A)の上記ゴム質重合体(a)として非ジエン系ゴム質重合体を用いる場合は、メッキ密着性の観点からは、成分(C)を使用しないか、又は少量(例えば、成分(A)と成分(B)の合計100質量部中、0〜7質量部)の成分(C)を使用する方が好ましい。
2−4.その他の配合剤
また、本発明に係る樹脂組成物には、上記の成分(A)から成分(C)の他に、必要に応じて、摺動性付与剤、酸化防止剤、加工安定剤、紫外吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、結晶化核剤、滑剤、可塑剤、金属不活性剤、着色顔料、各種無機充填剤、ガラス繊維、強化剤、難燃剤、離型剤、発泡剤などの各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。また、必要に応じ他の樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミドなどを本発明の目的を損なわない範囲で配合することもできる。
上記摺動性付与剤は、熱可塑性樹脂組成物(X)に摺動性を付与して本発明の物品の組み立てを容易にするだけなく、使用時に本発明の物品から軋み音等の異音が発生するのを抑制する効果を付与することができる。摺動性付与剤の代表例としては、特開2011−137066号公報に記載されるような低分子量酸化ポリエチレン(c1)、超高分子量ポリエチレン(c2)、ポリテトラフルオロエチレン(c3)や、低分子量(例えば、数平均分子量10,000以下)ポリオレフィンワックス、シリコーンオイルなどが挙げられる。
上記ポリオレフィンワックスとしては、融点が0〜130℃に存在するポリエチレンワックス等が好ましい。また、このような融点を有するポリオレフィンワックスや、融点が0〜130℃に存在するその他の添加剤を熱可塑性樹脂組成物(X)に添加した場合、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)のゴム部分が融点(Tm)を備えていなくても、軋み音等の異音の発生抑制効果を得ることができる。これらの摺動性付与剤は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの摺動性付与剤の配合量は、熱可塑性樹脂組成物(X)100質量部に対して、通常0.1〜10質量部である。
2−5.成分(X)の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混練機を用いて適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。更に、各々の成分を混練するに際しては、それらの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練したあと、押出機によりペレット化することもできる。また、無機充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。溶融混練温度は、通常200〜260℃、好ましくは220〜240℃である。
かくして、各成分を溶融混練して得られる本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、樹脂成形品の表面上に、成分(B)中のゴム相の一部をアンカー部として、金属層をメッキなどの方法で直接形成することができる。ゴム相の平均粒子径は0.1〜1.0μmであることが好ましく、更に好ましくは0.15〜0.8μm、特に好ましくは0.2〜0.6μmである。この平均粒子径は電子顕微鏡により公知の方法により測定することができる。ゴム相の平均粒子径の調整は、成分(B)の使用時に使用するゴム質重合体として上記の平均粒子径を満たすものを使用すること以外に、溶融混練温度、せん断速度等を調整することによって行うことができ、混練機として押出機などの連続混練機を使用する場合は、樹脂組成物の供給量、回転数等によっても調整できる。
3.本発明の物品の製造方法
本発明の成分(X)は熱可塑性樹脂組成物であって、射出成形、プレス成形、シート押出成形、真空成形、異形押出成形、発泡成形等の公知の成形法により、樹脂成形品を得ることができる。熱可塑性樹脂組成物(X)から形成された樹脂成形品の表面に金属メッキを施す方法としては、無電解メッキ、ダイレクトメッキ、電気メッキ等の湿式メッキ法や、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の乾式メッキ法が挙げられる。無電解メッキ法によれば、ニッケル、銅等の金属イオンを含む水溶液に還元剤(次亜リン酸ナトリウム、ホウ水素ナトリウム等)を加え、該水溶液に樹脂成形品を浸漬して90〜100℃に加熱することにより、樹脂成形品の表面に均一に金属をメッキすることができる。この場合、樹脂成形品の表面を硫酸/クロム酸等のエッチング液で予め化学的に粗面化(エッチング)したり、感応性付与(センシタイジング)しておくことが望ましい。真空蒸着法によれば、10-4〜10-5mmHgの高真空中において各種金属を加熱して蒸発させることで樹脂成形品の表面に金属をメッキすることができる。本発明の物品を構成する部品において、他方の部品のメッキされた部分との接触部(即ち、非メッキ部を有する部分)は、上記樹脂成形品の一部をテープ等でマスキングしてメッキした後、マスキングを除去することで得られる。また、上記樹脂成形品の全体にメッキを施した後、該成形品を切断したり、メッキ面を削り取ったりすることにより、上記接触部(即ち、非メッキ部を有する部分)を得ることもできる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、上記のような優れた性質を有するので、上記成形法によって得られる各種形状の樹脂成形品の表面に金属層を形成した積層体は、金属メッキされた部材、例えば、メータバイザー、コンソールボックス、グローブボックス、カップホルダー等の車両内装品、メーターフロントグリル、ホイールキャップ、バンパー、フェンダー、スポイラー、ガーニッシュ、ドアミラー、ラジエターグリル、ノブ等の車両外装品、直管型LEDランプ、電球型LEDランプ、電球型蛍光灯などの照明器具、携帯電話、タブレット端末、炊飯器、冷蔵庫、電子レンジ、ガスコンロ、掃除機、食器洗浄機、空気清浄機、エアコン、ヒーター、TV、レコーダーなどの家電器具、プリンター、FAX、コピー機、パソコン、プロジェクター等のOA機器、オーディオ器具、オルガン、電子ピアノ等の音響機器、化粧容器のキャップ、電池セル筐体等として使用することができる。なお、本発明における物品の部品は、金属層が形成されていない面に他の樹脂からなる層を積層することを妨げるものではない。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。実施例中、部および%は特に断らない限り質量基準である。
1.成分(A)
ポリプロピレン系樹脂(A)として、融点(Tm)169℃のブロックタイプポリプロピレン「ノバテックBC6C」(商品名、日本ポリプロ社製)を用いた。
2.成分(B)
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)の原料として、下記の合成例1〜3で得られたエチレン・α−オレフィン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(原料B1〜B3)、下記の合成例4で得られたジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(原料B4)、及び、下記のAS樹脂(原料B5)を用いた。
2−1.合成例1(原料B1(AES樹脂)の合成)
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計等を装着したステンレス製オートクレーブに、エチレン・プロピレン共重合体ゴム(エチレン/プロピレン=78/22(%)、Tm:40℃、ガラス転移温度:−50℃、ムーニー粘度(ML1+4,100℃):20)25部、スチレン11部、アクリロニトリル4部、tert−ドデシルメルカプタン0.5部及びトルエン110部を仕込み、昇温した。内温が75℃に達したところで、オートクレーブ内容物を1時間攪拌して均一溶液とした。その後、tert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.09部を添加し、更に昇温した。内温を100℃に保持しながら、攪拌回転数100rpmとして重合を開始した。60分間重合した後、スチレン44部、アクリロニトリル16部及びtert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.86部を3時間かけて連続的に添加した。重合を開始して4時間経過した後、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合を終了した。重合転化率は98%であった。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)−プロピオネート0.2部を添加した。次いで、反応液をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去した。その後、40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化し、エチレン・プロピレン共重合体ゴムからなる部分と、シアン化ビニル化合物(アクリロニトリル)に由来する構造単位及び芳香族ビニル化合物(スチレン)に由来する構造単位を含むビニル系共重合体からなる部分とを含むエチレン・α−オレフィン系ゴムグラフト共重合体(グラフト樹脂)、及び、未グラフトのビニル系共重合体(アクリロニトリル・スチレン共重合体)からなる樹脂混合物であるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(原料B1)を得た。この原料B1に含まれる上記グラフト樹脂(アセトン不溶分)のグラフト率は48%であった。グラフト率の計算に用いた原料B1に含まれるゴム含量は、重合処方及び重合転化率より求めた。原料B1に含まれる未グラフトのビニル系共重合体(以下、「アセトン可溶分」ともいう。)の含有率は、原料P1全体を100%とした場合に、63%であり、このアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、0.42dl/gであった。その後、このペレットを用いて原料B1のTmを測定したところ、40℃であった。
2−2.合成例2(原料B2(AES樹脂)の合成)
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計等を装着したステンレス製オートクレーブに、エチレン・プロピレン共重合体ゴム(エチレン/プロピレン=74/26(%)、Tm:29℃、ガラス転移温度:−50℃、ムーニー粘度(ML1+4,100℃):20)25部、スチレン11部、アクリロニトリル4部、tert−ドデシルメルカプタン0.5部及びトルエン110部を仕込み、昇温した。内温が75℃に達したところで、オートクレーブ内容物を1時間攪拌して均一溶液とした。その後、tert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.09部を添加し、更に昇温した。内温を100℃に保持しながら、攪拌回転数100rpmとして重合を開始した。60分間重合した後、スチレン44部、アクリロニトリル16部及びtert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.86部を3時間かけて連続的に添加した。重合を開始して4時間経過した後、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合を終了した。重合転化率は98%であった。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)−プロピオネート0.2部を添加した。次いで、反応液をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去した。その後、40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化し、エチレン・プロピレン共重合体ゴムからなる部分と、シアン化ビニル化合物(アクリロニトリル)に由来する構造単位及び芳香族ビニル化合物(スチレン)に由来する構造単位を含むビニル系共重合体からなる部分とを含むエチレン・α−オレフィン系ゴムグラフト共重合体(グラフト樹脂)、並びに、未グラフトのビニル系共重合体(アクリロニトリル・スチレン共重合体)からなる樹脂混合物であるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(原料B2)を得た。この原料B2に含まれる上記グラフト樹脂(アセトン不溶分)のグラフト率は53%であった。グラフト率の計算に用いた原料B2に含まれるゴム含量は、重合処方及び重合転化率より求めた。原料B2に含まれる未グラフトのビニル系共重合体(以下、「アセトン可溶分」ともいう。)の含有率は、原料B2全体を100%とした場合に、61%であり、このアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、0.45dl/gであった。その後、このペレットを用いて原料B2のTmを測定したところ、29℃であった。
2−3.合成例3(原料B3(AES樹脂)の合成)
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体(エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン=63/32/5(%)、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)33、融点(Tm)なし、ガラス転移温度(Tg)は−52℃)30部、スチレン45部、アクリロニトリル25部、tert−ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン140部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間攪拌して均一溶液とした。その後、tert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温して、100℃に達した後は、この温度を保持しながら、攪拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合反応を終了した。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)−プロピオネート0.2部を添加した。次いで、反応液をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去した。その後、40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化し、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体ゴムからなる部分と、シアン化ビニル化合物(アクリロニトリル)に由来する構造単位及び芳香族ビニル化合物(スチレン)に由来する構造単位を含むビニル系共重合体からなる部分とを含むエチレン・α−オレフィン系ゴムグラフト共重合体(グラフト樹脂)、及び、未グラフトのビニル系共重合体(アクリロニトリル・スチレン共重合体)からなる樹脂混合物であるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(原料B3)を得た。この原料B3に含まれる上記グラフト樹脂(アセトン不溶分)のグラフト率は60%であった。グラフト率の計算に用いた原料B3に含まれるゴム含量は、重合処方及び重合転化率より求めた。原料B3に含まれるアセトン可溶分の含有率は、原料B3全体を100%とした場合に、52%であり、このアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、0.45dl/gであった。その後、このペレットを用いて原料B3のTmを測定したところ、0〜120℃の範囲に融点は存在しなかった。
2−4.合成例4(原料B4(ABS樹脂)の合成)
重合成分投入口、コンデンサー、窒素導入口及び撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、ゲル分率86%、平均粒子径290nmのポリブタジエンゴムラテックスを固形分換算で40部、乳化剤としてロジン酸カリウム0,5部、及び水100部を混合し、スチレン10部、アクリロニトリル2部、分子量調整剤としてt−ドデシルメルカプタン0.1部、重合開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド0.2部を加えた。70℃まで昇温した後、クメンハイドロパーオキサイド0.2部、ピロリン酸ナトリウム0.2部、ブドウ糖0.25部、硫酸第一鉄0.01部を加え、重合を行った。1時間後、スチレン16部、アクリロニトリル8部、t−ドデシルメルカプタン0.05部、水40部、クメンハイドロパーオキサイド0.05部の混合物を4時間にわたって滴下した。その1時間後、スチレン16.5部、アクリロニトリル7.5部、t−ドデシルメルカプタン0.3部、水40部、クメンハイドロパーオキサイド0.05部の混合物を4時間にわたって滴下した。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.1部、ピロリン酸ナトリウム0.1部、ブドウ糖0.13部、硫酸第一鉄0.005部を添加し、更に1時間重合反応を行った。
重合終了後、冷却した。重合転化率は98%であった。
得られた重合体を硫酸で凝固させ、水酸化ナトリウムで中和し、スラリーのpHを2に調整した。この凝固物を十分に水洗した後、乾燥させ、粉末状のゴム強化芳香族ビニル系樹脂B4を得た。
このゴム強化芳香族ビニル系樹脂B4のグラフト率は55%、アセトン可溶分の極限粘度〔η〕(30℃、メチルエチルケトン中で測定)は0.45dl/g、ゴム質重合体(PBD)含有量は40.5重量%、スチレン単量体単位(ST)42.5重量%、アクリロニトリル単量体単位(AN)17重量%であった。尚、この原料B4のTmは観測されなかった。
2−5.原料B5(AS樹脂)
スチレン単量体単位(ST)70重量%、アクリロニトリル単量体単位(AN)30重量%、極限粘度〔η〕が0.40dl/gであるアクリロニトリル・スチレン共重合体を用いた。
3.成分(C)
相溶化剤(C)として、下記の原料C1−1、C1−2及びC2を用いた。
3−1.原料C1−1(SBBS)
スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレン(SBBS)ブロックコポリマー「タフテックP−2000」(商品名:旭化成社製)を用いた。
3−2.原料C1−2(変性SEBS)
スチレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体のアミン変性物「ダイナロン 8630P」(商品名;JSR株式会社製、スチレン含量15質量%、MFR(230℃、2.16kg)15g/10分、密度0.89g/cm)を用いた。
3−3.原料C2
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、プロピレン単独重合体〔MFR(230℃、2.16Kg)10g/10分〕40部、トルエン140部を仕込み、内温を120℃に昇温してこの温度を保持しながら、オートクレーブ内容物を攪拌回転数100rpmで2時間攪拌して溶解操作を行った。撹拌回転数100rpmで攪拌しながら内温を95℃に降温して、スチレン42部、アクリロニトリル18部、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.5部を添加して、再び内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら3時間反応を行った。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)−プロピオネート0、2部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒とを留去した。得られた共重合体(PP-g-AS)のグラフト率は43.3%で、極限粘度〔η〕は0.243dl/gであった。
4.成分(D)
4−1.原料D1(ポリオレフィン系ワックス)
三洋化成工業株式会社製ポリエチレンワックス「サンワックス171−P(商品名)」を使用した。数平均分子量(Mn)は1500、DSCを用いて測定した融点は101℃であった。
実施例1〜11及び比較例1〜5
1.熱可塑性樹脂組成物(X)の作製
表1または表2に示す原料(A)、(B)、(C)及び(D)を同表に示す配合割合でヘンシェルミキサーにより3分間混合した後、ナカタニ機械社製のNVC型50mmベント付き押出機を用いてシリンダー温度180〜220℃で押出して、ペレットを得た。
2.メッキ密着性の評価
樹脂組成物を成形して縦150mm、横90mm、厚さ3mmの試験片を作製した。成形は東芝機械社製射出成形機IS170を用いて行った。
この試験片を50℃の脱脂液に4〜5分間浸漬した後、純水で洗浄した。そして、硫酸と無水クロム酸の混合液(98%硫酸/無水クロム酸=400g/L/400g/L)を68℃とし、試験片を10〜20分間浸した後、純水で洗浄した。次に、10%塩酸水溶液を23℃とし、試験片を2分間浸漬した後、純水で洗浄した。そして、塩化パラジウム、塩化第一スズ及び塩酸からなる水溶液を20℃とし、試験片を2分間浸漬した後、純水で洗浄した。次に、10%硫酸水溶液を35℃とし、試験片を3分間浸漬した後、純水で洗浄した。そして、硫酸ニッケル、クエン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、塩化アンモニウム及びアンモニア水からなる水溶液を35〜40℃とし、試験片を5分間浸漬した後、純水にて洗浄し、水分をふき取り、無電解メッキ品とした。その後、この無電解メッキされた試験片を80℃で約2時間乾燥した後、硫酸銅、硫酸及び光沢剤からなる水溶液を20℃とし、電流密度3A/dmにて120分間浸漬して試験片に電気メッキを施し、純水で洗浄し、80℃で2時間乾燥した後、常温で十分乾燥させた。メッキ被膜の厚みは約80μmであった。この試験片に形成されたメッキ被膜を一定の幅(10mm)に切削した後、試験片から90度の角度で剥離するときの強度を測定した。なお、無電解メッキ品の被覆状態を観察し、メッキされていない場合はそれ以降の評価を実施せず、結果を×で表示した。
なお、メッキ密着性に優れると、メッキが樹脂成形品から剥離したりせず、均一で美麗なメッキ外観をもつ成形品を得ることができる。
3.耐衝撃性の評価
ISO179に準拠して測定した。荷重は2J、単位はKJ/mである。
4.異音抑制効果の評価
4−1.軋み音評価I
株式会社日本製鋼所製の射出成形機「J―100E」(形式名)を用い、表1または表2記載の熱可塑性樹脂組成物からなる、ISOダンベル試験片5枚を射出成形し、その後、試験片を80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却した。
次に、接触する部品として、テクノポリマー株式会社製のPC/ABSアロイ「エクセロイ CK20」(商品名)からなるISOダンベル試験片を射出成形し、その後、上記メッキ密着性と同様の方法で、試験片全体にメッキを施した。その後、80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却し、表1または表2記載の熱可塑性樹脂組成物からなるISOダンベル試験片5枚を交互に重ね合わせ、この両端を手でひねって、軋み音の発生の状況を評価した。評価は5回行ない、下記評価基準に基づき判定を行った。
<軋み音の評価>
○:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生はわずかであった。
△:5回の評価において、軋み音の発生が顕著な場合が含まれていた。
×:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生が顕著であった。
5.融点(Tm)
JIS K7121−1987に従い、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度から求めた。
Figure 2016144888
Figure 2016144888
表1から以下のことがわかる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物〔X〕を用いた実施例1〜11は、メッキ密着性及び耐衝撃性に優れ、異音の発生も抑制された。特に、成分(C)を用いた実施例9〜11では、何れの特性も更に向上した。
これに対し、表2から以下のことがわかる。
成分(A)及び成分(B)の配合量が本発明の範囲外である比較例1は、メッキ密着性が劣り、異音の発生も抑制されなかった。また、成分(A)及び成分(B)の配合量が本発明の範囲外である比較例2は、メッキ密着性が劣った。本発明の成分(B)の代わりにジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(原料B4)を用いた比較例3及び4は、メッキ密着性が劣り、異音の発生も抑制されなかった。成分(A)を含有しない比較例5は、メッキ密着性及び耐衝撃性が劣った。
比較例6
表1の実施例1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるISOダンベル試験片5枚を射出成形し、上記メッキ密着性と同様の方法で、試験片全体にメッキを施した。その後、試験片を80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した。
次に、テクノポリマー株式会社製のPC/ABSアロイ「エクセロイ CK20」(商品名)からなるISOダンベル試験片を射出成形し、その後、上記メッキ密着性と同様の方法で、試験片全体にメッキを施した。その後、80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却し、表1記載の熱可塑性樹脂組成物からなるISOダンベル試験片5枚と交互に重ね合わせ、この両端を手で100回ひねった。その後、上記部品と接触したメッキ面を観察したところ、メッキ面に微小な傷が発生していた。
メッキを施さない表1の実施例1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるISOダンベル試験片を用いる以外、上記方法と同様な評価を行ったところ、PC/ABSアロイ「エクセロイ CK20」(商品名)からなるISOダンベル試験片のメッキ面には、微小な傷が発生せず、美麗な外観が保たれていた。
互いに接触している部品同士が離れるような動作がある物品においては、メッキ面に傷が発生すると、接触部、及び接触部付近の外観が低下するため好ましくない。
本発明は、互いに接触する2つの部品を少なくとも備えてなる物品において、前記2つの部品の何れもがメッキされていても、軋み音等の異音の発生が抑制されるので、メッキにより意匠性を高めることが要求される物品を製造するのに好適に利用できる。
10 第一の物品
11 樹脂成形品
13 メッキ
15 接触部
20 第二の物品
21 樹脂成形品
23 メッキ
25 接触部

Claims (8)

  1. 互いに接触する2つの部品を少なくとも備え、前記2つの部品は、何れも、その表面の少なくとも一部がメッキされてなる物品であって、
    前記2つの部品の少なくとも一方は、他方の部品のメッキされた部分と接触する部分の少なくとも一部が、下記成分(A)5〜40質量%と下記成分(B)60〜95質量%と(但し、成分(A)と成分(B)の合計は100質量%)を含有する熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている物品。
    成分(A);ポリプロピレン系樹脂。
    成分(B);エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを含有し、JIS K 7121−1987に従って測定した融点が0〜130℃の範囲にあるゴム強化芳香族ビニル系樹脂。
  2. 前記2つの部品の少なくとも一方は、その全体又は他方の部品と接触する部分の全部が、前記熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている、請求項1に記載の物品。
  3. 前記熱可塑性樹脂組成物(X)のゴム含量が、3〜60質量%である、請求項1又は2に記載の物品。
  4. 前記熱可塑性樹脂組成物(X)は、更に、相溶化剤(C)を、上記成分(A)と成分(B)との合計100質量部当たり0.5〜30質量部含有してなる請求項1乃至3の何れか1項に記載の物品。
  5. 前記相溶化剤(C)が、下記成分(C1)及び/又は成分(C2)である請求項4に記載の物品。
    成分(C1);水素添加率が10%以上の水素添加共役ジエン系重合体。
    成分(C2);ポリプロピレン系樹脂の存在下に、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られる共重合体。
  6. 前記エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムが融点を有する、請求項1乃至5の何れか1項に記載の物品。
  7. 前記2つの部品が互いにスナップフィットにより嵌合することによって接触する請求項1乃至6の何れか1項に記載の物品。
  8. 互いに接触する2つの部品を少なくとも備え、前記2つの部品は、何れも、その表面の少なくとも一部がメッキされている物品を構成する部品であって、
    他方の部品のメッキされた部分と接触する部分の少なくとも一部が、下記成分(A)5〜40質量%と下記成分(B)60〜95質量%と(但し、成分(A)と成分(B)の合計は100質量%)を含有する熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている部品。
    成分(A);ポリプロピレン系樹脂。
    成分(B);エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを含有し、JIS K 7121−1987に従って測定した融点が0〜130℃の範囲にあるゴム強化芳香族ビニル系樹脂。
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