JP2016141816A - 鋼板ブランクならびにレーザ切断加工用鋼板およびレーザ切断加工用鋼板の製造方法 - Google Patents

鋼板ブランクならびにレーザ切断加工用鋼板およびレーザ切断加工用鋼板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】440MPa以上780MPa未満の強度を有しつつ、優れた伸びと伸びフランジ性を有するレーザ加工用高強度鋼板を素材とする鋼板ブランクを提供する。【解決手段】レーザ切断加工された切断端面を有する鋼板ブランクである。C:0.02%以上0.16%以下、Si:0.04%以上2%以下、Mn:0.4%以上3%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.01%以上2%以下、残部がFeおよび不純物である化学組成を有し、切断端面から内部にかけての40μm幅の切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が70%以上であり、切断端面部を除く母材部におけるフェライト面積率が10〜90%、残留オーステナイト面積率が1%以上、残部がマルテンサイトおよびベイナイトであるミクロ組織を有するとともに、引張強さが440MPa以上780MPa未満である機械特性を有する。【選択図】図1

Description

本発明は、鋼板ブランクならびにレーザ切断加工用鋼板およびレーザ切断加工用鋼板の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、440MPa以上780MPaの引張強度を有しつつも良好な伸びと伸びフランジ性を有する鋼板ブランクならびにその素材として好適なレーザ加工用鋼板およびその製造方法に関する。
CO排出量削減を目的とした自動車の車体軽量化による燃費向上や衝突安全基準の厳格化の観点から、車体部品の高強度化が推進されている。また、車体デザインの多様化に伴い、成形性の観点から、高い強度を有するのみならず、伸びや伸びフランジ性等のプレス成形性に優れた鋼板が要求されるようになってきている。
従来、プレス成形品を製造する場合、素材となる鋼板からプレス成形用素材である鋼板ブランクを打抜きやせん断加工によって得て、その後鋼板ブランクに所要のプレス成形を施すことが多く行われている。このようなせん断加工により得られた鋼板ブランクは、切断端面の近傍でボイドや加工硬化が生じており、伸びフランジ成形を受ける場合に、加工亀裂が生じ易く、また伝播し易いとされている。
近年、レーザ切断技術の発達に伴い、素材となる鋼板から複雑な形状の鋼板ブランクをレーザ切断によって得る方法が提案されている。このようなレーザ切断によって得られた鋼板ブランクは、せん断加工により得られた鋼板ブランクとは異なり、切断端面においてボイドや加工硬化が生じないことから、伸びフランジ性の向上が期待できる。
これまで、打抜きやせん断加工を施した鋼板ブランクの伸びフランジ性については、数多くの検討例が報告されているが、レーザ切断加工を施した鋼板ブランクの伸びフランジ性を冶金学的な観点から検討した例は非常に少ない。
レーザ切断加工を施した鋼板ブランクの伸びフランジ性を報告した例として、特許文献1には、C、Si、Mn、P、S、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、Ti、VおよびBそれぞれの含有量から決定される式値Kを0.09以上0.5以下に制御することにより優れた伸びフランジ性が得られるとしている。
また、特許文献2には、素材組織中のマルテンサイトに関して、アスペクト比3.0未満のマルテンサイトを95%超とすることにより、レーザ加工後の穴広げ成形初期の板厚貫通亀裂を抑制できるとしている。
特開昭61−261462号公報 特開2011−225955号公報
しかし、本発明者の検討によれば、上述した技術には、以下の課題があることが判明した。
特許文献1に規定された上述した式値Kの範囲を超える鋼板であっても優れた伸びフランジ性が発揮できることがわかった。
また、特許文献2に規定された鋼板は、フェライトとマルテンサイトを主体とした複合組織鋼板であり、残留オーステナイト相を含まないため、必ずしも伸びと伸びフランジ性を両立するものではない。
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、440MPa以上780MPa未満の強度を有しつつ、優れた伸びと伸びフランジ性を有する鋼板ブランク、ならびに、このような用途に好適なレーザ切断加工用鋼板およびその製造方法を提供するものである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、レーザ切断加工された切断端面を有する鋼板ブランクについて、化学組成ならびに切断端面部および母材部のミクロ組織を適正化することにより、優れた伸びと伸びフランジ性を具備させることが可能となることを新たに知見した。
具体的には、上記切断端面から内部にかけての40μm幅の切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を70%以上とする。このようにすることにより、伸びフランジ割れの起点となっていた異相界面が減少し、伸びフランジ成形中における亀裂の発生や進展が遅延し、その結果、優れた伸びフランジ性を得ることができる。
さらに、上記切断端面部を除く母材部を、フェライト面積率が10〜90%、残留オーステナイト面積率が1%以上、残部がマルテンサイトおよびベイナイトである複合組織とする。このようにオーステナイトを適量含有させることにより、TRIP(変態誘起塑性)効果により優れた伸びを得ることが可能となる。
本発明は、上記新たな知見に基づいて完成したものであり、以下のとおりである。
(1)レーザ切断加工された切断端面を有する鋼板ブランクであって、
質量%で、C:0.02%以上0.16%以下、Si:0.04%以上2%以下、Mn:0.4%以上3%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.01%以上2%以下、残部がFeおよび不純物である化学組成を有し、
前記切断端面から内部にかけての40μm幅の切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が70%以上であり、前記切断端面部を除く母材部におけるフェライト面積率が10〜90%、残留オーステナイト面積率が1%以上、残部がマルテンサイトおよびベイナイトであるミクロ組織を有するとともに、
引張強さが440MPa以上780MPa未満である機械特性を有することを特徴とする鋼板ブランク。
(2)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下およびV:0.2%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)項に記載の鋼板ブランク。
(3)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cu:1%以下、Ni:1%以下、Cr:1%以下、Mo:1%以下およびB:0.1%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)項または(2)項に記載の鋼板ブランク。
(4)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、REM:0.1%以下、Mg:0.01%以下、Ca:0.01%以下およびBi:0.1%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)項から(3)項までのいずれか1項に記載の鋼板ブランク。
(5)(1)項から(4)項までのいずれか1項に記載された化学組成を有し、フェライト面積率が10〜90%、残留オーステナイト面積率が1%以上、残部がマルテンサイトおよびベイナイトであるミクロ組織を有することを特徴とするレーザ切断加工用鋼板。
(6)下記工程(A)〜(C)を有することを特徴とする(1)項から(4)項までのいずれかに記載されたレーザ切断加工用鋼板の製造方法:
(A)1100℃以上1300℃以下とした鋼スラブに熱間圧延を施し、850℃以上950℃以下で熱間圧延を完了して熱延鋼板とし、650℃以下の温度域で巻取る熱間圧延工程;
(B)前記工程(A)により得られた熱延鋼板に酸洗および冷間圧延を施して冷延鋼板とする酸洗・冷間圧延工程;および
(C)前記工程(B)により得られた冷延鋼板を、{(Ac点+Ac点)/2}以上(Ac点+50℃)以下の温度域に加熱した後、前記温度域に240秒間以下滞在させ、その後2℃/秒以上50℃/秒以下の平均冷却速度で250℃以上500℃以下の温度域まで冷却する連続焼鈍工程。
本発明により、440MPa以上780MPa未満の引張強さを有しつつも良好な伸びと伸びフランジ性を有する鋼板ブランクを得ることができる。また、このような用途に好適なレーザ切断加工用鋼板およびその製造方法を得ることができる。本発明に係る鋼板ブランクおよびレーザ切断加工用鋼板は、自動車や各種の産業機械に用いられる構造部材の素材、特に自動車のシート部品や足廻り部品に代表される構造部材の素材として最適である。
図1は、本発明で規定するレーザ切断加工を施した端面の表層近傍のミクロ組織を示す写真である。
以下に、本発明に係る鋼板ブランクならびにレーザ切断加工用鋼板およびレーザ切断加工用鋼板の製造方法について、より具体的に説明する。なお、以下の説明において、化学組成に関する「%」は「質量%」である。
1.化学組成
(1)C:0.02%以上0.16%以下
Cは、鋼の強度を高めるとともにオーステナイトを安定化させる作用を有する。C含有量が0.02%未満では440MPa以上の引張強さを確保することが困難となる。さらに、残留オーステナイト中のC含有量が過少となり、残留オーステナイトが不安定となり、TRIPによる伸びの向上が十分に得られない。したがって、C含有量は0.02%以上とする。好ましくは0.04%以上である。一方、C含有量が0.16%超ではレーザ加工端面が過度に硬化してしまい、伸びフランジ変形中の亀裂伝播抑制効果が小さくなり、伸びフランジ性が劣化する。したがって、C含有量は0.16%以下とする。好ましくは0.12%以下である。
(2)Si:0.04%以上2%以下
Siは、フェライト生成元素であり、連続焼鈍においてフェライト生成を促し、後述するMnの作用と相俟ってオーステナイトへのCの濃化を促進することでオーステナイトを安定化させる作用を有する。したがって、母材部およびレーザ切断加工用鋼板においてオーステナイトを残留させて良好な延性を確保するのに有効な元素である。また、固溶強化により鋼の強度を高める作用を有する。Si含有量が0.04%未満では、鋼板ブランクの母材部およびレーザ切断加工用鋼板において、面積率で2%以上の残留オーステナイトを確保することが困難となる場合がある。したがって、Si含有量は0.04%以上とする。好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上、特に好ましくは0.5%以上である。
一方、Si含有量が2%を超えると、Si系酸化物が表面に生成するために、化成処理性や溶融亜鉛めっきを施す際の不めっきや合金化処理時の処理不足の原因となる場合がある。したがって、Si含有量は2%以下とする。好ましくは1.5%以下である。
(3)Mn:0.4%以上3%以下
Mnは、オーステナイト生成元素であり、連続焼鈍においてオーステナイトを確保して、上記Siの作用と相俟ってオーステナイトへのCの濃化を促進することでオーステナイトを安定化させる作用を有する。したがって、母材部およびレーザ切断加工用鋼板においてオーステナイトを残留させて良好な延性を確保するのに有効な元素である。また、変態強化により鋼の強度を高める作用を有する。Mn含有量が0.4%未満では、引張強さ440MPa以上を確保するのが困難になる。したがって、Mn含有量は0.4%以上とする。好ましくは0.5%以上である。一方、Mn含有量が3%を超えると、連続焼鈍におけるフェライト生成が過度に抑制され、延性が低下する場合がある。また、バンド状組織が発達して局部伸びの低下が著しくなるために伸びフランジ性が劣化する場合がある。したがって、Mn含有量は3%以下とする。好ましくは2.0%以下である。
(4)P:0.05%以下
Pは、一般に不純物として含有される元素であるが、Siと同様に固溶強化により鋼の強度を高める作用を有するので、積極的に含有させてもよい。しかし、過剰な含有はPの粒界偏析を生じ、伸びフランジ変形下におけるボイド生成を助長するため、伸びフランジ性を劣化させる作用を有する。P含有量が0.05%を超えると上記作用による悪影響が顕著となる。したがって、P含有量は0.05%以下とする。
(5)S:0.02%以下
Sは、不純物として含有され、鋼中に硫化物を形成して伸びフランジ性を劣化させる作用を有する。S含有量が0.02%超えると上記作用による悪影響が顕著となる。したがって、S含有量は0.02%以下とする。好ましくは0.01%以下である。
(6)sol.Al:0.01%以上2%以下
Alは、Siと同様に連続焼鈍においてフェライト変態を促進する元素であり、オーステナイト安定化作用を有するものである。sol.Al含有量が0.01%未満では上記作用による効果を得ることができない。したがって、sol.Al含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.03%以上である。一方、sol.Al含有量が2%を超えると、未再結晶フェライトが増加して局部伸びが低下するため、伸びが劣化する場合がある。したがって、sol.Al含有量は2%以下とする。好ましくは1%以下である。
本発明に係る鋼板ブランクやレーザ切断加工用鋼板は、以下に列記する元素を任意に含有してもよい。
(7)Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下およびV:0.2%以下からなる群から選択された1種または2種以上
Ti、NbおよびVは、CやNと炭化物や炭窒化物を形成し、旧オーステナイト粒を微細化するとともに析出強化により鋼板の強度を増加させる作用を有する。また、レーザ切断を受けた切断端面近傍では、短時間の加熱および冷却の熱履歴を受けるため、切断端面部にマルテンサイトやベイナイトなどの硬化組織が形成される。Ti、NbおよびVは、これらの硬化組織を微細化させるため、伸びフランジ変形時の亀裂伝播を抑制する作用を有する。したがって、これら元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、これら元素を過剰に含ませても上記作用による効果は飽和してしまい不経済となる。また、再結晶温度が上昇して組織が不均一になるために、伸びフランジ性が劣化する可能性がある。さらに、TiCやNbCなどの炭化物の過剰な形成のために、オーステナイト中に含まれるC含有量が過少となり、オーステナイトの安定性が低下して、伸びを損なう場合がある。したがって、各元素の含有量は上記範囲とする。上記作用による効果をより確実に得るには、Ti:0.01%以上、Nb:0.01%以上、V:0.01%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
(8)Cu:1%以下、Ni:1%以下、Cr:1%以下、Mo:1%以下およびB:0.1%以下からなる群から選択された1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、MoおよびBは、いずれも鋼の焼入れ性を高め、強度を増加させる作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種を含有させてもよい。しかしながら、これらの元素のいずれかを上記範囲を超えて含有させると、伸びの低下が著しくなるとともにコスト的に不利となる。したがって各元素の含有量は上記範囲とする。上記作用による効果をより確実に得るには、Cu:0.01%以上、Ni:0.01%以上、Cr:0.1%以上、Mo:0.1%以上およびB:0.001%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
(9)REM:0.1%以下、Mg:0.01%以下、Ca:0.01%以下およびBi:0.1%以下からなる群から選択された1種または2種以上
REM(希土類元素)、MgおよびCaは、いずれも酸化物や硫化物を微細に球状化することにより、またBiは凝固偏析を軽減することにより、いずれも、伸びや伸びフランジ性を向上させる作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。
しかしながら、REM(希土類元素)、MgおよびCaは、上記範囲を超えて含有させると鋼中に酸化物や硫化物を多量に形成してしまい、却って伸びや伸びフランジ性の低下を招いてしまう。また、Biは、上記範囲を超えて含有させても伸びフランジ性向上効果が飽和してしまい、いたずらにコストの増加を招く。したがって、各元素の含有量は上記範囲とする。上記作用による効果をより確実に得るには、これらの元素のいずれかを0.0005%以上含有させることが好ましい。
ここで、REMとは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素を指し、ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。なお、本発明では、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を指す。
残部は、Feおよび不純物である。
2.鋼板ブランクの切断端面部の組織
レーザ切断加工された切断端面から内部にかけての40μm幅の切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率は70%以上とする。
本発明では、上記切断端面部の組織を規定する。この切断端面部と切断端面部を除く母材部とを所定の組織とすることにより、優れた伸びと伸びフランジ性を両立することが可能となる。具体的には、切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を70%以上とする。このような切断端面部の表層近傍のミクロ組織の一例を図1に示す。
切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が70%を下回ると、伸びフランジ変形を受けた際に、切断端面部において、マルテンサイトやベイナイトとそれら以外の相(例えばフェライトや残留オーステナイト等)との異相界面で応力集中が生じ、亀裂の発生や伝播が促進されてしまう。切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率は80%以上とすることが好ましい。
また、後述するように切断端面部を除く母材部の組織を所定の条件を満足させることによって高い伸びを付与することができる。
3.鋼板ブランクの母材部およびレーザ切断加工用鋼板の組織
上記切断端面部を除く母材部におけるフェライト面積率を10〜90%、残留オーステナイト面積率を1%以上、残部をマルテンサイトおよびベイナイトとする。
フェライトは伸びの向上に寄与する重要な相である。フェライトの面積率が10%を下回ると所望の伸びが得られない。したがって、フェライト面積率は10%以上とする。好ましくは30%以上である。一方、フェライトの面積率が90%を超えると、引張強度が低下してしまい、440MPa以上の引張強さを確保することが困難となる。したがって、フェライト面積率は90%以下とする。好ましくは85%以下である。
上記に加え、残留オーステナイトを面積率で1%以上含有するものとする。残留オーステナイトは成形等により変形を受けた際にマルテンサイトに変態して変態誘起塑性を呈するので、高い強度と良好な伸びとを高い次元で両立することを可能にする。残留オーステナイトの面積率が1%未満では、変態誘起塑性による延性向上作用を十分に得られない場合がある。したがって、残留オーステナイトの面積率は1%以上とする。好ましくは3%超、さらに好ましくは5%以上である。残留オーステナイトの面積率の上限は特に限定しないが、残留オーステナイトの面積率が25%超では、成形後の状態におけるマルテンサイトの面積率が高くなり、耐二次加工性や耐衝撃性において問題を来たす場合がある。したがって、残留オーステナイトの面積率は25%以下とすることが好ましい。
残部組織は、マルテンサイトおよびベイナイトである。マルテンサイトやベイナイトはその組織中に転位を多く含む低温変態相であり、鋼板の強度を増加させるのに有用な相または組織である。
4.鋼板ブランクの母材部およびレーザ切断加工用鋼板の機械特性
鋼板ブランクの母材部およびレーザ切断加工用鋼板は、440MPa以上780MPa未満の引張強さを有するものとする。
引張強さが440MPa未満では、そもそも強度が低く伸びと伸びフランジ性が良好であり、本発明によらずとも目的とする強度と成形性を得ることが容易である。したがって、引張強さは440MPa以上とする。引張強さは好ましくは590MPa以上である。また、引張強さが780MPa以上の場合均一伸びが低くなり、車体部材への適用が限定的となることから、鋼板ブランクの母材部およびレーザ切断加工用鋼板の引張強さは780MPa未満とする。
5.レーザ切断加工用鋼板の製造方法
本発明に係るレーザ切断加工用鋼板は、次に述べる方法により製造することができる。
上述した化学組成を有する鋼は、公知の手段により溶製された後に、連続鋳造法により鋼塊とされるか、または、任意の鋳造法により鋼塊とした後に分解圧延する方法等により鋼片とされる。連続鋳造工程では、介在物に起因する表面欠陥の発生を抑制するために、鋳型内にて電磁撹拌等の外部付加的な流動を溶鋼に生じさせることが好ましい。
鋼塊または鋼片は、一旦冷却されたものを再加熱して熱間圧延に供してもよく、連続鋳造後の高温状態にある鋼塊または分塊圧延後の高温状態に鋼片をそのまま、あるいは保温して、あるいは補助的な加熱を行って熱間圧延に供してもよい。本発明ではこの鋼塊または鋼片をスラブと称する。
このスラブに対して熱間圧延を施す。本発明に規定する熱間圧延工程の製造条件を以下に説明する。
[熱間圧延工程]
(1)熱間圧延に供する際のスラブの温度:1100℃以上1300℃以下
熱間圧延に供する際のスラブの温度は1100℃以上1300℃以下とする。熱間圧延に供する際のスラブの温度が1100℃を下回るとバンド状組織が顕著となり組織が不均一となるため、レーザ加工後の切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を70%以上とすることが困難となり、良好な伸びフランジ性を確保することが困難となる。また、熱間圧延時の圧延荷重の増加を招くため製造トラブルを招く恐れがある。したがって、熱間圧延に供する際のスラブの温度は1100℃以上とする。好ましくは1150℃以上である。一方、熱間圧延に供する際のスラブの温度が1300℃を超えると、オーステナイトが粗大化し、得られる熱延板の組織が不均一となり、冷延焼鈍後もこの組織形態が保持され、レーザ切断加工後において切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を70%以上とすることが困難となり、良好な伸びフランジ性を確保することが困難となる。したがって、熱間圧延に供する際のスラブの温度は1300℃以下とする。好ましくは1250℃以下である。
(2)熱間圧延完了温度:850℃以上950℃以下
熱間圧延完了温度は850℃以上950℃以下とする。熱間圧延完了温度が850℃を下回ると、未再結晶組織が冷延焼鈍後にも残存し、組織が不均一となるため、伸びが劣化する。また、レーザ加工後の切断端面部の組織も不均一になることため、伸びフランジ性も劣化する。また、熱間圧延荷重の増加を伴うため操業上トラブルを招く懸念がある。したがって、熱間圧延完了温度は850℃以上とする。好ましくは870℃以上である。一方、熱間圧延完了温度が950℃超では、オーステナイトが粗大化するため、組織が不均一となり、切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を70%以上とすることが困難となり、良好な伸びフランジ性を確保することが困難となる。したがって、熱間圧延完了温度は950℃以下とする。好ましくは900℃以下である。
(3)巻取温度:650℃以下
巻取温度は650℃以下とする。巻取温度が650℃を超えると、パーライトが生成し、冷延焼鈍加熱時に炭化物の溶解が遅延し、所定の残留オーステナイト量を得られず伸びが劣化する。また、外部スケールの過剰な発達を招き酸洗性が低下するので製造上好ましくない。したがって、巻取温度は650℃以下とする。好ましくは600℃以下である。巻取温度の下限は本発明では特に規定しないが、巻取温度を400℃以上とすることにより、マルテンサイトの過度な生成を抑制することができ、後の冷間圧延工程における荷重軽減を図ることができるので好ましい。したがって、巻取温度は400℃以上とすることが好ましい。さらに好ましくは500℃以上である。
[酸洗・冷間圧延工程]
酸洗および冷間圧延は常法に従って実施すればよい。冷間圧延における圧下率は特に制限されないが、一般には30〜70%の範囲内である。
以下、冷間圧延後の連続焼鈍工程における製造条件について説明する。
[連続焼鈍工程]
(1)焼鈍温度:{(Ac+Ac)/2}以上(Ac+50℃)以下
酸洗・冷間圧延工程により得られた冷延鋼板を、連続焼鈍設備において{(Ac点+Ac点)/2}以上(Ac点+50℃)以下の温度域に加熱して焼鈍する。
焼鈍温度が{(Ac点+Ac点)/2}を下回ると、冷間圧延工程で生じる加工組織が十分な回復再結晶を受けない状態で焼鈍後も残存し、伸びや伸びフランジ性の著しい低下を招く。したがって、焼鈍温度は{(Ac点+Ac点)/2}以上とする。伸びを改善する観点からは、焼鈍温度は{(Ac点+Ac点)/2+30℃}以上とすることが好ましい。一方、焼鈍温度が(Ac点+50℃)を超えると、オーステナイトが粗大化し、組織が不均一となり、切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を70%以上とすることが困難となり、伸びフランジ性が低下する。したがって、焼鈍温度は(Ac点+50℃)以下とする。伸びと伸びフランジ性を改善する観点からは、焼鈍温度は(Ac点+40℃)以下とすることが好ましい。
(2)上記温度域における滞在時間:240秒間以下
上記温度域における滞在時間は240秒間以下とする。上記滞在時間が240秒間を超えるとオーステナイトが粗大化し、組織が不均一となり、切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を70%以上とすることが困難となるため、伸びフランジ性が劣化する。したがって、上記滞在時間は240秒間以下とする。
上記滞在時間の下限は特に規定しないが、滞在時間が短過ぎると熱間圧延段階で形成した炭化物の再溶解が完全に完了しないまま製品に残存するため、伸びや伸びフランジ性を劣化させる懸念がある。したがって、上記滞在時間は10秒間以上とすることが好ましく、30秒間以上とすることがさらに好ましい。
(3)平均冷却速度:2℃/秒以上50℃/秒以下
上記滞在の後、下記冷却停止温度まで2℃/秒以上50℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する。上記平均冷却速度が2℃/秒を下回ると、冷却中にパーライトが生成し、所望のオーステナイト量が得られず、伸びが低下する。したがって、上記平均冷却速度は2℃/秒以上とする。好ましくは5℃/秒以上である。一方、上記平均冷却速度が50℃/秒を超えると、十分なフェライト量を確保することできないため伸びが低下する。したがって、上記平均冷却速度は50℃/秒以下とする。好ましくは30℃/秒以下である。
(4)冷却停止温度:250℃以上500℃以下
冷却停止温度は250℃以上500℃以下とする。冷却停止温度が250℃を下回るとマルテンサイトが過度に生成してしまい、残留オーステナイトを面積率で1%以上とすることが困難となり、良好な伸びを確保することが困難となる。したがって、冷却停止温度は250℃以上とする。好ましくは300℃以上、さらに好ましくは350℃以上である。一方、冷却停止温度が500℃を超えるとパーライトが生成し、残留オーステナイト量が2%を下回るために伸びが劣化する。したがって、冷却停止温度は500℃以下とする。好ましくは450℃以下、さらに好ましくは420℃以下である。
本発明の具体的な実施例を以下に説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼を実験用真空溶解炉で溶製し、鋳造した。これらの鋼塊を、熱間鍛造により厚さ25mmの鋼片とした。
得られた鋼片に対し、表2に示す条件の熱間圧延を行い、厚さ4mmの熱延鋼板とした。熱延鋼板を機械加工により厚さ2.8mmの冷間圧延用母材とし、続いて圧下率50%の冷間圧延を行い、厚さ1.4mmの冷延鋼板を得た。
こうして得られた冷延鋼板に対し、連続焼鈍シミュレータを用いて、10℃/秒の加熱速度で650℃まで加熱した後、1℃/秒の加熱速度で表2に示される種々の温度まで加熱した後、その温度で均熱保持を実施した。その後、表2に示す各種冷却速度で種々の冷却停止温度まで冷却し、その温度で300秒間保持した後、室温まで冷却する焼鈍を施した。なお、Ac点、Ac点の測定は上述した冷延鋼板を、フォーマスタ試験機を用い、10℃/秒の加熱速度で650℃まで加熱した後、1℃/秒の加熱速度で950℃まで焼鈍し、加熱中の熱膨張曲線よりAc点、Ac点を測定した。
得られた高強度鋼板に対して下記の試験を実施した。試験結果を表3にまとめて示す。
(1)鋼組織の評価
鋼板の鋼組織の種類は、ナイタール試薬により鋼板の圧延方向に平行な断面を腐食して、板厚の1/4位置を光学顕微鏡およびSEMを用いて各組織を特定した。フェライト、ベイナイト、マルテンサイトの面積率に関しては、光学顕微鏡やSEMで得られた画像よりポイントカウンティング法によって測定した。なお、マルテンサイトとベイナイトはフォーマスタによる冷却中の熱膨張結果より、それらを区別した。残留オーステナイトの面積率に関しては、鋼板表層より板厚の1/4を化学研磨後、X線回折を行い、オーステナイトとフェライトの特定格子面ピーク値から回折強度を計算し、値を求めた。
(2)レーザ加工後の切断端面部の組織評価
レーザ加工後の切断端面から内部にかけての40μm幅の切断端面部における組織は、レーザ加工後の穴端面より圧延方向に平行な穴断面をナイタール試薬により腐食し、板厚全体と端面から40μmの距離よりなる領域の組織に対し、ポイントカウンティング法によってマルテンサイトとベイナイトの合計面積率を測定した。
(3)機械特性の評価
得られた鋼板を用い、以下に示す試験を行い、引張特性、伸びフランジ性を評価した。
(3−1)引張特性の評価
各鋼板の圧延平行方向からJIS5号B引張試験を採取した。試験方法はJIS Z2241に準じて行い、降伏点YP、引張強さTS、伸びElを測定した。
(3−2)伸びフランジ性の評価
各鋼板より100mm角の素板を切り出し、レーザによって素板中央部に10mmφの穴切断加工を施した。レーザ切断条件は、レーザ機種(コマツNTC製 TLV−510)、発振器(ファナック製C2000−モデルE)を用い、出力1400W、パルス2000Hz、デューティ90%、アシストガスを酸素とし、アシストガス圧0.07MPa、加工速度3000mm/minで穴加工を施した。該素板に対し、穴広げ試験を実施した。穴広げ試験によって得られた限界穴広げ率(HEL:Hole Expansion Limit)を伸びフランジ性の評価指標とした。穴広げ試験は、日本鉄鋼連盟規格(JFST1001−1996)に準じた方法で実施し、各試料ともに同一条件で3回の測定を行い、その平均値をHELとした。
本発明である供試材No.1〜11は、引張強さが440MPa以上の高強度を有し、かつ、TS×Elが13000MPa・%以上の優れた伸びと、レーザ加工後の初期穴に対する限界穴広げ率(HEL)とTSの積であるTS×HELが40000MPa・%以上である優れた伸びフランジ性を有していた。
これに対して、供試材No.12は、スラブ加熱温度が本発明内で規定する温度よりも高かったため、旧オーステナイト粒が粗大化し、レーザ加工後の切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が70%未満となり、TS×HELが40000MPa・%を下回り、伸びフランジ性が劣位にあった。
供試材No.13は、スラブ加熱温度が本発明内で規定する温度よりも低かったために、バンド状組織が発達し組織が不均一になった結果、切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が70%未満となり、伸びフランジ性が劣位にあった。
供試材No.14は、熱間圧延完了温度が本発明の規定範囲より高かったために、旧オーステナイト粒が粗大で不均一な組織となっており、レーザ加工後の切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が70%未満となった結果、伸びフランジ性に劣った。
供試材No.15は、熱間圧延完了温度が本発明の規定範囲よりも低かったために、未再結晶組織が組織中に残存しているのに加え、本発明で規定する残留オーステナイト量を満たせなかったために伸びおよび伸びフランジ性ともに劣位にあった。
供試材No.16は、熱間圧延の巻取温度が本発明での規定範囲より高く、パーライトが形成したため冷延焼鈍工程での炭化物の再固溶が抑制され、残留オーステナイト中へのC濃縮が進まず、本発明で規定する残留オーステナイト量を満たせなかったために伸びが劣位にあった。
供試材No.17は、連続焼鈍工程の均熱温度が本発明での規定温度よりも高かったために、オーステナイト粒が粗大化し、組織不均一となったため切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が70%未満となり、伸びフランジ性が劣位にあった。
供試材No.18は、連続焼鈍工程の均熱温度が本発明での規定温度よりも低かったために、冷間圧延の加工組織が冷延焼鈍後にも残存し、切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が70%未満となり、伸びと伸びフランジ性ともに劣位にあった。
供試材No.19は、連続焼鈍工程の均熱時間が本発明の規定範囲より長く、オーステナイトが粗大化し、組織不均一となったために切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が70%未満となり、伸びフランジ性が劣位にあった。
供試材No.20は、冷延焼鈍工程の均熱保持後、冷却停止温度までの平均冷却速度が本発明の規定範囲より大きく、本発明で規定したフェライト量を確保できず伸びが劣位にあった。
供試材No.21は、冷延焼鈍工程の均熱保持後、冷却停止温度までの平均冷却速度が本発明の規定範囲より小さく、冷却中にパーライトが形成したために、本発明で規定した残留オーステナイト量を得られずに伸びが劣位にあった。
供試材No.22は、冷延焼鈍工程の冷却停止温度が本発明の規定範囲より低かったために、マルテンサイトが過多に形成し、本発明で規定した残留γ量を得られずに伸びが劣位にあった。
供試材No.23は、冷延焼鈍工程の冷却停止温度が本発明の規定範囲よりも高かったために、パーライトが生成し、本発明で規定した残留オーステナイト量を得られないために伸びが劣位にあった。
さらに、供試材No.24は、本発明で規定した鋼成分範囲に入っていなかったために、440MPa以上かつ780MPa未満の引張強さを満たさなかったのに加え、端面硬度が上昇したことで、伸びフランジ性が劣位にあった。

Claims (6)

  1. レーザ切断加工された切断端面を有する鋼板ブランクであって、
    質量%で、C:0.02%以上0.16%以下、Si:0.04%以上2%以下、Mn:0.4%以上3%以下、P:0.05%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.01%以上2%以下、残部がFeおよび不純物である化学組成を有し、
    前記切断端面から内部にかけての40μm幅の切断端面部におけるマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が70%以上であり、前記切断端面部を除く母材部におけるフェライト面積率が10〜90%、残留オーステナイト面積率が1%以上、残部がマルテンサイトおよびベイナイトであるミクロ組織を有するとともに、
    引張強さが440MPa以上780MPa未満である機械特性を有すること
    を特徴とする鋼板ブランク。
  2. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下およびV:0.2%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼板ブランク
  3. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cu:1%以下、Ni:1%以下、Cr:1%以下、Mo:1%以下およびB:0.1%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋼板ブランク。
  4. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、REM:0.1%以下、Mg:0.01%以下、Ca:0.01%以下およびBi:0.1%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の鋼板ブランク。
  5. 請求項1から請求項4までのいずれかに記載された化学組成を有し、フェライト面積率が10〜90%、残留オーステナイト面積率が1%以上、残部がマルテンサイトおよびベイナイトであるミクロ組織を有することを特徴とするレーザ切断加工用鋼板。
  6. 下記工程(A)〜(C)を有することを特徴とする請求項5に記載されたレーザ切断加工用鋼板の製造方法:
    (A)1100℃以上1300℃以下とした鋼スラブに熱間圧延を施し、850℃以上950℃以下で熱間圧延を完了して熱延鋼板とし、650℃以下の温度域で巻取る熱間圧延工程;
    (B)前記工程(A)により得られた熱延鋼板に酸洗および冷間圧延を施して冷延鋼板とする酸洗・冷間圧延工程;および
    (C)前記工程(B)により得られた冷延鋼板に、{(Ac点+Ac点)/2}以上(Ac点+50℃)以下の温度域に加熱した後、前記温度域に240秒間以下滞在させ、その後2℃/秒以上50℃/秒以下の平均冷却速度で250℃以上500℃以下の温度域まで冷却する連続焼鈍工程。
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