上記で説明した従来技術の蓄電システム用の双方向インバータにあっては、回生運転時に直流電源によって発電電力が生成されている動作モードにおいて、次のような問題がある。直流電源による発電電力は自然エネルギーに基づくもので変動が大きい。他方、双方向インバータは蓄電池に対する充電電力・放電電力自身を制御対象としてコントロールするものではない。その理由は、蓄電池に対する充電電力・放電電力の値は、その他の電力の流れの制御の結果として決まるものであり、直接の制御対象ではないからである。これに起因して、発電電力の値をそのまま回生する際の双方向インバータでの電力変換ロス分が蓄電池から補われることになり、結果として蓄電池が少し放電してしまって、発電電力のみを回生したいという意図が実現できない。つまり、いわゆるダブル発電における押し上げ効果なしの運転条件を満たすことができない(売電問題)。
蓄電池における充放電がないようにしたいならば、蓄電池の充放電電力がゼロになるようインバータの力行回生電力をフィードバック制御すればよい。しかし、その場合、ゼロ制御ゆえに蓄電池の電力を活用することができなくなる。換言すれば、ピークシフト運転やピークカット運転と直流電源の発電電力回生の運転とが両立できない。つまり、異なる運転形態間でのシームレスな遷移が実現できない。
一方、蓄電池からの充放電をゼロにして発電電力を回生しつつ、蓄電池の電力を有効に活用しようと思えば、状況に応じて制御方法を切り替えればよい。しかし、制御方式を切り替えると回生運転の動作がハンチングしやすくなる。そこで、ハンチングを回避・低減するためには、システム全体を考慮したヒステリシスや動作遅延を適切に設ける必要があり、現実的な解決策とはなっていなかった。また、上記の適切なヒステリシスと動作遅延の設定については、直流電源が自然エネルギー等の不安定な電源であることから最適値の設定が困難であり、また力行回生出力要件によっては最適値の設定が困難である。
本発明はこのような事情に鑑みて創作したものであり、回生運転時に直流電源によって発電電力が生成されている動作モードにおいて、回生運転動作のハンチングなしに、蓄電池に対する充放電電力を所望通りに正確に制御しながら、蓄電池と直流電源との間の電力の流れを正確にコントロールすることを目的としている。併せて、ダブル発電における押し上げ効果なしの運転条件に対応し、ハンチングを防止するための様々な制御対象要素の追加を不要化することを目的としている。
本発明は、次の手段を講じることにより上記の課題を解決する。
本発明による蓄電システム用の双方向インバータは、
電力系統および負荷と接続される交流系と蓄電池および直流電源と接続される直流系との間で力行・回生の制御を行うインバータ制御部を含む双方向インバータであって、
蓄電池の充放電電力値と当該充放電電力に対する指令値との偏差に応じた入力値に対してリミット制限する可変回生リミット値を最適回生リミット値に応じて変更可能な可変式回生リミッタを有し、可変回生リミット値によりリミット制限された入力値を出力する回生電力リミット制御手段と、
複数の回生リミット値候補どうしを所定の指標に従って比較した結果選ばれた代表値を、前記最適回生リミット値として前記可変式回生リミッタに出力する代表値選択手段とを備え、
前記回生電力リミット制御手段から出力された出力値を前記インバータ制御部に送出することを特徴としている。
複数の回生リミット値候補は、双方向インバータの回生運転にかかわる各種の制御対象電力それぞれにおける目標値を指令する物理量である。代表値選択手段は、複数の回生リミット値候補のグループ内で候補どうしを所定の指標に従って比較し、その都度所定の指標に適合する1つの候補だけを代表値として選び出し、それを最適回生リミット値として回生電力リミット制御手段における可変式回生リミッタに出力する。どの候補が選ばれようと、得られた結果の最適回生リミット値は時間経過とともにシームレスに繋がっていく。可変式回生リミッタは自身における可変回生リミット値(変数)に対して代表値選択手段から入力した最適回生リミット値を更新設定する。可変式回生リミッタは、更新設定された最適回生リミット値を許容限界値として、入力されてくる値(蓄電池の充放電電力と当該充放電電力に対する指令値との偏差に対応する出力値)をスルーさせる。このようにして得られた最終の回生電力指令値が回生電力リミット制御手段の出力値としてインバータ制御部に送られる。
インバータ制御部に対する最終の回生電力指令値を生成するのが回生電力リミット制御手段である。この回生電力リミット制御手段はインバータ制御部の直前(換言すればインバータ制御部への入力系の最終段)に位置している。相互に直接的な関係性をもたない複数の制御対象電力の回生リミット値候補を代表値選択手段において集約し、最適回生リミット値を生成する。そしてその最適回生リミット値をインバータ制御部の直前の可変式回生リミッタに与え、それを許容限界値として、入力されてくる値をスルーさせている。
以上のようにして、直流電源による発電電力を利用しながらも蓄電池電力を利用するピークカット運転やピークシフト運転の同時設定モードにおいて、蓄電システム全体における様々で複雑な変動に対して、従来技術の場合のしきい値判定を伴うデジタル的な制御態様の切り替えなしに、所望の回生運転動作モードを実現することが可能となる。同時に、直流電源からの発電電力を双方向インバータで交流系に回生する運転モードにおいて、蓄電池からの放電電力分が電力系統側に逆潮流を起こさせていわゆるダブル発電での押し上げ効果が発生するのを回避することが可能となる。
よって、複数の運転モード間での遷移を回生運転のハンチングなしに、また蓄電池に対する充放電電力を所望通りに正確に制御しながら、蓄電池と直流電源との間の電力の流れを正確にコントロールすることが可能となる。なおかつ、そのための構成が比較的簡易なものですむ。なお、蓄電池に対する充放電電力の制御に関しては、ゼロ制御のみに限定されず、正または負の一定値に制御する場合も含み得るものとする。
上記の構成において、さらに次のように構成する好ましい態様がある。
(1)前記回生電力リミット制御手段については、前記入力値に対する可変回生リミット値を可変回生リミット上限値とし、この可変回生リミット上限値を上位の最適回生リミット値に応じて変更可能な上位の可変式回生リミッタを有するものとし、前記代表値選択手段については、前記所定の指標を大小関係の比較として、前記複数の回生リミット値候補のうちから最小のものを選択し、前記上位の可変式回生リミッタに対して送出する最小値選択手段を有するという態様である。
これは端的には、可変式回生リミッタがリミット上限値可変タイプであることを限定したものである。すなわち、上記した本発明の基本の構成において、「可変回生リミット値」に「上限値」を付加し、「最適回生リミット値」および「可変式回生リミッタ」の前に「上位の」を付加し、「代表値選択手段」を「最小値選択手段」に限定している。この場合、リミット下限値については特に問うものではなく、固定値であってもよいし、可変値であってもよい。
(2)別の態様として、前記回生電力リミット制御手段については、前記入力値に対する可変回生リミット値を可変回生リミット下限値とし、この可変回生リミット下限値を下位の最適回生リミット値に応じて変更可能な下位の可変式回生リミッタを有するものとし、前記代表値選択手段については、前記所定の指標を大小関係の比較として、前記複数の回生リミット値候補のうちから最大のものを選択し、前記下位の可変式回生リミッタに対して送出する最大値選択手段を有するという態様である。
これは端的には、可変式回生リミッタがリミット下限値可変タイプであることを限定したものである。すなわち、上記した本発明の基本の構成において、「可変回生リミット値」に「下限値」を付加し、「最適回生リミット値」および「可変式回生リミッタ」の前に「下位の」を付加し、「代表値選択手段」を「最大値選択手段」に限定している。この場合、リミット上限値については特に問うものではなく、固定値であってもよいし、可変値であってもよい。
(3)さらに別の態様として、前記回生電力リミット制御手段については、前記可変回生リミット値を可変回生リミット上限値とし、この可変回生リミット上限値を上位の最適回生リミット値に応じて変更可能な上位の可変式回生リミッタと、前記可変回生リミット値を可変回生リミット下限値とし、この可変回生リミット下限値を下位の最適回生リミット値に応じて変更可能な下位の可変式回生リミッタとを有するものとする。併せて、前記代表値選択手段については、前記所定の指標を大小関係の比較として、前記複数の回生リミット値候補のうちから最小のものを選択し、前記上位の可変式回生リミッタに対して送出する最小値選択手段と、前記所定の指標を大小関係の比較として、前記複数の回生リミット値候補のうちから最大のものを選択し、前記下位の可変式回生リミッタに対して送出する最大値選択手段とを有するものとする。
これは端的には、上記の(1)と(2)とを併合したものに相当する。すなわち、リミット上限値可変タイプの上位の可変式回生リミッタとリミット下限値可変タイプの下位の可変式回生リミッタを有するとともに、代表値選択手段として最小値選択手段と最大値選択手段の双方を備えている。
最小値選択手段にかかわる複数の回生リミット値候補は、双方向インバータの回生運転にかかわる各種の制御要素それぞれにおける上限目標値を指令する物理量である。その上限目標値以下であれば適正値として許容するが、上限目標値をさらに上回るときには不適正値として許容せず、強制的にその上限目標値に固定する。
最大値選択手段にかかわる複数の回生リミット値候補は、双方向インバータの回生運転にかかわる各種の制御要素それぞれにおける下限目標値を指令する物理量である。その下限目標値以上であれば適正値として許容するが、下限目標値をさらに下回るときには不適正値として許容せず、強制的にその下限目標値に固定する。
最小値選択手段にかかわる複数の回生リミット値候補と最大値選択手段にかかわる複数の回生リミット値候補の関係については、基本的には互いに無関係なものであり、しかし場合によっては同じものであることもある。個数的にも全く任意であり、同数である必要性はなく、あるいは一方のグループでリミット値候補が1個の場合もあり得る。
最小値選択手段は複数の回生リミット値候補のグループ内で、その都度最小値となっているものを選び出す。グループ内のすべてのリミット値候補の集合体を上下幅をもつひとまとまりの帯状データと捉えると、その帯状データの底辺に沿った1つのラインを形成する。そのラインの上位にはすべてのリミット値候補が存在しているが、そのラインの下位にはリミット値候補は1つも存在しない。上位の可変式回生リミッタは、このようにして生成された上位の最適回生リミット値を上限値として、それ以下のシグナルをスルーさせる。
最大値選択手段は複数の回生リミット値候補のグループ内で、その都度最大値となっているものを選び出す。グループ内のすべてのリミット値候補の集合体を上下幅をもつひとまとまりの帯状データと捉えると、その帯状データの頂辺に沿った1つのラインを形成する。そのラインの下位にはすべてのリミット値候補が存在しているが、そのラインの上位にはリミット値候補は1つも存在しない。可変式回生リミッタは、このようにして生成された下位の最適回生リミット値を下限値として、それ以上のシグナルをスルーさせる。
よって、上位の可変式回生リミッタと下位の可変式回生リミッタとからなる回生電力リミット制御手段の総合作用としては、その都度現在の最適な下限値を形成する下位の最適回生リミット値を最下辺ラインとし、その都度現在の最適な上限値を形成する上位の最適回生リミット値を最上辺ラインとする状態で、回生運転時に入力されてくる蓄電池からの放電電力にかかわる入力値のシグナルを、その最下辺ラインと最上辺ラインとで挟まれた領域内に存在するものに限ってスルーさせる。
このようにして得られた最終の回生電力指令値がインバータ制御部に送られる。ここでフィードバック信号として与える上位の最適回生リミット値と下位の最適回生リミット値はいずれも連続的に変化するものである。それゆえに、電力指令値が切り替わってもハンチングを起こさない充放電を実現することが可能になる。よって、シームレスで安定的な回生制御を実現することが可能となる。
従来技術との比較での大きな特長として、直流電源による発電電力を利用しながらも蓄電池電力を利用するピークカット運転とピークシフト運転の同時設定モードにおいて、蓄電システム全体における様々で複雑な変動に対して、一番大きい電力を回生する動作モードと一番小さい電力を回生する動作モードとを制御態様の切り替えなしで実現することが可能となる。
(4)また、上位の可変式回生リミッタによりリミット制限された出力値をインバータ制御部に送出する動作モードと、下位の可変式回生リミッタによりリミット制限された出力値をインバータ制御部に送出する動作モードとを選択的に切り替え可能に構成した態様もある。これは、(a)上位の可変式回生リミッタと最小値選択手段との組み合わせ状態での動作モードと、(b)下位の可変式回生リミッタと最大値選択手段との組み合わせ状態での動作モードとを有し、必要に応じて、両動作モードを任意に切り替えるように構成したものである。
(5)本発明による蓄電システムは、上記のいずれかの双方向インバータが電力系統および負荷に繋がる交流系と蓄電池および直流電源に繋がる直流系との間に介在された構成を有するものである。
本発明によれば、相互に直接的な関係性をもたない複数の回生リミット値候補をある共通の指標のもとに集約して、シームレスな最適回生リミット値を生成し、インバータ制御部への入力系の最終段において、そのシームレスな最適回生リミット値をもって、蓄電池の充放電電力値と当該充放電電力に対する指令値との偏差に応じた入力値をリミット制御しているので、双方向インバータ出力のステップ的な変動や回生運転のハンチングなしに、また蓄電池に対する充放電電力を所望通りに正確に制御しながら、蓄電池と直流電源との間の電力の流れを正確にコントロールして、ダブル発電における押し上げ効果なしの運転条件に対応することができる。加えて、ステップ的変動やハンチングを防止するための様々な制御対象要素の追加を不要化し、処理を簡略化することができる。
以下、上記構成の本発明の直流電源が接続された蓄電システム用の双方向インバータにつき、その実施の形態を説明する。
図1は本発明の双方向インバータが適用された直流電源が接続された蓄電システムの概略構成図、図2は本発明の双方向インバータの基本的な構成の一例を示す基本構成図である。
図1において、1は電力系統2および負荷3と接続される交流系、4は蓄電池5および直流電源6と接続される直流系、Xは交流系1と直流系4との間で力行・回生の制御を行う双方向インバータである。直流電源6について、ここでは一例として独立に制御される太陽光発電装置を2つ含むものとして構成されている。それぞれの太陽光発電装置は太陽電池と昇圧チョッパとを含むものとなっている。ただし、直流電源6としては、太陽光発電装置以外の直流電源でもよい。また、その個数は任意であり、また複数種類のものを組み合わせてもかまわない(詳しくは後述する)。
交流系1は電力系統2から受電電力P1を受電し、負荷3に対して負荷電力P2として供給する。力行運転モードにおいて、双方向インバータXは交流系1の電力を交流−直流変換した上で直流系4側に供給する。このとき、交流系1から送り込まれる電力が力行電力P3である。双方向インバータXによって直流系4側に力行された電力は、蓄電池5に対して充電電力P4として供給される。回生運転モードにおいて、双方向インバータXは蓄電池5からの放電を行わせ、直流系4上に発生する放電電力P5を直流−交流変換した上で交流系1側に供給する。双方向インバータXはまた、直流電源6によって生起された発電電力P6を直流−交流変換した上で交流系1側に供給する。この回生運転モードで交流系1側にもたらされる電力が回生電力P7である。交流系1において回生電力P7が電力系統2に送出されるときは、その電力は逆潮流電力P8となる。
双方向インバータXの構成を示す図2において、双方向インバータXは、交流系1と直流系4との間に介在されるインバータ制御部40のほか、このインバータ制御部40をコントロールするための構成要素として、回生電力リミット制御手段20と代表値選択手段30とを備えている。11は検出された蓄電池5の充放電電力Pbatと当該充放電電力に対する指令値Prefとの偏差ΔPを生成する減算手段である。減算手段11から出力される偏差ΔPは、補償器12を介して回生電力リミット制御手段20における可変式回生リミッタ20Xに対して入力される。
可変式回生リミッタ20Xは、それ自身がもつ可変回生リミット値を最適回生リミット値BLr_Xに応じて変更可能に制御するように構成されており、補償器12を介して入力されてくる偏差ΔPに対して、最適回生リミット値BLr_Xに応じて可変制御された可変回生リミット値のもとにリミット制御を行う。代表値選択手段30は、複数の回生リミット値候補Lr1_X,Lr2_X,Lr3_Xどうしを所定の指標に従って比較した結果選ばれた代表値を、前記の最適回生リミット値BLr_Xとして可変式回生リミッタ20Xに出力するように構成されている。所定の指標については、例えば最も小さい値を選択するとか、最も大きい値を選択するとかが代表例としてあるが、それ以外にも平均値、中間値、最頻値、最新値あるいは最古値などを選択するという指標もある。代表値選択手段30が扱う複数の回生リミット値候補Lr1_X,Lr2_X,Lr3_Xは、双方向インバータXの回生運転にかかわる各種の制御対象電力それぞれにおける目標値を指令する物理量である。代表値選択手段30は、その都度所定の指標に適合する1つの候補だけを代表値として選び出し、それを最適回生リミット値BLr_Xとして回生電力リミット制御手段20における可変式回生リミッタ20Xに出力する。
代表値選択手段30によってどの候補が選ばれようと、得られた結果の最適回生リミット値BLr_Xは時間経過とともにシームレスに繋がっていく。可変式回生リミッタ20Xは自身における可変回生リミット値(変数)に対して代表値選択手段30から入力した最適回生リミット値BLr_Xを更新設定する。可変式回生リミッタ20Xは、更新設定された最適回生リミット値BLr_Xを許容限界値として、入力値をスルーさせる。このようにして得られた最終の回生電力指令値Preg_opがインバータ制御部40に送られる。
回生電力リミット制御手段20はインバータ制御部40の直前に位置している。可変式回生リミッタ20Xに対して最適回生リミット値BLr_Xを出力する代表値選択手段30は、相互に直接的な関係性をもたない複数の制御対象電力の回生リミット値候補Lr1_X,Lr2_X,Lr3_Xを集約し、所定の指標を元にした選択により最適回生リミット値BLr_Xを生成する。この最適回生リミット値BLr_Xは、シームレスなものであり、しかもどの候補にも付随する互いに独立して推移する条件をすべてクリアしている。
図3は図2の基本構成の双方向インバータXの一例を示す。ここでは、代表値選択手段30として最小値選択手段31Aが用いられている。また、回生電力リミット制御手段20における可変式回生リミッタ20Xは、補償器12の出力に対する可変回生リミット値を可変回生リミット上限値とする上位の可変式回生リミッタ20X_Hとして構成されている(20X_Hで指示するブロック内の破線と上下方向の両矢印参照)。最小値選択手段31Aは、所定の指標として、複数の回生リミット値候補Lr1_X,Lr2_X,Lr3_Xのうちから最小のものを選択し、上位の最適回生リミット値BLr_X_Hとして、リミット上限値可変タイプの上位の可変式回生リミッタ20X_Hに対して送出する。なお、上位の可変式回生リミッタ20X_Hにおけるリミット下限値については固定値とする。
図4は図2の基本構成の双方向インバータXの別の一例を示す。ここでは、代表値選択手段30として最大値選択手段31Bが用いられている。また、回生電力リミット制御手段20における可変式回生リミッタ20Xは、補償器12の出力に対する可変回生リミット値を可変回生リミット下限値とする下位の可変式回生リミッタ20X_Lとして構成されている(20X_Lで指示するブロック内の破線と上下方向の両矢印参照)。最大値選択手段31Bは、所定の指標を大小関係の比較として、複数の回生リミット値候補Lr1_X,Lr2_X,Lr3_Xのうちから最大のものを選択し、下位の最適回生リミット値BLr_X_Lとして、リミット下限値可変タイプの下位の可変式回生リミッタ20X_Lに対して送出する。なお、下位の可変式回生リミッタ20X_Lにおけるリミット上限値については固定値とする。
より具体的な双方向インバータXの構成を示す図5において、双方向インバータXは、交流系1と直流系4との間に介在されるインバータ制御部40のほか、このインバータ制御部40をコントロールするための構成要素として、偏差調整手段10と回生電力リミット制御手段20と上位の最適回生リミット値決定手段30Aと下位の最適回生リミット値決定手段30Bとを備えている。
偏差調整手段10は、減算手段11、I制御部13、リミッタ14を有している。減算手段11は検出された蓄電池5の充放電電力Pbatと当該充放電電力に対する指令値Prefとの偏差ΔPを生成する機能を有している。I制御部13は偏差ΔPに対してI制御(積分制御)を実行する機能を有している。リミッタ14はI制御で得られた積分値P′に対して最大力行・回生電力値の上限値および下限値でリミット設定を行い、得られた電力偏差調整値Pbat_ipを回生電力リミット制御手段20に送出する機能を有している。
回生電力リミット制御手段20は、リミット上限値可変タイプの上位の可変式回生リミッタ20Aとリミット下限可変タイプの下位の可変式回生リミッタ20Bを有している。図示例では上位の可変式回生リミッタ20Aが前段に位置し、下位の可変式回生リミッタ20Bが後段に位置しているが、その逆の位置関係であってもよい。
上位の可変式回生リミッタ20Aは、電力偏差調整値Pbat_ipと上位の最適回生リミット値BLr_Hとを入力とする。上位の最適回生リミット値BLr_Hは、交流系1および直流系4における運転状況変化をリアルタイムに反映するもので、電力偏差調整値Pbat_ipに対する上位回生リミットを前記の運転状況変化に即してリアルタイムに最適化制御する機能(可変回生リミット上限値Lr_H(上限)の最適化調整機能)を有している。上位の最適回生リミット値BLr_Hは上位の最適回生リミット値決定手段30Aで生成される。上位の最適回生リミット値決定手段30Aが行う上位回生リミットの最適化については、双方向インバータXの設計段階で運転モードの切り替えに応じて自動化されているのでもよいし、あるいはユーザーが任意に指示を与えることができるようにしてもよい。上位の可変式回生リミッタ20Aは、交流系1および直流系4における運転状況変化をリアルタイムに反映しながら、上位の最適回生リミット値BLr_Hに応じて電力偏差調整値Pbat_ipに対する可変回生リミット上限値Lr_H(上限)を変更する。すなわち、蓄電池5からの放電電力P5が小さく、電力指令値Prefに近づく方向に電力偏差調整値Pbat_ipが増加していくとき、上位の可変式回生リミッタ20Aによってリミット制限される前に放電電力P5が電力指令値Prefになる場合には、上位の可変式回生リミッタ20Aは電力偏差調整値Pbat_ipに対し、リミット制限を行うことなくそのままスルーし、一方で、放電電力P5が電力指令値Prefに達する前に上位の可変式回生リミッタ20Aにてリミット制限が行われる場合には、電力偏差調整値Pbat_ipは可変回生リミット上限値Lr_H、すなわち上位の最適回生リミット値BLr_Hになる。これにより、制御態様のデジタル的な切り替えなしに自動的に蓄電池5の充放電電力が電力指令値Pref以下で、かつ回生電力P7が上位の最適回生リミット値BLr_H以下となる。
一方、下位の可変式回生リミッタ20Bは、上位の可変式回生リミッタ20Aからの電力偏差調整値Pbat_ip′と下位の最適回生リミット値BLr_Lとを入力とする。下位の最適回生リミット値BLr_Lは、交流系1および直流系4における運転状況変化をリアルタイムに反映するもので、電力偏差調整値Pbat_ip′に対する回生リミットを前記の運転状況変化に即してリアルタイムに最適化制御する機能(可変回生リミット下限値Lr_L(下限)の最適化調整機能)を有している。下位の最適回生リミット値BLr_Lは下位の最適回生リミット値決定手段30Bで生成される。下位の最適回生リミット値決定手段30Bが行う下位回生リミットの最適化については、双方向インバータXの設計段階で運転モードの切り替えに応じて自動化されているのでもよいし、あるいはユーザーが任意に指示を与えることができるようにしてもよい。下位の可変式回生リミッタ20Bは、交流系1および直流系4における運転状況変化をリアルタイムに反映しながら、下位の最適回生リミット値BLr_Lに応じて電力偏差調整値Pbat_ip′に対する可変回生リミット下限値Lr_L(下限)を変更する。すなわち、蓄電池5からの放電電力P5が大きく、電力指令値Prefに近づく方向に電力偏差調整値Pbat_ip′が減少していくとき、下位の可変式回生リミッタ20Bによってリミット制限される前に放電電力P5が電力指令値Prefになる場合には、下位の可変式回生リミッタ20Bは電力偏差調整値Pbat_ip′に対し、リミット制限を行うことなくそのままスルーし、放電電力P5が電力指令値Prefに達する前に下位の可変式回生リミッタ20Bにてリミット制限が行われる場合には、電力偏差調整値Pbat_ip′は可変回生リミット下限値Lr_L、すなわち下位の最適回生リミット値BLr_Lになる。これにより、制御態様のデジタル的な切り替えなしに自動的に蓄電池5の充放電電力が電力指令値Pref以上で、かつ回生電力が下位の最適回生リミット値BLr_L以上となる。
上位の最適回生リミット値決定手段30Aは、双方向インバータXによる上位回生制御動作について希望の動作特性を実現するために、最大力行・回生電力値の範囲内で検出値に対応して求められた上位の最適回生リミット値BLr_Hを生成する。そして、その上位の最適回生リミット値BLr_Hを回生電力リミット制御手段20における上位の可変式回生リミッタ20Aに設定する。
一方、下位の最適回生リミット値決定手段30Bは、双方向インバータXによる下位回生制御動作について希望の動作特性を実現するために、最大力行・回生電力値の範囲内で検出値に対応して求められた下位の最適回生リミット値BLr_Lを生成する。そして、その下位の最適回生リミット値BLr_Lを回生電力リミット制御手段20における下位の可変式回生リミッタ20Bに設定する。
上記の上位の最適回生リミット値BLr_Hと下位の最適回生リミット値BLr_Lの設定は、互いに独立したものであり、原則的にはタイミング的に別個に起こるものであるが、状況によっては同時に起こることもある。
上位の最適回生リミット値決定手段30Aは最小値選択手段31Aを備えている。この最小値選択手段31Aは、それ以下は適正であるが、それを上回ると不適切であるとする複数の回生リミット値候補Lr1_H,Lr2_H,Lr3_Hのうちから最小のものを選択し(図8、図9参照)、上位の最適回生リミット値BLr_Hとして上位の可変式回生リミッタ20Aに送出する機能を有している。これらの回生リミット値候補Lr1_H,Lr2_H,Lr3_Hは、双方向インバータXの回生運転にかかわる各種の制御対象電力それぞれにおける上限目標値を指令する物理量である。これらの回生リミット値候補Lr1_H,Lr2_H,Lr3_Hは、ピークシフト運転やピークカット運転や発電電力回生運転など個々の制御対象について、それを上回ると制御上不適切となる上方の限界値を定めるために使用される。ただし、個々の回生リミット値候補Lr1_HまたはLr2_HまたはLr3_Hは互いに独立したもので、それ自体では回生運転モードでの蓄電池5と直流電源6との間の経時的な電力の流れを正確にコントロールすることはできない。
下位の最適回生リミット値決定手段30Bは最大値選択手段31Bを備えている。この最大値選択手段31Bは、それ以上は適正であるが、それを下回ると不適切であるとする複数の回生リミット値候補Lr1_L,Lr2_L,Lr3_Lのうちから最大のものを選択し(図11、図12参照)、下位の最適回生リミット値BLr_Lとして下位の可変式回生リミッタ20Bに送出する機能を有している。これらの回生リミット値候補Lr1_L,Lr2_L,Lr3_Lは、双方向インバータXの回生運転にかかわる各種の制御対象電力それぞれにおける下限目標値を指令する物理量である。これらの回生リミット値候補Lr1_L,Lr2_L,Lr3_Lは、ピークシフト運転やピークカット運転や発電電力回生運転など個々の制御対象について、それを下回ると制御上不適切となる下方の限界値を定めるために使用される。ただし、個々の回生リミット値候補Lr1_LまたはLr2_LまたはLr3_Lは互いに独立したもので、それ自体では回生運転モードでの蓄電池5と直流電源6との間の経時的な電力の流れを正確にコントロールすることはできない。
回生電力リミット制御手段20が出力する最終の回生電力指令値Preg_opは回生運転にかかわるインバータ制御部40への指令値であるが、一方で力行運転にかかわる最終の力行電力指令値Ppow_opもインバータ制御部40に向けて送られてくる。切り替え手段50は、回生運転時の最終の回生電力指令値Preg_opと力行運転時の最終の力行電力指令値Ppow_opとを切り替えてインバータ制御部40に送るようになっている。
なお、直流電源6としては、太陽光発電装置のほか、風力発電装置や水力発電装置など再生可能エネルギーを利用して発電するもの、あるいはディーゼルエンジン発電機、あるいは燃料電池、マイクロガスタービン発電機などで生成された交流電力を整流するものなどであってもよい。その使用個数は単数または任意の複数であり、同じ方式の組み合わせ、異なる方式の組み合わせであってもかまわない。
次に、上記のように構成された直流電源を接続した蓄電システム用の双方向インバータの動作を説明する。
最適回生リミット値決定手段30において、複数の回生リミット値候補Lr1_H,Lr2_H,Lr3_Hが生成ないし入力設定され、それぞれ最小値選択手段31Aに送られる。最小値選択手段31Aは、入力されてきた複数の回生リミット値候補Lr1_H,Lr2_H,Lr3_Hのうちから、その都度のタイミングで最小のものを選択する。なお、図6では、選択された結果が分かりやすいように、選択された結果の下方に太い実線を表しており、実際にはLr1_H,Lr2_H,Lr3_Hのいずれかの値で制御されている。図6に示すように、時刻t0〜t3では1番目の回生リミット値候補Lr1_Hが選択される。時刻t2で2番目の回生リミット値候補Lr2_Hと3番目の回生リミット値候補Lr3_Hとがクロスするが、これは1番目の回生リミット値候補Lr1_Hの選択に影響を与えない。時刻t3で1番目の回生リミット値候補Lr1_Hに対して3番目の回生リミット値候補Lr3_Hがクロスして下位に回り込むようになるため、3番目の回生リミット値候補Lr3_Hが選択される。時刻t5で1番目の回生リミット値候補Lr1_Hと2番目の回生リミット値候補Lr2_Hとがクロスするが、これは3番目の回生リミット値候補Lr3_Hの選択に影響を与えない。時刻t6で3番目の回生リミット値候補Lr3_Hに対して2番目の回生リミット値候補Lr2_Hがクロスして下位に回り込むようになるため、2番目の回生リミット値候補Lr2_Hが選択される。時刻t7で1番目の回生リミット値候補Lr1_Hと3番目の回生リミット値候補Lr3_Hとがクロスするが、これは2番目の回生リミット値候補Lr2_Hの選択に影響を与えない。時刻t10で1番目の回生リミット値候補Lr1_Hと3番目の回生リミット値候補Lr3_Hとがクロスするが、これも2番目の回生リミット値候補Lr2_Hの選択に影響を与えない。
以上のようにして、複数の回生リミット値候補(Lr1_H,Lr2_H,Lr3_H)のグループ内で、その都度最小値となっているものを選び出す。グループ内のすべてのリミット値候補の集合体を上下幅をもつひとまとまりの帯状データと捉えると、その帯状データの底辺に沿った1つのラインが形成されるが、最小値選択手段31Aは、その底辺ラインを上位の最適回生リミット値BLr_H(上側の太い実線参照)として生成出力する。すなわち、最小値選択手段31Aが生成する上位の最適回生リミット値BLr_Hは、時刻t0〜t3での1番目の回生リミット値候補Lr1_H、時刻t3〜t6での3番目の回生リミット値候補Lr3_Hおよび時刻t6以降での2番目の回生リミット値候補Lr2_Hを一連に結んだものとなる。その形態はシームレスとなっている。
一方、下位の最適回生リミット値決定手段30Bにおいて、複数の回生リミット値候補Lr1_L,Lr2_L,Lr3_Lが生成ないし入力設定され、それぞれ最大値選択手段31Bに送られる。最大値選択手段31Bは、入力されてきた複数の回生リミット値候補Lr1_L,Lr2_L,Lr3_Lのうちから、その都度のタイミングで最大のものを選択する。なお、図6では、選択された結果が分かりやすいように、選択された結果の上方に太い実線を表しており、実際にはLr1_L,Lr2_L,Lr3_Lのいずれかの値で制御されている。図6に示すように、時刻t0〜t1では1番目の回生リミット値候補Lr1_Lが選択される。時刻t1で1番目の回生リミット値候補Lr1_Lに対して2番目の回生リミット値候補Lr2_Lがクロスして上位に回り込むようになるため、2番目の回生リミット値候補Lr2_Lが選択される。時刻t3で1番目の回生リミット値候補Lr1_Lと3番目の回生リミット値候補Lr3_Lとがクロスするが、これは2番目の回生リミット値候補Lr2_Lの選択に影響を与えない。時刻t4で2番目の回生リミット値候補Lr2_Lに対して3番目の回生リミット値候補Lr3_Lがクロスして上位に回り込むようになるため、3番目の回生リミット値候補Lr3_Lが選択される。時刻t8で1番目の回生リミット値候補Lr1_Lと2番目の回生リミット値候補Lr2_Lとがクロスするが、これは3番目の回生リミット値候補Lr3_Lの選択に影響を与えない。時刻t9で3番目の回生リミット値候補Lr3_Lに対して1番目の回生リミット値候補Lr1_Lがクロスして上位に回り込むようになるため、1番目の回生リミット値候補Lr1_Lが選択される。時刻t11で2番目の回生リミット値候補Lr2_Lと3番目の回生リミット値候補Lr3_Lとがクロスするが、これは1番目の回生リミット値候補Lr1_Lの選択に影響を与えない。
以上のようにして、複数の回生リミット値候補(Lr1_L,Lr2_L,Lr3_L)のグループ内で、その都度最大値となっているものを選び出す。グループ内のすべてのリミット値候補の集合体を上下幅をもつひとまとまりの帯状データと捉えると、その帯状データの頂辺に沿った1つのラインが形成されるが、最大値選択手段31Bは、その頂辺ラインを下位の最適回生リミット値BLr_L(下側の太い実線参照)として生成出力する。すなわち、最大値選択手段31Bが生成する下位の最適回生リミット値BLr_Lは、時刻t0〜t1での1番目の回生リミット値候補Lr1_L、時刻t1〜t4での2番目の回生リミット値候補Lr2_L、時刻t4〜t9での3番目の回生リミット値候補Lr3_Lおよび時刻t9以降での1番目の回生リミット値候補Lr1_Lを一連に結んだものとなる。その形態はシームレスとなっている。
以下、具体的動作例を説明する。
(第1の動作例)
図7は図5の構成の蓄電システム用の双方向インバータにおける第1の動作例を示す動作状況構成図、図8(a),(b),(c)は電力不適正領域の説明図、図9は図7に対応した上位の最適回生リミット値BLr_Hおよび下位の最適回生リミット値BLr_Lの生成説明図である。
第1の動作例にあっては、図8(a)で太い実線で示すように上位の最適回生リミット値決定手段30Aにおける1番目の回生リミット値候補Lr1_Hとしてピークシフト回生電力の回生リミット値を設定し、図8(b)で太い破線で示すように2番目の回生リミット値候補Lr2_Hとしてピークカット回生電力の回生リミット値を設定する。図8(c)で太い鎖線で示すのは発電電力P6である。また、下位の最適回生リミット値決定手段30Bにおける1番目の回生リミット値候補Lr1_Lとして目標電力値0.0を設定する。2番目の回生リミット値候補Lr2_Lおよび3番目の回生リミット値候補Lr3_Lの設定はない。
図8(a)で太い実線で示すように、ピークシフト回生電力の回生リミット値候補Lr1_Hは、時刻t10から時刻t11まではゼロレベルの固定値で推移し、時刻t11で急速に立ち上がり、時刻t11以降は一定のハイレベルの固定値で推移するような指令情報となっている。つまりは、時刻t11でピークシフト回生運転を実行しようする運転制御プログラムに対応している。回生リミット値候補Lr1_Hのラインの上位にあるハッチングで強調した領域がピークシフト回生電力の不適正領域E1NG_Hとなり、回生リミット値候補Lr1_Hのライン以下の白色の領域がピークシフト回生電力の適正領域E1OK_Hとなっている。
図8(b)で太い破線で示すように、ピークカット回生電力の回生リミット値候補Lr2_Hは、時刻t10ですでにハイレベルにあり、時刻t10から時刻t16にかけて緩やかに低位レベルに減少するような指令情報となっている。回生リミット値候補Lr2_Hのラインの上位にあるハッチングで強調した領域がピークカット回生電力の不適正領域E2NG_Hとなり、回生リミット値候補Lr2_Hのライン以下の白色の領域がピークカット回生電力の適正領域E2OK_Hとなっている。
図8(c)で太い鎖線で示す発電電力P6は、時刻t10から時刻t13までは一定の中位レベルの固定値で推移し、時刻t13から緩やかに立ち上がり、時刻t14およびそれ以降にかけて勾配を漸減しながらも一定のハイレベルに向かう増加傾向を示している。発電電力P6のラインの上位にあるハッチングで強調した領域が不適正領域E3NG_Hとなり、発電電力P6のライン以下の白色の領域が適正領域E3OK_Hとなっている。
上記の複数の運転態様である図8(a)のピークシフト回生電力の適正領域E1OK_Hと図8(b)のピークカット回生電力の適正領域E2OK_Hと図8(c)の発電電力P6の適正領域E3OK_Hの論理積をとった領域が図9で細い縦線群を引いて示す回生電力の適正領域EOK_Hである。そして、この回生電力の適正領域EOK_Hの頂辺に沿ったラインが上位の最適回生リミット値BLr_Hとなる。最小値選択手段31Aは、このようにして複数の回生リミット値候補Lr1_H,Lr2_H,Lr3_Hのうちから常に最小のものを選択するものであり、選択の結果得られた上位の最適回生リミット値BLr_Hが図9で太い実線で示すラインとなる。
そして、下位の最適回生リミット値決定手段30Bにおいては、1番目の回生リミット値候補Lr1_Lとして回生電力の基準値ゼロレベルである「0.0」が設定されている。なお、ここでは、正値は回生運転(放電)に対応している(負値は力行運転(充電)に対応)。
図9において、時刻t10から時刻t11にかけて、1番目の回生リミット値候補Lr1_Hが選択されている。時刻t11で1番目の回生リミット値候補Lr1_Hに対して発電電力P6がクロスして下位に回り込むようになるため、発電電力P6が選択される状態にシームレスに遷移する。時刻t12で1番目の回生リミット値候補Lr1_Hと2番目の回生リミット値候補Lr2_Hとがクロスするが、これは上位の最適回生リミット値BLr_Hとしての発電電力P6の選択に影響を与えない。時刻t13で発電電力P6が増加し始めるが、1番目の回生リミット値候補Lr1_Hと2番目の回生リミット値候補Lr2_Hに対して依然として小さいので発電電力P6がそのまま選択される。時刻t14で発電電力P6に対して2番目の回生リミット値候補Lr2_Hがクロスして下位に回り込むようになるため、2番目の回生リミット値候補Lr2_Hの選択状態にシームレスに遷移する。時刻t15で1番目の回生リミット値候補Lr1_Hと発電電力P6とがクロスするが、これは2番目の回生リミット値候補Lr2_Hの選択に影響を与えない。この状態は時刻t16まで続いている。
以上のようにして、複数の回生リミット値候補(Lr1_H,Lr2_H,P6)のグループ内で、その都度最小値となっているものをリアルタイムに選び出す。グループ内のすべてのリミット値候補の集合体を上下幅をもつひとまとまりの帯状データと捉えると、その帯状データの底辺に沿った1つのラインが形成されるが、最小値選択手段31Aは、その底辺ラインを上位の最適回生リミット値BLr_H(上側の太い実線参照)として生成出力する。すなわち、最小値選択手段31Aが生成する上位の最適回生リミット値BLr_Hは、時刻t10〜t11での1番目の回生リミット値候補Lr1_H、時刻t11〜t14での発電電力P6および時刻t14以降での2番目の回生リミット値候補Lr2_Hを一連に結んだものとなる。その形態はシームレスとなっている。
図9で一連の上位の最適回生リミット値BLr_Hのラインの上位部分に施したハッチングは、この運転モードでの回生電力の不適正領域ENG_Hとなる。その上位の最適回生リミット値BLr_Hのラインから下位の最適回生リミット値BLr_Lまで引いた細い縦線群の領域がこの運転モードでの回生電力の適正領域EOK_Hとなる。
時刻t10〜t11の時間帯では、直流電源6による発電電力P6は生起しているが、ピークシフト運転にかかわる1番目の回生リミット値候補Lr1_Hを上限とすることを条件にして制御している。時刻t11〜t14の時間帯では、電力指令値Prefを0.0にフィードバックする制御が有効になり、結果として発電電力P6に近い値(P6から電力損失を引いた値)が回生される。時刻t14〜t16の時間帯では、ピークカット運転にかかわる2番目の回生リミット値候補Lr2_Hを上限とすることを条件にして制御している。詳しくは次のとおりである。
時刻t10〜t11の時間帯では、ピークカット運転中であるため、発電電力P6は回生せず、蓄電池5の充電に供している。時刻t11〜t13の時間帯では、ピークシフト運転を開始したので、発電電力P6の蓄電池5への充電は停止し、発電電力P6を交流系1へ回生する。しかし、その回生電力P7は放電電力P5をゼロに制御した結果、発電電力P6に近い値(P6から電力損失を引いた値)となっている。時刻t13〜t14の時間帯では発電電力P6が増加するが、これに伴って回生電力P7の上限も追従させ、増加させている。時刻t14以降では、発電電力P6が増え続けるが、回生電力P7のピークカット運転(図8(b);2番目の回生リミット値候補Lr2_H参照)に制約されて、回生電力P7の出力は漸次的な抑制を受けるようになっている。
このように時間帯によって運転態様が刻々変遷してゆくが、いずれの態様からいずれの態様へ変遷しようとも、従来例のようなしきい値判定での切り替えゆえに予期せぬステップ的な変動(急変)を招いてしまうというのではなく、リミット値の上限値の連続的・シームレスな推移でもって対応することができる。
(第2の動作例)
図10は図5の構成の蓄電システム用の双方向インバータにおける第2の動作例を示す動作状況構成図、図11(a),(b),(c)は電力不適正領域の説明図、図12は図10に対応した下位の最適回生リミット値BLr_Lおよび上位の最適回生リミット値BLr_Hの生成説明図である。
第2の動作例にあっては、図11(a)で太い実線で示すように下位の最適回生リミット値決定手段30Bにおける1番目の回生リミット値候補Lr1_Lとしてピークシフト回生電力の回生リミット値を設定し、図11(b)で太い破線で示すように2番目の回生リミット値候補Lr2_Lとしてピークカット回生電力の回生リミット値を設定する。図11(c)で太い鎖線で示すのは発電電力P6である。また、上位の最適回生リミット値決定手段30Aにおける1番目の回生リミット値候補Lr1_Hとしてシステムの最大回生電力値を設定する。2番目の回生リミット値候補Lr2_Hおよび3番目の回生リミット値候補Lr3_Hの設定はない。
図11(a)で太い実線で示すように、ピークシフト回生電力の回生リミット値候補Lr1_Lは、時刻t20から時刻t23まではゼロレベルの固定値で推移し、時刻t23で急速に立ち上がり、時刻t23以降は一定のハイレベルの固定値で推移するような指令情報となっている。つまりは、時刻t23でピークシフト回生運転を実行しようする運転制御プログラムに対応している。回生リミット値候補Lr1_Lのラインの下位にあるハッチングで強調した領域がピークシフト回生電力の不適正領域E1NG_Lとなり、回生リミット値候補Lr1_Lのライン以上の白色の領域がピークシフト回生電力の適正領域E1OK_Lとなっている。
図11(b)で太い破線で示すように、ピークカット回生電力の回生リミット値候補Lr2_Lは、時刻t20から時刻t21にかけてゼロレベルの固定値で推移し、時刻t21でやや急速に立ち上がり、時刻t23までは勾配を徐々に下げながらも上昇し、時刻t23で頂点に達し、時刻t23からは緩やかに低下し始め、時刻t25までは勾配を徐々にマイナス側に強めながら低下し、時刻t25以降はゼロレベルで推移するような指令情報となっている。回生リミット値候補Lr2_Lのラインの下位にあるハッチングで強調した領域がピークカット回生電力の不適正領域E2NG_Lとなり、回生リミット値候補Lr2_Lのライン以上の白色の領域がピークカット回生電力の適正領域E2OK_Lとなっている。
図11(c)で太い鎖線で示す発電電力P6は、時刻t20から時刻t26まで一定の中位レベルの固定値で推移する。発電電力P6のラインの下位にあるハッチングで強調した領域が不適正領域E3NG_Lとなり、発電電力P6のライン以上の白色の領域が適正領域E3OK_Lとなっている。
上記の複数の運転態様である図11(a)のピークシフト回生電力の適正領域E1OK_Lと図11(b)のピークカット回生電力の適正領域E2OK_Lと図11(c)の発電電力の適正領域E3OK_Lの論理積をとった領域が図12で細い縦線群を引いて示す回生電力の適正領域EOK_Lである。そして、この回生電力の適正領域EOK_Lの底辺に沿ったラインが下位の最適回生リミット値BLr_Lとなる。最大値選択手段31Bは、このようにして複数の回生リミット値候補Lr1_L,Lr2_L,P6のうちから常に最大のものを選択するものであり、選択の結果得られた下位の最適回生リミット値BLr_Lが図12で太い実線で示すラインとなる。
そして、上位の最適回生リミット値決定手段30Aにおいては、1番目の回生リミット値候補Lr1_Hとしてシステムの最大回生電力の値が設定されている。
図12において、時刻t20から時刻t22にかけて、蓄電池5からの放電電力を0.0に制御することにより発電電力P6に近い電力(電力損失を引いた値)を回生する。時刻t21で2番目の回生リミット値候補Lr2_Lが立ち上がるが、このことは下位の最適回生リミット値BLr_Lとしての発電電力P6の選択に影響を与えない。時刻t22で発電電力P6に対して2番目の回生リミット値候補Lr2_Lがクロスして上位に回り込むようになるため、2番目の回生リミット値候補Lr2_Lが選択される状態にシームレスに遷移する。時刻t23で2番目の回生リミット値候補Lr2_Lに対して1番目の回生リミット値候補Lr1_Lがクロスして上位に回り込むようになるため、1番目の回生リミット値候補Lr1_Lの選択状態にシームレスに遷移する。時刻t24で2番目の回生リミット値候補Lr2_Lと発電電力P6とがクロスするが、これは1番目の回生リミット値候補Lr1_Lの選択に影響を与えない。この状態は時刻t26まで続いている。
以上のようにして、複数の回生リミット値候補(Lr1_L,Lr2_L,P6)のグループ内で、その都度最大値となっているものをリアルタイムに選び出す。グループ内のすべてのリミット値候補の集合体を上下幅をもつひとまとまりの帯状データと捉えると、その帯状データの頂辺に沿った1つのラインが形成されるが、最大値選択手段31Bは、その頂辺ラインを下位の最適回生リミット値BLr_L(下側の太い実線参照)として生成出力する。すなわち、最大値選択手段31Bが生成する下位の最適回生リミット値BLr_Lは、時刻t20〜t22での発電電力P6、時刻t22〜t23での2番目の回生リミット値候補Lr2_Lおよび時刻t23以降での1番目の回生リミット値候補Lr1_Lを一連に結んだものとなる。その形態はシームレスとなっている。
図12で一連の下位の最適回生リミット値BLr_Lのラインの下位部分に施したハッチングは、この運転モードでの回生電力の不適正領域ENG_Lとなる。その下位の最適回生リミット値BLr_Lのラインから上位の最適回生リミット値BLr_Hまで引いた細い縦線群の領域がこの運転モードでの回生電力の適正領域EOK_Lとなる。
時刻t20〜t21の時間帯では、直流電源6による発電電力P6が生起しており、一方、ピークシフト運転もピークカット運転も指令されていないので、発電電力P6を下限とする状態で運転している。時刻t21でピークカット運転が開始されるが、時刻t22までは発電電力P6がピークカット運転にかかわる2番目の回生リミット値候補Lr2_Lよりも大きいので、引き続いて発電電力P6を下限とする状態で運転している。時刻t22〜時刻t23の時間帯では、ピークカット運転にかかわる2番目の回生リミット値候補Lr2_Lを下限とする状態で運転している。時刻t23〜t26の時間帯では、ピークシフト運転にかかわる1番目の回生リミット値候補Lr1_Lを下限とする状態で運転している。
このように時間帯によって運転態様が刻々変遷してゆくが、いずれの態様からいずれの態様へ変遷しようとも、従来例のようなしきい値判定に基づいて切り替えるのではなく、リミット値の下限値の連続的・シームレスな推移でもって対応することができる。
以上詳述したように、複数の制御対象電力ごとにしきい値判定を行って個別的に(相互に直接の関係性をもたずに)制御を続けるがゆえに出力形態に予期せぬステップ的な変動(急変)を招来する従来技術とは異なり、インバータ制御部40に対する最終的な指令値を生成する直前の回生電力リミット制御手段20において、相互に直接的な関係性をもたない複数の制御対象電力を集約して、それらに共通する判定基準として、リミッタ上限値に対しては複数の制御対象電力のうちの最も小さいものを選び、また、リミッタ下限値に対しては複数の制御対象電力のうちの最も大きいものを選ぶことで、すべての制御対象電力が要求している条件を満たすことができる。したがって、集約的で単純な処理(最小値選択、最大値選択)をもって、複数の運転モード間の遷移を互いにシームレスに実現することができる。すなわち、蓄電池5と直流電源6との間の電力の流れを正確にコントロールし、回生運転モードにおいて蓄電池5に対する充放電電力を正確にゼロ制御することを比較的容易に実現することができる。なお、充放電電力の正確なゼロ制御は動作の好ましい一例ではあるが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、正または負の一定値に固定化するコントロールの場合も含み得るものとする。
なお、上記実施形態では、偏差調整手段10とリミッタ14との間を中継する手段としてI制御部(積分制御部)13を用いているが、必ずしもそれに限定する必要はなく、I制御部に代えてPI制御部(比例積分制御部)やPID制御部(比例積分微分制御部)を使用してもよい。ただし、PI制御はI制御に比べて動作が速いため、後段にさらに蓄電池電圧についてPI制御を伴うリミット制御が控えている場合には、2つのPI制御が干渉して動作乱れが発生し、正確な制御が困難になってしまう。そこで、そのような場合には、応答性の比較的緩やかなI制御部が好ましいと言える。
蓄電池5にかかわる電力指令値Prefについては通常これをゼロ(0.0)に設定するが、本発明は必ずしもそれに限定されるものではなく、ゼロに比較的近い任意の値(正・負いずれも可)を取り得るものとなっている。
直流電源6からの発電電力P6を双方向インバータYで交流系1に回生する運転モードにおいて、放電電力P5をゼロにすることにより蓄電池5からの放電電力P5が電力系統2側に逆潮流を起こしていわゆるダブル発電での押し上げ効果が発生するのを防止する。すなわち、放電電力P5をゼロ制御することでダブル発電における押し上げ効果なしに対応することができる。発電電力P6を回生しながら蓄電池5に対する一定充電速度での充電や蓄電池5からの一定放電速度での放電が可能となる。