JP2016137038A - R−r間隔補間方法および心拍変動計測装置 - Google Patents

R−r間隔補間方法および心拍変動計測装置 Download PDF

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Abstract

【課題】R−R間隔タコグラムの表示に有効なR−R間隔の欠損部分の補間を簡単な計算で実現するとができるR−R間隔補間方法および心拍変動計測装置を提供する。【解決手段】R−R間隔補間方法は、生体の心電図波形から得られたR−R間隔に欠損が生じているか否かを判定する欠損判定ステップS1と、R−R間隔に欠損が生じているときに、直前の心拍時刻までのR−R間隔を平均化した値に基づいて、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に挿入すべき心拍数Nを推定する心拍数推定ステップS2と、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に、心拍数推定ステップで推定した心拍数Nの数だけR−R間隔のデータを挿入することによりR−R間隔を補間するR−R間隔補間ステップS3とを含む。【選択図】図5

Description

本発明は、ECG(Electrocardiogram、心電図)波形から得られるR−R間隔を補間するR−R間隔補間方法および心拍変動計測装置に関するものである。
心臓の拍動リズムは、自律神経すなわち交感神経・迷走神経の影響を受けて変動することが知られている。心拍の変動を分析することは、自律神経の働きを評価することにつながる。例えば、安静かつ寛いだ状態では、迷走神経が亢進し、呼吸に伴う心拍変動(呼吸性洞性不整脈)が顕著にみられるようになる。心拍変動の様子を観測することは、緊張/寛ぎの状態や、睡眠の質などを知ることに役立つ。
心拍変動は、一般的に、心電図のR波と1つ前のR波の間隔であるR−R間隔の変動として計測される。R−R間隔は、心電図波形のQRS波上の特定のポイントとして得られる心拍時刻の、隣り合う拍の間の長さをとったものであり、連続する心拍時刻のデータ列から、連続するR−R間隔のデータ列が得られる。上述の呼吸性洞性不整脈の場合、R−R間隔の時系列データには、心拍変動による凹凸の模様が明瞭に観察される(図6)。一方、運動中などでは交感神経が著しく亢進し、心拍のリズムはほぼ一定となって拍毎の変動は消失する(図7)。R−R間隔は、心拍変動の1次情報であり、R−R間隔を時系列にプロットしたタコグラムは、自律神経の状態を視覚的に分かりやすく示すものである。
心拍変動の分析には、タコグラムなどのほかに、時間領域の分析、周波数領域の分析(スペクトル分析)などの手法があり、それぞれ心拍変動の特徴を指標化して自律神経機能の評価等に用いる。
ところで、心電図波形を解析して心拍を検出する際、波形に加わったノイズ等の影響で、拍毎の検出に誤りが起きることがある。特に、携帯型の装置やウエアラブルな装置を用いて日常生活の中での心電図波形を取得する場合には、体動などによるノイズが入りやすく、ある程度の検出ミスが生じることはやむを得ない。
このような心拍検出のエラーは、2種類に大別できる。1つは、心拍ではないところで心拍を検出してしまう場合である(以下、「偽心拍」と呼ぶこととする)。つまり、波形に重畳したノイズを、QRS波と誤認してしまうエラーである。このときのR−R間隔は、多くの場合、図8のerr1で示すように正常値よりも小さい値となる。もう1つは、検出すべき心拍を検出できない場合である(以下、「取りこぼし」と呼ぶこととする)。つまり、QRS波の形が乱れ、その判別が難しいために生じるエラーである。例えば、心拍を1つ検出し損ねたとすると、このときのR−R間隔は、図9のerr2で示すように、その前後にある正常な値のおおむね2倍となる。これらのエラーは、自律神経機能の評価に影響を与え、不正確な結果を生じさせる可能性がある。
例えば、時間領域の分析の指標として、隣り合うR−R間隔の差が50msを超える度数の割合であるRR50、R−R間隔の(標準偏差÷平均値)で求められるCVRR、といったものがある。
R−R間隔のデータ列に、正常値を大きく外れた異常値が含まれていた場合、度数に基づくRR50に関しては、異常値が単発であればさほど影響はない。一方、値に基づくCVRRに関しては、異常値が単発であっても、その影響を直接受ける。
そこで、異常値の影響を緩和する方法として、R−R間隔の時系列データに移動平均化(以下では平均化とする)処理を施す方法が考えられる。例えば図10(A)に示すR−R間隔の時系列データに平均化処理を施すと、図10(B)のようになり、図10(C)に示すR−R間隔の時系列データに平均化処理を施すと、図10(D)のようになる。このように、平均化処理により、異常値err1,err2は目立たなくなり、CVRRへの影響も緩和される。しかしその一方、心拍変動が均されることで、R−R間隔の速い変化を反映するRR50を過小評価してしまうことになる。したがって、R−R間隔に含まれる心拍検出のエラーは、ひとつひとつを識別して取り除くことが求められる。
偽心拍については、新たな心拍の候補を検出した際に、直前の心拍の時刻と一定時間以上離れていない場合には心拍として採用しない、といった方法で除去することができる。
取りこぼしに対しては、新たな心拍の候補によるR−R間隔が、直前のR−R間隔から一定割合以上増加している場合には心拍として採用しない、といった方法が考えられる。ただし、心拍の候補を不採用とした場合、R−R間隔のデータ列に欠損が生じることになる。
特許文献1には、R−R間隔のスペクトル分析において、特定の基準から外れるR−R間隔データをノイズとみなして、対象から削除して分析を行うこと、また、削除した部分を補間することが開示されている。しかし、補間の具体的な方法については言及されていない。
また、非特許文献1には、期外収縮の部分を除去して生じた欠損部分を補間することにより、スペクトル分析ではおおむね正しい結果が得られることと、スペクトル分析を行うための再サンプリングに用いる補間方法の種類は、解析結果にあまり影響を与えないことが記載されている。
一般的に、スペクトル分析の場合、本来は時間的に不等間隔のデータ列であるR−R間隔を、再サンプリングによって等間隔のデータ列に焼き直して、データの処理が行われる。R−R間隔の欠損部分についても、再サンプリングと同様に補間することで、等間隔のデータ列を得ることができる。
特許第3378311号公報
井上博編集,「循環器疾患と自律神経機能 第2版」,医学書院,p.83−86,2001年
しかしながら、R−R間隔をタコグラムで提示するといったアプリケーションにおいては、取りこぼしに由来するR−R間隔の異常値errを含む図11のようなタコグラムから、異常値errを除去することで生じた欠損部分Dをそのまま表示すると(図12)、実際のR−R間隔とは大きく異なるタコグラムになってしまうという問題点があった。また、線形補間などの単純な補間方法を用いて表示すると(図13)、本来のR−R間隔と似つかわしくない補間部分Lが表示されてしまうため、見た目上もっともらしいタコグラムにならないという問題点があった。また、スプライン補間などの複雑な補間方法を用いると、計算量が多くなるという問題点があった。
以上のように、従来のR−R間隔補間方法では、R−R間隔をタコグラムで表示したときに、見た目上もっともらしいタコグラムにならなかったり、計算量が多くなったりするという問題点があった。そのため、R−R間隔における欠損部分を、もっともらしい形で少ない計算量で補間できることが望ましい。つまり、欠損部分に、取りこぼしたと推定されるR−R間隔(心拍)を挿入することで、R−R間隔のデータ列を再構成したい。そのためには、欠損部分に対して、推定心拍を適当な数だけ、適当な時間軸上の位置に挿入する必要がある。また、そのようにして補間されたR−R間隔データ列は、時間領域の分析やスペクトル分析においても、妥当な結果を与えると考えられる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、R−R間隔タコグラムの表示に有効なR−R間隔の欠損部分の補間を簡単な計算で実現することができるR−R間隔補間方法および心拍変動計測装置を提供することを目的とする。
本発明のR−R間隔補間方法は、生体の心電図波形から得られたR−R間隔に欠損が生じているか否かを判定する欠損判定ステップと、R−R間隔に欠損が生じているときに、直前の心拍時刻までのR−R間隔を平均化した値に基づいて、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に挿入すべき心拍数Nを推定する心拍数推定ステップと、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に、前記心拍数推定ステップで推定した心拍数Nの数だけR−R間隔のデータを挿入することによりR−R間隔を補間するR−R間隔補間ステップとを含むことを特徴とするものである。
また、本発明のR−R間隔補間方法の1構成例において、前記R−R間隔補間ステップは、前記挿入するR−R間隔のデータに、直前のR−R間隔差に基づく揺らぎを加えることを特徴とするものである。
また、本発明のR−R間隔補間方法の1構成例において、前記R−R間隔補間ステップは、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との時間間隔を(N+1)等分して求めた心拍時刻を、直前のR−R間隔差に基づく値の分だけランダムに前後させることで、前記挿入するR−R間隔のデータに揺らぎを加えることを特徴とするものである。
また、本発明のR−R間隔補間方法の1構成例において、前記心拍数推定ステップは、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との時間間隔を、直前の心拍時刻までのR−R間隔を平均化した値に1より大きい所定の係数を乗じた値で割ることにより、前記心拍数Nを求めることを特徴とするものである。
また、本発明のR−R間隔補間方法の1構成例において、前記欠損判定ステップは、生体の心電図波形から得られたR−R間隔の値が直前の心拍時刻までのR−R間隔の平均値の所定数倍の値を超えたときに、R−R間隔に欠損が生じていると判定することを特徴とするものである。
また、本発明のR−R間隔補間方法の1構成例は、前記欠損判定ステップで欠損が生じていると判定したR−R間隔のデータおよび前記R−R間隔補間ステップで補間したR−R間隔のデータを、次回以降の欠損判定ステップと心拍数推定ステップとR−R間隔補間ステップの処理で使用しないことを特徴とするものである。
また、本発明の心拍変動計測装置は、生体の心電図波形から得られたR−R間隔に欠損が生じているか否かを判定する欠損判定手段と、R−R間隔に欠損が生じているときに、直前の心拍時刻までのR−R間隔を平均化した値に基づいて、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に挿入すべき心拍数Nを推定する心拍数推定手段と、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に、前記心拍数推定手段で推定した心拍数Nの数だけR−R間隔のデータを挿入することによりR−R間隔を補間するR−R間隔補間手段とを備えることを特徴とするものである。
本発明によれば、生体の心電図波形から得られたR−R間隔に欠損が生じているか否かを判定し、R−R間隔に欠損が生じているときに、直前の心拍時刻までのR−R間隔を平均化した値に基づいて、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に挿入すべき心拍数Nを推定し、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に、心拍数Nの数だけR−R間隔のデータを挿入することによりR−R間隔を補間することにより、瞬時の心拍変動の影響を受けることがなく、不適切な補間を防ぐことができる。その結果、本発明では、心電図波形のノイズ等の影響で、検出すべき心拍を検出できなかった場合にも、R−R間隔の欠損部分をもっともらしく補間することができ、R−R間隔タコグラムの表示に有効な補間を簡単な計算で実現することができる。
また、本発明では、挿入するR−R間隔のデータに、直前のR−R間隔差に基づく揺らぎを加えることにより、直近のトレンドを反映した心拍変動を模擬し、もっともらしく補間することができる。
また、本発明では、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との時間間隔を、直前の心拍時刻までのR−R間隔を平均化した値に1より大きい所定の係数を乗じた値で割ることにより、適切な心拍数Nを求めることができる。
また、本発明では、生体の心電図波形から得られたR−R間隔の値と直前の心拍時刻までのR−R間隔の平均値の所定数倍の値とを比較することにより、R−R間隔に欠損が生じているか否かを判定することができる。
また、本発明では、欠損判定ステップで欠損が生じていると判定したR−R間隔のデータおよびR−R間隔補間ステップで補間したR−R間隔のデータを、次回以降の欠損判定ステップと心拍数推定ステップとR−R間隔補間ステップの処理で使用しないことにより、R−R間隔の平均化した値の推移をより安定させることができる。
本発明の原理を説明するためのR−R間隔タコグラムの例を示す図である。 図1のR−R間隔タコグラムに推定心拍数に基づく点を加えた後のR−R間隔タコグラムの例を示す図である。 挿入した心拍時刻に揺らぎを与えた場合のR−R間隔タコグラムの例を示す図である。 本発明の実施の形態に係る心拍変動計測装置の構成を示すブロック図である。 本発明の実施の形態に係るR−R間隔補間方法を説明するフローチャートである。 R−R間隔タコグラムの例を示す図である。 R−R間隔タコグラムの別の例を示す図である。 心拍検出のエラーが生じたときのR−R間隔タコグラムの例を示す図である。 心拍検出のエラーが生じたときのR−R間隔タコグラムの別の例を示す図である。 心拍検出のエラーが生じたときのR−R間隔タコグラムおよび移動平均化処理を施したR−R間隔タコグラムの例を示す図である。 従来の問題点を説明するためのR−R間隔タコグラムの例を示す図である。 図11のR−R間隔タコグラムから異常値を除去した後のR−R間隔タコグラムを示す図である。 図11のR−R間隔タコグラムに対して線形補間を施した後のR−R間隔タコグラムを示す図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、R−R間隔タコグラムの一部を拡大したものであり、横軸が時間、縦軸がR−R間隔を示している。点A〜Dは、検出された心拍に対応し、それぞれ心拍検出時刻tA,tB,tC,tDにおけるR−R間隔の値RA,RB,RC,RDを示している。各点でのR−R間隔の値は、その点での心拍時刻と、1拍前の心拍時刻との時間間隔に等しい。
また、図中の点A´は時刻tAまでのR−R間隔を平均化した値RA´を示し、点B´は時刻tBまでのR−R間隔を平均化した値RB´を示している。このRA´,RB´の値は、例えばi番目の心拍のR−R間隔をR(i)、(i−1)番目までのR−R間隔を平均化した値をR´(i−1)とすると、係数rを用いて、R´(i)=r×R(i)+(1−r)×R´(i−1)のようにして求めることができる。rの値を小さくするほど、R−R間隔の細かな変動が抑えられるものの、一方でR−R間隔の大まかな変化へも追随しにくくなるので、そういった点を鑑みて、例えばr=0.1などとすると、瞬時の心拍変動が抑えられ、適度に平均化されたデータ列が得られる。また、rの値は、状況に応じて変化させてもよい。
図1において、点Cは、点A、点B、点Dなどに比べてR−R間隔が異常に大きな値になっている。したがって、点Bと点Cとの間には検出し損ねた心拍があったと推測される。このときの判定基準として、例えば、ある心拍でのR−R間隔の値がそれまでの平均化した値の1.5倍を超えるような場合には、その前の心拍を取りこぼしている可能性が疑われる。そこで、点Cの値RCは、R−R間隔としては採用しないこととする。ただし、時刻tCで心拍を検出していることは確かである。RCを採用しないことによって生じるR−R間隔データ列の欠損を補間するには、点Bと点Cとの間に推定した心拍を挿入する。その際に、挿入する心拍の個数を適切に選ぶ必要がある。
挿入する心拍の個数は、心拍の取りこぼしが発生した時間間隔(tC―tB)を、もっともらしいR−R間隔の値で除することによって概ね得られるが、もっともらしいR−R間隔の値として、直前の値ではなく、心拍の取りこぼしが発生した時点までの平均化した値を用いる。個々のR−R間隔には変動成分が含まれているため、ある1つのR−R間隔の値は、それまでの平均化した値からは外れている場合があり、そのような個々のR−R間隔の値に基づいて挿入する心拍を推定すると、挿入すべき心拍数を誤る可能性がある。したがって、挿入すべき心拍数の推定は、心拍の取りこぼしが発生した時点までのR−R間隔の平均化した値に基づいて行なうのが適切である。
つまり、ここではR−R間隔に欠損が生じた心拍時刻tCとその直前の心拍時刻tBとの時間間隔(tC―tB)を、時刻tBまでのR−R間隔を平均化した値RB´に基づいた値で除することによって、点Bと点Cとの間に挿入する心拍数を決めるのが適切である。ただし、(tC―tB)がRB´の整数倍よりわずかに大きいといった場合には、(tC―tB)をRB´でそのまま割ってしまうと、推定心拍数が適切な数より1つ多くなってしまう。そこで、例えば、挿入する心拍の個数を多く見積もり過ぎないようにするために、RB´に1より大きい所定の係数α(例えば1.25程度)を乗じた値を用いるようにするのがよい。したがって、推定心拍数Nは、次式により求めることができる。
N=(tC―tB)/(RB´×α) ・・・(1)
実際には、式(1)により求めた値の小数点以下を切り捨てて整数にした値を推定心拍数Nとする。
図2は、上述のようにして推定心拍数Nを2個と決定し、点Bと点Cとの間を(N+1)分割(ここでは3分割)する形で点X,Yを挿入し、さらに点Cに替えて点Zを加えた場合のR−R間隔タコグラムである。挿入された心拍は、R−R間隔の値自体としてはもっともらしく見えるが、点Bと点Cとの間を3分割にしているため、R−R間隔の値RX,RY,RZが同じ値で連続しており、R−R間隔データ列としてはもっともらしさに欠けている。
また、このとき心拍を挿入することによって得られるR−R間隔の値が、実際のR−R間隔の値等に対して、かえって異常になる場合には、心拍を挿入することをしないで、データ欠損として扱うこととするという指針もあり得る。
R−R間隔は、本来、変動成分を持つものであるため、欠損部分を補間する際にも、推定した心拍を等間隔に挿入するより、揺らぎを持たせたほうがもっともらしくなる。そのとき与える揺らぎは、R−R間隔差を参照して決めるのが適当であるが、R−R間隔差は、被測定者の状態(運動、精神状態等)によって容易に変化するため、平均化したものよりも直近の値を用いるのが適切である。
したがって、ここではR−R間隔に欠損が生じた時点よりも1つ前のR−R間隔差|RA−RB|に基づく揺らぎを心拍時刻に与えるのが適切である。例えば、心拍時刻tX,tYを、|RA−RB|の1/3程度の値の分だけ、ランダムに前後させるとよい。それにより、R−R間隔に、最大で|RA−RB|の2/3程度となる、直近のR−R間隔差に近い変動が加わることになる。
図3は、上述のように、挿入した心拍時刻に揺らぎを与えた場合のR−R間隔タコグラムを示している。ここでは、心拍時刻tX,tYは次式のようになる。
X=tB+(tC−tB)/3+|RA−RB|/3 ・・・(2)
Y=tB+2(tC−tB)/3−|RA−RB|/3 ・・・(3)
各点でのR−R間隔の値は、その点での心拍時刻と、1拍前の心拍時刻との時間間隔に等しいので、心拍時刻tX,tY,tCにおけるR−R間隔の値RX,RY,RZは次式のようになる。
X=tX−tB ・・・(4)
Y=tY−tX ・・・(5)
Z=tC−tY ・・・(6)
図3によれば、補間したR−R間隔データ列RX,RY,RZにも、心拍変動を模した変動が加わることで、よりもっともらしく見えるようになっている。
ここで、図3の点D´は時刻tDまでのR−R間隔を平均化した値RD´を示しているが、補間したR−R間隔の値RX,RY,RZはRD´の算出に使用しない。また、時刻tXまでのR−R間隔を平均化した値RX´、時刻tYまでのR−R間隔を平均化した値RY´、時刻tCまでのR−R間隔を平均化した値RC´については算出しないものとする。なぜなら、補間したR−R間隔はR−R間隔の平均化した値に基づいて推定したものであり、この補間したR−R間隔を、R−R間隔の平均値に再び組み込むことは適切ではないからである。
このようにして、本実施の形態のR−R間隔補間方法によれば、心拍の検出をし損ねて欠損を生じている場合のR−R間隔データ列を、もっともらしく修復することができる。
図4は本実施の形態に係る心拍変動計測装置の構成を示すブロック図、図5は本実施の形態に係るR−R間隔補間方法を説明するフローチャートである。心拍変動計測装置は、心電計1と、記憶部2と、欠損判定部3と、心拍数推定部4と、R−R間隔補間部5と、表示部6とを備えている。
以下、本実施の形態の心拍変動計測装置の動作を説明する。心電計1は、図示しない生体(人体)のECG波形を測定し、ECG波形からR−R間隔を求める。ECG波形の具体的な測定方法は周知の技術であるので、詳細な説明は省略する。また、R−R間隔を求める方法としては、例えば文献「“ECG Implementation on the TMS320C5515 DSP Medical Development Kit (MDK) with the ADS1298 ECG-FE”,Texas Instruments Incorporated,<http://www.ti.com/lit/an/sprabj1/sprabj1.pdf>,2011」に開示された技術を用いることができる。この文献に開示された技術では、ECG波形を時間差分した値の変化を基にR−R間隔を求めている。
記憶部2は、心電計1から出力されたR−R間隔の時系列データを記憶する。このとき、心電計1から出力されるR−R間隔の各データには、対応する心拍時刻のデータが付加されているので、記憶部2は、R−R間隔の時系列データと心拍時刻のデータとを記憶する。
次に、欠損判定部3は、心電計1が求めたR−R間隔に欠損が生じているか否かを判定する(図5ステップS1)。欠損判定部3は、ある心拍時刻tでのR−R間隔の値が、直前の心拍時刻までのR−R間隔の平均値の所定数倍(本実施の形態では1.5倍)の値を超える場合、心拍時刻tのR−R間隔に欠損が生じていると判定する。
心拍数推定部4は、欠損判定部3がR−R間隔に欠損が生じていると判定した場合(ステップS1においてYES)、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻とその直前の心拍時刻との間に挿入すべき心拍数Nを推定する(図5ステップS2)。上記のとおり、心拍数Nは式(1)により求めることができる。
R−R間隔補間部5は、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻とその直前の心拍時刻との間に、心拍数推定部4が推定した心拍数Nの数だけR−R間隔のデータを挿入することによりR−R間隔を補間するが、このときに挿入するR−R間隔に、直前のR−R間隔差に基づく揺らぎを与える(図5ステップS3)。揺らぎの与え方は上記のとおりである。こうして、R−R間隔の欠損部分を補間することができる。
欠損判定部3と心拍数推定部4とR−R間隔補間部5とは、以上の図5で説明した処理を、記憶部2に記憶されているR−R間隔のデータ毎に行う。
表示部6は、R−R間隔補間部5によって補間処理が実施された後のR−R間隔の時系列データを基にR−R間隔タコグラムを表示する。例えば図3の例では、記憶部2に記憶されているR−R間隔を示す点A,Bと、補間されたR−R間隔を示す点X,Y,Zと、記憶部2に記憶されているR−R間隔を示す点Dとが表示されることになる。
なお、記憶部2に記憶されているR−R間隔のデータが、欠損判定部3と心拍数推定部4とR−R間隔補間部5の処理によって書き換えられることはないので、次の補間を行うときに、それまでの処理で補間されたR−R間隔のデータが欠損判定部3と心拍数推定部4とR−R間隔補間部5の処理に使用されることはない。
また、点Cの時刻tCは心拍時刻として扱われるが、点Cの値RCはR−R間隔として記憶部2に記憶されているものの、上記のとおり点Cの値RCがR−R間隔の値として使用されることはない。図3の点Dから見ると、時刻tCが直前の心拍時刻となるが、RX,RY,RZ,RCは平均値の算出に使用されない。本実施の形態でいうR−R間隔を平均化した値とは、1データ当たりの平均値なので、直前の心拍時刻tCまでのR−R間隔の平均値は、心拍時刻tBまでのR−R間隔の平均値RB´と同じである。また、補間したRX,RY,RZの値を使用しないので、点Dから見ると、直前のR−R間隔差は|RA−RB|になる。
また、本実施の形態のR−R間隔補間方法は、ECG波形からR−R間隔をリアルタイムで抽出するプロセスだけでなく、既に心拍を検出して得られているR−R間隔データ列にも適用することができる。
本実施の形態で説明した心電計1と記憶部2と欠損判定部3と心拍数推定部4とR−R間隔補間部5とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
本発明は、R−R間隔タコグラムを表示する際にR−R間隔の欠損部分を補間する技術に適用することができる。
1…心電計、2…記憶部、3…欠損判定部、4…心拍数推定部、5…R−R間隔補間部、6…表示部。

Claims (7)

  1. 生体の心電図波形から得られたR−R間隔に欠損が生じているか否かを判定する欠損判定ステップと、
    R−R間隔に欠損が生じているときに、直前の心拍時刻までのR−R間隔を平均化した値に基づいて、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に挿入すべき心拍数Nを推定する心拍数推定ステップと、
    R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に、前記心拍数推定ステップで推定した心拍数Nの数だけR−R間隔のデータを挿入することによりR−R間隔を補間するR−R間隔補間ステップとを含むことを特徴とするR−R間隔補間方法。
  2. 請求項1記載のR−R間隔補間方法において、
    前記R−R間隔補間ステップは、前記挿入するR−R間隔のデータに、直前のR−R間隔差に基づく揺らぎを加えることを特徴とするR−R間隔補間方法。
  3. 請求項2記載のR−R間隔補間方法において、
    前記R−R間隔補間ステップは、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との時間間隔を(N+1)等分して求めた心拍時刻を、直前のR−R間隔差に基づく値の分だけランダムに前後させることで、前記挿入するR−R間隔のデータに揺らぎを加えることを特徴とするR−R間隔補間方法。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載のR−R間隔補間方法において、
    前記心拍数推定ステップは、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との時間間隔を、直前の心拍時刻までのR−R間隔を平均化した値に1より大きい所定の係数を乗じた値で割ることにより、前記心拍数Nを求めることを特徴とするR−R間隔補間方法。
  5. 請求項1乃至4のいずれか1項に記載のR−R間隔補間方法において、
    前記欠損判定ステップは、生体の心電図波形から得られたR−R間隔の値が直前の心拍時刻までのR−R間隔の平均値の所定数倍の値を超えたときに、R−R間隔に欠損が生じていると判定することを特徴とするR−R間隔補間方法。
  6. 請求項1乃至5のいずれか1項に記載のR−R間隔補間方法において、
    前記欠損判定ステップで欠損が生じていると判定したR−R間隔のデータおよび前記R−R間隔補間ステップで補間したR−R間隔のデータを、次回以降の欠損判定ステップと心拍数推定ステップとR−R間隔補間ステップの処理で使用しないことを特徴とするR−R間隔補間方法。
  7. 生体の心電図波形から得られたR−R間隔に欠損が生じているか否かを判定する欠損判定手段と、
    R−R間隔に欠損が生じているときに、直前の心拍時刻までのR−R間隔を平均化した値に基づいて、R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に挿入すべき心拍数Nを推定する心拍数推定手段と、
    R−R間隔に欠損が生じた心拍時刻と直前の心拍時刻との間に、前記心拍数推定手段で推定した心拍数Nの数だけR−R間隔のデータを挿入することによりR−R間隔を補間するR−R間隔補間手段とを備えることを特徴とする心拍変動計測装置。
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