本発明の口腔ケア用組成物は、口腔衛生に有効な物質と粘性を発現する物質とを含有し、粘性を加水量により調整できるものである。
ここで、口腔衛生に有効な物質としては、抗菌作用、殺菌作用を持っている物質であって、食用が可能であれば、種類や形態等は特に限定されない。例えば、粘性(粘度)を発現する物質(本明細書において「粘性基材」と表現することがある)としては、増粘剤等の増粘作用を持つ物質であって、食用が可能であれば、種類や形態等は特に限定されない。例えば、易水溶性の増粘多糖類である、キサンタンガムやカラギーナンを例示することができる。
また、粘性(粘度)を加水量により調整する際は、冷水及び温水の何れも使用することができる。
本発明の口腔ケア用組成物は、前述したように、口腔衛生に有効な物質と粘性を発現する物質とを含有し、粘性を加水量により調整できるものであるが、有効物質(口腔衛生に有効な物質)の口腔内における滞留性(貯留性)や除放性(溶出性)は、口腔ケア用組成物の粘性(粘度)により調整できる。そこで、本発明の口腔ケア用組成物によれば、加水量を調整して粘性(粘度)を調整することによって、有効物質(口腔衛生に有効な物質)の口腔内での滞留量(貯留量)を使用者が使用状態や使用場面により任意に調整でき、有効物質の口腔内への除放量(溶出量)も使用者が任意に調整できる。
本発明の口腔ケア用組成物は、商品形態として、液状、トロミ状、粉末状、顆粒状、固形状等が考えられる。
液状、トロミ状の商品では、冷水や温水へ溶解・分散しやすい点において取り扱いが容易であるが、商品の賞味期間や保存期間は短くなる。一方、粉末状、顆粒状、固形状の商品では、冷水や温水へ溶解・分散しにくい場合もあるが、商品の賞味期間や保存期間は長くなる。顆粒状の商品は、粉末状の商品へ造粒機等を適用することで製造できる。例えばタブレット等の固形状の商品は、粉末状、顆粒状の商品へ打錠機等を適用することで製造できる。
前述した本発明の口腔衛生に有効な物質と粘性を発現する物質とを含有し、粘性を加水量により調整できる口腔ケア用組成物は、口腔衛生に有効な物質の口腔内における滞留量及び/又は除放量を加水量により調整できる。
これは、前述したように、有効物質(口腔衛生に有効な物質)の口腔内における滞留性(貯留性)や除放性(溶出性)は、口腔ケア用組成物の粘性(粘度)により調整できので、加水量を調整して粘性(粘度)を調整することにより、口腔衛生に有効な物質の口腔内における滞留量及び/又は除放量を調整できるからである。
なお、本発明の口腔ケア用組成物において、加水量によって粘性を調整する、加水量によって口腔衛生に有効な物質の口腔内における滞留量及び/又は除放量を調整するにあたっては、粘性を発現する物質(粘性基材)として、易水溶性の増粘多糖類を用いると有利である。
十分な粘性が得られない粘性基材を使用した場合、口腔内の保水効果は期待できるが、短時間で口腔内から流出してしまうため(すなわち、滞留性、貯留性が十分ではないため)、有効物質の口腔内における滞留性や除放性の調整が容易ではなく、それぞれの効果が長時間で維持されないこととなる。
一方、強固なゲルを形成する粘性基材を使用した場合には、口腔内の保水効果が期待できない上に、有効物質の滞留性や除放性の調整が容易ではなく、有効物質がゲル状組成物に保持され、口腔内へ溶出しにくいこととなる。
これらを勘案すると、後述する実施例の通り、有効物質の滞留性や除放性を調整できる口腔ケア用組成物の粘性(粘度)として、好ましくは2300〜8000mPa・s、より好ましくは2400〜7000mPa・s、さらに好ましくは2500〜6000mPa・sである。
ただし、うがい用や飲食用等では、口腔ケア用組成物の粘性(粘度)は特に限定されない。
前述した本発明の口腔衛生に有効な物質と粘性を発現する物質とを含有し、粘性を加水量により調整できる口腔ケア用組成物、口腔衛生に有効な物質と粘性を発現する物質とを含有し、粘性を加水量により調整できる口腔ケア用組成物であって口腔衛生に有効な物質の口腔内における滞留量及び/又は除放量を加水量により調整できる口腔ケア用組成物は、何れも、更に、唾液の影響により粘性が変化しない口腔ケア用組成物とすることができる。
すなわち、例えば、粘性を発現する物質(粘性基材)として、前記のように易水溶性の増粘多糖類を用いると、唾液の影響により粘性(粘度)が変化しにくくなる。
このように唾液の影響により粘性(粘度)が変化しにくい本願の口腔ケア用組成物は、有効物質(口腔衛生に有効な物質)の口腔内における滞留性(貯留性)や除放性(溶出性)が口腔ケア用組成物の粘性(粘度)により調整可能であることに基づくものであるので、唾液の影響により粘性(粘度)が変化しにくいことによって、有効物質(口腔衛生に有効な物質)の口腔内における滞留性(貯留性)や除放性(溶出性)を長時間にわたって所定のレベルに維持し、経時的に口腔内に有効物質が放出される状態を維持することができる。
なお、十分な粘性が得られない粘性基材を使用した場合には、唾液により容易に粘性が低下し、短時間で口腔内から流出してしまうこととなる。
一方、強固なゲルを形成する粘性基材を使用した場合には、唾液により粘性が低下しにくいが、有効物質がゲル状組成物に保持され、口腔内に溶出しにくいこととなる。
この点でも、前述したように、有効物質の滞留性や除放性を調整できる口腔ケア用組成物の粘性(粘度)として、好ましくは2300〜8000mPa・s、より好ましくは2400〜7000mPa・s、さらに好ましくは2500〜6000mPa・sである。
以上説明した本発明の何れの口腔ケア用組成物においても、粘性を発現する物質が保水効果を有するものであることが望ましい。
ここで、粘性を発現する物質として、前述したように、易水溶性の増粘多糖類を用いると、このような易水溶性の増粘多糖類は保水効果を有するので、口腔ケア用組成物が保水効果を維持しやすくなって有利である。
前述した通り、保水効果は唾液の分泌量の減少分を補完するという意味で口腔ケアにおいて大きな影響を持つ因子であるが、このように、保水効果を有する粘性を発現する物質を使用することにより、保水効果を維持し、唾液の分泌量の減少分を補完可能な口腔ケア用組成物を提供することができる。
なお、易水溶性の増粘多糖類であるキサンタンガムやカラギーナンに保水効果があることは公知の事項である(例えば、特開平8−301904の表6に示されている)ので、本発明の口腔ケア用組成物において、保水効果を有する粘性を発現する物質としてこれらを使用することが可能である。
ただし、ここでも、十分な粘性が得られない粘性基材を使用した場合には、口腔内の保水効果は期待できるが、短時間で口腔内から流出してしまうこととなる。
一方、強固なゲルを形成する粘性基材を使用した場合には、口腔内の保水効果が期待できない上に、有効物質がゲル状組成物に保持され、口腔内へ溶出しにくいこととなる。
そこで、この点でも、前述したように、有効物質の滞留性や除放性を調整できる口腔ケア用組成物の粘性(粘度)として、好ましくは2300〜8000mPa・s、より好ましくは2400〜7000mPa・s、さらに好ましくは2500〜6000mPa・sである。
以上説明した本発明の何れの口腔ケア用組成物においても、粘性を発現する物質に易水溶性の増粘多糖類であるキサンタンガムが含まれる。
ただし、粘性を発現する物質としては、キサンタンガムの他にも、ローカストビーンガム、タラガム、グァガム、サイリウムシードガム、カラギーナン等の易水溶性の増粘多糖類を例示できる。
これらの物質は、強固なゲルを形成しない範囲において、単独で用いても、混合して用いても良い。
風味や外観の良さを勘案すると、ほぼ無味無臭で無色透明な精製キサンタンガムを主成分とすることが好ましい。
次に、以上説明した本発明の何れの口腔ケア用組成物においても、口腔衛生に有効な物質(抗菌作用、殺菌作用を持っている物質)を植物ポリフェノール及び/又はバクテリオシン(各種のグラム陽性菌やグラム陰性菌が産生する抗菌性のタンパク質やペプチドで、生産菌の類縁菌に対して殺菌的に作用するもの)とすることができる。前記の植物ポリフェノール、バクテリオシンはそれぞれ単独で使用することもできるし、両者を組み合わせて使用することもできる。
ただし、口腔衛生に有効な物質としては、植物ポリフェノール、バクテリオシンの他にも、口内炎緩和作用、抗菌作用、殺菌作用などを持っている物質であるナイアシン、pH調整剤、保存料等の食品素材や食品添加物が例示できる。
これらの口腔衛生に有効な物質(抗菌作用、殺菌作用を持っている物質)は、単独で用いても、混合して用いても良い。風味の良さや認知度の高さを勘案すると、植物ポリフェノールを主成分とすることが好ましい。
植物ポリフェノールとしては具体的に、緑茶カテキン等の緑茶ポリフェノール、ウーロン茶ポリフェノールを例示することができる。バクテリオシンとしては具体的に、ナイシン(乳酸菌が生産するバクテリオシンの一種で、クラスIに属するバクテリオシン)を例示することができる。
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
口腔衛生に有効な物質(有効物質)として「サンフェノンBG3(登録商標)」(主成分:緑茶カテキン、太陽化学株式会社製)を、粘性を発現する物質(粘性基材、トロミ調整食品)として「トロメイク(登録商標)」(主成分:キサンタンガム、明治乳業株式会社製)を選定した。
(緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」の調製)
(1)「サンフェノンBG3(登録商標)」と「トロメイク(登録商標)」とを重量比で1:20の比率に粉体の状態で混合した。(2)この粉体をイオン交換水(温度23±2℃)へ表1の比率に溶解し、緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。
この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例1」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を2.0重量%として調製した緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
「サンフェノンBG3(登録商標)」と「トロメイク(登録商標)」とを重量比で1:40の比率に粉体の状態で混合する以外は実施例1と同様にし、イオン交換水(温度23±2℃)へ表1の比率に溶解し、緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例2」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を4.0重量%として調製した緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
(液状の「口腔ケア用組成物」における緑茶カテキンの溶出試験)
実施例1、実施例2で調製した液状の「口腔ケア用組成物」をそれぞれガラス容器に入れ、恒温槽(温度37℃)で15分間、静置状態で保持した。
本試験では、口腔衛生に有効な物質(抗菌作用、殺菌作用を持っている物質)である緑茶カテキンの口腔内への滞留性(貯留性)や除放性(溶出性)を、モデル実験系により検証した。
このモデル実験系による口腔衛生に有効な物質(緑茶カテキン)の口腔ケア用組成物からの溶出試験方法は以下の通りである。
(1)実施例1、実施例2をそれぞれ5.5gずつガラス製のフタ付き遠沈管(容量12.5ml)に秤量した
(2)検査実施者から採取した唾液をイオン交換水(温度23±2℃)に0.1重量%で含有するように溶解し、モデル唾液を調製した
(3)このモデル唾液5.5gを、前述したフタ付き遠沈管に添加した。この際に、モデル唾液(上層)と液状試料(下層)が混合しないように注意しながら添加した
(4)フタを閉めて、遠沈管を反転させ、上層と下層を緩やかに逆転させた
(5)その後も2秒毎に、反転操作を繰り返し、合計で10回の反転操作を行った
(6)反転操作の後に、恒温槽(温度37℃)で、0、5、10、20、30分間、静置状態で保持した
(7)それぞれの試料を遠心分離処理(回転数3000rpm、時間15分)し、上澄液に移行した緑茶カテキン濃度を定量した。結果は表2及び図1図示の通りであった。
本実験では、波長275nm(緑茶カテキンの吸収極大波長)の吸光度を「Spectrophotometer U-300」(日立製)により測定し、緑茶カテキン濃度を定量した。
表2、図1図示のように、実施例1及び実施例2の何れの場合にも、時間の経過に伴い、カテキン濃度が徐々に増加した。
表2及び図1図示の結果となった液状の「口腔ケア用組成物」における緑茶カテキンの溶出試験から、本発明の口腔ケア用組成物においては、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において、所定の時間で徐々に除放(溶出)していくことが認められた。
すなわち、主成分がキサンタンガムである「トロメイク(登録商標)」を粘性基材として用い、口腔衛生に有効な物質(有効物質)を含有した本発明の緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」は、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において所定の時間で滞留(貯留)しながら徐々に除放(溶出)するという観点から、口腔ケアに有用であることが示された。
次に、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度が2.0重量%である実施例1と、4.0重量%である実施例2とを比較したところ、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度が小さいと、十分な粘性が得られないために、カテキンが滞留(貯留)しにくく、除放(溶出)しやすかった。一方、「トロメイク(登録商標)」の濃度が大きいと、十分な粘性が得られるために、カテキンが滞留(貯留)しやすく、除放(溶出)しにくかった。
これらの結果から、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度を、加水量を調整することによって調整し、口腔衛生に有効な物質であるカテキンの口腔内での滞留量(貯留量)や除放量(溶出量)を調整できることが示された。
なお、このとき、表1より実施例1の粘度は2660mPa・s、実施例2の粘度は5620mPa・sであった。
ここで、以下の実験も含めて粘度は、厚生労働省「特別用途食品 高齢者用食品」の測定方法に準じて、B型粘度計により測定した数値である。また、山電レオナーRE‐3305を用いて、付着性、硬さ、凝集性を測定したところ、表1の結果となった。
流動性、付着性も、口腔衛生に有効な物質が口腔内全体へ均一に、長時間滞留する上で影響を与える因子であると考えられる。例えば、寒天ゲルのように流動性の小さいものは、口腔衛生に有効な物質が口腔内全体へ均一に広がることなく、そのまま塊などの状態で飲み込まれてしまい、口腔衛生に有効な物質による効果が局所的にとどまってしまうと考えられる。一方、流動性はあっても、付着性が小さいゼリーなどでは、口腔衛生に有効な物質が口腔内に滞留しにくく、あおのまま短時間で飲み込まれてしまい、口腔衛生に有効な物質による効果が限定的になると考えられる。
なお、凝集性は、通常では、ゲル状食品のまとまり易さを表現する指標である。原則として0〜1の数値で表現され、例えば、水のように流動性の大きい流体では凝集性は限りなく1に近くなり、ゼリーのように流動性の小さい流体では凝集性は0.3〜0.4程度となる。この明細書で説明している実験においては、凝集性をゾル状食品の流動性を表現する指標とし、凝集性の数値が大きいほど流動性も大きいと考えている。
前述した実施例1と実施例2の比較から、本発明の緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」の粘度が小さいと、有効物質が口腔内で滞留しにくく、除放しやすい傾向が見られた。一方、粘度が大きいと、有効物質が口腔内で滞留しやすく、除放しにくい傾向が見られた。すなわち、本発明の緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」の粘度と、滞留量(貯留量)や除放量(溶出量)には相関が見られた。
なお、前記の測定方法の定量性を確認し、検量線を作成する目的で、緑茶カテキンを含有しない状態で、前述した溶出試験を実施した。すなわち、遠心分離処理した後に、上澄液へ濃度が既知の緑茶カテキンを溶解し、吸光度を測定した。この溶出試験における緑茶カテキン濃度と吸光度(波長275nm)との関係(検量線)は表3、図2図示の通りであった。
図2図示のように、緑茶カテキン濃度と吸光度(波長275nm)との関係は一次式で近似できることが確認された。このとき、緑茶カテキン濃度をY[ppm]、吸光度(波長275nm)をX[−]とすると、Y=862・X−348と表せた。
そこで、本明細書では、緑茶カテキン濃度は、吸光度(波長275nm)と図2の近似式(Y=862・X−348)から計算により求めることとした。
「サンフェノンBG3(登録商標)」と「トロメイク(登録商標)」とを重量比で1:25の比率に粉体の状態で混合する以外は実施例1と同様にし、イオン交換水(温度23±2℃)へ表1の比率に溶解し、緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例3」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を2.5重量%として調製した緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
「サンフェノンBG3(登録商標)」と「トロメイク(登録商標)」とを重量比で1:50の比率に粉体の状態で混合する以外は実施例1と同様にし、イオン交換水(温度23±2℃)へ表1の比率に溶解し、緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例4」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を5.0重量%として調製した緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
(液状の「口腔ケア用組成物」における緑茶カテキンの溶出試験)
実施例3、実施例4で調製した液状の「口腔ケア用組成物」をそれぞれガラス容器に入れ、恒温槽(温度37℃)で15分間、静置状態で保持した。
次いで、前記の液状の「口腔ケア用組成物」における緑茶カテキンの溶出試験と同様にして緑茶カテキンの溶出試験を行った。
粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度が2.5重量%(実施例3)及び5.0重量%(実施例4)である場合における緑茶カテキンの溶出試験の結果を図3に示した。
実施例3の場合には、時間の経過に伴い、カテキン濃度が徐々に増加した。この結果は、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において、所定の時間で滞留(貯留)しながら、徐々に除放(溶出)していくことを意味する。
実施例4の場合には、時間の経過に伴い、カテキン濃度が僅かしか増加しなかった。しかし、カテキン濃度は所定の数値で維持されていた。この結果は、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において、所定の時間で滞留(貯留)していることを意味する。
この結果から、主成分がキサンタンガムである「トロメイク(登録商標)」を粘性基材として用い、口腔衛生に有効な物質(有効物質)として茶カテキンを含有した液状物質である本発明の口腔ケア用組成物が口腔ケアに有用であることが示された。
次に、「トロメイク(登録商標)」の濃度が2.5重量%の実施例3と「トロメイク(登録商標)」の濃度が5.0重量%の実施例4とを比較した。
この比較からも、前述した通り、「トロメイク(登録商標)」の濃度が小さいと、十分な粘性が得られないために、カテキンが口腔内に滞留(貯留)しにくく、除放(溶出)しやすかった。一方、「トロメイク(登録商標)」の濃度が大きいと、十分な粘性が得られるために、カテキンが口腔内に滞留(貯留)しやすく、除放(溶出)しにくいことが確認できた。
これらの結果からも、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度を加水量を調整することによって調整し、口腔衛生に有効な物質(有効物質)であるカテキンの口腔内での滞留量(貯留量)や除放量(溶出量)を調整できることが示された。
実施例1、2と実施例3、4では、カテキンを粘性基材と粉体で混合し、粘性基材に予め包含しておくカテキン濃度を変えている。
このカテキン濃度を変えた場合でも、有効物質の口腔内での滞留量(貯留量)や除放量(溶出量)を調整できることが示された。
このとき、表1より実施例3の粘度は3810mPa・s、実施例4の粘度は7700mPa・sであった。
前述した通り、茶カテキンを含有した液状物質である本発明の口腔ケア用組成物の粘度が小さいと、有効物質であるカテキンが口腔内で滞留しにくく、除放しやすい傾向が見られた。一方、粘度が大きいと、有効物質であるカテキンが口腔内で滞留しやすく、除放しにくい傾向が見られた。ここでも、茶カテキンを含有した液状物質である本発明の口腔ケア用組成物の粘度と、滞留量(貯留量)や除放量(溶出量)には相関が見られた。
(比較例1)
口腔衛生に有効な物質(有効物質)として「サンフェノンBG3(登録商標)」(主成分:緑茶カテキン)を、粘性を発現する物質(粘性基材、トロミ調整食品)として「トロメイク(登録商標)」の他に、「トロメリン(登録商標)」(主成分:デンプン、三和化学研究所製)、「ビストップF(登録商標)」(主成分:ローカストビーンガム、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)製)を使用し、実施例1と同様な操作手順により液状試料を調製した。
すなわち、(1)口腔衛生に有効な物質(有効物質)である「サンフェノンBG3(登録商標)」と粘性基材である「トロメリン(登録商標)」を重量比で1:40の比率に粉体の状態で混合した。(2)前記の粉体をイオン交換水(温度23±2℃)へ表1の比率に溶解し、液状試料を作成した。この液状試料を「比較例1」(粘性基材である「トロメリン(登録商標)」の濃度が4.0重量%)とした。
一方、(1)口腔衛生に有効な物質(有効物質)である「サンフェノンBG3(登録商標)」と粘性基材である「トロメイク(登録商標)」と、「ビストップF(登録商標)」とを重量比で1:10:3の比率に粉体の状態で混合した。(2)前記の粉体をイオン交換水(温度80℃)へ表1の比率に溶解した後に、冷却(温度23±2℃)して液状試料を作成した。この液状試料を「比較例2」(粘性基材である「ビストップF(登録商標)」及び「トロメイク(登録商標)」の濃度がそれぞれ0.3重量%、1.0重量%)とした。
(液状試料における緑茶カテキンの溶出試験)
比較例1、比較例2をそれぞれガラス容器に入れ、恒温槽(温度37℃)で15分間、静置状態で保持した。
次いで、前述した実施例1〜4における液状の「口腔ケア用組成物」における緑茶カテキンの溶出試験と同様に、有効物質の口腔内への滞留性や除放性をモデル実験系により検証した。
粘性基材「トロメリン(登録商標)」濃度を4.0重量%として調製した液状試料(比較例1)及び、粘性基材「ビストップF(登録商標)」濃度を0.3重量%かつ「トロメイク」濃度を1.0重量%として調製した液状試料(比較例2)における緑茶カテキンの溶出試験の結果を図4に示した。
比較例1の場合には、時間の経過に伴い、カテキン濃度が僅かしか増加せず、最初の時点から、カテキン濃度が高い状態であった。この結果は、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において、滞留(貯留)しにくく、短時間で一気に除放(溶出)してしまうことを意味する。
デンプンは唾液により分解されるため、デンプンを主成分とする「トロメリン(登録商標)」が粘性基材に使用されている比較例1では、液状試料の粘性(粘度)が消失してしまい、その結果として、有効成分の滞留や除放を調整できなかったと考えられた。
比較例2の場合には、時間の経過に伴い、カテキン濃度が僅かしか増加せず、最初の時点から、カテキン濃度が低い状態であった。この結果は、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において、滞留(貯留)するが、除放(溶出)しにくいことを意味する。ローカストビーンガムを主成分とする「ビストップF(登録商標)」は、「トロメイク(登録商標)」(主成分:キサンタンガム)と併用すると、強固なゲルを形成するため、有効成分がゲルに包含されたまま、除放されなかったと考えられた。
ある程度の流動性を持ちつつ粘性を得られる粘性基材が、有効成分の滞留や除放を調整するためには望ましいと考えられた。
一方、主成分がデンプンである「トロメリン(登録商標)」や、主成分がローカストビーンガムである「ビストップF(登録商標)」と主成分がキサンタンガムである「トロメイク(登録商標)」の混合物を粘性基材として用いて、口腔衛生に有効な物質(有効物質)を含有した液状試料(組成物)を調製すると、口腔ケアに、あまり有用ではないことが示された。
これは、複数の粘性基材を組み合わせて使用すると強固なゲルが形成されて、有効成分がゲルに包含されたまま、除放されなくなるためと考えられる。そこで、粘性基材は、単独で用いても、混合して用いても良いが、強固なゲルを形成しない範囲において使用することが必要であり、前記の実施例1〜4の結果にあるように、口腔ケア用組成物の粘性(粘度)が、好ましくは2300〜8000mPa・s、より好ましくは2400〜7000mPa・s、さらに好ましくは2500〜6000mPa・sになるように、使用する粘性基材、組み合わせる複数の粘性基材を選択する必要がある。
なお、「トロメリン(登録商標)」濃度が4.0重量%の比較例1と「ビストップF(登録商標)」濃度が0.3重量%かつ「トロメイク(登録商標)」濃度が1.0重量%の比較例2とを比較したところ、「トロメリン(登録商標)」の場合には、十分な粘性が得られないために、カテキンが滞留(貯留)しにくく、除放(溶出)しやすかった。一方、「ビストップF(登録商標)」と「トロメイク(登録商標)」の混合物の場合には、ゲルが強固なために、カテキンが滞留(貯留)しやすく、除放(溶出)しにくかった。
このとき、表1より比較例1の粘度は2000mPa・s、比較例2の粘度はゲル状となったために測定不能であった。
前述した通り、液状試料(組成物)の粘度が小さいと、有効物質が口腔内で滞留しにくく、除放しやすい傾向が見られた。一方、液状試料がゲル状となってしまうと、有効物質が口腔内で滞留しやすく、除放しにくい傾向が見られた。ここでも、液状試料の粘度と、滞留量(貯留量)や除放量(溶出量)には相関が見られた。
口腔衛生に有効な物質(有効物質)としてナイシン(乳酸菌が生産するバクテリオシンの一種で、クラスIに属するバクテリオシン)を含有する発酵物で食品グレードのものであるMG300(Micro GARD 300)(DANISCO(ダニスコ)社製)を、粘性を発現する物質(粘性基材、トロミ調整食品)として「トロメイク(登録商標)」(主成分:キサンタンガム、明治乳業株式会社製)を選定した。
(ナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」の調製)
(1)ナイシンを含有するMG300(紛体)と「トロメイク(登録商標)」(紛体)とをイオン交換水(温度23±2℃)に表4の比率に溶解し、ナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。
この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例4」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を2.5重量%として調製したナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
ナイシンを含有するMG300(紛体)と「トロメイク(登録商標)」(紛体)とをイオン交換水(温度23±2℃)へ表4の比率に溶解する以外は実施例5と同様にし、ナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例6」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を5.0重量%として調製したナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
(液状の「口腔ケア用組成物」におけるナイシンを含有するMG300の溶出試験)
実施例5、実施例6で調製した液状の「口腔ケア用組成物」をそれぞれガラス容器に入れ、恒温槽(温度37℃)で15分間、静置状態で保持した。
次いで、実施例1〜4における緑茶カテキンの溶出試験と同様にしてナイシンを含有するMG300の溶出試験を行った。結果は表5及び図5図示の通りであった。
本実験では、波長220nm(ナイシンを含有するMG300の吸収極大波長)の吸光度を「Spectrophotometer U-300」(日立製)により測定し、ナイシンを含有するMG300の濃度を定量した。
表5、図5図示のように、実施例5及び実施例6の何れの場合にも、時間の経過に伴い、ナイシンを含有するMG300の濃度が徐々に増加した。
表5及び図5図示の結果となった液状の「口腔ケア用組成物」におけるナイシンを含有するMG300の溶出試験から、本発明の口腔ケア用組成物においては、口腔衛生に有効な物質であるナイシンを含有するMG300が口腔内において、所定の時間で滞留(貯留)しながら、徐々に除放(溶出)していくことが認められた。
すなわち、主成分がキサンタンガムである「トロメイク(登録商標)」を粘性基材として用い、口腔衛生に有効な物質(有効物質)を含有した本発明のナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」は、口腔衛生に有効な物質であるナイシンを含有するMG300が口腔内において所定の時間で滞留(貯留)しながら徐々に除放(溶出)するという観点から、口腔ケアに有用であることが示された。
次に、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度が2.5重量%である実施例5と、5.0重量%である実施例6とを比較したところ、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度が小さいと、十分な粘性が得られないために、ナイシンを含有するMG300が滞留(貯留)しにくく、除放(溶出)しやすかった。一方、「トロメイク(登録商標)」の濃度が大きいと、十分な粘性が得られるために、ナイシンを含有するMG300滞留(貯留)しやすく、除放(溶出)しにくかった。
これらの結果から、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度を、加水量を調整することによって調整し、口腔衛生に有効な物質であるナイシンを含有するMG300の口腔内での滞留量(貯留量)や除放量(溶出量)を調整できることが示された。
このとき、表4のように実施例5の粘度は2700mPa・s、実施例6の粘度は5520mPa・sであった。
前述した実施例5と実施例6の比較から、本発明のナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」の粘度が小さいと、有効物質が口腔内で滞留しにくく、除放しやすい傾向が見られた。一方、粘度が大きいと、有効物質が口腔内で滞留しやすく、除放しにくい傾向が見られた。すなわち、本発明のナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」の粘度と、滞留量(貯留量)や除放量(溶出量)には相関が見られた。
なお、前記の測定方法の定量性を確認し、検量線を作成する目的で、ナイシンを含有するMG300含まない状態で、前述した溶出試験を実施した。すなわち、遠心分離処理した後に、上澄液へ濃度が既知のナイシンを含有するMG300を溶解し、吸光度を測定した。この溶出試験におけるナイシンを含有するMG300の濃度と吸光度(波長220nm)との関係(検量線)は表6、図6図示の通りであった。
図6図示のように、ナイシンを含有するMG300の濃度と吸光度(波長220nm)との関係は一次式で近似できることが確認された。このとき、ナイシンを含有するMG300の濃度をY[ppm]、吸光度(波長220nm)をX[−]とすると、Y=207・X−0.804と表せた。
そこで、本明細書では、ナイシンを含有するMG300の濃度は、吸光度(波長220nm)と図6の近似式(Y=207・X−0.804)から計算により求めることとした。
「トロメイク(登録商標)」の含有量を多くし、粘度を高くした場合について以下のように検討した。ナイシンを含有するMG300(紛体)と「トロメイク(登録商標)」(紛体)とを表4の比率でイオン交換水(温度23±2℃)へ溶解する以外は実施例5と同様にし、ナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例7」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を7.0重量%として調製したナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
「サンフェノンBG3(登録商標)」(紛体)と「トロメイク(登録商標)」(紛体)とを表4の比率でイオン交換水(温度23±2℃)へ溶解する以外は実施例1と同様にし、緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例8」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を7.0重量%として調製した緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
(液状の「口腔ケア用組成物」におけるナイシンを含有するMG300、緑茶カテキンの溶出試験)
実施例7、実施例8で調製した液状の「口腔ケア用組成物」について、それぞれ、ナイシンを含有するMG300、緑茶カテキンの溶出試験を行った。実施例7、8の液状の「口腔ケア用組成物」の場合は、前述した実施例1、2で行なった実験のように遠沈管を反転させる操作ではナイシンを含有するMG300、緑茶カテキンの溶出が確認できず、以下のようにして実験を行なった。
図10図示のように、実施例7、実施例8の口腔ケア用組成物0.3gを測定用セルに入れた。ついで、この口腔ケア用組成物の層が壊れないようにイオン交換水を静かに重層し、室温(約25°)でそのまま静かに6時間保持し、経時的に水層の吸光度を測定した(吸光度は水層の上、中、下の3箇所で測定した。)。
その結果、実施例7のナイシンを含有するMG300を含む口腔ケア用組成物からは、表5、図5の通り、30分間程度では、ナイシンを含有するMG300はほとんど溶出しなかった。しかし、表7、図7の通り、長時間で保持するとナイシンを含有するMG300が少しずつ水層に溶出していることが確認できた。
また、実施例8の茶カテキンを含有する口腔ケア用組成物の場合も、表8、図8の通り、30分間程度では、茶カテキンはほとんど溶出しなかった。
しかし、表9、図9の通り、長時間で保持すると茶カテキンが少しずつ水層に溶出していることが確認できた。
この実施例7、実施例8の実験結果より、粘度が9000mPa・s以上や10000mPa・s以上の例えば、15000mPa・s程度の高粘度の場合、30分間程度の短時間では有効物質(茶カテキンやナイシン)が溶出しないが、これを超えた長い時間になると、このような高粘度の本発明の口腔ケア用組成物から少しずつ有効物質が長い時間をかけて穏やかに溶出していくことが確認できた。
「トロメイク(登録商標)」を用いて粘度が9000mPa・s以上や10000mPa・s以上の例えば、15000mPa・s程度の高粘度で本発明の口腔ケア用組成物を調製すると、表4に示したように、高粘度であっても流動性があり(例えば、凝集性の数値は、実施例1、2の場合と大きく異ならない)、また付着性が大きいので、口腔内に口腔ケア用組成物が長時間にわたって付着し、この長い時間に少しずつ有効物質が溶出して、有効物質が口腔内に長時間にわたって滞留し得ると考えられた。
本発明の口腔ケア用組成物は、口腔衛生に有効な物質と粘性を発現する物質とを含有し、粘性を加水量により調整できるものである。
ここで、口腔衛生に有効な物質としては、抗菌作用、殺菌作用を持っている物質であって、食用が可能であれば、種類や形態等は特に限定されない。例えば、粘性(粘度)を発現する物質(本明細書において「粘性基材」と表現することがある)としては、増粘剤等の増粘作用を持つ物質であって、食用が可能であれば、種類や形態等は特に限定されない。例えば、易水溶性の増粘多糖類である、キサンタンガムやカラギーナンを例示することができる。
また、粘性(粘度)を加水量により調整する際は、冷水及び温水の何れも使用することができる。
本発明の口腔ケア用組成物は、前述したように、口腔衛生に有効な物質と粘性を発現する物質とを含有し、粘性を加水量により調整できるものであるが、有効物質(口腔衛生に有効な物質)の口腔内における滞留性(貯留性)や徐放性(溶出性)は、口腔ケア用組成物の粘性(粘度)により調整できる。そこで、本発明の口腔ケア用組成物によれば、加水量を調整して粘性(粘度)を調整することによって、有効物質(口腔衛生に有効な物質)の口腔内での滞留量(貯留量)を使用者が使用状態や使用場面により任意に調整でき、有効物質の口腔内への徐放量(溶出量)も使用者が任意に調整できる。
本発明の口腔ケア用組成物は、商品形態として、液状、トロミ状、粉末状、顆粒状、固形状等が考えられる。
液状、トロミ状の商品では、冷水や温水へ溶解・分散しやすい点において取り扱いが容易であるが、商品の賞味期間や保存期間は短くなる。一方、粉末状、顆粒状、固形状の商品では、冷水や温水へ溶解・分散しにくい場合もあるが、商品の賞味期間や保存期間は長くなる。顆粒状の商品は、粉末状の商品へ造粒機等を適用することで製造できる。例えばタブレット等の固形状の商品は、粉末状、顆粒状の商品へ打錠機等を適用することで製造できる。
前述した本発明の口腔衛生に有効な物質と粘性を発現する物質とを含有し、粘性を加水量により調整できる口腔ケア用組成物は、口腔衛生に有効な物質の口腔内における滞留量及び/又は徐放量を加水量により調整できる。
これは、前述したように、有効物質(口腔衛生に有効な物質)の口腔内における滞留性(貯留性)や徐放性(溶出性)は、口腔ケア用組成物の粘性(粘度)により調整できので、加水量を調整して粘性(粘度)を調整することにより、口腔衛生に有効な物質の口腔内における滞留量及び/又は徐放量を調整できるからである。
なお、本発明の口腔ケア用組成物において、加水量によって粘性を調整する、加水量によって口腔衛生に有効な物質の口腔内における滞留量及び/又は徐放量を調整するにあたっては、粘性を発現する物質(粘性基材)として、易水溶性の増粘多糖類を用いると有利である。
十分な粘性が得られない粘性基材を使用した場合、口腔内の保水効果は期待できるが、短時間で口腔内から流出してしまうため(すなわち、滞留性、貯留性が十分ではないため)、有効物質の口腔内における滞留性や徐放性の調整が容易ではなく、それぞれの効果が長時間で維持されないこととなる。
一方、強固なゲルを形成する粘性基材を使用した場合には、口腔内の保水効果が期待できない上に、有効物質の滞留性や徐放性の調整が容易ではなく、有効物質がゲル状組成物に保持され、口腔内へ溶出しにくいこととなる。
これらを勘案すると、後述する実施例の通り、有効物質の滞留性や徐放性を調整できる口腔ケア用組成物の粘性(粘度)として、好ましくは2300〜8000mPa・s、より好ましくは2400〜7000mPa・s、さらに好ましくは2500〜6000mPa・sである。
ただし、うがい用や飲食用等では、口腔ケア用組成物の粘性(粘度)は特に限定されない。
前述した本発明の口腔衛生に有効な物質と粘性を発現する物質とを含有し、粘性を加水量により調整できる口腔ケア用組成物、口腔衛生に有効な物質と粘性を発現する物質とを含有し、粘性を加水量により調整できる口腔ケア用組成物であって口腔衛生に有効な物質の口腔内における滞留量及び/又は徐放量を加水量により調整できる口腔ケア用組成物は、何れも、更に、唾液の影響により粘性が変化しない口腔ケア用組成物とすることができる。
すなわち、例えば、粘性を発現する物質(粘性基材)として、前記のように易水溶性の増粘多糖類を用いると、唾液の影響により粘性(粘度)が変化しにくくなる。
このように唾液の影響により粘性(粘度)が変化しにくい本願の口腔ケア用組成物は、有効物質(口腔衛生に有効な物質)の口腔内における滞留性(貯留性)や徐放性(溶出性)が口腔ケア用組成物の粘性(粘度)により調整可能であることに基づくものであるので、唾液の影響により粘性(粘度)が変化しにくいことによって、有効物質(口腔衛生に有効な物質)の口腔内における滞留性(貯留性)や徐放性(溶出性)を長時間にわたって所定のレベルに維持し、経時的に口腔内に有効物質が放出される状態を維持することができる。
なお、十分な粘性が得られない粘性基材を使用した場合には、唾液により容易に粘性が低下し、短時間で口腔内から流出してしまうこととなる。
一方、強固なゲルを形成する粘性基材を使用した場合には、唾液により粘性が低下しにくいが、有効物質がゲル状組成物に保持され、口腔内に溶出しにくいこととなる。
この点でも、前述したように、有効物質の滞留性や徐放性を調整できる口腔ケア用組成物の粘性(粘度)として、好ましくは2300〜8000mPa・s、より好ましくは2400〜7000mPa・s、さらに好ましくは2500〜6000mPa・sである。
以上説明した本発明の何れの口腔ケア用組成物においても、粘性を発現する物質が保水効果を有するものであることが望ましい。
ここで、粘性を発現する物質として、前述したように、易水溶性の増粘多糖類を用いると、このような易水溶性の増粘多糖類は保水効果を有するので、口腔ケア用組成物が保水効果を維持しやすくなって有利である。
前述した通り、保水効果は唾液の分泌量の減少分を補完するという意味で口腔ケアにおいて大きな影響を持つ因子であるが、このように、保水効果を有する粘性を発現する物質を使用することにより、保水効果を維持し、唾液の分泌量の減少分を補完可能な口腔ケア用組成物を提供することができる。
なお、易水溶性の増粘多糖類であるキサンタンガムやカラギーナンに保水効果があることは公知の事項である(例えば、特開平8−301904の表6に示されている)ので、本発明の口腔ケア用組成物において、保水効果を有する粘性を発現する物質としてこれらを使用することが可能である。
ただし、ここでも、十分な粘性が得られない粘性基材を使用した場合には、口腔内の保水効果は期待できるが、短時間で口腔内から流出してしまうこととなる。
一方、強固なゲルを形成する粘性基材を使用した場合には、口腔内の保水効果が期待できない上に、有効物質がゲル状組成物に保持され、口腔内へ溶出しにくいこととなる。
そこで、この点でも、前述したように、有効物質の滞留性や徐放性を調整できる口腔ケア用組成物の粘性(粘度)として、好ましくは2300〜8000mPa・s、より好ましくは2400〜7000mPa・s、さらに好ましくは2500〜6000mPa・sである。
以上説明した本発明の何れの口腔ケア用組成物においても、粘性を発現する物質に易水溶性の増粘多糖類であるキサンタンガムが含まれる。
ただし、粘性を発現する物質としては、キサンタンガムの他にも、ローカストビーンガム、タラガム、グァガム、サイリウムシードガム、カラギーナン等の易水溶性の増粘多糖類を例示できる。
これらの物質は、強固なゲルを形成しない範囲において、単独で用いても、混合して用いても良い。
風味や外観の良さを勘案すると、ほぼ無味無臭で無色透明な精製キサンタンガムを主成分とすることが好ましい。
次に、以上説明した本発明の何れの口腔ケア用組成物においても、口腔衛生に有効な物質(抗菌作用、殺菌作用を持っている物質)を植物ポリフェノール及び/又はバクテリオシン(各種のグラム陽性菌やグラム陰性菌が産生する抗菌性のタンパク質やペプチドで、生産菌の類縁菌に対して殺菌的に作用するもの)とすることができる。前記の植物ポリフェノール、バクテリオシンはそれぞれ単独で使用することもできるし、両者を組み合わせて使用することもできる。
ただし、口腔衛生に有効な物質としては、植物ポリフェノール、バクテリオシンの他にも、口内炎緩和作用、抗菌作用、殺菌作用などを持っている物質であるナイアシン、pH調整剤、保存料等の食品素材や食品添加物が例示できる。
これらの口腔衛生に有効な物質(抗菌作用、殺菌作用を持っている物質)は、単独で用いても、混合して用いても良い。風味の良さや認知度の高さを勘案すると、植物ポリフェノールを主成分とすることが好ましい。
植物ポリフェノールとしては具体的に、緑茶カテキン等の緑茶ポリフェノール、ウーロン茶ポリフェノールを例示することができる。バクテリオシンとしては具体的に、ナイシン(乳酸菌が生産するバクテリオシンの一種で、クラスIに属するバクテリオシン)を例示することができる。
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
口腔衛生に有効な物質(有効物質)として「サンフェノンBG3(登録商標)」(主成分:緑茶カテキン、太陽化学株式会社製)を、粘性を発現する物質(粘性基材、トロミ調整食品)として「トロメイク(登録商標)」(主成分:キサンタンガム、明治乳業株式会社製)を選定した。
(緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」の調製)
(1)「サンフェノンBG3(登録商標)」と「トロメイク(登録商標)」とを重量比で1:20の比率に粉体の状態で混合した。(2)この粉体をイオン交換水(温度23±2℃)へ表1の比率に溶解し、緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。
この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例1」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を2.0重量%として調製した緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
「サンフェノンBG3(登録商標)」と「トロメイク(登録商標)」とを重量比で1:40の比率に粉体の状態で混合する以外は実施例1と同様にし、イオン交換水(温度23±2℃)へ表1の比率に溶解し、緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例2」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を4.0重量%として調製した緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
(液状の「口腔ケア用組成物」における緑茶カテキンの溶出試験)
実施例1、実施例2で調製した液状の「口腔ケア用組成物」をそれぞれガラス容器に入れ、恒温槽(温度37℃)で15分間、静置状態で保持した。
本試験では、口腔衛生に有効な物質(抗菌作用、殺菌作用を持っている物質)である緑茶カテキンの口腔内への滞留性(貯留性)や徐放性(溶出性)を、モデル実験系により検証した。
このモデル実験系による口腔衛生に有効な物質(緑茶カテキン)の口腔ケア用組成物からの溶出試験方法は以下の通りである。
(1)実施例1、実施例2をそれぞれ5.5gずつガラス製のフタ付き遠沈管(容量12.5ml)に秤量した
(2)検査実施者から採取した唾液をイオン交換水(温度23±2℃)に0.1重量%で含有するように溶解し、モデル唾液を調製した
(3)このモデル唾液5.5gを、前述したフタ付き遠沈管に添加した。この際に、モデル唾液(上層)と液状試料(下層)が混合しないように注意しながら添加した
(4)フタを閉めて、遠沈管を反転させ、上層と下層を緩やかに逆転させた
(5)その後も2秒毎に、反転操作を繰り返し、合計で10回の反転操作を行った
(6)反転操作の後に、恒温槽(温度37℃)で、0、5、10、20、30分間、静置状態で保持した
(7)それぞれの試料を遠心分離処理(回転数3000rpm、時間15分)し、上澄液に移行した緑茶カテキン濃度を定量した。結果は表2及び図1図示の通りであった。
本実験では、波長275nm(緑茶カテキンの吸収極大波長)の吸光度を「Spectrophotometer U-300」(日立製)により測定し、緑茶カテキン濃度を定量した。
表2、図1図示のように、実施例1及び実施例2の何れの場合にも、時間の経過に伴い、カテキン濃度が徐々に増加した。
表2及び図1図示の結果となった液状の「口腔ケア用組成物」における緑茶カテキンの溶出試験から、本発明の口腔ケア用組成物においては、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において、所定の時間で徐々に徐放(溶出)していくことが認められた。
すなわち、主成分がキサンタンガムである「トロメイク(登録商標)」を粘性基材として用い、口腔衛生に有効な物質(有効物質)を含有した本発明の緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」は、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において所定の時間で滞留(貯留)しながら徐々に徐放(溶出)するという観点から、口腔ケアに有用であることが示された。
次に、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度が2.0重量%である実施例1と、4.0重量%である実施例2とを比較したところ、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度が小さいと、十分な粘性が得られないために、カテキンが滞留(貯留)しにくく、徐放(溶出)しやすかった。一方、「トロメイク(登録商標)」の濃度が大きいと、十分な粘性が得られるために、カテキンが滞留(貯留)しやすく、徐放(溶出)しにくかった。
これらの結果から、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度を、加水量を調整することによって調整し、口腔衛生に有効な物質であるカテキンの口腔内での滞留量(貯留量)や徐放量(溶出量)を調整できることが示された。
なお、このとき、表1より実施例1の粘度は2660mPa・s、実施例2の粘度は5620mPa・sであった。
ここで、以下の実験も含めて粘度は、厚生労働省「特別用途食品 高齢者用食品」の測定方法に準じて、B型粘度計により測定した数値である。また、山電レオナーRE‐3305を用いて、付着性、硬さ、凝集性を測定したところ、表1の結果となった。
流動性、付着性も、口腔衛生に有効な物質が口腔内全体へ均一に、長時間滞留する上で影響を与える因子であると考えられる。例えば、寒天ゲルのように流動性の小さいものは、口腔衛生に有効な物質が口腔内全体へ均一に広がることなく、そのまま塊などの状態で飲み込まれてしまい、口腔衛生に有効な物質による効果が局所的にとどまってしまうと考えられる。一方、流動性はあっても、付着性が小さいゼリーなどでは、口腔衛生に有効な物質が口腔内に滞留しにくく、あおのまま短時間で飲み込まれてしまい、口腔衛生に有効な物質による効果が限定的になると考えられる。
なお、凝集性は、通常では、ゲル状食品のまとまり易さを表現する指標である。原則として0〜1の数値で表現され、例えば、水のように流動性の大きい流体では凝集性は限りなく1に近くなり、ゼリーのように流動性の小さい流体では凝集性は0.3〜0.4程度となる。この明細書で説明している実験においては、凝集性をゾル状食品の流動性を表現する指標とし、凝集性の数値が大きいほど流動性も大きいと考えている。
前述した実施例1と実施例2の比較から、本発明の緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」の粘度が小さいと、有効物質が口腔内で滞留しにくく、徐放しやすい傾向が見られた。一方、粘度が大きいと、有効物質が口腔内で滞留しやすく、徐放しにくい傾向が見られた。すなわち、本発明の緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」の粘度と、滞留量(貯留量)や徐放量(溶出量)には相関が見られた。
なお、前記の測定方法の定量性を確認し、検量線を作成する目的で、緑茶カテキンを含有しない状態で、前述した溶出試験を実施した。すなわち、遠心分離処理した後に、上澄液へ濃度が既知の緑茶カテキンを溶解し、吸光度を測定した。この溶出試験における緑茶カテキン濃度と吸光度(波長275nm)との関係(検量線)は表3、図2図示の通りであった。
図2図示のように、緑茶カテキン濃度と吸光度(波長275nm)との関係は一次式で近似できることが確認された。このとき、緑茶カテキン濃度をY[ppm]、吸光度(波長275nm)をX[−]とすると、Y=862・X−348と表せた。
そこで、本明細書では、緑茶カテキン濃度は、吸光度(波長275nm)と図2の近似式(Y=862・X−348)から計算により求めることとした。
「サンフェノンBG3(登録商標)」と「トロメイク(登録商標)」とを重量比で1:25の比率に粉体の状態で混合する以外は実施例1と同様にし、イオン交換水(温度23±2℃)へ表1の比率に溶解し、緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例3」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を2.5重量%として調製した緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
「サンフェノンBG3(登録商標)」と「トロメイク(登録商標)」とを重量比で1:50の比率に粉体の状態で混合する以外は実施例1と同様にし、イオン交換水(温度23±2℃)へ表1の比率に溶解し、緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例4」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を5.0重量%として調製した緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
(液状の「口腔ケア用組成物」における緑茶カテキンの溶出試験)
実施例3、実施例4で調製した液状の「口腔ケア用組成物」をそれぞれガラス容器に入れ、恒温槽(温度37℃)で15分間、静置状態で保持した。
次いで、前記の液状の「口腔ケア用組成物」における緑茶カテキンの溶出試験と同様にして緑茶カテキンの溶出試験を行った。
粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度が2.5重量%(実施例3)及び5.0重量%(実施例4)である場合における緑茶カテキンの溶出試験の結果を図3に示した。
実施例3の場合には、時間の経過に伴い、カテキン濃度が徐々に増加した。この結果は、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において、所定の時間で滞留(貯留)しながら、徐々に徐放(溶出)していくことを意味する。
実施例4の場合には、時間の経過に伴い、カテキン濃度が僅かしか増加しなかった。しかし、カテキン濃度は所定の数値で維持されていた。この結果は、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において、所定の時間で滞留(貯留)していることを意味する。
この結果から、主成分がキサンタンガムである「トロメイク(登録商標)」を粘性基材として用い、口腔衛生に有効な物質(有効物質)として茶カテキンを含有した液状物質である本発明の口腔ケア用組成物が口腔ケアに有用であることが示された。
次に、「トロメイク(登録商標)」の濃度が2.5重量%の実施例3と「トロメイク(登録商標)」の濃度が5.0重量%の実施例4とを比較した。
この比較からも、前述した通り、「トロメイク(登録商標)」の濃度が小さいと、十分な粘性が得られないために、カテキンが口腔内に滞留(貯留)しにくく、徐放(溶出)しやすかった。一方、「トロメイク(登録商標)」の濃度が大きいと、十分な粘性が得られるために、カテキンが口腔内に滞留(貯留)しやすく、徐放(溶出)しにくいことが確認できた。
これらの結果からも、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度を加水量を調整することによって調整し、口腔衛生に有効な物質(有効物質)であるカテキンの口腔内での滞留量(貯留量)や徐放量(溶出量)を調整できることが示された。
実施例1、2と実施例3、4では、カテキンを粘性基材と粉体で混合し、粘性基材に予め包含しておくカテキン濃度を変えている。
このカテキン濃度を変えた場合でも、有効物質の口腔内での滞留量(貯留量)や徐放量(溶出量)を調整できることが示された。
このとき、表1より実施例3の粘度は3810mPa・s、実施例4の粘度は7700mPa・sであった。
前述した通り、茶カテキンを含有した液状物質である本発明の口腔ケア用組成物の粘度が小さいと、有効物質であるカテキンが口腔内で滞留しにくく、徐放しやすい傾向が見られた。一方、粘度が大きいと、有効物質であるカテキンが口腔内で滞留しやすく、徐放しにくい傾向が見られた。ここでも、茶カテキンを含有した液状物質である本発明の口腔ケア用組成物の粘度と、滞留量(貯留量)や徐放量(溶出量)には相関が見られた。
(比較例1)
口腔衛生に有効な物質(有効物質)として「サンフェノンBG3(登録商標)」(主成分:緑茶カテキン)を、粘性を発現する物質(粘性基材、トロミ調整食品)として「トロメイク(登録商標)」の他に、「トロメリン(登録商標)」(主成分:デンプン、三和化学研究所製)、「ビストップF(登録商標)」(主成分:ローカストビーンガム、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)製)を使用し、実施例1と同様な操作手順により液状試料を調製した。
すなわち、(1)口腔衛生に有効な物質(有効物質)である「サンフェノンBG3(登録商標)」と粘性基材である「トロメリン(登録商標)」を重量比で1:40の比率に粉体の状態で混合した。(2)前記の粉体をイオン交換水(温度23±2℃)へ表1の比率に溶解し、液状試料を作成した。この液状試料を「比較例1」(粘性基材である「トロメリン(登録商標)」の濃度が4.0重量%)とした。
一方、(1)口腔衛生に有効な物質(有効物質)である「サンフェノンBG3(登録商標)」と粘性基材である「トロメイク(登録商標)」と、「ビストップF(登録商標)」とを重量比で1:10:3の比率に粉体の状態で混合した。(2)前記の粉体をイオン交換水(温度80℃)へ表1の比率に溶解した後に、冷却(温度23±2℃)して液状試料を作成した。この液状試料を「比較例2」(粘性基材である「ビストップF(登録商標)」及び「トロメイク(登録商標)」の濃度がそれぞれ0.3重量%、1.0重量%)とした。
(液状試料における緑茶カテキンの溶出試験)
比較例1、比較例2をそれぞれガラス容器に入れ、恒温槽(温度37℃)で15分間、静置状態で保持した。
次いで、前述した実施例1〜4における液状の「口腔ケア用組成物」における緑茶カテキンの溶出試験と同様に、有効物質の口腔内への滞留性や徐放性をモデル実験系により検証した。
粘性基材「トロメリン(登録商標)」濃度を4.0重量%として調製した液状試料(比較例1)及び、粘性基材「ビストップF(登録商標)」濃度を0.3重量%かつ「トロメイク」濃度を1.0重量%として調製した液状試料(比較例2)における緑茶カテキンの溶出試験の結果を図4に示した。
比較例1の場合には、時間の経過に伴い、カテキン濃度が僅かしか増加せず、最初の時点から、カテキン濃度が高い状態であった。この結果は、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において、滞留(貯留)しにくく、短時間で一気に徐放(溶出)してしまうことを意味する。
デンプンは唾液により分解されるため、デンプンを主成分とする「トロメリン(登録商標)」が粘性基材に使用されている比較例1では、液状試料の粘性(粘度)が消失してしまい、その結果として、有効成分の滞留や徐放を調整できなかったと考えられた。
比較例2の場合には、時間の経過に伴い、カテキン濃度が僅かしか増加せず、最初の時点から、カテキン濃度が低い状態であった。この結果は、口腔衛生に有効な物質であるカテキンが口腔内において、滞留(貯留)するが、徐放(溶出)しにくいことを意味する。ローカストビーンガムを主成分とする「ビストップF(登録商標)」は、「トロメイク(登録商標)」(主成分:キサンタンガム)と併用すると、強固なゲルを形成するため、有効成分がゲルに包含されたまま、徐放されなかったと考えられた。
ある程度の流動性を持ちつつ粘性を得られる粘性基材が、有効成分の滞留や徐放を調整するためには望ましいと考えられた。
一方、主成分がデンプンである「トロメリン(登録商標)」や、主成分がローカストビーンガムである「ビストップF(登録商標)」と主成分がキサンタンガムである「トロメイク(登録商標)」の混合物を粘性基材として用いて、口腔衛生に有効な物質(有効物質)を含有した液状試料(組成物)を調製すると、口腔ケアに、あまり有用ではないことが示された。
これは、複数の粘性基材を組み合わせて使用すると強固なゲルが形成されて、有効成分がゲルに包含されたまま、徐放されなくなるためと考えられる。そこで、粘性基材は、単独で用いても、混合して用いても良いが、強固なゲルを形成しない範囲において使用することが必要であり、前記の実施例1〜4の結果にあるように、口腔ケア用組成物の粘性(粘度)が、好ましくは2300〜8000mPa・s、より好ましくは2400〜7000mPa・s、さらに好ましくは2500〜6000mPa・sになるように、使用する粘性基材、組み合わせる複数の粘性基材を選択する必要がある。
なお、「トロメリン(登録商標)」濃度が4.0重量%の比較例1と「ビストップF(登録商標)」濃度が0.3重量%かつ「トロメイク(登録商標)」濃度が1.0重量%の比較例2とを比較したところ、「トロメリン(登録商標)」の場合には、十分な粘性が得られないために、カテキンが滞留(貯留)しにくく、徐放(溶出)しやすかった。一方、「ビストップF(登録商標)」と「トロメイク(登録商標)」の混合物の場合には、ゲルが強固なために、カテキンが滞留(貯留)しやすく、徐放(溶出)しにくかった。
このとき、表1より比較例1の粘度は2000mPa・s、比較例2の粘度はゲル状となったために測定不能であった。
前述した通り、液状試料(組成物)の粘度が小さいと、有効物質が口腔内で滞留しにくく、徐放しやすい傾向が見られた。一方、液状試料がゲル状となってしまうと、有効物質が口腔内で滞留しやすく、徐放しにくい傾向が見られた。ここでも、液状試料の粘度と、滞留量(貯留量)や徐放量(溶出量)には相関が見られた。
口腔衛生に有効な物質(有効物質)としてナイシン(乳酸菌が生産するバクテリオシンの一種で、クラスIに属するバクテリオシン)を含有する発酵物で食品グレードのものであるMG300(Micro GARD 300)(DANISCO(ダニスコ)社製)を、粘性を発現する物質(粘性基材、トロミ調整食品)として「トロメイク(登録商標)」(主成分:キサンタンガム、明治乳業株式会社製)を選定した。
(ナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」の調製)
(1)ナイシンを含有するMG300(紛体)と「トロメイク(登録商標)」(紛体)とをイオン交換水(温度23±2℃)に表4の比率に溶解し、ナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。
この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例4」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を2.5重量%として調製したナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
ナイシンを含有するMG300(紛体)と「トロメイク(登録商標)」(紛体)とをイオン交換水(温度23±2℃)へ表4の比率に溶解する以外は実施例5と同様にし、ナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例6」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を5.0重量%として調製したナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
(液状の「口腔ケア用組成物」におけるナイシンを含有するMG300の溶出試験)
実施例5、実施例6で調製した液状の「口腔ケア用組成物」をそれぞれガラス容器に入れ、恒温槽(温度37℃)で15分間、静置状態で保持した。
次いで、実施例1〜4における緑茶カテキンの溶出試験と同様にしてナイシンを含有するMG300の溶出試験を行った。結果は表5及び図5図示の通りであった。
本実験では、波長220nm(ナイシンを含有するMG300の吸収極大波長)の吸光度を「Spectrophotometer U-300」(日立製)により測定し、ナイシンを含有するMG300の濃度を定量した。
表5、図5図示のように、実施例5及び実施例6の何れの場合にも、時間の経過に伴い、ナイシンを含有するMG300の濃度が徐々に増加した。
表5及び図5図示の結果となった液状の「口腔ケア用組成物」におけるナイシンを含有するMG300の溶出試験から、本発明の口腔ケア用組成物においては、口腔衛生に有効な物質であるナイシンを含有するMG300が口腔内において、所定の時間で滞留(貯留)しながら、徐々に徐放(溶出)していくことが認められた。
すなわち、主成分がキサンタンガムである「トロメイク(登録商標)」を粘性基材として用い、口腔衛生に有効な物質(有効物質)を含有した本発明のナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」は、口腔衛生に有効な物質であるナイシンを含有するMG300が口腔内において所定の時間で滞留(貯留)しながら徐々に徐放(溶出)するという観点から、口腔ケアに有用であることが示された。
次に、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度が2.5重量%である実施例5と、5.0重量%である実施例6とを比較したところ、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度が小さいと、十分な粘性が得られないために、ナイシンを含有するMG300が滞留(貯留)しにくく、徐放(溶出)しやすかった。一方、「トロメイク(登録商標)」の濃度が大きいと、十分な粘性が得られるために、ナイシンを含有するMG300滞留(貯留)しやすく、徐放(溶出)しにくかった。
これらの結果から、粘性基材である「トロメイク(登録商標)」の濃度を、加水量を調整することによって調整し、口腔衛生に有効な物質であるナイシンを含有するMG300の口腔内での滞留量(貯留量)や徐放量(溶出量)を調整できることが示された。
このとき、表4のように実施例5の粘度は2700mPa・s、実施例6の粘度は5520mPa・sであった。
前述した実施例5と実施例6の比較から、本発明のナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」の粘度が小さいと、有効物質が口腔内で滞留しにくく、徐放しやすい傾向が見られた。一方、粘度が大きいと、有効物質が口腔内で滞留しやすく、徐放しにくい傾向が見られた。すなわち、本発明のナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」の粘度と、滞留量(貯留量)や徐放量(溶出量)には相関が見られた。
なお、前記の測定方法の定量性を確認し、検量線を作成する目的で、ナイシンを含有するMG300含まない状態で、前述した溶出試験を実施した。すなわち、遠心分離処理した後に、上澄液へ濃度が既知のナイシンを含有するMG300を溶解し、吸光度を測定した。この溶出試験におけるナイシンを含有するMG300の濃度と吸光度(波長220nm)との関係(検量線)は表6、図6図示の通りであった。
図6図示のように、ナイシンを含有するMG300の濃度と吸光度(波長220nm)との関係は一次式で近似できることが確認された。このとき、ナイシンを含有するMG300の濃度をY[ppm]、吸光度(波長220nm)をX[−]とすると、Y=207・X−0.804と表せた。
そこで、本明細書では、ナイシンを含有するMG300の濃度は、吸光度(波長220nm)と図6の近似式(Y=207・X−0.804)から計算により求めることとした。
「トロメイク(登録商標)」の含有量を多くし、粘度を高くした場合について以下のように検討した。ナイシンを含有するMG300(紛体)と「トロメイク(登録商標)」(紛体)とを表4の比率でイオン交換水(温度23±2℃)へ溶解する以外は実施例5と同様にし、ナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例7」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を7.0重量%として調製したナイシンを含有するMG300を含む液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
「サンフェノンBG3(登録商標)」(紛体)と「トロメイク(登録商標)」(紛体)とを表4の比率でイオン交換水(温度23±2℃)へ溶解する以外は実施例1と同様にし、緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」を作成した。この液状の「口腔ケア用組成物」を「実施例8」(粘性基材「トロメイク(登録商標)」の濃度を7.0重量%として調製した緑茶カテキンを含有する液状の「口腔ケア用組成物」)とした。
(液状の「口腔ケア用組成物」におけるナイシンを含有するMG300、緑茶カテキンの溶出試験)
実施例7、実施例8で調製した液状の「口腔ケア用組成物」について、それぞれ、ナイシンを含有するMG300、緑茶カテキンの溶出試験を行った。実施例7、8の液状の「口腔ケア用組成物」の場合は、前述した実施例1、2で行なった実験のように遠沈管を反転させる操作ではナイシンを含有するMG300、緑茶カテキンの溶出が確認できず、以下のようにして実験を行なった。
図9図示のように、実施例7、実施例8の口腔ケア用組成物0.3gを測定用セルに入れた。ついで、この口腔ケア用組成物の層が壊れないようにイオン交換水を静かに重層し、室温(約25°)でそのまま静かに6時間保持し、経時的に水層の吸光度を測定した(吸光度は水層の上、中、下の3箇所で測定した。)。
その結果、実施例7のナイシンを含有するMG300を含む口腔ケア用組成物からは、表5、図5の通り、30分間程度では、ナイシンを含有するMG300はほとんど溶出しなかった。しかし、表7、図7の通り、長時間で保持するとナイシンを含有するMG300が少しずつ水層に溶出していることが確認できた。
また、実施例8の茶カテキンを含有する口腔ケア用組成物の場合も、表
8の通り、30分間程度では、茶カテキンはほとんど溶出しなかった。
しかし、表9、図
8の通り、長時間で保持すると茶カテキンが少しずつ水層に溶出していることが確認できた。
この実施例7、実施例8の実験結果より、粘度が9000mPa・s以上や10000mPa・s以上の例えば、15000mPa・s程度の高粘度の場合、30分間程度の短時間では有効物質(茶カテキンやナイシン)が溶出しないが、これを超えた長い時間になると、このような高粘度の本発明の口腔ケア用組成物から少しずつ有効物質が長い時間をかけて穏やかに溶出していくことが確認できた。
「トロメイク(登録商標)」を用いて粘度が9000mPa・s以上や10000mPa・s以上の例えば、15000mPa・s程度の高粘度で本発明の口腔ケア用組成物を調製すると、表4に示したように、高粘度であっても流動性があり(例えば、凝集性の数値は、実施例1、2の場合と大きく異ならない)、また付着性が大きいので、口腔内に口腔ケア用組成物が長時間にわたって付着し、この長い時間に少しずつ有効物質が溶出して、有効物質が口腔内に長時間にわたって滞留し得ると考えられた。