JP2016125132A - 窒化部材及びそれを用いた摩擦伝動変速機 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の窒化部材は、質量%で、C:0.40〜1.00%、Si:0.10〜1.40%、Mn:0.20〜1.50%、P:0.03%以下、S:0.10%以下、Cu:0.30%以下、Ni:0.30%以下、Cr:2.00〜4.00%、Mo:0.01〜0.50%、V:0.02〜0.30%、を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、窒化処理後の表面硬さが850HV以上であり、内部硬さが500HV以上であることを特徴とする。
【選択図】図6
Description
例えば、下記特許文献2に記載されたトランスミッション用部品では、合金元素(Mo,V)を調整した合金鋼に浸炭又は浸炭窒化処理を施すことで、耐熱性(500℃焼戻し表面硬さ)を確保し、耐焼付性を向上させるようにしている。
また、下記特許文献3に記載された転がり軸受では、マルテンサイト系ステンレス鋼に軟窒化処理を施すことで、表面窒化層硬さを1200〜1500HVとして耐焼付性を向上させるようにしている。
また、下記特許文献4に記載された転がり軸受では、セラミックコーティング処理を施すことにより、下記特許文献5に記載された摩擦伝達部材では、摩擦伝達部材の表面を覆う被膜(Ni,Co,Cr,Mo)に高エネルギービ−ム処理を施すことにより、それぞれ耐焼付性を向上させるようにしている。
Cは、焼入れ時のマルテンサイトの硬さを確保するための必須元素である。Cは、Cr,Mo,V等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成し、耐摩耗性、耐焼付性を向上させる。焼入れ焼戻しにより500HV以上の内部硬さを得るためには、0.40%以上の添加が必要である。他方、1.00%を超えて含有させると、炭化物量が多くなり過ぎ、靭性及び切削性が低下してしまうので、1.00%を上限とする。好ましくは0.60〜0.85%以下である。
Siは、高温焼戻し硬さを高めるために有効な元素である。この効果を得るために0.10%以上の添加が必要である。他方、1.40%を超えて含有させると、窒化層が浅くなる他、熱間加工性が低下するとともに成分偏析を助長するため、1.40%を上限とする。好ましくは0.3〜1.2%である。
Mnは、添加し過ぎると焼きなましによる硬さ低下が得られなくなるため、その含有を制限する必要がある。具体的には、1.50%以下の含有とする。好ましくは1.00%以下である。他方、Mnは、鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であり、焼入れ焼戻しにより500HV以上の内部硬さを得るためには、0.20%以上の含有が必要である。好ましくは0.40%以上である。
Crは、マトリックス中に固溶して焼入性を高め、硬さ向上に寄与するとともに、炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる。これらの効果を得るために2.00%以上の添加が必要である。好ましくは2.50%以上である。他方、4.00%を超えて添加すると窒化層が浅くなる他、必要以上の炭化物を形成し、焼入れ焼戻し後において靭性及び仕上げ加工等の製造性が低下してしまうので、4.00%を上限とする。好ましくは3.6%以下である。
Moも、Crと同様にマトリックス中に固溶して焼入性を高め、硬さ向上に寄与するとともに、炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる。あるいは、焼入れ焼戻しにおける軟化抵抗性を高めるために有効な元素である。これらの効果を得るために0.01%以上の添加が必要である。他方、過度の含有は、熱間加工性、靭性及び切削性が低下してしまうので、0.50%以下の含有とする。好ましくは0.25〜0.45%である。
Vは、安定な炭化物を形成する。また、結晶粒の粗大化を防止する効果があり、微細な炭化物を形成して耐摩耗性や硬さの向上に寄与する。また、焼入れ状態での残留オーステナイト量に大きく寄与する。これらの効果を得るとともに、残留オーステナイトを適切な量に制御するために0.02%以上の添加が必要である。他方、過度の含有は、晶出炭化物量の増加による切削性の低下及び熱間加工性の低下を招くので、その含有量を0.30%以下に制限する。好ましくは0.10〜0.25%である。
P及びSは不純物であって、製品の機械的性質にとって好ましくない成分であるから、できるだけ含有量を0%に近づけることが好ましい。0.03%、0.10%は、それぞれP,Sの許容限度である。
Cu,Niは、炭化物の生成を抑制するので、炭化物の生成を促進するCrとのバランスを考慮に入れて、0.30%以下に制限する。
上述したように、耐焼付性の改善には、表面硬さの向上が有効であり、後述する試験結果によると、窒化処理後の表面硬さが850HV以上である必要がある。より好ましくは1000HV以上である。ここで、表面硬さ(表層硬さ)とは、試験片の表面に試験荷重を負荷したときの硬さを意味する。なお、上記特許文献2〜5に記載された発明も、硬さを向上させることで耐焼付性の改善を図るものであるが、特許文献2に記載の発明では、硬化処理層の硬度が700〜780HVを満足するに過ぎず、本願発明の要求スペックである表面硬さが850HV以上の条件を満たしていないので、耐焼付性の向上効果が本願発明に比べて劣る。
一方、特許文献3に記載の発明では、窒化層の硬度が1200〜1500HV(≧850HV)を満足しているが、マルテンサイト系ステンレス鋼を母材として用いるため、一般的な軸受鋼や工具鋼に比べて製造コストが高く、その用途が限られる。
また、特許文献4に記載の発明が適用されるセラミック軸受は、一般に製造コストが高く、しかも量産性に課題があるため、実用化は特殊な用途の軸受(例えば、工作機械の主軸用軸受等)に限られ、ローラー等の部材に適用することには向いていない。
また、特許文献5に記載の発明では、溶射被膜の表面硬さが800HV程度であり、上記特許文献1に記載の発明と同様、本願発明の要求スペックである表面硬さが850HV以上の条件を満たしていないので、耐焼付性の向上効果が本願発明に比べて劣り、今後の使用条件の一層の過酷化に対応することは困難である。
内部硬さとは、試験片の表面から1.00mmの深さ位置における断面に試験荷重を負荷したときの硬さを意味する。本願発明の窒化部材をトラクションドライブに使用する場合、トラクション力を大きくするためには、窒化部材間の押し付け最大面圧を、少なくとも3.5GPa程度の大きさに設定することが必要となる。このように窒化部材間に作用する面圧が3.5GPaの条件下では、表面から0.8mm程度の深さの部位に最大せん断力が発生するものと推定される。したがって、このせん断応力による塑性変形を抑制し(塑性変形深さが10μm以下)、転がり寿命を確保するためには、後述する試験結果によると、内部硬さが500HV以上である必要がある。より好ましくは510HV以上である。なお、窒化部材に塑性変形が生じると接触面圧が下がり、トラクション力が小さくなって、結果として伝達効率の低下を招来するため、塑性変形は出来るだけ抑制した方がよい。
(11)窒化処理で形成された窒化化合物層の厚さが10μm以上で、かつ、500℃焼戻し表面硬さが550HV以上
500℃焼戻し表面硬さ(500℃焼戻し表層硬さ)は、上記(9)と同様の方法で測定された値である。高速滑りが生ずる条件下では、窒化部材同士の摺動により最大500℃の高温度になると考えられている。具体的には、500℃の環境下にトータルで3時間程度晒されると想定されており、このような過酷な環境下においても、耐焼付性を維持する必要がある。そのためには、後述する試験結果によると、500℃の状態を模擬的に再現した500℃焼戻し表面硬さが550HV以上である必要がある。500℃焼戻し表面硬さが550HV以上ない場合には、表面の軟化により使用中に焼付き、あるいは塑性変形が発生する可能性がある。より好ましくは700HV以上である。
また、後述する試験結果によると、窒化化合物層の厚さが10μm以上である必要がある。すなわち、窒化化合物による硬質皮膜は耐焼付性の向上に有効であり、500℃焼戻し表面硬さが550HV以上の条件を満足するだけでは、耐焼付性を維持できない場合がある。
18≦−8.3C^2+21.6C+3.3Cr+6.1Mo+13.3V≦30…(1)
上記式(1)は、窒化化合物層の厚さを10μm以上としつつ、内部硬さを500HV以上とするためのC,Cr,Mo,Vにおけるパラメータ式を示す。式(1)の値が上限値30を超えると、内部硬さが500HV以上であることは満足するものの、窒化化合物層の厚さが10μm未満となる。これとは逆に、式(1)の値が下限値18未満になると、窒化化合物層の厚さが10μm以上であることは満足するものの、内部硬さが500HV未満となる。式(1)の値の下限値を20以上に設定することで、内部硬さをほぼ確実に500HV以上に設定することができる。
窒化部材の最表面には、1000HV前後の硬さを有する窒化化合物層が形成され、その直下に窒素拡散層が形成される。窒化処理では、通常450〜600℃でガス雰囲気あるいは塩浴にて3時間程度処理されるため、低合金鋼の場合は内部の焼入れマルテンサイト組織が焼戻されて内部硬さが500HV以下に軟化してしまう。これに対して、本願発明の窒化部材によれば、500℃前後で2次硬化が生じるため、内部硬さ500HV以上を確保することができる。
まず、上記表1に示す合金組成(残部はFe及び不可避不純物)の鋼を真空溶解炉を用いて溶製し、インゴットに鋳造した。次に、このインゴットを圧延してバー材にした後、耐焼付性を評価するための試験片10(粗加工品)と、耐転がり寿命を評価するための試験片20(粗加工品)とをそれぞれ複数作成した。試験片10は、試験内容に応じて図1に示されるような円環状(例えば、外径φ70×内径φ40×厚さ18mm)に形成した。また、試験片20は、試験内容に応じて図2に示されるようなローラー部21と軸部22が一体の段付き円柱状(例えば、ローラー部21の外径φ26×軸部22の軸長130mm)に形成した。この場合、各試験片10,20に対して転走面の表面粗さRaがRa≦0.04μmとなるようなラップ仕上げ加工を施した。
上記各試験片10,20(粗加工品)に対し、下記の条件で熱処理を施した。すなわち、窒化処理の前に1000℃で30分間均熱保持後、油焼入れを行った。焼戻し処理は160℃で2時間行った。窒化処理は、シアン酸塩を主成分とする塩浴を用い(液体窒化、塩浴窒化)、処理温度530℃で3時間均熱保持後、空冷を行った。
ビッカース硬さ(=HV)は、「JIS Z2244」に規定されたビッカース硬さ試験法に従って測定したものであり、装置はマイクロビッカース硬さ試験機を用いた。圧子は「JIS B7725」に規定されている対面角が136°のダイヤモンド四角錘圧子を用い、破壊されない程度の試験荷重で各試験片10,20の鏡面研磨された所定の面に窪みをつける。そして、この窪みの対角線長さd[mm]と試験荷重F[N]とから次式によって計算した値をビッカース硬さとした。
HV=0.189×(F/d^2)
試験片20の断面組織を撮像し、窒化化合物層の断面厚さを5点抽出してその平均値を計算した。ここで、窒化化合物はFe系窒化物を意味する。
試験片10の表面の脱炭及び酸化を防止するため、真空雰囲気にて処理温度500℃で3時間の追加焼戻し処理を実施した。表面硬さの測定は、上記試験片10の場合と同じである(ビッカース硬さ試験用ブロック11を切り出してその外周面11aを直打ち)。
図1(A)に示されるような回転ラジアルスラスト試験機を用いて、試験片10に対して回転ラジアルスラスト試験を行った。回転ラジアルスラスト試験では、一対の試験片10のうち一方を固定側、他方を回転側とし、油潤滑下にて回転側の試験片10を介して固定側の試験片10にラジアル荷重を負荷した。固定側の試験片10の接触面の曲率半径を30mm、回転側の試験片10の回転数を2500rpmとし、試験片10間に焼付きが発生するまでラジアル荷重を、例えば60秒で100Nずつ段階的に増加させた。潤滑油はトラクションドライブ用オイルを用い、油温323K、流量1L/minで試験を行った。焼付き判定は、回転側の試験片10に設置した接触温度計の温度が急上昇した時点とした。
耐転がり寿命の評価方法の一つとして、図2に示されるようなローラーピッチング試験により、剥離寿命を評価することとした。ローラーピッチング試験では、負荷用ローラー30と試験片20を油潤滑下にて一定面圧で接触させ、滑りを与えながら回転させた。試験条件は面圧3.5GPa、すべり率10%、回転数1850rpmとした。潤滑油はトラクションドライブ用オイルを用い、油温323K、流量4L/minで試験を行った。負荷用ローラー30は、軸受鋼SUJ2を焼入れ・焼戻し後に表面研削したもの(例えば、直径130mm、曲率半径20mmのクラウニング加工を施したもの)を用いた。上記条件におけるピッチングが発生するまでの寿命を評価した。
耐転がり寿命の評価方法の一つとして、更に陥没量を評価することとした。上記のローラーピッチング試験において、試験前及び試験後の試験片20における未剥離部の形状プロファイルを測定し、初期面からの深さを陥没深さと定義した。試験片20におけるローラー部21の転走面について、表面粗さ測定器(東京精密株式会社製:SURFCOM 1500SD-13)を用いて軸方向の形状プロファイルを測定した。この場合、測定長さ21mm、カットオフ波長0.8mmとした。
11 ビッカース硬さ試験用ブロック
11a 外周面
20 試験片
21 ローラー部
21a 断面
Claims (6)
- 質量%で、
C:0.40〜1.00%、
Si:0.10〜1.40%、
Mn:0.20〜1.50%、
P:0.03%以下、
S:0.10%以下、
Cu:0.30%以下、
Ni:0.30%以下、
Cr:2.00〜4.00%、
Mo:0.01〜0.50%、
V:0.02〜0.30%、
を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、
窒化処理後の表面硬さが850HV以上であり、内部硬さが500HV以上であることを特徴とする窒化部材。 - 前記窒化処理で形成された窒化化合物層の厚さが10μm以上で、かつ、500℃焼戻し表面硬さが550HV以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化部材。
- C,Cr,Mo,Vをそれぞれ質量%で表したとき、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項2に記載の窒化部材。
18≦−8.3C^2+21.6C+3.3Cr+6.1Mo+13.3V≦30…(1) - 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の窒化部材は、入力された駆動力を転がり摩擦により出力側に伝達する、複数の対となる入力側及び出力側ローラーに用いられ、前記複数の対となる入力側及び出力側ローラーにより、組み合わされたローラー対で定まる変速比に基づいて、入力された駆動力を出力側に伝達することを特徴とする摩擦伝動変速機。
- 前記変速比を所定の基準値と比較した場合の変速比幅向上率の増大に対応して、車両の燃費を向上させたことを特徴とする請求項4に記載の摩擦伝動変速機。
- 前記変速比を所定の基準値と同じ大きさに設定した場合、前記複数の対となる入力側及び出力側ローラーを小型化し、又はそれらローラーの幅長を狭く設定したことを特徴とする請求項4に記載の摩擦伝動変速機。
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