JP2016125132A - 窒化部材及びそれを用いた摩擦伝動変速機 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐焼付性の向上に必要な表面硬さと耐転がり寿命の向上に必要な内部硬さとの両立化を図り得る窒化部材及びそれを用いた摩擦伝動変速機を提供する。
【解決手段】本発明の窒化部材は、質量%で、C:0.40〜1.00%、Si:0.10〜1.40%、Mn:0.20〜1.50%、P:0.03%以下、S:0.10%以下、Cu:0.30%以下、Ni:0.30%以下、Cr:2.00〜4.00%、Mo:0.01〜0.50%、V:0.02〜0.30%、を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、窒化処理後の表面硬さが850HV以上であり、内部硬さが500HV以上であることを特徴とする。
【選択図】図6

Description

本発明は、窒化部材及びそれを用いた摩擦伝動変速機に関する。
現在、自動車の動力伝達は歯車を用いるのが主流であるが、この歯車方式では歯車の噛み合いに伴う歯面摩擦による動力損失や歯部の噛み合い騒音などを低減すべきという課題がある。このような課題を解決するために、例えば下記特許文献1に記載されているように、複数設けられた対となる入力側及び出力側ローラーの転がりによる摩擦伝動変速(以下、トラクションドライブともいう)を利用したものがある。トラクションドライブによる動力伝達は、例えば図10(A)に示されるように、所定大きさの法線荷重P(面圧)で圧接されたローラー101,102間に、適切な潤滑油103を使用して油膜を形成させ、その油膜でのトラクション力T(せん断抵抗力)によって行われる。ここで、トラクション係数μ(動力伝達係数)は、法線荷重Pに対するトラクション力Tの比で定義され、例えば図10(B)に示されるように、法線荷重Pが大きいほど伝達容量は大きくなる。したがって、ローラー101,102には、トラクション係数μがほぼ一定となる法線荷重がP1以上の状態、すなわち高面圧の環境下で使用されることが望まれるため、耐転がり寿命(耐剥離性、耐陥没性)の向上が求められる。一方、トラクションドライブでは、変速時に変速前後の段間比分に相当する回転数差(周速差)が出力側ローラー間に生じる。このため、High側からLow側への切り替えに際して、変速中の入力側及び出力側ローラー間に大きな滑りが発生する。この滑りによりローラーは最大400℃の高温度の環境下に晒されることとなるので、耐滑り発熱性の確保、すなわち耐焼付性の向上も求められる。
ここで、耐焼付性の向上には、滑り発熱による温度上昇を防止するためにローラー間の摩擦低減を図ることが有効とされている。具体的には、ローラー表面の凹凸差を減らすことによって摩擦係数を小さくすること、つまり初期表面粗さを低減することの他、摺動時に表面粗さの劣化を防ぐことが有効であり、この劣化はローラーの高温環境下での硬さを確保することで防止することが可能である。
例えば、下記特許文献2に記載されたトランスミッション用部品では、合金元素(Mo,V)を調整した合金鋼に浸炭又は浸炭窒化処理を施すことで、耐熱性(500℃焼戻し表面硬さ)を確保し、耐焼付性を向上させるようにしている。
また、下記特許文献3に記載された転がり軸受では、マルテンサイト系ステンレス鋼に軟窒化処理を施すことで、表面窒化層硬さを1200〜1500HVとして耐焼付性を向上させるようにしている。
また、下記特許文献4に記載された転がり軸受では、セラミックコーティング処理を施すことにより、下記特許文献5に記載された摩擦伝達部材では、摩擦伝達部材の表面を覆う被膜(Ni,Co,Cr,Mo)に高エネルギービ−ム処理を施すことにより、それぞれ耐焼付性を向上させるようにしている。
特開2006−170389号公報 特開2008−025011号公報 特開2002−364648号公報 特開2007−292104号公報 特開平6−212390号公報
上記したとおり、摩擦伝動変速においては、ローラーが最大400℃の高温度の環境下に晒されることとなる。この場合、図1に示されるように、滑りによりローラーが耐えられる温度が400℃を超えて、より高くなればなるほど、摩擦伝動変速における変速比幅向上率をより大きな値に設定することが可能である。すなわち、High側とLow側との段間比の幅を大きくすることでき、加速性能、静粛性ひいては燃費を向上させることが可能となる。しかしながら、上記特許文献2〜5に記載された機械構造用鋼レベルの合金添加量では、耐焼付性の向上に必要な表面硬さと耐転がり寿命の向上に必要な内部硬さとの両立化を図ることができず、上記したような高面圧下で大きな滑りを伴うローラー等の部材に要求されるスペックを十分に満足することができなかった。
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、耐焼付性の向上に必要な表面硬さと耐転がり寿命の向上に必要な内部硬さとの両立化を図り得る窒化部材及びそれを用いた摩擦伝動変速機を提供することにある。
課題を解決するための手段及び発明の効果
上記目的を達成するために本発明の窒化部材は、質量%で、C:0.40〜1.00%、Si:0.10〜1.40%、Mn:0.20〜1.50%、P:0.03%以下、S:0.10%以下、Cu:0.30%以下、Ni:0.30%以下、Cr:2.00〜4.00%、Mo:0.01〜0.50%、V:0.02〜0.30%、を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、窒化処理後の表面硬さが850HV以上であり、内部硬さが500HV以上であることを特徴とする。この場合、窒化部材は、例えばトラクションドライブに使用されるのが好適である。
本発明の窒化部材では、上記した合金添加量を前提とすることで、窒化処理後の表面硬さを850HV以上とし、内部硬さを500HV以上とすることができる。窒化処理後の表面硬さが850HV以上であると、高速滑りを伴う接触が生じる環境下であっても、優れた耐焼付性を得ることができる。また、内部硬さが500HV以上であると、高面圧下であっても、長い転がり寿命を得ることができる。
また、本発明者らは、本発明の窒化部材を上記特許文献1に記載されているような摩擦伝動変速機を構成する、複数の対となる入力側及び出力側ローラーに適用すると、図1に示されるように、滑りによりローラーが耐えられる温度が400℃から500℃へと向上すること、すなわち500℃における軟化抵抗性が従来のものに比して向上するとの知見を得た。したがって、本発明の摩擦伝動変速機によれば、従来値(所定の基準値)と比較した場合の変速比幅向上率が向上し、ひいては車両の燃費を向上させることが可能となる。他方、変速比幅向上率を従来値と同じ大きさに設定した場合には、入力側及び出力側ローラー間の接触面圧の向上効果により入力側及び出力側ローラーを小型化し、又はそれらローラーの幅長を狭く設定することができ、ひいては入力側及び出力側ローラーで構成されるユニット重量を従来のものに比して削減することが可能となる。
本発明の窒化部材を、摩擦伝動変速機を構成する対となる入力側及び出力側ローラーに適用した場合における、変速機性能の向上を示すグラフ。 (A)は回転ラジアルスラスト試験機を示す説明図。(B)は(A)で用いる試験片の側面図。 (A)はローラーピッチング試験で使用される負荷用ローラーと試験片とを示す正面図。(B)は(A)の側面図。 図2の試験片を用いて表面硬さを測定する場合の説明図。 図3の試験片を用いて内部硬さを測定する場合の説明図。 表面硬さと焼付き限界荷重との関係を示すグラフ。 500℃焼戻し表面硬さと焼付き限界荷重との関係を示すグラフ。 内部硬さと剥離寿命との関係を示すグラフ。 内部硬さと陥没深さとの関係を示すグラフ。 (A)は窒化部材によるトラクションドライブを示す説明図。(B)は法線荷重とトラクション係数との関係を示すグラフ。
以下、本発明の窒化部材における各元素の組成限定理由および限定条件について説明する。
(1)C:0.40〜1.00%
Cは、焼入れ時のマルテンサイトの硬さを確保するための必須元素である。Cは、Cr,Mo,V等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成し、耐摩耗性、耐焼付性を向上させる。焼入れ焼戻しにより500HV以上の内部硬さを得るためには、0.40%以上の添加が必要である。他方、1.00%を超えて含有させると、炭化物量が多くなり過ぎ、靭性及び切削性が低下してしまうので、1.00%を上限とする。好ましくは0.60〜0.85%以下である。
(2)Si:0.10〜1.40%
Siは、高温焼戻し硬さを高めるために有効な元素である。この効果を得るために0.10%以上の添加が必要である。他方、1.40%を超えて含有させると、窒化層が浅くなる他、熱間加工性が低下するとともに成分偏析を助長するため、1.40%を上限とする。好ましくは0.3〜1.2%である。
(3)Mn:0.20〜1.50%
Mnは、添加し過ぎると焼きなましによる硬さ低下が得られなくなるため、その含有を制限する必要がある。具体的には、1.50%以下の含有とする。好ましくは1.00%以下である。他方、Mnは、鋼の焼入れ性を高めるのに有効な元素であり、焼入れ焼戻しにより500HV以上の内部硬さを得るためには、0.20%以上の含有が必要である。好ましくは0.40%以上である。
(4)Cr:2.00〜4.00%
Crは、マトリックス中に固溶して焼入性を高め、硬さ向上に寄与するとともに、炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる。これらの効果を得るために2.00%以上の添加が必要である。好ましくは2.50%以上である。他方、4.00%を超えて添加すると窒化層が浅くなる他、必要以上の炭化物を形成し、焼入れ焼戻し後において靭性及び仕上げ加工等の製造性が低下してしまうので、4.00%を上限とする。好ましくは3.6%以下である。
(5)Mo:0.01〜0.50%
Moも、Crと同様にマトリックス中に固溶して焼入性を高め、硬さ向上に寄与するとともに、炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる。あるいは、焼入れ焼戻しにおける軟化抵抗性を高めるために有効な元素である。これらの効果を得るために0.01%以上の添加が必要である。他方、過度の含有は、熱間加工性、靭性及び切削性が低下してしまうので、0.50%以下の含有とする。好ましくは0.25〜0.45%である。
(6)V:0.02〜0.30%
Vは、安定な炭化物を形成する。また、結晶粒の粗大化を防止する効果があり、微細な炭化物を形成して耐摩耗性や硬さの向上に寄与する。また、焼入れ状態での残留オーステナイト量に大きく寄与する。これらの効果を得るとともに、残留オーステナイトを適切な量に制御するために0.02%以上の添加が必要である。他方、過度の含有は、晶出炭化物量の増加による切削性の低下及び熱間加工性の低下を招くので、その含有量を0.30%以下に制限する。好ましくは0.10〜0.25%である。
(7)P:0.03%以下、S:0.10%以下
P及びSは不純物であって、製品の機械的性質にとって好ましくない成分であるから、できるだけ含有量を0%に近づけることが好ましい。0.03%、0.10%は、それぞれP,Sの許容限度である。
(8)Cu:0.30%以下、Ni:0.30%以下
Cu,Niは、炭化物の生成を抑制するので、炭化物の生成を促進するCrとのバランスを考慮に入れて、0.30%以下に制限する。
(9)窒化処理後の表面硬さが850HV以上
上述したように、耐焼付性の改善には、表面硬さの向上が有効であり、後述する試験結果によると、窒化処理後の表面硬さが850HV以上である必要がある。より好ましくは1000HV以上である。ここで、表面硬さ(表層硬さ)とは、試験片の表面に試験荷重を負荷したときの硬さを意味する。なお、上記特許文献2〜5に記載された発明も、硬さを向上させることで耐焼付性の改善を図るものであるが、特許文献2に記載の発明では、硬化処理層の硬度が700〜780HVを満足するに過ぎず、本願発明の要求スペックである表面硬さが850HV以上の条件を満たしていないので、耐焼付性の向上効果が本願発明に比べて劣る。
一方、特許文献3に記載の発明では、窒化層の硬度が1200〜1500HV(≧850HV)を満足しているが、マルテンサイト系ステンレス鋼を母材として用いるため、一般的な軸受鋼や工具鋼に比べて製造コストが高く、その用途が限られる。
また、特許文献4に記載の発明が適用されるセラミック軸受は、一般に製造コストが高く、しかも量産性に課題があるため、実用化は特殊な用途の軸受(例えば、工作機械の主軸用軸受等)に限られ、ローラー等の部材に適用することには向いていない。
また、特許文献5に記載の発明では、溶射被膜の表面硬さが800HV程度であり、上記特許文献1に記載の発明と同様、本願発明の要求スペックである表面硬さが850HV以上の条件を満たしていないので、耐焼付性の向上効果が本願発明に比べて劣り、今後の使用条件の一層の過酷化に対応することは困難である。
(10)内部硬さが500HV以上
内部硬さとは、試験片の表面から1.00mmの深さ位置における断面に試験荷重を負荷したときの硬さを意味する。本願発明の窒化部材をトラクションドライブに使用する場合、トラクション力を大きくするためには、窒化部材間の押し付け最大面圧を、少なくとも3.5GPa程度の大きさに設定することが必要となる。このように窒化部材間に作用する面圧が3.5GPaの条件下では、表面から0.8mm程度の深さの部位に最大せん断力が発生するものと推定される。したがって、このせん断応力による塑性変形を抑制し(塑性変形深さが10μm以下)、転がり寿命を確保するためには、後述する試験結果によると、内部硬さが500HV以上である必要がある。より好ましくは510HV以上である。なお、窒化部材に塑性変形が生じると接触面圧が下がり、トラクション力が小さくなって、結果として伝達効率の低下を招来するため、塑性変形は出来るだけ抑制した方がよい。
本願発明では、更に以下の条件を満たすように設定することできる。
(11)窒化処理で形成された窒化化合物層の厚さが10μm以上で、かつ、500℃焼戻し表面硬さが550HV以上
500℃焼戻し表面硬さ(500℃焼戻し表層硬さ)は、上記(9)と同様の方法で測定された値である。高速滑りが生ずる条件下では、窒化部材同士の摺動により最大500℃の高温度になると考えられている。具体的には、500℃の環境下にトータルで3時間程度晒されると想定されており、このような過酷な環境下においても、耐焼付性を維持する必要がある。そのためには、後述する試験結果によると、500℃の状態を模擬的に再現した500℃焼戻し表面硬さが550HV以上である必要がある。500℃焼戻し表面硬さが550HV以上ない場合には、表面の軟化により使用中に焼付き、あるいは塑性変形が発生する可能性がある。より好ましくは700HV以上である。
また、後述する試験結果によると、窒化化合物層の厚さが10μm以上である必要がある。すなわち、窒化化合物による硬質皮膜は耐焼付性の向上に有効であり、500℃焼戻し表面硬さが550HV以上の条件を満足するだけでは、耐焼付性を維持できない場合がある。
(12)C,Cr,Mo,Vをそれぞれ質量%で表したとき、下記式(1)を満たすこと。
18≦−8.3C^2+21.6C+3.3Cr+6.1Mo+13.3V≦30…(1)
上記式(1)は、窒化化合物層の厚さを10μm以上としつつ、内部硬さを500HV以上とするためのC,Cr,Mo,Vにおけるパラメータ式を示す。式(1)の値が上限値30を超えると、内部硬さが500HV以上であることは満足するものの、窒化化合物層の厚さが10μm未満となる。これとは逆に、式(1)の値が下限値18未満になると、窒化化合物層の厚さが10μm以上であることは満足するものの、内部硬さが500HV未満となる。式(1)の値の下限値を20以上に設定することで、内部硬さをほぼ確実に500HV以上に設定することができる。
(13)窒化処理
窒化部材の最表面には、1000HV前後の硬さを有する窒化化合物層が形成され、その直下に窒素拡散層が形成される。窒化処理では、通常450〜600℃でガス雰囲気あるいは塩浴にて3時間程度処理されるため、低合金鋼の場合は内部の焼入れマルテンサイト組織が焼戻されて内部硬さが500HV以下に軟化してしまう。これに対して、本願発明の窒化部材によれば、500℃前後で2次硬化が生じるため、内部硬さ500HV以上を確保することができる。
(鋼種、試験片形状)
まず、上記表1に示す合金組成(残部はFe及び不可避不純物)の鋼を真空溶解炉を用いて溶製し、インゴットに鋳造した。次に、このインゴットを圧延してバー材にした後、耐焼付性を評価するための試験片10(粗加工品)と、耐転がり寿命を評価するための試験片20(粗加工品)とをそれぞれ複数作成した。試験片10は、試験内容に応じて図1に示されるような円環状(例えば、外径φ70×内径φ40×厚さ18mm)に形成した。また、試験片20は、試験内容に応じて図2に示されるようなローラー部21と軸部22が一体の段付き円柱状(例えば、ローラー部21の外径φ26×軸部22の軸長130mm)に形成した。この場合、各試験片10,20に対して転走面の表面粗さRaがRa≦0.04μmとなるようなラップ仕上げ加工を施した。
Figure 2016125132
(窒化方法)
上記各試験片10,20(粗加工品)に対し、下記の条件で熱処理を施した。すなわち、窒化処理の前に1000℃で30分間均熱保持後、油焼入れを行った。焼戻し処理は160℃で2時間行った。窒化処理は、シアン酸塩を主成分とする塩浴を用い(液体窒化、塩浴窒化)、処理温度530℃で3時間均熱保持後、空冷を行った。
(硬さ測定)
ビッカース硬さ(=HV)は、「JIS Z2244」に規定されたビッカース硬さ試験法に従って測定したものであり、装置はマイクロビッカース硬さ試験機を用いた。圧子は「JIS B7725」に規定されている対面角が136°のダイヤモンド四角錘圧子を用い、破壊されない程度の試験荷重で各試験片10,20の鏡面研磨された所定の面に窪みをつける。そして、この窪みの対角線長さd[mm]と試験荷重F[N]とから次式によって計算した値をビッカース硬さとした。
HV=0.189×(F/d^2)
この場合、試験片10については、例えば図3に示されるように、窒化化合物層が形成された円環状の外周面を含みつつ内周面に達しない程度の深さ位置(例えば、表面から10mm程度)が下側となるようにビッカース硬さ試験用ブロック11を切り出した。試験荷重は50gで負荷時間は15秒とし、測定位置はビッカース硬さ試験用ブロック11の外周面11a(試験片10の転走面に相当する)とした(表面直打ち)。
また、試験片20については、例えば図4に示されるように、ローラー部21を軸部22の軸線と直交する向きに切断した。試験荷重は300gで負荷時間は15秒とし、測定位置はローラー部21の転走面から1.00mmの深さ位置における断面21aとした。
(窒化化合物層の厚さ測定)
試験片20の断面組織を撮像し、窒化化合物層の断面厚さを5点抽出してその平均値を計算した。ここで、窒化化合物はFe系窒化物を意味する。
(500℃焼戻し表面硬さ測定)
試験片10の表面の脱炭及び酸化を防止するため、真空雰囲気にて処理温度500℃で3時間の追加焼戻し処理を実施した。表面硬さの測定は、上記試験片10の場合と同じである(ビッカース硬さ試験用ブロック11を切り出してその外周面11aを直打ち)。
(耐焼付性評価方法)
図1(A)に示されるような回転ラジアルスラスト試験機を用いて、試験片10に対して回転ラジアルスラスト試験を行った。回転ラジアルスラスト試験では、一対の試験片10のうち一方を固定側、他方を回転側とし、油潤滑下にて回転側の試験片10を介して固定側の試験片10にラジアル荷重を負荷した。固定側の試験片10の接触面の曲率半径を30mm、回転側の試験片10の回転数を2500rpmとし、試験片10間に焼付きが発生するまでラジアル荷重を、例えば60秒で100Nずつ段階的に増加させた。潤滑油はトラクションドライブ用オイルを用い、油温323K、流量1L/minで試験を行った。焼付き判定は、回転側の試験片10に設置した接触温度計の温度が急上昇した時点とした。
(耐剥離性評価方法)
耐転がり寿命の評価方法の一つとして、図2に示されるようなローラーピッチング試験により、剥離寿命を評価することとした。ローラーピッチング試験では、負荷用ローラー30と試験片20を油潤滑下にて一定面圧で接触させ、滑りを与えながら回転させた。試験条件は面圧3.5GPa、すべり率10%、回転数1850rpmとした。潤滑油はトラクションドライブ用オイルを用い、油温323K、流量4L/minで試験を行った。負荷用ローラー30は、軸受鋼SUJ2を焼入れ・焼戻し後に表面研削したもの(例えば、直径130mm、曲率半径20mmのクラウニング加工を施したもの)を用いた。上記条件におけるピッチングが発生するまでの寿命を評価した。
(陥没量評価方法)
耐転がり寿命の評価方法の一つとして、更に陥没量を評価することとした。上記のローラーピッチング試験において、試験前及び試験後の試験片20における未剥離部の形状プロファイルを測定し、初期面からの深さを陥没深さと定義した。試験片20におけるローラー部21の転走面について、表面粗さ測定器(東京精密株式会社製:SURFCOM 1500SD-13)を用いて軸方向の形状プロファイルを測定した。この場合、測定長さ21mm、カットオフ波長0.8mmとした。
表1に各鋼種における測定結果を示す。ここでは、回転ラジアルスラスト試験において焼付きが発生したときの焼付き限界荷重が1700N以上(最大面圧2.0GPa以上)であれば、耐焼付性を良とした。また、ローラーピッチング試験において剥離寿命が10^6回以上で、かつ、陥没量が10μm以下であれば、耐転がり寿命特性を良とした。なお、表1の耐剥離性の欄において、「1.00E+07」の記載は当該回数までピッチングが発生しなかったことを示している。
表1及び図5に示されるように、窒化処理後の表面硬さが850HV以上であると、1700N以上の焼付き限界荷重が得られることが分かる。また、内部硬さが500HV以上であると、図7に示されるように10^6回以上の剥離寿命が得られ、図8に示されるように10μm以下の陥没深さが得られることが分かる。
発明鋼1〜5,8は窒化処理後の表面硬さが850HV以上の条件を満たし、かつ、内部硬さが500HV以上の条件を満たしている。さらに、発明鋼1〜5,8は窒化処理で形成された窒化化合物層の厚さが10μm以上で、かつ、500℃焼戻し表面硬さが550HV以上の条件を満たし、更に式(1)の条件をも満たしている。図6に示されるように、窒化処理で形成された窒化化合物層の厚さが10μm以上で、かつ、500℃焼戻し表面硬さが550HV以上である場合にも、1700N以上の焼付き限界荷重が得られることが分かる。
ここで、発明鋼6は、窒化化合物層の厚さが9.1μmであり、10μm以上の条件を満たしていないが、10μmに近い値であるため、焼付き限界荷重が規定の1700Nとなっている。発明鋼7は、500℃焼戻し表面硬さが547HVであり、550HV以上の条件を満たしていないが、550HVに近い値であるため、焼付き限界荷重として規定の1700Nよりやや高めの1830Nが得られている。
一方、比較鋼1,3,6は、それぞれC,Cr,Vが下限値を下回っているため、窒化処理時に内部硬さが不足し、いずれも剥離寿命が規定の10^6回に達していない。比較鋼5はMoが下限値を下回っているため、剥離寿命は規定の10^6回に達しているものの、内部硬さが不足している。
比較鋼2,4は、それぞれSi,Crが上限値を上回ることに起因して、窒化化合物層の厚さが不足し、焼付き限界荷重が規定の1700Nに達していない。比較鋼7は、式(1)の値が下限値を下回っているため、窒化処理時に内部硬さが不足し、剥離寿命が規定の10^6回に達していない。そして、比較鋼1,3,5,6,7は、内部硬さの不足に起因して、いずれも陥没量が10μmを超えている。
また、比較例のばね鋼1,2は、Crが下限値を下回るとともに式(1)の値が下限値を下回っているため、窒化処理時に内部硬さが不足し、いずれも剥離寿命が規定の10^6回に達していない。なお、ばね鋼2は、窒化後片肉30μmの研磨により窒化化合物層を除去しており、表面硬さが不足したため、焼付き限界荷重も規定の1700Nに達していない。そして、ばね鋼1,2についても、比較鋼1,3,5,6,7と同様、内部硬さの不足に起因して、いずれも陥没量が10μmを超えている。
比較例の軸受鋼1,2及び工具鋼1は、いずれも窒化処理が施されないことにより、表面硬さが不足し、焼付き限界荷重が規定の1700Nに達していない。また、比較例の工具鋼1,2は、Cr,Moが上限値を上回ることに起因して、いずれも式(1)の値が30を上回っており、窒化処理により表面硬さは満足するものの、窒化化合物層の厚さが不足したため、焼付き限界荷重が規定の1700Nに達していない。
以上の説明からも明らかなように、本発明の窒化部材によれば、窒化処理後の表面硬さを850HV以上とし、内部硬さを500HV以上とすることができる。したがって、本発明の窒化部材をトラクションドライブに適用することによって、変速時において高速滑りを伴う環境下であっても優れた耐焼付性を得ることができ、また、動力の伝達を高めるために使用面圧を高くしても長い転がり寿命を得ることができる。
そして、本発明の窒化部材を摩擦伝動変速機(例えば、特開2006−170389号公報に記載の摩擦伝動変速機)を構成する複数の対となる入力側及び出力側ローラーに適用すれば、滑りによりそれらローラーが耐えられる温度が400℃から500℃へと向上することにより、変速比幅向上率が、従来値(基準値)をAとすると1.2A〜2A倍程度の大きさまで向上し、ひいては車両の燃費を1%程度向上させることができる(図1参照)。他方、変速比幅向上率を従来値と同じ大きさに設定した場合には、入力側及び出力側ローラー間の接触面圧の向上効果により入力側及び出力側ローラーを小型化し、又はそれらローラーの幅長を狭く設定することができ、入力側及び出力側ローラーで構成されるユニット重量を従来のものに比して1.5kg程度削減することができる。
10 試験片
11 ビッカース硬さ試験用ブロック
11a 外周面
20 試験片
21 ローラー部
21a 断面

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.40〜1.00%、
    Si:0.10〜1.40%、
    Mn:0.20〜1.50%、
    P:0.03%以下、
    S:0.10%以下、
    Cu:0.30%以下、
    Ni:0.30%以下、
    Cr:2.00〜4.00%、
    Mo:0.01〜0.50%、
    V:0.02〜0.30%、
    を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、
    窒化処理後の表面硬さが850HV以上であり、内部硬さが500HV以上であることを特徴とする窒化部材。
  2. 前記窒化処理で形成された窒化化合物層の厚さが10μm以上で、かつ、500℃焼戻し表面硬さが550HV以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化部材。
  3. C,Cr,Mo,Vをそれぞれ質量%で表したとき、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項2に記載の窒化部材。
    18≦−8.3C^2+21.6C+3.3Cr+6.1Mo+13.3V≦30…(1)
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の窒化部材は、入力された駆動力を転がり摩擦により出力側に伝達する、複数の対となる入力側及び出力側ローラーに用いられ、前記複数の対となる入力側及び出力側ローラーにより、組み合わされたローラー対で定まる変速比に基づいて、入力された駆動力を出力側に伝達することを特徴とする摩擦伝動変速機。
  5. 前記変速比を所定の基準値と比較した場合の変速比幅向上率の増大に対応して、車両の燃費を向上させたことを特徴とする請求項4に記載の摩擦伝動変速機。
  6. 前記変速比を所定の基準値と同じ大きさに設定した場合、前記複数の対となる入力側及び出力側ローラーを小型化し、又はそれらローラーの幅長を狭く設定したことを特徴とする請求項4に記載の摩擦伝動変速機。
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