以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。ここでは、本発明の第1実施形態が適用されたアンテナ装置を有する発信システムを例に挙げて説明する。本実施形態で説明するアンテナ装置は、例えば自動車に搭載されて車車間通信や路車間通信に用いられるが、携帯電話等の情報通信機器等、自動車以外にアンテナ装置を用いることもできる。また、ミリ波レーダーにアンテナ装置を用いることもできる。ミリ波レーダーは、例えば、ACC(アダプティブクルーズコントロール)を行うために、自車と先行車の距離および相対速度を測定するものである。
以下、図1ないし図4を参照して、本実施形態にかかるアンテナ装置について説明する。まず、図1を参照して、本実施形態にかかる発信システムの全体構成について説明する。
発信システムは、アンテナ装置と、電源3、外部磁界印加部4、制御部5を備え、アンテナ装置は、複数のアンテナ1、複数の磁性発振素子部2、変調回路6を備える。また、磁性発振素子部2は、磁性発振素子を有する。変調回路6は、本発明の変調手段に相当する。なお、外部磁界印加部4は、後述するように、磁性発振素子と一体的に構成される場合がある。
アンテナ1は、高周波電力が供給されることにより高周波電磁波を外部へ発信する部分である。高周波電磁波とは、例えば10GHz以上の電磁波である。本実施形態では、アンテナ1は、アンテナ1と磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子を変調回路6に接続するための配線を兼ねている。
磁性発振素子部2は、供給された直流電流・電圧を高周波電力に変換する部分であり、複数の膜が積層されて構成された磁性発振素子を少なくとも1つ備えている。本実施形態では、磁性発振素子部2は、複数の磁性発振素子を備えており、各磁性発振素子部2において、各磁性発振素子は、変調回路6に対して互いに並列に接続されている。磁性発振素子の詳細については後述する。
電源3は、変調回路6を通して、アンテナ1と磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子に直流電流・電圧を供給する装置である。この電源3より供給される直流電流・電圧の大きさに基づいて、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子より発生させられる高周波電力の周波数が変化する。例えば、電源3が定電圧源であれば、後述する磁性発振素子の抵抗の変化により発生する高周波電流の周波数は、電源3が供給する電圧の大きさにより変化する。また、電源3が定電流源であれば、磁性発振素子の抵抗の変化により発生する高周波電圧の周波数は、電源3が供給する電流の大きさにより変化する。アンテナ1と磁性発振素子部2は1つずつ別々に変調回路6に接続されており、個別に変調回路6によって駆動される。
外部磁界印加部4は、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子に外部磁界を印加し、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子により発生する高周波電力の周波数を変化させる部分である。
外部磁界印加部4は、外部磁界発生装置21と、外部磁界制御電源22と、磁界制御電源回路23を有した構成とされている。外部磁界発生装置21は、ここでは、コイルであり、磁界制御電源回路23を通して外部磁界制御電源22から電流が流されることにより、磁界を発生させ、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子に印加する部分である。
本実施形態では、各磁性発振素子部2に対して2つのコイルが配置されており、2つのコイルは、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子を構成する複数の膜の膜面面内方向における一方向の両側に配置され、外部磁界を膜面垂直方向に印加する。具体的には、2つのコイルの軸が膜面垂直方向に向けられ、2つのコイルを構成する巻き線に、コイルの軸方向から見て互いに同じ向きに回るように、外部磁界制御電源22、磁界制御電源回路23からの電流が流れる。これにより、1つの磁性発振素子部2に対して配置された2つのコイルにおいて、各コイルを同じ向きに通り、磁性発振素子を膜面垂直方向に通る磁界が発生する。そして、それらの磁界が合成されて、2つのコイルの間に置かれた磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子を膜面垂直方向に通る磁界が発生する。
なお、磁性発振素子の膜面面内方向に磁界を印加してもよい。この場合、例えば、上記のように配置したコイルの軸を膜面面内方向の一方向に向け、2つのコイルを構成する巻き線に、コイルの軸方向から見て互いに同じ向きに回るように、外部磁界制御電源22、磁界制御電源回路23からの電流を流す。これにより、各コイルにおいて、各コイルを同じ向きに通る磁界が発生し、それらの磁界が合成されて、2つのコイルの間に置かれた磁性発振素子を膜面面内方向の一方向に通る磁界が発生する。
また、コイルを磁性発振素子の膜面垂直方向の一方または両方の外側に配置し、コイルの軸を膜面垂直方向に向け、外部磁界制御電源22、磁界制御電源回路23からの電流を流すことで、磁性発振素子の膜面垂直方向に磁界を印加してもよい。
磁界制御電源回路23は、外部磁界発生装置21と外部磁界制御電源22の間に配置され、外部磁界制御電源22からの電流を調整して、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子に印加される外部磁界の大きさを調整するものである。
制御部5は、状況に応じて電源3、変調回路6、外部磁界制御電源22、磁界制御電源回路23を操作する部分であり、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。制御部5は、電源3、変調回路6、外部磁界制御電源22、磁界制御電源回路23に接続されている。
つぎに、図2を参照して、アンテナ1と磁性発振素子部2の配置について説明する。
アンテナ装置はアンテナ1と磁性発振素子部2をそれぞれ複数備えており、図2(a)に示すように、1つのアンテナ1に対して1つの磁性発振素子部2が配置されている。また、本実施形態では、図2(a)、(b)に示すように、複数のアンテナ1は、互いに同じ向きに、かつ、格子状に並んで配置されている。
各磁性発振素子部2に備えられた複数の磁性発振素子の間には、Al−Ox、MgO、SiO2等で構成された絶縁層が形成され、複数の磁性発振素子は、膜面面内方向においては互いに絶縁されている。
つぎに、図3を参照して、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子の詳細について説明する。
磁性発振素子は、基板10上に、下部電極11、下地層12、反強磁性層13、ピン層14、中間層15、フリー層16、キャップ層17、上部電極18が順に積層されて構成されている。これらのうち下部電極11と上部電極18は、本発明の一対の電極に相当する。なお、図3における上下の向きは、基板10から下向きに各層が並ぶ向きとされている。
本実施形態では、基板10は導電性基板であり、例えばCu、Au等で構成される。基板10の上には、図示しないTa層が形成されている。Ta層は、基板との濡れ性や、下部電極11以降の層の配向性のために基板10上に形成されるものである。下部電極11は、Ru、Cu、CuN、Au等の導電性材料で構成されており、図示しないTa層上に薄膜状に形成されている。
下地層12は、Ta、Ru等で構成されており、下部電極11上に薄膜状に形成されている。下地層12は、結晶性、配向性を向上させて反強磁性層13を成膜するための下地となるものである。
反強磁性層13は、IrMn、PtMn等で構成されており、下地層12上に薄膜状に形成されている。反強磁性層13は、交換結合により、ピン層14の磁化方向を固定するためのものである。
ピン層14は、Co、Fe、Ni等の強磁性材料で、または強磁性材料とBとで構成されており、反強磁性層13上に薄膜状に形成されている。反強磁性層13との交換結合により、ピン層14の磁化方向は、ここでは、膜面面内方向に固定されている。なお、上記の材料に加え、Pt、Pdを用いてピン層14を構成してもよい。また、GaMn、FePt(Pd)、CoPt(Pd、Ni)等の高磁気異方性材料を用いてピン層14を構成してもよい。
なお、図示しないが、下地層12と反強磁性層13との間には、NiFe等で構成される磁性層が形成されている。また、反強磁性層13とピン層14との間には、CoFe等で構成される磁性層と、Ru等で構成され、上下に形成された磁性層の磁化方向をRKKY相互作用により固定する層が形成されている。
つまり、反強磁性層13をIrMnで構成し、ピン層14をCoFeBで構成する場合、下地層12と中間層15に挟まれた層は、下地層12側から順に、NiFe/IrMn/CoFe/Ru/CoFeB等の積層構造とされている。
本実施形態の磁性発振素子は、このように、Ru等のRKKY相互作用を用い、複数の磁性層により構成されたシンセティックフェリ磁性層を含んでいる。シンセティックフェリ磁性層を用いた構成では、Ruを挟んで上下に形成された2つの磁性層の磁化の向きを互いに逆にすることで、これら2つの磁性層からの漏れ磁界がフリー層16に与える影響を低減することができる。
中間層15は、MgO、Al−Ox、Cu、Ag等で構成され、ピン層14上に薄膜状に形成されている。ピン層14の磁化方向とフリー層16の磁化方向との間の角度によって、ピン層14、中間層15、フリー層16で構成される素子の抵抗値が変化する。中間層15をMgO、Al−Ox等の絶縁体で構成した場合、ピン層14、中間層15、フリー層16の積層によりTMR(Tunneling Magneto Resistance)素子が構成される。また、中間層15をCu、Ag等の導体で構成した場合、ピン層14、中間層15、フリー層16の積層によりGMR(Giant Magneto Resistance)素子が構成される。なお、ここでは中間層15を絶縁体や導体で構成する場合について説明したが、中間層15を半導体で構成することもできる。
フリー層16は、Co、Fe、Ni等の強磁性材料で、または強磁性材料とBとで構成されており、中間層15上に薄膜状に形成されている。フリー層16は、外部磁界印加部4が発生させる外部磁界によって磁化方向が変化する。なお、上記の材料に加え、Pt、Pdを用いてフリー層16を構成してもよい。また、GaMn、FePt(Pd)、CoPt(Pd、Ni)等の高磁気異方性材料を用いてフリー層16を構成してもよい。また、フリー層16を、CoFeB/GaMn、CoFeB/FePt等の積層構造としてもよい。また、フリー層16を、CoFeB/Ta/GaMn等の積層構造としてもよい。
キャップ層17は、Ta、Ru等で構成されており、フリー層16上に薄膜状に形成されている。キャップ層17は、加工の工程においてフリー層16を保護するためのものである。また、後述するようにフリー層16にCoFeB等を用いる場合は、CoFeB中のBを拡散させるための吸収層としての役割も担う。
上部電極18は、Au、Cu、CuN、Ru等の導電性材料で構成されており、キャップ層17上に薄膜状に形成されている。このような磁性発振素子は、基板10上に各層を順に成膜していくことで製造できる。
ピン層14やフリー層16にCoFeBを用いる場合は、まずCoFeBをアモルファス状に成膜する。ただし、Bを入れているので、特に何もしなくてもアモルファスとなる。そのアモルファスCoFeB上にMgOを(001)配向して成膜する。その上にCoFeBをアモルファス状に成膜し、キャップ層17を成膜する。その後、300〜350℃で熱処理を行うことで、CoFeB中のBがMgO層やキャップ層17、または下地層12に拡散し、アモルファスからbcc(001)配向に結晶化する。このようにCoFeB/MgO/CoFeBが結晶化することで、高いMR比(磁気抵抗比)、すなわち高周波電磁波の高出力化につながる。
本実施形態では、アンテナ1と磁性発振素子を一体化している。具体的には、図3に示すように、上部電極18をアンテナ1に接触させた状態で、磁性発振素子を絶縁樹脂19で覆うことにより、磁性発振素子とアンテナ1を接合させている。なお、磁性発振素子とアンテナ1を別々に製造する場合、製造工程において、下部電極11の下には基板10が必要である。一般的に基板の厚さは数百μmであるのに対し、上部電極18の厚さは数十〜数百nmであるので、発振部とアンテナ1との距離を短くするために、本実施形態では、上部電極18とアンテナ1が接合されている。なお、基板10は上部電極18に比べてアンテナ1と密着しやすいため、アンテナ1と磁性発振素子との間に隙間が生じることを抑制するために、基板10とアンテナ1を接合してもよい。
この場合、磁性発振素子とアンテナ1の間に絶縁樹脂19が流れ込むと、アンテナ1と磁性発振素子の間の抵抗が増加するため、磁性発振素子とアンテナ1の間に絶縁樹脂19が流れ込まないように接合することが望ましい。
なお、アンテナ1と上部電極18をInやはんだ等で接合してもよい。これにより、アンテナ1と磁性発振素子との距離が大きくなるが、アンテナ1と上部電極18との間に隙間が生じることを抑制することができる。また、アンテナ1と上部電極18を圧着により接合してもよい。
基板10に配線を施す前に磁性発振素子とアンテナ1を接合させた場合、絶縁樹脂19に導通用の穴をあけ、そこに配線を通すことで、図1に示すように、アンテナ1と磁性発振素子を変調回路6に接続することができる。
つぎに、図1ないし図4を参照して、本実施形態にかかる発信システムの動作について説明する。
まず、制御部5から電源3に信号が送られて、電源3と変調回路6によりアンテナ1と磁性発振素子部2の両端に直流電圧が生じ、電源3から変調回路6を通して各アンテナ1および磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子に直流電流Iが流される。直流電流Iは、ここでは、フリー層16からピン層14の向きに流れる。このとき、電子はピン層14からフリー層16へ移動する。また、外部磁界印加部4により、磁性発振素子に対して、フリー層16の磁化方向と平行、または数度ずれた方向に、外部磁界が印加される。ここでは、外部磁界は膜面垂直方向に印加されている。
すると、電子のスピントルクによりフリー層16の磁化が歳差運動する。ここで、外部磁界をフリー層16の磁化方向と平行方向、つまりスピン注入磁化反転しない方向に印加しているため、磁化は反転しない。
フリー層16の磁化が歳差運動することで、MR効果により磁性発振素子の抵抗は常に変化し、磁性発振素子の両端には高周波電流・電圧が生じており、これによる高周波電力が生じる。つまり、直流電流・電圧が高周波電力に変換される。磁性発振素子部2に備えられた複数の磁性発振素子により生じ、合成された高周波電力がアンテナ1を介することにより、高周波電磁波が発信される。
以上の動作により、各アンテナ1から高周波電磁波が発信されるが、以下説明する変調回路6の動作により、高周波電磁波の位相を各アンテナ1で変化させることができる。変調回路6を用いる場合、位相の制御方法が高周波の移相器等の高周波回路を用いる場合と全く異なる。
高周波の移相器等の高周波回路は、電気的エネルギーが磁性発振素子を介し、高周波電力となってから位相の制御を行う。そのため、高精度な位相の制御には大がかりな装置が必要となる。
これに対し、変調回路6は、電気的エネルギーが磁性発振素子に入力される前、すなわち、電気的エネルギーが直流、もしくは低周波の状態で位相の制御を行う。そのため、変調回路6を用いる場合には、高周波の移相器等の高周波回路を用いる場合と比較し、位相の制御が簡単である。
具体的には、変調回路6は、図4(a)に示す電源3からの入力を、磁性発振素子部2のうちの2つ(図中では2−1、2−2と表記する)に備えられた磁性発振素子に対し、図4(b)に示すように、時間φだけ差をつけて出力する。すると、図4(c)に示すように、直流電流・電圧を磁性発振素子部2−1に備えられた磁性発振素子が変換した高周波電力と、磁性発振素子部2−2に備えられた磁性発振素子が変換した高周波電力とで、時間φの分だけ位相に差が生じる。これにより、図4(d)に示すように、磁性発振素子部2−1、2−2に対応する2つのアンテナ(図中では1−1、1−2と表記する)それぞれから発信される高周波電磁波の間に、時間φの分だけ位相の差が生じる。
このように、変調回路6を用いて、磁性発振素子に電気的エネルギーを供給するタイミングを変えることで高周波電磁波の位相を制御できる。電気的エネルギーが直流、もしくは低周波の状態で位相差を設けても、磁性発振素子により変換された高周波電力は、その位相差を受け継ぐため、このような位相の制御が可能である。
各磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子に対する出力について、このように時間差を設けることで、各アンテナ1から発信される高周波電磁波の位相を変化させ、アンテナ装置全体から発信される高周波電磁波の方向を操作することができる。つまり、本実施形態のアンテナ装置を適用した発信システムは、フェーズドアレイアンテナ装置の発信システムとして用いることができる。
つぎに、本実施形態の効果について説明する。
従来のアンテナ装置で任意の方向に電磁波を発信するためには、アンテナを複数備え、増幅器と高周波の移相器を備えた送信モジュールを各アンテナに接続する。そして、各アンテナから発信される電磁波の位相を変化させることにより、アンテナから発信される電磁波全体の指向性を変化させる必要がある。
これに対し、本実施形態のアンテナ装置では、直流電流・電圧を高周波電力に変換する装置として磁性発振素子を用いており、各磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子が変換する交流の位相は、上記のように、変調回路6によりそれぞれ変化させられる。そのため、高周波の移相器等の高周波回路を各磁性発振素子部2間の調整に使わなくとも、直流または変調回路6により出力される低周波の信号で高周波出力が可能であり、任意の方向に電磁波を発信するフェーズドアレイアンテナ装置の発信システムを構成することができる。よって、本実施形態のアンテナ装置では、高価かつ大型である高精度な高周波の移相器を用いる必要がないため、本実施形態のアンテナ装置を、小型で、かつ、安価に製造できる。
また、上記の送信モジュールを用いたアンテナ装置では、高周波の移相器を経由することで送信モジュールの出力信号が減衰する。そこで、減衰した出力信号を増幅するために増幅器が備えられているが、増幅器の駆動には電源が必要であり、また、高周波の移相器の駆動にも電源が必要である。また、高周波の移相器によりビーム形成を行うために、送信モジュール間の振幅誤差および位相誤差を抑えるための回路等が必要である。そのため、高周波の移相器の使用に伴って多くのエネルギーを消費し、システム全体での効率が低下するという問題があった。
これに対し、本実施形態のアンテナ装置では、高周波の移相器を用いる必要がないため、高周波の移相器による出力信号の減衰を回避し、システム全体の効率を向上させることができる。また、高周波の移相器や増幅器のための電源も必要ないので、高周波の移相器の使用に伴うエネルギー消費も回避し、システム全体の効率を向上させることができる。なお、変調回路6を経由しても、変調回路6の経由時は電気エネルギーを高周波電磁波に変換していないため、高周波電磁波信号出力の減衰等の影響は少ない。
なお、金属の平板を複数の磁性発振素子部2と接合させた後に、平板を各アンテナ1の形状に削って各アンテナ1を形成してもよいし、各アンテナ1を別々に製造し、磁性発振素子部2と接合させてもよい。金属の平板を磁性発振素子部2と接合させた後に削る場合、複数のアンテナ1の高さを容易にそろえることができ、アンテナ装置全体から発信される高周波電磁波の方向の制御が容易になる。
また、従来のアンテナ装置では、直流の電気エネルギーを交流に変換するために、コイル、コンデンサ、水晶振動子、半導体素子等複数の部品で変換部を構成し、それらを回路基板上に実装することで基板化して設置している。変換部を基板化すると、変換部にはアンテナを設置する余地が少なくなるため、変換部とアンテナは離して設置されることが多い。そのため、離して設置された変換部とアンテナとの間で導波管等を用いて高周波電力を媒介しており、これにより、高周波電力が大幅に減衰し、システム全体で効率が低下するという問題があった。
これに対し、本実施形態のアンテナ装置が備える磁性発振素子は、上記のように、それのみで直流電流・電圧を高周波電力に変換し、変換部としての役割を果たす。また、磁性発振素子で発生する高周波電力の周波数は、直流電流・電圧の大きさや、外部磁界の大きさや方向により変化するので、これらを変化させることにより、アンテナ1から発信される高周波電磁波の周波数を変化させることができる。そのため、複数の磁性発振素子を有する磁性発振素子部2により構成される変換部は、直流から交流への変換や、変換した交流の周波数の調整のために多くの部品を必要としないので、磁性発振素子部2により構成される変換部とアンテナ1とを容易に接合し、一体化することができる。
本実施形態では、アンテナ1を磁性発振素子部2と一体化させているので、従来のように導波管等で高周波電力を媒介する必要がない。そのため、高周波電力の媒介による減衰を抑制し、システム全体の効率を向上させることができる。
また、従来のアンテナ装置では、高周波電磁波の高出力な発信が必要な場合、高周波増幅器を用いて出力を増幅するため、高周波電磁波経路が増大する、モジュール大きさが増大する、消費電力が増大するという問題があった。
これに対し、本実施形態のアンテナ装置では、集積化された複数の磁性発振素子により磁性発振素子部2が構成されることで、高周波電磁波を高出力化できる。磁性発振素子とアンテナ1との接合面積は、例えば数nm〜数μmオーダーと小さいため、集積化しても高周波電磁波経路の増大、モジュール大きさの増大を抑制することができる。また、磁性発振素子は消費電力が小さいため、システム全体の効率を向上させることができる。
なお、本実施形態では基板10を導電性材料で構成したが、基板10をSiO2等の絶縁性材料で構成してもよい。
この場合、図5に示すように、基板10の上に磁性発振素子を構成する各層を成膜した後、下地層12、反強磁性層13、ピン層14、中間層15、フリー層16、キャップ層17、上部電極18の膜面面内方向の周囲を囲むように、下部電極11の上に絶縁膜20を成膜する。そして、本実施形態と同様に絶縁樹脂19でアンテナ1と磁性発振素子を接合した後、基板10を貫通し下部電極11に達するように導通用の穴をあけ、そこに配線を通す。このようにして、基板10をSiO2等の絶縁性材料で構成した変形例においても、磁性発振素子とアンテナ1の一体化が可能である。この変形例においても、上記と同様の効果が得られる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態にかかるアンテナ装置について、図6を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、アンテナ1と磁性発振素子部2の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
本実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるが、アンテナ1と磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子が、図6に示す構成とされている。
つまり、基板10の上の下部電極11を形成する層がアンテナ1を兼ね、下部電極11によりアンテナ1が構成されている。また、下部電極11の上であって、下地層12、反強磁性層13、ピン層14、中間層15、フリー層16、キャップ層17、上部電極18の膜面面内方向の周囲を囲む位置に、絶縁膜20が形成されている。本実施形態では、このような構成により、磁性発振素子とアンテナ1を一体化している。
また、本実施形態では、基板10が絶縁性材料により構成されており、アンテナ1、下部電極11、上部電極18が、アンテナ1と磁性発振素子を変調回路6に接続するための配線を兼ねている。このようなアンテナ1と磁性発振素子は、アンテナ基板上に磁性発振素子を構成する各層を成膜し、磁性発振素子をパターニングすることで製造できる。
本実施形態のアンテナ装置においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、下部電極11によりアンテナ1を構成することで、発振部とアンテナ1との間に隙間が生じることを抑制できるため、システム全体の効率をさらに向上させることができる。
本実施形態では基板10を絶縁性材料で構成したが、基板10を導電性材料で構成してもよい。
基板10を導電性材料で構成した変形例を図7に示す。この変形例では、基板10、下部電極11、アンテナ1が1つの層により構成されており、この層の上に形成された下地層12、反強磁性層13、ピン層14、中間層15、フリー層16、キャップ層17、上部電極18は、本実施形態と同様に、膜面面内方向の周囲を絶縁膜20により囲まれている。また、この変形例では、アンテナ1、基板10、下部電極11、上部電極18が、アンテナ1と磁性発振素子を変調回路6に接続するための配線を兼ねている。この変形例においても、上記と同様の効果が得られる。また、この変形例では、高周波電磁波発信方向に基板がないので、高周波電磁波の送信効率が高くなると考えられる。
第1実施形態では、反強磁性層13以降の層の配向性を向上させるために、基板10の上に図示しないTa層、下部電極11、下地層12を順に積層したが、この変形例のように、基板10を構成する層の上に下地層12を形成してもよい。
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態にかかるアンテナ装置について、図8を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、アンテナ1と磁性発振素子部2の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
本実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるが、アンテナ1と磁性発振素子が、図8に示す構成とされている。
つまり、基板10の上に下部電極11、下地層12、反強磁性層13、ピン層14、中間層15、フリー層16、キャップ層17が形成され、基板10の上であって、下部電極11からキャップ層17までの膜面面内方向の周囲を囲む位置に、絶縁膜20が形成されている。ただし、下部電極11の一部は絶縁膜20を貫通して外部に連結している。
また、キャップ層17と、キャップ層17を囲む絶縁膜20の上に、上部電極18が形成されている。上部電極18を形成する薄膜はアンテナ1を兼ね、上部電極18によりアンテナ1が構成されている。本実施形態では、このような構成により、磁性発振素子とアンテナ1を一体化している。
また、本実施形態では、基板10が絶縁性材料により構成されており、アンテナ1、下部電極11、上部電極18が、アンテナ1と磁性発振素子を変調回路6に接続するための配線を兼ねている。このようなアンテナ1と磁性発振素子は、基板10上に磁性発振素子を構成する各層を成膜し、磁性発振素子をパターニング後、上部電極18を成膜し、上部電極18をアンテナ形状にパターニングすることで製造できる。
本実施形態のアンテナ装置においても、第1、第2実施形態と同様の効果が得られる。また、本実施形態では、高周波電磁波発信方向に基板がないので、高周波電磁波の送信効率が高くなると考えられる。また、本実施形態では上部電極18によりアンテナ1を構成しているため、基板10をアンテナ形状に加工する場合よりも容易にアンテナ装置を製造することができる。
本実施形態では基板10を絶縁性材料で構成したが、基板10を導電性材料で構成してもよい。この場合、アンテナ1、下部電極11、上部電極18に加え、基板10もアンテナ1と磁性発振素子を変調回路6に接続するための配線を兼ねる。
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態にかかるアンテナ装置について、図9を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態のアンテナ装置を構成するアンテナ1と磁性発振素子部2を下記のように配置したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
一般的なアンテナ装置に比べて、磁性発振素子は薄く、面積が小さい。例えば、厚さは数十nm〜数百nm、面積は数nm2〜数μm2である。そのため、車のバンパーやフロントガラス、パラボラアンテナ等の曲面に、第1実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2を配置することが可能である。
例えば、車のバンパーに配置する場合、一般的なアンテナ装置は、その大きさからバンパーの内側に配置する必要があり、バンパー表面での電磁波の反射が問題となる。これに対し、磁性発振素子は薄く、面積が小さいので、図9(a)に示すように、第1実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2をバンパーの外側に配置することができ、バンパー表面での電磁波の反射を抑制することができる。
さらに、有機EL(エレクトロルミネッセンス)等の使用中に変形される部材に第1実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2を配置し、その部材が使用中に変形されても、磁性発振素子は薄く、面積が小さいので、故障のおそれが少ない。また、第1実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2を、製造工程において変形される部材にも配置することができるため、第1実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2を配置した後に部材を変形させる等の方法が可能であり、加工が容易になる。
また、図9(b)に示すように、第1実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2を、これらの部材の内部にも配置することが可能である。磁性発振素子は水晶を用いていないので耐衝撃性に優れるが、第1実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2を部材の内部に配置することにより、耐衝撃性をさらに向上させ、また、衝撃以外の環境的な外乱についての耐環境性を向上させることができる。このような実施形態は、例えば、車のバンパーのように、衝撃や天候等、外からの環境的な外乱がある場合に適している。
本実施形態では、第1実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2を上記のように配置したが、第2、第3実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2を上記のように配置してもよい。この場合においても、上記と同様の効果が得られる。
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態にかかるアンテナ装置について、図10を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態のアンテナ装置を構成するアンテナ1と磁性発振素子部2を下記のように配置したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
図10に示すように、第1実施形態のアンテナ装置を構成するアンテナ1と磁性発振素子部2を曲面に複数配置することで、フェーズドアレイアンテナのように、任意の方向に電磁波を発信することができる。具体的には、複数のアンテナ1は互いに異なる向きに配置されているので、電磁波を発信するアンテナ1と磁性発振素子部2を図示しない回路により選択することで、任意の方向に電磁波を発信することができる。
また、電磁波を発信するアンテナ1と磁性発振素子部2を選択する回路を設けずに、すべてのアンテナ1から電磁波を発信してもよい。
本実施形態では、各磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子が発生させる高周波電力の位相を変化させて、アンテナ装置全体から発信される電磁波の方向を操作する必要がないので、アンテナ装置は変調回路6を備えていなくてもよい。
本実施形態では、第1実施形態のアンテナ装置を構成するアンテナ1と磁性発振素子部2を、曲面に複数配置したが、図11に示すように配置してもよい。以下、本実施形態の変形例について説明する。
図11(a)に示すように、第1実施形態のアンテナ装置を構成するアンテナ1と磁性発振素子部2を、断面が多角形状の部材の多角形状を構成する各辺にそれぞれ配置することで、同様に、任意の方向に電磁波を発信することができる。また、図11(b)、(c)のように、第1実施形態のアンテナ装置を構成するアンテナ1と磁性発振素子部2を、これらの部材の内部に配置してもよい。
また、図11(d)に示す変形例では、第1実施形態のアンテナ装置を構成するアンテナ1と磁性発振素子部2をパラボリックに、具体的には、放物線を対称軸まわりに回転させて形成される放物面上に複数配置している。これにより、パラボラアンテナとしての特性を得ることができる。
本実施形態では、第1実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2を上記のように配置したが、第2、第3実施形態のアンテナ1と磁性発振素子部2を上記のように配置してもよい。この場合においても、上記と同様の効果が得られる。
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態にかかるアンテナ装置について、図12を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、アンテナ1と基板10の形状を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
本実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるが、図12に示すように、アンテナ1と磁性発振素子部2により構成される電気回路において、電流の流路が、直線状の穴8を囲む流路を含むことにより、スリットアンテナが構成されている。穴8は、ここでは、各磁性発振素子部2に対して1つずつ形成されている。
具体的には、アンテナ1と、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子の基板10とが、U字状とされており、アンテナ1と基板10を対向させ、厚み方向においてU字の両端部同士を重ね合わせることにより、直線状の穴8が形成されている。そして、アンテナ1と基板10の間のうち、磁性発振素子部2が形成されていない部分には、Al−Ox、MgO、SiO2等で構成された絶縁層2aが形成されている。変調回路6とアンテナ装置を接続する配線は、アンテナ1と基板10が厚み方向において重なった部分のうち、磁性発振素子部2が形成されていない方に接続されている。
本実施形態のアンテナ装置においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子から発せられる高周波電磁波は円偏光であるが、本実施形態ではアンテナ1と磁性発振素子部2によりスリットアンテナが構成されており、高周波電磁波を直線偏光に変換することができる。そのため、本実施形態のアンテナ装置は、フェーズドアレイアンテナとして指向性を得るために有効である。
本実施形態では、第1実施形態に対して、アンテナ1の形状を変更したが、第2〜第4実施形態に対して、アンテナ1の形状を変更してもよい。この場合においても、上記と同様の効果が得られる。
なお、第5実施形態のアンテナ装置はフェーズドアレイアンテナではないが、第5実施形態に対して、アンテナ1の形状を変更してもよい。
また、本実施形態では各磁性発振素子部2に対して穴8を1つずつ形成したが、磁性発振素子部2に備えられた各磁性発振素子に対して穴8を1つずつ形成してもよい。
また、本実施形態では、上記の構成により、変調回路6から供給された電流が直線状の穴8の周りを1周して変調回路6へ戻るが、電流が直線状の穴8の周りを半周して変調回路6へ戻ってもよい。例えば、図13に示すように、アンテナ1のみをU字状として、磁性発振素子部2をアンテナ1の一端に形成し、変調回路6とアンテナ装置を接続する配線を、磁性発振素子部2と、アンテナ1の他端に接続してもよい。
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
例えば、上記第4、第5実施形態では曲面状の部材の表面または内部にアンテナ1と磁性発振素子部2を配置したが、平板状やブロック状の部材の表面または内部に配置してもよい。
また、上記第1実施形態では制御部5は電源3を制御しているが、電源3と変調回路6との間に制御可能な抵抗やキャパシタ等を備える電圧制御器を接続し、制御部5を電圧制御器に接続して、アンテナ1等に流れる電流を制御してもよい。
また、下部電極11と上部電極18の間の各層を、上記第1〜第3実施形態とは逆の順に成膜してもよい。
また、反強磁性層13を用いずに、例えば、ピン層14の材料や加工方法により、ピン層14の磁化方向を固定してもよい。また、反強磁性層13の代わりに、硬磁性材料により構成された硬磁性層を用いて、ピン層14の磁化方向を固定してもよい。
また、下地層12と反強磁性層13との間に、NiFe等で構成される磁性層が形成されていなくてもよい。
また、磁性発振素子がシンセティックフェリ磁性層を含んでいなくてもよい。
また、ピン層14、フリー層16の磁化方向を上記第1実施形態とは異なる方向にしてもよい。また、直流電流Iを流す向きを上記第1実施形態と逆向きにしてもよい。ただし、磁性発振素子における高周波発振の要因となるスピントランスファートルクの大きさは、ピン層14とフリー層16の磁化方向の相対角θによって定まる。さらに正確には、スピントランスファートルクの大きさはsinθに比例し、θが90°のときに最大となる。そのため、上記第1実施形態のように、ピン層14の磁化方向とフリー層16の磁化方向とが互いに垂直であることが望ましい。
また、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子をサンブレロ−ナノコンタクト型の磁性発振素子としてもよい。
また、上記実施形態では外部磁界発生装置21としてコイルを用いたが、コイルの代わりに図14に示すような配線を用いてもよい。外部磁界発生装置21を構成する配線は、ここでは、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子の膜面に平行で、互いに垂直な方向に置かれている。
コイルを用いる方法は、磁性発振素子部2と外部磁界発生装置21を別々に配置する場合に有用であるが、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子に印加する外部磁界の大きさや方向がコイルと磁性発振素子との位置により変化する。また、コイルを磁性発振素子の膜面垂直方向の一方または両方の外側に配置する場合、上記第1〜第6実施形態のような磁性発振素子部2を複数備えるアンテナ装置においては、磁性発振素子部2とコイルからなる層の数が増加する。
これに対し、図14に示す構成では、各磁性発振素子部2の付近に互いに垂直な2つの配線を施し、これら2つの配線に磁界制御電源回路23からの電流を流す。すると、各磁性発振素子部2に印加される磁界は、2つの配線を流れる電流により発生する磁界を合成したものとなり、それぞれの配線を流れる電流の大きさや向きを調整することで、各磁性発振素子部2に印加される磁界の大きさや向きを調整することができる。また、配線の位置を調整することで、膜面面内方向、膜面垂直方向のどちらにも外部磁界を印加することができる。このように、図14に示す構成では、磁性発振素子部2を複数備えるモジュールにおいても、任意の磁性発振素子部2に任意の外部磁界を印加することができる。
また、図15に示すように、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子の膜面垂直方向の一端にスペーサー層2bと外部磁界発生用磁性層2cを積層してもよい。なお、図15では、磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子の1つ(図中では2dと表記する)の膜面垂直方向の一端にスペーサー層2bと外部磁界発生用磁性層2cを積層した構成を示している。
スペーサー層2bは、外部磁界発生用磁性層2cとピン層14、フリー層16との磁性的結合を切るための層であり、Ta、W、Ti、Ru等で構成される。また、スペーサー層2bが、外部磁界発生用磁性層2cの磁気異方性を利用し、ピン層14、フリー層16との磁性的結合を強める層として用いられる場合もある。
外部磁界発生用磁性層2cは、膜面垂直方向に外部磁界、正確には漏れ磁界を発生して磁性発振素子へ印加するためのものである。また、ピン層14より生じる漏れ磁界や、外部磁界発生用磁性層2cの磁化方向を磁性発振素子の膜面面内方向としたときの漏れ磁界を用いて、磁性発振素子の膜面面内方向に外部磁界を印加してもよい。外部磁界発生用磁性層2cは、Co、Fe、Ni、Pt、Pd等で構成される垂直磁化膜層が望ましい。また、垂直磁化膜をGaMnや、CoFeB/MgOで構成してもよい。なお、外部磁界発生用磁性層2cは、上記第1実施形態において説明したアンテナ装置の動作において、MR効果を担うものではない。
外部磁界発生用磁性層2cを多層膜で構成すれば、その積層数や膜厚を変えることで、磁気異方性や、発生する漏れ磁界の大きさの制御が容易にできる。外部磁界発生用磁性層2cは、磁性発振素子と別々に配置してもよいが、磁性発振素子と同時に製造する方が加工が容易であり、また、大きな外部磁界を印加することができる。
外部磁界発生用磁性層2cをCo/Pt、Co/Pd等の多層膜で構成する場合、一般に成膜後300〜400℃程度の熱処理が必要となる。外部磁界発生用磁性層2cを、多層膜ではなく、L10−PtFe等の合金で構成する場合、成膜時に600℃程度での基板加熱が必要となる。
図16に示すように、外部磁界発生用磁性層2cから出る漏れ磁界には膜面内位置依存性がある。しかし、図17に示すように、磁性発振素子2dの膜面面内方向の幅を外部磁界発生用磁性層2cおよびスペーサー層2bの幅よりも小さくすることで、図18に示すように、膜面内の位置依存性が抑制され、制御性が高くなる。
図14に示す構成で印加できる外部磁界は、最大でも数十mTと小さいが、図15、図17に示す構成では、大きな外部磁界を印加することができる。しかし、図15、図17に示す構成では、一方向にしか外部磁界を印加できないため、図14に示す構成と図15、図17に示す構成を合わせて用いるとよい。
また、外部磁界発生装置21として電界効果素子を用いてもよい。電界効果素子は、非磁性層/磁性層/絶縁膜の構造を持つ素子で、印加電圧、すなわち電界によって磁性層の磁気異方性を変調することが可能なものである。つまり、電界効果素子への印加電圧を変えることにより、電界効果素子が発生させる磁界を変調することができる。そのため、電界効果素子を外部磁界発生装置21として利用すれば、外部磁界制御電源22から外部磁界発生装置21に印加される電圧を変えることにより、微細な磁性発振素子に任意の外部磁界を印加することができる。
電界効果素子を構成する非磁性層は、例えばAu、Pt、Pd、Ta、Ruの単体やこれらの化合物で構成される。また、非磁性層を、これらの単体や化合物を複数積層した膜で構成してもよい。
電界効果素子を構成する磁性層は、例えばFe、Co、Ni等の磁性体の単体や、これらにPt、Pd、B等の非磁性体を混ぜた化合物で構成される。
電界効果素子を構成する絶縁膜は、例えばMgO、HfO2、Al−Ox、Zn−Ox、ポリイミド、炭酸プロピレン等で構成される。
一般に金属磁性体を用いた電界効果素子における磁気異方性は、金属磁性層と絶縁層の界面の磁気異方性が主である。この界面磁気異方性を電界によって変調することが可能である。
また、上記第1実施形態では、各磁性発振素子部2に対して2つのコイルを配置したが、磁性発振素子部2に備えられた各磁性発振素子に対して2つのコイルを配置してもよい。同様に、図14に示す構成において、各磁性発振素子の付近に2つの配線を施し、磁界制御電源回路23からの電流を流してもよい。
また、上記第1実施形態では、複数のアンテナ1を格子状に配置したが、複数のアンテナ1を他の位置に置いてもよい。また、一部のアンテナ1のみを格子状に配置してもよい。また、上記第1実施形態では、複数のアンテナ1は互いに同じ向きに配置されているが、少なくとも2つのアンテナ1が互いに同じ向きに配置されていればよい。
また、上記第6実施形態では、各磁性発振素子部2に対して1つずつ穴8を形成したが、一部の磁性発振素子部2に対してのみ、穴8が形成されてもよい。また、アンテナ1と磁性発振素子部2に備えられた磁性発振素子が一体化されていなくてもよく、その場合は、アンテナ1と磁性発振素子部2を接続する配線と、アンテナ1と変調回路6を接続する配線を、それぞれ穴8の短手方向の両側に形成すればよい。
また、上記第1実施形態では、磁性発振素子部2は複数の磁性発振素子を備えているが、磁性発振素子部2が1つの磁性発振素子のみ備えていてもよい。