以下に本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品を示す。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る緩衝器Dは、アウターシェル1と、アウターシェル1を車輪W側に連結するナックルブラケット2とを備える。ナックルブラケット2は、アウターシェル1の外周形状に沿って湾曲し、端部がアウターシェル2の端部に溶接される抱持部30を有する。図2に示すように、抱持部30は、抱持部30の肉厚を貫通する背抜き孔30aと、アウターシェル1との間に空隙Kを形成する一以上の溝30bとを含む。溝30bは、一端が背抜き孔30aに通じて、一部または全部が軸方向に見て溶接部Yと背抜き孔30aとの間に形成される。
また、本実施の形態に係る緩衝器Dは、ストラット型の緩衝器であり、緩衝器D自体が自動車の車輪位置決め用の支柱として利用される。本実施の形態において、緩衝器Dは、単筒型に設定されている。そして、緩衝器Dは、アウターシェル1と、このアウターシェル1に出入りするピストンロッド10(図1)と、このピストンロッド10の先端に保持されてアウターシェル1内に摺動自在に挿入されるピストン(図示せず)と、アウターシェル1内における反ピストンロッド側に摺動自在に挿入されるフリーピストン(図示せず)とを備える。アウターシェル1内には、ピストンで区画され、作動油が満たされるピストンロッド10側の伸側室とピストン側の圧側室とが形成される。また、アウターシェル1内には、フリーピストンで圧側室と区画され、気体が封入される気室が形成されている。さらに、ピストンには、伸側室と圧側室とを行き交う作動油の流れに抵抗を与える減衰通路が形成されている。
そして、アウターシェル1が車輪W側に連結され、ピストンロッド10が図示しない車体側に連結される。このため、路面凹凸による衝撃が車輪Wに入力されると、アウターシェル1にピストンロッド10が出入りして緩衝器Dが伸縮する。このように緩衝器Dが伸縮する際、減衰通路を作動油が通るので、伸側室と圧側室に差圧が生じ、緩衝器Dの伸縮を抑制する減衰力が発生する。また、緩衝器Dが伸縮する際、アウターシェル1に出入りするピストンロッド10の体積分、アウターシェル内容積が変化するが、当該変化をフリーピストンの移動に伴う気室の膨縮で補償できる。
このように、本実施の形態においては、アウターシェル1が作動油を収容するシリンダとして機能する。しかし、緩衝器Dの構成は任意に変更できる。例えば、シリンダとして機能するアウターシェル1が内外二重かそれ以上とされ、緩衝器Dが複筒型に設定されていてもよい。また、本実施の形態において、ピストンロッド10が車体側に連結され、シリンダ(アウターシェル1)が車輪W側に連結されて、緩衝器Dが正立型となっている。しかし、ピストンロッド10が車輪W側に連結されて、緩衝器Dが倒立型となっていてもよい。この場合、アウターシェル1は、ピストンロッド10の外周を覆い、内側にシリンダが出入りするアウターチューブとして機能する。
つづいて、アウターシェル1を車輪W側に連結するナックルブラケット2は、図4に示すように抱持部30を有するアウターブラケット3とインナーブラケット4とを備えて二枚板構造となっている。
アウターブラケット3は、アウターシェル1の外周形状に沿って湾曲する抱持部30と、この抱持部30の周方向の両端から向い合せに起立する一対の挟持部31,31とを備える。抱持部30は、円筒の一部に切割を設けた形状を有し、軸方向に見て円弧状となっている。抱持部30の周方向長さは、抱持部30の曲率半径を半径とする半円の円周よりも長い。また、一対の挟持部31,31は、所定の間隔を開けて配置されており、各挟持部31は、抱持部30の直径を通る直線に対して略平行に延びている。
他方のインナーブラケット4は、一対の挟持部31,31の間に挿入され、アウターシェル1の外周形状に沿って湾曲する補助抱持部40と、この補助抱持部40の周方向の両端から向い合せに起立する一対の補助挟持部41,41とを備える。補助抱持部40は、抱持部30の切割部分を埋め、補助抱持部41は、挟持部31に沿って延びる。
そして、アウターブラケット3にインナーブラケット4を接合し、ナックルブラケット2を形成すると、抱持部30と補助挟持部40とが略円筒の形状となり、当該円筒状部分20の内側にアウターシェル1を圧入できる。アウターシェル1の車輪側開口は、図2に示すように、ロアキャップ11で塞がれており、アウターシェル1、ロアキャップ11、抱持部30及び補助抱持部40をアーク溶接して、ナックルブラケット2とアウターシェル1を一体化する。また、挟持部31と補助挟持部41には、相互に連通するボルト挿通孔31a,41aがそれぞれ上下に形成されている。そして、ナックルブラケット2は、ボルト挿通孔31a,41aに挿通されるボルトでステアリングナックルNに締結される。
本実施の形態においては、前述のように、ナックルブラケット2が円筒状部分20を備えるので、アウターシェル1の車輪側端部を全周に亘ってナックルブラケット2に溶接でき、アウターシェル1とナックルブラケット2を強固に溶接できる。
なお、ナックルブラケット2の構成は、任意に変更可能であり、インナーブラケット4を廃して、アウターブラケット3のみの一枚板構造とされていてもよい。また、本実施の形態においては、ナックルブラケット2の図2中下端が、アウターシェル1の図2中下端から下側に突出するようになっており、ナックルブラケット2の車輪側端部内周に、アウターシェル1の車輪側端を全周溶接するようになっている。本実施の形態において、図2中Yで示す部分が溶接部であるが、ナックルブラケット2とアウターシェル1との溶接位置は、任意に変更できる。
また、アウターブラケット3の抱持部30には、材料の削減によるナックルブラケット2の軽量化及びコストの低減等を目的として、抱持部30の肉厚を貫通する背抜き孔30aが形成されている。本実施の形態において、背抜き孔30aは、抱持部30の切割部分の反対側に一つ設けられ、アウターブラケット3を展開したときの形状が、角を丸めた四角形状となっている。また、アウターシェル1に沿って湾曲する抱持部30において、背抜き孔30aの周方向長さは、中心角θ1が約110度となるように設定されている(図4)。角を丸めた四角形状の背抜き孔30aの縁Eは、図3に示すように、四角形状の辺部分にあたる四本の直線状縁部e1,e2,e3,e4と、角部分にあたる四つの円弧状縁部e5,e6,e7,e8とを有する。そして、背抜き孔30aは、向かい合う短い一対の直線状縁部e2,e4が抱持部30の軸方向に並び、向かい合う長い一対の直線状縁部e1,e3が抱持部30の周方向に並ぶようになっている。
さらに、アウターブラケット3の抱持部30には、抱持部30を軸方向の一端から見たとき(軸方向に見たとき)、溶接部Y(図2)と背抜き孔30aとの間に位置する部分に、三条の溝30b,30b,30bが周方向に並んで形成されている(図3)。これらの溝30bは、抱持部30の内周に形成されており、ナックルブラケット2にアウターシェル1を圧入したとき、抱持部30とアウターシェル1との間に空隙K(図2)を形成する。また、各溝30bは、軸方向に直線状に延び、図3,4中上端が背抜き孔30aに達する。このため、溝30bによりアウターシェル1との間に形成される空隙Kが背抜き孔30aに連通する。
周方向に並ぶ三条の溝30b,30b,30bのうち、中央の溝30bは、背抜き孔30aを正面に見たとき、背抜き孔30aの中心を通り、抱持部30の軸方向に沿って延びる直線上に設けられている。また、両側の溝30b,30bは、溶接部Y側の直線状縁部e4と、当該直線状縁部e4に連なる円弧状縁部(e7またはe8)との境界を通り、抱持部30の軸方向に沿って延びる直線上にそれぞれ設けられている。本実施の形態において、両側の溝30b,30bの中心と、中央の溝30bの中心とを結ぶ弧に対する中心角θ2がそれぞれ約36度となっている(図4(b))。
この構成によれば、ナックルブラケット2とアウターシェル1とを溶接する際に生じたガスが空隙Kを通って背抜き孔30aに抜け、溶接部Yにブローホールが生じるのを防止できる。したがって、ナックルブラケット2とアウターシェル1の良好な接合状態を維持できる。加えて、溝30bは、溶接部Y側に向けて、徐々に浅くなっている(図2)。このため、溶接時に生じたガスが背抜き孔30a側に抜けやすい。
また、本実施の形態において、溝30bと溶接部Yが重ならないように設定されている。このため、溶接時に、溶融した金属が空隙Kを伝い落ちないが、このような配慮がなされていれば、溝30bと溶接部Yが多少重なっていてもよい。
また、溝30bを設けた部分は、経験上、ブローホールの発生頻度が高い部分である。このため、この部分に溝30bを設けると、ブローホールの発生を確実且つ効率的に防止できる。
なお、溝30bが背抜き孔30aに達し、軸方向に見て溶接部Yと背抜き孔30aとの間に形成されていれば、溝30bの数及び形状は任意に変更できる。例えば、溝30bが湾曲し、軸方向に見たとき溝30bの一部が溶接部Yと背抜き孔30aとの間からはみ出していてもよい。
また、本実施の形態において、各溝30bは、塑性変形により形成されている。アウターブラケット3は、板材をブランク加工してから曲げ加工して製造されるので、溝30bを塑性変形により形成すると、溝30bの形成工程を従来のアウターブラケット3の製造工程に容易に組み込める。しかし、溝30bの形成方法は、任意に変更可能であり、切削等により形成してもよい。
また、本実施の形態において、アウターブラケット3の車体側端部が抱持部30から挟持部31にかけて外側に湾曲し、リブ32を形成している。しかし、アウターブラケット3の車輪側端部はストレート形状となっている。このように、車輪側端部にリブを備えていないナックルブラケット2においては、ブローホールの発生頻度が高いことが確認されている。そこで、本実施の形態のように、溝30bを設け、ブローホールの発生を抑制するのが特に有効である。
以下、本実施の形態に係るナックルブラケット2のアウターシェル1への組み付け工程について説明する。
アウターブラケット3とインナーブラケット4を接合してナックルブラケット2を形成するとともに、アウターシェル1にベースキャップ11を組み付ける。そして、ナックルブラケット2の円筒状部分20にアウターシェル1を圧入し、車輪側端部(図2中下側)を上側に向けた状態で、円筒状部分20の図2中下部内周と、アウターシェル1の図2中下端を一周溶接する。このとき、ナックルブラケット2、アウターシェル1及びベースキャップ11が同時に溶接され、当該溶接部Yに溶接ビードが環状に形成される。
前述のように、ナックルブラケット2には、軸方向に見て溶接部Yと背抜き孔30aとの間に背抜き孔30aに達する溝30bが設けられている。このため、溝30bによりアウターシェル1と抱持部30との間に形成される空隙K(図2)を溶接により生じたガスが通って背抜き孔30aに抜ける。したがって、溶接部(溶接ビード)Yにブローホールが生じるのを防ぎ、ナックルブラケット2とアウターシェル1との良好な接合状態を維持できる。
以下、本実施の形態に係るナックルブラケット2及び当該ナックルブラケット2を備える緩衝器Dの作用効果について説明する。
本実施の形態において、溝30bは、塑性変形により形成されている。
この構成によれば、溝30bの形成工程をナックルブラケット2の形成工程に組み込み易い。つまり、溝30bを形成する行程を特別に追加する必要がないので、ナックルブラケット2に溝30bを形成する場合であっても、ナックルブラケット2の製造コストを低減できる。なお、溝30bの形成方法は、任意に変更できる。例えば、溝30bを切削等により形成してもよい。また、本実施の形態において、板材の片面を部分的に凹ませて溝30bを形成し、溝30bが形成される部分の肉厚が薄くなっている。しかし、図5に示すように、板材を曲げてアウターシェル1側に溝30bを形成してもよい。
また、本実施の形態において、背抜き孔30aの縁Eは、角を丸めた四角形状とされていて、四本の直線状縁部e1,e2,e3,e4と、四つ円弧状縁部e5,e6,e7,e8とを有する。そして、両側の溝30bは、溶接部Y側の直線状縁部e4と円弧状縁部e7,e8との境界を通り、抱持部30の軸方向に沿って延びる直線上に設けられる。
この構成によれば、ブローホールの発生を確実且つ効率的に防止できる。なお、溝30bを設ける位置は、ブローホールの発生を抑制できる限り、任意に変更できる。
また、本実施の形態において、溝30bは、背抜き孔30aを正面に見て背抜き孔30aの中心を通り、抱持部30の軸方向に沿って延びる直線上と、この直線の両側の三か所に設けられる。
この構成によれば、ブローホールの発生を確実且つ効率的に防止できる。なお、溝30bの数は、ブローホールの発生を抑制できる限り、任意に変更できる。また、本発明によれば、溝30bによりアウターシェル1とナックルブラケット2との間に空隙Kを形成し、当該空隙Kを介して溶接時のガスを背抜き孔30aに逃がすようにしている。つまり、ガス抜きを溝30bにより実現しているので、貫通孔等によりガス抜きを実現する場合と比較してナックルブラケット2の強度低下を招き難い。したがって、前述のように、溝30bを三か所またはそれ以上設けられ、確実にブローホールの発生を抑制できる。
また、本実施の形態において、緩衝器Dは、アウターシェル1と、アウターシェル1を車輪W側に連結するナックルブラケット2とを備える。ナックルブラケット2は、アウターシェル1の外周形状に沿って湾曲し、端部がアウターシェル1の端部に溶接される抱持部30を有する。抱持部30は、抱持部30の肉厚を貫通する背抜き孔30aと、アウターシェル1との間に空隙Kを形成する一以上の溝30bとを含む。溝30bは、一端が背抜き孔30aに通じて、一部または全部が軸方向に見て溶接部Yと背抜き孔30aとの間に形成される。
この構成によれば、溝30bによりアウターシェル1とナックルブラケット2との間に空隙Kを形成しているので、当該空隙Kを介して溶接時のガスを背抜き孔30aに逃がせる。したがって、ブローホールの発生を防止して、アウターシェル1とナックルブラケット2との良好な接合状態を維持できる。
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形及び変更が可能である。