JP2016108518A - 緑色蛍光体 - Google Patents

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Abstract

【課題】高演色性を有する緑色蛍光体を提供する。【解決手段】下記の式1:で表わされる、緑色蛍光体が提供される。【選択図】なし

Description

本発明は、高演色性を有する、緑色蛍光体に関する。
近紫外発光ダイオード(近紫外光LED:light emitting diode)や青色発光ダイオード(青色LED)と、可視光に発光する蛍光体とを組み合わせたLEDランプは、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)や一般照明など、産業界において幅広く利用されている。例として、「青色LED+黄色蛍光体」の組み合わせ、「青色LED+緑色蛍光体+赤色蛍光体」の組み合わせ、「近紫外光LED+青色蛍光体+黄色蛍光体」の組み合わせ、「近紫外光LED+青色蛍光体+緑色蛍光体+赤色LED」の組み合わせ等が知られている。
かようなLEDランプに応用可能な緑色蛍光体として、非特許文献1および非特許文献2には、Na−Sc−Si−O系においてEuを賦活した蛍光体である、NaScSi:Eu(Eu2+)が開示されている。
第347回蛍光体同学会講演会 新規蛍光体Na3ScSi3O9の合成およびEu2+賦活による発光特性評価(東北大学) Journal of Luminescence 154(2014)285-289.
非特許文献1および非特許文献2に記載された蛍光体NaScSi:Eu(Eu2+)は、近紫外〜青色の光で励起され、緑色の発光を示す。しかしながら、例えば、白色LED等の用途において、蛍光体は演色性の高いものが求められる。また、本発明者らが検討したところ、上記非特許文献1および非特許文献2に開示された技術による蛍光体は、発光ピーク波長(発光極大波長)が短波長側であり、発光色が浅緑色となることが判明した。
したがって、本発明の目的は、高演色性を有する緑色蛍光体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、発光ピーク波長を長波長側に有する緑色蛍光体を提供することにある。
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、下記の式1で表わされる緑色蛍光体によって上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。本発明は、以下の内容をその骨子とする。
(1)下記の式1:
で表わされる、緑色蛍光体;
(2)波長520nm〜540nmの範囲に発光ピークを有し、該発光ピークの半値幅が70〜95nmである、(1)に記載の緑色蛍光体;
(3)光源と、(1)または(2)の緑色蛍光体とを含む、発光素子。
本発明によれば、ユーロピウム(Eu)を賦活した緑色蛍光体において、高演色性を有する緑色蛍光体が提供される。また、本発明によれば、発光ピーク波長を長波長側に有する緑色蛍光体が提供される。
図1は、実施例1に係る緑色蛍光体(Na(Ca)ScMgSi27:Eu2+)のX線回折パターンを示す。 図2は、実施例1に係る緑色蛍光体(Na(Ca)ScMgSi27:Eu2+)および比較例1に係る緑色蛍光体(NaScSi:Eu2+)の励起スペクトル(破線)及び発光スペクトル(実線)である。 図3は、本発明に係る発光素子の概略図である。
本発明に係る緑色蛍光体は、NaScSi:Eu(Eu2+)系の緑色蛍光体に対し、一部をマグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)で置換することで、ナトリウム(Na)の欠損が抑制される。その結果、本発明に係る緑色蛍光体は、演色性に優れる。また、本発明に係る緑色蛍光体は、発光ピーク波長を長波長側に有し、その発光は、白色LED用途に適した緑色を呈する。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
本発明に係る蛍光体は、下記の式1で表わされ、緑色に発光する蛍光体(緑色蛍光体)である。
式1中、xは、0<x<2であることが好ましく、0<x<1.5であることがより好ましい。
式1中、yは、0<y<0.9であることが好ましく、0<y<0.45であることがより好ましい。
式1中、x+yは、0<x+y<2であることが好ましく、0<x+y<1.5であることがより好ましい。
本発明に係る緑色蛍光体はNaScSi型であるが、式1で表わされる通り、ナトリウム(Na)の一部がカルシウム(Ca)および賦活剤であるユーロピウム(Eu)で置換され、かつ、スカンジウム(Sc)の一部がマグネシウム(Mg)で置換されている。
上記非特許文献1および非特許文献2に開示された緑色蛍光体は、Euを賦活したNaScSi型の蛍光体であり、当該蛍光体においては、Naサイトの一部がEuで置換されている。しかしながら、この際、単にNa(Na)をEu(Eu2+)で置換しただけでは電荷がバランスされず、これを補償するためにNaの欠損が生じ、結果として輝度が低下するなど、発光特性の低下を招く。これに対し、本発明者らは、ユーロピウム(Eu)を賦活したNaScSi型(NaScSi27型)の緑色蛍光体において、Naの一部をCaに置換すると共に、Scの一部をMgに置換することで、上記Naの欠損が抑制され、良好な光学特性が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。そして、驚くべきことに、本発明者らは、上記特定の元素によって置換された緑色蛍光体は、特に演色性に優れ、さらに、長波長側に発光ピークを有し、その発光が白色LED用途に適した緑色を呈することを見出した。
上述したように、Euを賦活したNaScSi型(NaScSi27型)の緑色蛍光体において、単にNa(Na)の一部をEu(Eu2+)で置き換えると、カチオンの変化(Na→Eu2+)に伴う電荷補償の観点から、Naの欠損が生じる。かようなNaの欠損の抑制は、二価のイオンによってNaを置換する(一価→二価へ置換する)と共に、二価のイオンによってSc3+を置換する(三価→二価へ置換する)ことで達成される。より詳細には、Euを賦活したNaScSi型(NaScSi27型)の緑色蛍光体において、Naサイトの一部をEu2+で置換する(Euを賦活する)ために、二価であるCa2+でNaの一部を置換して二価のサイトを形成し、さらに、電荷をバランスさせるために三価であるSc3+を二価であるMg2+で置換することにより、Na欠損を抑制することができる。ここで、Ca2+はNaとほぼ同等のイオン半径を有し、Mg2+はSc3+とほぼ同等のイオン半径を有するため、構造的に有利である。
なお、式1は、上記のような置換形態、すなわち、9モルのNaを、(9−x−y)モルのNaを残してxモルのCa2+およびyモルのEu2+で置換し、かつ、3モルのSc3+を、(3−x−y)モルのSc3+を残して(x+y)モルのMg2+で置換した形態を示している。そして、上記置換形態をとることにより、置換前後において電荷がバランスされる(置換前のプラスの電荷は(+1)×9+(+3)×3=18であり、置換後のプラスの電荷は(+1)×(9−x−y)+2x+2y+(+3)×(3−x−y)+2(x+y)=18である)。
このように、本発明に係る緑色蛍光体においては、Na→Eu2+,Ca2+、および、Sc3+→Mg2+という置換を同時に行っている。
ここで、Na→Eu2+、および、Sc3+→Mg2+の置換を行い、Na→Eu2+の置換によって増加した電荷量分だけSc3+をMg2+に置換すれば(すなわち、Na→Ca2+の置換を行わなくとも)、置換の前後でカチオンの電荷をバランスさせることができると考えられる。しかしながら、Euは二価だけでなく、三価などの他の電荷状態もとりうるため、必ずしも期待した結果が得られず、良好な発光特性が得られないことがある。これに対し、詳細な理由は不明であるが、Euは、同じ二価のサイトが提供されると、二価の状態(Eu2+)で導入されやすくなることが判明した。したがって、上記のように、本発明によれば、Na→Ca2+の置換によって二価のサイトを提供することにより、Euが二価の状態(Eu2+)で導入されやすくなるため、発光特性が向上するという効果もまた得られる。
上記のように、Euを賦活したNaScSi型(NaScSi27型)の緑色蛍光体において、Na→Eu2+,Ca2+、および、Sc3+→Mg2+という同時置換が行われることにより、Naの欠損が抑制される。このようにNaの欠損が抑制されると、結晶全体でNa欠損がある場合と比較して、発光中心Eu2+の周辺構造に微細な変化が生じうる。また、原子間の距離、配位角度、及び、結合の電子状態が変化し、結晶性が変化する可能性がある。その結果、演色性に優れると共に、その発光が白色LED用途に適した緑色を呈する緑色蛍光体が得られるものと考えられる。なお、上述した本発明の構成による作用効果の発揮のメカニズムは推測であり、本発明は、上記推測によって限定されない。
本発明に係る緑色蛍光体は、NaScSiと同じ斜方晶系のP2を空間群とした結晶構造を有する。Ca2+が結晶中に存在することにより、賦活元素であるEu2+が入る場所が結晶構造中に作られるため、発光ピーク波長が長波長側にシフトするという効果もまた得られる。
式1に含まれるEuは、賦活剤(付活剤)として機能する。Euは、Na1モルに対して、0.001〜0.20モルであることが好ましく、0.005〜0.15モルであることがより好ましく、0.01〜0.1モルであることが更に好ましい。Na1モルに対してEuが0.001モル以上含まれていることにより、十分に賦活され、発光ピークが大きくなり、0.20モル以下であることにより濃度消光による発光スペクトルの減少を抑えることができる。
本発明の緑色蛍光体は、焼成後、主たる結晶構造がNaScSi型(NaScSi27型)であればよく、本発明の作用効果を損なわない程度に異なる結晶相を有することを妨げない。本発明の緑色蛍光体は、蛍光体全体に対して、異なる結晶相を10モル%含有してもよく、好ましくは5モル%以下にする。緑色蛍光体に含まれるNaScSi型(NaScSi27型)の結晶構造の割合について、上限は特に制限されないが、好ましくは実質的に100%である。
本発明の緑色蛍光体がNaScSi型(NaScSi27型)結晶構造を有することを、図1に例示するX線回折パターンを用いて説明する。図1は、実施例1の蛍光体に代表される、式1で表わされる蛍光体のX線回折パターンである。図1に示す通り、本発明の蛍光体は、Cu Kα線源のX線回折パターンのプロファイルにおいて、2θが21〜23°、32〜35°に強度が最も強いピークを有することを特徴とする。
一実施態様において、本発明の蛍光体は、式1で表わされる緑色蛍光体であって、520nm〜540nmの範囲に発光ピーク波長を有することが好ましい。特に、本発明の蛍光体は、波長435nm〜465nmの範囲の光で励起したとき、520nm〜540nmの範囲に発光ピーク波長を有することが好ましい。さらに、本発明に係る蛍光体は、波長435nm〜465nmの範囲の光で励起したとき、発光ピーク波長は、より好ましくは520nm〜530nmの範囲である。
上記のように、本発明の蛍光体は、好ましい実施態様において、435nm〜465nmの励起光により、発光ピーク波長が520nm〜540nmである発光を示す。このように、本発明の蛍光体は、比較的、短波長側の光によっても励起することができる。したがって、本発明に係る緑色蛍光体は、近紫外LED(例えば400nm)や青色LED(例えば波長450nm)で励起したときの励起効率、特に、短波長側における励起効率が比較的高いため、近紫外光を用いたLEDバックライトや照明に適用する場合に有利である。
更に別の実施態様において、本発明の蛍光体は、式1で表わされる緑色蛍光体であって、波長が520nm〜540nmである発光ピークの発光ピークの半値幅が70nm〜95nmであると好ましい。すなわち、本発明に係る蛍光体は、好ましい実施態様において、波長520nm〜540nmの範囲に発光ピークを有し、該発光ピークの半値幅が70nm〜95nmであると好ましい。このように、大きな半値幅を有する緑色蛍光体は、高演色性を有する。本発明に係る蛍光体は、緑色蛍光体であって、大きな半値幅を有している点で、特に白色LED用の緑色蛍光体として優れている。したがって、演色性に優れる緑色蛍光体を提供するという観点から、本発明の蛍光体は、波長が520nm〜540nmである発光ピークの半値幅が75nm〜90nmであるとより好ましい。
更に別の実施態様において、本発明の蛍光体は、式1で表わされる緑色蛍光体であって、該緑色蛍光体のx、y表色系(CIE 1931表色系)の値xおよびyが、それぞれ、0.15〜0.35および0.5〜0.70であると好ましい。上記xおよびyの値が上記範囲内である蛍光体は、白色LED用途に適した緑色蛍光体となる。なお、本明細書中、上記xおよびyの値は、実施例に記載の方法により測定された値を採用するものとする。さらに、本発明に係る蛍光体は、上記xおよびyの値がそれぞれ、0.15〜0.25および0.55〜0.70であるとより好ましく、0.2〜0.25および0.57〜0.70であると特に好ましい。
(緑色蛍光体の製造方法)
本発明に係る緑色蛍光体の原料として用いることができる化合物(原料化合物)は、特に制限されるものではなく、金属;金属の酸化物、窒化物、炭化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、酢酸塩、ハロゲン化物、酸窒化物、硫酸塩等;から適宜、式1におけるNaの原料、Caの原料、Euの原料、Scの原料、Mgの原料およびSiの原料を選択すればよい。例えば、a)Naの原料としてNaの酸化物、炭酸塩、フッ化物や塩化物などのハロゲン化物、または硝酸塩;b)Caの原料としてのCaの酸化物、窒化物、炭酸塩、フッ化物や塩化物などのハロゲン化物、または硝酸塩;c)Euの原料としてEuの金属、酸化物、窒化物、炭酸塩、フッ化物や塩化物などのハロゲン化物、または酸窒化物;d)Scの原料としてScの金属、酸化物、窒化物、炭酸塩、フッ化物や塩化物などのハロゲン化物、または酸窒化物;e)Mgの原料としてのMgの酸化物、窒化物、炭酸塩、フッ化物や塩化物などのハロゲン化物、または硝酸塩;f)Siの原料としてSiの酸化物、窒化物、炭酸塩、硝酸塩、または水酸化物、等を採用することができる。
より具体的には、原料化合物として、以下のものを例示することができる。Naの原料としては、NaO、NaCO、NaNO、NaF、NaCl等;Caの原料としては、CaO、CaCO、Ca(NO、CaF、CaCl等;Euの原料としてEu、Eu(CO、Eu(NO等;Scの原料としては、Sc、Sc(CO、Sc(NO、EuF、EuCl等;Mgの原料としては、MgO、MgCO、Mg(NO、MgF、MgCl等;Siの原料としては、Si、SiO、SiO、Si、SiC等が例示できる。フラックスとしての効果を得るため、NaF、CaF等のフッ化物を原料化合物として用いることもできる。
式1におけるOの原料は、上記a)、b)、c)、d)、e)またはf)から供給されても良いし、焼成雰囲気(例えばOガス)から供給されても良い。上記a)、b)、c)、d)、e)またはf)をOの原料として用いることができるという点から、上記a)、b)、c)、d)、e)またはf)は酸化物または炭酸塩であることが好ましい。例えば、原料化合物としてEuやMgO用いる場合、これらの化合物に含まれる酸素(O)を式1におけるOの原料とし、目標とする本発明の緑色蛍光体における酸素(O)との割合から原料化合物の配合を設計することができる。
これらの原料化合物の使用量は、式1でのモル比を満たすように選択すればよい。例えば、原料としてNaCO、CaCO3、Eu、Sc、MgO、及びSiOを採用する場合、モル比が式1の組成比となるように原料化合物を秤量して混合する。本発明に係る緑色蛍光体の製造に際しては、以下で詳説するように、これらの混合物を、窒素、窒素/水素混合ガス、アンモニア、またはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で焼成すればよい。
原料化合物の混合(混合工程)は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法が採用でき、湿式法、乾式法のいずれであってもよい。
湿式法の場合、秤量した原料化合物と溶媒とを合一し、乳鉢と乳棒、ミキサー、ミルなどで混合する。溶媒としては、水;メタノール、エタノールなどのアルコール類;ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶媒;等を、1種単独で、または2種以上を混合して採用できる。原料化合物と溶媒とを1〜24時間混合した後、乾燥工程にて溶媒を除去する。乾燥温度は、特に制限されるものではないが、例えば50〜200℃である。乾燥工程には、オーブン等による加熱乾燥、噴霧乾燥などを採用すればよい。また、乾燥雰囲気は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、真空雰囲気下等のいずれの条件であってもよいが、原料化合物の酸化を防止するため、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、または真空雰囲気下が好ましい。
乾式法によって混合する場合、溶媒を用いることなく、乳鉢と乳棒、ミキサー、ボールミル、ジェットミル等によって原料化合物を混合する。乾式法の場合、乾燥工程が必要ないため、作業効率がよく、原料化合物の酸化を防止しやすい。また、混合時の雰囲気は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、真空雰囲気下等のいずれの条件であってもよい。原料化合物の酸化を防止するという観点からは、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、または真空雰囲気下が好ましい。また、製造設備の簡素化等の観点からは、大気雰囲気下であると好ましい。特に、原料化合物として、空気中の水分と反応し、容易に酸化物となるものを用いる場合は、当該原料化合物以外の化合物を所定の比率で混合し、その後にグローブボックス内で上記原料化合物を混合する等、原料化合物の酸化を抑止しえる手段を採用することが好ましい。この時、雰囲気の水分及び酸素量は、いずれも0.1ppm以下であることが好ましい。
原料化合物の混合物を、篩を用い、所望のサイズに分級してもよい。
本発明に係る蛍光体の製造に際しては、混合した原料化合物を焼成する工程が含まれる。焼成工程は、原料化合物の混合物をアルミナ製、ジルコニア製、窒化ホウ素製、白金製、またはイリジウム製等の容器(坩堝など)に充填して行う。充填率は特に制限されないが、例えば10〜50%である。
焼成工程では、窒素雰囲気下若しくはアルゴン雰囲気下、または水素が1〜10モル%含まれた混合窒素ガスを用いた雰囲気下(還元性雰囲気下)で行われる。
焼成工程では、例えば、1000〜1400℃、好ましくは1100〜1300℃で原料化合物の混合物の焼成を行う。本発明においては、前記温度にて、例えば、1〜24時間、好ましくは2〜10時間程度焼成を行う。焼成温度が1100℃以上とすることにより、結晶相が2相以上に分離してしまうことを抑制し、Ca、Mg、Euが共存した結晶構造の形成を十分に行うことができる。一方、焼成温度を1400℃以下とすることにより、原料化合物や焼成により生成物が昇華してしまうことを抑制することができる。焼成工程における昇温速度は、特に限定されるものではないが、例えば1〜30℃/分であり、好ましくは5〜20℃/分である。
焼成工程において焼成炉内の圧力は任意に設定できるが、制御された圧力下で焼成工程が行われることが好ましい。この場合、減圧下(例えば真空度0.13Pa(1×10−3Torr)以下であり、好ましくは0.01Pa(1×10−4Torr)以下)で比較的低温域(400℃以下、好ましくは200℃以下)まで昇温した状態か、または昇温を行わずに室温の状態で、温度を維持しつつ、10〜60分かけて窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスや水素5モル%+窒素95モル%の混合ガスといった還元性ガスを炉内に導入する。不活性ガスまたは還元性ガスの導入によって、炉内の気圧は常圧まで復圧される。上記減圧および復圧の操作は複数回繰り返し行ってもよい。その後、目的とする上述の焼成温度まで炉内温度を昇温し、所定の時間焼成(焼結)を行う。減圧下で昇温後、低温域で窒素ガス等により加圧し、その後焼成することで、窒化物原料の分解や酸化を抑えつつ、蛍光体が形成できる。焼成後、例えば10〜30℃/分の速度で室温付近まで炉内を冷却する。合成された蛍光体の酸化を防止するため、冷却中は炉内圧を維持したまま行うことが好ましい。
焼成によって得られた焼成物を粉砕した後、焼成工程を1回〜3回繰り返し行うこともできる。焼成工程を複数回行うことで、結晶性の高い蛍光体を得ることができる。
焼成工程を経て得られた焼成物を、乳鉢と乳棒、ミキサー、ロールミル、ボールミル、ジェットミル、ブレンダ―等によって粉砕しても良い。粉砕物の粒度は、例えば、メジアン径(D50値)が1〜30μmの範囲であり、好ましくは5〜20μmの範囲である。粉砕物の粒度分布は、例えばレーザー回折散乱法によって測定できる。焼成物を粉砕することで、蛍光体を発光素子などへ利用しやすくなる。
粉砕後の焼成物は、焼成工程中に生成される副反応物を除去するために、洗浄工程に供しても良い。この場合、例えば、水、有機または無機酸、及びエタノール等のアルコールからなる群のうち、1種または2種以上を組み合わせた溶液にて粉砕物を洗浄すればよい。酸洗浄には、無機酸および有機酸を広く利用できるが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸などが例示できる。酸洗浄においては、1〜10N程度の酸に対して、粉砕後の焼成物が0.5〜10重量%となるよう、酸と粉砕後の焼成物とを合一する。洗浄時間は任意に設定すればよいが、例えば0.5〜10時間であり、撹拌下で行っても良い。
焼成工程、並びに、任意に、粉砕工程及び/または洗浄工程を経て得られた蛍光体の成分組成は、例えばSEM−EDX(Scanning Electron Microscope Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)法等によって確認することができる。
(蛍光体の利用)
本発明に係る緑色蛍光体は、発光ダイオード(近紫外LED、青色LED)と組み合わせることにより、発光素子に利用することができる。すなわち、本発明の別の側面においては、光源と、上述の本願緑色蛍光体とを含む、発光素子が提供される。
図3は、本発明に係る発光素子の概略図であるが、本発明の技術的範囲を制限するものではない。発光素子1はリードワイヤ2,3、光源4、樹脂5,8、導電性ワイヤ6、蛍光体7を含む。リードワイヤ2には、凹部があり、光源4が設置され、該凹部と光源4とは電気的に接続される。光源4は導電性ワイヤ6を介してリードワイヤ3と電気的に接続される。本発明に係る蛍光体(緑色蛍光体)7が分散された第1の樹脂5は、光源4を被うように形成される。凹部を含むリードワイヤ2の先端部、光源4、及び第1の樹脂5は、第2の樹脂8によって封止される。樹脂5,8としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等公知の熱硬化性樹脂を採用できる。
前記発光素子において、前記光源は、370〜500nmの範囲の光を発するものが好ましい。具体的には、前記光源は、近紫外LEDまたは青色LEDであって、370〜500nmの範囲の光を発するものが採用し得る。
前記発光素子において、前記蛍光体の発光スペクトルのピーク波長は、例えば500nm〜590nmの範囲であり、好ましくは波長520nm〜540nmの範囲であり、更に好ましくは波長520nm〜530nmの範囲である。
本発明に係る発光素子は、例えば、白色発光素子であり、砲弾型であり得る。
本発明に係る発光素子は、青色蛍光体、式1で表わされる緑色蛍光体以外の緑色蛍光体および赤色蛍光体の少なくとも一つをさらに含んでも良い。
青色蛍光体の例としては、例えば、(Sr,Ba,Ca)(POCl:Eu2+、BaMgAl1627:Eu2+、SrAl1425:Eu2+、BaAl13:Eu2+、BaMgAl1017:Eu2+、SrSi(2SrCl):Eu2+、BaMgSi:Eu2+、(Sr,Ca)10(PO(nB):Eu2+などを挙げることができ、これらを一つ以上混合して含むことができる。
緑色蛍光体の例としては、例えば、(Ba,Sr,Ca)SiO:Eu2+、BaMgSi:Eu2+、BaZnSi:Eu2+、BaAl:Eu2+、SrAl:Eu2+、BaMgAl1017:Eu2+,Mn2+、BaMgAl1627:Eu2+,Mn2+などを挙げることができ、これらを一つ以上混合して含むことができる。
赤色蛍光体の例としては、例えば、(Ba,Sr,Ca)Si:Eu2+、(Sr,Ca)AlSiN:Eu2+、Y:Eu3+,Bi3+、(Ca,Sr)S:Eu2+、CaLa:Ce3+、(Sr,Ca,Ba):Eu2+,Mn2+、(Ca,Sr)10(PO(F,Cl):Eu2+,Mn2+、(Y,Lu)WO:Eu3+,Mo6+、(Gd,Y,Lu,La):Eu3+,Bi3+、(Gd,Y,Lu,La)S:Eu3+,Bi3+、(Gd,Y,Lu,La)BO:Eu3+,Bi3+、(Gd,Y,Lu,La)(P,V)O:Eu3+,Bi3+、(Ba,Sr,Ca)MgP:Eu2+,Mn2+などを挙げることができ、これらを一つ以上混合して含むことができる。
発光素子が緑色蛍光体だけではなく、赤色蛍光体及び青色蛍光体を含む場合は、青色LEDまたは近紫外LEDが用いられる。この方法によって、発光素子は、本明細書に開示の緑色蛍光体;青色LEDまたは近紫外LED;並びに、必要に応じて、青色蛍光体、式1で表わされる緑色蛍光体以外の緑色蛍光体及び赤色蛍光体の少なくとも1種を含む。
本発明の蛍光体は、上記に挙げた発光素子以外に、バックライト光源、青色光励起のディスプレイ用塗料にも応用することもできる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
≪緑色蛍光体の調製≫
[比較例1]
(混合工程)
原料化合物として、NaScSi:Euの化学組成を満たし、かつ、Eu/(Na+Eu)=2%となるように(すなわち、Na2.94Eu0.06ScSiの化学組成となるように)、炭酸ナトリウム(0.6469g)、酸化スカンジウム(0.2264g)、酸化ケイ素(0.5919g)、酸化ユーロピウム(0.0346g)を調整し(合計1.5gスケール)、大気雰囲気下でアルミナ乳鉢にて十分に混合を行った。
(焼成工程)
上記混合工程で得られた混合物を、アルミナ坩堝に移し、連成計にて−0.1MPa表示以下の減圧下とし、水素5モル%+窒素95モル%の混合ガスにより復圧する操作を3回繰り返し、常圧でのガス流量を1L/min.に制御した。続いて、昇温速度10℃/分で昇温し、炉内温度を1150℃とし、水素5モル%+窒素95モル%の雰囲気下で4時間焼成した。その後、10℃/分の速度で炉内を室温まで冷却し、比較例1の蛍光体(Na2.94Eu0.06ScSi)を得た。
[実施例1]
(混合工程)
原料化合物として、Na(Ca)ScMgSi27:Euの化学組成を満たし、かつ、Eu/(Na+Ca+Eu)=2%となるように(すなわち、NaCa0.82Eu0.18ScMgSi27の化学組成となるように)、炭酸ナトリウム(0.5731g)、炭酸カルシウム(0.1078g)、酸化マグネシウム(0.0439g)、酸化スカンジウム(0.1504g)、酸化ケイ素(0.5899g)、酸化ユーロピウム(0.0345g)を調整し(合計1.5gスケール)、大気雰囲気下でアルミナ乳鉢にて十分に混合を行った。
(焼成工程)
上記混合工程で得られた混合物を、比較例1の焼成工程と同様の条件で焼成し、実施例1の蛍光体(NaCa0.82Eu0.18ScMgSi27)を得た。
≪特性分析≫
(XRD回折)
実施例および比較例で得られた蛍光体について、XRD回折を行った。結晶構造の解析にはXRD(X線回折装置:RINT−2000、株式会社リガク製)を用い、最新の結晶構造データベースであるPDF2−2012を参照し、分析した回折データを同定した。
図1に、実施例1で得られた蛍光体のXRD回折パターンを示す。得られた回折パターンより、実施例1の蛍光体は、不純物が少なく、かつ目的相が得られていることが示されている。一方、比較例1(実施例1と同じ条件で焼成された、組成の異なるもの)についてもXRD回折を行ったが、これらについては不純物相が見られた。
また、比較例1の焼成条件は実施例1と同等であるが、実施例1において不純物の少ない蛍光体を合成することができた理由としてはCaおよびMgの存在により、Eu2+が結晶中に取り込まれる際に、Naの欠損を作りにくいためであると考えられる。
(EDX測定)
実施例1で得られた蛍光体について、任意の粒子(15箇所)のEDX(エネルギー分散型X線分光法)測定を行った。結果を下記の表1に示す。なお、本実施例におけるSEM−EDX測定は、日立SU8020、加速電圧15keVにより行った。なお、このEDXによる組成定量においては、EDXの原理及び測定試料の性質から、数値にはその10%前後の誤差が含まれていると考えられる。
上記EDXの結果より、実施例1では、Mg、Caがほぼ仕込み通りに取り込まれており、ほぼ理論値通りの組成の蛍光体が得られていることが示された。
(励起・発光スペクトル)
常法により、実施例1ならびに比較例1の励起・発光スペクトルと色度座標とを室温(25℃)において測定した。日立ハイテクノロジーズ社製のF7000を用い、得られた蛍光体の励起発光特性を分析した。励起光源としては、紫外線から可視光まで広い発光領域を有するキセノンランプを使用した。発光スペクトル解析には、単色化した450nmの波長を用いた。実施例1および比較例1の励起・発光スペクトルを図2に示す。また、発光特性を下記の表2に示す。なお、下記の表2における「x」、「y」は、CIE色度座標の一つである、x、y表色系(CIE 1931表色系)の値である。すなわち表中の「x」、「y」は、本発明の式1に表される、x、yとは区別される。
表2および図2の結果(実施例1と比較例1との比較)より、MgおよびCaを加えることで、蛍光体の発光特性に変化がみられていることが分かる。
実施例1の蛍光体は、比較例1と比べて半値幅が広い発光スペクトルを有していることが判明した。したがって、演色性に優れた緑色蛍光体が得られると言える。また、色度座標より、実施例1の蛍光体は、浅緑色ではなく、白色LED用途に適した緑色を呈する蛍光体であると言える。さらに、実施例1の蛍光体の発光ピーク波長は523nmであり、比較例1のものと比較して長波長側であることが示された。明所における人間の目の感度を考慮すると、発光ピークがより長波長側の緑色であることのほうが好ましいが、実施例1の蛍光体は、そのような観点からも優れていると言える。
1 発光素子、
2、3 リードワイヤ、
4 光源、
5、8 樹脂、
6 導電性ワイヤ、
7 蛍光体。

Claims (3)

  1. 下記の式1:
    で表わされる、緑色蛍光体。
  2. 波長520nm〜540nmの範囲に発光ピークを有し、該発光ピークの半値幅が70nm〜95nmである、請求項1に記載の緑色蛍光体。
  3. 光源と、
    請求項1または2に記載の緑色蛍光体とを含む、発光素子。
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