JP2016108272A - フラボノイド配糖体エステル、該フラボノイド配糖体エステルを含む抗菌剤、抗酸化剤および抗炎症剤 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】αグルコシルナリンジン、αグルコシルルチンまたはαグルコシルヘスペリジンに対して、αグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基のうちの炭素が有する水酸基のいずれか1つ以上を、エステル化可能な酵素の存在下にカルボン酸またはそのエステルを用いてエステル化することにより得られるフラボノイド配糖体エステル、該フラボノイド配糖体エステルを有効成分とする抗菌剤、抗炎症剤および抗酸化剤。
【選択図】なし
Description
抗菌性を有しつつ、水への溶解性も有する新規フラボノイド配糖体エステルが開発されれば、例えば、毛細血管を強化する作用、紫外線吸収作用の機能を兼ねた抗酸化剤として飲食物に配合したり、紫外線吸収剤として化粧料に配合することができる。他にも、上記作用を利用し医薬品の有効成分として用いることができる。そのため、新規フラボノイド配糖体エステルの技術的意義は高い。
[1] αグルコシルナリンジン、αグルコシルルチンまたはαグルコシルヘスペリジン(これらをまとめてαグルコシルフラボノイド類ともいう。)に対して、αグルコシル基、βグルコシル基及びラムノシル基のうちの炭素が有する水酸基のいずれか1個又は2個以上を、エステル化酵素(エステル交換)(例:リパーゼ、プロテアーゼ)の存在下にカルボン酸またはそのエステルを用いてエステル化することにより、得られるフラボノイド配糖体エステル。
(Ia-1)αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル:
(IIa-1)αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル:
[IIIa-1]αグルコシルルチン脂肪酸エステル:
カルボン酸またはそのエステル(RCOORa、R:飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分枝状のC1〜C22のアルキル基であり、Raは、H、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分岐状のC1~C13のアルキル基、またはRと同様のアルキル基を有していてもよいC2〜C5のアルキレン基、特に好ましくは、無置換でC2のビニル基である。)を用いて、
前記αグルコシルナリンジン(I)、αグルコシルヘスペリジン(II)またはαグルコシルルチン(III)のαグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基のうちの炭素の水酸基(−OH)の1個または2個以上をエステル化(エステル縮合またはエステル交換)して得られることを特徴とする[1]または[2]に記載のフラボノイド配糖体エステル。
(b)エステル化酵素が存在する条件下で、αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、およびαグルコシルルチンのいずれか1種以上と、脂肪酸または該脂肪酸のエステルとをエステル縮合反応またはエステル交換反応させて、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル、αグルコシルルチン脂肪酸エステルまたはこれらの混合物を得る工程。
工程(c):糖鎖切断酵素により、工程(b)により得られたαグルコシルナリンジン脂肪酸エステル、αグルコシルヘスペリジンまたはαグルコシルルチン脂肪酸エステルの糖鎖に含まれるグルコース単位の数を1〜10に調節する。
工程(a):所定の糖転移酵素の存在下で、ナリンジン、ヘスペリジンまたはルチンの少なくとも1種または2種以上と、α−グルコシル糖化合物とを反応させることにより、αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、およびαグルコシルルチンのいずれか1種以上を準備する工程;
工程(c):未反応のナリンジン、ヘスペリジンまたはルチンを除去または低減する精製をする工程。
(なお、本明細書において、「剤」とは医薬、化粧品、食品等、種々の用途に使用される物品の包括的概念であり、例えば、医薬品に使用する場合には薬剤を、化粧品または食品に使用する場合には添加剤を意味する。)
本発明に係るフラボノイド配糖体エステルは、αグルコシルナリンジン(αGNar)、αグルコシルルチン(αGRut)またはαグルコシルヘスペリジン(αGHes)(これらをまとめてフラボノイド配糖体ともいう。)に対して、αグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基のうちの炭素が有する水酸基のいずれか1個又は2個以上を、エステル化酵素(エステエル縮合又はエステル交換酵素) (例:リパーゼ、プロテアーゼ)の存在下にカルボン酸またはそのエステルを用いて、エステル化(エステエル縮合又はエステル交換)することにより得られる下記式[Ia]〜[IIIa]のいずれかのフラボノイド配糖体エステルである。請求項1を 下記式[Ia]〜[IIIa]のいずれかのフラボノイド配糖体エステルは、好適には、フラボノイド配糖体エステルのαグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基の炭素が有する水酸基(−OH基)と、カルボン酸(脂肪酸)又はそのエステル(RCOORa)とを、エステル縮合又はエステル交換可能な上記酵素(例:リパーゼまたはプロテアーゼ)の存在下にエステル縮合又はエステル交換反応させることにより得られる。
αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、αグルコシルルチンは、それぞれnの値の異なる配糖体混合物であり、対応するαグルコシルナリンジン脂肪酸エステル[Ia]、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル[IIa]、αグルコシルルチン脂肪酸エステル[IIIa]にも、それぞれ、nの値の異なるエステルが含まれる。)
(Ia-1)αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル:
(IIa-1)αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル:
(IIIa-1)αグルコシルルチン脂肪酸エステル:
本発明に係るフラボノイド配糖体エステルの製造方法は、所定の溶媒中、所定の脂肪酸または脂肪酸エステルとフラボノイド配糖体との間で、エステル縮合またはエステル交換反応する下記工程(b)を少なくとも含み、任意に、工程(a):フラボノイド配糖体を準備する工程,工程(c):糖鎖の整理等を含む。以下、工程(a)〜(c)をこの順で行う場合を例にして説明する。
工程(a−1):糖転移反応
工程(a−1)は、所定の糖転移酵素の存在下で、ナリンジン、ヘスペリジンまたはルチンの少なくとも1種または2種以上と、α−グルコシル糖化合物とを反応させることにより、αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、およびαグルコシルルチンのいずれか1種以上を準備する工程である。なお、後述するようにフラボノイド配糖体は市販されているので、これを購入してもよいため、工程(a−1)は任意である。
上記工程(a−1)の後に得られる酵素処理溶液は、ナリンジンとαグルコシルナリンジン、ヘスペリジンとαグルコシルヘスペリジン、ルチンとαグルコシルルチン、または、これらの組合せを含む混合液であり、未反応のナリンジン、ヘスペリジンまたはルチンを含有する。
この精製工程としては、工程(a−1)の後に得られる酵素処理溶液をゲル濾過、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂、溶解度の違いにより分離・精製する方法等に供して、本発明に係るフラボノイド配糖体エステル(αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル等)以外の夾雑成分(未反応のナリンジン等)を除く精製を行う例が挙げられる。
前述の工程(b)(特に、後述のフラボノイド配糖体エステル[Ia]〜[IIIa]を合成する反応)の基質として用いるフラボノイド配糖体(αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、αグルコシルルチン等)は、特に制限されず、前述したように、市販のものを購入してもよいし、糖転移反応により独自に製造してもよい。フラボノイド配糖体を購入する場合は、例えば、αグルコシルヘスペリジンとして東洋精糖社製「αGヘスペリジン」、αグルコシルルチンとしては東洋精糖社製「αGルチン」を購入して本発明に用いることができる。
工程(b)は、下記工程(b-2)を必須とするが、生産効率、精製純度等を考慮した場合、以下に説明するように、工程(b-1)〜(b-3)を行ってもよい。
工程(b-1)は、エステル化酵素(エステル縮合又は交換酵素)例えば、リパーゼ(またはプロテアーゼ)、及び必要により配合される溶媒、モレキュラーシーブを後述する所定の濃度で含む溶液を所定温度(例えば30〜80℃)に予備加熱する工程である。
本発明に係るフラボノイド配糖体エステルの製造に使用可能なエステル化酵素(エステル交換酵素)(例:リパーゼまたはプロテアーゼ)は、フラボノイド配糖体のαグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基のうちのいずれか、好ましくは該グルコシル基の3位,6位の少なくとも何れか一方の炭素が有する水酸基(−OH)を後述する所定の脂肪酸でエステル縮合する、あるいは脂肪酸エステルでエステル交換することができる酵素であればよく、該エステル化酵素(例:エステル交換酵素)、例えばリパーゼまたはプロテアーゼは精製酵素でも粗酵素でもよい。
上記エステル化酵素(エステル交換酵素)として、リパーゼ以外にもプロテアーゼを挙げることができる。該プロテアーゼとしては、従来公知のもの、例えば、中性プロテアーゼ、酸性プロテアーゼおよびアルカリ性プロテアーゼ等が挙げられ、好ましくはアルカリ性プロテアーゼが挙げられる。また、該プロテアーゼは精製された酵素であっても塩析物であってもよい。また、その起源等についても特に限定されないが、有機溶媒中での安定性の点から、好ましくはバチルス(Bacillus)属細菌由来および放線菌由来のものが挙げられる。また、これらのプロテアーゼは2種以上併用してもよい。エステル化酵素(エステル縮合又は交換酵素)としてプロテアーゼを用いる場合、上記カルボン酸として、C2〜C22のカルボン酸、好ましくは上述したC2〜C22脂肪酸が用いられる。上記プロテアーゼとしては、例えば、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilus)由来, バチルス・セレウス(B.cereus)由来, バチルス・クラウシー(B.clausii)由来, バチルス・パミラス(B.pumilus)由来, ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)由来, ラクトコッカス・ラクティス(Lactcoccus lactis)由来, エンテロコッカス・フェカリス (Enterococcus faecalis)由来, シュードモナス属(Pseudomonas sp.)由来, シュードモナス・フラオレセンス(Pseudomonas flaorescens)由来のプロテアーゼを挙げることができる。
前記リパーゼ等のエステル化酵素(エステル縮合又は交換酵素)は、遊離の酵素を用いてもよいし、担体に前記酵素(プロテアーゼまたはリパーゼ)を固定して固定化酵素として用いてもよい。後者の場合、反応溶液から担体を回収することにより酵素を同時に容易に回収することができること、さらに酵素を容易に再利用することができる点から好ましい。
本発明で使用可能な溶媒は、本発明に用いられるαグルコシル基およびこれに結合した複数のグルコース残基を有する前述の高親水性のフラボノイド配糖体であっても溶解し、かつ、本発明に用いられる脂肪酸又はそのエステル(RCOORa)であっても溶解しうる溶媒である。上記溶媒は、前記アルキル基(R,Ra)の炭素数が、本発明で用いられる脂肪酸又はそのエステルとしてとり得る範囲で変化して、その疎水性の程度が変化しても溶解しうる溶媒である。
上記フラボノイド配糖体エステル[Ia]〜[IIIa]を合成する反応では、任意にモレキュラーシーブ等の乾燥剤あるいは吸着剤を混合して、水(脂肪酸を用いたフラボノイド配糖体のエステル化に伴い副生する水)やアルコールをモレキュラーシーブで吸着することができる。モレキュラーシーブの存在下で反応させると、エステル化(エステル交換)反応が効率良く進行し、また純度良く糖脂肪酸モノエステルが合成できるからである。
工程(b-2)は、エステル化酵素(エステル交換酵素)が存在する条件下で、αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン及び/又はαグルコシルルチン(これらをまとめてフラボノイド配糖体ともいう。)に、カルボン酸またはそのエステル(特に脂肪酸または該脂肪酸のエステル、例:脂肪酸ビニルエステル)を、所定の反応条件(反応温度、反応時間、反応pH)下で、エステル縮合反応またはエステル交換反応させて、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル及び/又はαグルコシルルチン脂肪酸エステル(これらをまとめてフラボノイド配糖体エステルともいう。)を得る工程である。
上記エステル化反応(エステル交換反応)は低温でも進行するが、該エステル化反応(エステル交換反応)の反応温度は、使用するリパーゼの至適温度を考慮して決めることが望ましく、通常10℃〜90℃、好ましくは40℃〜80℃である。
上記エステル化反応の反応時間は、上記フラボノイド配糖体エステルが得られれば特に制限はなく設定することができるが、使用するリパーゼの種類等を考慮して決定することが望ましく、例えば2〜80時間、好ましくは20〜80時間である。
上記エステル化反応の反応pHは、上記フラボノイド配糖体エステルが得られれば特に制限はなく設定することができるが、使用するリパーゼの種類等を考慮して決定することが望ましく、例えば、pH5.5〜9に設定する例、より好ましくは中性領域のpH6.5〜7.5とする例を挙げることができる。
(但し、実質上無水系で反応を行う場合は、上記pHは考慮する必要がない。)
前述の工程(b)(特にフラボノイド配糖体エステル[Ia]〜[IIIa]を合成する反応)で好適に用いられるカルボン酸またはそのエステルは、化学式(A):RCOORaとして表され、好ましくは脂肪酸またはそのエステルである。ここで、Rは、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分枝状のC1〜C22のアルキル基であり、Raは、水素か、Rと同様のアルキル基、またはRと同様のアルキル基を有していてもよいC2〜C5のアルキレン基、特に好ましくは、無置換でC2のビニル基(-CH=CH2)である。Raのアルキル基は他の元素又は基で置換されていてもよく、他の元素又は置換基としては塩素、臭素等のハロゲンが挙げられる。また、上記アルキル基は、シクロヘキシル等の脂環式基のものも用いることが出来る。
エステル化反応(エステル交換反応)に用いるフラボノイド配糖体(αGNar、αGHes、αGRut等)と脂肪酸(または脂肪酸エステル)とのモル比は、エステル化反応(あるいはエステル交換反応)が進行するモル比であれば特に制限ないが、フラボノイド配糖体のαグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基中の水酸基の1個又は2個以上をエステル化することを考慮すると、フラボノイド配糖体:カルボン酸又はカルボン酸エステル(脂肪酸または脂肪酸エステル)のモル比が、1:1〜100、好ましくは1:5〜50、より好ましくは、1:8〜15である。
上記工程(b)で、反応液の撹拌や温度維持に用いる反応機器としては、小規模で製造する場合、例えば恒温回転振盪機(例えば「BR-21FH・MR」(タイテック社)を例示することができる。大規模で製造する場合、例えば「二段振とう式BR-3000LF」(タイテック社)を例示することができる。
工程(b-3)は、工程(b-2)で得られた溶液から溶媒や残さ(反応副生物等)を蒸留、遠心分離等の操作で分離除去し、所望のフラボノイド配糖体エステルを分取する工程である。反応副生物等を分離除去する方法として、ゲル濾過またはクロマトフラフィー、イオン交換樹脂、溶解度の違いにより分離・精製する方法等の公知の手段により目的のフラボノイド配糖体エステルを分子量等に基づいて分画する方法を用いてもよい。
さらに、上記工程(b)を経たフラボノイド配糖体エステルに含まれる糖鎖部分の糖の数(主としてグルコースの数)が剤の効能、効果、配合量の多寡等の点から所望の範囲より大きい場合にはそれが所望の範囲となるように切断工程(c)を行ってもよい。すなわち、フラボノイド配糖体エステルの糖鎖に含まれるグルコース単位の数を調節する工程を行ってもよい。
上記リパーゼまたはプロテアーゼを利用したαグルコシルナリンジンと、脂肪酸又はそのエステル、例えば、脂肪酸ビニルエステルとの反応(エステル交換反応)の好ましい例を以下に示す。
[αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル[IIa]の合成]
[αグルコシルルチン脂肪酸エステル[IIIa]の合成]
〔抗酸化剤(抗ラジカル剤)〕
本発明に係る抗酸化剤(抗ラジカル剤)は、前述のαグルコシルルチン脂肪酸エステルおよびαグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルのいずれか1種または2種以上を有効成分として含むことを特徴とする。
一般的に抗酸化剤として知られているルチンと同様、αグルコシルルチン脂肪酸エステルを成人(60kg)のヒトに30〜50mg(30μモル〜60μ)/1日で使用することが好ましいが、体重1kg当たりに25mg〜50mg(25μモル〜50μモル)程度投与することで生活習慣病の予防が期待できる。一方、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルの場合は、αグルコシルルチン脂肪酸エステルの2倍程度の濃度で用いることが好ましい。
上記αグルコシルルチン脂肪酸エステルは、安全性が確認され諸手続きを経て、食品安全委員会の承認が得られれば食品添加物(剤)として用いることができる。この場合、食品添加物中のαグルコシルルチン脂肪酸エステルの含有量は、抗酸化作用が発揮できる範囲である限り制限されないが、例えば、食品の容量に対して35〜45mg/L含有させることで、食品に対する抗酸化効果を好適に得ることができる。一方、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルの場合も同様の確認と承認が得られれば、αグルコシルルチン脂肪酸エステルの2倍程度の濃度で用いることで、食品に対する抗酸化効果を好適に得ることができる。
上記抗酸化剤(抗ラジカル剤)は、塗布剤、軟膏剤、ローション剤などの外用剤、エアゾール剤などの吸入剤、注射剤、坐剤等の有効成分として用いることができる。この場合、化粧料等に含まれる上記抗酸化剤の含有量は、抗酸化能を発揮できる範囲である限り制限されないが、例えば、化粧料中に35〜45mg/L含有させることで、抗酸化効果を好適に得ることができる。
DPPHラジカルという人工的に作られたラジカルに対する消去能を分光光度計で測定することで対象物の抗酸化能を計測することができる。DPPHラジカルは溶媒に溶かすと紫色(520nm)を呈しているが、該溶液に抗酸化物質を含む液を加えると、DPPHラジカルが消去され色が薄くなり、この色の吸光度の変化の程度を測定し、変化の程度が大きい程、抗酸化能を有する物質といえる。上記αグルコシルルチン脂肪酸エステルを含む食品等のラジカル消去能に応じて、DPPHのラジカルが消去されて520nmの吸光度の値が減少する。これにより、該食品等が抗酸化能を発揮する状態であるか否かを評価することができる。
本発明に係る抗菌剤は、上述したαグルコシルナリンジン脂肪酸エステルおよびαグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルのいずれか1種以上を有効成分として含有するものである。
本発明に係る上記フラボノイド配糖体エステル、栄養補助剤、食品添加物、化粧料等の抗菌性の確認は、上述したMIC試験の他、フィルム密着法(JIS Z2801)、菌液吸収法(JIS L1902)、ハロー法(JIS L1902)等でも評価することができる。
本発明に係る抗炎症剤は、上述したαグルコシルナリンジン脂肪酸エステル、αグルコシルルチン脂肪酸エステルおよびαグルコシルへスペリジン脂肪酸エステルのいずれか1種または2種以上を含有するものである。
上記αグルコシルへスペリジン脂肪酸エステルは、αグルコシルへスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(TLIM)、αGHes-C12(TLIM))が好ましい。
抗炎症剤、栄養補助剤、食品添加物および化粧料等の抗炎症性能を確認する方法は、例えば以下に説明するように、炎症に関連する細胞(マクロファージ等)に炎症を誘導する物質(LPS等)を作用させて一酸化窒素(NO・)を産生させる試験系において、抗炎症剤を用いた場合に、抗炎症剤を用いない場合と比較して、どの程度炎症を抑えることができるかを調べることにより確認することができる。
Griess法は、一酸化窒素(NO・)が酸化されて生じるNO2-によるジアゾニウム塩化合物とナフチルエチレンジアミンのアゾカップリングを利用して検出する方法である。一酸化窒素(NO・)を直接定量するものではないが、発生した一酸化窒素(NO・)を簡便に測定できるため広く使用されている。産生した一酸化窒素(NO・)は、水溶液中で、ある程度安定した亜硝酸(NO2-)に変換されるため、水溶液中のNO2-濃度を一酸化窒素(NO・)の産生量とみなして測定することで、一酸化窒素(NO・)の産生量を定量することができ、炎症治療効果の程度を調べることができる。
後述する実施例および参考例におけるフラボノイド配糖体エステルの製造で共通する操作について、以下に説明する。
以下のものを用意した。
ナリンジン(Nar)(分子量580.53g/mol)、αグルコシルナリンジン(αGNar)、ルチン(Rut)(分子量610.5g/mol)、αグルコシルルチン(αGRut)、ヘスペリジン(Hes)(分子量610.5g/mol)、またはαグルコシルヘスペリジン(αGHes)(いずれも東洋精糖社製)
以下のものを用意した。
パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルの他、酢酸(C2)、プロピオン酸(C3)、酪酸(C4)、カプロン酸(C6)、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、及びステアリン酸(C18)のビニル
各種リパーゼは目的の生産物によって異なるリパーゼを使用しているため、後述するが、実施例、参考例および試験例で使用した各種リパーゼはノボザイムジャパン社から購入したものを用いた。
1. 下記表1に示す反応液を調製し、目的の生産物に応じて、該反応液に所定のリパーゼを固定 したモレキュラーシーブ500mgを投入して50℃に予備加熱した。その後、該反応液を50 ℃、180rpmの回転振盪方式の反応用機器(製品名「BR-21FH・MR」(タイテック社)、ま たは「二段振とう式BR-3000LF」(タイテック社))でエステル化反応(エステル縮合またはエ ステル交換反応)を行った。上記エステル化反応(またはエステル交換反応)の際には、経時的 に反応液(200μL)を分取し、減圧下40℃でアセトンを除去した後、残渣をメタノール( 1mL)に溶解し、遠心分離しその上澄をHPLCで分析し、反応生成物量の増加の程度を調べ た。反応生成物量の増加が認められなくなった時点で、ろ紙による濾過により固定化酵素及びモ レキュラーシーブスを除去することによって酵素反応を終了した。
上記エステル化反応の終了後、さらに遠心分離機による遠心分離操作(25℃、15000rpm)により、反応液中の酵素(リパーゼ)をモレキュラーシーブとともに沈殿させた。次いで、遠心分離処理された反応液の上清に含まれるアセトンを、エバポレーター(40℃)を用いて蒸発させて除去した後、残渣をヘキサン(10mL)で3回洗うことにより脂肪酸ビニルを除去した。最後に残渣を風乾した。
遠心分離(25℃、15000rpm)により、上清を取り除き沈殿を回収した。以上の操作を繰り返すことで、各フラボノイド配糖体エステルを単離した。
上記表1の反応系を用いて、表1のフラボノイド配糖体として、特開平4−13691号公報に開示されている方法αグルコシルナリンジン(αGNar)、脂肪酸ビニルとしてラウリン酸ビニルを使用して、エステル化反応(エステル交換反応)を行った。また、表1のリパーゼとして、上述した3種のリパーゼ(NOVO,RMIM,TLIM)をそれぞれ使用した。24時間反応後の反応産物のHPLC分析結果を図4に示す。なお、αグルコシルナリンジンは特開平4−13691号公報に開示されている方法により調製した。
5. 表1のリパーゼとして、リパーゼ(NOVO,RMIM,TLIM)、フラボノイド配糖体としてルチン(Rut)、脂肪酸ビニルとしてラウリン酸ビニルを用いて、上記表1の反応液を調製し、これを 24時間振盪してエステル化反応を行ったところ、使用したリパーゼの種類により様々な誘導体 と推測される物質が得られた(図5)。なお、リパーゼ(NOVO)を用いた際には、ルチン(Rut)のラムノース残基4位に脂肪酸が結合することが報告されている(Jana Viskupicovaら、Lipo philic rutin derivatives for antioxidant protection of oil-based foods. Food Chemistry 123 (2010) 45-50)。また、他の酵素を用いた場合はどこに結合するかは未確認である。
6. 上述したように、リパーゼ(NOVO)を用いて合成反応を行った反応液から、ルチンラウリン 酸エステル(Rut-C12 (NOVO))を単離・精製した。また、リパーゼ(RMIM)を用いて合成反応を 行った反応液から、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12 (RMIM))を単離・精製した。
表1のリパーゼとして、各リパーゼ(NOVO,RMIM,TLIM)を用い、フラボノイド配糖体としてαグルコシルルチン(αGRut)を用い、脂肪酸ビニルとしてラウリン酸ビニルを用いて、表1の反応液を調製し、これを24時間振盪してエステル化反応を行った結果、使用したリパーゼの種類により様々なフラボノイド配糖体エステルが得られた(図6)。すなわち、反応率の高いリパーゼ「TLIM」を用いて、αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM))およびαグルコシルルチンジラウリン酸エステル(αGRut-diC12(TLIM))を合成し、合成物の単離・精製を行った。
9. 表1のリパーゼとして、各リパーゼ(NOVO,RMIM)を用い、フラボノイド配糖体としてヘスペリジン(Hes)、脂肪酸ビニルとしてラウリン酸ビニルを用いて、上記表1の反応液を調製し、これを24時間振盪してエステル化反応を行い、使用したリパーゼの種類により様々な誘導体が得られた(図7)。すなわち、リパーゼ(NOVO)を用いて、上記同様にヘスペリジンラウリン 酸エステル(Hes-C12 (NOVO))を合成し、合成物の単離・精製を行った。さらに、リパーゼ(RM IM)を用いて、上記同様にヘスペリジンラウリン酸エステル(Hes-C12 (RMIM))を合成し、合成物の単離・精製を行った。
表1の固定化リパーゼとして、各リパーゼ(NOVO,RMIM、TLIM)を用い、フラボノイド配糖体としてαグルコシルヘスペリジン(αGHes)を用い、脂肪酸ビニルとしてラウリン酸ビニルを用いて、表1の反応液を調製し、これを24時間振盪してエステル化反応を行い、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(NOVO),αGHes-C12(TLIM),αGHes-diC12(TLIM))を合成した(図8)。その後、これらの合成物の単離・精製をそれぞれ行った。
ナリンジン(Nar)、ラウリン酸ビニル、リパーゼ(NOVO,RMIM、TLIM)を用いて、上記と同様にエステル化反応(エステル交換反応)を120時間行った。120時間反応後の反応産物のHPLC分析結果を図1〜図3に示す。
《抗菌性試験》
実施例1〜3および参考例1〜3で製造した各フラボノイド配糖体エステル及びその他のフラボノイド配糖体(下記表3参照)を下記所定濃度で含有するLB培地180μLを調製し、枯草菌(B.Subtilis)の菌液18μL(生菌数濃度1.0×108個/mL)と混合して96ウェルプレートの各ウェルに格納し、該96ウェルプレートを37C、200rpm、の条件下で20時間振盪して培養した。
(αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルについて)
上記表3から、αグルコシルナリンジン(αGNar)自体は抗菌性が低いまたは有しないが、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(RMIM))及びαグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12(NOVO)、αGHes-C12(TLIM))は、エチルパラベンやソルビン酸をはるかに上回る抗菌性を有し、プルニンラウリン酸エステル(プルニン-C12)と同等に高い抗菌性を有することが分かる。また、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルのエステル結合を形成している酸基由来の部位の炭素数が12〜8程度の場合に、抗菌性が特に高いことが分かる。
ルチンのMIC値は「N.D.」であり抗菌性が低く、リパーゼ(RMIM)でエステル化した場合のみ抗菌性が高まると考えられる。したがって、αグルコシル化ルチンについても、エステル化するリパーゼを選択することにより、ある程度の抗菌性が得られる可能性がある。
αグルコシルヘスペリジン(αGHes)自体の抗菌性は低いが、αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(GHes-C12(TLIM)、αGHes-C12(NOVO))では抗菌性が高く、エチルパラベンやソルビン酸をはるかに上回る抗菌性を有し、プルニンラウリン酸エステル(プルニン-C12)と同等に高い抗菌性が得られた。この2つの化合物(GHes-C12(TLIM)、αGHes-C12(NOVO))の抗菌性の対比から分かるように、リパーゼが異なること(すなわち化合物中でエステル化される位置が異なること)でフラボノイド配糖体エステルの抗菌性に差異を生じることが理解できる。
《抗酸化性試験》
実施例1〜3および参考例1〜3で製造した各フラボノイド配糖体エステルおよびその他の抗酸化作用を持つ公知の物質について、以下のとおり抗酸化試験を行った。各化合物の抗酸化性能、すなわちラジカル消去活性の測定をDPPH(1,1-diphenyl-2-picryl-hydrazyl)を用いる方法で行った。なお、DPPHラジカルは人工ラジカルであり、溶媒に溶かすと紫色を呈するが、その不対電子が捕捉されると褪色する。そこで検定試料を含む反応液の520nmにおける波長の減少量を測定することにより、試料のDPPHラジカル捕捉能(抗酸化性能)を求めることができる。
96ウェルマイクロプレート中で、上記各化合物(1.8mMメタノール溶液)125μL、DPPH(675μMメタノール溶液)100μLを混合し、化合物の終濃度が1mM、DPPHの終濃度が300μMの混合液をウェル中で調製した。その後、この96ウェルプレートをアルミホイルで覆い、室温(25℃)で10分静置した後、各ウェルの混合液について520nm吸光度を測定した。なお、コントロールとして、上記化合物125μLの代わりにメタノール125μLを用いて同様に抗酸化試験を行った。
で示す式(I)によりコントロールに対する相対値として算出した。
ここで、Asは各化合物のウェルの520nmの吸光度、Acはコントロールのウェルの520nmの吸光度を示す。
表4より、αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM)、αGRut-diC12(TLIM))がルチンと同様に高い抗酸化活性を示した。この結果から、αグルコシルルチンラウリン酸エステルは、抗酸化剤の有効成分として用いることができることを十分に推認することができる。
《抗炎症性試験》
後述するMTT法により、細胞毒性が無いことを確認した上で、以下の通りに抗炎症試験を行った。
以下の培地等を用意した。
(D−MEM培地)
D−MEM(ダルベッコ改変イーグル培地;Dulbecco's Modified Eagle's Medium)(高グルコース L−グルタミン、フェノールレッド含有)(Wako)500mLに、FetalBovineSerum(Biowest)50mLとPenicillin−Streptomycin solution(Sigma−Aldrich社製)5mLを加えた。
NaCl(8g)、Na2HPO4・12H2O(2.9g)、KCl(0.2g)、KH2PO4(0.2g)を超純水1000mLに溶解し、オートクレーブ(121℃、20分)により滅菌した。
PBS(−)100mLにトリプシン(Sigma)0.5gと、EDTA−2Na(関東化学社製)0.2gを加え、10×トリプシン/EDTAとし、フィルター滅菌し、10mLずつ分注し、冷凍保存した。これを滅菌PBS(−)で10倍に希釈し、冷凍保存した。
上述した継代培養は、凍結したマウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7(European Collection of Cell Cultures)を解凍し、D−MEM培地5mLに希釈し、遠心分離(1000rpm、20℃、5分)後、上清を除去した。さらに、該細胞のペレットにD−MEM培地5mLを加えて懸濁後、φ5cmのdish(培養皿)に5mL播種し、これをインキュベーター(ガス雰囲気を調節可能な恒温槽)内で所定の培養条件(37℃,5%CO2)で培養した。
マウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7に対して、上述したMTT法によりフラボノイド配糖体エステルの細胞毒性を評価した。
下記MTT(DOJINDO社製)を5mg/mL(0.5%)になるようにPBS(リン酸緩衝整理食塩水)に溶かし、遮光して−20℃で保存した。MTTは、チアゾリルブルーテトラゾリウムブロミド、別名3−(4,5−di−methylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide, yellow tetrazoleである。
2NHClを10%SDS溶液で200倍希釈して室温で保存した。
(MTT法)
上述したように継代培養したマウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7をD−MEM培地により1.0×106cells/mLに希釈後、96ウェルマイクロプレートにそれぞれ100μLを播種し、インキュベーターにて、所定の培養条件(37℃,5%CO2)で24時間培養した。その後、各濃度の上記フラボノイド配糖体エステル等の各サンプルを50μLそれぞれ添加した。20時間静置(インキュベート)後、培養上清50μLを除去した。各ウェルに0.5%MTT液10μLを添加し、2時間静置した。MTT反応停止液を110μL加えて12時間静置後、培養上清100μLを新しい96ウェルマイクロプレートに分取しマイクロプレートリーダーで540nmの吸光度を測定した。未処理のマウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7のサンプルの値を生存率100%として各サンプルの細胞生存率を算出した。
(結果)
継代培養したマウスマクロファージ様培養細胞RAW264.7をD−MEM培地により1.0×106cells/mLに希釈後、96ウェルマイクロプレートにそれぞれ100μL播種し、37℃で5%CO2インキュベーターにて24時間培養した。その後、終濃度50μMまたは25μMとなるように各フラボノイド配糖体またはフラボノイド配糖体エステルを25μLそれぞれ各ウェルの培養液に添加した。30分間静置した後、リポ多糖(LPS)を終濃度0.1μg/mLとなるように各ウェルの培養液にそれぞれ添加した。なお、ネガティブコントロールについては、D−MEM培地のみをウェルの培養液に添加した。また、ポジティブコントロールについては、D−MEM培地およびLPSのみをウェルの培養液に添加した。
・Griess試薬A(1%スルファニルアミド、4.25%リン酸)
1gのスルファニルアミド(東京化成社製)にリン酸(Wako社製)5mLを加え、超純水で100mLとし、遮光瓶で保存した。
・(Griess試薬B(0.1% ナフチルエチレンジアミン)
0.1gのナフチルエチレンジアミン(Wako社製)に超純水を加え、100mLとし、遮光瓶に保存した。
Griess法は、一酸化窒素(NO・)が酸化されて生じるNO2-によるジアゾニウム塩化合物とナフチルエチレンジアミンのアゾカップリングを利用して(一酸化窒素(NO・)の産生量)を検出する方法である。一酸化窒素(NO・)を直接定量するものではないが、発生した一酸化窒素(NO・)量を簡便に測定できるため広く使用されている。産生した一酸化窒素(NO・)は水溶液中である程度の量で、安定した亜硝酸(NO2-)に変換される。そのため、培養上清中のNO2-濃度を一酸化窒素(NO・)の産生量とした。
(αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル)
上記表5から、マウスの細胞に対して、αグルコシルナリンジン(αGNar)については若干細胞毒性が確認されたが(細胞生存率77.6%)、本発明に係るαナリンジンラウリン酸エステル(αGNAR-C12)の細胞毒性は問題となるレベルではなかった(細胞生存率は103.0%)。αGNAR-C12(≦100μM)はマウス細胞に対しては細胞毒性を示さないことから、ヒトの細胞に対しても細胞毒性がないことを十分に推認することができる。
なお、図9ではコントロール(LPS(+))を100とした場合の相対値として示されている。
表6に示すように、αグルコシルヘスペリジン(αGHES)については、100μM以下の範囲では、ほぼ毒性がないことが確認された。
(αグルコシルルチン脂肪酸エステル)
αグルコシルルチンおよびそのラウリン酸エステル(αGRut-C12(TLIM))の濃度100μMにおける細胞生存率が高い結果となった(いずれも細胞生存率は100%以上)。
《水に対する溶解性試験》
フラボノイド配糖体エステルを水系溶媒の抗菌剤等の有効成分として用いる場合、水溶性が高い程、有効成分を溶解させることができるため有利である。このため、上記実施例、参考例で製造した各種フラボノイド配糖体(ナリンジン(Nar)、ナリンジンラウリン酸エステル(Nar-C12(RMIM))αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(RMIM))、ルチン(Rut)、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12)、αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12)、ヘスペリジン(Hes)、ヘスペリジンラウリン酸エステル(Hes-C12)およびαグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12)の水溶性を測定した。下記表8に、各フラボノイド配糖体エステル等の水に対する溶解性試験の結果を示す。
αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12(RMIM))の水に対する溶解性は、ナリンジンラウリン酸エステル(Nar-C12(RMIM))の約300倍、ナリンジン(Nar)の5.6倍、ルチン(Rut)の約20倍、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12)の6500倍であった。
αグルコシルヘスペリジンラウリン酸エステル(αGHes-C12)の水に対する溶解性は、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12)よりも低くルチン(Rut)と同程度であったが、ヘスペリジン(Hes)の約3.5倍、ナリンジンラウリン酸エステル(Nar-C12)の約15倍、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12)の330倍であった。
αグルコシルルチンラウリン酸エステル(αGRut-C12)の水に対する溶解性は、ルチン(Rut)より低かったが、ルチンラウリン酸エステル(Rut-C12)の約6.6倍であった。
表8に示したように、ナリンジンC12の脂肪酸エステル(Nar-C12)は、前述の表3および図9〜図11に示したように、優れた抗菌性能、抗炎症性能またはその双方を有しているが、表8に示すように、水に対する溶解性が低いため、水系溶媒の抗菌剤や抗炎症剤を製造する場合に有効成分として含有させる量に限度があり不利である。一方、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12)は、ナリンジンC12の脂肪酸エステル(Nar-C12)と同様に優れた抗菌性能と抗炎症性能の双方を有するとともに、水に対する溶解度がNar-C12と比較して約300倍高く、水溶性の薬剤を調製する場合に非常に有利となる。また、αグルコシルナリンジンラウリン酸エステル(αGNar-C12)は、ラウロイル基を有していることから、油系の溶媒にも溶解度を示すことが明らかであり、水系、油系の双方の溶媒に溶解させて抗菌剤、抗炎症剤として用いることができる点でも非常に有利である。
下記式(IIa')に示すナリンジン(Nar)の水酸基のX,Yを、異なる鎖長のカルボン酸を用いて、上記と同様にエステル化し、MIC値を測定した。
参考例4の結果(上記表10)に示されているように、ナリンギン(ナリンジン)が有するグルコースの水酸基を脂肪酸で多様にエステル化した場合、エステル化される位置やエステル化に用いられる脂肪酸の炭素数により、MIC値が1〜9倍程度の幅で上下した。
Claims (11)
- αグルコシルナリンジン、αグルコシルルチンまたはαグルコシルヘスペリジンに対して、αグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基のうちの炭素が有する水酸基のいずれか1つ以上を、エステル化可能な酵素の存在下にカルボン酸またはそのエステルを用いてエステル化することにより、得られる下記式[Ia]〜[IIIa]のいずれかで示されるフラボノイド配糖体エステル。
(I)αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル
- 前記エステル化酵素により前記フラボノイド配糖体の水酸基に付されたアシル基が、それぞれ、カプロイル基、エナントイル基、カプリル基、カプリロイル基、ペラルゴル基、ラウロイル基またはミリストイル基のいずれかである、請求項1に記載のフラボノイド配糖体エステル。
- 下記式[I]で示されるαグルコシルナリンジン、式[II]で示されるαグルコシルヘスペリジン、または下記式[III]で示されるαグルコシルルチンに対して、リパーゼまたはプロテアーゼ存在下に、
カルボン酸またはそのエステル(RCOORa、R:飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分岐状のC1〜C22のアルキル基であり、Raは、H、飽和又は不飽和結合を有していてもよい直鎖又は分岐状のC1~C13のアルキル基、またはこれと同様のアルキル基を有していてもよいC2〜C5のアルキレン基)を用いて、
前記αグルコシルナリンジン[I]、αグルコシルヘスペリジン[II]またはαグルコシルルチン[III]のαグルコシル基、βグルコシル基及びαラムノシル基のうちの炭素の水酸基(−OH)をエステル化して得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフラボノイド配糖体エステル。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラボノイド配糖体エステルを製造する方法であって、下記工程(b)を含むことを特徴とするフラボノイド配糖体エステルの製造方法。
工程(b):エステル化酵素が存在する条件下で、αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、およびαグルコシルルチンのいずれか1種以上と、脂肪酸または該脂肪酸のエステルとをエステル縮合反応またはエステル交換反応させて、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル、αグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステル、αグルコシルルチン脂肪酸エステルまたはこれらの混合物を得る工程。 - 以下の工程(c)をさらに含む、請求項4に記載のフラボノイド配糖体エステルの製造方法。
工程(c):糖鎖切断酵素により、工程(b)により得られたαグルコシルナリンジン脂肪酸エステル、αグルコシルヘスペリジンまたはαグルコシルルチン脂肪酸エステルの糖鎖に含まれるグルコース単位の数を1〜10に調節する。 - 下記工程(a)を工程(b)の前に含み、下記工程(c)を工程(a)と(b)の間に含む、請求項4または5に記載のフラボノイド配糖体エステルの製造方法。
工程(a):所定の糖転移酵素の存在下で、ナリンジン、ヘスペリジンまたはルチンの少なくとも1種または2種以上と、α−グルコシル糖化合物とを反応させることにより、αグルコシルナリンジン、αグルコシルヘスペリジン、およびαグルコシルルチンのいずれか1種以上を準備する工程;を工程(b)の前にさらに含み、
工程(c):未反応のナリンジン、ヘスペリジンまたはルチンを除去または低減する精製をする - 糖転移酵素がシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、α1,2−グルコース転移酵素、α1,3−グルコース転移酵素およびαグルコシダーゼからなる群から選択されたいずれか1種以上であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載のフラボノイド配糖体エステルの製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラボノイド配糖体エステルのうち、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステルおよびαグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルのいずれか一種または2種を有効成分として含有することを特徴とする抗菌剤。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラボノイド配糖体エステルのうち、αグルコシルナリンジン脂肪酸エステル、αグルコシルルチン脂肪酸エステルおよびαグルコシルへスペリジン脂肪酸エステルのいずれか1種または2種以上を有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラボノイド配糖体エステルのうち、αグルコシルルチン脂肪酸エステルおよびαグルコシルヘスペリジン脂肪酸エステルのいずれか1種または2種以上を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤または抗ラジカル剤。
- 請求項8〜10のいずれか一項の剤を含有する化粧料または食品。
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