JP2016102231A - ステンレス箔 - Google Patents
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そのため、このような高温環境下において、板厚が30μm以下でも優れた耐酸化性と形状安定性を有するステンレス箔の開発が望まれている。
例えば、特許文献1には、「ステンレス鋼フォイルの少なくとも片面に触媒を担持するためのアルミナ被覆が設けられている基体であって、該ステンレス鋼表面に蒸着めっき又は電気めっきによりAlめっきを施し、該蒸着めっきと同時またはめっき後の加熱処理によりAlめっき層にα−Al2O3ウイスカーを生成させた後に、該ウイスカー上にγ−Al2O3を被覆して上記アルミナ被覆を形成したことを特徴とする触媒担体用基体」が開示されている。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えた末に完成されたものである。
1.質量%で、C:0.025%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.050%以下、S:0.01%以下、Cr:15.0〜30.0%、Al:2.5〜6.5%、Ni:0.05〜0.50%、N:0.025%以下およびREM:0.01〜0.15%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
両面にそれぞれ30nm〜150nm厚のAlコーティング層を有することを特徴とするステンレス箔。
また、本発明のステンレス箔は、自動車、オートバイ、マリンバイク、スノーモービル、船舶などの排ガス浄化装置用触媒担体のみならず、その他の燃焼ガス排気系部材に用いても好適である。
まず、本発明のステンレス箔が、1000℃以上の高温環境下でも優れた耐酸化性と形状安定性を有する理由について説明する。
本発明のステンレス箔は、従来開示されているような表面のAlコーティング層自体が、Al2O3皮膜を生成するためのAl供給源となって、耐酸化性を高める機構とは大きく異なるものである。
すなわち、Alを含めてステンレス箔の成分組成を最適化するとともに、ステンレス箔の表面に極薄く蒸着されたAlコーティング層を設けることで、ステンレス箔中に含有されるAlが酸化して生成されるAl2O3酸化皮膜を改質するものである。
より具体的には、後述する成分組成に調整したステンレス箔の両面に、厚さ30nm〜150nmのAlコーティング層を蒸着することで、300℃以上で酸化された際に生成するAl2O3酸化皮膜の構造に影響を与え、Al2O3酸化皮膜中の酸素の拡散速度が低減する。その結果、Al2O3酸化皮膜の成長速度を大幅に低減して鋼中Alが枯渇するまでの寿命を格段に延長させ、これにより、高温での耐酸化性が大幅に向上するのである。また、Al2O3酸化皮膜中の酸素の拡散速度が低減される結果、鋼中Alが枯渇後に生じる形状変化も抑制できるのである。
C:0.025%以下
C含有量が0.025%を超えると、ステンレス箔の素材となる熱延鋼板や冷延鋼板の靭性が低下して、ステンレス箔の製造が困難になる。このため、C含有量は0.025%以下、好ましくは0.015%以下とする。さらに好ましくは0.010%以下である。
Si含有量が1.0%を超えると、ステンレス箔の素材となる熱延鋼板や冷延鋼板の靭性が低下して、ステンレス箔の製造が困難になる。このため、Si含有量は1.0%以下、好ましくは0.50%以下とする。さらに好ましくは0.20%以下である。ただし、Si含有量を0.01%未満にしようとすると精錬が困難になるので、0.01%以上とすることが好ましい。
Mn含有量が1.0%を超えると、鋼の耐酸化性が失われる。このため、Mn含有量は1.0%以下、好ましくは0.5%以下とする。さらに好ましくは0.15%以下である。ただし、Mn含有量を0.01%未満にすると精錬が困難になるので、0.01%以上とすることが好ましい。
P含有量が0.050%を超えると、鋼の靭性および延性が低下してステンレス箔の製造が困難になる。このため、P含有量は0.050%以下、好ましくは0.030%以下とする。なお、Pは極力低減することがより好ましい。
S含有量が0.01%を超えると、熱間加工性が低下してステンレス箔の素材となる熱延鋼板の製造が困難になる。このため、S含有量は0.01%以下、好ましくは0.005%以下とする。より好ましくは0.002%以下である。
Crは、高温での耐酸化性と形状安定性を確保する上で必要不可欠な元素である。Cr含有量が15.0%未満では、高温での十分な耐酸化性と形状安定性、特に形状安定性を確保できない。一方、Cr含有量が30.0%を超えると、ステンレス箔製造における中間素材のスラブや熱延鋼板の靭性が低下して、その製造が困難になる。このため、Cr含有量は15.0〜30.0%、好ましくは16.0〜26.0%、さらに好ましくは17.0〜22.0%とする。
Alは、高温での酸化時にAl2O3を主成分とする酸化皮膜を生成させて耐酸化性と形状安定性を大きく向上させる元素である。Al含有量が2.5%以上でその効果が得られる。一方、Al含有量が6.5%を超えると、冷間加工性が低下してステンレス箔の素材となる冷延鋼板の製造が困難になる。このため、Al含有量は2.5〜6.5%、好ましくは3.0〜6.0%とする。
Niは触媒担体成形時のロウ付け性を向上する効果があるため、その含有量は0.05%以上とする。しかし、Niは、オーステナイト組織安定化元素であるため、その含有量が0.50%を超える場合、高温での酸化進行時にAlが枯渇してCrが酸化され始めると、オーステナイト組織を生成させて箔の熱膨張係数を変化させ、これにより、箔の括れや破断などの不具合が発生することになる。このため、Ni含有量は0.05〜0.50%、好ましくは0.10〜0.20%とする。
N含有量が0.025%を超えると、鋼の靱性が低下してステンレス箔の製造が困難になる。このため、N含有量は0.025%以下、好ましくは0.010%以下とする。
REMとは、Sc、Yおよびランタノイド系元素(La、Ce、Pr、Nd、Smなど原子番号57〜71までの元素)をいう。REMは、Al2O3酸化皮膜の密着性を改善するとともに、酸化速度を低減する効果がある。このような効果を得るには、REM含有量を合計で0.01%以上とする必要がある。一方、REM含有量が0.15%を超えると、熱間加工性が低下して熱延鋼板の製造が困難になる。よって、REM含有量は0.01〜0.15%、好ましくは0.03〜0.10%とする。なお、REMの添加には、コスト低減のため、これらが分離精製されていない金属(ミッシュメタル等)を用いることもできる。
Cuは、鋼中に析出し高温強度を向上させる効果がある。この効果は、Cu含有量が0.01%以上で得られる。一方、Cu含有量が0.10%を超えると、鋼の靭性が低下する。このため、Cuを含有させる場合、その含有量は0.01〜0.10%、より好ましくは0.02〜0.05%とする。
TiはC、Nを固定して、ステンレス箔の素材となる熱延鋼板や冷延鋼板の靭性を向上させる。この効果は、Ti含有量が0.01%以上で得られる。しかし、Ti含有量が0.20%を超えると、Ti酸化物がAl2O3酸化皮膜中に多量に混入し、高温での耐酸化性および形状安定性が低下する。よって、Tiを含有させる場合、その含有量は0.01〜0.20%、好ましくは0.01%以上0.10%以下とする。
NbはC、Nを固定して、ステンレス箔の素材となる熱延鋼板や冷延鋼板の靭性を向上させる。この効果は、Nb含有量が0.01%以上で得られる。一方、Nb含有量が0.20%を超えると(Fe,Al)NbO4酸化皮膜が生成し、高温での耐酸化性が著しく低下する。また、(Fe,Al)NbO4は熱膨張率が大きいため、箔の変形を助長し、触媒の剥離を引き起こす。よって、Nbを含有させる場合、その含有量は0.01〜0.20%とする。
Vは焼鈍時の粒成長抑制効果を発揮し再結晶粒を微細化させるため、ステンレス箔の素材となる熱延焼鈍鋼板や冷延鋼板の靭性を向上させる。この効果はV含有量が0.01%以上で得られる。しかし、V含有量が0.20%を超えると耐酸化性の低下を招く。従って、Vを含有させる場合、その含有量は0.01〜0.20%とする。好ましくは0.01〜0.05%である。
Zrは、Al2O3酸化皮膜の密着性を改善するとともにその成長速度を低減して耐酸化性を顕著に向上させる。また、ZrはC、Nを固定して熱延鋼板や冷延鋼板の靭性を向上させる。これらの効果は、Zr含有量が0.01%以上で得られる。しかし、Zr含有量が0.10%を超えると、Zr酸化物がAl2O3酸化皮膜中に多量に混入し、酸化皮膜の成長速度が増加して耐酸化性が低下する。また、ZrはFeなどと金属間化合物をつくり、ステンレス鋼の靭性を低下させる。よって、Zrを含有させる場合、その含有量は0.01〜0.10%とする。好ましくは0.02〜0.05%である。
Hfは、Al2O3酸化皮膜の密着性を改善するとともにその成長速度を低減して耐酸化性を顕著に向上させる。その効果は、Hf含有量が0.01%以上で得られる。しかし、Hf含有量が0.10%を超えると、Hf酸化物がAl2O3酸化皮膜中に多量に混入し、酸化皮膜の成長速度が増加して耐酸化性が低下する。また、HfはFeなどと金属間化合物をつくり、靭性を低下させる。よって、Hfを含有させる場合、その含有量は0.01〜0.10%とする。好ましくは0.02〜0.05%である。
Bは結晶粒界に濃化することで粒界エネルギーを低下させ、ステンレス箔の素材となる熱延鋼板の靭性や冷延焼鈍鋼板の靭性を低下させる一因となる粒界Cr炭窒化物の析出を抑制する。この効果は、B含有量が0.0002%以上で得られる。しかし、B含有量が0.0050%を超えると粒界への濃化が過度に進むと逆にB析出物が生成して靭性を低下させる。従って、Bを含有させる場合、その含有量は0.0002〜0.0050%とする。
適量のCaあるいはMgは、Al2O3酸化皮膜の鋼に対する密着性向上と成長速度低減により耐酸化性を向上させる。この効果は、Ca含有量が0.0002%以上、Mg含有量が0.0002%以上で得られる。さらに好ましくは、Ca含有量は0.0010%以上、Mg含有量は0.0015%以上である。しかし、これら元素を過剰に添加すると靭性の低下や耐酸化性の低下が起こるため、これらの元素を添加する場合には、Ca、Mgのいずれも0.0100%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは0.0050%以下である。
Mo:0.1〜6.0%およびW:0.1〜6.0%のうちから選んだ少なくとも1種を含有し、その合計量が6.0%以下
MoおよびWは高温強度を増大させ、またステンレス箔を触媒担体として用いたとき、触媒担体の寿命を伸ばすので、必要に応じて鋼に含有させることができる。この効果は、Mo、Wの含有量がそれぞれ0.1%以上で得られる。一方、Mo、Wのそれぞれの含有量あるいは合計の含有量が6.0%を超えると、加工性の低下によりステンレス箔の製造が困難になる。よって、MoおよびWのうちから選んだ少なくとも1種を含有させる場合、Mo、Wの含有量はそれぞれ0.1〜6.0%とし、その合計量を6.0%以下とする。なお、Mo、Wの含有量はそれぞれ0.5〜3.0%とすることが好ましく、またこれらの合計量は3.0%以下とすることが好ましい。
本発明のステンレス箔の素材となるステンレス鋼板は、上記成分組成を有する板状の鋼板である。その製造方法は特に限定されず、例えば、上記の成分組成を有する鋼を、転炉や電炉で溶製し、VODやAODなどで精錬後、分塊圧延や連続鋳造によりスラブとし、これを1050〜1250℃に温度に加熱し、熱間圧延する方法で製造された熱延鋼板などが挙げられる。
また、本発明のステンレス箔の素材とするステンレス鋼板は、鋼材表面のスケールや汚染物などを除去するために、サンドブラスト処理、スチールグリッドブラスト処理やアルカリ脱脂、酸洗処理などが施された上記熱延鋼板であってもよい。また、本発明のステンレス箔の素材とするステンレス鋼板は、上記熱延鋼板を冷間圧延してなる冷延鋼板であってもよい。
まず、上記したステンレス鋼板、例えば、表面のスケールや汚染物等が除去された熱延鋼板を、必要に応じて熱延板焼鈍し、冷間圧延し、さらに焼鈍と冷間圧延を繰り返して、所望の厚みのステンレス箔とする。
ここに、Alコーティング層の蒸着方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法など既知のPVD法が使用できるが、真空蒸着法を用いることが好ましい。なお、蒸着条件は常法に従えばよい。また、蒸着は適当な大きさに切断したステンレス箔をバッチ式の炉で処理してもよいが、生産性を考慮すると鋼帯を連続的に処理できる連続式蒸着装置を用いることが好ましい。メタルハニカムなど製品に成型してから蒸着してもよいが、形状が複雑な場合は表面全体に均一なAl層を付与することが困難な場合もあるため、加工前のステンレス箔に蒸着することが好ましい。
50kg小型真空溶解炉によって溶製した表1に示す成分組成の鋼を、1200℃に加熱後、900〜1200℃の温度域で熱間圧延して板厚3.0mmの熱延鋼板とした。なお、Al含有量が適正範囲を超える表1に記載の鋼記号BDは、熱間圧延時に割れが発生し、健全な熱延鋼板が得られなかった。次いで、鋼記号BDを除く熱延鋼板を大気中、900℃、1分間の条件で焼鈍し、酸洗で表面スケールを除去した後、板厚1.0mmまで冷間圧延し冷延鋼板とした。この鋼板を大気中、900℃、1分間の条件で焼鈍し、酸洗で表面スケールを除去した後、クラスターミルによる冷間圧延と焼鈍を複数回繰り返し、箔厚30μmのステンレス箔を得た。
Alを蒸着したステンレス箔の試験片から20mm幅×30mm長さの試験片を3枚採取し、拡散接合あるいはロウ付け接合時の熱処理に相当する1200℃で30分間保持する熱処理を5.3×10-3Pa以下の真空中で行った。熱処理後のステンレス箔を、大気雰囲気中、1100℃の条件で酸化させ、25時間ごとに取り出して酸化増量(加熱前後質量変化を初期の表面積で除した量)を測定した。この測定を200時間まで続けた。なお、この際、試料No.18では酸化皮膜の剥離が見られたが、他の試料では酸化皮膜の剥離は見られなかった。
そして、測定した試料の酸化増量に基づき、以下の基準で耐酸化性を評価した。評価結果を表2に併記する。
◎(優れる):200時間酸化した段階の3試料の平均の酸化増量が4g/m2以下
○(良好) :100時間酸化した段階の3試料の平均の酸化増量が4g/m2以下
×(不良) :100時間酸化した段階の3試料の平均の酸化増量が4g/m2超
Alを蒸着したステンレス箔の試験片から採取した100mm幅×50mm長さの箔を、長さ方向に直径5mmの円筒状に丸め、端部をスポット溶接により留めたものを3本作製した。これらの円筒状試験片に対し、拡散接合あるいはロウ付け接合時の熱処理に相当する1200℃で30分間保持する熱処理を5.3×10-3Pa以下の真空中で行った。さらに、大気雰囲気中1100℃で200時間酸化させ、円筒状試験片の長さ変化量(加熱前の円筒長さに対する加熱後の円筒長さの増分の割合)を測定し、円筒状試験片の平均の長さ変化量を求めた。
そして、この平均の長さ変化量が±5%以下の場合を○(良好)、±5%超えの場合を×(不良)として、形状安定性を評価した。評価結果を表2に併記する。
一方、比較例であるNo.16〜20は、高温での耐酸化性および形状安定性のうち、少なくとも1つの特性に劣っていた。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.025%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.050%以下、S:0.01%以下、Cr:15.0〜30.0%、Al:2.5〜6.5%、Ni:0.05〜0.50%、N:0.025%以下およびREM:0.01〜0.15%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
両面にそれぞれ30nm〜150nm厚のAlコーティング層を有することを特徴とするステンレス箔。 - 前記ステンレス箔が、さらに、質量%で、Cu:0.01〜0.10%、Ti:0.01〜0.20%、Nb:0.01〜0.20%、V:0.01〜0.20%、Zr:0.01〜0.10%、Hf:0.01〜0.10%、B:0.0002〜0.0050%、Ca:0.0002〜0.0100%およびMg:0.0002〜0.0100%のうちから選んだ少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載のステンレス箔。
- 前記ステンレス箔が、さらに、質量%で、Mo:0.1〜6.0%およびW:0.1〜6.0%のうちから選んだ少なくとも1種を含有し、その合計量が6.0%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のステンレス箔。
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