以下、実施形態によるブレーキ装置について、当該ブレーキ装置を4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図4および図5に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用い、例えばステップ1を「S1」として示すものとする。
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側には、例えば左,右の前輪2(FL,FR)と左,右の後輪3(RL、RR)とからなる合計4個の車輪が設けられている。これらの前輪2および後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する被制動部材としてのディスクロータ4が設けられている。前輪2用のディスクロータ4は、液圧式のディスクブレーキ5により制動力が付与され、後輪3用のディスクロータ4は、電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキ21により制動力が付与される。これにより、各車輪(前輪2と後輪3)は、それぞれ独立して制動力が付与されたり、制動解除されたりする。
車体1のフロントボード(図示せず)側には、ブレーキペダル6が設けられている。このブレーキペダル6は、車両のブレーキ操作時に運転者によって踏込み操作され、この操作により各ディスクブレーキ5,21は、常用ブレーキ(サービスブレーキ)としての制動力の付与と制動解除とが行われる。ブレーキペダル6には、ブレーキランプスイッチ、ペダルスイッチ、ブレーキ操作検出センサ6A(ペダルストロークセンサまたはブレーキセンサとも呼ぶ)等が設けられている。ブレーキ操作検出センサ6Aは、ブレーキペダル6の踏込み操作の有無、または、その操作量を検出し、その検出信号を後述のコントロールユニット(C/U13)に出力する。
車両の運転者がブレーキペダル6を踏込み操作すると、その操作力(入力)が倍力装置7により倍力された状態でマスタシリンダ8に伝達される。倍力装置7は、ブレーキペダル6とマスタシリンダ8との間に設けられた負圧ブースタまたは電動ブースタとして構成され、ブレーキペダル6の踏込み操作時に踏力を増力してマスタシリンダ8に伝える。このとき、油圧源として機能するマスタシリンダ8は、マスタリザーバ9から供給されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ9は、ブレーキ液が収容された作動液タンクにより構成されている。ブレーキペダル6により液圧を発生する機構は、上記の構成に限られるものではなく、ブレーキペダル6の操作に応じて液圧を発生する機構、例えばブレーキバイワイヤ方式の機構等であってもよい。
マスタシリンダ8内に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管10A,10Bを介して液圧供給装置11(以下、ESC11という)に送られる。このESC11は、各ディスクブレーキ5,21とマスタシリンダ8との間に配置され、マスタシリンダ8からの液圧を各ディスクブレーキ5,21に分配して供給する装置である。即ち、マスタシリンダ8からの液圧は、ESC11によりブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,21に分配して供給される。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力が付与される。
ここで、ESC11は、例えばマイクロコンピュータ等によって構成される専用の制御装置、即ちコントロールユニット13(以下、C/U13という)を有している。C/U13は、ESC11の各制御弁(図示せず)を開,閉したり、液圧ポンプ用の電動モータ(図示せず)を回転,停止させたりする駆動制御を行うことにより、ブレーキ側配管部12A〜12Dから各ディスクブレーキ5,21に供給されるブレーキ液圧を互いに独立して増圧、減圧または保持する制御を行う。これにより、種々のブレーキ制御(例えば、倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチロックブレーキ制御、トラクション制御、横滑り防止を含む車両安定化制御、坂道発進補助制御等)が実行される。
C/U13には、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。また、C/U13は、車両データバス16に接続されている。なお、ESC11の代わりに、公知のABSユニット等を用いることも可能である。さらに、ESC11を設けずに省略することも可能であり、このような場合には、マスタシリンダ8とブレーキ側配管部12A〜12Dとの間に機械的な液圧制御弁等を設ける構成とすればよい。
車両データバス16は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を備えており、車両に搭載された多数の電子機器、C/U13および駐車ブレーキ制御装置18等との間で車両内での多重通信を行うためのデータバスである。車両データバス16に送られる車両情報としては、ブレーキ操作検出センサ6Aからの検出信号の他に、例えばイグニッションスイッチ(IGN SW)、シートベルトセンサ、ドアロックセンサ、ドア開センサ、着座センサ、車速センサ、操舵角センサ、アクセル操作センサ、スロットルセンサ、エンジン回転センサ、ブレーキ液圧の圧力センサ、勾配センサ、シフトセンサ、加速度センサ、車輪速センサ、車両のピッチ方向の動きを検知するピッチセンサ(いずれも図示せず)等からの検出信号による車両情報が挙げられる。
また、車体1には、車両の積算走行距離計であるオドメータ(図示せず)が搭載されている。そして、車両データバス16には、前記オドメータで計測したオドメータ値(車両の走行距離)が車両の走行時に逐次更新されるかたちで送られる。制御部としての駐車ブレーキ制御装置18は、このようなオドメータ値を車両データバス16から読込み、これを必要に応じて後述の記憶装置20により記憶させることができる。
車体1内には、運転席(図示せず)の近傍に駐車ブレーキスイッチ17(図2示すPKB SW)が設けられ、該駐車ブレーキスイッチ17は運転者によって操作される。駐車ブレーキスイッチ17は、運転者からの駐車ブレーキの作動要求(アプライ要求、リリース要求)に対応する信号を、制御部としての駐車ブレーキ制御装置18に伝達する。即ち、駐車ブレーキスイッチ17は、電動モータ47の駆動(回転)に基づいてブレーキパッド23をアプライ作動またはリリース作動させるための信号(アプライ要求信号、リリース要求信号)を、駐車ブレーキ制御装置18に対して出力する。
図2に示すように、駐車ブレーキ制御装置18は、その入力側が車両データバス16、駐車ブレーキスイッチ17および後述の電流センサ等に接続され、出力側が電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ21に接続されている。駐車ブレーキ制御装置18は、その中央演算装置18A(即ち、CPU18A)の他に、後述するディスクブレーキ21の電動モータ47を駆動するモータドライバとしての駆動回路19と、駐車ブレーキの制御に必要なデータや情報を記憶する記憶装置20とを含んで構成されている。
記憶装置20は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなるメモリ部品により構成されている。記憶装置20には、図4に示すオートアジャスト制御の判定処理用プログラムと、走行距離Lの判定を行うための閾値Lsと、オートアジャスト制御を行う上での後述の条件(a)〜(g)を判定するために必要な各種データおよび情報と、図5に示すオートアジャスト制御処理用プログラム等とが格納されている。前記電流センサは、電動モータ47に流れる電流値を検出し、その検出信号(例えば、電動モータ47の負荷状態を検出するための信号)を駐車ブレーキ制御装置18に出力する。
運転者により駐車ブレーキスイッチ17が制動側にON操作されたときには、駐車ブレーキスイッチ17からアプライ要求信号が出力される。このとき、駐車ブレーキ制御装置18は、駆動回路19から後輪3用のディスクブレーキ21に対し電動モータ47を制動側に回転させるための電力を出力して給電を行う。これにより、後輪3用のディスクブレーキ21は、駐車ブレーキとしての制動力が付与された状態(即ち、アプライ状態)となる。
一方、運転者によって駐車ブレーキスイッチ17が制動解除のためにOFF操作されたときには、駐車ブレーキスイッチ17からリリース要求信号が出力される。このとき、後輪3用のディスクブレーキ21には、電動モータ47を制動側とは逆方向に回転させるための電力が駐車ブレーキ制御装置18を介して給電される。これにより、ディスクブレーキ21は、駐車ブレーキとしての制動力の付与が解除された状態(即ち、リリース状態)となる。
次に、左,右の後輪3側に設けられるディスクブレーキ21の構成について、図3を参照しつつ説明する。なお、図3では、左,右の後輪3側にそれぞれ設けられた左,右のディスクブレーキ21のうちの一方のみを示している。
ここで、後輪3用のディスクブレーキ21は、電動式の駐車ブレーキ機能が付設された液圧式のディスクブレーキとして構成されている。ディスクブレーキ21は、制御部である駐車ブレーキ制御装置18と共にブレーキ装置(ブレーキシステム)を構成する。ディスクブレーキ21は、車両の後輪3側の非回転部分に取付けられる取付部材22と、制動部材(摩擦パッド)としてのインナ側,アウタ側のブレーキパッド23と、電動アクチュエータ46が設けられたブレーキ機構としてのキャリパ24とを含んで構成されている。
この場合、ディスクブレーキ21は、ブレーキペダル6の操作等に基づく液圧によりキャリパ本体25のシリンダ部26内でピストン29を推進することにより、ブレーキパッド23をディスクロータ4に押圧し、車輪(後輪3)に制動力を付与する。これに加えて、ディスクブレーキ21は、駐車ブレーキスイッチ17からの信号等に基づく駐車ブレーキ制御装置18からの作動要求に応じても作動される。このとき、ディスクブレーキ21は、後述の電動アクチュエータ46(電動モータ47)により回転直動変換機構33を介してピストン29を推進させ、ブレーキパッド23をディスクロータ4に押圧することにより車輪(後輪3)に制動力を付与する。
取付部材22は、ディスクロータ4の外周を跨ぐようにディスクロータ4の軸方向(即ち、ディスク軸方向)に延びディスク周方向で互いに離間した一対の腕部(図示せず)と、該各腕部の基端側を一体的に連結するように設けられ、ディスクロータ4のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部22Aと、ディスクロータ4のアウタ側となる位置で前記各腕部の先端側を互いに連結する補強ビーム22Bとを含んで構成されている。
インナ側,アウタ側のブレーキパッド23は、ディスクロータ4の両面に当接可能に配置され、取付部材22の各腕部によりディスク軸方向に移動可能に支持されている。インナ側,アウタ側のブレーキパッド23は、キャリパ24(キャリパ本体25の爪部28とピストン29)によりディスクロータ4の両面側に押圧される。これにより、各ブレーキパッド23は、車輪(後輪3)と共に回転するディスクロータ4を両側から挟持(押圧)して車両に制動力を与える。
取付部材22には、ディスクロータ4の外周側を跨ぐようにホイールシリンダとしてのキャリパ24が配置されている。キャリパ24は、取付部材22の各腕部に対してディスクロータ4の軸方向に沿って移動可能に支持されたキャリパ本体25と、このキャリパ本体25内に摺動可能に挿嵌して設けられたピストン29と、後述の回転直動変換機構33および電動アクチュエータ46等とを備えている。キャリパ24は、ブレーキペダル6の操作に基づいてマスタシリンダ8に発生する液圧によりピストン29を作動させる。このとき、ピストン29は、ブレーキパッド23と一緒にディスクロータ4に向けて、またはディスクロータ4から遠ざかる方向に移動される。
キャリパ本体25は、インナ側のシリンダ部26とブリッジ部27とアウタ側の爪部28とを備えている。インナ側のシリンダ部26は、軸方向の一側が隔壁部26Aによって閉塞され、ディスクロータ4に対向する軸方向の他側が開口された有底円筒状に形成されている。ブリッジ部27は、ディスクロータ4の外周側を跨ぐように該シリンダ部26からディスク軸方向に延びて形成されている。アウタ側の爪部28は、シリンダ部26と反対側においてブリッジ部27から径方向内側に向けて延びるように配置されている。
キャリパ本体25のシリンダ部26(即ち、後述の液圧室30)内には、図1に示すブレーキ側配管部12Cまたは12Dを介してブレーキペダル6の踏込み操作等に伴う液圧が供給される。シリンダ部26には、その奥所側(軸線方向の一方側)と電動アクチュエータ46との間に位置して隔壁部26Aが一体に形成されている。シリンダ部26の隔壁部26Aは、軸線方向の貫通穴26Bを有しており、貫通穴26Bの内側には、後述するベースナット34の軸部34Aが回転可能に挿入されている。
キャリパ本体25のシリンダ部26内には、底部29Aと筒部29Bとからなる有底カップ状のピストン29が軸方向に摺動変可能に挿嵌され、該ピストン29の底部29Aは、インナ側のブレーキパッド23に対面している。シリンダ部26の隔壁部26Aとピストン29との間には液圧室30が画成され、この液圧室30はピストンシール31によりシールされている。液圧室30内には、シリンダ部26に設けた給排ポート(図示せず)を介してマスタシリンダ8からの液圧が供給される。ピストン29の底部29Aの外周面とシリンダ部26の開口側内周面との間には、シリンダ部26内への異物の侵入を防ぐためにダストブーツ32が介装されている。
キャリパ本体25のシリンダ部26とピストン29との間には、液圧室30内に位置して回転直動変換機構33が設けられている。この回転直動変換機構33は、後述の電動アクチュエータ46による回転運動、即ち電動モータ47の回転を直線方向の運動(以下、直動という)に変換し、ピストン29に軸方向の推力を付与すると共に、ピストン29を制動位置で保持する機能等を有している。回転直動変換機構33は、シリンダ部26の隔壁部26Aとピストン29の底部29Aとの間に収納されたベースナット34、プッシュロッド35およびボールアンドランプ機構36等を含んで構成されている。
ベースナット34は、電動モータ47の回転をプッシュロッド35側に伝達する回転伝達部材として構成され、軸方向一側(基端側)の軸部34Aと軸方向他側の筒状ナット部34Bとを有している。ベースナット34の軸部34Aは、シリンダ部26の貫通穴26B内に軸受等を介して回転可能に支持され、電動アクチュエータ46により正,逆方向に回転駆動される。ベースナット34の筒状ナット部34Bには、プッシュロッド35の外周面に螺合(ねじ嵌合)する雌ねじが内周面に形成されている。
プッシュロッド35は、ベースナット34の筒状ナット部34Bにねじ嵌合され、回転可能でかつ直動可能に支持される段付ボルトからなるシャフト部材として構成されている。プッシュロッド35は、軸方向一側に位置しベースナット34の筒状ナット部34Bに螺合(ねじ嵌合)される第1の雄ねじ部35Aと、軸方向他側(先端側)に位置し後述の回転直動ランプ36Bに螺合(ねじ嵌合)される第2の雄ねじ部35Bとにより構成されている。第1の雄ねじ部35Aは、第2の雄ねじ部35Bよりも大径なボルト形状に形成されている。
プッシュロッド35の雄ねじ部35A,35Bは、ピストン29から回転直動ランプ36Bへ伝達される軸方向荷重(即ち、制動時におけるディスクロータ4からの押圧反力に基づく荷重)によってプッシュロッド35が逆方向に回転しないように、さらに、前記押圧反力によりベースナット34がプッシュロッド35を介して逆方向に回転しないようなねじ形状を有し、不可逆性が大きいねじ嵌合部として構成されている。
ボールアンドランプ機構36は、回転部材37の他端側にスラストベアリング38を挟んで配置された固定ランプ36Aと、プッシュロッド35の第2の雄ねじ部35Bにねじ嵌合され固定ランプ36Aに対して相対回転する回転直動ランプ36Bと、固定ランプ36Aと回転直動ランプ36Bとの間に介装された複数のボール36Cとを含んで構成されている。ボールアンドランプ機構36は、回転直動ランプ36Bが第2の雄ねじ部35Bにねじ嵌合しているので、プッシュロッド35の回転により軸方向の変位(推力)が付与され、この推力を環状押圧プレート39を介してピストン29へと伝える。
ここで、回転部材37は、プッシュロッド35の雄ねじ部35A,35B間に位置する外周面にスプライン結合され、プッシュロッド35と一体に回転すると共に、軸方向には相対変位できる構成となっている。環状押圧プレート39は、ボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bにスラストベアリング40を介して相対回転可能に支持されている。また、環状押圧プレート39は、固定ランプ36Aと同様にピストン29の内周面に廻止め状態で取付けられ、軸方向には相対移動可能となっている。
ボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bは、ベースナット34を介したプッシュロッド35の回転により固定ランプ36Aと環状押圧プレート39との間でベアリング38,40を介して相対回転し、第2の雄ねじ部35Bのリード角および後述のランプ角に応じた軸方向推力を環状押圧プレート39に付与する。環状押圧プレート39は、その軸方向端面(他側端面)がピストン29の底部29Aの内側面(一側端面)に対向して配置され、ボールアンドランプ機構36からの前記推力によりピストン29の底部29Aに当接すると共に、この状態でピストン29をブレーキパッド23と一緒にディスクロータ4に向けて押圧し、駐車ブレーキとして作動する。環状押圧プレート39は、ピストン29の底部29Aに接触して該ピストン29を移動させる直動部材を構成している。
また、ボールアンドランプ機構36の各ボール36Cは、回転直動ランプ36Bと固定ランプ36Aとに予め決められたランプ角(傾斜角)をもって夫々形成したボール溝内に転動可能に配置され、この状態で各ボール36Cは、固定ランプ36Aと回転直動ランプ36Bとの間に挟持されている。このときの挟持力は、後述の付勢ばね42によるばね力等で発生する。
ここで、ボールアンドランプ機構36は、プッシュロッド35の回転によって回転直動ランプ36Bに回転トルクが加えられると、固定ランプ36Aと回転直動ランプ36Bとが相対回転し、両者の間で各ボール36Cが夫々のボール溝に沿って転動する。このため、回転直動ランプ36Bが固定ランプ36Aに対して相対回転することにより、ボールアンドランプ機構36は、回転直動ランプ36Bと固定ランプ36Aとの間で前記ランプ角により軸方向の相対距離が変動する。このような相対距離の変動によっても、環状押圧プレート39からピストン29に対して軸方向の推力を付与することができる。
ピストン29の筒部29Bの内周面とベースナット34の筒状ナット部34Bとの間には、筒状リテーナ41が軸方向に移動可能に取付けられている。この筒状リテーナ41は、ベースナット34に対して相対回転可能で、ピストン29に対しては固定ランプ36Aと一緒に廻止めされ回転不能となっている。筒状リテーナ41の内周側には、筒状ナット部34Bの外周面との間に付勢ばね42が設けられ、該付勢ばね42は、筒状ナット部34Bと筒状リテーナ41との間を周方向と軸方向へと螺旋状に延びるコイルばねを用いて構成されている。付勢ばね42は、回転部材37と筒状リテーナ41とを互いに逆向き付勢し、この付勢力により、ボールアンドランプ機構36の固定ランプ36Aを、回転直動ランプ36B(各ボール36C)側に向けて軸方向に押圧する。
ベースナット34の筒状ナット部34B先端部(開口部)とプッシュロッド35の第1の雄ねじ部35Aとの間には、両者の間で一方向クラッチとして機能する第1スプリングクラッチ43が設けられている。この第1スプリングクラッチ43は、プッシュロッド35がベースナット34に対してピストン29の底部29A側に移動するときのアプライ方向の回転(即ち、駐車ブレーキを作動するアプライ時の相対回転)を許容する。しかし、これとは逆向きにプッシュロッド35がベースナット34に対してシリンダ部26の隔壁部26A側へ移動するときのリリース方向の回転(即ち、駐車ブレーキを解除するリリース時の相対回転)に対して、第1スプリングクラッチ43は回転抵抗トルクを付与し、プッシュロッド35がベースナット34に対して相対回転するのを抑えるものである。
回転部材37と筒状リテーナ41との間には、第1スプリングクラッチ43とは逆方向の一方向クラッチとして機能する第2スプリングクラッチ44が設けられている。第2スプリングクラッチ44は、回転部材37とプッシュロッド35とが筒状リテーナ41に対してリリース方向(即ち、シリンダ部26の隔壁部26A側に移動するときの回転方向)に相対回転するのを許容する。しかし、第2スプリングクラッチ44は、回転部材37とプッシュロッド35とが筒状リテーナ41に対してアプライ方向(即ち、ピストン29の底部29A側へ移動するときの回転方向)に相対回転するのを、両者間に回転抵抗トルクを付与して抑える構成となっている。
ここで、駐車ブレーキのアプライ時における回転抵抗トルクは、プッシュロッド35の第1の雄ねじ部35Aとベースナット34の筒状ナット部34Bとの間に生じる回転抵抗トルクよりも、前記第2スプリングクラッチ44による回転抵抗トルクの方が大きくなるように設定されている。即ち、駐車ブレーキを作動させるアプライ時には、プッシュロッド35とボールアンドランプ機構36との間よりも、先にベースナット34とプッシュロッド35との間で相対回転(プッシュロッド35に対するベースナット34の相対回転)が生じるように、アプライ時の回転抵抗トルクは設定されている。
一方、駐車ブレーキのリリース時における回転抵抗トルクは、プッシュロッド35の第2の雄ねじ部35Bとボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bとの間に生じる回転抵抗トルクが、ベースナット34とプッシュロッド35との間の第1スプリングクラッチ43による回転抵抗トルクに、筒状ナット部34Bと第1の雄ねじ部35Aとの間のねじ嵌合部における回転抵抗を加えたトルクよりも小さくなるように設定されている。即ち、駐車ブレーキのリリース時には、ベースナット34とプッシュロッド35との間よりも先に、プッシュロッド35とボールアンドランプ機構36との間で相対回転が生じるように、リリース時の回転抵抗トルクは設定されている。
シリンダ部26の隔壁部26Aには、ベースナット34の筒状ナット部34Bと隔壁部26Aとの間に位置してスラストベアリング45が設けられている。このスラストベアリング45は、ベースナット34(筒状ナット部34B)に働くスラスト荷重を隔壁部26Aと共に受承し、隔壁部26Aに対するベースナット34(筒状ナット部34B)の回転を円滑にするものである。
電動アクチュエータ46は、例えば隔壁部26Aの外側に位置してキャリパ本体25のシリンダ部26に設けられている。電動アクチュエータ46はアクチュエータハウジング46Aを有し、該アクチュエータハウジング46Aは、隔壁部26Aの外周側にシリンダ部26の軸方向一側から嵌合して取付けられている。電動アクチュエータ46のアクチュエータハウジング46A内には、電動モータ47と減速機(図示せず)とが設けられている。
ここで、前記減速機は、駐車ブレーキとしての作動に必要なトルク(以下、説明の都合上、これを所要トルクという)の回転をベースナット34の軸部34Aに伝えるため、電動モータ47の回転を1段または複数段で減速する構成となっている。これにより、ベースナット34の軸部34は、筒状ナット部34Bからプッシュロッド35の第1の雄ねじ部35Aへと所要トルクの回転を伝え、両者間のねじ嵌合部によりプッシュロッド35をベースナット34の筒状ナット部34Bに対して軸方向に駆動すると共に、プッシュロッド35の第2の雄ねじ部35Bは、ボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bを介して環状押圧プレート39へとピストン29の底部29Aに向けた軸方向の推力(押圧力)を発生させる。
なお、前輪2用のディスクブレーキ5は、前述した駐車ブレーキ機構(即ち、後輪3用のディスクブレーキ21が備える回転直動変換機構33および電動アクチュエータ46等)を除いて後輪3用のディスクブレーキ21とほぼ同様に構成されている。前輪2用のブレーキ機構についても、前述したディスクブレーキ5に代えて、後輪3用と同様に電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキを用いて構成してもよい。
本実施形態によるブレーキ装置は上述の如き構成を有するもので、次に、後輪3側に設けられた電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ21の作動について説明する。まず、ブレーキペダル6の操作によりディスクブレーキ21が通常の液圧ブレーキ(サービスブレーキ)として作動される制動時の動作を説明する。
車両の運転者によりブレーキペダル6が踏込み操作されると、ブレーキペダル6の操作量または踏力に応じた液圧がマスタシリンダ8から一対のシリンダ側液圧配管10A,10Bを介して液圧供給装置であるESC11に送られ、この液圧はESC11からブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,21に分配して供給される。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)のそれぞれに対して相互に独立して制動力が付与される。
図3に示すように、ディスクブレーキ21のキャリパ24内では、シリンダ部26の液圧室30に液圧が供給されると、ピストン29がピストンシール31を弾性変形させながら非制動時の初期位置から前進(図3中の右方向に移動)してインナ側のブレーキパッド23をディスクロータ4に押付ける。そして、キャリパ本体25は、ピストン29の押圧反力により取付部材22に対して図3中の左方向に移動し、爪部28に当接しているアウタ側のブレーキパッド23をディスクロータ4に押付ける。この結果、ディスクロータ4が一対のブレーキパッド23間で挟持され、このときの摩擦力により車両に制動力が発生する。
次に、運転者がブレーキペダル6の操作を解除(解放)すると、マスタシリンダ8からの液圧供給が断たれるので、ディスクブレーキ21のキャリパ24側ではシリンダ部26の液圧室30内の液圧が低下する。これにより、ピストン29は、ピストンシール31の弾性変形の復元力によってシリンダ部26内の初期位置まで後退して制動力が解除される。なお、インナ側,アウタ側のブレーキパッド23の摩耗に伴ってピストン29の移動量が増大し、ピストンシール31の弾性変形の限界を越えると、ピストン29とピストンシール31との間には滑りが生じる。この滑りによってキャリパ本体25のシリンダ部26に対するピストン29の初期位置が移動する。
この結果、パッドクリアランスは、ブレーキパッド23が摩耗した場合でもほぼ一定に調整される。しかし、パッド摩耗に伴ってピストン29の初期位置が移動すると、駐車ブレーキ用の回転直動変換機構33(即ち、直動部材となる環状押圧プレート39)とピストン29の底部29Aとの間には、図3中に示すようにクリアランスCが生じており、このクリアランスCはパッド摩耗に従って必要以上に大きくなることがある。このため、本実施形態では、後述の図4および図5に示す処理手順に従ってオートアジャスト制御を行い、前記クリアランスCが過大になるのを抑えるようにしている。
次に、車両の停止状態を維持するための駐車ブレーキとしてディスクブレーキ21を作動させる場合について説明する。
車両の運転者が駐車ブレーキの解除状態から駐車ブレーキスイッチ17を操作すると、駐車ブレーキ制御装置18のモータ駆動回路19からディスクブレーキ21の電動モータ47にアプライ要求信号に基づいた給電が行われる。これにより、電動モータ47は回転駆動され、電動アクチュエータ46は前記減速機で電動モータ47の回転を減速し、回転直動変換機構33のベースナット34には所要トルクの回転が伝えられる。
ベースナット34がアプライ方向に回転されると、ベースナット34の筒状ナット部34B(雌ねじ部)とプッシュロッド35の第1の雄ねじ部35Aとが互いに螺合(ねじ嵌合)した状態で相対回転(即ち、ベースナット34だけがアプライ方向に回転)する。これにより、プッシュロッド35が筒状ナット部34B内を軸方向へとピストン29の底部29Aに向かって前進する。このとき、プッシュロッド35、回転部材37と筒状リテーナ41との間には、第2スプリングクラッチ44によりアプライ方向への大きな回転抵抗トルクが付与されている。このため、プッシュロッド35がベースナット34と共に回転することはない。
この結果、プッシュロッド35と共に筒状リテーナ41を含む構成部品(例えば、付勢ばね42、第2スプリングクラッチ44、回転部材37、スラストベアリング38、ボールアンドランプ機構36、スラストベアリング40および環状押圧プレート39)が一体となって軸方向へとピストン29の底部29A側に向けて前進し、環状押圧プレート39がピストン29の底部29Aの内側面に接触(当接)する。この当接により、ピストン29が前進してピストン29の底部29Aの外側面がインナブレーキパッド23に当接する。
さらに、電動モータ47のアプライ方向への回転駆動が継続されると、ピストン29は、プッシュロッド35の移動によりブレーキパッド23を介してディスクロータ4を押圧し始める。このように押圧力がディスクロータ4に付与されると、押圧力に対する反力(押圧反力となる軸力)によってプッシュロッド35の第1の雄ねじ部35Aとベースナット34の筒状ナット部34Bとの間のねじ嵌合による回転抵抗トルクが増大し、プッシュロッド35を前進させるために必要な回転トルクが増大していく。
そして、必要回転トルクである前記ねじ嵌合部(筒状ナット部34Bと雄ねじ部35Aとの間)の回転抵抗トルクが、第2スプリングクラッチ44の回転抵抗トルクよりも大きくなると、ベースナット34の回転に伴ってプッシュロッド35が回転部材37と共にアプライ方向へ回転し始める。こうして、プッシュロッド35がベースナット34と共廻りするようになると、プッシュロッド35のアプライ方向への回転トルクが第2の雄ねじ部35Bを介してボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bに伝達される。このとき、プッシュロッド35の雄ねじ部35Bと回転直動ランプ36Bの雌ねじとの間の回転抵抗トルクもディスクロータ4からの前記押圧反力により増大しているため、プッシュロッド35の回転が回転直動ランプ36Bに伝達される。
これにより、ボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bは、アプライ方向に回転しながら各ボール36Cの転動により固定ランプ36Aから離間する方向に押動される。即ち、回転直動ランプ36Bと固定ランプ36Aとは、付勢ばね42の付勢力に抗して離間することで、環状押圧プレート39をピストン29の底部29Aに強く押付けるようにさらに押圧し、インナ側とアウタ側のブレーキパッド23によるディスクロータ4の押圧力(挟持力)を増大させる。このとき、ピストン29の底部29Aには、プッシュロッド35のねじ嵌合により発生する軸方向の推力に加えて、ボールアンドランプ機構36で発生する推力がディスクロータ4に対する押圧力となって付与される。
駐車ブレーキ制御装置18は、一対のインナ側とアウタ側のブレーキパッド23からディスクロータ4に付与される押圧力が予め決められた所定値(例えば、電動モータ47に供給しているアプライ時の駆動電流が所定の電流値)に達するまで電動モータ47を駆動する。このときの駆動電流は前記電流センサで検出している。その後、駐車ブレーキ制御装置18は、ディスクロータ4への押圧力が所定値(具体的には、電動モータ47の駆動電流が所定値)に達したことを検出すると、電動モータ47への通電を停止する。これにより、プッシュロッド35はアプライ方向への回転が停止され、これに伴って、ボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bの回転も停止される。
このとき、回転直動ランプ36Bにはディスクロータ4からの押圧反力が作用する。しかし、プッシュロッド35の第2の雄ねじ部35Bとボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bの雌ねじとの間には、前記押圧反力に対抗する回転抵抗トルクが生じている。即ち、両者の間のねじ嵌合部は、不可逆性が大きく逆作動しない構成となっている。また、プッシュロッド35の第1の雄ねじ部35Aとベースナット34の筒状ナット部34B(雌ねじ部)との間のねじ嵌合部も不可逆性が大きく、プッシュロッド35とベースナット34との間で逆作動しない構成となっている。さらに、第1スプリングクラッチ43により、プッシュロッド35にはベースナット34に対してリリース方向への回転抵抗トルクが付与されている。
このため、ボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bは、回転せずに停止状態が維持され、ピストン29を所期の制動位置に保持することができる。これにより、制動力の保持がなされ、駐車ブレーキとしての作動を続ける。この状態において、ディスクロータ4からの押圧反力は、ボールアンドランプ機構36、プッシュロッド35、ベースナット34およびスラストベアリング45を介してシリンダ部26の隔壁部26Aに伝達され、ピストン29に対して駐車ブレーキの保持力を与える。
次に、駐車ブレーキを解除(リリース)する際には、駐車ブレーキスイッチ17がOFF操作されることにより、駐車ブレーキ制御装置18は、ピストン29を戻す方向(即ち、ピストン29をディスクロータ4から離間させるリリース方向)に電動モータ47を回転駆動する。これによって、電動アクチュエータ46は、前記減速機により電動モータ47を減速して所要トルクの回転をベースナット34に伝え、該ベースナット34をアプライ時とは逆方向(ピストン29を戻すリリース方向)に回転駆動する。
このとき、プッシュロッド35には、ディスクロータ4からの押圧反力が環状押圧プレート39およびボールアンドランプ機構36を介して作用している。これにより、プッシュロッド35の第2の雄ねじ部35Bとボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bとの間のねじ嵌合部には回転抵抗トルクが働く。同じく、プッシュロッド35の第1の雄ねじ部35Aとベースナット34の筒状ナット部34Bとの間にも回転抵抗トルクが生じ、プッシュロッド35とベースナット34との間には、第1スプリングクラッチ43によるリリース方向への回転抵抗トルクが付与されている。
このため、電動アクチュエータ46(電動モータ47)からベースナット34に伝達されたリリース方向の回転トルクは、プッシュロッド35(回転部材37含む)に伝達されると共に、ボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bに伝達される。この結果、回転直動ランプ36Bは、リリース方向に回転だけして、回転方向の初期位置まで戻る。このとき回転直動ランプ36Bは軸方向の移動はせず、軸方向の位置はそのままとなる。
次に、回転直動ランプ36Bが回転方向の初期位置まで戻ると、各ボール36Cは回転直動ランプ36Bと固定ランプ36Aとの間の各ボール溝に挟まれるため、固定ランプ36Aに対して回転直動ランプ36Bはそれ以上回転できなくなり、回転直動ランプ36Bは回転を停止する。これにより、ボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bが筒状リテーナ41と共にシリンダ部26の隔壁部26A側(リリース方向)に移動して軸方向の初期位置に戻る。
さらに、電動モータ47がリリース方向へ回転駆動されて、ベースナット34のリリース方向への回転が継続されると、ボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36Bが回転方向と軸方向とで共に初期位置に戻ると同時に、プッシュロッド35の第2の雄ねじ部35Bとボールアンドランプ機構36の回転直動ランプ36B(雌ねじ部)との螺合位置が初期位置まで戻り、プッシュロッド35のリリース方向への回転が停止される。
さらに、ベースナット34のリリース方向への回転が継続されると、プッシュロッド35が、第1スプリングクラッチ43によるベースナット34に対するプッシュロッド35のリリース方向への回転抵抗トルクに抗して、シリンダ部26の隔壁部26A側(リリース方向)に向けて軸方向に後退する。この結果、プッシュロッド35と共に筒状リテーナ41を含む構成部材(付勢ばね42、第2スプリングクラッチ44、回転部材37、スラストベアリング38、ボールアンドランプ機構36、スラストベアリング40および環状押圧プレート39)が一体となってシリンダ部26の隔壁部26A側(リリース方向)に後退する。
そして、駐車ブレーキ制御装置18は、回転直動ランプ36Bの環状押圧プレート39とピストン29の底部29Aとの間が所定のクリアランスC(隙間)を有する初期位置に到達した時点で、電動モータ47の回転を停止させるように制御する。このとき、ピストン29は、ピストンシール31の弾性変形の復元力によって初期位置まで後退して制動力が完全に解除される。このように、ディスクブレーキ21は、駐車ブレーキのリリース時に、ボールアンドランプ機構36を初期位置に戻してから、ボールアンドランプ機構36を後退させ、その後、プッシュロッド35を後退させることによってピストン29への保持力を解除するようにしている。
ところで、このような電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ21においては、車両走行時のブレーキ操作によりブレーキパッド23が摩耗すると、これに伴って、ピストン29と直動部材(例えば、環状押圧プレート39)との間のクリアランスC(図3参照)が必要以上に増大する。そして、このような状態で電動駐車ブレーキを作動させようとすると、環状押圧プレート39をボールアンドランプ機構36と共に前記クリアランスC分だけ移動(即ち、電動アクチュエータ46によって回転直動変換機構33を余分に駆動)する必要があるため、駐車ブレーキ作動時の応答性が低下するばかりでなく、車両の制動性能が低下する虞れがある。
そこで、本実施形態では、このような問題を解決するために、図4に示す処理手順に従って駐車ブレーキ制御装置18によるオートアジャスト制御の判定処理を行う構成としている。
図4に示す処理がスタートすると、S1では駐車ブレーキが解除され、リリース完了のタイミングであるか否かを判定する。これは、電流値の変化から判定してもよいし、駐車ブレーキスイッチ17からの信号により判定してもよい。即ち、駐車ブレーキスイッチ17がOFF操作されたときには、S1で「YES」と判定するので、次のS2に移って車両データバス16から車両の走行距離(現在のオドメータ値)を読込み、これを初期値L1として記憶する。
一方、S1で「NO」と判定するときには、駐車ブレーキが解除(リリース)された後か、または、リリース前の状態(例えば、駐車ブレーキの作動中も含む)にあるので、S3に移って車両データバス16から車両の走行距離(現在のオドメータ値)を読込み、これを更新値Lxとして記憶する。次のS4では、駐車ブレーキをリリースした後の車両の走行距離Lを、下記の数1式のように、更新値Lxと初期値L1との差分として演算する。
最後に駐車ブレーキを解除(リリース制御)したタイミングからの走行距離Lは、仮にバッテリの電力不足等の原因で一時的にシステムダウンした場合でも、その後にシステムが復帰したときには、前記数1式による走行距離Lの演算が継続できるようにする必要がある。このため、初期値L1をシステムダウン時にも駐車ブレーキ制御装置18の記憶装置20に格納する。なお、走行距離Lの演算結果を格納してもよい。走行距離は、車体速度と時間から算出してもよい。
次のS5では、下記の条件(a)〜(g)を満たしているか否かを判定する。
(a)リリース後の走行距離Lが閾値Ls以上
(b)車両が停車
(c)電動駐車ブレーキが解除(リリース)状態
(d)イグニッションスイッチ(IGN SW)がONからOFFに変化
(e)電動駐車ブレーキのアクチュエータが作動していない
(f)オートアジャスト制御で使用する入力データが正常
(g)他のアクチュエータの作動要求がない
即ち、S5において、条件(a)〜(g)を満たしているとして「YES」と判定した場合には、オートアジャスト制御が実行可能と判断できるので、次のS6に移ってオートアジャスト制御処理(後述の図5による制御処理)を行うようにする。一方、S5で「NO」と判定する間は、オートアジャスト制御を行わずに、次のS7でリターンし、ステップ1以降の処理を繰返すようにする。
ここで、前述した条件(a)は、ブレーキパッド23の摩耗を検出するための条件である。リリース後の走行距離Lに対する閾値Lsは、例えば1000kmに設定されている。この閾値Lsは、高速走行からの急制動等のように、ブレーキパッド23が摩耗する可能性の高い運転を行った場合等を想定した走行距離であり、場合によっては、1000km以上の走行距離に設定することも可能である。換言すると、閾値Lsの走行距離は、駐車ブレーキスイッチ17をON操作して通常時の作動完了に要する時間に対し、パッド摩耗時(即ち、ピストン29と環状押圧プレート39とのクリアランスCが大きくなったとき)の作動完了遅れ時間が1秒以内となるような所定値(走行距離)に設定されている。
上記の条件(b)は、車両が停止していることを検出するための条件である。駐車ブレーキ制御装置18は、車両データバス16から取得した車輪速度の情報により車両が停車しているか否かを判断する。例えば、車輪速度が1km/h未満の状態が所定時間(例えば、30ミリ秒)以上継続した場合に停車と判定し、2km/h以上の状態が所定時間(同じく、30ミリ秒)以上継続した場合に走行中と判定する。オートアジャスト制御を行う場合には、電動アクチュエータ46を一度アプライ方向に駆動する必要があり、その際に推力が発生する。そのため、走行中にオートアジャスト制御を実施してしまうと、ドライバの意図しない制動力が発生して車両挙動に影響を与える虞れがある。このような影響を回避するため、オートアジャスト制御は停車時のみ実行可能とする。
条件(c)は、駐車ブレーキが解除されていることを検出するための条件である。オートアジャスト制御ではアプライ方向に電動アクチュエータ46を駆動させた後、リリース方向に電動アクチュエータ46を駆動して完了させる。このため、駐車ブレーキが作動している状態で、オートアジャスト制御を実施してしまうと、不用意に駐車ブレーキが解除されてしまい、車両が坂道等をずり下がる虞れがある。このような問題を回避するため、オートアジャスト制御は解除(リリース)状態であるときのみ実行可能とする。
条件(d)は、車両の運転者の駐車意思を判断するための条件である。駐車ブレーキをアプライ(作動)させたときには推力が発生するため、オートアジャスト制御は、ドライバの発進意思を妨げない(阻害しない)タイミングで実行する必要がある。そこで、本実施形態では、イグニッションスイッチ(IGN SW)がOFFしたら、運転者に発進意思がないこと(即ち、駐車意思)を確認し、この上でオートアジャスト制御の実行タイミングを判断する。なお、車両のエンジンが停止されたことをモニタ(監視)することによって判断してもよい。
条件(e)は、電動モータ47が停止しているか否かを判断するための条件である。電動モータ47を仮にアプライ方向に駆動している場合は、電動モータ47が停止すれば、駐車ブレーキは作動完了状態となり、電動駐車ブレーキの内機部品(例えば、環状押圧プレート39)がピストン29に当接する。即ち、ピストン29と環状押圧プレート39との間には、調整すべきクリアランスCが生じていないので、オートアジャスト制御は不要である。一方、電動モータ47をリリース方向に駆動していた場合は、電動モータ47が停止した際に解除完了状態(即ち、適切なクリアランスCが確保された状態)となるため、オートアジャスト制御不要となる。従って、電動モータ47が作動側あるいは解除側に駆動している場合は、いずれの場合でも電動モータ47が停止すればオートアジャスト制御が不要となる。このため、電動モータ47(電動アクチュエータ46)が作動していないことを確認するようにしている。
条件(f)は、オートアジャスト制御を誤って実行することを防止するため、入力信号が正しいか否かを判断する上での条件である。例えば、車両データバス16による車輪速度の情報が異常となっている場合、走行しているか否か判断できない。この時にオートアジャスト制御を実行してしまうと、走行中に意図しない制動力が発生してしまう虞れがある。このような状況を回避するために、入力信号が異常な場合はオートアジャスト制御を禁止するようにしている。
さらに、条件(g)は、オートアジャスト実行タイミングで、運転者のSW操作等による他の要求が発生しているか否かを判断するための条件である。オートアジャスト制御は、駐車ブレーキの作動性能を維持するための補助機能であるため、オートアジャスト実行タイミングにて運転者の他の要求を検出した場合は、運転者要求を優先させる必要がある。このために、他のアクチュエータの作動要求がないことを確認するようにしている。
以上の条件(a)〜(g)を満たした場合に、駐車ブレーキ制御装置18は、図5に示す処理手順に従ってオートアジャスト制御を実行する。まず、S11では、オートアジャスト制御における電動モータ47の作動制御が未完了であるか否か(即ち、アプライ方向駆動が完了したか否か)が判定される。
S11で「YES」と判定した場合は、次のS12に移って電動モータ47をアプライ方向に駆動させる。そして、次のS13でリターンし、S11以降の処理を続ける。S11で「NO」と判定した場合は、アプライ方向の駆動が完了しているので、次のS14に移って電動モータ47の解除方向制御が未完了か否か(即ち、リリース方向駆動が完了したか否か)を判定する。S14で「YES」と判定した場合は、電動モータ47をリリース方向に駆動させる。これにより、ピストン29と環状押圧プレート39とのクリアランスC(軸方向の隙間)を適正に調整する。
ここで、S11の処理により作動制御が未完了(即ち、電動モータ47のアプライ方向駆動が完了しない)か否かは、電動モータ47に流れる電流値の変化(前記電流センサで検出している電流値)から判定することができる。オートアジャスト制御では、通常のアプライ制御時のように推力を発生させる必要はなく、駐車ブレーキの内機部品(即ち、環状押圧プレート39)をピストン29に接触(当接)する位置まで移動させれば十分である。このため、通常のアプライ制御時に比較して、アプライ完了を判定するための電流の閾値(図示せず)を低く設定することができる。
一例として、電動モータ47に流れる電流値が10Aに達したときに通常のアプライ制御が完了したと判断する場合は、オートアジャスト制御においては、電動モータ47に流れる電流値が空走区間の電流値に対して0.5Aだけ上昇したときに作動制御が完了したと判断することができる。但し、本実施形態では、予め運転者の駐車意思を確認した上でオートアジャスト制御を行う構成であり、車両の駐停車状態でオートアジャスト制御を行うため、通常のアプライ制御時と同様な電流の閾値を用いることも可能である。
S14では、オートアジャスト制御における電動モータ47の解除制御(リリース方向駆動)が完了したか否かが判定される。この場合も、電動モータ47に流れる電流値の変化から、電動モータ47のリリース方向駆動が完了したか否かを判定することができる。そして、S14で「NO」と判定したときには、電動モータ47のリリース方向駆動が完了しているので、S13に移ってリターンする。このように、リリース(解除)制御においては、通常時の解除制御と同等のクリアランスCを確保するため、通常時の解除制御と同様に行うようにする。
かくして、本実施形態によると、駐車ブレーキ制御装置18は、車両データバス16から取得した走行距離Lを基にブレーキパッド23の摩耗具合(摩耗量)を推定する。そして、最後に駐車ブレーキを解除したタイミングからの走行距離Lが所定の閾値Ls(例えば、1000km)を以上となったときには、各ブレーキパッド23の摩耗によってピストン29と環状押圧プレート39とのクリアランスCが大きくなっており、次回に運転者が駐車ブレーキを作動させようとするときに、アプライ制御の応答性が悪くなることが予想される。
そこで、次回の駐車ブレーキ作動時の不具合(例えば、駐車ブレーキ作動時の応答性低下、車両の制動性能の低下等)を回避できるようにするため、図4のS5による判定処理で、最後にリリース制御を行ったタイミングからの走行距離Lが閾値Ls以上となったか否かを判定すると共に、かつオートアジャスト制御の条件を満たしているか否かを判断する。これにより、車両を停車させてイグニッションスイッチ(IGN SW)がOFFされ、かつ車両がロックされていない非制動状態において、図5に示す処理手順でオートアジャスト制御を実行する。
この結果、純粋にサービスブレーキによってブレーキパッド23が摩耗したと判断された場合にのみオートアジャスト制御を行うことができる。これにより、オートアジャスト制御の実行頻度を、後述の比較例(図7参照)に対して必要最低限に抑制することができ、電動駐車ブレーキ(ディスクブレーキ21)に掛かる負荷を低減することができる。
図7に示す比較例は、特許文献1に記載の従来技術による電動駐車ブレーキのアプライ、リリースの制御および走行距離の関係を時系列データとして表したものである。図7の比較例では、時間Taで電動駐車ブレーキを作動させることにより、作動(アプライ制御)後の走行距離が零にリセットされる。
その後に時間Tbから車両が走行(ドライブ)すると、アプライ後の走行距離がオドメータ値により積算される。この場合、車両の運転者は駐車ブレーキを誤って作動(アプライ制御)させたまま車両を走行させている。このような誤操作は、実際に起きる可能性がある。その後に時間Tcで車両を停止(ストップ)させ、時間Tdで電動駐車ブレーキを解除(リリース制御)し、時間Te〜Tfにわたって再び車両を走行(ドライブ)させ、時間Tfで車両を再びストップさせている。
時間Tfの段階でアプライ後の走行距離(A+B)は、既に閾値Lsを越えているため、時間Tgでイグニッションスイッチ(IGN SW)をONからOFFに切換え、エンジンを停止させた段階で、比較例におけるオートアジャスト制御が実行される。このように、図7に示す比較例では、電動駐車ブレーキがリリースされた後の走行距離Aに、リリース前の走行距離Bを加算した走行距離(A+B)により、オートアジャスト制御の実行要否を判断している。
この結果、ピストン29と環状押圧プレート39とのクリアランスC(図3参照)が許容範囲内にある場合でも、クリアランスCが過大になっていると誤認識してしまう可能性があり、これにより、駐車ブレーキの作動(オートアジャスト制御)頻度が余分に増加し、耐久性に影響を及ぼすことがある。即ち、比較例の場合は、時間Tb〜Tcにおける駐車ブレーキリリース前の走行距離Bが余分に加算されている。
図6は、本実施形態で採用した電動駐車ブレーキのアプライ、リリースの制御および走行距離の関係を時系列データとして表したものである。本実施形態では、リリース制御を行ったタイミングからの走行距離Lが閾値Ls以上となったか否かを判定する構成である。
例えば、図6中の時間T1で車両の走行を開始すると、リリース後の走行距離Lがオドメータ値により積算される。この場合、車両の運転者は駐車ブレーキを誤って作動(アプライ制御)させたまま、時間T1〜T2にわたって車両を走行させている。時間T2で車両を停止(ストップ)させ、時間T3でイグニッションスイッチ(IGN SW)をONからOFFに切換え、その後に再びONに切換えている。
ここで、リリース後の走行距離Lは、時間T1の段階で閾値Ls未満であり、駐車ブレーキをアプライしても、ピストン29と環状押圧プレート39とのクリアランスC(図3参照)は、許容範囲内であって不具合(応答性低下、制動性能の低下)等が生じることはない。駐車ブレーキが作動(アプライ)状態である場合は、時間T3でイグニッションスイッチをOFFに切換えても、前述の通りオートアジャスト制御は実行されない。
次に、時間T4で電動駐車ブレーキを解除(リリース制御)すると、前述したように駐車ブレーキ制御装置18は、回転直動ランプ36Bの環状押圧プレート39とピストン29の底部29Aとの間が所定のクリアランスCを有する初期位置に到達した時点で、電動モータ47を停止させるように制御する。そして、この段階(時間T4)で、前記数1式によるリリース後の走行距離Lは零にリセットされる。
その後、時間T5〜T6にわたって再び車両を走行(ドライブ)させ、時間T6で車両をストップさせている。時間T6の段階では走行距離Lが閾値Lsを越えている。このため、時間T7でイグニッションスイッチ(IGN SW)をOFFし、エンジンを停止させたときには、前述した条件(a)〜(g)を満たしており、車両は非ロック状態にあるので、オートアジャスト制御が実行される。
このように、本実施形態では、電動駐車ブレーキがリリースされた後の走行距離Lに基づいてオートアジャスト制御の実行要否を判定し、比較例(図7)のように、リリース前の走行距離Bが走行距離Lに加算されることはない。これにより、純粋にサービスブレーキによってブレーキパッド23が摩耗したと判断された場合のみにオートアジャスト制御を行うことができる。
これに対し、図7に示す比較例では、電動駐車ブレーキを作動させた後にブレーキパッド23を誤って引摺りながら、車両を発進させて走行し続けた場合に、このときの走行距離Bもカウントされてしまう。このため、ブレーキパッド23の摩耗によるピストン29と環状押圧プレート39とのクリアランスC(図3参照)が、次回の駐車ブレーキ作動時の応答性に影響を与えるほど拡大していない場合でも、オートアジャスト制御(クリアランスCの自動的な調整動作)が行われ、これによって、電動駐車ブレーキの作動頻度が余分に増加し、耐久性に影響を及ぼす可能性がある。
そこで、本実施形態では、このような比較例の問題を解消すべく、図4に示すS5による判定処理で、最後にリリース制御を行ったタイミングからの走行距離Lが閾値Ls以上となったか否かを判定すると共に、かつオートアジャスト制御の条件を満たしているか否かを判断する。これにより、車両を停車させてイグニッションスイッチ(IGN SW)がOFFされ、かつ車両がロックされていない非制動状態において、図5に示す処理手順でオートアジャスト制御を実行する。
この結果、純粋にサービスブレーキによってブレーキパッド23が摩耗したと判断された場合にのみオートアジャスト制御を行うことができる。これにより、次回の駐車ブレーキ作動に先立って、アプライ制御の応答性が悪くなることが予想される場合に、オートアジャスト制御を行うことで、電動駐車ブレーキによるクリアランスCの調整動作を適正に行うことができ、駐車ブレーキの作動頻度が余分に増えるのを抑制し、耐久性、信頼性を向上することができる。
なお、前記実施形態では、駐車ブレーキ用の回転直動変換機構33を、ベースナット34、プッシュロッド35およびボールアンドランプ機構36等により構成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、例えば電動モータの回転を直線運動(直動)に変換する直動部材を備える構成であればよく、種々の回転直動変換機構にも適用可能である。
また、前記実施形態では、駐車ブレーキ制御装置18をESC11のC/U13と別体とする場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、例えば駐車ブレーキ制御装置18をC/U13と一体に構成してもよい。また、駐車ブレーキ制御装置18は、左、右で2つのディスクブレーキ21を制御するようにしているが、左、右のディスクブレーキ21毎に設けるようにしてもよく、この場合には、駐車ブレーキ制御装置18をディスクブレーキ21に一体的に設けることもできる。
さらに、前記実施形態では、左、右の後輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ21とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、左、右の前輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキとしてもよいし、全ての車輪(4輪全て)のブレーキを電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキにより構成してもよい。
次に、上記の実施形態に含まれる発明について記載する。即ち、本発明によれば、前記制御部は、前記リリース制御を行ってからの走行距離に基づいて前記制動部材の摩耗を推定し、該摩耗量が次回作動時の応答性に影響を及ぼすと判断した場合に、前記電動モータを駆動して前記ピストンと直動部材とのクリアランス調整を行う構成としている。これにより、純粋にサービスブレーキによってパッドが摩耗したと判断された場合にのみオートアジャスト制御を行うことができる。従って、オートアジャストの実行頻度を必要最低限に抑制でき、電動駐車ブレーキに掛かる負荷を低減することが可能となる。