以下、本発明の実施の形態によるブレーキシステムを、4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
図1において、車両のボディを構成する車体1の下側(路面側)には、4個の車輪、例えば左,右の前輪2(FL,FR)と左,右の後輪3(RL、RR)とが設けられている。これらの各前輪2および各後輪3には、それぞれの車輪(各前輪2、各後輪3)と共に回転する回転部材(ディスク)としてのディスクロータ4が設けられている。即ち、各前輪2は、液圧式のディスクブレーキ5により各ディスクロータ4が挟持され、各後輪3は、後述する電動駐車ブレーキ機能付の液圧式のディスクブレーキ31により各ディスクロータ4が挟持される。これにより、車輪(各前輪2、各後輪3)毎に制動力が付与される。
車体1のフロントボード側には、ブレーキペダル6が設けられている。ブレーキペダル6は、車両のブレーキ操作時に運転者によって踏込み操作される。ブレーキペダル6には、ペダルスイッチ、ペダルストロークセンサ等のブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)6Aが設けられている。このブレーキ操作検出センサ6Aは、ブレーキペダル6の踏込み操作の有無ないしその操作量を検出し、その検出信号を後述の液圧供給装置用コントローラ13に出力する。なお、ブレーキ操作検出センサ6Aの検出信号は、後述する駐車ブレーキ制御装置21に出力する構成としてもよい。
ブレーキペダル6の踏込み操作は、倍力装置7を介して油圧源となるマスタシリンダ8に伝達される。倍力装置7は、ブレーキペダル6とマスタシリンダ8との間に設けられた負圧ブースタや電動ブースタ等からなり、ブレーキペダル6の踏込み操作時に踏力を増力してマスタシリンダ8に伝える。このとき、マスタシリンダ8は、マスタリザーバ9から供給されるブレーキ液により液圧を発生させる。マスタリザーバ9は、ブレーキ液が収容された作動液タンクを構成している。なお、ブレーキペダル6により液圧を発生する機構は、上記に限らず、ブレーキバイワイヤ方式の機構等、ブレーキペダル6の操作に応じて液圧を発生する機構としてもよい。
マスタシリンダ8に発生した液圧は、例えば一対のシリンダ側液圧配管10A,10Bを介して液圧制御機構としての液圧供給装置11(以下、ESC11という)に送られる。このESC11は、マスタシリンダ8からの液圧をブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配、供給する。これにより、前述の如く車輪(各前輪2、各後輪3)毎に制動力が付与される。
ESC11は、各ディスクブレーキ5,31とマスタシリンダ8との間に配設されている。ESC11は、ブレーキペダル6の操作に応じなくとも各ディスクブレーキ5,31に液圧を供給するものである。このために、ESC11は、ESC11を作動制御する液圧供給装置用コントローラ13(以下、コントロールユニット13という)を有している。コントロールユニット13は、ESC11を駆動制御することにより、ブレーキ側配管部12A〜12Dから各ディスクブレーキ5,31に供給するブレーキ液圧を増圧、減圧または保持する制御を行う。これにより、例えば倍力制御、制動力分配制御、ブレーキアシスト制御、アンチスキッド制御、トラクション制御、横滑り防止を含む車両安定化制御、坂道発進補助制御等のブレーキ制御が実行される。
コントロールユニット13は、マイクロコンピュータ等により構成され、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。また、コントロールユニット13は、図1に示すように、車両データバス16等に接続されている。なお、ESC11の代わりに、公知技術であるABSユニットを用いてもよい。さらには、ESC11を設けずに(省略し)、マスタシリンダ8から直接ブレーキ側配管部12A〜12Dに接続する構成としてもよい。
車両データバス16は、車体1に搭載されたシリアル通信部としてのCANを含んで構成され、車両に搭載された多数の電子機器、コントロールユニット13および後述の駐車ブレーキ制御装置21等との間で車載向けの多重通信を行うものである。この場合、車両データバス16に送られる車両情報としては、例えば操舵角センサ、アクセルセンサ、ブレーキセンサ(ブレーキ操作検出センサ6A)、車輪速センサ、車速センサ、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、シートベルトセンサ、トランスミッションデータ等からの検出信号等の情報、さらには、後述するW/C圧力センサ17、M/C圧力センサ18、勾配センサ19等からの検出信号(情報)が挙げられる。
ホイルシリンダ圧検出手段としてのW/C圧力センサ17は、ブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dにそれぞれ設けられ、それぞれの配管内圧力(液圧)、即ち、該配管内圧力に対応する後述のキャリパ34(シリンダ部36)内部のW/C液圧PW/Cを個別に検出するものである。W/C圧力センサ17は、1つの配管系統に対し1つ設ける構成としてもよく、例えばX配管の場合は、ブレーキ側配管部12Aまたは12Dのいずれかに1つと、ブレーキ側配管部12Bまたは12Cのいずれかに1つとに、それぞれ設ける構成としてもよい。また、ブレーキ側配管部12A,12D、および、ブレーキ側配管部12B,12Cのいずれか1系統に1つだけ設ける構成としてもよい。さらには、W/C圧力センサ17を設けずに(省略し)、ESC11のコントロールユニット13で、後述するM/C圧力センサ18の検出信号からブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dの配管内圧力(W/C液圧PW/C)を推定計算(算出)してもよい。
マスタシリンダ圧検出手段としてのM/C圧力センサ18は、シリンダ側液圧配管10A,10Bにそれぞれ設けられ、それぞれの配管内圧力(液圧)、即ち、該配管内圧力(液圧)に対応するマスタシリンダ8のM/C液圧PM/Cを、配管系統(プライマリ側、セカンダリ側)毎に検出するものである。即ち、M/C圧力センサ18は、キャリパ34内へ供給されるM/C液圧PM/Cを検出するものである。M/C圧力センサ18は、1つだけ設ける構成としてもよく、例えば、プライマリ側にだけ設ける構成としてもよい。
さらには、倍力装置7にストロークセンサを設け、該ストロークセンサにより検出されるストロークから、M/C液圧PM/Cを推定計算(算出)してもよい。このストロークセンサとして、倍力装置7ではなくブレーキペダル6に設けたブレーキ操作検出センサ(ブレーキセンサ)6Aにより検出される操作量(ストローク量)から、M/C液圧PM/Cを推定計算(算出)してもよい。また、倍力装置7として電動アクチュエータを用いる場合は、該電動アクチュエータの電流値あるいはストローク量(作動量)からM/C液圧PM/Cを推定計算(算出)してもよい。もちろん、該電動アクチュエータに圧力センサが内蔵されていれば、その圧力センサの検出値を用いてM/C液圧PM/Cを推定計算(算出)してもよい。
W/C圧力センサ17およびM/C圧力センサ18の検出信号、または、推定計算された液圧の算出値は、W/C液圧PW/C、M/C液圧PM/Cの情報として、車両データバス16に送られる。後述の駐車ブレーキ制御装置21および車両に搭載された多数の電子機器は、W/C液圧PW/C、M/C液圧PM/Cを含む各種の車両情報を、車両データバス16を通じて入手することができる。
勾配検出手段としての勾配センサ19は、車体1に設けられている。この勾配センサ19は、例えば前後加速度センサからなり、車両が位置する路面勾配Gを検出するものである。勾配センサ19の検出信号は、車両が位置する路面勾配情報および車両傾斜情報として、車両データバス16に送られる。後述の駐車ブレーキ制御装置21および車両に搭載された多数の電子機器は、勾配センサ19で検出された路面勾配情報および車両傾斜情報を、車両データバス16を通じて入手することができる。なお、車両の路面勾配情報は、前後加速度センサ以外の代替特性を用いて測定、推定してもよい。
車体1には、運転席(図示せず)の近傍に位置して駐車ブレーキスイッチ20が設けられ、該駐車ブレーキスイッチ20は運転者によって操作される。駐車ブレーキスイッチ20が制動側(駐車ブレーキON側)に操作されたときには、後述の駐車ブレーキ制御装置21から後輪3側のディスクブレーキ31に、後述の電動アクチュエータ43を制動側に回転させるための電力が給電される。これにより、後輪3側のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとして作動する。一方、駐車ブレーキとしての作動を解除するときには、駐車ブレーキスイッチ20が制動解除側(駐車ブレーキOFF側)に操作され、この操作に伴ってディスクブレーキ31に電動アクチュエータ43を逆回転させる電力が給電される。これにより、後輪3側のディスクブレーキ31は、駐車ブレーキとしての作動が解除される。
なお、駐車ブレーキの作動は、車速が0km/hの状態が所定時間継続したとき、エンジンが停止(エンスト)したとき、シフトレバーをP(パーキング)に操作したとき等、駐車ブレーキ制御装置21での駐車ブレーキの作動判断ロジックにより(自動的に)作動させてもよい。また、駐車ブレーキの解除は、アクセル操作等に基づき、駐車ブレーキ制御装置21での駐車ブレーキの解除判断ロジックにより(自動的に)解除させてもよい。本実施の形態の場合は、駐車ブレーキを作動させる旨の信号となる駐車ブレーキ要求信号は、駐車ブレーキスイッチ20から出力される信号だけでなく、上述の駐車ブレーキの作動判断ロジックに基づく作動指令を含むものとしている。
駐車ブレーキ制御装置21は、マイクロコンピュータ等によって構成され、バッテリ14からの電力が電源ライン15を通じて給電される。駐車ブレーキ制御装置21は、本発明の制御装置を構成するもので、後述するディスクブレーキ31の作動(即ち、電動アクチュエータ43の駆動)を制御し、車両の駐車、停車時等に制動力を発生させるためのものである。
駐車ブレーキ制御装置21は、車両の運転者が駐車ブレーキスイッチ20を操作したときに、該駐車ブレーキスイッチ20から出力される信号(アプライ要求信号,リリース要求信号)に基づいて、後述の電動アクチュエータ43を駆動し、ディスクブレーキ31を駐車ブレーキとして作動(アプライ)または解除(リリース)させる。また、駐車ブレーキ制御装置21は、駐車ブレーキスイッチ20からの信号の他、上述の駐車ブレーキの作動・解除の判断ロジックに基づいて、電動アクチュエータ43を駆動し、ディスクブレーキ31の作動または解除を行う。
図1に示すように、駐車ブレーキ制御装置21は、入力側が駐車ブレーキスイッチ20等に接続され、出力側はディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43等に接続されている。また、駐車ブレーキ制御装置21は、その入、出力側が車両データバス16を介してESC11のコントロールユニット13等に接続されている。車両データバス16からは、駐車ブレーキの作動・解除に必要な車両の各種状態量、即ち前述の各種車両情報を取得することができる。なお、車両データバス16から取得する車両情報は、その情報を検出するセンサを駐車ブレーキ制御装置21に直接接続することにより取得する構成としてもよい。また、駐車ブレーキ制御装置21は、ESC11のコントロールユニット13に統合して設けるようにしてもよい。
駐車ブレーキ制御装置21は、例えばフラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなる記憶部(図示せず)を有し、この記憶部には、前述の駐車ブレーキの作動・解除の判断ロジックのプログラム、後述の図4、図5に示す処理プログラム、即ち、駐車ブレーキを作動(アプライ)させるときの制御処理に用いる処理プログラム等が格納されている。
また、駐車ブレーキ制御装置21には、電源ライン15の電圧を検出する電圧センサ、左,右の電動アクチュエータ43それぞれの電流および端子間電圧を検出する電流センサおよび電圧センサ(いずれも図示せず)が内蔵されている。これにより、駐車ブレーキ制御装置21は、駐車ブレーキを作動(アプライ)させるときに、電動アクチュエータ43のモータ電流値に基づいて、該電動アクチュエータ43の駆動を停止できるように構成している。
即ち、駐車ブレーキ制御装置21は、駐車ブレーキスイッチ20または前述の駐車ブレーキの作動判断ロジックによる駐車ブレーキ要求信号に応じて、電動アクチュエータ43を、制動保持状態となる目標押圧力まで駆動する。この場合、目標押圧力は、電動アクチュエータ43の駆動を停止するための電流閾値(目標電流値Amax)として設定(記憶)されている。この目標電流値Amaxは、車両が所定の傾斜(例えば、法律等で規定された傾斜)で停車を維持可能な制動力を発生させることができる電流値となっており、電流閾値IMの最大値となっている。
一方、駐車ブレーキ制御装置21は、電動アクチュエータ43を駆動しているときに、ディスクブレーキ31の液圧P、即ちキャリパ34内の液圧P(の変化)を検出ないし推定(算出)する。なお、キャリパ34内の液圧Pとしては、W/C圧力センサ17により検出されるW/C液圧PW/C、M/C圧力センサ18により検出されるM/C液圧PM/C、M/C液圧PM/Cから算出されるW/C液圧PW/C等、液圧Pに直接的に対応する液圧(PW/C、PM/C)を用いることができる他、他の代替特性を用いてキャリパ34内の液圧Pを推定計算(算出)してもよい。
そして、駐車ブレーキ制御装置21は、駐車ブレーキ要求信号により電動アクチュエータ43を駆動し始めた後、キャリパ34内の液圧Pの変化に応じて目標押圧力となる電流閾値(目標電流値Amax)を変化させる。具体的には、電動アクチュエータ43を駆動しているときに、図6に示す液圧Pと電流閾値IMとの関係に基づいて、目標電流値Amaxをそのときの液圧Pに対応する値(補正目標電流値A1)に補正する。そして、電動アクチュエータ43の電流値が、補正目標電流値A1になったときに、電動アクチュエータ43の駆動を停止する(制動保持状態とする)。
この場合、補正目標電流値A1は、液圧Pが小さくなる程大きな値としている。このため、液圧Pが小さいときには、大きな補正目標電流値A1で電動アクチュエータ43の駆動を停止させることができる。なお、液圧Pが発生していないとき(液圧P=0)には、電流閾値IMは駐車ブレーキ制御装置21に記憶された目標電流値Amaxとなる。
一方、液圧Pが大きいときは、小さな補正目標電流値A1で電動アクチュエータ43の駆動を停止させることができる。これにより、電動アクチュエータ43の駆動中の液圧Pの変化に拘わらず、そのときの液圧Pに応じた適切な目標押圧力(補正目標電流値A1)となったときに、電動アクチュエータ43の駆動を終了させることができる。このような駐車ブレーキを作動(アプライ)させるときの電動アクチュエータ43の制御に関しては、後で詳しく述べる。
さらに、駐車ブレーキ制御装置21の記憶部には、補正実施路面勾配Gminが記憶されている。この補正実施路面勾配Gminは、勾配センサ19により検出された検出値から算出された路面勾配Gの閾値であり、電動アクチュエータ43駆動のための電流閾値IMを補正目標電流値A1とするか目標電流値Amaxとするかを決定するためのものである。
即ち、キャリパ34内の液圧Pよりも駐車ブレーキ制御装置21に送られた液圧情報が大きい場合には、その液圧情報に基づいた補正目標電流値A1で電動アクチュエータ43の駆動を停止させると、勾配路では制動力が不足する虞がある。そこで、本実施の形態では、車両が位置する勾配路を検出して電動アクチュエータ43のモータ電流値を決定している。
ここで、補正実施路面勾配Gminの決定について、図3、図7を参照して説明する。
補正実施路面勾配Gminは、液圧Pによるピストン39の推力がなく(液圧P=0)、下限値Aminでアプライした場合に電動アクチュエータ43で発生する推力のみで車両を停車保持可能な路面勾配以下としている。
図3に示すように、ステップ1(以下、S1とする)では、補正目標電流値A1の下限値Aminを決定する。図7に示す特性線51は、電動アクチュエータ43の電流値の時間変化の一例を示している。ここで、下限値Aminは、電動アクチュエータ43に負荷がかかっていない状態で駆動されているとき、即ち直動部材42がピストン39に向けて移動しているとき(T1からT2の間)の電流値A2よりも大きな値となっている(A2<Amin)。これにより、ピストン39に推力を発生させるまで電動アクチュエータ43を駆動させることができる。
次のS2では、電動アクチュエータ43の推力の最小値fminを決定する。この最小値fminは、S1で決定した電流閾値IMの下限値Aminで電動アクチュエータ43の駆動を停止したときに発生する推力の最小値である。この推力の最小値fminは、実験等により環境特性(温度、電圧等)および個体差(製造個体差、モニタ誤差、経年劣化等)を考慮してモータ電流に対する推力が最小となる条件において、電流閾値IMの下限値Aminで電動アクチュエータ43の駆動を停止した場合に電動アクチュエータ43で発生する推力となっている。
次のS3では、補正実施路面勾配Gminを決定する。この補正実施路面勾配Gminは、S2で決定された電動アクチュエータ43の推力の最小値fminのみで車両が停車を保持可能な路面勾配である。補正実施路面勾配Gminは、実験等により個体差(パッド摩擦係数、車両重量、タイヤ寸法、機械的な力の損失等)および誤差(勾配センサ誤差、車両ピッチングによる勾配誤差等)を考慮して、電動アクチュエータ43の推力に対する停車保持可能勾配が最小となる条件での路面勾配となっている。
このようにして決定された補正実施路面勾配Gminは、駐車ブレーキ制御装置21の記憶部に予め記憶される。そして、駐車ブレーキ制御装置21は、勾配センサ19により検出された検出値の所定時間(例えば、50ms)での平均値から車両が位置する路面勾配Gを算出する。駐車ブレーキ制御装置21は、算出された路面勾配Gの絶対値(上り勾配および下り勾配に対応)と補正実施路面勾配Gminとを比較して、キャリパ34内の液圧Pを考慮した電動アクチュエータ43の駆動を行うか否かを決定する。
即ち、路面勾配Gの絶対値が補正実施路面勾配Gminよりも大きいときには、記憶されている目標電流値Amaxとなるまで電動アクチュエータ43を駆動する。一方、路面勾配Gの絶対値が補正実施路面勾配Gmin以下のときには、補正目標電流値A1となるまで電動アクチュエータ43を駆動する。これにより、実際のキャリパ34内の液圧Pと駐車ブレーキ制御装置21が受信した液圧情報との間に誤差が生じていても、勾配路での制動力不足を抑制して車両の停車保持を確保することができる。
なお、補正実施路面勾配Gminにヒステリシスを設けてもよい。また、電流閾値IMの下限値Aminは、液圧に応じた推力補正を実施したい路面勾配の範囲に基づき決定してもよい。即ち、推力補正を実施したい補正実施路面勾配Gminを決定した後に、この補正実施路面勾配Gminに基づき電流閾値IMの下限値Aminを決定してもよい。このような駐車ブレーキを作動(アプライ)させるときの電動アクチュエータ43の制御に関しては、後で詳しく述べる。
なお、本実施の形態では、駐車ブレーキ制御装置21は、ESC11のコントロールユニット13と別体となっているが、コントロールユニット13と一体に構成してもよい。また、駐車ブレーキ制御装置21は、左,右で2つのディスクブレーキ31を制御するようにしているが、左,右のディスクブレーキ31毎に設けるようにしてもよく、この場合には、駐車ブレーキ制御装置21をディスクブレーキ31に一体的に設けることもできる。
次に、左,右の後輪3側に設けられる電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31の構成について、図2を参照しつつ説明する。なお、図2では、左,右の後輪3に対応してそれぞれ設けられた左,右のディスクブレーキ31のうちの一方のみを示している。
車両の左,右にそれぞれ設けられた一対のディスクブレーキ31は、電動式の駐車ブレーキ機能が付設された液圧式のディスクブレーキとして構成されている。即ち、ディスクブレーキ31は、駐車ブレーキ要求信号(例えば、駐車ブレーキスイッチ20からのアプライ要求信号、前述の駐車ブレーキの作動判断ロジックに基づく作動指令)に応じて電動アクチュエータ43により車両の制動の保持が可能であるとともに、ブレーキペダル6の操作に応じて液圧源となるマスタシリンダ8(および/またはESC11)からの液圧供給により車両の制動が可能なブレーキ装置として構成されている。
ここで、ディスクブレーキ31は、車両の後輪3側の非回転部分に取付けられる取付部材32と、摩擦部材としてのインナ側,アウタ側のブレーキパッド33と、後述の電動アクチュエータ43が設けられたキャリパ34とを含んで構成されている。
取付部材32は、ディスクロータ4の外周を跨ぐようにディスクロータ4の軸方向(即ち、ディスク軸方向)に延びディスク周方向で互いに離間した一対の腕部(図示せず)と、該各腕部の基端側を一体的に連結するように設けられ、ディスクロータ4のインナ側となる位置で車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部32Aとを含んで構成されている。また、取付部材32には、ディスクロータ4のアウタ側となる位置で前記各腕部の先端側を互いに連結する補強ビーム32Bが一体に形成されている。
これによって、取付部材32の各腕部の間は、ディスクロータ4のインナ側で支承部32Aにより一体的に連結されると共に、アウタ側で補強ビーム32Bにより一体的に連結されている。インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、摩擦部材を構成するもので、車両の車輪(具体的には後輪3)と共に回転するディスクロータ4の両面に当接可能に配置され、取付部材32の前記各腕部によりディスク軸方向に移動可能に支持されている。インナ側,アウタ側のブレーキパッド33は、後述のキャリパ34(キャリパ本体35、ピストン39)によりディスクロータ4の両面側に押圧されるものである。
取付部材32には、ディスクロータ4の外周側を跨ぐようにキャリパ34が配置されている。キャリパ34は、取付部材32の前記各腕部に対してディスクロータ4の軸方向に沿って移動可能に支持されたキャリパ本体35と、このキャリパ本体35内に設けられたピストン39とにより大略構成されている。キャリパ34には、後述する回転直動変換機構40と電動アクチュエータ43とが設けられている。キャリパ34は、ブレーキパッド33をブレーキペダル6の操作に基づく液圧によりピストン39で押圧(推進)するものである。
キャリパ本体35は、シリンダ部36とブリッジ部37と爪部38とにより構成されている。シリンダ部36は、軸方向の一側が隔壁部36Aとなって閉塞されディスクロータ4に対向する他側が開口端となった有底円筒状に形成されている。ブリッジ部37は、ディスクロータ4の外周側を跨ぐように該シリンダ部36からディスク軸方向に延びて形成されている。爪部38は、ブリッジ部37を挟んでシリンダ部36の反対側に延びるように配設されている。キャリパ本体35のシリンダ部36は、ディスクロータ4の一側(インナ側)に設けられたインナ脚部を構成し、爪部38はディスクロータ4の他側(アウタ側)に設けられたアウタ脚部を構成するものである。
キャリパ本体35のシリンダ部36は、図1に示すブレーキ側配管部12Cまたは12Dを介してブレーキペダル6の踏込み操作等に伴う液圧が供給される。このシリンダ部36には、後述の電動アクチュエータ43との間に位置して隔壁部36Aが一体形成されている。該隔壁部36Aの内周側には、電動アクチュエータ43の出力軸43Bが回転可能に装入されている。キャリパ本体35のシリンダ部36内には、押圧部材としてのピストン39と後述の回転直動変換機構40等とが設けられている。なお、本実施の形態においては、回転直動変換機構40がピストン39内に収容されるように構成されているが、回転直動変換機構40によってピストン39が推進されるようになっていれば、必ずしも回転直動変換機構40がピストン39内に収容されていなくともよい。
ここで、ピストン39は、開口側となる軸方向の一側がシリンダ部36内に挿入され、インナ側のブレーキパッド33に対面する軸方向の他側が蓋部39Aとなって閉塞されている。また、シリンダ部36内には、回転直動変換機構40がピストン39の内部に収容して設けられ、ピストン39は、該回転直動変換機構40によりシリンダ部36の軸方向に推進されるようになっている。回転直動変換機構40は、押圧部材保持機構を構成するもので、シリンダ部36内への前記液圧付加とは別に、キャリパ34のピストン39を外力、即ち、電動アクチュエータ43により推進させ、推進したピストンを保持するものである。そして、左,右の後輪3に対応して左,右のディスクブレーキ31をそれぞれ設けることから、回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43も、車両の左,右それぞれに設けられている。
回転直動変換機構40は、台形ねじ等の雄ねじが形成された棒状体からなるねじ部材41と、台形ねじからなる雌ねじ穴が内周側に形成された推進部材となる直動部材42とにより構成されている。即ち、直動部材42の内周側に螺合したねじ部材41は、後述の電動アクチュエータ43による回転運動を直動部材42の直線運動に変換するねじ機構を構成している。この場合、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとは、不可逆性の大きいねじ、本実施の形態においては、台形ねじを用いて形成することにより押圧部材保持機構を構成している。
この押圧部材保持機構(回転直動変換機構40)は、電動アクチュエータ43に対する給電を停止した状態でも、直動部材42(即ち、ピストン39)を任意の位置で摩擦力(保持力)によって保持し、省エネルギ化を図ることができる。なお、押圧部材保持機構は、電動アクチュエータ43により推進された位置にピストン39を保持することができればよく、例えば台形ねじ以外の不可逆性の大きいねじとしてもよい。
直動部材42の内周側に螺合して設けられたねじ部材41は、軸方向の一側に大径の鍔部となるフランジ部41Aが設けられ、軸方向の他側がピストン39の蓋部39A側に向けて延びている。ねじ部材41は、フランジ部41A側で後述する電動アクチュエータ43の出力軸43Bに一体的に連結されている。また、直動部材42の外周側には、直動部材42をピストン39に対して廻止め(相対回転を規制)し、軸方向の相対移動を許す係合突部42Aが設けられている。
電動機構としての電動アクチュエータ43は、ケーシング43A内に設けられている。このケーシング43Aは、キャリパ本体35のシリンダ部36に隔壁部36Aの外側位置に固定して設けられている。電動アクチュエータ43は、ステータ、ロータ等を内蔵する公知技術のモータと、該モータのトルクを増幅する減速機(いずれも図示せず)とから構成されている。減速機は、増幅後の回転トルクを出力する出力軸43Bを有している。出力軸43Bは、シリンダ部36の隔壁部36Aを軸方向に貫通して延び、シリンダ部36内でねじ部材41のフランジ部41A側と一体に回転するように連結されている。
出力軸43Bとねじ部材41との連結手段は、例えば軸方向には移動可能であるが回転方向は回り止めされるように構成することができる。この場合は、例えばスプライン嵌合や多角形柱による嵌合(非円形嵌合)等の公知の技術が用いられる。なお、減速機としては、例えば遊星歯車減速機やウォーム歯車減速機等を用いてもよい。また、ウォーム歯車減速機等、逆作動性のない(不可逆性の)公知の減速機を用いる場合は、回転直動変換機構40は、ボールねじやボールランプ機構等、可逆性のある公知の機構を用いることができる。この場合は、例えば、可逆性の回転直動変換機構と不可逆性の減速機とにより押圧部材保持機構を構成することができる。
ここで、運転者が図1および図2に示す駐車ブレーキスイッチ20を操作したときには、駐車ブレーキ制御装置21から電動アクチュエータ43(のモータ)に給電され、電動アクチュエータ43の出力軸43Bが回転される。このため、回転直動変換機構40のねじ部材41は、例えば一方向に出力軸43Bと一体に回転され、直動部材42を介してピストン39をディスクロータ4側に推進(駆動)する。これにより、ディスクブレーキ31は、ディスクロータ4をインナ側,アウタ側のブレーキパッド33間で挟持し、電動式の駐車ブレーキとして作動(アプライ)される。
一方、駐車ブレーキスイッチ20が制動解除側に操作されたときには、電動アクチュエータ43により回転直動変換機構40のねじ部材41が他方向(逆方向)に回転駆動される。これにより、直動部材42が回転直動変換機構40を介してディスクロータ4から離れる(離間する)後退方向に駆動され、ディスクブレーキ31は駐車ブレーキとしての作動が解除(リリース)される。
この場合、回転直動変換機構40では、ねじ部材41が直動部材42に対して相対回転されると、ピストン39内での直動部材42の回転が規制されているため、直動部材42は、ねじ部材41の回転角度に応じて軸方向に相対移動する。これにより、回転直動変換機構40は、回転運動を直線運動に変換し、直動部材42によりピストン39が推進される。また、これと共に、回転直動変換機構40は、直動部材42を任意の位置で摩擦力によって保持することにより、ピストン39を電動アクチュエータ43により推進された位置に保持する。
シリンダ部36の隔壁部36Aには、ねじ部材41のフランジ部41Aとの間にスラスト軸受44が設けられている。このスラスト軸受44は、ねじ部材41からのスラスト荷重を隔壁部36Aと一緒に受承し、隔壁部36Aに対するねじ部材41の回転を円滑にするものである。また、シリンダ部36の隔壁部36Aには、電動アクチュエータ43の出力軸43Bとの間にシール部材45が設けられている。シール部材45は、シリンダ部36内のブレーキ液が電動アクチュエータ43側に漏洩するのを阻止するように両者の間をシールしている。
また、シリンダ部36の開口端側には、シリンダ部36とピストン39との間をシールする弾性シールとしてのピストンシール46と、シリンダ部36内への異物侵入を防ぐダストブーツ47とが設けられている。ダストブーツ47は、可撓性を有した蛇腹状のシール部材により構成され、シリンダ部36の開口端とピストン39の蓋部39A側の外周との間に取付けられている。
なお、前輪2側のディスクブレーキ5は、後輪3側のディスクブレーキ31と駐車ブレーキ機構を除けばほぼ同様に構成されている。即ち、前輪2側のディスクブレーキ5は、後輪3側のディスクブレーキ31のように、駐車ブレーキとして作動する回転直動変換機構40および電動アクチュエータ43等が設けられていない。しかし、これ以外の点では前輪2側のディスクブレーキ5もディスクブレーキ31とほぼ同様に構成されるものである。また、ディスクブレーキ5に代えて、前輪2側にも電動駐車ブレーキ機能付のディスクブレーキ31を設ける構成としてもよい。
また、本実施の形態では、電動駐車ブレーキ機能が付設された液圧式のディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、これに限るものではなく、例えば、電動駐車ブレーキ機能が付設された液圧式のドラムブレーキ等、常用ブレーキとしての液圧機構と駐車ブレーキとしての電動機構との2つの機構に基づく押圧力が加わるブレーキ装置であれば、その構成は、上述の実施の形態の構成でなくともよい。
本実施の形態による4輪自動車のブレーキ装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両の運転者がブレーキペダル6を踏込み操作すると、その踏力が倍力装置7を介してマスタシリンダ8に伝達され、マスタシリンダ8によってブレーキ液圧が発生する。マスタシリンダ8で発生した液圧は、シリンダ側液圧配管10A,10B、ESC11およびブレーキ側配管部12A,12B,12C,12Dを介して各ディスクブレーキ5,31に分配、供給され、左,右の前輪2と左,右の後輪3とにそれぞれ制動力が付与される。
この場合、後輪3側のディスクブレーキ31について説明すると、キャリパ34のシリンダ部36内にブレーキ側配管部12C,12Dを介して液圧が供給され、シリンダ部36内の液圧上昇に従ってピストン39がインナ側のブレーキパッド33に向けて摺動変位する。これにより、ピストン39は、インナ側のブレーキパッド33をディスクロータ4の一側面に押圧し、このときの反力によってキャリパ34全体が取付部材32の前記各腕部に対してディスクロータ4のインナ側に摺動変位する。
この結果、キャリパ34のアウタ脚部(爪部38)は、アウタ側のブレーキパッド33をディスクロータ4に押圧するように動作し、ディスクロータ4は、一対のブレーキパッド33によって軸方向の両側から挟持され、液圧付与に従った制動力が発生される。一方、ブレーキ操作を解除したときには、シリンダ部36内への液圧供給が解除、停止されることにより、ピストン39がピストンシール46によってシリンダ部36内へと後退するように変位し、インナ側とアウタ側のブレーキパッド33がディスクロータ4から離間することによって、車両は非制動状態に戻される。
次に、車両の運転者が駐車ブレーキを作動(アプライ)させるべく駐車ブレーキスイッチ20を操作したときには、駐車ブレーキ制御装置21からディスクブレーキ31の電動アクチュエータ43に給電が行われ、電動アクチュエータ43の出力軸43Bが回転駆動される。電動駐車ブレーキ付のディスクブレーキ31は、電動アクチュエータ43の回転を回転直動変換機構40のねじ部材41と直動部材42を介して直線運動に変換し、直動部材42を軸方向に移動させてピストン39を推進することにより、一対のブレーキパッド33をディスクロータ4の両面に押圧する。
このとき、直動部材42は、ねじ部材41との間に発生する摩擦力(保持力)により制動状態に保持され、後輪3側のディスクブレーキ31は駐車ブレーキとして作動される。即ち、電動アクチュエータ43への給電を停止した後にも、直動部材42の雌ねじとねじ部材41の雄ねじとにより、直動部材42(即ち、ピストン39)を制動位置に保持することができる。
一方、運転者が駐車ブレーキを解除(リリース)すべく駐車ブレーキスイッチ20を制動解除側に操作したときには、駐車ブレーキ制御装置21から電動アクチュエータ43に対してモータ逆転方向に給電され、電動アクチュエータ43の出力軸43Bは、駐車ブレーキの作動時と逆方向に回転される。このとき、回転直動変換機構40は、ねじ部材41と直動部材42とによる制動力の保持が解除されると共に、電動アクチュエータ43の逆回転に対応した移動量で直動部材42をシリンダ部36内へと戻り方向に移動させ、駐車ブレーキ(ディスクブレーキ31)の制動力を解除する。
ところで、電動アクチュエータ43による制動を行うとき(駐車ブレーキを作動させるとき)に、運転者によりブレーキペダル6が踏込まれていたり、ESC11からの液圧供給が行われていたりすると、ピストン39に液圧が加わった状態で、電動アクチュエータ43の駆動が行われる。この場合、ピストン39に液圧が加わっていないときと同じ条件で、電動アクチュエータ43の駆動を停止すると、駐車ブレーキの制動力が過大になる虞がある。
そこで、特許文献1に記載されたブレーキシステムでは、駐車ブレーキ要求信号により電動アクチュエータ43を駆動し始めた後、キャリパ34内の液圧P(W/C液圧PW/C、M/C液圧PM/C)の変化に応じて、目標押圧力を変化させる制御を行っている。
しかし、W/C圧力センサ17、M/C圧力センサ18の不具合、および/または車両データバス16の通信障害等により、実際にキャリパ34の内部で発生している液圧Pと駐車ブレーキ制御装置21で受信した液圧情報との間に誤差が生じている場合には、電動アクチュエータ43で発生させる推力を補正すると、勾配路等では制動力が不足する虞がある。
そこで、本実施の形態では、勾配センサ19で検出された検出値から算出された路面勾配Gの絶対値が補正実施路面勾配Gminよりも大きいときには、記憶されている目標電流値Amaxとなるまで電動アクチュエータ43を駆動する。一方、路面勾配Gの絶対値が補正実施路面勾配Gmin以下のときには、補正目標電流値A1となるまで電動アクチュエータ43を駆動する。
以下、駐車ブレーキを作動(アプライ)させるときに、駐車ブレーキ制御装置21で行う制御処理について、図4、図5を参照しつつ説明する。なお、以下の説明は、駐車ブレーキをかける、即ち、電動アクチュエータ43を駆動し回転直動変換機構40によりピストン39を推進させると共に推進したピストン39を保持するための動作を「アプライ」という。また、図4、図5の処理は、駐車ブレーキ制御装置21に通電している間、所定時間毎に繰り返し実行される。また、図4に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用い、例えばステップ11を「S11」として示すものとする。
図4の処理動作がスタートすると、S11では、後述のアプライ作動中フラグがONであるか否かを判定する。このS11で「NO」、即ちアプライ作動状態(アプライ作動中)ではないと判定された場合には、S12に進む。一方、ステップ1で、「YES」、即ち、アプライ作動状態(アプライ作動中)であると判定された場合には、S14に進む。
S12では、駐車ブレーキスイッチ20等からのアプライ指示、即ち駐車ブレーキ要求信号があるか否かを判定する。このS12で「NO」、即ちアプライ指示がないと判定された場合は、リターンを介してスタートに戻る。一方、S12で「YES」、即ちアプライ指示があると判定された場合は、S13に進む。
S13では、アプライ作動中フラグをONにする。また、直動部材42(ピストン39)がディスクロータ4に近付く方向(アプライ方向)に、左,右の後輪3の各電動アクチュエータ43をそれぞれ駆動し、S14に進む。
S14では、液圧情報の取得処理を行う。駐車ブレーキ制御装置21は、W/C圧力センサ17およびM/C圧力センサ18により検出された検出値を車両データバス16から取得する。そして、駐車ブレーキ制御装置21は、これら検出値からキャリパ34内の液圧情報(例えばP=P1)を算出する。
この場合、駐車ブレーキ制御装置21は、例えば液圧情報が予め設定された所定液圧Pmax以上となっている場合に、液圧情報が異常値であると判断することができる。即ち、駐車ブレーキ制御装置21は、液圧情報が他の車両情報からあり得ない値となっている場合に、液圧情報が異常値であると判断することができる。そして、駐車ブレーキ制御装置21は、液圧情報が異常値となっているときに、液圧情報を最大値Pmaxとすることにより、電流閾値IMを最大値Amaxにする。なお、液圧情報が異常値となっているときに、液圧情報を最小値P=0としてもよい。これは、図6に示すように、液圧情報を最大値Pmaxとしても最小値P=0としても、電流閾値IMを最大値Amaxにすることができるからである。
次のS15では、図5に示すルーチンに基づき液圧補正許可判定処理を行う。この液圧補正許可判定処理は、車両が停止している路面勾配Gにより、液圧補正許可フラグをONにするかOFFにするかを判定する。液圧補正許可判定処理については、後で詳しく説明する。
次のS16では、液圧補正許可フラグがONであるか否かを判定する。即ち、図5に示すS34およびS35で設定された液圧補正許可フラグのON,OFFに基づき、判定処理が行われる。S16で「YES」、即ち液圧補正許可フラグがONであると判定された場合は、S17に進む。一方、S17で「NO」、即ち液圧補正許可フラグがOFFであると判定された場合は、S18に進む。
S17では、液圧情報に基づいて電流閾値IMを設定する。即ち、駐車ブレーキ制御装置21は、液圧補正許可フラグがONに設定されている場合に、S14で取得した液圧情報から電動アクチュエータ43の電流閾値IMを決定する。具体的には、駐車ブレーキ制御装置21は、図6に示す特性線52に基づいて、S14で取得した液圧情報P1から電流閾値IMを補正目標電流値A1(Amin≦A1≦Amax)に設定(補正)する。
ここで、図6について説明する。図6に破線で示す特性線53は、制動力(目標押圧力)が一定となるような、液圧情報に対する電流閾値IMの特性線である。即ち、特性線53は、目標押圧力を一定とする場合における理想的(静的)な液圧情報と電流閾値IMとの関係を示している。しかし、本実施の形態では、特性線52のように、液圧情報が0からP0に至るまでは電流閾値IM=目標電流値Amaxで一定とし、P0以上の領域において特性線53と平行になるように設定している。
このように、特性線52は、所定値A1の算出にオフセットP0を持たせることで、液圧情報の各種動的遅れ(液圧Pを検出する圧力センサの応答性に起因する検出遅れ、車両データバス16による通信遅れ、ESC11のコントロールユニット13および駐車ブレーキ制御装置21等の液圧Pの推定を行う電子機器の計算遅れ)を補償し、目標押圧力を得ることができるように設定されている。なお、S17では、図6に示す特性線図を基に液圧情報P1から補正目標電流値A1を設定したが、例えば予め記憶された演算式から補正目標電流値A1を設定してもよい。
一方、S18では、電流閾値IMを目標電流値Amaxと設定する。即ち、駐車ブレーキ制御装置21は、液圧補正許可フラグがOFFに設定されている場合に、S14で取得した液圧情報の値によらず、電流閾値IMを記憶されている目標電流値Amaxに設定する。
次のS19では、アプライ完了処理を行う。即ち、駐車ブレーキ制御装置21は、電動アクチュエータ43の電流値がS17で設定された補正目標電流値A1またはS18で設定された目標電流値Amax以上を所定時間継続した場合に、アプライ完了フラグをONに設定すると共に、電動アクチュエータ43の駆動を停止させて次のS20に進む。ただし図7において、通電を開始してからT1までの間は、突入電流による誤判定を避けるため、電流閾値IMによる判定は行わない。
一方、駐車ブレーキ制御装置21は、電動アクチュエータ43の電流値がS17で設定された補正目標電流値A1またはS18で設定された目標電流値Amax以上を所定時間継続していない場合に、アプライ完了フラグをOFFに設定すると共に、電動アクチュエータ43の駆動を継続させて次のS20に進む。
次のS20では、アプライ完了フラグがONであるか否かを判定する。S20で「YES」、即ちアプライ完了フラグがONであると判定された場合は、S21に進む。一方、S20で「NO」、即ちアプライ完了フラグがOFFであると判定された場合は、リターンを介してスタートに戻る。
S21では、各タイマ、フラグをクリアする。即ち、電動アクチュエータ43のアプライ作動が終了したことをもって、各タイマ、フラグを初期設定に戻し、リターンを介してスタートに戻る。
次に、S15で行われる液圧補正許可判定処理について、図5を参照して説明する。
図5の処理動作がスタートすると、S31では、車両が停車しているか否かを判定する。車両の停車を判定するのは、後述のS32で路面勾配Gを正確に検出するためである。即ち、勾配センサ19として前後加速度センサを用いる場合は、車両が停車していないと車両の振動等により路面勾配Gを正しく推定できない可能性があるためである。車両が停車しているか否かの判断は、例えば全車輪(前輪2および後輪3)の速度が1km/h未満の状態で所定時間(例えば、80ms)以上継続した場合とすることができる。S31で「YES」、即ち車両が停車していると判定された場合には、S32に進む。一方、S31で「NO」、即ち車両が走行中であると判定された場合には、S34に進み、液圧補正許可フラグをOFFに設定してリターンする。
S32では、路面勾配Gを算出する。即ち、駐車ブレーキ制御装置21は、勾配センサ19で検出された検出値を車両データバス16を介して取得し、検出値の所定時間(例えば、50ms)での平均値から車両が停車している路面勾配Gを算出する。
次のS33では、路面勾配Gの絶対値が補正実施路面勾配Gminよりも大きいか否かを判定する(|路面勾配G|>Gmin)。補正実施路面勾配Gminは、液圧Pによるピストン39の推力がなく、電流閾値IMの下限値Aminでアプライした場合に、電動アクチュエータ43で発生する推力のみで車両を停車保持可能な路面勾配以下となっている。
そして、S33で「YES」、即ち路面勾配Gの絶対値が補正実施路面勾配Gminよりも大きいと判定された場合には、S34に進み、液圧補正許可フラグをOFFに設定し、リターンする。一方、S33で「NO」、即ち路面勾配Gの絶対値が補正実施路面勾配Gmin以下と判定された場合には、S35に進み、液圧補正許可フラグをONに設定し、リターンする。S34、S35で設定された液圧補正許可フラグは、図4のS16の判定処理に用いられる。
かくして、本実施の形態では、車両が補正実施路面勾配Gminよりも大きな路面勾配Gに位置しているときには、予め記憶された目標電流値Amaxで電動アクチュエータ43のアプライ作動を行う。即ち、駐車ブレーキ制御装置21は、液圧Pによるピストン39の推力がない場合に、電動アクチュエータ43で発生する推力の最小値fminのみで車両を停車保持することができない勾配路ではキャリパ34内の液圧Pに応じた推力抑制を実施せずに、予め記憶された目標電流値Amaxで電動アクチュエータ43の駆動を行う。
これにより、キャリパ34内で実際に発生している液圧Pと駐車ブレーキ制御装置21が取得した液圧情報とに誤差が生じていても、勾配路での制動力を確保することができ、ひいては車両の停車保持を図ることができる。
なお、上述した実施の形態では、左,右の後輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ付のディスクブレーキ31とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば左,右の前輪側ブレーキを電動駐車ブレーキ付のディスクブレーキにより構成してもよい。さらには、4輪全ての車輪のブレーキを電動駐車ブレーキ付のディスクブレーキにより構成してもよい。
また、上述した実施の形態では、|路面勾配G|がGminよりも大きいときに、駐車ブレーキ制御装置21に予め記憶された目標電流値Amaxを用いた場合を例に挙げて説明した、しかし、これに限らず、例えば|路面勾配G|がGminよりも大きいときに、補正目標電流値A1の最大値である電流値Amaxを用いる構成としてもよい。
さらに、上述した実施の形態では、常用ブレーキとしての液圧機構と駐車ブレーキとしての電動機構との2つの機構に基づく押圧力が加わる、電動駐車ブレーキ付の液圧式ディスクブレーキ31を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、常用ブレーキとしての液圧機構と駐車ブレーキとしての電動機構との2つの機構に基づく押圧力が加わるブレーキ装置であれば、広く適用することができる。
例えば、ブレーキ装置は、ディスクとブレーキパッドとの摩擦係合に基づいて制動力が付与されるディスクブレーキ式のブレーキ装置に限らず、ドラムとブレーキシューとの摩擦係合に基づいて制動力が付与されるドラムブレーキ式のブレーキ装置として構成してもよい。また、例えばブレーキ装置の駐車ブレーキ機構に取付けたケーブルを電動機構で引っ張ることにより駐車ブレーキを作動させるブレーキ装置として構成してもよい。