以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、同じ構成要素については同じ符号を付しているので説明を省略する場合がある。
(実施の形態1)
<第1例目のレーザ加工装置の主要構成>
図1は本発明の実施の形態1に係るレーザ加工装置の第1例目の構成を示した概念図である。
レーザ加工装置100は、レーザ発振器110と、光学調整部111と、ビームダンパ112と、ミラー113と、ガルバノスキャナ114と、fθレンズ115と、被加工物116が載せられる加工テーブル117と、音響光学素子ドライバ200と、音響光学素子201と、伝送路202と、伝送波検出部210と、検波部211と、検波情報比較部212と、警報機150と、制御装置300とを備える。
レーザ発振器110は、レーザ出力指令信号501を受けてレーザ光120を射出する。レーザ発振器110には、CO2レーザやYAGレーザ等の発振を可能にする種々のレーザ媒質を用いることができる。レーザ発振器110から出力されたレーザ光120は、光学調整部111を介して、音響光学素子201に入射される。
光学調整部111は、コリメータと、開口部を有するマスクとを含んでおり、コリメータ及びマスクは、この順にレーザ光が通過する様に配置されている。コリメータは、ビーム径が適正値になる様にレーザ光120に対して光学調整を行う。マスクは、開口部の大きさによって加工径に対応したビームに整形する。
音響光学素子201は、音響光学素子ドライバ200から出力される高周波ドライブ電力信号504の指令に基づいて、入射されたレーザ光120を回折するオン状態と、入射されたレーザ光120を回折せずに通過させるオフ状態とに選択的に設定される。
高周波ドライブ電力信号504が供給され音響光学素子201がオン状態に設定されている場合、レーザ光120は音響光学素子201によって回折された1次光122が得られる。一方、音響光学素子201がオフ状態に設定されている場合、レーザ光120は、音響光学素子201によって回折されずに音響光学素子201を通過する。これを0次光121とする。
更に詳細に説明すると、音響光学素子201は、内蔵するゲルマニウムの単結晶などの音響光学媒体に、超音波の進行波を発生させることで回折格子を形成し、入力されたレーザ光を回折する。この状態がオン状態である。音響光学素子201は内部に圧電素子等の電圧を超音波振動に変換するトランスジューサを備えている。超音波の発生には、コンデンサとコイルでインピーダンス整合(マッチング)した後、高周波ドライブ電力信号504を当該トランスジューサに供給する。発生した超音波は内部対面の吸音材で吸収される。
音響光学素子201がオン状態で正常に動作している場合には、供給された高周波ドライブ電力信号504は内部で消費されて入力端子に戻ることはない。従って、正常時にはほとんど反射波が発生せず、高周波ドライブ電力信号504に対する反射波の割合は通常20%を越えない。
音響光学素子ドライバ200は、水晶発振子を備えて内部で高周波信号を発振している。発振周波数は数10MHzのオーダであり、ドライブする音響光学素子の特性と回折角度から決定される。例えば40MHzや60MHzの周波数が用いられる。
入力には、AOM動作指令信号502を入力するデジタル入力と、強度指令信号503を入力するアナログ入力がある。内部で発振した連続の高周波信号とAOM動作指令信号502の変調パルスを周波数結合器で合成し、FETやRFトランジスタで強度指令信号503に基づいた増幅率にて増幅した後、音響光学素子201に向けてパルス状に変調された高周波ドライブ電力信号504を出力する。
音響光学素子ドライバ200の出力端子と音響光学素子201入力端子を結ぶ伝送路202には、超短波帯の高周波信号が伝送されるため、同軸ケーブルを用い、終端のインピーダンスもマッチングさせている。マッチングインピーダンスは本実施形態では50Ωに設定している。入力端子や出力端子にはBNC接栓を用いている。伝送路202に異常がなくインピーダンスマッチングも十分にとれていれば、音響光学素子ドライバ200から出力された高周波ドライブ電力信号504は、ほとんどロスなく進行波として伝送され音響光学素子201に入力されて、不要な反射波もほとんど生じない。
音響光学素子201に入射したレーザ光120のうち、本実施形態においては、回折された1次光122がレーザ加工に用いられる。1次光122は適宜設置されたミラー113によって加工ヘッドに導かれる。加工ヘッドには、ガルバノスキャナ114、及びfθレンズ115が備えられている。ガルバノスキャナ114は直交する2方向にスキャンするミラーを有し1次光122の照射位置を制御する。fθレンズ115は、これに入射した1次光122を被加工物116上の照射位置に集光させる。
一方、0次光121はビームダンパ112で吸収し冷却水により排熱される。
伝送波検出部210は、音響光学素子ドライバ200の出力端子と音響光学素子201入力端子を結ぶ伝送路202の途中に設置される。伝送路202で伝送される進行波または反射波を検出して出力する。図1に示す例では、音響光学素子ドライバ200から音響光学素子201に向かって伝送される進行波を検出するように設定されている。
伝送路で一方向に向かう高周波の一部を検出する素子としては方向性結合器またはRFサンプラーを用いるとよい。結合比は20dB程度で、経験上10dB〜40dBであれば十分なS/N比を持った検出信号を得ることができる。なお、本実施形態では方向性結合器を用いた例で説明を行う。
検波部211は、伝送波検出部210で検出された高周波信号を検波する。音響光学素子ドライバ200から音響光学素子201に伝送される高周波ドライブ電力信号504は、パルス状に強度変調された高周波であるので、検出された進行波Pfもパルス状に強度変調された高周波である。これを検波(例えば、全波整流によるAM検波)し、直流成分を抽出すればパルス信号を得ることができる。
検波情報比較部212は、検波部211が出力する検波出力情報511を別途与えられる基準情報512と比較し、基準情報512の示す基準値に対して大小比較した結果を、例えば2値の信号で出力する。検波出力情報511として検波されたアナログ電圧信号が供給される場合、基準情報512も一定の電圧値を与え、その大小を比較する。また、検波出力情報511を検波された信号をAD変換したデジタル値としてもよい。係る場合は基準情報512もデジタル値で供給し、デジタルコンパレータを用いる。
制御装置300は、一定のプログラムに従って装置の制御を行うものであり、その制御機能として、レーザ発振器110に対してはレーザ出力指令信号501を、音響光学素子ドライバ200に対してはAOM動作指令信号502を出力するパルス制御部301と、音響光学素子ドライバ200に対して強度指令信号503を出力する強度指示部302と、検波情報比較部212の比較情報513を受けて音響光学素子201や伝送路202などの異常を判断する判断部310と、検波情報比較部に対して基準情報512を与える基準情報設定部311と、ガルバノスキャナ114の位置情報を監視しながら制御を行うガルバノ制御部303と、判断部310で異常があると判断された場合に警報機150に対して警報信号506を出力する警報部304とを備える。
警報機150は、警報信号506を受けてユーザに異常の有無を報知する。報知する手段は、警報音や警報ランプという一般的な手段に限定されず、操作画面上への表示など異常発生を知らせるものであればよい。あるいは、それらを組み合わせることもできる。
<第1例目のレーザ加工装置の動作>
以上のように構成された本発明のレーザ加工装置の動作について、図1に加え、タイミングチャートを示して説明を行う。
図2は本発明の実施の形態1の制御について、各種信号の時間変化、及び出力ビームが正常であるときの信号やエネルギーの変化を示したタイムチャートである。図2において、横軸は時刻の経過を示し、縦軸はそれぞれの信号の変化を示している。時刻の範囲は、レーザ光を1パルス照射する期間を示している。
ガルバノ制御部303からの指令によってガルバノスキャナ114はレーザ光の照射点に位置決めされる。ガルバノスキャナ114が位置決めされた後、パルス制御部301よりレーザ発振器110に対してレーザ出力指令信号501が発せられる。レーザ発振器110にレーザ出力指令信号501のパルス信号が入力されると、レーザ発振器110の特性で決定される一定の遅延時間の後、レーザパルスがレーザ発振器110から出力される。
パルス制御部301は、音響光学素子ドライバ200にも一定のタイミングでAOM動作指令信号502を出力する。AOM動作指令信号502の出力タイミングは、レーザパルス出力の立ち上がりに必要な時間、例えば数十μ秒程度、レーザ出力指令信号501から遅延させる。音響光学素子ドライバ200は、AOM動作指令信号502がオンになっている期間だけ高周波ドライブ電力信号504を出力する。
高周波ドライブ電力信号504は音響光学素子201に回折格子を形成する数10MHzの高周波信号であり、その出力レベルは、制御装置300の強度指示部302より予め設定しており、音響光学素子ドライバ200にはアナログ電圧の強度指令信号503として入力している。
なお、本実施の形態で示す構成では、音響光学素子ドライバ200に対し、出力指令と強度指令を別に制御している例を示しているが、音響光学素子ドライバ200の出力イネーブル入力を常にオン状態にし、出力強度を制御するアナログ入力に、強度指示電圧をオン電圧とするパルス信号を入力することで、出力指令と強度指令を同時に制御するようにしてもよい。
音響光学素子201は、高周波ドライブ電力信号504が入力されると回折格子を形成し、1次光122が発生する。1次光122が発生するまでのレーザ光120は全て回折されずに0次光121として音響光学素子201を通過する。その状態を、図2の「0次光出力」と「1次光出力」に示している。
0次光出力は、回折格子が形成されるまではレーザパルス出力を一定の透過率を持ってそのまま通過させている。音響光学素子201が動作し回折格子が形成されると、高周波ドライブ電力信号504の強度に応じた回折効率で、入射したレーザ光120が回折され1次光出力が発生する。回折されなかったレーザ光は、そのまま0次光として出力されている。
本実施の形態では、この1次光122が加工に用いられる。1次光122は、適宜設置されたミラー113によって加工ヘッドに導かれ、加工ヘッド内のガルバノスキャナ114によって照射位置が決められ、fθレンズ115によって被加工物116上の照射位置に集光させられる。
制御装置300は、加工に必要な一定期間経過後、AOM動作指令信号502をオフにする。これにより、高周波ドライブ電力信号504の出力も止まり、1次光122の出力も停止する。ほぼ同時にレーザ出力指令信号501もオフにする。これにより、レーザ発振器110も一定の立ち下がりの過渡出力後にレーザパルス出力を停止する。レーザパルスの立ち下がりの過渡出力の間は、音響光学素子201はオフとなっているので、その出力は全て0次光として出力される。
以上、図2に示すように、レーザ発振器110のレーザパルス出力は、一定の立ち上がり・立ち下がりの特性を有しているが、音響光学素子201の1次光122を加工に用いることで、シャープなパルス特性を持ったレーザ光で加工することができる。
<進行波の検出と音響光学素子のドライブ電力について>
更に、音響光学素子の動作とその駆動について詳細に説明する。
音響光学素子201の回折効率は、音響光学素子201に供給した高周波信号の強度に深く関係している。
図3は本発明の実施形態に係る音響光学素子のドライブ電力と回折光の関係を示すグラフである。本図において、縦軸は、回折された1次光出力強度の、出力されるレーザ光全体の強度に対する割合(出力比率)であり、概ね、回折効率に相当する。横軸は、出力比率が最大となる高周波ドライブ電力信号504の強度を100としたときの音響光学素子201に供給する高周波電力の割合を示す。
なお一般的に、最大の出力比率(回折効率)は概ね90%前後であり、個体差がある。実機で使用する場合は本図のように特性を予め測定しておき、所望する出力に対して強度指令信号503の値を決定している。
また、極端に高周波電力が小さい場合は、回折格子が形成されず1次光122は出力されない特性を有している。つまり、1次光122が出力される「高周波電力のしきい値」が音響光学素子201に依存して存在し、微小なレーザ出力を得る強度指令値を設定する場合でも相当の高周波電力が必要である。また、一定の1次光の出力を得るには一定の高周波電力を保証する必要がある。
伝送路202の途中に設置され、音響光学素子ドライバ200から音響光学素子201に向かって伝送される進行波を検出するように設定された伝送波検出部210は、伝送路202に高周波ドライブ電力信号504が出力されると、その信号強度に対応した高周波を検出する。結合比が一定であるか、高周波の周波数が一定であれば、検出された進行波Pfの強度は高周波ドライブ電力信号504の強度に概比例する。図2に示す例では、AOM動作指令信号502がオンになっている間だけ高周波ドライブ電力信号504が出力されるので、同期間、伝送波検出部210は進行波を検出する。
なお、音響光学素子ドライバ200の出力は50Ω系の伝送路202で伝送されるので、電力を50Ωで除算した値の平方根の電圧が出力されている。従って、「高周波電力のしきい値」の電圧が検出可能であれば十分なS/N比を持った検出信号を得ることができる。これまでの経験上10〜40dB程度の結合比である方向性結合器を設置することで、容易に検出できる信号強度を得ることができる。
検出された進行波Pfの強度は高周波ドライブ電力信号504の強度に概比例している。高周波ドライブ電力信号504の強度は、音響光学素子ドライバ200に与えられた強度指令信号503に概比例している。よって、検波部211で検出された進行波Pfを検波すれば、強度指令信号503の指令値に概比例したオン電圧を有するAOM動作指令信号502と相似なパルス状の信号を得ることができる。この信号を「進行波の検波情報信号」として図2に示している。
検波情報比較部212では、この進行波の検波情報と予め設定した基準値を比較する。基準値は、最低保証すべき高周波ドライブ電力信号504の強度、ひいては、強度指令信号503に応じて定める。具体値の導出には、音響光学素子ドライバ200の強度指令値と出力電力の関係式や、伝送路のインピーダンス、そして、伝送波検出部210の結合比を用いて計算してもよいし、実際の装置で、数種の強度指令値を与えて動作させることで検波情報を得て実験的に求めてもよい。
検波情報比較部212の構成の一例を図に示す。図4は本発明の実施形態に係る検波情報比較部に電圧の比較器を設置した一例を示す概略構成図である。
本図において、比較器213の一方の比較情報である検波出力電圧は、検波部211から出力される。他方の比較情報である基準電圧は、制御装置300の基準情報設定部311から与えられる。比較器213は2つの入力の電圧値を比較して比較情報513を出力する。
なお本構成において、比較器213にゲート制御を設けてもよい。ゲート制御端子は、オンした場合のみ比較情報を出力する。こうすれば、不要なタイミングでノイズ等による信号出力を防止することができる。また、比較器213の出力を、一旦、整形器を通してから出力するようにしてもよい。整形器の出力はTTLレベルのデジタル信号とすれば扱いやすい。
また、検波情報比較部212は、図4に示すようなアナログ電圧の比較を行う構成には限定されず、検波情報をAD変換すればデジタル値として扱える。この場合、基準情報もデジタル値で与えることになる。
<比較情報による音響光学素子へのドライブ異常の検出>
比較情報513はレーザ加工装置100において、音響光学素子201、音響光学素子ドライバ200、及び伝送路202の健全性、異常の有無の判断に用いる。
図5は本発明の実施の形態1に係る進行波により異常と判断される場合の信号の一例を示すタイミングチャートである。本図において、図2に示す場合と異なっているのは、検出された進行波Pfのレベルが低いことである。そのため、その検波情報信号も、設定した基準値を下回っている。
検出された進行波Pfのレベルが低くなる、即ち、高周波ドライブ電力信号504のレベルが低くなる原因としては、音響光学素子ドライバ200自体の出力異常、伝送路202のインピーダンス不整合、高周波電力の途中漏洩等が考えられる。結果として、音響光学素子201に供給される高周波電力が低下しているため、回折効率も低くなり、図5に示すように、1次光出力も低下してしまう。本来、強度指令信号503で保証すべき1次光の出力レベルを下回ることになる。
1次光出力が正常に保証値を上回っている図2の場合と、逆に、何らかの異常によって1次光出力が保証値を下回っている図5の場合を見れば、進行波の検波情報信号を基準値と比較することにより、0次光や1次光の出力強度を測定することなしに、異常の有無を判断できることが分かる。
本実施形態では、検波情報比較部212から出力された検波出力情報511は判断部310で異常の有無を判断する。正常か異常かの判断は、検波出力情報511の値が基準情報512の値に対して「大」であるかチェックすることで行う。検波出力情報511の値の方が大きい場合は正常である。検波出力情報511の値の方が小さい場合は異常が発生したと判断する。
<第2例目のレーザ加工装置の主要構成>
次に、上述の構成と一部異なる構成を有したレーザ加工装置について説明する。
図6は本発明の実施の形態1に係るレーザ加工装置の第2例目の構成を示した概念図である。図1と異なる点は、伝送波検出部が、伝送路202で音響光学素子201から音響光学素子ドライバ200に向かって伝送される反射波を検出することにある。それに伴い、正常か異常かの判断も異なる。なお、図1と構成が同じ要素には同一の符号を付している。同一の構成要素では、その説明を省略することもある。
レーザ発振器110、光学調整部111、音響光学素子201、音響光学素子ドライバ200、伝送路202、音響光学素子201のオン・オフによって生じる1次光122と0次光121、1次光122が加工に用いられること、0次光121はビームダンパ112に吸収されること、ミラー113、ガルバノスキャナ114、fθレンズ115、被加工物116、加工テーブル117、警報機150については、上述の第1の例と同じであるので、説明を省略する。
図6に示す例では、音響光学素子ドライバ200から音響光学素子201に向かって伝送される反射波を検出するように設定されている。この例でも、反射波を検出する素子としては、図1の検出方向を逆にすればよく、結線を変更することで同じ方向性結合器を用いることができる。結合比も20dB程度で、経験上10dB〜40dBであれば十分にS/N比を持った検出信号を得ることができる。
検波部211は、伝送波検出部210で検出された反射波Prを検波する点で異なるが、構成としては進行波を検波する場合と同じである。反射波が発生するならば、高周波ドライブ電力信号504によって生じるので、検出された反射波Prも高周波ドライブ電力信号504同様のパルス状の高周波である。これを検波する(AM検波に相当)。反射波が伝送路202中に存在するなら、直流成分を抽出できてパルス信号を得ることができる。
検波情報比較部212についても、基本的構成と動作は第1例目と同じである。検波部211が出力する検波情報を別途与えられる基準情報512と比較し、基準情報512の示す基準値に対して大小比較した結果を、例えば2値の信号で出力する。検波出力情報511として検波されたアナログ電圧信号が供給される場合、基準情報512も一定の電圧値を与え、その大小を比較する。また、検波出力情報511を検波された信号をAD変換したデジタル値としてもよい。係る場合は基準情報512もデジタル値で供給し、デジタルコンパレータを用いる。
制御装置300も、一定のプログラムに従って装置の制御を行うものであり、その制御機能として、パルス制御部301や、強度指示部302、検波情報比較部212の比較情報513を受けて音響光学素子201や伝送路202などの異常を判断する判断部310、検波情報比較部に対して基準情報512を与える基準情報設定部311、ガルバノ制御部303、警報部304を備える。構成については第1例目と同じである。
<第2例目のレーザ加工装置の動作>
以上のように構成された本発明のレーザ加工装置の動作について、図6に加え、タイミングチャートを示して説明を行う。なお、説明を省略している箇所は、第1例目と同じであるので省略している。
図7は本発明の実施の形態1の制御について、各種信号の時間変化、及び出力ビームが正常であるときの信号やエネルギーの変化を示した第2例目のタイムチャートである。図7において、横軸は時刻の経過を示し、縦軸はそれぞれの信号の変化を示している。時刻の範囲は、レーザ光を1パルス照射する期間を示している。
パルス制御部301よりレーザ発振器110に対してレーザ出力指令信号501が発せられる。レーザ発振器110にレーザ出力指令信号501のパルス信号が入力されると、レーザ発振器110の特性で決定される一定の遅延時間の後、レーザパルスがレーザ発振器110から出力される。
パルス制御部301は、音響光学素子ドライバ200にも一定のタイミングでAOM動作指令信号502を出力する。音響光学素子ドライバ200は、AOM動作指令信号502がオンになっている期間だけ高周波ドライブ電力信号504を出力する。高周波ドライブ電力信号504は音響光学素子201に回折格子を形成する数10MHzの高周波信号であり、その出力レベルは、制御装置300の強度指示部302より予め設定しており、音響光学素子ドライバ200にはアナログ電圧の強度指令信号503として入力している。
音響光学素子201は、高周波ドライブ電力信号504が入力されると回折格子を形成し、1次光122が発生する。1次光122が発生するまでのレーザ光120は全て回折されずに0次光121として音響光学素子201を通過する。その状態を、図7の「0次光出力」と「1次光出力」に示している。
制御装置300は、加工に必要な一定期間経過後、AOM動作指令信号502をオフにする。これにより、高周波ドライブ電力信号504の出力も止まり、1次光122の出力も停止する。ほぼ同時にレーザ出力指令信号501もオフにする。これにより、レーザ発振器110も一定の立ち下がりの過渡出力後にレーザパルス出力を停止する。レーザパルスの立ち下がりの過渡出力の間は、音響光学素子201はオフとなっているので、その出力は全て0次光として出力される。
<反射波の検出と音響光学素子のドライブ電力について>
更に、音響光学素子の動作とその駆動について詳細に説明する。
異常が無いと判断できる場合、例えば、終端及び伝送路のインピーダンスが完全にマッチングが取られており、伝送路途中にインピーダンスの不連続や漏えい等の異常もなく、音響光学素子201も供給された高周波電力を正常に変換・吸収しているならば、反射波はほとんど生じない。図7に示す例では、そのような異常のない状態の一例を示している。AOM動作指令信号502がオンになっている間だけ高周波ドライブ電力信号504が出力されて伝送路202には進行波は存在するが、反射波は高周波ドライブ電力信号504の立上りでわずかに存在するが、以降ほとんど生じることがない。
よって、反射波の検波情報信号もほとんど基底値(0値)であり、高周波電力も音響光学素子201に損失がほとんどなく供給されるので、所定の回折効率で1次光出力が得られる。
しかしながら、何らかの異常がある場合、例えば、終端インピーダンスの不整合、伝送路のインピーダンスと終端とのミスマッチング、伝送路途中のインピーダンスの不連続や電力漏洩漏えい、そもそもの音響光学素子201の故障といった要因がある場合は、伝送路202に反射波が観測され、伝送電力のロスや回折格子の形成不全を生じ、必要なレベルの1次光122を得ることができなくなる。
そのような状態の1例を図8に示す。図8は本発明の実施の形態1に係る反射波により異常と判断される場合の信号の一例を示すタイミングチャートである。この例では、AOM動作指令信号502がオンになっている間は高周波ドライブ電力信号504が出力されて伝送路202には進行波を生じ、上述の異常によって同時に反射波も生じている。
検出された反射波Prの強度は高周波ドライブ電力信号504の強度に対応して増減する。高周波ドライブ電力信号504の強度は、音響光学素子ドライバ200に与えられた強度指令信号503に概比例している。よって、検波部211で検出された反射波Prの検波情報信号を強度指令信号503に応じて定めた基準値と比較すれば、反射波が異常なレベルで発生しているか否かを判断できる。
検波情報比較部212では、この反射波の検波情報と予め設定した基準値を比較する。基準値は、進行波に対して最低保証すべき反射波比率から定める。具体的には、進行波の強度と比例関係にある強度指令信号503に応じて定めればよい。導出方法としては、音響光学素子ドライバ200の強度指令値と出力電力の関係式や、伝送路のインピーダンス、そして、許容される反射波比率(例えば最大20%や10%)と伝送波検出部210の結合比を用いて計算してもよいし、実際の装置で、数種の強度指令値を与えて動作させることで検波情報を得て実験的に求めてもよい。
なお、異常ではなくても、インピーダンスの多少の不整合はあり得ることであり、伝送路内でのインピーダンスの不均一もあって、多少の反射波の発生や定在波の存在はある。しかし、上述の異常が発生した場合は基準値から大きく解離するため、発生した反射波を基準値と比較することで異常の有無の判断に資するといえる。
また、アナログ電圧で比較する場合、検波情報比較部212は、上述のように図4に示すような構成とすればよい。あるいは、検波情報をAD変換すればデジタル値として扱ってもよく、この場合、基準情報もデジタル値で与えることになる。
<比較情報による音響光学素子と伝送路の異常の検出>
比較情報513はレーザ加工装置100において、音響光学素子201、音響光学素子ドライバ200、及び伝送路202の健全性、異常の有無の判断に用いる。
図8おいて、検出された反射波Prのレベルが高く、そのため、反射波の検波情報信号も設定した基準値を上回っている。
その原因が、伝送路202のインピーダンス不整合のように電力の伝送ロスを生じるものであれば、音響光学素子201に供給される高周波電力が低下しているため、回折効率も低くなり、図8に示すように、1次光出力も低下してしまう。本来、強度指令信号503で保証すべき1次光の出力レベルを下回ることになる。
あるいは、音響光学素子201自体が故障してしまった場合は、回折格子の形成そのものが保証できず、1次光出力が得られるかどうかの保証もない。
以上、反射波の検波情報信号を基準値と比較することにより、0次光や1次光の出力強度を測定することなしに、音響光学素子201や高周波ドライブ電力信号504を供給する伝送路の異常の有無を判断できることが分かる。本実施形態では、検波情報比較部212から出力された検波出力情報511は判断部310で異常の有無を判断する。正常か異常かの判断は、検波出力情報511の値が基準情報512の値に対して「小」であるかチェックすることで行う。検波出力情報511の値の方が小さい場合は正常である。検波出力情報511の値の方が大きい場合は異常が発生したと判断する。
<第1例目と第2例目共通の異常判断工程を含むレーザ加工方法の例示>
本実施形態の構成では、AOM動作指令信号502がオンになっている期間は何時でも伝送路202で伝送される進行波の異常診断が可能である。あるいは、本実施形態の構成では、当該期間に異常診断を反射波を検出することで行う構成とすることもできる。よって、AOM動作指令信号502がオンになっている期間の全部、またはその内の所定の割合の期間、または、当該期間内の特定の時刻に、比較情報513を取得することで異常の有無を判断する。
なお、異常の有無を判断する期間を明確にし外乱を除去するように、AOM動作指令信号502に同期したパルスタイマを設け、パルスタイマがオンの期間だけ比較器のゲートをイネーブルにするようにしても良い。
以下、上述の異常判断を工程として含むレーザ加工方法を幾つか列挙する。これらは、第1例目の構成と第2例目の構成のレーザ加工方法で共通である。
(1)レーザ出力指令のオン時に判断、即、対応
本実施形態の構成では、レーザ加工用にレーザ光を照射するたびにAOM動作指令信号502をオンにする期間が存在する。この加工方法では、そのたびに異常の有無を判断する。つまり、レーザ加工中のレーザ光の照射全てに異常診断を行うことになる。比較情報513から正常と判断されれば、通常のレーザ加工動作を続行する。
逆に、異常を検出すると、制御装置300は警報部304より警報信号506を出力し、警報機150によって異常発生を操作者に伝える。同時に、レーザ加工装置100を停止することで不良を流出させるリスクを避けることができる。
また、レーザ加工装置100の停止は1回の異常検出で行うのではなく、所定の回数を超えてから行ってもよい。
(2)レーザ出力指令のオン時に判断、加工終了後に異常箇所提示
レーザ照射時の全てのAOM動作指令信号502がオンの期間に、正常か異常かを判断するが、その回数をカウントしておき、AOM動作指令信号502のパルス数と比較して、レーザ加工終了時に異常の有無を報知するようにする。全く異常がなければ、AOM動作指令信号502のパルス数と、正常と判断した回数は一致する。
逆に、一致しない場合は1または複数の箇所で異常が発生しているので、何回目のAOM動作指令信号502で異常と判断されたかを警報機150を通じて作業者に報知する。この場合、加工終了後に被加工物の異常箇所の検査を行え、多面取り加工の場合、一部は不良として廃棄しても、正常に加工された部分は良品として用いることができる。
(3)レーザ照射開始前に判断、異常の提示
そもそも本発明は、レーザ光の照射とは無関係に、音響光学素子201や音響光学素子ドライバ200や伝送路202の健全性、異常の有無を診断できるものである。このレーザ加工方法では、レーザ加工を開始する前、あるいは、被加工物を搬送中、レーザ発振器のアイドリング中など、レーザ照射開始前に、1または複数回、AOM動作指令信号502をテスト的に出力し、比較情報513から異常診断を行う。
かかるテストで正常と判断されれば、通常通りにレーザ加工を行う。逆に、異常を検出すると、制御装置300は警報部304より警報信号506を出力し、警報機150によって異常発生を操作者に伝える。同時に、レーザ加工装置100をレーザ照射前に停止することで不良を発生させるリスクを避けることができる。
なお、(1)〜(3)の工程を独立で記載したが、当然、それぞれを組み合わせて一連のレーザ加工方法の工程に含めることができる。
以上に述べたように、本実施の形態のレーザ加工装置によれば、伝達波検出部で進行波を検出し検波した信号と、所定通りのドライブ状態か判定するための基準情報とを比較することで、十分な強度のドライブ信号が異常なく伝送路から供給されているか否かが分かり、伝達波検出部で反射波を検出し検波した信号と、所定以下のレベルであるか判定するための基準情報とを比較することで、音響光学素子や伝送路の異常がわかるので、音響光学素子の動作とドライブが常時適正に行われているか診断することを可能とし、ひいては、レーザ加工の品質の向上に資することができる。
なお、検波情報比較部212を独立した構成要素として説明したが、当該構成の全て、あるいは一部を制御装置300の機能構成としてもよい。また、基準情報設定・比較・判断などの機能をハードウエアとして構成してもよく、一連の制御アルゴリズムに組み込んでソフトウエアで構成してもよい。
(実施の形態2)
本発明のレーザ加工装置の第2の実施形態について、図を用いて説明する。第1の実施形態と説明が重複する点については簡略化、あるいは省略し、異なる箇所について説明するものとする。また、符号については同一構成については同一の番号を付している。
図9は本発明の実施の形態2に係るレーザ加工装置の構成を示した概念図である。実施の形態1と異なる点は、伝送路202に、音響光学素子ドライバ200から音響光学素子201に伝送される進行波を検出する進行波検出部240と、音響光学素子201から音響光学素子ドライバ200に向かう反射波を検出する反射波検出部250の双方を備えていることにある。それに伴い、検波部、検波情報比較部なども2系統具備する点でも異なる。
なお、実施の形態1で示した図1及び図6と構成が同じ要素には同一の符号を付している。なお、同一の構成要素では、その説明を省略することもある。
図9において、レーザ発振器110、光学調整部111、音響光学素子201、音響光学素子ドライバ200、伝送路202、音響光学素子201のオン・オフによって生じる1次光122と0次光121、1次光122が加工に用いられること、0次光121はビームダンパ112に吸収されること、ミラー113、ガルバノスキャナ114、fθレンズ115、被加工物116、加工テーブル117、警報機150については、上述の実施の形態1と同じであるので、説明を省略する。
進行波検出部240は、伝送路202の途中に設置され、音響光学素子ドライバ200から音響光学素子201に向かって伝送される進行波を検出するように設定されている。反射波検出部250は、逆に、音響光学素子ドライバ200から音響光学素子201に向かう反射波を検出するように設定されている。ともに、方向性結合器を用いるとよく、結合比は20dB程度で、経験上10dB〜40dBであれば十分にS/N比を持った検出信号を得ることができる。
なお、進行波検出部240と反射波検出部250を一体の方向性結合器で構成することが好ましい。この場合は、双方の結合比を揃えやすく、レベルを比較する場合の精度向上が見込める。
検波部も2系統備えている。第1の検波部241は検出された進行波Pfを検波して第1の検波出力情報541を出力する。第2の検波部251は検出された反射波Prを検波して第2の検波出力情報551を出力する。それぞれの構成・機能については、実施の形態1と同じである。
検波情報比較部も同様に2系統備えている。第1の検波情報比較部242は、第1の検波部241が出力する第1の検波出力情報541を別途与えられる第1の基準情報542と比較して第1の比較情報543を出力する。第2の検波情報比較部252は、第2の検波部251が出力する第2の検波出力情報551を別途与えられる第2の基準情報552と比較して第2の比較情報553を出力する。それぞれの構成・機能については、実施の形態1と同じであり、比較する信号がアナログ電圧はデジタル値か限定はされない。
制御装置300も、一定のプログラムに従って装置の制御を行うものであり、その制御機能として、パルス制御部301や、強度指示部302、検波情報比較部212の比較情報513を受けて音響光学素子201や伝送路202などの異常を判断する判断部310、検波情報比較部に対して基準情報512を与える基準情報設定部311、ガルバノ制御部303、警報部304を備える。構成については実施の形態1と同じである。
異なる点は、判断部と基準情報設定部も2系統備えていることにある。第1の判断部340は第1の比較情報543より音響光学素子201や伝送路202などの異常を判断する。比較のための第1の基準情報542は第1の基準情報設定部351より出力する。第2の判断部350は第2の比較情報553より音響光学素子201や伝送路202などの異常を判断する。比較のための第2の基準情報552は第2の基準情報設定部352より出力する。それぞれの構成・機能については、実施の形態1と同じである。
<レーザ加工装置の動作>
以上のように構成された本発明のレーザ加工装置の動作について、図9に加え、タイミングチャートを示して説明を行う。なお、説明を省略している箇所は、実施の形態1と同じであるので省略している。
図10は本発明の実施の形態2に係る音響光学素子が正常にドライブされ配線も含め正常に動作している場合の信号の状態を示すタイミングチャートである。図10において、横軸は時刻の経過を示し、縦軸はそれぞれの信号の変化を示している。時刻の範囲は、レーザ光を1パルス照射する期間を示している。
パルス制御部301よりレーザ発振器110に対してレーザ出力指令信号501が発せられる。レーザ発振器110にレーザ出力指令信号501のパルス信号が入力されると、レーザ発振器110の特性で決定される一定の遅延時間の後、レーザパルスがレーザ発振器110から出力される。
パルス制御部301は、音響光学素子ドライバ200にも一定のタイミングでAOM動作指令信号502を出力する。音響光学素子ドライバ200は、AOM動作指令信号502がオンになっている期間だけ高周波ドライブ電力信号504を出力する。高周波ドライブ電力信号504は音響光学素子201に回折格子を形成する数10MHzの高周波信号であり、その出力レベルは、制御装置300の強度指示部302より予め設定しており、音響光学素子ドライバ200にはアナログ電圧の強度指令信号503として入力している。
なお、本実施の形態で示す構成でも、音響光学素子ドライバ200に対し、出力指令と強度指令を別に制御している例を示しているが、音響光学素子ドライバ200の出力イネーブル入力を常にオン状態にし、出力強度を制御するアナログ入力に、強度指示電圧をオン電圧とするパルス信号を入力することで、出力指令と強度指令を同時に制御するようにしてもよい。
音響光学素子201は、高周波ドライブ電力信号504が入力されると回折格子を形成し、1次光122が発生する。1次光122が発生するまでのレーザ光120は全て回折されずに0次光121として音響光学素子201を通過する。その状態を、図10の「0次光出力」と「1次光出力」に示している。
制御装置300は、加工に必要な一定期間経過後、AOM動作指令信号502をオフにする。これにより、高周波ドライブ電力信号504の出力も止まり、1次光122の出力も停止する。ほぼ同時にレーザ出力指令信号501もオフにする。これにより、レーザ発振器110も一定の立ち下がりの過渡出力後にレーザパルス出力を停止する。レーザパルスの立ち下がりの過渡出力の間は、音響光学素子201はオフとなっているので、その出力は全て0次光として出力される。
以上、図10に示すように、レーザ発振器110のレーザパルス出力は、一定の立ち上がり・立ち下がりの特性を有しているが、音響光学素子201の1次光122を加工に用いることで、シャープなパルス特性を持ったレーザ光で加工することができる。
<進行波及び反射波の検出と音響光学素子のドライブについて>
更に、音響光学素子の駆動について詳細に説明する。
伝送路202の途中に設置された進行波検出部240は、伝送路202に高周波ドライブ電力信号504が出力されると、その信号強度に対応した進行波を検出する。結合比が一定であるか、高周波の周波数が一定であれば、検出された進行波Pfの強度は高周波ドライブ電力信号504の強度に概比例する。図10に示す例では、AOM動作指令信号502がオンになっている間だけ高周波ドライブ電力信号504が出力されるので、同期間、進行波検出部240は進行波を検出する。
なお、音響光学素子ドライバ200の出力は50Ω系の伝送路202で伝送されるので、電力を50Ωで除算した値の平方根の電圧が出力されている。従って、「高周波電力のしきい値」の電圧が検出可能であれば十分なS/N比を持った検出信号を得ることができる。これまでの経験上10〜40dB程度の結合比である方向性結合器を設置することで、容易に検出できる信号強度を得ることができる。
検出された進行波Pfの強度は高周波ドライブ電力信号504の強度に概比例している。高周波ドライブ電力信号504の強度は、音響光学素子ドライバ200に与えられた強度指令信号503に概比例している。よって、検波部211で検出された進行波Pfを検波すれば、強度指令信号503の指令値に概比例したオン電圧を有するAOM動作指令信号502と相似なパルス状の信号を得ることができる。この信号を「進行波の検波情報信号」として図10に示している。
反射波に関しては、異常が無いと判断できる場合、例えば、終端及び伝送路のインピーダンスが完全にマッチングが取られており、伝送路途中にインピーダンスの不連続や漏えい等の異常もなく、音響光学素子201も供給された高周波電力を正常に変換・吸収しているならば、反射波はほとんど生じない。図10に示す例では、そのような異常のない状態の一例を示している。AOM動作指令信号502がオンになっている間、反射波は高周波ドライブ電力信号504の立上りでわずかに存在するが、以降ほとんど生じることがない。
よって、反射波の検波情報信号もほとんど基底値(0値)であり、高周波電力も音響光学素子201に損失がほとんどなく供給されるので、所定の回折効率で1次光出力が得られる。
<比較情報による音響光学素子へのドライブ異常の検出>
第1の検波情報比較部242では、進行波の検波情報と予め設定した基準値を比較する。基準値は、最低保証すべき高周波ドライブ電力信号504の強度、ひいては、強度指令信号503に応じて定める。具体値の導出には、音響光学素子ドライバ200の強度指令値と出力電力の関係式や、伝送路のインピーダンス、そして、伝送波検出部210の結合比を用いて計算してもよいし、実際の装置で、数種の強度指令値を与えて動作させることで検波情報を得て実験的に求めてもよい。
第1の比較情報543はレーザ加工装置100において、音響光学素子201、音響光学素子ドライバ200、及び伝送路202の健全性、異常の有無の判断に用いる。
図11は本発明の実施の形態2に係る進行波により異常と判断される場合の信号の一例を示すタイミングチャートである。本図において、図10に示す場合と異なっているのは、検出された進行波Pfのレベルが低いことである。そのため、その検波情報信号も、設定した基準値を下回っている。
検出された進行波Pfのレベルが低くなる、即ち、高周波ドライブ電力信号504のレベルが低くなる原因としては、音響光学素子ドライバ200自体の出力異常、伝送路202のインピーダンス不整合、高周波電力の途中漏洩等が考えられる。結果として、音響光学素子201に供給される高周波電力が低下しているため、回折効率も低くなり、図11に示すように、1次光出力も低下してしまう。本来、強度指令信号503で保証すべき1次光の出力レベルを下回ることになる。
以上、1次光出力が正常に保証値を上回っている図10の場合と、逆に、何らかの異常によって1次光出力が保証値を下回っている図11の場合を見れば、進行波の検波情報信号を基準値と比較することにより、0次光や1次光の出力強度を測定することなしに、異常の有無を判断できることが分かる。本実施形態では、第1の検波情報比較部242から出力された第1の検波出力情報541は第1の判断部340で異常の有無を判断する。
本実施形態の構成では、AOM動作指令信号502がオンになっている期間は何時でも伝送路202で伝送される進行波の異常診断が可能である。よって、当該期間の全部、または所定の割合の期間、または、当該期間内の特定の時刻に、第1の検波出力情報541の値が第1の基準情報542の値に対して「大」であるかチェックする。第1の検波出力情報541の値の方が大きい場合は正常である。第1の検波出力情報541の値の方が小さい場合は異常が発生したと判断する。
次に反射波の検出によって異常と判断される状態の1例を図12に示す。図12は本発明の実施の形態2に係る反射波により異常と判断される場合の信号の一例を示すタイミングチャートである。この例では、AOM動作指令信号502がオンになっている間は高周波ドライブ電力信号504が出力されて伝送路202には進行波を生じ、伝送路202や音響光学素子201の異常によって同時に反射波も生じている。
反射波に関し、何らかの異常がある場合、例えば、終端インピーダンスの不整合、伝送路のインピーダンスと終端とのミスマッチング、伝送路途中のインピーダンスの不連続や電力漏洩漏えい、そもそもの音響光学素子201の故障といった要因がある場合は、伝送路202に一定以上の反射波が観測され、伝送電力のロスや回折格子の形成不全を生じ、必要なレベルの1次光122を得ることができなくなる。
検出された反射波Prの強度は高周波ドライブ電力信号504の強度に対応して増減する。高周波ドライブ電力信号504の強度は、音響光学素子ドライバ200に与えられた強度指令信号503に概比例している。よって、第2の検波部251で検出された反射波Prの検波情報信号を強度指令信号503に応じて定めた基準値と比較すれば、反射波が異常なレベルで発生しているか否かを判断できる。
第2の検波情報比較部252では、この反射波の検波情報と予め設定した基準値を比較する。基準値は、進行波に対して最低保証すべき反射波比率から定める。具体的には、進行波の強度と比例関係にある強度指令信号503に応じて定めればよい。導出方法としては、音響光学素子ドライバ200の強度指令値と出力電力の関係式や、伝送路のインピーダンス、そして、許容される反射波比率(例えば最大20%や10%)と伝送波検出部210の結合比を用いて計算してもよいし、実際の装置で、数種の強度指令値を与えて動作させることで検波情報を得て実験的に求めてもよい。
なお、異常ではなくても、インピーダンスの多少の不整合はあり得ることであり、伝送路内でのインピーダンスの不均一もあって、多少の反射波の発生や定在波の存在はある。しかし、上述の異常が発生した場合は基準値から大きく解離するため、発生した反射波を基準値と比較することで異常の有無の判断に資するといえる。
図12に示す1例では、検出された反射波Prのレベルが高く、そのため、反射波の検波情報信号も設定した基準値を上回っている。
その原因が、伝送路202のインピーダンス不整合のように電力の伝送ロスを生じるものであれば、音響光学素子201に供給される高周波電力が低下しているため、回折効率も低くなり、図12に示すように、1次光出力も低下してしまう。本来、強度指令信号503で保証すべき1次光の出力レベルを下回ることになる。
あるいは、音響光学素子201自体が故障してしまった場合は、回折格子の形成そのものが保証できず、1次光出力が得られるかどうかの保証もない。
以上、反射波の検波情報信号を基準値と比較することにより、0次光や1次光の出力強度を測定することなしに、音響光学素子201や高周波ドライブ電力信号504を供給する伝送路の異常の有無を判断できることが分かる。本実施形態では、第2の検波情報比較部252から出力された第2の検波出力情報551は第2の判断部350で異常の有無を判断する。
本実施形態の構成では、AOM動作指令信号502がオンになっている期間は何時でも伝送路202で伝送される反射波による異常診断が可能である。よって、当該期間の全部、または所定の割合の期間、または、当該期間内の特定の時刻に、第2の検波出力情報551の値が第2の基準情報552の値に対して「小」であるかチェックする。第2の検波出力情報551の値の方が小さい場合は正常である。第2の検波出力情報551の値の方が大きい場合は異常が発生したと判断する。
なお、アナログ電圧で比較する場合、第1の検波情報比較部242や第2の検波情報比較部252は、実施の形態1で説明した図4に示すような構成とすればよい。あるいは、検波情報をAD変換すればデジタル値として扱ってもよく、この場合、基準情報もデジタル値で与えることになる。
<異常判断工程を含むレーザ加工方法の例示>
本実施形態の構成では、AOM動作指令信号502がオンになっている期間は何時でも伝送路202で伝送される進行波による異常診断が可能である。さらに、当該期間に反射波を検出することによる異常診断を同時に行うこともできる。よって、AOM動作指令信号502がオンになっている期間の全部、またはその内の所定の割合の期間、または、当該期間内の特定の時刻に、第1の比較情報543と第2の比較情報553を取得することで異常の有無を判断する。
なお、異常の有無を判断する期間を明確にし外乱を除去するように、AOM動作指令信号502に同期したパルスタイマを設け、パルスタイマがオンの期間だけ比較器のゲートをイネーブルにするようにしても良い。
以下、上述の異常判断を工程として含むレーザ加工方法を幾つか列挙する。これらは、実施の形態1の構成におけるレーザ加工方法と同じである。
(1)レーザ出力指令のオン時に判断、即、対応
本実施形態の構成では、レーザ加工用にレーザ光を照射するたびにAOM動作指令信号502をオンにする期間が存在する。この加工方法では、そのたびに異常の有無を判断する。つまり、レーザ加工中のレーザ光の照射全てに異常診断を行うことになる。第1の比較情報543と第2の比較情報553から共に正常と判断されれば、通常のレーザ加工動作を続行する。
逆に、異常を検出すると、制御装置300は警報部304より警報信号506を出力し、警報機150によって異常発生を操作者に伝える。同時に、レーザ加工装置100を停止することで不良を流出させるリスクを避けることができる。
なお、レーザ加工装置100の停止は1回の異常検出で行うのではなく、所定の回数を超えてから行ってもよい。
(2)レーザ出力指令のオン時に判断、加工終了後に異常箇所提示
レーザ照射時の全てのAOM動作指令信号502がオンの期間に、正常か異常かを判断するが、その回数をカウントしておき、AOM動作指令信号502のパルス数と比較して、レーザ加工終了時に異常の有無を報知するようにする。全く異常がなければ、AOM動作指令信号502のパルス数と、正常と判断した回数は一致する。
逆に、一致しない場合は1または複数の箇所で異常が発生しているので、何回目のAOM動作指令信号502で異常と判断されたかを警報機150を通じて作業者に報知する。この場合、加工終了後に被加工物の異常箇所の検査を行え、多面取り加工の場合、一部は不良として廃棄しても、正常に加工された部分は良品として用いることができる。
(3)レーザ照射開始前に判断、異常の提示
そもそも本発明は、レーザ光の照射とは無関係に、音響光学素子201や音響光学素子ドライバ200や伝送路202の健全性、異常の有無を診断できるものである。このレーザ加工方法では、レーザ加工を開始する前、あるいは、被加工物を搬送中、レーザ発振器のアイドリング中など、レーザ照射開始前に、1または複数回、AOM動作指令信号502をテスト的に出力し、第1の比較情報543と第2の比較情報553を取得することで異常診断を行う。
かかるテストで正常と判断されれば、通常通りにレーザ加工を行う。逆に、異常を検出すると、制御装置300は警報部304より警報信号506を出力し、警報機150によって異常発生を操作者に伝える。同時に、レーザ加工装置100をレーザ照射前に停止することで不良を発生させるリスクを避けることができる。
なお、(1)〜(3)の工程を独立で記載したが、当然、それぞれを組み合わせて一連のレーザ加工方法の工程に含めることができる。
以上に述べたように、本実施の形態のレーザ加工装置によれば、伝達波検出部で進行波を検出し検波した信号と、所定通りのドライブ状態か判定するための基準情報とを比較することで、十分な強度のドライブ信号が異常なく伝送路から供給されているか否かが分かり、同時に、伝達波検出部で反射波を検出し検波した信号と、所定以下のレベルであるか判定するための基準情報とを比較することで、音響光学素子や伝送路の異常がわかるので、音響光学素子の動作とドライブが常時適正に行われているか診断することを可能とし、ひいては、レーザ加工の品質の向上に資することができる。
<レーザ加工装置の変形例>
本実施の形態において、構成の一部が異なる変形例を図面でもって説明する。
図13は本発明の実施の形態2に係るレーザ加工装置の変形例の構成を示した概念図である。図9と異なる点は、反射波による異常判断に関し、比較に用いる第2の基準情報552を第1の検波部241の検波出力電圧に一定の比率をかけて定めている点である。なお、図9と構成が同じ要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
上述のように、第2の検波情報比較部252では、検出された反射波Prの検波情報と第2の基準情報552を比較している。第2の基準情報552の値は、進行波に対して最低保証すべき反射波比率から定める。ゆえに、検出された進行波Pfの検波情報に許容される反射波比率(例えば最大20%や10%)を乗じて基準値とし、これと検出された反射波Prの検波情報の値を比較すれば、直接的に、伝送路202内の反射波が進行波に対して所定の割合以下かどうかを判定できる。
なお、第1の検波出力情報541がアナログ電圧であれば、所定の比率に乗算する乗算器253(分圧器でも可)を用いればよい。
また、進行波検出部240と反射波検出部250を一体の方向性結合器で構成することが好ましい。この場合は、双方の結合比を揃えやすく、レベルを比較する場合の精度向上が見込める。
なお、検波情報比較部212を独立した構成要素として説明したが、当該構成の全て、あるいは一部を制御装置300の機能構成としてもよい。また、基準情報設定・比較・判断などの機能をハードウエアとして構成してもよく、一連の制御アルゴリズムに組み込んでソフトウエアで構成してもよい。