以下、本発明の一態様の実施の形態について説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、以下に示す実施の形態および実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
なお、「膜」という言葉と、「層」という言葉とは、場合によっては、または、状況に応じて、互いに入れ替えることが可能である。例えば、「導電層」という用語を、「導電膜」という用語に変更することが可能な場合がある。または、例えば、「絶縁膜」という用語を、「絶縁層」という用語に変更することが可能な場合がある。
なお、本明細書で説明する各図において、正極、負極、活物質層、セパレータ、外装体などの各構成要素の大きさや厚さ等は、個々に説明の明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしも各構成要素はその大きさに限定されず、また各構成要素間での相対的な大きさに限定されない。
また、本明細書等で説明する本発明の一態様の構成において、同一部分又は同様の機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また、同様の機能を有する部分を指す場合には、ハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
また、この発明を実施するための形態の記載の内容は、適宜組み合わせて用いることができる。
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様に係るリチウムイオン蓄電池について説明する。
本発明の一態様に係るリチウムイオン蓄電池110の作製方法について図1(A)及び(B)を用い、以下に説明する。図1(A)は、リチウムイオン蓄電池110の模式図であり、外装体106からリード電極107が引き出されている。また、図1(B)は、リチウムイオン蓄電池110の一点鎖線B1−B2に相当する断面模式図であり、正極集電体100と、正極活物質層101と、セパレータ104と、負極活物質層103と、負極集電体102とを積み重ね、電解液105とともに外装体106により封止された状態の断面模式図である。なお、活物質層は集電体の両面に形成することもでき、蓄電池を積層構造とすることも可能である。
≪正極の構成≫
正極について説明する。正極は、正極活物質層101と、正極集電体100とを含む。
正極活物質層101に用いられる正極活物質材料としては、リチウムイオン等のキャリアイオンの挿入及び脱離が可能な材料を用いることができ、例えば、オリビン型の結晶構造、層状岩塩型の結晶構造、又はスピネル型の結晶構造を有するリチウム含有材料等が挙げられる。
オリビン型結晶構造のリチウム含有材料(一般式LiMPO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)またはNi(II)))の代表例としては、LiFePO4、LiNiPO4、LiCoPO4、LiMnPO4、LiFeaNibPO4、LiFeaCobPO4、LiFeaMnbPO4、LiNiaCobPO4、LiNiaMnbPO4(a+bは1以下、0<a<1、0<b<1)、LiFecNidCoePO4、LiFecNidMnePO4、LiNicCodMnePO4(c+d+eは1以下、0<c<1、0<d<1、0<e<1)、LiFefNigCohMniPO4(f+g+h+iは1以下、0<f<1、0<g<1、0<h<1、0<i<1)等がある。
例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)は、安全性、安定性、高容量密度、高電位、初期酸化(充電)時に引き抜けるリチウムイオンの存在等、正極活物質に求められる事項をバランスよく満たしているため、好ましい。
層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム含有材料としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、LiNiO2、LiMnO2、Li2MnO3、LiNi0.8Co0.2O2等のNiCo系(一般式は、LiNixCo1−xO2(0<x<1))、LiNi0.5Mn0.5O2等のNiMn系(一般式は、LiNixMn1−xO2(0<x<1))、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2等のNiMnCo系(NMCともいう。一般式は、LiNixMnyCo1−x−yO2(x>0、y>0、x+y<1))が挙げられる。さらに、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O2、Li2MnO3−LiMO2(MはCo、NiまたはMn)等も挙げられる。
特に、LiCoO2は、容量が大きいこと、LiNiO2に比べて大気中で安定であること、LiNiO2に比べて熱的に安定であること等の利点があるため、好ましい。
スピネル型の結晶構造を有するリチウム含有材料としては、例えば、LiMn2O4、Li1+xMn2−xO4(0<x<2)、LiMn2−xAlxO4(0<x<2)、LiMn1.5Ni0.5O4等が挙げられる。
LiMn2O4等のマンガンを含むスピネル型の結晶構造を有するリチウム含有材料に、少量のニッケル酸リチウム(LiNiO2やLiNi1−xMxO2(0<x<1)(M=Co、Al等))を混合すると、マンガンの溶出を抑制する、電解液の分解を抑制する等の利点があり好ましい。
また、正極活物質として、一般式Li(2−j)MSiO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)、またはNi(II))(jは0以上2以下)で表される複合酸化物を用いることができる。一般式Li(2−j)MSiO4の代表例としては、Li(2−j)FeSiO4、Li(2−j)NiSiO4、Li(2−j)CoSiO4、Li(2−j)MnSiO4、Li(2−j)FekNilSiO4、Li(2−j)FekColSiO4、Li(2−j)FekMnlSiO4、Li(2−j)NikColSiO4、Li(2−j)NikMnlSiO4(k+lは1以下、0<k<1、0<l<1)、Li(2−j)FemNinCoqSiO4、Li(2−j)FemNinMnqSiO4、Li(2−j)NimConMnqSiO4(m+n+qは1以下、0<m<1、0<n<1、0<q<1)、Li(2−j)FerNisCotMnuSiO4(r+s+t+uは1以下、0<r<1、0<s<1、0<t<1、0<u<1)等が挙げられる。
また、正極活物質として、AxM2(XO4)3(AはLi、Na、または、Mg)(MはFe、Mn、Ti、V、Nb、または、Al)(XはS、P、Mo、W、As、または、Si)の一般式で表されるナシコン型化合物を用いることができる。ナシコン型化合物としては、Fe2(MnO4)3、Fe2(SO4)3、Li3Fe2(PO4)3等が挙げられる。また、正極活物質として、Li2MPO4F、Li2MP2O7、Li5MO4(MはFeまたはMn)の一般式で表される化合物、MnF3、FeF3等のペロブスカイト型フッ化物、TiS2、MoS2等の金属カルコゲナイド(硫化物、セレン化物、テルル化物)、LiMVO4等の逆スピネル型の結晶構造を有するリチウム含有材料、バナジウム酸化物系(V2O5、V6O13、LiV3O8等)、マンガン酸化物、有機硫黄等の材料を用いることができる。
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオンや、アルカリ土類金属イオンの場合、正極活物質として、上記化合物や酸化物において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ベリリウム、マグネシウム等)を用いてもよい。例えば、NaFeO2や、Na2/3[Fe1/2Mn1/2]O2などのナトリウム含有層状酸化物を正極活物質として用いることができる。
また、正極活物質として、上記材料を複数組み合わせた材料を用いてもよい。例えば、上記材料を複数組み合わせた固溶体を正極活物質として用いることができる。例えば、LiCo1/3Mn1/3Ni1/3O2とLi2MnO3の固溶体を正極活物質として用いることができる。
正極活物質は、一次粒子の平均粒径が50nm以上100μm以下のものを用いるとよい。
正極活物質は負極活物質と共に、蓄電池の電池反応の中心的役割を担いキャリアイオンの放出及び吸収を行う物質である。蓄電池の寿命を高めるためには、電池反応の不可逆反応に係る容量が少ない材料であることが好ましく、充放電効率の高い材料であることが好ましい。
活物質は電解液と接するため、活物質と電解液とが反応し、反応により活物質が失われ劣化すると、蓄電池の容量が低下するため、劣化の少ない蓄電池を実現するためには、蓄電池内のこのような反応が生じないことが望ましい。該反応を抑制する効果は後述する。
電極の導電助剤として、アセチレンブラック(AB)、グラファイト(黒鉛)粒子、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンなどを用いることができる。
導電助剤により、電極中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電助剤により、正極活物質どうしの電気伝導の経路を維持することができる。正極活物質層中に導電助剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する正極活物質層101を実現することができる。
また、バインダーとして、代表的なポリフッ化ビニリデン(PVDF)の他、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルクロライド、エチレンプロピレンジエンポリマー、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等を用いることができる。
正極活物質層101の総量に対するバインダーの含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、2wt%以上8wt%以下がより好ましく、3wt%以上5wt%以下がさらに好ましい。また、正極活物質層101の総量に対する導電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下がより好ましい。
塗布法を用いて正極活物質層101を形成する場合は、正極活物質とバインダーと導電助剤と分散媒を混合してスラリーを作製し、正極集電体100上に塗布して乾燥させればよい。本実施の形態では、正極集電体100としてアルミニウムを主成分とする金属材を用いる。
なお、正極集電体100にはステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高く、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることができる。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。正極集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。
以上の工程でリチウムイオン蓄電池の正極を作製することができる。
≪負極の構成≫
次に負極について図1(B)を用いて説明する。負極は、負極活物質層103と、負極集電体102とを含む。負極を形成する工程を以下に説明する。
負極活物質層103に用いられる負極活物質として、炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等がある。黒鉛としては、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等の人造黒鉛や、球状化天然黒鉛等の天然黒鉛がある。また、黒鉛の形状としては鱗片状のものや球状のものなどがある。
負極活物質として、炭素系材料以外に、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な材料も用いることができる。例えば、Ga、Si、Al、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Ag、Zn、Cd、In等のうち少なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高く好ましい。このような元素を用いた合金系材料(化合物系材料)としては、例えば、Mg2Si、Mg2Ge、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等がある。
また、負極活物質として、SiO、SnO、SnO2、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム−黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、二酸化タングステン(WO2)、二酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をもつLi3−xMxN(MはCo、NiまたはCu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を示し好ましい。
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができる。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質としてリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムと合金化反応を行わない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等のフッ化物でも起こる。
負極活物質は、一例としては、粒径が50nm以上100μm以下のものを用いるとよい。
なお、正極活物質層101においても負極活物質層103においても、活物質材料は複数の材料を特定の割合で組み合わせて用いてもよい。活物質層に複数の材料を用いることで、より詳細に活物質層の性能を選択することができる。
電極の導電助剤として、アセチレンブラック(AB)、グラファイト(黒鉛)粒子、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンなどを用いることができる。
導電助剤により、電極中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電助剤により、負極活物質どうしの電気伝導の経路を維持することができる。負極活物質層中に導電助剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する負極活物質層103を実現することができる。
また、バインダーとして、代表的なポリフッ化ビニリデン(PVDF)の他、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルクロライド、エチレンプロピレンジエンポリマー、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等を用いることができる。
負極活物質層103の総量に対するバインダーの含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、2wt%以上8wt%以下がより好ましく、3wt%以上5wt%以下がさらに好ましい。また、負極活物質層103の総量に対する導電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下がより好ましい。
負極集電体102上に負極活物質層103を形成する。塗布法を用いて負極活物質層103を形成する場合は、負極活物質とバインダーと導電助剤と分散媒を混合してスラリーを作製し、負極集電体102に塗布して乾燥させる。また、乾燥後に必要があればプレス処理を行ってもよい。
なお、負極集電体102には、ステンレス、金、白金、亜鉛、鉄、銅、チタン、タンタル等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高く、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。負極集電体102は、箔状、板状(シート状)、網状、円柱状、コイル状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。負極集電体102は、厚みが5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。また、電極集電体の表面の一部に、グラファイトなどを用いてアンダーコート層を設けてもよい。
以上の工程でリチウムイオン蓄電池の負極を作製することができる。
≪セパレータの構成≫
セパレータ104について説明する。セパレータ104の材料としては、紙、不織布、ガラス繊維、あるいは、ナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンといった合成繊維等を用いればよい。ただし、後述の電解液に溶解しない材料を選ぶ必要がある。
より具体的には、セパレータ104の材料として、例えば、フッ素系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメタクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリウレタン系高分子及びこれらの誘導体、セルロース、紙、不織布、ガラス繊維から選ばれる一種を単独で、又は二種以上を組み合せて用いることができる。
セパレータ104は、両極の接触を防ぐ絶縁性能、電解液を保持する性能、イオンの伝導性がなければならない。セパレータとしての機能を有する膜を製造する方法として、膜の延伸による方法がある。例えば、溶融したポリマー材料を展開して放熱させ、得られた膜を膜と平行の二軸方向に延伸して孔を形成する、延伸開孔法がある。
次に、セパレータ104を蓄電池に組み込む方法としては、セパレータを正極及び負極の間に挟みこむ方法が可能である。また、正極又は負極の一方にセパレータ104を載置し、正極又は負極のもう一方を併せる方法も可能である。正極、負極、及びセパレータを外装体に収納し、電解液を含ませることにより、蓄電池を形成することができる。
また、セパレータ104を正極または負極の一方の両面を覆うことができる大きさのシート状若しくはエンベロープ状に形成し、セパレータ104に包まれた電極とすると、蓄電池の製造上、電極を機械的な損傷から保護することができ、電極の取り扱いが容易となる。セパレータに包まれた電極ともう一方の電極とを、併せて外装体に収納し、電解液を含ませることにより、蓄電池を形成することができる。図6(B)に、セパレータ507をエンベロープ状に形成して作製した蓄電池の断面構造を示す。図6(B)は、正極と負極を複数組用いて作製した積層型蓄電池の断面構造である。
さらに、セパレータは複数層としてもよい。セパレータは、上述の方法で形成できるが、構成材料と膜の機械的強度のために、膜の孔の大きさや膜の厚さの範囲には制限がある。第1のセパレータ及び第2のセパレータをそれぞれ延伸法により作製して、これを併せて蓄電池に用いることができる。第1のセパレータ及び第2のセパレータを構成する材料には、上記の材料または上記以外の材料から1種類以上を選択して用いることができ、膜の形成の条件及び延伸の条件等により、膜中の孔の大きさ、孔の占める体積の割合(空隙率ともいう)、膜の厚さ等の特性をそれぞれ決定することができる。特性の異なる二つのセパレータを併せて用いることにより、一方の膜を単独で用いる場合と比べ、蓄電池のセパレータの性能を多彩に選択することができるようになる。
さらに、蓄電池が可撓性を有していてもよく、可撓性を有する蓄電池に変形応力がかかる場合にも、第1のセパレータと第2のセパレータとの界面において、両セパレータが摺動することにより応力を緩和することができるため、複数のセパレータを用いた構造は、可撓性を有する蓄電池のセパレータの構造としても適している。
以上の工程でリチウムイオン蓄電池にセパレータを組み込むことができる。
≪電解液の構成≫
本発明の一態様に係るリチウムイオン蓄電池に用いることができる電解液105は、電解質を含む非水溶液とすることが好ましい。
電解液105の溶媒としては、キャリアイオンが移動可能な材料を用いる。例えば、非プロトン性有機溶媒が好ましく、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テトラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
また、電解液105の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、リチウムイオン蓄電池の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等がある。
また、電解液の溶媒として、難燃性及び難蒸発性であるイオン液体(常温溶融塩ともいう)を一つまたは複数用いることで、リチウムイオン蓄電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、リチウムイオン蓄電池の破裂や発火などを防ぐことができる。これにより、リチウムイオン蓄電池の安全性を高めることができる。
ところで、蓄電池中の電池反応において、電解液が正極の活物質と反応し該活物質に含まれる金属が溶出すると、蓄電池の容量の低下を生じ蓄電池が劣化する。すなわち蓄電池のサイクル特性試験を行うと充放電を重ねる毎に容量の低下が著しく、短寿命の蓄電池となる。そこで、本発明の一態様においては、電解液が有する電解質材料は、熱安定性に優れた該活物質との反応が抑制された材料を用いて、該活物質中の金属の溶出が抑制させる。
正極の活物質材料中の金属としては、例えばFe、Co、NiまたはMnが挙げられる。本発明の一態様において、電解液に用いる電解質の材料は、これらの金属の正極活物質層101からの溶出が抑制された電解質を用いる。具体的には、本発明の一態様に用いることができる電解質には、LiTFSA(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド)とLiFSA(リチウムビスフルオロスルホニルアミド)が挙げられる。なお、LiTFSAは、Liと、Nと、トリフルオロメチル基と、スルホニル基とを有している。したがって、LiTFSAはLiと、Nと、Fと、Sと、Oと、Cと、を有している。また、LiFSAは、Liと、Nと、Fと、スルホニル基を有する。したがって、LiFSAは、Liと、Nと、Fと、Sと、Oと、を有する。
電解質にLiTFSA(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド)又はLiFSA(リチウムビスフルオロスルホニルアミド)を用いた電解液は、加水分解が比較的生じにくく、熱安定性に優れるため、蓄電池の電池反応において正極活物質材料中の金属の溶出を抑制する。そのため、本発明の一態様に係る蓄電池に充放電を繰り返して、該蓄電池を解体して負極を取り出し、該負極表面に対して例えばXPS(X線光電子分光法)による分析を行っても該金属の存在は観測されないか極めて微量となる。
したがって、本発明の一態様に係る蓄電池は、正極活物質中の金属の電解液への溶出が抑制されるため、正極活物質の劣化が抑制され、また、負極表面での金属の析出も抑制されるため、容量の劣化が小さくサイクル寿命の良好な蓄電池とすることができる。
なお、上記の電解質では、キャリアイオンがリチウムイオンである場合について説明したが、リチウムイオン以外のキャリアイオンも用いることができる。リチウムイオン以外のキャリアイオンとしては、アルカリ金属イオンや、アルカリ土類金属イオンの場合、電解質として、上記リチウム塩において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ベリリウム、またはマグネシウム等)を用いてもよい。
また、蓄電池に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具体的には、電解液に対する不純物の質量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.01%以下とすることが好ましい。また、電解液にビニレンカーボネートなどの添加剤を加えてもよい。
上述の溶媒と上述の電解質を用いると、本発明の一態様に係る蓄電池の電解液を作製することができる。
なお、LiTFSA(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド)またはLiFSA(リチウムビスフルオロスルホニルアミド)を電解質に用いた電解液は、正極電圧が高い場合において、正極の集電体と反応し、正極集電体を腐食する場合がある。そのような腐食を防止するため、電解液に数wt%のLiPF6を添加することが好ましい。正極集電体表面に不動態膜を生じ、該不動態膜が電解液と正極集電体との反応を抑制するためである。ただし、高温でサイクル特性を維持するためには、正極活物質層を溶解させないために、LiPF6の濃度は10wt%以下、好ましくは5wt%以下、より好ましくは3wt%以下とするとよい。
≪外装体の構成≫
次に、外装体106について説明する。外装体106には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。このような三層構造とすることで、電解液や気体の透過を遮断するとともに、絶縁性を確保し、併せて耐電解液性を有する。外装体を内側に折り曲げて重ねて、または、2つの外装体それぞれの内面を向い合せて重ねて熱を加えることにより、内面の材料が融け2つの外装体を融着することができ、封止構造を作製することができる。
外装体が融着等され封止構造が形成されている箇所を封止部とすると、外装体を内側に折り曲げて重ねた場合は、折り目以外の個所に封止部が形成され、外装体の第1の領域と、該第1の領域と重なる第2の領域とが融着等された構造となる。また、2枚の外装体を重ねた場合は熱融着等の方法で外周すべてに封止部が形成される。
本実施の形態にて示された各部材の材料から、可撓性を有する材料を選択して用いると、可撓性を有するリチウムイオン蓄電池を作製することができる。近年、変形可能なデバイスの研究及び開発が盛んである。そのようなデバイスに用いる蓄電池として、可撓性を有する蓄電池の需要が生じている。
2枚のフィルムを外装体として電極・電解液など1805を挟む蓄電池を湾曲させた場合には、蓄電池の曲率中心1800に近い側のフィルム1801の曲率半径1802は、曲率中心1800から遠い側のフィルム1803の曲率半径1804よりも小さい(図2(A))。蓄電池を湾曲させて断面を円弧状とすると曲率中心1800に近いフィルムの表面には圧縮応力がかかり、曲率中心1800から遠いフィルムの表面には引っ張り応力がかかる(図2(B))。
可撓性を有するリチウムイオン蓄電池を変形させたとき、外装体に大きな応力がかかるが、外装体の表面に凹部または凸部で形成される模様を形成すると、蓄電池の変形により圧縮応力や引っ張り応力がかかったとしても、ひずみによる影響を抑えることができる。そのため、蓄電池は、曲率中心に近い側の外装体の曲率半径が30mm好ましくは10mmとなる範囲で変形することができる。
面の曲率半径について、図3を用いて説明する。図3(A)において、曲面1700を切断した平面1701において、曲面1700に含まれる曲線1702の一部を円の弧に近似して、その円の半径を曲率半径1703とし、円の中心を曲率中心1704とする。図3(B)に曲面1700の上面図を示す。図3(C)に、平面1701で曲面1700を切断した断面図を示す。曲面を平面で切断するとき、曲面に対する平面の角度や切断する位置に応じて、断面に現れる曲線の曲率半径は異なるものとなるが、本明細書等では、最も小さい曲率半径を麺の曲率半径とする。
なお、蓄電池の断面形状は、単純な円弧状に限定されず、一部が円弧を有する形状にすることができ、例えば図2(C)に示す形状や、波状(図2(D))、S字形状などとすることもできる。蓄電池の曲面が複数の曲率中心を有する形状となる場合は、複数の曲率中心それぞれにおける曲率半径の中で、最も曲率半径が小さい曲面において、2枚の外装体の曲率中心に近い方の外装体の曲率半径が、30mm好ましくは10mmとなる範囲で蓄電池が変形することができる。
なお、本実施の形態において、本発明の一態様について述べた。または、他の実施の形態において、本発明の一態様について述べる。ただし、本発明の一態様は、これらに限定されない。つまり、本実施の形態および他の実施の形態では、様々な発明の態様が記載されているため、本発明の一態様は、特定の態様に限定されない。例えば、本実施の形態では、一例として、リチウムイオン蓄電池に適用した場合を示したが、本発明の一態様は、これに限定されない。様々な蓄電池、例えば、鉛蓄電池、リチウムイオンポリマー蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・鉄蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、固体電池、空気電池、などに適用することも可能である。または、様々な蓄電装置に適用することが可能であり、例えば、一次電池、コンデンサ、リチウムイオンキャパシタなどに適用することも可能である。または例えば、場合によっては、または、状況に応じて、本発明の一態様は、リチウムイオン蓄電池に適用しなくてもよい。または、本発明の一態様として、電解液は、LiTFSAとLiFSAの少なくとも一方を有する場合の例を示したが、本発明の一態様は、これに限定されない。場合によっては、または、状況に応じて、本発明の一態様では、LiTFSAとLiFSAの少なくとも一方は、電解液以外の部分に含まれていてもよい。場合によっては、または、状況に応じて、本発明の一態様では、電解液は、さまざまな材料を有していてもよい。または例えば、場合によっては、または、状況に応じて、本発明の一態様では、電解液は、LiTFSAとLiFSA以外の材料を有していてもよい。または例えば、場合によっては、または、状況に応じて、本発明の一態様では、電解液は、LiTFSAとLiFSAを有していなくてもよい。
本実施の形態は、他の実施の形態および実施例と適宜組み合わせて実施することが可能である。
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様に係る蓄電池の構造について、図4乃至図6を参照して説明する。
[コイン型蓄電池]
図4(A)は、コイン型(単層偏平型)の蓄電池の外観図であり、図4(B)は、その断面図である。
コイン型の蓄電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306により形成される。正極活物質層306は、正極活物質の他、正極活物質の密着性を高めるための結着剤(バインダー)、正極活物質層の導電性を高めるための導電助剤等を有してもよい。
また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層309により形成される。負極活物質層309は、負極活物質の他、負極活物質の密着性を高めるための結着剤(バインダー)、負極活物質層の導電性を高めるための導電助剤等を有してもよい。正極活物質層306と負極活物質層309との間には、セパレータ310と、電解質(図示せず)とを有する。
各構成部材には、実施の形態1で示した材料を用いることができる。
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐腐食性のある、ニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、またはこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等で被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極307とそれぞれ電気的に接続する。
これら負極307、正極304及びセパレータ310を電解液に含浸させ、図4(B)に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して圧着してコイン形の蓄電池300を製造する。
ここで図4(C)を用いて蓄電池の充電時の電流の流れを説明する。リチウムを用いた蓄電池を一つの閉回路とみなした時、リチウムイオンの動きと電流の流れは同じ向きになる。なお、リチウムを用いた蓄電池では、充電と放電でアノード(陽極)とカソード(陰極)が入れ替わり、酸化反応と還元反応とが入れ替わることになるため、酸化還元電位が高い電極を正極と呼び、反応電位が低い電極を負極と呼ぶ。したがって、本明細書においては、充電中であっても、放電中であっても、逆パルス電流を流す場合であっても、充電電流を流す場合であっても、正極は「正極」または「+極(プラス極)」と呼び、負極は「負極」または「−極(マイナス極)」と呼ぶこととする。酸化反応や還元反応に関連したアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いると、充電時と放電時とでは、逆になってしまい、混乱を招く可能性がある。したがって、アノード(陽極)やカソード(陰極)という用語は、本明細書においては用いないこととする。仮にアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いる場合には、充電時か放電時かを明記し、正極(プラス極)と負極(マイナス極)のどちらに対応するものかも併記することとする。
図4(C)に示す蓄電池400は、正極402、負極404、電解液406、及びセパレータ408を有する。正極402及び負極404に接続する2つの端子には充電器が接続され、蓄電池400が充電される。蓄電池400の充電が進めば、電極間の電位差は大きくなる。図4(C)では、蓄電池400の外部の端子から、正極402の方へ流れ、蓄電池400の中において、正極402から負極404の方へ流れ、負極から蓄電池400の外部の端子の方へ流れる電流の向きを正の向きとしている。つまり、充電電流の流れる向きを電流の向きとしている。
[円筒型蓄電池]
次に、円筒型の蓄電池の一例について、図5を参照して説明する。円筒型の蓄電池600は図5(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面及び底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップ601と電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
図5(B)は、円筒型の蓄電池の断面を模式的に示した図である。中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等で被覆することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極及びセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、コイン型の蓄電池と同様のものを用いることができる。
正極604及び負極606は、上述したコイン型の蓄電池の正極及び負極と同様に製造すればよいが、円筒型の蓄電池に用いる正極及び負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成する点において異なる。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603及び負極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子603は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature Coefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
[ラミネート型蓄電池]
次に、ラミネート型の蓄電池の一例について、図6(A)を参照して説明する。ラミネート型の蓄電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくとも一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて蓄電池も曲げることもできる。
図6(A)に示すラミネート型の蓄電池500は、正極集電体501および正極活物質層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する負極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外装体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されている。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。電解液508には、実施の形態1で示した電解液を用いることができる。
図6(A)に示すラミネート型の蓄電池500において、正極集電体501および負極集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極集電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するように配置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509から外側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負極集電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
ラミネート型の蓄電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。
また、ラミネート型の蓄電池500の断面構造の一例を図6(B)に示す。図6(A)では簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、複数の電極層で構成する。
図6(B)では、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16としても蓄電池500は、可撓性を有する。図6(B)では負極集電体504が8層と、正極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、図6(B)は負極の取り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿論、電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場合には、より多くの容量を有する蓄電池とすることができる。また、電極層数が少ない場合には、薄型化でき、可撓性に優れた蓄電池とすることができる。
ここで、ラミネート型の蓄電池500の外観図の一例を図7及び図8に示す。図7及び図8は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード電極510及び負極リード電極511を有する。
図9(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体501を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、図9(A)に示す例に限られない。
[ラミネート型蓄電池の作製方法]
ここで、図7に外観図を示すラミネート型蓄電池の作製方法の一例について、図9(B)、(C)を用いて説明する。
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。図9(B)に積層された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いればよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リード電極511の接合を行う。
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
次に、図9(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508を外装体509の内側へ導入する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の蓄電池である蓄電池500を作製することができる。
なお、本実施の形態では、蓄電池として、コイン型、ラミネート型及び円筒型の蓄電池を示したが、その他の封止型蓄電池、角型蓄電池等様々な形状の蓄電池を用いることができる。また、正極、負極、及びセパレータが複数積層された構造、正極、負極、及びセパレータが捲回された構造であってもよい。
本実施の形態で示す蓄電池300、蓄電池500、蓄電池600の正極活物質層及び電解質には、本発明の一態様に係る正極活物質層及び電解質が用いられている。そのため、蓄電池300、蓄電池500、蓄電池600のサイクル寿命を高めることができる。
また、可撓性を有するラミネート型の蓄電池を電子機器に実装する例を図10に示す。フレキシブルな形状を備える蓄電装置を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
また、フレキシブルな形状を備える蓄電装置を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
図10(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、蓄電装置7407を有している。
図10(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機7400を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている蓄電装置7407も湾曲される。また、その時、曲げられた蓄電装置7407の状態を図10(C)に示す。蓄電装置7407はラミネート型の蓄電池である。
図10(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び蓄電装置7104を備える。また、図10(E)に曲げられた蓄電装置7104の状態を示す。
[蓄電装置の構造例]
蓄電装置の構造例について、図11乃至図15を用いて説明する。
図11(A)及び図11(B)は、蓄電装置の外観図を示す図である。蓄電装置は、回路基板900と、蓄電池913と、を有する。蓄電池913には、ラベル910が貼られている。さらに、図11(B)に示すように、蓄電装置は、端子951と、端子952と、アンテナ914と、アンテナ915と、を有する。
回路基板900は、端子911と、回路912と、を有する。端子911は、端子951、端子952、アンテナ914、アンテナ915、及び回路912に接続される。なお、端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子などとしてもよい。
回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914及びアンテナ915は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体アンテナ等のアンテナを用いてもよい。又は、アンテナ914若しくはアンテナ915は、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能することができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、アンテナ914若しくはアンテナ915を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけでなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
アンテナ914の線幅は、アンテナ915の線幅よりも大きいことが好ましい。これにより、アンテナ914により受電する電力量を大きくできる。
蓄電装置は、アンテナ914及びアンテナ915と、蓄電池913との間に層916を有する。層916は、例えば蓄電池913による電磁界への影響を防止することができる機能を有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
なお、蓄電装置の構造は、図11に限定されない。
例えば、図12(A−1)及び図12(A−2)に示すように、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電池913のうち、対向する一対の面のそれぞれにアンテナを設けてもよい。図12(A−1)は、上記一対の面の一方側方向から見た外観図であり、図12(A−2)は、上記一対の面の他方側方向から見た外観図である。なお、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
図12(A−1)に示すように、蓄電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアンテナ914が設けられ、図12(A−2)に示すように、蓄電池913の一対の面の他方に層917を挟んでアンテナ915が設けられる。層917は、例えば蓄電池913による電磁界への影響を防止することができる機能を有する。層917としては、例えば磁性体を用いることができる。
上記構造にすることにより、アンテナ914及びアンテナ915の両方のサイズを大きくすることができる。
又は、図12(B−1)及び図12(B−2)に示すように、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電池913のうち、対向する一対の面のそれぞれに別のアンテナを設けてもよい。図12(B−1)は、上記一対の面の一方側方向から見た外観図であり、図12(B−2)は、上記一対の面の他方側方向から見た外観図である。なお、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図12(A)及び図12(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
図12(B−1)に示すように、蓄電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアンテナ914及びアンテナ915が設けられ、図12(B−2)に示すように、蓄電池913の一対の面の他方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。アンテナ918は、例えば、外部機器とのデータ通信を行うことができる機能を有する。アンテナ918には、例えばアンテナ914及びアンテナ915に適用可能な形状のアンテナを適用することができる。アンテナ918を介した蓄電装置と他の機器との通信方式としては、NFCなど、蓄電装置と他の機器との間で用いることができる応答方式などを適用することができる。
又は、図13(A)に示すように、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電池913に表示装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子919を介して端子911に電気的に接続される。なお、表示装置920が設けられる部分にラベル910を設けなくてもよい。なお、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペーパーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
又は、図13(B)に示すように、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電池913にセンサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922を介して端子911に電気的に接続される。なお、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図11(A)及び図11(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい。センサ921を設けることにより、例えば、蓄電装置が置かれている環境を示すデータ(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
さらに、蓄電池913の構造例について図14及び図15を用いて説明する。
図14(A)に示す蓄電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸される。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体930に接していない。なお、図14(A)では、便宜のため、筐体930を分離して図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
なお、図14(B)に示すように、図14(A)に示す筐体930を複数の材料によって形成してもよい。例えば、図14(B)に示す蓄電池913は、筐体930aと筐体930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が設けられている。
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナが形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、蓄電池913による電界の遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの内部にアンテナ914やアンテナ915などのアンテナを設けてもよい。筐体930bとしては、例えば金属材料を用いることができる。
さらに、捲回体950の構造について図15に示す。捲回体950は、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複数重ねてもよい。
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して図11に示す端子911に接続される。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して図11に示す端子911に接続される。
[電気機器の一例:車両に搭載する例]
次に、蓄電池を車両に搭載する例について示す。蓄電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
図16において、本発明の一態様を用いた車両を例示する。図16(A)に示す自動車8100は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、繰り返し充放電することができる車両を実現することができる。また、自動車8100は蓄電装置を有する。蓄電装置は電気モーターを駆動するだけでなく、ヘッドライト8101やルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
また、蓄電装置は、自動車8100が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示装置に電力を供給することができる。また、蓄電装置は、自動車8100が有するナビゲーションゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
図16(B)に示す自動車8200は、自動車8200が有する蓄電装置にプラグイン方式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。図16(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8200に搭載された蓄電装置に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法やコネクタの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8200に搭載された蓄電装置を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時や走行時に蓄電装置の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
本発明の一態様によれば、蓄電装置のサイクル特性が良好となり、信頼性を向上させることができる。また、本発明の一態様によれば、蓄電装置の特性を向上することができ、よって、蓄電装置自体を小型軽量化することができる。蓄電装置自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることができる。また、車両に搭載した蓄電装置を車両以外の電力供給源として用いることもできる。この場合、電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。
本実施の形態は、他の実施の形態および実施例と適宜組み合わせて実施することが可能である。
なお、本明細書等においては、ある一つの実施の形態において述べる図または文章において、少なくとも一つの具体例が記載される場合、その具体例の上位概念を導き出すことは、当業者であれば容易に理解される。したがって、ある一つの実施の形態において述べる図または文章において、少なくとも一つの具体例が記載される場合、その具体例の上位概念も、発明の一態様として開示されているものであり、発明の一態様を構成することが可能である。そして、その発明の一態様は、明確であると言える。
なお、本明細書等においては、少なくとも図に記載した内容(図の中の一部でもよい)は、発明の一態様として開示されているものであり、発明の一態様を構成することが可能である。したがって、ある内容について、図に記載されていれば、文章を用いて述べていなくても、その内容は、発明の一態様として開示されているものであり、発明の一態様を構成することが可能である。同様に、図の一部を取り出した図についても、発明の一態様として開示されているものであり、発明の一態様を構成することが可能である。そして、その発明の一態様は明確であると言える。
(実施の形態3)
上記実施の形態で説明した材料を含む電池セルと組み合わせて用いることができる電池制御ユニット(Battery Management Unit:BMU)、及び該電池制御ユニットを構成する回路に適したトランジスタについて、図23乃至図29を参照して説明する。本実施の形態では、特に直列に接続された電池セルを有する蓄電装置の電池制御ユニットについて説明する。
直列に接続された複数の電池セルに対して充放電を繰り返していくと、各電池セル間において、充放電特性のばらつきが生じて、各電池セルの容量(出力電圧)が異なってくる。直列に接続された複数の電池セルでは、全体の放電時の容量が、容量の小さい電池セルに依存する。各電池セルの容量にばらつきがあると放電時の全体の容量が小さくなる。また、容量が小さい電池セルを基準にして充電を行うと、充電不足となる虞がある。また、容量の大きい電池セルを基準にして充電を行うと、過充電となる虞がある。
そのため、直列に接続された電池セルを有する蓄電装置の電池制御ユニットは、充電不足や、過充電の原因となる、電池セル間の容量のばらつきを揃える機能を有する。電池セル間の容量のばらつきを揃える回路構成には、抵抗方式、キャパシタ方式、あるいはインダクタ方式等あるが、ここではオフ電流の小さいトランジスタを利用して容量のばらつきを揃えることのできる回路構成を一例として挙げて説明する。
オフ電流の小さいトランジスタとしては、チャネル形成領域に酸化物半導体を有するトランジスタ(OSトランジスタ)が好ましい。オフ電流の小さいOSトランジスタを蓄電装置の電池制御ユニットの回路構成に用いることで、電池から漏洩する電荷量を減らし、時間の経過による容量の低下を抑制することができる。
チャネル形成領域に用いる酸化物半導体は、In−M−Zn酸化物(Mは、Ga、Sn、Y、Zr、La、Ce、またはNd)を用いる。酸化物半導体膜を成膜するために用いるターゲットにおいて、金属元素の原子数比をIn:M:Zn=x1:y1:z1とすると、x1/y1は、1/3以上6以下、さらには1以上6以下であって、z1/y1は、1/3以上6以下、さらには1以上6以下であることが好ましい。なお、z1/y1を1以上6以下とすることで、酸化物半導体膜としてCAAC−OS膜が形成されやすくなる。
ここで、CAAC−OS膜について説明する。
CAAC−OS膜は、c軸配向した複数の結晶部を有する酸化物半導体膜の一つである。
透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)によって、CAAC−OS膜の明視野像および回折パターンの複合解析像(高分解能TEM像ともいう。)を観察することで複数の結晶部を確認することができる。一方、高分解能TEM像によっても明確な結晶部同士の境界、即ち結晶粒界(グレインバウンダリーともいう。)を確認することができない。そのため、CAAC−OS膜は、結晶粒界に起因する電子移動度の低下が起こりにくいといえる。
試料面と略平行な方向から、CAAC−OS膜の断面の高分解能TEM像を観察すると、結晶部において、金属原子が層状に配列していることを確認できる。金属原子の各層は、CAAC−OS膜の膜を形成する面(被形成面ともいう。)または上面の凹凸を反映した形状であり、CAAC−OS膜の被形成面または上面と平行に配列する。
一方、試料面と略垂直な方向から、CAAC−OS膜の平面の高分解能TEM像を観察すると、結晶部において、金属原子が三角形状または六角形状に配列していることを確認できる。しかしながら、異なる結晶部間で、金属原子の配列に規則性は見られない。
CAAC−OS膜に対し、X線回折(XRD:X−Ray Diffraction)装置を用いて構造解析を行うと、例えばInGaZnO4の結晶を有するCAAC−OS膜のout−of−plane法による解析では、回折角(2θ)が31°近傍にピークが現れる場合がある。このピークは、InGaZnO4の結晶の(009)面に帰属されることから、CAAC−OS膜の結晶がc軸配向性を有し、c軸が被形成面または上面に略垂直な方向を向いていることが確認できる。
なお、InGaZnO4の結晶を有するCAAC−OS膜のout−of−plane法による解析では、2θが31°近傍のピークの他に、2θが36°近傍にもピークが現れる場合がある。2θが36°近傍のピークは、CAAC−OS膜中の一部に、c軸配向性を有さない結晶が含まれることを示している。CAAC−OS膜は、2θが31°近傍にピークを示し、2θが36°近傍にピークを示さないことが好ましい。
CAAC−OS膜は、不純物濃度の低い酸化物半導体膜である。不純物は、水素、炭素、シリコン、遷移金属元素などの酸化物半導体膜の主成分以外の元素である。特に、シリコンなどの、酸化物半導体膜を構成する金属元素よりも酸素との結合力の強い元素は、酸化物半導体膜から酸素を奪うことで酸化物半導体膜の原子配列を乱し、結晶性を低下させる要因となる。また、鉄やニッケルなどの重金属、アルゴン、二酸化炭素などは、原子半径(または分子半径)が大きいため、酸化物半導体膜内部に含まれると、酸化物半導体膜の原子配列を乱し、結晶性を低下させる要因となる。なお、酸化物半導体膜に含まれる不純物は、キャリアトラップやキャリア発生源となる場合がある。
また、CAAC−OS膜は、欠陥準位密度の低い酸化物半導体膜である。例えば、酸化物半導体膜中の酸素欠損は、キャリアトラップとなることや、水素を捕獲することによってキャリア発生源となることがある。
不純物濃度が低く、欠陥準位密度が低い(酸素欠損の少ない)ことを、高純度真性または実質的に高純度真性と呼ぶ。高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物半導体膜は、キャリア発生源が少ないため、キャリア密度を低くすることができる。したがって、当該酸化物半導体膜を用いたトランジスタは、しきい値電圧がマイナスとなる電気特性(ノーマリーオンともいう。)になることが少ない。また、高純度真性または実質的に高純度真性である酸化物半導体膜は、キャリアトラップが少ない。そのため、当該酸化物半導体膜を用いたトランジスタは、電気特性の変動が小さく、信頼性の高いトランジスタとなる。なお、酸化物半導体膜のキャリアトラップに捕獲された電荷は、放出するまでに要する時間が長く、あたかも固定電荷のように振る舞うことがある。そのため、不純物濃度が高く、欠陥準位密度が高い酸化物半導体膜を用いたトランジスタは、電気特性が不安定となる場合がある。
また、CAAC−OS膜を用いたトランジスタは、可視光や紫外光の照射による電気特性の変動が小さい。
なお、OSトランジスタは、チャネル形成領域にシリコンを有するトランジスタ(Siトランジスタ)に比べてバンドギャップが大きいため、高電圧を印加した際の絶縁破壊が生じにくい。直列に電池セルを接続する場合、数100Vの電圧が生じることになるが、蓄電装置においてこのような電池セルに適用される電池制御ユニットの回路構成には、前述のOSトランジスタで構成することが適している。
図23には、蓄電装置のブロック図の一例を示す。図23に示す蓄電装置BT00は、端子対BT01と、端子対BT02と、切り替え制御回路BT03と、切り替え回路BT04と、切り替え回路BT05と、変圧制御回路BT06と、変圧回路BT07と、直列に接続された複数の電池セルBT09を含む電池部BT08と、を有する。
また、図23の蓄電装置BT00において、端子対BT01と、端子対BT02と、切り替え制御回路BT03と、切り替え回路BT04と、切り替え回路BT05と、変圧制御回路BT06と、変圧回路BT07とにより構成される部分を、電池制御ユニットと呼ぶことができる。
切り替え制御回路BT03は、切り替え回路BT04及び切り替え回路BT05の動作を制御する。具体的には、切り替え制御回路BT03は、電池セルBT09毎に測定された電圧に基づいて、放電する電池セル(放電電池セル群)、及び充電する電池セル(充電電池セル群)を決定する。
さらに、切り替え制御回路BT03は、当該決定された放電電池セル群及び充電電池セル群に基づいて、制御信号S1及び制御信号S2を出力する。制御信号S1は、切り替え回路BT04へ出力される。この制御信号S1は、端子対BT01と放電電池セル群とを接続させるように切り替え回路BT04を制御する信号である。また、制御信号S2は、切り替え回路BT05へ出力される。この制御信号S2は、端子対BT02と充電電池セル群とを接続させるように切り替え回路BT05を制御する信号である。
また、切り替え制御回路BT03は、切り替え回路BT04、切り替え回路BT05、及び変圧回路BT07の構成を踏まえ、端子対BT01と放電電池セル群との間、または端子対BT02と充電電池セル群との間で、同じ極性の端子同士が接続されるように、制御信号S1及び制御信号S2を生成する。
切り替え制御回路BT03の動作の詳細について述べる。
まず、切り替え制御回路BT03は、複数の電池セルBT09毎の電圧を測定する。そして、切り替え制御回路BT03は、例えば、所定の閾値以上の電圧の電池セルBT09を高電圧の電池セル(高電圧セル)、所定の閾値未満の電圧の電池セルBT09を低電圧の電池セル(低電圧セル)と判断する。
なお、高電圧セル及び低電圧セルを判断する方法については、様々な方法を用いることができる。例えば、切り替え制御回路BT03は、複数の電池セルBT09の中で、最も電圧の高い、又は最も電圧の低い電池セルBT09の電圧を基準として、各電池セルBT09が高電圧セルか低電圧セルかを判断してもよい。この場合、切り替え制御回路BT03は、各電池セルBT09の電圧が基準となる電圧に対して所定の割合以上か否かを判定する等して、各電池セルBT09が高電圧セルか低電圧セルかを判断することができる。そして、切り替え制御回路BT03は、この判断結果に基づいて、放電電池セル群と充電電池セル群とを決定する。
なお、複数の電池セルBT09の中には、高電圧セルと低電圧セルが様々な状態で混在し得る。例えば、切り替え制御回路BT03は、高電圧セルと低電圧セルが混在する中で、高電圧セルが最も多く連続して直列に接続された部分を放電電池セル群とする。また、切り替え制御回路BT03は、低電圧セルが最も多く連続して直列に接続された部分を充電電池セル群とする。また、切り替え制御回路BT03は、過充電又は過放電に近い電池セルBT09を、放電電池セル群又は充電電池セル群として優先的に選択するようにしてもよい。
ここで、本実施の形態における切り替え制御回路BT03の動作例を、図24を用いて説明する。図24は、切り替え制御回路BT03の動作例を説明するための図である。なお、説明の便宜上、図24では4個の電池セルBT09が直列に接続されている場合を例に説明する。
まず、図24(A)の例では、電池セルa乃至dの電圧を電圧Va乃至電圧Vdとすると、Va=Vb=Vc>Vdの関係にある場合を示している。つまり、連続する3つの高電圧セルa乃至cと、1つの低電圧セルdとが直列に接続されている。この場合、切り替え制御回路BT03は、連続する3つの高電圧セルa乃至cを放電電池セル群として決定する。また、切り替え制御回路BT03は、低電圧セルdを充電電池セル群として決定する。
次に、図24(B)の例では、Vc>Va=Vb>>Vdの関係にある場合を示している。つまり、連続する2つの低電圧セルa、bと、1つの高電圧セルcと、1つの過放電間近の低電圧セルdとが直列に接続されている。この場合、切り替え制御回路BT03は、高電圧セルcを放電電池セル群として決定する。また、切り替え制御回路BT03は、低電圧セルdが過放電間近であるため、連続する2つの低電圧セルa及びbではなく、低電圧セルdを充電電池セル群として優先的に決定する。
最後に、図24(C)の例では、Va>Vb=Vc=Vdの関係にある場合を示している。つまり、1つの高電圧セルaと、連続する3つの低電圧セルb乃至dとが直列に接続されている。この場合、切り替え制御回路BT03は、高電圧セルaを放電電池セル群と決定する。また、切り替え制御回路BT03は、連続する3つの低電圧セルb乃至dを充電電池セル群として決定する。
切り替え制御回路BT03は、上記図24(A)乃至(C)の例のように決定された結果に基づいて、切り替え回路BT04の接続先である放電電池セル群を示す情報が設定された制御信号S1と、切り替え回路BT05の接続先である充電電池セル群を示す情報が設定された制御信号S2を、切り替え回路BT04及び切り替え回路BT05に対してそれぞれ出力する。
以上が、切り替え制御回路BT03の動作の詳細に関する説明である。
切り替え回路BT04は、切り替え制御回路BT03から出力される制御信号S1に応じて、端子対BT01の接続先を、切り替え制御回路BT03により決定された放電電池セル群に設定する。
端子対BT01は、対を成す端子A1及びA2により構成される。切り替え回路BT04は、この端子A1及びA2のうち、いずれか一方を放電電池セル群の中で最も上流(高電位側)に位置する電池セルBT09の正極端子と接続し、他方を放電電池セル群の中で最も下流(低電位側)に位置する電池セルBT09の負極端子と接続することにより、端子対BT01の接続先を設定する。なお、切り替え回路BT04は、制御信号S1に設定された情報を用いて放電電池セル群の位置を認識することができる。
切り替え回路BT05は、切り替え制御回路BT03から出力される制御信号S2に応じて、端子対BT02の接続先を、切り替え制御回路BT03により決定された充電電池セル群に設定する。
端子対BT02は、対を成す端子B1及びB2により構成される。切り替え回路BT05は、この端子B1及びB2のうち、いずれか一方を充電電池セル群の中で最も上流(高電位側)に位置する電池セルBT09の正極端子と接続し、他方を充電電池セル群の中で最も下流(低電位側)に位置する電池セルBT09の負極端子と接続することにより、端子対BT02の接続先を設定する。なお、切り替え回路BT05は、制御信号S2に設定された情報を用いて充電電池セル群の位置を認識することができる。
切り替え回路BT04及び切り替え回路BT05の構成例を示す回路図を図25及び図26に示す。
図25では、切り替え回路BT04は、複数のトランジスタBT10と、バスBT11及びBT12とを有する。バスBT11は、端子A1と接続されている。また、バスBT12は、端子A2と接続されている。複数のトランジスタBT10のソース又はドレインの一方は、それぞれ1つおきに交互に、バスBT11及びBT12と接続されている。また、複数のトランジスタBT10のソース又はドレインの他方は、それぞれ隣接する2つの電池セルBT09の間に接続されている。
なお、複数のトランジスタBT10のうち、最上流に位置するトランジスタBT10のソース又はドレインの他方は、電池部BT08の最上流に位置する電池セルBT09の正極端子と接続されている。また、複数のトランジスタBT10のうち、最下流に位置するトランジスタBT10のソース又はドレインの他方は、電池部BT08の最下流に位置する電池セルBT09の負極端子と接続されている。
切り替え回路BT04は、複数のトランジスタBT10のゲートに与える制御信号S1に応じて、バスBT11に接続される複数のトランジスタBT10のうちの1つと、バスBT12に接続される複数のトランジスタBT10のうちの1つとをそれぞれ導通状態にすることにより、放電電池セル群と端子対BT01とを接続する。これにより、放電電池セル群の中で最も上流に位置する電池セルBT09の正極端子は、端子対の端子A1又はA2のいずれか一方と接続される。また、放電電池セル群の中で最も下流に位置する電池セルBT09の負極端子は、端子対の端子A1又はA2のいずれか他方、すなわち正極端子と接続されていない方の端子に接続される。
トランジスタBT10には、OSトランジスタを用いることが好ましい。OSトランジスタはオフ電流が小さいため、放電電池セル群に属しない電池セルから漏洩する電荷量を減らし、時間の経過による容量の低下を抑制することができる。またOSトランジスタは高電圧を印加した際の絶縁破壊が生じにくい。そのため、放電電池セル群の出力電圧が大きくても、非導通状態とするトランジスタBT10が接続された電池セルBT09と端子対BT01とを絶縁状態とすることができる。
また、図25では、切り替え回路BT05は、複数のトランジスタBT13と、電流制御スイッチBT14と、バスBT15と、バスBT16とを有する。バスBT15及びBT16は、複数のトランジスタBT13と、電流制御スイッチBT14との間に配置される。複数のトランジスタBT13のソース又はドレインの一方は、それぞれ1つおきに交互に、バスBT15及びBT16と接続されている。また、複数のトランジスタBT13のソース又はドレインの他方は、それぞれ隣接する2つの電池セルBT09の間に接続されている。
なお、複数のトランジスタBT13のうち、最上流に位置するトランジスタBT13のソース又はドレインの他方は、電池部BT08の最上流に位置する電池セルBT09の正極端子と接続されている。また、複数のトランジスタBT13のうち、最下流に位置するトランジスタBT13のソース又はドレインの他方は、電池部BT08の最下流に位置する電池セルBT09の負極端子と接続されている。
トランジスタBT13には、トランジスタBT10と同様に、OSトランジスタを用いることが好ましい。OSトランジスタはオフ電流が小さいため、充電電池セル群に属しない電池セルから漏洩する電荷量を減らし、時間の経過による容量の低下を抑制することができる。またOSトランジスタは高電圧を印加した際の絶縁破壊が生じにくい。そのため、充電電池セル群を充電するための電圧が大きくても、非導通状態とするトランジスタBT13が接続された電池セルBT09と端子対BT02とを絶縁状態とすることができる。
電流制御スイッチBT14は、スイッチ対BT17とスイッチ対BT18とを有する。スイッチ対BT17の一端は、端子B1に接続されている。また、スイッチ対BT17の他端は2つのスイッチで分岐しており、一方のスイッチはバスBT15に接続され、他方のスイッチはバスBT16に接続されている。スイッチ対BT18の一端は、端子B2に接続されている。また、スイッチ対BT18の他端は2つのスイッチで分岐しており、一方のスイッチはバスBT15に接続され、他方のスイッチはバスBT16に接続されている。
スイッチ対BT17及びスイッチ対BT18が有するスイッチは、トランジスタBT10及びトランジスタBT13と同様に、OSトランジスタを用いることが好ましい。
切り替え回路BT05は、制御信号S2に応じて、トランジスタBT13、及び電流制御スイッチBT14のオン/オフ状態の組み合わせを制御することにより、充電電池セル群と端子対BT02とを接続する。
切り替え回路BT05は、一例として、以下のようにして充電電池セル群と端子対BT02とを接続する。
切り替え回路BT05は、複数のトランジスタBT13のゲートに与える制御信号S2に応じて、充電電池セル群の中で最も上流に位置する電池セルBT09の正極端子と接続されているトランジスタBT13を導通状態にする。また、切り替え回路BT05は、複数のトランジスタBT13のゲートに与える制御信号S2に応じて、充電電池セル群の中で最も下流に位置する電池セルBT09の負極端子に接続されているトランジスタBT13を導通状態にする。
端子対BT02に印加される電圧の極性は、端子対BT01と接続される放電電池セル群、及び変圧回路BT07の構成によって変わり得る。また、充電電池セル群を充電する方向に電流を流すためには、端子対BT02と充電電池セル群との間で、同じ極性の端子同士を接続する必要がある。そこで、電流制御スイッチBT14は、制御信号S2により、端子対BT02に印加される電圧の極性に応じてスイッチ対BT17及びスイッチ対BT18の接続先をそれぞれ切り替えるように制御される。
一例として、端子B1が正極、端子B2が負極となるような電圧が端子対BT02に印加されている状態を挙げて説明する。この時、電池部BT08の最下流の電池セルBT09が充電電池セル群である場合、スイッチ対BT17は、制御信号S2により、当該電池セルBT09の正極端子と接続されるように制御される。すなわち、スイッチ対BT17のバスBT16に接続されるスイッチがオン状態となり、スイッチ対BT17のバスBT15に接続されるスイッチがオフ状態となる。一方、スイッチ対BT18は、制御信号S2により、当該電池セルBT09の負極端子と接続されるように制御される。すなわち、スイッチ対BT18のバスBT15に接続されるスイッチがオン状態となり、スイッチ対BT18のバスBT16に接続されるスイッチがオフ状態となる。このようにして、端子対BT02と充電電池セル群との間で、同じ極性をもつ端子同士が接続される。そして、端子対BT02から流れる電流の方向が、充電電池セル群を充電する方向となるように制御される。
また、電流制御スイッチBT14は、切り替え回路BT05ではなく、切り替え回路BT04に含まれていてもよい。この場合、電流制御スイッチBT14、制御信号S1に応じて、端子対BT01に印加される電圧の極性を制御することにより、端子対BT02に印加される電圧の極性を制御する。そして、電流制御スイッチBT14は、端子対BT02から充電電池セル群に流れる電流の向きを制御する。
図26は、図25とは異なる、切り替え回路BT04及び切り替え回路BT05の構成例を示す回路図である。
図26では、切り替え回路BT04は、複数のトランジスタ対BT21と、バスBT24及びバスBT25とを有する。バスBT24は、端子A1と接続されている。また、バスBT25は、端子A2と接続されている。複数のトランジスタ対BT21の一端は、それぞれトランジスタBT22とトランジスタBT23とにより分岐している。トランジスタBT22のソース又はドレインの一方は、バスBT24と接続されている。また、トランジスタBT23のソース又はドレインの一方は、バスBT25と接続されている。また、複数のトランジスタ対BT21の他端は、それぞれ隣接する2つの電池セルBT09の間に接続されている。なお、複数のトランジスタ対BT21のうち、最上流に位置するトランジスタ対BT21の他端は、電池部BT08の最上流に位置する電池セルBT09の正極端子と接続されている。また、複数のトランジスタ対BT21のうち、最下流に位置するトランジスタ対BT21の他端は、電池部BT08の最下流に位置する電池セルBT09の負極端子と接続されている。
切り替え回路BT04は、制御信号S1に応じてトランジスタBT22及びトランジスタBT23の導通/非導通状態を切り換えることにより、当該トランジスタ対BT21の接続先を、端子A1又は端子A2のいずれか一方に切り替える。詳細には、トランジスタBT22が導通状態であれば、トランジスタBT23は非導通状態となり、その接続先は端子A1になる。一方、トランジスタBT23が導通状態であれば、トランジスタBT22は非導通状態となり、その接続先は端子A2になる。トランジスタBT22及びトランジスタBT23のどちらが導通状態になるかは、制御信号S1によって決定される。
端子対BT01と放電電池セル群とを接続するには、2つのトランジスタ対BT21が用いられる。詳細には、制御信号S1に基づいて、2つのトランジスタ対BT21の接続先がそれぞれ決定されることにより、放電電池セル群と端子対BT01とが接続される。2つのトランジスタ対BT21のそれぞれの接続先は、一方が端子A1となり、他方が端子A2となるように、制御信号S1によって制御される。
切り替え回路BT05は、複数のトランジスタ対BT31と、バスBT34及びバスBT35とを有する。バスBT34は、端子B1と接続されている。また、バスBT35は、端子B2と接続されている。複数のトランジスタ対BT31の一端は、それぞれトランジスタBT32とトランジスタBT33とにより分岐している。トランジスタBT32により分岐する一端は、バスBT34と接続されている。また、トランジスタBT33により分岐する一端は、バスBT35と接続されている。また、複数のトランジスタ対BT31の他端は、それぞれ隣接する2つの電池セルBT09の間に接続されている。なお、複数のトランジスタ対BT31のうち、最上流に位置するトランジスタ対BT31の他端は、電池部BT08の最上流に位置する電池セルBT09の正極端子と接続されている。また、複数のトランジスタ対BT31のうち、最下流に位置するトランジスタ対BT31の他端は、電池部BT08の最下流に位置する電池セルBT09の負極端子と接続されている。
切り替え回路BT05は、制御信号S2に応じてトランジスタBT32及びトランジスタBT33の導通/非導通状態を切り換えることにより、当該トランジスタ対BT31の接続先を、端子B1又は端子B2のいずれか一方に切り替える。詳細には、トランジスタBT32が導通状態であれば、トランジスタBT33は非導通状態となり、その接続先は端子B1になる。逆に、トランジスタBT33が導通状態であれば、トランジスタBT32は非導通状態となり、その接続先は端子B2になる。トランジスタBT32及びトランジスタBT33のどちらが導通状態となるかは、制御信号S2によって決定される。
端子対BT02と充電電池セル群とを接続するには、2つのトランジスタ対BT31が用いられる。詳細には、制御信号S2に基づいて、2つのトランジスタ対BT31の接続先がそれぞれ決定されることにより、充電電池セル群と端子対BT02とが接続される。2つのトランジスタ対BT31のそれぞれの接続先は、一方が端子B1となり、他方が端子B2となるように、制御信号S2によって制御される。
また、2つのトランジスタ対BT31のそれぞれの接続先は、端子対BT02に印加される電圧の極性によって決定される。具体的には、端子B1が正極、端子B2が負極となるような電圧が端子対BT02に印加されている場合、上流側のトランジスタ対BT31は、トランジスタBT32が導通状態となり、トランジスタBT33が非導通状態となるように、制御信号S2によって制御される。一方、下流側のトランジスタ対BT31は、トランジスタBT33が導通状態、トランジスタBT32が非導通状態となるように、制御信号S2によって制御される。また、端子B1が負極、端子B2が正極となるような電圧が端子対BT02に印加されている場合は、上流側のトランジスタ対BT31は、トランジスタBT33が導通状態となり、トランジスタBT32が非導通状態となるように、制御信号S2によって制御される。一方、下流側のトランジスタ対BT31は、トランジスタBT32が導通状態、トランジスタBT33が非導通状態となるように、制御信号S2によって制御される。このようにして、端子対BT02と充電電池セル群との間で、同じ極性をもつ端子同士が接続される。そして、端子対BT02から流れる電流の方向が、充電電池セル群を充電する方向となるように制御される。
変圧制御回路BT06は、変圧回路BT07の動作を制御する。変圧制御回路BT06は、放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数と、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数とに基づいて、変圧回路BT07の動作を制御する変圧信号S3を生成し、変圧回路BT07へ出力する。
なお、放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数が充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数よりも多い場合は、充電電池セル群に対して過剰に大きな充電電圧が印加されることを防止する必要がある。そのため、変圧制御回路BT06は、充電電池セル群を充電できる範囲で放電電圧(Vdis)を降圧させるように変圧回路BT07を制御する変圧信号S3を出力する。
また、放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数が、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数以下である場合は、充電電池セル群を充電するために必要な充電電圧を確保する必要がある。そのため、変圧制御回路BT06は、充電電池セル群に過剰な充電電圧が印加されない範囲で放電電圧(Vdis)を昇圧させるように変圧回路BT07を制御する変圧信号S3を出力する。
なお、過剰な充電電圧とする電圧値は、電池部BT08で使用される電池セルBT09の製品仕様等に鑑みて決定することができる。また、変圧回路BT07により昇圧及び降圧された電圧は、充電電圧(Vcha)として端子対BT02に印加される。
ここで、本実施形態における変圧制御回路BT06の動作例を、図27(A)乃至(C)を用いて説明する。図27(A)乃至(C)は、図24(A)乃至(C)で説明した放電電池セル群及び充電電池セル群に対応させた、変圧制御回路BT06の動作例を説明するための概念図である。なお図27(A)乃至(C)は、電池制御ユニットBT41を図示している。電池制御ユニットBT41は、上述したように、端子対BT01と、端子対BT02と、切り替え制御回路BT03と、切り替え回路BT04と、切り替え回路BT05と、変圧制御回路BT06と、変圧回路BT07とにより構成される。
図27(A)に示される例では、図24(A)で説明したように、連続する3つの高電圧セルa乃至cと、1つの低電圧セルdとが直列に接続されている。この場合、図24(A)を用いて説明したように、切り替え制御回路BT03は、高電圧セルa乃至cを放電電池セル群として決定し、低電圧セルdを充電電池セル群として決定する。そして、変圧制御回路BT06は、放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数を基準とした時の、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数の比に基づいて、放電電圧(Vdis)から充電電圧(Vcha)への変換比Nを算出する。
なお放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数が、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数よりも多い場合に、放電電圧を変圧せずに端子対BT02にそのまま印加すると、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09に、端子対BT02を介して過剰な電圧が印加される可能性がある。そのため、図27(A)に示されるような場合では、端子対BT02に印加される充電電圧(Vcha)を、放電電圧よりも降圧させる必要がある。さらに、充電電池セル群を充電するためには、充電電圧は、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の合計電圧より大きい必要がある。そのため、変圧制御回路BT06は、放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数を基準とした時の、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数の比よりも、変換比Nを大きく設定する。
変圧制御回路BT06は、放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数を基準とした時の、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数の比に対して、変換比Nを1乃至10%程度大きくするのが好ましい。この時、充電電圧は充電電池セル群の電圧よりも大きくなるが、実際には充電電圧は充電電池セル群の電圧と等しくなる。ただし、変圧制御回路BT06は変換比Nに従い充電電池セル群の電圧を充電電圧と等しくするために、充電電池セル群を充電する電流を流すこととなる。この電流は変圧制御回路BT06に設定された値となる。
図27(A)に示される例では、放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数が3個で、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の数が1個であるため、変圧制御回路BT06は、1/3より少し大きい値を変換比Nとして算出する。そして、変圧制御回路BT06は、放電電圧を当該変換比Nに応じて降圧し、充電電圧に変換する変圧信号S3を変圧回路BT07に出力する。そして、変圧回路BT07は、変圧信号S3に応じて変圧された充電電圧を、端子対BT02に印加する。そして、端子対BT02に印加される充電電圧によって、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09が充電される。
また、図27(B)や図27(B)に示される例でも、図27(A)と同様に、変換比Nが算出される。図27(B)や図27(C)に示される例では、放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数が、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数以下であるため、変換比Nは1以上となる。よって、この場合は、変圧制御回路BT06は、放電電圧を昇圧して充電電圧に変換する変圧信号S3を出力する。
変圧回路BT07は、変圧信号S3に基づいて、端子対BT01に印加される放電電圧を充電電圧に変換する。そして、変圧回路BT07は、変換された充電電圧を端子対BT02に印加する。ここで、変圧回路BT07は、端子対BT01と端子対BT02との間を電気的に絶縁している。これにより、変圧回路BT07は、放電電池セル群の中で最も下流に位置する電池セルBT09の負極端子の絶対電圧と、充電電池セル群の中で最も下流に位置する電池セルBT09の負極端子の絶対電圧との差異による短絡を防止する。さらに、変圧回路BT07は、上述したように、変圧信号S3に基づいて放電電池セル群の合計電圧である放電電圧を充電電圧に変換する。
また、変圧回路BT07は、例えば絶縁型DC(Direct Current)−DCコンバータ等を用いることができる。この場合、変圧制御回路BT06は、絶縁型DC−DCコンバータのオン/オフ比(デューティー比)を制御する信号を変圧信号S3として出力することにより、変圧回路BT07で変換される充電電圧を制御する。
なお、絶縁型DC−DCコンバータには、フライバック方式、フォワード方式、RCC(Ringing Choke Converter)方式、プッシュプル方式、ハーフブリッジ方式、及びフルブリッジ方式等が存在するが、目的とする出力電圧の大きさに応じて適切な方式が選択される。
絶縁型DC−DCコンバータを用いた変圧回路BT07の構成を図28に示す。絶縁型DC−DCコンバータBT51は、スイッチ部BT52とトランス部BT53とを有する。スイッチ部BT52は、絶縁型DC−DCコンバータの動作のオン/オフを切り替えるスイッチであり、例えば、MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)やバイポーラ型トランジスタ等を用いて実現される。また、スイッチ部BT52は、変圧制御回路BT06から出力される、オン/オフ比を制御する変圧信号S3に基づいて、絶縁型DC−DCコンバータBT51のオン状態とオフ状態を周期的に切り替える。なお、スイッチ部BT52は、使用される絶縁型DC−DCコンバータの方式によって様々な構成を取り得る。トランス部BT53は、端子対BT01から印加される放電電圧を充電電圧に変換する。詳細には、トランス部BT53は、スイッチ部BT52のオン/オフ状態と連動して動作し、そのオン/オフ比に応じて放電電圧を充電電圧に変換する。この充電電圧は、スイッチ部BT52のスイッチング周期において、オン状態となる時間が長いほど大きくなる。一方、充電電圧は、スイッチ部BT52のスイッチング周期において、オン状態となる時間が短いほど小さくなる。なお、絶縁型DC−DCコンバータを用いる場合、トランス部BT53の内部で、端子対BT01と端子対BT02は互いに絶縁することができる。
本実施形態における蓄電装置BT00の処理の流れを、図29を用いて説明する。図29は、蓄電装置BT00の処理の流れを示すフローチャートである。
まず、蓄電装置BT00は、複数の電池セルBT09毎に測定された電圧を取得する(ステップS001)。そして、蓄電装置BT00は、複数の電池セルBT09の電圧を揃える動作の開始条件を満たすか否かを判定する(ステップS002)。この開始条件は、例えば、複数の電池セルBT09毎に測定された電圧の最大値と最小値との差分が、所定の閾値以上か否か等とすることができる。この開始条件を満たさない場合は(ステップS002:NO)、各電池セルBT09の電圧のバランスが取れている状態であるため、蓄電装置BT00は、以降の処理を実行しない。一方、開始条件を満たす場合は(ステップS002:YES)、蓄電装置BT00は、各電池セルBT09の電圧を揃える処理を実行する。この処理において、蓄電装置BT00は、測定されたセル毎の電圧に基づいて、各電池セルBT09が高電圧セルか低電圧セルかを判定する(ステップS003)。そして、蓄電装置BT00は、判定結果に基づいて、放電電池セル群及び充電電池セル群を決定する(ステップS004)。さらに、蓄電装置BT00は、決定された放電電池セル群を端子対BT01の接続先に設定する制御信号S1、及び決定された充電電池セル群を端子対BT02の接続先に設定する制御信号S2を生成する(ステップS005)。蓄電装置BT00は、生成された制御信号S1及び制御信号S2を、切り替え回路BT04及び切り替え回路BT05へそれぞれ出力する。そして、切り替え回路BT04により、端子対BT01と放電電池セル群とが接続され、切り替え回路BT05により、端子対BT02と放電電池セル群とが接続される(ステップS006)。また、蓄電装置BT00は、放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数と、充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数とに基づいて、変圧信号S3を生成する(ステップS007)。そして、蓄電装置BT00は、変圧信号S3に基づいて、端子対BT01に印加される放電電圧を充電電圧に変換し、端子対BT02に印加する(ステップS008)。これにより、放電電池セル群の電荷が充電電池セル群へ移動される。
また、図29のフローチャートでは、複数のステップが順番に記載されているが、各ステップの実行順序は、その記載の順番に制限されない。
以上、本実施形態によれば、放電電池セル群から充電電池セル群へ電荷を移動させる際、キャパシタ方式のように、放電電池セル群からの電荷を一旦蓄積し、その後充電電池セル群へ放出させるような構成を必要としない。これにより、単位時間あたりの電荷移動効率を向上させることができる。また、切り替え回路BT04及び切り替え回路BT05により、放電電池セル群及び充電電池セル群のうち、変圧回路と接続する電池セルを、個別に切り替えられる。
さらに、変圧回路BT07により、放電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数と充電電池セル群に含まれる電池セルBT09の個数とに基づいて、端子対BT01に印加される放電電圧が充電電圧に変換され、端子対BT02に印加される。これにより、放電側及び充電側の電池セルBT09がどのように選択されても、問題なく電荷の移動を実現できる。
さらに、トランジスタBT10及びトランジスタBT13にOSトランジスタを用いることにより、充電電池セル群及び放電電池セル群に属しない電池セルBT09から漏洩する電荷量を減らすことができる。これにより、充電及び放電に寄与しない電池セルBT09の容量の低下を抑制することができる。また、OSトランジスタは、Siトランジスタに比べて熱に対する特性の変動が小さい。これにより、電池セルBT09の温度が上昇しても、制御信号S1、S2に応じた導通状態と非導通状態の切り替えといった、正常な動作をさせることができる。
本実施例では、実施の形態1に基づき、本発明の一態様に係る蓄電池を作製し、比較用の蓄電池と共にサイクル特性試験を行った。
<蓄電池1の構成>
作製した蓄電池1の構成について説明する。
[正極Aの作製]
まず、導電助剤としてグラフェンを含む正極スラリーを作製した。正極活物質として、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を用い、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。リン酸鉄リチウムと、酸化グラフェンと、ポリフッ化ビニリデンと、を重量比で94.2:0.8:5.0の割合で混合し、粘度調整のため分散媒としてN−メチル−ピロリドン(NMP)を添加して、混練することで正極スラリーを作製した。
上述の方法で作製した正極スラリーを、正極集電体(膜厚20μmのアルミニウム)にマイクロバーコーターを用いて塗布した。
次に集電体上に設けたスラリーを、該コーターの乾燥室で乾燥させた。乾燥は、まず、65℃にて15分間、大気雰囲気で行い、さらに75℃にて15分間、大気雰囲気で行った。
次に、還元剤を含む溶媒中で反応させ、酸化グラフェンの還元を行った。還元処理は、60℃で1時間行った。還元剤として、アスコルビン酸を用いた。また、溶媒としてはNMPを用いた。還元剤の濃度は13.5g/Lであった。
その後、エタノールで洗浄し、170℃で10時間の乾燥を行った。乾燥は、真空雰囲気下で行った。なおこの工程は、酸化グラフェンの熱還元も兼ねている。
次に、正極活物質層を、ロールプレス法によりプレスして圧密化した。
このようにして蓄電池1に用いる正極Aを作製した。この正極のリン酸鉄リチウムの担持量は11.1mg/cm2であった。
[負極Aの作製]
負極活物質、導電助剤、バインダー、分散媒を用いて、負極スラリーを作製した。ここでは負極活物質として、粒径10μmの人造黒鉛(MCMB)、導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標))、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いた。スラリーの分散媒には水を用い、重量比で、人造黒鉛:VGCF(登録商標):CMC−Na:SBR=96:1:1:2の割合で混合したものを混練し、負極スラリーを得た。
上述の方法で作製した負極スラリーを、負極集電体(膜厚18μmの圧延銅箔)にマイクロバーコーターを使用して塗布した。
次に集電体上に設けたスラリーを、該コーターの乾燥室で乾燥させた。乾燥は、まず、50℃にて90秒間、大気雰囲気で行い、さらに80℃にて90秒間、大気雰囲気で行った。
このようにして蓄電池1に用いる負極Aを作製した。この負極の黒鉛の担持量は11.1g/cm2であった。
[正極Bの作製]
まず、導電助剤としてグラフェンを含む正極スラリーを作製した。正極活物質として、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を用い、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。リン酸鉄リチウムと、酸化グラフェンと、ポリフッ化ビニリデンと、を重量比で94.2:0.8:5.0の割合で混合し、粘度調整のため分散媒としてN−メチル−ピロリドン(NMP)を添加して、混練することで正極スラリーを作製した。
上述の方法で作製した正極スラリーを、正極集電体(膜厚20μmのアルミニウム)にマイクロバーコーターを使用し塗布した。
次に集電体上に設けたスラリーを、該コーターの乾燥室で乾燥させた。乾燥は、まず、80℃にて4分間、大気雰囲気で行い、さらに、120℃にて8分間、大気雰囲気で行った。
次に、170℃で10時間の乾燥を行った。乾燥は、真空雰囲気下で行った。この工程により、電極の乾燥とともに酸化グラフェンの熱還元が行われる。
次に、正極活物質層を、ロールプレス法によりプレスして圧密化した。
このようにして比較蓄電池1に用いる正極Bを作成した。この正極のリン酸鉄リチウムの担持量は11.3mg/cm2であった。
[負極Bの作製]
負極活物質、バインダー、分散媒を用いて、負極スラリーを作製した。ここでは負極活物質として、粒径10μmの人造黒鉛(MCMB)、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いた。スラリーの分散媒には水を用い、重量比で、人造黒鉛:CMC−Na:SBR=97:1:2の割合で混合したものを混練し、負極スラリーを得た。
上述の方法で作製した負極スラリーを、負極集電体(膜厚18μmの圧延銅箔)にマイクロバーコーターを使用して塗布した。
次に集電体上に設けたスラリーを、該コーターの乾燥室で乾燥させた。乾燥は、まず、80℃にて4分間、大気雰囲気で行い、さらに、120℃にて8分間、大気雰囲気で行った。
このようにして比較蓄電池1に用いる負極Bを作成した。この負極の黒鉛の担持量は5.5g/cm2であった。
[電解液A]
ECとDECとを体積比で1:1の割合で混合して溶媒とし、Li塩としてLiTFSAを0.65mol/kgの濃度となるよう溶解させ、添加剤としてLiPF6を2wt%、ビニレンカーボネート(VC)を1wt%の濃度で加えたものを作製した。これを電解液Aとする。なお、添加剤としてLiPF6を加えるのは、正極集電体のAlの腐食を防止するためである。
[電解液B]
ECとDECとを体積比で3:7の割合で混合して溶媒とし、Li塩としてLiPF6を1mol/Lの濃度となるよう溶解させ、添加剤としてVCを1wt%の濃度で加えたものを作製した。これを電解液Bとする。
[蓄電池1の作製]
作製した正極A、負極Aおよび電解液Aを用いて、ラミネート型蓄電池を作製した。外装体として熱溶着樹脂で覆われたアルミのフィルムを用いた。また、セパレータには25μm厚のポリプロピレン(PP)を用いた。これを蓄電池1とする。
[比較蓄電池1の作製]
次に、作製した正極B、負極Bおよび電解液Bを用いて、ラミネート型蓄電池を作製した。外装体として熱溶着樹脂で覆われたアルミのフィルムを用いた。また、セパレータには25μm厚のポリプロピレン(PP)を用いた。これを比較蓄電池1とする。
次に、作製した蓄電池1および比較蓄電池1のエージングを行った。まず、25℃、0.01Cで3.2Vとなるまで充電を行った後に、グローブボックス内で蓄電池内部に生じたガスを外装体の外に放出した。その後、蓄電池を再封止し、25℃で引き続き充電を行った。充電はCCCV、即ち定電流0.1Cで4.0Vとなるまで印加した後、電流値が0.01Cとなるまで定電圧4.0Vで保持する事で行なった。その後、40℃で24時間保存を行った後、25℃で下限2Vとして放電を行った。その後、25℃において、電圧範囲2.0Vから4.0Vまで、0.2Cのレートで充放電を2回行った。
蓄電池1と比較蓄電池1の主要な差は、蓄電池1は電解質の主要成分としてLiTFSAを用いたのに対し、比較蓄電池1は電解質の主要成分にLiPF6を用いた点である。
<蓄電池1と比較蓄電池1のサイクル特性>
次にサイクル特性試験について説明する。試験は60℃の環境下で行った。レートは0.5Cにて行った。作製した蓄電池1と比較蓄電池1について、充放電を繰り返したときの容量維持率の変化を図17に示す。図17に示された通り、比較蓄電池1はサイクルを繰り返すと容量維持率の低下が大きいが、蓄電池1は容量維持率の低下が比較的小さい。蓄電池1は、比較蓄電池1と比べて、サイクル特性が改善されていることがわかる。
<XPS分析>
次に、サイクル特性が改善された要因を探るため、上述の60℃におけるサイクル特性試験後に、それぞれの蓄電池を解体して負極を取り出し、X線光電分光法(XPS)による表面分析を行った。なお各蓄電池から取り出した負極は、DMCで洗浄した後、乾燥させたうえで分析を行った。また本XPS分析は、分析サンプルを大気に暴露させることなく行った。
XPS分析の諸条件について示す。XPS分析に用いた装置は、PHYSICAL ELECTRONICS社製のQuantera SXMである。X線源には単色化したAl Kα線(1486.6eV)を用いた。検出領域を100μmφ、検出深さを4nm以上5nm以下(取出角45°)とした。
まず、図18に比較蓄電池1から取りだされた負極の表面に対するXPS分析の結果の700eVから740eVまでのスペクトルを示す。この領域は、Feの2p軌道に由来するピークが観測される領域である。図18に示すスペクトルには、金属状態のFeに帰属されるピーク(706eV付近)が観測されていることから、比較蓄電池1の負極の表面に0価のFeが存在することが示唆された。比較蓄電池1は正極活物質にFeを使用していること、また比較蓄電池1の他の部材にはFeは含まれないことから、Feは正極活物質から溶解してFeイオンとして電解液中を移動し、負極表面で還元され、析出したことが示唆された。すなわち正極活物質は電解液による損傷を受けている。また、負極表面でFeイオンが還元されたときに比較蓄電池1の電荷を浪費したと考えられる。
次に、図19に蓄電池1から取り出された負極の表面に対するXPS分析の結果を同様に示す。図19のスペクトルは、図18のスペクトルと同様のノイズレベルである一方で、図18のスペクトルとは異なり、当該領域においてノイズレベルを超えたシグナル強度を示すピークは存在していない。したがって、少なくともXPS分析においては、蓄電池1の負極表面にFeが観測されないことが示された。これは、蓄電池1においては、LiTFSAを溶解させた電解液が、LiPF6を溶解させた電解液とは異なり、正極活物質のFeを溶解せず、すなわち、正極活物質の劣化を生じさせていないためである。
<断面TEM観察>
次に、正極のLiFePO4粒子の表面の状態を確認するために、断面TEM(透過電子顕微鏡法)による観察を行った。TEM観察には、日立ハイテクノロジーズ製のH−9000NARを用いた。サンプルは、収束イオンビーム(FIB)法により薄片化したものを用いた。また、一連のFIB加工・TEM観察は、分析サンプルを大気に暴露させることなく行った。
図20は、比較蓄電池1から取り出された正極の表面近傍における断面TEM像(加速電圧200kV、観察倍率2,050,000倍)である。図20から、正極活物質のLiFePO4の粒子の表面に格子縞が観察されない層が形成されていることがわかる。すなわちLiFePO4粒子の表面に非晶質層が形成されていることがわかり、電解液との反応により正極活物質の表面が劣化していることが示唆される。
次に、図21に、蓄電池1から取り出された正極のLiFePO4粒子の表面近傍における断面TEM像(加速電圧200kV、観察倍率2,050,000倍)を示す。図21の観察像では、図20の観察像とは異なり、LiFePO4の粒子表面に非晶質層の形成は確認されない。したがって、電解液と正極活物質とが反応せず、該反応に起因する劣化が正極活物質に生じていないことが確認された。
正極活物質の劣化が生じていないため、本発明の一態様に係る蓄電池1においてはサイクル特性が向上した。
本実施例では、実施の形態1に基づき、本発明の一態様に係る蓄電池を作製し、該蓄電池を用いて環境温度を変更しての充放電試験を行い、温度特性を取得した。すなわち該蓄電池が0℃の低温においても正常動作することの確認を行った。
<蓄電池2の構成>
作製した蓄電池2の構成について説明する。
[正極Cの作製]
まず、導電助剤としてグラフェンを含む正極スラリーを作製した。正極活物質として、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を用い、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。リン酸鉄リチウムと、酸化グラフェンと、ポリフッ化ビニリデンと、を重量比で94.2:0.8:5.0の割合で混合し、粘度調整のため分散媒としてN−メチル−ピロリドン(NMP)を添加して、混練することで正極スラリーを作製した。
上述の方法で作製した正極スラリーを、正極集電体(膜厚20μmのアルミニウム)に塗布した。
次に集電体上に設けたスラリーを、通風乾燥機で乾燥させた。乾燥は、80℃にて40分間、大気雰囲気で行った。
次に、還元剤を含む溶媒中で反応させ、酸化グラフェンの還元を行った。還元処理は、60℃で1時間行った。還元剤として、アスコルビン酸を用いた。また、溶媒としてはNMPを用いた。還元剤の濃度は13.5g/Lであった。
その後、エタノールで洗浄し、170℃で10時間の乾燥を行った。乾燥は、真空雰囲気下で行った。なおこの工程は、酸化グラフェンの熱還元も兼ねている。
次に、正極活物質層を、ロールプレス法によりプレスして圧密化した。
このようにして蓄電池2に用いる正極Cを作成した。この正極のリン酸鉄リチウムの担持量は10.6mg/cm2であった。
[負極Cの作製]
負極活物質の黒鉛として、酸化ケイ素で修飾した黒鉛を作製した。黒鉛として、粒径10μmの人造黒鉛(MCMB)を用いた。人造黒鉛への修飾は、被覆剤にエチルシリケートを用いて、酸化ケイ素量を人造黒鉛に対して1wt%としてスプレードライ法にて2回処理を行った。また、導電助剤として、気相成長炭素繊維であるVGCF(登録商標)−H(昭和電工(株)製、繊維径150nm、比表面積13m2/g)を用いた。このようにして作製した人造黒鉛と、導電助剤、バインダー、分散媒を用いて、負極スラリーを作製した。バインダーとしてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)およびスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いた。スラリーの分散媒には水を用い、重量比で、人造黒鉛:VGCF(登録商標):CMC−Na:SBR=96:1:1:2の割合で混合したものを混練し、負極スラリーを得た。
上述の方法で作製した負極スラリーを、負極集電体(膜厚18μmの圧延銅箔)に塗布した。
次にこれをホットプレートにのせて大気雰囲気下で乾燥させた。乾燥工程は、25℃から30℃で開始し、70℃以下の温度まで昇温させ、そのまま30分程度加熱することにより、分散媒である水を蒸発させることにより行った。その後、減圧環境下で、100℃、10時間乾燥させた。
このようにして蓄電池2に用いる負極Cを作成した。この負極の黒鉛の担持量は9.7g/cm2であった。
電解液は、Li塩がLiTFSAである電解液Aを用いた。すなわち、ECとDECとを体積比で1:1の割合で混合して溶媒とし、Li塩としてLiTFSAを0.65mol/kgの濃度となるよう溶解させ、添加剤としてLiPF6を2wt%、VCを1wt%の濃度で加えたものを用いた。
[蓄電池2の作製]
作製した正極C、負極Cおよび電解液Aを用いて、ラミネート型蓄電池を作製した。外装体として熱溶着樹脂で覆われたアルミのフィルムを用いた。また、セパレータには25μm厚のポリプロピレン(PP)を用いた。これを蓄電池2とした。
次に、作製した蓄電池2のエージングを行った。エージングは蓄電池1と同じ工程によって行った。
<蓄電池2の温度特性>
上述のようにして用意した蓄電池2の温度特性を取得した。充放電測定は次のようにして行った。まず25℃において4.0Vに達するまで充電を行い、0℃にて2.0Vに達するまで放電を行った。次に25℃において4.0Vに達するまで充電を行い、25℃にて2.0Vに達するまで放電を行った。最後に25℃において4.0Vに達するまで充電を行い、60℃にて2.0Vに達するまで放電を行った。充電・放電ともにレートは0.2Cで行った。また充電・放電ともにCC(定電流)にて行った。
取得した温度特性を図22に示す。0℃における放電容量は、25℃における放電容量の76%であり、本発明の蓄電池は0℃の低温においても正常に動作することが確認された。