以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る性能低下検知装置、及び当該性能低下検知装置を備える蓄電システムについて説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
[1.蓄電システムの構成]
まず、蓄電システム10の構成について、説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る性能低下検知装置100を備える蓄電システム10の外観図である。
同図に示すように、蓄電システム10は、性能低下検知装置100と、複数(同図では6個)の蓄電素子200と、性能低下検知装置100及び複数の蓄電素子200を収容する収容ケース300とを備えている。
性能低下検知装置100は、複数の蓄電素子200の上方に配置され、複数の蓄電素子200の電池性能の急激な低下が生じ始める状態を性能低下開始状態として検知する回路を搭載した回路基板である。具体的には、性能低下検知装置100は、複数の蓄電素子200に接続されており、複数の蓄電素子200から情報を取得して、複数の蓄電素子200の性能低下開始状態を検知する。
なお、ここでは、性能低下検知装置100は複数の蓄電素子200の上方に配置されているが、性能低下検知装置100はどこに配置されていてもよい。この性能低下検知装置100の詳細な機能構成の説明については、後述する。
蓄電素子200は、正極と負極とを有する非水電解質二次電池などの二次電池である。また、同図では6個の矩形状の蓄電素子200が直列に配置されて組電池を構成している。なお、蓄電素子200の個数は6個に限定されず、他の複数個数または1個であってもよい。また蓄電素子200の形状も特に限定されない。
蓄電素子200は、アルミニウムやアルミニウム合金などからなる長尺帯状の正極基材箔上に正極活物質層が形成された正極と、銅や銅合金などからなる長尺帯状の負極基材箔上に負極活物質層が形成された負極とを有している。ここで、正極活物質層に用いられる正極活物質、または負極活物質層に用いられる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質または負極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。
ここで、蓄電素子200は、正極活物質としてリチウム遷移金属酸化物を含むリチウムイオン二次電池であるのが好ましい。正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、LixMOy(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(LixCoO2、LixNiO2、LixMn2O4、LixMnO3、LixNiyCo(1−y)O2、LixNiyMnzCo(1−y−z)O2、LixNiyMn(2−y)O4等)、LiwMex(XOy)z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、Vを表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、蓄電素子200は、負極活物質表面に形成される被膜がリチウムを補足する性質を有する負極を備えた非水電解質電池であれば、本発明を高精度に適用できる。即ち、非水電解質電池に用いられる負極活物質としては、Li4Ti5O12等のチタン酸リチウム、グラファイト(黒鉛)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)等の炭素質材料、低温焼成易黒鉛化性炭素、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、SnやSi等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる 。これらの中でもグラファイトは、金属リチウムに極めて近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電を実現できるため負極活物質として好ましく、例えば、MCMB(Mesocarbon microbeads)等の人造黒鉛、天然黒鉛が好ましい。特に、負極活物質粒子表面を不定形炭素等で修飾してあるグラファイトは、充電中のガス発生が少ないことから望ましい。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
[2.性能低下検知装置の構成]
次に、性能低下検知装置100の詳細な機能構成について、説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係る性能低下検知装置100の機能的な構成を示すブロック図である。
性能低下検知装置100は、蓄電素子200の急激な性能低下が生じ始める状態を性能低下開始状態として検知する装置である。同図に示すように、性能低下検知装置100は、変化量取得部110、変化量算出部120、性能低下判定部130及び記憶部150を備えている。また、変化量取得部110は、時間取得部111と、時間変化量算出部112と、区間容量取得部113と、区間容量変化量算出部114とを備える。また、記憶部150は、蓄電素子200が性能低下開始状態であるか否かを判定するための判定用データ151を記憶している。
変化量取得部110は、蓄電素子200の区間容量変化量ΔQと時間変化量√Δtとを取得する。ここで、時間変化量√Δtとは、蓄電素子200の使用期間の累積値である第一累積使用期間t1と、第一累積使用期間t1よりも長い使用期間の累積値である第二累積使用期間t2との差の平方根(√(t2−t1))である。また、区間容量変化量ΔQとは、第一累積使用期間t1が経過した第一時点における所定の電圧区間ΔVでの容量である第一区間容量Q1と、第二累積使用期間t2が経過した第二時点における所定の電圧区間ΔVでの容量である第二区間容量Q2との差の絶対値(|Q1−Q2|)である。
時間取得部111は、第一累積使用期間t1と第二累積使用期間t2とを取得する。時間変化量算出部112は、時間取得部111により取得された第一累積使用期間t1及び第二累積使用期間t2から、時間変化量√Δt(=√(t2−t1))を算出する。
区間容量取得部113は、第一区間容量Q1と第二区間容量Q2とを取得する。区間容量変化量算出部114は、区間容量取得部113により取得された第一区間容量Q1及び第二区間容量Q2から、区間容量変化量ΔQ(=|Q1−Q2|)を算出する。
変化量算出部120は、区間容量変化量ΔQを時間変化量√Δtで除した値である区間容量変化速度ΔQ/√Δtの時間的な変化量を算出する。
記憶部150の判定用データ151には、過去の時点における累積使用期間及び区間容量が予め書き込まれている。そして、変化量算出部120は、過去の時点における累積使用期間及び区間容量を判定用データ151から読み出すことで取得する。
なお、性能低下検知装置100は記憶部150を備えていなくてもよく、変化量取得部110は、他の機器から蓄電素子200の累積使用期間及び区間容量を取得することにしてもよい。また、累積使用期間及び区間容量がプログラムや回路構成などによって変化量取得部110に組み込まれていたりしていてもかまわない。
以下、性能低下判定部130が、第二時点において、蓄電素子200の性能低下開始状態を判定する手順の一例を説明する。
まず、変化量取得部110は、蓄電素子200の第二時点における第二累積使用期間t2及び第二区間容量Q2を取得する。具体的には、区間容量取得部113は、第二時点において蓄電素子200を所定の電圧区間で充電または放電させることにより、蓄電素子200の通電容量を第二区間容量Q2として取得する。また、時間取得部111は、第二累積使用期間t2を取得する。
ここで、記憶部150の判定用データ151には、蓄電素子200の第一時点における第一累積使用期間t1及び第一区間容量Q1が事前に書き込まれている。
次に、変化量取得部110は、判定用データ151から、第二時点の直前である第一時点における第一累積使用期間t1及び第一区間容量Q1を読み出す。時間変化量算出部112は、読み出された第一累積使用期間t1と取得された第二累積使用期間t2とから、第一時点と第二時点との間における時間変化量(√Δt=√(t2−t1))を算出する。また、区間容量変化量算出部114は、読み出された第一区間容量Q1と取得された第二区間容量Q2とから、第一時点と第二時点との間における区間容量変化量(ΔQ=Q1−Q2)を算出する。
次に、変化量算出部120は、第一時点と第二時点との間の区間容量変化速度((Q1−Q2)/√(t2−t1))と、第一時点と当該第一時点の直前の時点との間の区間容量変化速度との差である変化量を算出する。
最後に、性能低下判定部130は、変化量算出部120で算出された上記変化量の符号が時間的に変化した場合に、第二時点において蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定する。
[3.蓄電素子の性能低下特性]
ここで、蓄電素子200の性能低下特性について説明する。
図3は、蓄電素子の放電容量と電圧との関係を表すグラフである。具体的には、図3は、蓄電素子200を放電した場合の電圧と放電容量との関係を示すグラフである。同図には、蓄電素子200の累積使用期間を充放電サイクルとして表しており、累積使用期間の短いものから順に、pサイクル、qサイクル及びrサイクル(p<q<r)となっている。
図3に示すように、蓄電素子200を放電した場合の電圧と放電容量との関係において、pサイクルからrサイクルへと累積使用期間が増加するにつれ、放電容量が低下し劣化が進行している。ここで、図3に示すように、上限電圧(例えば4.2V)と下限電圧(例えば3.7V)とで規定される所定の電圧区間を定義し、pサイクル時、qサイクル時及びrサイクル時において上限電圧から下限電圧まで放電させた場合の放電容量を、それぞれ、容量Qp、容量Qq及び容量Qrとする。
図4は、累積使用期間(サイクル数)と放電容量との関係により蓄電素子の劣化状態を検知できることを説明するグラフである。図4において、横軸は累積使用期間であるサイクル数の平方根を表し、図3におけるpサイクル、qサイクル及びrサイクルの平方根に相当する。また、縦軸は所定の電圧区間での放電容量を表し、図3における容量Qp、容量Qq及び容量Qrに相当する。
リチウムイオン二次電池では、寿命末期に電池性能が急激に劣化するため、当該急激な性能低下が発生した時点(図4の劣化状態)で当該劣化を検知すると、電池の劣化は既に進行しているため当該劣化を十分に補償した動作を実行できない。これに対して、急激な性能低下が発生した時点の前の時点(図4の性能低下開始状態)において、将来到来する劣化状態を精度よく事前検知することにより、当該劣化を補償した動作を実行することが可能となる。
本実施の形態に係る性能低下検知装置100は、上記容量Qp、容量Qq及び容量Qrと、各累積使用期間(サイクル数)とに基づいて、電池性能の急激な低下を事前に精度良く検知するものである。以下、本発明の実施の形態に係る性能低下検知方法について説明する。
[4.性能低下検知方法]
図5は、本発明の実施の形態に係る性能低下検知方法を説明する動作フローチャートである。
まず、変化量算出部120は、区間容量変化速度の変化量を算出する(S102)。
次に、性能低下判定部130は、区間容量変化速度の時間的な変化量の符号が変化した場合に、蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定する(S104)。
以上により、性能低下検知装置100が蓄電素子200の性能低下開始状態を検知する処理は終了する。
ここで、上記ステップS102を具体的に説明する。
図6は、区間容量変化速度の変化量を算出する処理の一例を示すフローチャートである。また、図7は、累積使用期間(サイクル数)と区間容量変化速度との関係を表す特性の一例を示す図である。図7の上段に示された表には、累積使用期間が短い順に、サイクルm(時点M)、p(時点P)、q(時点Q)及びr(時点R)が示され、これらのサイクルに対応して区間容量Qm、Qp、Qq及びQrが示されている。なお、ここでは、サイクルm、p及びqに対応した時点M、P及びQは、すでに経過したものとし、性能低下判定部130が性能低下開始状態か否かを判断する判断時点は、時点Rであるとする。
ステップS102において、まず、区間容量取得部113は、所定の累積使用期間であるサイクルrが経過した時点Rにおいて、所定の電圧区間での区間容量Qrを取得する(S202)。
次に、区間容量変化量算出部114は、区間容量取得部113により取得された区間容量Qrと、予め取得されているサイクルqが経過した時点Qにおける区間容量Qqとから、区間容量変化量ΔQr(=|Qr−Qq|)を算出する。
次に、変化量算出部120は、時点Rと当該時点Rの直前の時点Qとの間の区間容量変化速度ΔQr/√Δtr(=|Qr−Qq|/√(r−q))を算出する(S204)。具体的には、変化量算出部120は、区間容量変化量算出部114から区間容量変化量ΔQr(=|Qr−Qq|)を取得し、時間変化量算出部112から√Δtr(=√(r−q))を取得することにより、区間容量変化速度ΔQr/√Δtr(=|Qr−Qq|/√(r−q))を算出する。
次に、変化量算出部120は、ステップS204で算出した区間容量変化速度ΔQr/√Δtrを記憶部150に記憶する(S206)。図7の上段に示された表には、サイクルp、q及びrが経過した時点P、Q及びRのそれぞれにおいて算出された区間容量変化速度ΔQp/√Δtp、ΔQq/√Δtq及びΔQr/√Δtrが示されている。具体的には、時点Pにおいて算出された区間容量変化速度ΔQp/√Δtpは、時点P及びと当該時点Pの直前の時点Mにおける区間容量Qp及びQmならびにサイクル数p及びmにより算出される。また、時点Qにおいて算出された区間容量変化速度ΔQq/√Δtqは、時点Q及び当該時点Qの直前の時点Pにおける区間容量Qq及びQpならびにサイクル数q及びpにより算出される。また、時点Rにおいて算出された区間容量変化速度ΔQr/√Δtrは、時点R及び当該時点Rの直前の時点Qにおける区間容量Qr及びQqならびにサイクル数r及びqにより算出される。記憶部150の判定用データ151には、図7の上段に示された表に相当するデータテーブルが保存されている。
つまり、変化量算出部120は、区間容量変化量算出部114において互いに異なる累積使用期間が経過した4つの時点M、P、Q及びRのうち隣り合う2つの時点を選択することにより算出された区間容量変化量を、サイクル数の短いものから順に区間容量変化量ΔQp、区間容量変化量ΔQq及び区間容量変化量ΔQrとする。また、変化量算出部120は、時間変化量算出部112において上記3つの区間容量変化量ΔQp、ΔQq及びΔQrのそれぞれに対応して取得された時間変化量を時間変化量√Δtp、時間変化量√Δtq及び時間変化量√Δtrとする。そして、変化量算出部120は、3つの区間容量変化量ΔQp、ΔQq及びΔQrと3つの時間変化量√Δtp、√Δtq及び√Δtrとを対応させて取得した3つの区間容量変化速度を、累積使用期間の短いものから順に、区間容量変化速度ΔQp/√Δtp、区間容量変化速度ΔQq/√Δtq及び区間容量変化速度ΔQr/√Δtrとして算出し、それぞれを、時点P、Q及びRにおいて記憶部150に記憶する。
ステップS102において、最後に、変化量算出部120は、時点Rにおいて、区間容量変化速度の変化量を算出する(S208)。具体的には、変化量算出部120は、区間容量変化速度ΔQq/√Δtqから区間容量変化速度ΔQp/√Δtpを減じることにより第一の変化量を算出する。また、変化量算出部120は、区間容量変化速度ΔQr/√Δtrから区間容量変化速度ΔQq/√Δtqを減じることにより第二の変化量を算出する。
ここで、上記ステップS104を具体的に説明する。
図8は、区間容量変化速度の変化量の符号を判定する処理の一例を示すフローチャートである。
まず、性能低下判定部130は、区間容量変化速度の時間的な変化量の符号が変化しているか否かを断定する(S302)。本ステップにおいて、性能低下判定部130は、区間容量変化速度の時間的な変化量の符号が変化していると判断した場合には、蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定する(S304)。
図7の下段のグラフは、サイクル数と区間容量変化速度との関係を示している。このグラフにおいて、上記第一の変化量の符号は、時点Pにおいて定義された区間容量変化速度を表す点(p、ΔQp/√Δtp)と、時点Qにおいて定義された区間容量変化速度を表す点(q、ΔQq/√Δtq)とを結ぶ直線の傾きの符号に相当する。また、上記第二の変化量の符号は、時点Qにおいて定義された区間容量変化速度を表す点(q、ΔQq/√Δtq)と、時点Rにおいて定義された区間容量変化速度を表す点(r、ΔQr/√Δtr)とを結ぶ直線の傾きの符号に相当する。図7のグラフでは、上記2つの直線の傾きの符号は異なる。つまり、第二の変化量の符号が、第一の変化量の符号に対して変化している。この場合には、性能低下判定部130は、区間容量変化速度ΔQr/√Δtrが取得される時点Rにおいて、蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定する。
次に、性能低下判定部130は、時点Rにおいて蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定した場合に、蓄電素子200の充電上限電圧を制限する(S306)。つまり、性能低下判定部130は、この場合には、蓄電素子200の充電上限電圧を制限する信号を発して、蓄電素子200が満充電になる前に蓄電素子200の充電を停止させる。
また、性能低下判定部130は、時点Rにおいて蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定した場合に、蓄電素子200への通電最大電流を制限することにしてもよい(S306)。つまり、性能低下判定部130は、この場合には、蓄電素子200への通電最大電流を制限する信号を発して、蓄電素子200に流れる電流値が過剰になるのを抑える。
なお、性能低下判定部130は、充電上限電圧や通電最大電流を制限する前に、または制限するのに代えて、警告を行ったりしてもよいし、蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定した場合に、蓄電素子200への充電を停止させることにしてもよい。
以上、本発明の実施の形態に係る性能低下検知装置または性能低下検知方法によれば、蓄電素子200の容量が急激に低下し始めることを事前に検知することで、蓄電素子200の急激な性能低下が生じ始める状態を精度良く検知することができる。
なお、本実施の形態に係る区間容量は、例えば、所定の電圧区間における下限電圧に達するまでの通電電流と通電時間との積に基づいて算出される。
具体例1としては、放電電流値Icと、満充電状態から下限電圧に達するまでの時間txとの積から、下限電圧に達するまでの区間容量Qxを算出してもよい。
また、具体例2としては、充電または放電電流Iと、上限電圧と下限電圧との間において変化した時の通電時間との積から、所定の電圧区間ΔVで通電したときの区間容量Qxを算出してもよい。
なお、上記区間容量を算出するにあたり、蓄電システム10や外部装置が、蓄電素子200の通電中における通電電流値、電圧、及び時間のデータを取得できるようにしてもよい。具体的には、所定の判定時点において、蓄電素子200の電圧が、一定時間以上、規定上限電圧以上(満充電状態)または規定下限電圧以下(完全放電状態)、あるいはそれらの間の電圧(半充電状態)で変化しない状態(OCV状態)から、規定の通電電流Iを通電した時に、予め定めておいた電圧Vに達するまでの通電時間tを取得してもよい。
上記具体例1の場合、蓄電システム10または外部装置に、通電時の電流値、電圧及び通電時間のデータを取得できる装置を搭載しておく。そして、定期点検や車検時に蓄電素子200を満充電状態にし、当該状態から、定格容量に対して放電電流値Icで予め定めておいた電圧Vに達するまでの時間txを取得してもよい。
また、上記具体例2の場合、蓄電システム10に、通電時の電流値、電圧及び通電時間のデータを取得できる装置を搭載しておく。電気自動車に搭載した蓄電素子200の電圧が半充電状態で一定時間変化しないOCV状態である場合(例えば、夜間で数時間以上自動車を使用しない場合など)、予め設定された充電または放電電流Iが流れる(例えば、一日の自動車の使用が終了した場合には蓄電素子200を充電するために充電電流を流す)。このとき、電圧が所定の電圧範囲ΔVで変化した場合、上限電圧または下限電圧に達するまでの時間を取得してもよい。
なお、本実施の形態では、時間変化量は、(tn−tn−1)0.5(=Δtの平方根)としたが、当該時間変化量は、(tn−tn−1)の0.5乗に限定されず、所定の許容量を含む。すなわち、本発明に係る性能低下検知装置100は、上記時間変化量が第二累積使用期間tnと第一累積使用期間tn−1との差のa乗(0.40≦a≦0.60)である場合に、蓄電素子200の容量が急激に低下し始めることを事前に検知することが可能である。これにより、蓄電素子200の急激な性能低下が生じ始める状態を精度良く検知することができる。
本願明細書において、本発明について「√」(平方根)を用いて説明するときは、0.5乗に限定されず、a乗(0.40≦a≦0.60)を意味するものとする。
また、後述する実施例に示すように、4.0〜4.5V(vs.Li/Li+)付近の充電電位が採用される層状の正極活物質が正極に用いられ、作動電位が金属リチウムの電位に近い負極活物質が負極に用いられた非水電解質二次電池の場合、上記所定の電圧区間の下限電圧を3.70V以上3.75V以下とすることで、本発明を好適に実施できる。
4.0〜4.5V(vs.Li/Li+)付近の充電電位が採用される層状の正極活物質としては、組成式LiMeO2(MeはCo、Ni、Mn及びAlから選択される1種以上を含む遷移金属元素)、あるいは組成式Li1+αMe’1−αO2(Me’はCo、Ni及びMnを含む遷移金属元素、α>0)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物からなる正極活物質が挙げられる。具体的には、LiCoO2、LiNiO2、LiNiy0.7Co0.3O2、LiNi0.33Mn0.33Co0.33O2、LiCo0.82Ni0.15Al0.03O2、Li1.18Co0.10Ni0.16Mn0.55O2等が挙げられる。
作動電位が金属リチウムの電位に近い負極活物質としては、グラファイト(黒鉛)等の炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、SnやSi等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。
[5.実施例]
次に、実施例及び比較例を示すことにより、上記の構成を有する性能低下検知装置100が、蓄電素子200の性能の急激な低下開始状態を事前に検知できることについて、詳細に説明する。なお、以下の試験では、電池を早期に性能低下に導くために、45℃電流1CmAといった過酷な加速試験条件を採用し、700サイクルの時点で電池の急激な劣化が生じる様子を示した。電気自動車に搭載された非水電解質電池の現実的な使用環境下では、電池の急激な劣化はおよそ10〜15年の累積使用期間において生じる。
(5−1)実施例及び比較例に用いた電池の仕様
正極合剤は、正極活物質と結着剤と導電助剤とを含み、正極活物質は、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2で表される層状構造のリチウム遷移金属酸化物を用い、結着剤はポリフッ化ビニリデンを用い、導電助剤はアセチレンブラックを用いた。
負極合剤は、負極活物質と、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースとを含み、負極活物質は黒鉛質炭素材料を用いた。
電解液は、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EM)=30:70(体積比)の混合溶媒に、LiPF6を1mol/L添加することで調製した。
(5−2)サイクル試験条件
充電として、45℃、電流1CmA(=700mA)、電圧4.2V、充電時間3時間という条件の定電流定電圧充電を行った。
放電として、45℃、電流1CmA(=700mA)、終止電圧2.85Vという条件の定電流放電を行った。
なお、充電と放電との間、及び放電と充電との間には、それぞれ、10分間の休止時間を設けた。
(5−3)放電容量確認試験
充電として、25℃、電流1CmA(=700mA)、電圧4.2V、充電時間3時間という条件の定電流定電圧充電を行った。
放電として、25℃、電流1CmA(=700mA)という条件において、下限電圧を変化させて定電流放電を行った。放電容量は、上限電圧と下限電圧とで規定された電圧区間で放電した場合の容量である。
なお、充電と放電との間、及び放電と充電との間には、それぞれ、10分間の休止時間を設けた。
この放電容量確認試験を、0、150、300、500、及び700サイクル後の各時点において実施した。
比較例1−1、1−2及び1−3では、上記下限電圧を放電末電圧である2.85Vとした。
実施例1、比較例2−1及び2−2では、上記下限電圧を3.75Vとした。
実施例2、比較例3−1及び3−2では、上記下限電圧を3.70Vとした。
比較例4−1及び4−2、ならびに比較例4−3では、上記下限電圧を3.80Vとした。
(5−4)時間変化量
区間容量変化速度ΔQ/√Δtを評価するに際し、区間容量変化速度の成分パラメータである時間変化量√Δtとは異なる第1時間差Δt及び第2時間差Δ√tを用いて区間容量変化速度を評価した。具体的には、第n累積使用期間が経過した第tn時点、及び、第n累積使用期間よりも使用期間の短い第(n−1)累積使用期間が経過した第tn−1時点の間の区間容量変化速度を評価するに際し、時間変化量√(tn−tn−1)の代わりに、第1時間差(tn−tn−1)または第2時間差(√tn−√tn−1)を用いた。
また、時間変化量√Δtは、典型的にはΔta(a=0.5)であるが、当該aは0.5に限定されない。そこで、時間変化量Δt0.5の代わりに、Δta(0.40≦a≦0.62)を用いた。
実施例1及び2、ならびに、比較例1−1及び4−1では、時間変化量√Δtを用いて区間容量変化速度を評価した。
比較例1−2、2−1、3−1及び4−2では、第1時間差(tn−tn−1)を用いて区間容量変化速度を評価した。
比較例1−3、2−2、3−2及び4−3では、第2時間差(√tn−√tn−1)を用いて区間容量変化速度を評価した。
上記実施例及び比較例についての区間電圧範囲及び区間容量変化速度の評価条件をまとめたものを表1に示す。
また、実施例3、及び、比較例5では、時間変化量(tn−tn−1)a(0.40≦a≦0.62)を用いて区間容量変化速度を評価した。
実施例3及び比較例5についての区間電圧範囲及び区間容量変化速度の評価条件をまとめたものを表2に示す。
(5−5)比較例1−1、1−2及び1−3について
表3に、区間電圧の電圧範囲が4.20〜2.85V(放電末電圧)である場合の、区間容量Q
n、区間容量変化量ΔQ
n、時間変化量を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/√Δt
n、第1時間差を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/Δt
n、第2時間差を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/Δ√t
nを示す。
また、図9は、区間電圧の電圧範囲が4.20〜2.85V(放電末電圧)である場合の、区間容量Qn及び区間容量変化量ΔQn(|Qn−Qn−1|)のサイクル数依存性を表すグラフである。
図9に示すように、サイクル数が増加するにつれ、区間容量Qnが減少し、区間容量変化量ΔQnが上昇している。特にサイクル数が700サイクルの時点では、区間容量Qnが急激に減少していることが解る。この区間容量変化量ΔQnの特性に対して、時間変化量、第1時間差及び第2時間差を用いて区間容量変化速度を評価した。
図10Aは、比較例1−1におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。同図に示すように、区間容量変化速度はサイクル数の増加とともに上昇しているが、各サイクル数の間での区間容量変化速度の傾きは常に正となっている。つまり、区間容量変化速度の時間的な変化量の符合は変化していない。従って、区間容量変化速度の成分パラメータとして時間変化量√(tn−tn−1)を用いた場合であっても、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができていない。
図10Bは、比較例1−2におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。比較例1−1と同様に、各サイクル数の間での区間容量変化速度の傾きは常に正となっている。従って、区間容量変化速度の成分パラメータとして第1時間差(tn−tn−1)を用いた場合であっても、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができていない。
図10Cは、比較例1−3におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。比較例1−1と同様に、各サイクル数の間での区間容量変化速度の傾きは常に正となっている。従って、区間容量変化速度の成分パラメータとして第2時間差(√tn−√tn−1)を用いた場合であっても、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができていない。
(5−6)実施例1、比較例2−1及び2−2について
表4に、区間電圧の電圧範囲が4.20〜3.75Vである場合の、区間容量Q
n、区間容量変化量ΔQ
n、時間変化量を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/√Δt
n、第1時間差を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/Δt
n、第2時間差を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/Δ√t
nを示す。
また、図11は、区間電圧の電圧範囲が4.20〜3.75Vである場合の、区間容量Qn及び区間容量変化量ΔQn(|Qn−Qn−1|)のサイクル数依存性を表すグラフである。
図11に示すように、サイクル数が増加するにつれ、区間容量Qnが減少し、区間容量変化量ΔQnが上昇している。特にサイクル数が700サイクルの時点では、区間容量Qnが急激に減少していることが解る。この区間容量変化量ΔQnの特性に対して、時間変化量、第1時間差及び第2時間差を用いて区間容量変化速度を評価した。
図12Aは、実施例1におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。同図に示すように、区間容量変化速度は、サイクル数150〜300において減少し、サイクル数300〜500において増加している。つまり、サイクル数500の時点で、区間容量変化速度の時間的な変化量の符合が変化していることが確認できる。従って、区間電圧の電圧範囲が4.20〜3.75Vであり、区間容量変化速度の成分パラメータとして時間変化量√(tn−tn−1)を用いた場合、蓄電素子200が急激に劣化する700サイクルに到達する前の500サイクルにおいて、当該急激な劣化を事前に検知できる。
図12Bは、比較例2−1におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。同図に示すように、区間容量変化速度は500サイクルまで減少しており、700サイクルにおいて区間容量変化速度が増加する。つまり、区間容量変化速度の時間的な変化量の符合は、500サイクルまで変化せず、700サイクルになって変化する。従って、区間容量変化速度の成分パラメータとして第1時間差(tn−tn−1)を用いた場合、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができていない。
図12Cは、比較例2−2におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。比較例1−3と同様に、各サイクル数の間での区間容量変化速度の傾きは常に正となっている。従って、区間容量変化速度の成分パラメータとして第2時間差(√tn−√tn−1)を用いた場合、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができていない。
(5−7)実施例2、比較例3−1及び3−2について
表5に、区間電圧の電圧範囲が4.20〜3.70Vである場合の、区間容量Q
n、区間容量変化量ΔQ
n、時間変化量を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/√Δt
n、第1時間差を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/Δt
n、第2時間差を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/Δ√t
nを示す。
また、図13は、区間電圧の電圧範囲が4.20〜3.70Vである場合の、区間容量Qn及び区間容量変化量ΔQn(|Qn−Qn−1|)のサイクル数依存性を表すグラフである。
図13に示すように、サイクル数が増加するにつれ、区間容量Qnが減少している。特にサイクル数が700サイクルの時点では、区間容量Qnが急激に減少していることが解る。この区間容量変化量ΔQnの特性に対して、時間変化量、第1時間差及び第2時間差を用いて区間容量変化速度を評価した。
図14Aは、実施例2におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。同図に示すように、区間容量変化速度は、サイクル数150〜300において減少し、サイクル数300〜500において増加している。つまり、サイクル数500の時点で、区間容量変化速度の時間的な変化量の符合が変化していることが確認できる。従って、区間電圧の電圧範囲が4.20〜3.70Vであり、区間容量変化速度の成分パラメータとして時間変化量√(tn−tn−1)を用いた場合、蓄電素子200が急激に劣化する700サイクルに到達する前の500サイクルにおいて、当該急激な劣化を事前に検知できる。
図14Bは、比較例3−1におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。同図に示すように、区間容量変化速度は500サイクルまで減少しており、700サイクルにおいて区間容量変化速度が増加する。つまり、区間容量変化速度の時間的な変化量の符合は、500サイクルまで変化せず、700サイクルになって変化する。従って、区間容量変化速度の成分パラメータとして第1時間差(tn−tn−1)を用いた場合、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができていない。
図14Cは、比較例3−2におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。比較例2−2と同様に、各サイクル数の間での区間容量変化速度の傾きは常に正となっている。従って、区間容量変化速度の成分パラメータとして第2時間差(√tn−√tn−1)を用いた場合、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができていない。
(5−8)実施例2、比較例3−1及び3−2について
表6に、区間電圧の電圧範囲が4.20〜3.80Vである場合の、区間容量Q
n、区間容量変化量ΔQ
n、時間変化量を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/√Δt
n、第1時間差を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/Δt
n、第2時間差を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/Δ√t
nを示す。
また、図15は、区間電圧の電圧範囲が4.20〜3.80Vである場合の、区間容量Qn及び区間容量変化量ΔQn(|Qn−Qn−1|)のサイクル数依存性を表すグラフである。
図15に示すように、サイクル数が増加するにつれ、区間容量Qnが減少している。特にサイクル数が700サイクルの時点では、区間容量Qnが急激に減少していることが解る。この区間容量変化量ΔQnの特性に対して、時間変化量、第1時間差及び第2時間差を用いて区間容量変化速度を評価した。
図16Aは、比較例4−1におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。同図に示すように、区間容量変化速度は500サイクルまで減少しており、700サイクルにおいて区間容量変化速度が増加する。つまり、区間容量変化速度の時間的な変化量の符合は、500サイクルまで変化せず、700サイクルになって変化する。従って、区間容量変化速度の成分パラメータとして時間変化量√(tn−tn−1)を用いた場合であっても、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができていない。
図16Bは、比較例4−2におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。同図に示すように、区間容量変化速度は500サイクルまで減少しており、700サイクルにおいて区間容量変化速度が増加する。つまり、区間容量変化速度の時間的な変化量の符合は、500サイクルまで変化せず、700サイクルになって変化する。従って、区間容量変化速度の成分パラメータとして第1時間差(tn−tn−1)を用いた場合、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができていない。
図16Cは、比較例4−3におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。比較例2−2と同様に、各サイクル数の間での区間容量変化速度の傾きは常に正となっている。従って、区間容量変化速度の成分パラメータとして第2時間差(√tn−√tn−1)を用いた場合、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができていない。
(5−9)実施例3及び比較例5について
表7に、区間電圧の電圧範囲が4.20〜3.70Vである場合の、区間容量Q
n、区間容量変化量ΔQ
n、時間変化量(a=0.44)を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/Δt
n 0.44、及び時間変化量(a=0.58)を成分パラメータとして用いた場合の区間容量変化速度ΔQ
n/Δt
n 0.58を示す。
図17Aは、実施例3(a=0.44)におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフであり、図17Bは、実施例3(a=0.58)におけるサイクル数と区間容量変化速度との関係を表すグラフである。図17A及び図17Bに示すように、区間容量変化速度は、時間変化量aが0.44及び0.58のいずれにおいても、サイクル数150〜300において減少し、サイクル数300〜500において増加している。つまり、サイクル数500の時点で、区間容量変化速度の時間的な変化量の符合が変化していることが確認できる。
また、表7には示していないが、区間容量変化速度は、時間変化量aが0.40及び0.60のいずれにおいても、サイクル数500の時点で、区間容量変化速度の時間的な変化量の符合が変化していることが確認できた。
また、表7には示していないが、比較例5(a=0.62)における区間容量変化速度は、区間容量変化速度の成分パラメータとして時間変化量Δtn 0.62を用いた場合、700サイクルに到達する前に、蓄電素子200の急激な劣化を事前に検知することができなかった。よって、aの値が0.60より大きくなると、電池の急激な劣化を事前に検知することができなくなる。
一方、aの値が0.40より小さくなると、Δtn aが1に近づくため、区間容量変化速度ΔQn/Δtn aが速度(単位時間あたりの容量変化量)の次元を持たない式に近づくことからもわかるように、測定間隔に大きく依存するようになる。そのため、この指標の値を正確に評価できなくなり、電池の急激な劣化を精度良く事前検知することができなくなる。
以上の結果より、aの値は0.40≦a≦0.60であることが好ましい。
(5−10)実施例及び比較例の評価結果
以上のように、実施例1〜3において、700サイクルでの急激な放電容量の低下による性能劣化に到達する前の時点である500サイクルにおいて、当該急激な劣化を事前に検知できる。つまり、区間電圧の下限電圧が3.75V以下であって、区間容量変化速度の成分パラメータとして時間変化量(tn−tn−1)a(0.40≦a≦0.60)を用いた場合に、性能低下検知装置100は、蓄電素子200の急激な性能低下が生じ始める状態を精度良く検知することができる。
上記のように、本実施の形態では、上記区間容量変化速度の時間的な変化量の符号を、事前の劣化検知パラメータとして用いている。ここで、区間容量Qnの変化をサイクル数の差分のa乗(典型的には平方根、即ち0.5乗)という時間スケールでみることにより蓄電素子200の急激な劣化を事前検知できることについて説明する。
図18は、リチウムイオン電池における容量の使用期間依存性を表すグラフである。同図の左側に示すように、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などの三成分(Mi、Co及びMn)正極/グラファイト系負極、及び、スピネルMn混合系の三成分正極/グラファイト系負極などで構成されるリチウムイオン電池は、容量低下量Qがサイクル数tの平方根に比例して増加する。したがって、Q=k√t(kは定数)が成り立つ。これを変換して、Q2=k’t(k’=k2)が成り立つ。つまり、サイクル数tと容量低下量Qの2乗との間には、直線関係が成り立つ。
図19Aは、所定のリチウムイオン電池についての容量変化量とサイクル数の平方根との関係を表すグラフである。また、図19Bは、所定のリチウムイオン電池についての容量変化量の2乗値とサイクル数との関係を表すグラフである。いずれのグラフにおいても、図18で説明したように、累積使用期間が定常状態(図19A及び図19Bでは150サイクル〜500サイクル)である場合には、容量低下量Qとサイクル数tとの間には、Q=k√t(kは定数)、及び、Q2=k’t(k’=k2)が成り立っている。ただし、この定常状態からの状態変化、つまり、劣化状態の急激な進行が発生する場合には、定常状態における定数kまたはk’が変化する。このkまたはk’の変化を高精度に検知することにより、急激な劣化をいち早く検知することが可能となる。ここで、図19A及び図19Bのグラフを比較すると、500サイクル付近では、図19Bにおける直線の傾きが上振れしていることが確認できる。つまり、kの変化を観測するよりもk’の変化を観測する方が、直線の傾きの変化に対する検出能力が高くなる。
図20は、所定のリチウムイオン電池についての容量変化量の2乗値とサイクル数との関係を表すグラフにおける線分の傾きの算出を説明する図である。同図に示されたQ2−t特性の傾きである(ΔQ(Q0−Qn)2/Δt(tn−tn−1)を算出することで、電池の急激な劣化を、より高精度に事前検知できる。これは、電池が急激に劣化した場合には容量低下量が上記規則(Q2=k’t)から逸脱することによるものである。ただし、上記傾きΔQ(Q0−Qn)2/Δt(tn−tn−1)は、ΔQ/ √(tn−tn−1)を算出することと等価である。上述したメカニズムにより、区間容量の変化を、サイクル数の差分の平方根という時間スケールでみることにより電池の急激な劣化を高精度に事前検知することが可能となる。
[6.効果など]
以上のように、本発明の実施の形態に係る性能低下検知装置100は、蓄電素子200の使用期間の累積値である第一累積使用期間t1が経過した第一時点における所定の電圧区間での容量を第一区間容量Q1とし、第一累積使用期間t1よりも長い使用期間の累積値である第二累積使用期間t2が経過した第二時点における所定の電圧区間での容量を第二区間容量Q2とし、第一区間容量Q1と第二区間容量Q2との差を区間容量変化量(ΔQ=Q1−Q2)とし、第二累積使用期間t2と第一累積使用期間t1との差のa乗(0.40≦a≦0.60)を時間変化量(√Δt=√(t2−t1))とし、区間容量変化量ΔQを時間変化量√Δtで除した値である区間容量変化速度ΔQ/√Δtの時間的な変化量の符号が変化した場合に、第二時点において蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定する性能低下判定部130を備える。
これによれば、性能低下検知装置は、区間容量変化速度の時間的な変化量の符号が変化した場合に、第二時点において蓄電素子が性能低下開始状態であると判定する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該区間容量変化速度の時間的な変化量の符号が変化した場合に、第二時点において、蓄電素子の性能が急激に低下し始めることを見出した。このため、当該性能低下検知装置によれば、蓄電素子の急激な性能低下が生じ始める状態を精度良く検知することができる。
また、さらに、区間容量変化量ΔQと時間変化量√Δtとを取得する変化量取得部110と、区間容量変化速度ΔQ/√Δtの時間的な変化量を算出する変化量算出部120とを備えてもよい。ここで、変化量算出部120は、変化量取得部110において互いに異なる累積使用期間が経過した4つの時点M、P、Q及びRのうち隣り合う2つの時点を選択することにより取得された区間容量変化量を、累積使用期間の短いものから順に区間容量変化量ΔQp、区間容量変化量ΔQq及び区間容量変化量ΔQrとする。また、上記3つの区間容量変化量ΔQp、ΔQq及びΔQrのそれぞれに対応して取得された時間変化量を、時間変化量√Δtp、時間変化量√Δtq及び時間変化量√Δtrとする。そして、3つの区間容量変化量ΔQp、ΔQq及びΔQrと3つの時間変化量√Δtp、√Δtq及び√Δtrとを対応させて取得した3つの区間容量変化速度を、累積使用期間の短いものから順に、区間容量変化速度ΔQp/√Δtp、区間容量変化速度ΔQq/√Δtq及び区間容量変化速度ΔQr/√Δtrとして算出し、それぞれを、時点P、Q及びRにおいて記憶部150に記憶する。そして、変化量算出部120は、区間容量変化速度ΔQq/√Δtqから区間容量変化速度ΔQp/√Δtpを減じることにより第一の変化量を算出する。また、区間容量変化速度ΔQr/√Δtrから区間容量変化速度ΔQq/√Δtqを減じることにより第二の変化量を算出する。そして、性能低下判定部130は、第二の変化量の符号が、第一の変化量の符号に対して変化した場合に、区間容量変化速度ΔQr/√Δtrが取得される時点において蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定してもよい。
これにより、蓄電素子200の蓄電素子の急激な性能低下が生じ始める状態を精度良く検知することができる。
また、変化量取得部110は、4つの時点M、P、Q及びRのそれぞれにおいて、所定の電圧区間での区間容量を取得する区間容量取得部113と、当該4つの時点のうち隣り合う2つの時点を選択することにより、区間容量変化量ΔQp、区間容量変化量ΔQq及び区間容量変化量ΔQrを算出する区間容量変化量算出部114とを備えてもよい。
これにより、性能低下検知装置100は、蓄電素子200の初期状態から任意の累積使用期間が経過した時点での区間容量変化量を、当該時点においてメモリに記憶しておくなどにより、区間容量変化量を容易に取得することができる。
また、変化量取得部110は、4つの時点M、P、Q及びRに対応した累積使用期間のそれぞれを取得する時間取得部111と、当該4つの時点のうち隣り合う2つの時点を選択することにより、時間変化量√Δtp、√Δtq及び√Δtrを算出する時間変化量算出部112とを備えてもよい。
これにより、性能低下検知装置100は、蓄電素子200の初期状態から任意の累積使用期間が経過した時点での時間変化量を、当該時点においてメモリに記憶しておくなどにより、時間変化量を容易に取得することができる。
また、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、電圧区間の下限電圧を3.75V以下として算出された区間容量変化速度の時間的な変化量の符号が変化した場合に、第二時点において蓄電素子200の性能が急激に低下し始めることを見出した。このため、当該性能低下検知装置によれば、蓄電素子の蓄電素子の急激な性能低下が生じ始める状態を精度良く検知することができる。
また、性能低下検知装置100は、第二時点において蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定した場合に、蓄電素子200の充電上限電圧を制限することで、蓄電素子200の急激な性能低下を抑制することができ、寿命延命措置をとることができる。
また、性能低下検知装置100は、第二時点において蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定した場合に、蓄電素子200への通電最大電流を制限することで、蓄電素子200の急激な性能低下を抑制することができ、寿命延命措置をとることができる。
[7.その他の実施の形態]
以上、本発明の実施の形態に係る蓄電システム10及び性能低下検知装置100について説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。つまり、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、上記実施の形態では、性能低下検知装置100は、変化量取得部110と、変化量算出部120と、性能低下判定部130と、記憶部150とを備えるものとして説明した。しかし、性能低下検知装置100は、変化量取得部110及び変化量算出部120を備えないことにしてもよい。つまり、性能低下判定部130が変化量取得部110及び変化量算出部120の機能を兼ね備えている構成であってもよい。すなわち、性能低下判定部130は、第一区間容量と第二区間容量との差である区間容量変化量と、第二累積使用期間と第一累積使用期間との差の平方根である時間変化量とを取得し、区間容量変化量を時間変化量で除した値である区間容量変化速度の時間的な変化量の符号が変化した場合に、第二時点において蓄電素子200が性能低下開始状態であると判定してもよい。
また、上記実施の形態では、区間容量を、所定の電圧区間において上限電圧から下限電圧へと変化させたときの放電容量としたが、所定の電圧区間における充電容量としてもよい。
なお、上記実施の形態では、蓄電素子200の累積使用期間を性能劣化のパラメータとして評価している。このとき、累積使用期間の初期値としては、例えば、蓄電素子200の製造時点や工場出荷時点、また、実際に使用が開始された時点とすればよい。初期時点以降において蓄電素子200の充放電を伴う使用を開始して、所定の使用期間が経過した時点を性能劣化の判定時点としてもよい。また、上記所定の使用期間は、特に限定されず、当該所定の使用期間の単位も特に限定されない。
例えば、蓄電素子200が電気自動車に搭載され、実際に使用が開始された時点を初期時点とする。初期時点以降、定期点検または車検が実施されるたびにその時点を第一判定時点、第二判定時点、・・・(実施の形態に係る時点M、P、Q及びR)としてもよい。この場合には、各判定時点間の期間(各累積使用期間の時間差)は、日数の単位で算出されてもよい。
また、例えば、蓄電システム10内に定期的に蓄電池の使用期間や充放電データ等を取得できる装置が搭載され、当該装置が一カ月に一回など、特定の期間ごとにデータを取得し、取得ごとにその時点を第一判定時点、第二判定時点、・・・としてもよい。この場合には、各判定時点間の期間(各累積使用期間の時間差)は、日数の単位で算出されてもよい。
なお、上記実施の形態では、累積使用期間の単位を「サイクル数」で示しており、性能劣化の判定時点間の時間差の単位も「サイクル数」となっている。しかし、判定時点間の期間の時間差の単位は、例えば、日や月、または、通電積算時間など、どのような期間であってもよく特に限定されない。
例えば、直前の判定時点から現在の判定時点までの期間の単位を日数としてもよい。この場合、直前の判定時点が初期時点から200日後であり今回の判定時点が初期時点から500日後の場合、両判定時点の間の時間差は300日となる。
また、例えば、蓄電システム10に、蓄電素子200の使用状況(充電及び放電を行ったSOC範囲、電流、時間、その時の温度、各SOCで放置した時間、及びその時の温度など)を記録できるデータロガーを搭載しておいてもよい。また、そのデータから蓄電素子200の使用状況をサイクル数または日数へと変換できるプログラムを蓄電システム10または外部装置に搭載しておいてもよい。つまり、判定時点間の使用状況のデータから判定時点間のサイクル数または日数を算出してもよい。
また、各累積使用期間(各判定時点)の間隔は、できるだけ等間隔とすることが好ましく、当該間隔は2年以下であることが好ましい。
なお、上記実施の形態では、性能低下検知装置100が記憶部150を備える構成としているが、記憶部150は性能低下検知装置100が備えていなくてもよい。区間容量、区間容量変化量、時間変化量、区間容量変化速度などのデータは、蓄電システム10内または蓄電システム10外に記憶されてもよい。
例えば、定期点検および車検時の判定時点において、その時点での区間容量変化速度を販売店等のデータベースやクラウドに記憶できるようにしてもよい。
また、本発明は、このような蓄電システム10または性能低下検知装置100として実現することができるだけでなく、性能低下検知装置100に含まれる特徴的な処理部をステップとする性能低下検知方法としても実現することができる。
また、本発明に係る性能低下検知装置100が備える各処理部は、集積回路であるLSI(Large Scale Integration)として実現されてもよい。例えば、本発明は、変化量取得部110、変化量算出部120及び性能低下判定部130を備える集積回路として実現することができる。
なお、上記集積回路が備える各処理部は、個別に1チップ化されても良いし、一部または全てを含むように1チップ化されても良い。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field
Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用しても良い。
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適応等が可能性としてあり得る。
また、本発明は、性能低下検知方法に含まれる特徴的な処理をコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、当該プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray(登録商標) Disc)、半導体メモリとして実現したりすることもできる。そして、そのようなプログラムは、CD−ROM等の記録媒体及びインターネット等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。