JP2016079541A - ポリマーナノファイバシート及びその製造方法 - Google Patents

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香織 安福
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哲男 日野
健二 ▲高▼嶋
健二 ▲高▼嶋
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一浩 山内
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Abstract

【課題】剥離強度や機械強度が高く、かつ比表面積が高い、ポリマーナノファイバシートを提供する。
【解決手段】ポリマーを有するポリマーナノファイバ2が集積され、かつ三次元的に絡み合ってなるポリマーナノファイバシート1であって、ポリマーナノファイバシート1は、エーテル結合を有する4員環以上の環構造が少なくとも1つ含まれる低分子有機化合物を有し、前記ポリマーの平均溶解度パラメータと、前記低分子有機化合物の平均溶解度パラメータとの差が8(J/cm31/2未満である。
【選択図】図1

Description

本発明は、ポリマーナノファイバシート及びその製造方法に関する。
近年、比表面積の大きな材料として、ポリマーナノファイバシートに代表される、ポリマーを有するナノファイバが集積されることでナノファイバ同士が三次元的に絡み合ったポリマーナノファイバ構造体が、近年注目を浴びている。
しかしポリマーナノファイバが三次元的に絡み合って形成される従来のポリマーナノファイバ構造体は、ファイバ同士が物理的に絡まっているだけの構成であった。そのため、機械的強度が低く、引っ張り力や摩擦に弱い傾向にあり、実用面において課題があった。そこで、ポリマーナノファイバ構造体における機械的強度を向上させるための手法が開発されてきた。特許文献1には、複数のポリマーナノファイバを縒って形成した糸状のポリマーナノファイバ構造体を加熱し、ポリマーナノファイバ同士を部分的に結合する部分結合処理を行う手法が開示されている。特許文献1によれば、この部分結合処理により、高強度化したポリマーナノファイバ構造体を得ることができる。また、特許文献2には、ポリマーナノファイバからなる積層体において、架橋性物質を介してこの積層体を構成するポリマーナノファイバ同士の少なくとも一部を接合することで高強度化させる手法及びその手法により得られた防水透湿積層体が開示されている。
特開2011−214170号公報 特開2010−84252号公報
しかしながら、特許文献1の手法では、ポリマーナノファイバ同士の部分結合処理を行うのに適した温度等の制御が難しく、条件によってはナノファイバが大きく溶融し、構造体を構成するファイバの直径が数μm以上になることがある。その結果、ナノファイバ構造体自体の比表面積が低下することがあった。また、特許文献2の手法では、用いるファイバ母材と架橋性物質との関係により、架橋処理中に架橋性物質がファイバ母材から分離するという課題が生じており、また架橋性物質によっては十分な強度を有する構造体が得られない場合があった。
本発明は、上述した課題を解決するためになされるものであり、その目的は、剥離強度や機械強度が高く、かつ比表面積が高い、ポリマーナノファイバシートを提供することにある。
本発明のポリマーナノファイバシートは、ポリマーを有するポリマーナノファイバが集積され、かつ三次元的に絡み合ってなるポリマーナノファイバシートであって、
前記ポリマーナノファイバシートが、エーテル結合を有する4員環以上の環構造が少なくとも1つ含まれる低分子有機化合物を有し、
前記ポリマーの平均溶解度パラメータと、前記低分子有機化合物の平均溶解度パラメータとの差が8(J/cm31/2未満であることを特徴とする。
本発明によれば、機械強度や剥離強度が高く、比表面積が高いポリマーナノファイバシートを提供することができる。
本発明のポリマーナノファイバシートにおける実施形態の例を示す概略図である。 本発明のポリマーナノファイバシートの製造装置の例を示す概略図である。 実施例1にて作製したポリマーナノファイバシートのレーザー顕微鏡写真である。
本発明は、ポリマーを有するポリマーナノファイバが集積され、かつ三次元的に絡み合ってなるポリマーナノファイバシートに係るものである。本発明に係るポリマーナノファイバシートは、エーテル結合(−O−)を有する4員環以上の環構造が少なくとも1つ含まれる低分子有機化合物を有する。尚、ここでいう「低分子有機化合物を有する」とは、当該低分子有機化合物が、ポリマーナノファイバシートを構成するポリマーナノファイバの内部又は表面に付着して存在する態様に限定されない。共有結合等を介してポリマーナノファイバの内部又は表面に固着される態様も含まれる。また以下の説明において、エーテル結合を有する4員環以上の環構造が少なくとも1つ含まれる低分子有機化合物を、単に低分子有機化合物ということがある。
また本発明において、ポリマーの平均溶解度パラメータと、上記低分子有機化合物の平均溶解度パラメータとの差は8(J/cm31/2未満である。
以下、図面を参照しながら本発明のポリマーナノファイバシートについて説明する。
[ポリマーナノファイバシート]
図1は、本発明のポリマーナノファイバシートにおける実施形態の例を示す概略図であり、(a)は、シートの概略図を表し、(b)は、(a)中のα部分の拡大断面図である。図1のポリマーナノファイバシート1は、複数のポリマーナノファイバ2が集積され、かつ三次元的に絡み合ってなるシート状の構造物である。このように本発明のポリマーナノファイバシートは、ポリマーナノファイバ2で構成されるため、互いに絡み合う複数のポリマーナノファイバ2間で適度な空間が形成される。従って、本発明のポリマーナノファーバシートは、必然的に比表面積は高い。
また本発明のポリマーナノファイバシートは、図1(b)に示されるように、ポリマーナノファイバ2と、このポリマーナノファイバ2同士を連結するための架橋部3と、から構成される。この架橋部3は、主に、ポリマーナノファイバシート1が有するポリマーと低分子有機化合物との化学反応により形成される。即ち、本発明のポリマーナノファイバシートに含まれる低分子有機化合物は、共有結合等を介してポリマーナノファイバの内部又は表面に固着される態様で存在する。尚、実際には、この化学反応により形成される化学的架橋の他に、ポリマーと上記低分子有機化合物との会合によって形成される物理的架橋も含まれ得るが、以下の説明で特に断りがない場合は、架橋といえば化学的架橋をいうものとする。
上記低分子有機化合物から架橋部3を形成する際に、化学的架橋により架橋性部位3aが形成される場合、架橋部3は、分子回転性に優れたsp3混成軌道(酸素原子、メチレン基等)に基づく柔軟な接合構造を有することとなる。このため、架橋部3は脆くなく柔軟な部分構造である。ところで、架橋部3による化学架橋の態様は、図1(b)に示されるように、ポリマーナノファイバ2同士を接触させた状態での架橋に限定されるものではない。例えば、ポリマーナノファイバ2間にナノメートルレベルの間隔が設けられている状態での架橋も含まれる。また、1本のポリマーナノファイバ2を構成する複数(少なくとも2つ)のポリマー鎖間で起こる架橋も含まれる。
以上説明の様に、本発明のポリマーナノファイバシートは、ナノファイバ内部又はナノファイバ間に架橋部が適度に設けられる。このため本発明のポリマーナノファイバシートは、機械強度やポリマーナノファイバ間の剥離強度が高く、擦れ等の外的要因によるポリマーナノファイバの剥離・脱落が起こりにくくなる。また本発明のポリマーナノファイバシートは、ポリマーナノファイバの剥離・脱落が起こりにくくなるため、上述した外的要因によってポリマーナノファイバシートの比表面積が低下することはない。尚、ポリマーナノファイバシートの比表面積は、シートを構成するポリマーナノファイバの繊維径やポリマーナノファイバの本数等に依存するが、これらは所望の特性に合わせて適宜選択すればよい。
このナノファイバシートの局所的な構造の定量的な指標として、シートの体積(空隙部分を含む)に対するポリマーナノファイバの体積の割合で表される存在率がある。この存在率は、ポリマーナノファイバの体積の割合の求め方により複数の定義が存在する。具体的には、単位存在率、平均存在率等があるが、単位存在率とはナノファイバシートの破断面を出し、積層方向のファイバ径と同等の厚み部分でファイバの占める面積割合である。また平均存在率は特定の部分の厚みにおける前記単位存在率の平均値である。以下の説明において特に断りがない場合、存在率とは対象部分の平均存在率を示すものであり、本発明においては10%以上97%以下が望ましい。存在率が10%未満では、ナノファイバの量が減り、ナノファイバの利点である高い比表面積による効果が小さくなってしまう。一方、存在率が97%を上回ると、細孔部分に僅かな物質が付着することで細孔の閉塞が発生してしまう。
本発明のポリマーナノファイバシートにおいて、任意の断面に存在するポリマーナノファイバの数、隣接間隔及び積層数は、所望するポリマーナノファイバシートの特性に合わせて適宜選択することができる。例えば、図1のポリマーナノファイバシート1は、複数のポリマーナノファイバ2がランダム状に集積され、かつポリマーナノファイバ2同士が所定の交点又はポリマーナノファイバの内部で架橋されることでポリマーナノファイバシート1を形成している。これら隣接している複数のポリマーナノファイバ2同士は、少なくとも一部の交点において、ポリマーと低分子有機化合物とから形成された架橋部で架橋されている。これにより、強固かつ柔軟なネットワークが形成している。
その結果、本発明のポリマーナノファイバシートは、機械強度や剥離強度が高く、ポリマーナノファイバ同士が容易にほつれることがないので、長期使用に有利である。
ところで、ポリマーナノファイバシートの耐久性を評価する物性値として引張弾性率がある。引張弾性率はヤング率ともいい、100MPa以上が望ましい。100MPaを下回る場合、シートとしての強度が弱く長期使用ができない。
本発明のポリマーナノファイバシートは、ポリマーナノファイバ同士が絡み合って形成されるシート状の部材であるため、一定の膜厚を有すると共に、一定の大きさの空孔をも有する。膜厚は、好ましくは、0.1μm以上50mm未満である。より好ましくは、1μmより大きく1mm未満である。膜厚が0.1μmより薄いと、ナノファイバの絡まりが十分に起こらないため、ナノファイバシートの構造を形成できないからである。細孔径の平均値は、好ましくは、10nm以上50μm以下であり、より好ましくは、10nm以上20μm未満である。空孔が10nm未満と小さすぎると、ナノファイバの利点である高い比表面積による効果が小さくなってしまう。逆に、細孔径の平均値が50μmより大きすぎると、望ましい強度が得られない場合がある。また本発明のポリマーナノファイバシートをフィルタ等の部材の構成材料として利用することを考慮すると、このポリマーナノファイバシートは一定以上の強度を備えるのが好ましい。一定以上の強度とは、引張弾性率100MPa以上であること、又は風圧試験に耐久できることを示す。尚、風圧試験とは、例えば、厚紙に張り付けたナノファイバ膜に、エアガンを用いて、50Paの風をエアガン−膜間に3cm距離を置いて2分吹き付け、破壊がおこるかどうかを測定する試験である。また本発明では、強度を向上させるために、ナノファイバシートを複数枚並べて利用してもよい。
[ポリマーナノファイバ]
本発明のポリマーナノファイバシートを構成するポリマーナノファイバは、少なくとも1種類以上のポリマーを有し、そのファイバの長さがファイバの太さよりも長いものをいい、紡糸の過程でエーテル結合を有する4員環以上の環構造が少なくとも1つ含まれる低分子有機化合物を含有する。尚、ここでいう含有とは、ファイバの内部に上記低分子有機化合物が含まれる場合に限られず、ファイバの表面に上記低分子有機化合物が存在する場合も含まれる。
本発明において、ポリマーナノファイバの太さの指標となる平均直径は、特に限定されないが、好ましくは、1nm以上10000nm未満である。特に、比表面積の高いポリマーナノファイバシートを得るためには、平均直径が5000nm未満であることがより好ましい。さらに好ましい平均直径は,3000nm未満である。尚、ポリマーナノファイバの平均直径が1nm未満の場合は、ポリマーナノファイバ自体がポリマーナノファイバシートを作製する観点から取り扱いづらいものとなる。その一方で、ポリマーナノファイバの取り扱いやすさという観点からは、平均直径は、50nm以上であれば扱い易い傾向にあるため、好ましい。
本発明において、ポリマーナノファイバの断面形状は特に限定されず、具体的な形状としては、円形、楕円形、四角形、多角形、半円形等が挙げられる。尚、ポリマーナノファイバの断面形状は、以上に列挙した正確な形状でなくてもよいし、任意の断面で形状が異なっていてもよい。
ここで、ポリマーナノファイバの形状が円柱状であると仮定すると、その円柱の断面となる円の直径が上記ポリマーナノファイバの太さに相当する。またポリマーナノファイバの形状が円柱状でない場合では、上記のポリマーナノファイバの太さとはポリマーナノファイバの断面における重心を通る最長直線の長さを指す。尚、本発明において、ポリマーナノファイバの長さは、通常太さの10倍以上である。
ポリマーナノファイバの形状(ファイバの断面形状、ファイバの直径等)は、走査型電子顕微鏡(SEM)やレーザー顕微鏡測定による直接観察により確認できる。
本発明において、ポリマーナノファイバは、少なくとも有機ポリマー成分からなるポリマーナノファイバであれば特に限定されるものではない。有機ポリマー(有機高分子化合物)としては、従来公知のポリマー材料を使用することができ、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。またこの有機ポリマーに、微粒子や従来公知のフィラーを含有した材料も使用することができ、これらを適宜組み合わせて構成することもできる。
本発明のポリマーナノファイバシートを構成するポリマーナノファイバとなるポリマー材料は、繊維状構造を形成する材料であれば特に制限はない。具体的には、樹脂材料を始めとする有機材料、シリカ、チタニア、粘土鉱物等の無機材料、或いは、上記有機材料と無機材料をハイブリッドさせた材料が挙げられる。
ここで上記ポリマー材料としては、含フッ素系ポリマー(例えば、テトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等。他のモノマーとの共重合体(例えば、PVDFとヘキサフルオロプロピレンとのの共重合体(PVDF−HFP))であってもよい。);ポリオレフィン系ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等);ポリスチレン(PS);ポリアリーレン類(芳香族系ポリマー、例えば、ポリパラフェニレンオキサイド、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキサイド)、ポリパラフェニレンスルフィド);ポリイミド;ポリアミド;ポリアミドイミド;ポリベンドイミダゾール;ポリオレフィン系ポリマー、ポリスチレン、ポリイミド又はポリアリーレン類(芳香族系ポリマー)に、スルホン酸基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、又はピリジニウム基を導入した変性ポリマー;含フッ素系のポリマーの骨格にスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基又はピリジニウム基を導入した変性ポリマー;ポリブダジエン系化合物;ポリウレタン系化合物(エラストマー状のものやゲル状のものを含む);シリコーン系化合物;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート;ナイロン;ポリアリレート、生分解性のポリマー(例えば、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸等);ポリエーテル類(例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリブチレンオキシド等);ポリエステル(PES)類(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等)等を挙げることができる。
尚、これら列挙されたポリマー材料は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。またポリオレフィン系ポリマー、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアリーレン類及び含フッ素系のポリマー以外のポリマー材料においても、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基又はピリジニウム基を導入してなる変性ポリマーを使用することができる。さらに複数種類のモノマーを共重合させることで得られる共重合体ポリマーを使用してもよい。加えて、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)等のように溶融させづらいポリマー材料の場合には、例えば、熱可塑性樹脂を組み合わせて使用してもよい。
上記有機ポリマーと共に使用できる無機材料としては、Si、Mg、Al、Ti、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn及びZnから選択される金属材料の酸化物、より具体的には、シリカ(SiO2)、酸化チタン、酸化アルミニウム、アルミナゾル、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化クロム等の金属酸化物を挙げることができる。また、モントモリロナイト(MN)の様な粘土鉱物を用いることもできる。ここで、無機材料がポリマーナノファイバに含有されていると、ポリマーナノファイバ同士を接合させる際に、機械的強度が著しく向上する傾向があるため、耐久性の向上の観点から好ましい。
[低分子有機化合物]
本発明において、ポリマーナノファイバを構成するポリマー同士を架橋する架橋部は、架橋剤から形成される。本発明において架橋剤として使用されるのは、エーテル結合(−O−)を有する4員環以上の環構造が少なくとも1つ含まれる低分子有機化合物である。
架橋部3の形成を誘起する化合物は、環内にエーテル結合(−O−)を有する4員環以上、好ましくは、エーテル結合を有し4員環以上8員環以下の環構造を少なくとも1つ有する低分子化合物である。尚、エーテル結合(−O−)を有していても3員環である環構造を有する低分子有機化合物は、4員環以上のものと比較して、環構造の立体的ひずみが大きく不安定であり、求核性が強い。そのため、ポリマーナノファイバシートの作製過程で所望の化学的架橋以外の反応が起きてしまう場合がある。その結果、ナノファイバシートを構成するポリマーネットワーク構造中に機械強度の低下を促進する要素が混合することがある。
本発明のポリマーナノファイバシート1を製造する際に用いられる低分子有機化合物は、ポリマー材料への均一分散性の観点から、分子量(数平均分子量)が100乃至3000が好ましい。分子量(数平均分子量)が100を下回る場合は、低分子有機化合物がエーテル結合を有する4員環以上の環構造を有する場合であっても揮発性が高くなるため、ナノファイバ作製過程で低分子有機化合物の揮発が起こり得る。一方、分子量(数平均分子量)が3000を超える場合には、低分子有機化合物とポリマー材料とが均一に相溶しにくくなる。ここで、低分子有機化合物とポリマー材料とが均一に相溶しないとは、両者を混合する段階で白濁したり、シートを形成する過程で相分離が生じたりする等の現象をいう。低分子有機化合物がポリマーナノファイバ内に均一に相溶していない場合、ポリマーナノファイバシート1に含まれるポリマーナノファイバ2及び架橋部3におけるポリマーと低分子有機化合物との化学反応によって生じる化学的架橋が十分に誘発されない。
架橋部3の形成に用いられる低分子有機化合物は、エーテル結合を有する4員環以上の環構造を少なくとも1つ有する。ここで、ポリマーナノファイバ2間に形成される架橋部3を構成する架橋性部位3aの形成や、ポリマーナノファイバ2に含まれる複数のポリマー鎖の架橋の際に、この環構造は架橋性官能基として機能する。ただし、本発明において、架橋性官能基は、この環構造に限定されるものではない。即ち、本発明で用いられる低分子有機化合物は、上記環構造の他に二重結合等の他の架橋性官能基をさらに有していてもよい。
本発明において、低分子有機化合物に含まれ、かつ架橋性官能基である、エーテル結合を有する4員環以上の環構造として、例えば、オキセタン、ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン等の環状エーテル;オキサジン、ベンゾオキサジン、オキサゾール、イソオキサゾール等の複素環化合物;β−ラクトン、γ−ラクトン、δ−ラクトン、ε−ラクトン等のラクトン類;無水マレイン酸、無水コハク酸等の酸無水物;ラクチド等が挙げられる。またこれら環構造には、ハロゲン化物、水素添加物等も含まれる。尚、これら環構造に含まれる炭素原子(カルボニル基を構成する炭素原子を除く)や窒素原子は、単結合又は二重結合をさらに有してもよい。これら環構造のうち、好ましくは、ベンゾオキサジンである。
本発明において用いられる、低分子有機化合物は、一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
本発明において用いられる低分子有機化合物として、例えば、下記に示される化合物が挙げられる。ただし、本発明においては、これら化合物に限定されるものではない。
Figure 2016079541
Figure 2016079541
本発明において用いられる低分子有機化合物のうち、好ましくは、エーテル結合を有する4員環以上の環構造が2つ含まれる有機化合物である。より好ましくは、エーテル結合を有する4員環以上の環構造がベンゾオキサジンであって、このベンゾオキサジンが2つ含まれる有機化合物である。ここでベンゾオキサジンを2つ有する低分子有機化合物としては、例えば、四国化成株式会社製から提供されているF−a型、P−d型ベンゾオキサジン、Huntsman Specialty Chemicals社から提供されているビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールフタレイン型、チオジフェノール型、ジシクロペンタジエン型ベンゾオキサジン等が使用できる。
本発明において、低分子有機化合物の中には、オリゴマー(低分子重合体)も含まれる。ここで当該オリゴマーの分子量は、一般的にGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー:Gel Permeation Chromatography)により容易に測定することができる。
本発明に用いられる低分子有機化合物として、好ましくは、分子対称性のよい化合物、即ち、分子全体の構造が線対称又は点対称の化合物である。分子対称性がよければ架橋部3における架橋の強度を高くすることができるからである。
本発明に用いられる低分子有機化合物のうち、分子対称性がよい化合物とポリマーとの反応によって高い強度を持つ架橋部3が形成されるメカニズムは明らかでないが、以下のような仮説が考え得る。即ち、低分子有機化合物に含まれるエーテル結合を有する4員環以上の環構造は、熱や光等のエネルギーの印加により、当該環構造が開環(開裂)する等の化学反応によって、化学的に架橋性部位3aが形成されることで架橋部3が形成される。この架橋部3の形成の際に、分子対称性がよい化合物は、分子自体の対称性から架橋性部位3aが偶数箇所形成される。この架橋性部位3aの形成によって得られる架橋部3では、架橋前まで上記低分子有機化合物だった部分のみを抽出して考えた場合、中心から点対称又は面対称な架橋部3が形成されることとなる。このような架橋部3に対して応力が加えられた場合、各架橋部3を介して、ポリマーネットワークを構成するポリマーに均等に応力が分散する。このため、ポリマーと低分子有機化合物との化学反応によって生じるポリマーナノファイバ2及び架橋部3を構成する高分子鎖中の局所的な応力集中を抑制できる。以上が考えられる仮説である。
本発明において、低分子有機化合物が有し得る官能基としては、ポリマーに含まれる少なくとも一部の官能基と同一又は類似していることが好ましい。ここでいう「類似」とは、対比する官能基のうち主たる骨格が共通していることをいう。これにより、ポリマーナノファイバ2内に、ポリマーや低分子有機化合物がより均一に分散するため、結果として、架橋によるナノファイバ同士又はナノファイバ内に含まれるポリマー鎖同士の接合が良好かつ容易になるため、ポリマーナノファイバシートの機械的強度が著しく向上する。
ここでポリマーナノファイバシートを構成するポリマーが有する繰り返し構造に含まれる置換基として、例えば、エーテル基、芳香環基、カルボニル基、アミド基、イミド基等が挙げられる。ここで上記繰り返し構造にイミド基が含まれる場合は、その剛直で強固な分子構造から耐熱性に加え、機械的強度が高い傾向があるので好ましい。これによりポリマーナノファイバシートの機械的強度が著しく向上するため、耐久性の向上の観点から好ましい。
本発明のポリマーナノファイバシートにおいて、シートの作製の際に化学的な架橋が起こっているか否かについては、例えば、赤外分光法(IR)、ラマン分光法等で確認できる。具体的な判断手法としては、化学的架橋が起こる前の時点におけるポリマーや低分子有機化合物のIRスペクトルを測定する。そして化学架橋後に再びサンプルのIRスペクトルを測定し、架橋に由来するピークの出現と、架橋前に現れていたピークの減少と、の両方が確認できるか否かで判断できる。
本発明において、エーテル結合を有する4員環以上の環構造を有する低分子有機化合物は、母材であるポリマーと当該低分子有機化合物との総重量に対して60重量%以下含まれるのが好ましい。
低分子有機化合物の添加率が60重量%を超える場合、ポリマーネットワーク内において低分子有機化合物同士の開環重合によって形成される架橋部3の割合が増加する。その結果、ポリマーナノファイバシートを構成するポリマーネットワークのうち、低分子有機化合物同士の反応によって生じたものの割合が多くなり、結果としてポリマーネットワーク自体が脆くなる場合がある。これによってナノファイバシートの耐衝撃性が低下する可能性がある。
[平均溶解度パラメータ]
次に、本発明のポリマーナノファイバシートにおいて重要なファクターの1つである平均溶解度パラメータについて説明する。本発明において、ポリマーの平均溶解度パラメータと、前記低分子有機化合物の平均溶解度パラメータとの差は8(J/cm31/2未満である。好ましくは、7.5(J/cm31/2未満である。また本発明において、ポリマーの平均溶解度パラメータと、低分子有機化合物の平均溶解度パラメータとの差は、好ましくは1(J/cm31/2以上である。
本発明で用いられる溶解度パラメータは、Hansenの溶解度パラメータである。Hansenパラメータは、原子の分散力、分子の永久双極子間に生じる力、分子の水素結合から成るエネルギーから成り、それぞれδD、δP、δH[(J/cm31/2]で表される。このとき物質の溶解度パラメータδ[(J/cm31/2]は、下記式で表される。
δ=(δD 2+δP 2+δH 21/2[(J/cm31/2
Hansenパラメータは、一般的な物質であればその測定値が文献値より得られ、特殊な物質で文献値として得られない場合でも計算ソフトにより算出が可能である。
ところで、複数(例えば、二種類)の物質同士を混合する際に、得られる混合物に含まれる各物質のHansenパラメータの差が大きい場合、溶解あるいは混和するために必要なエネルギーが大きくなる。このため、Hansenパラメータの差が大きいと、溶質の溶媒に対する溶解度が小さくなるため互いの混和が進まない。ここで物質aと物質bとのHansenパラメータの差である|Δδ(a-b)|[(J/cm31/2]は、下記式にて算出される。
|Δδ(a-b)|={4(δaD−δbD2+(δaP−δbP2+(δaH−δbH21/2
本発明のポリマーナノファイバシートを構成するポリマーのHansenパラメータと、低分子有機化合物のHansenパラメータとの差は、8(J/cm3)1/2未満である。ここで、両者のHansenパラメータの差が8(J/cm31/2以上の場合、本発明のポリマーナノファイバシートを製造する過程においてポリマーと低分子有機化合物との相分離が進みやすくなり、ナノファイバの内部又はナノファイバ間の架橋が形成されにくくなる。このため、剥離強度や機械強度が高いナノファイバシートが得られない。
[潜在性触媒]
本発明においては、エーテル結合を有する4員環以上の環構造を有する低分子有機化合物による架橋(主に化学的な架橋)を効果的に行うために、従来公知の潜在性触媒を添加して用いることもできる。ここで、潜在性触媒とは、熱等の所定の刺激により、上記環構造による架橋を促す反応活性種(カチオン、アニオン、ラジカル)を発生させる触媒をいい、例えば、酸発生剤が挙げられる。
本発明のポリマーナノファイバシートを作製する際に潜在性触媒を用いる場合、この潜在性触媒として、好ましくは、熱によりカチオンを発生する熱カチオン重合開始剤である。熱カチオン重合開始剤は、常温では不活性であるが、加熱されて臨界温度(反応開始温度)に達すると開裂してカチオンが発生する。このカチオンにより、低分子有機化合物による架橋が進行する。このような化合物としては、例えば、アルミニウムキレート錯体、鉄−アレン錯体、チタノセン錯体、アリールシラノール−アルミニウム錯体等の有機金属錯体;六フッ化アンチモンイオン(SbF6-)、四フッ化アンチモンイオン(SbF4-)、六フッ化ヒ素イオン(AsF6-)、六フッ化リンイオン(PF6-)等を陰イオン成分とする4級アンモニウム塩型化合物、ホスホニウム塩型化合物、ヨードニウム塩型化合物及びスルホニウム塩型化合物等が挙げられる。
尚、ポリマーナノファイバシートを作製する際に、熱カチオン重合開始剤を用いる場合には、用いるポリマー材料の分解温度以下において触媒が作用することが好ましい。
[ポリマーナノファイバシートの製造方法]
次に、本発明のポリマーナノファイバシートの製造方法について具体的に説明する。本発明のポリマーナノファイバシートの製造方法は、下記(A)乃至(C)の工程を有する。
(A)ポリマーと、低分子有機化合物とを混合する混合工程
(B)ポリマーからなるポリマーナノファイバを紡糸する紡糸工程
(C)ポリマーナノファイバの架橋工程
尚、(A)は、ポリマーナノファイバを紡糸する際に用いられるポリマー溶液を調製する工程でもある。また(B)により、ポリマーナノファイバ同士が絡み合うことによりシート状の物質が形成されるが、この後の(C)により架橋が施されたポリマーナノファイバシートが作製されることから、本発明において、シート形成工程とは、(B)及び(C)の組み合わせをいうことになる。
(A)混合工程
ポリマーと、低分子有機化合物とを混合する際には、通常、ポリマー及び低分子有機化合物を溶解する溶媒を用いる。本工程で用いる溶媒は、ポリマーを溶解する溶媒であれば特に限定されるものではない。尚、本発明においては、溶解度パラメータが近接する(ポリマーと、低分子有機化合物との溶解度パラメータの差が8(J/cm31/2未満)材料を使用しているため、低分子有機化合物を溶解する溶媒はポリマーを溶解する溶媒とは別個に用意する必要はない。また本工程で用いられる溶媒は、一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を適当な割合で混合して使用してもよい。一方、ポリマーとして、溶液状のものを使用する場合は、改めて溶媒を用意する必要はない。
(B)紡糸工程
本発明のポリマーナノファイバシートを作製する際には、シートを構成するポリマーナノファイバを形成する必要がある。ここでポリマーナノファイバを形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、エレクトロスピニング法(電界紡糸法・静電紡糸法)や、メルトブロー法等が挙げられる。尚、本発明においては、これらの方法のうち一種類のみを選択して用いてもよいし、二種類以上を選択し適宜組み合わせてもよい。尚、上述した方法のうち、エレクトロスピニング法とは、ポリマー溶液を充填したシリンジとコレクター電極との間に高い電圧(例えば、20kV程度)を印加させた状態で、ポリマーナノファイバを形成する方法である。この方法を採用すると、シリンジから押出された溶液が電荷を帯びて電界中に飛散するが、飛散した溶液は時間が経つと溶液に含まれる溶媒が蒸発するので、その結果、細線化した溶質が現れる。この細線化した溶質がポリマーファイバとなって基板等のコレクターに付着する。
以上に列挙した作製方法の中でも、下記(i)乃至(iii)に列挙する特長を有するエレクトロスピニング法で紡糸して作製することが好ましい。
(i)様々なポリマーに対してファイバ形状に紡糸できること
(ii)ファイバ形状のコントロールが比較的簡便であり、数十μmからナノサイズの太さファイバを容易に得ることができること
(iii)作製プロセスが簡便であること
ここで、エレクトロスピニング法によるポリマーナノファイバの紡糸によるポリマーナノファイバシートの製造方法について、図面を参照しながら説明する。図2は、本発明のポリマーナノファイバシート作製装置の例を示す概略図である。
図2に示される作製装置10とは、具体的には、貯蔵タンク12に収容されたポリマー溶液を紡糸口14から押し出す方法を採用している。尚、紡糸口14から押し出されたポリマー溶液は四方へ飛散するので、紡糸されたポリマーナノファイバが3次元的に絡み合ったポリマーナノファイバシートが自ずと作製される。このため、紡糸されたポリマーナノファイバを後の工程で縒る必要はない。
次に、図2の作製装置10の構成部材について説明する。ポリマー溶液を貯蔵する貯蔵タンク12は、接続部11を介して配置されている。尚、接続部11は配線を介して高圧電源16と電気接続されている。また接続部11及び貯蔵タンク12はいずれもヘッド17の構成部材である。紡糸されたポリマーナノファイバが集められたコレクター15は、ヘッド17と一定の間隔を空けて対向するように配置されている。尚、コレクター15は、配線19によりグラウンドにアースされている。
ポリマー溶液は、タンク12から紡糸口14まで一定の速度で押し出される。紡糸口では、1kV乃至50kVの電圧が印加されており、電気引力がポリマー溶液の表面張力を越える時、ポリマー溶液のジェット18がコレクター15に向けて噴射される。この時、ジェット中の溶媒は徐々に揮発し、コレクター15に到達する際には、対応するポリマーナノファイバが得られる。ここで、タンク12にナノファイバ化される条件に設定したポリマー溶液を導入して、紡糸する。
尚、紡糸の際にタンク12に収容するものとしては、ポリマー溶液に限定されず、融点以上に加熱した溶融ポリマーを利用してもよい。
(C)架橋工程
本発明において、ポリマーナノファイバの架橋とは、下記(i)だけでなく(ii)の状態をもいうが、下記(i)及び(ii)は両方起こり得る。
(i)互いに隣接するポリマーナノファイバ同士が化学的に架橋して固着されている状態
(ii)ポリマーナノファイバ内部に含まれるポリマー鎖同士が化学的に架橋して固着されている状態
本発明において、架橋するとは、化学反応によりポリマーと低分子有機化合物との間で結合が新たに形成されることでネットワーク構造が形成されることをいう。尚、ここでいう化学反応とは、例えば、以下に列挙する現象のうちの一つが生じることをいう。
(C1)低分子有機化合物とポリマーに含まれる求核性置換基との化学反応
(C2)低分子有機化合物同士で生じる、環構造に由来する開環重合反応
(C3)(C1)及び(C2)が生じる複合反応
ここで、上記(C1)の化学反応を誘起するポリマーが有する「求核性置換基」として、例えば、活性水素を有する置換基であるヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、チオール基等が挙げられる。またフリーデルクラフツ反応を応用できる状況であれば、ベンゼン環等の芳香環も求核性置換基に含まれ得る。尚、(C1)及び(C2)は、単一に進行させてもよいし、併行して進行させてもよい。
本発明において、ポリマーナノファイバを架橋する方法として、紡糸によって得られたポリマーナノファイバシートに架橋を誘起するエネルギーを印加する。エネルギー印加法としては熱印加・紫外線照射・電子線照射・超音波印加・電磁波印加等が挙げられる。均一性や簡便性等から熱印加による方法が好ましい。
以下、上記架橋を誘起させるのに必要なポリマーナノファイバの加熱処理の具体的手法について説明する。ここで加熱処理の具体的な方法としては特に限定されず、例えば、ヒータ加熱、温風加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱、超音波加熱等を用いることができ、使用状況等に応じて適宜選択すればよい。
具体的には、ポリマーナノファイバシートをホットプレスする方法、工業用ドライヤーやオーブン等により加熱することで処理する方法、ヒータで一度加温させた後オーブンでさらに後加熱する方法等が好適に用いることができる。この中でも、オーブンを用いて加熱処理する方法は、材料全体の温度をムラなく、均一にし易いため、特に好適に用いることができる。
加熱処理を行う場合、温度条件としては、ポリマーナノファイバが溶融しない温度で実施する。また、ポリマーナノファイバを構成するポリマー材料の分解温度未満であれば特に限定されるものではなく、上述したように、用いるポリマー材料や所望するポリマーナノファイバシートの物性等に応じて適宜選択すればよい。例えば、加熱温度としては、30℃乃至150℃であることが好ましい。尚、加熱処理を行う際の温度が、ポリマーナノファイバのガラス転移点(Tg)未満である場合には、ポリマーナノファイバの形状を維持させ易いため好適である。
本発明においては、ポリマーの平均溶解度パラメータと、低分子有機化合物の平均溶解度パラメータとの差が8(J/cm31/2未満であることが必要である。これは、ポリマーナノファイバシートから取り出されたポリマーナノファイバと、低分子有機化合物との両者の平均溶解度パラメータの差が8(J/cm31/2未満であることを意味する。このように、両者の平均溶解度パラメータの差が8(J/cm31/2未満である場合、紡糸工程にてポリマーナノファイバを形成する際に、形成されたポリマーナノファイバの内部や表面に低分子有機化合物を付着させることができる。ここでポリマーナノファイバの表面に付着した低分子有機化合物は、紡糸工程が進行する過程でポリマーナノファイバ同士が絡み合った際に、ポリマーナノファイバ同士が接触する部分の少なくとも一部においてポリマーナノファイバ間に介在される状態になる。この状態で架橋工程を行うと、ポリマーナノファイバに含まれるポリマーとポリマーナノファイバ間に介在される低分子有機化合物との化学反応によって、ポリマーナノファイバ同士が架橋されることになる。この架橋により、本発明のポリマーナノファイバシートの強度が増大する。一方、ポリマーナノファイバの内部に含まれる低分子有機化合物は、架橋工程の際に、低分子有機化合物同士及びポリマーナノファイバを構成するポリマー鎖と反応することとなる。その結果、低分子有機化合物によるポリマー鎖同士の架橋と低分子有機化合物同士の反応物と、架橋されたポリマー鎖との絡まりが起こり、ポリマーナノファイバ自体の強度が増大する。このようにポリマーナノファイバ自体の強度が増大することにより、その分ポリマーナノファイバシートの強度も増大する。尚、開環していない低分子有機化合物(未反応の低分子有機化合物)は、TOF−SIMS、LC−MS及び熱分解GC−MSからその構造を特定することができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。また本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、以下に説明する実施例にて示された態様に適宜変形、変更を加えたものも本発明に含まれる。
[測定方法及び評価方法]
以下に説明する実施例又は比較例で作製したポリマーナノファイバシートの物性の測定方法及び評価方法について説明する。
(1)ポリマーナノファイバの平均ファイバ径(平均繊維径)
ポリマーナノファイバシートを走査型電子顕微鏡(SEM)で測定し、その画像を画像解析ソフト「Image J」に取り込んで画像を得た。次に、映し出されているポリマーナノファイバの画像から任意の50点を抽出し、各点におけるポリマーナノファイバの幅をそれぞれ計測することで、ポリマーナノファイバの平均ファイバ径を求めた。
(2)ポリマーナノファイバシートの剥離強度及び機械強度の評価
ポリマーナノファイバシートの剥離強度及び機械強度は、以下に説明する方法により、試験、評価を行った。
ポリマーナノファイバシートの剥離強度及び機械強度は、ポリマーナノファイバシートの引張弾性率をそれぞれ測定することで評価した。具体的には、マイクロオートグラフ(株式会社島津製作所:MST−I MICRO STRAIN TESTER)を用いた引張特性測定でポリマーナノファイバシートの引張弾性率をそれぞれ求めた。
尚、引張弾性率の増加割合が高ければ高いほど、ポリマーナノファイバシートにおける、ポリマーナノファイバ同士の架橋度合いが高くなることを意味する。同時に、剥離強度はポリマーナノファイバ間の架橋度の向上によって大きくなることは明らかである。つまり結果として、引張弾性率の増加割合が高くなることから、ポリマーナノファイバシートの剥離強度および機械強度が向上していることが示される。このため、引張弾性率の増加割合が高いポリマーナノファイバシートは、長期に亘って使用することが可能となる。
(3)平均溶解度パラメータ
平均溶解度パラメータとして、Hansenの溶解度パラメータを用いた。ポリマーに関しては、Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook、 Second Edition(Charles M.Hansen著、CRC Press)を文献値として用いた。一方、低分子有機化合物については、計算ソフトHansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP、メーカー;Charles M.Hansen)を用いて分子構造を入力して計算値を得た。それぞれの値を用いて平均溶解度パラメータの差を算出した。
(4)ポリマーナノファイバシートのIR測定
ポリマーナノファイバシートについてIR測定を行い、エネルギー印加(加熱処理)前後のポリマーナノファイバシートに含まれる低分子有機化合物に由来するピークの変化が観察されるか否かを調べた。またIR測定により、ポリマーナノファイバシートを構成するポリマーナノファイバについて架橋反応(化学的架橋)が進行しているか否かを確認した。ここで、ポリマーと低分子有機化合物が反応することで形成されるエーテル結合(−O−)由来のピーク(1100cm-1乃至1200cm-1付近)の増加が観測されるか否かについても確認した。即ち、IR測定により、熱処理工程において低分子有機化合物が反応しているか否かが確認できる。また、ポリマーナノファイバシートの任意の10点でのIR測定において、同様のピークパターンが得られるか否かについても調べた。これにより、低分子有機化合物がポリマーナノファイバシート内に均一に分散しているか否かを確認することができる。測定の結果、化学的架橋の発生及び均一分散性の両方の効果が得られた場合を良とし、どちらか得られない場合を不可とした。
[実施例1]
(1)ポリマー溶液の調製
ポリマー材料であるポリアミドイミド(PAI)溶液(日立化成株式会社製:HPC−5020)と、低分子有機化合物であるF−a型ベンゾオキサジン(四国化成株式会社製)とを混合した。このときPAIとF−a型ベンゾオキサジンとの混合比を、重量比で3:1(F−a型ベンゾオキサジンの混合率:25重量%)とした。次に、先芳香族スルホニウム塩系の潜在性触媒である、SI−100L(三新化学工業社製)を、F−a型ベンゾオキサジンに対して2重量%の割合で混合した。これによりポリマー溶液を調製した。
(2)紡糸工程
エレクトロスピニング法により、(1)で調製したポリマー溶液を噴射し、紡糸した。これにより、PAIと、F−a型ベンゾオキサジンと、未揮発溶媒と、からなるポリマーナノファイバが物理的に絡まって形成されてなるポリマーナノファイバシートを作製した。本工程は、具体的には、まず図2のエレクトロスピニング装置(メック社製)を構成するヘッド部17を、下記(2−1)、(2−2)の順番で組み立てた。
(2−1)調製したポリマー溶液から紡糸を行うためのヘッド11(クリップスピナレット)の備え付け
(2−2)(1)で調製したポリマー溶液を充填したタンク12のヘッド11への備え付け
次に、紡糸口14に21.5kVの電圧を印加させることで、タンク12に充填されているポリマー溶液を、コレクター15に向けて25分間噴射してポリマーナノファイバを得た。このようにして得られたポリマーナノファイバを、次の工程に用いた。
(3)架橋工程
(2)において、集積された態様で得られたポリマーナノファイバをコレクター15から剥離した後、ガラスプレート上に貼り付けたポリテトラフロロエチレンシートの上に当該ポリマーナノファイバを載せた後、オーブンを用いて130℃で2時間加熱処理した。これにより、ポリマーナノファイバと低分子有機化合物との化学反応によって生じた架橋部を有するポリマーナノファイバシートが得られた。
(4)ポリマーナノファイバシートの評価
得られたポリマーナノファイバシートについて物性を測定・評価した。結果を表1に示す。図3は、本実施例にて作製されたポリマーナノファイバシートの表面から撮影したレーザー顕微鏡写真を示す図である。図3に示されるように、本実施例にて得られたポリマーナノファイバシートは、ポリマーナノファイバを集積したものであることが確認され、またシートを構成するポリマーナノファイバの平均ファイバ径は、0.5μmであった。
[実施例2]
(1)ポリマー溶液の調製
ポリマー材料であるポリアミドイミド(PAI)溶液(日立化成株式会社製:HPC−5020)と、低分子有機化合物であるP−d型ベンゾオキサジン(四国化成株式会社製)とを混合した。このときPAIとP−d型ベンゾオキサジンの混合比を、重量比で3:1(P−d型ベンゾオキサジンの混合率:25重量%)とした。次に、先芳香族スルホニウム塩系の潜在性触媒である、SI−100L(三新化学工業社製)を、P−d型ベンゾオキサジンに対して2重量%の割合で混合した。
(2)紡糸工程
実施例1(2)と同様の方法により、ポリマーナノファイバを得た。
(3)熱処理工程
実施例1(3)と同様の方法により、ポリマーナノファイバシートを得た。
(4)ポリマーナノファイバシートの評価
実施例1と同様の方法により、得られたポリマーナノファイバシートの測定・評価を行った。結果を表1に示す。尚、シートを構成するポリマーナノファイバの平均ファイバ径は、0.5μmであった。
[実施例3]
(1)ポリマー溶液の調製
ポリマー材料であるポリアミド66(東レ株式会社製:CM3301L、PA66)をN,N’−ジメチルアセトアミド(DMA、キシダ化学株式会社製)に溶解させ、PA66が重量比で30重量%であるDMA溶液を調製した。次に、先程調製したDMA溶液と、低分子有機化合物であるF−a型ベンゾオキサジン(四国化成株式会社製)と、を混合した。このときPA66とF−a型ベンゾオキサジンとの混合比を、重量比で3:1(F−a型ベンゾオキサジンの混合率:25重量%)とした。次に、先芳香族スルホニウム塩系の潜在性触媒である、SI−100L(三新化学工業社製)を、F−a型ベンゾオキサジンに対して2重量%の割合で混合した。
(2)紡糸工程
実施例1(2)において、紡糸口14に印加する電圧を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1(2)と同様の方法によりポリマーナノファイバの紡糸を行った。
(3)架橋工程
実施例1(3)と同様の方法で熱処理することにより、ポリマーナノファイバシートを得た。
(4)ポリマーナノファイバシートの評価
実施例1と同様の方法により、得られたポリマーナノファイバシートの測定・評価を行った。結果を表1に示す。尚、シートを構成するポリマーナノファイバの平均ファイバ径は、0.7μmであった。
[実施例4]
(1)ポリマー溶液の調製
ポリマー材料であるポリアミド66(東レ株式会社製:CM3301L、PA66)とN,N’−ジメチルアセトアミド(DMA、キシダ化学株式会社製)とを混合させ、PA66が重量比で30重量%であるDMA溶液を調製した。次に、このDMA溶液と、低分子有機化合物であるP−d型ベンゾオキサジン(四国化成株式会社製)とを混合した。このときPA66とP−d型ベンゾオキサジンとの混合比を、重量比で3:1(P−d型ベンゾオキサジンの混合率:25重量%)とした。次に、先芳香族スルホニウム塩系の潜在性触媒である、SI−100L(三新化学工業社製)を、P−d型ベンゾオキサジンに対して2重量%の割合で混合した。
(2)紡糸工程
実施例1(2)において、紡糸口14に印加する電圧を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1(2)と同様の方法により、ポリマーナノファイバを得た。
(3)架橋工程
実施例1(3)と同様の方法により、ポリマーナノファイバシートを得た。
(4)ポリマーナノファイバシートの評価
実施例1と同様の方法により、得られたポリマーナノファイバシートの測定・評価を行った。結果を表1に示す。尚、シートを構成するポリマーナノファイバの平均ファイバ径は、0.7μmであった。
[実施例5]
(1)ポリマー溶液の調製
ポリマー材料であるポリメタクリル酸メチル(住友化学株式会社製:スミペックスMM、PMMA)とN,N’−ジメチルアセトアミド(DMA、キシダ化学株式会社製)とを混合させ、PMMAが重量比で30重量%であるDMA溶液を調製した。次に、このDMA溶液と、低分子有機化合物であるF−a型ベンゾオキサジン(四国化成株式会社製)とを混合した。このときPMMAとF−a型ベンゾオキサジンとの混合比を、重量比で3:1(F−a型ベンゾオキサジンの混合率:25重量%)とした。次に、先芳香族スルホニウム塩系の潜在性触媒である、SI−100L(三新化学工業社製)を、F−a型ベンゾオキサジンに対して2重量%の割合で混合した。
(2)紡糸工程
実施例1(2)において、紡糸口14へ印加する電圧を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1(2)と同様の方法により、ポリマーナノファイバを得た。
(3)架橋工程
得られたポリマーナノファイバをコレクター15から剥離した後、ガラスプレート上に貼り付けたポリテトラフロロエチレンシートの上に載せてから、オーブンを用いて120℃で2時間加熱処理した。これにより、ポリマーナノファイバシートを得た。
(4)ポリマーナノファイバシートの評価
実施例1と同様の方法により、得られたポリマーナノファイバシートの測定・評価を行った。結果を表1に示す。尚、シートを構成するポリマーナノファイバの平均ファイバ径は、0.5μmであった。
[実施例6]
(1)ポリマー溶液の調製
ポリマー材料であるポリエチレンテレフタラート(株式会社クラレ製:クラペット、PET)と1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP、東京化成工業株式会社製)を混合して、PETが重量比で10重量%であるHFIP溶液を調製した。次に、このHFIP溶液と低分子有機化合物であるF−a型ベンゾオキサジン(四国化成株式会社製)とを混合した。このときPETとF−a型ベンゾオキサジンの混合比を、重量比で3:1(F−a型ベンゾオキサジンの混合率:25重量%)とした。次に、先芳香族スルホニウム塩系の潜在性触媒である、SI−100L(三新化学工業社製)を、F−a型ベンゾオキサジンに対して2重量%の割合で混合した。
(2)紡糸工程
実施例1(2)において、紡糸口14に印加する電圧を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1(2)と同様の方法により、ポリマーナノファイバを得た。
(3)架橋工程
実施例1(3)と同様の方法により、ポリマーナノファイバシートを得た。
(4)ポリマーナノファイバシートの評価
実施例1と同様の方法により、得られたポリマーナノファイバシートの測定・評価を行った。結果を表1に示す。尚、得られたポリマーナノファイバシートを構成するポリマーナノファイバの平均ファイバ径は、0.6μmであった。
[比較例1]
(1)ポリマー溶液の調製
ポリマー溶液として、ポリアミドイミド(PAI)溶液(日立化成株式会社製:HPC−5020)を用いた。ただし、本比較例では、実施例1のようにポリマー溶液中にF−a型ベンゾオキサジンを添加しなかった。
(2)紡糸工程
実施例1(2)において、紡糸口14に印加する電圧を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1(2)と同様の方法により、ポリマーナノファイバを得た。
(3)架橋工程
得られたポリマーナノファイバをコレクター部から剥離した後、ガラスプレートの上に貼り付けたポリテトラフロロエチレンシートの上に載せた後、オーブンを用いて130℃で2時間加熱処理することで、ポリマーナノファイバシートを得た。
(4)ポリマーナノファイバシートの評価
実施例1と同様の方法により、得られたポリマーナノファイバシートの測定・評価を行った。結果を表1に示す。尚、得られたポリマーナノファイバシートを構成するポリマーナノファイバの平均ファイバ径は0.6μmであった。
[比較例2]
(1)ポリマー溶液の調製
ポリマー材料であるポリアミドイミド(PAI)溶液(日立化成株式会社製:HPC−5020)と、低分子有機化合物である3,1−ベンゾオキサジン−2,4(1H)−ジオン(和光純薬株式会社製)とを混合した。このときPAIと3,1−ベンゾオキサジン−2,4(1H)−ジオンとの混合比を、重量比で3:1(3,1−ベンゾオキサジン−2,4(1H)−ジオンの混合率:25重量%)とした。尚、本比較例で用いた低分子有機化合物は、分子対称性が悪い化合物であり、ポリマー材料と低分子有機化合物との溶解度パラメータの差は7よりも大きかった。次に、先芳香族スルホニウム塩系の潜在性触媒である、SI−100L(三新化学工業社製)を、3,1−ベンゾオキサジン−2,4(1H)−ジオンに対して2重量%の割合で混合した。
(2)紡糸工程
実施例1(2)において、紡糸口14に印加する電圧を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1(2)と同様の方法により、ポリマーナノファイバを得た。
(3)架橋工程
実施例1(3)と同じ条件で熱処理したところ、(2)で作製したポリマーナノファイバが溶融しファイバとしての形態を成さない状態になった。このため、本比較例では、ポリマーナノファイバシートの物性評価を行わなかった(表1参照)。
[比較例3]
(1)ポリマー溶液の調製
ポリマー材料である酢酸セルロース(株式会社ダイセル製:L−70)を、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMA、キシダ化学株式会社製)とアセトン(キシダ化学株式会社製)との混合溶媒に溶解させた。このとき混合溶媒中の各溶媒の重量比は、DMA:アセトン=1:2であり、溶液中の酢酸セルロースの含有率が溶液全体の15重量%であった。次に、低分子有機化合物であるF−a型ベンゾオキサジン(四国化成株式会社製)を加え、混合した。このとき酢酸セルロースとF−a型ベンゾオキサジンとの混合比を、重量比で3:1(F−a型ベンゾオキサジンの混合率:25重量%)とした。尚、本比較例で用いたポリマー材料とF−a型ベンゾオキサジンとの溶解度パラメータの差は、表1に示されるように、7(J/cm31/2以上である。次に、先芳香族スルホニウム塩系の潜在性触媒である、SI−100L(三新化学工業社製)を、P−d型ベンゾオキサジンに対して2重量%の割合で混合した。
(2)紡糸工程
実施例1(2)において、紡糸口14に印加する電圧を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1(2)と同様の方法により、ポリマーナノファイバを得た。
(3)架橋工程
実施例1(3)と同じ条件で熱処理したところ、(2)で作製したポリマーナノファイバが溶融しファイバとしての形態を成さない状態になった。このため、本比較例では、ポリマーナノファイバシートの物性評価を行わなかった(表1参照)。
Figure 2016079541
実施例及び比較例にて判明あるいは確認できたことについて、以下に説明する。
実施例(実施例1乃至4)と比較例1とを比較すると、ポリマーナノファイバシートを、ポリマー及びエーテル結合を有する4員環以上の環構造を有する低分子有機化合物を含んだ溶液を用いて紡糸・加熱処理して作製した場合、引張弾性率が著しく向上した。比較例1のポリマーナノファイバシートを撮影した結果、加熱処理後も一部ナノファイバ形状は維持されていた。このことから、比較例1は熱処理によってポリマーナノファイバ間が一部融着した構造が形成されたが、エーテル結合を含む4員環以上の環構造を有する低分子有機化合物を含まず、それに伴いナノファイバ間の十分な化学的架橋が進行しなかったため、引張弾性率および剥離強度が低かったと考察される。
一方、比較例2及び3では、紡糸工程で作製したポリマーナノファイバを加熱処理する時にポリマーナノファイバ自体が溶融した。また比較例2及び3において、紡糸工程の時に用いたポリマー溶液は、調製する段階で溶液自体が白濁していた。加えて比較例2及び3において、加熱処理前のポリマーナノファイバについてIR測定を実施した結果、ポリマーナノファイバ中に含まれる低分子有機化合物由来のピークに分布差が生じることが判明した。これらの結果から、ポリマーと低分子有機化合物との平均溶解度パラメータの差Δδが、8[(J/cm31/2]以上の場合、ポリマーと低分子有機化合物との分離が進み、ナノファイバの内部又はナノファイバ間での架橋が形成されなかったと推察される。
尚、実施例(実施例1乃至6)同士を比較すると、実施例5以外の実施例では、低分子有機化合物に含まれる非架橋性官能基(非架橋性部位)の少なくとも一部がポリマーナノファイバを構成するポリマーの繰り返し単位に含まれる官能基と共通している。係る場合では、剥離強度及び機械強度のさらなる向上が確認できた。ここで非架橋性官能基の少なくとも一部であってポリマーの繰り返し単位にも含まれる官能基(共通する官能基)としては、表2に示されるものがある。
Figure 2016079541
実施例1及び2と、実施例3及び4と、における引張弾性率及び剥離強度の評価より、次のことが分かった。即ち、ポリマーの繰り返し単位にイミド構造を有する実施例1及び2のポリマーナノファイバシートの強度は、ポリマーがアミド構造による繰り返しからなる実施例3及び4のシートよりも大きな値を示した。この結果から、ポリマーナノファイバを構成するポリマー材料が、繰り返し単位中にイミド構造を有するポリマーである場合は、その剛直で強固な分子構造から耐熱性と機械的強度を向上できると考えられる。実施例1乃至6の結果より、実施例1及び2のポリマーナノファイバシートは、いずれも架橋工程前後において変形しづらく、比表面積の高い、ポリマーナノファイバシートであることが確認できた。
実施例1乃至6で得られたポリマーナノファイバシートを分析すると、未反応の低分子有機化合物と、架橋したポリマーの溶解度パラメータの差も8未満であった。
以上の各実施例で示したように、本発明のポリマーナノファイバシートは、ポリマーナノファイバ間の剥離耐性が良好で、ポリマーナノファイバシートの機械強度が高く、比表面積が高い、ポリマーナノファイバシートであることが分かった。また、これらの性質により本発明のポリマーナノファイバシートは、ポリマーナノファイバシートを構成するポリマーナノファイバ同士が容易にほつれることがなく、長期使用に有利である。
以上、実施例により本発明を詳細に説明したが、これら実施例は例示にすぎず、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。即ち、本発明には、以上に例示した実施例を様々に変形、変更したものも当然に含まれる。
本発明のポリマーナノファイバシートは、擦れなどの外的要因が加わっても長期に亘って使用可能な比表面積の高いポリマーナノファイバシートになる。そのため、例えば、静電気発生装置や粒子電界選別装置における摩擦帯電材料として好適に利用することができる。また本発明のポリマーナノファイバシートの使用形態は、特に限定されないが、例えばローラ部材に巻いて取り扱う形態等が挙げられる。
1:ポリマーナノファイバシート、2:ファイバ、3:架橋部

Claims (6)

  1. ポリマーを有するポリマーナノファイバが集積され、かつ三次元的に絡み合ってなるポリマーナノファイバシートであって、
    前記ポリマーナノファイバシートは、エーテル結合を有する4員環以上の環構造が少なくとも1つ含まれる低分子有機化合物を有し、
    前記ポリマーの平均溶解度パラメータと、前記低分子有機化合物の平均溶解度パラメータとの差が8(J/cm31/2未満であることを特徴とする、ポリマーナノファイバシート。
  2. 前記低分子有機化合物に、前記環構造が2つ含まれることを特徴とする、請求項1に記載のポリマーナノファイバシート。
  3. 前記環構造が、オキセタン、ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、オキサジン、ベンゾオキサジン、オキサゾール、イソオキサゾール、β−ラクトン、γ−ラクトン、δ−ラクトン、ε−ラクトン、無水マレイン酸、無水コハク酸又はラクチドであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリマーナノファイバシート。
  4. 前記環構造が、ベンゾオキサジンであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリマーナノファイバシート。
  5. 前記低分子有機化合物が、前記ポリマーと前記低分子有機化合物との総重量に対して60重量%以下含まれることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリマーナノファイバシート。
  6. ポリマーと、低分子有機化合物とを混合する混合工程と、
    前記ポリマーを有するポリマーナノファイバを紡糸する紡糸工程と、
    前記ポリマーナノファイバの少なくとも一部を架橋する架橋工程と、を有し、
    前記低分子有機化合物が、エーテル結合を有する4員環以上の環構造を有する有機化合物であり、
    前記ポリマーの平均溶解度パラメータと、前記低分子有機化合物の平均溶解度パラメータとの差が8(J/cm31/2未満であるであることを特徴とする、ポリマーナノファイバシートの製造方法。
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