JP2016079490A - 溶接継手および溶接材料 - Google Patents

溶接継手および溶接材料 Download PDF

Info

Publication number
JP2016079490A
JP2016079490A JP2014214608A JP2014214608A JP2016079490A JP 2016079490 A JP2016079490 A JP 2016079490A JP 2014214608 A JP2014214608 A JP 2014214608A JP 2014214608 A JP2014214608 A JP 2014214608A JP 2016079490 A JP2016079490 A JP 2016079490A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
content
weld metal
less
fatigue
weld
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2014214608A
Other languages
English (en)
Other versions
JP6354518B2 (ja
Inventor
誉田 登
Noboru Yoda
登 誉田
藤原 知哉
Tomoya Fujiwara
知哉 藤原
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel and Sumitomo Metal Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel and Sumitomo Metal Corp filed Critical Nippon Steel and Sumitomo Metal Corp
Priority to JP2014214608A priority Critical patent/JP6354518B2/ja
Publication of JP2016079490A publication Critical patent/JP2016079490A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6354518B2 publication Critical patent/JP6354518B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Continuous Casting (AREA)
  • Heat Treatment Of Steel (AREA)

Abstract

【課題】溶接未溶着ルート先端を疲労破壊の起点とする疲労強度に優れた溶接継手の提供。【解決手段】母材組成がC:0.01〜0.10%,Si:0.04〜0.60%,Mn:0.50〜1.50%,sol.Al:0.003〜0.060%,Ti:0.001〜0.100%,N:0.0020〜0.0120%,P≦0.025%,S≦0.020%,O:0.0005〜0.0030%を有し、主にフェライトとベイナイトでなり、パーライト面積率≦10%、(110)面X線回折強度半価幅≧0.13度で、溶接金属組成がC:0.01〜0.10%,Si:0.04〜0.60%,Mn:0.50〜1.50%,sol.Al:0.001〜0.050%,Ti:0.005〜0.100%,N≦0.010%,P≦0.020%,S≦0.010%,O:0.0005〜0.0030%を有し、溶接金属のC,Mn含有量がMn_WM/C_WM≧15の溶接継手。【選択図】図1

Description

本発明は、溶接継手および溶接材料に関する。
溶接鋼構造物の破壊原因には、脆性破壊、延性破壊および疲労破壊があることが知られている。このうち、脆性破壊および延性破壊は、合理的に回避することができるようになっている。これは、応力解析環境の整備、改善等に伴い、溶接鋼構造物における応力ひずみ状態を正確に把握できるようになった結果、応力を適切に抑制できるようになったことによる。
一方で、疲労破壊は、破壊の駆動力が脆性破壊および延性破壊に比べて著しく小さいため、現在、脆性破壊および延性破壊と比べて防止技術の発達が遅れている。そのため、溶接鋼構造物の破壊原因に占める疲労破壊の比率は近年高まる傾向にある。
したがって、疲労破壊の制御は、溶接鋼構造物の設計、製作および保全の各段階において現在最も留意され、きわめて重要な技術課題となっている。
ここで、溶接鋼構造物の疲労強度は、母材部に比べて溶接部の方が圧倒的に低い。溶接部の疲労強度が低い理由として、(1)溶接余盛り止端における形状不連続に伴う応力ひずみ集中が溶接部に発生していること、(2)溶接金属の収縮に伴って溶接部に引張の溶接残留応力が発生し、しかも降伏応力レベルに達すること、(3)溶接部近傍の母材金属組織は、溶接熱サイクルを受けて溶接熱影響部(Heat Affected Zone、HAZ)の金属組織に変化し、当初の金属組織から疲労特性が劣化する場合が多いこと、が挙げられる。
溶接部の疲労特性を向上させる方法として、例えば特許文献1〜5に記載の方法が挙げられる。
特許文献1には、裏当金付きの突合せ継手の疲労特性を向上させるために、裏当金の溶接母材側に所定の大きさの溝を設ける方法が記載されている。これにより、母材のルート近傍を破壊の起点とする疲労強度の向上が可能とされている。
特許文献2には、溶接継手の疲労強度の向上を図るため、溶接領域を最大3つに区分し、各溶接領域をレーザービーム溶接、レーザーアーク複合溶接およびアーク溶接のいずれかの方法を選択して溶接する方法が記載されている。
特許文献3では、破壊起点となるルートの形成を回避し、耐疲労特性の向上を図るため、裏当金を用いずに溶接継手を形成する方法として、厚さの異なる鋼材に対して上向溶接と下向溶接を所定の手順で行う方法が記載されている。
特許文献4には、ルート部が残る溶接部を持つ構造物の疲労強度を向上させる方法として、低温変態溶接材料(Low Transformation Temperature、LTT)を用いる方法が記載されている。
特許文献5には、溶接部における疲労き裂の発生を防止し、溶接継手の疲労特性を向上させる方法として、溶接熱影響部の硬度を母材および溶接金属の硬度に対して所定の倍率以下とする方法が記載されている。
特開2006−281245号公報 特表2010−531235号公報 特開2013−184217号公報 特開2003−183769号公報 特開2012−144780号公報
特許文献1に記載の方法は、裏当金の機械加工が必要であるため、コストが大幅に増大する。特許文献2に記載の方法は、実作業における作業性を考慮すると、実用的であるとは言い難い。また、特許文献3に記載の方法では、上向溶接が必須となっているため、溶接性に課題がある場合があると考えられる。
特許文献4に記載のLTTは、変態温度を調整するため一般に高合金設計となっており、材料コストが高いだけでなく、溶接性に劣ることがある。そのため、LTTを使用した場合には、溶接残留応力は低減できるものの、溶接余盛り止端形状が急峻となることが多く、溶接余盛り止端での応力集中が高まり、溶接継手の疲労破壊に対する寿命延伸効果が十分に得られないことがある。
このように、特許文献1〜4に記載の方法では、容易に溶接継手の疲労特性を十分に向上させることができなかった。
ところで、溶接継手の疲労破壊挙動は、破壊起点の視点から、溶接余盛り止端を起点とする場合、および溶接未溶着ルート先端を起点とする場合の2つに大きく分類できる。
疲労破壊が溶接余盛り止端を起点とする場合とは、ガセット継手および荷重非伝達十字継手において主に見られる破壊形態である。溶接余盛り止端を破壊起点とする場合は起点が表面に露出している。そのため、これらの継手形式に対しては、継手の疲労強度を向上させる方法として破壊起点を直接処理する方法が採用できる。例えば、グラインダーによって溶接余盛り止端の形状を整形して、止端における応力ひずみ集中を低減することにより、継手疲労強度を向上させることができる。
一方、溶接未溶着ルート先端を破壊起点とする場合は起点が表面に露出していないため、破壊起点を直接処理し、継手疲労強度を向上させる方法は採用できない。
材料面から継手疲労特性を向上させる方法として、例えば、上述のLTTを用いる技術が考えられる。LTTを用いることにより、溶接金属の相変態温度を低温側に制御して溶接部に圧縮側の残留応力を導入できる。LTTを用いることにより、ルートを破壊起点とする疲労強度が向上できる。
しかしながら、相変態温度を低温側に制御するには、高価な元素を溶接材料に含有させる必要があり、溶接材料のコストが必然的に上昇する。また、本発明者らが検討したところ、特許文献5に記載の方法でも、溶接未溶着ルートを破壊起点とする溶接継手の疲労特性を十分に向上させることができなかった。このため、溶接未溶着ルート先端を破壊起点とする溶接継手の疲労特性を経済的に向上させることが課題となっている。
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、溶接未溶着ルート先端を疲労破壊の起点とする疲労強度に優れた溶接継手を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討を行った結果、HAZおよび溶接金属の疲労強度を向上させて疲労破壊の抵抗力を増大させるとともに、溶接により発生した引張側の残留応力を緩和することによって疲労破壊の駆動力を抑制することにより、溶接未溶着ルート先端を疲労破壊の起点とする疲労強度に優れた溶接継手が得られることを知見した。
本発明は、上記の知見を基礎としてなされたものであり、下記の溶接継手および溶接材料を要旨とする。
(1)母材を溶接した溶接継手であって、
前記母材の化学組成が、質量%で、
C:0.01〜0.10%、
Si:0.04〜0.60%、
Mn:0.50〜1.50%、
sol.Al:0.003〜0.060%、
Ti:0.001〜0.100%、
N:0.0020〜0.0120%、
P:0.025%以下、
S:0.020%以下、
O:0.0005〜0.0030%、
Cr:0〜2.0%、
Ni:0〜1.5%、
Cu:0〜1.5%、
Nb:0〜0.1%、
V:0〜0.1%
B:0〜0.0050%
残部:鉄および不純物であり、
前記母材の金属組織が、主としてフェライトおよびベイナイトの混合組織で構成され、パーライトの面積率が10%以下であり、
前記母材の(110)面からのX線回折強度の半価幅が0.13度以上であり、
溶接金属の化学組成が、質量%で、
C:0.01〜0.10%、
Si:0.04〜0.60%、
Mn:0.50〜1.50%、
sol.Al:0.001〜0.050%、
Ti:0.005〜0.100%、
N:0.010%以下、
P:0.020%以下、
S:0.010%以下、
O:0.0005〜0.0030%、
Cr:0〜1.2%、
Ni:0〜1.2%、
Cu:0〜1.2%、
Nb:0〜0.1%、
V:0〜0.1%、
B:0〜0.0050%、
残部:鉄および不純物
を含有し、下記(1)式を満足する溶接継手。
[Mn_WM]/[C_WM]≧15 ・・・(1)
ただし、Mn_WM:溶接金属のMn含有量(質量%)、C_WM:溶接金属のC含有量(質量%)である。
前記母材の化学組成が、質量%で、
Cr:0.1〜2.0%、
Ni:0.1〜1.5%、
Cu:0.1〜1.5%
からなる群から選択された1種以上の元素を含有する上記(1)に記載の溶接継手。
前記母材の化学組成が、質量%で、
Nb:0.01〜0.1%、
V:0.005〜0.1%
からなる群から選択された1種以上の元素を含有する上記(1)または(2)に記載の溶接継手。
前記母材の化学組成が、質量%で、
B:0.0003〜0.0050%
を含有する上記(1)から(3)までのいずれかに記載の溶接継手。
(5)上記(1)から(4)までのいずれかに記載の溶接継手の製造に用いる溶接材料であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.01〜0.12%、
Si:0.10〜1.00%、
Mn:0.50〜1.50%、
Ti:0.005〜0.100%、
P:0.020%以下、
S:0.010%以下、
sol.Al:0.08%以下、
Cr:0〜1.5%、
Ni:0〜1.5%、
Cu:0〜1.5%、
B:0〜0.0060%、
残部:鉄および不純物
を含有する溶接材料。
本発明によれば、溶接未溶着ルート先端を疲労破壊の起点とする疲労強度に優れた溶接継手が得られる。本発明の溶接継手を用いることにより、従来の溶接継手を用いた場合と比較して、同じ製造条件では溶接鋼構造物の疲労寿命が延伸される。また、溶接継手の寿命を適切に設定することにより、従来の溶接継手と比較してより軽量な溶接鋼構造物を実現することができ、製造コストの削減や省エネルギーが可能となる。また、本発明の溶接材料を用いることにより、本発明の溶接継手を得ることができる。
図1は、裏当て金付き突合せ溶接継手の断面図である。 図2は、X線回折における半価幅の解析法を説明する模式図である。 図3は、疲労試験に用いる試験片の模式図であり、図3(a)は平面図を示し、図3(b)は正面図を示す。
1.本発明を完成させるために行った検討の内容
図1は、裏当て金付き突合せ溶接継手の断面図である。図1に示す溶接継手では、鋼板である母材1が突き合わせて配置され、母材1の開先の裏側には裏当て金2が配置された状態で溶接されている。母材1および裏当て金2の、フュージョンライン3を介して溶接金属4と接する部分およびその近傍にはHAZ5が形成されている。
本発明者らは、建機等で多用されている、裏当て金付き突合せ溶接継手の疲労破壊挙動を詳細に観察した。その結果、疲労き裂の発生部位は未溶着ルートの先端6であること、ミクロ組織との関係では疲労き裂は介在物に起因して発生すること、および疲労き裂は発生後、溶接金属4内を矢印A方向に進展することが確認された。
この観察結果から、溶接未溶着ルート先端を疲労破壊の起点とする疲労強度を向上させるには、HAZおよび溶接金属双方の疲労強度を向上させるとともに、ミクロ的な破壊起点となる介在物数を低減することにより、疲労破壊に対する抵抗力を増大させることが有効であることを見出した。さらに、溶接により発生した、高いレベルの引張側の残留応力を緩和することにより、疲労破壊の駆動力を抑制することも、同様に有効であることを見出した。このように、疲労破壊に対する抵抗力を増大させるとともに、疲労破壊の駆動力を抑制することにより、溶接未溶着ルート先端を疲労破壊の起点とする疲労強度を向上させることが本発明のポイントである。次に、これらの各項目を実現するための条件について説明する。
(1)HAZの疲労強度の向上
ルートを起点とする疲労破壊の起点部の材質は、HAZである。そのため、HAZの疲労強度を向上させることが必要である。本発明の溶接継手では、母材のC含有量を少なくし、かつN含有量を多くすることにより、HAZの硬度を抑制しつつ、HAZの疲労強度を確保する。
(2)溶接金属の疲労強度の向上
ルートで発生したき裂は、その後、溶接金属内を進展し、最終的に破断に至る。そのため、HAZと同様に、溶接金属の疲労強度も向上させる必要がある。そのため、本発明の溶接継手では、溶接金属の化学組成を規定するとともに、溶接金属中のMn含有量Mn_WMおよびC含有量C_WMの比率([Mn_WM]/[C_WM])の下限を規定した。また、溶接材料の化学組成の好ましい範囲も規定した。
(3)介在物数の低減
ルートを起点とする疲労破壊現象を詳細に観察した結果、この現象には介在物、特に母材の表面近傍の介在物が直接影響していることが判った。そのため、母材の表面近傍における介在物の発生数量を抑制することは、ミクロ的な破壊起点の総数を抑制することにつながり、溶接継手の疲労特性の向上に有効である。本発明の溶接継手では、介在物の発生数量を抑制するため、母材のO(酸素)含有量の上限を規定した。また、母材の表面近傍において介在物を低減させるための製鋼条件も明らかにした。
(4)残留応力の緩和
溶接残留応力は、溶接継手の疲労特性に大きく影響することが知られている。本発明者らは、溶接残留応力の緩和を、溶接材料や溶接後の後処理等の技術によらず、母材である鋼板自体において実現することとした。具体的には、繰返し軟化特性を付与した母材を用い、疲労による繰返し応力を利用して母材を軟化させ、疲労破壊の起点周辺での残留応力を緩和する。繰返し軟化特性を発揮させるには、母材の金属組織を所定の組織とし、(110)面からのX線回折強度を所定の半価幅とすることが必要である。繰返し軟化特性については後述する。
2.母材の化学組成
本発明の溶接継手を構成する母材の化学組成は次の元素を含有する。以下では、これらの元素の含有量の限定理由も併せて説明する。元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
C:0.01〜0.10%
Cは、鋼の強度を高める作用を有する元素である。母材の強度を確保するにはC含有量を0.01%以上とする必要がある。一方、C含有量が0.10%を超えると、溶接部の硬度分布が不均一となり、溶接部の疲労強度を確保できない。したがって、C含有量は0.01〜0.10%とする。Cは、強度を高める作用を有する他の元素と比較して安価な元素であることから、これら他の元素の添加量を抑制し、経済的に強度を確保する場合には、C含有量は0.03%以上とすることが好ましい。
Si:0.04〜0.60%
Siは、鋼を脱酸するために必要な元素である。Si含有量が0.04%未満では、適切な脱酸効果を期待できない。一方、Si含有量が0.60%を超えると、母材の靱性が劣化し始めるため、構造用鋼としての適正を欠くこととなる。したがって、Si含有量は0.04〜0.60%とする。Si含有量の下限は、0.20%とするのが好ましく、上限は0.50%とするのが好ましい。
Mn:0.50〜1.50%
Mnは、Cと同様に鋼の強度を高める作用を有し、また、鋼の疲労き裂進展抵抗性を向上させるのに有効な元素である。母材の強度および疲労き裂進展抵抗性を確保するには、0.50%以上含有させる必要がある。一方、Mn含有量が1.50%を超えると、母材の靱性劣化が顕著となる。したがって、Mn含有量は0.50〜1.50%とする。Mn含有量の下限は、0.80%とするのが好ましい。Mn含有量の上限は1.35%とするのが好ましい。
sol.Al:0.003〜0.060%
Alは、脱酸作用を有する元素である。十分に脱酸作用を得るには、Al含有量を0.003%以上とする必要がある。一方、Al含有量が0.060%を超えると、溶接部に硬質の島状マルテンサイトが多数生成し、この島状マルテンサイトが破壊起点となり溶接部の靱性が劣化する。したがって、Al含有量は0.003〜0.060%とする。母材の靱性を十分に確保するためには、Al含有量の上限は、0.050%とするのが好ましい。本発明のAl含有量とは、酸可溶Al(所謂「sol.Al」)を指す。
Ti:0.001〜0.100%
Tiは、炭化物を形成することにより、軟質組織(フェライト)を細粒化して強化するため、鋼の疲労き裂進展抵抗性の向上に有効な元素である。この効果を得るには、Ti含有量を0.001%以上とする必要がある。一方、Ti含有量が0.100%を超えると、疲労き裂進展抵抗性の向上効果が飽和するだけでなく、母材の強度が上昇しすぎて靱性が損なわれる。したがって、Ti含有量は0.001〜0.100%とする。Ti含有量の下限は、0.010%とするのが好ましく、上限は0.030%とするのが好ましい。
N:0.0020〜0.0120%
Nは、Tiと結合してTiNを生成し、HAZの細粒化に寄与する重要な元素である。HAZの細粒化により溶接部における疲労特性を向上させるには、N含有量を0.0020%以上とする必要がある。一方、N含有量が0.0120%を超えると、母材の靱性が損なわれ始める。したがって、N含有量は0.0020〜0.0120%とする。N含有量の下限は、0.0050%とするのが好ましく、上限は0.0100%とするのが好ましい。
P:0.025%以下
Pは、鋼中に不純物として含有され、中心偏析を助長する等、鋼の靱性を劣化させる元素である。そのため、P含有量は少なければ少ないほどよい。ただし、0.025%以下であれば問題がないので、P含有量の上限は0.025%とする。P含有量の上限は、0.018%とするのが好ましい。
S:0.020%以下
Sは、鋼中に不純物として含有される。S含有量が過多である場合、MnS等の割れの起点となる介在物を形成し、溶接割れの原因となるとともに、HAZの靱性を低下させる。ただし、0.020%以下であれば、これらの問題は生じないため、S含有量の上限は0.020%とする。S含有量の上限は、0.006%とするのが好ましい。
O:0.0005〜0.0030%
O(酸素)は、介在物の生成に極めて重要な働きをする元素である。介在物は疲労き裂の発生起点となる場合がある。そのため、介在物の形状および生成量を制御するのは、溶接部の疲労特性の向上に重要である。介在物の制御には、O含有量が少ないほど有利である。しかしながら、O含有量を過剰に低減するには、製鋼段階で多くの工数を要することとなり、経済性に問題がある。疲労特性の向上と、構造用部材としての経済性とを両立するため、O含有量は0.0005〜0.0030%とする。O含有量の下限は、0.0010%とするのが好ましく、上限は0.0025%とするのが好ましい。
Cr:0〜2.0%
Crは、鋼の耐食性を向上させるとともに腐食環境下での疲労き裂進展抵抗性の改善、軟質組織(フェライト)の転位構造の制御および微視的塑性変形の抑制に効果がある。このため、必要に応じてCrを含有させてもよい。しかし、Crを、2.0%を超えて含有させても、これらの効果が飽和するとともに、母材の強度が上昇しすぎて、靱性が損なわれるおそれがある。したがって、Crを含有させる場合には、その含有量を2.0%以下とする。Cr含有量の上限は、1.8%とするのが好ましい。なお、上記の効果を確実に得るためには、Cr含有量を0.1%以上とするのが好ましく、0.5%以上とするのがより好ましい。
Ni:0〜1.5%
Niも、Crと同様に、鋼の耐食性を向上させるとともに腐食環境下での疲労き裂進展抵抗性の改善、軟質組織の転位構造の制御および微視的塑性変形の抑制に効果がある。このため、必要に応じてNiを含有させてもよい。しかし、Niを、1.5%を超えて含有させても、これらの効果が飽和するとともに、母材の強度が上昇しすぎて、靱性が損なわれるおそれがある。したがって、Niを含有させる場合には、その含有量を1.5%以下とする。Ni含有量の上限は、1.0%とするのが好ましい。なお、上記の効果を確実に得るためには、Ni含有量を0.1%以上とするのが好ましく、0.5%以上とするのがより好ましい。
Cu:0〜1.5%
Cuも、CrおよびNiと同様に、Cuの耐食性を向上させるとともに腐食環境下での疲労き裂進展抵抗性の改善、軟質組織の転位構造の制御および微視的塑性変形の抑制に効果がある。このため、必要に応じてCuを含有させてもよい。しかし、Cuを、1.5%を超えて含有させても、これらの効果が飽和するとともに、母材の強度が上昇しすぎて、靱性が損なわれるおそれがある。したがって、Cuを含有させる場合には、その含有量を1.5%以下とする。Cu含有量の上限は、1.2%とするのが好ましい。なお、上記の効果を確実に得るためには、Cu含有量を0.1%以上とするのが好ましく、0.3%以上とするのがより好ましい。
上記のCr、NiおよびCuは、これらから選択された1種のみ、または2種以上を含有させることができる。
Nb:0〜0.1%
Nbは、炭化物を生成することにより、軟質組織を細粒化して強化するため、腐食環境下での疲労き裂進展抵抗性の改善に効果がある。このため、必要に応じてNbを含有させてもよい。しかし、Nbを、0.1%を超えて含有させても、この効果が飽和するとともに、母材の強度が上昇しすぎて、靱性が損なわれるおそれがある。したがって、Nbを含有させる場合には、その含有量を0.1%以下とする。Nb含有量の上限は、0.05%とするのが好ましい。なお、上記の効果を確実に得るためには、Nb含有量を0.01%以上とするのが好ましく、0.02%以上とするのがより好ましい。
V:0〜0.1%
VもNbと同様に、炭化物を生成することにより、軟質組織を細粒化して強化するため、腐食環境下での疲労き裂進展抵抗性の改善に効果がある。このため、必要に応じてVを含有させてもよい。しかし、Vを、0.1%を超えて含有させても、この効果が飽和するとともに、母材の強度が上昇しすぎて、靱性が損なわれるおそれがある。したがって、Vを含有させる場合には、その含有量を0.1%以下とする。V含有量の上限は、0.07%とするのが好ましい。なお、上記の効果を確実に得るためには、V含有量を0.005%以上とするのが好ましく、0.01%以上とするのがより好ましい。
上記のNbおよびVは、これらのうち1種のみ、または2種を含有させることができる。
B:0〜0.0050%以下
Bは、焼入性を著しく高める作用があり、強度上昇と疲労き裂進展抵抗性を向上させる効果がある。このため、必要に応じてBを含有させてもよい。しかし、Bを、0.0050%を超えて含有させると靱性が劣化するおそれがある。したがって、Bを含有させる場合には、その含有量を0.0050%以下とする。なお、上記の効果を確実に得るためには、B含有量を0.0003%以上とするのが好ましい。また、B含有量は、0.0030%以下が好ましい。
本発明の溶接継手の母材の化学組成の残部は、鉄および不純物からなる。以上が本発明の溶接継手の母材の化学組成である。なお、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
3.溶接金属の化学組成
本発明の溶接継手を構成する溶接金属の化学組成は次の元素を含有する。以下では、これらの元素の含有量の限定理由を説明する。元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
C:0.01〜0.10%
Cは、溶接継手の強度に直接影響する重要な元素である。溶接金属のC含有量が0.01%未満であると、溶接金属の強度が不足し、さらに高温割れのリスクが高まる。一方、C含有量が0.10%を超えると、炭化物が増加して溶接金属の硬さが過剰となり、靱性が劣化し、さらに低温割れのリスクが高まる。これらの強度および靱性を考慮し、さらに溶接鋼構造物に工業的に溶接金属として理由する際の湯流れ性も考慮して、溶接金属のC含有量は0.01〜0.10%とする。C含有量の下限は、0.03%が好ましく、上限は0.08%が好ましい。
Si:0.04〜0.60%
Siは、余盛り止端形状の制御に不可欠な元素である。溶接金属のSi含有量が0.04%未満であると、止端形状を適切な形状に制御することができない。また、溶接金属の靱性が劣化するとともに、ブローホールが発生するリスクが高まる。一方、Si含有量が0.60%を超えると、PおよびSの偏析が助長され、靱性が低下する。また、島状マルテンサイトが生成する等の理由から、硬さが過剰となり、靱性、特に低温靱性が損なわれる。したがって、溶接金属のSi含有量は0.04〜0.60%とする。Si含有量の下限は、0.10%が好ましく、上限は0.40%が好ましい。
Mn:0.50〜1.50%
Mnは、溶接金属の強度と靱性のバランスを適切に維持する上で重要な元素である。溶接金属のMn含有量が0.50%未満であると、溶接金属の強度が不足するとともに、靱性が劣化する。一方、Mn含有量が1.50%を超えると、Pの凝固偏析が助長され、靱性が劣化する。また、焼き入れ性が過大となり、強度が著しく高くなる。さらに、溶接材料の製造が困難となることが多い。したがって、溶接金属のMn含有量は0.50〜1.50%とする。Mn含有量の下限は、0.80%が好ましく、上限は1.20%が好ましい。
sol.Al:0.001〜0.050%
Alは、粒内ベイナイトの生成核となるTiの窒化物、酸化物の生成を阻害することがある元素である。粒内ベイナイトは、継手疲労強度を確保する上で不可欠な金属組織である。そのため、溶接金属のAl含有量は少ない方が好ましい。なお、溶接金属のAl含有量が0.050%以下であれば、溶接金属に十分に粒内ベイナイトが生成する。ここで、溶接金属には、母材からの溶け込み、またはAlを含有する溶接材料の使用に由来してAlが含有される。そのため、溶接金属のAl含有量は下限を0.001%とする。したがって、溶接金属のAl含有量は0.001〜0.050%とする。Al含有量の上限は0.030%が好ましい。
Ti:0.005〜0.100%
Tiは、粒内ベイナイトの生成核となるTiの窒化物及び酸化物等を形成する元素である。そのため、溶接金属のTi含有量は0.005%以上とする。一方、Ti含有量が0.100%よりも多いと、Tiの炭化物が多量に生成し、低温靱性を劣化させることがある。したがって、溶接金属のTi含有量は、0.005〜0.100%とする。Ti含有量の下限は、0.020%が好ましく、上限は0.060%が好ましい。
N:0.010%以下
Nは、溶接金属の靱性を劣化させる元素である。ただし、溶接金属のN含有量が0.010%以下であれば靱性の劣化は生じない。そのため、溶接金属のN含有量は0.010%以下とする。一方、NはTiと結合してTiNを生成し、HAZの細粒化に寄与する元素でもある。HAZの細粒化により、溶接継手の溶接部における疲労強度を向上させることができる。HAZの細粒化によるこのような効果を得るには、N含有量を0.002%以上とするのが好ましい。N含有量の下限は、0.005%が好ましく、上限は0.008%がより好ましい。
P:0.020%以下、S:0.010%以下
PおよびSは、いずれも溶接金属中に不純物として含有され、溶接金属の低温靱性を劣化させ、低温割れ感受性を高める元素である。そのため、溶接金属のP含有量およびS含有量は少ないほどよい。ただし、P含有量が0.020%以下であり、かつS含有量が0.010%以下であれば、これらの問題は生じない。したがって、溶接金属のP含有量は0.020%以下とし、S含有量は0.010%以下とする。P含有量は、0.010%以下とするのが好ましい。S含有量は、0.005%以下とするのが好ましい。
O:0.0005〜0.0030%
Oは、焼入れ性を下げ、溶接金属の低温靭性を劣化させる元素である。溶接金属のO含有量が0.0030%を超えると低温靭性を著しく劣化させる。一方、O含有量が0.0005%よりも少ないと低温割れが発生しやすくなると同時に溶接部の硬度が高くなる。したがって、溶接金属のO含有量は0.0005〜0.0030%とする。
Cr:0〜1.2%、Ni:0〜1.2%、Cu:0〜1.2%
Cr、NiおよびCuは、いずれも溶接金属の低温割れ感受性を高める元素である。溶接金属の低温割れを抑制するには、溶接金属のこれらの元素の含有量は少ないほどよい。しかし、これらの元素は、母材または溶接材料から溶接金属に混入することがある。ただし、これらの元素の含有量がそれぞれ1.2%以下であれば、この問題は生じない。そのため、溶接金属のこれらの元素の含有量は、それぞれ1.2%以下とする。一方、これらの元素は、溶接金属の焼き入れ性を高め、強度を向上させる効果を有する。このような効果を得るには、これらの元素の含有量をそれぞれ0.1%以上とするのが好ましい。
Nb:0〜0.1%、V:0〜0.1%
NbおよびVは、溶接時に溶接金属の精錬、凝固を良好に進行させる元素であり、母材から溶接金属に混入することがある。そのため、溶接金属のNb含有量およびV含有量は、いずれも0〜0.1%とする。Nb含有量の上限は、0.07%とするのが好ましく、下限は0.02%とするのが好ましい。V含有量の上限は、0.06%とするのが好ましく、下限は0.02%とするのが好ましい。
B:0〜0.0050%
Bは、焼き入れ性を高め、溶接金属の低温靱性を向上させる元素である。しかし、B含有量が0.0050%よりも多いと低温靱性を劣化させることがある。そのため、溶接金属のB含有量は0.0050%以下とする。溶接金属の低温靱性を高めるには、B含有量を0.0003%以上とするのが好ましい。
本発明の溶接金属の化学組成の残部は、鉄および不純物からなる。以上が本発明の溶接金属の化学組成である。
本発明者らが、溶接継手の疲労特性について検討を重ねたところ、溶接金属のMn含有量とC含有量の比率が重要であることを見出した。Mnは、Cとともに鋼の引張強度を上昇させる元素として広く用いられている。本発明者らは、MnおよびCのうち、Mnを主に活用して溶接金属の引張強度を必要なレベルに維持するとともに、C含有量を可能な限り低減しながら引張強度を確保することが、溶接金属の疲労強度を向上させる上で有効であることを明らかにした。
さらに検討を進めたところ、溶接金属のMn含有量とC含有量の比率が下記(1)式を満足することで、溶接金属の疲労強度が向上することが明らかとなった。そのため、本発明の溶接継手を構成する溶接金属は、Mn含有量とC含有量の比率が下記(1)式を満足するものとする。
[Mn_WM]/[C_WM]≧15 ・・・(1)
ただし、Mn_WM:溶接金属のMn含有量(質量%)、C_WM:溶接金属のC含有量(質量%)である。
4.溶接材料の化学組成
本発明の溶接継手は、母材を、溶接材料を用いてアーク溶接することによって製造することができる。アーク溶接は、溶接材料により母材が大きく希釈される溶接である。そのため、母材と溶接材料が溶解して形成される溶接金属を上述の組成とするには、母材の希釈を考慮した組成の溶接材料を使用する必要がある。本発明の溶接継手の製造に用いる溶接材料は、化学組成が次の元素を含有するものが好ましい。元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。溶接材料には、例えば溶接ワイヤーを使用することができる。
C:0.01〜0.12%
上述のように、溶接金属におけるCは、溶接継手の強度に直接影響する重要な元素である。溶接材料のC含有量が0.01%未満であると、主に溶接材料が溶解して形成される溶接金属の強度が不足するおそれがあり、高温割れのリスクも高まる。一方、C含有量が0.12%を超えると、溶接金属の靱性が劣化するおそれがあり、低温割れのリスクも高まる。したがって、溶接材料のC含有量は0.01〜0.12%が好ましい。C含有量の下限は、0.03%がより好ましく、上限は0.08%がより好ましい。
Si:0.10〜1.00%
上述のように、溶接金属におけるSiは、余盛り止端形状の制御に不可欠な元素である。溶接材料のSi含有量が0.10%未満であると、溶接金属が構成する余盛り止端形状を適切な形状に制御することができないおそれがある。また、溶接金属の靱性が劣化するおそれがあり、ブローホールが発生するリスクも高まる。一方、Si含有量が1.00%を超えると、溶接金属の靱性、特に低温靱性が損なわれるおそれがある。したがって、溶接材料のSi含有量は0.10〜1.00%が好ましい。Si含有量の下限は、0.30%がより好ましく、上限は0.80%がより好ましい。
Mn:0.50〜1.50%
上述のように、溶接金属におけるMnは、溶接金属の強度と靱性のバランスを適切に維持する上で重要な元素である。溶接材料のMn含有量が0.50%未満であると、溶接金属の強度が不足するとともに、靱性が劣化する。一方、Mn含有量が1.50%を超えると、溶接材料の製造が困難となることが多い。さらに、溶接金属の靱性が劣化し、強度が著しく高くなるおそれがある。したがって、溶接材料のMn含有量は0.50〜1.50%が好ましい。Mn含有量の下限は、0.80%がより好ましく、上限は1.30%がより好ましい。
Ti:0.005〜0.100%
上述のように、溶接金属におけるTiは、粒内ベイナイトの生成核となるTiの窒化物及び酸化物等を形成する元素である。溶接材料のTi含有量が0.005%未満であると、溶接金属における粒内ベイナイト量が不足する。一方、溶接材料のTi含有量が0.100%を超えると、溶接金属においてTiの炭化物が多量に生成し、溶接金属の低温靱性を劣化させるおそれがある。したがって、溶接材料のTi含有量は、0.005〜0.100%が好ましい。Ti含有量の下限は、0.03%がより好ましく、上限は0.08%がより好ましい。
P:0.020%以下、S:0.010%以下
上述のように、溶接金属におけるPおよびSは、いずれも溶接金属の低温靱性を劣化させ、低温割れ感受性を高める元素である。溶接材料のP含有量が0.020%を超えた場合、またはS含有量が0.010%を超えた場合には、溶接金属の低温靱性を劣化させ、低温割れを生じさせるおそれがある。したがって、溶接材料のP含有量は0.020%以下が好ましく、S含有量は0.010%以下が好ましい。P含有量は、0.010%以下がより好ましい。S含有量は、0.005%以下がより好ましい。溶接材料のP含有量およびS含有量はいずれも少ないほど好ましい。
sol.Al:0.08%以下
Alは、脱酸材として鋼に添加される。しかし、溶接材料のAl含有量が0.08%を超えた場合、溶接金属において粒内ベイナイトの生成核となるTiの窒化物、酸化物の生成を阻害するおそれががある。したがって、溶接材料のAl含有量は、0.08%以下が好ましい。Al含有量は、0.05%以下がより好ましい。溶接材料のAl含有量は少ないほど好ましい。
Cr:0〜1.5%、Ni:0〜1.5%、Cu:0〜1.5%
上述のように、溶接金属におけるCr、NiおよびCuは、いずれも溶接金属の低温割れ感受性を高める元素である。溶接金属では、このような問題を考慮してこれらの元素の含有量を規定した。溶接金属において、これらの元素を規定の含有量とするには、母材の希釈を考慮して、溶接材料のこれらの元素の含有量は、それぞれ1.5%以下が好ましい。一方、これらの元素は、いずれも溶接金属の焼き入れ性を高め、強度を向上させる効果を有する。これらの効果を得るには、溶接材料のこれらの元素の含有量の下限は、それぞれ0.3%が好ましい。これらの元素の上限は、それぞれ1.2%がより好ましい。
B:0〜0.0060%
上述のように、溶接金属におけるBは、焼き入れ性を高め、溶接金属の低温靱性を向上させる元素である。しかし、溶接材料のB含有量が0.0060%よりも多いと溶接金属の低温靱性を劣化させるおそれがある。そのため、溶接材料のB含有量は0.0060%以下が好ましい。一方、溶接金属の低温靱性を高めるには、溶接金属のB含有量は0.0005%以上が好ましい。
本発明の溶接材料の化学組成の残部は、鉄および不純物からなる。以上が本発明の溶接金属の化学組成である。
なお、本発明の溶接継手の製造にアーク溶接を適用する場合、単極での溶接だけでなく、複数電極での溶接も可能である。複数電極で溶接を行う場合は各種溶接材料の組み合わせが可能である。各種溶接材料を組み合わせる場合、個々の溶接材料が上記成分範囲にある必要はなく、それぞれの溶接材料成分と消費量から算出される、溶接材料全体としての平均組成が上記成分範囲にあればよい。
5.繰返し軟化特性の活用による残留応力の緩和
溶接継手では、溶接施工に伴って継手内に導入された引張溶接残留応力により、疲労強度が母材に比べて著しく低下する。これは、引張溶接残留応力が繰返し応力波形において引張側の平均応力として作用するためである。そこで、本発明の溶接継手では、溶接残留応力を緩和するため、母材の繰返し軟化特性を活用することとした。
繰返し軟化現象とは、引張と圧縮すなわち正負交番のひずみを鋼材に繰返し付与した場合に、鋼材内の転位が再配列し、特定のひずみに対応する応力が繰返し応力の載荷に伴い低下する現象である。この現象を活用することにより、溶接継手の使用中に母材を軟化させることができ、溶接残留応力が緩和される。
5−1.母材の金属組織
本発明の溶接継手を構成する母材の金属組織は、繰返し軟化特性を発揮させるために、主としてフェライトおよびベイナイトの混合組織で構成されたものとし、パーライトの面積率を10%以下とする。パーライトの面積率を10%以下に限定することにより、急速加熱冷却されるHAZにおいて、Cの高い組織を排除する。該ベイナイトは上部ベイナイト、下部ベイナイト、グラニュラーベイナイト等の組織を含むものである。パーライトの面積率が10%を超えると、繰返し軟化特性が発揮されず、溶接継手の疲労特性が劣化する。パーライトの面積率の上限は3%が好ましい。パーライトの面積率は0%でもよい。
ここで「主として」というのは、鋼の組織においてフェライトおよびベイナイトの混合組織の構成比率が面積率にて90%以上であることを意味する。残りの組織は、特に限定するものではなく、擬似パーライト組織等、通常観察される組織で構わない。
5−2.X線回折強度の半価幅
繰返し軟化挙動の評価は、鋼材に対して正負交番のひずみを付与して直接行うことができるだけでなく、鋼材のX線回折強度で間接的に行うことができることが知られている。X線回折強度により、繰返し軟化の原因となる鋼材の転位密度を測定する。転位密度の値に基づき、繰返し軟化挙動の評価を行う。
繰返し軟化特性を発揮させ、溶接残留応力を効果的に緩和するには、初期転位密度を安定状態の転位密度よりも高くしておくことが必要であり、具体的には鋼材の(110)面からのX線回折強度の半価幅が0.13度以上であることが必要である。半価幅が0.13度未満では、初期転位密度が低いため、繰返し応力による軟化が不十分である。
X線回折強度の半価幅とは、X線回折強度の分布において、回折強度がピーク強度の1/2となる部分の分布幅を回折角度で示した値である。高温で生成し、転位密度の小さな組織ほど、半価幅は小さいことが知られている。半価幅が大きな組織ほど、初期転位密度が大きく、繰返し軟化特性に優れ、疲労き裂進展抵抗性に優れる。
X線回折を行う結晶面は、最も一般的に用いられている(110)面とする。本発明では、繰返し軟化特性による良好な疲労き裂進展抵抗性を得るために、母材の(110)面での回折強度の半価幅を0.13度以上とする。引張強度が490MPa級の鋼材の場合は、強度等のバランスとの観点から、半価幅を0.13〜0.24度とすることが好ましい。この半価幅は、特性X線の線源としてコバルトを使用した場合の値である。
図2は、X線回折における半価幅の解析法を説明する模式図である。この模式図は、(110)面における回折強度を示すグラフである。図2に示すように、半価幅は回折強度のピークにおいて、回折強度が最も強い強度値の1/2のところでの分布の幅を角度で表したものである。ピークが2つに分かれている場合には、高い方のピークの1/2の値をとる。
上記の半価幅は、回折パターンでKαとKαのピークが独立して現れる時にはKαの値を測定し、KαとKαの値が重なって現れる時にはそれらの合計の幅で測定する。なお、上記半価幅の測定は、厚さ方向で鋼材表面から1mm内部に入った部位において、圧延面と平行な面で行うものとする。
そして、このような母材組織のX線回折における半価幅を限定することは、結局、転位密度が高い緻密な組織を規定することを意味する。
6.清浄度
本発明の溶接継手を構成する母材(鋼板)は、下記(2)式を満足することが好ましい。
×1+d×3+d×1.5≦0.1 ・・・(2)
ただし、d:A系介在物の清浄度(%)、d:B系介在物の清浄度(%)、d:C系介在物の清浄度(%)である。
A系介在物、B系介在物およびC系介在物、ならびに清浄度は、いずれもJIS G 0202で規定されるものである。A系介在物は、鋼中の非金属介在物のうち、加工によって粘性変形したものをいう。B系介在物は、鋼中の非金属介在物のうち、加工方向に集団をなして不連続的に粒状に並んだものをいう。C系介在物は、鋼中の非金属介在物のうち、粘性変形をしないで不規則に分散するものをいう。
清浄度は、鋼中において、非金属介在物が含まれる度合いをいう。顕微鏡視野内で、非金属介在物が占める割合を面積百分率で表し、下記(3)式で計算する。
d=n/(p×f)×100 ・・・(3)
ただし、d:清浄度(%)、n:f個の視野における全介在物によって占められた格子点中心の数、p:視野内のガラス板上の総格子点数、f:視野数である。
本発明者らは溶接継手の疲労試験を多数実施し、その疲労試験結果と鋼板中に存在する介在物の清浄度との相関に着目して検討した。その結果、鋼板断面全体の清浄度と継手疲労特性との間には、何らの相関も認められなかった。しかし、分析対象とする介在物を鋼板表面から板厚方向に2mmの深さまでの領域(以下「表層領域」ともいう。)のものに限定して、鋼板ごとに清浄度を求め、継手疲労特性との相関を調査したところ、極めて強い相関があることが認められた。また、この表層領域の清浄度が高い鋼材ほど、継手疲労特性が優れていた。このような強い相関が認められた理由としては、以下のことが考えられる。
一般に、裏当て金付き突合せ溶接継手では、未溶着ルート先端を起点として疲労き裂が発生し、溶接金属内をき裂が進展した後、疲労破断に至る。ここで、ルート近傍の高応力域は、鋼板表面から板厚方向に2mmの深さの領域まで及び、この表層領域の介在物がミクロ的な破壊起点となっている。表層領域の清浄度が高いと、疲労き裂のミクロ的な破壊起点が少なくなり、その結果として継手疲労特性が向上する。そのため、表層領域の清浄度と継手疲労特性との間に強い相関が認められると考えられる。
本発明者らは、疲労き裂の発生を律する局所的応力は、ルート周辺部におけるマクロ的な応力の集中度合いを表す応力集中係数と、介在物の輪郭形状に起因するミクロ的な応力の集中度合いを表す応力集中係数の積を用いて算出されることを見出した。
介在物の輪郭形状に起因するミクロ的な応力集中挙動は、鋼板中の介在物特性に依存する。これは、このミクロ的な応力集中が、溶接止端部の高応力域の中に存在する介在物と鋼板素材(matrix)との界面において発生することに起因する。
そこで、本発明者らは、鋼板中に存在する介在物の輪郭形状に起因するミクロ的な応力集中係数について検討し、鋼板の表層領域に存在する非金属介在物の清浄度と溶接継手の疲労強度について多重回帰分析等を行った。その結果、優れた疲労強度が得られる条件として、以下に再掲する(2)式を得た。(2)式の左辺の値が0.1%を超えると、ミクロ的な応力集中が大きくなり、溶接部の疲労強度が極めて低くなる。
×1+d×3+d×1.5≦0.1 ・・・(2)
ただし、d:A系介在物の清浄度(%)、d:B系介在物の清浄度(%)、d:C系介在物の清浄度(%)である。
ここで、(2)式の左辺各項の係数について考察する。疲労き裂は、応力に直角、すなわち鋼板表面にほぼ垂直に進展する。この場合の主応力負荷方向、およびその主応力負荷方向により介在物に起因する応力集中について考える。
介在物の輪郭形状に起因する応力集中係数は、A系介在物では、ほぼ1であると解される。これは、A系介在物は、圧延方向に直線上に延ばされた介在物であり、溶接継手の主応力負荷方向と介在物の延ばされた方向とが平行であるためである。A系介在物は、主として硫化物系介在物である。
B系介在物の応力集中係数はほぼ3になると解される。これは、B系介在物は圧延方向に点列状に存在し、隣接する介在物間での界面の応力集中が大きくなるためである。B系介在物は、主としてAl系介在物である。
C系介在物はランダムに分散し、点在する介在物であり、形状としては球状が多い。一部では、球状ではなく角部を有するものが存在する可能性もある。角部での応力状態は一般に、介在物の向きと主応力負荷方向との関係で変化する。介在物は向きがランダムとなるように配置される。そのため、C系介在物の応力集中係数は、平均的には1.5になると解される。C系介在物は、主としてCaOおよびCaSである。
JISに定められた評価法により、介在物の輪郭形状パターンと清浄度が各々提示されたならば、溶接継手の疲労特性を律するミクロ的な応力集中挙動は、(2)式によって容易に評価できる。
7.鋼板の製造方法
本発明に係る溶接継手に使用できる鋼板は、例えば、特殊な条件を課した連続鋳造により得られた鋳片を、加速冷却装置を備えた熱間圧延設備を使用して圧延することにより製造することができる。好適な製造条件については後述する。
一般に、鋼中の介在物は、精錬プロセスで溶鋼中に生成する場合と、連続鋳造時に鋳型内でモールドフラックスの溶融層が溶鋼中に巻き込まれて発生する場合があることが知られている。本発明で着目している鋼板の表層領域の介在物は、これら2つの原因のうち、モールドフラックスの溶融層の巻き込まれによって発生するものである。
この巻き込まれを防止するための対策としては、連続鋳造の際の鋳型内の溶鋼流動を適正な状態に維持すること、または、モールドフラックスの化学組成を適正に設計することが挙げられる。本発明者らは検討の結果、圧延後の鋼板表面から2mmの深さまでの表層領域、すなわち圧延前のスラブの極表層での介在物の発生を抑制するには、モールドフラックスの化学組成を適正なものとすることが極めて効果的である、との結論を得た。
具体的には、一般的なモールドフラックスの化学組成から、SiO、Al、MgOおよびNaOの含有量を抑制する一方で、CaOおよびFの含有量を増すことでモールドフラックスの化学組成を適正なものとすることができる。適正な化学組成のSiO含有量は22.0〜32.0質量%、Al含有量は2.0〜6.0質量%、MgO含有量は0.5質量%以下、NaO含有量は6.0〜10.0質量%、CaO含有量は40.0〜58.0質量%、F含有量は8.0〜16.0質量%である。SiO含有量の下限は、25.0%が好ましく、上限は29.0%が好ましい。Al含有量の下限は、3.0%が好ましく、上限は5.0%が好ましい。MgO含有量の上限は0.2%が好ましい。NaO含有量の下限は、7.0%が好ましく、上限は9.0%が好ましい。CaO含有量の下限は、44.0%が好ましく、上限は54.0%が好ましい。F含有量の下限は、10.0%が好ましく、上限は14.0%が好ましい。
このモールドフラックスを用いて、連続鋳造法にてスラブを製造する。好適な製造条件の一例を説明する。スラブのサイズは鋳込み厚250mm、鋳込み幅2300mmとし、鋳込み速度は1.1m/minとする。タンディッシュでのシールドガスとしては100%Arガスを使用し、ガス流量は100L/minとするのが好ましい。スラブの品質をより向上させるため、浸漬ノズルの吐出孔近傍のスラブ全幅に対して4機の電磁ブレーキを連続して配置することが好ましい。
このようにして得られたスラブを1000〜1250℃に加熱した後、最終製品である鋼板の厚さまで圧延する熱間圧延を施す。スラブの加熱温度が1000℃に満たない場合には熱間圧延の効率が悪くなり、一方1250℃を超えると金属組織が粗大となり、靱性が劣化するおそれがある。
熱間圧延は、スラブの表面温度がAr3点以上のときに行い、Ar3点以上、950℃以下の温度範囲における圧下率を40%以上とする。熱間圧延は、スラブの表面温度が950℃よりも高いときに開始してもよい。ここでいう圧下率は、下記(4)式で定義される。
R=(t1−t2)/t1×100 ・・・(4)
ただし、R:圧下率(%)、t1:熱間圧延中に950℃になったときのスラブの厚さ(mm)、t2:最終製品(鋼板)の厚さ(mm)である。
熱間圧延を完了し、最終製品である鋼板の厚さまで圧延したスラブに1次冷却を施す。1次冷却では、スラブの平均冷却速度を1℃/s以上5℃/s未満とする。
熱間圧延完了後の1次冷却において、平均冷却速度が1℃/s未満では、スラブの軟質組織(フェライト)の粒径が大きくなりすぎて、最終製品である鋼板の強度や靱性が劣化したり、鋼板の製造能率が低下したりする等の問題が生じる。そのため、1次冷却におけるスラブの平均冷却速度は1℃/s以上とする。
一方、1次冷却におけるスラブの平均冷却速度が5℃/s以上では、最終製品である鋼板の十分な伸びが得られなかったり、鋼板の靱性が低下したりする等の問題が生じる。そのため、1次冷却におけるスラブの平均冷却速度は5℃/s未満とする。スラブの平均冷却速度は3℃/s未満とすることがより好ましい。
1次冷却は、スラブの表面温度が「Ar3点−10℃」を超える温度で開始することが望ましく、スラブの表面温度が「Ar3点−50℃」以下の温度で終了することが望ましい。1次冷却の開始温度および終了温度がこの範囲外である場合に、最終製品である鋼板の金属組織が粗大となり、靱性が劣化するおそれがあるからである。
1次冷却を完了した後、放冷期間をはさんで、スラブに2次冷却を施す。放冷期間は3s以上とすることが望ましい。放冷期間を3s以上とすることにより、スラブ内の温度むらを低減することができ、最終製品である鋼板の金属組織のばらつきの発生およびこれに伴う機械的特性のばらつきを抑制することができる。
放冷期間におけるスラブの復熱温度幅(1次復熱温度幅)は50℃以下とする。1次復熱温度幅とは、1次冷却を完了した時点でのスラブの表面温度と、2次冷却を開始する時点でのスラブの表面温度との差の絶対値を意味する。1次復熱温度幅が50℃を超える場合には、転位密度が減少し、最終製品である鋼板の(110)面からのX線回折強度の半価幅が0.13度未満となり、疲労き裂進展抵抗性が劣化するおそれがある。
2次冷却では、650〜400℃での平均冷却速度を5℃/s以上、より好ましくは8〜25℃/sとする。650〜400℃での平均冷却速度が5℃/sに満たない場合には鋼の組織におけるフェライトの構成比率が高くなり、強度と靱性のバランスが芳しくなくなるおそれがある。
2次冷却を終了した後、スラブを放冷することにより、最終製品である鋼板が得られる。2次冷却は、400℃以下の温度で終了する。2次冷却の終了温度が400℃を超える場合には、鋼の組織におけるフェライトの構成比率が高くなり、疲労き裂進展抵抗性が劣化するおそれがある。冷却停止温度は、350℃以上がより好ましい。
2次冷却は、2次冷却終了後の復熱温度幅(2次復熱温度幅)が70℃以下となるように終了する。ここで、2次復熱温度幅とは、2次冷却を終了した時のスラブ表面の到達最低温度と、2次冷却終了後にスラブ内部の熱でスラブ表面の温度が上昇し、安定した時の最高温度との差の絶対値を意味する。2次復熱温度幅が70℃を超える場合には、転位密度が減少し、鋼板の(110)面からのX線回折強度の半価幅が0.13度未満となり、疲労き裂進展抵抗性が劣化するおそれがある。
1次復熱温度幅および2次復熱温度幅を小さくするには、1次冷却および2次冷却において、冷却中のスラブの表層と中心部の温度差を常に小さくするとともに、冷却終了時において、少なくとも表層部の相変態を終了させておくことが好ましい。スラブの表層と中心部の温度差を小さくするには、冷却装置の冷却帯において、前段よりも後段の冷却能を大きくすることが好ましい。
1.試験条件
溶接素材として、圧延方向の長さ約500mm、圧延直角方向の長さ約300mm、板厚15mmの鋼板を使用した。裏当て金も、共材、すなわち溶接素材と同じ鋼板を使用し、減厚加工により厚さを10mmとした。
鋼板に対して、角度60度の開先加工を行い、ルートギャップを1mmとし、圧延直角方向が溶接線方向に一致するように溶接施工することにより、裏当て金付き突合せ溶接継手を製作した。溶接はアーク溶接とし、3パス溶接とした。各パスの溶接条件を表1に示す。
Figure 2016079490
溶接継手の母材の化学組成を表2に示す。
Figure 2016079490
鋼No.1〜22、31および37は母材の化学組成が本発明の規定を満足し(本発明材)、鋼No.23〜30および32〜36は本発明の規定を満足しなかった(比較材)。
溶接継手に用いた鋼板の製造条件として、連続鋳造の際に使用したモールドフラックス、熱間圧延時のスラブの加熱温度、熱間圧延時の圧下率、1次冷却速度、1次復熱温度幅、2次冷却速度、2次冷却終了温度および2次復熱温度幅を表3に示す。熱間圧延時の圧下率は、スラブの表面温度がAr3点以上、950℃以下の温度範囲における圧下率を示した。1次冷却速度および2次冷却速度は、それぞれ平均冷却速度を示した。
Figure 2016079490
表4に使用したモールドフラックスの化学組成を示す。
Figure 2016079490
表4に示すモールドフラックスAは、一般的な化学組成のモールドフラックスから、SiO、Al、MgOおよびNaOの含有量を抑制する一方で、CaOおよびFの含有量を増したものである。モールドフラックスBは、CaOおよびFの含有量を増さない、一般的な化学組成のモールドフラックスである。
表3に示すように、鋼No.1〜20および22〜36では、モールドフラックスAを使用した。鋼No.21および37では、モールドフラックスBを使用した。
鋼No.21は、熱間圧延圧下率が40%未満であった。鋼No.16は、1次冷却の平均冷却速度が5℃以上であり、鋼No.30は、1℃未満であった。鋼No.19は、1次復熱温度幅が50℃よりも高かった。また、いずれの鋼No.のスラブとも、1次冷却は、表面温度が「Ar3点−10℃」を超える温度で開始し、表面温度が「Ar3点−50℃」以下の温度で終了した。
鋼No.16、18、22、25および37は2次冷却の平均冷却速度が5℃/s未満であった。鋼No.28は2次冷却の平均冷却速度が25℃/sよりも速かった。鋼No.20、21および31では、2次冷却の終了温度が400℃よりも高く、このうち鋼No.20および31では、2次復熱温度幅が70℃よりも高かった。
溶接金属の化学組成を表5に示し、溶接材料(溶接ワイヤー)の化学組成を表6に示す。さらに、溶接継手の母材組織、(110)面でのX線回折強度の半価幅、および上記(2)式で算出される表層領域の清浄度を表7に示す。
Figure 2016079490
Figure 2016079490
Figure 2016079490
鋼No.1〜10は本発明の規定を満足する本発明例である。鋼No.11〜22、31および37は母材の化学組成は本発明の規定を満足した。しかし、鋼No.11〜18は、溶接金属の化学組成([Mn_WM]/[C_WM]の値を含む。以下同様。)が本発明の規定を満足しなかった比較例である。鋼No.19、21は、母材組織が本発明の規定を満足しなかった比較例である。鋼No.20は、X線回折強度の半価幅が本発明の規定を満足しなかった比較例である。鋼No.22および37は、母材組織および溶接金属の化学組成が本発明の規定を満足しなかった比較例である。鋼No.31は、X線回折強度の半価幅および溶接金属の化学組成が本発明の規定を満足しなかった比較例である。
鋼No.23〜30および32〜36は母材の化学組成が本発明の規定を満足しなかった比較例である。このうち、鋼No.23、24、26、27、29および30は、溶接金属の化学組成も本発明の規定を満足しなかった。鋼No.25および28は、母材組織および溶接金属の化学組成も本発明の規定を満足しなかった。
鋼No.7〜10、15〜18、20、22、23、26、27、30および31〜37は、溶接材料の化学組成が好ましい範囲外であった。鋼No.21および37は、上記(2)式で算出される表層領域の清浄度がいずれも0.12と好ましい範囲外であった。
各溶接継手から、図3に示す形状、寸法の試験片を、試験片の長手方向が圧延方向と一致するように採取した。この試験片に対して電気油圧式閉ループ型疲労試験機を用いて疲労試験を実施した。試験条件は、繰返し応力波形の最大応力を350MPa、最小応力を250MPaとした。
最大応力を350MPaに設定した理由は以下のとおりである。溶接線方向の寸法が30mmである比較的小型の試験片を用いる場合、溶接継手から試験片を採取する加工プロセス中に溶接継手内に存在していた引張溶接残留応力の大部分が開放される。引張溶接残留応力は、溶接継手の疲労特性が母材の疲労特性に比べて著しく低くなる主要な要因のひとつであり、引張溶接残留応力が開放された状態で溶接継手の疲労特性を評価すると、溶接鋼構造物の溶接部よりも高強度側の評価となる。この場合、評価そのものが危険側に偏った評価となるため、これを回避する必要がある。そこで、開放された引張溶接残留応力を繰返し応力波形で補填するため、繰返し応力波形の最大応力を350MPaに設定した。
疲労試験は荷重制御下で行い、設定した繰返し応力が常に試験片に載荷されるよう、閉ループで精密制御されていた。疲労試験中は、荷重だけでなく疲労試験機アクチュエーターのピストン位置も同時に連続計測した。試験開始時の最大荷重時におけるピストン位置を基準として、その基準値から最大荷重時の変位が1mm増加した時点(繰返し応力の付与回数)を破断寿命と定義した。
通常の場合、この破断寿命の定義の時点において、疲労き裂は断面の70〜80%を進展している状態である。つまり、この時点では試験片が完全破断する直前の状態であり、この定義による疲労寿命は、完全破断で定義される疲労寿命と同等である。
2.試験結果
試験結果として、疲労寿命を表7に示した。疲労破壊は、いずれの鋼No.の試験片においても、前記図1に示すように、溶接未溶着ルート先端を破壊起点としていた。疲労寿命としては、上記の繰返し応力条件下では、5×10回以上が疲労特性に優れているといえる。
本発明例である鋼No.1〜10は、いずれも疲労寿命が5×10回以上であり、疲労特性に優れていた。一方、比較例である鋼No.11〜37は、いずれも疲労寿命が5×10回未満であり、疲労特性に劣っていた。
一般に、溶接鋼構造物に負荷される応力範囲(最大応力と最小応力の差)のレベルとしては、100MPa前後の頻度が高い。そのため、この応力範囲は重要である。本発明例による溶接継手の寿命延伸効果は、この応力範囲において確認された。
このような寿命延伸効果は、従来の形状と同じ形状のままで溶接継手に適用すると、溶接鋼構造物の疲労寿命の延伸効果として享受される。また、許容応力の上昇を利用して、鋼材断面積を削減しながら寿命は従来のままとすれば、溶接鋼構造物の軽量化という効果が享受される。さらに、両者を組み合わせることにより、溶接鋼構造物の疲労寿命を延伸しつつ、軽量化を達成することも可能である。
本発明によれば、溶接未溶着ルート先端を疲労破壊の起点とする疲労強度に優れた溶接継手が得られる。本発明の溶接継手を用いることにより、従来の溶接継手を用いた場合と比較して、同一設計条件下では、溶接鋼構造物の疲労寿命が延伸される。また、溶接継手の寿命を適切に設定することにより、従来の溶接継手と比較してより軽量な溶接鋼構造物を実現することができ、製造コストの削減や省エネルギーが可能となる。また、本発明の溶接材料を用いることにより、本発明の溶接継手を得ることができる。
1.母材
2.裏当て金
3.フュージョンライン
4.溶接金属
5.HAZ(溶接熱影響部)
6.未溶着ルート先端

Claims (5)

  1. 母材を溶接した溶接継手であって、
    前記母材の化学組成が、質量%で、
    C:0.01〜0.10%、
    Si:0.04〜0.60%、
    Mn:0.50〜1.50%、
    sol.Al:0.003〜0.060%、
    Ti:0.001〜0.100%、
    N:0.0020〜0.0120%、
    P:0.025%以下、
    S:0.020%以下、
    O:0.0005〜0.0030%、
    Cr:0〜2.0%、
    Ni:0〜1.5%、
    Cu:0〜1.5%、
    Nb:0〜0.1%、
    V:0〜0.1%
    B:0〜0.0050%
    残部:鉄および不純物であり、
    前記母材の金属組織が、主としてフェライトおよびベイナイトの混合組織で構成され、パーライトの面積率が10%以下であり、
    前記母材の(110)面からのX線回折強度の半価幅が0.13度以上であり、
    溶接金属の化学組成が、質量%で、
    C:0.01〜0.10%、
    Si:0.04〜0.60%、
    Mn:0.50〜1.50%、
    sol.Al:0.001〜0.050%、
    Ti:0.005〜0.100%、
    N:0.010%以下、
    P:0.020%以下、
    S:0.010%以下、
    O:0.0005〜0.0030%、
    Cr:0〜1.2%、
    Ni:0〜1.2%、
    Cu:0〜1.2%、
    Nb:0〜0.1%、
    V:0〜0.1%、
    B:0〜0.0050%、
    残部:鉄および不純物
    を含有し、下記(1)式を満足する溶接継手。
    [Mn_WM]/[C_WM]≧15 ・・・(1)
    ただし、Mn_WM:溶接金属のMn含有量(質量%)、C_WM:溶接金属のC含有量(質量%)である。
  2. 前記母材の化学組成が、質量%で、
    Cr:0.1〜2.0%、
    Ni:0.1〜1.5%、
    Cu:0.1〜1.5%
    からなる群から選択された1種以上の元素を含有する請求項1に記載の溶接継手。
  3. 前記母材の化学組成が、質量%で、
    Nb:0.01〜0.1%、
    V:0.005〜0.1%
    からなる群から選択された1種以上の元素を含有する請求項1または2に記載の溶接継手。
  4. 前記母材の化学組成が、質量%で、
    B:0.0003〜0.0050%
    を含有する請求項1から3までのいずれかに記載の溶接継手。
  5. 請求項1から4までのいずれかに記載の溶接継手の製造に用いる溶接材料であって、
    化学組成が、質量%で、
    C:0.01〜0.12%、
    Si:0.10〜1.00%、
    Mn:0.50〜1.50%、
    Ti:0.005〜0.100%、
    P:0.020%以下、
    S:0.010%以下、
    sol.Al:0.08%以下、
    Cr:0〜1.5%、
    Ni:0〜1.5%、
    Cu:0〜1.5%、
    B:0〜0.0060%、
    残部:鉄および不純物
    を含有する溶接材料。
JP2014214608A 2014-10-21 2014-10-21 溶接継手およびその製造方法 Active JP6354518B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014214608A JP6354518B2 (ja) 2014-10-21 2014-10-21 溶接継手およびその製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014214608A JP6354518B2 (ja) 2014-10-21 2014-10-21 溶接継手およびその製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2016079490A true JP2016079490A (ja) 2016-05-16
JP6354518B2 JP6354518B2 (ja) 2018-07-11

Family

ID=55957807

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2014214608A Active JP6354518B2 (ja) 2014-10-21 2014-10-21 溶接継手およびその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6354518B2 (ja)

Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
GB2548175A (en) * 2016-03-09 2017-09-13 Goodwin Plc A steel, a welding consumable and a cast steel product
CN113787278A (zh) * 2021-09-01 2021-12-14 南昌航空大学 一种氮钛复合强化高强钢的混合气体保护焊接工艺

Citations (7)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS5075945A (ja) * 1973-11-12 1975-06-21
JP2002045963A (ja) * 2000-08-07 2002-02-12 Kawasaki Steel Corp 薄鋼板のガスシールドアーク溶接方法
JP2002180181A (ja) * 2000-12-15 2002-06-26 Kawasaki Steel Corp 極低炭素系高張力鋼溶接継手の製造方法および溶接鋼構造物
JP2006169602A (ja) * 2004-12-17 2006-06-29 Sumitomo Metal Ind Ltd 疲労特性に優れた溶接継手
JP2008156754A (ja) * 2006-11-30 2008-07-10 Nippon Steel Corp 低温靱性に優れた高強度ラインパイプ用溶接鋼管及びその製造方法
JP2010024467A (ja) * 2008-07-15 2010-02-04 Sumitomo Metal Ind Ltd 疲労特性に優れた溶接継手
JP2013155422A (ja) * 2012-01-31 2013-08-15 Nippon Steel & Sumitomo Metal Corp 溶接継手

Patent Citations (7)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS5075945A (ja) * 1973-11-12 1975-06-21
JP2002045963A (ja) * 2000-08-07 2002-02-12 Kawasaki Steel Corp 薄鋼板のガスシールドアーク溶接方法
JP2002180181A (ja) * 2000-12-15 2002-06-26 Kawasaki Steel Corp 極低炭素系高張力鋼溶接継手の製造方法および溶接鋼構造物
JP2006169602A (ja) * 2004-12-17 2006-06-29 Sumitomo Metal Ind Ltd 疲労特性に優れた溶接継手
JP2008156754A (ja) * 2006-11-30 2008-07-10 Nippon Steel Corp 低温靱性に優れた高強度ラインパイプ用溶接鋼管及びその製造方法
JP2010024467A (ja) * 2008-07-15 2010-02-04 Sumitomo Metal Ind Ltd 疲労特性に優れた溶接継手
JP2013155422A (ja) * 2012-01-31 2013-08-15 Nippon Steel & Sumitomo Metal Corp 溶接継手

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
GB2548175A (en) * 2016-03-09 2017-09-13 Goodwin Plc A steel, a welding consumable and a cast steel product
GB2548175B (en) * 2016-03-09 2018-10-03 Goodwin Plc A steel, a welding consumable and a cast steel product
CN113787278A (zh) * 2021-09-01 2021-12-14 南昌航空大学 一种氮钛复合强化高强钢的混合气体保护焊接工艺

Also Published As

Publication number Publication date
JP6354518B2 (ja) 2018-07-11

Similar Documents

Publication Publication Date Title
EP3042976B1 (en) Steel sheet for thick-walled high-strength line pipe having exceptional corrosion resistance, crush resistance properties, and low-temperature ductility, and line pipe
JP5556948B1 (ja) 低温用鋼板およびその製造方法
JP5598485B2 (ja) 長大脆性き裂伝播停止特性に優れる板厚50mm以上の厚鋼板およびその製造方法
WO2013150687A1 (ja) アレスト性に優れた高強度厚鋼板
JP4897126B2 (ja) 厚鋼板の製造方法
JP2010168657A (ja) 溶接熱影響部および母材部の耐延性き裂発生特性に優れた鋼材およびその製造方法。
JP2019502018A (ja) 脆性亀裂伝播抵抗性及び溶接部の脆性亀裂開始抵抗性に優れた高強度鋼材及びその製造方法
JP2019501281A (ja) 脆性亀裂伝播抵抗性及び溶接部の脆性亀裂開始抵抗性に優れた高強度鋼材及びその製造方法
JP2011174154A (ja) レーザ溶接用またはレーザ・アークハイブリッド溶接用の引張強さが1100MPa以上の高張力鋼板の製造方法
JPWO2014175122A1 (ja) H形鋼及びその製造方法
WO2013161026A1 (ja) パーライトレール、パーライトレールのフラッシュバット溶接方法、およびパーライトレールの製造方法
JP4984933B2 (ja) テーラードブランク用熱延鋼板およびテーラードブランク
JP4538095B2 (ja) 母材および溶接熱影響部の低温靭性に優れかつ強度異方性の小さい鋼板およびその製造方法
JP7024798B2 (ja) 鋼板、テーラードブランク、熱間プレス成形品、鋼管、中空状焼入れ成形品、鋼板の製造方法、テーラードブランクの製造方法、熱間プレス成形品の製造方法、鋼管の製造方法、および中空状焼入れ成形品の製造方法
JP6354518B2 (ja) 溶接継手およびその製造方法
JP4325503B2 (ja) 疲労特性に優れた鋼材およびその製造方法
JP6582590B2 (ja) Lpg貯蔵タンク用鋼板およびその製造方法
JPS626730B2 (ja)
JP4857855B2 (ja) 継手疲労強度に優れた溶接用耐疲労亀裂鋼板
JP2004162085A (ja) 疲労き裂伝播抵抗に優れた鋼板およびその製造方法
JP5667502B2 (ja) 摩擦圧接用機械構造用鋼および摩擦圧接部品
JP5655383B2 (ja) 溶接構造物用鋼板
JP2019081929A (ja) ニッケル含有鋼板およびその製造方法
JP5070866B2 (ja) 熱延鋼板およびスポット溶接部材
JP5044928B2 (ja) 継手疲労強度に優れた溶接用耐疲労亀裂鋼板

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20170605

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20180313

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20180320

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20180509

RD02 Notification of acceptance of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7422

Effective date: 20180509

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20180515

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20180528

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 6354518

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151

S533 Written request for registration of change of name

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313533

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350