しかし、前述のようにミッションケースの前面側を前壁によって塞ぐと、走行伝動装置やPTO伝動装置をミッションケースに組み込む場合、ミッションケースの前面側からこれらの伝動装置を組み込むことができない。そこで、例えば、3分割したミッションケースの内、先ず、後部側のデフケースに後輪差動装置や歯車式変速装置によって構成する副変速装置を組み込む。次いで、デフケースの前端面にスペーサケースを取付ける。更に、スペーサケースの前面側に走行伝動装置の一部の歯車を組み込む。
また、前壁を備える前部側のセンターケースに、走行伝動装置の残りの歯車を中間壁等を避けながら後面側から組み込む。そして、最後に歯車を組み込んだセンターケースの後端面をスペーサケースの前端面に取り付けて、ミッションケースの組み立てを完了する。しかし、この場合、組み込んだ歯車によって重量が一段と増したセンターケースを作業者が持ち上げ、スペーサケースの前端面から突出するシャフトに歯車が差し込まれるように位置合わせしながら、慎重にセンターケースを取り付けなければならず、きつい肉体労働が要求されて、ミッションケース(トランスミッション)の組み立て性に問題がある。
なお、トラクタにおいては、作業機の慣性回転による走行伝動装置の逆駆動を遮断するため通常、PTO伝動装置にワンウェイクラッチを介在させている。しかし、PTO伝動装置に油圧多板クラッチを介在させ、走行と独立してPTO軸を自由に入切できる、インディペンデントPTO仕様のトラクタも要望される。そして、インディペンデントPTO仕様のトラクタを製造する場合、通常のミッションケースを兼用すると安価に製造することができる。また、その際、ワンウェイクラッチを配設するセンターケースに、ワンウェイクラッチに替えて油圧多板クラッチを配設すれば、走行伝動装置、PTO伝動装置、及びミッションケースの構成を大きく変更する必要がない。
然るに、油圧多板クラッチの外径は一般的にワンウェイクラッチの外径より大きくなり、また、センターケースの中間壁に油圧継手を形成し、油圧多板クラッチに油圧継手から作動油を供給しなければならない。そのため、ワンウェイクラッチの配設位置に油圧多板クラッチを配置しようとすると、前壁と中間壁に遮られてセンターケースの後面側から油圧多板クラッチを組み込むことができないという問題がある。
また、走行伝動装置の主変速装置として静油圧式無段変速装置を採用するものでは、ミッションケースの前部側に静油圧式無段変速装置を付設する。具体的には静油圧式無段変速装置をセンターケースの前壁の前面に取り付ける。そして、その際、静油圧式無段変速装置は、その出力軸や入力軸から後方に延出させたPTO軸を、センターケースに組み付けたスプラインボスに差し込むと同時に、静油圧式無段変速装置のドレンパイプをセンターケースの前壁に穿設したドレン孔に差し込む必要がある。
しかし、相当な重量のある静油圧式無段変速装置を手で持って、センターケースの前壁に出力軸やPTO軸、並びにドレンパイプを位置合わせしながら取り付けることは、スペーサケースにセンターケースを取り付ける場合と同様にきつい肉体労働が要求され、静油圧式無段変速装置の組み付け性にも問題がある。さらに、静油圧式無段変速装置の油圧ポンプと油圧モータとを流体接続する閉回路にチャージするオイルは、センターケースの上面から前壁の前面に亘って穿設した油路と、この油路に接続する静油圧式無段変速装置のポートブロックを介して供給している。
然しながら、このようにセンターケースの上面にチャージオイルの供給口を設けると、センターケースの上面にチャージポンプからの配管を通してプラグを設けることになり、一方、センターケースを含めたミッションケースの上方には、近接してオペレータが搭乗するフロア、座席を支持するシートフレーム、或いは油圧ハウジング等を設ける必要があり、出来るならセンターケースの上面にチャージ配管を通すことなく、他の必要な部材、例えば、後輪をデフロックするリンクケージや、インディペンデントPTOの油圧配管を通す等、各部材を限られた空間に合理的に配置したいことがある。
そこで、本発明は、上記のような問題点に鑑み、ミッションケースに歯車式伝動装置等を組み込む組立工程、或いはトランスミッションの整備作業において、作業者のきつい肉体労働を緩和することができ、組立性、或いは整備性を改善することができる作業車輌を提供することを課題とする。また、本発明は、多様化するニーズに対応可能でありながら、コストダウンを図ることができる作業車輌を提供することを課題とする。
本発明は、上記課題を解決するため第1に、静油圧式無段変速装置によって構成する主変速装置と、歯車式変速装置によって構成する副変速装置と、前車軸や動力取出軸を駆動する伝動装置を備え、該副変速装置や伝動装置を内装するミッションケースの前部側に主変速装置を付設する作業車輌において、前記ミッションケースの前端側を開放し、この開放部から前車軸や動力取出軸を駆動する伝動装置を組み込み可能に構成すると共に、該開放部を前方側から覆うベアリングケースを設け、このベアリングケースの前面に静油圧式無段変速装置を取り付けることを特徴とする。
また、本発明は、第2に、前記静油圧式無段変速装置のポートブロックに静油圧式無段変速装置の余剰油を排出するドレンポートを設けると共に、前記ベアリングケースに、上記ドレンポートに連通して静油圧式無段変速装置の余剰油をミッションケース内にオーバーフローさせるドレン孔を設けることを特徴とする。
さらに、本発明は、第3に、前記ミッションケースの側壁に、その側面から前面側に向かう第一の油路を設けると共に、前記ベアリングケースに、上記第一の油路と静油圧式無段変速装置のポートブロックに設けたチャージポートに連通する第二の油路を設け、これらの油路を介して静油圧式無段変速装置にチャージオイルを供給することを特徴とする。
そして、本発明は、第4に、前記ベアリングケースとミッションケースの中間壁に軸受部と油圧接手部を設け、該軸受部と油圧接手部との間に、動力取出軸を駆動する伝動装置に介在するワンウェイクラッチと油圧多板クラッチの何れかを配設可能に構成することを特徴とする。
本発明の作業車輌によれば、ミッションケースの前端側を開放し、この開放部から前車軸や動力取出軸を駆動する伝動装置を組み込み可能に構成すると共に、該開放部を前方側から覆うベアリングケースを設け、このベアリングケースの前面に静油圧式無段変速装置を取り付けるから、ミッションケースの前端側の開放部から前車軸や動力取出軸を駆動する伝動装置を組み込んだ後、ミッションケースにベアリングケースを取り付けて開放部を塞ぐことができる。そのため、ミッションケースに歯車式伝動装置等を組み込む組立工程、或いはトランスミッションの整備作業において、作業者のきつい肉体労働を緩和することができ、組立性、或いは整備性を改善することができる。
また、静油圧式無段変速装置のポートブロックに静油圧式無段変速装置の余剰油を排出するドレンポートを設けると共に、前記ベアリングケースに、上記ドレンポートに連通して静油圧式無段変速装置の余剰油をミッションケース内にオーバーフローさせるドレン孔を設けると、ベアリングケースの前面に静油圧式無段変速装置を取付けた際に、ポートブロックのドレンポートとベアリングケースのドレン孔が連通し、静油圧式無段変速装置の余剰油をミッションケース内にオーバーフローさせることができる。
そのため、静油圧式無段変速装置からドレンパイプを出すもののように、静油圧式無段変速装置を取付ける際に、ミッションケース側のドレン孔にドレンパイプを同時に差し込まなければならないという煩わしさから解放されて、組立性を改善することができる。また、静油圧式無段変速装置にドレンパイプを装着する工程を廃止することができる他、ドレンパイプ自体を無くすことによるコストダウン、並びにドレンパイプの破損による油漏れの心配を無くす、といった諸効果を期待することができる。
さらに、ミッションケースの側壁に、その側面から前面側に向かう第一の油路を設けると共に、前記ベアリングケースに、上記第一の油路と静油圧式無段変速装置のポートブロックに設けたチャージポートに連通する第二の油路を設け、これらの油路を介して静油圧式無段変速装置にチャージオイルを供給すると、ミッションケースの側面にチャージポンプからの配管を通すことができ、ミッションケースの上方に設けるフロア等の間に他の必要な部材、例えば、後輪をデフロックするリンクケージや、インディペンデントPTOの油圧配管を無理なく合理的に通すことができる。
そして、ベアリングケースとミッションケースの中間壁に軸受部と油圧接手部を設け、該軸受部と油圧接手部との間に、動力取出軸を駆動する伝動装置に介在するワンウェイクラッチと油圧多板クラッチの何れかを配設可能に構成すると、通常のワンウェイクラッチを備えるトラクタと、油圧多板クラッチを備えるインディペンデントPTO仕様のトラクタを、共通するミッションケースを利用して安価に製造することができる。また、ワンウェイクラッチと油圧多板クラッチのミッションケースにおける配設位置を同じ位置にすることができ、両仕様のトラクタを製造するために、走行伝動装置、PTO伝動装置、及びミッションケースの構成を大きく変更する必要がない。
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2に示すように農業用のトラクタ1は、前方からエンジン2、クラッチハウジング3、HSTケース4、ミッションケース5等を一体的に連結して車体を構成している。また、車体の前部側には、エンジン2、バッテリ、及びラジエータ等を覆うボンネット6を設け、ボンネット6は後部に設けたヒンジを介して前部側を開閉自在に構成している。なお、ボンネット6の前部にはアッパグリル7、ヘッドライト8、及びロアグリル9を設けている。
さらに、エンジン2に固定して前方に延びるフロントアクスルブラケット10には、フロントアクスルケースを左右揺動自在に軸支している。このフロントアクスルケースの左右端には、ファイナルケースを介して前車軸を軸支し、前車軸に取り付けた左右の前輪11を操縦部に設けたステアリングホィール12によって操舵する。一方、車体の後部側にはミッションケース5の左右に連結したリアアクスルケース13に設け、また、リアアクスルケース13に後車軸を軸支し、この後車軸に左右の後輪14を取り付けている。
また、車体の後部には、トップリンク15、及び左右のロワリンク16からなる周知の三点リンク機構やドローバ17を設けている。この内、三点リンク機構はモーアやロータリ耕耘装置等の作業機を連結するものであり、作業機はミッションケース5の上部に取り付けた油圧ハウジング18の左右のリフトアーム19と、左右のリフトアーム19の先端と左右のロワリンク16の中途にそれぞれ一端を連結したリフトロッドを介して昇降される。また、ミッションケース5の後部に軸支したPTO軸(動力取出軸)からエンジン動力が伝達される。なお、このPTO軸の先端部は、図4及び図5に示すようにキャップ20で覆っている。
さらに、エンジン2より後方の車体には、フロア21を図示しない防振ゴムを介して取り付けている。このフロア21の前部寄りのステアリングコラムには、前記ステアリングホイール12をその基部側をステアリングブーツ22により覆って設け、また、計器盤等を備えるメーターパネル23とその下方側を覆うリヤパネルカバー24を設けている。さらに、フロア21の後部寄りには運転席25を設け、運転席25の側方には左右のフェンダ26を設けている。そして、運転席25の後部寄りには逆U字状のロールバー27で構成する安全フレームを設けている。なお、28はフロア21から垂下した乗降時の踏み台となるサブステップ、29はフェンダ26に取り付けたアシストグリップである。
次に、トラクタ1の主たる操縦操作具について説明すると、前記メーターパネル23には、図示しないエンジンコントロールレバーやスタータスイッチを設け、前記ステアリングホイール12下方のフロア21上には、クラッチハウジング3に内装する乾式単板クラッチから構成する主クラッチを操作するクラッチペダル30と、左右の後輪14を制動する左ブレーキペダル31と右ブレーキペダル32を設けている。
また、右側のフロア21上には、後述するエンジン2の駆動力を車輪に変速して伝達する静油圧式無段変速装置(HST)33の変速ペダル34とフートアクセルペダルを設け、左側のフロア21上には、左右後輪14の差動を停止させるデフロックペダル35を設けている。さらに、左側のフェンダ26にはレバーガイドを装着して副変速レバー36を設け、右側のフェンダ26にはサイドパネルを装着して、その前部寄りにポジションコントロールレバー37を設けている。そして、運転席25の下方には、前輪11を駆動する4輪駆動状態と、前輪11を駆動せず後輪14のみを駆動する2輪駆動状態に切り換える4WDレバーを設けている。
さらに、トラクタ1の伝動装置について説明すると、図3に示すようにエンジン2からクラッチハウジング3内に設けた図示しない主クラッチを介して伝達された動力は、クラッチハウジング3の後方に連結したHSTケース4に内装する静油圧式無段変速装置33に伝達され、静油圧式無段変速装置33の入力軸(ポンプ軸)38が駆動される。該静油圧式無段変速装置33は、可変容量型の油圧ポンプと定容量型の油圧モータとをHSTハウジング39内に上下に併設する一体型のHSTとされ、後部に設けたポートブロック40の流路(閉回路)によって油圧ポンプと油圧モータとが繋がれている。
そして、前記静油圧式無段変速装置33は、その油圧ポンプの斜板角度を変速ペダル34で回動されるトラニオン軸41の操作によって制御され、それにより出力軸(モータ軸)42の回転が正逆に、また、回転数が変更される。なお、前記ポートブロック40には、エンジン2によって駆動されるチャージポンプから吐出する圧油を受け入れ、静油圧式無段変速装置33の閉回路に補給するチャージポート43と、HSTハウジング39内の余剰油を排出する図示しないドレンポートを後面側に設けている。
また、前記静油圧式無段変速装置33を経た動力は、後車軸、或いは前車軸を駆動する走行伝動装置と、PTO軸を駆動するPTO伝動装置に伝達される。即ち、HSTケース4の後方に連結するミッションケース5に走行伝動装置とPTO伝動装置が内装され、該ミッションケース5は、前方側から順にベアリングケース44、センターケース45、スペーサケース46、及びデフケース47を一体的に連結して構成する。
そして、前記ミッションケース5に内装する走行伝動装置は、主変速装置を構成する静油圧式無段変速装置33の回転を高速・中速・低速に切り換える選択摺動式の歯車変速装置(副変速装置)48、後輪14の差動装置49、2駆・4駆切換装置50、及び前輪動力取出装置51から構成する。また、前記PTO伝動装置は、静油圧式無段変速装置33の入力軸(HSTのPTO軸)38から駆動されるワンウェイクラッチ52と図示しないPTO軸の入切装置を備える。
次に、前記走行伝動装置の詳細を伝動上手側から説明すると、センターケース45内において静油圧式無段変速装置33の出力軸42には、スプラインボス53を介して第1歯車54を設ける。この第1歯車54は前輪動力取出軸55に回動自在に支承した第2歯車56と噛み合い、第2歯車56と一体に形成した第3歯車57は第4歯車58と噛み合って中継軸59を駆動する。また、中継軸59の連結穴にスプライン結合した駆動軸60は、デフケース47内において副変速装置48を構成する低速・中速・高速駆動歯車61、62、63を駆動する。
一方、後輪14の差動装置49を駆動する傘歯車64を後端に一体形成した変速軸65には、低速駆動歯車61に常時噛み合う従動歯車66を回転自在に支承すると共に、小径歯車67と大径歯車68を一体化するシフト歯車69を摺動自在にスプライン結合する。
そのため、副変速レバー36によって操作される図示しないシフターによって、シフト歯車69を変速軸65上を摺動させて、その大径歯車68を従動歯車66に一体形成された内歯歯車70に噛み合わせると、副変速装置48は低速となる。また、大径歯車68を中速駆動歯車62に噛み合わせると副変速装置48は中速となる。さらに、小径歯車67を高速駆動歯車63に噛み合わせると副変速装置48は高速となる。そして、シフト歯車69が何れの歯車にも噛み合わない図示の状態で副変速装置48は中立となる。
従って、前記副変速装置48が中立以外に変速されると、前記傘歯車64によって後輪14の差動装置49を介してリアアクスルケース13に軸支した後車軸が駆動され、後輪14は駆動される。一方、前輪11は、2駆・4駆切換装置50を介して前輪動力取出軸55に伝達された動力が、プロペラシャフトとフロントアクスルケースに内装する前輪の差動装置を介してファイナルケースの前車軸に伝達されて駆動される。
即ち、前記変速軸65の前端をスペーサケース46より前方に延設し、この延設した変速軸65に前輪駆動歯車71をスプライン結合する。また、この前輪駆動歯車71と噛み合う大径歯車72と小径歯車73を一体に形成したアイドル歯車74を、前記中継軸59に回転自在に支承する。さらに、前輪動力取出軸55に摺動自在にスプライン結合するシフト歯車75を設ける。そして、これらによって2駆・4駆切換装置50、及び前輪動力取出装置51が構成され、ここで、前記シフト歯車75が4WDレバーによって操作されるシフターによって小径歯車73に噛み合う位置にシフトされると、前輪11は駆動されて4輪駆動状態となる。また、図示のように非噛み合いとなると、前輪11を非駆動として後輪14のみを駆動する2輪駆動状態となる。
以上、走行伝動装置の詳細を説明したが、次にPTO伝動装置について説明すると、前記静油圧式無段変速装置33の入力軸38は、センターケース45内まで後方に延長されて、HSTのPTO軸となっている。また、スペーサケース46に中途部を支承されるPTO伝動軸76は、上記入力軸(HSTのPTO軸)38と同軸芯上に配設し、両軸間にはワンウェイクラッチ52を設けている。なお、PTO伝動軸76から作業機を駆動するPTO軸までの間にはPTO断続装置を設け、PTO軸を駆動状態と非駆動状態に切り換えることができるようにするが、詳細な構造並びに説明は省略する。
次に、ミッションケース5に走行伝動装置及びPTO伝動装置を組み込む手順(トランスミッションの組立工程)について説明する。即ち、ミッションケース5への伝動装置の組み込みは、基本的に後方側から前方側に向けて順次行っていくものであり、先ず、前面側が開放されると共に上方側に開口部を備えるデフケース47に、この開放部並びに開口部を利用して後輪14の差動装置49と副変速装置48を組み込む。次に、デフケース47の前端部に設けたスタッドボルト77にガイドさせて、スペーサケース46をデフケース47の前端面に接合する。
次に、スペーサケース46の軸受部46aからPTO伝動軸76を差し込み、PTO伝動軸76にベアリングB1を嵌め、C型スナップリングC1で止める。また、スペーサケース46から突出する変速軸65にベアリングB2を嵌めて軸受部46bに装着し、変速軸65に前輪駆動歯車71を装着して、ナットNで止める。さらに、スペーサケース46の軸受部46cにベアリングB3を装着して、スペーサケース46から突出する駆動軸60に中継軸59を差し込み、中継軸59にアイドル歯車74と第4歯車58とベアリングB4を装着する。そして、予めベアリングB5、第2歯車56、第3歯車57、シフト歯車75、及びベアリングB6を装着した前輪動力取出軸55を、スペーサケース46の軸受部46dに差し込んで、C型スナップリングC2で止める。
上記作業が完了したら、スタッドボルト77にガイドさせて、センターケース45をスペーサケース46前端面に接合し、スタッドボルト77にナットNを装着して、デフケース47とスペーサケース46とセンターケース45を共締めする。次に、センターケース45内のPTO伝動軸76にワンウェイクラッチ52を装着し、予めスプラインボス53と第1歯車54を組み込んだベアリングケース44を、センターケース45の前端面に接合し、センターケース45とベアリングケース44を、その上部でボルトT1を用いて仮止めする(図6参照)。なお、ベアリングケース44をセンターケース45に接合する際には、予め液体パッキンを両フランジ部に塗布しておく。
さらに、静油圧式無段変速装置33のPTO軸38と出力軸41を通すベアリングケース44の穴周辺とチャージポート及びドレンポートに対する孔周辺にオーリングOを装着し、ベアリングケース44に静油圧式無段変速装置33をボルトT2によって取り付ける。また、ベアリングケース44から突出する前輪動力取出軸55にオイルシールSを嵌めて、ベアリングケース44の取付部44aに装着する。さらに、前輪動力取出軸55の先端にジョイント78を装着する。そして、予めユニバーサルジョイント79を装着したHSTケース4をベアリングケース44の前端面に接合し、センターケース45とベアリングケース44とHSTケース4をボルトT3で共締めして、一連の作業を完了する。
以上、トランスミッションの組立工程について説明したが、係る組立工程において、ミッションケース5の前部側に設けるセンターケース45は、中空状に形成されて前端側が開放されている。そのため、この開放部から前車軸や動力取出軸(PTO軸)を駆動する伝動装置、即ち、前輪動力取出軸55やワンウェイクラッチ52、或いは後述する油圧多板クラッチを簡単に組込むことができる。また、この開放部はセンターケース45にベアリングケース44を取付けることによって塞ぐことができる。
従って、走行伝動装置やPTO伝動装置を内装するミッションケース5の後部側の上方側開口部(デフケース47の上方開口部)は、油圧ハウジング18の装着によって塞がれる。また、ミッションケース5の後端側は、デフケース47の後壁やPTO軸を支承する蓋で塞がれる。さらに、ミッションケース5の前端側は、前述の通りベアリングケース44で塞がれ、これによりミッションケース5は、内部が外部と遮断された密閉状に構成され、ミッションケース5の内部にオイルを貯留し、このオイルによって歯車やベアリング等を直接的に潤滑することができる。
なお、センターケース45とベアリングケース44のフランジに液体パッキンを塗布して、両者を接合し、また、ベアリングケース44に静油圧式無段変速装置33を取り付けると、センターケース45とベアリングケース44とHSTケース4を共締めする前に、ベアリングケース44が前方側に倒れ易い。そこで、前述のようにセンターケース45とベアリングケース44を、その上部でボルトT1を用いて仮止めすることにより、ベアリングケース44の倒れを防止して、液体パッキンの密閉性を確保することができる。
また、ベアリングケース44は、図3及び図8乃至図13に示すように、静油圧式無段変速装置33のPTO軸38を通す穴(油圧多板クラッチを支承する軸受部44b)と、静油圧式無段変速装置33の出力軸42を通すと共にスプラインボス53を支承する前後の軸受部44c、44dと、前輪動力取出軸55を支承する軸受部44e、並びにオイルシール取付部44aを備えると共に、ポートブロック40に設けるチャージポート43とドレンポートに対応して、これに接合してオイルを連通させるチャージ油路とドレン孔を設ける。
即ち、静油圧式無段変速装置33の油圧ポンプと油圧モータとを流体接続する閉回路にチャージオイルを供給する油路は、図11等に示すようにセンターケース45の側壁に設ける第一の油路80と、ベアリングケース44に設ける第二の油路81からなり、その内、第一の油路80は、センターケース45の側壁の外側面から内側面に向かい、そして、その端部からセンターケース45の前端側に向かうL字状に屈曲する油孔で構成する。また、第二の油路81は、ベアリングケース44の後壁面から膨出する突状部44fの後端面から前方に向かい、その前端部から上方に向かい、さらに、その上端部から左右方向の中央側に向かい、そして、その中央端部から前方に向かいベアリングケース44の前面に出口44gを形成するクランク状の油孔で構成する。
従って、ミッションケース5内のオイルをフィルタを介してチャージポンプで吸引し、また、チャージポンプから吐出する圧油を外部配管によってミッションケース5の側璧に入口を備える第一の油路80に導き、さらに、ベアリングケース44の第二の油路81を介してポートブロック40のチャージポート43に供給して、静油圧式無段変速装置33にチォージオイルを補給することができる。そして、これによりミッションケース5の側面にチャージポンプからの外部配管を通すことができるから、ミッションケース5の上方に設けるフロア21等の間に、後輪14をデフロックするリンクケージや、インディペンデントPTOの油圧配管を無理なく合理的に通すことができる。
また、一般的にミッションケース5の上面には給油口を設け、この給油口からミッションケース5内にミッションオイルを供給する。しかし、従来のようにチャージ油路を、ミッションケース5の上面に入口を備えてミッションケース5の上壁に油路を形成すると、ミッションケース5内の上部空間が狭められ、前記給油口の設置位置に制約が課せられる。そのため、給油口を蓋するオイルキャップに検油棒を取り付けてオイルレベルを検出しようとすると、検油棒が伝動装置に接当してしまいオイルレベルを検出できない。そこで、止む無くオイルキップとは別にオイルレベルゲージを設けていた。
然しながら、本実施例では前述の通り、ミッションケース5(センターケース45)の側面に入口を備え、側壁にチャージ油路80を設ける。そのため、ミッションケース5(センターケース45)内の上部空間が狭まることがなく、ミッションケース5(センターケース45)の上面に設ける給油口82の位置も制約を受けず、給油口82を蓋するオイルキャップ83に検油棒を取り付けて、オイルレベルを直接検出することができる。なお、センターケース45にベアリングケース44を接合すると、前記第一の油路80と第二の油路81は同時に連通状態となり、この場合にも両者間にオーリングOが介装しておくことで油漏れが防止される。
また、静油圧式無段変速装置33の余剰油をミッションケース5内に排出するドレン孔84は、ベアリングケース44の前面に入口44hを設けて後方に向かい、その後端部から後壁面の膨出する突状部44i内を通って上方に向かい、その上端に出口44jを形成する油孔で構成する。従って、静油圧式無段変速装置33の余剰油は、ポートブロック40のドレンポートからベアリングケース44のドレン孔84を通ってミッションケース5内に排出される。ここで、ドレン孔84の出口44j高さは、HSTハウジング39の上端の高さと略同じにしているので、HSTハウジング39内を満たした上で余剰となった油のみをミッションケース5内にオーバーフローさせることができる。
なお、図13はPTO伝動装置に介装するワンウェイクラッチ52に替えて、油圧多板クラッチ85を備えるインディペンデントPTO仕様のトラクタを示し、油圧多板クラッチ85は、静油圧式無段変速装置33の入力軸38からPTO伝動軸76への動力伝達を入切する。また、油圧多板クラッチ85には、油圧多板クラッチ85の切状態への切換えに伴ってPTO伝動軸76を制動するブレーキを備えている。そして、この油圧多板クラッチ85は、ミッションケース5内においてワンウェイクラッチ52の装着位置とほぼ同位置に装着し、ワンウェイクラッチ52を備えるトラクタと共通するミッションケース5を利用して安価に製造することができる。
より詳細に説明すると、油圧多板クラッチ85は、入力軸38にスプライン嵌合するクラッチハブ86と、PTO伝動軸76にスプライン嵌合するクラッチドラム87とを備える。このクラッチハブ86の外周面とクラッチドラム87の内周面には内外の摩擦板88、89を設けて摩擦伝動部を構成する。また、クラッチドラム87の内周部には、上記摩擦伝動部を押圧するピストン90と、ピストン90をクラッチ切り方向に戻す圧縮バネ91を装着し、ピストン90はクラッチドラム87のボス部に穿設した油路87aから流入した作動油の充満によって圧縮バネ91に抗してクラッチを入りにする。
一方、油圧多板クラッチ85に付設するブレーキは、クラッチドラム87の後端側の外周面に装着した数枚のプレッシャプレート92とブレーキディスク93と、ストッパ94とから構成する摩擦制動部を備え、前記油路87aから作動油が排出され、それに伴って圧縮バネ91によってクラッチが切りになるとピストン90は摩擦制動部を押圧する。そして、ブレーキディスク93の外周には張出部93aを設け、この張出部93aが、例えばミッションケース5の内壁の凹部に係合して回り止めされ、摩擦制動部が作動するとクラッチドラム87は制動をかけられて、PTO伝動軸76の回転が速やかに停止する。
なお、前記油圧多板クラッチ85は、そのクラッチハブ86のボス部をベアリングB7を介してベアリングケース44の軸受部44bに支承し、また、クラッチドラム87のボス部はセンターケース45の中間壁に設けた油圧接手部45aに嵌合して、油圧接手部45aに形成した油路45bからクラッチドラム87の油路87aに圧油を導く。さらに、上記油圧接手部45aの後部には、PTO伝動軸76をベアリングB8を介して支承する軸受部45cを設けている。
そして、ワンウェイクラッチ52を備えるトラクタにおいても、このベアリングケース44の軸受部44bと、センターケース45の中間壁に設けた油圧接手部45a及び軸受部45cは、残されているので、両仕様のトラクタにおいてミッションケース5を兼用することができる。なお、前記油圧多板クラッチ85は、ブレーキを備えるものに構成したが、ブレーキを備えないものでもよく、本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。