従来の光学的顕微鏡では、3次元の計測が困難であることに加え、回折限界以下の測定対象物を観測したり計測したりすることが出来なかった。これに代わるものとして、走査型電子顕微鏡やプローブ顕微鏡(STM,AFM,NFOS等)、共焦点顕微鏡、デジタルホログラム顕微鏡等の装置が開発され、多くの分野で使われている。
この走査型電子顕微鏡は、走査電子プローブとしてきわめて細いビームを用いているので、分解能が高く、焦点深度が光学顕微鏡に比べて著しく大きい。しかしながら、細胞のように導電性の低い測定対象物の観測には、測定対象物である試料に導電性のよい白金パラジウムや金をコートする必要性がある。このため、細胞自体の破損を伴うことが多く、当然のことながら生きたままの細胞を観測、計測することは、不可能であった。
また、プローブ顕微鏡は、測定対象物に対して近接して配置されたプローブをさらに接近させ、原子間力やトンネル電流、光近接場等を利用して、測定対象物との距離を計測するものである。しかしながら、プローブを高速に移動させることは困難であり、かつ、測定対象物との距離が非常に近いので取り扱いが難しく、さらに2次元的な情報を取得するまでに時間が膨大に必要であった。
一方、共焦点顕微鏡は、測定対象物にスポットを照射しそのスポットに対してピンホールを介して共焦点位置に配置した受光素子にて受光した光量が最大になるように対物レンズ、または測定対象物を動かすことにより、測定対象物の高さ情報や行路差情報を取得するものである。
ところが、共焦点顕微鏡では、基本的にスポット内に位相分布があるとビームが変形し誤情報となる。特に測定対象物が細胞等の屈折率変化など波面が位相的に変化するようなものに対しては、その値の信頼性は乏しいと言わざるを得ない。また、受光した光量が最大になるように対物レンズや測定対象物を動かす必要性があるので、リアルタイム性に欠けていた。
また、デジタルホログラム顕微鏡は、測定対象物に対して略平行なレーザー光を照射し、測定対象物で回折された光を対物レンズにて集光し、レファランスとなる平面波とCCD等のエリアセンサ上にて干渉させてホログラムを作成し、この干渉縞を計算にて解析することにより元の測定対象物からの波面を復元して、行路差情報を取得するものである。
具体的には、デジタルホログラム顕微鏡のような結像光学系では、対物レンズにて捉えた測定対象物の空間周波数の1次回折光の成分と0次回折光の成分とが干渉して像形成を行う。このため、レンズの開口に1次回折光が入射されないと、その空間周波数は再現されないことになる。他方、低い周波数から高い周波数に至るにつれてその1次回折光の回折角は次第に大きくなるので、レンズに入力される1次回折光の量が減っていくことになる。その結果として、1次回折光が入力されない周波数がカットオフになり、低い周波数から高い周波数に至る途中で、変調度が次第に落ちていくようになる。
以上が対物レンズのMTF特性である。したがって、結像系においては対物レンズに入力される1次回折光には自ずと限界があるので、再現される測定対象物の空間周波数に関連して分解能も自ずと限界があることになる。
したがって、デジタルホログラム顕微鏡のように、対物レンズを使って結像させるような光学系においては、測定対象物により回折されたレーザー光は、開口の大きさに制限のある対物レンズに入射した時点で、このレーザー光の有する空間周波数の一部が欠落した情報となっている。すなわち、空間周波数が高くなるほど、対物レンズに入力される空間周波数は徐々に低下する。このために、レファランスの波面と干渉させて作ったホログラムは、測定対象物の有する本来の情報を反映していない。この結果、計算にて再生した行路差情報は全くの誤情報となっていた。
以上の定性的な説明を定量化して、以下に詳細に説明する。
図10のように開口半径がaで焦点距離がfの対物レンズ31に平行光束が入射しているとする。なお、図10においては、照射光軸を光軸L0で表し、この光軸L0に対して角度Θだけ傾く傾斜光軸を光軸L1で表している。通常の結像を用いた顕微鏡では、図10のように光束が試料Sを透過する透過型となるが、光束が試料Sで折り返される反射型として考えてもよい。また、式を簡単にするために、1次元の開口として扱う。
また、簡単のために試料Sが高さhでピッチdの正弦波状の形状をしているものとする。すなわち、光学的な位相θが以下の式で表される。
θ=2π(h/λ)sin(2πx/d)・・・・・(1)式
試料Sから回折された光の振幅Eは、焦点距離fだけ離れた面において、(1)式のフーリエ変換とレンズの開口とのコンボリューションとして、与えられるので、以下のように表される。ただし、(1)式の位相のフーリエ変換であるベッセル関数は、±1次まで取るものとする。
ここで、(2)式のフーリエ変換が結像に寄与する。
したがって、強度Iは下記(3)式のようになる。
この式の意味するところは、d=λf/2a=0.5λ/NAより小さいピッチの情報は欠落するということである。これは、矩形開口のビーム径(sinc(ka)=0の最初の暗環半径wは、ka=πを満たすので、w=0.5λ/NAとなる)と一致する。また、d>0.5λ/NAでもdが小さいほど変調度が低下することを意味している。これを1/dの空間周波数と変調度との関係を示せば、MTFとなっている。ただし、位相情報を単に結像しただけでは、コントラストを有した像形成はされることはなく、位相差顕微鏡のように0次回折光に位相遅れを生じさせる光学素子等を用いてコントラストを生じさせるような手段が必要である。
以上に示したように、通常の結像光学系では、対物レンズ31のNAによって再現される空間周波数のリミットは、必然的にd=λf/2a=0.5λ/NAとなり、この値よりも小さいものは、どのようにしても再現されないことになる。これに伴って、対物レンズにより情報を取得するデジタルホログラム顕微鏡を含む従来の光学顕微鏡では、正確な強度情報や行路差情報を取得することはできなかった。
但し、正確な強度情報や行路差情報を取得するために、デジタルホログラム顕微鏡の結像光学系の一部にフーリエ変換面を用意し、このフーリエ変換面に位相型の空間変調器を配置し、0次回折光に位相変調を加える方法も知られている。この方法は、下記特許文献2や非特許文献1、2に表されるように、0次回折光と1次回折光との間に90度ずつ相違する90度、180度、270度の位相差を生じさせた計4種類の画像をレンズの結像面に配置したCCDカメラで撮像し、この4種類の画像の相互の演算から光学的距離を計測する方法とされている。
しかしながら、この方法をベースにしたいずれの方法もレンズを用いて結像しているので、前記したようにレンズのMTFの特性を有しているため、空間周波数が高くなるにつれて情報量の欠損が生じる。この為、これらの方法では定量化した情報の信頼性が乏しいと言わざるを得ない。
以上より、電磁波を用いた一般的な装置類を含め、従来の電磁波を用いた結像型の顕微鏡においては、アッべの理論の限界とされる分解能を超えることはできなかった。この限界は、波動の有する回折現象の結果であり、越えることの出来ない理論限界とされていた。したがって、光学顕微鏡はもとより、電子顕微鏡においても使用している実質的な波長による限界を打破することは困難であった。
また、結像光学系を基にした従来のさまざまな顕微鏡では、レンズの開口制限により、取得できる空間周波数が制限を受けると同時に、空間周波数が高くなるにつれ、測定対象物である試料のコントラストが漸減していた。この為、位相情報等の行路差情報や蛍光発色により濃度情報を正確に取得することは困難であった。
これらの事情に対して、近年のマイクロ・ナノテクノロジー分野の発展に伴い、微細な工業製品や精密部品の3次元的な情報を高速で計測する技術に注目が集まっている。これに加え、生物学や医学、農学において、細胞のように厚みを持った生体試料の3次元プロファイル情報を生きた状態でリアルタイムに取得したいという要求も高まっている。
以上に対して、顕微鏡を用いて、距離を高精度に測定したり、微少なものを高精度に測定したり観察したりする手段の一つとしては、へテロダイン干渉法がよく知られている。ここでは、光を用いた光ヘテロダイン法について述べるが、他の電磁波においても同様な考え方で実施されている。この光ヘテロダイン法は、周波数の異なる2つのレーザー光を干渉させて、その差の周波数のビート信号を作成し、このビート信号の位相変化を波長の1/500程度の分解能で検出するものである。つまり、この光ヘテロダイン法によれば、3次元的な情報である表面の高さ方向の変化を計測しつつ測定対象物までの距離を測定したり、被測定物自体を測定や観察したりできる。
そして、上記特許文献1の特開昭59−214706号公報には、音響光学素子を用いて異なる波長からなる2つのビームを隣接して発生させ、これら2ビーム間の位相変化を検出し、その位相変化を累積して表面プロファイルを得る方法が開示されている。ただし、この特許文献1は、ビームプロファイルよりも僅かに大きく2つのビームを近接させ、2つのビームプロファイル内の平均的な位相差をヘテロダイン検波で検出して、順次積分することにより、凹凸情報を得るものであった。
従って、この特許文献1によれば、半導体ウェハーのようなフラットであることが前提となるような測定対象物に対して、その凸凹情報を計測することは出来たが、ビームプロファイル内の情報を引き出すことはできなかった。このため、面内であるビームプロファイル内の分解能を高くすることは出来なかった。
この一方、DPC(Differential Phase Contrast)法と呼ばれる手法も従来より知られている。これは、最初Dekkers and de Langにより電子顕微鏡に適用された技術であり、その後、Sheppard and Wilson等により光学的顕微鏡への拡張がなされた技術である。このDPC法は、試料に照射された電磁波に対してファーフィールドであって、電磁波の照射軸に対して対称に配置されたディテクタ同士で検出した0次回折光と1次回折光との干渉の結果の差動信号を求めることにより、試料のプロファイル情報を得るものである。
上記の光ヘテロダイン法及びDPC法に対し、音響光学素子等を用いることで、相互にわずかに異なる周波数を有しつつ相互にわずかな照射位置ずれを生じさせた2つのビームを走査させ、ファーフィールドに配置した複数の受光素子で得たこれらの2ビーム間の位相変化からの差動出力をヘテロダイン検波する手法が考えられる。これは、ヘテロダイン法とDPC法を融合させたような手法を用いたものともいえ、ヘテロダイン検出することにより、位相変化および強度変化をきわめて精度よく検出できるため、測定対象物の高精度な3次元プロファイル情報をリアルタイムに得ることができる。
しかし、DPC法及び、DPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた方法において、測定対象物を透過した0次回折光は、対物レンズのNAに依存した拡がり角で測定対象物から射出される。同様に、±1次回折光は、空間周波数に依存した方向に角度を変え、さらに0次回折光と同じ拡がり角で射出される。したがって、0次回折光と±1次回折光が重なり合った分だけが測定対象物のプロファイル情報となるが、空間周波数が高くなると、これら0次回折光と±1次回折光とが干渉できなくなり、その空間周波数が再現されない結果として、情報量の欠損が生じる。この為、これらの方法においてもやはり定量化した情報の信頼性が乏しいと言わざるを得なかった。
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、面内の分解能が高く、しかも面外において高さや屈折率分布に対する分解能が高く、また、通常の結像光学系では取得不可能な空間周波数を取得して測定対象物の有する空間周波数情報を正確に再現することで、実効上分解能が高く空間周波数の欠損のない光学的距離計測装置を提供することを目的とする。
請求項1に係る光学的距離計測装置は、コヒーレントな光を照射する光源と、
該光源から射出された光を、相互に異なる周波数の基準ビームと走査ビームに変調させつつ相互に異なる方向に射出する光変調器と、
基準ビーム或いは走査ビームの何れかを案内してビームの行路を変更する光路材と、
少なくとも走査ビームを2次元走査して測定対象物に送る2次元走査素子と、
基準ビームと測定対象物に送られる前又は後の走査ビームとを結合する光結合部材と、
光結合部材で結合したこれら2つのビームを受光してこれらを光電変換する受光素子と、
該受光素子で光電変換された各々の信号に基づいて測定対象物の位相情報を得ると共にこれらの情報に基づき光学的距離の計測値を得る計測部と、
を含む。
請求項1に係る光学的距離計測装置の作用を以下に説明する。
本発明においては、光源から射出されたコヒーレントな光を光変調器が相互に異なる周波数の基準ビームと走査ビームに変調させつつ相互に異なる方向に射出する。また、基準ビーム或いは走査ビームの何れかを光路材が案内してビームの行路を変更すると共に、少なくとも走査ビームを2次元走査素子が2次元走査して測定対象物に送る。
そして、光結合部材が基準ビームと測定対象物に送られる前又は後の走査ビームとを結合する。この光結合部材で結合されたこれら2つのビームを受光素子が受光してこれらを光電変換し、光電変換された各々の信号に基づいて計測部が、測定対象物の位相情報を得ると共にこの情報に基づき光学的距離の計測値を得る。
つまり、本請求項によれば、基準となる基準ビームと測定対象物を走査する走査ビームとを光結合部材で結合し、これら結合された基準ビーム及び走査ビームを受光素子が受光するが、具体的には、測定対象物を走査して回折光となった走査ビームのフーリエ変換パターンと基準ビームとの変調信号を受光素子がそれぞれ検出することになる。これに伴い、基準ビームと走査ビームとの間の周波数差がヘテロダインの周波数となることにより、規準光である基準ビームと走査ビームとの位相差を電気的な変調信号周波数差の位相ずれとして検出することができる。そして、基準ビームと走査ビームの測定対象物の位相情報とに基づき、計測部が光学的距離を定量化することが可能になる。
この結果として、本発明が適用された顕微鏡では、非常に高い面内分解能を有し、さらに2次元走査を一度行うことで、高さや屈折率分布を測定することが出来るので、生きたままの細胞やマイクロマシンなどの状態変化などの3次元計測をリアルタイムに行うことができる。このため、従来の2次元情報を取得し、3次元方向に積算していくようなレーザー走査型共焦点顕微鏡などとは比較にならない大きな特徴を有することとなる。
さらに、本発明を透過型の顕微鏡に適用した場合、生物や細胞を生きたままかつ蛍光着色せず高い分解能で観察、計測できる。このため、細胞等を不活性化して計測する電子顕微鏡にはない大きな特徴を有することとなる。
以上より、本発明によれば、面内の分解能が高く、しかも面外において高さや屈折率分布に対する分解能が高く、また、通常の結像光学系では取得不可能な空間周波数を取得して測定対象物の有する空間周波数情報を正確に再現することで、実効上分解能が高く空間周波数の欠損のない光学的距離計測装置が提供されるようになる。
以下に請求項2から請求項7に係る光学的距離計測装置の作用を説明する。
請求項1の受光素子が2つの分割受光素子を有し、これら2つの分割受光素子が光結合部材で結合されたビームをそれぞれ受光することで、光軸の片側の領域に存在する1つの分割受光素子により、2つのビームの位相差から光学的距離を簡単に検出することができる。
但し、この領域と逆側の領域に存在するもう1つの分割受光素子により位相が反転した量として走査ビームを受光して検出できるので、この分割受光素子であっても、2つのビームの位相差から光学的距離を簡単に検出することができる。このため、両方の分割受光素子でそれぞれ位相差を独立して検出した後に計測部で平均値を算出すれば、ノイズ等の影響を軽減してより高精度なデータを得ることもできる。
請求項1の光路材がプリズム及び反射鏡で形成されて、これらが基準ビームを案内することで、測定対象物を走査した後の回折光となった走査ビームの行路に対して異なる行路をこの基準ビームが通過した場合でも、これら2つのビームをそれぞれ確実に光結合部材に送り込めることになる。
請求項1の光結合部材が、基準ビームと測定対象物に送られた後の走査ビームとを結合して受光素子に送ることで、これら2つのビームが受光素子上で干渉して位相差を検出可能となる。また、請求項1の光結合部材が、基準ビームと測定対象物に送られる前の走査ビームとを結合して、これら2つのビームを2次元走査素子及び測定対象物を介して、受光素子に送ることで、同様にこれら2つのビームが受光素子上で干渉して位相差を検出可能となる。
他方、請求項1の光結合部材が、基準ビームと測定対象物に送られる前の走査ビームとを結合する場合、測定対象物と受光素子との間に、基準ビーム及び走査ビームからそれぞれ平行光を作り出すための2重焦点レンズを配置する。また、同じく測定対象物と受光素子との間に、基準ビーム及び走査ビームを相互に重ね合わせるためのビームスプリッターを配置する。これらのことで、2つのビームが受光素子上で干渉する際に、干渉縞の発生を防いで位相差をより高精度に検出可能となる。
この一方、請求項1の光結合部材が、基準ビームと測定対象物に送られる前の走査ビームとを結合する場合であって、受光素子が、光結合部材からの照射光軸沿いの2つのビームを干渉させつつ受光可能に配置された第1の受光素子とこの照射光軸に対して斜めの傾斜光軸に沿い走査ビームを受光可能に配置された第2の受光素子と有する場合、光学素子が照射光軸上の基準ビームと傾斜光軸上の走査ビームとを干渉させて第2の受光素子に送る。このことで、同様にこれら2つのビームが第1、第2の受光素子上でそれぞれ干渉して位相差を検出可能となる。
さらに、光学素子が、照射光軸上の基準ビームを分割する第1のビームスプリッターと、傾斜光軸上の走査ビームと第1のビームスプリッターで分割された基準ビームとを合成させる第2のビームスプリッターとされる。また、第1、第2の受光素子がそれぞれ少なくとも2つの分割受光素子を有している。これらのことで、2つのビームが第1、第2の受光素子上でそれぞれ干渉し、横分解能が高くかつ位相差を正確に検出することができる。
上記に示したように、本発明の光学的距離計測装置は、相互に異なる周波数に変調された基準ビームと走査ビームを、これらの光軸を境界とした2分割以上の受光素子で受光し、測定対象物を走査して回折光となった走査ビームのフーリエ変換パターンと基準ビームとの変調信号の位相差を検出することで、定量的な光学的距離の算出が可能になるという優れた効果を奏する。
以下に、本発明に係る光学的距離計測装置の実施例1から実施例4を各図面に基づき、詳細に説明する。
本発明に係る光学的距離計測装置の実施例1を以下に図1及び図2を参照しつつ説明する。本実施例は、基準ビームを固定し走査ビームを走査する反射光学系の装置とされている。
図1は、実施例に係る反射光学系の装置の構成を示すブロック図である。この図1に示すように、レーザー光が出射される光源であるレーザー光源21と、AODドライバー24が接続されて動作が制御される音響光学素子(AOD)23との間に、コリメーターレンズ22が配置されている。
また、この光変調器である音響光学素子23に対して、2群のレンズからなる瞳伝達レンズ系25、入力されたレーザー光を本来的には分離して出射するためのものであって光結合部材でもあるビームスプリッター27、入力されたレーザー光を2次元走査する2次元走査素子である2次元走査デバイス26が順に並んで配置されている。
従って、本実施例ではレーザー光源21から出射された光は、コリメーターレンズ22により平行光となり、音響光学素子23に入射される。音響光学素子23では、この光を相互に隣接した2つの周波数に変調しつつ相互に異なる方向に出射する。音響光学素子23の光軸は実際には傾いて配置されるが、図1に示すように瞳伝達レンズ系25に向かう側の光路を光軸L0としている。
さらに、2次元走査デバイス26に隣り合って、2群のレンズからなる瞳伝達レンズ系30が位置し、この隣に対物レンズ31が測定対象物G1と対向して配置されている。つまり、これら部材が光軸L0に沿って並んでいることになる。
以上より、相互に隣接した変調周波数を有した2つの光の内の一方の光である走査ビームが、この光軸L0に沿って、瞳伝達レンズ系25、ビームスプリッター27、2次元走査デバイス26、瞳伝達レンズ系30、対物レンズ31を順に経て、測定対象物G1に照射される。この際、2次元走査デバイス26の動作により、この光が測定対象物G1上で2次元的に走査される。
他方、光軸L0が通過する方向に対して直交する方向であってビームスプリッター27の隣の位置には、光センサである受光素子29が配置されている。そして、図1に示す測定対象物G1にて反射した走査ビームは回折光となり、対物レンズ31、瞳伝達レンズ系30、2次元走査デバイス26及びビームスプリッター27の順で戻って平行光となり、このビームスプリッター27で反射して受光素子29に入射される。
一方、相互に隣接した変調周波数を有する他方の光は、上記した光軸L0に対して傾いた光軸L1に沿って音響光学素子23から出射される。このため、2次元走査デバイス26に入射されずに図1に示すように光軸L1に沿いつつ、プリズムとされる行路変換素子15及び反射鏡であるミラー16を介して、ビームスプリッター27に入射されると共に透過し、最終的に受光素子29に同じく入射される。これに伴い、これら行路変換素子15及びミラー16が光路材として並んで配置されるだけでなく、この受光素子29に入射される光が基準ビームとされる。
この結果、この基準ビームは測定対象物G1に入射されないだけでなく、途中にレンズ等を挟まず平行光となっている非走査ビームともされ、測定対象物G1で反射して戻ってきて平行光とされた走査ビームと受光素子29上にて干渉する。これら2つのビームが受光素子29上にて干渉して干渉光となることで、2つのビームの位相差δがビート信号として検出される。ここで、本実施例では、非走査ビームと走査ビームとがそれぞれ平行光となっているので、受光素子29上において空間的にほぼ等位相になる。
尚、この受光素子29は、測定対象物G1のファーフィールド(遠視野)面に配置されているだけでなく、2分割以上の受光素子となっていて、本実施例では2つの分割受光素子29A、29Bにより構成されている。但し、図2に示すように、実線で示す走査ビームLB及び点線で示す基準ビームLAのスポットの中心となる光軸L0、L1に沿った方向に対して略垂直な面上でこの光軸L0を通る境界線Sを挟んで、これら分割受光素子29A、29Bが配置されている。さらに、この受光素子29は図示しない光電変換部を有した構造とされている。この受光素子29が、この受光素子29からの信号を比較する信号比較器33に接続され、この信号比較器33が、最終的にデータを処理して測定対象物G1のプロフィル等を得るデータ処理部34に繋がっている。このため、本実施例では、これら信号比較器33及びデータ処理部34が計測部とされている。
また、このレーザー光源21は、He-Ne等のガスレーザー、もしくは、半導体レーザー、固体レーザーであり、コヒーレントなレーザー光を発生する。このレーザー光をコリメーターレンズ22により平行光束にし、音響光学素子23に入射させる。このとき、レーザー光の入射ビーム径は、瞳伝達レンズ系25との兼ね合いより、絞り機構(図示せず)等を用いて適正化しておくことにする。さらに、この音響光学素子23には、AODドライバー24より、sin(2πfct)sin(2πfmt)のようなDSB変調信号が変調信号として加えられる。
この様な変調を行うと、fc+fmとfc-fmの2つの周波数変調が加えられたことになる音響光学素子23は、ブラッグ回折格子のピッチdに相当する音波の粗密波を発生する。すなわち、超音波の速度をVa、印加する周波数をfとすると、d=Va/fとなる。具体的には、この粗密波により、音響光学素子23に入射されたレーザー光であるビームは、±1次回折光に分離され、各々の回折光は周波数fc±fmの周波数で変調される。たとえば、音響光学素子23の材料としてTeO2が用いられるが、この材料の音速は、660m/sである。
キャリア周波数の周波数fcとして40MHzを選択すると、d=16.5μmとなり、He-Neレーザーをレーザー光源21に用いた場合、回折角θは2.19791度程度の角度になる。前述のように、光軸が変化していないように図示してあるが、実際には音響光学素子23以降の光学系を回折角θだけ傾けておくか、2次元走査デバイス26にバイアスを付与して、回折角θの傾きを実効上与えておくことにする。
このキャリア周波数に10KHz程度の周波数fmを加えると、±1次回折光はθ=2.19847度とθ=2.19737度となり、40.01MHzと39.99MHzでそれぞれ変調されることになる。この角度を維持したまま、対物レンズ31にレーザー光を入射させた場合、対物レンズ31の焦点距離を2mm、NA0.9とすると、ビームの中心距離は、0.6μm程度になり、この時の回折限界はw=0.857μmとなる。つまり、このように回折限界系よりもビームの分離度を小さくしておくことにする。
尚、ビームの中心距離であるビーム分離度をより小さくすれば、分解能を向上させることが出来るが、ヘテロダイン検波の周波数を低下させると、処理スピードが遅くなってしまう。この場合、より音速の早い音響光学素子を使用すれば、ブラッグの回折格子ピッチdを大きくすることが出来るので、処理速度を向上させることが出来る。実際、音速Vaが4.2E+3m/s程度のものも知られ、市販されている。
ここで、音響光学素子23とビームスプリッター27との間に配置されている瞳伝達レンズ系25は、音響光学素子23の出射面位置を次の2次元走査デバイス26に共役に伝達するための光学系である。この瞳伝達レンズ系25を通過した光はビームスプリッター27を介して2次元走査デバイス26に送られるが、対物レンズ31の瞳位置に共役にする瞳伝達レンズ系30により、この2次元走査デバイス26からの光は、角度差を有した±1次回折光として対物レンズ31に入射する。
つまり、キャリア周波数fcと変調周波数fmの2つのDSB変調された信号を外部からAODドライバー24を経て、音響光学素子23に入力することで、きわめて周波数の接近したこれら2つの光束であるビームをそれぞれ作成することができる。また、これら2つのビームの有する周波数は、「光の振動数+キャリア周波数fc±変調周波数fm」となる。
以上より、本実施例では、これら基準ビームと走査ビームとをビームスプリッター27で結合して、基準ビームである非走査ビームと測定対象物G1で反射された走査ビームのフーリエ変換パターンとの変調信号を受光素子29でそれぞれ検出する。このことにより、規準光である基準ビームと走査ビームとの位相差を電気的な変調信号周波数差の位相ずれとして検出することができる。この時、光軸L0を境界とした2分割受光領域の片側のみでも位相ずれを検出できることが、本実施例の一つの特徴である。
このように2分割受光領域の片側のみでも位相ずれの情報を検出できる理由としては、図2に示す対物レンズ31の光軸L0方向に対して略垂直な方向を境界線Sとし、この境界線Sで区分けされた片側にある一方の分割受光素子29Aのみで情報を検出でき、または、他の片側にある他方の分割受光素子29Bのみでも情報を検出できるからである。この場合、測定対象物G1から回折されて各々の分割受光素子29A、29Bに到達する光の位相は、光軸L0を境界とする分割受光素子29A、29B間で逆相になる。もちろん、両方の分割受光素子29A、29Bで情報を同時に検出することもできる。従って、受光素子29で光電変換された各々の位相情報の信号に基づいて信号比較器33がこれら信号を比較し、最終的にデータを処理してデータ処理部34が測定対象物G1のプロフィル等の光学的距離の計測値を得る。
以上より、本実施例によれば、面内の分解能が高く、しかも面外において高さや屈折率分布に対する分解能が高く、また、通常の結像光学系では取得不可能な空間周波数を取得して測定対象物G1の有する空間周波数情報を正確に再現することで、実効上分解能が高く空間周波数の欠損のない光学的距離計測装置が提供されるようになる。
すなわち、この受光素子29は図示しない光電変換部を有した構造とされているので、受光素子29上における2つのビームの強度Iは、下記式に基づく値で受光素子29の光電変換部により検出され、信号比較器33に送られる。
I=(Ea+Eb)(Ea+Eb)*=A2+B2+2ABcos(2π*2fmt+δ)
これに伴い、図1に示す信号比較器33を用いて、周波数2fmのヘテロダイン検波の位相比較を行うことにより、位相差δを測定することができる。このようにして、位相情報を取得する。
具体的には、前述のように受光素子29においては、2つのビーム間の位相差情報を加えたビート信号が受光素子29内の光電変換部により検出され、信号比較器33に送られる。したがって、信号比較器33においてこの2つの位相比較を行うことにより、真の位相差δが検出されることになる。この真の位相差δは、2つのビームの平均の位相差、すなわち、平均の高さhの差情報であるδh=λδ/4πとなる。ここで、λはレーザー光源21から出射されるレーザー光の波長を表す。
信号比較器33と接続されたCPUやメモリ等からなるデータ処理部34にこれらの情報を送り込めば、データ処理部34でこの情報を平面の走査情報とともに記録していき、測定対象物G1の表面のプロファイル情報を簡単に導くことができる。また、さらに高速なデータを取得するには、できるだけ音速Vaの大きい音響光学素子23を用いれば実現できる。
以上より、このような本光学系を用いれば、2次元走査を行うたびに3次元計測データを取得することが可能となる。このため、本光学系によれば、細胞や微生物の状態変化や表面状態の過渡的な変化等を、高速に観察、計測することができる。
従って、製品化されている裸眼立体ディスプレイや偏光めがねを使用した3次元ディスプレイ等を用いることにより、3次元立体画像を表示することもできるので、教育や研究、医療において、有用な装置とすることができる。
尚、本光学系においては、2次元走査デバイスを用いた例で説明をしたが、単純な一方向だけのデータが必要なアプリケーションであれば、この2次元走査デバイスを1次元走査デバイスに置き換えても同様な効果が得られることになる。これらの1次元走査デバイスとして、ガルバノミラー、レゾナントミラー、回転ポリゴンミラー等を採用することができる。また、2次元走査デバイスは、上記した1次元走査デバイスをX方向用とY方向用の2つを用意し、瞳伝達レンズ系を介すことにより、実現できる。また、マイクロマシーンの技術を用いたマイクロミラーデバイスを用いても良い。このマイクロミラーデバイスとしては、1次元用、2次元用ともに知られ製品化されている。
以上述べたように、フーリエ変換面にて空間周波数情報を処理することにより、測定対象物を走査して回折光となった走査ビームのフーリエ変換パターンと基準ビームとの変調信号の位相差を検出し、定量的に光学的距離を算出することができる。
次に、本発明に係る光学的距離計測装置の実施例2を以下に図3を参照しつつ説明する。本実施例は、基準ビームを固定し走査ビームを走査する透過光学系の装置とされている。
図3は、本実施例に係る透過光学系の装置を示すブロック図である。主要な光学系は前記反射光学系の装置と同じなので説明を割愛するが、この透過光学系の装置では、実施例1と比較して、対物レンズ31で集光された光が測定対象物G2を透過することになる。
このため、測定対象物G2を挟んで対物レンズ31と反対側となる測定対象物G2の背後にレンズ40が存在する他、ビームスプリッター27の位置が、瞳伝達レンズ系25と2次元走査デバイス26の間からこのレンズ40の背後に変更されている。そして、このビームスプリッター27に隣り合って、ミラー16が配置されている。
これに合わせて受光素子29も、ミラー16と逆側のビームスプリッター27に隣り合った位置に配置されている。但し、実施例1と同様にこの受光素子29は、測定対象物G2のファーフィールド面に配置されているだけでなく、2つの分割受光素子29A、29Bにより構成されている。つまり、本透過光学系の装置の場合、ビームスプリッター27で屈曲された対物レンズ31の光軸L0の延長線上に受光素子29が配置されている。
このため、本実施例では、図3に示すように測定対象物G2を透過した走査ビームのフーリエ変換パターンがレンズ40により平行光とされてビームスプリッター27に入射し、ビームスプリッター27内でこの平行光は図3の右側に反射する。これに伴って、ミラー16で反射してビームスプリッター27内に入った同じく平行光であって基準ビームでもある非走査ビームとこの走査ビームが受光素子29上で干渉している。つまり、図3の透過光学系の装置でも、基準ビームと走査ビームがそれぞれ平行光となっているから、図1の反射光学系の装置と同様に受光素子29上において空間的にほぼ等位相になる。
従って、実施例1と同様に、受光素子29で光電変換された各々の位相情報の信号に基づいて信号比較器33がこれら信号を比較し、最終的にデータを処理してデータ処理部34が測定対象物G2のプロフィル等の光学的距離の計測値を得ることができる。このため、本実施例によっても、実効上分解能が高く空間周波数の欠損のない光学的距離計測装置が提供されるようになる。
特に、本実施例のように透過光学系の装置では、無染色、非侵襲で生きたままの細胞の状態変化をリアルタイムに観察できるので、iPS、ES細胞の正常かどうかの検査やがん細胞の有無検査等に大きな役割を果たすことができる。これは、電子顕微鏡のような高倍率であっても生体を殺した状態でないと観測できない測定器とは大きく異なる特徴である。
次に、前述の干渉光がどのような情報をもたらすかを説明する。
説明を簡単にするために、試料Sが高さhでピッチdの正弦波状の形状をしているものとすれば、光学的な位相θが以下の式で表される。
θ=2π(h/λ)sin(2πx/d−θ0)・・・・・(4)式
試料Sから回折された光の振幅Eは、焦点距離fだけ離れた面においては、(4)式のフーリエ変換と対物レンズ31の開口とのコンボリューションとして、与えられるので、以下のように表される。ただし、(4)式の位相のフーリエ変換であるベッセル関数は±1次まで取るものとする。
この(5)式を一般化して考えることができる。すなわち、位相パターンは、上記したピッチdがさまざまなものの集合体と考えられるので、0次回折光の振幅Moとこの0次回折光に対する1次回折光の振幅M1の位相差をθ0とした場合、光の振幅Eは以下のように与えられる。
空間周波数の正の領域では、下記(6)式で光の振幅Eが表され、また、空間周波数の負の領域では、下記(7)式で光の振幅Eが表される。
これは、測定対象物で回折された光の±1次回折光は、0次回折光に対して、定性的に常に逆位相同士となるからである。ここで、(6)式、(7)式の回折光は、光軸L0に沿った方向に対して略垂直な面上でこの光軸L0を通る境界線を挟んで2分割された領域にそれぞれ配置された受光素子29の各分割受光素子29A、29Bでそれぞれ受光されることになる。
具体的に基準ビームである非走査ビームと走査ビームの2つのビームを考える。すなわち、変調周波数は周波数f1と周波数f2の2つとする。DSB変調を採用することとし、周波数f1と周波数f2は、キャリア周波数fcと変調周波数fmとして、f1=fc+fm、f2=fc-fmの式に基づき、cos(2πfmt)cos(2πfct)で与えてもよいし、キャリア周波数fcと変調周波数fmからcos(2πf1t)+cos(2πf2t)としてもよい。
簡単のために、周波数f1で変調された光を非走査ビームとし、周波数f2で変調された光を走査ビームとし、被測定物は静止しているものとする。そして、周波数f1を有する平面波がビームスプリッター27を介して、受光素子29を照射する。この時の平面波の振幅をNcとすると、平面波の複素振幅分布は変調信号である周波数f1で変調されているので、下記(8)式の振幅分布Ecで表すことができる。
一方、周波数f2を有する走査ビームで照射される位置は走査に伴い動いている。この部分での回折光により、受光素子29では、振幅分布は添え字をoとして、下記(9)式の振幅分布Eoで表すことができる。
したがって、受光素子29上での振幅分布E は、以下の(10)式のようになり、また、受光素子29で観測される強度Iは、以下の(11)式のようになる。
ここで、周波数f2と周波数f1の周波数差を新たに2fmと置き、音響光学素子23に印加した周波数差で直交検波を行うと、下記のI信号とQ信号を得ることができる。
I:2NcNocos(Θo)
Q:2NcNosin(Θo)
そこで、tanΘ0=sin(Θo)/cos(Θo)の式に基づき、I信号とQ信号の比を計算することにより、位相Θ0を検出可能となる。ただし、走査ビーム系と非走査ビーム系の光路長は通常異なり、また、検出する際の電気信号の位相遅延等により検出される位相信号には一定の位相ずれが付加される。しかしながら、光路長や電気的な回路が決まれば、この位相ずれの値は一定となるので、検出された位相差を補正することができる。
したがって、以下のようにして、位相差から光学的距離nhを求めることができる。
具体的には、Θ0=(2π/λ)nhより、光学的距離nhを求めることができる。
次に、走査ビームの性質について説明する。
走査ビームは、所定の走査速度で移動しつつ測定対象物G1、G2に照射される。これに伴い、受光素子29で検出されて光電変換された走査ビームは、測定対象物G1、G2の空間周波数に比例した電気的な変調を受けていることになる。
空間周波数が0となるフラットな部分では、走査による変調信号は0となる。よって、フラットな部分では、走査ビームと基準ビームである非走査ビームとの間の周波数差がヘテロダインの周波数となる。一方、走査ビームが被測定物の凹凸部分や屈折率の異なる部分等を通過すると、空間周波数に応じた電気的な変調を受ける。このため、この場合の走査ビームと非走査ビームとの間の周波数差には、走査に伴う電気的な変調からの変動がヘテロダインの周波数に加算される。
また、受光素子29上での位相情報は、非走査ビームの0次回折光と走査ビームの1次回折光との重なり部分からの情報となるので、重なり部分の広さが空間周波数に伴い減少する。これはレンズのMTFと関係しているが、空間周波数と走査に伴う電気的な周波数は一義的に対応しているので、検出された電気的信号に適正なハイパスフィルタの適用により、MTFの補正を行うことができる。このようにして、正確な被測定物の光学的距離を検出することができる。
このように、相互にわずかに異なる周波数で変調された2つの光の一方を非走査ビームとして固定しつつ、受光素子に照射することで、この受光素子にて非走査ビームを受光する。さらに、他方の光を走査ビームとして走査し、測定対象物G1、G2から離れたファーフィールドに配置した光軸に沿った方向に対して略垂直な面上でこの光軸を通る境界線を挟み区分けされた片側の領域で分割受光素子29Aによりこの走査ビームを受光して検出することで、簡単に光学的距離を検出できる。また、前記区分けされた領域と逆側の領域では、分割受光素子29Bにより位相が反転した量として走査ビームを受光して検出できる。このため、両方の位相差を独立して検出した後に平均値を算出すれば、ノイズ等の影響を軽減することができる。
次に、本発明に係る光学的距離計測装置の実施例3を以下に図4及び図5を参照しつつ説明する。本実施例は、基準ビームと走査ビームの両方を走査する透過光学系の装置とされている。
図4は、本実施例に係る透過光学系の装置を示すブロック図である。この図4に示すように、本実施例においても、実施例1、2とほぼ同様の光学系とされている。具体的には、実施例1と同様にビームスプリッター27が瞳伝達レンズ系25と2次元走査デバイス26との間に配置されている他、行路変換素子15及びミラー16も実施例1と同様に配置されている。
但し、これら行路変換素子15とミラー16との間には、レンズ対17が位置していると共に、測定対象物G2の背後であって、対物レンズ31及び測定対象物G2に対してファーフィールドとなる位置には、受光素子29が配置されている。この受光素子29は、実施例1、2と同様に、2つの分割受光素子29A、29Bにより構成されている。
従って、本実施例のビームスプリッター27は、実施例1と逆向きに配置されていて、ミラー16を経由した光である基準ビームと瞳伝達レンズ系25を透過した光である走査ビームを合成して2次元走査デバイス26に送り込むことになる。つまり、基準となる基準ビームは、光軸L1に沿って行路変換素子15、レンズ対17およびミラー16を介して送られ、走査ビームとビームスプリッター27で合成されて、さらに2次元走査デバイス26側に送られる。
また、このレンズ対17の役割は、走査ビームに対して基準ビームをわずかに発散気味か収束気味の光とすることにある。これに伴い、図5に示すようにこれら2つのビームは対物レンズ31で収束されるものの、測定対象物G2上に焦点FBがある測定ビームLBに対して光軸L0上であって一定の距離を保った状態で基準ビームLAの焦点FAは位置していて、2次元走査デバイス26によりこれらビームは同時に走査される。簡単のために、図5において、基準ビームLAの焦点FAは、測定対象物G2よりも対物レンズ31側にあるように配置されているが、この逆としても良い。
この際、光軸L0、L1に沿った方向で基準ビームLAの焦点位置及び測定ビームLBの焦点位置を対物レンズ31の焦点深度よりも大きくし、かつ、測定対象物G2に位相差がないように、基準ビームLAの波面と測定ビームLBの波面をほぼ一致するようにする。このことで、基準ビームLAと測定ビームLBの空間的な波面分布はほぼ同じにでき、受光素子29上では2つのビームは等位相面を形成することになる。したがって、これらビームの明暗パターンはほぼ一様になる。
図5に示すように、例えば細胞等の透明なサンプルである測定対象物G2をスライドガラス18とカバーガラス19で挟むようにしておいて、基準ビームLAの焦点FAをカバーガラス19内になるように設定する。この際、カバーガラス19は光学的にほぼ一様に作成されているので、焦点FAの部分を規準にできる。このように基準ビームLAの焦点FAを配置すると、測定対象物G2上では、基準ビームLAは広がり、測定対象物G2の位相分布は平均化されるので、基準ビームLAを測定ビームLBの基準とすることが可能となる。
前述のように、基準ビームLAと測定ビームLBは、音響光学素子23で分離されてビームスプリッター27で合成されるまで間の光学系が異なるだけであり、それ以外は2次元走査デバイス26、対物レンズ31を含めて同じ光路を通る。このため、走査に伴う像面湾曲等の収差の影響を両者とも同じようにこうむるので、これらの収差の影響は軽減されることになる。
次に、本実施例の変形例について以下に説明する。
図5に示すように、基準ビームLAと走査ビームである測定ビームLBは光軸L0、L1方向に沿って相互にずれているので、そこからの発生する球面波はそれぞれずれた位置から発生されることになる。この結果、受光素子29上では、基準ビームLAと測定ビームLBからの光波は干渉縞を形成するものの、この干渉縞は基準ビームLAと測定ビームLBが半波長ずれるごとに、明暗を入れ替える。
このため、分割受光素子29A及び分割受光素子29Bの光電変換部からそれぞれ出力される変調信号は明暗を入れ替えたものが平均化されて測定対象物G2の凸凹や屈折率変化に対して、極めて感度の乏しい信号となる可能性がある。そこで、基準ビームLAと測定ビームLBを測定対象物G2に照射したのち、ほぼ同一の点から受光素子29に出射されるように変換する光学系を配置することが考えられる。
したがって、測定対象物G2が置かれていない状態で、基準ビームLAの焦点FA及び測定ビームLBの焦点FBが対物レンズ31の焦点深度内になるように変換することにより、球面波は実質上同一の点から出射されたことになる。この場合、基準ビームLAと測定ビームLBは同一の球面波として受光素子29上に達するので、光の位相差は生じず、結果として干渉縞は生じない。これに伴い変調信号を極めて高い感度で検出できることになる。
以上の考え方より作成された具体的な変形例を次に説明する。
まず、変形例1について図6に基づき説明する。本変形例では、図6に示す光学系である2重焦点レンズ41が図4の測定対象物G2と受光素子29との間に配置されている。なお、この2重焦点レンズ41は隣接する輪帯を焦点の異なる曲率で形成する等の手法で具現化できる。特に、最近のMEMSの技術を用いることにより精度が高く回折効率の良い2重焦点レンズ41を作成することができる。
したがって、基準ビームLAの焦点FAと測定ビームLBの焦点FBの位置がそれぞれ焦点となるようにこの2重焦点レンズ41を作製しておけば、基準ビームLA及び測定ビームLBにそれぞれ平行光となる平行光部LA1、LB1を生じさせて、受光素子29に入射することができる。この平行光部LA1、LB1による干渉縞は生じないので、変調信号に寄与するデータが得られる。
この一方、基準ビームLAを平行光とする焦点とは異なる焦点により発散光となる発散光部LA2が生じる。また、測定ビームLBを平行光とする焦点とは異なる焦点により収束光となる収束光部LB2が生じる。これら発散光部LA2及び収束光部LB2からの光は、平行光部LA1、LB1の光と干渉縞を形成することになるが、受光素子29上では上記したように変調信号に及ぼす影響は乏しい。したがって、干渉縞を形成しない光の利用効率は低下するものの、変調信号には平行光部LA1、LB1だけが寄与することになり、変調信号を高効率に取得できる。
次に、変形例2について図7に基づき説明する。
本変形例では、図7に示す光学系であるビームスプリッター42が上記変形例と同様に測定対象物G2と受光素子29との間に配置されている。但し、本変形例では、受光素子29をビームスプリッター42の下側でなく、ビームスプリッター42の図7における右側に配置している。そして、このビームスプリッター42には、右上から左下に向かって斜めに半透過面42Cが形成されていて、この半透過面42Cで一部の光を反射するようになっている。
ここで、このビームスプリッター42は、基準ビームLAの行路と測定ビームLBの行路を相互にずらしてこれらを重ね合わせるためのものである。具体的には、ビームスプリッター42の左側の端面および下側の端面がミラーのような反射面である反射端面42A及び反射端面42Bとされているだけでなく、反射端面42Aのある図7における左右方向Xと、反射端面42Bのある図7における上下方向Yとで、厚みの相互に異なるビームスプリッターとしている。
このような構造にすることで、ビームスプリッター42の反射端面42Bで反射された基準ビームLAと、測定対象物G2を透過してきた測定ビームLBとを対物レンズ31の焦点深度内に変換することができる。これに伴い、上記したように基準ビームLAと測定ビームLBは、同一の球面波として受光素子29上に達するので、光の位相差は生じず、結果として干渉縞は生じない。これに伴い、変調信号を極めて高い感度で検出できる。
図7では、基準ビームLAと測定ビームLBの重なり合うイメージを表現するために、ビームスプリッター42内のこれらビームの右側端部における反射と透過のイメージを示している。具体的には、ビームスプリッター42に入った実線Bで表す測定ビームLBは、半透過面42Cで反射し反射端面42Aで再度反射してからビームスプリッター42外に右端側から射出される。また、ビームスプリッター42に入った点線Aで表す基準ビームLAは、半透過面42Cを透過すると共に反射端面42Bで反射し、半透過面42Cで反射してからビームスプリッター42外に右端側から射出される。したがって、本変形例では、図7に示すように、ビームスプリッター42外に射出される際に、測定ビームLBと基準ビームLAは一体となり、受光素子29においてこれらの光を位相差のない状態で受光して検出する。
尚、図7ではビームスプリッター42がかなり非対称に描かれているが、基準ビームLAと測定ビームLBとの間の実際の位置ずれ量は、数十μmから数百μmとわずかな量である。さらに、ビームスプリッター42は予め基準ビームLAと測定ビームLBとの位置ずれ量をもとに透過と反射の行路差を決めてあるが、若干の位置ずれが生じることになる。この位置ずれにより、干渉縞が生じて、変調信号の信号強度を低下させることが考えられるが、図4に示すレンズ対17の相互間の距離を調整することにより、干渉縞をなくすことができる。
次に、本発明に係る光学的距離計測装置の実施例4を以下に図8及び図9を参照しつつ説明する。本実施例は、実施例3と同様に基準ビームと走査ビームの両方を走査する透過光学系の装置とされている。
図8は、実施例3の図5に対応する本実施例の要部拡大図である。また、図9は、本実施例に係る透過光学系の装置の要部を示すブロック図である。この図9に示すように、本実施例は実施例3に示す対物レンズ31から受光素子29までの間の部分に下記に表す光学素子等を配置したものである。
すなわち、図示しないものの、本実施例も実施例3と同様にレーザー光源21から照射された光が、一旦分離された後に結合されて基準ビームLAと走査ビームLBとされたものが対物レンズ31により、それぞれ収束される。そして、図8に示すように、この内の基準ビームLAが透過物の試料である測定対象物G2の上方に収束照射され、走査ビームLBがこの測定対象物G2内に収束照射されている。但し、本実施例では、測定対象物G2の下側であってこのレーザー光源21の収束照射の照射光軸とされる光軸L0、L1上には、凸レンズとされるレンズ55が位置していて、基準ビームLAの焦点位置である焦点FAに焦点を有するレンズ55により、基準ビームLAは平行光束に変換されている。
図9に示すように、このレンズ55の下方の光軸L0、L1上には、レンズ55から出射された平行な光束をそれぞれ左右に分割する2つのビームスプリッター52A、52Bが連続して配置されており、この下方にこの光を受光する受光素子29が位置している。実施例3と同様に、この受光素子29は、光軸L0、L1を挟んで位置する2つの分割受光素子29A、29Bにより構成されていて、右側寄りの分割受光素子29Aが、レンズ55からの透過光の内の光軸L0、L1の右側寄り部分を受光し、左側寄りの分割受光素子29Bが、レンズ55からの透過光の内の光軸L0、L1の左側寄り部分を受光することになる。このため、基準ビームLAと走査ビームLBとが実施例3と同様に、これら分割受光素子29A、29Bでそれぞれ干渉することになる。
以上述べたことは、基準ビームLAと走査ビームLBが接近していて、レンズ55により両ビームがほぼ平行となる場合である。もし、基準ビームLAと走査ビームLBが比較的離れている場合には、基準ビームLAと走査ビームLBの干渉縞のピッチが狭くなるので、変調信号の信号強度が低下することになる。このような場合には、分割受光素子29Aと分割受光素子29Bをあえて配置する必要性はない。または、実施例3で述べた2重焦点レンズ41や特殊なビームスプリッター42等を用いて基準ビームLAと走査ビームLBを合成してもよい。
この一方、光軸L0、L1に対して図9の右側には傾きを有した傾斜光軸とされる光軸L2があり、この光軸L2上には、凸レンズとされるレンズ56が位置しており、このレンズ56が測定対象物G2から出射された光束を平行な光束としている。この光軸L2上には、この平行な光束を反射するための反射鏡58が配置されており、また、この反射鏡58の下方には、第2のビームスプリッター53が位置している。このため、レンズ56とビームスプリッター53との間に配置される反射鏡58が、レンズ56からの出射光をビームスプリッター53側に反射させている。また、ビームスプリッター53の下方には、複数の分割受光素子から構成される受光素子群44が位置している。
さらに、2つのビームスプリッター52A、52Bの内の上側のビームスプリッター52Aが分割された光束をビームスプリッター53側に送り出している。このため、レンズ55から出射された光束とレンズ56から出射された光束とをビームスプリッター53が干渉させて、この光束を受光素子群44が干渉しつつ受光するようにさせている。
他方、上記と同様の構成を有したレンズ57、反射鏡59、ビームスプリッター54および、第2の受光素子群45が光軸L0、L1を挟んで対称に、図9の左側にも配置されていて、これらの傾斜光軸が光軸L3とされている。これに伴い、下側のビームスプリッター52Bが分割された光束をビームスプリッター54側に送り出している。このため、レンズ55から出射された光束とレンズ57から出射された光束とをビームスプリッター54が干渉させて、この光束を受光素子群45が干渉しつつ受光するようにさせている。
この際、実施例3の図5における基準ビームLAの焦点FAがレンズ55の焦点位置となるようにこのレンズ55が配置され、また、測定に要する走査ビームLBの焦点FBがレンズ56およびレンズ57の焦点位置となるようにこれらレンズ56、57が配置されている。 以上のことで、デフォーカス位置に焦点FAがある基準ビームLAの0次回折光と走査ビームLBの高い空間周波数である±1次回折光を受光素子群44及び受光素子群45上においてそれぞれ干渉させることができる。つまり、2つのビームスプリッター52A、52Bおよび左右のビームスプリッター53、54が、レンズ55から出射された基準ビームLAとレンズ56、57から出射された走査ビームLBとを干渉させている。
さらに、前述の分割受光素子29A、29B及び受光素子群44、45が、これら受光素子29A、29B及び受光素子群44、45からの信号を比較するための比較器33にそれぞれ接続され、この比較器33が、最終的にデータを処理して測定対象物G2のプロフィル等を得るデータ処理部34に繋がっている。このため、比較器33及びデータ処理部34が、光軸L0、L1を挟んで位置する受光素子29の分割受光素子29Aおよび分割受光素子29B、さらに受光素子群44および受光素子群45のそれぞれの受光素子で、実施例2で示したように位相差の検出により行路差を算出することができる。
この他、本実施例によれば、通常の結像光学系では取得不可能な空間周波数を取得して測定対象物G2の有する空間周波数情報を正確に再現することで、実効上分解能が高く空間周波数の欠損のない情報を得ることができる。また、基準ビームLAの0次回折光と走査ビームLBの1次回折光を受光素子25及び受光素子24上においてそれぞれ干渉させることができるのに伴い、本実施例によれば高い横分解能を有した光学的距離計測装置にもなる。
具体的には、この図9に示す対物レンズ31で収束された光の内の走査ビームLBは、試料である測定対象物G2上にスポットを形成する。このスポットは理想的には回折限界の径を有し、このスポット径内における測定対象物G2のパターンの空間周波数情報が透過光として回折される。ここで、測定対象物G2の有する空間周波数の内の1次回折光は、レンズ56、57に入射される。レンズ55には測定対象物G2を透過した基準ビームLAの0次回折光と上記1次回折光の空間周波数よりも低い空間周波数成分の光が入射される。
レンズ55に入射されない空間周波数はカットされ、像情報に欠落を生じることになるが、図9に示すように0次回折光の光軸L0、L1に対して、レンズ56及びレンズ57が相互に対象な位置であって、ある傾きを有して配置されている。この際、0次回折光の光軸L0、L1に対するこのレンズ56及びレンズ57の光軸L2、L3の傾き角は、測定対象物G2のコントラストが最大になる空間周波数に匹敵するようにする。
すなわち、レンズ56の光軸L2上の光束は反射鏡58で折り返され、ビームスプリッター52Aにより分離された基準ビームLAの0次回折光の光軸L0、L1上の光束とビームスプリッター53により合成される。合成された光自体は受光素子群44に導かれる。したがって、基準ビームLAの0次回折光とレンズ56から出射される走査ビームLBの1次回折光とを干渉させて受光素子群44が受光する。このとき、最も高いコントラストを有する光束は、レンズ56の光軸L2に一致する空間周波数の光束となる。
上記した光学系と0次回折光の光軸L0、L1に対して反対方向に同様な光学系について考えた場合、レンズ57の傾斜光軸とされる光軸L3上の光束は反射鏡59で折り返され、このレンズ57の光軸L3上の光束は、ビームスプリッター52Aを経てビームスプリッター52Bにより折り返された基準ビームLAの0次回折光の光軸L0、L1上の光束と、ビームスプリッター54により合成される。合成された光自体は受光素子群45に導かれる。基準ビームLAの0次回折光とレンズ57から出射される走査ビームLBの−1次回折光とを干渉しつつ受光素子群45が受光する。
ここで、受光素子群44は複数の分割受光素子よりなり、おのおのの分割受光素子は0次回折光と1次回折光で干渉された干渉縞を適当なピッチでサンプリングした干渉縞強度を取得する。つまり、基準ビームLAの0次回折光の光軸L0、L1と走査ビームLBの1次回折光の光軸L2が傾きを持たなければ、光束内で一様な干渉強度となるが、調整が十分でなく、相対的に多少の傾きを有した場合には、一様なピッチの干渉縞を生じるからである。この干渉縞のピッチは、走査ビームLBの1次回折光の出射角度によるので、レンズ56に入射される空間周波数を反映したものとなる。
また、受光素子群45も複数の分割受光素子よりなり、おのおのの分割受光素子は基準ビームLAの0次回折光と走査ビームLBの−1次回折光で干渉された干渉縞を適当なピッチでサンプリングした干渉縞強度を取得し、上記と同様に動作する。
したがって、受光素子群44、45は、複数の分割受光素子によりそれぞれ構成される形で配置され、空間周波数の反映した情報が取得できるようになる。受光素子群44、45の実質上対応する空間周波数を取得している受光素子の差の出力を取得することにより、より高い空間周波数情報を取得できるようになる。
以上、本発明に係る各実施例を説明したが、本発明は前述の各実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。